[解説ニュース]

評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地や家屋を有する場合の純資産価額方式の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

 

1.純資産価額方式による株式評価計算の原則


純資産価額方式は、非上場会社が課税時期(個人が相続、遺贈又は贈与により財産を取得した日をいう。)に清算した場合に株主に分配される正味財産の価値(純資産価額)を、その会社の発行株式の相続税法上の評価額とする評価方法です。具体的には、非上場会社(以下「評価会社」)が所有する資産を財産評価基本通達(以下「財基通」)に基づき評価し、その評価額の合計額から、負債金額の合計額及び資産の含み益に対する法人税額等相当額を差し引くことにより純資産価額を計算します(財基通185)。

 

2.課税時期前3年以内に取得した土地や家屋の評価


(1)通常の取引価額による評価

 

純資産価額の計算上、資産は財基通に基づいて計算することから、会社が所有する土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に評価するのが原則です。ただし、課税時期前3年以内に取得又は新築した土地や家屋の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額(注)で評価します(財基通185かっこ書)。(注)その土地等や家屋等の帳簿価額が課税時期における「通常の取引価額」に相当すると認められるときには、帳簿価額(取得価額)に相当する金額によって評価できます(同)。

 

このような取扱いをする理由は、①純資産価額の計算において、評価会社が所有する土地の時価を算定する場合に、個人が所有する土地の評価を行うことを念頭においた路線価等によって評価替えすることが唯一の方法ではなく、適正な株式評価の見地からは、通常の取引価額によって評価すべきとも考えられること、②課税時期の直前に取得や新築をし、時価が明らかにわかっている土地や家屋についても、わざわざ路線価等によって評価替えを行うことは、時価の算定上、適切でないと考えられることによるものです(令和2年版財基通逐条解説682~683頁)。

 

 

 

(2)「取得」の意義

 

上記(1)における「取得」には、評価会社が土地や家屋を交換、買換え、現物出資、合併等により取得する場合が含まれます(令和2年版財基通逐条解説683頁)。合併や会社分割等の組織再編行為により評価会社が土地や家屋を取得した場合についても、(1)の「取得」に含まれるので注意が必要です。

 

 

 

(3)土地や家屋を課税時期前3年以内に取得したかどうかの判定時期

 

純資産価額の評価は、課税時期現在における評価会社の資産及び負債に基づき計算することが原則ですが、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債の金額について著しく増減がないと認められる場合には、直前期末の資産及び負債を基として評価することが認められています(「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等」12頁)。

 

この取扱いは、課税時期における仮決算を組むのが煩雑であるため、課税上弊害がない範囲で、直前期末の資産等を課税時期現在の資産等に置き換えることを認めたものであり、直前期末を課税時期とみなすものではありません。

 

したがって、評価会社の所有する土地及び家屋が3年以内に取得したものかどうかは、直前期末の資産等を基に評価する場合であっても、課税時期から遡って判定します(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」224~225頁)。

 

 

 

(4)家屋とその敷地を取得後に家屋を賃貸した場合

 

評価会社が課税時期前3年以内に取得した家屋と敷地を所有している場合において、その家屋を取得後に自用から賃貸に利用区分を変更しているときは、その家屋と敷地の評価をどのように行うかが問題となります。上記の場合には、課税時期において家屋を賃貸していることから、家屋とその敷地を貸家及び貸家建付地としての通常の取引価額に相当する金額により評価することになります。

 

この場合、取得時の利用区分(自用家屋、自用地)と課税時期の利用区分(貸家、貸家建付地)が異なることから、前述(1)(注)のように取得価額そのものを評価額とすることはできません。そこで実務上、取得時の利用区分と課税時期の利用区分が異なり、その取得価額等から課税時期における通常の取引価額を算定することが困難である貸家及び貸家建付地の評価は、まず(1)によりその貸家と敷地が自用家屋と自用地であるとした場合の通常の取引価額を求め、次にその価額を財基通93の貸家の評価の定めと26の貸家建付地の評価の定めを適用して減額して計算することが認められています(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」226頁)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/07/25)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の債務控除の対象とされる債務の範囲

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

 

 

【問】

Aさん(35歳)の父親(享年70歳)は、令和3年12月に急死しました。父親の相続人はAさんと兄の2人です。Aさんは、起業に伴う開業資金として令和3年4月に父親から現金2,000万円の贈与を受けており、また父親の事業の後継者である兄がその事業に係る多額の債務を承継することから、父親の遺産については相続をしないつもりです。この場合において、Aさんに対する贈与税や相続税の取扱いはどのようになるのでしょうか。

 

なおAさんは父親から令和3年の現金2,000万円以外に贈与を受けておらず、令和3年中に父親以外の人から財産の贈与を受けたことはありません。またAさんの父親は、生前に遺言を作成していません。

 

 

【回答】

1.贈与年に贈与者が死亡した場合における、受贈者の税務の取扱い


財産の贈与をした人(贈与者)が、その贈与をした年に死亡した場合、贈与により財産を取得した人(受贈者)の税務は、受贈者が贈与者から相続または遺贈により財産を取得したかどうかにより、次の通りに取扱われます。

 

(1)受贈者が贈与者から相続または遺贈により財産を取得した場合

相続または遺贈により財産を取得した者が、相続の開始年にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得した場合、その財産の価額は相続税の課税価格に加算されます。この場合、相続税の課税価格に加算されるものの価額は贈与税の課税価格には算入されず、贈与税の申告は不要です(相続税法(相法)21条の2第4項)。

 

(2)受贈者が贈与者から相続または遺贈により財産を取得しなかった場合

相続の開始した年に被相続人から贈与により財産を取得した個人が、被相続人から相続または遺贈により財産を取得しなかった場合には、その贈与財産の価額は、その贈与があった年の受贈者の贈与税の課税価格に算入されるのが原則です(相法基本通達21の2-3(1))。

 

ただし、被相続人からの贈与につき相続時精算課税制度の適用を受ける場合、その贈与により取得した財産の価額は贈与税の課税価格に算入されるものの(相法21条の10)、贈与税の申告書の提出は不要とされます(相法28条第4項、相法基本通達21の2-3(2))。この場合、その贈与により取得した財産は、贈与者より相続により取得したものとみなされ、贈与財産の価額は相続税の課税価格に算入されます(相法21条の15第1項、21条の16第1項)。相続開始の年に被相続人から贈与を受けた財産について相続時精算課税制度の適用を受けるためには、贈与者(被相続人)に係る相続税の申告期限または受贈者に係る贈与税の申告期限のいずれか早い日(本問の場合、Aさんの令和3年分贈与税の申告期限の令和4年3月15日)までに、被相続人(=父親)の所轄税務署長に対し相続時精算課税選択届出書を提出する必要があります(相法施行令5条第3項、第4項、相法基本通達21-9-2(1))。

 

2.結論


ご質問の場合、Aさんが父親から相続により財産を取得せず、かつ、令和3年中に父親から贈与を受けた現金2,000万円について、令和4年3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出して相続時精算課税制度の適用を受ける場合、前述1(2)より、その2,000万円が贈与税の課税価格に算入されますが、特別控除額2,000万円を控除することにより、Aさんの令和3年分の贈与税は生じません。一方、Aさんが父親から贈与を受けた現金2,000万円は相続税の対象となり、その現金の額と兄が相続する父親の相続財産の価額(債務控除後)との合計額が、遺産に係る基礎控除額以下であるときには、相続税も発生しません。

 

なお、上記の場合において、Aさんが令和4年3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出しないときは、相続時精算課税制度の適用を受けることができません。相続時精算課税制度の適用を受けず、かつ父親から相続により財産を取得しない場合は、前述1(2)前段より、父親から贈与を受けた現金2,000万円に贈与税が課税され、Aさんは贈与税額585万5,000円を納めることになりますので、注意が必要です。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/01/17)より転載

[解説ニュース]

相続税の債務控除の対象とされる債務の範囲

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.控除対象とされる「確実と認められる債務」とは


(1)相続税の債務控除

相続税は相続財産の課税価格を基に計算されますが、この課税価格の計算上、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」等が控除されます(相続税法13条第1項1号外)。この場合、相続税の課税価格の計算上控除されるべき債務は、「確実と認められるものに限る。」(同法14条1項)とされています。

 

(2)法令通達上の「確実と認められる債務」の基準

相続税法14条の「確実と認められる債務」については、法令通達上、その「確実」性をどのようにして判断するかの基準が明確ではありません。相続税法基本通達14−1は、「債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。」としていますが、具体的な判断基準が示されているわけではありません。そこで次の2と3では、過去の裁判例等から債務の確実性についての具体的な判断基準のありかたについて考えてみます。

 

 

2.債務の確実性についての具体的な判断基準


(1)基本的な考え方

債務控除の対象とされる債務であるためには、まず相続開始時点で、被相続人にその【債務が存在していること】が必要です。債務が存在しているとは、支払い等の財産的な給付をする法的な義務(債務)を生じる契約等が成立・発生している、ということです。次に、債務が【存在】するとしても、次は、【それが「確実」なもの】といえなくてはなりません。その「確実」性の判断の時点は、相続財産の評価が財産の取得の時=相続の時点(の現況)で行われること(相続税法22条)から、同様に相続開始の時の状況で判断されるべきと考えられます。そして、「確実」性の判断に当たっては、債務控除制度の趣旨を確認しておくことが必要です。なぜなら、その趣旨に照らし、「確実」というために求められる確かさのレベルが導き出されると考えられるからです。

