[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第4回:「情報通信(IT)業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~ビジネスモデルは?研究開発費は?会計処理は?株主は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、情報通信(IT)業のM&Aを検討していますが、情報通信(IT)業M&Aの特徴や留意点はありますか?


情報通信業は、インターネット、パソコン・ハードウェア、ソフトウェア、プロバイダ、通信回線等様々な業界・産業が集積しています。製造業であれば製品を製造している、小売業であれば消費者に商品を販売しているという想像がつきますが、情報通信業とだけ情報が存在しても、どのようなビジネスを営んでいるのかすぐに想像ができないところが情報通信業の特徴と言えるでしょう。また、フリマアプリで上場した会社や、アパレルECサイトで上場した会社があるように、一つのコンテンツがヒットすれば、爆発的な収益をもたらし得る業界であり、そこが魅力の1つと言えるでしょう。

 

M&Aを検討する場合には、ビジネスモデル、すなわちどのようなビジネスを営んでいてどのようなマネタイズ(収益化)方法をとっているのか、を正確に理解する必要があります。

 

 

情報通信業で開発を行っている企業は、開発が成功し、収益化できるようになって初めて売上高が計上されます。つまり、開発段階では売上高は計上されないため、下図のように資金は流出する一方となります。

 

 

 

 

そのため、資金を外部から調達する必要がありますが、情報通信業は一般的に銀行等からの借入ではなく、資本の出資という形でベンチャーキャピタル(VC)、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、投資に積極的な事業会社、エンジェル投資家等から資金を調達することが一般的です。これは、銀行等は現在の預金や不動産等の担保力を重視する事に対して、VC等は将来のリターンを重視するためです。情報通信業は銀行等に担保として提供できる資産を保有していないことがほとんどです。一方で、研究開発が成功しソフトウェアが多額の収益を生むこと可能性を秘めています。この可能性を投資家に説明し納得が得られると、担保等がなくても多額の資金を調達することが可能となります。そのため、情報通信業では借入ではなく資本での資金調達を行うことが多くなっています。

 

資本が多いということは、親族以外の株主がいることとなります。そのため、一般的な中小企業では親族のみの意思決定で株の売買が可能であったところ、既に株主となっているVC等の投資家の意見も検討した上でM&Aに臨むこととなります。投資家は投資のプロであるため、投資家が株主として存在する場合には自社内だけで検討せずにM&Aの専門家を交えて検討することをお勧めいたします。

 

 

 

また、情報通信業は、一般的に研究開発費が多額に必要となることも特徴の1つです。情報通信業の研究開発はビジネスの肝となることが多いため、外注ではなく社内にて研究開発を行うことが多く、研究開発にかかる人件費が多額となります。その人件費が研究開発費として計上されているのか、給料手当等人件費の勘定科目で計上されているのかについて正確に把握し、対象会社が研究開発にどれほどの人件費を割いているのかを確認しましょう。

 

また、会計上の話となりますが、研究開発がある程度進むと研究に要した支出をソフトウェア勘定(資産)とするか、研究開発費(費用)するかの論点が発生します。詳細な解説は割愛しますが、収益化の可能性が高くなったり、費用の削減の可能性が高くなった時点で、研究開発にかかった支出を費用ではなく資産(ソフトウェア勘定)として計上し、減価償却を行うこととなります。ソフトウェア勘定に振り替わると、費用が減少し、その分損益が改善します。つまり、ソフトウェア勘定に資産計上されているか、研究開発費等で費用計上されているかで、PL(損益計算書)の営業利益の見え方が大きく異なることになるため、ソフトウェア勘定が計上されている場合には、その内容を正確に把握する必要があります。特に、資産性が低いものの、PLの営業利益を良く見せるためにソフトウェア勘定として資産計上していないかに注意して検討しましょう。

 

 

情報通信(IT)業のM&Aを検討する場合は、ビジネスモデルを正確に理解した上で、ソフトウェア勘定の有無を確認し、開発費用の計上科目を確認しましょう。また、株主に投資家が存在する場合には、株主の意向はM&Aを検討する上で重要ですので、専門家を交えた上で適切に検討するのが望ましいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための 実務活用型誌上セミナー『税務デューデリジェンス(税務DD)』]

第1回:M&Aにおける税務デューデリジェンスの目的、手順、調査範囲など

 

[解説]

税理士法人LINK 公認会計士・税理士 長野弘和

 

〈目次〉

1.税務デューデリジェンスの意義

2.M&Aにおける税務専門家の関与

(1)売手・買手の接触~基本合意書の締結

(2)基本合意書の締結後~売買契約書の締結

(3)売買契約書の締結後~クロージング

3.税務DDの調査範囲

(1)調査対象とする法人

(2)調査対象とする期間

(3)調査対象とする税目

4.終わりに

 

 

▷第2回:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷第3回:M&A取引に伴う税務リスクとその対応

 

1.税務デューデリジェンスの意義


デューデリジェンス(Due Diligence:DD)とは、M&Aなどに際して、買収対象となる企業や事業などを対象として行う調査をいいます。このDDの主な目的は、買収対象となる企業や事業の実態を調査し、その企業や事業の様々なリスクを把握することにあります。

 

税務DDは文字どおり、買収対象となる企業や事業の税務に関する調査をいいます。この税務DDの主な目的は、①買収対象となる企業や事業の税務リスクを分析するとともに、②ストラクチャーの検討に有用な情報を収集することにあります。ここで言う税務リスクとは、買収対象となる企業や事業の過去の税務処理の内容(税務申告書の内容等)に誤りがあり、それが買収後の税務調査等によって顕在化することと言えます。税務DDではこの税務リスクを分析するために行いますが、そこで得られる情報はストラクチャーの検討にも役立てられます。ストラクチャーの選択によって税負担が変わり、節税メリットを享受することができる場合も少なくありません。

 

 

2.M&Aにおける税務専門家の関与


税務DDは多くの場合、何らかの形で外部の税務専門家(税理士・税理士法人など)のサポートを受けています。大きな事案や複雑な事案では、税務専門家が税務DDを主導する場合が多いです。そのような中、事業会社のM&A担当者にとっては、M&Aの各プロセスにおいて、税務専門家をどのように関与させるべきか、税務専門家の使い方やその目的等について押さえておくことが重要と言えます。

 

そこで、一般的なM&Aのプロセスに沿って、各プロセスにおいて税務専門家がどのように関わってくるのかについて解説します。

 

 

 

 

 

(1)売手・買手の接触~基本合意書の締結

基本合意書の締結に向けたプロセスでは、売手と買手との間で秘密保持契約書が締結され、初期的な検討に必要な情報が記載された案件概要書(Information Memorandum:IM)が買手に開示されます。この段階では、IMに記載された情報や初期的なDDから得られる情報等の限られた情報に基づき、買収対象となる企業や事業を評価することになります。初期的な検討が行われ、売手と買手との間で基本的な条件について合意に達した段階で、基本合意書が締結されることになります。

 

①買手サイド

買手サイドの税務専門家は、一般的にこの段階から関与させることが多く、税務専門家は税務DDやストラクチャーの検討を行います。

 

税務DDについては、この時点で得られる情報は限定的であることも多く、調査内容も限られたものになることが多いです。とはいえ、この時点で得られる情報でも、その後に行われる詳細な税務DDにおいて重点的に調査すべきポイントの特定や調査のスコープについて検討することができますので、その後の税務DDを効果的かつ効率的に進められるように、この段階で税務専門家と検討・協議しておくことは有用です。一般的にDDは非常に限られた時間の中で行うことも多く、特に複雑な案件やクロスボーダーの案件等では、重点的に調査すべきポイントの特定や調査のスコープについて、なるべく早く税務専門家と検討・協議しておくことがポイントとなります。

 

ストラクチャーの検討については、この段階では(詳細な税務DDを行う前の)暫定的なストラクチャーの検討を行います。ストラクチャーの選択によって税負担が変わり、節税メリットを享受することができる場合も少なくありません。買収価格の提示に加えて、買収ストラクチャーの提示を求められることも多いので、なるべく早い段階で税務専門家を関与させることが有用です。売手サイドからストラクチャーを提案されることもありますので、その検討を行うこともあります。

 

②売手サイド

一方、売手サイドの税務専門家には、必要に応じて買手サイドによる初期的な税務DDへの対応をサポートしてもらうことがあります。

 

 

 

(2)基本合意書の締結後~売買契約書の締結

売買契約書の締結に向けたプロセスでは、より詳細なDDが行われることになります。買手は詳細なDDを経て、買収価格やストラクチャーを決定するとともに、売手と買手との間で交渉が行われます。これらの過程を経て、売買契約書が締結されることになります。

 

①買手サイド

買手サイドの税務専門家は、この段階において詳細な税務DDを行います。詳細な税務DDで得られる税務リスクに関する情報は、買収価格の決定や、表明保証の内容等の検討に活用され、売買契約書に織り込むこととなります。また、詳細な税務DDを通じて暫定的なストラクチャーに問題がないか、実行可能性を検証し、ストラクチャーを決定します。売手が想定しているストラクチャーと異なるストラクチャーを提示する場合は交渉が難航することも少なくありません。売手が納得しやすいように売手・買手双方の税務上の取扱いを明示する等の対応が求められます。

 

②売手サイド

一方、売手サイドの税務専門家には、必要に応じて買手サイドによる詳細な税務DDへの対応をサポートしてもらうことがあります。また、買手が提示してきた税務リスクに関する内容やストラクチャーについて、税務専門家に意見を求めることもあります。

 

 

 

(3)売買契約書の締結後~クロージング

クロージングに向けたプロセスでは、売買価格等を検討する際に基準とした日(基準日)と実際に株式や資産・負債が移転する日(移転日)との間の期間に関する調査(クロージング監査)が実施され、必要に応じて売買価格が調整されることがあります。

 

①買手サイド

買手サイドの税務専門家は、この段階においてクロージング監査を実施することがあります。この段階では税務申告書の内容を確認することができない場合が多いため、税務上の取扱いに留意する必要がある取引・事象等でもない限り、税務専門家の役割は限定的と言えます。

 

②売手サイド

一方、売手サイドの税務専門家には、これまで同様に買手からの依頼に対して、必要に応じてサポートしてもらうことがあります。

 

 

 

3.税務DDの調査範囲


税務DDの調査範囲はストラクチャーによって異なります。一般的には、ストラクチャーが株式売買の場合、税務リスクを買手がそのまま引き継ぐことになりますので、網羅的な税務DDが求められます。とはいえ、DDは限られた時間の中で行うことも多く、網羅的かつ詳細な調査を税務専門家へ依頼するとコストも多額になります。効果的かつ効率的な税務DDを行うためには、調査範囲の検討が特にポイントになります。

 

 

(1)調査対象とする法人

税務DDを行うにあたっては、調査の対象とする法人を検討します。このとき、買収対象となる企業が挙げられるのは当然ですが、買収対象となる企業が子会社を有している場合、子会社まで調査の対象とするかを検討する必要があります。

 

全ての子会社を対象とするのであれば検討する必要はありませんが、その場合は当然ながら時間・コストがかかります。M&Aが検討されていることを知らされていない子会社については、その子会社に関する情報提供や質問対応等が制限されます。海外に子会社がある場合は、物理的な距離や言語、税制の違い等もあり、現地の税務専門家の利用も必要になります。このように、実務的には様々な制約の中で税務DDが行われることが一般的ですので、各子会社の事業規模や事業内容等を踏まえて調査範囲を検討する必要があります。

 

 

(2)調査対象とする期間

税務DDの対象期間は、基準日から直近3年~5年を対象とすることが一般的です。この調査期間は、買収後に税務調査が行われる可能性のある期間を前提に検討します。既に税務調査が行われた期間がある場合、次回の税務調査ではそれ以降の期間が税務調査の対象となることから、その期間に焦点を当てた税務DDを行うことが一般的です。その場合でも、税務DDの中で特に重要な税務リスクが発見され、それが既に税務調査が終了した事業年度にまで影響が及ぶ可能性があるときは、更正決定が可能な期間まで遡って調査すべきです。

 

 

(3)調査対象とする税目

法人の支払う税金には、法人税や住民税、事業税、消費税、印紙税、不動産取得税、固定資産税、事業所税、関税等、多岐にわたります。

 

税務DDにおいては、金額的な影響度が最も大きい法人税を中心に調査が行われることが一般的です。法人税以外の税目については、事業内容や過去の税務調査の状況等から、必要に応じて調査の範囲や深度を検討することになります。クロスボーダーの案件では、国によって重要な税目が異なる可能性も考えられますので、現地の税務専門家と連携して調査対象とする税目を検討する必要があります。

 

 

4.終わりに


税務という分野は専門性が高いため、M&Aにおいても税務専門家のサポートを受ける場合が多く、税務DDを依頼、あるいは協力して行うことが一般的です。

 

税務DDの範囲や深度を広げるほど、より詳細に税務リスクを把握できるかもしれませんが、調査に要する時間やコストの負担も大きくなります。一方で、十分な調査が行われず、M&A後に想定外の税務リスクが顕在化することは極力避ける必要もあります。案件の規模や内容等に応じて、効果的かつ効率的な税務DDを行えるように、早い段階で税務専門家と協議しながら検討することがポイントです。

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第8回】PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

 

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

 

1.無形資産の経済的耐用年

前回は,WACC,IRR,WARAと各資産の割引率の設定について解説しました。第8回は,無形資産の評価の際に設定する必要がある経済的耐用年数について解説します。

 

PPAにおいて認識される無形資産の経済的耐用年数は,当該無形資産より経済的効果が得られる期間=キャッシュ・フローを生み出す期間,として見積もられることとなります。そのため,インカム・アプローチによる評価手法によって無形資産を評価する場合,経済的耐用年数の長短によって見積もりキャッシュ・フロー期間も変わってくることから,耐用年数の設定如何によって無形資産の評価額が変わってくることとなります。

 

また,設定した経済的耐用年数は,PPA確定後の会計期間における無形資産の償却年数とされることが多いため,買収した企業の営業利益等にも影響を与えます。

 

現状,日本の会計基準においては,経済的耐用年数の明確な決定方法や考え方等は定められておらず,経済的耐用年数の根拠となるデータや情報を参照して個別に設定することが求められますが,実務上は,情報の入手に制約があり,根拠となるデータや情報が入手できないことも多く,経済的耐用年数はしばしば監査上の論点となり得ます。

 

 

2.日本基準とIFRS

後に詳述しますが,無形資産においては,その効果が及ぶ期間を見積もることが難しいケースも多く,耐用年数を決定することが困難な場合も多いです。IFRSでは,耐用年数が確定できない無形資産については非償却が認められており,実質的には半永久的に法的保護期間が継続される商標権等においては,非償却とされることも多いです。一方,日本基準においては,無形資産には耐用年数の設定が求められるとの解釈が多数を占めており,何らかの論拠で経済的耐用年数を設定することが求められる,という考え方が一般的です。

 

これは,のれんの償却の考え方にもリンクすると考えられており,のれんを非償却として毎期の減損テストにてその効果を測定するIFRSと,のれんを20年以内で償却する日本の会計基準との考え方の相違が,無形資産の耐用年数の考え方にも影響を及ぼしているものと考えられます。

 

 

【図表1】会計基準による耐用年数の考え方の相違

 

 

3.主な無形資産における経済的耐用年数の設定

経済的耐用年数については,一般的には,評価対象無形資産の将来の使用予測,法的保護期間,過去の継続利用実績,資産の減少率・陳腐化率,競争・競合状況等の様々な経済的及びその他の要因等を考慮して決定することとなります。

 

主な無形資産の経済的耐用年数の設定に関する考え方とそのポイントは以下の通りです。

 

 

【図表2】耐用年数設定の考え方

 

 

■商標権

 

10年毎の更新により,理論上は商標権を半永久的に保持することが可能となります。また,その更新にかかるコストは僅少であることから,IFRS及び米国基準においては耐用年数が確定できないとして非償却とされることが多いです。一方,日本基準においては,無形資産には耐用年数を設定することが求められており,商標権についても何らかの論拠にて耐用年数を設定することが必要となります。

 

 

■特許権

 

特許権は,特許権の残存年数によって設定するケースが多いと思われます。一方で,競争の激しい業界等において10年超の残存年数がある場合に,実際の当該特許権の競争力,優位性等の実態に合わない場合も想定されます。そういった場合においては,当該特許権を用いた技術が競争力を維持する期間を推察して経済的耐用年数を設定する必要がありますが,その場合は,定性的な論拠を積み上げる必要があることから,議論となることが多いです。

 

 

■契約資産

 

契約資産については,当該契約の残存契約期間を基に経済的耐用年数を設定することが多いです。一方で,契約期間が定められていない場合や,契約更新が自動継続となっていて残存契約期間が確定できない場合は,定性的な論拠を積み上げて耐用年数を設定する必要があります。

 

 

■顧客資産

 

顧客資産について一番分かりやすい経済的耐用年数設定の考え方は,顧客の減少率を用いるものです。顧客減少率とは,毎期顧客がどのくらい入れ替わるのかのデータを用いて,例えば,100の顧客が毎年10減少し,新たに20増加した場合は,期末には110となるが,減少率としては10/100となって,10年で現状の顧客が全ていなくなると想定するものです。こういった定量的かつ有意なデータが入手できる場合は,比較的容易に経済的耐用年数を設定することができます。一方で,定量的データが入手できないケース,例えば,大口顧客が数社のみある場合で,顧客の入れ替わりがない場合(顧客減少率0%)や,極端に顧客減少率が低い場合(仮に1%だとすると耐用年数は100年となる)においては,経済的耐用年数の設定が難しいものとなります。

 

4.陳腐化率について

評価基準日時点の無形資産,例えば,顧客資産や特許権については,耐用年数が10年であれば,10年間をかけて徐々にその経済的な効果が減少していく,ということは感覚的に理解できるのではないでしょうか。図表3はその概念図ですが,無形資産の評価においては,経済的耐用年数の設定に伴って陳腐化率や顧客減少率を設定することとなります。その際の陳腐化率は,例えば耐用年数が10年であれば,1÷10年として年率10%の陳腐化が起こると想定して設定することが一般的です。

 

一方で,商標権については,陳腐化率を設定しないことが実務上定着していますが,これは,IFRSでは商標権は非償却となることが多いことが理由であると推察します。

 

私見ですが,日本基準において商標権に耐用年数を設定した場合,年数の経過に伴って商標権が生み出す経済的効果も年々減少するとして,陳腐化率を設定するケースがあっても良いのではないでしょうか。

 

 

【図表3】陳腐化率の考え方

 

 

5.実務上議論となったケースの紹介

経済的耐用年数の設定において,弊社にて実際に議論となったケースを紹介します。ただし,個別案件が特定されないよう一部については内容を変更しています。

 

 

【図表4】耐用年数の設定事例

 

 

6.計算例

参考に,顧客資産を超過収益法にて評価する際の計算例を掲記します。経済的耐用年数については,過去3期間の顧客数の推移から顧客減少率を想定して,その結果を基に設定しています。また,減少率については,1÷経済的耐用年数により算出しています。

