[解説ニュース]

【Q&A】新築した住宅に転居後、転居時まで居住した住宅を譲渡した場合の3,000万円控除

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■個人が共有持分を分割した場合の所得税の取扱い

■被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

【問】

Aさんは、平成28年に亡父から相続により取得した東京都中野区の区分所有マンションに居住していましたが、令和2年4月に杉並区に戸建て住宅を新築し、令和3年3月に転居しました。Aさんは令和4年6月に中野区のマンションを譲渡し、譲渡益が生じることから、租税特別措置法(措法)35条第1項の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除(以下「3,000万円控除」)の適用を検討しています。

 

Aさんは、中野区のマンションを譲渡した時には杉並区に所有する住宅に居住していることから、同マンションが3,000万円控除の適用要件とされる「(自分が)主としてその居住の用に供している家屋」に該当せず、適用を受けられないのではないかと心配しています。この場合において、Aさんは3,000万円控除の適用が認められますか。

 

【回答】

中野区のマンションは、居住の用に供されなくなった令和3年3月の時点で「主としてその居住の用に供している家屋」であり、これを居住の用に供されなくなった日以後3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡しているので、他の要件を満たす限り3,000万円控除の適用が認められます。

 

【理由】

(1)3,000万円控除の概要

個人が自己の居住用の不動産を譲渡した場合は、譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円が控除できる特例が設けられています。これが3,000万円控除です。3,000万円控除の適用対象とされる不動産には、次のようなものがあります(租税特別措置法第35条第2項)。

 

①現に自己が居住している家屋

②居住用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋

③①又は②の家屋とともに譲渡したその敷地

④①の家屋が災害により滅失した場合において、その家屋に住まなくなった日から3年目の年の12月31日までの間(原則)に譲渡したその敷地

 

 

(2)「主としてその居住の用に供している家屋」の判定時期

個人が居住の用に供している家屋を二以上所有する場合、3,000万円控除の適用対象となる上記(1)①または②の家屋は、その者が主として居住の用に供していると認められるーの家屋に限られます(措法施行令20条の3第2項)。

この場合、譲渡した家屋が「主として居住の用に供している家屋」に該当するかどうかの判定時点が問題になります。

 

Aさんの場合、中野区のマンションの譲渡時点で判定すると、譲渡時に主として居住の用に供している杉並区の住宅を有していることから、マンションはAさんが主として居住の用に供している家屋には該当せず、その譲渡について3,000万円控除は適用されません。一方、マンションを居住の用に供さなくなった時点で判定すると、マンションを居住の用に供さなくなった時にAさんは他に居住の用に供している家屋を有していないので、他の要件を満たす限り3,000万円控除の適用が認められることになります。

 

この「主としてその居住の用に供している家屋」の判定時点について、国税庁の通達では「居住の用に供されなくなった時」とされています(措法通達31の3−9(2)、35−6)。したがって、譲渡した家屋が「その者が主としてその居住の用に供していると認められるーの家屋」に該当すると判定された場合には、その譲渡の時において譲渡した者が他にその居住の用に供している家屋を有している場合であっても、その譲渡した家屋は、上記(1)①または②の家屋に該当します。

 

 

(3)本件へのあてはめ

上記(2)より中野区のマンションは「主としてその居住の用に供している家屋」に該当し、Aさんはこれを令和4年6月、すなわち居住の用に供されなくなった日(令和3年1月)から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡していることから、他の要件を満たす限り、3,000万円控除の適用が認められます。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/06/27)より転載

[中小企業M&Aの進めるために知っておきたい3つのポイント]

第1回:中小企業M&Aの進め方

~M&Aを始める前に理解しておくべきM&Aの手順~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

1.中小企業のM&Aフロー図


 

(中小M&Aガイドラインより)

https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf

 

上のデータは、中小M&AガイドラインにあるM&Aフロー図です。今回は、M&Aの進め方について手続ごとに説明していきます。

 

2.意思決定について


譲渡を検討する会社が検討するのに必要な情報は2つあります。

 

●いくらで譲渡できるのか(株価)

●誰が買ってくれるのか(候補先リスト)

 

株価はいわゆる相続税評価額ではなく、第三者に譲渡する際の株価です。

 

候補先リストは譲渡会社の売上規模、業種、エリアを考慮して支援機関が持っている情報をもとに作成します。支援機関はM&Aで買収を検討している会社から「売上は〇〇百万円以上、エリアは△△△、M&A資金は□□□百万円ほど」といった情報をヒアリングし自らのデータベースに保存しています。候補先リストはそのデータベースを駆使して作成します。当然ですが、データベース上の情報量の多寡が候補先リストの精度を左右します。例えば、地方銀行のように、あるエリアの情報量は突出しているがそれ以外のエリアの情報はそれほどでもないというケースがあります。限定されたエリア内に最適な候補先がいれば問題ないですが、全国レベルで候補先を探すほうが選択肢は広がります。また、譲渡を検討する会社の中には、情報漏洩の観点から近いエリアの会社に提案してもらいたくないと考える会社もあります。

 

 

3.支援機関との契約について


M&Aを検討するのに必要な情報(株価と候補先リスト)を元に検討した結果、譲渡する方向に決めたら支援機関と契約を締結します。

 

 

4.交渉の流れ


①候補先へ提案

支援機関が買収候補先に買収の提案をする際には、必ず「秘密保持」(CA:Confidentiality AgreementまたはNDA:Non-Disclosure Agreement)を交わした上で行います。情報の漏洩があるとM&Aが頓挫してしまうためです。

 

②候補先が意向表明書を作成

支援機関からの提案を受け、候補先が話を進めたいと決断した場合、候補先は意向表明書(LOI:Letter Of Intent)を作成します。意向表明書には候補先が現時点で受領している情報を元に検討した条件(買収金額など)を記載します。意向表明書に法的拘束力はありません。

 

③独占交渉権付与

意向表明書が複数の候補先が作成しましたら、売手は、その複数の意向表明書を確認した上で、独占的に交渉する候補先を1社に絞ります。1社に絞る前に候補先とトップ同士の面談も行います。

 

④基本合意の締結

売手と、売手が独占交渉権を付与した候補先との間で基本合意(MOU:Memorandum Of UnderstandingまたはLOI:Letter Of Intent※)を締結します。基本合意には、買収金額だけでなく最終契約締結までに確定させる諸々の条件等も記載します。時間的制約があるなどの理由で、基本合意の締結を省略する場合がありますが、多くの条件をしっかりと交渉し確定させた上で基本合意を締結するほうが最終契約締結の確度が高まりますので、特段の理由が無い限り基本合意は締結したほうが良いです。

 

⑤買収監査の実施

基本合意を締結した後、候補先が売手に対して買収監査(デューデリジェンス(DD:Due Diligence))を行います。買収監査は売手の規模や業種、取引の複雑さ等々を考慮した上で財務・税務・法務・労務・ビジネス(事業)の実態を調査します。買収監査の費用は候補先が負担します。買収監査をどこまで念入りに行うかによりますが、簡易な買収監査だと100万円ほど、徹底的に買収監査を行うと数千万円のコストになることがあります。

 

⑥最終契約の締結

基本合意時に確定しなかった条件の交渉やデューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な条件の交渉を行います。全ての条件が確定したら最終契約(DA:Definitive Agreement)を締結します。

 

⑦M&A後

最終契約が締結されて契約に基づく決済が行われたらM&Aは終わりではありません。買手にとってM&Aはあくまでスタート地点です。買収した会社との統合作業(PMI:Post-Merger Integration)が失敗してしまうと、M&Aの効果が薄れてしまいます。

