[解説ニュース]

配当に係る源泉徴収不要の改正と実務上の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中坂 克司/税理士)

 

 

[関連解説]

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1.はじめに


配当に係る源泉所得税について、令和5年10月1日以後に支払われるものから(令和4年度税制改正)、見直しが行われております。
今回は改めて改正の内容をお伝えするとともに、改正後の事業承継や組織再編の実務でのポイントをお伝えします。

 

 

2.改正の内容


(1)源泉徴収不要

法人(一般社団法人等を除く)が、支払を受ける配当等で次の株式に係るものについては、所得税が課税されないこととなり、配当の支払側においても源泉徴収が不要となりました(所法177、212③、所令301②)。

 

①配当計算期間の初日から末日まで継続して完全支配関係がある株式(法法23⑤に規定する完全子法人株式等。ただし、直接保有に限る)

 

②その配当等の基準日において、発行済株式総数(自己株式を除く)の1/3超を保有している株式(直接保有に限る。①に該当するものを除く)

 

(2)受取配当等の益金不算入制度

法人が受ける配当等については、下記の保有割合と期間により、益金不算入とされる金額が異なります(法法23①④⑤⑥)。

 

 

 

 

 

※1 完全支配関係がある他の法人の保有割合も含める
※2 計算期間が6月を超える場合は6月

(3)範囲の相違

上記の通り、1/3超100%未満の株式を保有している場合、源泉徴収の要否は基準日で判定しますが、受取配当等の益金不算入制度は配当等の計算期間中の継続保有が要件になっています。

 

また、源泉徴収の要否は直接保有分のみで判定しますが、受取配当等の益金不算入制度は、完全支配関係がある他の法人の保有割合も含めて判定します。

 

そのため、源泉徴収は不要であるが受取配当等の益金不算入割合は100%でない場合や、源泉徴収は必要であるが受取配当等の益金不算入割合は100%である場合も想定されますので、注意が必要です。

 

 

3.持株会社組成後、最初に受ける配当金の取扱い


事業承継や組織再編の実務で問題になるのが、期の途中に親会社として持株会社を組成した場合の、最初に受ける配当金の取り扱いです。

 

例えば、後継者が新たに持株会社(親会社)を設立して、借入金により資金調達を行い、承継対象会社(子会社)の株式を売買により100%取得し、その後は子会社からの配当により借入金の返済を計画する場合の、持株会社が最初に受ける配当金が該当します。こちらの例では、下記の取り扱いとなります。

 

 

(1)源泉所得税

源泉徴収の改正前の取り扱いでは、源泉徴収が必要で、最終的に源泉徴収された所得税は、承継対象会社の配当計算期間のうち株式を取得した日からの保有期間分しか、所得税額控除として法人税額から控除できませんでした。改正後は、最初の配当についても、基準日において、発行済株式総数の1/3超を保有しているため、源泉徴収自体がなされないこととなります。

 

(2)受取配当等の益金不算入

売買により、承継対象会社の配当計算期間の途中に完全支配関係を有することになった場合には、配当計算期間の初日から売買日まで継続して承継対象会社と従前の株主に完全支配関係があり、売買日から配当計算期間の末日まで継続して持株会社と従前の株主との間及び承継対象会社と従前の株主との間に完全支配関係がある場合は、「完全子法人株式等」に該当します(法令22の2①)。

従って、売買前に承継対象会社を親族のみで保有しており、その親族の子供が持株会社の株主として承継を行う場合などは「完全子法人株式等」に該当し、親族外の後継者が株主になる場合などは、その保有期間によって、「関連法人株式等」又は「その他の株式等」に該当することになります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/11/11)より転載

[解説ニュース]

被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

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【問】

Aさんは、昨年亡父から賃貸不動産を相続し、その相続税の支払いのため相続税の申告期限前にその賃貸不動産を譲渡しました。亡父はその賃貸不動産を亡くなる12年前に銀行借入金により取得し、亡くなる直前まで賃貸をしており、生前に譲渡するつもりはありませんでした。また、取得の際の借入金は相続開始時点では完済しています。その賃貸不動産は都心の好立地にあることから、譲渡価額は財産評価基本通達(以下「評価通達」)による評価額(通達評価額)の約2倍の金額となりました。

 

令和4年4月19日最高裁判決(以下「最高裁判決」)で、賃貸不動産の相続税計算上の評価につき、税務署による通達評価額以外の評価額(鑑定評価額)の採用が認められたと聞きました。その最高裁判決の影響により、Aさんの亡父に係る相続税の計算においても、賃貸不動産を通達評価額ではなく、譲渡価額により評価すべきでしょうか。

 

【回答】

1.結論


最高裁判決の内容を踏まえると、下記の理由により通達評価額で評価して問題ないと考えます。

 

 

2.理由


最高裁判決では、「…租税法上の一般原則としての平等原則は、課税庁(税務署)における租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するもの」としており、「合理的な理由」がない限り、平等原則に反しないようにしなければ違法な執行になるという考え方を示しています。

 

この平等原則を相続税法の財産評価に当てはめると、同じ財産を取得した者は等しく同様の評価法、すなわち評価通達による評価を適用することになります。また、「合理的な理由」の例として、最高裁判決では「評価通達の定める方法により画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」が挙げられています。

 

さらに最高裁判決では、「…本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい(乖)離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」と判示しています。この場合の上記事情とは、前述の「合理的な理由がある」ことを指しているものと思われます。

 

最高裁判決の内容をAさんの事例に当てはめると、Aさんは相続開始の12年前に亡父が取得した賃貸不動産を、相続開始後に相続税の納税資金捻出のために通達評価額の約2倍の価額で譲渡しています。通達評価額と譲渡価額との間には乖離がありますが、乖離があるだけでは「上記事情(合理的な理由)があるということはできない」ということになります。

 

賃貸不動産であることと、通達評価額と時価(Aさんの場合は、それと推察される近接時期の譲渡価額)との間に大きな差があるのは、最高裁判決の事件と同じです。ただAさんの場合は、前述の下線部のような「合理的な理由」に該当する事情、例えば、①相続時に賃貸不動産に係る借入金の残額があり、②賃貸不動産の評価額よりも借入金の残額が大きいため相続税の計算上マイナスが生じ、③②のマイナスにより、その他の相続財産の価額の合計額を大きく減じている等の事情はありません。

 

また、Aさんは亡父の相続直後といってもいい時期に不動産を譲渡していますが、相続時のその相続財産は純粋に不動産です。Aさんには「私法(民法)上は契約が成立していないまま相続が発生したが、実は亡父が相続前に譲渡交渉を具体的に進めていて、事実上買手とほぼ合意に達していた。」等の、合意していた譲渡価額を基に評価されうるような事情もありません。

 

したがって、Aさんが亡父から相続後に譲渡した財産は、あくまで相続の時点では不動産というほかなく、その譲渡は相続後のAさんの行為に過ぎません。亡父に係る相続税の計算上は、平等原則の下で相続財産の評価をするのだから、不動産として通達評価をすべきということになるはずです。そうしないと相続税の納付のため、相続後に相続人の判断・必要性に基づき、相続した不動産を譲渡した場合(納付のために申告・納付期限までに譲渡が行われるはず)は、全て譲渡価額で評価し直すということになってしまいます。そうすると納税のために相続財産を譲渡せざるを得ない人を不当に不利に取扱うことになり、「平等原則」に反することとなります。

 

以上により、Aさんは亡父に係る相続税の計算上、賃貸不動産を通達評価額により評価して問題ないと考えます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/10/21)より転載

[解説ニュース]

マンションの評価方法の改正による影響

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田卓/税理士)

 

 

[関連解説]

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1.マンションの評価方法の改正


令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得したマンションについては、新しい評価方法が適用されることになります(改正の概要は、タクトニュースNo928参照)。この改正により、相続税評価額が時価の6割に達しないマンションの評価額が、時価の6割になるように補正されるため、タワーマンション等の時価と相続税評価額の乖離が大きかった物件は、大きな影響を受けることになります。

2.改正の影響


マンションの評価方法の改正により評価額が引き上げられるのは、評価水準(時価と相続税評価額の乖離率)が0.6未満の場合です。評価水準が0.6から1までは、現行の評価額のままで、評価水準が1を超える場合には、現行の評価額から引き下げられます。

 

3.改正後のマンションの計算例


(1)評価対象マンション
築年数   :27年
所在階   :10階(総階数12階)
敷地面積  :3,100㎡
区分所有権 :7,700/820,000
専有部分面積:75㎡
 

(2)(1)のマンションの自用地・自用地家屋の評価額(財産評価基本通達の評価額)
敷地利用権  :28,000千円
専有部分(家屋): 7,500千円

合計 35,500千円

 

 

 

947-1.png

改正後のマンション評価額

①土地:28,000千円×1.278=35,784千円
②家屋:7,500千円×1.278=9,585千円
③①+②=45,369千円

 

 

4.改正の影響を受けない物件


改正後のマンションの評価方法は、築年数が浅い、総階数が多い、所在階が高い、敷地持分が狭小な物件ほど評価額が高くなります。各要素の中では特に築年数の影響が大きく、評価方法の改正により評価額が引き上げられた物件でも築年数が古くなると評価水準が0.6を超え、補正を要しないケースが出てきます。3の計算例を基に、仮に築年数を1年から9年ごとに54年まで試算すると以下の表の通りとなり、築年数が45年、54年のケースでは補正なしとなります。