 

〈顧客資産‐超過収益法による計算例〉

【前提条件】

評価対象資産:顧客資産

経済的耐用年数:顧客減少率から3年と設定

減少率:33.3%

 

 

【図表5】顧客資産の耐用年数の計算例

 

 

【図表6】超過収益法による顧客資産の計算例

 

 

7.最後に

無形資産の経済的耐用年数の設定は,定量的かつ有意なデータが入手できない等,一筋縄でいかないケースも多く,実務上は定性的な論拠を積み上げて設定している場合も多いものと推察されます。

 

上述のように,IFRSやUS-GAAPにおいては,経済的耐用年数が確定できないとして,非償却とすることが認められているものが,現状の日本基準においては非償却が認められず,必ず経済的耐用年数を設定しなければならないことから,実務上は大きな負担となっていると感じます。定性的な論拠を積み上げて経済的耐用年数を設定するということは,一つの方法としては有用ではあるが,一方で,恣意性が介入する余地も大きく,また,評価者,買収者,対象会社,監査人で異なる見解が生じやすいことから,実務上のボトルネックとなっており,経済的耐用年数設定の考え方に一定のルールや規則が設けられることが必要と考えます。

次回は,PPAで使用する事業計画について解説します。

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[M&A案件情報(譲渡案件)](2020年8月18日)

-以下のM&A案件(6件)を掲載しております-

 

●【無借金・高度な精密プレス加工技術】ニッチ分野で高いシェア、深絞り加工に強み

[業種:精密プレス加工業/所在地:関東地方]

●首都圏所在で好立地。小型トラック主体で常時50台以上稼働

[業種:運送業/所在地:関東地方]

●建材輸送をメインとする運送業者。大手取引先からの直接受注あり

[業種:運送業/所在地:北海道地方]

●長年の実績と優良な財務を有した型枠工事業者。

[業種:型枠大工工事業/所在地:九州・沖縄地方]

●ITベンチャー

[業種:情報サービス業/所在地:九州・沖縄地方]

●ハイテク製品の設計・開発を行う企業

[業種:集積回路製造業/所在地:東日本]

 

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案件No.SS006363
【無借金・高度な精密プレス加工技術】ニッチ分野で高いシェア、深絞り加工に強み

 

(業種分類)製造業

(業種)精密プレス加工業

(所在地)関東地方

(直近売上高)5~10億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)高い精密加工プレス技術により大手より受注を受け続けている。

 

〔特徴・強み〕

◇創業70年を誇る老舗企業
◇特許を保有
◇ニッチ分野ではあるが高いシェア
◇深絞り加工の技術に強みを持つ
◇高い生産性及び製品コスト
◇無借金経営

 

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案件No.SS006244
首都圏所在で好立地。小型トラック主体で常時50台以上稼働

 

(業種分類)物流・運送

(業種)運送業

(所在地)関東地方

(直近売上高)5~10億

(従業員数)50~100名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)南関東所在のトラック運送業。中距離近距離を中心に、全国への対応が可能。

 

〔特徴・強み〕

◇増収基調。
◇法令遵守の意識が高く、労務管理にも注力。
◇運行管理者複数名在籍。
◇荷主の大幅な変更可能。

 

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案件No.SS006148
建材輸送をメインとする運送業者。大手取引先からの直接受注あり。

 

(業種分類)物流・運送

(業種)運送業

(所在地)北海道地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)ユニック車、平ボディ車による建材・鋼材の運送業務。

 

〔特徴・強み〕

◇大手取引先からの直接受注が大半を占める。長年の取引により関係は強固。
◇ドライバーの平均年齢は40代、従業員の平均勤続年数は長い。玉掛け資格・クレーン運転士の資格者多数。
◇業歴長く知識・技術共に充分。

 

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案件No.SS006144
長年の実績と優良な財務を有した型枠工事業者。

 

(業種分類)建設・土木

(業種)型枠大工工事業

(所在地)九州・沖縄地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)型枠大工工事

 

〔特徴・強み〕

◇安定した受注獲得と長年の施工実績を有する型枠工事業者
◇無借金経営で健全な財務
◇1級型枠施工技能士複数名取得(その他有資格者在籍)

 

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案件No.SS005525
ITベンチャー

 

(業種分類)IT・ソフトウェア

(業種)情報サービス業

(所在地)九州・沖縄地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)受託開発の他、ユニークな自社サービス商品を複数提供

 

〔特徴・強み〕

◇自社サービス商品がメディアにも取り上げられるなど、注目を集めている
◇技術だけではなく、提案や企画に強みを持つエンジニアが多数在籍
◇質の高いサービスを提供してきたため、ユーザーの満足度が高くリピーターも多いことから、今後の成長も見込まれる

 

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案件No.SS004399
ハイテク製品の設計・開発を行う企業

 

(業種分類)製造業

(業種)集積回路製造業

(所在地)東日本

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)光制御を駆使したハイテク製品の開発、設計を行う。

 

〔特徴・強み〕

◇自社内に電子設計(デジタル・アナログ)が出来る人材を確保し、高い技術力を持つ。
◇大手電機メーカーなどを中心に取引あり。

 

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情報提供会社:株式会社ストライク

 

 

 

 

【免責事項】

・掲載情報は、内容及び正確さに細心の注意をはらい、万全を期しておりますが、人為的なミスや機械的なミス、調査過程におけるミスなどで誤りがある可能性があります。税務研究会及び情報提供会社は、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切の責任を負うものではありません。

・掲載情報は公開日時点の情報になります。既に案件が特定の対象会社と交渉に入っている場合や成約している場合もございます。

 

 

 

 

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[解説ニュース]

民法改正~遺産分割前における相続預貯金債権の払戻し制度~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(髙橋 大貴/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

■民法改正 ~特別の寄与~

 

 

1.はじめに


平成30年7月13日に公布された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」のうち、新民法第909条の2に規定する遺産分割前における相続預貯金債権の払戻し制度(以下、「民法の預貯金払戻し制度」)を中心に解説します。

 

2.預貯金払戻し制度の創設以前の問題点


預貯金払戻し制度の創設以前は預貯金債権も一般債権同様に、法律上当然に分割され、相続人が法定相続分に応じて承継されるとされてきましたが、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定に基づき、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、共同相続人による単独での払戻しができないこととなりました。このため、被相続人が有していた預貯金を生活費等の資金需要のため遺産分割前に払戻す必要がある場合であっても、被相続人の共同相続人全員からの同意を得ることができない場合には預貯金の払戻しができないという問題が生じていました。

 

3.「民法の預貯金払戻し制度」の概要


上記2の問題点を踏まえて、相続財産の遺産分割前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払い等のために資金が必要となった場合に対応できるよう、下記4の払戻し限度額(までについては、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における払戻しが受けられるようになりました(民法909条の2)。

 

 

4.預貯金払戻し限度額


(1)限度額

各相続人は、遺産に属する預貯金のうち、相続開始時の預貯金債権額(金融機関の口座ごとに判断します。)の3分の1に払戻しを行う共同相続人の法定相続分を乗じた額(上限150万円)について、家庭裁判所の判断を経ず払戻しを受けることができます。
ただし、民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(平成30年法務省令第29号)で、一つの金融機関から払戻しが受けられる上限額は150万円と定めています。

 

(2)計算例

相続人が長男及び次男の2名(法定相続分各2分の1)で、相続開始時の預金額がA銀行の普通預金1,200万円、定期預金300万円、B銀行の普通預金600万円の場合において、次男が預貯金の払戻しをおこなうときの預貯金払戻し限度額は以下の様に計算します。

 

イ:A銀行普通預金1,200万円×1/3×1/2=200万円
ロ:A銀行定期預金 300万円×1/3×1/2=50万円
ハ:B銀行普通預金 600万円×1/3×1/2=100万円

 

上記より、A銀行は上限額の150万円(イ+ロ=250万円>150万円)でB銀行は100万円(ハ=100万円≦150万円)となり、次男は単独で合計250万円の預貯金払戻しを行うことが可能です(参考:堂薗幹一郎・神吉康二「概説 改正相続法」(きんざい)55頁)。

 

 

5.払戻しを受けた預貯金の取扱い


民法の預貯金払戻し制度により払戻された預貯金は、その後に遺産分割協議がまとまった際の相続人間の公平性を図るために、払戻しを受けた相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとして取扱われることになります(民法909条の2後段)。なお、預貯金払戻しを受けた相続人の預貯金払戻し相当額が相続人の実際の相続分を超過している場合には、当該超過部分を清算すべき義務を負うことになります。

 

6.必要書類


民法の預貯金払戻し制度を利用するにあたっては、本人確認書類に加えて、被相続人・相続人の戸籍謄本等が必要となります。
ただし、法律上規定を設けていないため、取引金融機関により必要書類が異なる可能性がありますので、当該預貯金の払戻制度を利用する際には利用する取引金融機関に事前確認することが望ましいです。

 

7.施行日


民法の預貯金払戻し制度は、令和元年7月1日以後に開始した相続より適用されています。
なお、経過規定として上記施行日前に開始した相続であっても、施行日以後に預貯金債権の払戻しが行使されるときにも、預貯金払戻し制度が適用されます(平成30年法律第72号附則5条1項)。

 

8.家事事件手続法の預貯金払戻し制度


預貯金払戻し制度については、上記の民法の規定によるもののほか、各相続人が家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。ただし、家庭裁判所が上記の払戻しを認めるのは、各相続人に生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます(家事事件手続法第200条第3項)。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/08/17)より転載

[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A  誌上セミナー]  

第2回:どのようにM&Aを行うのか

~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

1.株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)

2.合併

3.事業譲渡

4.会社分割

5.株式交換・株式移転

 

 

▷第1回:なぜ「会社を買う」のか~買う側の理由、売る側の理由~

▷第3回:M&A手法の選び方~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

▷第4回:M&Aの流れ①(計画段階)~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

 

どのようにM&Aを行うのか

「株式の売買」「合併」「事業譲渡」「会社分割」「株式交換・株式移転」という5種類の代表的M&A手法を見ていきます。多くの手法があるため代表例のみ簡潔にお伝えしますので、ここでは「そんな手法もあるんだ」という気持ちで軽く見ていきましょう。

 

 

1. 株式の売買

最も分かりやすい方法は「株式の売買」です。株式を取得することによって議決権を獲得し、会社経営に参画する形となります。

 

 

 

 

株式の売買と一口に言っても、相対取引・TOB(Take Over Bid:公開買付)・第三者割当増資と様々な手法があります。

 

 

■相対取引

上図のように、現在の株主と買い手が証券取引所を通さず直接行う売買で、中堅規模までの株式売買によるM&Aは大多数が相対取引となります。

 

■TOB

金融商品取引法に定めされている株式の買収手続で、上図における「現在の株主」が大多数いるような大企業を買収する場合に、買収の意思と条件を示したうえで一般の投資家から株式を買い付けます。

 

■第三者割当増資

特定の相手にのみ新株を発行する方法で、買い手としては株を大量に取得して議決権を入手します。これは企業再生のM&Aにおいて、スポンサーが新規資金を注入するといった、切羽詰まった局面で使用されることが多いやり方ですね。

 

 

2. 合併

次に分かりやすいのが「合併」です。M&Aと言えば「合併」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。大手銀行が次々と合併していったように、2つ以上の会社を1つの会社にすることにより相手のビジネスを獲得する方法が合併です。

 

 

 

 

合併は複数の会社が1つの会社になるため、非常に強力な結合関係を構築することができます。先程の株式売買では買収する側と買収される側が明確でしたが、合併は上図の通り会社が1つになるため、現場社員の感覚としては株式売買と比べると比較的対等な立場での組織再編となります。

 

合併は大きく分けると新設合併と吸収合併があります。上図の会社「A+B」が、新規に立ち上げた会社であれば新設合併、会社Aが残ったまま会社Bを買収していれば吸収合併です。

 

新設合併では全く新しい会社になることから、事業の許認可等を再申請する手間がかかります。そのため多くの場面において吸収合併が用いられています。

 

 

3. 事業譲渡

これまでご説明してきた株式売買・合併は、会社自体のM&A手法となります。一方、事業譲渡は、会社の「事業」単位でM&Aを行う手法となり、会社全体・会社の一部等多様な切り分け方ができることが特徴です。この「事業」は、店舗単位、工場単位、セグメント単位はもちろん、会社の全ての事業も対象になります。

 

 

 

 

事業譲渡は資産負債の移転手続を個々に行う必要がある等、手続が煩雑ですので、大企業同士のM&Aにはあまり用いられません。中堅規模の案件で事業のみの売買を行いたい場合に使用される手法です。

 

 

4. 会社分割

上記の事業譲渡と似た手法に「会社分割」があります。会社の中から事業を切り出して、権利義務の全部または一部を包括的に別の会社へ承継します。図のイメージは上記事業譲渡と同じです。

 

事業譲渡は会社法上あくまで取引法上の契約ですが、会社分割は「組織再編行為」と位置付けられており、合併のように権利義務を包括的に承継することが可能な手続となります。

 

 

新規設立した会社に事業を承継する「新設分割」と、既存会社に事業を承継する「吸収分割」の2つに分類できます。

 

対価は多くの場合において切り出した事業分の価値を有する株式となりますが、対価を相手の会社自体に渡す場合が「分社型」、相手の会社の株主に渡す場合が「分割型」と呼ばれます。

 

新設or吸収と、分社型or分割型の組み合わせで、合計4通りの手法になりますね。

 

 

会社分割は、規模が膨らんだ事業の分社化や、グループ内企業への一部事業移管等、組織内の再編に使用されることが多い手法です。

 

切り出した事業を既存企業に吸収させることで事業譲渡に似た形となりますし、会社全部を事業として切り出すことで合併に似た形にもなるように、種類が豊富で手続も柔軟な手法となります。

 

 

5. 株式交換・株式移転

株式交換は、自社の株式を対価として他社の株式を全て取得する手法です。他社が新設会社の場合は株式移転となります。(会社法上、この組織再編行為だけは新設の場合に用語が分かれています。不思議な感じですね。)

 

 

 

 

株式交換はグループ内の再編行為でよく使われますが、経営統合や買収の際にも使用されることがあります。例えば経営統合の局面ですと、新設持株会社を作り、その持株会社の下に2社がつくイメージですね。

 

「株式」の交換・移転ですので、対価は株式のみで現金を必要としない点が特徴です。単純に株式を現金購入するより手続は煩雑ですが、買収資金を用意せずに済むのは大きな利点になります。

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

~正常収益力の分析、事業別・店舗別・製品別・得意先別等損益の分析、製造原価の分析~

 

〈目次〉

1、正常収益力の分析(①スポット取引による損益、②会計方針の変更影響、③経常的な営業外損益、④撤退済み店舗損益、⑤撤退予定事業損益、⑥仕入条件の変更、⑦本社費用の除外、⑧管理部門費の発生)

2、事業別、店舗別、製品別、得意先別等損益の分析

3、製造原価の分析(①原材料費、②労務費、③外注費、④製造経費)

 

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

▷第5回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】

 

財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】


1、正常収益力の分析

正常収益力の分析は、将来計画の発射台となる正常な収益力を把握し、計画利益との連続性を検討することを目的としています。正常収益力の収益力とはEBITDAを用いて分析されることが一般的です。正常な収益力を把握するためには、大きく2つの調整を行います。

 

過年度に生じたイレギュラーな損益、非継続的な取引にかかる損益、会計処理の誤り等の調整を正常化調整といいます。正常化調整により会計処理の誤りや一時的・突発的な損益影響を排除した正常収益力の把握が可能となります。

 

また、M&Aの成立後、特定の事業を行わなくなる場合や、株主の変更によって増加・減少が予定されている費用等を過年度から発生しなかったと仮定した損益を分析するための調整をプロフォーマ調整といいます。プロフォーマ調整により、M&A成立後の損益構造で過去の損益を把握することが可能となるため、事業計画の損益との比較が行いやすくなります。

 

正常収益力の分析の具体例を下記に示します。x1期からx3期が実績、x4期が予算、x5期以降が計画とします。前提としてx1期からx3期の実績についての財務デューデリジェンスを行っており、x4期以降の予算・計画も分析を行うものとします。

 

 

 

 

営業利益・減価償却費は、会社の決算書・事業計画に記載されている金額を記載します。営業利益に減価償却を加えたものがEBITDAとなり、そこから正常化調整およびプロフォーマ調整を行い、調整後のEBITDAを算出します。

 

調整の内容は下記にて説明します。

 

①スポット取引による損益

スポット取引があれば今後は発生しないことが見込まれます。そのため、スポット取引から発生した損益はEBITDAから除く必要があります。しかし、スポット取引かどうかの見極めは簡単ではありません。例えば、創業50年の鉄を原料とする製造業があり、世界的に一時的に鉄が不足した時、創業後初めて原料の鉄のみの受注があり販売したとします。これは、鉄の不足が一過性であれば今後発生することはないと考えられる取引であるため、当該取引はスポット取引と判断します。

 

一方で、多くの取引が継続取引で、一部の取引がイベント等での取引がある企業を想定します。イベントは年に数回行われますが、多種多様で毎回コンセプトや会場が異なるとします。このような場合、各イベントの性質や規模、今後の継続性等を慎重に検討して判断します。イベントが今後も行われる場合は、同様の収益を会社にもたらすことが想定されるため、スポット取引とは判断しないことが多いです。

 

同様に、正常な売上高を算出するために、撤退済み店舗の売上高も調整項目として調整を行います。

 

②会計方針の変更影響

会計方針の変更により損益に影響が出る場合には、損益比較の観点から、会計方針を継続する調整を行います。具体的には、変更後の会計方針を当初から採用していたとして損益を作成し、会計方針変更前の損益との差額を調整します。

 

③経常的な営業外損益

計画期間中も継続的に発生が見込まれる営業外損益はEBITDAに取り込むために調整項目とします。持分法適用会社の持分法による投資損益等を想定しています。

 

④撤退済み店舗損益

撤退済みの店舗がある場合は、撤退済みの店舗から発生していた損益は今後発生しないことが見込まれます。そのため撤退店舗の営業利益をEBITDAから除く必要があります。撤退店舗の損益が赤字の場合であればプラスの調整、撤退店舗の損益が黒字であればマイナスの調整となります。通常、撤退店舗は赤字であったことが多いため、プラスの調整を行うことが一般的です。

 

また、厳密に考えると、撤退店舗の損益は営業利益ではなく減価償却前の営業利益(EBITDA)で調整することが望ましいです。それは、調整前EBITDAは減価償却費前の金額であるため、減価償却後の営業利益で調整を行うと不整合となるためです。しかし、減価償却費が僅少な場合や、店舗別で減価償却費を把握することが難しい場合には、店舗のEBITDAではなく営業利益にて調整を行うこともあります。

 

同様に、正常な売上高を算出するために、撤退済み店舗の売上高も調整項目として調整を行います。

 

