[解説ニュース]

区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用巡り争いになった裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

1、はじめに


父親が建てた1棟の区分所有建物で、1階に子供夫婦が住み、2階にその親夫婦が住んでいたケースにおいて、父親が亡くなって開始した相続で、子が相続した建物1階部分の敷地権につき、「小規模宅地等の特例」の適用をめぐり争われた裁決事例が出てきました(国税不服審判所、令和3年6月21日、請求棄却)。

 

平成25年度税制改正で、1棟の建物なら、小規模宅地等の特例の適用対象となる被相続人の居住していた宅地には被相続人の親族の居住している宅地も含めるとされましたが、1棟の建物が区分所有建物である敷地については、被相続人の居住している宅地のみに限る、つまり被相続人の居住していた宅地以外の宅地は小規模宅地等の特例の適用対象にならないとする改正が行われています。その改正後、改めて区分所有建物の敷地について小規模宅地等の特例適用の是非が問われた事例といえます。

 

 

2、小規模宅地等の特例


この特例は、被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にする親族)が「事業の用」または「居住の用」に供していた宅地等のうち所定の要件を満たした宅地等について、相続税の課税対象額を最大80%減額する特例です。被相続人等の居住用宅地の場合は現行制度上、その面積の330㎡までに対し80%減額できます(措法69の4)。

 

 

3、事案の概要


裁決書によると、被相続人は、平成13年1月、2階建ての一棟の建物を新築し、区分所有建物である旨の登記をしました。建物はそれぞれ玄関、リビング、寝室、台所、洗面所、風呂場、トイレがあり、建物の内部では1階と2階で行き来することができず、外階段によって行き来する構造でした。相続開始後、母親と子は、それぞれ居住する敷地権について小規模宅地等の特例を適用して申告したところ、税務署から子の相続した敷地権部分について特例適用を否認し、子供ら相続人が最終的に国税不服審判所(以下、審判所という)に審査請求して争いとなったものです。

 

 

4、争点


争点は、①子の住む建物の敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するか。②子は、被相続人と生計を一にしていた親族に該当するか否か。
ここでは争点①について見ていくことにします。

 

 

5、審判所の認定・判断


審判所は①の判断に当たり、特例の適用対象となる「被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等」について、相続開始直前において、それらの者が現に居住の用に供していた宅地等に限られるものと解されると考え方を示し、その宅地に当たるかどうかの判断基準は、「基本的には、それらの者が、建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべきものと考えられ、(中略)①それらの者の日常生活の状況、②その建物への入居目的、③その建物の構造及び設備の状況、④生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すべき」としました。また区分所有建物について、取扱い(措置法通達69の4-7の3)で区分所有建物である旨の登記がされている建物をいう旨定められていることは、合理的としています。

 

あてはめでは、被相続人が子の住む1階部分にも生活の拠点を置いていたか否かの問題と整理したうえで、次のように認定しています。

 

①日常生活の状況については、各々が現に独立した日常生活を送っていたと認められ、被相続人夫婦が、1階部分において、請求人らと共に生活していた等の事実は認められない。

②被相続人夫婦が2階部分に入居するに当たり、孫の足音を気にすることない生活が出来るなどの事情が認められ、子供らと生活を共にすることも目的としていなかったことがうかがえる。

③設備及び構造の状況については、それぞれの区分ごとに独立して日常生活を送ることのできる構造であったと認められる。

④被相続人の生活の拠点となる建物については、問題の建物以外にはなかった。

 

 

 

審判所は「これらの事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すると、被相続人夫婦は、1階部分に生活の拠点を置いていたと認めることはできず、敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するとは認められない」と判断しています。

 

また問題の建物は「一棟の建物と認められるものの、「区分所有建物」に該当することから、問題の敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた部分に含めることはできないと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/11/22)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(廣瀬 理佐/税理士)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

 

1.特定事業用宅地等


小規模宅地等の評価減の特例の対象となる宅地等のうち「特定事業用宅地等」とは、被相続人等の事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等で、相続又は遺贈によりその宅地等を取得した親族がその事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き保有し、事業を継続していた場合が該当します。
では、相続税の申告期限までの間に転業した場合はどうなるでしょうか。

 

