[解説ニュース]

 

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~極めて高い水準の所得に対する負担の適正化~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】法人が100%子会社の株式を譲渡する場合における法人税基本通達による株式時価の評価

 

■相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除:契約効力発生日基準により申告する場合

 

 

 

 

【問】

 

甲さんは、令和6年12月に死亡しました。相続人は長男Aさんと次男Bさんの2人です。Aさんは、甲さんの死亡により、甲さんが保険料を負担した生命保険金1億円を受け取っています。その生命保険金以外の甲さんの本来の相続財産は、6,000万円です。この相続に係る遺産分割において、AさんとBさんは、生命保険金と相続財産の合計額1億6,000万円を折半することにし、相続財産6,000万円は全てBさんが取得し、Aさんは受取った生命保険金1億円から現金2,000万円をBさんに支払うことを考えています。

 

以上の場合に、AさんがBさんに支払う現金2,000万円は、相続財産を目的とする代償分割が行われて代償債務の支払いがあったときと同様に、甲に係る相続税の計算上、代償債務として控除することができますか。あるいはBさんに対する贈与とされて、Bさんに贈与税が課税されますか。

 

 

 

【回答】

1.結論


生命保険金は受取人(Aさん)の固有財産であり、代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえないので、Bさんに支払った2,000万円を代償債務として、Aさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円については、Bさんに対する贈与となり、Bさんに対して贈与税が課税されます。

 

 

2.解説


 (1)代償分割による相続財産の分割

代償分割とは、相続人のうちの1人又は数人に相続財産を現物で取得させる一方で、その現物を取得した者に、他の相続人に対して、自己の固有財産を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行うことをいいます。

 

本問のように複数の相続人が相続財産を分割する場合、個々の相続財産をそれぞれ相続人に分配する、現物分割による遺産分割の方法を用いるのが一般的です。

 

ただし、遺産分割の実務においては、相続人のうちの1人又は数人に法定相続分を超えて相続財産の全部又は大きな部分を現物で取得させ、その代償として、その現物を取得した者に他の相続人に対し自己の固有財産(代償財産)を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行う、いわゆる「代償分割」による遺産分割の方法も広く行われています。

 

(2)代償分割を行った場合の相続税の取扱い

代償分割を行った場合の相続税における取扱いは、次のようになります(相続税法基本通達11の2-9、11の2-10)。

 

①代償財産の交付を受けた人
相続又は遺贈により取得した現物の財産(相続財産)の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額を課税価格とします。

 

②代償財産の交付をした人
相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額を課税価格とします。

 

 

(3)本問へのあてはめ

AさんとBさんは生命保険金を目的とした代償分割を想定していますが、代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであり、生命保険金は相続財産に該当しません。生命保険契約は保険契約者と保険会社との間で締結された第三者(保険金受取人)のためにする契約であり、その契約に基づく生命保険金は、保険事故(被保険者の死亡)を原因として第三者である受取人が固有の権利として取得するものだからです。

 

以上により、Aさんが受け取った生命保険金は代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産とならず、Bさんに生命保険金から支払った2,000万円は、代償債務としてAさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円は、Bさんに対する贈与とされ、Bさんに贈与税が課税されます(参考:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例(相続税関係 令和5年版)」19)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/3/24)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

法律によらない土地の交換分合で譲渡所得税がかかるかどうかのポイント

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

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1.はじめに


自分の所有する土地を他人の土地と交換した場合、税法上「譲渡」扱いとされるのが原則です。しかし、固定資産の交換の特例(所得税法58条)に規定する要件を満たすと、土地の交換であっても「譲渡はなかったもの」とされ、譲渡所得税はかかりません。

 

 

2. 特例以外の取扱いも


ところで、譲渡所得税がかからない交換は、上記交換の特例に限られるかというと、そうでもありません。所得税では、土地区画整理法等の法律の規定に基づき租税特別措置が設けられているほか、取扱いとして次の2つがあります。①「法律の規定に基づかない区画形質の変更に伴う土地の交換分合」(所得税基本通達33‐6の6)、②宅建業者等の事業者が絡む場合の「宅地造成契約に基づく土地の交換等」(所得税基本通達33‐6の7)です。

 

①一団の土地の区域内に「土地及びその土地の上に存する借地権など」(以下、土地等という。)を有する2以上の人が、その一団の土地の利用の増進を図るために行う土地の区画形質の変更に際し、相互にその区域内に有する土地の交換分合)を行った場合には、その交換分合が当該区画形質の変更に必要最小限の範囲内で行われるものである限り、その交換分合による土地の譲渡はなかったものとされる取扱いです。

 

②一団の土地の区画形質の変更に関する事業が施行される場合において、その事業の施行者とその一団の土地の区域内に土地等を有する者(従前の土地の所有者)との間に締結された契約に基づき、従前の土地の所有者の有する土地をその事業の施行のためにその事業施行者に移転し、その事業完了後に区画形質の変更が行われたその区域内の土地の一部を従前の土地の所有者が取得するときは、その従前の土地の所有者が有する土地とその取得する土地との位置が異なるときであっても、その土地の異動が当該事業の施行上必要最小限の範囲内のものであると認められるときは、その従前の土地の所有者の有する土地のうちその取得する土地の面積に相当する部分は譲渡がなかったものとされる取扱いです。ただし一部金銭で補われている場合には、金銭で取得した土地部分を除きます。

 

そして①②のどちらもこの交換分合が、一団の土地の区画形質の変更に伴い行われる道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等に基因して行われるもので、四囲の状況からみて必要最小限の範囲内であると認められる場合に上記取扱いを適用できるとされています。

 

 

3. 区画形質の変更とは?


上記の特例以外の交換分合の取扱いでは、一団の土地において「土地の区画形質の変更」に際し土地の交換分合が行われることが条件になっています。この土地の区画形質の変更とは、(1)区画の変更、(2)土地の形状の変更、(3)宅地化することとされています。具体的にどのような形で認められるのか、国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の裁決事例から手がかりを捜してみましょう。

4.平成13年12月20日裁決


この事例は1団の土地を構成する土地を持つ3人が、無道路地をなくすための私道を開設しようと、それぞれ土地を交換等して所有する土地を使いやすくした事例です。税務署は上記①の取扱いの適用はないとして課税しました。

 

税務署の考えは「土地の区画形質の変更とは、一団の土地の登記地番及び所有権に基づく区画に対して、道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等によって区画を適正にし、土地の形状・土質を改良して適正な宅地を造成すること」だとして、3人の行った交換分合について次の問題点を指摘していました。

 

ア、地番・地積の変更・更正等を行うことなく、従来のままの地番・地積で所有権移転登記がされている。

 

イ、一部の土地は、何ら造成等は行われず、区画形質の変更があったとは認められない。

 

しかし審判所は、上記①の取扱いについて、「その経済実態から、土地所有者相互間における相隣関係の問題として単に土地の境界線を整理しただけとか不整形地であったところに道路を付け区画を整理するというのであれば、その土地の交換分合が土地所有者相互間において必要最小限の範囲内で行われた場合には、税務上はその交換分合による土地の譲渡はなかったものとする趣旨」を踏まえ、「土地の区画を整理し、又は土地の形状及び土質を変更し、利用しやすい土地にすることをいうと解され、必ずしも土地の形質の変更を伴わなければならないというものではない」と述べ、上記①の取扱いの適用を認め「譲渡はなかったもの」としています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/3/10)より転載

 

[解説ニュース]

調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■相続財産譲渡時の取得費加算の特例で加算される相続税額で争いになった事例

■売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

 

 

1、はじめに


贈与税の確定申告もこの時期が申告の最盛期です。贈与税は財産をもらった人が、原則として贈与のあった年の翌年3月15日までに申告することになっています。もちろん、申告期限を守れなかったら、原則として無申告加算税というペナルティが付けられます。

 

ただし申告書の提出がなかったことについて、「正当な理由」がある場合には、無申告加算税は賦課されません。この「正当な理由」とは、「災害、交通・通信の途絶その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由」のことを指します(国税庁HP,相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針))。

 

 

2、「やむを得ない事情」をめぐる事例


この「やむを得ない事情」について、例えば次のような裁判例があるので、見てみることにしましょう(東京地裁平成31年2月1日、最高裁令和2年1月16日不受理)
判決によると、問題になったのは事業承継に絡んだ非上場会社の株式の贈与です。納税者Aさんは平成26年に父親からその株式の贈与を受けました(本件贈与といいます)。

 

ところがその年末、父親が他の会社関係者とともにAさんに対し株式を贈与したことはないなどと主張して、Aさんと株式の発行会社などを相手に、父が株式を有する株主であることの確認を求める等の訴訟を東京地裁に提起したというのです。
この父から提起された裁判は平成28年2月に判決が下り、確定しました。その内容はAさんへの株式の贈与は有効に成立したと認められるなどとするものでした。

 

贈与された株式について贈与税の申告は、本来平成27年の3月16日までにすべきものでしたが、Aさんは平成28年6月になって「期限後申告」をしました。というのもAさんは、父から訴えられたことについて、次のように考え、「このような状況において、贈与税の納付を強制することは、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たる」と考えたからです。