 

(2)平成4年2月6日の東京高裁判決における債務控除制度の趣旨

表題の判決では、「確実」性を求める相続税法14条第1項の趣旨を、「相続人ないし相続財産の負担となる債務(消極財産)は、積極財産の価額から控除して正味(純)財産により相続税の課税価格を計算しようとするものだからである。したがって、その存在が確実であっても、保証債務のように、債務の性質上、相続人が履行するとは限らず、必ずしも相続人ないし相続財産の負担とならないものは、原則として、それから除かれるものと解さなければならない。…その債務の存在すること及びその債務の履行されることが証拠上確実と認められるならば、これを『確実と認められるもの』ではないとはいえない…」(二重否定に注意)としています。
上記の判決では、被相続人の正味(純)財産を相続税の課税対象として捉え、それを求めるための控除が債務控除制度(の趣旨)であり、債務が存在していることに加え、その履行が証拠上確実か、により判断されるべきとしていることがわかります。

 

また上記判決では、「相続開始後の状況、特に相続人によって現実に当該債務の履行がされたか否かの点は、相続開始時点において債務の履行が確実と認められるか否かの認定においても斟酌されて然るべき」(太字下線部は筆者)としており、この点についても留意すべきと思います。

 

 

3.事例による債務の確実性についての考え方


例えば、被相続人が生前に自宅の改修工事をリフォーム業者に発注し、契約上、工事完了後に代金を一括して支払う取決めをしたとします。実務上、相続税法14条1項の「確実」は、文字の表す通り、”確定”まで至っていなくてもよいと解されています。したがって、工事完了前に被相続人の相続が開始したときであっても、工事の大半が終了していて契約の取消されることが通常見込まれず、工事完了後に相続人による代金の支払い(債務の履行)が見込まれるのであれば、相続開始時点で被相続人の債務(工事代金の支払債務)は、”確定”には至っていないものの、「確実」であるとは言えると思われます。

 

さらに上記2の下線部の内容を踏まえると、工事代金の支払債務につき、相続税の申告期限までに相続人により債務が引き継がれ、その履行(工事代金の支払い)がされた事実があれば、それはその債務が相続の開始時点において「確実」なものであったことの強い証拠となると思われます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/11/09)より転載

[解説ニュース]

【事例】中小企業オーナーの遺産分割対策としての会社分割の活用法

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■株式交付制度の概要と活用時の留意点

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

 

【問】

A氏はB株式会社(B社)の代表取締役として、発行済株式を全部保有しています。B社は甲事業と乙事業を営んでおり、A氏の長男と次男がそれぞれ甲事業、乙事業の責任者として経営に参加しています。A氏の死亡後、長男と次男が揉めないように、B社をどのように承継させたらよいでしょうか。

 

 

【回答】

1.会社分割を活用した対策の概要


現状のまま遺言もなくA氏の相続が開始した場合、B社株式を兄弟でどう分けるかでトラブルになるおそれがあります。また遺産分割協議により、兄弟がそれぞれB社の株式を半分ずつ相続したような場合には、会社の意思決定に支障が出る問題があります。

 

上記の問題点を踏まえれば、A氏が生前にB社を甲事業、乙事業と事業別に二つに分割しておくことが有効な対策となります。具体的には、B社は甲事業を営む会社として存続させる一方で、乙事業を営む会社としてC社を下記2の会社分割により設立(会社法762条以下。以下「新設分割」。)します。生前にそのような対策を実行することにより、A氏の相続開始時には相続財産がB社株式と新設のC社の株式になります。

 

B社株式とC社株式を長男と次男兄弟がそれぞれ相続することで、遺産分割とその後の会社経営にかかるトラブルを未然に防ぐことができます。税務上は、A氏が生前に上記の会社分割を行い、①分割後のB社株式とC社株式を相続開始時まですべて保有する予定で、②他にB社からは何も給付を受けなければ、その他の要件を満たすことにより適格分割となり、課税の問題も生じません(下記2参照)。A氏の相続開始後に、B社を甲事業、乙事業と事業別に分割することは可能ですが、すでに兄弟間でトラブルが顕在化している場合には、会社分割を行うことが手続面も含めて煩雑になります。会社分割による遺産分割対策は、A氏がB社のオーナー経営者であるうちに実行すべきでしょう。

 

2.会社分割を実行した場合の税務上の取扱い


会社分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により他の会社に承継させることをいいます(会社法2条29号、30号)。この場合の「他の会社」には、既存の会社のときと新設会社のときとがありますが、本稿では新たに会社を設立する「新設分割」を想定します。新設分割にかかる税務上の取扱いをまとめると、次のとおりになります。

(1)分割した場合の株主A氏の課税(所得税)

分割により新設されるC社が、A氏に対してC社株式以外の資産を交付しなければ、法人税法上の「適格分割型分割」に該当します。適格分割型分割に該当する場合のA氏の課税関係は次の通りです。

 

①C社株式に関してみなし配当は生じません(所得税法25条第1項2号)。
②A氏の側から見ると、実態として会社分割の前後でB社株式の価値の一部がC社株式に変わった(移転した)だけであると考えられます。したがって、この分割によりB社株式からC社株式へ移転した株式の価値については、B社株式の取得価額の一部をC社株式の取得価額に付替える計算のみを行い、譲渡所得課税は行いません(所得税法施行令113条・租税特別措置法37条の10第3項2号かっこ書)。

(2)B社とC社の課税(法人税)

適格分割型分割を行った場合には、B社の乙事業に係る資産および負債を適格分割直前の簿価でC社に引き継ぎます(法人税法62条の2)。よって、B社において乙事業の分割に伴う資産負債の譲渡損益は認識せず、B社とC社に課税関係は生じません。

 

3.会社分割の実行による相続税への影響


会社分割を行うことにより、A氏に係る相続税の計算上、会社分割前のB社株式の相続税評価額に比べ、分割後のB社株式とC社株式の相続税評価額の合計額が大きくなる場合があるので注意が必要です。

 

例えば、会社分割後3年以内にオーナー経営者に相続が発生した場合、C社株式の純資産価額の計算上、C社がその土地や家屋の取得(=会社分割)後3年以内にA氏の相続が発生したことになるので、その土地や家屋は相続税評価額ではなく通常の取引価額で評価されることになります(財産評価基本通達185)。路線価や固定資産税評価額に基づく相続税評価に比べて、通常の取引価額に基づく評価の方が、相続税評価額は通常高くなります。また、この場合のC社株式は、開業後3年未満の会社の株式となるので、純資産価額方式のみによる評価となり、一般的に相続税評価額の低くなる類似業種比準価額による評価はできません(同189-4)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/10/25)より転載

[解説ニュース]

持分の定めのない法人への預金移転で贈与税が問題になった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

■公益社団法人等へ財産を贈与した場合の譲渡所得の非課税の特例・・・株式を贈与する場合

 

1.持ち分の定めのない法人への贈与と課税問題


持ち分の定めのない法人へ財産を贈与又は遺贈をして、その贈与等をした人の親族等の贈与税又は相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合、その法人を個人と見なして、贈与税又は相続税を課税する規定があります(相法66④)。これは平成20年度税制改正で、一般社団法人等を用いた租税回避に対する防止策として改めて整備されたものです。

 

ポイントは、一定の基準を全て満たし、その贈与等をした人の親族等の贈与税又は相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められないとされるかどうかです(相令33③)。

 

今回は、この規定の適用を巡って争われた、つい最近の裁決事例を紹介します。

 

2.令和3年5月20日裁決


事案は、ある宗教法人を舞台としたものです。問題になった行為は、前住職(故人)が生前、平成27年に宗教法人の口座に3千万円を超える預金を移動させたこと。相続人に対する相続開始前3年内の贈与財産なら相続税の計算上加算されますが、国税当局は、上記行為につき住職の親族の相続税の負担を不当に減少させる結果になるとして、宗教法人を個人と見なして贈与税を課税しました。宗教法人はこれについて、「贈与」ではないとして審査請求に至り、最終的には国税不服審判所(以下、審判所という。)が贈与税の課税を全部取消したという事案です。争点は次の通りです。

 

⑴問題の資金移動は、前住職(故人)から請求人(宗教法人)への財産の贈与に該当するか否か(相法66④に規定する財産の贈与の有無(争点1))。
⑵問題の資金移動により相法66④に規定する相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるか否か(争点2)。

 

3.審判所における贈与の認定・判断


争点1について、不服を申立てた宗教法人側では、前住職名義の口座にあったお金は、宗教法人の余剰金などを原資とするものが大半で、もともと宗教法人のものなどと主張していました。しかし審判所は、前住職の口座にあった金融資産の原資が宗教法人の収入であることをうかがわせる事情は見当たらないなどとして、その帰属は前住職にあるとしました。これを受けて、お金の宗教法人の口座への移動により、宗教法人に経済的利益が生じているから、移動したお金は「贈与により取得したものとみなされる」と判断しました。