2.被相続人の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース1>

被相続人甲が相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいた宅地を相続人Aが相続し事業を引き継ぎましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得した親族が、①相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等の上で営まれていた「被相続人の事業」を引き継ぎ、かつ、相続税の申告期限まで引き続き「その事業」を営んでいること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース1>では甲の営んでいた事業(飲食業)は継続されておらず①の要件を満たさないので、特定事業用宅地等には該当しません。

 

 

3.生計一親族の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース2>

被相続人甲の所有する宅地で、甲と生計を一にする相続人Bが相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいました。この宅地をBが相続しましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得したその親族が、①相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を「自己の事業」の用に供していること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース2>では生計一親族であるBは、甲の生前中から営んでいた事業(飲食業)は廃業しましたが、その後自己の新たな事業として小売業を営んでいます。「自己の事業」の用に供している、という上記①の要件(及び②の要件)は転業後も満たしているので特定事業用宅地等に該当します。

 

4.「事業継続要件」


<ケース1>のように被相続人が事業を営んでいた宅地等の場合は、被相続人の事業を全部廃業又は全部転業してしまうと「被相続人の事業」を引き続き営んでいないことから特定事業用宅地等に該当しないことになります。なお、被相続人が営んでいた複数の事業のうちの一部の事業を廃業した場合であれば、廃業しなかった事業に係る敷地部分については特定事業用宅地等に該当します。また、転業が事業の一部であり、被相続人の事業と転業後の事業の双方を相続税の申告期限まで営んでいる場合には転業部分に係る敷地を含めて全体を特定事業用宅地等と扱います。

 

一方、<ケース2>のように被相続人と生計を一にする親族が事業を営んでいた宅地等の場合は、申告期限まで引き続きその親族の「自己の事業」の用に供していればよく、相続開始前に行なっていた事業と同一の事業であることは要件とされていません。

 

5.不動産貸付業に転業した場合


ただし、転業後の「事業」に不動産貸付業等は含まれません。飲食業を営んでいた生計一親族が相続税の申告期限までの間に店をやめ、そこを貸店舗としてテナントに賃貸した場合は、その不動産貸付業に該当する部分については事業継続要件を満たさなくなり、特定事業用宅地等に該当しないことになります。

 

〇飲食業➡小売業 事業継続要件を満たす
×飲食業➡不動産貸付業 事業継続要件を満たさない

 

同様に、被相続人の事業の用に供されていた宅地等の場合における事業の一部転業が不動産貸付業への転業であった場合にはその部分については特定事業用宅地等に該当しません。

 

この不動産貸付業に係る部分については、被相続人が相続開始前に営んでいた不動産貸付業をその親族が引き継いだものではないので、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の評価減の適用が受けられることになるわけでもありません。(租税特別措置法69条の4第3項1号、4号、租税特別措置法通達69の4-16)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/10/12)より転載

[解説ニュース]

不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(髙木 駿/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

1.相続税計算における評価上の問題点


土地や建物の売買契約締結後、その契約に係る引渡しが未了の状態で買主に相続が開始した場合、相続税の計算上、相続人が取得することとなる相続財産の種類が何であるのか(不動産か債権(不動産の引渡請求権)か)、さらにはその評価額はどのように算定するのかが問題になります。

 

相続税法あるいは財産評価基本通達では、土地や建物の売買契約締結後引渡前に買主に相続が発生した場合の取扱いについて特段の明文規定等はありません。

 

 

2.現行の実務の取扱い


現行の実務は、平成3年1月11日付国税庁資産税課情報第1号(以下「情報」という。)の取扱いに基づき、被相続人である買主に係る相続税の計算上、被相続人から取得した財産及び承継した債務の種類の判定、そしてその財産及び債務の評価を行っています。今回は「情報」の取扱いについて、設例を用いて解説します。

 

(1)原則的な取扱い

買主に相続が開始した場合に相続人が取得した財産は、売買契約に係る土地や建物の引渡請求権とし、その評価額は売買契約に基づく土地や建物の取得価額(売買代金)の金額となります。また、その一方で相続人が承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とし、その額は売買契約に基づき、被相続人たる買主が負担することとなっている売買代金や仲介手数料その他経費で、相続開始の時における未払相当額となります。

 

設例の場合のように、買主である被相続人が6,000万円で土地を購入する売買契約を締結し、手付金600万円を支払った後、引渡前に相続が発生した場合は、6,000万円の土地の引渡請求権を課税財産として計上する一方で、未払となっている残代金5,400万円を債務控除の対象とします。

