[解説ニュース]

売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

■マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

 


1.はじめに


売却する不動産に遺品が残っている場合があります。これら遺品の整理業務については、最近では専門の遺品整理業者が多数存在しており、それだけニーズが多い状況であることがわかります。

 

それもそのはず、遺品を残したままでの引渡しでは買主が通常、嫌がるからです。当然、売買契約書では、遺品の整理について売主側での処理を前提に引渡しを実行する契約を締結することが良く行われるようです。

 

この場合、売主側で気になるのが、遺品の片付け・整理費用が税務上、譲渡費用になるかどうかという点です。最近、この点を争点として、結論として遺品片付け費用が譲渡費用と認められなかった裁決事例が明かになっています(国税不服審判所、令和5年9月11日)。今回はこれを紹介します(本件はこれ以外の争点もありますが、割愛します)。

 

 

2.事案の概要


請求人Aさんは、父親と母親から賃貸不動産(土地・建物)と親と住んでいた住宅(土地・建物)などを相次いで相続し、平成30年7月に買主との間で、上記不動産を売却する旨の契約を締結し、平成31年1月25日、上記不動産を買主に引き渡しました。

 

その際、建物の中に残存していた遣品の片付け費用として300,000円を支払い、遺品は、Aさんが引き取り、自宅で保管していたといいます。

 

申告では、添付した「譲渡所得の内訳書」には、上記不動産を譲渡するために支払った譲渡費用として、仲介手数料及び収入印紙代のほか、遺品片付け費用300,000円等がそれぞれ記載されていました。

 

 

3.税務署の対応


所轄の税務署は、令和3年に調査し、「遺品片付け費用は譲渡所得の計算上、讓渡費用には該当しない」として所得税の更正処分・過少申告加算税の賦課決定をしたところ、これを不服としてAさんが国税不服審判所(以下、「審判所」という。)へ審査請求したものです。

 

 

4.審判所の判断


争点は、遺品片付け費用は、不動産の譲渡所得の金額の計算上控除される譲渡費用に当たるか否か。

 

審判所は、「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、一般的、抽象的に当該資産を譲渡するために当該費用が必要であるかどうかによって判断するのではなく、現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的にみて、その譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきものであると解される」と譲渡費用についての基本的な考え方を示しました。

 

次に審判所は、所得税基本通達33−7について、「譲渡費用とは、資産の譲渡のために直接要した費用及び当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用をいうものと定めた上で、当該資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する旨定めている」と指摘し、譲渡費用の基本的な考え方に沿うものとしました。これを前提に審判所は、次のような事実関係を指摘しています。

 

「売買契約における特約事項(動産の撤去の特約)においては、不動産の建物内に構築物、動産がある場合は、不動産の引渡日までに売主(請求人)の責任と負担において処分・除去するものとし、また、不動産の引渡し時において残存する構築物、動産等一切について、売主(請求人)はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主(本件譲受人)による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められている」。

 

また、買主の取締役が答えたところによると「上記特約は不動産を売買する場合に一般的に使用する条項」だといいます。
これを受けて審判所は、Aさんがした遺品片付けは「特約事項に基づいて、請求人の責任と負担においてされたもの」と認定しましたが、「売買契約における代金に対し請求人の主張する遺品片付け費用は300,000円にすぎない」こともあって、「不動産の引渡し時において残存する構築物や動産等一切について、売主はその所有権を放棄するものとし、引渡し後、それらの買主による処分について何らの異議を申し立てないものとする旨が定められていることからすると、仮に遺品の片付けがされていなかったとしても、特約事項を理由に、不動産の譲渡が実現しなかったとは認め難い」としました。

 

さらに審判所は「遺品は請求人が引き取り、自宅で保管している」ことも指摘し、最終的に「遺品を整理する目的で遺品片付け費用を支出したとみるのが相当であり、特約事項の内容に照らしても、客観的にみて、譲渡を実現するために遺品片付け費用が必要であったとは認められない」と判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/2/26)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■マンションの相続税評価が時価の6割水準めどに引上げへ

■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

 

 

 


【問】

甲さんは、区分所有マンションを3戸所有し、賃貸の用に供しています。甲さんの所得税に係る不動産所得の金額の計算上、マンションの管理組合に支払う修繕積立金は必要経費に算入できますか。

【回答】

1.結論


甲さんが下記2(2)②で述べる事実関係の下で修繕積立金の支払いをしている場合は、その支払期日の属する年分の必要経費に算入することができます。

2.解説


(1)不動産所得の計算上控除する必要経費

 

①必要経費の範囲

 

所得税の不動産所得の金額の計算上、不動産賃貸の用に供している不動産について生じた費用の額は、必要経費に算入されます。ただし、減価償却費を除き、その年12 月31 日現在で債務の確定しているものに限られます(所得税法37条1項)。

 

②債務の確定要件

 

上記①の「債務が確定しているもの」は、原則、次のイ~ハの全ての要件を満たしているかどうかに基づいて判定されます(所得税法基本通達37-2)。

 

イ.その年12月31日までに、費用に係る債務が成立していること。

 

ロ.その年12月31日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

 

なお、「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」とは、役務提供や給付などの原因が現に生じていることをいいます。例えば、個人が支払った修繕積立金であれば、マンション管理規約上において、大規模修繕に充てるため毎月支払うべきものとされていますが、支払いの段階では現実にその修繕が行われていない以上、この要件は満たさないので、必要経費に算入できないことになります。

 

ハ.その年12月31日までに、その金額を合理的に算出することができるものであること。

 

(2)マンション管理組合に支払い修繕積立金の取扱い

 

①原則的な取扱い

 

マンションの修繕積立金とは、その共用部分につき、将来行うことが見込まれる大規模修繕等の費用の額に充てるため、その区分所有者から月々の管理費と併せて支払われ、管理組合において長期間にわたり計画的に積み立てられているものです。

 

マンションの区分所有者が修繕積立金として管理組合に支払った金額は、実際に修繕等が行われていない限り、前述(1)②ロの具体的な給付をすべき原因となる事実(現実に修繕等が行われていること)が発生していないことから、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入することができないことになります。管理組合への支払後、実際に修繕等が行われたときに、その費用の額に充てられた部分(規約に別段の定めがない場合、その共有部分に応じて算出)の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されます。

 

 

②支払年分の必要経費に算入できる場合

 

しかし、修繕積立金はマンションの区分所有者となった時点で管理組合へ義務的に納付しなければならないものであり、管理規約において納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り、区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)60条6項)。このため、通常は返還されない修繕積立金を支払ったにもかかわらず支払った年分の必要経費に算入できず、実際に修繕を行った年分まで必要経費への算入を待たないといけないというのは、実情に合わないともいえます。

 

そこで国税庁では、「質疑応答事例」において特例的な取扱いを示し、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、上記(2)①にかかわらず、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えない、としています。

 

イ.区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること。

 

ロ.管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと。

 

ハ.修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと。

 

ニ.修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/2/13)より転載

[解説ニュース]

親の駐車場を使用貸借で借りた子の賃料収益に贈与税の賦課決定

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■親の駐車場を使用貸借で子が借りた場合の駐車場収入の帰属

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 

 

 


1.はじめに


土地を持つ資産家の親が始めた貸駐車場の土地を子へ無償で使用貸借して、貸駐車場の収益を子に移転し、家族全体で「所得分散」し節税しようと実行した事案がありました。

 

同事案は、大阪高裁で駐車場から上がる所得について結局、その帰属は親だと判断し申告を漏らした親への追徴を認める判決が確定しています。(令和4年7月20日、タクトニュース№899参照)。そこで、親の帰属となった駐車場の収益は、子への贈与となるのかどうかが、専門家の間で注目されることになりました。
こうしたなか、上記事案に関連する贈与税の賦課決定をめぐる裁決があったことがわかりました(令和 5年6月13日)

 

 

2.事案の概要


この事案は親から長男が3筆合計1,800㎡ほどの土地を平成26年2月、使用貸借契約を締結、親の行っていた貸駐車場事業を承継し、そのまま駐車場として第三者に賃貸したケースです。

 

背景には、専門家によるアドバイスで親から子への所得分散により節税する意図があったとされます。しかし土地を使用貸借し、その土地の又貸しで得た収益は、実務上土地の所有者に帰属するとされています。

 

そこで、この資産家は土地の償却資産となるアスファルトを敷き、その所有権を子に贈与するとともに土地を使用貸借することを考えました。
貸家を子に贈与するとともに、その敷地を使用貸借したケースでは、貸家の家賃は、子に帰属することになる扱いだからです。

 

 

3.税務署の対応


税務署は、土地に敷かれたアスファルトは土地と異なる独立した所有権が成立する余地はないとして、アスファルトの贈与を受けた子供がした贈与税の申告を税額0円で減額更正しました。

 

そのうえで税務署は長男に対し、駐車場収益は親(被相続人)に帰属していると認められるため、駐車場に係る賃貸料収入が長男の振込口座に振り込まれたことによって、長男の財産が増加していることは、相続税法第9条にいう対価を支払わないで利益を受けた場合に該当するとして、長男に対し贈与税や無申告加算税等の更正または決定(以下、賦課決定等)をしました。

 

これに長男が国税不服審判所(以下、審判所という。)に贈与税の賦課決定等の取消を求めて審査請求したのです。

 

 

4.審判所の判断


争点は、直接的には長男が駐車場に係る賃貸料収入を受領したことによる財産の増加は、相続税法第9条に規定する「利益を受けた」場合に該当するか否かです。この判断をするには駐車場収益が、長男(請求人)に帰属するか否かも問題になってきます。そこで審判所は、まず実質所得者課税の原則(所得税法12条)で駐車場収入の帰属がだれかを固め、それが長男ではないとした場合には、親から贈与されたものとみなして贈与税の課税が適法かどうかと2段階の判断が求められることになりました。

