新型コロナウイルス等による業績不振に関連する税務上の注意点[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

⑦(特別編)新型コロナウイルス等による業績不振に関連する税務上の注意点

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 

[目次]

1)はじめに

2)関連法人の評価損計上要件

3)評価損金額

4)清算手続き中の消費税に係る論点

 


[関連解説]

■新型コロナウイルス等による業績悪化を理由とした M&A ・事業売却

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与 ~コロナウイルスの影響で大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化、役員報酬の大幅な減額を検討~

 

1)はじめに

本稿脱稿時点、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響から、業績不振に陥っている法人が多いと思われます。

 

本稿では、法人が存続している前提で業績不振になった場合に、課税実務上の手法として考え得る論点(国税庁公表のコロナ関連税制FAQや定期同額給与等の業績悪化事由など、典型論点を除く)を中心に解説します。

 

 

〔災害損失欠損金に該当する例〕

・ 飲食業者等の食材(棚卸資産)の廃棄損

・ 感染者が確認されたことにより廃棄処分した器具備品等の除却損

・ 施設や備品などを消毒するために支出した費用

・ 感染発生の防止のため、配備するマスク、消毒液、空気清浄機等の購入費用

・ イベント等の中止により、廃棄せざるを得なくなった商品等の廃棄損

※ 繰戻し還付の対象となる災害損失とは、棚卸資産や固定資産に生じた被害(損失)に加え、その被害の拡大・発生を防止するために緊急に必要な措置を講ずるための費用が該当します。

 

〔災害損失欠損金に該当しない例〕

・ 客足が減少したことによる売上げ減少額

・ 休業期間中に支払う人件費

・ イベント等の中止により支払うキャンセル料、会場借上料、備品レンタル料

※ 上記のように、棚卸資産や固定資産の被害の拡大・発生を防止するために直接要した費用とは言えないものについては、災害損失欠損金に該当しません。

 

 

なお、本稿では詳細は触れませんが、令和2年3月期が本稿脱稿時点ではコロナショックにより日経平均株価が最も激減した月となります。令和2年3月期基準日ベースでの株式譲渡、贈与、事業承継税制(特例、贈与税の納税猶予)をお勧めします。

 

 

 

2)関連法人の評価損計上要件

関連法人評価損が租税法でも認容されるための基本的な考え方については平成7年4月14日裁決から整理することができます。

 

業績不振法人(閉鎖会社を前提とします)を子会社等関連会社として所有していた場合の評価損計上を整理していきます。法人税基本通達9-1-9(2)の要件を満たした場合、関連法人株式につき評価損が計上できます。

 

 


【下記抜粋】

(上場有価証券等以外の有価証券の発行法人の資産状態の判定)

9-1-9 令第68条第1項第2号ロ《上場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したこと」には、次に掲げる事実がこれに該当する。

(2) 当該事業年度終了の日における当該有価証券の発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額が当該有価証券を取得した時の当該発行法人の1株又は1口当たりの純資産価額に比しておおむね50%以上下回ることとなったこと。

(注) (2)の場合においては、次のことに留意する。

1 (筆者省略)

2 当該発行法人が債務超過の状態にあるため1株又は1口当たりの純資産価額が負(マイナス)であるときは、当該負の金額を基礎としてその比較を行う。

 

同通達9-1-12によると、発行法人の増資を引き受け、増資後でも債務超過が解消できない場合、増資後の株式評価損は計上できません。

 

 

(増資払込み後における株式の評価損)

9-1-12 株式を有している法人が当該株式の発行法人の増資に係る新株を引き受けて払込みをした場合には、仮に当該発行法人が増資の直前において債務超過の状態にあり、かつ、その増資後においてなお債務超過の状態が解消していないとしても、その増資後における当該発行法人の株式については令第68条第1項第2号ロ《上場有価証券等以外の有価証券の評価損の計上ができる事実》に掲げる事実はないものとする。ただし、その増資から相当の期間を経過した後において改めて当該事実が生じたと認められる場合には、この限りでない。

 


 

このように,増資後においては評価損は計上できません。

 

 

平成7年4月14日裁決では、納税者が期末日直後に増資(DES)をしています。当該増資の直前期末に評価損を計上しており,上記通達と整合していたわけです。

 

 

一方で,当局は増資前である期末日での評価損を否認しています。

 

簡単な時系列は4月20日決算法人において、同月10日、18日時点(期末日直前、ここで評価損を計上しています)では増資決議等社内稟議を行っただけ(増資前)であり、同月23日(翌事業年度)にDES実行(増資後)です。

 