 

4.審判所における不当減少の認定・判断


次に争点2についてです。審判所は、「贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、(中略)その時点において、その法人の社会的地位、寄附行為、定款等の定め、役員の構成、収入支出の経理及び財産管理の状況等からみて、財産の提供者等ないしはその特別関係者が、当該法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実があるかによって判断すべき」と判断基準を示しました。

 

そして審判所は、具体的には相令33③を基に、①法人運営が適正であるかどうか(定款等に法人の役員等に占める親族関係者等の割合が3分の1以下にする旨の定めがあるかどうか)、②法人に贈与した者や役員等又はその親族などに特別の利益を与えないかどうか、③定款等に残余財産の帰属先について国等とする旨の定めがあるかどうか、④法令順守しているかどうか…をチェックしました。

 

まず①については、この宗教法人の寺院規則に役員等に占める親族関係者等の割合が3分の1以下にする旨の定めはないとしつつも、②については、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたり、私的に財産を費消・使用したと認められないこと、③残余財産について、国等その他の公益を目的とする事業を行う法人に帰属する旨の定めはないが、この宗教法人の寺院規則では「法人の解散には、責任役員の定数の全員及び総代並びに門徒の3分の2以上の同意を得た上、管長の承認及び県知事の認証を受付けなければならない旨定めており、前住職らの意思のみで恣意的に解散等を行うことは事実上、困難と認められる」ことを指摘しました。結論として審判所は「前住職らが、請求人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められない。したがって、本件各資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職(故人)の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない」として贈与税の課税を取り消しています。弾力的な制度運用もありうるといっていいのでしょうか。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/09/24)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】合同会社の社員が死亡した場合の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■法人が匿名組合契約により営業者に金銭出資している場合の出資金の相続税評価

■持分の定めのある社団医療法人の解散と課税関係

 

【Q】

合同会社の社員であった父が死亡しました。父に遺言はありません。相続人は、母と私の2人であり、母に相続放棄をする予定はありません。

 

〔問1〕父の社員としての地位を私だけが承継するには、母と私で遺産分割協議をすればよいですか?
〔問2〕相続税の計算上、合同会社の出資はどのように評価しますか?

 

 

【A】

〔問1〕について


まずは、定款に、社員が死亡した場合の持分の承継に関する定めがないかどうか確認してください。

 

① 定款に定めがない場合
合同会社の社員は死亡によって退社し、その地位は、原則として、相続人へ承継されないため、遺産分割協議の対象とはなりません(会社法607①三)。あなたが社員になりたいのであれば、今回の相続とは関係なく、定款の定めに従って入社の手続をする必要があります。

 

② 定款に定めがある場合
定款に「死亡した社員の相続人がその社員の持分を承継する」旨の定め(以下「別段の定め」)がある場合には、相続人にその地位が承継されます(会社法608①)。しかし、この場合も遺言がないということですので、仮に定款に別段の定めがあったとしても、共同相続人であるお母様とあなたとが相続分に応じてその地位を承継することとなり、遺産分割協議によって、あなたのみを社員にするということはできないと考えられます(青山修『持分会社の登記実務〔補訂版〕』(民事法研究会)121・122頁)。いったんお母様も社員となった上で、お母様は任意退社又は持分譲渡をする必要があると考えられます。

 

 

 

〔問2〕について


社員が死亡した場合の地位の承継に関して定款に別段の定めがない場合には、その社員の出資持分は「払戻請求権」として評価します(会社法611①)。

 

また、定款に別段の定めがあり、相続人が持分を承継する場合には、「出資」として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(財基通178~193、194)。

 

 

【解説】

(1) 合同会社の社員とは

合同会社は、1又は2以上の個人又は法人の出資により設立されます(会社法578)。この出資者のことを「社員」と呼びます(ここでいう「社員」は、従業員という意味合いではありません)。そして、出資者である社員は、原則として、経営者でもあるというのが合同会社の特徴です(会社法590)。

 

(2) 死亡した社員の出資持分の取扱い

① 原則
社員が死亡した場合に、もしその相続人その他の一般承継人(以下「相続人等」)が当然にその死亡した社員の地位を承継できるとなると、他の社員にとって望まない者が新たに社員として加わる可能性がでてきます。そこで、会社法上、社員の死亡は法定退社事由とされており、その地位は、原則として相続人等に承継されることはありません。この場合、その相続人等は、出資持分の払戻しを受けることになります(会社法611①)。

 

この払戻請求権は、いったん被相続人に帰属した後に、相続財産として相続人に承継されると解釈されています(神戸地判平成4年12月25日税務訴訟資料193号1189頁)。すなわち、その払戻金額がその法人の資本金等の額のうちその死亡した社員の出資持分に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は被相続人に対する配当とみなされ、所得税が源泉徴収されて、被相続人の所得税の課税対象となった上で、払戻請求権は相続税の課税対象になると考えられます(所法25①四)。

 

このように出資持分の払戻しを受ける場合の払戻請求権の相続税評価額は、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法611②)とされていることから、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額となります(国税庁質疑応答事例)。

 

 

② 例外
一方、死亡した社員の地位を相続人等へ承継させたいという場合もあります。そのような場合には、定款に別段の定めをしておくことで、社員が死亡して退社したとしても、その地位を相続人等へ承継させることができます。この場合、その相続人等は、出資の払戻しは受けず、被相続人の出資持分を承継します(会社法611①)。
なお、相続人の中でも特定の相続人に社員の地位を承継させたい場合には、定款において別段の定めをするとともに、社員が遺言で特定の相続人に自己の持分の全部又は一部を承継する旨を定めておく必要があると考えられます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/09/13)より転載

[解説ニュース]

貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.貸家建付地の相続税法上の評価


土地付き建物の所有者が建物を他に貸付けている場合、その建物の敷地を「貸家建付地」といいます。貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者もその敷地の処分や利用が制限されます。よって貸家建付地を相続により取得した場合は、相続税計算上、土地所有者の自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(=自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価をします(財産評価基本通達通26)。

 

 

2.使用貸借により土地を貸していた個人に相続が発生した場合の、その土地の相続税法上の評価の原則


使用貸借に係る土地を相続により取得した場合、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります(使用貸借通達3)。

 

建物の所有を目的として使用貸借により土地を借受けた場合の借主の使用権は、借地借家法が適用されず、借主には賃貸借による賃借権などの借地権とは違い、強い法的保護がなく、貸主は、その求めにより、いつでも無償で土地の返還を受けられます。よって、使用貸借に係る土地の使用権の経済的価値は極めて低いと考えられ、その相続税評価額はゼロとされます。つまり、使用貸借に係る土地の貸主側のその土地の相続税法上の評価は、【自用地の価額-使用貸借の使用権の価額(=0)】により、自用地としての評価となります。

 

 

3.貸家とその敷地を所有する親が、子に貸家を贈与し、その敷地を使用貸借により貸し付け後に親が死亡した場合の敷地の相続税評価


(1)原則的な考え方

貸家とその貸家の敷地を所有する親が、貸家のみを子に贈与し、その敷地を子に使用貸借により貸付けている場合、貸家贈与後のその貸家敷地の相続税法上の評価の原則的な考え方は、前述2と同様に、自用地評価となります。自用地として評価する理由につき、使用貸借通達3の取扱いを解説した「令和2年11月改訂版相続税法基本通達逐条解説」(以下「逐条解説」)867頁は次のように述べています。「…すなわち、一般に、使用貸借により借り受けた土地の上に建物が建築され、その建物が賃貸借により貸し付けられている場合における、その建物賃借人の敷地利用権は、建物所有者(土地使用借権者)の敷地利用権から独立したものではなく、建物所有者の敷地利用権に従属し、その範囲内において行使されるにすぎないものと解されている。したがって、土地の使用借権者である建物の所有者敷地利用権の価額をゼロとして取り扱うこととした以上、その建物賃借人の有する敷地利用権についてもゼロとして取り扱うことは当然であり、また、その土地自体の価額も自用であるとした場合の価額によるべきと考えられるからである。」

 

(2)貸家に係る賃貸借契約が贈与前に既に締結されており、贈与後から敷地の相続による取得の時までその契約が継続している場合の貸家の敷地の評価

表題の場合、その貸家の敷地の相続税法上の評価は、次の理由により貸家建付地としての評価とされます(参考:「逐条解説」867頁~868頁)。

 

貸家の贈与前は、貸家の所有者である親がその敷地の所有者でもあり、貸家の所有者である親と貸家の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、貸家の借家人は貸家を通じてその敷地利用権を有しています。その敷地利用権は敷地の所有権に対するものであり、判例(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁、最判昭和41年5月19日民集20巻・989頁参照)において、貸家借家人の有する敷地利用権は、貸家が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしています。つまり、借家人の権利の保護の観点から、その貸家の譲渡(贈与や相続による所有権の移転も含むと解されます)により、貸家自体の土地に対する利用権が使用貸借となっても、借家人の従前の敷地の所有権に対する敷地利用権が、敷地の使用貸借による利用権(ゼロ評価)に対する敷地利用権に変わることはないということです。

 

