顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.1 Q:顧問先から「M&Aを検討している」と言われた時の初動対応は?

 

A:

まずは、相手の話をしっかり聴きましょう。
その場で判断せず、期待値を上げず、決めつけたりするような言動は控えてください。
税理士として最初の役割は、顧問先の意向や背景を正確に把握することです。
そのうえで、「一緒に考えていきましょう」という姿勢を明確にしてクライアント寄り添うことが大切です。

 

<解説>

では、顧問税理士として、クライアントのM&Aに関わるにはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

 

①なぜ「判断しない」ことが重要なのか

M&Aの現場では、「税理士に最初に相談したが話が噛み合わなかった」という譲渡企業経営者の声を多く耳にします。

その原因の多くは、初回相談時に判断・評価・方向性まで踏み込んでしまうことにあります。

M&Aは、税務だけで完結するテーマではありません。

雇用、取引先、家族関係など、複数の要素が絡むため、初動での即断はミスマッチを生みやすくなります。

そのため初回は、「現時点では判断材料が不足している」というスタンスを明確にすることが重要です。

 

②なぜ「期待値を上げてはいけない」のか

「この規模なら〇億くらいでしょう」「最近この業界は高いですよ」

といった不用意な一言は、後にトラブルの火種になります。

M&Aの価格は相場ではなく、個別条件と交渉によって決まります。

初期段階での価格感提示は、経営者の期待値を不必要に引き上げ、結果として「話が違う」という不信感につながりかねません。

 

③「選択肢を閉ざさない」姿勢が信頼を生む

M&Aに対して否定的な意見を持つこと自体が問題なのではありません。

問題となるのは、代替案や整理を示さずに否定してしまうことです。

実際、M&Aを検討している経営者は多く、「理解してもらえなかった」と感じた瞬間に、別の相談先へ移ってしまいます。

結果として、成約後に初めて知らされ、顧問契約が解除されるケースも少なくありません。

 

実際のところ、売上数億円以上で一定の利益を確保している“優良顧客”ほど、金融機関、コンサル会社などから日常的にM&Aの提案を受けているのが実情です。

他にライバルが多数登場する中でも、信頼関係を崩すことなく顧問契約を継続してもらうためには、

常日頃からクライアントに対して真摯に向き合い、相談を受けた際には慎重に対応する必要があります。

 

 

【今回のポイント】

M&Aの現場からみた、初動対応のポイントは下記の通りです。

  • ・判断しない
  • ・期待値を上げない
  • ・ただし、選択肢は閉ざさない

 

 

この連載では、税理士の先生が実際に顧問先から受けるような相談に対する回答を連載体系的に解説していきます。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

 

 

[解説ニュース]

 

遺留分侵害額の支払請求を受けた場合の相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

【Q&A】特定贈与者の死亡前に相続時精算課税適用者である特例経営承継受贈者が死亡した際の税務

 

【Q&A】被相続人が保険料の全額を負担した生命保険契約に係る相続税の取扱い

 

 

 

【問】

被相続人甲は令和7年5月に死亡しました。
甲の相続人は長男と次男の2人です。甲は生前に全ての財産を長男に相続させる内容の公正証書遺言を作成しており、その遺言に基づいて長男は、相続税の小規模宅地等の特例(租税特別措置法(措法)69条の4。以下「本特例」)の対象となり得る複数の宅地を全て取得しました。しかし、遺言の内容に納得できない甲の次男は、令和8年2月に長男に対し遺留分侵害額の支払請求をしており、甲に係る相続税の申告時までに侵害額が確定しない見込みです。
上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、次男の同意を得られないことを理由に、長男は本特例の適用を受けることができないのでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


相続税の申告の時までに遺留分侵害額が未確定の場合、甲に係る相続税はその侵害額請求がなかったものとして課税価格を計算します。本問の長男は、遺言により相続財産の全てを取得しているため、本特例の適用対象宅地等の選択において、他の相続人(次男)の同意は不要であり、他の要件を満たすことにより、本特例の適用を受けることができます。

 

 

2.解説


(1)遺留分制度の概要

被相続人の財産は、基本的には被相続人の意思で自由に処分することができます。しかし、被相続人が相続人以外の第三者または一部の相続人に対して、全財産を贈与または遺贈したような場合には、他の相続人が全く財産を取得できないという事態も考えられます。そこで民法では、相続財産のうち一定割合については「遺留分」として、兄弟姉妹以外の相続人に権利を留保することとしています(民法1042条)。具体的には遺留分権利者(遺留分を主張する相続人)が、受遺者又は受贈者(以下「受遺者等」)に対し遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができ、受遺者等は遺留分権利者に対し遺留分侵害額に相当する金銭を支払うことになります(同1046条、1047条)。

(2)遺留分侵害額請求があった場合の相続税計算

遺留分権利者が遺留分侵害額の支払を請求し、金銭を取得することになった場合、遺留分権利者は、その金銭債権は相続により取得したものとして相続税の課税対象となり、その金銭を支払うこととなった受遺者等(遺留分義務者)については、その金銭債務はその者の相続税の課税価格から除かれます。
ただし、相続税の申告時に当事者間にその請求について争いがあり、遺留分侵害額が確定していないときは、不確定事実を基として課税することは事実上困難であることから、その請求がなかったものとして課税価格を計算することになります(相続税法基本通達11の2‐4、同逐条解説)。

(3)本特例の適用要件

本特例は、個人が相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、被相続人等の事業用又は居住用に供されていた一定のものがある場合において、その個人が本特例の適用を受けるものとして選択した宅地等につき、被相続人等に係る相続税の計算上、一定面積までの部分について、その課税価格のうち一定額を減額できる税制です。個人が本特例の適用を受けるためには、対象となり得る宅地等を取得した人が1人のみである場合を除き、その宅地等を取得した人々の全員の同意を得る必要があります(措法施行令40条の2第5項3号)。

(4)本問へのあてはめ

本問の場合、相続税の申告時までに遺留分侵害額請求により次男に支払うべき金銭の額が未確定のため、上記(2)のただし書より、遺言に基づき長男が甲の相続財産を全て取得したものとして、相続税の課税価格を計算します。本特例の適用対象となり得る宅地等を取得したのが長男1人のみであることから、上記(3)の下線部より、その適用に際して他の相続人(次男)の同意は不要であり、他の要件を満たすことによって長男は本特例の適用を受けることができます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/03/23)より転載

 

 

 

 

Q-18  相続対策としてM&Aは利用できますか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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 Q-18  相続対策としてM&Aは利用できますか? 

A

M&Aは相続対策としても利用することが可能です。
買い手となる場合と、売り手となる場合とで相続対策としての内容が異なってくるため、それぞれに分けて解説します。

 

 

 

<買い手の場合>
実際の相続税計算は複雑であるため、詳細な説明はここでは省略しますが、簡略化すると相続税は「相続財産×税率」で計算されます。
ここでいう相続財産は、現金や預金であればその財産の金額は額面金額の通りとなります。しかし、非上場株式を保有していた場合の財産の金額については、実際の取得金額ではなく、会社規模等により一定の算定方法で相続財産としての金額を算定することが必要になります。
非上場会社の規模によっていくつか評価方法が分かれますが、その評価方法の一つである純資産価額方式を簡便的に説明すると、この計算方法では対象の会社の資産を相続税のルールで評価し、負債との差額を評価額とします。
例えば、合理的な取引価値が4億円である会社の株式100%を、4億円で取得したとします。
下図にある通り、ここでの各資産の相続税における評価方法で評価すると結果は3億円となるため、一般的には実際の取引価格よりも評価額が低くなることが多々あります。
このような評価になった場合に、相続が発生すると、現金で4億円を保有したままの場合は相続財産4億円に対して税率を乗じた相続税が発生しますが、M&Aにより株式を取得していた場合には相続財産3億円に対して税率を乗じた相続税が発生することになり、現金を保有するよりも非上場株式を保有していたほうが有利となります。

 

 

このようにM&Aにより相続財産の評価額が低くなる可能性があります。しかし、実際の会社を取り巻く経営環境や、将来的にその後の事業運営が適切にできるのか等含めクリアにすべきポイントは多くあるため留意が必要です。

 

 

<売り手の場合>
相続税の税率は最大で55%となっており、多額の資産を保有していた場合には相続税額も多額となります。その際に資産の大半が経営する会社の株式などの流動性の低い資産であった場合には、相続発生時に必要な納税資金が不足してしまうことになります。
また、相続人が会社経営に関与しない立場である場合には、その後の会社経営に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。
納税資金の準備やその後の会社運営という意味でも、会社経営に関与している役員等が相続発生前にM&Aを行い、適切な価格で売却し現金化しておくということも、相続対策のひとつと言えます。

 

今回はかなり簡略化した説明となっていますが、実際には様々な要素やルールに基づき計算されます。また売却時にも利益がでていれば売却した本人に課税が発生する場合や、非上場株式の相続においては事業承継税制というM&Aとは違う形での相続税の対策方法の選択など、多面的に税務の専門的な知識が必要となるため、実行に際しては税務専門家への事前相談が必須といえます。

 

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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[解説ニュース]

資産管理会社の株特外しを無効化する評価通達189なお書きが適用された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

■不動産を持たせた会社の株式の贈与で、株価が評価通達6項で再評価された事例

 

 