 

 

947-2.png

※建物評価額は経年減点補正率等により補正

 

 

そのため、築年数が古くても市場価格が高いヴィンテージマンションについては、時価と相続税評価額が乖離していたとしても改正の影響を受けない物件といえます。

 

なお、ヴィンテージマンションのように相続税評価額と時価が乖離しているケースで、納税者が過度な節税策を講じるなど財産評価基本通達で定められた評価方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があると国税当局が認めた場合には、財産評価基本通達6項の適用により、鑑定評価等の価額に補正される可能性があるため注意が必要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/10/10)より転載

[解説ニュース]

代償分割と相続税の取得費加算特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川瀬 朋基/税理士)

 

 

[関連解説]

■個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

 

 

 

 


【問】

父が先月、他界しました。相続人は私(A)と弟(B)の2人のみです。父の相続については、私がすべての相続財産(預金と土地で相続税評価額は2億円です)を引き継ぐことになりましたが、弟は何も相続しない代わりに、私が、現金6,000万円と私所有の土地(時価5,000万円)を渡すことにしました。この遺産分割の方法により、私と弟に所得税の課税関係が生じるでしょうか。
また、その他に注意すべき点があれば教えてください。

 

【回答】

1.結論


現金を代償財産として交付した場合には、所得税の課税関係は起こりません。しかし、不動産等の所有権の移転があった場合には、その移転のときにその資産の時価相当額の収入があったものとして譲渡所得税が課税されます。

 

2.解説


(1)所得税の課税関係

遺産分割により代償財産を支払う際、金銭を交付した場合には、所得税の課税関係は生じませんが、不動産など金銭以外の資産を交付した場合には、その資産を時価により譲渡したことになります。今回のケースでは、Aさん所有の土地交付時に、AさんはBさんに対して、その土地を時価相当額(5,000万円)で譲渡したことになります。またBさんが将来、その土地を売却する場合には5,000万円が取得費になります。

 

(2)取得費加算の特例

Aさんが代償金として現金6,000万円を用意するために相続により取得した土地を売却する場合には、相続税の取得費加算特例により、譲渡所得の計算上、相続税の一部を取得費として控除することができます(租税特別措置法39条)。相続税の取得費加算特例とは、相続等により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度のことをいい、取得費に加算する相続税額は、次の算式で計算した金額となります。

 

<算式>
946-1.png

 

a:譲渡者が相続した財産にかかる相続税評価額の合計額(債務控除前)
b:譲渡者が相続した財産のうち、譲渡資産にかかる相続税評価額

 

ただし、代償分割を行っている場合にはその計算方法が変わってきます。取得費として控除できる金額が圧縮されるのです。その計算方法は以下のようになります(租税特別措置法通達39−7)。

 

<算式>
946-2.png

 

c:支払った代償金

 

(3)取得費加算額の計算例

 

上記計算例で通常通り、取得費加算額を計算すると、15,030×150,000 / 90,000=25,050千円となり、支払った相続税額以上に取得費として控除できることになってしまいます。そこで上記の調整計算が必要になります。具体的な計算は以下のとおりです。(単位千円)

 

946-3.png

 

この相続した土地を仮に180,000千円で売却した場合(所有期間5年超、取得費不明、譲渡経費5,000千円)の譲渡税の計算は以下のとおりです。

 

① 180,000-(180,000×5%+11,272)-5,000= 154,728千円

② ①×20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税の合計税率)=31,432千円

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/9/24)より転載

[解説ニュース]

相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除:契約効力発生日基準により申告する場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

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■令和5年度税制改正:相続開始前に被相続人から暦年課税に係る贈与があった場合の相続税

 

 

 

 


【問】

Aさんは、令和6年1月に父から相続したX家屋とその敷地を譲渡(以下「本件譲渡」)するため、令和6年12月10日に買主と譲渡契約を締結しました。X家屋はAさんの父が生前居住していた住宅で、父の死亡後は空き家となっています。その譲渡契約では、契約締結後、令和7年3月末までにAさんがX家屋を取壊し、更地にして引渡す特約が設けられています。Aさんは令和7年2月28日にX家屋の全部を取壊し、7年3月31日に買主へその敷地を引渡しています。X家屋は築50年の古家で、地震に対する安全基準等に適合している家屋ではありません。

 

Aさんは本件譲渡にあたり、租税特別措置法35条3項の「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「本特例」)の適用を受けるつもりです。この場合において、Aさんが所得税の譲渡所得の申告を、X家屋とその敷地の譲渡契約を締結した日の属する令和6年分で行うときは、本特例の適用を受けることができますか

 

【回答】

1.結論


Aさんが本件譲渡の時期を譲渡契約締結日の令和6年12月10日とし、譲渡所得に係る所得税の申告を令和6年分で行う場合には、その年の翌年2月15日までにX家屋の全部の取壊しが完了していないので、本特例の適用を受けることはできません。

 

2.解説


(1)本特例の概要

相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、①その被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと、又は、②その被相続人居住用家屋とともにその敷地等を譲渡し、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に被相続人居住用家屋の全部の取壊し等を行ったこと等の一定の要件を満たすときには、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法35条3項2号、3号、同条4項等)。

 

 

(2)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期の判定

個人が土地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額の計算上、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)からその土地の取得費や譲渡費用を控除します。
各年の譲渡所得の金額の計算においては、「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により、「その年において収入すべき金額」とされています。この場合の「総収入金額の収入すべき時期」については、所得税基本通達36-12でその判断基準が示されています。

 

この通達では、総収入金額の収入すべき時期、つまり資産の譲渡の時期について、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によること(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡契約の効力発生の日(一般に契約締結日)によること(「契約効力発生日基準」)も認めています。

 

 

(3)本特例の適用要件の判定時期

本特例の適用に当たっては、(2)の「引渡日基準」又は「契約効力発生日基準」のうち、納税者が選択した資産の譲渡の時期により、その特例の適用要件を満たしているかどうかを判定します。

 

 

(4)本問へのあてはめ

Aさんは、「契約効力発生日基準」を選択して譲渡契約締結日(令和6年12月10日)を資産の譲渡の時期とし、令和6年分で所得税の申告をすることから、本特例の適用要件((1)①又は②)を満たすかどうかの判定は、その譲渡契約の締結日により行います。

 

Aさんの場合、資産の譲渡の時である譲渡契約の締結日後に被相続人居住用家屋のX家屋の全部の取壊しを行っているので、(1)①の要件を満たしません。また、X家屋の全部の取壊しが完了したのが令和7年(譲渡の日の属する年の翌年)2月28日であることから、(1)②の要件も満たしません。以上によりAさんは、本特例の適用を受けることはできません。

 

なお、Aさんが「引渡基準」を選択してX家屋の敷地を引渡した令和7年3月31日を譲渡の時期とし、所得税の申告を令和7年分で行う場合には、被相続人居住用家屋であるX家屋の全部の取壊しをした後にその敷地を譲渡していることから、(1)①の要件を満たし、本特例の適用を受けることができます。(参考:国税庁「質疑応答事例」)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/9/9)より転載

[解説ニュース]

インボイス(適格請求書)発行事業者が死亡し、相続財産が未分割の場合の消費税の手続

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】契約者の変更があった生命保険契約に係る死亡保険金等の課税関係

■【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

 

 


【問】

不動産賃貸業を営む甲は、令和6年7月31日に死亡しました。相続人は長男Aと次男Bの2人です。甲は生前に消費税の適格請求書発行事業者の登録を受けています(AとBはその登録を受けていません)。AとBのどちらかが甲の事業を承継する予定ですが、協議がまとまらず甲の賃貸不動産は未分割状態です。
上記の場合、消費税の適格請求書保存方式(№938参照)においてAとBの必要な手続と、甲の適格請求書発行事業者登録の効力について教えてください。

 

【回答】

1.結論


(1)適格請求書発行事業者の甲の死亡に伴い、相続人のAとBは「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を甲の所轄税務署長に提出する義務があります。

 

(2)相続財産(賃貸不動産)が未分割の期間は、AとBがともに相続により甲の事業を承継した相続人と取扱われ、甲の死亡日の翌日から最長4ヶ月間(みなし登録期間)は、AとBが適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者とみなされます。このAとBが適格請求書発行事業者とみなされる措置の適用がある期間は甲の登録が有効で、甲の登録番号が記載された適格請求書の発行義務を負います。

 

(3)A又はBが甲の事業を承継した場合、みなし登録期間を経過後に適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、登録申請書の提出が必要です。

 

 

2.解説


(1)適格請求書発行事業者が死亡した場合の手続

適格請求書発行事業者が死亡した場合は、その相続人は「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を、死亡した者の所轄税務署長あてに提出する義務があります(消費税法(消法)57条の3第1項)。

 

 

(2)相続により事業を承継した相続人がいる場合の死亡した適格請求書発行事業者の登録の効力

適格請求書発行事業者が死亡した場合、その登録の効力は[(1)の届出書の提出日の翌日]又は[死亡日の翌日から4ヶ月を経過した日]のいずれか早い日に失われるのが原則です(消法57条の3第2項)。ただし、相続により被相続人の事業を承継した相続人がいるときには、次の特例があります。