表題の場合の貸家の借家人は、相続で新たにその貸家の敷地の所有者が変わっても、それより前の贈与の前に取得している貸家の敷地に対する利用権は侵害されることなく有しているため、その敷地は、相続で誰に取得されても、引き続きその処分や利用が、その利用権により直接制限されるため、表題の場合の貸家敷地の評価額は、自用地としての評価額から貸家建付地と同等の減額を行うのが当然といえます。以上により、表題の場合の貸家の敷地の相続税法上の評価は、前述 (1)にかかわらず、貸家建付地としての評価とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/07/26)より転載

[解説ニュース]

同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

■相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

 

1.はじめに


相続又は遺贈(「相続等」)により非上場株式を取得した個人がその株式を発行した会社(評価会社)の同族株主に該当する場合、その株式の相続税評価額は常に原則的評価方式により評価すると考えがちです。

しかし、同族株主である個人が有する議決権割合によっては、その相続等により取得した株式を特例的評価方式により評価する場合もありえます。

 

2.同族株主のいる非上場会社で、同族株主グループに属する個人が相続等により取得したその会社の株式の相続税評価


「同族株主」とは、原則、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその親族等の「同族関係者」の所有議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主及びその同族関係者(以下、両者をあわせて「同族株主グループ」という。)をいいます(財産評価基本通達188(1))。

同族株主グループに属する個人株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価方式は、その取得後の議決権割合(その株主の有する議決権数÷評価会社の議決権総数)に応じ、次のとおりとなります(財産評価基本通達178・188)。

 

(1)その議決権割合が5%以上の同族株主の株式原則的評価方式により評価します。

 

(2)その議決権割合が5%未満の同族株主の株式

 

①評価会社に中心的な同族株主がいない場合は、原則的評価方式により評価します。

 

②評価会社に中心的な同族株主がいる場合は、その同族株主が次のいずれに当たるかに応じ、それぞれに掲げる方式で評価します。
イ.中心的な同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ロ.課税時期において評価会社の役員である同族株主または課税時期の翌日から法定申告期限までの間に評価会社の役員となる同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ハ.イ及びロ以外の同族株主が取得した株式は、特例的評価方式により評価します。

 

③「中心的な同族株主」とは、同族株主のいる会社の株主で、課税時期において次のイ〜ハの株主グループの有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の25%以上である場合における、その株主をいいます(財産評価基本通達188(2))。
イ.同族株主の1人
ロ.イの株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族
ハ.イ及びロの者の同族関係者である会社のうち、イ及びロの者が有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である会社

 

3.事例による非上場株式の相続税評価方式の判定


非上場会社の㈱Y(議決権総数10,000個)の代表取締役の甲が死亡し、その遺言により甲所有の㈱Yの株式を、甲の長男Aと孫C(次男Bの子)が取得しました。これにより長男Aの有する㈱Yの議決権数は9,600個、孫Cの有する議決権数は400個となりました(甲に係る相続税の申告期限において、Aは㈱Yの役員ですが、Cは役員ではありません)。この場合、AとCが取得した㈱Y株式の相続税評価は、次のとおりとなります。

 

(1)長男Aの取得した株式の評価方式

Aは㈱Yの議決権総数の96%を有する同族株主です。したがって、Aが取得した㈱Yの株式の評価方式は前述2(1)より、原則的評価方式となります。

 

(2)孫Cの取得した株式の評価方式

Aは中心的な同族株主となり、㈱Yは中心的な同族株主のいる会社となります。これに対し、Cは同族関係者(叔父)であるAとあわせて㈱Yの議決権をすべて有するので、同族株主に該当します。Cについて中心的な同族株主の判定を行うと、Cが有する㈱Yの議決権数は議決権総数の4%(25%未満)、C以外の㈱Yの株主は叔父のAのみであり、株主のなかにCの配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族はいません。よってCは中心的な同族株主には該当しません。また、Cの有する㈱Yの議決権数は議決権総数の5%未満であり、かつCは甲に係る相続税の申告期限までに㈱Yの役員となるわけでもありません。したがって、Cが取得した㈱Yの株式の評価方式は、前述2(2)②ハより、特例的評価方式となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/4/12)より転載

[解説ニュース]

外国人が母国から送金を受けた場合の贈与税課税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中山 史子/税理士)

[関連解説]

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

■相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

【質問】

技能実習生として日本に居住する外国人が、母国に住む親から贈与により、親の外国の預金口座から、自分の日本の預金口座へ1,000万円の送金を受けました。贈与者(親)と受贈者(技能実習生である子)は、ともに日本国籍を有さず、日本での居住期間は、受贈者は10年以内、贈与者はゼロ(居住歴なし)です。従って、この送金を受けた金銭が国内財産に該当しなければ、日本の贈与税は課税されないことになります。この場合、この送金を受けた金銭は国内財産と国外財産のどちらに該当するのでしょうか?

 

 

【回答】

この送金を受けた金銭は国外財産に当たり、日本の贈与税は課税されないと考えられます。

 

課税財産の範囲


贈与税の課税財産の範囲は、贈与者と受贈者を、日本国内における住所(=生活の本拠地)の有無や国籍により区分し、その区分の組み合わせにより受贈者ごとに決定されます(下表)(相続税法1条の4、2条の2)。「一時居住者」とは、贈与の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格)を有する人で、その贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。

 

質問の場合は、受贈者は別表第1「技能実習」の資格を有し、日本での居住期間は10年以内ですので「一時居住者」に該当します。一方、贈与者は日本の居住期間はゼロですから「10年以内に国内に住所なし」に該当し、受贈者の課税財産の範囲は国内財産に限定されます(下表)。よって、この送金が国外財産に該当する場合には、日本の贈与税は課税されません。

 

贈与財産は何か?財産の所在は?


質問のケースは、まず金銭(現金)の贈与契約があり、その後に送金手続きが取られたと考えることが自然です。

 

よって、贈与財産である金銭の所在が国内なのか国外なのかにより贈与税の課税の有無が決定されます。相続税法10条は、財産の所在する場所について規定しており、動産(金銭)については”その動産の所在する場所”とし、その判定は”財産を贈与により取得した時の現況”によるとしています。

 

財産を贈与により取得した時はいつか?

 

民法第549条では「贈与は当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」とし、第550条では、「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」としています。これら民法を受けて、相続税基本通達1の3・1の4共-8では、贈与による財産の取得の時期について「書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」としています。

 

履行の時とは


「履行の時」とは、「贈与者の送金の手続き完了時(=外国)」なのか、「受贈者の預金口座への入金された時(=日本)」なのかという疑問が生じます。本質問と逆のケースですが、高裁の事案(平成14年9月18日判決)では、日本に居住する親が日本の預金口座から、国外に居住する子の外国の預金口座への送金について、贈与財産が国内財産か国外財産なのかについて争われましたが、裁判所はその判断の中で、”履行の時とは贈与者が送金の手続きを完了した時”という見解を示しました。

 

質問への当てはめ


質問の場合では、書面による契約があれば贈与契約時(=送金の前)、書面がないときは履行時(=親の送金手続き完了時)となり、いずれの時も金銭の所在は国外となり、日本の贈与税は課税対象外となります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/22)より転載

[解説ニュース]

住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

■令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

1、はじめに


緊急事態宣言に基づく外出の自粛要請など新型コロナウイルス感染防止策の影響により、住宅の新築竣工時期等の遅れが生じ、住宅税制の入居に関する適用要件を充たせなくなることが懸念されています。

 

このため政府は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)について昨年4月、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」を施行し、入居期限までに入居できないケースへの対応を行ったところです。

 

ここでは、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例(措法70の2)」では、どのように対応されているのかについて確認します。

 

2、住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例


住宅取得等資金に関する贈与税の非課税制度とは、父母・祖父母など直系尊属から満20歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の子や孫が住宅取得等資金をもらう場合に、申告を条件に一定の限度額までは非課税となる制度です。

 

住宅用家屋の新築・取得・増改築(以下、取得等という)に係る契約の締結日が平成31年4月1日から令和2年3月31日の場合、非課税枠は以下の表のとおりです。

 

 

 

ただし贈与の翌年の3月15日までに住宅を取得等し、その年末までに居住すること等の要件があります。ここで着目すべきは、その贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の取得等をしなければならない点です。従来から、両制度とも住宅の取得等の期限については、厳格に贈与を受けた年の翌年3月15日とされてきており、これを徒過すると、同制度の適用は認められませんでした。

 

ただし、同制度には納税者自身の責めに帰さない「災害に基因するやむを得ない事情」で住宅の引渡しや新築の時期・入居の時期が適用要件の期日に遅れた場合には、1年延長が認められる法律上の定め(宥恕規定)があります(措法70の2⑩⑪)。

 

それによると、災害に基因するやむを得ない事情により贈与により金銭の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに取得等ができなかったとき又は取得等の年の12月31日までに入居できなかった場合であっても、特例の規定の適用を受けることができるとされており、たとえば住宅の取得等の期限が「翌々年3月15日」とされる仕組みです。

 

3、最新の国税庁のFAQ


国税に関し新型コロナウイルス感染症への対応を明らかにした「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」に、令和3年2月2日付で、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例における取得期限等の延長について」が追加されました。