⑤撤退予定事業損益

撤退予定の事業がある場合は、上述の撤退済みの店舗と同様に、撤退予定事業で発生していた損益は今後発生しないことが見込まれます。そのため撤退予定事業の営業利益をEBITDAから除く必要があります。撤退予定事業の損益が赤字の場合であればプラスの調整、撤退店舗の損益が黒字であればマイナスの調整となります。撤退予定事業の場合も、撤退済み店舗と同様に営業利益ではなく減価償却前の営業利益(EBITDA)で調整することが望ましいです。撤退店舗よりも撤退事業の方が、事業規模が大きいことが多いため、撤退事業の減価償却費を把握できる可能性は高くなります。

 

M&A成立後と同様の条件での売上高を算出するために、撤退予定事業の売上高も調整項目として調整を行います。

 

⑥仕入条件の変更

M&A成立後、買収元企業の主要取引先や関連会社等からの仕入れによって仕入単価を下げることができる場合があります。仕入金額が下がると損益はプラスに影響するため、EBITDAをプラスに調整する必要があります。

 

⑦本社費用の除外

現状の企業グループや部門による管理体制はM&Aにより変更され、M&Aの対象となっていない本社部門からのサービスの受け入れ、費用の負担割合等も変わる場合が一般的です。そのため、従前の本社部門からのサービスの受け入れに対する対価である本社費用は今後発生しないことが見込まれ、当該金額をEBITDAから除外する調整を行います。

 

⑧管理部門費の発生

M&Aの成立により新たな企業グループとなり、間接部門等のサービスの受け入れが従前と異なることになります。上述の「g.本社部門費の除外」で述べた従前の本社部門からのサービスの受け入れはなくなり、新たな本社部門からのサービスの受け入れが行われます。そのため、新たに発生する本社部門費の項目をEBITDAに追加する調整を行います。なお、デューデリジェンスの時点で新たに発生する本社部門費が見積もられていない場合でも、備忘のため項目だけであっても記載しておくのが望ましいです。

 

 

2、事業別、店舗別、製品別、得意先別等損益の分析

事業別損益、店舗別損益、製品別損益、得意先別損益等(管理会計)の損益分析は損益項目の分析では核となる分析です。これらの分析結果がEBITDAの分析の基礎となり、またどの部門やどの製品が利益の源泉となっているのかを把握します。また利益を生んでいない事業や製品および店舗等は、今後撤退を含めて改善を検討する必要があります。どのような店舗等が利益を生んでいて、どのような店舗等が赤字となっているのかを分析することで、勝ちパターンを見極め、今後の出退店の参考となります。

 

これらの分析はデューデリジェンスの買手側の企業にとって非常に重要ですが、デューデリジェンスの対象企業のこれまでの企業経営上も非常に重要であったため、対象会社側で既に分析が行われているように思います。しかし、中小企業であればリソースの不足等により、分析は行っているものの分析の粒度が粗い場合、管理会計と財務会計が分離されてそれぞれが不一致となりその差の要因が把握されていない場合、売上高のみ把握されていて、店舗利益はもとより売上総利益も把握されていない場合があるため、対象会社が作成した管理会計の分析結果をそのまま使用できない場合も少なくありません。そのため、財務デューデリジェンスにて改めて分析を行う必要があります。

 

これらの管理会計による損益が作成されている場合には、まず、その管理会計による損益の正確性を検証する必要があります。管理会計の売上高、売上原価、販管費そして営業利益の財務会計との差の有無を確認します。差がある場合には、差の生じている理由を把握し、対象会社の作成した管理会計の利用可能性を検討します。

 

次に、管理会計の作成方法を把握します。直課されているのか配賦されているのかを把握し、配賦されている場合は、配賦基準を把握し、修正する必要がないかを検討します。修正する必要がある場合には修正した上で分析を進めます。

 

下表では店舗別の損益を例として記載します。

 

 

 

上表は、店舗別損益の状況の一部抜粋です。店舗別に撤退等も含めた検討を行うために、変動費および固定費の把握に加え個別固定費の把握を行い、限界利益、貢献利益を算出します。限界利益算出の主な目的は損益分岐点売上高を算出するため、貢献利益算出の主な目的は、個別の店舗の本社費等の配賦前の損益を把握することであり、この分析は店舗を撤退するかどうかの検討にも有用です。貢献利益は本社費の負担および全社損益に対して貢献した損益を表し、赤字の場合は全社損益にマイナスの影響をもたらしているため、撤退を含めた検討が必要となります。

 

上表のA店舗とC店舗は貢献利益がプラスであり、本社費の負担および全社損益に貢献していると言えます。さらに本社費負担後の営業利益もプラスであり、健全な店舗であることが伺えます。一方でB店舗は他の店舗を比べて売上高が低く、売上総利益率も低いこと、さらに地代家賃も高くなっている影響で貢献利益がマイナスとなっています。貢献利益がマイナスであるということは、本社費の負担を行えておらず全社損益にマイナスの影響を及ぼしていることになります。対象会社はこの事実に基づき店舗の撤退をしたものと考えられます。B店は撤退済み店舗であるため、B店で発生していた損益は今後発生しないことが見込まれるためEBITDAの調整項目となります。店舗では減価償却費は発生していないものとします。なおEBITDAでの調整額は店舗を撤退した場合に発生しない損益である貢献利益の金額となります。本社費はB店舗が撤退しても減額されるものではないので、本社費配賦後の営業利益を調整すると誤った調整となるので注意が必要です。

 

また、店舗別の損益をデューデリジェンスで作成する場合には、特に慎重な検討が必要となります。期間や物理的なアクセス、ヒアリングの可否等の制約が多い状況下で、対象会社の損益の核となる部分を専門家であっても外部の人間が作成する場合には、必ずしも正確な金額が示せるとは限らず、むしろ精緻なものの作成は難しいと考えます。そのため、分析の前提としておいた仮定、前提条件および作成方法を正確に記して、レポートの読み手に誤解を与えないようにすることが必要となります。また、前提条件や作成方法を正確に記述することで、デューデリジェンスを実施しているチーム内での検証も行いやすくなります。

 

3、製造原価の分析

対象会社が製造業であれば、製造原価の把握・分析は非常に重要です。中小企業であれば、精度の高い原価計算を行っている会社は多くはなく、原価計算が行われていない会社も少なからずあります。また、工場の人件費が販管費に計上されているなど、製造原価と販管費の区分が正確に行われていない場合があり、製造原価の分析を行う際には併せて販管費の分析も行う必要があります。

 

製造原価には、大きく①原材料費、②労務費、③外注費、④製造経費があり、それぞれについて分析を行います。

 

①原材料費

原材料費は、それ自体の金額も重要ですが、売上高と連動して増減する費用であるため、売上高原材料費比率を算出します。事業計画上も、売上高に過年度の売上高原材料費比率を乗じて原材料の金額を算出することが一般的です。そのため過年度の売上高原材料費比率を分析して事業計画上どの比率を用いるのが適切かを検討します。

 

売上高原材料費比率が上昇しているのか、下落しているのかを把握し要因を分析します。要因は、原材料の仕様変更に伴う仕入単価の上昇や、外部環境による仕入単価の変化や、製造工程による歩留まり率の変化等様々な理由が考えられるため、慎重に検討する必要があります。また、当該増加又は減少要因が事業計画期間においても影響をあたえるのかどうかも含めて検討を行う必要があります。

 

②労務費

労務費は、製造にかかわる人員の人件費ですので、まず、内容を確認し製造原価に含める必要があると考えられる人の人件費が全て含まれているか、販管費との区分が適切かを把握します。賃金は販管費と区分されている場合であっても、法定福利費が労務費では計上されておらず、工場人員の法定福利費が販管費にまとめて計上されている場合があるため注意が必要です。

 

対象会社が作成した、事業計画上の人員採用計画で、人員の採用数と採用に伴い増加する労務費が折り込まれます。その計画上の労務費の金額が適切であるかどうかは過年度の労務費の分析により確認を行います。

 

1人あたり労務費を分析する場合、部門ごとに金額水準が異なる場合には部門別に人件費を分析するのが有用です。今後、どの部門の人員を採用するのかで増加する人件費が異なるからです。

 

まず、月次平均人員数を賃金台帳等から算出します。月次で人員数を把握するのが困難な場合は、期初と期末の人員数の平均として分析することもありますが、人員の出入りが多い会社では、1人あたり人件費の水準の精度が下がってしまいますので、可能なかぎり月次で把握するのが望ましいでしょう。

 

また、社員、パートの雇用形態別でも賃金水準は大きく異なるため、それらを区分して把握します。例えば、給料手当が社員の給与、雑給がパートの給与であることを確認した上で、それぞれ平均人員数で除することで1人あたり給料手当・雑給を算出します。

 

この場合、1人あたり人件費ではなく、給与・雑給としているのは、法定福利費等を除いた純粋な給料の水準を把握する目的があります。法定福利費は前述のように販管費にまとめて計上されている場合や、役員の法定福利費も含まれた金額となっている場合があるため、それを含めて人員数で除した金額は本来の社員1人あたりの人件費と異なってしまいます。それらの金額を調整して分析することも考えられますが、デューデリジェンスの短い期間での分析であるため、他の分析の重要度と勘案して行いますが、筆者の経験および見聞きした限りではここまでは分析していないものばかりでした。

 

また、労務費では、社員の給料は固定費であることが一般的です。一方でパートの給料は労働時間を調整することで給料も調整可能ではありますが、実態により、パートであっても採用の難しさ等から簡単には労働時間を変更できない場合等があり、その場合には固定費として分析した方が実態とはあっている場合があるので、固定費変動費の区分は慎重に行う必要があります。

 

現状の工場運営において、人員の稼働率を把握し、工場の広さや設備等の稼働時間等も総合的に勘案し、キャパシティを把握することが必要となります。M&A成立後の事業運営上、売上高を伸ばす場合はどの程度の人員の確保が必要となるのか等の検討資料となるためです。

 

③外注費

外注費については、対象会社の経営判断が反映される勘定科目になります。全ての製造作業を内製化し外注費が発生しない会社、単純な作業や汎用的な作業は外注し、製品の核となる製造のみ自社で行う会社、自社で設計までを行い製造は全て外注先に委託している会社等様々な経営判断により発生する勘定科目となります。そのため、対象会社がどのような経営判断で外注を行っているのかを把握する必要があります。

 

どのような経営判断で外注を行っているかで、その外注費が売上高に対して変動する項目であるのか、あるいは固定的に発生する項目であるのかといった、ドライバーが異なってきます。

 

④製造経費

製造経費については、それぞれの勘定科目の内容の把握を行い、変動費と固定費の区分を行うことが重要となります。売上高に対して変動か固定かの区分を行うことが一般的ですが、精度の高い事業計画を作成するためには、金額的に重要な製造経費がある場合には売上高以外のドライバーがないかの分析が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「海外子会社同士の合併を巡る課税関係」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】無対価合併における適格要件について

■【Q&A】合併における税制適格要件について

 

 

 


[質問]

このたび、内国法人(A社)が、発行済株式の約5%を保有する中国現地法人(S社)を100%子会社化することとなりました。

 

A社はS社以外にも中国の現地法人N社株式を従前より100%保有しております。S社の100%子会社化直後に、同じ中国現地法人N社とS社とを合併させる予定です(結果としてA社は合併後の現地法人を100%所有し、その後の売却予定等はありません)

 

【質問①】
当該合併に係る税務上の課税関係については中国現地の税法の範疇ですが、内国法人A社がS社買収直後に既存の100%在外子会社N社と合併させた場合、A社において何等かの課税関係は発生しますか。

 

【質問②】
また直接的な課税関係は発生しなくとも、A社が税務上留意すべき点はありますか。

 

 

 

[回答]

1 我が国における組織再編(適格合併)の課税関係

(1) 適格合併について
合併前に被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係があり、かつ、合併後に同一の者と合併法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている場合の合併で、被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないものは適格合併に該当することとされています(法人税法2十二の八イ、法人税法施行令4の3②二)。

 

(2) 合併が行われた場合のみなし配当の金額について
法人の株主等である内国法人が合併により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額はみなし配当の金額とされます。ただし、適格合併の場合にはみなし配当の金額は生じないこととされています(法人税法24①一)。

 

(3) 被合併法人の株主等における被合併法人株式の譲渡損益について
被合併法人の株主等は、原則として、被合併法人株式について譲渡損益を認識しますが(法人税法61の2①)、被合併法人の株主等に合併法人の株式等以外の資産が交付されなかった合併(金銭等不交付合併)の場合には、被合併法人の株主等は、被合併法人株式の譲渡損益の認識を繰り延べることとされています(法人税法61の2②)。

 

 

 

2 法人税法における「合併」の意義
法人税法は合併の定義規定を設けていないため、外国法令を準拠法として行われる合併が、法人税法上の合併に該当するのか疑問が生じます。

この点、法人税法上の合併は、我が国の会社法を準拠法として行われる合併に限るとはされていませんので、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、我が国の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の合併に該当すると考えられます。

我が国の会社法は合併そのものについての定義規定を設けていませんが、一般的に、その本質として、①消滅会社の権利義務の全部が存続会社に包括承継されること及び②消滅会社は清算手続を経ることなく自動的に解散して消滅することという要素を具備していることが挙げられます。

したがって、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、これらの要素を具備し、我が国の会社法上の合併に相当するものと認められる場合には、法人税法上の合併に該当するものとして取り扱うのが相当であると考えられます。

すなわち、外国法令を準拠法として行われる法律行為が法人税法上の合併に該当するか否かは、その法律行為が我が国の会社法上の合併に相当するものと認められるか否かにより判断することになると考えられます。

 

 

 

3 お尋ねについて
お尋ねによれば、「内国法人Aは、中国法人S社を完全子会社化する予定」とのことで、「S社の完全子会社化直後に、既に完全子会社である中国法人N社とS社とを合併させる予定」とのことです。以下、一般論として検討します。

 

(1) 質問①について
お尋ねの合併は、中国に所在する法人間で行われるため、日本の法人税法上の合併に該当するのか疑問が生じますが、法人税法上の合併は日本の会社法を準拠法として行われる合併に限定されていないため、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、日本の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の合併に該当すると思われます。

 

(2) 質問②について
上述(1)のように内国法人A社では、この合併が「適格合併」と「非適格合併」の何れかに該当するかを判断して行かなくてはなりません。
この検討の結果として仮に「適格合併」であるとすれば内国法人A社に課税関係は生じず、逆に「非適格」であるとするならば、内国法人A社に課税が発生する可能性があることになるのですが、ここで重要になる論点は、この検討が、あくまで日本国内の税法に基づいて行われるという点にあります。

 

 

 

 

《参 考》
◎ 中国における組織再編
海外で組織再編を行った場合の現地での課税関係はと言うと、国によって様々ではありますが、①組織再編取引は原則的に現地で課税されるものの、②一定の要件を満たした場合には非課税或いは課税の繰り延べとなるような取り扱いが多いのではないかと思われます。

 

例えば、中国における企業再編税制というのは、①の原則的な取り扱いとしての「一般税務処理」と、②の要件にある日本の適格組織再編に該当する「特殊税務処理」に分かれることになります。

 

① 一般税務処理となる場合には、被合併企業は資産・負債を時価譲渡し、その結果生じた所得に対して課税され、被合併企業の株主(日本親会社)に対しても株主課税が行われます。
② 「特殊税務処理」の要件を満たす場合には、基本的には課税の繰り延べが可能となります。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月1日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第3回:譲渡・M&A手続の流れ

~M&Aの一般的な手続きの流れとは? 留意点は?~

 

[解説]

上原久和(公認会計士)

 

 

 

 


 

[質問(Q)]

M&Aで会社売却する場合、進める手順と必要事項・留意点を教えてください。

 

 

[回答(A)]

仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)などの支援会社とコンサルタント(仲介)契約した場合には、下記の手順で進めていくことが一般的です。

 

【株式譲渡の場合の一般的な手順】
 ①ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診
 ②候補先を絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定
 ③秘密保持契約の締結とIM等による情報開示
 ④譲受側の検討
 ⑤条件交渉と基本合意の締結
 ⑥買収監査(デューデリジェンス)
 ⑦譲渡契約書(最終契約)の締結
 ⑧クロージング(資金決済)

 

 

 

 

1.ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診


仲介会社(又はFA)は譲渡会社の営業や事業内容を調査した上で、当該事業の譲受を希望する会社やその事業とのシナジーが期待できる会社を大まかな形でリスト化します(ロングリストの作成)。また、ケースによってはこの段階で譲受候補の企業に対し、興味の有無について初期的に打診する場合もあります。

 

 

2.候補先の絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定


作成されたロングリストから、地域や規模など一定の基準(ケースによっては初期的な打診の結果)をもとにして具体的な候補先を絞り込んでいきます。こうして絞り込まれた候補先のリストをショートリストと呼び、当面の接触予定先になります。この中から具体的な打診先を支援会社のアドバイザーとともに検討し、打診候補先(譲受候補企業)を絞り込みます。

 

 

3.秘密保持契約の締結とIM等による情報開示


仲介会社やFAのコンサルタントは絞り込んだ譲受候補企業に打診するために、譲渡会社の社名が把握できないノンネーム情報(以下、「NN情報」)と具体的に譲受を検討するための詳細情報を記載したIM(インフォメーション・メモランダム)を作成します。

コンサルタントは最初に打診候補先にNN情報を提示して、興味の有無を確認します。打診候補先がNN情報に興味を持った場合には、秘密保持契約(CA又はNDA)を締結し、社名を含めた詳細情報が記載されているIMを提供します。

 

 

4.譲受側の検討


譲受側である譲受希望企業は、条件提示に必要となる情報をIMから入手します。また、条件提示の検討に必要となる情報や質問がある場合には、担当のコンサルタントを通じて譲渡企業から回答を入手します。これら入手した情報を基にして、譲渡側に提示する条件を検討します。

 

 

5.条件交渉と基本合意の締結


譲受側が譲渡側に提示した条件や意向表明を基に具体的な条件交渉に入ります。条件交渉の結果、買収金額や買収形態(スキーム)など基本的な事項が双方で合意できた場合には、当該合意事項を文書化した基本合意書(LOI)を交わすことが一般的です。基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが多く、双方の確認書的な要素が強いものです。

 

 

6.買収監査(デューデリジェンス)


買収監査(デューデリジェンス)は、譲受側が譲渡企業について、M&Aの実施の可否やその後の統合作業に必要となる情報や問題点を検出するために実施する作業です。譲受側が条件提示に用いたIMや財務情報は、あくまで譲渡側が提示されたものであり、譲受側としてはその情報の妥当性を確認していません。譲受側としては条件提示の前提になっている情報と譲渡企業の内部資料を検証することで、前提となっている情報を確認することになります。仮に前提情報と検証した結果が大きく乖離する場合には、提示条件の修正や、場合によってはM&Aの実施自体が取り止めになることもあります。このため譲受側にとっては、過大なリスクや買収金額にならないように、また円滑に統合作業を進めるためにもデューデリジェンスを実施することが望ましいといえます。

 

 