 

相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人(適格請求書発行事業者を除く。)は、相続のあった日の翌日から、その相続人が[適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日]又は[適格請求書発行事業者であった被相続人が死亡した日の翌日から4ヶ月を経過する日]のいずれか早い日までの期間(「みなし登録期間」)において、適格請求書発行事業者とみなされ、適格請求書の発行義務を負います。この場合において、みなし登録期間中は被相続人の登録番号が、その相続人の登録番号とみなされます(同第3項)。

 

 

(3)共同相続(未分割)があった場合の登録の効力

相続人が複数いる場合において相続財産が未分割の期間中は、適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、これらの相続人(適格請求書発行事業者を除く)は、その全員が(2)に規定する「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人」に該当するものとされます。この場合において、(2)のみなし登録期間の末日までに相続財産の分割が実行されたときは、適格請求書発行事業者であった被相続人の事業を承継しない相続人は、相続財産の分割が実行された日以後は適格請求書発行事業者とはみなされません(消法基本通達1-7-5)。

 

例えば、Aが不動産賃貸業を承継し、令和6年11月1日に相続財産である賃貸不動産が分割され、11月25日にAが適格請求書発行事業者の登録の通知を受けた場合は、同年8月1日~11月25日が「みなし登録期間」となり、Aは同期間中の全期間、Bは同期間中のうち賃貸不動産の未分割期間、つまり8月1日~10月31日(分割実行日11月1日の前日)の期間において、適格請求書発行事業者とみなされます。この期間中、AとBは甲の登録番号により適格請求書を発行します。

 

 

(4)事業を承継した者の適格請求書発行事業者登録

(2)と(3)の場合において、適格請求書発行事業者である被相続人(甲)の登録は、みなし登録期間後にその効力が失われます。したがって、相続人のA又はBが後継者として甲の事業を承継し、みなし登録期間後も適格請求書を交付しようとする場合は、その後継者が新たに登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があります(消法基本通達1-7-4)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/8/26)より転載

[解説ニュース]

遺産分割の違いによる相続税額のシミュレーション

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(吉濱 康倫/税理士)

 

 

[関連解説]

■株式交付制度の概要と活用時の留意点

■円滑な事業承継のための種類株式の活用

 

 


相続税申告においては、ニ次相続の相続税負担も考慮したうえで遺産分割を検討すべき場合があります。
以下、遺産分割の方法に応じ、一次相続・二次相続を合算した相続税額の試算を行いました。

(前提条件)

〇被相続人甲さんの相続財産5億円、相続人は配偶者(固有財産なし)と子1人。

 

<ケース1>

甲さんから配偶者と子が各2億5,000万円相当の財産を相続する場合
①一次相続の相続税額 7,605万円(相続税の総額1億5,210万円、配偶者の税額軽減7,605万円控除後)
②二次相続の相続税額 6,930万円
③一次相続・二次相続の相続税額の合計 ①+②=1億4,535万円

 

 

<ケース2>

甲さんから配偶者が1億円、子が4億円相当の財産を相続する場合
④一次相続の相続税額 1億2,168万円(相続税の総額1億5,210万円、配偶者の税額軽減3,042万円控除後)
⑤二次相続の相続税額 1,220万円
⑥一次相続・二次相続の相続税額の合計 ④+⑤=1億3,388万円

 

 

<解説>


一次相続において、配偶者の税額軽減前の相続税の総額は1億5,210万円、配偶者が法定相続分(1/2)相当の財産を相続することにより、配偶者の税額軽減を上限(相続税の総額の1/2)まで適用することができ、その適用後の相続税額7,605万円(①)が最も少ない税額となります。したがって、一次相続においては<ケース1>のように相続財産の1/2相当額を配偶者が相続するように遺産分割を行うケースが一般的です。

 

次に配偶者が亡くなった場合、配偶者に固有財産がなく、相続財産は甲さんから相続した2億5,000万円のみとした場合、二次相続に係る相続税額は6,930万円(②)となり、<ケース1>の一次相続・二次相続の相続税額の合計は1億4,535万円(③)となります。

 

一方<ケース2>では、一次相続において、二次相続における相続税負担を考慮した遺産分割を行っています。

 

具体的には、一次相続において、相続財産5億円のうち1億円(20%)を配偶者、4億円(80%)を子が相続することにしています。この遺産分割により<ケース1>に比べて配偶者の税額軽減額が減少することから、一次相続における相続税額は1億2,168万円(④)と、<ケース1>に比べて4,563万円増加します。しかし配偶者が亡くなった場合の二次相続に係る相続税額は1,220万円(⑤)と<ケース1>に比べて5,710万円減少します。以上により、一次相続・二次相続の相続税額の合計は1億3,388万円(⑥)となり<ケース1>の1億4,535万円(③)よりも1,147万円減少することになります。

 

<ケース1>に比べて<ケース2>の一次相続・二次相続の相続税額の合計額が減少する理由は、相続で取得した財産の金額に応じて税率が高くなるという、相続税の税率構造にあります。

 

<ケース2>では<ケース1>よりも配偶者が甲さんから取得する財産額が減少し(2.5億円-1億円=1.5億円)、配偶者の税額軽減額が減少することにより、一次相続では<ケース1>に比べて相続税額が増加します。しかし、<ケース2>では<ケース1>に比べて配偶者の相続財産額が2億5,000万円から1億円に減少することにより、二次相続に係る相続税について適用される最高税率が30%となり、<ケース1>の最高税率45%に比べて低くなることから、一次相続に係る相続税額の増加以上に二次相続に係る税額が減少することになります。

 

<ケース2>のような遺産分割は、一次相続の遺産分割協議中に配偶者が亡くなって二次相続が発生した場合や、配偶者が高齢でその固有財産が多額にあるような場合に検討される方法です。相続人の状況や意向によって、二次相続に係る相続税負担も考慮した遺産分割を検討すべき場合もありますので、注意が必要です。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/8/5)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】住宅取得等資金の贈与のあった年に贈与者が死亡した場合の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

■【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い

 

 

 

 


【問】

Aさん(35歳)は、自宅の建築資金として令和6年2月に父(70歳)より現金500万円の贈与を受けました。この500万円は、ハウスメーカーとの間で同年3月に自宅の建築請負契約を締結した際に、手付金に充当しました。自宅建物は同年3月末に完成し、Aさんは同月より居住しています。Aさんは、この500万円について、住宅取得等資金の非課税の適用を受けるつもりでした。ところが、上記500万円を手付金として支払った後の同年10月に、父が急死しました。父の財産を相続したAさんは、父に係る相続税を納めることになる見込みです。Aさんは過去、父からこの500万円以外に財産の贈与を受けておらず、令和6年中は父以外の人からも、財産の贈与を受ける予定はありません。
上記の場合において、Aさんが住宅取得資金として贈与を受けた金額の税務上の取扱いを教えてください。

【回答】

1.結論


Aさんが父から受けた贈与が住宅取得等資金の非課税制度の要件を満たす場合、Aさんが取得した500万円に贈与税・相続税は課税されません。

2.解説


(1)相続開始の年に被相続人から相続人への贈与があった場合の相続税法上の原則的な取扱い

①相続税の取扱い

 

相続又は遺贈(以下「相続等」)により財産を取得した個人が、その相続等の開始前7年以内*に、その相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合は、その者については、その贈与により取得した財産の価額(贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限ります。)が相続税の課税価格に加算されます。なお、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の価額は、加算された個人の相続税の計算上控除されることになります(相続税法(相法)19条第1項)。

 

*相続開始が令和6年の場合は、経過措置により「3年以内」となります(以下(2)において同じ)。

 

②贈与税の取扱い

①に対応する措置として、相続等により財産を取得した者が、相続開始の年において、その相続等に係る被相続人等から受けた贈与により取得した財産の価額で、前述の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、贈与税の課税価格には算入されません(相法21条の2第4項)。

 

①と②により、被相続人から相続により財産を取得した個人が、その相続開始の年に被相続人から贈与により取得した財産があった場合、その贈与により取得した財産には相続税が課税され、贈与税は課税されないことになります。

 

(2) 相続等により財産を取得した個人が、相続等の開始前7年以内に住宅取得等資金の贈与を受けた場合の住宅取得等資金に係る相続税の取扱い

その年の1月1日に18歳以上である等の一定の要件を満たす個人が、父母等の直系尊属から贈与により取得した自己の居住用の家屋の新築、取得又は一定の増改築等の対価に充てるための金銭(「住宅取得等資金」)を取得し、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を自己の居住の用に供する一定の家屋の取得等の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合は、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の上限額までは、贈与税が非課税とされます(租税特別措置法(措法)70条の2第1項等)。

 

相続等により財産を取得した個人が、その相続等の開始前7年以内(ただし相続開始が令和6年の場合、経過措置で3年以内)に、その相続等に係る被相続人等から住宅取得等資金の贈与を受け、かつ特定受贈者に該当する場合で、前述(2)①の適用を受けて贈与税の課税価格に算入されなかった金額(Aさんが贈与税の確定申告をして(2)①の制度の適用を受けた場合は、その500万円がこれに当たります。)は、前述の原則的な取扱いによらず、被相続人(贈与者)に係る相続税の計算上、課税価格に加算されないこと、つまり非課税となります(措法70条の2第3項及び措置法施行令40条の4の2第13項による相法19条第1項の読替え)。

