PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第5回】PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

 

 

 

 

【図表1】PPAにおける無形資産評価の一般的なプロセス

 

 

前回は無形資産の認識プロセスについて詳しく解説したが,今回は,無形資産の認識を行った後の測定プロセスについて解説します。

1.無形資産の測定プロセスの概要

前回説明したように,無形資産の評価実務においては,認識プロセスにおいて初期的資料の分析や買い手企業へのインタビュー等を実施し,認識すべき無形資産を特定します。

 

その後の測定プロセスにおいては,認識対象と判断した無形資産についての定量的な評価を,価値評価の実務に基づいて進めることとなります。

 

無形資産評価においては,他の資産の価値評価の場合と同様に,絶対的な解が存在するわけではなく,個々の案件において概ね合理的かつ妥当と考えられる算定結果を導くことがゴールとなります。

 

そのために,評価者は無形資産の認識プロセスにおいて買収案件の目的や被買収企業の事業特性等を理解した上で,測定プロセスにおいてそれらの理解に基づき適切と考えられる評価手法の選択や前提条件の設定を行い,無形資産価値の測定を行います。

 

以下,無形資産の測定プロセスにおいて検討すべきポイントについて,どのような考え方に基づき評価手法が選択され,また,選択された評価手法における前提条件にはどのようなものがあるのか,といった点から概観していきます。

 

 

【測定プロセスにおいて検討すべきポイント】

(1)基礎となる考え方(公正価値アプローチ)

(2)評価手法・評価アプローチの選択

(3)評価上の前提条件等の検討

  •    ①認識する無形資産の関係性
  •    ②WACC・WARA・IRR
  •    ③事業計画
  •    ④経済的耐用年数
  •    ⑤節税効果
  •    ⑥人的資産の評価

 

 

(1)基礎となる考え方(公正価値アプローチ)

公正価値の概念は,PPAにかかる無形資産価値評価において基礎となる非常に重要な概念であり,無形資産はこの公正価値の概念により測定される。IFRS13号「公正価値」によれば,公正価値とは「測定日時点で,市場参加者間の秩序ある取引において,資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」とされます。

 

これは,無形資産の評価は,一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないことを意味しています。日本基準においても,企業会計基準適用指針第10号に同様の内容が規定されており,公正価値とは(1)観察可能な市場価格に基づく価額であり,(2)(1)がない場合には,合理的に算定された価額とされています。

 

また,合理的に算定された価額による場合には,一般的な市場参加者が利用する情報や前提等が入手可能である限り,それらに基礎を置くこととし,そのような情報等が入手できない場合には,見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされています。

 

合理的に算定された価額は,一般に,コスト・アプローチ,マーケット・アプローチ,インカム・アプローチなどの見積方法を採用することが考えられ,資産の特性等により,これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなります。この点について,IFRSと日本基準の考え方に差異はないものと解されます。

 

 

(2)評価アプローチ・評価手法の選択

上述の3つのアプローチについて解説します。

①インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは,評価対象資産から得られる将来の経済的便益の総和を現在価値に割引くことにより,評価対象資産を評価する手法です。

無形資産評価の実務ではほとんどのケースにおいて採用される主要な評価手法です。代表的な算定方法に,ロイヤリティ免除法,超過収益法などがあります。

 

②マーケット・アプローチ

評価対象資産あるいは評価対象資産に類似した資産の取引市場における取引価格を参考にして,評価対象資産の価値を算定する手法です。

 

③コスト・アプローチ

無形資産を構成する要素それぞれの再調達原価や複製原価を算定し,集計した額を評価対象資産の価値とする手法です。実務では,のれんに含まれる人的資産の評価等に用いられることが多いです。

 

 

【図表2】評価アプローチと留意事項

 

 

(3)評価上の前提条件等の検討
①認識する無形資産相互の関係性

複数の無形資産が認識される場合においては,対象会社の事業遂行上,無形資産の収益貢献度合や無形資産相互の関係性について理解・把握し,算定分析を行うことが必要であります。

 

例えば,非常に強力な製品ブランドを有する事業において,ブランド力を背景として顧客との取引関係が構築されていると考えられるようなケースにおいては,ブランドを主たる無形資産,顧客関連資産を従たる資産と捉えるのが合理的です。

 