 

なお、売り手が支援機関と契約してからクロージングまで、6か月~1年ほどの期間を要します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第13回:DCF法のポイント、将来キャッシュフローを求めよう、現在価値に割り引こう、DCF法の計算をしてみよう

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法のポイント

2.将来キャッシュフローを求めよう

①将来CF(キャッシュフロー)の予測

②フリーキャッシュフロー(FCF)

3.現在価値に割り引こう

①残存価値(Terminal Value)

②計算事例

4.DCF法の計算をしてみよう

5.非事業用資産(遊休資産)の加算

 

 

M&Aの場面だけではなく、事業上の判断や減損判定等多くの場面においてDCF法は使用されています。本稿では第12回に引き続き、DCF法の計算の流れについて見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1. DCF法のポイント


DCF法はざっくりお伝えすると企業・事業の「将来キャッシュフロー」を「現在価値に割り引いて」企業価値を算出する方法です。

 

そのため重要なポイントは以下の2点です。

 

 

 

企業・事業の将来キャッシュフローを算出するためには「将来のCFを予測する」ことと「FCF(フリーキャッシュフロー)を計算する」ことが必要になります。こうして求めたFCFを前回ご説明した「現在価値に割り引く」ことで、現時点での企業価値を算出することができます。

 

2. 将来キャッシュフローを求めよう


①将来CF(キャッシュフロー)の予測

企業の将来CF予測に際して、まずは予想貸借対照表・予想損益計算書を作ります。その際、企業の事業計画を反映させるとともに、当該計画の妥当性を検証(デューデリジェンス)します。第9回でご説明した事業計画分析ですね。

 

予想貸借対照表・予想損益計算書の作成は、シナジー効果等、合併に際してプラスの要素やマイナスの要素も組み込んだ計画が望ましいです。過去の財務指標推移を参考にして作成し、投資・人事計画等の事業計画を織り込みます。もちろん夢物語では信頼性に乏しいため、ある程度の説得力のある財務諸表を作る必要があります。

 

 

②フリーキャッシュフロー(FCF)

DCF法で使うのは「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念です。事業が産み出すキャッシュフローのことで、イメージとしては「債権者・株主に分配可能なキャッシュフロー」です。税金を支払い、必要な投資を行った後に債権者・株主に分配可能なキャッシュフローとなります。

 

 

 

 

P/Lの営業利益を出発点として、債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めに行きます。FCFの式は少し難解に見えますが、各項目をもう少し具体的に掘り下げていきましょう。

 

 

+営業利益×(1-税率)

税引後営業利益のことで、本業の成果である営業利益から税金分を差し引いた金額です。税金は国に支払う金額のため、債権者・株主に分配できません。そのため営業利益に帰属する税金部分を除くよう、×(1-税率)として簡便的に税引後営業利益を計算しています。

 

税引後営業利益のことを、専門用語でNOPAT(Net Operating Profit After Taxes)と言ったりします。

 

 

+減価償却費

減価償却費は営業利益の中に含まれていますが、現金支出を伴わない費用のため実際のキャッシュに影響を与えません。減価償却費は固定資産を期間配分計算しているに過ぎないので、特段現金は出ていきませんね。

 

今回必要となるのはキャッシュがいくら入るかの情報のため、営業利益に含まれている減価償却費を足し戻すことで、減価償却費の影響を排除し現金支出項目に絞っています。

 

非現金支出費用である減価償却費の影響を排除する点では、第8回でご説明したEBITDAの計算と同じ発想です。

 

 

▲(+)正味運転資本増加額

営業利益と現金収支のタイミングは通常異なります。売上や売上原価は先行して計上されますが、売掛金や買掛金は回収・支払に時間がかかります。そのため通常営業活動に投下されている資金を計算し、現金が必要になる部分を差し引きます。もちろん現金が余る場合は加算するので「正味」とついています。運転資本は各期において以下の通り求めます。

 

 

 

例えば以下の事例を考えてみましょう。売掛金と買掛金しかない会社で、運転資本が+20動いています。

 

 

 

×2年度において、売上高から手に入る現預金はいくらでしょうか。細かい条件は考えず、売上高は期末に1回のみ上がるとしましょう。

 

×2年に手に入る現預金は、×1年の売掛金精算分の100ですね。×2年の売上高はまだ売掛金なので、現金化されていません。

 

一方、×2年の損益計算書における売上高はいくらでしょうか。これは×2年に計上している売掛金分の130です。

 

 

×2年の営業損益計算においては130の売上を計上している一方、実際に流入しているキャッシュは100しかありません。そのため営業利益と実際に入っている現預金を比較すると、実際に入っている現預金の方が30小さい状況と言えますね。

 

運転資本はPL計上タイミングの方が早く、現預金の回収・支払タイミングの方が遅いために発生する状況です。

 

FCFでは債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めるため、営業損益をキャッシュフローに変換することが必要となります。今回の売掛金の例で言うと、営業損益から▲30する(30減算する)と、実際に手に入ったキャッシュに変換することができます。

 

これを買掛金でも同様に考えると、この会社の運転資本は全体として+20となっていますので、FCF計算上は正味運転資本増加分である20を減算することとなります。

 

 

 

▲設備投資額

固定資産の更新投資、新規投資等、必要な投資に係る支出を差し引きます。買収後に大規模な設備投資が予定されている場合には、その計画を反映させていくこととなります。

 

以上の計算を通して、各年度においてフリーキャッシュフロー(FCF)を求めます。

 

 

 

 

≪Column:より深くNOPATを知ろう≫


●なぜ「営業利益」を使うの?

企業価値を求める際は、債権者・株主に分配可能な、事業全体のキャッシュフローを計算する必要があります。そのため債権者に分配することとなる支払利息を差し引かないよう、便宜的に営業利益を使います。

なお、営業利益ではなく「営業利益+事業資産を源泉とする営業外損益」で計算されるEBITを使用することも多いですね。

 

●なぜ実際の税額ではなく「税引後営業利益」として計算しているの?

負債を有する場合、支払利息の税金軽減効果があるため実際の税金の方が小さいことが想定されます。しかし、DCF法においてこの税金軽減効果は第12回でご説明しているWACCの割引率に反映されています。

そのため、NOPATの段階では負債の税金軽減効果は考慮せず、株主資本100%とした場合(支払利息等がない場合)のキャッシュフローを用いるべく、営業利益に税率を乗じた値を差し引き、税引後営業利益としています。

 


 

 

3. 現在価値に割り引こう


①残存価値(Terminal Value)

これまで求めた各年度のFCFを、前回第9回でご説明した割引現在価値とすることで、企業価値を求めます。このとき、企業は永続的に続く前提を置くことが多いです。

 

読者の皆様も「30年後に企業が倒産する」といった前提は考えずに、永続的に企業が存続するつもりで日々仕事に取り組んでいるかと思います。この発想は企業価値評価の際も同様で、明確にいつ時点で解散すると決まっていない限り、永続的に存続するものとの仮定を置くことになります。

 

しかし、100年後・200年後までの計画は非現実的です。そこで実務上、5年~10年程度の事業計画を作成したうえで、その最終年度のFCFがずっと続くとして計算することが多いです。なお、30年後に終了することが分かっているような事業の場合は30年間のみしか考えませんし、その時点での解散価値を算出することとなります。

 

 

フリーキャッシュフローが一定 (ゼロ成長)の場合

 

 