 

審判所は、実質所得者課税の原則について「担税力に応じた公平な税負担を実現するため、収益の法形式上の帰属者(名義人)と法律的実質的帰属者が相違する場合には、後者を収益の帰属者とするというものと解される」と上記の大阪高裁の考え方を踏襲しました。

 

すなわち駐車場収益について、長男は「単なる名義人」であって、その収益を享受せず、被相続人がその収益を享受する場合に当たるか否かを検討したのです。
具体的には審判所は、最終的に「使用貸借契約等の取引は、被相続人が本件各土地の所有権の帰属を変えないまま、何らの対価も得ることなく、そこから生じる法定果実の帰属を子である請求人に移転させたものと評価できる」とし、「使用貸借等の取引は、被相続人の相続に係る相続税対策を主たる目的として、被相続人の存命中は、各土地の所有権は飽くまでも被相続人が保有することを前提に、各土地による被相続人の所得を子である請求人に形式上分散する目的で、請求人に対して本件使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものにすぎないものと認められる。(中略)各駐車場収益を支配していたのは被相続人というべきであるから、当該収益について、請求人は単なる名義人であって、その収益を享受せず、本件被相続人がその収益を享受する場合に当たる」と判断しました。

 

この判断に基づき審判所は、「被相続人に帰属する各駐車場に係る賃貸料収入を長男が受領し、長男の財産が増加していることは、相続税法第9条に規定する「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた」場合に該当するというべきである」として、税務署の贈与税の賦課決定等を支持しました。これで、駐車場土地の使用貸借による所得分散・節税策は親の申告漏れの追徴と、子への贈与税の賦課決定でひとまず区切りがつくことになったのです。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/1/29)より転載

[解説ニュース]

配偶者から贈与を受けた自宅を譲渡した場合の贈与税の配偶者控除の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

■【Q&A】相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

 

 

 


【問】

Aさんは、婚姻期間20年以上の夫から同居していた夫名義の住宅(自宅)の贈与を受けました。Aさんはその贈与を受けた時点ではその住宅に継続して居住するつもりでしたが、贈与後、夫が病気で入院し、その治療や介護の都合から贈与を受けてから短期間でその住宅を譲渡することになりました。Aさんは夫からの自宅の贈与について、贈与税の配偶者控除(相続税法21条の6)の適用を受けることを考えていますが、認められるでしょうか。

【回答】

1.結論


自宅の贈与を受けた時点までに、その自宅の譲渡が予め計画されておらず、贈与から譲渡までの間の後発的な状況の変化から、受贈者のAさんがやむを得ず自宅を譲渡することになったときは、適用を受けることができます。

2.解説


(1)制度の概要

 

贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、専ら居住の用に供する家屋やその敷地等(以下、「居住用不動産」)又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合において、一定の要件を満たすときは、暦年課税の贈与税の計算上、基礎控除額110万円のほかに最高2,000万円まで課税価格から控除できる税制です。この適用を受けるためには、次の要件を満たすことが必要です。

①婚姻の届出をした日から贈与を受けた日までの期間(以下「婚姻期間」)が20年以上の夫婦間で贈与が行われたこと

 

②個人が配偶者から贈与された財産が、贈与を受けた個人が住むための国内の居住用不動産、又は居住用不動産を取得するための金銭であること

 

③贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること(以下、この要件を「居住継続見込み要件」という。)

 

④同じ配偶者からの贈与について、過去に贈与税の配偶者控除の適用を受けたことがないこと

 

⑤贈与税申告書に必要書類を添えて提出すること。

 

 

(2)「居住継続見込み要件」による受贈後の居住用不動産の譲渡の制限

 

贈与税の配偶者控除の適用を受けるための要件に「居住継続見込み要件」があることから、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の贈与があった場合でも、贈与による取得後にその居住用不動産を他へ譲渡することを予定していたときは、「引き続き居住の用に供する見込み」に該当しないため、贈与税の配偶者控除の適用が認められません。

 

 

(3)「居住継続見込み要件」の判定時期

 

(2)の居住継続見込み要件の判定時期については、贈与税の配偶者控除を規定する相続税法やその関係法令・通達では、明確に定められていません。しかし、贈与税の配偶者控除の文理や、贈与税が贈与の時点で納税義務が成立することや、前記1(1)①の婚姻期間が20年以上である配偶者に該当するか否かの判定が、財産の贈与の時の現況により判断することから、配偶者が居住用不動産又は居住用不動産の取得資金の贈与を受けた時点において、居住継続見込み要件が満たされているか否かを判定することになると考えられます。

 

なお、この判定時期の考え方については、配偶者から居住用不動産又は居住用不動産の取得資金を贈与により取得後、短期間で譲渡した場合の贈与税の配偶者控除の適用の可否について国税不服審判所で争われた事例があり、その裁決(大裁(諸)平24第68号平成25年5月8日)においても、居住用不動産の贈与を受けた時点において、その不動産を「引き続き居住の用に供する見込み」であったか否かの判定をすることが相当とされています。

 

 

(4)あてはめ

Aさんが贈与を受けた時点でその住宅に継続して居住するつもりであったことや、贈与を受けた後、夫の病気の治療・介護の都合という後発的な状況の変化からやむを得ずその住宅を譲渡するに至ったと考えられることから、Aさんの贈与税の配偶者控除の適用は認められるべきものと考えられます。

 

なお、Aさんが贈与を受けた時点でその住宅に継続して居住するつもりはなく、贈与を受けた後に短期間でその住宅を譲渡することが贈与時点までに予め計画されていたものであるときは、居住継続見込み要件は満たさないことになり、適用を受けることができません。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/1/15)より転載

[解説ニュース]

マンションの相続税評価が時価の6割水準めどに引上げへ

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■親の土地を無権代理で売買、引渡し前に相続開始で税金紛争

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

 

 

 


1.はじめに


国税庁は令和5年10月6日、マンションの財産評価を見直した個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を公表しました。適用は令和6年1月1日以後の相続等による取得分からです。

 

 

2. これまでのマンションの相続税評価


マンションの相続税評価は従来、「財産評価基本通達(以下、評価通達という。)」に基づき、原則として自用の場合、以下のとおりです。

 

(1)敷地の評価…宅地や宅地の上の存する借地権等の権利の評価額を共有持分で按分して求める

 

(2)家屋の評価…1棟の建物全体の固定資産税評価額を専有面積の割合によって按分して各戸の評価額を算定

 

 

3.改正後のマンション評価の対象


対象となるマンションとは、一棟の区分所有建物に存する居住の用に供する専有部分一室に係る区分所有権と敷地利用権です。一棟の区分所有建物であっても、階数が2階以下、または部屋数が3以下で、その全部を区分所有者やその親族の居住の用にしているものは除外されます。

 

また、一棟の区分所有建物ではない「事業用のテナント物件」や「一棟所有の賃貸マンションなど」は対象外です。

 

 

4.改正後のマンション評価方法


新たなマンション評価の方法は、[1]評価乖離率を求め、[2]評価乖離率に基づく評価水準の区分により、[3]のように補正する方法です。

 

[1]評価乖離率の求め方

 

評価乖離率=①×△0.033+②×0.239+③×0.018+④×△1.195+3.220

①評価対象マンションの築年数のことで、その一棟のマンションの建築の時から課税時期までの期間を指します。当該期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年。

 

②総階数指数=総階数÷33で求めます。小数点以下第4位を切り捨て、1を超える場合は1とする。なお、階数に地下は含みません。

 

③評価対象のマンションの一室の所在階のこと。2階にまたがるマンションの場合(メゾネットタイプの場合)には低い階数を所在階とします。評価対象の一室が地下の場合は、0階とします。

 

④「敷地持分狭小度」として、評価対象の一室の「敷地利用権の面積÷専有面積」で算出された値。小数点以下第4位を切り上げます。

 

 

[2]評価水準

評価水準は1÷評価乖離率で求めます。

 

 

[3]一室の区分所有権等に係る敷地利用権・区分所有権の価額

新たな自用地・自用家屋としての評価額=「自用地・自用家屋としての価額」×区分所有補正率

(1)評価水準が1を超える場合:区分所有補正率=評価乖離率(→評価額は引下げ)

 

(2)評価水準が0.6以上1以下の場合:補正なし

 

(3)評価水準が0.6未満の場合:区分所有補正率=評価乖離率×0.6(→時価の6割水準に引上げ)

 

(注)1 区分所有者が次のいずれも単独で所有している場合には、「補正率」は1を下限とします。

 

イ 一棟の区分所有建物に存する全ての専有部分

 

ロ 一棟の区分所有建物の敷地

 

ただし、貸家建付地や貸家などその他現行の評価通達で配慮すべき一定のファクターがある場合には原則として現行の評価通達を上記の自用地または自用家屋としての評価額に適用します。

また評価乖離率が0かマイナスの場合は評価しません。
改正後の評価額の傾向としては、築浅、一室の所在階が高階数、敷地に目いっぱいに建っており総戸数が多い…といったマンションほど、評価額が高く補正されそうです。

 

 

5.新評価と財産評価基本通達6項との関係


新評価のマンションでも、財産評価基本通達通りの評価では不適当となるような場合には、同通達の例外規定「総則6項」が適用され、不動産鑑定など別の評価方法で再評価されます。

 

国税庁が公表した情報によると、「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6項が適用されることから、(中略)本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもある」とされていることから明らかです。

無論、新評価の対象でない不動産もこれまで通り上記6項の対象となるのは言うまでもありません。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/12/25)より転載

[解説ニュース]

速報!令和6年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■速報!令和4年度税制改正案

■速報!令和5年度税制改正案

 

 

 


~大綱に盛り込まれた資産課税を中心とされる改正案の主な内容は以下のとおり~

 