 

1、父は贈与の撤回を求めるもので、権利移転が認められる判決が確定すれば贈与の効力が確定したと考えられる。

 

2、贈与の対象となった非上場株式は換金性に乏しく、贈与税を支払うには金融機関から借入をするしかなかったが、父方の訴訟提起があったため借入できなかった。

 

しかし税務署は、平成28年7月に無申告加算税の賦課をしたことからAさんは無申告加算税の賦課決定取消を求めて争いとなったものです。

 

 

3、裁判所の判断


裁判所は過去の過少申告加算税を巡る最高裁平成18年4月20日判決などから「国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められる場合とは、法定申告期限内に申告書が提出されなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、(中略)納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である」と解釈しました。

 

これを踏まえ裁判所は、父から提起された裁判があったとしても「ひとまず贈与税の申告書を提出し、後に判決に於いて贈与が無効とされたときに、更正の請求をすることが可能であるから、このような場合に期限内申告書の不提出に対し無申告加算税を賦課しても、当該贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出しなかったというような真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情が存在することを納税者が主張立証しない限り、当該納税者にとって不当又は酷になるということはできない」としました。

 

Aさんのケースについて裁判所は、平成27年中に行われた株主総会で贈与を受けた株式をベースとする議決権を行使していたことを指摘。

 

裁判所は、Aさんが「法定申告期限である平成27年3月16日までの時点において、本件贈与を有効であると認識していたことは明らかであり、本件贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識していたとは認められない」としてAさんの主張を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/2/25)より転載

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】生命保険金を目的とした代償分割を行う場合の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

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■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

 

 

 

【問】

 

甲さんは、令和6年12月に死亡しました。相続人は長男Aさんと次男Bさんの2人です。Aさんは、甲さんの死亡により、甲さんが保険料を負担した生命保険金1億円を受け取っています。その生命保険金以外の甲さんの本来の相続財産は、6,000万円です。この相続に係る遺産分割において、AさんとBさんは、生命保険金と相続財産の合計額1億6,000万円を折半することにし、相続財産6,000万円は全てBさんが取得し、Aさんは受取った生命保険金1億円から現金2,000万円をBさんに支払うことを考えています。

 

以上の場合に、AさんがBさんに支払う現金2,000万円は、相続財産を目的とする代償分割が行われて代償債務の支払いがあったときと同様に、甲に係る相続税の計算上、代償債務として控除することができますか。あるいはBさんに対する贈与とされて、Bさんに贈与税が課税されますか。

 

 

 

【回答】

1.結論


生命保険金は受取人(Aさん)の固有財産であり、代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえないので、Bさんに支払った2,000万円を代償債務として、Aさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円については、Bさんに対する贈与となり、Bさんに対して贈与税が課税されます。

 

 

2.解説


 (1)代償分割による相続財産の分割

代償分割とは、相続人のうちの1人又は数人に相続財産を現物で取得させる一方で、その現物を取得した者に、他の相続人に対して、自己の固有財産を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行うことをいいます。

 

本問のように複数の相続人が相続財産を分割する場合、個々の相続財産をそれぞれ相続人に分配する、現物分割による遺産分割の方法を用いるのが一般的です。

 

ただし、遺産分割の実務においては、相続人のうちの1人又は数人に法定相続分を超えて相続財産の全部又は大きな部分を現物で取得させ、その代償として、その現物を取得した者に他の相続人に対し自己の固有財産(代償財産)を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行う、いわゆる「代償分割」による遺産分割の方法も広く行われています。

 

(2)代償分割を行った場合の相続税の取扱い

代償分割を行った場合の相続税における取扱いは、次のようになります(相続税法基本通達11の2-9、11の2-10)。

 

①代償財産の交付を受けた人
相続又は遺贈により取得した現物の財産(相続財産)の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額を課税価格とします。

 

②代償財産の交付をした人
相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額を課税価格とします。

 

 

(3)本問へのあてはめ

AさんとBさんは生命保険金を目的とした代償分割を想定していますが、代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであり、生命保険金は相続財産に該当しません。生命保険契約は保険契約者と保険会社との間で締結された第三者(保険金受取人)のためにする契約であり、その契約に基づく生命保険金は、保険事故(被保険者の死亡)を原因として第三者である受取人が固有の権利として取得するものだからです。

 

以上により、Aさんが受け取った生命保険金は代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産とならず、Bさんに生命保険金から支払った2,000万円は、代償債務としてAさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円は、Bさんに対する贈与とされ、Bさんに贈与税が課税されます(参考:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例(相続税関係 令和5年版)」19)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/2/12)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■相続財産譲渡時の取得費加算の特例で加算される相続税額で争いになった事例

■マンションの相続税評価が時価の6割水準めどに引上げへ

 

 

1、はじめに


定期借地権でコンビニエンスストア等の敷地にしてた市街化調整区域の約4千平米の貸宅地を相続した人が、その相続税評価について「地積規模の大きな宅地」(財産評価基本通達20-2)に準じて減価すべきと主張し争っていた審査請求事案で、国税不服審判所(以下、審判所という。)は減価を認めない裁決を下しました(令和6年3月6日)。

2、事案の概要


問題となったのは、土地の所在が市街化調整区域であったこと。土地の所在の状況は、次のとおりです。

 

 

3、「地積規模の大きな宅地」の評価とは


地積規模の大きな宅地とは、①三大都市圏においては500平米以上、②それ以外の地域においては1,000平米以上の宅地で、所定の宅地をいいます。

 

これに該当する宅地は、奥行価格補正から不整形地補正までの定めにより計算した価額に、その宅地の地積の規模に応じ、一定の規模格差補正率により減価することになっています。

 

ただし、市街化調整区域に所在する宅地の場合には上記の減価の対象とはなりません(財産評価基本通達20-2)。

 

なお、市街化調整区域で倍率地域あっても、都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に該当する区域のうち宅地分譲に係る開発行為が可能な区域については、戸建住宅用地としての分割分譲が法的に可能なため、これらの区域内の宅地について、他の要件を満たす場合には「地積規模の大きな宅地」に該当することとされています。規模格差補正率は次の計算式のより求めることになっています。

 

 

 

 

 

 

各数値については以下を参照してください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4609.htm

4、審判所の判断


審判所は、地積規模の大きな宅地の評価の「適用対象については、評価通達の地区区分や都市計画法の区域区分等を基にすることにより明確化を図ったもの」と説示しました。

 

通達改正前の減価対象だった「広大地の評価」の判定上、苦慮する事態が見られたことを反面教師として「地積規模の大きな宅地の評価」の導入へ至った経緯を踏まえたものです。

 

それを踏まえ審判所は、問題の土地が「市街化調整区域に所在する宅地であって、10号区域又は11号区域に所在しないことから、(中略)本件通達の適用対象とはならない。

 

また、(中略)評価通達5にいう評価方法の定めのない財産に当たらず、評価通達5の適用もない。したがって、本件各土地を本件通達の適用対象となる 「地積規模の大きな宅地」に準じて評価することはできない」と判断しています。
また審判所は問題の宅地が減価の対象にならない理由として、要旨「都市計画法第34条第12号の規定は、同条第14号に相当する開発行為で、審査基準のうち定型的なものを条例で定めることにより、開発許可の手続の迅速化・合理化を図る趣旨」と指摘。

 

そして審判所は「その開発行為としては、分家に伴う住宅、収用対象事業の施行による移転等による建築物、社寺仏閣等の建築物の用に供するものが予定されているのであるから(開発許可制度運用指針の 1の7の1)、同条第12号の規定に基づく開発行為の対象となる宅地は、仮に宅地分譲に係る開発行為が可能な区域に所在していたとしても、本件通達が適用対象とする「戸建住宅用地としての分割分譲が法的に可能であり、かつ、戸建住宅用地として利用されるのが標準的である地域に所在する宅地」の範囲に含むべきものではない」としています。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/1/27)より転載

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】非上場株式の相続税評価における類似業種比準価額計算上の業種目判定

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】法人が100%子会社の株式を譲渡する場合における法人税基本通達による株式時価の評価

 

■【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除の適用

 

 


【問】

甲株式会社(甲社)の代表取締役のAさんは、不動産賃貸業を営む甲社の発行済株式の全部を保有していましたが、令和6年12月に死亡しました。甲社は平成20年に設立され、同年にAさんが発行済株式の全部を保有していた株式会社乙(乙社)の株式の全部と、乙社の事業の用に供される不動産を、Aさんから買取っています。甲社は、100%子会社の乙社への不動産賃貸のみを事業として行い(売上は乙社からの賃貸料のみ)、事実上、事業会社である乙社の持株会社となっています。

 

上記の場合において、Aさんに係る相続税の計算上、甲社株式を類似業種比準価額で計算する場合に使用する業種目は、「不動産賃貸業・管理業」に該当すると考えて問題はないのでしょうか。あるいは実態を踏まえて、「持株会社」に該当するものとして取扱うべきでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