フリーキャッシュフローが定率成長の場合

 

※上記の計算式は毎年のFCFに関する割引計算の数式について、年数n→∞としたときに導くことができます。無限等比級数と言われている式です。

 

算出した継続価値を現在価値に割り引いた上で、企業価値に加算します。

 

②計算事例

文章だけだと分かりにくい部分も多いので、簡単な事例を見てみましょう。

 

 

表にしてみると、毎年の流れは以下の通りです。

 

 

まずは残存価値を求めましょう。×6以降はFCF100百万円でゼロ成長(5年目と同様)ですから、継続価値は以下の通り2,000百万円となります。

 

FCF:100÷5%=2,000

 

 

継続価値のポイントは、CF計算開始年の前年の価値として表されることです。今回の例で言えば、6年目以降の継続価値を求めたので、継続価値2,000百万円は5年目における価値となります。

 

 

4. DCF法の計算をしてみよう


ここまでで各年度のFCFと、継続価値を求めてきました。DCF法に必要となる各年度のキャッシュフローの流れは全て算出したことになります。そこで、各年度のFCFを割引現在価値とすることで、事業の価値が算出されます。

 

年度毎のFCFに割引計算を行い、全ての価値を「現在」に合わせます。6年目以降の継続価値は5年目に反映されているため、計算自体は5年分で大丈夫です。1~5年目までのFCFを、各々割引計算しましょう。

 

 

上記式の通り、事業価値は1,946百万円となります。このようにして、事業の価値は算出されます。

 

 

5. 非事業用資産(遊休資産)の加算


最後に補足論点です。DCF法で算出した価値は「事業価値」となります。FCFは買収対象となる企業の事業から生じる価値ですね。特に使っていない非事業資産がない場合、この事業価値が「企業価値」となります。

 

一方、事業に用いていない非事業資産(遊休資産)があった場合、その売却によって手に入るキャッシュもまた企業の価値を構成します。そのため最後に遊休資産を加算することで「企業価値」となります。

 

 

 

 

なお、企業価値から有利子負債や非支配株主持分等を減額することで、株主にとっての価値である「株主資本価値」となります。

 

 

 

DCF法は一見すると複雑に感じますが、実は「FCFを求めて」「WACCで割り引く」だけの単純な構造です。実務上DCF法で重要なことは「どのように仮定を置くか」です。将来FCF・資本コスト・成長率等、多くの見積り要素があるため、1つ1つが信頼のおける見積りかどうかが、DCF法全体の計算結果に影響してくることとなります。

 

 

この連載も本稿で終了となります。M&Aは一見すると専門的であり、取っつきにくいと感じている方も多いかと思います。たしかに細かい論理は多々あり、実務を行う上では多くのことを確認していく必要があります。しかし、概要だけざっくりと確認するのであれば、そこまで難しい分野ではありません。全10回を通して、漠然としていたM&Aについて、ある程度でも具体的になっていただけたのであれば、大変嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■滞納固定資産税の”相続”問題にご用心

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

 

1.創設初年度(令和2年)は2,501件


低未利用土地等を譲渡した場合の100万円特別控除(租税特別措置法35条の3、以下「100万円控除特例」という)の適用状況が、国税庁の最新資料(資産税事務処理状況表)で分かりました。

 

それによると、制度発足の令和2年7月から年末までの令和2年分の適用件数は、全国で2,501件でした。12ある国税局別の適用件数は次の通りです(申告者住所地ベース)。

 

 

100万円控除特例の適用に必要な土地所在地の市区町村の確認書交付実績(国土交通省令和3年7月公表)によると、確認書交付実績は全国で2,060件。この中の約2割は共有だったとされています。国税庁のデータは国土交通省のデータをほぼ裏付けるものとなっています。

 

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001469388.pdf

 

ただ、国土交通省の公表によると、都道府県1団体当たり平均で確認書は44件とのこと。また、公表されたグラフを見ると、例えば東京国税局管内の東京・神奈川、千葉、山梨の確認書交付実績に比べ、明かに申告件数の方が上回っており、申告者の地元の物件ではなく、他の道府県の土地を譲渡している状況が見えてきます。

 

 

2.特例の概要


100万円控除特例は、個人が所定の低未利用土地等を譲渡し、譲渡の後の当該低未利用土地等の利用について、市区町村長の確認がされたものの譲渡であって、その対価の額の合計が500万円以内である場合に、譲渡所得の計算上100万円を控除する制度です。

 

この場合の譲渡対価500万円以内の判定は、例えば、土地が共有であれば所有者ごとに判定します(措置法通達35の3-2)。たとえば、兄弟2人で持分2分の1ずつ共有の土地を900万円で譲渡した場合は、兄弟で500万円ずつの枠があるため、2人合わせて1000万円以内となり、100万円控除特例の要件をクリアしたことになります。

 

 

3.低未利用土地とは


低未利用地等とは、都市計画区域内にある土地基本法第13条第4項に規定する低未利用土地とされています。具体的には、居住の用、業務の用その他の用途に供されておらず、又はその利用の程度がその周辺の地域における同一の用途若しくはこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っていると認められる土地や、その低未利用土地の上に存する権利のことです。

 

国土交通省が確認書を交付するにあたって出した文書「低未利用土地等の譲渡に係る所得税及び個人住民税の特例措置の適用に当たっての要件の確認について」によると、「低未利用土地とは、具体的には、空き地(一定の設備投資を行わずに利用がされている土地を含む。)及び空き家・空き店舗等の存する土地とする。

 

ただし、コインパーキングについては、一定の設備投資を行い、業務の用に供しているものではあるが、譲渡後に建物等を建ててより高度な利用をする意向が確認された場合は、従前の土地の利用の程度がその周辺の地域における同一の用途又はこれに類する用途に供されている土地の利用の程度に比し著しく劣っており低未利用土地に該当すると考えて差し支えない。」とされています。低未利用土地等に該当するかどうかは、これで判断するのがよさそうです。

 

 

4.その他の要件等


ただし、親族等所定の特別関係者への譲渡ではないこと、譲渡の前3年間に譲渡した土地を分筆して100万円控除特例の適用を受けている等所定の譲渡所得課税の特例を受けていないことが適用の要件です。

 

手続きは、確定申告書に計算明細書、譲渡した土地が低未利用土地等であること及びその利用について市区町村長が確認した確認書、その土地が分筆等され同特例の適用を受けていないこと等がわかる書類を付けて申告します。

 

適用期限は2022年12月31日まで。もっとも「空地・空き家」の増加を抑制する制度創設趣旨からすると、制度の適用期限延長も考えられます。しかし利用していない不動産に係る固定資産税等の固定費を削減し、保有財産のリストラをするには、活用しがいのある特例になっているので、チャンスがあるうちに検討したいところです。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/06/13)より転載

事業再生・企業再生の基本ポイント]

第8回:金融機関へのリスケのタイミングが金融機関ごとにずれてしまった場合はどのような取り扱いになりますか。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:大手企業の下請けを主な生業としていますが、どのようなことに気を付けたらよいでしょうか。

▷関連記事:コロナ禍における飲食店の事業再生の現状

▷関連記事:コロナ融資の返済が難しい場合の対応

 

 

 

金融機関への返済が難しくなった場合に、返済を一定期間ストップすることをリスケジュール(以下「リスケ」という。)と言います。リスケをする場合に、金融機関へリスケの要請をしますが、金融機関ごとに手続きが必要となるので、必ずしも同時に返済ストップとなるわけではありません。

 