■【住宅・土地税制(所得税・登録免許税・印紙税・不動産取得税】)《「大綱」)P36~37、39、50、51、58》

1.住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除【拡充】

 

(1)個人で、年齢40歳未満で配偶者を有する者、年齢40歳以上で年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者(以下「子育て特例対象個人」)が、認定住宅等の新築若しくは認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得又は買取再販認定住宅等の取得(以下「認定住宅等の新築等」)をして、令和6年1月1日から同年12月31日までの間に居住の用に供した場合は、住宅借入金等の年末残高の限度額(借入限度額)を次のとおりとして、本特例の適用を受けることができる。

 

①認定住宅: 5,000万円(現行の令和6年中の入居に係る借入限度額4,500万円)

 

②ZEH水準省エネ住宅:4,500万円(現行の令和6年中の入居に係る借入限度額3,500万円)

 

③省エネ基準適合住宅:4,000万円(現行の令和6年中の入居に係る借入限度額3,000万円)

 

(2)認定住宅等の新築又は認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得に係る床面積要件の緩和措置について、令和6年12月31日以前に建築確認を受けた家屋も適用を受けることができる。

 

(注1)「認定住宅等」とは、認定住宅、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅をいい、「認定住宅」とは認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。
(注2)「買取再販認定住宅等」とは、認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われたものをいう。
(注3)上記(1)及び(2)のその他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様とされる。

 

 

2.居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特例【延長】

(1)特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例が、令和7年12月31日まで2年延長される。

 

(2)居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等について、本特例の適用を受けようとする個人が買換資産の住宅借入金等に係る債権者に対して住宅取得資金に係る借入金等の年末残高等調書制度の適用申請書の提出をしている場合には、確定申告書等への住宅借入金等の残高証明書の添付を不要とする措置が講じられた上、適用期限が令和7年12月31日まで2年延長される。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に行う譲渡資産の譲渡について適用される。

 

(3)特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除等の適用期限が、令和7年12月31日まで2年延長される。

 

 

3.登録免許税・印紙税の特例【延長】

(1)住宅用家屋の所有権の保存登記若しくは移転登記又は住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限が、令和9年3月31日まで3年延長される。

 

(2)不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例措置の適用期限が、令和9年3月31日まで3年延長される

 

 

4.不動産取得税の特例【延長】

①宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準を価格の2分の1とする特例措置及び②住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の標準税率(本則4%)を3%とする特例措置の適用期限が、令和9年3月31日まで3年延長される。

 

【所得税・個人住民税の定額減税】《「大綱」P26~30》

1.所得税

(1)令和6年分の所得税について、一定の方法により、居住者の所得税額から特別控除の額が控除される。ただし、その者の令和6年分の所得税に係る合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)以下である場合に限る。

 

(2)特別控除の額は次の金額の合計額(合計額がその者の所得税額を超える場合は所得税額を限度)とされる。

 

①本人:3万円

 

②同一生計配偶者又は扶養親族(居住者に限る):1人につき3万円

 

 

2.個人住民税

(1)令和6年度分の個人住民税について、一定の方法により、納税義務者の所得割の額から特別控除の額が控除される。ただし、その者の令和6年度分の個人住民税に係る合計所得金額が1,805万円(給与収入2,000万円)以下である場合に限る。

 

(2)特別控除の額は、次の金額の合計額(合計額がその者の所得割の額を超える場合は所得割の額を限度)とされる。

 

①本人:1万円

 

②控除対象配偶者又は扶養親族(国外居住者を除く):1人につき1万円
(注)控除対象配偶者を除く同一生計配偶者(国外居住者を除く)は、令和7年度分の所得割の額から1万円が控除される。

 

 

【相続税・贈与税】《「大綱」P49~50》

1.非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例制度【延長】

特例承継計画の提出期限が、令和8年3月31日まで2年延長される。

 

2.個人の事業用資産に係る相続税・贈与税の納税猶予制度【延長】

個人事業承継計画の提出期限が、令和8年3月31日まで2年延長される。

 

3.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置【延長・見直し】

(1)適用期限が、令和8年12月31日まで3年延長される。

 

(2)非課税限度額の上乗せ措置の適用対象となる、エネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋の要件について、住宅用家屋の新築又は建築後使用されたことのない住宅用家屋の取得をする場合にあっては、その住宅用家屋の省エネ性能が断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上(現行:断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上)であることとされる。

 

(注1)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用される。
(注2)令和6年1月1日以後に住宅取得等資金の贈与を受けて住宅用家屋の新築又は建築後使用されたことのない住宅用家屋の取得をする場合、その住宅用家屋の省エネ性能が断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上であり、かつ、その住宅用家屋が次のいずれかに該当するものであるときは、その住宅用家屋をエネルギーの使用の合理化に著しく資する住宅用の家屋とみなされる。

 

イ.令和5年12月31日以前に建築確認を受けているもの

 

ロ.令和6年6月30日以前に建築されたもの

 

 

4.特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例【延長】

適用期限が、令和8年12月31日まで3年延長される。

 

【法人事業税・法人税】《「大綱」P76~77、74~75、87、75》

1.法人事業税(外形標準課税)【見直し】

(1)減資への対応

①外形標準課税の対象法人について、現行基準(資本金1億円超)を維持する。ただし当分の間、[その事業年度の 前事業年度に外形標準課税の対象であった法人]であって、[その事業年度に資本金1億円以下]で、[資本金と資本剰余金(これに類するものを含む)の合計額が10億円を超えるもの]は、外形標準課税の対象とされる。

 

②施行日以後最初に開始する事業年度については、①にかかわらず、[公布日を含む事業年度の前事業年度(公布日の前日に資本金が1億円以下となっていた場合は、公布日以後最初に終了する事業年度)に外形標準課税の対象であった法人]であって、[その施行日以後最初に開始する事業年度に資本金1億円以下]で、[資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超えるもの]は、外形標準課税の対象とされる。

 

(注)上記の改正は、令和7年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用される。

 

(2)100%子法人等への対応
資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える一定の法人(以下「特定法人」)の100%子法人等のうち、[その事業年度末日の資本金が1億円以下]で、[資本金と資本剰余金の合計額(公布日以後にその 100%子法人等がその100%親法人等に対して資本剰余金から配当を行った場合は、その配当相当額を加算した金額)が2億円を超えるもの]は、外形標準課税の対象とされる。

 

(注1)上記の「100%子法人等」とは、特定法人との間にその特定法人による法人税法に規定する完全支配関係がある法人及び 100%グループ内の複数の特定法人に発行済株式等の全部を保有されている法人をいう。
(注2)上記の改正は、令和8年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用される。

 

 

2.法人税【延長・見直し】

(1)中小企業事業再編投資損失準備金制度 次の措置が講じられた上、その適用期限が令和9年3月31日まで3年延長される。

 

①産業競争力強化法の改正を前提に、同法の特別事業再編計画の認定を受けた認定特別事業再編事業者である法人が、一定の要件の下で株式等の購入による取得をした場合において、一定額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額を、その事業年度において損金算入できる措置が追加される。

 

②事業承継等を対象とする一定の表明保証保険契約を締結している場合には、本制度を適用しないこととされる。

 

③準備金の取崩し事由に株式等の取得をした事業年度後にその事業承継等を対象とする一定の表明保証保険契約を締結した場合を加え、その事由に該当する場合には、その全額を取り崩して、益金算入することとされる。

 

④中小企業等経営強化法の経営力向上計画(事業承継等事前調査に関する事項の記載があるものに限る。)の認定手続について、その事業承継等に係る事業承継等事前調査が終了した後(最終合意前に限る。)においても、その経営力向上計画の認定ができることとされる。

 

(2)中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、一定の法人を対象から除外した上、その適用期限が令和8年3月31日まで2年延長される(適用期限の延長は所得税についても同様)。

 

(3)交際費等の損金不算入制度について、以下の措置が講じられた上で適用期限が令和9年3月31日まで3年延長される。

 

①損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準が、1人当たり1万円以下(現行5,000 円以下)に引き上げられる。

 

②接待飲食費に係る損金算入の特例及び中小法人に係る損金算入の特例の適用期限が3年延長される。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/12/19)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

 

 

 


【問】

AさんとBさんの兄弟は、土地1~土地7の7か所の土地(以下「本件各土地」)を共有していました。このたび、兄弟それぞれが本件各土地を単独所有とするために、次の内容を盛り込んだ一の交換契約により、本件各土地の共有持分の一部を交換しました。

 

・Aは、Bに対し本件各土地のうち土地1~4の4か所の土地(以下「本件各譲渡土地」)に係る共有持分を、交換の譲渡資産として譲渡する。

 

・Aは、Bから本件各土地のうち本件各譲渡土地を除く土地5~7の3か所の土地(以下「本件各取得土地」)に係る共有持分を、交換の取得資産として取得する。

 

・本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額(時価)の合計額は等価であり、交換による差額は生じない。

 

 

この交換の場合、本件各譲渡土地及び取得土地の価額(時価)について個々の資産ごとに判定すると、組み合わせによっては交換による差額が20%を超える場合があります。このような場合でも、本件各譲渡土地の価額の合計額と本件各取得土地の価額の合計額が等価で、交換による差額が生じないときは、Aさんは固定資産の交換に係る所得税の特例(以下「交換特例」)の適用を受けることができるのでしょうか。

【回答】

1.結論


交換特例の適用を受けることができると考えます。

 

 

2.解説


(1)特例の概要

個人が固定資産の交換をした場合、交換も譲渡の一種であり、交換により譲渡する資産の含み益には原則、譲渡所得の金額として所得税が課税されます。

 