甲社は、乙社の発行済株式の全部を保有し、乙社からの不動産の賃貸収入以外の収入がないため、日本標準産業分類上「純粋持株会社」に該当し、下記2の「対比表」より、その株式の類似業種比準価額の計算で使用する業種目は、「その他の産業」に該当するものと考えられます。

 

 

2.理由


(1)類似業種比準価額計算上の業種目の判定

 

類似業種比準価額は、類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額ベース)を基に計算します(財産評価基本通達180)。この類似業種の判定のための業種目は、国税庁が総務大臣の公示する「日本標準産業分類」の分類項目に基づき分類し、「類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」として毎年公表しています(同通達181及び逐条解説)。

 

実務上は、評価しようとする株式の発行会社の、課税時期の直前期末以前1年間の取引金額により、その会社の日本標準産業分類上の分類項目を調べ、これを基に国税庁が公表する「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表(平成29年分)」(以下「対比表」・下記(2)②参照)により、業種目を判定します。

 

 

(2)純粋持株会社における類似業種比準価額計算上の業種目の考え方

 

①純粋持株会社の意義

(1)の日本標準産業分類には、「細分類番号7282純粋持株会社」という項目があり、その意義として次の説明がされています。「経営権を取得した子会社の事業活動を支配することを業とし、自らはそれ以外の事業活動を行わない事業所をいう。ただし、子会社からの収益を得ることは事業活動とはみなさない。」

 

(参考:「日本標準産業分類」(第14回改定)433頁、434頁)https://www.soumu.go.jp/main_content/000941216.pdf

 

 

②純粋持株会社の業種目

 

日本標準産業分類における純粋持株会社を(1)の対比表の区分に当てはめると、その類似業種比準価額計算上の業種目については、「専門サービス業(純粋持株会社を除く)」とされており、専門サービス業には該当しません。他の業種目においても純粋持株会社に該当するものがないことから、分類不能となり、類似業種比準価額計算上の業種目は「その他の産業」に該当することになります。

 

(参考:「日本標準産業分類の分類項目と類似業種比準価額計算上の業種目との対比表」19頁、22頁)

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hyoka/170613/pdf/05.pdf

(3)本問へのあてはめ

 

甲社は、乙社の発行済株式の全てを保有して同社の経営権を有し、不動産賃貸業を営むものの、その売上は100%子会社乙社からの賃貸料のみです。日本標準産業分類では、純粋持株会社を(2)①の通りに定義し、子会社(乙社)からの収益(賃貸料)を得ることは事業活動とはみなされないとしていることを踏まえると、甲社の業種は不動産賃貸業・管理業ではなく、純粋持株会社に該当するといえます。

 

以上により甲社は、日本標準産業分類の分類項目上、純粋持株会社に該当し、その株式の類似業種比準価額計算上の業種目は「その他の産業」に該当するものと考えられます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/1/16)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

速報!令和7年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■速報!令和5年度税制改正案

■速報!令和6年度税制改正案

 

 

 

~税制改正大綱(大綱)に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

【相続税・贈与税】《「与党税制改正大綱」)P39、49、39》

1.事業承継税制の見直し【拡充】

 

(1)非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例制度における役員就任要件について、贈与の直前において(現行:贈与の日まで引き続き3年以上)特例認定贈与承継会社の役員等であることとされる。

 

(2)個人の事業用資産に係る贈与税の納税猶予制度における事業従事要件について、贈与の直前において(現行:贈与の日まで引き続き3年以上)特定事業用資産に係る事業に従事していたこととされる。

 

(注)上記(1)及び(2)の改正は、令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。

 

2.相続税の物納制度の見直し【拡充】

相続税の物納制度における物納許可限度額等について、物納許可限度額の計算の基礎となる延納年数は納期限等における申請者の平均余命の年数を上限とする等の見直しが行われる。

 

3.直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置

 

【延長】
その適用期限が令和9年3月31日まで2年延長される。

 

【個人所得課税】《「与党税制改正大綱」P28、20~22》


 

1.住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除【令和6年度特例の延長】

(1)個人で、年齢40歳未満で配偶者を有する者、年齢40歳以上で年齢40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者が、認定住宅等の新築もしくは認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得又は買取再販認定住宅等の取得(「認定住宅等の新築等」)をし、令和7年1月1日から同年12月31日までの間に居住の用に供した場合は、住宅借入金等の年末残高の限度額(借入限度額)を次の通りとして本特例の適用を受けることができる。

 

①認定住宅: 5,000万円

 

②ZEH水準省エネ住宅:4,500 万円

 

③省エネ基準適合住宅: 4,000万円

 

(2)認定住宅等の新築又は認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得に係る床面積要件の緩和措置について、令和7年12月31日以前に建築確認を受けた家屋も適用を受けることができることとされる。

 

(注1)「認定住宅等」とは、認定住宅、ZEH水準省エネ住宅及び省エネ基準適合住宅をいい、「認定住宅」とは認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅をいう。

 

(注2)「買取再販認定住宅等」とは、認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われたものをいう。

 

 

2.所得税の基礎控除・給与所得控除等【拡充】

 

(1)基礎控除について、合計所得金額が2,350万円以下である個人の控除額が現行から10万円引き上げられる。

 

(2)給与所得控除について、55万円の最低保障額が65万円に引き上げられる。

 

(3)居住者が生計をーにする年齢19歳以上23歳未満の親族等(その居住者の配偶者及び青色事業専従者等を除き、合計所得金額が123万円以下であるものに限る。)で控除対象扶養親族に該当しないものを有する場合には、その居住者のその年分の総所得金額等から一定額(親族等の合計所得金額に応じて63万円~3万円)が控除される。

 

(4)同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件を58万円以下(現行:48万円以下)に引き上げられる。

 

(注1)上記(1)~(4)の改正は、令和7年分以後の所得税について適用される。
(注2)上記(2)~(4)の改正は、令和8年分以後の個人住民税についても適用される。ただし個人住民税の場合、「合計所得金額」と「総所得金額等」は前年の額、

 

(3)の控除額は親族等の合計所得金額に応じて45万円~3万円とされる。

 

 

【法人課税】《「与党税制改正大綱」P53、96》

 

1.中小企業者等の法人税の軽減税率の特例(税率15%)【見直し】

 

次の見直しを行った上、適用期限が2年延長され、令和9年3月31日までに開始する事業年度につき適用される。

 

(1)所得金額が年10億円を超える事業年度につき、所得金額のうち年800万円以下の金額に係る税率が17%とされる。

 

(2)適用対象法人の範囲から通算法人(グループ通算制度の対象となる通算親法人・通算子法人をいう)が除外される。

 

2.防衛特別法人税【創設】

 

令和8年4月1日以後開始の事業年度から、法人税が課される法人は、課税標準法人税額(基準法人税額(所得税額控除・外国税額控除等の適用前法人税額)-基礎控除額500万円)に4%の税率を乗じて計算した防衛特別法人税が課される。

 

(注)税制改正法案の国会審議の結果により、令和7年度税制が上記と違う内容になる場合がありますので留意願います。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/12/23)より転載

[解説ニュース]

 

「みなし配当課税の特例」の適用時の発行会社の税務処理

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(芦沢亮介/公認会計士・税理士)

 

 

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【問】

非上場会社(X社)の会長(A)に相続が発生しました。X社の株主はAのみであり、Aの長男であるBがX社株式を相続することになりました。

 

相続税を計算すると納税資金が不足している状況でしたので、Bは相続したX社株式をX社へ売却(金庫株)することで、X社から資金を引き出すことを考えています。

 

BはX社株式の譲渡について、所得税等の負担を抑えるため租税特別措置法第9条の7「相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合の【みなし配当課税の特例】」を適用することにしました。この場合、X社の法人税法上の利益積立金額、資本金等の額への影響はどうなるでしょうか?

 

 

【回答】

 

1.結論


X社は、Bが特例によりみなし配当課税が適用されない場合であっても、自己株式を取得することに変わりはないので、法人税の処理においては、資本金等の額と利益積立金の額を減額することになります。なお、Bにみなし配当課税がされないので、X社側ではみなし配当に係る源泉徴収は不要です。

 

 

2.理由


(1)自己株式の取得に係る発行会社の原則的な税務処理

株式会社が自己株式を取得し、その対価を支払った場合、その株式会社(発行会社。本問のX社)は税務上、その対価のうち資本金等の額に相当する部分は出資の払戻し、それ以外の部分は利益積立金額の払戻し、つまり配当と考えます。法人税においては株主に交付される金銭等のうち、取得資本金額(=1株当たりの資本金等の額×取得自己株式数)に相当する金額を資本金等の額から控除し、取得資本金額を超える金額を利益積立金額から控除します(法人税法2条16号、18号、同施行令8条1項20号、9条1項14号)。

 

この発行会社側の処理に整合して、個人株主(本問のB)の発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等のうち発行会社において利益積立金額の減とされる金額は、その株式を譲渡した株主においては配当とみなされ、配当所得の金額の収入金額として課税されます(所得税法25条1項5号。

 

これを「みなし配当課税」といいます)。この配当所得は総合課税の対象となり、配当控除の適用を受けることができます。

 

 

 