例えば3つの銀行から借入をしていて、3月にリスケの依頼をした場合に、A銀行とB銀行は3月の返済を最後にリスケとなり、C銀行は手続きが間に合わず4月の返済を最後にリスケとなる場合です。C銀行の方が1か月分多く返済しているため、A銀行とB銀行とは不公平になることになります。これは偏波(へんぱ)弁済と言い、解消が必要となります。

 

解消するにあたって、C銀行から1か月分多く返済した分を返してもらうことではなく、リスケが終了して次に返済が始まるタイミングで調整をすることになります。

リスケ後の返済が、リスケ前と同じ条件であれば、A銀行とB銀行だけに1か月分先行して返済をすることがあります。

 

リスケ後の返済が、リスケ前と異なる条件となる場合があります。詳細については割愛しますが、金融機関に事業計画を提出し、事業計画上のキャッシュ・フローを返済原資として、各金融機関にリスケ前の借入残高の割合に応じて返済する方法(残高プロラタ)を用いる場合などがあります。残高プロラタを用いる場合には、返済原資から各金融機関に残高に応じて返済額を決めますが、C銀行についてはその返済額から多く返済した1か月分の金額を除きます。そして、ケースバイケースとはなりますが、C銀行に返済しないことで余剰となった返済原資をさらにA銀行とB銀行の借入残高に応じて按分した金額を返済します。

 

このようにして、リスケの開始時期の相違などから生じる偏波弁済による各金融機関の不公平については、再び返済を開始するタイミングで調整し、不公平を解消することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「非上場株式の譲渡所得における概算取得費」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】父から相続した建物を父の事業に従事していた者に低額譲渡した事例に対するみなし贈与課税の適用について

■【Q&A】取得した株式の取得価額と時価純資産価額に乖離がある場合 ~M&Aにおけるのれんの取扱い~


[質問]

非上場の同族会社であるA社及びB社の株式を売却した場合、譲渡所得の金額上控除される取得費について、A社の取得費は概算取得費(5%)を適用し、B社の取得費は実際の取得価額を適用して差し支えないでしょうか。どちらかに統一する必要があるでしょうか。

 

[回答]

譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とされています(所得税法第38条第1項)。
この規定により、取得費は、譲渡された資産ごとに計算されるのが相当と考えられます。

 

一方、個人が昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、所得税法第38条及び第61条の規定にかかわらず、当該収入金額の100分の5(5%)に相当する金額とすることとされています(概算取得費控除・租税特別措置法第31条の4第1項)。

 

なお、概算取得費控除の規定は、土地等又は建物等の譲渡に関する規定なので、土地等又は建物等以外の資産を譲渡した場合には適用されないことになりますが、実務上は、株式等を譲渡した場合であっても次のように土地等及び建物等を譲渡した場合と同様に取り扱われます。

 

租税特別措置法取扱通達37の10・37の11共-13《株式等の取得価額》
株式等を譲渡した場合における事業所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費又は取得費に算入する金額は、所得税法第37条第1項《必要経費》、第38条第1項《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》、第48条《有価証券の譲渡原価等の計算及びその評価の方法》及び第61条《昭和27年12月31日以前に取得した資産の取得費等》の規定に基づいて計算した金額となるのであるが、譲渡をした同一銘柄の株式等について、当該株式等の譲渡による収入金額の100分の5に相当する金額を当該株式等の取得価額として事業所得の金額若しくは雑所得の金額を計算しているとき又は当該金額を譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費として計算しているときは、これを認めて差し支えないものとする。

 

以上から、本件の株式の譲渡所得の計算における取得価額については、その株式の同一銘柄ごとに取得価額を計算するのが相当であることから、A社の株式に概算取得費控除を適用し、B社の株式に実額による取得価額を適用して、それぞれ申告することで差し支えないと考えられます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年3月14日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第11回:M&Aの後も売手企業の社長やキーマンから十分な引継ぎ、或いはこれまで同じように働いてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

 

 

 

売手企業の社長やキーマンは、特に営業系や技術系である場合に、売手企業の業績を支えるのになくてはならない存在であることが多いです。ある程度規模の大きい会社で、組織が整えられて、権限移譲が進んでいる会社は中小企業ではあまり多くなく、やはり社長などがトップセールスであったり、新製品の開発などをしていることが多々あります。このような場合は、売手企業の社長が抜けてしまうと業績が低下する可能性が高くなります

そうならないように、売手企業の社長から十分な引継ぎをしてもらうか、そのまま社長として働いてもらうことを検討しなくてはなりません。ただし、当然ですが、売手企業の社長はM&Aが終わると、株式を持っていない状態になるので、売手企業に対する関心は以前より低下することになります。

 

売手企業の社長に引継ぎを依頼する場合には、一定程度の報酬を支払う事が一つの選択肢となります。無償で引継ぎをしてくれるケースもありますが、無償の場合は引継ぎ期間や引継ぎ内容などどうしても売手企業の社長の都合などに左右されてしまいますし、多くの時間を必要とする場合は無償なのにこんなに時間を取らせて申し訳ないという気持ちになり、100%の引継ぎをすることが難しかったりするケースもあります。報酬を払うことで、売手企業の社長にも仕事としてコミットしてもらい、買手側もなんでも聞きやすい状況になるため、結局は有償の方が双方満足されるケースが多いです。

 

また、売手企業の社長がM&A成立後も引き続き社長として働くケースを考えます。この場合は、役員報酬という形で報酬を支給することになりますが、これまで株式を保有しながら経営してきた社長が、株式を持たずに役員報酬だけというのはどうしてもモチベーションが上がらないことが多いです。かといって多額の役員報酬を渡すのも難しい場合にはアーンアウト条項を使うのが一つの手段となります。

 

アーンアウト条項とは、M&A成立後特定の目標を達成した場合、買手企業が売手企業に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払うことです。

 

具体的な条項としては、5年後までに営業利益1億円達成したら、追加で売手企業の社長に株式の売却対価として5千万円支払うなどの条項を付すことで、売手企業の社長としては、業績を達成するモチベーションが上がり、買手企業としても業績が上がることで支払いも行いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

■生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

 

【問】

甲さんは令和4年5月に死亡しました。甲さんの相続人は子のAさん1人であり、Aさんは甲さんの遺産を全て相続しています。甲さんは平成30年に要介護認定を受けた後、自宅を離れて介護付き老人ホームに入所し、相続開始まで退所せずにそこで暮らしていました。甲さんの自宅はしばらく空き家となっていましたが、Aさんが令和元年に甲さんの旧自宅に転居し、甲さんの相続開始まで居住していました。またAさんは、甲さんが老人ホームに入所する直前において甲さんと生計を別にしていました。
上記の場合において、甲さんに係る相続税の計算上、Aさんは租税特別措置法(措法)69条の4の特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

 

【結論】

甲さんの自宅だった建物(旧自宅)は、甲さんが老人ホームに入所後、別生計のAさんの居住の用に供されていることから、その敷地は相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地に該当せず、本特例の適用を受けることができません。

 

【理由】

(1)本特例の概要

個人が相続又は遺贈により、相続開始の直前において、被相続人又は被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。)を取得する場合、一定の要件の下で、その宅地等のうち限度面積(330㎡)までの部分について相続税の課税価格に算入すべき価額を80%減額できる制度をいいます(措法69条の4第1項)。

(2)被相続人の居住の用に供されていたかどうかの判定の原則

本特例の対象となる「被相続人の居住の用に供されていた宅地等」の判定は、被相続人が、その宅地等の上に存する建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより行います。