7.譲渡契約書(最終契約)の締結


デューデリジェンスの結果を基に、最終的な譲渡条件や譲渡形態(スキーム)を確定させ、譲渡契約書を作成します。双方が契約内容に合意できれば、譲渡契約書を締結します。

 

 

8.クロージング(資金決済)


クロージングとは、譲渡対象(株式譲渡であれば株式、事業譲渡であれば対象資産)と対価である資金の受渡のことです。譲渡契約を締結し、クロージングが終了することによって、初めてM&Aが成立すると言えます。このため、譲渡契約の締結とクロージングを同日に設定したり、同日のクロージングができない場合も可能な限り、クロージング日が伸びないようすることがトラブル防止の観点から重要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&Aニュース](2020年7月27日〜8月7日)

◇レオパレス21、希望退職者募集に予定を上回る1067人が応募、◇シェアリングテクノロジー<3989>、海外留学サービスサイト運営子会社のリアブロードを経営陣に譲渡、◇TOKAIホールディングス<3167>、電設工事の中央電機工事を子会社化、◇FDK<6955>、インドネシアのアルカリ乾電池製造子会社をオランダ社に譲渡、◇シンクロ・フード<3963>、副業マッチングサイトのニコシゴトを子会社化、◇大日本コンサルタント<9797>、三菱マテリアル傘下のダイヤコンサルタントと経営統合へ協議入り、◇ノーリツ鋼機<7744>、胎児DNA検査サービス子会社のGeneTechをルクセンブルク企業に譲渡 ほか

 

 

 

レオパレス21、希望退職者募集に予定を上回る1067人が応募

レオパレス21は7日、希望退職者募集に1067人が応じたと発表した。35歳以上を対象として6月22日~7月31日に約1000人を募集した。同社は主力の賃貸アパート事業をめぐる施工不良問題を受け、業績が大幅に悪化し、2020年3月期は802億円の最終赤字(前期は686億円の赤字)を計上した。非中核・不採算部門のホテル・リゾート事業、国際事業からの撤退と合わせ、人員削減を打ち出していた。

応募人数は単体従業員約6000人のおよそ17%に相当する。所定の退職金に特別加算金を上乗せして支給し、再就職支援サービスを提供する。

シェアリングテクノロジー<3989>、海外留学サービスサイト運営子会社のリアブロードを経営陣に譲渡

シェアリングテクノロジーは、海外留学サービスサイトを運営する全額出資子会社のリアブロード(東京都新宿区)の全株式を、リアブロード社長の神田慎氏に譲渡することを決めた。リアブロードは2014年に設立。譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年8月末。

TOKAIホールディングス<3167>、電設工事の中央電機工事を子会社化

TOKAIホールディングスは、電気設備工事業の中央電機工事(名古屋市)の全株式を取得し、7日付で子会社化した。中京圏での受注拡大につなげる狙い。中央電機は1955年に設立し、愛知県や名古屋市など官公庁工事のほか、民間工事で豊富な受注実績を持つ。

取得価額は非公表。

FDK<6955>、インドネシアのアルカリ乾電池製造子会社をオランダ社に譲渡

FDKは、インドネシアでアルカリ乾電池を製造する現地子会社PT FDK INDONESIA(売上高42億6000万円、営業利益△1億7500万円、純資産△3億5900万円)の全株式を、電池・ライト販売のオランダEnergizer International Group B.V.に譲渡することを決めた。アルカリ乾電池に関し、国内の同業他社、プライベートブランド向けを含む国内市販ビジネスに集中する方針を打ち出しており、この一環。

譲渡価額は7億5300万円。譲渡予定日は2020年10月1日。

シンクロ・フード<3963>、副業マッチングサイトのニコシゴトを子会社化

シンクロ・フードは、業務委託マッチング事業を手がけるニコシゴト(東京都品川区。売上高140万円、営業利益△210万円、純資産283万円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。ニコシゴトは2019年に設立し、ブライダル業界を主力に飲食業界、教育業界向けに副業マッチングサイトを運営している。

シンクロ・フードは飲食店の出店開業・運営に関するサービスをワンストップで提供する「飲食店.COM」を運営(登録ユーザーは約18万件)している。これらをベースに、副業希望者に対して飲食店での仕事を紹介する。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月31日。

シンクロ・フード<3963>、J&Sからキッチンカーシェア・マッチング事業を取得

シンクロ・フードは、飲食店経営やフランチャイズシステム加盟支援を手がけるJ&S(東京都港区)からキッチンカーシェア・マッチング事業を取得することを決めた。シンクロ・フードは飲食店の出店開業・運営に関するサービスをワンストップで提供する「飲食店.COM」を運営している。新たにキッチンカーをベースとした出店開業の機会を提供することで、「飲食店.COM」を軸とした事業拡大に弾みをつける。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月31日。

J&Sは2019年8月から、一般社団法人日本移動販売協会(大阪市)と組んで関西エリアを中心にキッチンカーシェア・マッチング事業を展開している。シンクロが取得する当該事業の直近売上高は500万円。

大日本コンサルタント<9797>、三菱マテリアル傘下のダイヤコンサルタントと経営統合へ協議入り

大日本コンサルタントは7日、三菱マテリアル傘下の建設コンサルタント会社であるダイヤコンサルタント(東京都千代田区)と経営統合に向けて協議を始めることで合意したと発表した。大日本コンサルタントは橋梁を中心とした構造物の計画・設計に強く、ダイヤコンサルタントは地質や地盤の調査・解析を主力とする。両社の得意分野を融合し、総合建設コンサルタントとして、強固な事業基盤を構築する。2021年2月に最終契約、同7月の経営統合を目指す。

大日本コンサルタントは1963年に設立し、売上高165億円、営業利益16億2000万円、純資産64億8000万円。一方、ダイヤコンサルタントも1963年に設立し、売上高124億円、営業利益8億円、純資産40億5000万円。三菱マテリアルが81%強の株式を持つ親会社。

自然災害の頻発化・激甚化、地球環境問題の深刻化、既設の社会インフラの老朽化などに幅広く対応できる経営体制を両社でつくりあげる。

IMAGICA GROUP<6879>、映像関連の米Pixelogicを子会社化

IMAGICA GROUPは、映像関連の持ち分法適用関連会社である米Pixelogic Holdings, LLC(カリフォルニア州。売上高67億6000万円、最終利益△17億4000万円、純資産△12億1000万円)の株式を追加取得し、子会社化することを決めた。現在39.9%の持ち株比率を約88%に高める。取得価額は約59億4000万円。取得予定日は2020年10月1日。

Pixelogicは劇場映画やTVドラマ作品などの映像コンテンツの原版が完成した後に提供するローカライズ(現地化)やディストリビューション(データ作成、品質チェック、納品作業、工程管理など)といった業務を手がけ、ハリウッドメジャースタジオやテレビ局などを主な顧客とする。

ノーリツ鋼機<7744>、胎児DNA検査サービス子会社のGeneTechをルクセンブルク企業に譲渡

ノーリツ鋼機は、母体血による胎児DNA検査サービスなどを手がける100%出資子会社GeneTech(東京都港区。売上高13億5000万円、営業利益3億9200万円、純資産21億8000万円)の全株式を、ルクセンブルクの臨床検査会社Eurofins Clinical Testing Lux Holding Sarlに譲渡することを決めた。ノーリツ鋼機は中核事業を「モノづくり」と「ヘルスケア」と位置づけ、事業ポートフォリオ再編を進めており、その一環。

ノーリツ鋼機は2016年にGeneTechを傘下に収めた。

譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年8月31日。

コムシスホールディングス<1721>、管工事や水道施設工事の朝日設備工業を株式交換で子会社化

コムシスホールディングスは、管工事や水道施設工事の朝日設備工業(岐阜市。売上高13億1000万円、営業利益7300万円、純資産3億6000万円)を株式交換により子会社化することを決めた。朝日設備工業は1960年設立で、地場トップクラスの実績を備える。コムシスは東海地区での施工体制の再構築などにつなげる。

株式交換日は2020年10月1日を予定。株式交換比率は9月14日~25日までの8営業日におけるコムシス株式の終値の平均値に基づき算出する。

ソフト99コーポレーション<4464>、病院向け関連用品・医療機器を企画開発するアズテックを子会社化

ソフト99コーポレーションは、病院向け関連用品・医療機器を企画開発するアズテック(東京都文京区。売上高7億2300万円、営業利益1億1800万円、純資産2億5700万円)の全株式を取得し、6日付で子会社化した。新事業として力を入れている医療分野向け製品開発を強化するのが狙い。取得価額は非公表。

アズテックは1994年に設立。工場を持たないファブレスメーカーで、とくに手術室向けの衛生管理に関連する製品分野で実績を持つという。

小島鉄工所MBO、買付価格を620円に50円引き上げ

小島鉄工所に対してMBO(経営者による買収)を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施している児玉本社(群馬県高崎市)は5日、570円としていた買付価格を50円引き上げて620円にすると発表した。6月29日に買い付けを開始以降、買付価格を引き上げるのは初めて。小島鉄工所の市場価格が児玉本社が提示した買付価格を上回る600円台前半の高値で推移しているのを踏まえた措置。

買付期間も8月20日まで1日延長して36営業日とした。

ワールド、約200人の希望退職者を募集へ

ワールドは5日、約200人の希望退職者を募集すると発表した。40歳以上の社員(11月20日時点、定年再雇用者を含む)を対象とし、募集期間は9月14日~9月30日。退職日は11月20日もしくは2021年3月31日までの会社が指定する日。女性・キッズ向け衣料「ハッシュアッシュ」「サンカンシオン」など5ブランドの廃止に伴う214店舗をはじめ、低収益店舗を中心に合計358店舗を2021年3月期中に閉鎖するのに呼応した措置。

従来の中期経営計画で段階的な人員の配置転換や入れ替えに取り組む予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で実施時期を大幅に前倒しすることになった。

退職希望者には所定の退職金に加え、特別加算金を支給し、再就職支援サービスを提供する。

クックビズ、50人程度の希望退職者を募集

クックビズは5日、50人程度の希望退職者を募集すると発表した。全従業員の2割強にあたる。同社は飲食業界向け求人情報サービスを展開するが、新型コロナウイルス感染拡大で飲食店からの求人が急減。抜本的なコスト削減のため事業規模に見合った人員体制とするのが狙い。募集期間は8月17日~9月16日。退職日は9月30日。特別退職金を支給し、再就職支援サービスを提供する。

同社の2019年12月~20年5月期業績は売上高が前年同期比35.5%減の9億4200万円、営業赤字2億8300万円(前年同期は1億3200万円の黒字)、最終赤字2億5700万円(同8200万円の黒字)。

アドベンチャー<6030>、スポーツ用品衣料製造子会社のwundouを丸井織物に譲渡

アドベンチャーは、スポーツ用品衣料とカジュアルウエアの製造子会社wundou(東京都葛飾区。売上高6億4700万円、営業利益4640万円、純資産5億2300万円)の全株式を、各種織物製造の丸井織物(石川県中能登町)に譲渡することを決めた。アドベンチャーは2018年1月に8億円を投じてwundouを傘下に収めたが、新型コロナウイルス感染拡大で主力の旅行事業を除く分野の事業整理を進めている。譲渡価額は5億9000万円。譲渡予定日は2020年8月31日。

アドベンチャーは航空券販売サイト「skyticket」で培ったオンラインマーケティングノウハウを活用してwundouの新規顧客開拓や販売拡大を目指してきたが、新型コロナ下での事業環境の変化を受け、非中核事業を切り離し、旅行事業に経営資源を集中する。

川崎汽船<9107>、米ロングビーチでコンテナターミナルを運営する現地子会社ITSをインフラ投資ファンドに譲渡

川崎汽船は米カリフォルニア州ロングビーチ港でコンテナターミナルを運営する現地子会社INTERNATIONAL TRANSPORTATION SERVICE(ITS、カリフォルニア州)の全保有株式(所有割合70%)を、米インフラ投資ファンドMacquarie Infrastructure and Real Assets(ニューヨーク)に譲渡することを決めた。日本郵船、商船三井との3社でつくる統合会社ONEへのコンテナ船事業移管に伴いグループ会社戦略の見直しを進めており、その一環。

譲渡価額は非公表。譲渡は2020年10月を見込む。

小島鉄工所MBO、買付期間を8月19日まで5営業日延長

小島鉄工所に対してMBO(経営者による買収)を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施中の児玉本社(群馬県高崎市)は4日、8月12日までとしていた買付期間を8月19日まで5営業日延長すると発表した。買付価格は変更しない。

小島鉄工所会長の児玉正蔵氏ら創業家出身者4氏が設立した児玉本社は6月29日から買い付けを始めているが、市場価格が児玉本社が提示した買付価格570円を上回る高値で推移し、このままではTOBへの応募が見込めない状況にある。

ジーエス・ユアサコーポレーション<6674>、サンケン電気から電源装置など社会システム事業を取得

ジーエス・ユアサコーポレーションは子会社のGSユアサを通じて、サンケン電気から直流電源装置、無停電電源装置などの製造・販売に関する社会システム事業を取得することを決めた。取得価額は約48億円。取得予定日は2021年4月1日。サンケン電気は主力の半導体デバイスと電力制御用モジュールに経営資源を集中するのに伴い、電源装置については昨年来、売却を含めて検討していた。

サンケン電気は社会システム事業を子会社のサンケン電設(埼玉県川口市)に会社分割によって承継したうえで、サンケン電設の全株式をGSユアサに譲渡する。当該事業の直近売上高は約125億円。GSユアサは自動車用・二輪車用の鉛蓄電池やリチウムイオン電池など各種蓄電池のほか、直流電源装置、交流無停電電源装置、照明機器などを手がける。

シライ電子工業、60人程度の希望退職者を募集へ

シライ電子工業は3日、60人程度の希望退職者を募集すると発表した。対象者は会社側で適用を認めた社員(入社1年未満を除く)で、募集期間は9月7日~9月25日。退職日は10月31日付。募集人員は単体従業員の約12%に相当する。

米中貿易摩擦の長期化や中国景気の低迷に新型コロナウイルス感染が重なり、電子部品全体の需要が落ち込む中、主力事業のプリント配線板を取り巻く受注環境が一段と悪化しており、人員体制を適正化する。通常の退職金に特別加算金を上乗せして支給し、再就職支援サービスを提供する。

シライ電子の2020年3月期業績は売上高8.7%減の261億円、営業赤字9800万円(前期は3億6200万円の黒字)、最終赤字5億円(同2億2600万円の赤字)。最終赤字は2期連続。

ノーリツ鋼機<7744>、出版・通販事業のハルメクホールディングスを経営陣に譲渡

ノーリツ鋼機は、出版・通信販売業のハルメクホールディングス(ハルメクHD、東京都新宿区。売上高197億円、営業利益3億6500万円、純資産19億700万円)の全保有株式(所有割合94.92%)を、MBO(経営陣による買収)の一環としてハルメクHD社長の宮澤孝夫氏が代表を務めるHLMK2(東京都新宿区)に3日付で譲渡した。

ハルメクHDはシニア女性誌「ハルメク」(定期購読者32万人)を発行するハルメク(東京都新宿区)、シニア向け通販事業の全国通販(大阪市)を傘下に持つ。ノーリツ鋼機はハルメクと全国通販を2012年に子会社化し、統括会社の下で両社を運営してきたが、経営資源の集中を進めるため、非中核(ノンコア)事業を切り離すことにした。

譲渡価額は非公表。

ノーリツ鋼機<7744>、歯科向けカタログ販売などのデンタルホールディングスを投資ファンドのアドバテッジパートナーズに譲渡

ノーリツ鋼機は、歯科材料など医療関連用品販売のデンタルホールディングス(東京都港区。売上高―、営業利益1200万円、純資産22億7000万円)の全株式を、投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ(東京都港区)傘下のAP67(同)に譲渡することを決めた。非中核事業の再編・整理の一環。

デンタルホールディングスは子会社として歯科向けカタログ通販のフィード(横浜市)を持つ。フィードは歯科向けのほか、医療・介護、動物病院向けカタログ通販も手がけ、10万施設の顧客基盤があるという。ノーリツ鋼機は2013年にフィードを子会社化した。

譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年9月1日。

ココカラファイン<3098>、クレストファーマシーの調剤薬局1店舗を取得

ココカラファインは傘下のココカラファインヘルスケア(横浜市)を通じて、クレストファーマシー(東京都練馬区)から調剤薬局1店舗(同)を3日付で取得した。ドミナント戦略の一環。取得価額は非公表。

朝日放送グループホールディングス<9405>、アニメ制作のSILVER LINK.を子会社化

朝日放送グループホールディングスは、アニメーション制作会社のSILVER LINK.(東京都三鷹市。10月1日設立予定)の全株式を取得して子会社化することを決めた。傘下に収めるのは現SILVER LINK.(同)がアニメ制作のCOONECT(同)を吸収合併した後に、アニメ制作事業を分割して設立する同名の新会社。朝日放送はコア事業の一つと位置づけるアニメ事業の強化につなげる。

現SILVER LINK.は2007年設立で、「賢者の孫」「痛いのは嫌いなので防御力に極振りしたいと思います。」といったテレビ向けアニメの制作を手がけた実績を持つ。子会社化にあたっては新SILVER LINK.が実施する第三者割当増資を引き受ける形となる。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年10月1日。

ジャパンエレベーターサービスホールディングス<6544>、エレベーター保守管理のNSエレベータを子会社化

ジャパンエレベーターサービスホールディングスは、エレベーターの保守点検事業を手がけるNSエレベータ(京都府向日市。売上高3億500万円、営業利益△457万円、純資産△2760万円)の株式51%を取得し子会社化することを決めた。保有契約台数の増加を通じた関西圏での事業基盤を強化する。NSエレベータは2006年に設立し、大阪、京都、兵庫エリアを中心に750台以上のエレベーターの保守管理を行っている。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月4日。

高田工業所<1966>、北海道で石油・天然ガスプラントの配管工事・メンテナンスを手がける渡部工業を子会社化

高田工業所は、石油・天然ガスプラント設備の配管工事・メンテナンスを手がける渡部工業(北海道苫小牧市)の全株式を取得し子会社化した。産業プラントの事業基盤強化と拡大の一環。渡部工業は1985年に設立。取得価額は非公表。取得日は2020年7月27日。

セブン&アイ・ホールディングス<3382>、米のガソリンスタンド併設型コンビニ「スピードウェイ」を2兆2000億円で買収

セブン&アイ・ホールディングスは3日、米国でガソリンスタンド併設型のコンビニエンスストア事業を手がける「スピードウェイ」(オハイオ州)を約2兆2176億円(220億ドル)で買収する契約を結んだと発表した。スピードウェイは米石油精製会社マラソン・ペトロリアム(オハイオ州)の傘下で、全米に約3900店舗を持つ業界3位。

セブン&アイの米子会社「セブン-イレブン」は全米トップの約9800店舗を展開するが、シェアは6%程度にとどまる。スピードウェイを傘下に収め、北米のコンビニ市場で明確に業界リーダーとしての地位を確立するのを狙いとしている。スピードウェイはガソリンスタンドを併設するコンビニを36州で運営し、セブン-イレブンの店舗との地域的補完性も高いという。