ただし、従前から所有している不動産等の固定資産を同種の固定資産と交換し、交換取得資産を交換譲渡資産と同様の用途に供しているような場合には、実質的には同一の資産を継続して保有し、譲渡がなかったものとみなして、譲渡益に対する課税を繰り延べ、その時点では課税を行わないこととしています。

 

具体的には、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法58条1項)。

 

(2)交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件

交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④の他、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(所得税法58条2項。以下この要件を「交換差額要件」という)。

 

 

(3)複数の土地を交換する場合の交換差額要件の判定

譲渡所得の金額は、その年中の譲渡所得に係る総収入金額から譲渡資産の取得費と譲渡費用等を控除して計算します(所得税法33条3項)。その譲渡所得の総収入金額について、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入される場合は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とされます(同36条1項)。

 

土地の交換による収入金額は、交換により取得した土地の価額となり、一の交換契約により取得した土地が複数である場合には、それらの土地の価額の合計額となります。複数の土地を一の交換契約で交換した場合、交換特例を適用しなければ交換取得資産の価額の合計額を収入金額として譲渡所得の課税関係が生じますが、交換特例は交換差額が一定の範囲内の場合に譲渡所得課税の繰延べを行うものですから、交換差額要件の判定は、一の交換契約により譲渡所得の課税関係が生じるとした場合の収入金額により判定すべきと考えられます。

 

 

ご質問の交換については、本件各土地の共有状態を解消し、本件各土地をそれぞれが単独所有とするために、一の交換契約により本件各譲渡土地と本件各取得土地とを交換するものであることから、その交換に係る交換差額要件の判定は、本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額の合計額との差額に基づき判定すべきと考えられます。以上により、Aさんは交換特例の適用を受けることができると考えます。(参考:東京国税局文書回答事例「複数の固定資産を交換した場合の所得税法第58条に規定する交換の特例の適用について」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/11/27)より転載

[解説ニュース]

令和6年1月から適用要件が緩和される空き家特例3,000万円控除の特約とは?

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■勝手に(?)出された相続時精算課税の申告書が無効かどうかでトラブル

■マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

 

 

 


1.はじめに


「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下、「空き家特例」といいます。)は、親が住んでいて、相続で空き家になった住宅を相続人が売却した場合、一定要件を満たしたときに譲渡所得から最大3,000万円(令和6年1月1日以後、相続人が3人以上の場合には、2,000万円)の控除が認められる譲渡所得課税の特例です。主な要件は次の表のとおりです。

 

 

 

 

これまで適用されてきた譲渡のパターンは次のとおりです。

 

1号譲渡=家屋を取得し新耐震基準に適合させ敷地とともに譲渡する場合
2号譲渡=家屋を除却し、敷地のみを譲渡する場合

 

これに令和6年1月1日からは空き家を現状有姿で譲渡した後、翌年2月15日までの間に次に掲げるパターン(3号譲渡)に該当したときにも適用が可能になります。

 

・譲渡後、買主側で行った家屋が改修等により耐震基準に適合することとなった場合

 

・譲渡後、買主側で家屋全部の取壊し・除却、滅失をした場合

 

これは相続人としては、売れるかどうかわからないのに空き家の取り壊し等をすると、場合によっては固定資産税等が高くなってしまうなど、リスクを感じる人が多いことから3号譲渡の導入が決まったものです。

 

ただし譲渡後、買主の方で取り壊し等をしてもらうことが要件となるので、契約では、耐震改修または取り壊し等を買主が行うことの特約を盛り込む必要があることや、特約が守られなかった場合の取り決め等をする必要があると、国土交通省は財務省主税局との間で議論していました。そして先ごろ、国土交通省は、3号譲渡のための売買契約の特約条項の例を公表したのです。

 

 

2.特約条項とは


売買契約上の特約は、買主側で①家屋を改修して耐震基準に適合させる場合、②家屋自体を取り壊す場合の2タイプです。同省では契約の当事者間で合意した内容に応じ、文例を適宜修正のうえ利用することを推奨しています。ここでは取壊しのタイプを示します。

 

1.売主及び買主は、売主が本契約について租税特別措置法(昭和 32 年法律第 26 号)第 35 条第3項に定める空き家の譲渡所得の特別控除(以下「特別控除」という。)の適用を受けることを前提として、本契約の売買価格等諸条件を決定したことを互いに確認します。

 

2.売主及び買主は、本件土地及び建物の所有権移転後に買主が本件建物の全部の取壊し又は除却工事(以下「本工事」という。)を行うことに合意し、本工事については買主の責任と負担において、令和〇年〇月〇日までに完了させることとします。

 

なお、買主は、売主が本契約について特別控除の適用を受けるために必要となる書類(以下「必要書類」という。)を取得のうえ、令和〇年〇月〇日までに売主へ交付するものとします。

 

3.前項のとおり買主が本工事を完了できない又は売主へ必要書類の交付をしないことにより、売主が特別控除を受けることができなかった場合売主は買主に対し、特別控除を受けることによって本来得られた税控除額相当額の損害賠償を買主に請求することができることとします。
ただし、買主の責めに帰することができない事由により買主が義務を履行できなかった場合は、買主は責任を負わないものとします。

 

 

3.確認書の手続き


空き家特例の適用に当たっては、市区町村長が、国土交通省の「通知」(国住政第101号、国住備第506号)に従い、要件具備の確認を行い、確認書を納税者等に交付することになっています。納税者はこの確認書を確定申告書に添付する仕組みです。令和6年1月1日からの空き家特例の3号譲渡の施行に伴い、国土交通省は上記通知に3号譲渡に関する事項を追加・公表しました。それによると、市区町村長から3号譲渡の確認書の交付を受ける場合には基本的に、上記の特約付き売買契約書の写しも提出することになりました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/11/13)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

 

 

 


【問】

個人甲は、平成21年に母Yから賃貸不動産(贈与時の相続税評価額1億円)の贈与を受け、相続時精算課税を選択して贈与税1,500万円を納付しました。甲は令和2年に債務返済のため賃貸不動産を売却後、令和3年に死亡しました。甲の相続人は子のAとBのみで、相続財産はAとBが相続しました(相続税額なし)。令和5年2月にYが死亡し、相続財産1億500万円は代襲相続人(孫)のAが6,300万円、Bは4,200万円を相続しました(AとB以外にYの相続人はなし)。またYに係る債務及び葬式費用500万円はAが300万円、Bが200万円を負担しました。上記の場合において、Yに係る相続税の計算上、AとBの納付すべき相続税額はいくらになりますか。

【回答】

1.結論


Aの相続税額は1087万円、Bの相続税が753万円となります。

 

 

2.解説


(1)特定贈与者に係る相続税の計算

 

相続時精算課税の適用を受けた受贈者(相続時精算課税適用者)に係る相続税額は、その贈与をした者(特定贈与者)が死亡した時に、それまでに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続又は遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。(相続税法21条の15、21条の16)。この場合に相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の相続税評価額となります(同法21条の15第1項、21条の16第3項)。

 

 

(2)特定贈与者の死亡前に相続時精算課税適用者が死亡した場合の特定贈与者に係る相続税計算

 

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る受贈者(相続時精算課税適用者)が死亡した場合は、その相続時精算課税適用者(以下「死亡相続時精算課税適用者」)の相続人(以下「承継相続人等」)は、死亡相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務を承継します(相続税法21条の17第1項)。

 

 

(3)承継相続人等の相続税額の計算

 

(2)において、承継相続人等(A・B)が特定贈与者(Y)から相続等により財産を取得している場合、承継相続人等は[1]特定贈与者から相続・遺贈により取得した財産に係る相続税額と、[2]相続時精算課税の贈与財産の価額を基に計算した死亡相続時精算課税適用者(甲)に係る相続税額の合計額を納付します。

 

 

(4)AとBの相続税額の計算

 

(2)と(3)の取扱いを踏まえて、AとBの納付すべき相続税額は次の通りに計算します。

 

①課税価格の計算

 

イ.Aの課税価格の計算 6,300万円(相続により取得した財産の価額)-300万円(債務・葬式費用の額)=6,000万円

 

ロ.Bの課税価格の計算 4,200万円(相続より取得した財産の価額)-200万円(債務・葬式費用の額)=4,000万円

 

ハ.相続時精算課税適用者甲の課税価格の計算 1億円(相続時精算課税に係る贈与財産の価額)

 

ニ.課税価格の合計額=イ+ロ+ハ=2億円

 

②基礎控除(相続人2人)4,200万円

 

③相続税の総額  (2億円-4,200万円)×1/2×30%-700万円=1,670万円。1,670万円×2=3,340万円

 

④按分割合

 

イ.A:6,000万円/2億円=0.3

 

ロ.B:4,000万円/2億円=0.2

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲:1億円/2億円=0.5

 

⑤算出相続税額

 

イ.Aの税額:3,340万円×0.3=1,002万円

 

ロ.Bの税額:3,340万円×0.2= 668万円

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲の税額:3,340万円×0.5=1,670万円

 

 

⑥死亡相続時精算課税適用者甲からAとBが承継する納付すべき相続税額 1,670万円-1,500万円(相続時精算課税分の贈与税額控除額)=170万円
Aが承継する相続税額:170万円×1/2(法定相続分)=85万円(Bも同じ)

 

⑦納付すべき相続税額

 

A:⑤イ+⑥=1,087万円

 

B:⑤ロ+⑥= 753万円

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/30)より転載

[解説ニュース]

入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

 

 


1.はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」は、合法的な節税ができる制度として、よく知られた相続税の特例です。賃貸不動産等で節税する場合には、被相続人等の貸付事業用宅地等を相続して事業を継ぐなど所定の要件を満たした場合、それらの宅地のうち最大200㎡までについて50%の評価減ができます。

 

この特例に関し、最近、インターネット上に複数の入居者募集広告があったにもかかわらず、税務署から賃貸共同住宅の空室部分に見合う宅地について、上記特例の適用が除外され更正処分を受けた事例が出てきました。(国税不服審判所、令和 5年4月12日)。今回は、この事例を紹介します。