 

(2)特例的な取扱い-その1

売買契約日から相続開始日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなど、上記(1)の取得価額の金額が相続開始日における土地や建物の引渡請求権の価額として適当でない場合には、別途個別に評価した価額によります。

 

(3)特例的な取扱い-その2

買主に相続が開始した場合において、上記(1)にかかわらず、売買契約により取得する土地や建物を相続財産とする申告をすることも認められます。なお、この場合における土地や建物の価額は、財産評価基本通達により評価した金額となります。

 

この特例的な取扱いにより、設例の場合には、取得する財産を「土地」として、その評価額を4,000万円として申告することも認められます。一般的には、土地については売買代金よりも路線価等で評価した相続税評価額の方が低くなるケースの方が多いため、特例的な取扱いの場合の方が相続税上は有利になることが多いと思われます。

 

ただし、「情報」の(注)4では、「当該特例的な取扱いによる課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあることに留意する。」との記載がありますので注意が必要です。

 

 

3.小規模宅地等の特例の適用の可否


「情報」においては、上記2.(3)のとおり、土地の売買契約締結中に買主の相続が発生した場合における買主の相続財産を「土地」として申告することも認められています。この場合にその土地につき、小規模宅地等の特例の適用が受けられるかどうかについて「情報」では特に言及していません。私見では、被相続人である買主は相続開始直前において土地を所有しているものとして取り扱われることになるため、その土地が小規模宅地等の特例の適用要件を充足した場合は特例を適用することが可能であると考えますが、相続開始直前における被相続人等の居住の用及び事業の用に供していたのかという判定等には慎重な判断が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/20)より転載

[解説ニュース]

介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小泉紀子/税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

 

1.はじめに


最近相続税申告で、介護施設で亡くなられた場合の小規模宅地等の特例を適用するケースが増えてきているように思われます。今回は、その適用にあたって留意する点をお伝えします。

 

2.概要


介護施設で亡くなった場合でも、被相続人が入所前に居住していた家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件を満たすと、小規模宅地等の特例における「被相続人の居住の用」に供していたものとされます(措令第40の2②、③)。

 

①相続開始の直前に、被相続人が「要介護認定」又は「要支援認定」を受けていること
②老人福祉法等に規定する介護施設等に入所していたこと
③被相続人が居住していた家屋は、入所後に事業の用又は新たに被相続人以外の居住の用に供されていないこと

 

3.要介護認定の申請中に死亡した場合


要介護認定又は要支援認定を受けていたか否かの判定時期は、「相続開始の直前」とされています。

では、介護施設に入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょう。

このような場合に、相続開始後に要介護認定があったときには、要介護認定はその申請のあった日にさかのぼってその効力が生ずることとなり、相続開始の直前において要介護認定を受けていた者に該当するものとして取り扱うことが認められています。

 

4.添付書類


被相続人が介護施設に入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に次の書類を添付する必要があります。

 

①被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
②介護保険の被保険者証の写しなど、被相続人が要介護認定又は要支援認定を受けていたことを明らかにする書類
③施設への入所時における契約書の写しなど、その介護施設の名称及び所在地並びにその施設が老人福祉法等に規定する介護施設であることを明らかにする書類

 

①~③の書類のうち、実務上入手に困るのが②の書類です。介護保険の被保険者証は、亡くなると市区町村役場へ返却することになっているため、相続税申告にあたりご用意頂く書類を相続人の方へ伝える頃には、市区町村役場へ返却してしまっていることが多いです。市区町村役場に申請して別途要介護又は要支援の状態であったことを証明する書面を出してもらうことも可能ですが、手間がかかりますので、もしお伝えできるタイミングがありましたら、写しをとっておいてもらうことをお勧めします。

 

5.介護施設に入所中に自宅を相続した場合


以下の事例において、被相続人甲の自宅の建物を「本件家屋」、その敷地の用に供されている宅地等を「本件宅地等」とします。

 

被相続人甲はA有料老人ホームの入所前に、本件宅地等を居住の用に供していましたが、A有料老人ホームの入居中に本件家屋及び本件宅地等を配偶者乙から相続し、その後本件家屋に戻ることなく死亡しました。

 