 

それによると、国税庁は「今般の新型コロナウイルス感染症に関しては、例えば、緊急事態宣言などによる感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し、資機材等の調達が困難なことや感染者の発生などにより工事が施行できず工期が延長される場合など、新型コロナウイルス感染症の影響により生じた自己の責めに帰さない事由については、「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものと認められます」として上記宥恕規定の適用があることを明らかにしました。

 

同FAQでは、次のような事例を示しています。

 

①令和元年に贈与を受け、令和2年中に住宅の取得等をして年末までに住む予定だったケースで、コロナ禍で工期が遅れ年末までに住めなかった場合
→令和3年の年末までに居住すればOK
②令和2年に贈与を受け令和3年3月15日までに住宅の取得等をする予定がコロナ禍で遅れた場合
→令和4年3月15日までに取得し、その年末までに居住すればOK

 

 

なお、工務店等に住宅の新築工事をお依頼している場合には、資金の贈与の翌年3月15日までに棟上げしていれば、特例の適用のある住宅の取得等に含まれます(措法規23条の5の2①)。この点、新築マンションや建売住宅のケースでは、あくまで引渡し時点がポイントですので、注意が必要です。
申告にあたってはコロナ禍により取得時期や居住時期が遅れたことに関し工期が延期されたなど「やむを得ない事情」を証明する書面を用意する必要があります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/16)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「父から相続した建物を父の事業に従事していた者に低額譲渡した事例に対するみなし贈与課税の適用について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業を譲り受けた場合に営業権の計上について

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

個人で診療所を経営している甲医師(以下「甲」という)は、甲の叔父が所有している土地を賃貸借契約して賃借し、その土地に建物を建て、診療所を経営していました。土地の賃貸料は安く相当の地代に満たないそうです。

 

甲は2月に病気になり入院したため休診にしていましたが、病気が完全に治るという可能性がないこと、また甲の子も医師ですが、甲の診療所を利用して開業する意思がないため、甲は廃業して建物を解体する予定でした。しかし4月に病状が急変し死亡しました。

 

相続人になる甲の子(以下「乙」という)も、建物を解体しようと考えていましたが、甲の診療所に勤務している従業員の子で、他の病院に勤務している勤務医がおり、従業員と勤務医をしている子が乙に診療所を承継したい旨を話すと、乙も快諾しました。乙としても建物を解体しても費用がかかること、また廃業するためにはいろいろな面倒な手続きがあること、また承継を望んでいる従業員の子の開業の助けになればと考えたそうです。

 

診療所の建物は、診療所専用で鉄筋造りの2階建てで、総床面積は600㎡です。入院設備はありません。

 

建物の固定資産償却額は6,000万円ですが、乙は診療所を承継してもらえるならと500万円で譲る考えです。

 

乙に対しては建物の相続税評価額6,000万円に対して、また借地権に対して相続税が課税されますがその課税については了解しています。

 

500万円という値段については、甲が生前に入院中、他人からもし診療所を廃業して建物を売却する考えがあれば500万円で売ってほしいという話がもとになっているようです。

 

この建物を有効に活かせる人から見れば3,000万円あるいは4,000万円の値段がつくかもしれません。

 

乙と従業員は親族関係にはなく他人のため、固定資産税評価額6,000万円の建物と借地権を500万円で売却しても従業員に対してみなし贈与は発生しないと考えますが、いかがでしょうか。

 

また、みなし贈与以外に何か課税上問題が発生するでしょうか。

 

なお、建物の帳簿価額は6,400万円です。

 

[回答]

ご照会の事案は、相続人乙が被相続人甲から相続により取得する建物を低額譲渡した場合において譲受人に対してみなし贈与課税の適用があるかどうかを問題としております。

 

ご照会では、乙と譲受人との間に親族関係はなく他人であるところからみなし贈与課税の適用はないと結論しております。

 

事実関係について建物の価額など詳細に示されていますが、ご照会の事案の検討に当たっては次に挙げる事項について事実関係を明らかにする必要があるのではないかと思われます。

 

① 甲は診療所の建物(以下、「A建物」といいます。)の敷地として甲の叔父の土地(以下、「B土地」といいます。)を賃借しておりましたが、A建物に係るB土地の借地権はどのように取り扱われていたか。

 

② A建物を譲り受けるのは甲の診療事業に従事していた従業員(以下、「丙」といいます。)または丙の子(以下「戊」といいます。)の何れか。

 

ご意見では、A建物の価額について固定資産税評価額、相続税評価額などを取り上げたうえで500万円という価額に至った経緯などを基に、乙と丙との身分関係などに照らしてみなし贈与課税の要件を欠くのではないかと結論しておられます。

 

しかしながら、上記の「①」で取り上げたところにより譲渡資産として取引される資産がA建物に加えてB土地の借地権も含まれるとすると、取引される資産の価額と対価の開差は大きく異なる見解も考えられるのでにわかにご意見に頷けないものがあります。

 

上記の「②」はA建物が診療所専用であるということからすると、医師である戊が譲り受けることには理解できますが、医師の資格を有しない丙が譲り受けることには素直に理解できないものがあります。

 

ご照会のおたずねでは、乙と丙との間に親族関係が存しないことを大きな要素としておりますが、固定資産税評価額との比較において取引価額に大差が存する事実からするとご意見によることは難しいのではないかと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

特定生産緑地制度の税務上の留意点について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(猪狩 祐介/税理士)

 

 

 

【問】

私は東京都A市に農地を所有し、農業を営んでいます。私の父は所有していた農地の全部について、A市より平成4年(1992年)11月に生産緑地の指定を受けており、私は父から平成10年にその生産緑地の全部を相続し、農業相続人として農地等に係る相続税の納税猶予(措法70の6)の適用を受けています。

 

生産緑地の指定を継続する場合には、その指定の告示から30年経過する前に、A市による「特定生産緑地(生緑法10の2)の指定(10年継続)」を受ける必要があると聞きました。生産緑地の指定から30年を経過する2022年において、特定生産緑地の指定を受ける場合と受けない場合とで、私の相続税の納税猶予や固定資産税の課税にどのような影響がありますか。

 

【回答】

1.特定生産緑地制度の概要


①特定生産緑地制度とは

特定生産緑地制度とは、市町村が、生産緑地指定から30年を経過する日(申出基準日)が近く到来することとなる生産緑地のうち、その周辺の地域における公園、緑地整備の状況など勘案して、申出基準日以後もその保全を確実に行うことが良好な都市環境の形成を図る上で特に有効であると認められるものを、特定生産緑地として指定することをいいます(生緑法10の2)。いわば再指定され た生産緑地を特定生産緑地といいます。

 

②特定生産緑地の指定を受ける場合

特定生産緑地の指定を受けると、10年間の営農義務が課されますが、固定資産税は、従来通り農地課税(低い金額)になります。相続税の納税猶予も営農している限り継続されることになります(措法70の6)。また、特定生産緑地の指定を受けた後でも、生産緑地の所有者である主たる従事者が死亡した等の場合は、相続人が相続税の納税猶予の適用を受けることや、買取りの申出をして生産緑地の指定の解除をすることができます(生緑法10)。

 

③特定生産緑地の指定を受けない場合

特定生産緑地の指定を受けない場合、農地に対する固定資産税は5年をかけて段階的に宅地並み課税になります。現在受けている相続税の納税猶予については、当代に限り継続されますが、次の世代では、生産緑地の指定を受けていないことから、新たに相続税の納税猶予を受けることができません。

 

 

 

 

2.農業相続人の有無別の特定生産緑地の指定と税務上の留意点


特定生産緑地の指定をめぐる税務上の取扱いは、あなたの相続時に相続人となる人のなかに、農業の後継者(農業相続人)がいるかどうかにより、次の通りに区分されます。

 

①農業相続人がいる場合
相続税の納税猶予の適用を受けている場合には、猶予を継続するため、終身営農が必要となります。特定生産緑地の指定を受けなかった場合でも、営農している限り、あなたの納税猶予は打ち切りになりませんが、あなたの親族に農業の後継者がいる場合であっても、あなたの相続において相続税の納税猶予の適用を受けることができず、固定資産税も宅地並み課税となるため、特定生産緑地の指定を受けておくことが望ましいと考えられます。

 

②農業相続人がいない場合
次の世代に農業相続人となる人がいない場合

 

(イ)特定生産緑地の指定を受け10年間営農を継続する(10年毎に継続の可否を判断)
(ロ)30年経過前に買取りの申出を行い、生産緑地の指定を解除し、土地の有効活用を行う。
(ハ)特定生産緑地の指定を受けず、買取りの申出も行わず、いつでも買取りの申出ができる状態で営農を継続する。

 

の3つから選択することになります。

 

引き続き税制上のメリット(固定資産税の農地課税、相続税の納税猶予)を受けるためには、上記(イ)を選択することとなります。対して、宅地に転用して活用するのであれば(ロ)(ハ)を選択することになります。ただし、買取りの申出を行うと、納税猶予が打ち切りとなり、あなたは相続税額と利子税を一括で納付することになります。

 

 