 

具体的には、被相続人の日常生活の状況、その建物への入居目的、その建物の構造や設備の状況、生活の拠点となる他の建物の有無その他の事実を総合的に考えて、居住の用に使用されていたかどうかを判定します(措法69条の4第1項、第3項2号、国税庁HP「質疑応答事例」)。

(3)被相続人が老人ホームに入所したことにより自宅が空き家であったときに、その敷地について本特例の適用が認められる場合

被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所し、一度も退所せずに死亡した場合は、その建物の敷地を特定居住用宅地として本特例の適用を受けられるかどうかが問題となります。被相続人が居住していた建物を離れて老人ホームに入所したような場合は、一般的にはそれに伴い被相続人の生活の拠点も老人ホームへ移転したものと考えられます。

 

しかし、被相続人が老人ホームに入所したことにより、相続開始の直前においてそれまで居住していた建物を離れていた場合であっても、次の①と②の要件を満たすときには、被相続人が居住していた建物の敷地は、相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた宅地に該当するものとして、相続税の計算上、本特例を適用することが認められます。

 

①介護保険法に規定する要介護認定又は要支援認定を受けていた等の被相続人が、有料老人ホーム等の施設又は住居に入居又は入所していたこと(措法施行令40条の2第2項)。

 

②被相続人の居住の用に供されなくなった後に、あらたにその宅地等を次の用途に供していないこと(同条第3項)。

イ.事業(貸付けを含む。)の用
ロ.【被相続人又は老人ホームへ入所する直前において同一生計であり、かつ、被相続人の自宅に引き続き居住している親族】以外の者の居住の用

 

(4)本件へのあてはめ

甲さんの旧自宅は、相続開始の直前においてAさんが居住しており、Aさんは甲さんの老人ホーム入所直前において甲さんと別生計であったことから、上記(3)②の要件に該当しません。よって(3)の場合には該当せず、本特例の適用を受けることができません。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/05/30)より転載

[ゼロからわかる事業再生]

第6回:自力再建かM&A かの選択

~自力再建とは、スポンサー支援型(M&A型)再建とは、自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合~

 

[解説]

髙井章光(弁護士)

 

 

[質問(Q)]

窮境状況に至り、このままでは破産となってしまうため、事業再生を行いたいと思いますが、自力再生とスポンサー支援を受けたM&A を行う場合の違いについて教えてください。

 

 

[回答(A)]

事業再生をめざす場合、その経営陣において経営をあきらめてしまっているような場合以外においては、まずは当該会社が自助努力によって経営改善、事業収益力の改善を図ることになります。

 

しかし、収益力が自力ではなかなか上がらず、債権者から了解を得ることができる状況まで再建策を講じることが難しい場合には、第三者の支援を得て、その資金力、経営力、事業シナジーなどによって、債権者への返済を実施し、事業収益力を改善することをめざすことになります。この第三者から支援を受けるに当たり経営権を第三者に譲渡する場合をM&A といいます。

 

 

 

1.自力再建とは


自力再建とは、窮境状況にある会社において、事業再生の手続の中で、一定期間の支払猶予を得ながら、経営改革や事業収益力の改善策を構築し実践することで、事業を立て直すことです。事業収益力が回復したとしても、支払猶予となっている過大な負債の処理が問題として残りますが、事業再生の手続内にて、債務免除を得ることができれば、再生が可能となります。

 

債務免除後の適正規模となった負債に対する返済は、基本的に改善した事業による収益をもって長期間の分割弁済を実施することになります。

 

2.スポンサー支援型(M&A型)再建とは


自力再建が困難である場合に、スポンサー支援を受けることでより安定した再建を図ることを目的として、第三者の支援を受ける方法です。

 

第三者からの支援としては、業務提携など資本参加がない形で行う場合もありますが、窮境状況にある会社の再建においては、資本参加を必要とする場合が多く、出資を受けて共同経営となる方法のほか、株式譲渡や合併、既存株式の減資後に出資する形にて、経営権を譲り渡す場合も多くみられます。

 

そのほか、事業の一部を譲り渡す方法として事業譲渡や会社分割の手法がとられることもあります。資金支援を受ける形の場合には、通常、その資金をもって債務免除後の債務に対して一括にて弁済が行われます。

 

3.自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合


自力再建ではなく、スポンサー支援を最初から求める場合もありますが、自力再建をまず検討することの方が多いと思います。自力再建を最初に検討し、自力再建がうまく行かない結果になったときにスポンサー支援を求めることになります。

 

自力再建がうまく行かない場合としては、①事業再生を実施するだけの資金的余裕がない場合、②負債が過大であり、自力再建による収益力では再建計画を立てることができない場合、③経営者に適任者がいない場合、④債権者において従前の経営陣による自力再建を拒絶した場合が考えられます。

 

事業再生を実施する場合には、通常は半年以上の時間がかかることになるため、この期間に資金ショートが生ずるほど資金不足が甚だしい場合には、即時にスポンサーを探して資金的支援を得る必要があります。工場などにおいて近い将来に高額の設備投資が必要不可欠であるような場合にも、その資金負担ができず、自力再建では事業継続は困難であり、スポンサー支援が必要となります。

 

 

 

 

また、自力再建によって、一定の収益を上げて返済原資を作ることができたとしても、例えば、優先債権である公租公課の滞納額が大きく、この返済が精一杯であって、支払猶予を受けている金融機関等への返済がまったくできないのであれば、足りない弁済資金をスポンサー支援によって賄う必要が生じます。

 

さらに、現社長が高齢であったり、経営責任をとって退任するような場合に、後継者となる者が不在であれば、そもそも会社経営が成り立たないため、第三者に経営を委ねることになります。

 

債権者によってスポンサー支援型とするよう求められることもあります。すなわち、現経営陣は経営を継続する意思があるものの、それまでの経営内容から、経営責任を問われ、金融機関から経営者交代を求められ、又は第三者のスポンサー支援による経営でないと再建策を支援しない旨の意向が示されることがあり、このような場合にもスポンサー支援を必要とすることになります。

 

スポンサー支援を意図しても、適切なスポンサーを探すことには大変な苦労が伴い、うまく行かない場合もあるため、適切なスポンサーを見つけられず、やむを得ず自主再建を継続する場合もあり得ます。

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産所得の計算で争いになった最近の事例

■借地人の建物を地主が取壊した際の費用をめぐる税金トラブル

 

 

1. 借入金の借換え後に相続


賃貸不動産経営のリストラに伴って、不動産の一部
売却と借入金圧縮を経て事業を継いだ相続人が、借入金利子の必要経費算入をめぐって、税務署とトラブルになった事案があります(千葉地裁令和2年6月30日判決・棄却・完結)。

 

判決によると、Xさんは平成元年に16億5千万円を借入して、SRC造7階建ての建物を新築し、その後賃貸用建物設備資金と運転資金、その他設備資金併せて1億5千万円を上乗せしました。

 

しかし平成20年になって、事業をリストラするため、Xさんの息子YさんとYさん自身が運営する会社(Y社)に賃貸不動産の持ち分4分の3を譲渡するとともに、譲渡資金と借換えの借入金で、元の借入金を全額返済し、借入金総額を約6億2,500万円に圧縮しました。その後、Xさんが亡くなり、Yさんが残りの賃貸不動産の持ち分と借入金残高約5億3千万円を相続し、事業を承継しました。

 

 

 

 

 

 