この場合、被相続人甲は、A老人ホーム入居の直前においては本件宅地等を居住の用に供していたものの本件宅地等の所有者ではなく、本件宅地等を取得した後はこれを居住の用に供していないのですが、本件宅地等は、小規模宅地等の特例対象となるのでしょうか。

 

これについては、国税庁の平成30年12月7日付の文書回答事例で次のような見解が認められています。

 

すなわち、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等が、小規模宅地等の特例対象となる居住用宅地等に該当するか否かは、被相続人が有料老人ホーム等に入所して居住の用に供されなくなった直前の利用状況で判定することとされていますが、その時において被相続人が宅地等を所有していたか否かは、法令上特段の規定は設けられていないことから、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等に該当すると解され、特例の適用を受けることができると考えられます。」

 

なお、小規模宅地等の特例の適用判定は難しいため、適用にあたっては十分に要件を確認することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/15)より転載

[解説ニュース]

配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

■配偶者居住権等の評価

 

 

1.配偶者居住権の意義


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割または遺言により、その居住していた建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住したり賃貸したりする権利(=「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

2.配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例


(1)小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例とは、個人が相続等により取得した宅地(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下「宅地等」。)のうち被相続人又は被相続人と生計をーにしていた被相続人の親族(被相続人等)の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等(下図の4区分)について、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業や居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合は、被相続人等に係る相続税の計算上、一定の面積(限度面積)までの部分について、その相続税の課税価格を次のとおり減額する特例をいいます(租税特別措置法69条の4)。

 

 

(2)配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用

配偶者居住権自体は、建物に関する権利であることから、宅地等に係る特例である、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権は、前述(1)の「土地の上に存する権利」に該当することから、上図④の特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
居住建物の敷地の所有権についても、その取得者が居住建物に被相続人と同居していた等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第1項、第3項2号・財務省「平成31(令和元)年度税制改正の解説」539頁)。

 

3.配偶者居住権等と相続税の物納


(1)相続税の物納の概要

相続税法は、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として金銭以外の一定の財産による納税(物納)が認められています(同41条第1項)。
相続税の物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税の適用を受ける財産を除く。)で、日本国内に所在するもののうち一定のものをいい、譲渡制限が付されている株式など一定の財産は、管理処分に不適格な財産(「管理処分不適格財産」)として物納財産から除外されています(相続税法41条第2項、同施行令18条)。また物納財産が複数ある場合には、相続税法上、物納に充てることができる財産の順位が定められています(相続税法41条第2項、第5項)。

(2)配偶者居住権等と物納の適用

配偶者居住権自体は譲渡が禁止(民法1032条第2項)されていることから、上記3(1)の「管理処分不適格財産」に該当し、物納に充てることができません(相続税法41条第2項)。
配偶者居住権が設定された建物およびその敷地の所有権は、他の財産に比べて物納の順位が後れる「物納劣後財産」とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます(同法第4項)。

 

4.適用時期


上記2(2)と3(2)の取扱いは、配偶者居住権に関する民法の施行日である、令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます(改正法附則1条7号ロ)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/13)より転載

[解説ニュース]

令和元年分の路線価公表・地価上昇による相続税への影響

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(厚地満里 /税理士)

 

1.路線価4年連続上昇


国税庁は7月1日、令和元年分の路線価を記載した路線価図を同庁のホームページで公表しました。

http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

全国の平均路線価は4年連続で上昇傾向にあり、その上昇率は前年対比で平成30年分の「+0.7%」を上回る「+1.3%」となりました。現在国税庁のホームぺージでは、平成25年分以降の路線価を確認することができます。

 

都道府県別の路線価では、19都道府県で前年より上昇しました。上昇率の上位を見ると、観光客数が増えている沖縄が8.3%と2年連続で全国トップ、2位は東京が4.9%、都市部の再開発が進む宮城が4.4%で3位と続いています。一方、路線価が前年より下落したのは27県で、内22県は下落幅が縮小しているものの、大都市圏や集客力のある観光地と、それ以外の地域との二極化の傾向が続いています。

 

2020年にオリンピック・パラリンピックの開催を控えた東京は、平均路線価が6年連続の上昇中で、訪日外国人の増加に加えて、再開発やホテルの建設が着々と進み、都心部で地価のバブル傾向が続いています。路線価の変動率を見ると、外国人観光客で賑わう浅草・雷門通りの上昇は前年対比で35%上昇と都内最高でした。大学キャンパスの進出が相次ぐ北千住駅前も大きく上昇、複数の路線が乗り入れる利便性の高さから、マンションの建設も続いています。