 

 

2.事案の概要及び相続人の主張


裁決書によると、Aさんは、被相続人から延床面積180㎡ほどの8室2階建ての賃貸共同住宅を敷地とともに相続しました。相続開始時点で入居者がいたのは3室で、残り5室(3室の空室期間は4年6か月以上、残り2室の空室期間は2か月から5か月)には入居者がいませんでした。Aさんは、被相続人からこの貸付事業を引き継ぎました。相続税の申告では、賃貸共同住宅の敷地全体を小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」に該当するとして申告した模様です。

 

これに対し、管轄税務署が上記特例適用を否認したことから、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)の判断を仰ぐことにしたものです。
Aさんは、おおよそ次のように考えました。
「相続の開始の時以降、請求人(Aさん)は各空室部分については、新たな入居者の募集を行っていないが、複数のインターネットサイトでは相続の開始の時以降も募集広告が出ているので、請求人が被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していた」

 

 

3.審判所の考え方


審判所は、この特例の取扱いである措置法通達69の4-24の2では、貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれるとされていることを指摘。

 

この「一時的に賃貸されていなかったと認められる場合」について審判所は「賃貸借契約が相続開始の時
に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相統開始の時に賃貸されていたのと同視し得るものでなければならない」として、問題の空室の敷地部分が一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうか、次の事実関係等をもとに、以下の4のように検討しました。

 

①被相続人と不動産業者との契約=平成20年5月21日、共同住宅に関して一般媒介契約を締結した。
なお、共同住宅に関して、(中略)不動産業者は本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。

 

②平成20年5月頃から申告書の提出期限に至るまで、複数の不動産業情報サイトに、問合せ先を同不動産業者として入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。なお、同不動産業者では、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。

 

③一般媒介契約を締結してから、申告期限に至るまでの間、同不動産業者は共同住宅に関して入居者を仲介した実績はなく、平成27年以降の共同住宅の空室の状況を把握していない。

 

 

4.一時的に賃貸されていなかったかどうか


審判所は、空室のうち3室は「相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていた」こと。もう2室についても「空室であった期間は長期にわたるものではない」が「一時的に賃貸されていなかったものとは認められない」と認定しました。
その理由は次のとおりです。

 

●不動産業者の仲介実績・空室把握は②③のとおり。

 

●不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いだったため、平成27年以降においては、被相続人が一般媒介契約及び広告を放置していたにすぎず、積極的に共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。

 

●空室期間が短い2室についても賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかない。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/16)より転載

[解説ニュース]

住宅取得等資金贈与に係る贈与税の非課税制度における取得要件と居住要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


1.住宅取得等資金の非課税制度の概要


その年の1月1日において一定の要件を満たす個人が、令和5年12月31日までの間に父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、受贈者ごとに、非課税限度額(新築等をした住宅用家屋が省エネ等住宅(注)の場合は 1,000万円、それ以外の住宅の場合は 500万円)までの金額について、贈与税が非課税となります(租税特別措置法(措法)70条の2第1項。以下、本税制を「非課税制度」という)。
(注)省エネ等住宅とは、省エネ等基準に適合する住宅用家屋であることにつき、一定の書類により証明されたものをいいます(措法70条の2第2項6号イ、措法施行令40条の4の2第8項)。

 

 

2.非課税制度における居住要件


非課税制度の適用を受けるためには、原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することが要件とされます。贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しない場合であっても、取得した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用ができます(措法70条の2第1項)。ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日(以下「居住期限」)までに受贈者の居住の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となります(同法第4項)。

 

 

3.非課税制度における取得要件


(1)概要

非課税制度の適用を受けるためには、贈与を受けた日の属する年の翌年3月15日(以下「取得期限」)までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築(新築に準ずる状態として一定のものを含む)もしくは取得をすることが要件とされます。

 

(2)請負契約により住宅用家屋を新築する場合

(1)の場合において、請負契約により住宅用家屋を新築するときは、取得期限において屋根を有し、土地に定着した建造物と認められる時以降の状態であれば、上記(1)の「新築に準ずる状態」とされ、完成した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれるときには、一定の書類の添付により非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第1項1号、措法施行規則23条の5の2第1項)。

 

(3)住宅用家屋を取得するときの取得要件

前記(1)の住宅用家屋の取得とは、売主から住宅用家屋の引渡しを受けたことをいいます。したがって、建売住宅や分譲マンションについては、売買契約が締結されている場合や、これらの建物が前記(2)に規定する新築に準ずる状態にある場合であっても、その引渡しを受けていない限り、住宅用家屋の取得には該当せず、非課税制度の適用を受けることができません(措法通達70の 2−8、70の3−8)。

 

4.災害等を受けた場合の居住・取得期限の延長等


(1)居住期限の1年延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、その贈与を受けた年の翌年3月15日後遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けたものの、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住することができなかったときには、居住期限が1年延長【贈与を受けた年の翌々年12月31日】されます(措法70条の2第10項)。

 

(2) 取得期限の延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅用家屋の新築等ができなかったときには、取得期限と居住期限が1年延長されます(措法70条の2第11項)。

 

(3)居住要件の免除

住宅取得等資金の贈与を受けて住宅用家屋の新築等をした人が、その贈与を受けた年の翌年3月15日後、遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けた場合において、その住宅用家屋が災害により滅失(通常の修繕では原状回復が困難な損壊を含む。)をしたため、居住することができなくなったときには、居住要件が免除され、非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第9項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/25)より転載

[解説ニュース]

勝手に(?)出された相続時精算課税の申告書が無効かどうかでトラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 

 


1.はじめに


相続時精算課税制度は、令和6年1月1日以後の贈与から110万円の基礎控除が使えるようになることから、現在注目されている制度です。今回はこの制度を利用した親子間での財産贈与で、起こりがちな事例を取り上げます。

2.相続時精算課税制度とは


相続時精算課税制度とは現行制度上、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、18歳以上の推定相続人である子や孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度です。税負担は贈与額2,500万円までは特別控除により事実上贈与税が課税されず、それを超える金額の贈与には20%の税率で課税されます。

 

その見返りとして、この組み合わせで直系尊属である父母等の相続が開始した場合には、相続税の計算上相続時精算課税制度でもらっていた財産を相続財産に加算し、相続税が算出される場合にはこの相続税から支払い済みの贈与税を引いて精算する仕組みです。この選択は、いったん行われると後で解消することができないのが特徴です。

 

ただ、この制度をめぐっては、税務上のトラブルが散見されるようです。裁決事例になっている事案でも、たとえば、財産をあげた被相続人が財産を受け取った子供らのために被相続人自ら勝手に(?)相続時精算課税制度の届出・申告をして、あとで相続人が相続税申告する際、相続財産に加算する贈与財産の計算で誤りが税務署から指摘されたケースがみられます(審判所、令和元年6月17日裁決、令和5年2月3日裁決)。ここでは、令和元年6月17日裁決を見てみることにします。

 

 

3.事案の概要


裁決書によると、この事案は平成27年に開始した相続の相続税申告に際し、相続人が平成18年から21年にかけて被相続人からもらっていた財産について、相続財産に加算すべきかどうかが問題になった事案です。税務署は、平成18年から21年にかけて被相続人から贈与された財産(現金・建物)につき、被相続人自身の手で相続時精算課税制度により申告していたため、相続時精算課税制度の適用で相続財産に加算すべきものとして更正しています。しかし、相続人は相続時精算制度の申告書は、被相続人が勝手に作成し税務署に提出したので、無効だと反発したものです。

 

 

4.審判所の判断


審判所は、まず、申告手続きについて「納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条《期限内申告》等)、納税義務者以外の者が、本人の承諾なく勝手に納税義務者の申告書を作成し提出した場合には、その納税申告は無効であると解される」と考え方の原則を提示。次に、審判所は納税義務者以外の者が申告書を作成し提出した場合であっても、有効になる場合として、「その者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合」と指摘しました。

 

事案のケースでは、被相続人が申告手続きしたことが明らかであることから、相続人が、被相続人に対し、「明示又は黙示に本件精算課税申告書による申告行為をする権限を与えていたといえるか否かについて」検討、次のような事実関係を指摘しています。

 

①相続人は、建物贈与に係る登記手続を被相続人に一任していたこと

 

②あとで被相続人が相続時精算課税申告を出し直すことになる暦年課税申告書を作成する際、農協などでの相談において、必要な書類の提示などの対応は被相続人が行っていたこと

 

③その暦年課税申告に係る納税資金は被相続人が負担していたこと

 

④相続人の印鑑は被相続人も使用することが可能な状況であったこと

 

⑤相続人が主体的に自己に係る申告手続等の必要な手続を行っていたということはうかがわれないこと

 

⑥後の相続時精算課税制度申告で相続人は贈与税に係る還付金等の振込を認識できたといえること

 

⑦被相続人が相続人口座から還付金等を出金したことにつき異議を述べたといった事実は認められないこと

こうしたことから審判所は一連の手続きに関し、相続人が「被相続人に対して包括的に委任していたとみるのが相当であるから、精算課税申告についても、明示又は黙示に当該申告行為をする権限を被相続人に与えていたといえる」と判断しています。

 

 

5.まとめ


上記のようなトラブルの原因は、被相続人と相続人の間での行き違いなのか、それとも別の理由があるのかは、本当のところはわかりません。

 

生前贈与による財産の承継は安全が第一だとすれば、将来発生する相続税でも不利にならないよう、被相続人と相続人が納得の上、税理士ら専門家を交えて手続きを行うことがトラブルを未然に防ぐことにもつながるのではないでしょうか?