全米で業界トップと3位の両ブランドが組み合わさることで、スケールメリットを生かし、コスト低減や顧客基盤の強化につなげる。買収完了は2021年1~3月を見込んでいる。

ニチイ学館MBO、買付価格を1500円から1670円に引き上げ

介護大手のニチイ学館に対してMBO(経営陣による買収)を目的にTOB(株式公開買い付け)を実施している米投資ファンドのベインキャピタルは31日、買付価格を170円引き上げて1株1670円にすると発表した。5月11日にTOBを始めて以降、買付価格引き上げは初めて。また、8月3日までとする買付期間も8月17日まで9営業日延長し、68営業日とした。買付期間の延長は3度目。

31日のニチイ学館株価の終値は前日比10円安の1540円で、買付価格の1500円を上回り、TOBへの応募がなお見込みにくい状況にある。ただ、ニチイ学館株価はTOBを開始直後から上昇し、7月6日に1700円台に乗せたが、それ以降は下落に転じ、買付価格とほぼ同水準に近づいている。このため、TOBへの応募を確実にするため、買付価格を引き上げたとみられる。

ニチイ学館の経営陣はベインキャピタルと組んでMBOによる非公開化を目指している。ベインキャピタルの傘下企業がTOBを通じて約75%の株式を取得し、残りの株式は筆頭株主で創業家の資産管理会社から買い取る計画。買収総額は1000億円規模。

住友ベークライト<4203>、川澄化学工業<7703>をTOBで子会社化へ

住友ベークライトは31日、人工透析製品などの医療機器を手がける川澄化学工業(東証2部)にTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。現在、川澄化学の株式23.05%を保有し、持ち分法適用関連会社としているが、TOBを通じて完全子会社化を目指す。川澄化学はTOBに賛同している。成長領域である血管内治療、内視鏡治療など低侵襲治療分野への事業展開を加速するのが狙い。

買付価格は1株につき1700円で、TOB公表前日の終値805円に111.18%のプレミアムを加えた。買付予定数の上限は設けず、下限は所有割合43.62%に相当する901万5900株とした。買付代金は270億3880万円。買付期間は8月3日~9月30日。買い付け代理人は大和証券。決済の開始日は10月7日。

住友ベークライトは2019年に川澄化学と資本業務提携。これに伴い、約23%出資して関係強化を進めてきた。

川澄化学は1954年に創業し、プラスチック製のディスポーザブル採血・輸血セットの製造・販売を開始。当時輸入品に頼っていた人工腎臓の国産化や日本赤十字社への安定的な血液バッグの供給などに取り組んだ。1987年に東証2部に上場した。近年は、低侵襲の先端医療機器の研究開発に力を入れている。2020年3月期業績は売上高7.4%減の223億円、営業利益8.4%増の6億4800万円。

住友理工<5191>、車両用防振ゴム製品を製造するフランス子会社2社を現地社に譲渡

住友理工は、車両用防振ゴムを製造するフランス子会社のSumiRiko Industry France(SRK-INF、ニエーブル県。売上高18億7000万円、営業利益△7億6500万円、純資産△10億2000万円)とSumiRiko AVS France(SRK-EPF、ヴォージュ県。売上高35億円、営業利益△1億7200万円、純資産4億100万円)の両社の全株式を、現地ANVIS HOLDING(ヴォージュ県)に譲渡することを決めた。両子会社は近年、業績不振が続いていた。

設立は鉄道用防振ゴム製品を手がけるSRK-INFが2009年、自動車用防振ゴム製品のSRK-EPFが1978年。いずれも住友理工が100%出資する。

譲渡価額は非公表。譲渡は2020年8月31日までに実施する。

明治海運<9115>、パナマの外航海運会社TRINITY BULKを子会社化

明治海運は、パナマの外航海運会社TRINITY BULK, S.A.(売上高12億5000万円、営業利益2億800万円、純資産34億円)の株式を追加取得して子会社化することを決めた。現在50%の持ち株比率を60%に引き上げる。現在、持ち分法適用関連会社としているが、子会社化により意思決定を迅速に行えるようにする。取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月3日。

TRINITY BULKは1983年に設立。残る40%の株式は伊藤忠商事が保有している。

トナミホールディングス<9070>、中国地区を地盤とする新生倉庫運輸を子会社化

トナミホールディングスは、倉庫・運送事業を手がける新生倉庫運輸(広島市。売上高43億6000万円、純資産36億3000万円)の株式67%を取得し、31日付で子会社化した。新生倉庫運輸は1947年設立で、広島、岡山、山口を主力地盤とし、食品やメーカー系の物流に強みを持つ。トナミホールディングスは富山県を本拠とするトラック輸送大手。

取得価額は非公表。

KDDI<9433>、宅配水事業を「富士山の銘水」に譲渡

KDDIは、宅配水事業をミネラルウオーター製造・販売の富士山の銘水(山梨県富士吉田市)に譲渡することを決めた。一般ユーザー向け宅配水事業を11月1日付で、携帯電話「au」のユーザー向け宅配水事業を2021年2月1日付で、事業パートナーの富士山の銘水に引き継ぐ。譲渡価額は合計10億9900万円。

KDDIは2015年から、天然水「フレシャス」を提供する富士山の銘水と共同で、auショップなどを通じて宅配水事業を行ってきたが、事業の選択と集中の一環として、今回、手を引くことにした。

当該事業の直近売上高は一般ユーザー向け8億1100万円、auユーザー向け27億4500万円。

マネーフォワード<3994>、入金消込・債権管理システム開発販売のアール・アンド・エー・シーを子会社化

マネーフォワードは、会計関連システムを開発・販売するアール・アンド・エー・シー(東京都中央区。売上高3億8200万円、営業利益700万円、純資産3億6300万円)の株式を追加取得して子会社化することを決めた。現在12.3%の持ち株比率を77.8%に引き上げる。取得価額は13億2500万円。8月中の取得を目指す。

アール・アンド・エー・シーは2004年設立。「Victory-ONE」「V-ONEクラウド」の名称で展開する入金消込・債権管理システムは大手から中小企業まで幅広く導入され、国内トップクラスの実績を持つ。

マネーフォワードは「マネーフォワード 会計Plus」「マネーフォワード クラウド経費」「マネーフォワード クラウド給与」を通じて中堅企業や上場準備企業への顧客基盤拡大に力を入れている。アール・アンド・エー・シーを傘下に取り込むことで、中堅規模以上の企業向け商品の拡充につなげる。

シャルレ<9885>、シャワーヘッド製造の田中金属製作所など2社を子会社化

シャルレは、シャワーヘッド製造の田中金属製作所(岐阜県山県市。売上高5億1100万円、営業利益6200万円、純資産2億3400万円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。同社のシャワーヘッドは直径0.0001ミリメートル未満の気泡を作る技術(特許取得)に基づき、この微細な気泡が毛穴やしわの奥に入り込むことで、高い洗浄力や保湿、体温上昇といった効果が期待できるという。美と健康領域での事業拡大につなげる狙い。

シャルレは同時に、シャワーヘッドの販売会社であるWATER CONNECT(岐阜市。売上高5億7800万円、営業利益2800万円、純資産3100万円)も傘下に収める。WATER CONNECTはモール型EC(電子商取引)サイトを中心に販売展開している。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月17日。

日本乾溜工業<1771>、地盤改良・法面保護工事のニチボーを子会社化

日本乾溜工業は、地盤改良や地滑り対策、法面保護などの土木工事を手がけるニチボー(福岡市。売上高21億3000万円、営業利益2億6200万円、純資産7億4500万円)の全株式を取得し、子会社化することを決めた。日本乾溜工業は主力事業の法面工事について、九州地区での受注機会拡大を目指す。ニチボーは1966年設立で、50年を超える業歴を持つ。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月31日。

ポート<7047>、マッチングサイト「外装塗装の窓口」運営のドアーズを子会社化

ポートは、外装塗装のマッチングサイトを運営するドアーズ(東京都港区。売上高8億1800万円、営業利益2200万円、純資産3億2400万円)の全株式を取得し、31日付で子会社化した。ポートは就活領域メディア「キャリアパーク!」を主力とするが、これまで培ってきたマッチングノウハウを生かし、事業領域を横展開する。取得価額は16億1500万円。

ドアーズは「外装塗装の窓口」というサイト運営を通じて、顧客と施工業者のマッチングを行っている。加盟店数は3500社以上、流通取引総額は35億円以上と外装リフォームマッチングサービスでは業界最大級の実績を持つという。

富士通<6702>、富士通フロンテック<6945>をTOBで完全子会社化へ

富士通は、連結子会社の富士通フロンテックに対してTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。富士通は現在、富士通フロンテックの株式52.99%を所有しているが、全株式を取得して完全子会社化を目指す。富士通フロンテックはTOBに賛同を表明しており、TOB成立後に上場廃止となる見通し。

富士通は企業統治の観点から、上場子会社との資本関係の見直しを進めている。富士通フロンテックは売り上げの4割を富士通が占めるなど事業上のつながりが大きいため、経営を一体化してグループの経営資源の相互活用や意思決定の迅速化を図る。

買付価格は1株当たり1540円。公表前営業日の対象株式の終値1620円に対して4.94%ディスカウントした水準。買付予定数は1133万2597株で、下限は329万6650株。応募株数が下限に満たない場合は買い付けを行わない。買付総額は最大174億5200万円。

買付期間は2020年7月31日から9月14日まで。決済の開始日は9月23日。公開買付代理人はみずほ証券。

アマナ<2402>、写真プリントのイエローコーナージャパンを子会社化

アマナは、写真プリントや写真関連商品の販売を手がける持ち分法適用関連会社のイエローコーナージャパン(東京都品川区)の株式を追加取得して子会社化することを決めた。現在40%の持ち株比率を80%に高める。イエローコーナージャパンは2015年にフランスYellowKornerの日本でのフランチャイザー(本部)として設立。今回、子会社化によって経営権を握ることで、国内でのサブフランチャイズ展開やEC(電子商取引)販売などが可能になる。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年10月1日。

YellowKornerはアートフォトの販売や出版、イベント事業の展開で知られる。日本では現在、東京ミッドタウン日比谷店、ニュウマン横浜店の2店舗がある。

日医工<4541>、武田テバファーマからジェネリック医薬品事業を取得

日医工は、武田テバファーマ(名古屋市)が営むジェネリック医薬品と高山工場(岐阜県高山市)に関する事業を買収することを決めた。武田テバファーマが対象事業を移管するために設立する新会社の全株式を取得する形をとる。対象事業の直近売上高は319億円。取得価額は非公表。取得予定日は2021年2月1日。

武田テバファーマは1982年設立で、イスラエルの医薬品企業のテバ・ファーマスーティカル・インダストリーズが51%、武田薬品工業が49%を出資する。

高山工場は一般固形製剤を年間40億錠規模で生産する能力を持つ。日医工は同工場を傘下に収めることで、これまで外部委託していた製品の内製化などグループ内の生産体制の最適化を促す。高山工場の従業員は744人(6月末)。

LINE<3938>、飲食店レビュープラットフォーム展開のシンガポールWongnai Mediaを吸収合併

LINEは、タイ国内の飲食店レビュー(感想)プラットフォームを展開するシンガポールWongnai Mediaを吸収合併することを決めた。フードデリバリーサービス事業を強化する狙い。LINEはタイでフードデリバリーのオンライン型アシスタントアプリを提供している。合併期日は2020年8月上旬。存続会社はLINEのシンガポール現地法人LINE Man Corporation。

石垣食品<2901>、外食運営子会社のエムアンドオペレーションを経営陣に譲渡

石垣食品は、外食運営子会社のエムアンドオペレーション(東京都大田区。売上高3億600万円、営業利益△831万円、純資産△2170万円)の全保有株(所有割合51%)を、エムアンドオペレーション社長の桜井寛氏に譲渡することを決めた。譲渡後、桜井氏の所有割合は100%となる。これに伴い、外食事業から撤退する。

譲渡価額は637万5000円。譲渡予定日は2020年7月31日。

石垣食品は事業多角化の一環として自社保有のステーキ店「nomuno2924」(東京・赤坂)を展開。しかし、新型コロナ感染拡大の影響で3月から休業し、今後再開しても業績への貢献は長期的に困難と判断した。同店の閉店に合わせ、運営子会社を切り離す。

ホットランド<3196>、飲食店舗設計・デザインのファンインターナショナルを子会社化

ホットランドは、飲食店舗の設計・デザインや業態プロデュースを手がけるファンインターナショナル(大阪市。売上高15億7000万円、営業利益7600万円、純資産2億5200万円)の株式66.6%を取得し子会社化することを決めた。店舗設計や内装工事をグループ内で内製化し、たこ焼き「築地銀だこ」などの出店に関する意思決定の迅速化や出店コスト低減につなげる。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月7日。

壱番屋<7630>、エージーピー<9377>から千葉県での植物工場事業を取得

壱番屋は、エージーピーから工場野菜生産・販売事業を取得することを決めた。対象事業の「植物工場」は千葉県横芝光町にあり、1日あたりの生産能力は4000株。壱番屋が運営する「カレーハウスCoCo壱番屋」を中心する外食店舗に対する生鮮野菜の安定調達に寄与すると判断した。

取得する事業の直近業績は売上高1億5300万円、営業赤字1億800万円。取得価額は非公表。取得予定日は2020年9月30日。

エージーピーは2014年に植物工場を稼働させたものの、近年、植物工場の大規模化・自動化が進む中、現行の事業形態・規模では業績改善が困難として撤退する。壱番屋は「カレーハウスCoCo壱番屋」を中心に国内1296店舗(6月末)展開する外食大手。

東京ガス<9531>、シェールガス開発の米合弁企業「キャッスルトン・リソーシズ」を子会社化

東京ガスは、米国テキサス州でガス開発・生産を手がける現地合弁企業キャッスルトン・リソーシズ(CR、ヒューストン)を子会社化することを決めた。CRが米ルイジアナ州でガス田の権益を取得するのに伴い、増資を引き受け、現在46%の持ち株比率を70%超に引き上げる。東京ガスが米シェールガス事業の開発・生産会社を傘下に収めるのは初めて。

東京ガスは米国子会社を通じてCRを子会社化する。取得株数、取得価額は非公表。子会社化の完了は2020年8月14日を予定。2021年3月中に「TG Natural Resources」に社名変更する。

今回のガス田の権益取得により、CRが保有するガス・天然ガス液の生産量は約2億9600万立方フィート(日量)から約1.6倍の約4億7300万立方フィート(同)に増える。

東京ガスは引き続き北米での事業基盤の拡大に向けて投資を継続するとしている。

東京ガス<9531>、米社から大規模太陽光発電事業を取得

東京ガスは、米国の再生可能エネルギー開発事業者のヘカテエナジー(イリノイ州シカゴ)がテキサス州で進めている大規模太陽光発電事業(最大出力63万キロワット)を取得することを決めた。同事業は2020年度上期に工事着手し、2021年度中の段階的な商業運転開始を目指している。東京ガスとして初の海外太陽光発電事業となる。

取得するのは「アクティナ太陽光発電事業」。高電圧系統の送電線への接続権を保有し、発電した電力は米テキサス州のエルコット(ERCOT)電力卸市場への販売を予定している。

取得予定日は2020年8月6日(現地時間8月5日)。取得価額は非公表。

事業取得に合わせ、米国に7月30日付で事業運営子会社「TG Aktina Holdings LLC」(デラウエア州、出資額約490億円)を新設する。

バルニバービ<3418>、料理旅館「菊水」を譲渡

バルニバービは、料理旅館「南禅寺参道 菊水」を運営する菊水(京都市。売上高2億7500万円、営業利益△4990万円、純資産△1億9900万円)の全株式を譲渡することを決めた。事業の選択と集中の一環。菊水は2018年7月期から債務超過に陥っている。譲渡先、譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年8月31日。

アプリックス<3727>、アドベントからWiMAX・モバイルネットワーク事業を取得

アプリックスは子会社を通じて、コンピューター・周辺機器の販売を手がけるアドベント(東京都港区)からWiMAXとモバイルネットワークに関する事業を会社分割により取得することを決めた。取得価額は1円。取得予定日は2020年9月1日。

アドベントはパソコンやタブレット端末のMVNO(仮想移動体通信事業者)事業を目的に2015年に設立。WiMAXとモバイルネットワークに関する事業を「advent WiMAX」ブランドで展開してきたが、事業の選択と集中の一環して撤退方針を打ち出していた。

取得する対象事業の直近業績は売上高2450万円、営業利益40万円。

コニシ<4956>、土木工事の山昇建設を子会社化

コニシは、土木工事業の山昇建設(名古屋市。売上高12億1000万円、営業利益1400万円、純資産3億8500万円)の株式91%を取得し、29日付で子会社化した。成長戦略の柱として土木建設事業の強化を位置づけており、その一環。取得価額は非公表。

山昇建設は1976年に設立し、東海地区を地盤とする。コニシが持つ補修、改修、耐震、補強工事に関する材料・工法・施工能力や営業ネットワークを活用することで、シナジー(相乗効果)が引き出せると判断した。

ユアテック<1934>、冷暖房・空調設備工事の空調企業を子会社化

ユアテックは、冷暖房・空調設備工事の空調企業(仙台市。売上高10億4000万円、営業利益8000万円、純資産1億2600万円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。施工体制の強化のほか、営業面での相乗効果を期待している。空調企業は1975年に設立。取得価額は非公表。取得予定日は2020年9月1日。

シチズン時計、中核子会社で550人の希望退職者を募集

シチズン時計は28日、連結子会社のシチズン時計マニュファクチャリング(埼玉県所沢市)で550人の希望退職者を募集すると発表した。募集人員は約3000人の従業員の2割近くに相当する。アナログクオーツウオッチ市場の縮小に伴う業績悪化に対応し、生産規模に見合った人員体制とする。募集期間は10月14日~11月18日。退職日は12月31日付。通常の退職金に加え、転進支援金を上乗せ支給する。

シチズン時計マニュファクチャリングは時計事業の中核子会社で、2013年に国内時計生産の再編策としてグループ内の5子会社と関連部門を統合して発足した。しかし、時計と同じ要領で手首に装着するウエラブル端末(スマートウオッチ)市場の拡大などを受け、普及価格帯のアナログクオーツウオッチ市場が縮小し、外販用のムーブメント(動作機構)需要も減少が続いている。

これまで生産合理化やコスト削減などの損益改善策を講じてきたが、中長期的にも需要回復が見込めないことなどから、思い切った人員削減に踏み切る。

ユニバーサル園芸社<6061>、植木や花卉、種苗生産の小林ナーセリーの事業を取得

ユニバーサル園芸社は、植木や花卉、種苗を生産する小林ナーセリー(東京都港区)の事業を取得することを決めた。園芸関連商品の業容拡大につなげる狙い。ユニバーサルはオフィス向け観葉植物のレンタル事業を主力とするが、今回傘下に収める植木や花卉、種苗生産への進出をかねて課題としていた。