1.はじめに


取引相場のない株式は、相続や遺贈、贈与などがあったときに、その会社の保有する資産を国税庁の財産評価基本通達(以下、評価通達という。)に従って評価することを前提にしています。
株式等保有特定会社とは、その財産の評価額の合計額に占める株式や出資、新株予約権付社債(以下、株式等という。)の金額の割合が50%以上である場合の会社のことをいいます。相続税・贈与税の計算上、非公開の株式等保有特定会社の発行した株式の評価方法は、原則として純資産価額方式またはS1+S2方式により評価されるため、上場会社の株価を参考に評価する類似業種比準方式による評価額よりも高くなりがちです。
このため発行株式の相続等の際に節税しようと、発行会社が株式等保有特定会社にならないように資産構成を変える「株特外し」が行われがちです。
ところが最近、行き過ぎた「株特外し」に対し、税務当局が否認する事例が増えてきました。

 

2. 新たな事例が


このほど、明らかになったのは、資産管理会社A社の代表取締役を務める祖父が、令和2年9月、孫XにA社の株式30株を贈与したケースで、税務署から贈与税の増額更正を受け、Xが国税不服審判所(以下、審判所という。)に更正処分の取り消しを求めた裁決事例です(国税不服審判所令和 7年9月5日裁決:情報開示請求による)。
事案の概要は次のとおりです。

①A社は、孫Xの父が代表取締役を務める上場会社B 社の筆頭株主だった。
②A社は、同社株式の贈与の2日前に約15億円もの賃貸不動産をB社から購入し、「株特外し」を実行。
③不動産購入の際に、金融機関から13億円(令和32年9月までの359回返済)、父から2億8千万円(令和5年9月末に一括返済)の借入を行った。
④贈与税の計算では、A社株式を取引相場のない株式として、純資産価額方式と類似業種比準方式の併用方式で株価を評価して申告。
⑤所轄税務署は令和5年9月に税務調査に入り、翌年6月、評価通達189のなお書きにより、贈与直前に行われたA社によるB社からの不動産購入に合理性はなく資産構成に変動はなかったものとしてA社を株式等保有特定会社と認定、株式等保有特定会社の株式の相続税評価では、S1+S2方式を採用し贈与税を増額更正した。

 

3. 裁決のポイント


評価通達189のなお書きは、評価の対象となる会社が、株式等保有特定会社に該当する評価会社かどうかを判定する場合に、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社に該当すると判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定を行うという取扱いです。これがこの事案のポイントでした。

 

4. 審判所の判断


審判所は、不動産の取得・借入れにより、合理的な理由もなくA社の資産構成が変動し、その変動はA社が株式等保有特定会社と判定されることを免れるためかどうかを争点としました(ほかの争点は割愛します)。なお書きについては資産構成の変動操作で時価がゆがめられるようなケースにも対処する必要があると認めました。

その上で、審判所は次のような事実を指摘しました。
(1)贈与者は、節税の提案を受けてA社による不動産の購入及びA社株式の贈与を決断、贈与の2日前に、不動産の取得・借入れが実際行われている
(2)A社が不動産の購入代金の全額を外部から資金調達したのは、 9億円を超える現金預金残高を減少させず、A社の総資産価額を増加させることで株式等保有割合を50%末満にするためであった
(3)不動産の購入代金の全額を外部から資金調達してA社の総資産価額を増加させた結果、A社の株式等保有割合が贈与日の直前に50%以上から50%未満に実際に変動した
(4)A社株式の贈与に不動産の取得・本件各借入れを近接させた一連の行為は、A社が株式等保有特定会社と判定されることを回避するための総資産価額の操作に当たる

上記などを踏まえ審判所は、A社につき株式等保有特定会社に該当すると判断しています。
Xは「不動産は、A社が賃貸事業の拡大を求めて購入したもの、取得原資を借入金としたのは、現金預金は不測の事態等の資金として留保するもので合理的理由がある」と主張しましたが、認められませんでした。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/03/09)より転載

 

[解説ニュース]

住宅譲渡の優遇税制では、「住まなくなって3年過ぎる年の年末」にご用心

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

■不動産を持たせた会社の株式の贈与で、株価が評価通達6項で再評価された事例

 

 

1.はじめに


マイホームである住宅を譲渡した場合、税制上の特例を受けられる要件として、次のケースに応じ、以下の売却のタイムリミットをクリアする必要があります。

 

(1)住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること

 

(2)住んでいる住宅又は住んでいた住宅を取壊した場合、家屋を取り壊した日から1年以内に敷地の譲渡の契約をし、かつ、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。ただし、敷地をほかの用途に使っていないこと。

 

(3)住んでいる住宅が災害で滅失した場合、災害があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに敷地を譲渡すること

 

(4)住まなくなっていた住宅が災害で滅失した場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに敷地を譲渡すること

 

このうち特に汎用性があるのが「住まなくなって3年を過ぎる年の年末」までに譲渡するという要件です。この要件は、自宅を譲渡した場合に適用可能な次の表の税制上の特例に共通するものとなっています。

①居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(軽減税率・措置法31条の3)
②居住用財産の譲渡所得の特別控除(3000万円特別控除・措置法35条)
③特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例(居住用の買換え特例・措置法36条の2)
④居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措置法41条の5)
⑤特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措置法41条の5の2)

 

※③~⑤は政府の令和8年度税制改正大綱で適用期限が2年延長され令和9年12月31日までとされるほか、③と④については令和10年1月1日以後、買換え先の住宅に居住する場合、一定の住宅を除き、災害危険区域等に所在しないことが新たな要件とされています。

 

 

2.売却のタイムリミットのチェック方法


たとえば前記の3000万円特別控除の対象となる「居住用財産」とは、「個人がその居住の用に供している家屋で政令で定めるもののうち国内にあるもの」とされています。これには、家屋とその敷地の用に供されている土地等が含まれます。要するに、現在住んでいる住宅が原則的な「特例の対象」なのです。もっとも、現在住んでいなくても、住まなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡されるものに限っては、「特例の対象」となるのです。この「住まなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡」というのがタイムリミットです。

 

このタイムリミットを確認する場合に注意したいのが、国税に関する基本的なルールを定めた国税通則法です。それによると、①期間が月又は年をもって定められているときは暦に従って計算すること、②年の始めから期間を起算しないときは、翌年における起算日の応当する日の前日を期間の末日として計算することが決められています(国税通則法10条)。

 

仮に居住の用に供されなくなった日を令和5年1月1日だとすれば、この日に応答する日は令和8年1月1日です。この場合、令和5年1月1日の「同日以後 3年を経過する日」とは、期間満了する「期間の末日」となる令和8年1月1日の前日のこと、すなわち令和7年12月31日です。そして、この日の属する年の12月31日とは、令和7年12月31日となります。

 

応当日が令和8年1月1日だから、その年末の令和8年12月31日まで譲渡すれば大丈夫だと考えるのは、早計となるわけです。これを誤ると、3000万円控除など前記の特例が適用できなくなるのです。

 

 

3.住宅が実際に生活の拠点であったかどうかも重要


このほかに、もっと基本的な注意点もあります。それは、元の住まいが、「居住用財産」といえるかどうかという問題です。

 

たとえば、医療機関への通院のため、別に買ったマンションにたまにステイするようになった場合、邸宅(本宅)が本当に「短期間臨時にあるいは仮住まいと
して起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていたかどうか」が問われます。

 

この判定に当たっては、売った人やその配偶者などの家族の「日常生活の状況やその家屋の利用の実態、その家屋の入居目的、その家屋の構造及び設備の状況等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断」されることになります。税務当局は、郵便物や新聞の配達状況、本宅の電気使用量や水道代などから、チェックする例が散見されます。

 

実際に前記の「別に買ったマンションにたまにステイするようになった例」は、裁決事例(国税不服審判所・令和 6年2月21日裁決)として存在します。それによると①タイムリミットのチェック、②生活の拠点の事実チェックが段階を追って行われていることが確認できます。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/02/24)より転載

 

Q-17 M&Aの成約まで、どのくらいの時間がかかりますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-17 M&Aの成約まで、どのくらいの時間がかかりますか?

A

M&Aの成約までに要する期間は、案件の規模や対象会社の事業内容、利害関係者の多寡などにより大きく異なりますが、一般的には最低でも3か月程度、大規模な案件においては3年程度を要する場合もあります。

 

この期間は、よく「知り合ってから結婚するまでの期間」に例えられます。

出会ってすぐに結婚するケースもあれば、時間をかけて相手を理解し、納得したうえで人生を共にする選択をするケースもあるように、M&Aも同様です。

 

以下では、一般的なM&Aのプロセスを、かかる時間がイメージしやすいように結婚に例えながら見てみましょう(交渉の流れについてはQ11も参照して下さい)。

 

 

(1)基本的な情報開示

事業内容、基礎的な財務諸表、主要取引先などの情報が開示されます。この段階は、当事者間の相互理解を深めるための初期フェーズであり、M&A検討の前提となる重要なプロセスです。
いわゆる「釣書」の交換にあたる段階です。お互いの基本情報を開示し、相手がどのような会社なのかを知るための最初のステップとなります。

 

(2) M&Aを進めるかどうかの意思確認(意向表明)

当該M&Aを進める意思が双方にあるかを確認する段階です。条件面や方向性を踏まえたうえで、次のフェーズへ進むか否かを判断します。
これは、知人の紹介を受けた後に「お見合いを進めるかどうか」を確認する段階に似ています。

 