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/11)より転載

[解説ニュース]

個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川瀬 朋基/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

■貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

 

 


1.前払地代方式による一般定期借地権が設定された場合の借地権者・地主に係る所得税・法人税の取扱い


(1)定期借地権の設定時に受ける一時金の種類

一般定期借地権は借地借家法第22条で定められ、存続期間を50年以上とした借地権であれば、更新がないなどの一定の特約を付けることができ、その特約付の借地権を定期借地権として認めるとしています。定期借地権の設定時には、借地権者が個人地主に対し一時金として、借地期間終了後に地主に返還義務がある「保証金」や、返還義務のない「権利金」、「前払地代」のいずれかを支払う場合が多いようです。このうち前払地代の方式による場合は、定期借地権の設定時に、借地権者が地主に対して、借地に係る契約期間の地代の一部又は全部を一括して支払います。

 

(2)前払地代方式に係る税務上の取扱い

借地権者と個人地主が一定の定期借地権設定契約を締結した場合における所得税や法人税については、国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」で次の通りとされています。

 

①借地権者 前払地代を「前払費用」として資産に計上し、当該事業年度又は当該年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。

 

➁個人地主 前払地代を「前受収益」として負債に計上し、当該年分の賃料に相当する金額を収入金額に算入します。

 

(3)前払地代方式の適用を受けるための要件

前払地代方式を適用するには、借地権者と地主が次の内容を明示した定期借地権設定契約書により契約し、これを契約期間にわたって保管したうえで、取引の実態がその契約に沿うものである必要があります。

 

①授受する一時金が前払賃料であること

 

➁①の一時金が契約期間にわたって、又は契約期間のうち最初の一定の期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていること

 

③中途解約時に未経過分の前払賃料を借地権者に返還しなければならないこと

 

なお、中途解約時の違約金等の設定をする場合は、③の内容を逸脱することがないようする必要があります(国税庁文書回答事例「前払賃料について定めた定期借地権設定契約書の書式例」)。

 

2.前払地代方式により一般定期借地権が設定された場合の地主に係る相続税の取扱い


(1)一般定期借地権の目的となっている宅地の評価

一般定期借地権の目的となっている宅地(底地)の相続税評価額は、その宅地の自用地評価額から一般定期借地権の評価額を控除して計算します。この場合、借地権者と地主が親族関係であったり、会社とその同族株主の関係等であるときは、課税上弊害があるとされ、原則として一般定期借地権の評価額は次に算式により計算します(財産評価基本通達27-2ただし書、平10課評2-8、国税庁「タックスアンサー」No4612)。

 

<算式>一般定期借地権の目的となっている宅地の自用地評価額×(① ÷ ➁)×(③ ÷ ④)

 

①定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額

 

➁定期借地権等の設定時の宅地の通常の取引価額

 

③課税時期における定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

④定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

上記の計算において、前払地代の額は借地契約終了時にその未経過分が返還不要であることから、①の経済的利益の総額に含めます(国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて1(1)」。

 

(2)前払地代の未経過分相当額の取扱い

地主が前払地代を受領後に死亡した場合、その死亡時に前受収益として計上している地代の未経過相当額については、上記2(1)の通り前払地代の額が定期借地権の評価額に反映されることによって、定期借地権の目的となっている宅地の評価額が減額されることから、相続税の計算上、別の債務として控除することはできません(同文書回答事例1(2))。

 

3.個人地主における前払地代方式の留意点


個人地主が前払地代方式による一般定期借地権を設定した場合、所得税の計算上、1(3)の要件を満たす限り、受領した前払地代は期間(各年)に応じた収益計上ができますが、各年の地代の額が高額となるときは最高55%の税率により所得税や住民税等が課税されます。また、地主の死亡時における前払地代の未経過分相当額は、2(2)の通り相続税の債務控除の対象にならない点に注意が必要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/28)より転載

[解説ニュース]

道路と高低差のある雑種地の評価で土止め費用の控除が認められた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

 


1.はじめに


相続税評価をする土地がたとえば駐車場やテニスコート等、はたまた荒れ地であることがあります。この場合、相続税の評価の区分が雑種地と判定されるかどうかがポイントの1つになります。法令上では、雑種地とは、不動産登記事務取扱手続準則で定められた23の地目のうち、田、畑、宅地…公衆用道路、公園等22ある地目に該当しない23番目の区分の土地とされており、相続税の財産評価でも、不動産登記事務取扱手続準則に準じて雑種地かどうかを判定します。

 

雑種地の相続税評価は「原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する」(財産評価通達82)。どのようなロケーションにあるかが雑種地の相続税評価に影響し、場合によっては宅地並みに評価される場合があります。

 

今回は、市街化区域・市街化調整区域を定めていない都市計画区域で、用途地域が商業地域とされた外見上、雑草の生えた雑種地の相続税評価をめぐって争われた国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の裁決事例で、土止め費用の控除が認められた事例(令和4年9月5日)を見てみましょう。

 

 

2.事案の概要


問題になった土地の状況等は、次のとおりです。

 

 

相続人は、当初申告でその土地を約2,337万円と評価していました。しかし、令和2年にこの土地を不動産鑑定を行い、1,500万円となるとして「更正の請求」を行いましたが、税務当局に認められず、審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


審判所は、財産評価は特別の事情がない限り、財産評価基本通達の定める評価方法によって評価するのが相当としたうえで、都市計画の用途地域の指定がある地域にある雑種地の価額については、「その価額の形成要因が、当該雑種地を宅地として利用することを前提としたものであるから、その要因は近隣の宅地と変わりがなく、また、当該雑種地と宅地との比較においては、宅地造成費相当額だけの格差があるものと認められる」と評価の考え方を示しました。

 

具体的には「その雑種地が宅地であるとした場合の価額から、その雑種地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する金額として、整地等に要する費用の額がおおむね同一と認められる地城ごとに国税局長が定めた金額を控除する方式により評価することが相当(中略)宅地造成費とは、宅地との比較において格差があると認められる宅地造成費相当額、すなわち、その雑種地を宅地として利用可能な状態にするために必要とされる整地、土盛り、土止めに要する金額を指すものと解するのが相当である」としました。

 

 

あてはめでは、審判所は、北西側道路から平均で1.073m、南西側道路から平均で0.645m、隅切りから平均で1.065m高い位置にあることを認定し、「道路面よりも高い位置にある土地から各道路及び隅切りに向けて、土地上の土砂が流出していると認められる。これらのことからすれば、土地を宅地に転用する場合には、土砂の流出や崩壊を防止するため、本件土地と本件各道路及び本件隅切りとの境界に擁壁の構築が通常必要であると認められる」として、土止め費用の控除を認め、評価額を約1,823万円としました。

 

 

4.相続人の思惑


相続人は、問題の土地の基準容積率が360%で、地積が十分に大きいことから「地積規模の大きな宅地」並みの扱いとして、評価を下げたかったようです。400%の「指定容積率」という形式的要件で不適合となることは不合理と主張しましたが、認められませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/14)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:所得税の特定の事業用資産の買換え特例(3号)の見直し

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

 

 

 


1.特定の事業用資産の買換え特例(3号)の概要


所得税の特定の事業用資産の買換え特例は、個人が特定の地域内にある事業用資産を譲渡して、一定期間内に特定の資産を取得し、かつ1年以内に事業の用に供する等の所定の要件を満たした場合、譲渡益の一定割合(課税繰延割合)に相当する金額の課税が繰延べられるという税制です(租税特別措置法(措法)37条。法人税でも措法65条の7で同様の税制が設けられています)。この特例のうち利用されることが多いのが、措法37条1項3号の買換え(以下「3号買換え」)です。

 

この3号買換えでは、国内にある土地等、建物又は構築物で譲渡日を含む年の1月1日において所有期間が10年を超えるもの(譲渡資産)を譲渡し、国内のある一定の土地等、建物等又は構築物(買換資産)を取得した場合に、適用を受けることができます。

 

 

2.改正のポイント


令和5年度税制改正により、3号買換えにつき次の見直しが行われた上、適用期限が令和8年3月31日まで3年延長されました(改正法附則32条6項、7項)。

 

(1)課税繰延割合の変更

①概要

令和5年4月1日以後の譲渡より、東京都の特別区の区域から地域再生法の「集中地域」*以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が90%(改正前80%)に引き上げられ、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が60%(改正前70%)に引き下げられました(措法37条10項)。

 

*「集中地域」とは、東京都の特別区、武蔵野市、三鷹市、横浜市、川崎市、大阪市等の、法令が定める一定の地域をいいます(地域再生法 5条4項5号イ、同政令5条)。

 

②課税繰延割合の変更の趣旨

集中地域の外から内への買換えは、地域再生法における企業の地方拠点強化の促進と両立しないため、改正前から圧縮割合が原則の80%から70%に引き下げられていました。今回の改正では、集中地域の外から東京都の特別区への本店の移転を伴う買換えについて、さらに圧縮割合が60%に引き下げられました。一方、企業の地方拠点強化につながると考えられる東京都の特別区から集中地域の外への本店の移転を伴う買換えについては、圧縮割合が90%に引き上げられました(参考:財務省「令和5年度税制改正の解説」(以下「解説」)398頁)。

 

 

(2)届出要件の追加

①概要

令和6年4月1日以後、同一年に譲渡資産の譲渡と買換資産の取得をした場合には、譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日を含む「3月期間」の末日の翌日以後2ヶ月以内に、この特例の適用を受ける旨、及び取得見込資産又は譲渡見込資産の種類等を記載した届出書を税務署長に提出することが必要になります(措法37条1項)。

 

なお、この要件は、同一年内に譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得をした場合の特例の適用要件であるため、譲渡資産の譲渡の前年中に買換資産を先行取得する場合(措置法37条3項)や、譲渡資産の譲渡の翌年以降に買換資産を取得する見込みの場合(同条4項)等には、この届出は不要とされます。

 

②「3月期間」の意義

「3月期間」とは、1月1日~3月31日、4月1日~6月30日、7月1日~9月30日、10月1日~12月31日の各期間をいいます(措法施行令25条3項)。

 

③届出要件の追加の趣旨

3号買換えは、土地政策又は国土政策の観点から、特定地域からの追い出し促進や土地の有効利用促進等を目的に設けられた特例です。しかし、複数の土地等の売買取引を行う際に、申告時にその売買取引を並べた上で特例の要件に合致する譲渡資産と買換資産の組み合わせを事後的に作成し、適用を受ける事例が見受けられ、問題視されていました。今回3号買換えの適用期限を延長するに当たり、このような問題点を是正し、税制として適切に機能させるため、譲渡(又は取得)後一定期間内に本制度の適用及び適用を受ける買換え(譲渡資産と買換資産の組み合わせ)に関する事項の届出が、要件として追加されることになりました(参考:「解説」402頁)。

 

(注)法人税の3号買換えについても、上記2とほぼ同様の改正が行われます。ただし法人税の3号買換えの改正では、2(2)①の「同一年」が「同一事業年度」、②の「3月期間」の意義が「事業年度をその開始の日以後3ヶ月ごとに区分した各期間」となります(措法65条の7第1項)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/24)より転載

[解説ニュース]

マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■建物取壊費用を譲渡費用にする場合のポイントは?