(2)相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続財産に係る株式をその発行した非上場会社に譲渡した場合には、みなし配当課税の特例があり、みなし配当課税が不適用とされます(租税特別措置法第9条の7、所得税法第25条1項)。

 

すなわち、相続又は遺贈により財産を取得した個人で、その相続又は遺贈につき相続税があるものが、その相続発生後3年10か月以内に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式を、その発行法人に譲渡した場合には、所定の手続きを行うことにより(租税特別措置法施行令第5条の2第2項)、みなし配当課税の特例を適用することができます。

 

 

 

(3)みなし配当課税の特例時の発行会社の税務処理

みなし配当課税の特例の適用を受ける場合、Bの課税関係は次の通りになります。

 

1.所得税法第25条の規定により「みなし配当」とされる金額については、みなし配当として取り扱わない。

 

2.みなし配当とされない金額は、株式等に係る譲渡所得の収入金額とみなされる。

 

一方X社について、法人税法のみなし配当に関する規定(法人税法第24条第1項)では、みなし配当課税の特例に対応する別段の定めが規定されていません。

 

したがって、X社においては、みなし配当の課税がされない場合であっても、原則通り、みなし配当に相当する金額を利益積立金額から減算することになります。なお、Bにみなし配当課税がされないので、X社の配当に係る源泉徴収は不要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/12/9)より転載

 

 

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】法人が100%子会社の株式を譲渡する場合における法人税基本通達による株式時価の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

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【問】

A社とB社は、ともに代表取締役の甲が発行済株式の全てを保有する株式会社です。
A社は、100%子会社のC社の株式を全てB社に譲渡するに当たり、譲渡価額決定の参考にするため、C社株式の時価を法人税基本通達9-1-14(「本通達」)により評価することにしました。具体的には、C社を財産評価基本通達(「評価通達」)178の小会社(「小会社」)に該当するものとして、その株式を同通達179(3)により、同180の類似業種比準価額と同185の1株当たりの純資産価額を用いて評価する方式(=類似業種比準価額×0.5+1株当たりの純資産価額×0.5。以下「併用方式」)で評価するつもりです。この場合の評価方法につき、次の通りに質問します。

 

 

【問1】

C社は評価通達178(1)の大会社に該当します。C社の類似業種比準価額の計算上、類似業種の株価等に乗ずる斟酌割合は、大会社の割合(0.7)あるいは小会社の割合(0.5)のどちらを使うのでしょうか。

 

 

【問2】

C社は100%子会社のD社の株式を有しており、D社は評価通達178(1)の大会社に該当します。この場合、C社の純資産価額の計算上、D社株式の価額はどのように評価すべきでしょうか。

 

 

 

【回答】

1.結論


(1)【問1】について、斟酌割合は、実際の会社規模である大会社に応じた割合(0.7)を使用します。

(2)【問2】について、D社が小会社に該当するものとして、その株式を純資産価額又は併用方式による評価額のいずれか少ない金額により評価します。

 

 

2.解説


(1)本通達とその逐条解説の位置づけ

 

本通達は、気配相場のない(非上場)株式の評価損を計上する場合の期末時価の算定方法を定めているものですが、関係会社間で非上場株式の売買を行う際の適正価額の算定においても準用されています。本通達により評価を行う場合には、【問1】や【問2】のような疑問が生じるため、具体的な取扱いを説明した逐条解説の確認が不可欠です。この逐条解説の内容は、令和2年3月24日最高裁判決を受けて同8月に行われた所得税基本通達59-6の改正と、その改正について同9月に国税庁が公表した「趣旨説明」(情報)に合致するように変更されており、注意を要します。

 

次の(2)と(3)では、【問1】と【問2】の疑問点について、本通達の逐条解説に沿って説明します。

 

 

 (2) 類似業種の株価等に乗ずる斟酌割合(【問1】)

 

本通達では、非上場株式の価額を評価通達の準用により評価する場合の留保条件を定めており、このうち本通達の(1)では、株式の価額につき評価通達179の例により算定する場合、その法人がその株式の発行会社にとって同通達188の(2)の「中心的な同族株主」(簡単に言うと、議決権割合が25%以上となる特殊関係グループに属する同族株主をいいます。)に該当するとき(本問のA社はC社の中心的な同族株主に該当)は、「その発行会社(C社)は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。」とされています。

 

ただし、本通達で「評価基本通達179の例により算定する場合」とされているように、この定めは同通達180の類似業種比準価額を計算する場合の類似業種の株価に乗ずる斟酌割合まで、小会社の「0.5」とするものではありません。その斟酌割合は、実際の会社規模に応じた割合(C社の場合は大会社なので0.7)を使用して計算します。

 

 

(3) 子会社株式の評価(【問2】)

 

株式を評価する会社が子会社株式を有している場合に、本問のD社におけるC社のように、その会社がその子会社にとって上記(2)の「中心的な同族株主」に該当するときは、その子会社も「小会社」に該当するものとして、純資産価額方式又は純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式のいずれかの方式により評価します。評価通達179(1)では、大会社に該当する会社の株式は、中心的な同族株主の保有する株式でも、原則、類似業種比準価額が評価額とされます。

 

しかし100%子会社の株式を評価する場合には、その子会社が大会社に該当するときであっても、親会社にとってその株式の価値は、子会社の純資産価額と切り離しては考えられないと思われます。このため本通達では、評価する会社が有する100%子会社の株式、つまり中心的な同族株主として有する株式は、小会社として評価することとされています。

 

なお、D社株式を併用方式により評価する場合の斟酌割合は、実際の会社規模である大会社に応じた0.7となります(参考:「11訂版 法人税基本通達逐条解説」866頁~867頁)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/11/25)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

配当に係る源泉徴収不要の改正と実務上の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中坂 克司/税理士)

 

 

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1.はじめに


配当に係る源泉所得税について、令和5年10月1日以後に支払われるものから(令和4年度税制改正)、見直しが行われております。
今回は改めて改正の内容をお伝えするとともに、改正後の事業承継や組織再編の実務でのポイントをお伝えします。

 

 

2.改正の内容


(1)源泉徴収不要

法人(一般社団法人等を除く)が、支払を受ける配当等で次の株式に係るものについては、所得税が課税されないこととなり、配当の支払側においても源泉徴収が不要となりました(所法177、212③、所令301②)。

 

①配当計算期間の初日から末日まで継続して完全支配関係がある株式(法法23⑤に規定する完全子法人株式等。ただし、直接保有に限る)

 

②その配当等の基準日において、発行済株式総数(自己株式を除く)の1/3超を保有している株式(直接保有に限る。①に該当するものを除く)

 

(2)受取配当等の益金不算入制度

法人が受ける配当等については、下記の保有割合と期間により、益金不算入とされる金額が異なります(法法23①④⑤⑥)。

 

 

 

 

 

※1 完全支配関係がある他の法人の保有割合も含める
※2 計算期間が6月を超える場合は6月

(3)範囲の相違

上記の通り、1/3超100%未満の株式を保有している場合、源泉徴収の要否は基準日で判定しますが、受取配当等の益金不算入制度は配当等の計算期間中の継続保有が要件になっています。

 

また、源泉徴収の要否は直接保有分のみで判定しますが、受取配当等の益金不算入制度は、完全支配関係がある他の法人の保有割合も含めて判定します。

 

そのため、源泉徴収は不要であるが受取配当等の益金不算入割合は100%でない場合や、源泉徴収は必要であるが受取配当等の益金不算入割合は100%である場合も想定されますので、注意が必要です。

 

 

3.持株会社組成後、最初に受ける配当金の取扱い


事業承継や組織再編の実務で問題になるのが、期の途中に親会社として持株会社を組成した場合の、最初に受ける配当金の取り扱いです。

 

例えば、後継者が新たに持株会社(親会社)を設立して、借入金により資金調達を行い、承継対象会社(子会社)の株式を売買により100%取得し、その後は子会社からの配当により借入金の返済を計画する場合の、持株会社が最初に受ける配当金が該当します。こちらの例では、下記の取り扱いとなります。

 

 

(1)源泉所得税

源泉徴収の改正前の取り扱いでは、源泉徴収が必要で、最終的に源泉徴収された所得税は、承継対象会社の配当計算期間のうち株式を取得した日からの保有期間分しか、所得税額控除として法人税額から控除できませんでした。改正後は、最初の配当についても、基準日において、発行済株式総数の1/3超を保有しているため、源泉徴収自体がなされないこととなります。

 

(2)受取配当等の益金不算入

売買により、承継対象会社の配当計算期間の途中に完全支配関係を有することになった場合には、配当計算期間の初日から売買日まで継続して承継対象会社と従前の株主に完全支配関係があり、売買日から配当計算期間の末日まで継続して持株会社と従前の株主との間及び承継対象会社と従前の株主との間に完全支配関係がある場合は、「完全子法人株式等」に該当します(法令22の2①)。

従って、売買前に承継対象会社を親族のみで保有しており、その親族の子供が持株会社の株主として承継を行う場合などは「完全子法人株式等」に該当し、親族外の後継者が株主になる場合などは、その保有期間によって、「関連法人株式等」又は「その他の株式等」に該当することになります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/11/11)より転載