(3)トップ面談

経営理念、事業方針、譲渡条件などについて、経営トップ同士で直接確認を行います。
財務条件のみならず、経営理念や将来像の一致が、M&A成功における重要な要素となります。
実際に顔を合わせ、お互いの考え方や価値観を確認する重要な場面です。結婚において人生観の一致が重要であるのと同様に、M&Aでも経営理念や将来像の共有は極めて重要です。

 

(4)基本合意

金額、時期、主要な条件について合意が形成されます。通常、法的拘束力を有するのは守秘義務契約や独占交渉権に限られますが、実務上は関係者への影響も大きく、慎重な判断が求められます。
この段階は「結納」に例えられます。基本合意に至った後に交渉が破談となると、当事者だけでなく、従業員や取引先、市場に与える影響も小さくありません。精神的・実務的な「しこり」が残る点は、結婚と非常によく似ています。

 

(5)デューディリジェンス

財務・税務・法務・ビジネス面などから、対象会社の詳細な調査が行われます。
買い手にとっては投資判断の根拠となる重要なプロセスであり、売り手にとっても自社のリスクや課題を整理する機会となります。買い手は「この会社に投資して、どれだけのリターンが見込めるのか」「どのようなリスクがあるのか」を確認します。一方で、売り手側が実施するセラーデューディリジェンスも重要です。
これは、実際に交際を重ね、相手の長所だけでなく短所も理解する期間、いわば婚前期間に相当します。近年、婚前同棲が一般化しているように、この確認期間はM&Aにおいても極めて重要です。

 

(6)最終譲渡契約の締結

金額、時期、表明保証条項、引渡条件等々法的拘束力を有する最終契約が締結されます。
従業員の雇用継続や取引先との関係承継は努力義務として条文化されるケースが多いですが、それ以外のものは原則としてすべてに法的権利義務が生じます。

 

(7) クロージング

株式または事業の引渡しおよび代金決済が行われ、M&Aが実行されます。
結婚式を挙げ、「めでたし、めでたし」となる瞬間です。

 

(8) 表明保証期間の終了

M&A完了後、3か月から2年程度の期間、財務諸表の虚偽や権利関係の瑕疵があった場合の保証責任が続きます。この期間が終了して、ようやくすべての権利義務が精算されます。こういった表明保証といった瑕疵担保責任のようなものは結婚にはありませんが、M&Aに関しては、限られた時間内で生きた事業体(経営戦略・資金・ノウハウ・顧客・従業員等々)の価値算定⇒合意に至たらなくてはなりませんので、こういった表明保証が行われるのが通常です。

 

 

おわりに

M&Aは、スピードが速ければ必ず成功するものではありません。
結婚と同じく、どれだけ時間をかけて相手を理解し、失敗を回避するための確認を行ったかが、その後の「幸せ」を左右します。成約までの期間は、決して無駄な時間ではなく、全てが成功のために必要不可欠なプロセスなのです。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

 

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~適用判定時の基準所得金額の範囲

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

【Q&A】土地賃貸借に際し無償返還届出を提出した場合の非上場株式の相続税評価(土地と株式の所有者が別の場合)

 

【Q&A】被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価

 

 

 

【問】

不動産賃貸業を営むAさんは、令和7年3月に平成15年から東京都品川区に所有していた貸ビルとその敷地を譲渡し、長期譲渡所得の金額9.9億円が生じました。Aさんの令和7年分の所得税の確定申告が必要な所得には、他に不動産所得の金額1,200万円、所得控除額200万円があります。また、B証券会社の特定口座(源泉徴収あり)内で取得した上場株式等に係る配当所得の金額4,000万円については、申告不要制度を適用し、確定申告しないつもりです。
令和7年分の所得税の計算上、租税特別措置法(措法)41条の19の「特定の基準所得金額の課税の特例」(以下「本特例」)により、追加課税がされる場合があると聞きました。本特例の適用を判定する際、Aさんが確定申告から除外するつもりの配当所得の金額4,000万円は、どのように取扱われますか。

 

 

【回答】

1.結論


Aさんの場合、本特例の対象となる「基準所得金額」(下記2(2)参照)」には、申告不要制度を適用して確定申告から除外できる上場株式等に係る配当所得の金額が含まれるので、注意が必要です。

 

 

2.解説


(1)本特例の概要

令和7年分の所得税について、基準所得金額(下記(2)参照)が3.3億円を超える場合、①の算式で計算した金額から②の基準所得税額(下記(3)参照)を控除した金額に相当する所得税が追加で課されます(租税特別措置法(措法)41条の19第1項)。
①(その年分の基準所得金額-3.3億円)×22.5%
②その年分の基準所得税額

(2)基準所得金額の意義

「基準所得金額」は、措法41条の19第2項に定める所得となりますが、具体的にはその年分の所得税につき申告不要制度を適用しないで計算した所得金額(源泉分離課税の対象となる利子所得の金額や、一定の非課税金額を除く。)の合計額をいいます。
この場合の「申告不要制度」とは、源泉徴収あり特定口座内で上場株式等の配当(配当所得)を取得した場合や上場株式等の譲渡による所得が生じた場合に、確定申告を不要とすることができる特例(措法8条の5、37条の11の5)をいい、これらの申告不要とできる所得についても基準所得金額に含まれます。

(3)基準所得税額の意義

「基準所得税額」は、本特例や外国税額控除等の適用がないものとして計算した所得税及び復興特別所得税の額(源泉分離課税に係るものを除く。)をいいます(措法41条の19第3項等)。申告不要制度の適用を受けようとする上場株式等に係る配当所得や譲渡所得の金額に対し、源泉徴収された所得税額や復興特別所得税額も、基準所得税額に含まれます。

(4)本特例の適用判定の例

Aさんの令和7年分の不動産所得の金額1,200万円、所得控除額200万円、土地の譲渡に係る長期譲渡所得の金額9.9億円、申告不要にできる上場株式等に係る配当所得の金額が4,000万円の場合、本特例の適用の有無を判定すると次の通りとなります。
①(1,200万円+9.9億円+4,000万円-3.3億円)×22.5%=160,200,000円
②不動産所得の金額1,200万円、所得控除の合計額200万円の場合の課税総所得金額に対する所得税額
(1,200万円-200万円)×33%-153.6万円= 1,764,000円
③土地・建物に係る長期譲渡所得の金額9.9億円に対する所得税額(税率15%) 148,500,000円
④②と③の合計額に係る復興特別所得税額
(②+③)×2.1%=3,155,544円
⑤申告不要制度の適用を受けようとする上場株式等に係る配当所得の金額4,000万円に対し、源泉徴収された所得税額(税率15%)  6,000,000円
⑥⑤に係る復興特別所得税額
⑤×2.1%=126,000円
⑦基準所得税額
②+③+④+⑤+⑥=159,545,544円
⑧①-⑦=654,456円  ∴本特例の適用あり。
この場合、654,456円が本特例の適用により追加で課される所得税額となります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/02/09)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

評価通達では斟酌できない「特別の事情」による土地評価額の減額のポイント

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

■不動産を持たせた会社の株式の贈与で、株価が評価通達6項で再評価された事例

 

 

1.はじめに


相続で取得した不動産の中には、道路付けの良くない土地や、形状のよくない土地等で、がけ地を含む土地などがみられることもあります。売りに出して売れたとしても、かなり安値になることが不可避な場合、その売却価額でもって相続税評価額として相続税の減額を求めて更正の請求(相続税の申告の減額修正)を税務署長に行う人もいます。しかし、路線価等による評価額よりも売却価額が適正な時価だと認められるのは難しいようです。今回は令和3年5月11日の裁決事例を紹介します。

 

 

2.事案の概要


裁決書によると、売却したのは、用途地域が第一種住居地域(建蔽率60%、容積率200 %)と近隣商業地域(建蔽率80%、容積率300%)にまたがっていた借地権で、その形は路地状部分のある旗竿型でした。その借地には貸家が建っておりました。
相続人は相続税の申告において約7,300万円と評価、
した後、この借地権を5,500万円で売却し、すぐに税務署長に対し相続税の申告を直す減額更正の請求をしました。これに対し税務署長は、容積率の異なる2つの地域にまたがっていた点が反映されていなかったことを修正、評価額を約6,780万円に減額しましたが、売却価額を時価とは認めませんでした。そこで、相続人が国税不服審判所(以下、審判所という。)に対して審査請求したものです。

 

 

3.審判所の判断


審判所は路線価などに基づく不動産等の評価方法を定めた財産評価基本通達(以下、評価通達という。)について「適正な時価を算定する方法としてー般的な合理性を有するものであり、かつ、当該財産の相続税の課税価格がその評価方法に従って決定された場合には、(中略)評価通達に定める評価方法によって評価するのが相当であり、評価通達に定める評価方法によって評価した価額が当該財産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないと事実上推認することができる」との考え方を示しました。
また、この考え方は「評価通達に定める評価方法を画一的に適用することによって、当該財産の「時価」を超えて適正な時価を求めることができない結果となる場合など評価通達に定める評価方法によるべきではない特別の事情がない」ことが前提ということも示し
ました。
そこで審判所は、次のように「特別の事情」があるかどうかを検討しました。

 

①形状に起因する減価要因が評価通達の定める評価方法では本件借地権の評価に反映されずこれが上記特別の事情に該当するか

 

評価通達では「土地の形状に起因する減価要因についても、評価する宅地が路線に接している状況、形状等に応ずる評価が行えるよう各種画地調整のための定めを設けることによって考慮している。」ことから本件借地権については、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ定められた補正率を乗じて評価することにより、適切に反映されている

 