(3)本問へのあてはめ


父から贈与を受けた現金500万円につきAさんが(2)①より贈与税の住宅取得資金等の非課税の適用を受けた場合、その500万円はAさんの贈与税の課税価格に算入されず、父に係る相続税の計算上、課税対象にもなりません。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/7/22)より転載

[解説ニュース]

非課税狙いの住宅資金贈与、直後に相続開始で資産売却したら相続税トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

 


1.はじめに


住宅取得等資金の贈与税の非課税制度(以下、住宅資金非課税制度と略称する)を利用して住宅取得資金をもらうと、相続税の節税になることは、よく知られたことです。資金を贈与した父母等の財産が減り、もらった資金は将来起こる相続における相続財産には加算されないからです。

 

しかし、そのためには住宅資金非課税制度の要件を充たすこと、同制度を受けるために確定申告することが必要となります。ただ、きちんと確定申告したとしても、無計画に相続直後に不動産などの財産を処分してしまうと、トラブルになることもあるようです。

 

 

2.売り急いだばかりに節税が台無し


住宅資金非課税制度は、父母・祖父母など直系尊属から満18歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の直系卑属である子や孫等が、所定の住宅を取得するための住宅取得等資金をもらう場合に、一定の限度額まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2第1項)。同制度は、住宅取得等資金を贈与された同じ年に、資金を提供した直系尊属が死亡し相続が開始した場合でも、贈与税の期限内申告を行えば適用が可能です。

 

このため直系尊属が近い将来の相続開始を予見し、住宅資金非課税制度を利用して住宅取得等資金を贈与した直後に、その親が死去、相続が開始するといった流れになることが、実はありがちです。一方で、資金をもらった子らは、遺産分割や相続税の支払いのため相続した不動産等をすぐに売却して資金化したい、そう考えるのも自然です。

 

ただ、すぐに売却に踏み切るのは考えものです。というのも、住宅資金非課税制度を適用する場合の要件には、資金をもらった人の「その年分の合計所得金額2,000万円以下であること」という「所得金額要件」を充たさなくなることがあるからです(租税特別措置法70条の2第2項第1号)。

 

その場合には、住宅資金非課税制度の適用がなくなる可能性があります。そればかりか、住宅資金非課税制度の適用がない生前贈与資金は、あとで相続財産に加算されて相続税の課税対象になってしまいます(租税特別措置法通達70の2-14、相続税法19条)。

 

 

3.合計所得金額要件を充たすかどうかを検討


したがって、住宅資金非課税制度の適用を受けるべく資金をもらった年に、資金をあげた親が亡くなったため不動産を相続した場合、その年にその不動産等を売ってもよいかどうかは、住宅資金非課税制度の合計所得金額2,000万円以下要件を充たすかどうかと、セットで検討する必要があるということになります。

 

なお「合計所得金額」とは何かについては、所得税法で規定されています(同法2条第1項第30号、同法22条第2項)。内容を簡単に確認するには、国税庁のHPの専門用語集の「合計所得金額」を見るのが良いでしょう。それによると、次のとおりです。

 

(筆者注:合計所得金額とは)
次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額(※1)、山林所得金額を加算した金額(※2)です。
(※1)退職所得金額は、確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があります。
(※2)申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

 

(1)事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)

 

(2)総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額(以下略)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/yogo/senmon.htm#word2

 

上記に従えば、「合計所得金額」には分離課税となる不動産の譲渡所得が含まれることがわかります。不動産を譲渡した場合の譲渡所得の計算は、次の計算式で求めることができます。

 

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額(売却代金等)–(取得費+譲渡費用)―特別控除額

 

合計所得金額に加算される金額は特別控除をする前の金額となります。

 

 

4.まとめ


住宅資金非課税制度の適用を受ける前提で資金贈与を受けた年に、不幸にも贈与者に相続が開始した場合には、亡くなった贈与者の節税の意図を踏みにじらないよう、相続した不動産等の売却は慎重に検討する必要があります。

時間やほかの諸条件が許せば、資産売却は次の年に繰り越してもよいのですから。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/7/9)より転載

[解説ニュース]

賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

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1.はじめに


ここ数年、マンションの売買価格が上昇しているとの報道をよく目にします。
実際、若干の凸凹はあるにしろ、平成17年から令和4年までの首都圏のマンションの価格指数は息の長い右肩上がりとなっています((一財)日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」)。

 

そこで、マンション投資で利殖を考える向きもあるでしょう。マンション投資といえば、サイドワークでマンションを賃貸して、不動産所得を得る、あるいは節税を図るのを狙いとするものがよく知られた方法です。

 

そこに価格上昇トレンドが加わると、投資の出口において積みあがった含み益をどのように手中におさめるか、なるべく税負担の少ない方法はないか、検討する向きも少なくないでしょう。

 

たとえば、賃貸マンションを自宅に転用して売却することで、自宅の売却なら「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(いわゆる3,000万円控除)」が利用できるのではないかといった具合です。お気持ちはよくわかります。

 

ただ、この方法は勇み足になりがちです。今回は、賃貸マンションを自宅転用したつもりで売却して税金トラブルになった国税不服審判所(以下、審判所という。)の裁決事例(令和3年4月2日)を紹介します。

 

 

2.事案の概要


この事案の事実関係の概要は次のとおりです。

 

①Aさん(審査請求人)は、平成21年にマンションを買い、翌22年に引渡しを受けた。

 

②Aさんは別途、このマンションとは別の場所に住宅を買っていた。

 

③Aさんは同マンションを平成23年から平成27年1月まで賃貸していた。

 

④空家になったマンションをAさんは業者に依頼してハウスクリーニングした。

 

⑤Aさんは、不動産業者に同マンションの売却につき相談する一方で、住民票を同マンションに移した。

 

⑥Aさんは平成27年5月に同マンションを売る契約をし、同年6月に引き渡した。

 

⑦同マンションは引渡し日基準で取得の日を選択していたので、売却益は短期譲渡所得となるため3,000万円控除を適用して確定申告した。

 

⑧税務調査を受け、調査官から3,000万円控除の適用はできないと指摘を受けた。その後、3,000万円控除を受けるために住民登録を移したことが「仮装」に当たるとして重加算税が課税された。

 

⑨Aさんは審判所に審査請求した。

 

 

3.審判所の判断


争点は、重加算税が課税される「仮装」があったかどうか(譲渡所得の長期・短期を判定する材料となる「取得の日」の選択に関する争点もありますが、割愛します)。

 

審判所は3,000万円控除の適用対象について法律上「短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいう」と解釈し、この判断方法は、「譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用実態(中略)の諸事情を総合的に考慮し社会通念に従って判断するのが相当」と説明しました。

 

また、「仮装」については、「…取引上の名義等あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲すること」としました。

 

これに基づいて審判所は次の事実を指摘しています。

 

ア. 平成27年1月の賃貸終了後から同年6月までの間電気・ガスの供給契約を締結していない。

 

イ. 水道使用量などは建物一括契約であったが、通常9,000円前後かかるところ、平成27年3月から6月までの費用は188円であった。

 

こうしたことから審判所は、「Aさん主張の居住の事実を「客観的に裏付ける証拠は見当たらない」とした上、Aさんが一時的に出入りし使用していたとしても、「客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点として使用していたとは認め難い(中略)居住実態はなかった」と認定しました。

 

さらにAさんが「自宅を売却した場合、住民票を提出すれば控除を受けられることを昔から知っていた」と答術していることから、このマンションに住民登録を移した目的は、このマンションに居住しておらず、その意思もないのに3,000万円「控除を適用するため異動した」と認定し、仮装があったと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/6/27)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■法人が土地と建物を一括取得した場合の法人税・消費税における適正な取得価額の区分

■【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

 


【問】

Bさんは、自身が所有の土地に夫が平成10年に建築した自宅(夫所有)で、夫とともに継続して住んでいました。令和6年3月に夫が自宅を取壊した後、Bさんは直ちに某上場会社とその敷地の譲渡契約を締結し、同年4月に引渡しました。この場合においてBさんは、その土地の譲渡に係る所得税の譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(措法)35条1項の特別控除 (以下「3,000万円控除」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


Bさんは措法通達35-4(下記2(1))および35-2(同(2))の要件をすべて満たしているので、3,000万円控除の適用を受けることができます。

2.解説


(1)自宅と敷地の所有者が異なる場合の3,000万円控除の適用

 

3,000万円控除は、個人が居住の用に供している家屋(自宅家屋)を譲渡することを核として設けられた特例であり、譲渡した家屋の所有者とその敷地の用 に供されている土地等の所有者が異なる場合には、 その土地等の譲渡については適用されないのが原則です。ただし、譲渡した自宅家屋の所有者とその敷地の所有者とが異なる場合であっても、次の①~③の要件の全てを満たす土地等の所有者の譲渡所得の計算においては、緩和措置として3,000万円控除の適用が認められています(措法通達35-4)。