将来農地をどのように維持するかは、税制面からも重要な問題です。特定生産緑地の指定を受けるかどうかについては、農地税制に詳しい税理士に相談しながら検討してください。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/23)より転載

[解説ニュース]

民法改正~遺産分割前における相続預貯金債権の払戻し制度~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(髙橋 大貴/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

■民法改正 ~特別の寄与~

 

 

1.はじめに


平成30年7月13日に公布された「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」のうち、新民法第909条の2に規定する遺産分割前における相続預貯金債権の払戻し制度(以下、「民法の預貯金払戻し制度」)を中心に解説します。

 

2.預貯金払戻し制度の創設以前の問題点


預貯金払戻し制度の創設以前は預貯金債権も一般債権同様に、法律上当然に分割され、相続人が法定相続分に応じて承継されるとされてきましたが、平成28年12月19日の最高裁大法廷決定に基づき、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、共同相続人による単独での払戻しができないこととなりました。このため、被相続人が有していた預貯金を生活費等の資金需要のため遺産分割前に払戻す必要がある場合であっても、被相続人の共同相続人全員からの同意を得ることができない場合には預貯金の払戻しができないという問題が生じていました。

 

3.「民法の預貯金払戻し制度」の概要


上記2の問題点を踏まえて、相続財産の遺産分割前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払い等のために資金が必要となった場合に対応できるよう、下記4の払戻し限度額(までについては、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における払戻しが受けられるようになりました(民法909条の2)。

 

 

4.預貯金払戻し限度額


(1)限度額

各相続人は、遺産に属する預貯金のうち、相続開始時の預貯金債権額(金融機関の口座ごとに判断します。)の3分の1に払戻しを行う共同相続人の法定相続分を乗じた額(上限150万円)について、家庭裁判所の判断を経ず払戻しを受けることができます。
ただし、民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令(平成30年法務省令第29号)で、一つの金融機関から払戻しが受けられる上限額は150万円と定めています。

 

(2)計算例

相続人が長男及び次男の2名(法定相続分各2分の1)で、相続開始時の預金額がA銀行の普通預金1,200万円、定期預金300万円、B銀行の普通預金600万円の場合において、次男が預貯金の払戻しをおこなうときの預貯金払戻し限度額は以下の様に計算します。

 

イ:A銀行普通預金1,200万円×1/3×1/2=200万円
ロ:A銀行定期預金 300万円×1/3×1/2=50万円
ハ:B銀行普通預金 600万円×1/3×1/2=100万円

 

上記より、A銀行は上限額の150万円(イ+ロ=250万円>150万円)でB銀行は100万円(ハ=100万円≦150万円)となり、次男は単独で合計250万円の預貯金払戻しを行うことが可能です(参考:堂薗幹一郎・神吉康二「概説 改正相続法」(きんざい)55頁)。

 

 

5.払戻しを受けた預貯金の取扱い


民法の預貯金払戻し制度により払戻された預貯金は、その後に遺産分割協議がまとまった際の相続人間の公平性を図るために、払戻しを受けた相続人が遺産の一部分割によりこれを取得したものとして取扱われることになります(民法909条の2後段)。なお、預貯金払戻しを受けた相続人の預貯金払戻し相当額が相続人の実際の相続分を超過している場合には、当該超過部分を清算すべき義務を負うことになります。

 

6.必要書類


民法の預貯金払戻し制度を利用するにあたっては、本人確認書類に加えて、被相続人・相続人の戸籍謄本等が必要となります。
ただし、法律上規定を設けていないため、取引金融機関により必要書類が異なる可能性がありますので、当該預貯金の払戻制度を利用する際には利用する取引金融機関に事前確認することが望ましいです。

 

7.施行日


民法の預貯金払戻し制度は、令和元年7月1日以後に開始した相続より適用されています。
なお、経過規定として上記施行日前に開始した相続であっても、施行日以後に預貯金債権の払戻しが行使されるときにも、預貯金払戻し制度が適用されます(平成30年法律第72号附則5条1項)。

 

8.家事事件手続法の預貯金払戻し制度


預貯金払戻し制度については、上記の民法の規定によるもののほか、各相続人が家庭裁判所へ申し立ててその審判を得ることにより、相続預金の全部または一部を仮に取得し、金融機関から単独で払戻しを受けることができます。ただし、家庭裁判所が上記の払戻しを認めるのは、各相続人に生活費の支弁等の事情により相続預金の仮払いの必要性が認められ、かつ他の共同相続人の利益を害しない場合に限られます(家事事件手続法第200条第3項)。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/08/17)より転載

[解説ニュース]

生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(林 陽子/税理士)

 

 

[関連解説]

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

■贈与税の個人版事業承継税制の適用対象となる贈与者の要件

 

 

1. 相続開始前3年以内の贈与


(1)概要

相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、被相続人の相続財産に贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

 

但し、次の財産については加算する必要はありません。

 

①贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額(相続開始時に残額がある場合は、残額を相続財産に加算)

(国税庁HP・タックスアンサー「贈与財産の加算と税額控除」より抜粋・加筆/相続税法第19条)

 

(2)留意点

この規定は、相続又は遺贈により財産を取得した者が対象です。相続人であるかどうか、遺産を取得したかどうかだけで判断しがちですが、死亡保険金など相続税法において相続財産とみなされる財産を取得した者についても、この規定の対象となります。

 

判断を誤りやすいのは、次のような事例です。

 

(加算もれ)
・相続人でない孫が、遺贈により財産を取得した場合
・相続放棄した相続人が、死亡保険金を受け取った場合

 

(誤って加算)
・相続人であるが、遺産を取得せず、死亡保険金などのみなし相続財産も取得しない場合(生前贈与のみ有)

 

 

2. 相続時精算課税制度を適用した贈与


(1)制度の概要

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用されます。

 

また、この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

(国税庁HP・タックスアンサー「相続時精算課税制度の選択」より抜粋・加筆/相続税法第21条の15)

 

(2)留意点

この制度を選択した年分以降は、その選択に係る贈与者からの贈与については、暦年課税の基礎控除(110万円)は使えません。また、この制度の特別控除額(2500万円)以下の贈与で贈与税を納めていない場合や、申告をし忘れている場合でも、相続財産に加算する必要があります。贈与税の申告をしたかどうか、贈与税が課されたかどうかにかかわらず加算しますので、注意が必要です。

 

 

3. 加算する贈与財産の価額と控除する贈与税額


相続財産に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の財産の状況にかかわらず、贈与時の価額によることとされています。

 

相続開始前3年以内の贈与については、「贈与により取得した財産の価額」と、相続時精算課税制度による贈与については、「適用を受けるものの価額」と規定されています。「申告書に記載した価額」ではありません(相続税法第19条①,第21条の15①)。

 

では、申告をした贈与財産の価額に誤りがあった場合、贈与税や相続税の申告はどうなるのでしょうか?

 

評価額が過大だった場合、贈与税の更正の請求ができる期限内であれば、更正の請求により贈与税を減額することができます(国税通則法第23条)。

 

評価額が過少だった場合、贈与税の更正(税務署が税額等を更正する手続き)の期限内であれば、速やかに修正申告することが必要です。修正申告書の提出が無い場合は、更正処分を受ける(税務署が税額等を職権で更正する)ことになります(国税通則法第19条,第24条)。

 

 

このように期限内に誤りに気付いた場合は、贈与税について正しい評価額を申告等したうえで、相続税の申告を行います。

 

なお、期限後に誤りに気付いた場合は、実際の申告がどうであれ、贈与財産の正しい評価額を相続財産に加算しますが、相続税額から控除する贈与税額は、「課せられた贈与税」とされているため、誤った評価額に基づく贈与税額(実際の申告額)を相続税額から控除することになります(相続税法第19条①, 第21条の15③)。

 

最近、相続時精算課税制度と事業承継税制を併用して、生前に非上場株式を贈与する事例が増えてきました。

 

生前に贈与した財産を相続財産に加算して相続税の申告をする際は、加算する贈与財産の価額が正しい価額であるかの確認が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/22)より転載

[解説ニュース]

土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の相続税評価額

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(芦沢 亮介/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

 

1.土地区画整理事業とは


土地区画整理事業とは、都市計画区域内の土地について、公共施設(道路、公園等)を整備改善し、土地の区画を整え宅地の利用の増進を図るため、都道府県・市町村・土地区画整理組合などが、土地区画整理法に従って施行する事業をいいます。その事業では地権者からその権利に応じて少しずつ土地を提供してもらい、この土地を道路等の公共用地に充てる他、その一部を売却して事業資金の一部に充てることになります。地権者においては、その事業後の宅地地積は従前に比べて小さくなりますが、道路や公園等の公共施設が整備され、土地の区画が整うことにより、利用価値の高い宅地を得ることができます。そして、事業の施工期間は10数年~と長期間に渡ることが多く、進捗状況に応じて宅地の評価方法が異なります。

 

2.土地区画整理事業の大まかな流れ


 

3.土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の評価


【2.①の段階の相続税評価の方法】

土地区画整理事業の計画を策定し、換地設計(当事業前の土地(従前の宅地)に対して、どのような換地を定めたらよいかの計算をして図面に割込み、換地の案(換地図)を作成すること)が行われる段階では、宅地は「従前の宅地」の価額により評価します。