②借地権上の建物の建替えに伴う建築承諾料支払要請や地主からの地代増額要請があることが、評価通達に反映されておらず特別の事情に該当するか

 

評価通達27の《借地権の評価》では建築承諾料や地代の額も踏まえて決定される借地権の売買実例価額等を基として、一定の地域ごとに適用可能な借地権割合を定めた上、その借地権割合を用いて借地権の価額を算定するとしているため、そのような事情は、評価において考慮されている。

 

③売却価額が通達評価額を下回ることが特別の事情に該当するか

 

現実の売却価額は、譲渡時における譲渡当事者間の諸事情を反映して決められるため、そもそも何らの事情補正等を行うことなく、直ちに客観的交換価値を表しているとみることはできない。売却価額が通達評価額を下回っているというのみでは、通達評価額が時価を超えるものということはできない。
上記を踏まえ審判所は、特別の事情はあるとはいえないと判断しています。

 

4.まとめ

国税当局では、不動産鑑定評価額や売却価額を相続した土地の相続税評価額として申告等するケースを「路線価等によらない事案」と呼んでいます。その場合、前記のとおり路線価など評価通達によって斟酌できない、すなわち適正な時価を算定することができない「特別の事情」があれば、路線価等による評価額以外の価額が認められるとされています。ただ、そうした証拠をそろえることは簡単ではありません。専門家の力を借りることをお勧めします。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/01/26)より転載

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】特定贈与者の死亡前に相続時精算課税適用者である特例経営承継受贈者が死亡した際の税務

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

【Q&A】法人が100%子会社に土地を譲渡した場合の土地譲渡益に係る法人税の取扱い

 

【Q&A】被相続人が保険料の全額を負担した生命保険契約に係る相続税の取扱い

 

 

 

【問】

(株)X(X社)の代表取締役甲は、令和7年10月に死亡しました。相続人は子Bのみです。甲は令和2年に、X社の前代表取締役で同社の発行済株式の全部を有していた父の乙から保有するX社株式の全部の贈与を受け、相続時精算課税を選択するとともに、租税特別措置法(措法)70条の7の5の非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例措置(以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けていました。甲の死亡時において、父の乙は健在です。
上記の場合において、甲の死亡後に乙が死亡したときは、乙に係る相続税の計算上、令和2年に乙が甲に対して贈与したX社株式は、どのような取扱いになりますか。

 

 

【回答】

1.結論


特定贈与者乙の死亡前に受贈者(相続時精算課税適用者)の甲が死亡した場合、甲の相続人Bは原則として甲の乙に係る相続税の納税義務を承継します。しかし甲が贈与税の特例措置の適用を受け、その死亡により納税猶予税額の全部が免除された場合は、Bに甲の納税義務は承継されず、贈与を受けたX社株式の贈与時の価額は乙に係る相続税の計算上、課税価格に算入されません(後記2(5)参照)。

 

 

2.解説


(1)贈与税の特例措置の概要

贈与税の特例措置は、都道府県知事の認定を受けた一定の会社の株式を令和9年12月31日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者として一定の要件を満たす者(以下「特例経営承継受贈者」)である場合、その者が納付すべき当該株式(一定の部分に限る。以下「特例対象受贈非上場株式等」)に対応する贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されるという税制です(措法70条の7の5第1項)。贈与税の特例措置の適用により納税が猶予された贈与税額は、特例経営承継受贈者の死亡により、その全部が免除されます(措法70条の7の5第11項、70条の7第15項)。

(2)相続時精算課税の特定贈与者に係る相続税の計算

相続時精算課税に係る贈与者(「特定贈与者」)が死亡した場合、相続時精算課税の適用を受けた受贈者(「相続時精算課税適用者」)の相続税は、その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける財産の贈与時の価額と、相続等により取得した財産の相続時の価額の合計を基に計算します(相続税法21条の15、21条の16)。

(3)特定贈与者の死亡前に、相続時精算課税適用者が死亡した場合の特定贈与者に係る相続税計算

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合、その相続時精算課税適用者(「死亡相続時精算課税適用者」)の相続人は、前記(2)により死亡相続時精算課税適用者が有していた特定贈与者に係る相続税の納税の権利義務を承継します(相続税法21条の17第1項)。

(4)特例経営承継受贈者の相続人に係る(3)の不適用

前記(1)より、贈与税の特例措置の適用を受ける特例経営承継受贈者かつ相続時精算課税適用者である個人が死亡したことにより、納税が猶予された贈与税額の全部が免除され、その後にその贈与税の特例措置に係る特例対象受贈非上場株式等の贈与者が死亡した場合、その対象受贈非上場株式等のうち、その免除を受けた贈与税額に対応する部分については、前記(2)の適用がされず(措法70の7の5第10項、70条の7第13項9号)、このため前記(3)の相続税の納税の権利義務の承継は行われません。

(5)本問へのあてはめ

前記(1)より、甲が贈与税の特例措置により納税が猶予されていた税額は、甲の死亡によりその全額が免除されます。
甲は死亡相続時精算課税適用者に該当し、甲の相続人Bは、前記(3)により原則として、甲が有していた乙に係る相続税の納税義務を承継します。この承継がされると、乙に係る相続税の計算上、①甲が乙から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受けるX社株式の贈与時の価額と、②Bが甲の代襲相続人として乙から相続等により取得した財産の相続時の価額の合計がBの課税価格となります。しかし甲は、乙から贈与により取得したX社株式につき特例承継受贈者として贈与税の特例措置の適用を受け、その死亡により猶予税額の全部が免除されることから、前記(4)により甲の納税義務は子のBに承継されません。以上により、①のX社株式の贈与時の価額は、乙に係る相続税の計算上、課税価格に算入されません。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/01/13)より転載

 

 

 

 

Q-16 M&Aにはどの程度の費用が掛かるのでしょう?  |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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 Q-16 M&Aにはどの程度の費用が掛かるのでしょう? 

A

M&Aの実施に掛かる費用として、対象となる会社の取得価格以外にも、様々な費用が発生することになります。実際に、買い手側、売り手側で発生するM&A費用は異なり、対象となる会社の事業規模などによっても大きく変わってきます。

 

 

 

買い手側で発生する主な費用

・仲介手数料、アドバイザリー費用

仲介手数料はM&A仲介会社に対して支払う手数料です。M&A仲介会社が売り手と買い手の間に入り、双方の要望や意見を聞きながら調整を行い、円滑にM&Aを進めるための費用となります。

他方、アドバイザリー費用は仲介とは異なり、買い手または売り手のどちらか一方とのみ契約するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に対して支払う費用です。FAがアドバイザリー契約した会社の利益最大化を目指してM&Aの実施をサポートするための費用となります。仲介手数料、アドバイザリー費用の主な内容としては次のようなものがあります。

▷相談料
M&Aを実施するかどうかに関わらず初回の相談時に発生する費用。
一般的な費用相場としては無料~数万円程度。

▷着手金
M&A仲介会社やFAへ業務を委託した際に発生する費用。
一般的な費用相場としては無料~数百万円程度。

▷中間報酬
買い手と売り手がマッチングし、基本合意に至った際などに発生する費用。
一般的な費用相場としては成功報酬の10%~20%程度(数十万円~数百万円程
度)。

▷月額報酬
M&Aが成立するまで毎月定額で発生するコンサルティング費用。
一般的な費用相場としては無料~数十万円程度。

▷デューデリジェンス費用
売り手企業の財務、税務、法務、労務等に関する調査に係る専門家への依頼費
用。基本的には買い手が実施するため、買い手が負担するケースが多い。
一般的な費用相場としては数十万円~数百万円程度。

▷成功報酬
M&A成立時に発生する費用。一般的にはレーマン方式と呼ばれる「取引金額」
に一定の手数料率を乗じる計算方法で算定されることが多い。なお、算定の基
礎となる「取引金額」には、譲渡の対象となる株式価額、移動する総資産額、
企業価値の金額などが用いられることとなる。
一般的な費用相場としては数十万円~数百万円程度。

 

・買収費用

M&Aの対象会社を買収するための費用であり、買収金額は対象会社の規模、業種、経営環境等により様々です。なお、株式や事業の譲り受け対価が現金の場合には現金の支出が発生しますが、買い手の株式と売り手の株式を交換する株式交換などの組織再編手法を利用した場合には現金の支出が伴わないことがあります。

 

・税金費用

事業を譲り受けた場合に、譲渡の対象となる課税資産については消費税等の支払いが発生します。また、譲り受けた資産に不動産が含まれている場合には、不動産取得時に不動産取得税、不動産登記時に登録免許税などの税金が発生します。

 

 

 

売り手側で発生する費用

・仲介手数料、アドバイザリー費用

基本的にはデューデリジェンス費用を除いて買い手側と同様に発生します。

 

・税金費用

M&A実施の結果、生じた譲渡益に応じて、売り手が会社の場合には法人税や法人住民税、個人の場合には所得税等(譲渡所得)の税金の支払いが発生します。また、買い手から受領した消費税等については、申告・納付の対象となりますので留意が必要です。

 

買い手および売り手において発生する費用をまとめると次の表になります。

買い手 売り手
相談料 無料~数万円程度 無料~数万円程度
着手金 無料~数百万円程度 無料~数百万円程度
中間報酬 成功報酬の10%~20%程度
(数十万円~数百万円程度)
成功報酬の10%~20%程度
(数十万円~数百万円程度)
月額報酬 無料~数十万円程度 無料~数十万円程度
デューデリジェンス費用 数十万円~数百万円程度 基本的には負担なし
成功報酬 数十万円~数百万円程度 数十万円~数百万円程度
買収費用 対象会社の価格により変動
税金費用 課税資産に係る消費税等
不動産取得税や登録免許税等
譲渡益に係る法人税及び
法人住民税または所得税等
(譲渡所得)