ユニバーサルは受け皿会社として全額出資で同名の新会社・小林ナーセリー(埼玉県川口市)を7月28日付で設立した。旧小林ナーセリーから取得する当該事業の直近売上高は2億4300万円。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年7月31日。

愛知製鋼<5482>、磁石加工の中国合弁「浙江愛智機電」を子会社化

愛知製鋼は、磁石加工を手がける中国合弁企業の浙江愛智機電有限公司(浙江省)を子会社化することを決めた。約1億円で増資を引き受け、出資比率を現在の48.6%から56.6%に引き上げる。自動車、電動工具などに使われる各種モーター向けに磁石需要が拡大しているのに対応し、経営の主導権を握り、中国での事業を強化する。

浙江愛智機電は2016年設立で、愛知製鋼は2018年に出資し、合弁で運営している。愛知製鋼は浙江愛智機電の子会社化を受け、磁石販売子会社の愛知磁石科技有限公司(浙江省)との連携を一層進め、今後拡大が見込まれるEV(電気自動車)モーター市場参入も視野に入れた生産体制強化と市場開拓に取り組む。

ダイキアクシス<4245>、土木子会社のDADをミツワ都市開発に譲渡

ダイキアクシスは土木工事を手がける全額出資子会社のDAD(松山市。売上高13億1000万円、営業利益1億2900万円、純資産2億5400万円)の全株式を、不動産・建設業のミツワ都市開発(松山市)に譲渡することを決めた。中長期的戦略として海外展開に力を注ぐ中で、経営資源の集中を図るのが狙い。譲渡価額は6億8000万円。譲渡予定日は2020年7月31日。

ダイキアクシスは2017年にDADを傘下に収めていた。

キャリアインデックス<6538>、Type Bee Groupから「キャッシュバック賃貸」事業を取得

キャリアインデックスは、インターネットメディア事業のType Bee Group(旧賃貸情報、東京都世田谷区)から「キャッシュバック賃貸」事業を取得することを決めた。不動産賃貸領域での事業基盤を強化するのが狙い。昨年12月にリブセンスから不動産賃貸情報サイト「DOOR賃貸」を買収したのに次ぐ第二弾。取得金額は6億円。取得予定日は2020年10月1日。

「キャッシュバック賃貸」は利用者に対して入居が決まった場合に引っ越し祝い金を贈呈するサイト。今年7月には月間300万ページビューを達成した。当該事業の直近業績は売上高1億9600万円、経常利益1億2800万円。

キャリアインデックスは人材領域の情報サイト(転職情報、アルバイト・派遣情報)を主力とし、求人に関連するユーザー情報をパートナー各社に移送することで、移送数に応じた集客代行料金を得る成果報酬型の事業を手がける。新規進出した不動産賃貸領域でも同様の事業モデルを展開している。

今回の「キャッシュバック賃貸」に先立ち、昨年12月には「DOOR賃貸」事業を約17億円で取得した。これまで培ってきた集客ノウハウを生かし、不動産賃貸領域でのシェア拡大につなげる。

澤田ホールディングス<8699>、コンテンツ配信子会社のiXIT をエキサイトに譲渡

澤田ホールディングス(HD)は、コンテンツ配信やシステム開発を手がける子会社のiXIT (東京都世田谷区。売上高11億7000万円、営業利益△3280万円、純資産3億1200万円)の株式96.77%を、インターネット情報サービスのエキサイト(東京都港区)に譲渡することを決めた。澤田HDは自己投資による企業再生事業として2015年にiXITを傘下に収めたが、黒字化を実現できていなかった。譲渡価額は1億5000万円。譲渡予定日は2020年8月1日。

譲渡先であるエキサイトはインターネット関連のXTech(クロステック、東京都中央区)の傘下企業。XTechが2018年に実施したTOB(株式公開買い付け)で子会社化した。

 

 

 

 

 

情報提供:株式会社ストライク

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

コロナ禍における飲食店の売上高や今後の考察。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:新型コロナ対策融資と特例リスケ ~事業再生の専門家の観点から~

▷関連記事:新型コロナウイルス対策として導入された制度のまとめと感じたこと

▷関連記事:外食産業に関する実態調査(2021年1月公開分)

 

 

 

新型コロナウイルス感染症に伴う緊急事態宣言による影響で様々な業界・業種で影響がでています。

中でもコロナの影響が甚大であった業界の1つが飲食店となります。飲食店をファーストフード、ファミリーレストラン、パブレストラン/居酒屋、ディナーレストラン、喫茶店に分類した場合の売上高の前年同月比は以下の推移となります。

 

 

出典:日本フードサービス協会

 

 

 

飲食店全体として、2020年3月より売上高の減少が始まり、4月の売上高は前年同月比の約60%となっています。最も低くなったのはパブレストラン/居酒屋で、前年同月比は約10%にまで落ち込みました。5月、6月ではやや回復はしているものの、4月と同様に前年同月比では大幅なマイナスとなっています。

 

上図を見ると、お酒の提供が比較的多くなるパブレストラン/居酒屋や、ディナーレストランの落ち込みが顕著であることに対して、お酒の提供が少なくコロナ以前よりテイクアウトが定着していたファーストフードでは落ち込みは限定的となりました。

 

ファーストフード以外でも、今後テイクアウトの拡充や、客数の回復等によりある程度の売上高回復は見込めるでしょう。テイクアウト需要の拡大により、従前よりむしろ売上高が拡大する飲食店も少なからずあるかもしれません。

 

今後、コロナ騒動がある程度収束に向かっても、アルコール消毒や店内の換気、アクリル板や席数の減少等によるソーシャルディスタンス対応はしばらく継続するものと思われます。

 

その中でも、席数の減少のインパクトが非常に大きいと考えています。アクリル板等での対応は初期的に投資をすれば追加で費用は発生せず、アルコール消毒の経費の影響は軽微であり、また国の制度等の活用も可能です。ところが、密集した店内であった場合等、ソーシャルディスタンスを保つための席数の減少は、潜在的な客数が戻ったとしても、売上客数の減少は免れません。

 

従前の客配置等にもよりますが、客席が従前の70%となった場合は、単純計算すると売上も70%としか見込めないことになります。一方で、人件費も70%とできれば良いですが現実的には難しく、家賃は従前と同じとなります。これに対して、テイクアウトにより売上減少分を補填する考え方もありますが、お酒を提供する飲食店にとっての利益の柱は飲み物代であるため、テイクアウトである程度売上高を獲得できたとしても、利益面ではやはり減少となります。

 

これに対して、席数を減らした分(客数が減少する分)客単価を増加させるため、値上げを行うという方法もあります。客数が減り空間が広くなるため、その空間に価値を感じられる人は値上げをしても問題ないかもしれませんが、一般的に消費者は値上げには敏感であるため値上げを行うのは最後の手段かもしれません。

 

コロナ禍において、時間の経過とともに外食需要はある程度回復するものの、席数の減少を余儀なくされる飲食店の利益は、コロナ前と同程度にまで回復することは厳しいと言わざるを得ません。新しい形でのサービスの提供等、試行錯誤することが今後の生き残りには必要であり、厳しい局面に立っていることは確かであり、飲食店の今後のビジネスを今一度見直す必要があると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A 誌上セミナー]  

第1回:なぜ「会社を買う」のか

~買う側の理由、売る側の理由~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

 

皆さんにとって「会社を買う」ことは身近でしょうか。野菜や果物の購入と異なり、多くの方にとって身近ではない分野ですよね。M&Aという言葉だけが先行し、その中身について詳しく知っている方は決して多くはありません。そこで今回は「会社を買う」ことの第一歩として、「なぜ会社を買うのか」をざっくりと簡潔に見ていきましょう。

 

 

▷第2回:どのようにM&Aを行うのか~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

▷第3回:M&A手法の選び方~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

▷第4回:M&Aの流れ①(計画段階)~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

 

 

 なぜ「会社を買う」のか


実は、会社や事業の売買は盛んに行われており、多くの人が様々な思惑で会社を購入・売却します。代表的な理由を見てみましょう。

 

 

<買う側の理由>

海外進出を狙って、海外で知見を有する会社に投資する

●規模の拡大・効率化を目指して、同業他社を買収する

●新しい分野に進出するため、ノウハウを持つ別会社を買収する

●環境の変化に対応するため、新しい会社に投資する

 

 

<売る側の理由>

●不採算事業から撤退する

●事業のスリム化を行うことで、本業に集中する

●後継者不在のため、従業員の生活を保障するべく売却する

 

 

まず会社を買う側ですが、海外進出・規模拡大・新分野進出・環境変化対応と、どの理由にせよ長い時間をかければ自社で達成することができる(かもしれない)理由ですね。まず会社が目指す理想があって、その理想を求める1つの手段として「会社を買う」ことがあるのです。

 

会社が通常の営業活動の中で原材料や労働力を市場から調達するのと同様に、組織を市場から調達するイメージです。そう考えると、理想を達成するための手段は多いに越したことはないですし、経営の選択肢の1つとして「会社を買う」ことが出てくるのです。

 

 

そして、会社を売る側にも相応の理由があります。不採算事業であったり、採算事業であっても本業に集中するために切り離したり、後継者問題を抱えていたりです。よく「選択と集中」といわれますが、会社全体としてこのビジネスを持っている意義が薄いと判断する場合、「売却する」という判断になるのです。

 

 

会社の買収というとハゲタカのような敵対的買収を思い浮かべる方も多いですが、ほとんどの場合は友好的に買収が進みます。

 

ある企業にとっては「売りたい」でも、別の企業にとっては「買う価値のある」事業であることは往々にしてあります。野菜を買うときに八百屋さんの「売りたい」と私たちの「買いたい」がマッチするように、会社の買収においても「売りたい」と「買いたい」はマッチするのです。

 

 

 

 

[Point]

「会社を買う」ことは、会社が目指す理想を達成するための1つの手段でしかない!

 

 

 

 

≪Column:M&Aとは??≫


ここまで「会社を買う」という表現を使ってきましたが、専門的には企業や事業の「M&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)」と言います。Mergersは複数企業が1つになる合併、Acquisitionsは他の企業の買収を表しています。

 

M&Aの対象は「組織」ですので、企業だけでなく1つの「事業」も対象になります。例えばある会社が食品事業とペットフード事業を展開しており、ペットフード事業だけを売ることもあり得ます。ざっくりお伝えすると、M&Aは「ビジネスを行う組織を売買すること」と押さえておきましょう。

 


 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第3回:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~工事管理は?経営審査事項とは?会計処理は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、建設業のM&Aを検討していますが、建設業M&Aの特徴や留意点はありますか?


建設業は、元請となる大手の建設企業から、下請となる中小零細の工事企業まで様々な企業が含まれます。一つの工事に多数の企業が関与することは建設業の特徴の一つとなります。そして、多数の企業が関与するため、スケジュールの管理や予算の管理が難しいと言えます。

 

また、工事が長期にわたることも特徴の一つです。数か月で終了する工事もありますが、数年かかる工事もあります。一般的な商品・製品であれば、商品・製品の引渡しと対価であるお金(又は売上債権)の受取は同時に行われます。一方で、建設業の場合は工事が長期間にわたること、受注額が多額である性質から、数回に分けてお金が支払われることが一般的です。支払い金額やタイミングは個別の契約ごとに異なりますが、契約、中間、引渡の3回程度とされることが多いようです。下図のように、3回入金がある場合では、工事関連の運転資金は入金のタイミングが合えばほとんど必要にならず、クライアントからの売上金で工事費用を賄えます。

 

 

 

 

次に、公共工事が多いことも他業種と比べた際の特徴となります。公共工事をメインのビジネスとしている企業であれば、年度末が最も忙しく、売上高も多く計上されることとなります。公共工事を元請企業として受注するためには、経営審査事項(通称経審)と呼ばれるもので一定の点数を獲得する必要があります。経営審査事項の点数は財務諸表の数値等(例えば赤字だと点数が低い)で決定されるため、公共工事を受注するためには、赤字にしたくないというインセンティブが働きます。

 

建設業以外では、決算の数値を操作する目的は銀行から融資を獲得することが多いですが、建設業では、銀行からの融資に加えて、経営審査事項の点数獲得を目的として決算数値を操作することがあります。特に公共工事を元請として行っている企業をM&Aにて買収検討している場合は、決算数値の確からしさをには留意が必要となります。

 

 

さらに、建設業は会計処理が特有であり、建設業会計と呼ばれる会計処理を用いることも特徴の一つです。工事にかかる会計基準は、工事完成基準と工事進行基準があり、どちらかを用います。会計処理の詳細は割愛しますが、それぞれの特徴を簡単に説明します。

 

工事の時系列は下図のように20/3期に工事を開始して、21/3期に完成・引渡が行われる例を想定します。受注額は100,000千円、見積原価は85,000千円とします。

 

 

 

 

工事完成基準は、工事完成・引渡のタイミングで売上高と売上原価(材料費、人件費、外注費等)を計上します。つまり、工事が完成するまで損益としては認識されず、完成・引渡により初めて損益計上されます。例えば20/3期に工事を開始して、20/3期の期末に未完成の場合は、20/3期では売上高や売上原価は計上されません。そして、21/3期に工事が完成した場合は、21/3期に20/3期に稼働した分も含めて損益計上がなされます。

 

 

 

 

 

 

工事進行基準は、材料仕入や人件費、外注費の発生のタイミングで当初の見積原価率を用いて売上高を概算計上します。

 

下図では、19/12月より工事を開始しており、工事の開始月より費用が発生しております。19/12月の費用は10,000千円であり、見積原価率から売上高を計算すると10,000÷0.85=11,765千円が売上高として計上されます。毎月同様に計算され、20/3期で売上高76,471千円、売上原価65,000千円(粗利率15%)が計上されます。同様に、21/3期で売上高23,529千円、売上原価20,000千円(粗利率15%)が計上されます。工事完成基準とは異なり、工事の進行に応じて売上と売上原価が計上されるのが特徴となります。

 

 

 

 

工事完成基準と工事進行時基準の損益計上の概要を説明しましたが(貸借対照表項目については割愛しております。)、工事完成基準は稼働とは関係なく完成・引渡時に損益計上されとてもシンプルです。一方、工事進行基準は稼働と連動して損益が計上されるため適切に会計処理が行われれば実態に合った損益計上がなされます。しかし、工事進行基準は上記で説明したように、「見積」による利益率が会計数値に影響を与えます。この「見積」により、利益の操作が可能となる点は留意が必要です。工事進行基準を採用している場合には、工事完成基準に比べて、会計操作を容易に行える状況にありますので、特に留意が必要です。

 

建設業は工事の管理の難しさ、経営審査事項という決算数値を含めた点数が求められること、会計処理の複雑さ等により、会計操作が行われる可能性が他の業種と比べて高いものと思います。M&Aを検討する場合には、これらの点を留意して、決算数値の確からしさを公認会計士等の専門家を用いて調査することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

新型コロナ特例リスケジュールの実務について

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:新型コロナ対策融資と特例リスケ ~事業再生の専門家の観点から~

▷関連記事:新型コロナウイルス対策として導入された制度のまとめと感じたこと

▷関連記事:家賃支援給付金の詳細情報が公表(2020年7月7日)。制度内容は、給付額は、申請方法は。

 

制度概要


新たに新型コロナウイルス感染症の影響を受けた中小企業者に対して、中小企業再生支援協議会が窓口相談や金融機関との調整を含めた、新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール計画策定支援を行います。

 

 

●一括して既存債務の元金返済猶予要請

中小企業再生支援協議会が中小企業者に代わり、主要債権者の支援姿勢を確認の上で、一括して1年間の元金返済猶予の要請を実施します。

 

 

●資金繰り計画策定における金融機関調整

中小企業再生支援協議会が中小企業者と主要債権者が作成する資金繰り計画の策定を支援します。複数の既往債権者が存在する場合、新規融資を含めた金融機関調整を行った上で、既往債権者の合意形成をサポートします。

 

 

●資金繰りの継続サポート

中小企業再生支援協議会が、特例リスケジュール計画成立後も毎月資金繰りを継続的にチェックし、適宜助言します。

 

 

実務


中小企業者は、まず各都道府県の中小企業再生支援協議会に相談に行き、中小企業再生支援協議会の担当者に対して事業の説明や現状の説明を行います。財務諸表や資金繰り表も併せて提出した上で、中小企業再生支援協議会からの支援決定の連絡を待ちます。

 

支援決定となった場合、特例リスケの予定期間(この先1年2か月程度)の損益計画と資金繰り予定表を作成し、これを中小企業再生支援協議会の担当者に提出します。しかし、損益計画や資金繰り予定表は簡単に作れるものではないため、場合によっては専門家を紹介され、専門家の支援の下で作成します。

 

損益計画と資金繰り予定表を中小企業再生支援協議会の担当者にチェックをしてもらい、大丈夫であれば、中小企業者の債権者(銀行等)に対して、中小企業再生支援協議会から、特例リスケジュールの要請がなされます。各債権者から同意を得ることで特例リスケジュールの成立となります。

 

特例リスケジュールの成立後は、資金繰り表を毎月更新し、中小企業再生支援協議会の確認の上、各債権者に提出します。特例リスケジュールの期限となる1年後に、基本的には再度中小企業再生支援協議会により事業再生の支援に入ることとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A案件情報(譲渡案件)](2020年7月28日)

-以下のM&A案件(2件)を掲載しております-

 

●不動産売買仲介をメインに施工部隊も擁する関西圏の総合不動産業者

[業種:不動産仲介業/所在地:関西地方]

【好立地】源泉かけ流しの温泉が売りの温泉旅館

[業種:宿泊業/所在地:関東地方]

 

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案件No.SS006289
不動産売買仲介をメインに施工部隊も擁する関西圏の総合不動産業者

 

(業種分類)住宅・不動産

(業種)不動産仲介業

(所在地)関西地方

(直近売上高)10~50億

(従業員数)50~100名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)不動産売買仲介を軸に、注文、買取再販(中古物件)、建売、リフォーム、賃貸仲介、管理をワンストップで展開。 関西圏で多店舗を展開。

 

 

〔特徴・強み〕

◇多数の実績や社員教育、好立地を活かし顧客に選ばれる営業スタイルを確立。
◇成約件数・売上高は関西圏の同業他社の中でも常に上位に位置する。

 

-案件に関するお問合せ・ご相談は、このページ文末の「お問合せ・ご相談」ボタンより-


案件No.SS006215
【好立地】源泉かけ流しの温泉が売りの温泉旅館

 

(業種分類)ホテル・旅館業

(業種)宿泊業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)温泉旅館の運営

 

〔特徴・強み〕

◇豊富な湧出量を誇る温泉をふんだんに使用した温泉施設が売りの旅館
◇首都圏から好アクセス
◇所有直営方式
◇当地での知名度は高く、リピーターも多い

 

-案件に関するお問合せ・ご相談は、このページ文末の「お問合せ・ご相談」ボタンより-

 


情報提供会社:株式会社ストライク

 

 

 

 