 

2. 土地の相続税評価額への影響


相続税・贈与税の宅地の評価額は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて算出する地域を除き、基本的には一平方メートル当たりの土地の評価額である路線価に地積を乗じて算出します。つまり路線価の上昇がそのまま相続財産の総額、そして相続税の納税に影響してきます。

 

ここ数年は商業地だけでなく、立地の良い住宅地でも毎年数万円単位で路線価が上昇してきました。現状の路線価ベースで相続税額を試算してみると、何年か前に試算した時より納税額が驚くほど増えていたというケースをよく見かけます。これまで手持ちの金融資産で何とか納税ができそうと考えていた方は、今改めて現状把握をしていただきたいと思います。

 

3.地価の上昇と小規模宅地の評価減の関係


小規模宅地の評価減の特例とは、相続人がその生活を維持するために欠くことのできない被相続人の自宅や事業用の土地を相続した場合に、土地の価額を一定の面積まで50%もしくは80%減額して評価することができる制度です。

 

例えば自宅の宅地の価額が1億円ですと、この制度の適用により価額の80%が減額されますので、相続税の課税対象となる宅地の評価額は2千万円になります。その効果は絶大である上に、現在のように路線価が高い時程、大きな効果を表します。小規模宅地の評価減の適用要件は事前に確認しておきたいところです。

 

4.最後に


空家や空地、その他子供や孫が今後引き継いでいくことが難しい物件があり、いずれは売却をと考えているようでしたら、地価が高騰して市場が動いている時は売却の好機です。相続税の納期限は相続開始から10か月しかありません。相続発生後に、納税のために物件を売却しようとしても、相続人間で話を取りまとめて換金に至るには余りに時間が短く、何よりその時市場が動いていなければ売却の目途が立ちません。問題を先送りしてタイミングを逸してしまわないように、家族でよく話し合い準備しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/05)より転載

[解説ニュース]

相続税の個人版事業承継税制の対象資産(「特定事業用資産」)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 1.相続税の個人版事業承継税制の概要


相続税の個人版事業承継税制とは、下記2の特定事業用資産を所有し、事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)を行っていた先代事業者として一定の者(被相続人)から、後継者として一定の者(特例事業相続人等)が、2019年1月1日から2018年12月31日までの相続又は遺贈(相続等)により、その事業にかかる特定事業用資産の全部を取得した場合に、その特定事業用資産にかかる相続税について、担保の提供その他一定の要件を満たすことにより納税が猶予され、後継者の死亡等により猶予されている相続税の納付が免除される税制をいいます(租税特別措置法(措法)70条の6の10第1項)。

 

2.特定事業用資産の意義


(1)特定事業用資産の範囲

「特定事業用資産」とは、先代事業者の事業の用に供されていた次の資産です。ただし、その贈与または相続等の日を含む年の前年分の事業所得にかかる青色申告書(措法25条の2第3項に規定する65万円の青色申告特別控除にかかるものに限る。)の貸借対照表に計上されていたもの限ります(措法70条の6の10第2項1号、同施行規則23条の8の8第2項等)。

 

①宅地等
事業の用に供されていた土地または土地の上に存する権利で、建物または構築物の敷地の用に供されているもののうち、棚卸資産に該当しないもので、面積が400㎡以下の部分。

 

②建物
事業の用に供されていた建物で、棚卸資産に該当しないもののうち床面積の合計が800㎡以下の部分。

 

③減価償却資産
②以外の減価償却資産のうち、構築物、機械装置、器具備品、船舶等、一定の自動車等、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形減価償却資産。

 

(2)先代事業者の生計一親族の所有する資産

上記(1)の「先代事業者」には、先代事業者と生計をーにする配偶者その他の親族が含まれます(措法70条の6の10第2項1号かっこ書)。したがって、先代事業者が配偶者の所有する土地の上に建物を建て、事業を行っていた場合におけるその土地など、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産のうち上記(1)①~③のいずれかに該当するものについても、特定事業用資産に該当します。

 