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

このコラムでは読者の方からのご質問も募集しています。M&Aに関することで疑問に思っていること、コラムの内容に関してもっと詳しく知りたいこと、○○について取り上げてほしい、などありましたら、こちらのアドレス(links@zeiken.co.jp)までお知らせください

 

(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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[解説ニュース]

相続時精算課税制度で受贈者が贈与者より先に亡くなってトラブルになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■不動産を買った時の土地建物の価額按分が不合理と指摘された場合

■使い勝手アップの相続時精算課税制度では、みなし贈与にご用心

 

 

1.はじめに


相続時精算課税制度は現行制度上、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、18歳以上の子・孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度です。贈与税と相続税を通じた税金の計算をするのが特徴です。

 

具体的には、財産の贈与時には受贈者が相続時精算課税に係る贈与税を納付します。その計算は法定された手続きを踏むことを要件に、贈与財産の価額の合計額から基礎控除110万円と最大2500万円(特別控除)を控除し、残額に20%の税率を乗じて求めます。つまり一定の金額までは贈与税はかからないのです。

 

ただしその後、その贈与をした親や祖父母の相続開始時には、相続時精算課税で贈与を受けた財産を、相続又は遺贈により取得した財産に加算をし、その合計額を基に相続税額を計算します。その際、既に支払った相続時精算課税に係る贈与税額を控除した金額を納付する(贈与税額が相続税額を上回る場合には還付を受ける)仕組みです。

 

この制度の狙いは、より課税を適正化しつつ生前贈与を円滑化すること。このことを踏まえると、同制度は、親や祖父母などから子や孫へ生前に財産を受け継ぐ姿が、典型的なあり方として考えられえているといえそうです。

 

 

2.受贈者が先に亡くなって戸惑うことも


ところが、相続時精算課税制度を適用して財産をもらった人が、贈与した人よりも先に亡くなってしまうことがあります。その場合、相続時精算課税制度で財産をもらっていた人が負っていた贈与者の死亡にともなう相続税の計算において、追加して相続税を納付することになるか。それとも支払っていた贈与税の還付となるか。その権利・義務については、亡くなった人の相続人に承継されることになるとされています。

 

こうしたケースで、戸惑う人もいるようです。たとえばA夫妻の妻の方から、娘が相続時精算課税制度で高額の財産をもらっていたケースで、先にこの娘が亡くなり、ついで財産を生前贈与していた妻が亡くなった場合(国税不服審判所令和 7年6月25日裁決)。本来、亡娘が負うべき上記の権利・義務が、どのように相続人に承継されるか、事例を見ることにします。

 

裁決書によると、この事案はAさん(請求人)は妻
の相続に係る相続税について、亡娘が有していた相続時精算課税に係る相続税の納税義務を全て承継したとして申告していました。しかし後で、納税義務は亡娘に係る共同相続人(A夫妻)がまず各2分の1ずつ承継すべきとして更正の請求をした事案です。税務署は、更正をすべき理由がないとして通知してきたため、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことにしたというものです。

 

 

3.審判所の判断


争点は、当初の申告に、「更正の請求」が認められるのに必要な法律上の誤りがあったといえるかどうかという点です。この場合に即していえば、亡娘の相続時精算課税制度に係る上記権利・義務は亡妻とともにAさんが2分の1ずつ承継することが正しいことなのかどうかです。

 

ポイントは、特定贈与者の死亡以前にその特定贈与者に係る相続時精算課税適用者が死亡した場合には、その相続時精算課税適用者の相続人は、その相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継する旨、また続人のうちに特定贈与者がある場合には、特定贈与者は、納税に係る権利又は義務については、これを承継しない(相続税法第21条の17第1項)旨の法律があることです。特定贈与者とは相続時精算課税制度で財産を贈与した人、相続時精算課税適用者とは、財産をもらった人のことです。

 

審判所は、上記法律に基づき、相続時精算課税適用者である娘が死亡し、その相続人であるAさん及び亡妻のうち、亡妻は特定贈与者であるから、納税義務は特定贈与者である亡妻には承継されず、Aさんにのみ承継されると判断しています。

 

Aさんとしては、亡妻が上記権利・義務を承継すればその2分の1は、妻の死亡で消滅するのではないかと考えたようですが、審判所は、亡妻が「「第1項の権利又は義務を承継した者」には含まれないことは明らか」だとしてAさんの請求を退けています。

 

なお、上記のようなケースで受贈者に子供などがいた場合、子が上記権利・義務を承継する場合が出てきます。しかし、その内容がわからないといったケースもあるでしょう。その場合は、所定の税務署に相続時精算課税等に係る贈与税の申告内容の開示等を求めることができます(相続税法49条)

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/12/11)より転載

 

Q-15 M&Aのアドバイザーを入れる場合、報酬の相場はあるのでしょうか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-15 M&Aのアドバイザーを入れる場合、報酬の相場はあるのでしょうか?

A

M&Aアドバイザー報酬の相場はあります。上場M&A仲介4社の料金表を見比べてみると、主に、(1)着手金、(2)中間金、(3)成功報酬にわかれます。それぞれ買い手・売り手の報酬は、どの会社においても買い手・売り手ごとに価格体系が設定されています。まとめると、下記のようになります。大くくりで見ていくと、ほとんど違いはないイメージをお持ちになられたのではないでしょうか?

【料金比較表】

それぞれの内容については以下の通りです。

(1)着手金…概要提案・NDA(守秘義務契約)締結後にトップ面談が設定される場合に、そのトップ面談前に着手金が発生する仲介会社と発生しない仲介会社があります。これについては、婚活サイトなどでも有料なものと無料なものがあるように、ほぼそれと同じ原理が働きます。無料の仲介会社の場合、「ちょっと試しに相談してみる」というケースもないわけではありません。無料の仲介会社をご利用される場合は、売買の動機・背景など売り手・買い手双方の意思の確認を入念にされることをお勧めいたします。

 

(2)中間報酬…基本合意書が締結される時点で買い手側に発生するのが通常です。売り手には基本発生しませんが、発生する仲介会社もあります。発生する仲介会社は、売り手にとっての基本合意書を重視しているからと推察されます。基本合意書は、(イ)買収価額、(ロ)諸条件(退職金・借入金引継ぎ・従業員の承継・ブランド使用等々)、(ハ)株式等の譲渡時期について最低限記載されるわけですので、M&Aにとっての重要な枠組みが設定されることになります。そのため買い手に中間金が発生するのが通常です。特に、基本合意書における法的拘束力を持たせる重要事項としては、守秘義務条項と排他的独占交渉権がありますので、売り手・買い手双方の本気度が上がった時点の支払いということで、金額の多少の多寡はありますが、いずれも妥当なものと思われます。

 

(3)成功報酬…これについては、買収価格帯やレンジの刻みなど多少の差異はあるものの大きな違いはないようにみえます。仲介会社によっては、退職金を報酬算定の基礎に入れている「オーナー受取額基準」を採用している場合(のれん交渉・退職金交渉は、売り手の立場での努力表明の意味もあるかと思います。)や、「株価」を基準としている場合(基準額としては最も小さい数値となります。)、総資産額(株式価額に有利子負債・買掛金・未払金などを加算した金額)を基準としている場合などがあります。

 

これらの価格体系を見ていくと、それぞれの仲介会社が何を大切に考えているかが透けて見えてきます。例えば、売り手側の視点から言えば、企業の大切なノウハウの買い手への開示について慎重な仲介会社、買い手の本気度を確認している仲介会社、買い手側の視点から言えば、売却後のオーナーの生活設計について、売り手の立場になって考えていくことを重要視している仲介会社、等々です。

 

そして、何よりも大切なのは、着手してから譲渡に至るまでの成功確率です。なぜなら着手後にM&Aディール(取引)が失敗すると、様々な不幸が生じるからです。会社の重要なノウハウも含めて見られてしまった、また、従業員・お取引先に知られてしまった等の風評リスクなど、何もなかった元の状態に戻すことはもはや不可能です。会社によってはこの成功確率が10%前半のところもあれば、50%近い成功確率のところもあります。この成功確率は前述の料金体系にも関係することですが、M&Aにおける各アクションにおける入念さ・専門性・担当者のコミュニケーション能力に大きく左右されることはいうまでもありません。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

 

【Q&A】教育資金贈与に係る贈与税の非課税特例の贈与者が、その贈与の年に死亡した場合の相続税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の小規模宅地等の特例における修正申告時の特例対象宅地等の選択変更

 

■【Q&A】生命保険金を目的とした代償分割を行う場合の課税関係

 

 

 

【問】

令和7年10月に交通事故で急死した甲は、同年9月に子のA(19歳。令和6年の合計所得金額0円)に対し、書面により現金1,000万円を贈与していました。Aはその現金について、租税特別措置法(措法)70条の2の2第1項の「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税の特例」(以下「本特例」)の適用を受けるため、教育資金管理契約(以下「契約」)に基づきB銀行へ預け入れ、教育資金非課税申告書を提出しました。甲の死亡日時点で1,000万円のうちAの教育資金として支出された金額はありません。甲に係る相続税の計算上、現金1,000万円はどのように取扱われますか。