[解説ニュース]

被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

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【問】

Aさんは、昨年亡父から賃貸不動産を相続し、その相続税の支払いのため相続税の申告期限前にその賃貸不動産を譲渡しました。亡父はその賃貸不動産を亡くなる12年前に銀行借入金により取得し、亡くなる直前まで賃貸をしており、生前に譲渡するつもりはありませんでした。また、取得の際の借入金は相続開始時点では完済しています。その賃貸不動産は都心の好立地にあることから、譲渡価額は財産評価基本通達(以下「評価通達」)による評価額(通達評価額)の約2倍の金額となりました。

 

令和4年4月19日最高裁判決(以下「最高裁判決」)で、賃貸不動産の相続税計算上の評価につき、税務署による通達評価額以外の評価額(鑑定評価額)の採用が認められたと聞きました。その最高裁判決の影響により、Aさんの亡父に係る相続税の計算においても、賃貸不動産を通達評価額ではなく、譲渡価額により評価すべきでしょうか。

 

【回答】

1.結論


最高裁判決の内容を踏まえると、下記の理由により通達評価額で評価して問題ないと考えます。

 

 

2.理由


最高裁判決では、「…租税法上の一般原則としての平等原則は、課税庁(税務署)における租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するもの」としており、「合理的な理由」がない限り、平等原則に反しないようにしなければ違法な執行になるという考え方を示しています。

 

この平等原則を相続税法の財産評価に当てはめると、同じ財産を取得した者は等しく同様の評価法、すなわち評価通達による評価を適用することになります。また、「合理的な理由」の例として、最高裁判決では「評価通達の定める方法により画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」が挙げられています。

 

さらに最高裁判決では、「…本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい(乖)離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」と判示しています。この場合の上記事情とは、前述の「合理的な理由がある」ことを指しているものと思われます。

 

最高裁判決の内容をAさんの事例に当てはめると、Aさんは相続開始の12年前に亡父が取得した賃貸不動産を、相続開始後に相続税の納税資金捻出のために通達評価額の約2倍の価額で譲渡しています。通達評価額と譲渡価額との間には乖離がありますが、乖離があるだけでは「上記事情(合理的な理由)があるということはできない」ということになります。

 

賃貸不動産であることと、通達評価額と時価(Aさんの場合は、それと推察される近接時期の譲渡価額)との間に大きな差があるのは、最高裁判決の事件と同じです。ただAさんの場合は、前述の下線部のような「合理的な理由」に該当する事情、例えば、①相続時に賃貸不動産に係る借入金の残額があり、②賃貸不動産の評価額よりも借入金の残額が大きいため相続税の計算上マイナスが生じ、③②のマイナスにより、その他の相続財産の価額の合計額を大きく減じている等の事情はありません。

 

また、Aさんは亡父の相続直後といってもいい時期に不動産を譲渡していますが、相続時のその相続財産は純粋に不動産です。Aさんには「私法(民法)上は契約が成立していないまま相続が発生したが、実は亡父が相続前に譲渡交渉を具体的に進めていて、事実上買手とほぼ合意に達していた。」等の、合意していた譲渡価額を基に評価されうるような事情もありません。

 

したがって、Aさんが亡父から相続後に譲渡した財産は、あくまで相続の時点では不動産というほかなく、その譲渡は相続後のAさんの行為に過ぎません。亡父に係る相続税の計算上は、平等原則の下で相続財産の評価をするのだから、不動産として通達評価をすべきということになるはずです。そうしないと相続税の納付のため、相続後に相続人の判断・必要性に基づき、相続した不動産を譲渡した場合(納付のために申告・納付期限までに譲渡が行われるはず)は、全て譲渡価額で評価し直すということになってしまいます。そうすると納税のために相続財産を譲渡せざるを得ない人を不当に不利に取扱うことになり、「平等原則」に反することとなります。

 

以上により、Aさんは亡父に係る相続税の計算上、賃貸不動産を通達評価額により評価して問題ないと考えます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/10/21)より転載

[解説ニュース]

マンションの評価方法の改正による影響

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田卓/税理士)

 

 

[関連解説]

■賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

■マンションの相続税評価が時価の6割水準めどに引上げへ

 

 

 


1.マンションの評価方法の改正


令和6年1月1日以後の相続、遺贈又は贈与により取得したマンションについては、新しい評価方法が適用されることになります(改正の概要は、タクトニュースNo928参照)。この改正により、相続税評価額が時価の6割に達しないマンションの評価額が、時価の6割になるように補正されるため、タワーマンション等の時価と相続税評価額の乖離が大きかった物件は、大きな影響を受けることになります。

2.改正の影響


マンションの評価方法の改正により評価額が引き上げられるのは、評価水準(時価と相続税評価額の乖離率)が0.6未満の場合です。評価水準が0.6から1までは、現行の評価額のままで、評価水準が1を超える場合には、現行の評価額から引き下げられます。

 

3.改正後のマンションの計算例


(1)評価対象マンション
築年数   :27年
所在階   :10階(総階数12階)
敷地面積  :3,100㎡
区分所有権 :7,700/820,000
専有部分面積:75㎡
 

(2)(1)のマンションの自用地・自用地家屋の評価額(財産評価基本通達の評価額)
敷地利用権  :28,000千円
専有部分(家屋): 7,500千円

合計 35,500千円

 

 

 

947-1.png

改正後のマンション評価額

①土地:28,000千円×1.278=35,784千円
②家屋:7,500千円×1.278=9,585千円
③①+②=45,369千円

 

 

4.改正の影響を受けない物件


改正後のマンションの評価方法は、築年数が浅い、総階数が多い、所在階が高い、敷地持分が狭小な物件ほど評価額が高くなります。各要素の中では特に築年数の影響が大きく、評価方法の改正により評価額が引き上げられた物件でも築年数が古くなると評価水準が0.6を超え、補正を要しないケースが出てきます。3の計算例を基に、仮に築年数を1年から9年ごとに54年まで試算すると以下の表の通りとなり、築年数が45年、54年のケースでは補正なしとなります。

 

 

947-2.png

※建物評価額は経年減点補正率等により補正

 

 

そのため、築年数が古くても市場価格が高いヴィンテージマンションについては、時価と相続税評価額が乖離していたとしても改正の影響を受けない物件といえます。

 

なお、ヴィンテージマンションのように相続税評価額と時価が乖離しているケースで、納税者が過度な節税策を講じるなど財産評価基本通達で定められた評価方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があると国税当局が認めた場合には、財産評価基本通達6項の適用により、鑑定評価等の価額に補正される可能性があるため注意が必要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/10/10)より転載

[解説ニュース]

代償分割と相続税の取得費加算特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川瀬 朋基/税理士)

 

 

[関連解説]

■個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

 

 

 

 


【問】

父が先月、他界しました。相続人は私(A)と弟(B)の2人のみです。父の相続については、私がすべての相続財産(預金と土地で相続税評価額は2億円です)を引き継ぐことになりましたが、弟は何も相続しない代わりに、私が、現金6,000万円と私所有の土地(時価5,000万円)を渡すことにしました。この遺産分割の方法により、私と弟に所得税の課税関係が生じるでしょうか。
また、その他に注意すべき点があれば教えてください。

 

【回答】

1.結論


現金を代償財産として交付した場合には、所得税の課税関係は起こりません。しかし、不動産等の所有権の移転があった場合には、その移転のときにその資産の時価相当額の収入があったものとして譲渡所得税が課税されます。

 

2.解説


(1)所得税の課税関係

遺産分割により代償財産を支払う際、金銭を交付した場合には、所得税の課税関係は生じませんが、不動産など金銭以外の資産を交付した場合には、その資産を時価により譲渡したことになります。今回のケースでは、Aさん所有の土地交付時に、AさんはBさんに対して、その土地を時価相当額(5,000万円)で譲渡したことになります。またBさんが将来、その土地を売却する場合には5,000万円が取得費になります。

 

(2)取得費加算の特例

Aさんが代償金として現金6,000万円を用意するために相続により取得した土地を売却する場合には、相続税の取得費加算特例により、譲渡所得の計算上、相続税の一部を取得費として控除することができます(租税特別措置法39条)。相続税の取得費加算特例とは、相続等により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度のことをいい、取得費に加算する相続税額は、次の算式で計算した金額となります。

 

<算式>
946-1.png

 

a:譲渡者が相続した財産にかかる相続税評価額の合計額(債務控除前)
b:譲渡者が相続した財産のうち、譲渡資産にかかる相続税評価額

 

ただし、代償分割を行っている場合にはその計算方法が変わってきます。取得費として控除できる金額が圧縮されるのです。その計算方法は以下のようになります(租税特別措置法通達39−7)。

 

<算式>
946-2.png

 

c:支払った代償金

 

(3)取得費加算額の計算例

 

上記計算例で通常通り、取得費加算額を計算すると、15,030×150,000 / 90,000=25,050千円となり、支払った相続税額以上に取得費として控除できることになってしまいます。そこで上記の調整計算が必要になります。具体的な計算は以下のとおりです。(単位千円)

 

946-3.png

 