 

①その家屋とともにその敷地の用に供されている  土地等の譲渡があったこと。

 

②その家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること。

 

③その土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住用として使用していること。

 

 

(2)自宅家屋の取壊し後にその敷地の譲渡契約を締結した場合の3,000万円控除の適用

 

3,000万円控除は、個人が自宅家屋(居住の用に供されなくなった家屋も含む)を譲渡することを前提として設けられている特例であり、居住の用に供していた土地等のみの譲渡に対して適用することは、原則認められていません。

 

ただし、所有者が自宅家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合に、その土地等の譲渡(家屋の取壊し後、その土地等の上にその土地等の所有者が建物等を建築し、当該建物等とともに譲渡する場合を除く。)が次に掲げる要件のすべてを満たすときは、緩和措置として3,000万円控除の適用が認められています(措法通達35-2)。

 

①その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。

 

②その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他の用に使用していない土地等の譲渡であること。

 

 

(3)本問における3,000万円控除の適用要件

 

前記(2)のとおり、売主が任意に自宅家屋を取壊し、その敷地の用に供されていた土地だけを譲渡した場合であっても、その譲渡が(2)①~②の要件をすべて満たしているときは、その土地のみの譲渡について、自宅家屋をその敷地の用に供されている土地とともに譲渡した場合に準じて3,000万円控除の適用を受けることができます。

 

この取扱いの趣旨からすれば、前記(1)①の「その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと」との要件は、家屋が現存する場合を前提とした要件と考えられるものの、(2)①~②のすべてを満たす土地等のみの譲渡については、(1)①の要件を満たすものとして取扱うべきと考えられます。

 

よって自宅家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合に、家屋所有者がその家屋を取壊した後、敷地所有者が土地のみを譲渡したときであっても、前記(2)の要件に該当すれば(1)①の要件を満たし、(1)の②と③の要件を満たすことにより、3,000万円控除の適用を受けることができると考えられます。

 

 

(4)本問へのあてはめ

Bさんは、上記(3)に掲げる要件を満たすことから、旧自宅の敷地の用に供されていた土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、3,000万円控除の適用を受けることができます(参考:平成22年6月29日高松国税局文書回答事例)

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/6/10)より転載

[解説ニュース]

店舗建物の貸主における消費税の2割特例の適用と、適用後の簡易課税選択届出の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

 

 


1.適格請求書等保存方式の概要


(1)借主における適格請求書等保存方式のポイント

消費税の納付税額は、原則、課税期間(個人事業者は原則その年1月1日~12月31日、法人はその事業年度)中の消費税が課税される取引(課税売上)に係る消費税額から、事業に係る資産の取得やサービスの提供を受けること(課税仕入れ等)に係る消費税額を控除(仕入税額控除)して計算します(消費税法30条。以下この課税方式を「原則課税」という)。

 

令和5年10月1日から、消費税の仕入税額控除の方式として、「適格請求書等保存方式」が導入されました。適格請求書等保存方式では、適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となります(同条9項)。したがって、店舗建物を賃借する借主が、支払家賃に係る消費税について仕入税額控除を行うためには、適格請求書の保存が必要になります。

 

 

(2)貸主における適格請求書等保存方式のポイント

適格請求書を交付できるのは、「適格請求書発行事業者」に限られます。店舗建物の貸主が借主の要請を受けて適格請求書発行事業者となる場合は、税務署長に申請して登録を受ける必要があります。適格請求書発行事業者の登録ができるのは、課税事業者のみです。

 

免税事業者(注)が適格請求書発行事業者の登録を受けるには、原則、「課税事業者選択届出書」を提出し、課税事業者となる必要があります。

 

ただし、令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、適格請求書発行事業者の登録申請書に登録希望日を記載することで、登録希望日から課税事業者となる経過措置が設けられています(28年改正法附則(改正法附則)44条4項、改正令附則15条2項、消費税法基本通達21-1-1)。この経過措置の適用を受ける場合は、課税事業者選択届出書を提出する必要はありません。

 

(注)基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年の法人の場合は、その事業年度の前々事業年度)における課税売上が1,000万円以下であることにより消費税の納税義務が免除されている事業者をいいます(消費税法9条1項)。

 

 

2.2割特例の概要


(1)概要

2割特例とは、その課税事業者の消費税の計算上、課税売上に対する消費税額から控除する仕入税額控除の金額を、特別控除税額(原則、課税売上に対する消費税額の8割相当額)とする特例です(改正法附則51条の2第1項、2項)。2割特例の適用を受けることにより、消費税の納税額が課税売上に対する税額の2割とされ、原則課税や簡易課税(注)に比べて税負担が大幅に軽減されます。
(注)基準期間の課税売上が5,000万円以下の事業者が、選択により課税売上に一定のみなし仕入率(不動産賃貸業は40%)を掛けて仕入税額控除の金額を計算する方法です(消費税法37条)。

 

 

(2)2割特例の適用期間と適用制限

2割特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの間の各課税期間となります。ただし、2割特例は、免税事業者が適格請求書発行事業者となることにより課税事業者に該当する場合を想定して設けられた特例であることから、基準期間における課税売上が1,000万円を超える課税期間は、適格請求書発行事業者とならなくとも課税事業者に該当するため、2割特例の適用を受けることはできません(改正法附則51条の2第1項)。

 

 

3.2割特例を適用した課税期間の翌課税期間に簡易課税を選択する場合の届出の特例


2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間につき、上記2(2)より、その基準期間における課税売上が1,000万円を超えるため同特例の適用を受けられない事業者が、その翌課税期間につき簡易課税を選択する場合は、次の特例が設けられています。

 

簡易課税により消費税の申告をする場合は、原則として、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(つまり、適用を受けようとする課税期間の前課税期間中に)に「簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります(消費税法37条第1項)。

 

ただし、2割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に税務署長に対し、その課税期間から簡易課税の適用を受ける旨を記載した「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合は、その課税期間の初日の前日に「簡易課税制度選択届出書」を提出したものとみなされます(改正法附則51条の2第6項)。つまり、簡易課税の適用を受けようとする課税期間(2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間)中に、その届出書を提出すればよいこととされています。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/5/27)より転載

[解説ニュース]

簡易課税制度選択届出済みを失念、ビル建替えで売上急減後トラブルなった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 


1.はじめに


世の中には「忘れたいこと」は少なくないでしょう。反対に「忘れてはいけないこと」もまた、数多くあります。

 

たとえば不動産の賃貸事業を行っている事業者の中には、創業当初に消費税の簡易課税制度選択届出書を税務署に提出して、消費税の事務負担を軽減しようと考えていた向きも少なくはないと思います。ただ業況が上向きで、消費税の本則課税で申告を続けている場合は、簡易課税を提出した昔のことは忘れがちなものです。

 

しかし、消費税の場合には、「忘れること」が税務上、許されないことがあります。今回は、消費税のトラブルの実例を紹介します。

 

 

2.事案の概要


この事案は、不動産の貸付等を主力とする不動産業者が30年近くも前に消費税の簡易課税制度選択届出書を提出していたことを忘れていたケースでトラブルになった事例です(東京地裁令和4年4月12日請求棄却、その後控訴棄却で確定)。

 

不動産業者は、ビルの建替え等で課税売上高が3,000万円弱となった基準期間に対応する課税期間について、簡易課税の適用を失念、本則課税の計算でおよそ2,500万円もの還付申告をしたところ、税務署から、その課税期間は簡易課税が強制適用されるとしておよそ480万円もの追徴を受けた事例です。

 

簡易課税制度とは、個人は前々年、法人は前々期間(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下である場合、課税期間の消費税計算について、「本則課税」とは異なり課税売上高に係る消費税額に、「みなし仕入率」を乗じて納付すべき消費税額を求める方法です。みなし仕入率は、6つの事業区分ごとに決められており、不動産業は第6種事業で、みなし仕入率は40%とされています。

 

「本則課税」は、課税売上高に係る消費税額から課税仕入れにかる消費税額を控除して納付すべき消費税額を求める方法です。簡易課税は、課税仕入れに係る消費税額を計算せずに済む点で、簡易といえます。

 

ただし、簡易課税を適用するには、適用したい課税期間前に所轄税務署に消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。反対に簡易課税の適用を受けたくない課税期間については、その課税期間が始まる前に消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出するのがルールです。

 

判決によると、事実の経過は次のとおりです。

①不動産業者は、平成元年に「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出していた。

 

②平成10年以降、売上高が高まり(5億円や2億円を超えたことはない)、消費税は「本則課税」で申告していた。

 

③平成20年頃、経理担当者の交代時に、売上が下がることが考えられず簡易課税の適用関係について引継ぎが行われなかった。

 

④課税期間の変更を行い、平成28年2月から平成29年1月の課税期間(問題の基準期間)とし、次に平成29年2月~同年3月31日までを1つの課税期間とし、次の課税期間を平成29年4月1日~平成30年3月31日(平成30年3月期・問題の課税期間)とした。

 

⑤基準期間中に、不動産業者は本社ビルの建替え等を行い、基準期間の課税売上高が3,000万円弱となり5,000万円を下回った。問題の課税期間は、本則課税計算で2,500万円ほどの還付申告をした。

 