 

 

【回答】

1.結論


甲に係る相続税の課税価格の合計額が、その相続税につき税務署長等による更正決定等ができないこととなる日(原則、相続税の申告期限から5年を経過する日)前までに5億円を超える場合、現金1,000万円をその相続税の課税価格に加算する必要があります。

 

 

2.解説


(1)本特例の概要

本特例は、30歳未満の個人(前年分の所得税の合計所得金額が1,000万円超の者を除く。以下「受贈者」)が、教育資金に充てるため金融機関等の一定の契約に基づき、受贈者の祖父母等の直系尊属(以下「贈与者」)から書面による贈与により取得した金銭を銀行に預け入れる等の一定の行為をした場合、その金銭等の額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、受贈者が金融機関等の営業所等に教育資金非課税申告書の提出等をすることにより、贈与税が非課税とされる税制です(措法70条の2の2第1項)。

(2)契約期間中に贈与者が死亡した場合の相続税

 

①原則
契約期間中に贈与者が死亡した場合は、原則、 その死亡日における【非課税拠出額*1-教育資金支出額*2】のうち一定の計算をした金額(以下「管理残額」)を、受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に加算されます(措法70条の2の2第12項2号)。
*1「非課税拠出額」は、教育資金非課税申告書  等に本特例の適用を受けるものとして記載された金額の合計額(1,500万円を限度)をいいます。
*2「教育資金支出額」は、金融機関等の営業所等で、領収書等により教育資金の支払の事実が確認され、かつ記録された金額の合計額をいいます。

 

②相続税が課税されない場合
受贈者が令和3年4月1日以後にその贈与者から金銭等の取得をし、本特例の適用を受けた後に契約期間中に贈与者が死亡した場合において、受贈者が贈与者の死亡日において23歳未満又は学校等に在学している等のときには、①にかかわらず管理残額を相続等により取得したものとはみなされません(措法70条の2の2第13項)。

ただし、受贈者が令和5年4月1日以後に非課税拠出額を取得して本特例の適用を受け、同日以後に贈与者が死亡したときにおいて、その贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるとき(上記①の適用がないものとして計算した相続税の課税価格の合計額で判定)は、上記にかかわらず、その管理残額を相続等により取得したものとみなされ、相続税が課税されます(同ただし書)。この場合の「贈与者に係る相続税の課税価格の合計額」は、その贈与者に係る相続税につき税務署長等による更正決定等ができないこととなる日(原則として、相続税の申告書の提出期限から5年を経過する日)前までに、相続税額の計算の基礎となった財産の価額及び債務の金額を基準として計算されます(措法70条の2の2第14項)。

(3)本問へのあてはめ

本特例の適用を受けてAの贈与税の課税価格に算入されなかった現金1,000万円(=管理残額)は、甲に係る相続税につき税務署長等が更正決定等をすることができなくなる日前までに、甲の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合、甲から相続により取得したものとみなされ相続税が課税されます。例えば、相続税の当初申告では課税価格の合計額が5億円以下であるため管理残額を相続税の課税価格に加算しなかったが、その申告期限から5年以内に行われた税務調査で財産の申告漏れが発覚し、その後の修正申告において相続税の課税価格の合計額が5億円超となった場合は、管理残額をその修正申告に係る相続税の課税価格に加算する必要があります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/11/25)より転載

 

 

 

 

Q-14 M&Aが成功する確率はどの程度でしょうか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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□■―――――――――

今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

―――――――――■□

 

 

Q-14 M&Aが成功する確率はどの程度でしょうか? 

A

M&Aの成功確率は、売り手および買い手企業の規模、業種、地域などに加えて、企業の置かれている経営環境、さらにはM&Aを実施する目的により大きく左右されます。また、M&Aが成功したかどうかについても各企業にてそれぞれの判断基準があるため、画一的に成功する確率を言うことは難しいですが、後述するように、過去の統計データを見ると概ね2割から3割程度となっています。野球の打率であれば十分かもしれませんが、この確率が高いのか低いかの最終的な判断は当事者の感覚にゆだねられているといえます。

 

 

 

何をもってM&Aが成功したと言えるか

では、企業はどのような判断基準でM&Aが成功したかどうかを判断するのでしょうか。

M&A実施企業を対象とした大手コンサル会社のアンケート結果*1によると、成功・失敗を評価する際に用いた定量指標としては、特に「売上・収益の伸び」が多く、次いで「利益水準」となっており、これらの指標を複数組み合わせて判断する企業が多いことがわかります。

さらに、上記指標において目標達成度合いが60%を超えていれば概ね当初の期待どおりの結果が得られたものとしてM&Aが成功したと考える企業が全体の8割程度を占めています。

また、M&A実施効果について帝国データバンクが行った満足度調査*2によれば、「やや満足」「満足」と回答した割合は、買い手側においてはM&Aの相手先業種が同業種の場合に63.5%、異業種の場合に56.5%が、売り手側においてはM&Aの相手先業種が同業種の場合に58.8%、異業種の場合に60.2%となっております。このことから、いずれのケースにおいてもM&Aを実施した結果、当初の期待どおりの結果が得られたものとして成功と考えている会社は全体の6割程度と言えます。

 

 

M&Aが成立しなかったケースを考慮するとさらに成功確率は下がる

M&A実施後の満足度だけを見ると成功確率は6割程度あるように見えますが、これらの割合はM&Aが成立した企業のみをアンケート対象としているため、そもそも目的や条件にあった相手先とマッチングしなかった場合や、マッチング後の交渉が難航した結果、不成立となる場合もあるため、M&Aが成立しなかったケースも考慮する必要があります。

ここで、中小企業庁の「中小企業白書」に記載されたM&Aの過去実施状況*3によれば、M&Aを「実施した」の回答割合は11.6%、「実施していないが検討をした」の回答割合は15.6%、「実施、検討をしていない」の回答割合は72.8%でした。このことから、M&Aを検討した企業は全体の27.2%となり、検討した企業を母集団とした場合に、実施までに至った割合は約43%(=11.6%÷27.2%)と計算できます。この割合を上述のM&A実施について成功と考えている約6割に乗じた結果が2割から3割程度であり、この数字が一般的にM&Aを検討した企業におけるM&Aの成功確率と言えるでしょう。

 

*各種統計をもとに筆者作成

 

 

 

■M&Aの成功確率を上げるためには

ただし、先に述べたように成功確率は経営環境やM&A実施の目的により大きく左右されるため、成功確率を高めるためには特に次のポイントを意識することが重要です。

・M&A実施の目的を明確にし、適切な目標を設定する

なぜM&Aを実施するのかその目的を明確にするとともに、目的達成のためには合理的に達成可能な具体的な目標を設定することが必要です。精度の高い適切な目標を立てることにより、M&Aの成否の判断基準となる目標達成度合いの割合も高めることが可能となります。

 

・信頼できる専門家に相談する

M&Aは専門的な知識が必要となるため、M&A仲介会社や、公認会計士・税理士・弁護士といった専門家等に相談することが一般的です。経験豊富な信頼できる専門家を利用することで適切なサポートやアドバイスを適時に受けてM&Aを円滑に進められることにより、効果的なM&Aの成立可能性を高めることが可能となります。

 

(参考)

*1株式会社KPMG FAS『M&A Survey』「日本企業によるM&Aの特徴」(2019年)

*2株式会社帝国データバンク『令和5年度中小企業実態調査委託費 中小企業の実態把握に関する調査研究 報告書』「M&A 実施効果についての満足度」(2024年)

*3中小企業庁『中小企業白書』「M&A実施企業の実態」(2018年)

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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[解説ニュース]

相続直前に資産構成を変えた会社の株式への評価通達6項の適否めぐる裁判例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■使い勝手アップの相続時精算課税制度では、みなし贈与にご用心

■一団の宅地に用途の異なる建物がある時の小規模宅地等の特例の利用上の注意

 

 

1.はじめに


相続直前に大型出資を募って株式発行を実行、資産のうち一定の株式等の割合を引下げた会社の株式の相続税評価を巡って争われていた裁判の控訴審判決が令和7年6月19日、東京高裁でありました。東京高裁は、1審の東京地裁判決のうち納税者の主張を認めた部分を取消し、財産評価基本通達6項(以下、6項という。)に基づき株式を純資産価額方式で評価した税務署の更正処分等を支持する逆転判決を言い渡しました。

 

6項を適用して、税務当局が再評価した株価を財産評価基本通達(以下、評価通達という)に基づく評価額を上回る価額とすることが平等原則違反となるかどうかなどが争点とされました(6項についてはタクトニュースNo.933等を参照ください)。

 

 

2.不動産を持たせた会社の株式の生前贈与で6項が


この事案で問題になった行為は『臨時株主総会で決められた平成25年8月9日の新株発行と、この新株発行に対応した被相続人による出資、同年9月30日に行われた配当』です。

 

①被相続人創業の上場会社株を有する非公開同族会社A社に対して被相続人が行った約36億円に上る出資

 

②その出資に対する新株発行90万5440株(1株当たり3,976円)

 

③配当(普通株1株40円、総額1,836万円)

 

被相続人は、上記①に備え平成25年4月から5月にかけて、所有する上場株式等を売却し、約37億円を手にしていました。この出資の結果、A社は24年9月期の投資有価証券は13億円余りで、同社の貸借対照表の資産にしめる割合は89.2%でしたが、上記①出資後の25年9月期の資産約50億円に対する投資有価証券の割合は26.1%となりました。