 

【2.②の段階の相続税評価の方法】

施行区域内の地権者が新しく割り当てられる土地を「換地」と言います。工事完了後に地区内のすべての換地を、その位置形状に基づいて登記する行政処分を「換地処分」といいます(2.③④の段階)。しかし、施行区域の土地は広いため場所によって工事の完了時期は大きく異なります。よって、先に工事が終わった土地の使用を目的として、換地処分を行う前に「仮に」換地を指定することを「仮換地の指定」と言います。仮換地の指定により、換地設計に基づいて新しく使える仮換地の位置・形状・地積が指定されます。

 

仮換地の指定が行われた宅地は、状況によって相続税評価の方法が異なります。❶仮換地の使用収益が開始されている場合は、「仮換地」の価額で評価します。❷仮換地の造成工事が施行中であり使用収益が開始されていない場合は、課税時期から工事が完了するまでの期間が1年以内であれば上記の「仮換地」の価額で評価しますが、その期間が1年を超えると見込まれる場合には、仮換地の評価額の100分の95相当額により評価します。❸造成工事が未着手であり、かつ、土地区画整理法第99条第2項の規定により仮換地について使用又は収益を開始する日を別に定めるとされているため、その仮換地について使用又は収益を開始することができない場合には、「従前の宅地」の価額で評価することになります(財基通24-2)。

 

【2.③の段階の相続税評価の方法】

全体の工事が終わったら確定測量を行い、換地計画(事業の施行者が換地処分を行う場合に、従前の宅地が整理後どのような換地になるのかを定める計画をいう。)を定めて換地の権利関係を確定し、従前の宅地と換地の価格差を調整するための清算金の額を定めます。換地処分により徴収又は交付されることとなる清算金のうち、課税時期において確実と見込まれるものがあるときには、その金額を評価上考慮して、徴収されるものは「仮換地の価額」から減算し、交付されるものは加算して評価します(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」)。

 

【2.④の段階の相続税評価の方法】

知事が換地処分の公告を行うことで土地区画整理事業に係る債権債務関係が確定し、仮換地に対する権利関係は換地へ移ります。この段階では宅地は「換地」の価額で評価することになります。

 

【その他の評価方法】

上記の評価方法を一律に適用することが適当ではない状況がある場合には、税務署に対して個別評価申請を行って評価するものとされており、評価対象地の財産評価基準書(路線価図等)に、個別評価である旨が記載されています。但し、個別評価の申請先は個別評価を行う評定担当税務署であり、納税地を所轄する税務署ではない場合もあります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/11)より転載

[解説ニュース]

不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(髙木 駿/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

1.相続税計算における評価上の問題点


土地や建物の売買契約締結後、その契約に係る引渡しが未了の状態で買主に相続が開始した場合、相続税の計算上、相続人が取得することとなる相続財産の種類が何であるのか(不動産か債権(不動産の引渡請求権)か)、さらにはその評価額はどのように算定するのかが問題になります。

 

相続税法あるいは財産評価基本通達では、土地や建物の売買契約締結後引渡前に買主に相続が発生した場合の取扱いについて特段の明文規定等はありません。

 

 

2.現行の実務の取扱い


現行の実務は、平成3年1月11日付国税庁資産税課情報第1号(以下「情報」という。)の取扱いに基づき、被相続人である買主に係る相続税の計算上、被相続人から取得した財産及び承継した債務の種類の判定、そしてその財産及び債務の評価を行っています。今回は「情報」の取扱いについて、設例を用いて解説します。

 

(1)原則的な取扱い

買主に相続が開始した場合に相続人が取得した財産は、売買契約に係る土地や建物の引渡請求権とし、その評価額は売買契約に基づく土地や建物の取得価額(売買代金)の金額となります。また、その一方で相続人が承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とし、その額は売買契約に基づき、被相続人たる買主が負担することとなっている売買代金や仲介手数料その他経費で、相続開始の時における未払相当額となります。

 

設例の場合のように、買主である被相続人が6,000万円で土地を購入する売買契約を締結し、手付金600万円を支払った後、引渡前に相続が発生した場合は、6,000万円の土地の引渡請求権を課税財産として計上する一方で、未払となっている残代金5,400万円を債務控除の対象とします。

 

(2)特例的な取扱い-その1

売買契約日から相続開始日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなど、上記(1)の取得価額の金額が相続開始日における土地や建物の引渡請求権の価額として適当でない場合には、別途個別に評価した価額によります。

 

(3)特例的な取扱い-その2

買主に相続が開始した場合において、上記(1)にかかわらず、売買契約により取得する土地や建物を相続財産とする申告をすることも認められます。なお、この場合における土地や建物の価額は、財産評価基本通達により評価した金額となります。

 

この特例的な取扱いにより、設例の場合には、取得する財産を「土地」として、その評価額を4,000万円として申告することも認められます。一般的には、土地については売買代金よりも路線価等で評価した相続税評価額の方が低くなるケースの方が多いため、特例的な取扱いの場合の方が相続税上は有利になることが多いと思われます。

 

ただし、「情報」の(注)4では、「当該特例的な取扱いによる課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあることに留意する。」との記載がありますので注意が必要です。

 

 

3.小規模宅地等の特例の適用の可否


「情報」においては、上記2.(3)のとおり、土地の売買契約締結中に買主の相続が発生した場合における買主の相続財産を「土地」として申告することも認められています。この場合にその土地につき、小規模宅地等の特例の適用が受けられるかどうかについて「情報」では特に言及していません。私見では、被相続人である買主は相続開始直前において土地を所有しているものとして取り扱われることになるため、その土地が小規模宅地等の特例の適用要件を充足した場合は特例を適用することが可能であると考えますが、相続開始直前における被相続人等の居住の用及び事業の用に供していたのかという判定等には慎重な判断が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/20)より転載

[解説ニュース]

不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

1. はじめに


不動産取得税は、土地や家屋の「取得」に課税される都道府県税です(地法73の2①)。ただし、形式的に不動産の所有権を移転したものとされる所定の「取得」は非課税とされます(地法73の7)。このうち、相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)により不動産を取得した場合も、形式的な所有権の移転等として非課税とされます(同法1号)。この相続により不動産を取得したとされる場合については、実務上、含みがあるようで、時々トラブルになることがあります。

 

今回は、遺言により複数の相続人のうちの一人が不動産を全部取得したことに対し、別の相続人が民法改正前の遺留分減殺請求をして不動産の持ち分を取得後、共有物の分割で相続財産である不動産を取得したことが、「相続による取得」に該当するかどうかが争点となった裁判例(東京地裁令和2年1月23日)を見ていくことにします。なお、同裁判のもう1つの争点である非課税となる「共有物の分割」に該当するかどうかについては紙面の都合上、割愛します。

 

2. 事案の概要


被相続人Aさんは長女に不動産を相続させる旨の自筆証書遺言を残して平成18年に死去しました。このため残る相続人Bさんら4人は、長女に対する遺留分減殺請求をしました。その結果、Bさんら4人は不動産につき10分の1ずつ取得することを得ました。その後平成27年になって、長女は、共有物となった不動産につき、共有物分割を求める裁判を起こしました。裁判所は、相続人Bさんが遺留分減殺請求で得た不動産(10分の1)について残りの持ち分である不動産持分10分の9を取得して単独所有とする代わりに、代償金を支払うとする内容の共有物分割の判決を下し、同年9月に確定しました。

 

これを受け、課税庁である東京都は平成30年に、相続人Bさんが不動産の持分10分の9を取得したものとして、200万円弱の不動産取得税を賦課したところ、Bさんが「この不動産の持ち分の取得は相続によるもので、共有物分割による取得は再度の遺産分割と考えるのが自然」と主張し、課税の取消しを求めて争いとなったものです。

 

3. 背景にある取扱い


民法改正前の遺留分減殺請求に基づき不動産を取得した場合の不動産取得税の取扱いは、東京都の場合、「遺留分権利者が一部の相続人に限定されていること及び遺産分割のやり直しによる取得を非課税と認めていること等の事情から、実質的には相続を原因とした取得と同様であるものと解し、非課税と認定して差し支えない」としています(「不動産取得税質疑応答集」の改正について(通知)平成28年4月1日)。

 

ここでいう遺産分割のやり直しによる取得については、相続人全員で遺産分割協議を合意解除し「改めて遺産分割協議を行った場合についても「相続による不動産の取得」に該当するものであり(最高裁昭和62年1月22日判決)、再度非課税の取扱いをして差し支えない」(同上)としています。この場合の登記は大方、錯誤により登記を抹消し、新たな相続登記が行われる形式になるとされます。Bさんの主張は、こうした取扱いを背景にしたものといえそうです。

 

4.裁判所の判断


裁判所は、特定の相続人に遺産全部を相続させる旨の遺言に基づく財産の相続について、単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきで、「遺留分減殺請求権の行使により、承継の効力は遺留分を侵害する限度で失効し、相続人に承継された権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが、遺産全部を特定の相続人に相続させる旨の遺言があった場合には、遺産は遺産分割の対象となることはない」と説示し、この場合に「遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる遺産としての性質を有しないものと解すべき」としました。