⑥しかし税務署は、平成30年3月期の消費税につき、簡易課税を強制適用し、消費税等約480万円を追徴した。

 

 

3. 裁判所の判断 


東京地裁は、「事業者が事務負担の軽減を重視して簡易課税を選択し、やむを得ない事情がないのに提出期限までに消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなかった結果、ある課税期間の消費税額が、本則課税の場合に比べて予想以上に増加することが後に判明した場合であっても、遡って簡易課税の不適用を選択することができるわけではない」と説示しました。

 

そのうえで、東京地裁は「簡易課税制度選択届出書が提出されていることに気付かなかったこと」はやむを得ない事情に当たらないとして納税者の言い分を退けました。建物の建替え等の実行に伴って、売上高が大幅に減少するなど変動が、事前に予測されることがあります。その場合には、消費税について再検討する必要があります。たとえば過去に簡易課税届出等をしていないかどうか、引継ぎにミスはないか等々。ミスをして「忘れたいこと」にしないためにもチェックはしておきたいものです。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/5/13)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

■【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

 


【問】

Aさん夫婦は、平成10年に購入し、譲渡直前まで継続して居住していた練馬区の自宅(夫所有)とその敷地(Aさん持分1/4、夫の持分3/4の共有)を、令和6年3月に某上場会社に譲渡し、譲渡益4,800万円(全て敷地の譲渡益)が生じました。Aさんの夫は、この譲渡に係る所得税の計算上、租税特別措置法(措法)35条の居住用財産の譲渡に係る特別控除(以下「3,000万円控除」)と、31条の3の長期譲渡所得の課税の特例(以下「軽減税率」)の適用を受けるつもりです。以上の場合において、Aさんは自宅の譲渡に係る所得税の計算上、3,000万円控除と、軽減税率の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


Aさんについては3,000万円控除の適用はありませんが、軽減税率の適用があります。

2.解説


(1)自宅と敷地の所有者が異なる場合の3,000万円控除の適用

 

①概要
3,000万円控除は、個人が自己の居住用家屋と敷地を併せて譲渡した場合、一定の要件を満たすことにより譲渡所得の計算上、最高3,000万円が控除される特例です(措法35条第1項)。

 

3,000万円控除は、譲渡者が居住の用に供している家屋(自宅家屋)を核として設けられた特例であり(同第2項)、譲渡した家屋の所有者とその敷地の用に供されている土地等の所有者が異なる場合には、その土地等の譲渡については適用されないのが原則です。

 

しかし、譲渡した家屋の所有者とその敷地の所有者とが夫婦等の親族関係にあり、かつ、その家屋に同居し生計をーにしているときは、その家屋と敷地はーつの生活共同体の居住用財産とみて特例を運用するのが実情に即しているともいえます。そこで国税庁は、次のイ~ハの要件の全てを満たす土地等の所有者の譲渡所得の計算上、3,000万円控除の適用を認めています(措法通達35-4)。

 

イその家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと。

 

ロその家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること。

 

ハその土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住用として使用していること。

 

 

②控除額の計算
①の適用を受ける場合、控除額は居住用家屋の所有者と敷地の所有者と合わせて3,000万円が限度となります。この場合、控除額を差し引く順序は、まず家屋の所有者、続いて敷地の所有者とされます。

 

 

(2)自宅と敷地の所有者が異なる場合の軽減税率の適用

 

軽減税率は、個人が自己の居住用家屋と敷地を併せて譲渡した場合、一定の要件を満たすことにより長期譲渡所得に係る所得税の計算上、通常より低い税率を適用する特例です(措法31条の3第1項)。

 

軽減税率は、3,000万円控除と同じく讓渡者の自宅家屋を核として設けられた特例であり(同第2項)、譲渡した自宅家屋の所有者とその敷地の用に供されている土地等の所有者が異なる場合は、その土地等の譲渡には適用されないのが原則です。

 

しかし国税庁は、前述(1)①の下線部と同じ趣旨から、次のイ~ハの要件の全てを満たしている土地等の所有者が、譲渡した自宅家屋の所有者とともにその適用を受ける旨の申告をした場合に限り、軽減税率の適用を認めています(措法通達31の3-19)。

 

イ譲渡した自宅家屋(以下「譲渡家屋」)の敷地の用に供されている土地等(以下「譲渡敷地」)は、譲渡家屋とともに譲渡されていること。

 

口譲渡家屋の所有者と譲渡敷地の所有者とが親族関係を有し、かつ生計を一にしていること。

 

ハ譲渡家屋は、その家屋の所有者が譲渡敷地の所有者とともに、その居住の用に供している家屋であること。

 

 

(3)本件へのあてはめ

 

Aさんは(1)①イ~ハの要件を満たすものの、②より控除額は居住用家屋の所有者(夫)の控除額と合わせて最高3,000万円で、夫の譲渡所得から先に控除されます。夫の譲渡所得の控除前の金額(譲渡益)は4,800万円×3/4(持分)=3,600万円であり、その金額の計算上3,000万円全額が控除されるため、Aさんには3,000万円控除の適用はありません。

 

一方、自宅敷地の長期譲渡所得に係る所得税の軽減税率については、譲渡した自宅家屋の所有者の夫がその適用を受け、Aさんが(2)イ~ハの要件を満たすことから、適用があります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/4/22)より転載

[解説ニュース]

相続財産譲渡時の取得費加算の特例で加算される相続税額で争いになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

 

 


1.はじめに


相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(以下、取得費加算の特例という。)は、財産を相続した後に相続税の支払いなどの資金需要が生じ相続財産を譲渡する際に、相続税の一部を取得費に加算することで譲渡所得課税を軽減できる制度です。

 

①相続や遺贈により財産を取得した人に、②相続税が課税されており、③相続財産を相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡する場合に、所定の書類を添付の上確定申告すれば適用があります。
情報公開で明らかになった国税庁の資料によると、適用件数はこのところ年々増加、直近(令和3年7月から令和4年6月まで)の適用件数は、20,352件に上り過去最高となっています。これに伴い、取得費加算の特例をめぐる税金トラブルも散見される状況です。

 

今回は、相続した土地に借地権を設定して得た権利金に係る譲渡所得の計算上、取得費加算の特例の計算で争いになった事例(東京地裁令和3年10月12日判決)を取り上げます。

 

 

2.事案の概要


この事案の経緯は、次のとおりです。

 

(1)原告納税者らは、養母が亡くなり、もともとビルの建っている土地(所在地の借地権割合は90%)を相続により取得した。

 

(2)相続税の申告に関しては、税務署が問題の土地の評価額について貸家建付地として再評価し、相続税を減額更正した。

 

(3)相続後、原告らは自ら代表を務める不動産会社にその土地に建っている建物を譲渡するとともに、借地権を設定した。権利金は合計で約49億円。

 

(4)権利金は相続土地の価額の2分の1を超えていたことから、原告らが長期譲渡所得として、相続税の取得費加が額を計算して申告。

 

(5)税務署は譲渡所得の計算上取得費として加算された相続税額について、貸家建付借地権の評価方法に基づき算定した金額として上記申告を一部否認したことで、原告らは国税不服審判所で争ったところ、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」は、貸家建付地としての土地の評価額に、借地権割合である90%を乗じた金額と判断された。

 

(6)原告はこれを不服として出訴した。

 

 

3.裁判所の判断


主な争点は、譲渡所得に係る取得費加算額を計算するに当たり、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」を土地の相続税評価額に100分の90を乗じた金額とすることの適否です。

 

取得費に加算される相続税額は、譲渡した相続財産に対応する相続税額です。
具体的には現行制度上、譲渡した財産以外にも相続財産がある場合には相続税の計算の基礎となった財産の評価額と加算される贈与財産の合計額(当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額)に占める譲渡資産の評価額の割合を譲渡した人の払った相続税に乗じて求めます。

 

東京地裁は、法令や同制度のこれまでの改正動向から「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」とは、相続税の課税価格の計算の基礎に算入された価額のうち譲渡をした相続財産に対応する部分をいうものであることは明らかしと認めました。

 

そのうえで東京地裁は、この事案において「譲渡をした資産」が借地権であることは、当事者間に争いがないものとして次のような指摘をしました。

 

①借地権を設定した土地が、相続開始時及び借地権設定時において借地権割合が90%の地域にあった

 

②相続税の減額更正において本件各土地の相続税評価額は、いずれも評価通達26に定める貸家建付地として評価されたものであること
こうしたことから、東京地裁は、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」は貸家建付地としての土地の評価額に、借地権割合である90%を乗じた金額としたことは相当であると判断しています。

 

原告は、自用地としての評価額に借地権割合を乗じて求めた金額を取得費加算額を計算する場合の当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額とすることが妥当だと主張していました。

 

これに対し東京地裁は、原告主張の計算を認めると、「譲渡所得が課税されていない底地部分についても取得費加算の対象に含めることを認めることとなる」として、譲渡所得に係る「当該譲渡をした資産」が借地権であるという実体を適正に反映しておらず制度趣旨及び改正経緯等に反するものであるとして原告の主張を退けています。

 

この裁判の判断は控訴審でも維持されています。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/4/8)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】契約者の変更があった生命保険契約に係る死亡保険金等の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■令和5年度税制改正:贈与税の相続時精算課税の見直し