なお、審判所の判断として「親会社が欠損の子会社を存続させるためにその子会社に対して増資払込みをすることは,その事情においてやむを得ないものがある場合があることもあり,請求人の場合には,(…筆者中略…)関連会社が同じ経済圏で営業している等の事情を併せ考慮すれば,単に増資払込みの事実をもって業況の回復が見込まれると解するのは相当でない。」は昨今のコロナによる業績不振下における子会社支援策等として、括目すべきです。

 

このように、納税者は期末日前後で増資に係る一連の手続を実行しており,当局は利益操作の意図があるとして,同通達9-1-12につき事実上の拡大解釈をした節が見受けられます。

 

 

これにつき、最判令和2年3月24日判決で宮崎裕子先生が述べられた下記の補足意見が参考になります。

 

「税務訴訟においても,通達の文言がどのような意味内容を有するかが問題とされることはあるが,これは,通達が租税法の法規命令と同様の拘束力を有するからではなく,その通達が関連法令の趣旨目的及びその解釈によって導かれる当該法令の内容に合致しているか否かを判断するために問題とされているからにすぎない。

 

そのような問題が生じた場合に,最も重要なことは,当該通達が法令の内容に合致しているか否かを明らかにすることである。通達の文言をいかに文理解釈したとしても,その通達が法令の内容に合致しないとなれば,通達の文理解釈に従った取扱いであることを理由としてその取扱いを適法と認めることはできない。(下線筆者)」

 

 

講学(学術)上はさておき、課税実務は通達課税です。すなわち通達の文理解釈で実務は回っています。

これにつき、通達が争点となった場合、宮崎先生は、通達は原則として文理解釈ではないとして、もととなる法令の趣旨や解釈に合致しているかにつきジャッジすると述べておられます。

法令に合致しているかどうかを課税実務の現場レベルで判断するのは様々な制約から不可能です。

 

しかし、現場レベルで簡単にチェックできる方法が1つあります。社会通念です。通達を逆手にとったタックスプランニングも見受けられますが、それが社会通念上、行き過ぎた、と判断できるなら、それはすでにリスキーなスキームと想定することが可能です。

 

また完全に私見ですが、上記宮崎先生のご指摘する「通達」とは国税庁が示した質疑応答事例等、見解(敷衍すればホームページで入手できる情報のこと)も射程内と考えます。当該通達等を本来的な利用をしなかった、という点「のみ」でリスキーとまでは考えませんが、そこに経済的合理性がなければ、本来的目的が存在しないと「みなされる」おそれは多分にあります。

 

これを踏まえて平成7年4月14日裁決につき事実関係を読み直していただけたらと思います。

 

 

 

3)評価損金額

債務超過法人に出資した場合,評価損計上要件は法人税基本通達9-1-9(注)2となります。これにつき、逐条解説においては「取得時における1株当たりの純資産価額がプラス100の場合には、これに比して50%以上下回るというのは、プラス50以下となることであるが、マイナス100が50%以上下回るというのはマイナス150以下となること」[注1]とあります。この差額が評価損金額となります。

 

 

4)清算手続き中の消費税に係る論点

ここでは時期尚早ではありますが、仮に法人が清算手続きに入った場合の消費税に係る論点を列挙していきます。

 

①本則課税と簡易課税の有利・不利判定

平時においては本則課税が有利であっても、清算中は、新たな仕入等、仕入税額控除の対象となる取引が激減することが往々にしてあります。この場合、簡易課税を選択した方が有利になることがあります。

なお、清算期間中に、法人の資金繰りの関係等で法人が不動産を売却するケースもあります。土地を売却した場合のいわゆる「準ずる割合」は、制度趣旨から、清算期間では適用できません。

また、関連法人等が既にある、もしくは第二会社方式などで、清算法人の所有する資産を売却した場合、買手側の関連法人等では消費税還付を受けることができる可能性があります。これについて、実務では金額として非常にインパクトのあった、居住用賃貸不動産の売却による消費税還付という重要な考慮要素が従来はありましたが、令和2年度税制改正により、令和2年10月1日以降契約締結当該取引については、当該売却は考慮外となってしまいました。

 

②免税事業者になってから資産の換価を実行

清算するということは売上は大きく減少している場合が多いです。競売、代物弁済など資産の換価手続きは消費税課税対象取引に該当するため、課税事業者期間にそれらを実行するより、上記のとおり、売上が大きく減少し、免税事業者になってから、換価を実行します。

 

 


【注釈】

[注1] 出典:法人税基本通達逐条解説(税務研究会出版局705頁)