そこでYさんは、不動産所得の計算上、借換えした金融機関に支払った利子を全額必要経費に算入して申告したところ、税務署が支払利子の一部を必要経費に認めないとして否認しました。

税務署によると、Xさんが生前リストラでYさんやY社に建物の持ち分4分の3を売っていたから、それに対応する借入金の借換部分に相当する金額の利子は必要経費と認めるわけにはいかないというのです。

 

Yさんは最終的に借入金利子の全額を必要経費に認めてもらうため、裁判所に訴えました。

 

税務署は、借入金約10億4,431万円のうち、一括返済直前の建物の取得に係る2つの借入金残高の4分の1の金額とXさん(母)の不動産貸付業務の借入金の残高の合計額の占める割合=業務関連割合29.67%として、この割合を支払利子に乗じた金額に限り必要経費になるとしています。

 

2. 争点と判断


争点は「不動産所得の必要経費に算入すべき借換借入金に係る支払い利子は、業務関連割合29.67%を乗じた金額に限られるか」です。

裁判所は、まず、不動産所得の計算上必要経費に算入すべき金額について所得税法37条1項で「その年分の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額」と規定されていることを確認。

 

次に、借入金利子の必要経費該当性について、「借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用として当該業務との関連性が認められる場合、その借入金についてある年中に支払われた借入金利子は不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てる資金の融通を受けていることについてその年中に支出された対価であるから、その年における不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として当該業務との関連性が認められ、一般対応(期間対応)に必要経費に該当するというべき」と説示。

 

そして借入金の位置づけについて「借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用である場合とは、(中略)借入金が不動産所得を生ずべき業務についての費用に充てられるものである場合をいうと解される」としました。

 

具体的には税務署や国税不服審判所で業務関連があるとされた借入金①②の4分の1、③④(ここまで業務関連割合29,67%)このほか借換時に追加された母親の業務の運転資金の借入金192万円余りも業務関連性を認め、業務関連割合を29.88%と認定しました。

 

しかしこの業務関連割合に基づいて計算し直しても更正時の税額を上回ったため、納税者の請求を棄却しています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/04/27)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

■地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

【問】

Aさんは、令和2年1月に兄から相続により賃貸用建物とその敷地(以下「本件不動産」)の全部を取得し、同10月にその相続に係る相続税について申告書の提出と納税を行いました。

 

Aさんは高齢で、自ら本件不動産の管理運用を行うことが難しいため、令和3年1月に㈱Xとの間で、本件不動産を賃貸用として㈱Xに管理運用させることを目的として、委託者兼受益者をAさん、受託者を㈱X、本件不動産を信託財産とし、建物の維持管理、家賃の管理、賃借人の募集等の不動産賃貸に係る業務を委託する信託契約(以下「本件信託」)を締結しました。

 

その後Aさんは、令和4年4月に本件信託に係る信託受益権を㈱Yに譲渡(以下「本件譲渡」)しています。
この場合、Aさんは、本件譲渡について租税特別措置法(措法)第39条の「相続税額の取得費加算の特例」(以下「本件特例」)の適用が認められますか。

 

【結論】

本件特例の適用が認められるものと考えます。

 

【理由】

(1)信託とは

「信託」については、信託法第2条第1項に定義規定が定められています。関連する他の規定を併せて同項が規定する信託の意義をわかりやすく言えば、信託とは不動産などの資産を所有する人が「委託者」となり、信託契約等の信託行為により、その信頼できる人(「受託者」)にそれらの資産を移転し(その移された資産を「信託財産」といいます。)、受託者が、信託行為で定めれたー定の目的に従って、同じく信託行為で定められた「受益者」のために、信託財産の管理や処分等を行うしくみをいいます。

 

 

(2)本件特例とは

相続又は遺贈により資産を取得し、その相続等につき相続税がある個人が、その相続等により取得した資産で、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入されたものを、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告書の提出期限(相続開始のあったことを知った日の翌日から10ヶ月以内。

 

以下「相続税の申告期限」という。)の翌日以後3年以内に譲渡した場合、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費に、その者の相続税のうち一定額が加算されます(措法第39条)。

 

本件特例の適用を受けることにより、相続税のうち取得費に加算された金額だけ譲渡所得の金額が少なくなり、結果として課税される譲渡所得の金額が小さくなります。

 

 

(3)本件特例の適用が認められると考える理由

本件特例の適用対象となる譲渡とは、(2)のとおり相続等により資産を取得した個人で、その相続等につき相続税額のあるものが、一定の期間内にその相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産について行った譲渡です。

 

しかし、本件譲渡は相続により取得した資産(本件不動産)の譲渡ではなく、信託受益権の譲渡であることから、本件特例の適用があるのか疑問が生じるところです。

 

この点について所得税法第13条第1項では、信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は、集団投資信託等の一部の信託を除いて、当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなす旨を規定しており、所得税基本通達13−6は、同項に規定する受益者が受益権の譲渡を行った場合には、その権利の目的となっている信託財産に属する資産及び負債が譲渡されたこととする旨を定めています。

 

さらに措法通達31・32共-1の3は、信託財産に属する資産が分離課税とされる譲渡所得の基因となる資産である場合における当該権利の譲渡による所得は、原則として分離課税とされる譲渡所得となり、措法第31条又は第32条の規定その他の所得税に関する法令の規定を適用する旨を定めています。

 

以上により、Aさんは本件譲渡につき本件信託の信託財産である本件不動産を譲渡したものとなります。本件不動産はAさんが兄から相続により取得した資産で、兄の相続に係る相続税の課税価格に算入されており、Aさんは兄の相続税を納付後、本件不動産を相続税の申告期限の翌日以後3年以内に譲渡していることから、その譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適用が認められるものと考えます(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」213~215頁)。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/04/11)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】対象会社の代表者経験のない人から株式贈与を受けた場合の贈与税の特例措置の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

■【Q&A】2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の取得費の計算

 

【問】

㈱Xは発行済株式(すべて議決権あり)の80%を乙(甲の妻)、20%を同社代表取締役の丙(甲の長男)が保有していました。乙はX社の株主ですが、同社の取締役を務めたことがありません。乙は、2012年に死亡した甲(死亡当時X社代表取締役でその株式を全て保有)から、相続税の配偶者の税額軽減の適用を受けるためにX社の発行済株式の80%を相続しています。

 

後継者である丙は、甲からX社の発行済株式の20%を相続しており、2012年以降、同社の代表取締役です。乙と丙は、甲から相続により取得したX社株式について、非上場株式等に係る相続税の納税猶予及び免除(租税特別措置法(措法)70条の7の2)の適用を受けていません。

 

乙は、2022年に保有するX社株式を全て丙に贈与しました。この場合、乙からの贈与により取得したX社株式について、丙は非上場株式等に係る贈与税の納税猶予及び免除の特例(措法70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けることができますか。なおX社は、贈与税の特例措置の適用対象とされる特例認定贈与承継会社(以下「対象会社」)に該当します。

 

【結論】

X社株式を贈与した乙は、後述の解説の通り「特例贈与者」に該当しないことから、その贈与を受けた丙は、贈与税の特例措置の適用を受けることができません。

 

【解説】

贈与税の特例措置の適用を受けるためには、その非上場株式の贈与をした者が「特例贈与者」に該当する必要があります(措法70条の7の5第1項)。特例贈与者とは、措法施行令(措令)40条の8の5第1項(以下「政令」)第1号または第2号の場合の区分に応じ、それぞれに定める者をいいます。

 