■相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

 

 

 


【問】

Aさんは、X保険会社と平成30年に被保険者を子B、死亡保険金受取人を孫C(Bの子)とする生命保険契約を締結し(解約返戻金あり)、保険料を一時払いしました。なお、同契約については令和6年1月に契約者がAさんから子Bに変更されています。
この生命保険契約に係る課税関係について、以下の通りお尋ねします。

【問1】

令和6年の契約者変更時においては、どのような課税関係が生じるのでしょうか。

【問2】

令和6年の契約者変更後、Aが存命中に子Bが死亡し、孫Cが死亡保険金を取得した場合、どのような課税関係が生じるのでしょうか。

【問3】

令和6年の契約者変更後、子Bが存命中にAが死亡した場合、どのような課税関係が生じるのでしょうか。

【問4】

【問3】のA死亡後に子Bが死亡し、孫Cが死亡保険金を取得した場合、どのような課税関係が生じるのでしょうか。

【回答】

1.結論


(1)【問1】の場合、契約者変更時には課税関係は生じません。

 

(2)【問2】の場合、Aから孫Cに贈与があったものとみなされ、Cに贈与税が課税されます。

 

(3)【問3】の場合、Bが旧契約者のAから生命保険契約に関する権利を相続により取得したものとみなされ、Bに相続税が課税されます。

 

(4)【問4】の場合、被相続人かつ契約者の子Bが、Aの支払った保険料を負担したものとされ、孫CはBから死亡保険金を相続により取得したものとみなされて、Cに相続税が課税されます。

 

 

2.解説


(1)【問1】の課税関係

 

相続税法では、被保険者の死亡により保険事故が発生した場合に、死亡保険金受取人が保険料を負担していないときは、保険料の負担者から保険金を相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなして課税する旨を定めています(同3条、5条)。

 

一方、保険料を負担していない保険契約者の地位は、相続税・贈与税の課税上は財産的価値のあるものとは考えられておらず、契約者が保険料を負担している場合であっても、契約者が死亡しない限り課税関係は生じないものとしています。

 

したがって契約者の変更があった場合、その変更時に新契約者のBに贈与税等が課税されることはありません(参考:国税庁質疑応答事例「生命保険契約について契約者変更があった場合」)。

 

 

(2)【問2】の課税関係

 

【問2】の場合は、その保険契約に係る保険料の全部が保険金受取人C以外のAによって負担されているので、その保険事故(被保険者Bの死亡)が発生した時において、保険金受取人Cが、その取得した保険金の全額をAから贈与により取得したものとみなされ、Cに贈与税が課税されます(相続税法5条1項)。

 

 

(3)【問3】の課税関係

 

【問3】の場合は、まだ保険事故(被保険者Bの死亡)が発生していない中、その保険契約に係る保険料の全額を負担したAが死亡し、かつ死亡したA以外の者(B)がその生命保険契約の契約者であるため、Bがその生命保険契約に関する権利(解約返戻金請求権等)をAから相続により取得したものとみなされ、Bに相続税が課税されます(相続税法3条1項3号)。

 

この場合の生命保険契約に関する権利については、Aの相続開始の時に、その契約を解約するとした場合に支払われる解約返戻金の額により評価されます(財産評価基本通達214)。

 

 

(4)【問4】の課税関係

 

上記(3)のとおり、Bがその生命保険契約に関する権利をAから相続により取得したものとみなされた場合、そのみなされた時以後はAが支払った保険料はBが自ら負担したものとみなされます(相続税法基本通達3-35)。

 

したがって【問4】の場合は、Bの死亡によりBが保険料の全額を負担した死亡保険金を相続人のCが取得したことになるので、CがBからの相続により死亡保険金を取得したものとみなされ、Cに相続税が課税されます(相続税法3条1項1号)。また[500万円×法定相続人の数]を限度額とする、死亡保険金に係る相続税の非課税規定の適用対象とされます(同12条1項5号)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/3/25)より転載

[解説ニュース]

売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

■マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

 


1.はじめに


売却する不動産に遺品が残っている場合があります。これら遺品の整理業務については、最近では専門の遺品整理業者が多数存在しており、それだけニーズが多い状況であることがわかります。

 

それもそのはず、遺品を残したままでの引渡しでは買主が通常、嫌がるからです。当然、売買契約書では、遺品の整理について売主側での処理を前提に引渡しを実行する契約を締結することが良く行われるようです。

 

この場合、売主側で気になるのが、遺品の片付け・整理費用が税務上、譲渡費用になるかどうかという点です。最近、この点を争点として、結論として遺品片付け費用が譲渡費用と認められなかった裁決事例が明かになっています(国税不服審判所、令和5年9月11日)。今回はこれを紹介します(本件はこれ以外の争点もありますが、割愛します)。

 

 

2.事案の概要


請求人Aさんは、父親と母親から賃貸不動産(土地・建物)と親と住んでいた住宅(土地・建物)などを相次いで相続し、平成30年7月に買主との間で、上記不動産を売却する旨の契約を締結し、平成31年1月25日、上記不動産を買主に引き渡しました。

 

その際、建物の中に残存していた遣品の片付け費用として300,000円を支払い、遺品は、Aさんが引き取り、自宅で保管していたといいます。

 

申告では、添付した「譲渡所得の内訳書」には、上記不動産を譲渡するために支払った譲渡費用として、仲介手数料及び収入印紙代のほか、遺品片付け費用300,000円等がそれぞれ記載されていました。

 

 

3.税務署の対応


所轄の税務署は、令和3年に調査し、「遺品片付け費用は譲渡所得の計算上、讓渡費用には該当しない」として所得税の更正処分・過少申告加算税の賦課決定をしたところ、これを不服としてAさんが国税不服審判所(以下、「審判所」という。)へ審査請求したものです。

 

 

4.審判所の判断


争点は、遺品片付け費用は、不動産の譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に当たるか否か。

 

審判所は、「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみて、その譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものであると解される」と譲渡費用についての基本的な考え方を示しました。

 

次に審判所は、所得税基本通達33−7について、「譲渡費用とは、資産の譲渡のために直接要した費用及び当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいうものと定めた上で、当該資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する旨定めている」と指摘し、譲渡費用の基本的な考え方に沿うものとしました。これを前提に審判所は、次のような事実関係を指摘しています。

 

「売買契約における特約事項(動産の撤去の特約)においては、不動産の建物内に構築物、動産がある場合は、不動産の引渡日までに売主(請求人)の責任と負担において処分・除去するものとし、また、不動産の引渡し時において残存する構築物、動産等一切について、売主(請求人)はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主(本件譲受人)による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められている」。

 

また、買主の取締役が答えたところによると「上記特約は不動産を売買する場合に一般的に使用する条項」だといいます。
これを受けて審判所は、Aさんがした遺品片付けは「特約事項に基づいて、請求人の責任と負担においてされたもの」と認定しましたが、「売買契約における代金に対し請求人の主張する遺品片付け費用は300,000円にすぎない」こともあって、「不動産の引渡し時において残存する構築物や動産等一切について、売主はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められていることからすると、仮に遺品の片付けがされていなかったとしても、特約事項を理由に、不動産の譲渡が実現しなかったとは認め難い」としました。

 

さらに審判所は「遺品は請求人が引き取り、自宅で保管している」ことも指摘し、最終的に「遺品を整理する目的で遺品片付け費用を支出したとみるのが相当であり、特約事項の内容に照らしても、客観的にみて、譲渡を実現するために遺品片付け費用が必要であったとは認められない」と判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/2/26)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■マンションの相続税評価が時価の6割水準めどに引上げへ

■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

 

 

 


【問】

甲さんは、区分所有マンションを3戸所有し、賃貸の用に供しています。甲さんの所得税に係る不動産所得の金額の計算上、マンションの管理組合に支払う修繕積立金は必要経費に算入できますか。

【回答】

1.結論


甲さんが下記2(2)②で述べる事実関係の下で修繕積立金の支払いをしている場合は、その支払期日の属する年分の必要経費に算入することができます。

2.解説


(1)不動産所得の計算上控除する必要経費

 

①必要経費の範囲

 

所得税の不動産所得の金額の計算上、不動産賃貸の用に供している不動産について生じた費用の額は、必要経費に算入されます。ただし、減価償却費を除き、その年12 月31 日現在で債務の確定しているものに限られます(所得税法37条1項)。

 

②債務の確定要件

 

上記①の「債務が確定しているもの」は、原則、次のイ~ハの全ての要件を満たしているかどうかに基づいて判定されます(所得税法基本通達37-2)。

 

イ.その年12月31日までに、費用に係る債務が成立していること。

 

ロ.その年12月31日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

 

なお、「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」とは、役務提供や給付などの原因が現に生じていることをいいます。例えば、個人が支払った修繕積立金であれば、マンション管理規約上において、大規模修繕に充てるため毎月支払うべきものとされていますが、支払いの段階では現実にその修繕が行われていない以上、この要件は満たさないので、必要経費に算入できないことになります。

 

ハ.その年12月31日までに、その金額を合理的に算出することができるものであること。

 

(2)マンション管理組合に支払い修繕積立金の取扱い

 

①原則的な取扱い

 