■建物の取壊費用等が土地の取得費になるかどうかで争った事例

 

 


1.はじめに


住宅の住み替えを支援する税制である「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法36条の2、以下「マイホーム買換特例」という。)は、適用期限が令和5年12月31日までとされています(令和4年度税制改正)。同改正では、買換資産が、次のどちらかである場合、一定の省エネ基準(断熱等性能等級4以上および一次エネルギー消費量等級4以上)を満たす要件が追加されています。

 

ア.令和6年1月1日以後に建築確認を受ける住宅(登記簿上の建築日付が同年6月30日以前のものを除く。)

 

イ.建築確認を受けない住宅で登記簿上の建築日付が令和6年7月1日以降のもの

 

 

2.居住期間10年以上の要件等


このマイホーム買換特例は、保有期間が10年を超え、居住期間が10年以上の一定の要件を満たす居住用財産(マイホーム)を譲渡して、たとえば元のマイホームよりも高い金額の新たな住宅に買い換え、その他所定の要件を満たす場合、マイホームの譲渡益にかかる譲渡所得課税を先送りする特例です。

 

また、適用要件の1つである「居住期間10年以上」については、しばしば税務当局内でも注意喚起が行われているようです(東京国税局「資産税審理研修資料」令和3年8月)。たとえば、後で取得して自分の家になる借家に住んでいた期間も「居住期間10年以上」の判定の期間に入るのかどうかという点についてです。
この「居住期間10年以上」の判定の仕方については、措置法通達36の2-2で次のように整理されています。

 

措置法第36条の2第1項第1号に規定する「当該個人がその居住の用に供している家屋」の居住期間(当該個人がその居住の用に供している期間として措置法令第24条の2第6項に規定する期間をいう。以下36の2-22までにおいて同じ。)が10年以上であるものかどうかは、次により判定する。(平19課資3-5、課個2-15、課審6-9改正)

 

(1)当該個人が、譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間がある場合には、居住していなかった期間を除きその前後の居住していた期間を合計する。

 

(2)居住期間に該当するかどうかの判定については、31の3-2及び31の3-6に準じて取り扱う。

 

上記の取扱いでは、「譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間」と整理されていることから、その家が借家かどうかを問わないものとされています。借家の譲渡を受けた親から相続で取得した元借家の家を相続人が譲渡する場合、取得価額の引継ぎにより譲渡益は大きくなりがちだと思われます。
このような場合には、マイホーム買換特例の適用ができるなら、買換えに際しての税負担は少なくできることでしょう。

 

 

3.適用状況などについて


マイホーム買換特例について、譲渡益から3,000万円まで控除する「居住用財産の譲渡所得の特別控除(租税特別措置法35条)」との比較では、譲渡益の金額が3000万円よりも大きい場合にこの特例を利用すれば、目先の譲渡所得課税による税負担を効果的に先送りできるのがポイントです。

 

ただ、住宅譲渡対価の上限が1億円とされた平成26年以降は、適用件数も年間400件を超えることはなくなっています。ここ19年間のマイホーム買換特例の適用状況は次の通り(国税庁「資産税事務処理状況表」)。

 

 

 

 

令和4年度税制改正に向けた国土交通省の税制改正要望では「特に従前住宅の所有期間の長い高齢者層に譲渡益及びその課税負担が発生することが多い一方、これらの層は新しいローンを組みにくい。従前住宅の売却金等により新たな住宅を購入せざるを得ないこれらの層にとっては、売却時の課税負担が買換えの障害となるため、こうした障害を減少させることにより、ライフステージの変化に応じた円滑な住替えを支援することが必要である。」として、適用期限の延長を要望していました。

 

 

令和4年度税制改正ではそれが認められたわけですが、今年の年末で期限を迎えるマイホーム買換特例について、令和6年度税制改正では、どのようになるか注目されます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/10)より転載

[解説ニュース]

貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■持分の定めのない法人への預金移転で贈与税が問題になった事例

 

 


1.はじめに


賃貸共同住宅は相続税の財産評価では有利だという話はよく聞くところです。実際、賃貸共同住宅の敷地と建物の相続税評価は、国税庁の財産評価基本通達によると、次のような計算式で求めることとされています。

 

●貸家の敷地の相続税評価額=自用地の評価額-自用地の評価額×その地域の借地権割合×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達26)。

 

●貸家の評価額=その貸家の固定資産税評価額-同家屋の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達93)。

 

ただし、賃貸共同住宅の敷地・建物を複数の相続人で相続した後、その相続人に相続が開始した場合には、以前の相続の仕方や相続人が相続した後の借家人の入れ替わりなどの状況変化によっては、同じ賃貸共同住宅の敷地・家屋であっても、相続税評価の上で不利になる場合があります。敷地の相続税評価において、賃貸集合住宅の敷地となっているのに、貸家建付地としての減額が認められないケースもあるからです。

 

 

2.事例の概要


貸家建付地としての減額が認められなかった最近の事例(国税不服審判所裁決、令和4年9月20日)を紹介します。この事例は他にも争点がありますが、ここではおよそ260㎡の土地に建つ、戸数6戸の賃貸共同住宅の敷地の評価について争われたところをクローズアップします。

 

裁決書によると、相続税評価が問題となった土地は、被相続人(以下「亡母」という)の配偶者である父が昭和59年2月5日に建築した共同住宅の敷地として利用されていたものです。亡母の死亡に係る相続の前に発生した父の死亡による相続で、亡母はこの土地の100分の25の持分を取得し、長女がこの土地の100分の75の持分と共同住宅の所有権を取得していました。推測ですが、父からの相続では、賃貸共同住宅が満室だったら、亡母と長女が取得した敷地はその全体が貸家建付地と評価されていたのではないでしょうか?

 

今回の亡母の相続開始時点では、総戸数6戸のうち3戸が実際に貸し付けられていました。また、借家人と契約していたのは長女となっていました。なお、亡母は長女との間で母の土地の持ち分の賃貸借契約を締結しないまま、相続を迎えたということです。

 

亡母の長女を含む相続人らは、問題の敷地の相続税評価に関し、貸家建付地として評価し申告していましたが、税務署は、亡母と長女の間に地代の授受が認められないから、土地の利用は使用貸借であるとして減価せずに更正処分等をしました。こうして審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


国税不服審判所(以下「審判所」という)は、上記の財産評価基本通達の貸家建付地等の評価方法について「適正な時価を算定する方法として合理的なもの」と認めました。そのうえで、審判所は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の所有者は長女であり、(父からの相続後)共同住宅の賃貸人も長女であったことから、亡母は、共同住宅の借家人に対してその賃貸人としての義務を負う立場にはなく、

 

この土地が共同住宅の數地として利用されていることの結果としく受ける亡母の利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることからくるもの(中略)したがって、亡母と長女との間にこの土地に係る使用貸借の合意があったか否かにかかわらず、この土地の亡母の共有持分を評価するに当たり、この土地を貸家建付地として評価することはできない。」と判断しました。そして審判所は「亡母のこの土地の共有持分について、長女との間において賃貸借契約があったと認められないからこの土地は自用地として評価することとなる」としています。

 

なお、相続人は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の一部が賃貸に供され、その借家人が共同住宅を通じて、その敷地利用権を有しているところ、貸家の所有者が相続により変更になっても借家人の借家権及びその敷地利用権は侵害されないから、(中略)この土地は、貸家建付地として評価すべき」と主張していました。

 

これに対し審判所は「借家人は長女との間で賃貸借契約を締結しているのであるから、借家人が有するこの土地の利用権は、(中略)長女がこの土地に対して有する権限を前提にしたものにすぎない。そして、(中略)亡母が受ける利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることによるものといえるから、請求人らが主張する事情をもって、この土地を貸家建付地として評価すべきとはいえない」と相続人の主張を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/26)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:相続開始前に被相続人から暦年課税に係る贈与があった場合の相続税

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

■【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

 


1.暦年課税のあらまし


(1)贈与税の計算方法

 

暦年課税の贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与により取得した財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を控除します。その控除後の金額に超過累進税率をかけて税額を計算します(相続税法(相法)21条、21条の2、21条の7、租税特別措置法70条の2の4等)。

 

 

(2)相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産の相続税計算への加算

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人(被相続人の死亡による死亡保険金の取得等、相続又は遺贈により財産を取得したものとみなされる人も含む。)が、その被相続人から相続開始前 3 年以内に贈与を受けた財産がある場合は、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上、その贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)が加算され、加算された人の相続税の計算上、その贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除します(相法19条1項、3条1項等)。