【免責事項】

・掲載情報は、内容及び正確さに細心の注意をはらい、万全を期しておりますが、人為的なミスや機械的なミス、調査過程におけるミスなどで誤りがある可能性があります。税務研究会及び情報提供会社は、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切の責任を負うものではありません。

・掲載情報は公開日時点の情報になります。既に案件が特定の対象会社と交渉に入っている場合や成約している場合もございます。

 

 

 

 

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[事業承継・M&A専門家によるコラム]

新型コロナウイルス対策の制度

~特別定額給付金、持続化給付金、家賃支援給付金、緊急雇用安定助成金、雇用調整助成金、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金、都道府県による協力金、各市区町村による支援給付金、小規模持続化補助金コロナ特別対応型、任意団体による支援事業・サポート事業~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


[関連解説]

■家賃支援給付金の詳細情報が公表(2020年7月7日)。制度内容は、給付額は、申請方法は。

■新型コロナ対策融資と特例リスケ ~事業再生の専門家の観点から~

 

 

 

今回は、コロナ対策として導入された制度のまとめと申請書類を作成して感じたところを書こうと思います。

 

持続化給付金や家賃支援給付金は申請が行われやすいように、要件に該当すれば、用意する書類は簡便です。ですが、普段見慣れていないや聞きなれていない単語による難しさはあるかと思います。申請フォーマットは段々とアップロードされて、当初よりはやりやすくなったかな?と感じます。それでも、特例要件や書類の不備による部分で給付がなかなかされないところかと思います。

 

家賃支援給付金は賃貸借契約書の印が面倒だったりするところかと思います。サンプルとされているひな形通りに契約書が作成されている訳ではありませんので、分からない場合には給付金事務局などにご相談するのも一つかと思います。

 

次に、雇用調整助成金は元々の申請書類に比べるとかなり簡便化されています。しかし、これも普段やられていない方にとっては大変な作業かと思います。簡便化されているとはいえ、不備があると差し戻されるので、意外と手間なところは変わらないのでは?と感じます。また、直接持参する場合には、待ち時間も長いようで・・・3密になっているのでは?と思うところです。

 

東京都の事業継続緊急対策(テレワーク)助成金も申請書類の準備が整えば、比較的申請しやすいものでしたが、件数が多いので交付決定まで結構待たされるようです。当事務所では申請から交付まで約3ヶ月かかりました。

 

小規模持続化補助金新型コロナ特別対応型は申請用紙数が減っているため、要件に合う内容を要約して作成することが必要ですので、申請書の作成には工夫が必要なところです。

 

最後に、新型コロナウイルスによって、多くの給付金、助成金、補助金、協力金、支援金などが創設されました。国や都道府県などの公共団体以外にも任意団体、企業なども独自に支援金を創設していたりします。経済を壊さないための施策を出している部分かと思います。とはいっても、企業努力に任せているところの方が大きいのではと個人的に思います。

 

まだまだ新型コロナウイルスの影響は続くかと思います。既存の事業の在り方では、乗り切れるのか?と疑うところもあるかと思います。この疑いを新たな在り方に転換して、新たなビジネスモデルの仕組みに変えて行くことが求められてきているのではないでしょうか?

 

そのための支援金など活用できるものは十分にあるかと思います。様々なものを活用し、企業を永続させていくこと!!経営者に求められているのでは?と思うところです。

 

 

 

新型コロナウイルス対策の制度


(1)特別定額給付金
1名あたり10万円の給付。
期限が郵送方式の申請受付開始日から3ヶ月以内のため、7月中に申請終了となるのではないでしょうか?

 

(2)持続化給付金
個人事業主は最大100万円、法人は最大200万円。
2020年1~12月の各月で売上高が前年同月比50%減少している場合。
さらに、要件が緩和され、2020年3月までに開業・設立で4月中の届出日であれば、給付金の対象となっています。

 

(3)家賃支援給付金
7月14日から申請開始。
個人事業主は最大300万円、法人は最大600万円。
2020年5~12月の各月で売上高が前年同月比50%減少している場合。
持続化給付金と同様に緩和要件があるようです。

 

(4)雇用調整助成金
雇用保険の被保険者の従業員を対象。
特例措置期間が2020年4月1日から9月30日まで延長されました。
助成額は1人1日15,000円を上限として、休業手当等の10/10を助成。
申請期限は、6月末日支給分まで8月31日が期限です。
7月以降は2ヶ月以内とされています。

 

(5)緊急雇用安定助成金
雇用保険の被保険者以外の従業員を対象としています。
要件は(4)雇用調整助成金と同様。

 

(6)新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金
7月10日より申請が開始。
新型コロナウイルスの影響で休業したものの、休業手当金を事業主から受け取れなかった従業員の方が対象。
平均賃金の80%で上限が1日あたり11,000円となっています。

 

(7)都道府県による協力金、各市区町村による支援給付金
それぞれの地方公共団体により任意で用意されています。
申請期限が過ぎていないものや終わってしまっているものもあります。

 

(8)小規模持続化補助金コロナ特別対応型
通常の小規模持続化補助金とは別に新たに設けられています。
要件が異なるため、確認は必要です。

 

(9)任意団体による支援事業・サポート事業
新型コロナウイルスの影響を受けて、影響を受けた業界や所属している方に向けて、独自に行われています。
例えば、公益財団法人日本スポーツ協会は『スポーツ活動継続サポート事業』を行っています。

 


 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2020/07/27号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

等価交換事業が行われた場合に適用を受けることが出来る譲渡所得の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(薦田 彩子/税理士)

 

 

[関連解説]

■店舗兼住宅を譲渡した場合の居住用財産の3,000万円控除と事業用資産の買換え特例の併用

■居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否適用を受けることの可否

 

【問】

京都千代田区に土地を保有するAと、不動産業者Xとで共同マンションを建築する、いわゆる等価交換事業を行うことになりました。マンション建築後、Aは土地譲渡の対価として土地と同価値の2室を取得し、下図の用途に供する予定です。

 

土地は30年前の取得時より価値が上昇しており、譲渡所得の金額として所得税等の課税対象となることから、下記いずれかの特例の適用を検討しています。それぞれの特例の適用を受けた場合のメリット・デメリットを教えて下さい。

 

①立体買換えの特例(措法37条の5第1項2号)
②居住用財産の譲渡にかかる3000万円の特別控除および軽減税率の特例(措法35条、31条の3)

 

なお、建物は耐用年数が経過しており価値はなく、不動産業者XはAと特別な関係はありません。

 

 

 

【回答】

1.各特例の概要


(1)立体買換えの特例(既成市街地等内における中高層耐火共同住宅建設のための買換え特例)

 

等価交換事業のための特例として、「立体買換えの特例」という制度が設けられています。一定要件を満たせばその不動産の譲渡益の全部又は一部に係る所得税等の課税を繰延べることができます。

 

Aは買換え資産を自己の居住用、および自己の貸付用に供していることから、他の一定要件を満たせば本特例の適用を受けることが出来ます。主な要件の概要は以下の通りです(措法37条の5第1項2号、措令25条の4、措通37の5-1~5-10)。

 

 

(2)居住用財産の譲渡にかかる3000万円の特別控除・軽減税率の特例

自己が居住していた家屋やその敷地を親族関係等特別の関係がない相手に売却した場合、一定要件を満たせば譲渡所得の金額から最大3,000万円の控除を受けることができます(措法35条第1項、2項)。また、保有期間が譲渡年の1月1日において10年超であることなどの一定要件を満たす場合には、軽減税率の特例の適用を重ねて受けることができます(措法31条の3)。なお、(1)の立体買換えの特例とは併用ができず、選択適用となります(措法37条の5第1項、31条の3第1項)。

 

 

2.各特例を受けた場合のメリット・デメリット


(1)立体買換えの特例

メリット:土地の譲渡益の全部にかかる所得税等の課税を繰り延べることができるため、今回の申告では納税が0になります。
デメリット:買換え資産の取得価額は、譲渡資産の取得価額を引き継ぐため、将来買換え資産を売却した際に課税を受けることになります。

 

(2)3,000万円の特別控除・軽減税率の特例

メリット:3,000万円までの譲渡益に対する課税が免除され、3,000万円を超える部分も軽減税率の特例の適用があります。取得価額は現在の時価となり将来への課税の繰り延べはありません。
デメリット:譲渡益が3,000万円を超える部分は課税を受けるため、現金が手許に残らない等価交換事業では、納税が困難であるケースも予想されます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/07/27)より転載

[M&Aニュース](2020年7月13日〜7月22日)

◇日本ケミファ、支店・営業所で30人程度の希望退職者を募集、◇大気社<1979>、クリーンルーム向けパネル製造のインドNicomacを子会社化、◇LIFULL<2120>、不動産投資・収益物件情報サイト運営の健美家を子会社化、◇ファイズホールディングス<9325>、神奈川県で運送・配送を手がける中央運輸を子会社化、◇IDホールディングス<4709>、ソフト開発のGIテクノスを子会社化、◇大戸屋HD、コロワイドのTOBに「反対」表明、◇ソフトバンク<9434>、アニメ専門コンテンツ配信サービス「アニメ放題」をU-NEXTに譲渡 ほか

 

 

日本ケミファ、支店・営業所で30人程度の希望退職者を募集

日本ケミファは22日、30人程度の希望退職者を募ると発表した。支店・営業所に勤務する医薬営業部門社員を対象とし、募集期間は8月7日~8月28日。退職日は9月30日付。同日発表したグループ構造改革では国内営業組織について現在の8支店22営業所から7支店18営業所への統廃合などを打ち出しており、これに伴う人員体制の適正化の一環。割増退職金を支給し、再就職支援サービスを提供する。

日本ケミファが主力とする後発医薬品をめぐっては競争激化に加え、薬価制度の抜本改革などで事業環境が厳しさを増している。2020年3月期の業績は売上高7.1%減の317億円、営業利益75.1%減の3億6400万円、最終利益50.5%減の4億3600万円。

大気社<1979>、クリーンルーム向けパネル製造のインドNicomacを子会社化

大気社は、クリーンルーム向けパネルの製造・販売を手がけるインドNicomac Clean Rooms Far East LLP(売上高24億5000万円)に出資して74%の持ち分を取得し、子会社化することを決めた。経済成長が見込まれるインド市場で医薬品製造用などで高機能の空調設備が必要とされるのに伴い、現地での対応力を強化する。出資金額は45億6400万円。出資予定日は2020年7月31日。

Nicomacは大気社からの出資後、会社形態を現在のLLP(有限責任事業組合)から株式会社に変更する。大気社の持ち株比率は74%を維持する。

LIFULL<2120>、不動産投資・収益物件情報サイト運営の健美家を子会社化

LIFULLは、不動産投資・収益物件に関する情報サイト「健美家」を運営する健美家(東京都港区)の全株式を取得し子会社化することを決めた。LIFULLは国内最大級の不動産・住宅情報検索サイト「LIFULL HOME’S」を展開している。「健美家」を取り込むことで、不動産関連情報や顧客基盤の相互活用を通じて、両社サイトの基盤強化と収益拡大を目指す。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年7月下旬。

ファイズホールディングス<9325>、神奈川県で運送・配送を手がける中央運輸を子会社化

ファイズホールディングスは、神奈川県下で運送・配送を手がける中央運輸(神奈川県厚木市。売上高6億3900万円、営業利益400万円、純資産4000万円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。EC(電子商取引)分野での物流サービス強化の一環。中央運輸は1979年に設立。取得価額は1億1200万円。取得予定日は2020年7月30日。

IDホールディングス<4709>、ソフト開発のGIテクノスを子会社化

IDホールディングスは、ソフト開発のGIテクノス(東京都豊島区)の全株式を取得し子会社化することを決めた。市場ニーズが膨らんでいるクラウドをはじめとするシステム基盤分野のサービス力向上が狙い。GIテクノスは1973年に設立し、通信事業者向けなどの基幹システムに関するソフト開発のほか、モバイルアプリケーション開発に強みを持つ。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年8月3日。

大戸屋HD、コロワイドのTOBに「反対」表明

大戸屋ホールディングス(HD)は20日、外食大手のコロワイドが大戸屋HDの子会社化を目的に実施中のTOB(株式公開買い付け)について、社外取締役6人を含む取締役11人の全員一致で反対を決議したと発表した。これにより、敵対的TOBが確定した。コロワイドによるTOBに対し、大戸屋HDは「当社の企業価値・ブランド価値を毀損する可能性が高いと言わざるを得ない」と判断した。

コロワイドはTOBを通じて、32.16%の大戸屋HD株式を追加取得し、所有割合を51.32%に高め、子会社化することを目指している。買付価格は1株につき3081円。買付代金は最大約72億円。買付期間は7月10日~8月25日。

コロワイドは昨年10月、大戸屋HDの創業家から株式を取得して筆頭株主となった。これを受け、コロワイドは大戸屋HDに食材の仕込み・加工を工場で一括集中するセントラルキッチン方式の導入などのコスト削減策を提案したが、店内調理を売り物とする大戸屋HDは受け入れを拒否。コロワイドは6月末の大戸屋HDの株主総会で同社経営陣を刷新する株主提案をしたが、否決された。

ソフトバンク<9434>、アニメ専門コンテンツ配信サービス「アニメ放題」をU-NEXTに譲渡

ソフトバンクは、アニメ専門コンテンツ配信サービスの「アニメ放題」を、USEN‐NEXT HOLDINGS傘下で個人向け映像配信サービスを手がけるU-NEXT(東京都品川区)に譲渡することを決めた。経営効率化の一環で、アニメ作品の調達や企画、配信に関してかねて協業関係にあったU‐NEXTに事業を委ねることにした。当該事業の直近売上高は9億2000万円。譲渡価額は2億5000万円。譲渡予定日は2020年10月1日。

昭和産業<2004>、三井物産傘下で糖化品・乳酸菌製造のサンエイ糖化を子会社化

昭和産業は20日、三井物産傘下で糖化品や乳酸菌を製造・販売するサンエイ糖化(愛知県知多市。売上高146億円、営業利益8億7400万円、純資産113億円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。国内における糖化品の安定供給体制を強固にするのが狙い。サンエイ糖化はブドウ糖を中心に各種糖化品を手がけ、医療用途の厳しい品質基準をクリアするなど競争力を持つ。取得価額は150億7500万円。取得予定日は2020年10月1日。

サンエイ糖化は1987年設立で、現在、三井物産が70%を出資する。三井物産は残る30%の株式を取得し、持ち株比率を100%としたうえで、昭和産業に全株式を譲渡する。

昭和産業は糖質事業に関し、鹿島工場(茨城県神栖市)とグループの敷島スターチ(三重県鈴鹿市)の東西2製造拠点を持つ。

サッポロHD<2501>、傘下のサッポロビールで早期退職制度に51人申請

サッポロホールディングス(HD)は17日、中核子会社のサッポロビールで実施した早期退職優遇制度の第一次分として51人から申請があったと発表した。退職日は11月20日付。勤続10年以上45歳以上の社員を対象とし、目標人数を設けず、5月1日~7月10日に受け付けた。適用者には通常の退職金に加えてセカンドキャリア支援金を支給し、再就職支援サービスを提供する。

サッポロHDは早期退職優遇制度の第二次分として、10月1日~12月10日に申請を受け付ける(退職日は2021年5月20日)。目標人数は設定していない。

レック<7874>、日用品製造の中国子会社「寧波利克化工」を現地社に譲渡

レックは、日用品の中国製造・販売子会社の寧波利克化工有限公司(浙江省寧波市。売上高2億6500円、営業利益△1600万円、純資産2億7000万円)の全持ち分を、現地の化学工業メーカーの寧波新明化工有限公司(浙江省寧波市)に譲渡することを決めた。レックは2012年に寧波利克化工を設立したが、人件費上昇や生産性低下などで業績低迷が続いていた。

譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年9月30日。

新日本建物<8893>、自己破産したファーストキャビンのカプセルホテル事業を取得

新日本建物は子会社を通じて、ファーストキャビン(東京都千代田区。破産管財人・上中綾子弁護士)が保有するカプセルホテル「ファーストキャビン」に関するフランチャイズ事業と運営受託事業を取得した。新たな収益物件の開発・販売につなげる。取得価額、取得日はいずれも非公表。

ファーストキャビンは今年4月末、東京地裁に自己破産を申請。帝国データバンクによると、同社の負債は約37億円。

栗林商船<9171>、日本通運傘下で青函フェリー共同運航先の北日本海運を子会社化

栗林商船は、日本通運傘下で函館・青森間の青函フェリーを運航する北日本海運(北海道函館市。売上高23億2000万円、営業利益1640万円)の全株式を取得し、子会社化することを決めた。栗林商船子会社の共栄運輸(北海道函館市)が1973年から、北日本海運との共同運航で青函フェリー事業を手がけているが、北日本海運を傘下に取り込むことで、効率的運営による強固な事業基盤を築く。取得価額は20億3500万円。取得予定日は2020年9月1日。

北日本海運は1944年に設立し、1962年に日本通運の傘下となった。日本通運はグループ事業の選択と集中の一環として、かねて緊密な関係にあった栗林商船に譲渡する。

ストライダーズ<9816>、倉敷ロイヤルアートホテルの売却を中止

ストライダーズ<9816>は16日、子会社である倉敷ロイヤルアートホテル(岡山県倉敷市)の全保有株式(所有割合99.82%)の譲渡を中止したと発表した。7月9日を予定していた株式譲渡契約の調印が遅延したままの状態だったが、同日、譲渡予定先から譲渡契約の締結と譲渡決済(7月20日を予定)について撤回の申し入れがあったとしている。ストライダーズは7月3日に同ホテルの譲渡を発表したが、譲渡先は国内事業法人1社とするにとどめ、具体的な社名は非公表としていた。

直近の新型コロナウイルスの感染再拡大が予想以上に深刻化し、観光需要への影響が今後不透明となりつつあり、先方から取得を断念せざるを得ないとの申し入れを受けたという。

倉敷ロイヤルアートホテルは1992年に開業し、71室。ストライダーズは2014年に同ホテル(当時、ホテル日航倉敷)を傘下に収めた。2020年3月期業績は売上高5億8700万円、経常損失220万円、最終損失1090万円で、再建途上にあった。

ストライダーズは不動産を主体に、ホテル、海外への投資に積極的に取り組んでいる。

エプコ<2311>、小売り電力事業者向けクラウド型顧客・需給管理システム「ENESAP」事業をSBパワーに譲渡

エプコは、小売り電気事業者向けのクラウド型顧客・需給管理システム「ENESAP」事業を、ソフトバンク傘下のSBパワー(東京都港区)に譲渡する方向で検討を始めた。住宅のライフサイクル全般(設計・メンテナンス・リフォーム)にかかわる総合サービスの提供に経営資源を集中するのに伴い、事業領域と対象顧客が異なる「ENESAP」事業を切り離す。

SBパワーは2012年にソフトバンクが全額出資して設立し、家庭向け電力小売り事業を手がけている。

JKホールディングス<9896>、日本板硝子傘下の京都板硝子を子会社化

JKホールディングスは、日本板硝子傘下の京都板硝子(京都市。売上高15億9000万円、営業利益3900万円、純資産△2億8900万円)の全株式を取得し、16日付で子会社化した。京都板硝子は1950年に設立し、京都府内を中心に建築用ガラス、住宅用サッシなどの卸売・施工を手がける。建材商社のJKホールディングスは同社を傘下に取り込み、業容拡大につなげる。取得価額は非公表。