マンションの修繕積立金とは、その共用部分につき、将来行うことが見込まれる大規模修繕等の費用の額に充てるため、その区分所有者から月々の管理費と併せて支払われ、管理組合において長期間にわたり計画的に積み立てられているものです。

 

マンションの区分所有者が修繕積立金として管理組合に支払った金額は、実際に修繕等が行われていない限り、前述(1)②ロの具体的な給付をすべき原因となる事実(現実に修繕等が行われていること)が発生していないことから、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入することができないことになります。管理組合への支払後、実際に修繕等が行われたときに、その費用の額に充てられた部分(規約に別段の定めがない場合、その共有部分に応じて算出)の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されます。

 

 

②支払年分の必要経費に算入できる場合

 

しかし、修繕積立金はマンションの区分所有者となった時点で管理組合へ義務的に納付しなければならないものであり、管理規約において納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り、区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)60条6項)。このため、通常は返還されない修繕積立金を支払ったにもかかわらず支払った年分の必要経費に算入できず、実際に修繕を行った年分まで必要経費への算入を待たないといけないというのは、実情に合わないともいえます。

 

そこで国税庁では、「質疑応答事例」において特例的な取扱いを示し、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、上記(2)①にかかわらず、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えない、としています。

 

イ.区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること。

 

ロ.管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと。

 

ハ.修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと。

 

ニ.修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/2/13)より転載

[解説ニュース]

親の駐車場を使用貸借で借りた子の賃料収益に贈与税の賦課決定

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■親の駐車場を使用貸借で子が借りた場合の駐車場収入の帰属

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 

 

 


1.はじめに


土地を持つ資産家の親が始めた貸駐車場の土地を子へ無償で使用貸借して、貸駐車場の収益を子に移転し、家族全体で「所得分散」し節税しようと実行した事案がありました。

 

同事案は、大阪高裁で駐車場から上がる所得について結局、その帰属は親だと判断し申告を漏らした親への追徴を認める判決が確定しています。(令和4年7月20日、タクトニュース№899参照)。そこで、親の帰属となった駐車場の収益は、子への贈与となるのかどうかが、専門家の間で注目されることになりました。
こうしたなか、上記事案に関連する贈与税の賦課決定をめぐる裁決があったことがわかりました(令和 5年6月13日)

 

 

2.事案の概要


この事案は親から長男が3筆合計1,800㎡ほどの土地を平成26年2月、使用貸借契約を締結、親の行っていた貸駐車場事業を承継し、そのまま駐車場として第三者に賃貸したケースです。

 

背景には、専門家によるアドバイスで親から子への所得分散により節税する意図があったとされます。しかし土地を使用貸借し、その土地の又貸しで得た収益は、実務上土地の所有者に帰属するとされています。

 

そこで、この資産家は土地の償却資産となるアスファルトを敷き、その所有権を子に贈与するとともに土地を使用貸借することを考えました。
貸家を子に贈与するとともに、その敷地を使用貸借したケースでは、貸家の家賃は、子に帰属することになる扱いだからです。

 

 

3.税務署の対応


税務署は、土地に敷かれたアスファルトは土地と異なる独立した所有権が成立する余地はないとして、アスファルトの贈与を受けた子供がした贈与税の申告を税額0円で減額更正しました。

 

そのうえで税務署は長男に対し、駐車場収益は親(被相続人)に帰属していると認められるため、駐車場に係る賃貸料収入が長男の振込口座に振り込まれたことによって、長男の財産が増加していることは、相続税法第9条にいう対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するとして、長男に対し贈与税や無申告加算税等の更正または決定(以下、賦課決定等)をしました。

 

これに長男が国税不服審判所(以下、審判所という。)に贈与税の賦課決定等の取消を求めて審査請求したのです。

 

 

4.審判所の判断


争点は、直接的には長男が駐車場に係る賃貸料収入を受領したことによる財産の増加は、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するか否かです。この判断をするには駐車場収益が、長男(請求人)に帰属するか否かも問題になってきます。そこで審判所は、まず実質所得者課税の原則(所得税法12条)で駐車場収入の帰属がだれかを固め、それが長男ではないとした場合には、親から贈与されたものとみなして贈与税の課税が適法かどうかと2段階の判断が求められることになりました。

 

審判所は、実質所得者課税の原則について「担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合には、後者を収益の帰属者とするというものと解される」と上記の大阪高裁の考え方を踏襲しました。

 

すなわち駐車場収益について、長男は「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、被相続人がその収益を享受する場合に当たるか否かを検討したのです。
具体的には審判所は、最終的に「使用貸借契約等の取引は、被相続人が本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である請求人に移転させたものと評価できる」とし、「使用貸借等の取引は、被相続人の相続に係る相続税対策を主たる目的として、被相続人の存命中は、各土地の所有権は飽くまでも被相続人が保有することを前提に、各土地による被相続人の所得を子である請求人に形式上分散する目的で、請求人に対して本件使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。(中略)各駐車場収益を支配していたのは被相続人というべきであるから、当該収益について、請求人は単なる名義人であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たる」と判断しました。

 

この判断に基づき審判所は、「被相続人に帰属する各駐車場に係る賃貸料収入を長男が受領し、長男の財産が増加していることは、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」場合に該当するというべきである」として、税務署の贈与税の賦課決定等を支持しました。これで、駐車場土地の使用貸借による所得分散・節税策は親の申告漏れの追徴と、子への贈与税の賦課決定でひとまず区切りがつくことになったのです。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/1/29)より転載

[解説ニュース]

配偶者から贈与を受けた自宅を譲渡した場合の贈与税の配偶者控除の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

■【Q&A】相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

 

 

 


【問】

Aさんは、婚姻期間20年以上の夫から同居していた夫名義の住宅(自宅)の贈与を受けました。Aさんはその贈与を受けた時点ではその住宅に継続して居住するつもりでしたが、贈与後、夫が病気で入院し、その治療や介護の都合から贈与を受けてから短期間でその住宅を譲渡することになりました。Aさんは夫からの自宅の贈与について、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)の適用を受けることを考えていますが、認められるでしょうか。

【回答】

1.結論


自宅の贈与を受けた時点までに、その自宅の譲渡が予め計画されておらず、贈与から譲渡までの間の後発的な状況の変化から、受贈者のAさんがやむを得ず自宅を譲渡することになったときは、適用を受けることができます。

2.解説


(1)制度の概要

 

贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、専ら居住の用に供する家屋やその敷地等(以下、「居住用不動産」)又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合において、一定の要件を満たすときは、暦年課税の贈与税の計算上、基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで課税価格から控除できる税制です。この適用を受けるためには、次の要件を満たすことが必要です。

①婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間(以下「婚姻期間」)が20年以上の夫婦間で贈与が行われたこと

 

②個人が配偶者から贈与された財産が、贈与を受けた個人が住むための国内の居住用不動産、又は居住用不動産を取得するための金銭であること

 

③贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること(以下、この要件を「居住継続見込み要件」という。)

 

④同じ配偶者からの贈与について、過去に贈与税の配偶者控除の適用を受けたことがないこと

 

⑤贈与税申告書に必要書類を添えて提出すること。

 

 

(2)「居住継続見込み要件」による受贈後の居住用不動産の譲渡の制限

 

贈与税の配偶者控除の適用を受けるための要件に「居住継続見込み要件」があることから、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合でも、贈与による取得後にその居住用不動産を他へ譲渡することを予定していたときは、「引き続き居住の用に供する見込み」に該当しないため、贈与税の配偶者控除の適用が認められません。

 

 

(3)「居住継続見込み要件」の判定時期

 

(2)の居住継続見込み要件の判定時期については、贈与税の配偶者控除を規定する相続税法やその関係法令・通達では、明確に定められていません。しかし、贈与税の配偶者控除の文理や、贈与税が贈与の時点で納税義務が成立することや、前記1(1)①の婚姻期間が20年以上である配偶者に該当するか否かの判定が、財産の贈与の時の現況により判断することから、配偶者が居住用不動産又は居住用不動産の取得資金の贈与を受けた時点において、居住継続見込み要件が満たされているか否かを判定することになると考えられます。

 

なお、この判定時期の考え方については、配偶者から居住用不動産又は居住用不動産の取得資金を贈与により取得後、短期間で譲渡した場合の贈与税の配偶者控除の適用の可否について国税不服審判所で争われた事例があり、その裁決(大裁(諸)平24第68号平成25年5月8日)においても、居住用不動産の贈与を受けた時点において、その不動産を「引き続き居住の用に供する見込み」であったか否かの判定をすることが相当とされています。

 

 

(4)あてはめ

Aさんが贈与を受けた時点でその住宅に継続して居住するつもりであったことや、贈与を受けた後、夫の病気の治療・介護の都合という後発的な状況の変化からやむを得ずその住宅を譲渡するに至ったと考えられることから、Aさんの贈与税の配偶者控除の適用は認められるべきものと考えられます。

 

なお、Aさんが贈与を受けた時点でその住宅に継続して居住するつもりはなく、贈与を受けた後に短期間でその住宅を譲渡することが贈与時点までに予め計画されていたものであるときは、居住継続見込み要件は満たさないことになり、適用を受けることができません。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/1/15)より転載