この政令において、第1号は「第2号に掲げる場合以外の場合」と定められているので、まず、乙から丙に対するX社株式の贈与が、「政令第2号に掲げる場合」に該当するかどうかを検討します。

 

乙によるX社株式の贈与が「政令第2号に掲げる場合」に該当するのは、その贈与の直前において次のイ、ロ又はハのいずれかの者がいる場合です(措令40条の8の5第1項2号)。

 

イ.対象会社・X社の株式について、既に贈与税の特例措置、非上場株式等に係る相続税の納税猶予及び免除の特例(措法70条の7の6。以下「相続税の特例措置」)又は非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例(同70条の7の8)の適用を受けている者

 

ロ.その贈与の時前に、政令第1号に定める者(同号の場合で、対象会社・X社の代表権を有していたなど一定の要件を満たす者をいう。)から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりX社株式を取得している者(イに掲げる者を除く。)

 

ハ.その相続の開始前に特例認定承継会社(相続税の特例措置の対象会社をいう。)の代表権を有していた者から、相続税の特例措置に係る相続または遺贈により対象会社・X社の会社の株式を取得している者(イに掲げる者を除く)。

 

ご質問の場合、乙から丙へのX社株式の贈与の直前において、X社株式につき贈与税の特例措置等の適用を受けている者がいないので、イの要件を満たすことができません。

 

この贈与の時前にX社の代表権を有していた者から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりX社株式を取得している者がいない(乙から丙へのX社株式の贈与は、乙がX社の代表権を有していたことがないので、「政令第1号に定める者」からの贈与には該当しません。)ので、ロの要件を満たすこともできません。

 

さらに相続税の特例措置に係る相続または遺贈によりX社株式を取得している者もいないので、ハの要件を満たすこともできません。以上により、イ~ハに該当する者がいないので、乙の贈与は「政令第2号に掲げる場合」には該当しません。

 

上記より乙の贈与は、「政令第1号の場合」に該当することになりますが、政令第1号の場合、乙が対象会社・X社の代表権を有していたことが特例贈与者の要件とされ、乙は代表権を有していたことがないので、特例贈与者には該当しません。このため、丙は贈与税の特例措置の適用を受けることができません。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/03/28)より転載

[解説ニュース]

利用価値が著しく低下している宅地(忌み施設近接)評価の現在

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

 

1、土地評価の10%減が適用される場合


土地の相続税評価の取扱いで認められている「10%評価減」は、付近の土地の利用状況と比較して著しく利用価値が低下している土地の部分に適用できるものとされています。国税庁のホームページでは例示として次のように記載があります。

 

(1)道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
(2)地盤に甚だしい凹凸のある宅地
(3)震動の甚だしい宅地
(4)(1)から(3)までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの

 

ただし、こうしたマイナス要因が路線価又は固定資産評価額又は倍率に反映されている場合には、重ねて減額が認められることはありません。

 

 

2、最近の事例から


最近、相続税評価の対象となった土地の近隣にお墓があったケースで、上記の10%評価減の適用の是非が問われた事例がありました(国税不服審判所令和3年8月30日裁決)。取引金額への具体的な影響が細かく問われるため、なかなか適用を認めてもらえないケースが少なくないようです。

 

ここでは、上記の10%評価減の適用を巡る争点に絞ってお伝えします。問題となった土地は、間口が約24m、奥行きが約52mの長方形状の土地で、東側に大きな通りがあるほか、南側に幅員2.5mの里道を隔てて、約600㎡の墓地があったというものです。

 

この土地は相続の開始時点で、駐車場と賃貸住宅の敷地として利用されていました。賃貸住宅は全12戸のうち3戸空室でした。相続人(納税者)は、こうした事情を踏まえ上記10%評価減の適用があるものとして相続税の減額を求める「更正の請求」を経て審査請求に及びました。

 

 

3、納税者の主張


納税者の主な主張は次の通りです。

 

(1)問題の土地の目前に墓地がまとまって存在しているため、心理的嫌悪感等により、取引金額に影響を受けることは明らか。
(2)建物は、本件相続開始当時、その空室率は25%であった。予定している賃料収入の25%が得られない状況が取引金額に影響を及ぼさないとはいえない。

 

 

4、審判所の判断


審判所は、まず、納税者が更正の請求で減額を求める場合の立証責任について「一旦申告書を提出した以上、その申告に係る財産の評価に誤りがあることは、最終的に納税義務者の責任において明らかにすべきもの」として、土地の取引金額に影響を及ぼす事情の立証責任が納税者側にあることを示しました。

 

その上で審判所は「忌み等を理由とする減額評価が認められるためには、忌み施設が存すること等の事情による当該宅地の取引金額への影響が、当該宅地の減額評価を正当化する程度に具体的なもので(中略)あることを要する」と判断基準を提示、次のような事実関係を追加的に確認しました。

 

(1)墓地は明治時代から村民の墓地として使用。
(2)問題の土地の固定資産評価において、固定資産評価基準にある「所要の補正」として墓が近接していることによる減額はされていない。納税者は固定資産評価に対する審査申出をしていない。

 

審判所は検討を経て「墓地の存在を理由に売買契約の締結に至らなかった事例の有無や土地及び墓地の周辺に存する宅地の売出価格及び売買契約の成約価格の状況、土地及び墓地の周辺に存する賃貸物件の空室率やその推移といった事情は明らかではなく、墓地の存在が宅地の取引金額や賃貸状況に影響していることを具体的に認めるに足りる事情はうかがわれず、当審判所の調査によっても、墓地の存在が土地の取引金額に影響しているというべき具体的事情は認められない」としました。

審判所は最終的に「忌み施設である墓地の存在が隣接宅地の取引金額に影響する一般的抽象的可能性は否定できない」としながらも、10%減の補正は必要でないと判断しています。

 

納税者には、①忌み施設が近接し心理的嫌悪感があり、受忍限度を超えていること、②周辺の他の土地に比べ土地の価格が下がっていること、③路線価等にその事情が織り込まれていないことの立証が求められていました。最近の事例としてより精緻な立証が求められた事例だったといえそうです。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/03/15)より転載

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

中小企業活性化パッケージが策定されました。

 

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:新型コロナ対策融資と特例リスケ ~事業再生の専門家の観点から~

▷関連記事:家賃支援給付金の詳細情報が公表(2020年7月7日)。制度内容は、給付額は、申請方法は。

▷関連記事:コロナ融資の返済が難しい場合の対応

 

 

 

経済産業省は3月4日、金融庁、財務省と連携して「中小企業活性化パッケージ」を策定しました。コロナ禍の資金繰り支援を継続しつつ、中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを促す総合的な支援策を展開します。新たな「中小企業の事業再生等のガイドライン」を策定・活用するほか、事業再構築補助金に補助率の高い「回復・再生応援枠」も創設します。

中小企業活性化パッケージでは、コロナ禍の資金繰り支援を継続しながら、中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジを促す総合的な支援策が展開されています。

 

コロナ資金繰り支援の継続、年度末の資金需要への対応

①年度末の年度末の事業者の資金繰り支援等のための金融機関との 意見交換・要請

②セーフティネット保証4号の期限を2022年6月1日までに延長

 

来年度以降の資金需要への対応

①実質無利子・無担保融資、危機対応融資の期限を2022年6月1日までに延長

②日本政策金融公庫の資本性劣後ローンを来年度末までに延長

③納税や社会保険料支払いの猶予制度の積極活用・柔軟な運用の継続

 