ナノキャリア<4571>、核酸医薬品開発ベンチャーのアキュルナを吸収合併

ナノキャリアは、核酸医薬品の研究開発を手がけるアキュルナ(東京都文京区。売上高573万円、営業利益△3億900万円、純資産2億300万円)を9月1日付で吸収合併することを決議した。医薬品事業の基盤構築の一環。

合併比率はナノキャリア1:アキュルナ67.5(普通株式。ほかにA種優先株式などの種類株式あり)。

ナノキャリアはナノテクノロジー(超微細技術)に基づくミセル化ナノ粒子技術を活用した医薬品の開発を進めており、現在、主要パイプライン(候補物質)が臨床試験段階にある。同時にM&Aを通じて外部経営資源の取り込みに積極的に取り組んでいる。

一方、アキュルナは核酸医薬品のナノDDS 技術(ドラッグデリバリーシステム)を社会実装するために2015年に設立された創薬ベンチャー企業。核酸医薬品は天然型と化学修飾型の核酸からなる医薬で、低分子医薬や抗体医薬では標的にできなかった細胞内分子に対して特異性高く作用することを特徴とする。

市進ホールディングス<4645>、居宅介護支援の「ゆい」を子会社化

市進ホールディングスは、居宅介護支援を手がける、ゆい(横浜市。売上高9億6500万円、営業利益2040万円、純資産4億6200万円)の全株式を取得し、子会社化することを決めた。市進は進学塾や予備校の運営を主力とするが、経営多角化のため介護事業を育成中。ゆいは2002年に設立。取得価額は6億4700万円。取得予定日は2020年7月16日。

テクノホライゾン・ホールディングス<6629>、ソフト受託開発のファインシステムを子会社化

テクノホライゾン・ホールディングスは、ソフトウエア受託開発のファインシステム(名古屋市)の全株式を取得し子会社化することを決めた。FA(ファクトリーオートメーション)事業におけるシナジー(相乗効果)創出を期待している。ファインシステムは1986年に設立。取得価額、取得日はいずれも非公表。

サックスバーホールディングス<9990>、ジンズHD傘下のフィールグッドからメンズバッグ・雑貨の小売り事業を取得

サックスバーホールディングス(HD)は、ジンズホールディングス傘下のフィールグッド(東京都千代田区)が手がけるメンズバッグ・雑貨類の小売業態「ノーティアム」事業を取得することを決めた。サックスバーは子会社の東京デリカ(東京都葛飾区)を通じて鞄・袋物、財布、雑貨などの小売りを手がけ、ショッピングセンター・駅ビルなどに直営626店舗(3月末)をテナント出店する。東京デリカの店舗とコンセプトが重複せず、相乗効果が見込めると判断した。

東京デリカが取得するのは「ノーティアム」事業のうち、通信販売事業と7店舗(イオンモール高崎店、イオンモール羽生店、軽井沢・プリンスショッピングプラザ店、ヨドバシAkiba店、東京ドームシティ ラクーア店、二子玉川ライズS.C.店、神戸ハーバーランドumie店)。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年9月1日。

ジンズホールディングスはノーティアム事業の譲渡に伴い、フィールグッドを2021年8月期中に解散・清算する方向。

山王<3441>、貴金属表面加工の中国子会社「山王電子」を現地社に譲渡

山王は、貴金属表面加工や精密プレス加工を手がける100%出資の中国子会社である山王電子(無錫)有限公司(江蘇省。売上高15億1000万円、営業利益7300万円、純資産3億7200万円)の全持ち分を、現地の無錫特恒科技有限公司(江蘇省)に譲渡することを決めた。経営資源の選択と集中の一環。山王電子は2003年に設立。譲渡価額は非公表。譲渡予定日は2020年11月。

中本パックス<7811>、紙加工品製造の三国紙工を子会社化

中本パックスは、持ち分法適用関連会社で紙加工品を製造・販売する三国紙工(大阪府富田林市。売上高23億6000万円、営業利益7690万円、純資産12億2000万円)を子会社化することを決めた。第三者割当増資を引き受け、現在22%の持ち株比率を50.1%に引き上げる。株式約43%を保有する日本紙パルプ商事が現在、三国紙工の筆頭株主だが、これに代わって中本パックスが経営権を握る。

三国紙工は1951年に設立。紙のほか様々な基材への押出ラミネート加工技術を持ち、中本パックスは同社を傘下に収めることで、紙加工品の取り扱いを強化するとともに、環境負荷の低減につながる製品開発を推し進める。

取得価額は4億3010万円。取得予定日は2020年7月15日。

メディカル・データ・ビジョン<3902>、健診システム開発のシステム ビィー・アルファを子会社化

メディカル・データ・ビジョンは、健診システムの開発などを手がけるシステム ビィー・アルファ(福岡市。売上高3億4100万円、営業利益1200万円、純資産1億600万円)の全株式を取得し子会社化することを決めた。

取得価額は非公表。取得予定日は2020年10月1日。

システム ビィー・アルファは1996年設立。健診システムの販売・販売のほか、電子カルテなどの代理店販売を主な事業とする。メディカル・データ・ビジョンは同社を傘下に取り込むことで、疾病領域だけでなく、健康診断など未病領域の情報集積を本格的に進め、より多様な医療ビッグデータの利活用につなげる。

ダントーホールディングス<5337>、米住宅金融会社のSRE Mortgageを子会社化

ダントーホールディングスは米子会社を通じて、現地の住宅金融会社SRE Mortgage Alliance Inc.(カリフォルニア州。売上高11億4000万円、営業利益7900万円、純資産5億1500万円)の第三者割当増資を引き受け、子会社化することを決めた。増資引き受け後の所有割合は50%で、取得価額は14億9600万円。ダントーは祖業である建設用タイル事業の不振に伴い、経営立て直しに向けて不動産関連事業を新たな収益源に育てる方針を打ち出しており、この一環。取得予定日は2020年7月17日。

SREは1994年に設立し、米国政府支援企業(連邦住宅抵当金庫など)の認可を得ているほか、住宅ローンと不動産業の2種ライセンスを持つ。

識学<7049>、モバイルアプリ・ゲーム開発のMAGES.Labを子会社化

識学はシステム開発・運用子会社のシキラボ(東京都品川区)による株式交換を通じて、モバイルアプリ・ゲーム開発のMAGES.Lab(東京都新宿区)を子会社化することを決めた。SaaS(サービスとしてのソフトウエア)型サービス・システムの受託開発を進めるための人材などを確保する狙い。

シキラボは2019年7月に、経営層向け組織運営の独自理論「識学」に関するシステム開発・運用の内製化を目指して設立し、所期の成果を上げつつあるという。その一方で、シキラボ設立のもう一つの目的だったSaaS型サービス・システムの受託開発については手つかずの状態にあり、ノウハウを持つエンジニアらの確保を経営課題としていた。傘下に収めるMAGES.Labとはかねて開発案件で取引関係にあった。

株式交換比率はシキラボ1:MAGES.Lab0.00887324株。株式交換予定日は2020年8月31日。交付するシキラボの普通株式の時価(取得原価)は1953万円。

 

 

 

 

情報提供:株式会社ストライク

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第7回】WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

 

▷第6回:PPAにおける無形資産の評価手法とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

 

 

 

1.はじめに

前回は無形資産の超過収益法やロイヤリティ免除法について解説しましたが,これらの評価においては,将来キャッシュ・フローを個々の資産に応じて想定されるリスクを考慮した割引率(期待収益率)を用いて現在価値へ割引くことが必要となります。そのためには資産毎に割引率を設定する必要がありますが,どのように設定するのでしょうか?

割引率は,一般的に加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital. 以下,WACCと言う。),内部収益率(Internal Rate of Return. 以下,IRRと言う。)及び加重平均資産収益率(Weighted Average Return on Assets. 以下,WARAと言う。)の分析を通じて設定されます。そのため,本稿ではWACC,IRR,WARAの概念及び3者の関係及び各資産の割引率の設定方法について解説します。

 

 

2.WACC,IRR,WARAについて

(1)WACC

WACCは一般的に企業価値評価に用いられる割引率であり,企業全体の投下資本に対する資本の調達コストであり,株主資本コストと負債コストの加重平均で表されます。言い換えれば, WACCとは,資本提供者の要求に応えるために,企業が投下資本を活用して生み出さなければならない最低限の収益率です。図表1はWACCの計算例ですが,WACCはPPA実施時に改めて計算するというよりも,M&A実施時に行った企業評価において算定したWACCを時点修正することが通常となります。無形資産の評価においては,WACCそのものを利用して割引計算をするというよりは,資産毎の割引率を設定するためのベンチマークとしてWACCが利用されます。なお,WACCの詳細な解説はここでは割愛させて頂きます。

 

 

【図表1】WACC計算例

 

 

 

(2)IRR

IRRとは,NPV(Net Present Value, NPV)がゼロとなる割引率です。NPVは,将来キャッシュ・フローの現在価値の合計額から初期投資額を控除したものです。そのため,IRRは投資家が投資によって必要最低限獲得したいと考える利回りであり,WACCを投資家側から見たものと言えます。通常の場合,IRR≒WACCとなります。

 

図表2において,投資額8,000百万円,事業計画期間のフリー・キャッシュ・フロー(以下,FCFと言う)を前提としたIRRは9.8%と計算されます。なお,IRRはエクセルのXIRR関数を利用することで容易に計算可能です。

 

 

【図表2】IRRの試算

 

 

 

無形資産評価においてIRRは,評価に使用されるWACCが合理的な水準といえるかどうかを検証するために用いられることが多いです。PPAにおける無形資産評価の目的は,当該資産の公正価値を測定することであり,公正価値を測定するには,一般的な市場参加者が想定すると考えられるWACCが設定される必要があることから,一般的な市場参加者の代表である買手企業が求めるIRRを用いて,WACCを検証することとなります。なお,この点についての詳細は連載第9回「事業計画」で解説する予定です。

 

 

(3)WARA

WARAは加重平均資産収益率で,文字通り各資産の収益率を加重平均した値です。そのため,一般的には,WACCやIRRと異なり一定の算式に基づき直接的に求めることはできず,各資産の想定リスクに応じた収益率を設定した結果として求められます。図表3は,WARAの計算例ですが,運転資本からのれんまでの各資産に応じた収益率(=期待収益率)を設定することによって,その加重平均値であるWARAが9.8%と計算されます。

 

また,株主資本及び負債の調達コストたるWACCは,事業に使用する資産が稼得する収益によって賄われるものと考えられます。そのため,事業に供する資産は,調達コストを賄う水準の運用収益が最低限期待されることとなります。つまり,資本の調達コストであるWACCと期待運用収益率であるWARAは一致することとなります。

 

 

【図表3】WARA計算例

 

残高(百万円) 構成比① 期待収益率② 加重平均
③=①×②
運転資本 500 6.3% 3.0% 0.2%
有形固定資産 3,000 37.5% 5.0% 1.9%
商標権 1,500 18.8% 12.0% 2.3%
顧客関連資産 1,000 12.5% 14.0% 1.8%
のれん 2,000 25.0% 15.0% 3.8%
合計 8,000 100.0% 9.8% ←WARA

 

 

(4)WACC,IRR,WARAの関係

概念上は,IRR=WACCとなり,WACC=WARAとなると述べましたが,改めて図表4を用いて説明します。まず,WARAは運用サイドに要求される期待収益率であり,いわゆる貸借対照表(以下,B/Sと言う。)の借方の概念と言えます。これに対して,WACCは調達サイドに係るコストであり,B/Sの貸方の概念と言えます。このことからも,WARA≒WACCとなるのは直観的にも分かり易いのではないでしょうか。また,これと同様に,IRRはNPVがゼロになる収益率ですから,収益=費用となる割引率と言え,調達コストであるWACCと等しくなると言えます。この結果として,WACC≒WARA≒IRRの関係が成立し,これを前提としてPPAの分析を進めていくこととなります。なお,(1)から(3)までの数値例でもすべての値が9.8%になっていることに読者の皆様も気付かれたと思います。

 

 

【図表4】WACC,IRR,WARAの関係図

 

3.各資産の期待収益率(割引率)の設定

各資産の期待収益率を設定する際に,WACC≒WARAを前提とする必要があります。これは,個々の資産の期待収益率を一義的に設定することは実務上困難のため,WACC≒WARAを前提に,各資産の期待収益率を設定し,その加重平均値たるWARAがWACCと近似するようにするのが一般的な実務上の対応となります。PPAの実務においては,資産は,運転資本,有形固定資産,無形固定資産,のれん等に分類して,この分類において期待収益率を設定することが一般的ですが,各資産の内訳や中身は対象会社によってそれぞれ異なり,運転資本も預金,売掛金,棚卸資産,買掛金などから構成されます。預金のように利率が存在するものは容易に期待収益率の設定が可能ですが,売掛金や棚卸資産の期待収益率を決めることは一義的には困難です。そこで,資産をグループ化して期待収益率を設定することとなります。ここで,直観的に,短期資産より長期資産の方が回収期間も長くリスクが高いと一般的には言えますし,現物のある有形固定資産より現物のない無形資産の方がリスクが高いと考えるのが通常ではないでしょうか。このような考え方に基づき,資産分類ごとの期待収益率の高低の関係には一般的なルールがあると言えます。日本公認会計士協会 経営研究調査会研究報告第57号にも下記の記述があります。

 

【運転資本,有形固定資産,無形固定資産及びのれんの期待収益率】

運転資本<有形固定資産<無形固定資産<のれん

 

前述のWARAの計算例を見てみると,期待収益率が,運転資本→有形固定資産→無形固定資産→のれん,の順になっていることがお分かりになるでしょう。本例では,IRR=WACC=9.8%を念頭に置きながら,各資産の期待収益率を決めていくこととなりますが,運転資本の期待収益率はプライムレートの水準等をベースにまず3.0%と設定し,有形固定資産は多少リスクを上乗せして5.0%としています。商標権と顧客関連資産は同じ無形資産ですが,前者は法的権利として存在するものですから顧客関連資産よりリスクは低いと考えて,商標権は12.0%とし,顧客関連資産は商標権よりはリスクがあるとして14.0%と設定し,最後にのれんは,一番リスクが高いと考えられ15.0%と設定しました。この結果として,加重平均収益率たるWARAは9.8%となり,WACCと一致することとなります。

 

運転資本 3.0%<有形固定資産 5.0%<商標権12.0%<顧客関連資産 14.0%<のれん 15.0%
4.最後に

本稿のまとめとして,各資産の期待収益率の設定プロセスについて述べます。PPAの分析では,通常IRR≒WACC≒WARAという関係が成り立つことが想定されることから,これを念頭に置きながらIRRを計算してWACCを算出します。通常はIRRとWACCの関係に異常がなければ,WACCを確定し,各資産の期待収益率を設定するが,この時も運用サイドのWARAと調達サイドのWACCが近似することに留意する必要があります。このような一連のプロセスを経て,最終的にWARAがWACCと近似して計算が確定します。なお,実務上は,各資産の期待収益率の算定方法に画一的なルールがないため,レビューワーによっても見解が異なることが多く,監査上議論になることも多い点に留意が必要です。

 

 

【図表5】期待収益率の設定プロセス

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

 

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

持分の定めのある社団医療法人の解散と課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(飯田 美緒/税理士)

 

 

【問】

医療法人にてクリニックを経営しています。後継者もいないため、医療法人を解散しようかと考えています。当法人は出資持分の定めのある社団医療法人です。医療法人の解散手続きと、課税関係について教えてください。

 

 

【回答】

1.社団医療法人の類型


社団医療法人は、その定款に出資持分に関する定めがあるかないかで「出資持分のある社団医療法人(以下、「持分あり法人」といいます。)」と「出資持分のない社団医療法人(以下、「持分なし法人」といいます。)」に区分されます。「出資持分」とは社団医療法人に出資した者が、その医療法人の財産に対し、出資額に応じて有する財産権をいいます。

 

2.解散事由


医療法第55条おいて、医療法人の解散事由を次のように定めています。

 

①定款をもって定めた解散事由の発生
②目的たる業務の成功の不能
③社員総会の決議
④他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。)
⑤社員の欠亡
⑥破産手続き開始の決定
⑦設立認可の取消し

 

恣意的な解散を防ぐ趣旨から、②③については都道府県知事の認可が必要とされています。①⑤については都道府県知事への届出を要します。

 

3.解散手続き


2.③の社員総会の決議により解散する場合には、定款に別段の定めがない限り、総社員の4分の3以上の賛成が必要です。解散の認可申請書(仮申請)には、解散理由書、社員総会議事録、財産目録、貸借対照表、残余財産処分方法、清算人就任予定者などを記載した書類を添付(医療法施行規則第34条)して、都道府県へ提出し、事前審査を受けます。書類の不備等を修正し、本申請となります。その後都道府県医療審議会の諮問を経て認可/不認可の処分となります。

 

医療審議会は年に2回程度しか開催されないため、場合によっては事前審査から認可/不認可の処分まで1年近くかかる場合もあります。株式会社と違い、認可がおりなければ解散の効力が発生しないので注意が必要です。認可がおりたら解散の登記を行い、清算手続きに入ります。残余財産の処分が完了したら、清算決了の登記、都道府県知事への届出を行い、法人格が消滅します(医療法第56条の2)。

 

4.課税関係


(1)医療法人に対する課税

解散の日の翌日以降も、その所得計算は通常の事業年度と変わらず、損益法により法人税の申告を行い、課税されます。残余財産確定の日に終了するいわゆる最後事業年度についても同様に損益法により申告を行います。申告期限は、残余財産確定の日から原則1ヶ月以内です。これらについては通常の株式会社と変わりありません(法人税法第74条2項)。

 

(2)出資者に対する課税

解散した医療法人に残余財産があれば、残余財産を定款の定めに基づき処分します。持分あり法人であれば、定款において、出資者にその出資額に応じて分配すると定めているものが一般的です。解散による残余財産の分配が個人である出資者にされた場合、その分配された金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が、持分あり法人の資本金等の額を超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の配当とみなすと規定されています(所得税法第25条1項)。よって、みなし配当課税となるため、総合課税の配当所得として、超過累進税率が適用され所得税が課税されます。

 

医療法改正により平成19年4月1日以後、持分あり法人の新規設立はできないことになりました。現在設立し得る持分なし法人の定款においては、残余財産の帰属先は国、地方公共団体、医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるよう定められています。これにより、解散時の残余財産が出資者に帰属しないよう整備されました。持分あり法人については、平成19年4月1日施行改正医療法附則第10条第2項に規定される医療法人(経過措置医療法人)に位置付けられ、当分の間、解散時の残余財産の帰属先について定款の変更は強制されず、出資者に対し、残余財産を出資額に応じて分配するとされています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/07/20)より転載