この相続した土地を仮に180,000千円で売却した場合(所有期間5年超、取得費不明、譲渡経費5,000千円)の譲渡税の計算は以下のとおりです。

 

① 180,000-(180,000×5%+11,272)-5,000= 154,728千円

② ①×20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税の合計税率)=31,432千円

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/9/24)より転載

[解説ニュース]

相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除:契約効力発生日基準により申告する場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特例の適用

■令和5年度税制改正:相続開始前に被相続人から暦年課税に係る贈与があった場合の相続税

 

 

 

 


【問】

Aさんは、令和6年1月に父から相続したX家屋とその敷地を譲渡(以下「本件譲渡」)するため、令和6年12月10日に買主と譲渡契約を締結しました。X家屋はAさんの父が生前居住していた住宅で、父の死亡後は空き家となっています。その譲渡契約では、契約締結後、令和7年3月末までにAさんがX家屋を取壊し、更地にして引渡す特約が設けられています。Aさんは令和7年2月28日にX家屋の全部を取壊し、7年3月31日に買主へその敷地を引渡しています。X家屋は築50年の古家で、地震に対する安全基準等に適合している家屋ではありません。

 

Aさんは本件譲渡にあたり、租税特別措置法35条3項の「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下「本特例」)の適用を受けるつもりです。この場合において、Aさんが所得税の譲渡所得の申告を、X家屋とその敷地の譲渡契約を締結した日の属する令和6年分で行うときは、本特例の適用を受けることができますか

 

【回答】

1.結論


Aさんが本件譲渡の時期を譲渡契約締結日の令和6年12月10日とし、譲渡所得に係る所得税の申告を令和6年分で行う場合には、その年の翌年2月15日までにX家屋の全部の取壊しが完了していないので、本特例の適用を受けることはできません。

 

2.解説


(1)本特例の概要

相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたもの(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、①その被相続人居住用家屋の全部の取壊し等をした後に被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡したこと、又は、②その被相続人居住用家屋とともにその敷地等を譲渡し、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に被相続人居住用家屋の全部の取壊し等を行ったこと等の一定の要件を満たすときには、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法35条3項2号、3号、同条4項等)。

 

 

(2)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期の判定

個人が土地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額の計算上、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)からその土地の取得費や譲渡費用を控除します。
各年の譲渡所得の金額の計算においては、「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により、「その年において収入すべき金額」とされています。この場合の「総収入金額の収入すべき時期」については、所得税基本通達36-12でその判断基準が示されています。

 

この通達では、総収入金額の収入すべき時期、つまり資産の譲渡の時期について、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によること(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡契約の効力発生の日(一般に契約締結日)によること(「契約効力発生日基準」)も認めています。

 

 

(3)本特例の適用要件の判定時期

本特例の適用に当たっては、(2)の「引渡日基準」又は「契約効力発生日基準」のうち、納税者が選択した資産の譲渡の時期により、その特例の適用要件を満たしているかどうかを判定します。

 

 

(4)本問へのあてはめ

Aさんは、「契約効力発生日基準」を選択して譲渡契約締結日(令和6年12月10日)を資産の譲渡の時期とし、令和6年分で所得税の申告をすることから、本特例の適用要件((1)①又は②)を満たすかどうかの判定は、その譲渡契約の締結日により行います。

 

Aさんの場合、資産の譲渡の時である譲渡契約の締結日後に被相続人居住用家屋のX家屋の全部の取壊しを行っているので、(1)①の要件を満たしません。また、X家屋の全部の取壊しが完了したのが令和7年(譲渡の日の属する年の翌年)2月28日であることから、(1)②の要件も満たしません。以上によりAさんは、本特例の適用を受けることはできません。

 

なお、Aさんが「引渡基準」を選択してX家屋の敷地を引渡した令和7年3月31日を譲渡の時期とし、所得税の申告を令和7年分で行う場合には、被相続人居住用家屋であるX家屋の全部の取壊しをした後にその敷地を譲渡していることから、(1)①の要件を満たし、本特例の適用を受けることができます。(参考:国税庁「質疑応答事例」)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/9/9)より転載

[解説ニュース]

インボイス(適格請求書)発行事業者が死亡し、相続財産が未分割の場合の消費税の手続

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】契約者の変更があった生命保険契約に係る死亡保険金等の課税関係

■【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

 

 


【問】

不動産賃貸業を営む甲は、令和6年7月31日に死亡しました。相続人は長男Aと次男Bの2人です。甲は生前に消費税の適格請求書発行事業者の登録を受けています(AとBはその登録を受けていません)。AとBのどちらかが甲の事業を承継する予定ですが、協議がまとまらず甲の賃貸不動産は未分割状態です。
上記の場合、消費税の適格請求書保存方式(№938参照)においてAとBの必要な手続と、甲の適格請求書発行事業者登録の効力について教えてください。

 

【回答】

1.結論


(1)適格請求書発行事業者の甲の死亡に伴い、相続人のAとBは「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を甲の所轄税務署長に提出する義務があります。

 

(2)相続財産(賃貸不動産)が未分割の期間は、AとBがともに相続により甲の事業を承継した相続人と取扱われ、甲の死亡日の翌日から最長4ヶ月間(みなし登録期間)は、AとBが適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者とみなされます。このAとBが適格請求書発行事業者とみなされる措置の適用がある期間は甲の登録が有効で、甲の登録番号が記載された適格請求書の発行義務を負います。

 

(3)A又はBが甲の事業を承継した場合、みなし登録期間を経過後に適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、登録申請書の提出が必要です。

 

 

2.解説


(1)適格請求書発行事業者が死亡した場合の手続

適格請求書発行事業者が死亡した場合は、その相続人は「適格請求書発行事業者の死亡届出書」を、死亡した者の所轄税務署長あてに提出する義務があります(消費税法(消法)57条の3第1項)。

 

 

(2)相続により事業を承継した相続人がいる場合の死亡した適格請求書発行事業者の登録の効力

適格請求書発行事業者が死亡した場合、その登録の効力は[(1)の届出書の提出日の翌日]又は[死亡日の翌日から4ヶ月を経過した日]のいずれか早い日に失われるのが原則です(消法57条の3第2項)。ただし、相続により被相続人の事業を承継した相続人がいるときには、次の特例があります。

 

相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人(適格請求書発行事業者を除く。)は、相続のあった日の翌日から、その相続人が[適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日]又は[適格請求書発行事業者であった被相続人が死亡した日の翌日から4ヶ月を経過する日]のいずれか早い日までの期間(「みなし登録期間」)において、適格請求書発行事業者とみなされ、適格請求書の発行義務を負います。この場合において、みなし登録期間中は被相続人の登録番号が、その相続人の登録番号とみなされます(同第3項)。

 

 

(3)共同相続(未分割)があった場合の登録の効力

相続人が複数いる場合において相続財産が未分割の期間中は、適格請求書発行事業者である被相続人の事業を承継する相続人は確定しないことから、これらの相続人(適格請求書発行事業者を除く)は、その全員が(2)に規定する「相続により適格請求書発行事業者の事業を承継した相続人」に該当するものとされます。この場合において、(2)のみなし登録期間の末日までに相続財産の分割が実行されたときは、適格請求書発行事業者であった被相続人の事業を承継しない相続人は、相続財産の分割が実行された日以後は適格請求書発行事業者とはみなされません(消法基本通達1-7-5)。

 

例えば、Aが不動産賃貸業を承継し、令和6年11月1日に相続財産である賃貸不動産が分割され、11月25日にAが適格請求書発行事業者の登録の通知を受けた場合は、同年8月1日~11月25日が「みなし登録期間」となり、Aは同期間中の全期間、Bは同期間中のうち賃貸不動産の未分割期間、つまり8月1日~10月31日(分割実行日11月1日の前日)の期間において、適格請求書発行事業者とみなされます。この期間中、AとBは甲の登録番号により適格請求書を発行します。

 

 

(4)事業を承継した者の適格請求書発行事業者登録

(2)と(3)の場合において、適格請求書発行事業者である被相続人(甲)の登録は、みなし登録期間後にその効力が失われます。したがって、相続人のA又はBが後継者として甲の事業を承継し、みなし登録期間後も適格請求書を交付しようとする場合は、その後継者が新たに登録申請書を提出し、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があります(消法基本通達1-7-4)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/8/26)より転載

[解説ニュース]

遺産分割の違いによる相続税額のシミュレーション

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(吉濱 康倫/税理士)

 

 

[関連解説]

■株式交付制度の概要と活用時の留意点

■円滑な事業承継のための種類株式の活用

 

 


相続税申告においては、ニ次相続の相続税負担も考慮したうえで遺産分割を検討すべき場合があります。
以下、遺産分割の方法に応じ、一次相続・二次相続を合算した相続税額の試算を行いました。

(前提条件)

〇被相続人甲さんの相続財産5億円、相続人は配偶者(固有財産なし)と子1人。

 

<ケース1>

甲さんから配偶者と子が各2億5,000万円相当の財産を相続する場合
①一次相続の相続税額 7,605万円(相続税の総額1億5,210万円、配偶者の税額軽減7,605万円控除後)
②二次相続の相続税額 6,930万円
③一次相続・二次相続の相続税額の合計 ①+②=1億4,535万円