このような関係性は,無形資産の算定上,評価手法の選択や計算過程において考慮されます。一方で,複数の無形資産が存在するものの,それぞれが相互に補完し合うことなく独立して機能し,収益稼得に貢献しているといった場合であれば,無形資産相互の影響については考慮せず,各々を個別に評価するのが合理的と考えられます。

 

 

②WACC・WARA・IRR

無形資産の測定には主にインカム・アプローチが用いられるため,割引計算に必要なWACC(加重平均資本コスト),WARA(加重平均資産収益率)といったパラメータを設定する必要があります。

 

設定にあたっては,対象案件におけるIRR(内部収益率)が参照されます。実務上は,WACC・WARA・IRRの整合が求められることが多いです。

 

 

③事業計画

PPAにおける無形資産評価は,端的に言えば,将来キャッシュ・フローからもたらされる経済的価値を無形資産とのれんに配分する手続です。将来キャッシュ・フローの構成要素のうち,無形資産の価値とのれんの価値を,事業計画上のキャッシュ・フローに基づき測定します。

 

通常,買収案件の検討時においては,複数の事業計画が策定されるが,測定の実務では,公正価値アプローチに基づき一般的な市場参加者の観点と整合的な事業計画が採用されます。

公正価値アプローチでは,買い手が誰であろうと,買い手の特性等については価値に影響を及ぼさない,という前提に立つため,買い手企業によってのみ実現可能なシナジー効果からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産の構成要素とは看做さずに,のれんの構成要素となります。

 

また,こちらも重要なポイントであるが,PPAの無形資産評価において測定対象となるものは,評価基準日時点に存在する無形資産です。

したがって,無形資産は,評価基準日時点において既に存在する顧客・契約・技術・製品等から生じるキャッシュ・フローに基づき測定・評価されなければなりません。対象企業が将来獲得すると想定する顧客・契約・技術・製品等からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんの構成要素となる点に留意が必要です。

 

 

【図表3】キャッシュ・フロー配分の概念図

 

 

④経済的耐用年数

経済的耐用年数は,測定される資産価値に影響するとともに,無形資産の会計上の償却年数にも影響を及ぼす実務上最も重要な論点であると考えられ,十分な分析・検討が必要となります。

 

無形資産評価において難しいのは,例えば,有形固定資産であれば,税法上の規定など資産の種別に応じた耐用年数に関する指針等が存在しますが,PPAにかかる無形資産評価の場合そのような個別具体的な指針はなく,認識される無形資産について個別的な検討が求められます。

 

実務上は,下表にあるように,商標権や契約関連資産で法的保護期間(契約期間)が明示的なものについては,残存保護期間や更新可能性が考慮されることが多いです。一方,契約期間が不明確な契約関連資産や顧客資産については,取引の継続実績や過去の顧客減少率といった,被買収企業から入手できる関連データを総合的に勘案して,経済的耐用年数が決定される場合が多いです。

 

 

【図表4】経済的耐用年数の検討材料(例)

 

⑤節税効果
無形資産価値の測定において,当該無形資産の償却による節税効果を,資産価値に含めることが一般的です。連結財務諸表のみに無形資産が計上され,実際の単体決算の税務申告上,償却費が発生しないような場合であっても,償却を擬制して節税効果を見積もり,その価値を加味する場合がある点に留意ください。

 

 

⑥人的資産の評価

人的資産は,インカム・アプローチに属する評価手法である超過収益法が採用される場合に測定が必要となります。一般的に,企業買収において,買収者は資産設備等以外に,対象会社の組織化され訓練された労働力を得ることとなります。

 

そのため買収者は,対象会社の事業を継続運営する上で,新たに人を採用し,訓練するためのコストを節約できたとみなして,当該節約コストを見積ることによって人的資産の価値を概算することとなります。具体的な概算方法としては,評価基準日時点の人員を採用して,職務を果たせるレベルまで教育訓練した場合に生ずるコストの合計値が人的資産の価値となります。

 

 

2.最後に

今回は無形資産の測定プロセスを解説したが,測定プロセスの流れや検討すべきポイントについてご理解頂けたでしょうか。無形資産の測定においては,選択される評価手法や設定される前提条件等によって測定結果が大きく異なります。よって,測定プロセスは慎重かつ適切な判断に基づいて進めることが必要です。

 

次回は,無形資産の測定プロセスにおける代表的な評価手法について解説します。

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー(2020年6月下旬公開予定)
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?