 

相続開始後、相続人らは法定申告期限までに、上記株式につき、発行会社A社が評価通達178の評価上の区分が小会社に当たるため、類似業種比準価額と1株当たりの純資産価額を用いて評価する方式を選択し、同株式の価額を 1株当たり1,853円と評価しました。

 

この後、税務当局は最終的に平成30年9月に、上記株式に6項を適用して再評価して1株3,443円として追徴。税務当局では、新株発行等により上記株式を評価通達通りに評価した場合、相続税の負担が著しく軽減される結果となり、新株発行等はこれを期待して企図・実行されたものと見ていました。

 

というのも評価通達189の「特定の評価会社の株式」の評価について、評価会社が株式等保有特定会社・土地保有特定会社に該当する評価会社かどうかを判定する場合において、課税時期前において合理的な理由もなく評価会社の資産構成に変動があり、その変動が株式等保有特定会社・土地保有特定会社に該当する評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして当該判定を行うものとする、とのなお書きがあったからです。

 

3.裁判所の判断


1審の東京地裁は、問題の株式の価額について、「評価通達の評価方法は、A社が小会社(評価通達178)に該当するため、更正の請求において請求人が選択した併用方式により評価することとなる(1株当たり1858円)。」としました。さらに東京地裁は、問題の株式の価額について、納税者が選択した「併用方式」により1株当たり1858円と評価したことに対し、新株発行等をしたことで相続税総額は約49%減少したけれど、仮に原告らが純資産価額方式を選択した場合、減少の程度は約2.8%にとどまっていたことを指摘、この減少は、「評価通達179(3)が小会社株式の価額の評価方法について、納税義務者による選択を認めていることに起因する」とし、税務署の6項を適用した評価は「租税法の一般原則である平等原則に違反するといわざるを得ない」と判断しました。

 

しかし東京高裁は、新株発行等により評価通達の定める方法で評価すると、課税価格の合計額は約17億885万4000円の軽減(軽減割合は約44.6%)。納付すべき相続税額の合計額は9億7872万4900円の軽減(軽減割合は約48.1%)となり、「軽減される相続税の額、割合等を総合的に考慮して判断すると、納税者らの相続税の負担は著しく軽減されることになる」と指摘。さらに相続開始の約3か月前に相続人が証券会社を訪れて相続税の節税対策を相談していたこと、株式保有特定会社等に該当しないための方策を含め、新株発行等を用いた相続税減税スキームなどを連日のように協議を重ねていたといった認定事実を踏まえ、相続人が「相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて新株発行等を行ったことは明らか」として、6項の適用を認める判決を下しています(本件は上告)。最高裁の判断の行方が注目されます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/11/10)より転載

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】複数代表者のうちの一人から非上場株式を相続した場合の相続税の納税猶予の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■土地の譲渡契約を締結後、売主が物件の引渡前に死亡した場合の所得税の譲渡所得の取扱い

 

■土地賃貸借に際し無償返還届出を提出した場合の非上場株式の相続税評価(土地と株式の所有者が別の場合)

 

 

 

【問】

(株)A(A社)の代表取締役の甲は、令和7年8月に亡くなりました。A社では、甲の代表取締役就任から死亡による退任までの間、継続して同社の発行済株式(すべて議決権あり)の40%を甲、残りの60%を甲の兄で同じく代表取締役の乙が保有していました。

 

甲が保有していたA社株式は、長男で同社取締役のBがすべて相続しました。この場合において、Bが甲から相続したA社株式について、非上場株式に係る相続税の納税猶予の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の6・以下「相続税の特例措置」という。)の適用を受けることはできますか。なおA社においては、[1]既に非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例(措法70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)、相続税の特例措置又はみなし相続の特例措置(措法70条の7の8)の適用を受けている者、及び[2]贈与税の特例措置に係る贈与や相続税の特例措置に係る相続・遺贈によりA社株式を取得している者はいません。

 

 

【回答】

1.結論


甲が後述の「特例被相続人」に該当しないことから、Bが甲から相続により取得したA社株式は、相続税の特例措置の適用を受けることができません。

 

 

2.解説


(1)特例被相続人の意義

①基本的な考え方

本問の場合、甲からA社株式を相続で取得したBが相続税の特例措置の適用を受けるためには、甲が「特例被相続人」に該当する必要があります。「特例被相続人」は、措法施行令40条の8の6第1項(以下「相続税政令」)1号又は2号の場合の区分に応じ、それぞれに定める者となります。この政令で1号は「2号に掲げる場合以外の場合」と定められているため、まず甲からBへのA社株式の相続による取得が「2号に掲げる場合」に該当するかどうか検討します。

 

②「相続税政令2号に掲げる場合」の要件

 

標題の「相続税政令2号に掲げる場合」に該当するのは、甲の相続開始の直前において次のイ~ハのいずれかの者がいるときです。

 

イ.A社株式につき、贈与税の特例措置、相続税の特例措置又はみなし相続の特例措置の適用を受けている者

 

ロ.贈与税の特例措置に係る「特例贈与者」のうち、措法施行令40条の8の5第1項1号に定める者(本問の場合、A社の代表権を有していた個人で、同号の定める一定の要件を満たすものをいう。)から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりA社株式を取得している者(イに掲げる者を除く。)

 

ハ.相続税政令1号に定める者(A社の代表権を有していた個人で、同号の定める一定の要件を満たすものをいう。)から、相続税の特例措置に係る相続または遺贈によりA社会社を取得している者(イに掲げる者を除く)。

 

③「相続税政令1号に掲げる場合」の要件

 

甲からBへのA社株式の相続による取得が「相続税政令1号に掲げる場合」に該当するのは、相続開始直前に次のイとロを全て満たすときです。

 

イ.甲がA社の代表権を有していた期間内のいずれかの時および相続開始の直前において、甲及び[甲と一定の特別の関係のある個人(親族等)や、甲と一定の特別の関係のある法人(甲がその総議決権数の50%超を有する会社等。以下あわせて「特別関係者」という。) ]の有するA社株式の議決権の数の合計が、A社の総議決権数の50%超であること。

 

ロ.甲がA社の代表権を有していた期間内のいずれかの時、及びその相続開始の直前において、甲が有するA社株式に係る議決権の数が、甲の特別関係者のいずれの者の有する議決権の数をも下回らないこと。

 

 

(2)結論

Bが甲からA社株式を相続する直前において(1)②イ~ハの要件を満たす者がいない(【問】下線部参照)ので、「相続税政令2号に掲げる場合」には該当しません。また甲はA社の代表取締役を務めた期間中、同社の総議決権数の40%を保有するにとどまり、同期間中に兄の乙が保有した議決権数(同60%)を下回ることから、③ロの要件を満たさず、「相続税政令1号に掲げる場合」にも該当しません。よって甲は特例被相続人には該当せず、Bが甲から相続したA社株式は相続税の特例措置の適用を受けることができません。(

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/10/27)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

不動産を持たせた会社の株式の贈与で、株価が評価通達6項で再評価された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■不動産を買った時の土地建物の価額按分が不合理と指摘された場合

■マンション建替え決議と、転入後売買の3000万円控除適用を巡る裁決事例

 

 

1.はじめに


相続税の計算では、相続財産の金銭的価値を見積もる「評価」が必要になります。国税庁は、簡便な見積もりの方法(評価方法)で、かつ公平性を保てるようルール(財産評価基本通達、以下、評価通達という。)を定めています。ただし、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情が認められる場合には、例外的に評価通達とは別の方法で評価することが評価通達の中で決められています。それが評価通達6項です。
この6項を巡っては令和4年4月19日に、最高裁がその適用にあたって考慮すべき上記事情の考え方を深め、新たな判決を下しました。以降、同6項発動件数が令和7年6月末までに19件と増加、相続税の節税動向を巡る状況が一変しています。

 

 

2.不動産を持たせた会社の株式の生前贈与で6項が


こうしたなか、資産家が設立した会社に不動産を持たせ、3年後にその株式を相続時精算課税方式で子に贈与したケースで、その株価に対し6項を適用して更正されて争いになった裁決事案が出てきました(国税不服審判所令和7年4月16日)。
事案の概要は次のとおりです。

 

(1)平成28年に、資産家が発起人となり不動産の所有、管理、賃貸等を目的とする法人をつくるため出資し、同社の設立時発行株式全てを取得。

 

(2)同時に事実上、同社に5年後一括返済の8億8千万円の借入をさせて出資金と併せ、15階建ての賃貸共同住宅を18億5千万円で買わせた。

 

(3)会社保有資産の評価額に時価縛り(評価通達185カッコ書き)がなくなり通達評価となる令和2年に、資産家の子に株の半数近くを相続時精算課税方式で贈与した。贈与時の会社の株式は借入が残っていたため、通常の評価通達に基づけば0円だった。

 

(4)所轄税務署は同社株式の価額について、共同住宅の鑑定評価額を14億円とした上で、株式の評価専門機関に評価を委託し、算定の結果、修正簿価純資産方式での評価額を贈与時の時価として、評価通達6項を適用して税務調査の結果を通知した。

 

(5)資産家の子は期限後申告することになり、その際、共同住宅の評価額を上記同様14億円とし、問題の株式の発行会社を取引相場のない株式評価上の区分を小会社に当たるとして純資産価額方式と類似業種比準方式を併用し1株19,380円とした。

 

(6)税務署は6項適用に基づく修正簿価純資産方式での評価額で更正処分した。

 