 

 

<ケース2>

甲さんから配偶者が1億円、子が4億円相当の財産を相続する場合
④一次相続の相続税額 1億2,168万円(相続税の総額1億5,210万円、配偶者の税額軽減3,042万円控除後)
⑤二次相続の相続税額 1,220万円
⑥一次相続・二次相続の相続税額の合計 ④+⑤=1億3,388万円

 

 

<解説>


一次相続において、配偶者の税額軽減前の相続税の総額は1億5,210万円、配偶者が法定相続分(1/2)相当の財産を相続することにより、配偶者の税額軽減を上限(相続税の総額の1/2)まで適用することができ、その適用後の相続税額7,605万円(①)が最も少ない税額となります。したがって、一次相続においては<ケース1>のように相続財産の1/2相当額を配偶者が相続するように遺産分割を行うケースが一般的です。

 

次に配偶者が亡くなった場合、配偶者に固有財産がなく、相続財産は甲さんから相続した2億5,000万円のみとした場合、二次相続に係る相続税額は6,930万円(②)となり、<ケース1>の一次相続・二次相続の相続税額の合計は1億4,535万円(③)となります。

 

一方<ケース2>では、一次相続において、二次相続における相続税負担を考慮した遺産分割を行っています。

 

具体的には、一次相続において、相続財産5億円のうち1億円(20%)を配偶者、4億円(80%)を子が相続することにしています。この遺産分割により<ケース1>に比べて配偶者の税額軽減額が減少することから、一次相続における相続税額は1億2,168万円(④)と、<ケース1>に比べて4,563万円増加します。しかし配偶者が亡くなった場合の二次相続に係る相続税額は1,220万円(⑤)と<ケース1>に比べて5,710万円減少します。以上により、一次相続・二次相続の相続税額の合計は1億3,388万円(⑥)となり<ケース1>の1億4,535万円(③)よりも1,147万円減少することになります。

 

<ケース1>に比べて<ケース2>の一次相続・二次相続の相続税額の合計額が減少する理由は、相続で取得した財産の金額に応じて税率が高くなるという、相続税の税率構造にあります。

 

<ケース2>では<ケース1>よりも配偶者が甲さんから取得する財産額が減少し(2.5億円-1億円=1.5億円)、配偶者の税額軽減額が減少することにより、一次相続では<ケース1>に比べて相続税額が増加します。しかし、<ケース2>では<ケース1>に比べて配偶者の相続財産額が2億5,000万円から1億円に減少することにより、二次相続に係る相続税について適用される最高税率が30%となり、<ケース1>の最高税率45%に比べて低くなることから、一次相続に係る相続税額の増加以上に二次相続に係る税額が減少することになります。

 

<ケース2>のような遺産分割は、一次相続の遺産分割協議中に配偶者が亡くなって二次相続が発生した場合や、配偶者が高齢でその固有財産が多額にあるような場合に検討される方法です。相続人の状況や意向によって、二次相続に係る相続税負担も考慮した遺産分割を検討すべき場合もありますので、注意が必要です。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/8/5)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】住宅取得等資金の贈与のあった年に贈与者が死亡した場合の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

■【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い

 

 

 

 


【問】

Aさん(35歳)は、自宅の建築資金として令和6年2月に父(70歳)より現金500万円の贈与を受けました。この500万円は、ハウスメーカーとの間で同年3月に自宅の建築請負契約を締結した際に、手付金に充当しました。自宅建物は同年3月末に完成し、Aさんは同月より居住しています。Aさんは、この500万円について、住宅取得等資金の非課税の適用を受けるつもりでした。ところが、上記500万円を手付金として支払った後の同年10月に、父が急死しました。父の財産を相続したAさんは、父に係る相続税を納めることになる見込みです。Aさんは過去、父からこの500万円以外に財産の贈与を受けておらず、令和6年中は父以外の人からも、財産の贈与を受ける予定はありません。
上記の場合において、Aさんが住宅取得資金として贈与を受けた金額の税務上の取扱いを教えてください。

【回答】

1.結論


Aさんが父から受けた贈与が住宅取得等資金の非課税制度の要件を満たす場合、Aさんが取得した500万円に贈与税・相続税は課税されません。

2.解説


(1)相続開始の年に被相続人から相続人への贈与があった場合の相続税法上の原則的な取扱い

①相続税の取扱い

 

相続又は遺贈(以下「相続等」)により財産を取得した個人が、その相続等の開始前7年以内*に、その相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合は、その者については、その贈与により取得した財産の価額(贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限ります。)が相続税の課税価格に加算されます。なお、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の価額は、加算された個人の相続税の計算上控除されることになります(相続税法(相法)19条第1項)。

 

*相続開始が令和6年の場合は、経過措置により「3年以内」となります(以下(2)において同じ)。

 

②贈与税の取扱い

①に対応する措置として、相続等により財産を取得した者が、相続開始の年において、その相続等に係る被相続人等から受けた贈与により取得した財産の価額で、前述の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、贈与税の課税価格には算入されません(相法21条の2第4項)。

 

①と②により、被相続人から相続により財産を取得した個人が、その相続開始の年に被相続人から贈与により取得した財産があった場合、その贈与により取得した財産には相続税が課税され、贈与税は課税されないことになります。

 

(2) 相続等により財産を取得した個人が、相続等の開始前7年以内に住宅取得等資金の贈与を受けた場合の住宅取得等資金に係る相続税の取扱い

その年の1月1日に18歳以上である等の一定の要件を満たす個人が、父母等の直系尊属から贈与により取得した自己の居住用の家屋の新築、取得又は一定の増改築等の対価に充てるための金銭(「住宅取得等資金」)を取得し、贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅取得等資金の全額を自己の居住の用に供する一定の家屋の取得等の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合は、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の上限額までは、贈与税が非課税とされます(租税特別措置法(措法)70条の2第1項等)。

 

相続等により財産を取得した個人が、その相続等の開始前7年以内(ただし相続開始が令和6年の場合、経過措置で3年以内)に、その相続等に係る被相続人等から住宅取得等資金の贈与を受け、かつ特定受贈者に該当する場合で、前述(2)①の適用を受けて贈与税の課税価格に算入されなかった金額(Aさんが贈与税の確定申告をして(2)①の制度の適用を受けた場合は、その500万円がこれに当たります。)は、前述の原則的な取扱いによらず、被相続人(贈与者)に係る相続税の計算上、課税価格に加算されないこと、つまり非課税となります(措法70条の2第3項及び措置法施行令40条の4の2第13項による相法19条第1項の読替え)。

(3)本問へのあてはめ


父から贈与を受けた現金500万円につきAさんが(2)①より贈与税の住宅取得資金等の非課税の適用を受けた場合、その500万円はAさんの贈与税の課税価格に算入されず、父に係る相続税の計算上、課税対象にもなりません。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/7/22)より転載

[解説ニュース]

非課税狙いの住宅資金贈与、直後に相続開始で資産売却したら相続税トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

 


1.はじめに


住宅取得等資金の贈与税の非課税制度(以下、住宅資金非課税制度と略称する)を利用して住宅取得資金をもらうと、相続税の節税になることは、よく知られたことです。資金を贈与した父母等の財産が減り、もらった資金は将来起こる相続における相続財産には加算されないからです。

 

しかし、そのためには住宅資金非課税制度の要件を充たすこと、同制度を受けるために確定申告することが必要となります。ただ、きちんと確定申告したとしても、無計画に相続直後に不動産などの財産を処分してしまうと、トラブルになることもあるようです。

 

 

2.売り急いだばかりに節税が台無し


住宅資金非課税制度は、父母・祖父母など直系尊属から満18歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の直系卑属である子や孫等が、所定の住宅を取得するための住宅取得等資金をもらう場合に、一定の限度額まで贈与税が非課税となる制度です(租税特別措置法70条の2第1項)。同制度は、住宅取得等資金を贈与された同じ年に、資金を提供した直系尊属が死亡し相続が開始した場合でも、贈与税の期限内申告を行えば適用が可能です。

 

このため直系尊属が近い将来の相続開始を予見し、住宅資金非課税制度を利用して住宅取得等資金を贈与した直後に、その親が死去、相続が開始するといった流れになることが、実はありがちです。一方で、資金をもらった子らは、遺産分割や相続税の支払いのため相続した不動産等をすぐに売却して資金化したい、そう考えるのも自然です。

 

ただ、すぐに売却に踏み切るのは考えものです。というのも、住宅資金非課税制度を適用する場合の要件には、資金をもらった人の「その年分の合計所得金額2,000万円以下であること」という「所得金額要件」を充たさなくなることがあるからです(租税特別措置法70条の2第2項第1号)。

 

その場合には、住宅資金非課税制度の適用がなくなる可能性があります。そればかりか、住宅資金非課税制度の適用がない生前贈与資金は、あとで相続財産に加算されて相続税の課税対象になってしまいます(租税特別措置法通達70の2-14、相続税法19条)。

 

 

