[新事業承継税制を理解する!]

「株式等の一括贈与要件の注意点」~新事業承継税制 ポイント解説④~

 

北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、新事業承継税制の実務上の留意点を、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。今回のテーマは「株式等の一括贈与要件の注意点」です。

 

〈解説〉

 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)

 

 

 

Q.株式等の一括贈与要件の注意点について教えてください。

 

A. 事業承継税制(特例)の適用を受ける贈与を行う場合、後継者の数に応じ、それぞれに定められた数以上の株式等を一括して贈与する必要があります。端数処理の誤り等により、要件を充足していないケースが見受けられましたので贈与する株式等の数には十分注意する必要があります。

 

 

1. 後継者が一人の場合

(1) 贈与者と後継者の保有議決権数が合わせてその会社の総議決権数の2/3以上である場合
⇒贈与後の後継者の議決権数が2/3以上となるように贈与

(2) 贈与者と後継者の保有議決権数が合わせてその会社の総議決権数の2/3未満である場合
⇒贈与者が保有する議決権株式等のすべてを贈与

 

【注意点】
発行済み株式総数の3分の2に端数がある場合には、その端数は切り上げて計算することに注意が必要です。
(例)
発行済株式総数が100株の場合、その3分の2は66株ではなく67株です。

 

 

2. 後継者が二人又は三人の場合

贈与後に、それぞれの後継者の議決権数が10%以上であり、かつ、贈与者よりも多くの議決権数を有するように贈与

 

【注意点】
贈与者よりも後継者が多くの議決権数を有するように贈与する必要があるため、贈与者と後継者の議決権数が同数の場合には要件を充足しません。

 

一方、同族内筆頭要件の判定にあたっては、後継者と議決権数が同数の者がいてもそれぞれ筆頭として取り扱うこととされており、一括贈与要件と取り扱いが異なりますので注意が必要です。

 

<一括贈与要件>
後継者の議決権数 > 贈与者の議決権数
<同族内筆頭要件>
後継者の議決権数 ≧ 贈与者の議決権数

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「議決権数の考え方の留意点」~新事業承継税制 ポイント解説③~

 

 

北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、新事業承継税制の実務上の留意点を、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。今回のテーマは「議決権数の考え方と留意点」です。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ)

 

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)には、「同族過半数要件」「同族内筆頭要件」といった「議決権数」に着目している要件があります。これらの考え方の留意点を教えてください。

 

 

A、同族過半数要件、同族内筆頭要件といった要件は、保有している株式数ではなく、行使できる議決権の数を基準に要件を充足しているかどうかを判定しております。下記のようなケースに当てはまる会社は、発行済み株式総数=議決権総数とはならない会社ですので、要件を充足しているかどうかを判断する際に慎重に検討する必要があります。

 

1、自己株式を有している会社

自己株式は、議決権を有しないこととされています(会社法308②)。したがって、発行済み株式総数から自己株式数を除いた数が議決権総数となります。下記のケースにおいては、議決権総数は1,200個(1,600個-400個)であるとして、要件の判定を行います。

 

 

2、株式の持ち合いをしている会社

事業承継税制の適用を受けようとする会社(A社)が他社(B社)の議決権総数の25%以上を有する場合、B社はA社について議決権行使することができません(会社法308①)。この場合、A社の発行済み株式総数からB社が保有する数を除いた数が議決権総数となります。下記のケースにおいては、議決権総数は1,100個(1,300個-200個)であるとして、要件の判定を行います。

 

 

3、単元株制度を導入している会社

定款で定めた一単元ごとに議決権を有することとされていますので、単元未満株式については議決権を有しないものとして取り扱います。下記のケース(10株を一単元としている。)においては、議決権総数は497個であるとして、要件の判定を行います。

 

 

4、種類株式を発行している会社

種類株式のうち、議決権の一部に制限がある株式なのか、議決権の全部に制限のある株式なのかによって、下記の表のとおりに取り扱います。たとえば、一部制限株式を贈与・相続により取得した場合であっても事業承継税制の適用を受けることは出来ませんが、同族過半数要件や同族内筆頭要件の判定にあたっては総議決権数に含めて要件の判定を行うこととなります。なお、いわゆる黄金株は議決権に制限のない株式ですので、完全議決権株式等に含まれることになります。

 

 

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「中小企業の範囲等」~新事業承継税制 ポイント解説②~

 

新事業承継税制の実務上の留意点を、制度創設に関わった中小企業庁元担当官の北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができるのは中小企業の株式等ですが、そもそもの「中小企業」の範囲について教えてください。士業法人や医療法人はどのような取り扱いになるのでしょうか。

 

 

A. 事業承継税税制(特例措置)の対象となる「中小企業」は、経営承継円滑化法において規定されています。

 

 

1. 原則

中小企業者の判定は、その会社の資本金又は従業員の数が、業種ごとに定められた資本金の額又は従業員の数以下であるかどうかにより行います。なお、資本金又は従業員数のいずれかの基準を満たしていれば中小企業者と判定します。