 

あてはめでは、上記の事実関係に基づきBさんらの「遺留分減殺請求後の不動産は、いずれも遺産としての性質を有するものではなく、遺産分割の対象となるものではないから」、相続による取得には該当するということはできないと判断しています。

 

5.補足


なお、遺言に基づき不動産の登記が適法に行われた場合、あとで錯誤により抹消することはできないようです。となると、遺言により登記された場合には、遺産分割をやり直しするといった形式を整えることはできません。このケースで、民法改正後の遺留分侵害額請求により、相続不動産の一部を代物弁済という形で不動産を請求した相続人に渡すと、遺産分割のやり直しといった形はとれず、登記原因は代物弁済となって、不動産取得税の課税が及ぶということになりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/06)より転載

[解説ニュース]

非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川嶋 克彦/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

■相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

 

1. 事業承継における国外転出(贈与)時課税


2015年7月より創設された「国外転出時課税」(所法60の2、60の3)ですが、事業承継の際に非上場株式を後継者等(非居住者)へ贈与した場合にも適用されます。事例を踏まえて、国外転出(贈与)時課税の概要と留意点を確認したいと思います。

 

 

2. 国外転出(贈与)時課税の基本的な考え方


以下の事例の通り、居住者(贈与者)が贈与時に所得税を課せられることに注意が必要です。居住者(贈与者)は贈与により譲渡対価を収受していないにも関わらず所得税(譲渡税)を課せられるため、納税原資に苦慮するケースが散見されます。

 

(事例)居住者Aが後継者(非居住者)Bに時価100、取得費10、含み益90の株式を贈与した場合。

 

<居住者A(贈与者)> 従来、含み益90に対して、所得税等の課税なし。

 

<後継者(非居住者)B(受贈者)> 従来、時価100に対して贈与税課税で課税終了でしたが、別途含み益90について、日本で課税されない「課税逃れ防止」の為、国外転出(贈与)時課税により、居住者A(贈与者)が贈与時に時価で譲渡したものとみなして所得税(譲渡税)が課税されます。

 

 

3. 国外転出(贈与)時課税の概要


(1)対象者

以下のいずれにも該当する居住者(贈与者)。

①贈与時点に保有する対象資産の合計額(時価)が1億円以上であること。
②贈与の日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有していること。

 

(2)対象資産

①有価証券等(株式(非上場含む)公社債、投資信託、匿名組合契約の出資の持分等)。
②未決済信用取引、未決済デリバティブ取引等。

 

(3)申告・納付

①贈与時の時価で対象資産の譲渡があったものとみなして対象資産の含み益に所得税が課税されます。
②申告・納付期限は贈与した年分の確定申告期限(贈与した年の翌年3月15日)となります。
③納税猶予制度があります(後述4参照)。

 

(4)課税取消事由

贈与の日から5年(納税猶予の適用を受け、猶予期限を10年に延長している場合には10年)以内に、(a)(贈与により対象資産を取得した)非居住者が帰国した場合、(b)非居住者が対象資産を居住者に贈与した場合、(c)非居住者の相続により、対象資産を取得した相続人全員が居住者となった場合。

 

 

4. 納税猶予の特例


(1)概要

①原則として、その所得税の額について納税が、贈与の日から5年間猶予されます。
②納税猶予期間の延長の届出をすることで、更に5年間納税猶予期間を延長することが可能です。

 

(2)納税猶予の適用を受けるための要件

①贈与税の確定申告期限までに、(a)確定申告書の提出(納税猶予を受ける旨の記載)、(b)納税猶予分の所得税及び利子税の額に相当する担保を提供する。
②贈与者は、納税猶予期間中において、各年3月15日までに継続届出書の提出が必要です。
③譲渡した場合等

 

納税猶予期間中に対象資産を譲渡する等一定の事由が生じた場合は、その事由が生じた対象資産に係る納税猶予額(利子税を含む)をその事由が生じた日から4カ月以内に納付しなければなりません。

 

 

5. 納税猶予における担保


非上場株式を後継者(非居住者)に贈与した場合、いわゆる「事業承継税制における贈与税の納税猶予制度」と違い、その非上場株式を担保提供するための要件が以下の通り厳格です。その為実務上贈与者が保有する上場株式等を担保提供するのが一般的です。その非上場株式の発行会社や保証人が保証する事も可能ですが各々要件が定められているため注意が必要です。

 

<非上場株式の担保提供が認められる場合>
国外転出(贈与)時課税に係る納税猶予の特例を受けるため、その課税を受けた非上場株式を担保提供する場合、次のいずれかに該当する必要があります。

 

①財産のほとんどが当該非上場株式であり、その非上場株式以外に納税猶予の担保として提供すべき適当な財産がないと認められること。
②その非上場株式以外にも財産があるが、その財産が他の債務の担保となっており、納税猶予の担保として提供することが適当でないと認められること。

 

また、その非上場株式を担保提供する際に、その非上場株式の発行会社が株券不発行会社である場合には、株券発行が必要などの細かい要件に注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/30)より転載

[解説ニュース]

民法における養子の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税法における養子の取扱い

■民法改正 ~特別の寄与~

 

 

1. 「普通養子縁組」と「特別養子縁組」


民法上、養子縁組には、実の血族との親族関係が終了しないいわゆる「普通養子縁組」と、実の血族との親族関係が終了する「特別養子縁組」とがあります。それぞれの主な違いをまとめると次表のとおりです。

 

 

※1 ただし、配偶者のある者が未成年者(2022年4月1日以降は18歳未満の者)を養子とするには、配偶者とともにしなければならない(配偶者の嫡出子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合を除く)。また、配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意が必要(配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合を除く)。
※2 未成年者(2022年4月1日以降は18歳未満の者)を養子とするには、家庭裁判所の許可が必要(自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除く)。
※3 2022年4月1日以降も同じ。「18歳以上」とはならない。

 

 

2. 普通養子縁組における、養子の子(F)と、養子の親(A・B・C・D)との関係


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3. 節税目的でされた養子縁組の効力


節税目的でされた養子縁組の効力に関し、最高裁の平成29年1月31日判決においては、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るとされ、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について無効とはならないとされました。

 

 

4. 最後に


本稿では、民法における養子の主な取扱いをご紹介しました。上記1の表「親の死亡時(相続)」に記載のとおり、養親が死亡した場合には、その養子縁組が普通養子縁組であったとしても特別養子縁組であったとしても、民法上は、養子はその養親の相続人(子)として取り扱われ、その相続分は実子と変わりません。
一方、税務上は、養子の数を増やすことで公平性が損なわれること等があるため、普通養子縁組やいわゆる孫養子の場合には一定の規定が設けられています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/23)より転載

[解説ニュース]

被相続人が相続開始直前に老人ホームに入居していた場合の「相続した空き家の敷地に係る譲渡所得の特別控除」

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1. 特例の概要


相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたも(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合は、一定の要件を満たすことにより、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法(措法)35条第3項2号、4項、措法施行令23条6項。以下この特例を「本特例」といいます)。

 

 

 

2. 被相続人居住用家屋の意義


この特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、次の①~③のすべての要件を満たす家屋をいいます(措法35条4項)。

 

①相続開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた家屋であること。
②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除きます。)であること。
③相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること。

 

 

 

3. 被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居していた場合の本特例の適用


(1) 被相続人居住用家屋とその敷地の対象の拡大

上記2①より、「被相続人居住用家屋」は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋であることが要件とされ、老人ホームに入居中に 相続が開始した場合は、被相続人が入居前に住んでいた自宅は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていないことから、被相続人居住用家屋に該当しません。しかし高齢者が自宅を離れ老人ホームに入居後に元の自宅に戻る場合や、元の自宅を家財置き場等として使用する場合があり、生活の本拠が完全に老人ホームに移ったとは言えないケースもあります。そこで被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居したときでも、一定の要件を満たす場合には元の自宅が「被相続人居住用家屋」に該当するものとして、本特例の適用が認められています。

 

具体的には、本特例の適用対象となる被相続人居住用家屋およびその敷地として、「”『対象従前居住の用』に供されていた”被相続人居住用家屋およびその敷地」が含まれることとされています。 (措法35条4項、措法施行令23条7項、6項)

 

(2)「対象従前居住の用」の意義

「対象従前居住の用」とは、 [1]次の①~③の要件を満たし、かつ[2]下記(3)の特定事由により相続の開始直前において家屋が被相続人の居住の用に供されていなかった場合における、その特定事由により居住の用に供されなくなる直前のその被相続人の居住の用をいいます。

 

①特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続き被相続人居住用家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと
②特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、その被相続人居住用家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
③被相続人が、(3)①の有料老人ホーム等に入居等をした時から、相続開始の直前までの間において、被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうち、その施設等が、被相続人が主としてその居住の用に供していた一の家屋に該当するものであること。

 

(3) 特定事由の意義

特定事由は、次の①又は②の事由をいいます。

 

①介護保険法の要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅等に入居等をしていたこと。
②一定の障害者区分の認定を受けた被相続人が、障害者支援施設等に入居等をしていたこと。

 

(注)上記の要介護認定等を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において判定します。

 

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/16)より転載