3.合計所得金額要件を充たすかどうかを検討


したがって、住宅資金非課税制度の適用を受けるべく資金をもらった年に、資金をあげた親が亡くなったため不動産を相続した場合、その年にその不動産等を売ってもよいかどうかは、住宅資金非課税制度の合計所得金額2,000万円以下要件を充たすかどうかと、セットで検討する必要があるということになります。

 

なお「合計所得金額」とは何かについては、所得税法で規定されています(同法2条第1項第30号、同法22条第2項)。内容を簡単に確認するには、国税庁のHPの専門用語集の「合計所得金額」を見るのが良いでしょう。それによると、次のとおりです。

 

(筆者注:合計所得金額とは)
次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額(※1)、山林所得金額を加算した金額(※2)です。
(※1)退職所得金額は、確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があります。
(※2)申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計額を加算した金額です。

 

(1)事業所得、不動産所得、給与所得、総合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得および雑所得の合計額(損益通算後の金額)

 

(2)総合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額(以下略)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/yogo/senmon.htm#word2

 

上記に従えば、「合計所得金額」には分離課税となる不動産の譲渡所得が含まれることがわかります。不動産を譲渡した場合の譲渡所得の計算は、次の計算式で求めることができます。

 

課税譲渡所得金額=譲渡収入金額(売却代金等)–(取得費+譲渡費用)―特別控除額

 

合計所得金額に加算される金額は特別控除をする前の金額となります。

 

 

4.まとめ


住宅資金非課税制度の適用を受ける前提で資金贈与を受けた年に、不幸にも贈与者に相続が開始した場合には、亡くなった贈与者の節税の意図を踏みにじらないよう、相続した不動産等の売却は慎重に検討する必要があります。

時間やほかの諸条件が許せば、資産売却は次の年に繰り越してもよいのですから。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/7/9)より転載

[解説ニュース]

賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

■地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

 


1.はじめに


ここ数年、マンションの売買価格が上昇しているとの報道をよく目にします。
実際、若干の凸凹はあるにしろ、平成17年から令和4年までの首都圏のマンションの価格指数は息の長い右肩上がりとなっています((一財)日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」)。

 

そこで、マンション投資で利殖を考える向きもあるでしょう。マンション投資といえば、サイドワークでマンションを賃貸して、不動産所得を得る、あるいは節税を図るのを狙いとするものがよく知られた方法です。

 

そこに価格上昇トレンドが加わると、投資の出口において積みあがった含み益をどのように手中におさめるか、なるべく税負担の少ない方法はないか、検討する向きも少なくないでしょう。

 

たとえば、賃貸マンションを自宅に転用して売却することで、自宅の売却なら「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(いわゆる3,000万円控除)」が利用できるのではないかといった具合です。お気持ちはよくわかります。

 

ただ、この方法は勇み足になりがちです。今回は、賃貸マンションを自宅転用したつもりで売却して税金トラブルになった国税不服審判所(以下、審判所という。)の裁決事例(令和3年4月2日)を紹介します。

 

 

2.事案の概要


この事案の事実関係の概要は次のとおりです。

 

①Aさん(審査請求人)は、平成21年にマンションを買い、翌22年に引渡しを受けた。

 

②Aさんは別途、このマンションとは別の場所に住宅を買っていた。

 

③Aさんは同マンションを平成23年から平成27年1月まで賃貸していた。

 

④空家になったマンションをAさんは業者に依頼してハウスクリーニングした。

 

⑤Aさんは、不動産業者に同マンションの売却につき相談する一方で、住民票を同マンションに移した。

 

⑥Aさんは平成27年5月に同マンションを売る契約をし、同年6月に引き渡した。

 

⑦同マンションは引渡し日基準で取得の日を選択していたので、売却益は短期譲渡所得となるため3,000万円控除を適用して確定申告した。

 

⑧税務調査を受け、調査官から3,000万円控除の適用はできないと指摘を受けた。その後、3,000万円控除を受けるために住民登録を移したことが「仮装」に当たるとして重加算税が課税された。

 

⑨Aさんは審判所に審査請求した。

 

 

3.審判所の判断


争点は、重加算税が課税される「仮装」があったかどうか(譲渡所得の長期・短期を判定する材料となる「取得の日」の選択に関する争点もありますが、割愛します)。

 

審判所は3,000万円控除の適用対象について法律上「短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいう」と解釈し、この判断方法は、「譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用実態(中略)の諸事情を総合的に考慮し社会通念に従って判断するのが相当」と説明しました。

 

また、「仮装」については、「…取引上の名義等あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲すること」としました。

 

これに基づいて審判所は次の事実を指摘しています。

 

ア. 平成27年1月の賃貸終了後から同年6月までの間電気・ガスの供給契約を締結していない。

 

イ. 水道使用量などは建物一括契約であったが、通常9,000円前後かかるところ、平成27年3月から6月までの費用は188円であった。

 

こうしたことから審判所は、「Aさん主張の居住の事実を「客観的に裏付ける証拠は見当たらない」とした上、Aさんが一時的に出入りし使用していたとしても、「客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点として使用していたとは認め難い(中略)居住実態はなかった」と認定しました。

 

さらにAさんが「自宅を売却した場合、住民票を提出すれば控除を受けられることを昔から知っていた」と答術していることから、このマンションに住民登録を移した目的は、このマンションに居住しておらず、その意思もないのに3,000万円「控除を適用するため異動した」と認定し、仮装があったと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/6/27)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

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【問】

Bさんは、自身が所有の土地に夫が平成10年に建築した自宅(夫所有)で、夫とともに継続して住んでいました。令和6年3月に夫が自宅を取壊した後、Bさんは直ちに某上場会社とその敷地の譲渡契約を締結し、同年4月に引渡しました。この場合においてBさんは、その土地の譲渡に係る所得税の譲渡所得の金額の計算上、租税特別措置法(措法)35条1項の特別控除 (以下「3,000万円控除」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


Bさんは措法通達35-4(下記2(1))および35-2(同(2))の要件をすべて満たしているので、3,000万円控除の適用を受けることができます。

2.解説


(1)自宅と敷地の所有者が異なる場合の3,000万円控除の適用

 

3,000万円控除は、個人が居住の用に供している家屋(自宅家屋)を譲渡することを核として設けられた特例であり、譲渡した家屋の所有者とその敷地の用 に供されている土地等の所有者が異なる場合には、 その土地等の譲渡については適用されないのが原則です。ただし、譲渡した自宅家屋の所有者とその敷地の所有者とが異なる場合であっても、次の①~③の要件の全てを満たす土地等の所有者の譲渡所得の計算においては、緩和措置として3,000万円控除の適用が認められています(措法通達35-4)。

 

①その家屋とともにその敷地の用に供されている  土地等の譲渡があったこと。

 

②その家屋の所有者とその土地等の所有者とが親族関係を有し、かつ、生計を一にしていること。

 

③その土地等の所有者は、その家屋の所有者とともにその家屋を居住用として使用していること。

 

 

(2)自宅家屋の取壊し後にその敷地の譲渡契約を締結した場合の3,000万円控除の適用

 

3,000万円控除は、個人が自宅家屋(居住の用に供されなくなった家屋も含む)を譲渡することを前提として設けられている特例であり、居住の用に供していた土地等のみの譲渡に対して適用することは、原則認められていません。

 

ただし、所有者が自宅家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合に、その土地等の譲渡(家屋の取壊し後、その土地等の上にその土地等の所有者が建物等を建築し、当該建物等とともに譲渡する場合を除く。)が次に掲げる要件のすべてを満たすときは、緩和措置として3,000万円控除の適用が認められています(措法通達35-2)。

 

①その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住の用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。

 

②その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他の用に使用していない土地等の譲渡であること。

 

 

(3)本問における3,000万円控除の適用要件

 

前記(2)のとおり、売主が任意に自宅家屋を取壊し、その敷地の用に供されていた土地だけを譲渡した場合であっても、その譲渡が(2)①~②の要件をすべて満たしているときは、その土地のみの譲渡について、自宅家屋をその敷地の用に供されている土地とともに譲渡した場合に準じて3,000万円控除の適用を受けることができます。

 

この取扱いの趣旨からすれば、前記(1)①の「その家屋とともにその敷地の用に供されている土地等の譲渡があったこと」との要件は、家屋が現存する場合を前提とした要件と考えられるものの、(2)①~②のすべてを満たす土地等のみの譲渡については、(1)①の要件を満たすものとして取扱うべきと考えられます。

 

よって自宅家屋の所有者とその敷地の所有者が異なる場合に、家屋所有者がその家屋を取壊した後、敷地所有者が土地のみを譲渡したときであっても、前記(2)の要件に該当すれば(1)①の要件を満たし、(1)の②と③の要件を満たすことにより、3,000万円控除の適用を受けることができると考えられます。

 

 

(4)本問へのあてはめ

Bさんは、上記(3)に掲げる要件を満たすことから、旧自宅の敷地の用に供されていた土地の譲渡に係る譲渡所得の金額の計算上、3,000万円控除の適用を受けることができます(参考:平成22年6月29日高松国税局文書回答事例)

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/6/10)より転載