(7)資産家の子はこれに不服があるとして国税不服審判所(以下、審判所という。)に審査請求した。

 

 

3.審判所の判断


審判所は、令和4年の最高裁判決の基本的な判断基準を受け継ぎ、株価が問題になった会社については、次のとおり事実関係を認定・指摘しました。

 

①同社が贈与日において所有する有形固定資産は、この不動産のみであり、同不動産の取得後贈与日を含む各事業年度における本件会社の売上げは、同不動産の建物に係る賃料収入のみであった。

 

②同社は、贈与日において事業計画を策定しておらず、贈与日までに株式の譲渡がされた事実もなかった。また、同社が雇用する従業員はいない。

これを踏まえ審判所は、税務署の評価方法が合理的で、その評価額が贈与日の時価を上回るものではないと認められるか否かについて次のように検討しました。

 

[1]同社が贈与日において所有するのは不動産のみであり、かつ、その建物に係る賃料収入が唯一の売上げであることからすれば、その収益性を反映してこの不動産の時価を算定することにより、将来の収益獲得能力を反映した合理的な評価が可能となる。

 

[2]同社は、建物に係る賃料収人を唯一の売上げとし、事業の拡大や縮小等の具体的な見込みも認められないことから、同社の状況が成長基調又は衰退基調にあるとも認められず、貸借対照表に計上されていない無形資産等が存在する事実も認められないことなどからすれば時価純資産法(修正簿価純資産法)による評価が不適当となる事情も見当たらない。

 

こうして審判所は、企業価値評価ガイドラインに準拠した「ネットアセット・アプローチに属する時価純資産法(修正簿価純資産法)を単独で採用したことは、相当」と判断、税務署の評価した株価で更正した処分を支持しています。
なお、相続時精算課税制度で贈与した財産については、贈与時の価額がそのまま相続税の計算上も固定される面が強調されがちです。
しかし評価に問題が見つかれば後で修正されることがある点、注意したいところです。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/10/14)より転載

 

Q-13 M&Aが向いている業種・向いていない業種はありますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-13 M&Aが向いている業種・向いていない業種はありますか?

A

M&Aが向いている業種、ということですが、「向いている」ということが、M&Aがよく行われている、多くの人が対象の案件を探している、ひいては対象として人気がある、ということだとしても、「〇〇業が向いている」のように一概にいうことは難しいのが実情です。

流行り廃りもありますし、時流といいますが、その時の状況によってM&Aが行われる業種の傾向は変わってくるものだからです。

よって、「M&Aが向いている業種・向いていない業種はあるか?」という問に関する答えは「ない」もしくは「その時の状況によって変わる」ということになるかと思います。

しかし、それでは身も蓋もないので、業種にこだわらず、どんな要素があればということを起点として「M&Aに向いている」と言えるのかを考えてみたいと思います。

 

 

M&Aが向いていると言える状況とは、M&Aという商品が存在し、そこにお客様が買い求める価値があるということ、要は、商品(M&A対象会社)に価値がつくことが最低条件になります。そうなると、概念論になりますが、(1)成長市場がある、(2)固定的な顧客を有する、(3)特許等はじめしくみに競争力がある、(4)立地が良い、(5)取引先が複数に分散している等があげられます。逆に申し上げますと、下記の(1)~(5)の要素がない場合、ほとんど営業権の価値はありませんので、資産中に価値ある不動産等が存在しない限り、M&A価格は値が付かないこととなり、M&Aに向いていないこととなります。(「不動産M&A」については、別の機会にご案内させていただければと思いますので、本稿のM&Aは「不動産M&A」とご理解ください。)

 

 

まずは(1)ですが、M&Aが成立する基本図式として、成長市場があり、その認識やそれに立ち向かうパッション・能力の差にギャップがあればあるほど、買い手が名乗りを上げてくれること自体が売り手にとって有り難いこととなります。M&Aで最も一般的な事業承継におけるケースも、当然、この原理が働きます。

 

(2)の固定的な顧客については、昨今では、その顧客からの売上・利益がどれだけ見込めるかということはもちろん、その顧客を持っていること自体が他のビジネスにどう相乗効果をもたらすかについて買い手は大いに興味を示すところです。

 

(3)については、技術的なこととなりますが、その特許の有効期間や範囲、技術・ノウハウ等の賞味期限や競争性が問われます。例えば、非破壊検査の技術などは、昨今、引っ張りだこです。

 

(4)については過去、「普通借家権」をベースにM&Aが行われていたころ、大変重要視されてきましたが、昨今のように「定期借家権」がベースとなっている事業については、あまり考慮されません(逆に、商業系・飲食系は、立地が価値を大きく決定づけます)。

 

最後に(5)の取引先の分散については、分散度合いが高ければ高いほど、買い手としての価値評価が大きく上がります。昨今では、アクティブ・ユーザー数(有効アドレス数)が重要なバリュードライバーとなるM&Aが多く散見されるところです。

 

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

このコラムでは読者の方からのご質問も募集しています。M&Aに関することで疑問に思っていること、コラムの内容に関してもっと詳しく知りたいこと、○○について取り上げてほしい、などありましたら、こちらのアドレス(links@zeiken.co.jp)までお知らせください

 

(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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●会計システムはICSをメインに使用していますが、現在お使いのものを継続的に使用していただくことを想定しています。
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●「給与水準」や「やりがい」など、従業員が中長期的に働くことができる環境づくりに努めています。

 

 

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[解説ニュース]

 

【Q&A】法人が100%子会社に土地を譲渡した場合の土地譲渡益に係る法人税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特例の適用

 

■相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

 

 

 

【問】

(株)X(3月決算・以下「X社」)は、令和7年8月1日にその発行済株式の全部を保有する(株)Y(9月決算・以下「Y社」)に、駐車場としてY社に賃貸していた土地Z(帳簿価額5,000万円)を時価相当額の1億円で譲渡しました。
X社の法人税の計算上、土地Zの譲渡益はどのような取扱いとなりますか。

 

 

【回答】

1.結論


X社の譲渡した事業年度の法人税の計算上、土地Zの譲渡益は繰延べとなり、課税対象から外されます。土地Zを取得したY社が、土地Zを譲渡(転売)した場合は、その譲渡日の属するY社の事業年度終了の日の属するX社の事業年度の法人税の計算上、繰延べられていた土地Zの譲渡益が戻入れ(益金算入)となります。

 

 

2.解説


(1)法人が完全支配関係のある法人に一定の資産を譲渡した場合の特例

本問のX社とY社の関係のように、ある株主が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係を「完全支配関係」といいます(法人税法2条12の7の6号、同施行令4条の2第2項)。

 

法人が下記(2)の「譲渡損益調整資産」を、その完全支配関係のある法人に譲渡した場合は、資産を譲渡した法人(譲渡法人)に係る法人税の計算上、その譲渡益と同額の損金が、あるいは譲渡損と同額の益金が、譲渡した日を含む事業年度の所得計算に算入されます(法人税法61条の11第1項)。これにより譲渡損益調整資産を譲渡した事業年度においては、その譲渡損益はゼロとなり、法人税の課税対象から外れることになります。本問の場合、下記(2)より土地Zが譲渡損益調整資産に該当することから、X社のY社に対する土地Zの譲渡は、この特例の適用対象となります。

 

(2)譲渡損益調整資産の範囲

譲渡損益調整資産とは、土地、建物等の固定資産、有価証券、金銭債権及び繰延資産で、譲
渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものをいいます。本問の場合、土地Zは譲渡直前の簿価が1,000万円以上のため、譲渡損益調整資産に該当します(法人税法61条の11第1項、同施行令122条の12第1項)。

 

(3)特例の対象となる譲渡損益

(1)の特例の対象となる譲渡損益のことを、譲渡利益額または譲渡損失額といいます。譲渡利益額とは、譲渡対価の額が譲渡原価の額よりも大きい場合の差益をいい、譲渡損失額とは、譲渡原価の額が譲渡対価の額よりも大きい場合の差損をいいます。この場合の原価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡直前の帳簿価額のことをいい、対価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡の時の価額、すなわち時価をいいます(法人税法61条の11第1項)。

 

(4)譲受(買手)法人が譲渡損益調整資産を譲渡等した場合

(1)の特例は、その譲渡損益を永久に課税対象外とするものではなく、課税の繰延べを行うものです。したがって、一定の事由が生じた場合には繰延べられた損益が戻入れ(利益・損失として計上)となり、法人税の課税対象とされます(法人税法61条の11第2項)。

 

譲渡法人から譲渡損益調整資産を取得した法人(譲受法人)において、その資産を譲渡その他一定の事由が生じた場合には、譲渡損益調整資産の譲渡法人は、その事由が生じた日の属する譲受法人の事業年度終了の日の属する譲渡法人の事業年度に、繰延べられた譲渡損益が戻入れ(益金又は損金算入)となります(法人税法施行令122条の12第4項)。

 

仮に令和7年8月1日にX社から土地Zを取得したY社が、令和9年3月1日にその土地を譲渡した場合、繰延べられたX社の土地譲渡益が戻入れとなります。この場合の譲渡先は資本関係による制限がなく、Y社の100%グループ内法人(例えばX社)への譲渡であっても譲渡益は戻入れとなります。またX社(1年決算)における土地譲渡益の戻入れの時期は、Y社の譲渡日の属する事業年度終了の日(令和9年9月30日)の属する事業年度(令和9年4月1日~10年3月31日)となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/9/29)より転載