 

 

2.相続開始前に贈与があった場合の相続税計算への加算期間等の見直し


(1)改正の趣旨

 

贈与税の暦年課税は、生前贈与による相続税の回避を防止する観点から、相続税に比べて取得した財産に対して適用する税率が高くなる構造となっています。例えば、相続する財産が4,000万円の場合、相続税の税率は20%ですが、その財産を1,000万円に4分割して子に贈与しても贈与税の税率は30%となり、相続税よりも高い税率が適用されます。

 

その一方で、相続財産が多いため多額の相続税がかかることが見込まれる人にとっては、相続税の税率よりも贈与税の税率の方が低いことから、財産を分割して贈与を繰り返す方法を採ることで、贈与税の計算上は、相続税よりも低い税率を適用することが可能です。例えば、相続する財産が6億円超の場合、相続税の税率は55%ですが、その財産を4,500万円以下に分割して贈与すると、贈与税の税率は相続税よりも低い税率(55%以下)が適用されます。

 

以上のような問題点を改善し、若年世代への財産の移転に関して生前贈与でも相続でも最終的な税負担を一定にする、「資産移転の時期の選択により中立的な税制」を構築することを目的として、次の(2)~(5)の改正が行われました。

 

 

(2)加算期間の延長

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合には、原則、その贈与により取得した財産(加算対象贈与財産)の価額(贈与時の価額)が、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上加算され、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除されます(改正後の相法19条1項)。

 

なお被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった人が被相続人から贈与を受けた財産の価額は、被相続人に係る相続税の課税価格には加算されないので、加算期間の延長の対象にはなりません。

 

 

(3)加算対象贈与財産の100万円控除

 

過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、加算対象贈与財産のうちその相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の合計額から100万円が控除されます(改正後の相法19条1項かっこ書)。例えば令和13年1月1日に相続が開始した場合、令和6年1月1日から9年12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額から100万円が控除されます。

 

 

(4)適用時期

 

(2)と(3)の改正は、原則、令和6年1月以後に受けた贈与より適用されます(令和5年改正法附則(以下「附則」)19条1項)。

 

 

(5)加算期間の延長の経過措置

 

(2)の延長には経過措置があり、令和9年1月以後に開始した相続より、改正前の3年から順次延長されます。令和9年1月1日から12年12月31日までに開始した相続については、令和6年1月から相続開始日までに受けた贈与財産の額が加算対象とされ、令和13年1月1日後に開始した相続から加算期間が7年となります(附則19条2項、3項)。

 

例えば令和8年7月1日に相続が開始した場合、令和5年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和10年1月1日に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和13年7月1日に相続が開始した場合には、令和6年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/12)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:贈与税の相続時精算課税の見直し

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

 


1.改正前の相続時精算課税のあらまし


相続時精算課税は、原則、60歳以上の父母又は祖父母(以下「特定贈与者」)から18歳以上の子又は孫(以下「相続時精算課税適用者」)が、財産の贈与を受けた場合に、一定の届出により適用を受けることができます。具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(最大2,500万円)を控除し、その残額に一律20%の税率をかけて贈与税を計算します(相続税法(相法)21条の9、12、13)。

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に相続時精算課税を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算し、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します(相法21条の14~16)。

 

 

2.令和5年度税制改正のあらまし


相続時精算課税の使い勝手を向上させ、生前にまとまった財産を次世代に移転しやすくする税制を構築することを目的に、次の改正が行われました。

 

(1)基礎控除制度の導入

 

相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により財産を取得した場合、その財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に課税価格から最大110万円の基礎控除が控除されます(相法21条の11の2第1項、租税特別措置法(措法)70の3の2第1項)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Aが特定贈与者の父から現金200万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、200万円-110万円(基礎控除)-90万円(特別控除)=0円となります。その後、令和7年にその父からAが現金2,600万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、{2,600万円-110万円(基礎控除)-(2,500万円-90万円)(特別控除)}×20%=16万円となります。

 

なお、相続時精算課税適用者が同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けているときは、特定贈与者ごとに、それぞれ贈与を受けた財産の価額に応じて基礎控除の110万円を按分計算します(相法21条の11の2第2項、相法施行令5条の2、措法70の3の2第2項、措法施行令(措令)40条の5の2)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Bが特定贈与者の父から400万円、特定贈与者の母から100万円の贈与を受けた場合、父から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×400万円÷(400万円+100万円)=88万円、母から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×100万円÷(400万円+100万円)=22万円となります。

 

(2)特定贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に、【相続時精算課税適用者が死亡した特定贈与者から取得した贈与財産の価額-(1)の基礎控除】が加算されます(改正後の相法21条の15第1項)。例えば、相続時精算課税適用者Cが特定贈与者の父から令和6年に現金200万円、令和7年に現金2,600万円の贈与を受けた後、父が令和8年に死亡した場合、(200万円-110万円)+(2,600万円-110万円)=2,580万円が父に係る相続税の計算に加算されます。

 

(3)適用時期

 

(1)と(2)の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます(改正法附則19条第1項)。

 

(4)贈与により取得した土地又は建物が災害により被害を受けた場合の特例

 

上記1の通り、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地や建物が、その取得後に災害により被害を受けたことにより、特定贈与者の死亡時の価額が贈与時点の価額よりも下落した場合であっても、特定贈与者に係る相続税の計算上は贈与時の価額を加算するのが原則です。これが今回の改正により、その贈与により取得した土地や建物につき災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続税の計算上、特例的に加算する贈与財産の価額の減額が認められることになりました。

 

具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により一定の土地又は建物を取得した場合において、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間に、災害によりその土地または建物が一定の被害を受けたときは、その災害が発生した日から3年を経過する日までに、所轄税務署長に一定の申請書を提出して承認を受けることにより、その特定贈与者に係る相続税の計算上、【その土地又は建物の贈与時の価額-その災害により被害を受けた部分に相当する額】を加算することになります(措法70条の3の3第1項、措令40条の5の3第5項)。この改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます(改正法附則51条第5項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/29)より転載

[解説ニュース]

親の土地を無権代理で売買、引渡し前に相続開始で税金紛争

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

 


1.はじめに


疾病により意思の確認が困難な親の持つ土地を、子が無権代理で売買契約した直後、相続が開始したため、税金トラブルになった事例が出てきました(国税不服審判所裁決、令和4年10月4日)。トラブルになったのは、親の土地が買主に引渡前で、いわゆる「売買契約中の相続」だったためです。

 

このケースで、売主側で開始した相続の場合には、相続財産として課税対象になるのは、土地そのものではなく、手付金を除いた残代金請求権という金銭債権になるとされます。残代金請求権となると土地の含み益が実現した形で相続税の課税が及びます。

 

このため相続人である子供は、売買契約を無権代理で行っていたことから、契約は無効だったとして、土地としての相続税評価額で相続税の申告をしましたが、税務署がそれを否認して争いになったものです。

 

2.事例の概要


裁決書によると、事実の経過は次のとおりです。

 

1.平成30年4月13日、相続人のうちの1人Aが、認知機能の低下した被相続人の保有する土地2万㎡弱を買主に売る契約を締結し、契約書の売主欄には被相続人の記名押印があった。

 

2.契約では、同年7月13日までに引き渡すことが約されたほか、手付金の交付が約され、契約日である4月13日に、手付金は被相続人口座に振り込まれた。

 

3.土地の引渡し前に被相続人が死亡し相続が開始。

 

4.同年6月29日、相続人AとBの2名は、買主との間で、土地の引渡し日を同年8月末日に変更する「不動産契約取引期日変更同意書」を取り交わした。相続人A・Bの署名押印がなされた。

 

5.同年6月30日、売買契約目的の土地等について相続人A・Bが取得することを決めた遺産分割協議を成立させた。同年8月15日、相続人A・Bは、売主との間で、売主の地位が被相続人から承継されていることなどについて「覚書」を交わした。同月31日、相続人A・Bは残代金を受領した。

 

この後、相続人らは、売買契約中の土地につき路線価評価で期限内に相続税申告。これに対し税務当局は令和3年9月に売買契約中の財産につき「残代金請求権」と認定し追徴しました。相続人はこれを不服として国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の判断を仰ぐことになったものです。

 

 

3.審判所の判断の概要


争点は「相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等であるか、売買残代金請求権であるか」。

 

民法では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じないとの規定(第113条第 1項)があります。この事案では売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないまま被相続人本人が死亡しています。そこで審判所は、被相続人の共同相続人による売買契約を追認又は拒絶する権利の行使について、次のように検討しました。

 

1.無権代理人が、被相続人本人の持つ無権代理行為を追認又は拒絶する権利について、他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認又は拒絶する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。共同相続人全員が共同して追認又は拒絶する権利を行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない。

 

2.相続人は全員で、売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないままに、遺産分割協議を成立させ、その結果として、無権代理をした相続人等は、土地等の所有権を相続により取得した。

 

3.「無権代理をした相続人ら」は、売買契約を追認又は拒絶する権利も土地等の所有権とともに、相続により取得したものとみるべき。

 

審判所は上記を踏まえ、被相続人の無権代理人として締結した売買契約について、被相続人死亡後、買主との間で交わした「売主の地位を被相続人から承継したとする」覚書で追認したものと認められ、民法第116条に規定するとおり、追認は別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずることとなるから、売買契約は、被相続人が亡くなる前の無権代理で契約のあった日に遡って有効であったと認定しました。

 

結論として審判所は「相続の開始の時において、売買契約の履行が、相当程度確実になっていたものと認められることから、相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等ではなく、売買残代金請求権であると認めるのが相当である」と判断し、税務当局の追徴を支持しました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/15)より転載