ただし、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産が特定事業用資産に該当するためには、(1)の下線部の通り、その資産が先代経営者の一定の青色申告書にかかる貸借対照表に計上されている必要があります(措法70条の6の10第2項1号)。所得税の青色申告にかかる貸借対照表に、同一生計親族名義の資産を計上する処理を通常は行わないので、今後の取扱いについては国税庁通達等を確認する必要があります。

 

3.小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合


2(1)①の宅地等につき、先代事業者および先代事業者と生計を一にする親族(以下「先代事業者等」)から相続等により取得した宅地等について、措法69条の4の小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合には、その適用を受ける小規模宅地等の区分に応じ相続税の個人版事業承継税制の適用が次のとおり制限されます(措法70条の6の10第2項1号イ、2号へ、同施行令40条の7の10第7項)。

 

 

上図①のとおり、特定事業用宅地等にかかる小規模宅地等の特例と相続税の個人版事業承継税制については併用できず、どちらかを選択することになります。

 

相続税の個人版事業承継税制は100%納税猶予・免除が可能ですが、後継者が納税猶予を継続し、免除に至るまでには、原則として終身の事業継続や資産保有が求められます(措法70条の6の10第3項、第15項等)。小規模宅地等の特例に比べて要件が厳しいため、後継者が相続等による取得する特定事業用資産の価額のうち宅地等がその大半を占める場合には、通常は小規模宅地等の特例を選択するケースが多いと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/07/08)より転載

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

1.はじめに


相続税の合法的な節税につながる制度として、一般に知られている「小規模宅地等の特例」について、またしても行き過ぎた節税に規制が入ります。平成31年度税制改正大綱により、明かになりました。この小規模宅地等の特例に規制が入るのは、昨年度に続くものです。

2.小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価格の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次の表とおりです。

 

この特例が設けられた趣旨は、居住や事業を継続する相続人の生活基盤となっている財産については納税のため売却せずに済むように守るためといわれています。

 

最近のデータによると、相続税増税が実施された平成27年以降、年間3,000件程度の適用件数となり、直近の平成28年は特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用件数は、3,895件、適用した相続人は4,772人でした。

 

特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用ケースのうち、相続税を支払ったケースは3,074件、その相続人は3,786人、減額される金額は約292億円でした。反対に小規模宅地等の特例の適用等により、相続税の支払いがなかったケースは821件、その相続人は986人、減額される金額は約78億円でした。

3.規制の内容


平成31年度の税制改正では、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等を除外することとされました。

 

ただし、その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合は、特定事業用宅地等の範囲に入ることとされます。要するに、相続直前に事業を開始した形にして節税するのを規制するということです。

 

この改正は、平成31 年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用しないこととされています。

昨年度の税制改正では「貸付事業用宅地等」の改正が行われ、相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地は貸付事業用から除外する改正が行われましたが、今回の改正もほぼ同様です。

4.今後のこと


ただ、平成31年度与党税制改正大綱では、制度の趣旨から逸脱した節税に対し今後さらなる規制強化を検討することも次の通り書き込まれています。

 

「現行の小規模宅地特例について、貸付事業用の小規模宅地特例の例にならい、節税を目的とした駆け込み的な適用など、本来の趣旨を逸脱した適用を防止するための最小限の措置を講ずる。その上で本特例については、相続後短期間での資産売却が可能であること、債務控除の併用等により節税の余地があること、事業を承継する者以外の相続人の税額に効果が及ぶことなどの課題があることを踏まえ、事業承継の支援という制度趣旨を徹底し、制度の濫用を防止する観点から同様の課題を有する貸付事業用の小規模宅地特例と合わせて、引き続き検討を行っていく」(第一 平成31年度税制改正の基本的考え方、②デフレ脱却・経済再生、地方創生の推進⑵中堅・中小・小規模事業者の支援)。

 

現在、多額の借入れにより賃貸マンションを購入し相続を迎え相続税申告したケースで、賃貸マンションの土地等について、国税庁の財産評価基本通達に従い、貸家建付地等であることに伴う評価減の適用をめぐり、行き過ぎた節税だとして評価減が否認された事例が裁判になっています。このケースでは、否認後の賃貸マンションの敷地の評価額は時価とされましたが、小規模宅地特例の適用は認められており、争点とはなっていません。しかし、このような事例が行き過ぎた節税との見方が政府内で固まれば、早晩更なる規制をかけることを大綱がほのめかしたものとみることができます。今後の改正動向に注意が必要になっています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/04/01)より転載