 

2. 有限会社の取り扱い

会社法施行前に設立された有限会社については、会社法上の会社とみなすこととされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2①)。したがって、有限会社であっても、その他の要件を充足していれば事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができます。

 

3. 士業法人の取り扱い

税理士法人や弁護士法人といった士業法人は会社法の合名会社の規定を準用しているものの、会社法に定める「会社」(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)ではないため、事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができません(租税特別措置法第70条の7①二)。

 

(参考)租税特別措置法第70条の7①二
二 非上場株式等 次に掲げる株式等をいう。
イ 当該株式に係る会社の株式の全てが金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されていないことその他財務省令で定める要件を満たす株
ロ 合名会社、合資会社又は合同会社の出資のうち財務省令で定める要件を満たすもの

 

4. 医療法人の取り扱い

医療法人は、会社法に定める「会社」(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)ではありませんので、適用を受けることは出来ません。

 

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「特例承継計画の実務上の留意点等」~新事業承継税制 ポイント解説①~

 

新事業承継税制の実務上の留意点を、制度創設に関わった中小企業庁元担当官の北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、特例承継計画の提出が必要と聞きました。特例承継計画について、提出できる会社や実務上の留意点を教えてください。

 

 

 

A. 事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、「その会社」が特例承継計画を都道府県庁に提出し、都道府県知事の確認を受ける必要があります。この特例承継計画を提出できる会社(又は提出できない会社)や、提出時期などの実務上の留意点は以下のとおりとなります。

 

 

1. 提出することができる会社

特例承継計画を提出することができる会社は、以下の3点を満たしている会社です。
(1) 中小企業者であること
(2) 先代経営者が代表権を有していること、又は代表権を有していたこと
(3) 事業承継前後の具体的な事業計画を有していること

 

なお、計画作成の数年後に株式の承継を行うことを予定しているなど、特例承継計画の作成段階では承継後の具体的な経営計画を記載することが困難である場合には、大まかな記載にとどめ、実際に株式を承継しようとする前に具体的な計画を定めることも可能です。(その場合には、特例承継計画の変更手続を行うことが求められます。)

 

事業承継税制(特例措置)には先代経営者の要件、後継者の要件、会社の要件が設けられており、これらの全てを充足している必要があります。しかし、これらの要件は贈与の日や相続の開始の日等において充足していれば良く、特例承継計画提出時点において要件を満たしていなくても、特例承継計画を提出することができます。

 

 

【事業承継税制の適用要件を満たしていなくても提出することができる会社の例】

・先代経営者が代表権を有している会社

・後継者がまだ代表権を有していない会社
・同族で過半数の株式等を保有していない会社
・常時使用する従業員数がゼロ人の会社
・資産保有型会社、資産運用型会社、風俗営業会社

 

【特例承継計画を提出することができない会社の例】

・中小企業ではない会社(大会社)
・医療法人
・2027年12月31日までの間に2回、事業承継税制(特例措置)の適用を受ける予定の会社で、2代目となる後継者がまだ代表権を有していない会社

 

 

2. 実務上の留意点

(1) 提出時期
特例承継計画を提出することができる時期は、2018年(平成30年)4月1日から2023年(平成35年)3月31日までです。

 

(2) 贈与後又は相続後の計画作成・提出
先代経営者から後継者への株式等の贈与後又は相続後に特例承継計画を作成し、提出することも可能です。ただし、当該贈与又は相続に係る認定申請期限までには作成・提出する必要があります。

 

(3) 特例承継計画の作成日と株式等の贈与日
特例承継計画には、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた日における従業員数証明書を添付する必要があります。また、株式等の贈与後に提出する認定申請書にも、贈与の日における従業員数証明書を添付する必要があります。したがって、特例承継計画の作成と株式等の贈与を同じ年に行う場合には「指導及び助言の日」に株式等の贈与を行うことで、同一の従業員数証明書を用いることができ、事務負担の軽減が図ることができます。

 

(4) 認定申請書との同時提出
特例承継計画と、株式等の贈与後に提出する認定申請書は同時提出でも良いこととされております。特例承継計画の作成と株式等の贈与を同じ年に行う場合には、「特例承継計画」と「認定申請書」を同時に提出することで都道府県庁への提出が1回で済み、事務負担の軽減を図ることができます。特例承継計画の作成と株式等の贈与が別の年になるのであれば、それぞれ都道府県庁へ提出する必要があるので、2回提出する必要があります。

 

(5) 提出後の組織再編
特例承継計画の提出後に提出会社が合併により消滅した場合などには、特例承継計画の効果が失われ事業承継税制(特例措置)の適用を受けることが出来ない可能性があります。そのため、特例承継計画提出後に組織再編を予定している場合には、あらかじめ存続会社で提出する方が無難であると考えます。