中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援

収益力改善フェーズ

①認定支援機関による伴走支援の強化

DD・計画策定支援費用およびモニタリング費用で補助上限200万円から300万円に増額

②中小企業活性化協議会(旧中小企業再生支援協議会)による収益力改善支援の強化

現行の特例リスケジュール支援が名称および内容を拡充して継続

 

事業再生フェーズ

①再生ファンドの拡充

コロナの影響が大きい業種(宿泊、飲食等)を重点支援するファンドの組成等

②事業再構築補助金に「回復・再生応援枠」を創設

通常よりも補助率を引き上げ(補助率3/4(中堅2/3))

③中小企業の事業再生ガイドラインの策定

私的整理を支援する支援制度で、専門家費用等の補助率2/3、補助上限は伴走支援費用を含む700万円

 

再チャレンジフェーズ

①経営者の個人破産回避のルール明確化

経営者保証ガイドラインに基づく保証債務整理に対して金融機関が誠実に対応するとの考え方を明確化

②再チャレンジに向けた支援の強化

中小機構の人材支援事業を廃業後の経営者まで拡大

 

 

 

[関連リンク]

中小企業活性化パッケージを策定しました (meti.go.jp)

中小企業の事業再生等に関するガイドライン(令和4年3月)

事業再構築支援のご案内|事業再構築補助金(meti.co.jp)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人が法人に時価の1/2未満の価額で株式を譲渡した場合の取扱い」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業譲渡に当たっての適正価額について

■【Q&A】取得した株式の取得価額と時価純資産価額に乖離がある場合 ~M&Aにおけるのれんの取扱い~

 


[質問]

所得税法59条の適用についての照会です。
甲社(非上場会社)の議決権の割合は
A(個人)         70
B社(Aの同族関係会社) 200
C社(他の株主とは無関係)200
D社   ( 〃 )   200
E(個人)( 〃 )    70
合計740個です。

甲社の原則的評価方式によった株価は700,000円、特例的評価方式では50,000円です。
Aの持株を甲に350,000円未満で譲渡した場合は、みなし譲渡の適用があると考えてよいでしょうか。

 

[回答]

1 ご意見のとおり、A(個人)が甲社(法人)に対して時価の1/2未満の価額で甲社株式を譲渡した場合には、低額譲渡としてみなし譲渡の対象となります(所法59①二)。

 

 

 

2 AとB社の議決権数は270個、議決権総数は740個ですので、AとB社の議決権割合は36.48%となり、両者は同族株主に該当します。このため、Aの所有する甲社株式の時価は、原則的評価方式の700,000円(1株当たりかどうかは不明)となります。

 

そうすると、時価700,000円の甲社株式を350,000円未満で甲社に譲渡した場合には、自己株式の取得に該当しますが、その場合でも低額譲渡としてみなし譲渡の対象となります(措通37の10・37の11共-22)。

 

具体的には、時価@700,000円、譲渡対価@340,000円、資本金等の額@50,000円とした場合、「340,000円-50,000円=290,000円」部分がみなし配当の、「700,000円-340,000円=360,000円」部分がみなし譲渡(株式譲渡益課税)の対象となります。なお、資本金等の額@50,000円部分は、みなし譲渡に該当するかどうかにかかわらず株式譲渡益課税の対象です。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2021年10月18日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[事業再生・企業再生の基本ポイント]

第7回:事業再生における財務DDとは何ですか?-実態純資産

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点-

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷関連記事:経営状態の把握と事業再生

 

 

事業再生における財務DDでの実態純資産の分析は、最も重要な分析項目の1つです。簡便的に財務DDを行う場合でも、必ず行う分析となります。

 

監査法人の監査を受けていない中小企業は多くの場合、上場企業のような精緻な会計処理を行ってはいません。中小企業ごとに従っている会計処理がバラバラで、企業によっては貸倒処理をしていなかったり、固定資産を除却しても固定資産台帳上は消し忘れていたりと、企業ごとに様々な決算内容となっています。これらを一定の基準で分析し、本来あるべき純資産の金額を把握するための分析が実態純資産の分析です。

 

 

 

 

 

上記の表に分析内容、グラフに分析結果を示しています。

 

 

 

【実態純資産】

決算内容が実態純資産の分析は、調査対象期の帳簿純資産からスタートします。帳簿純資産から、調整項目を調整し、実態純資産を分析します。この実態純資産は事業用不動産は簿価であることから、事業継続を前提とした純資産ということになります。

 

調整内容の具体例を下記に説明します。

 

a.回収可能性に疑義のある売上債権

得意先が倒産してしまっている場合や、長年得意先やその代表者と連絡が取れなくなってしまっている場合などは、回収可能性が低く、売上債権の資産性が認められません。このような場合に、売上債権を回収可能な金額まで減額するなど、貸倒評価を行い、純資産の調整項目とします。

 

b.長期間滞留している棚卸資産の評価減

もう販売していない商品や、数年単位で滞留している商品は販売して収益化される見込みが低く、棚卸資産の資産性が認められません。このような場合に、一定の基準を置いて、棚卸資産の評価減を実施し、純資産の調整項目とします。

 

c.固定資産の減価償却不足額

中小企業は減価償却は、利益が出た時に償却し、赤字の場合は償却しないなどの会計処理をしている企業が少なくありません。減価償却を調整している企業は、毎期減価償却を実施してきた企業と比べて固定資産の簿価が高くなっています。毎期減価償却を実施している企業と同じ条件で評価するため、減価償却の再計算を実施し、適正な簿価を把握します。適正な簿価と現在の簿価との差額を純資産の調整項目とします。

 

 

【不動産含み損益調整後実態純資産】

実態純資産から、事業用不動産含み損益を調整し不動産含み損益調整後実態純資産を分析します。不動産含み損益調整後実態純資産は、事業用不動産についても時価評価していることから事業継続を前提としていない純資産の金額ということになります。

 

 

【中小企業特性考慮後実態純資産】

中小企業は、会社と代表取締役とを一体と見た方が実態と即している場合が多いため、代表取締役の資産を企業の純資産に加える調整を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

建物の取壊費等が土地の取得費になるかどうかで争った事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■貸家建築のため既存建物を取壊した場合の取壊し損失等に係る所得税の取扱い

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

1、不動産所得の必要経費それとも…


貸付の事業用などとして土地とともに買っていた建物を後で取壊した場合、建物の価額と取壊費用は、不動産所得の計算上、必要経費になる場合があります。それは、居住者の「事業の用に供される固定資産その他これに準ずる資産で政令で定めるものについて、取りこわし、除却、滅失その他の事由により生じた損失の金額はその者のその損失の生じた日の属する年分の(中略)必要経費に算入する」(所法51)との規定によるものです。

 

一方、建物の取得費と取壊費用が、土地の取得費になる場合もあります。それは、土地と建物等と共に取得した場合で、「その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手するなど、その取得が当初からその建物等を取壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」です(所基通38-1)。
節税の観点からすると、土地の取得費になってしまうのは不利です。その点につき、税務署と争った裁判例が下記の通りです(山形地裁令和3年3月9日判決)。

 

 

2、事案の概要


事案の概要、経過は次の通りです。

 

(1)土地所有者Aさんは、平成27年4月頃、事業者B社から、Aさんの保有土地とともに「倉庫・店舗などの建っている隣地Cも一緒に借り受けたいと話を持ち掛けられました。

 

(2)ただ、隣地Cは他人の土地です。そこでこの際、B社はAさんに、隣地Ⅽも買うことを勧めました。B社は、隣地Cの倉庫などにつき自前で取壊す方針であったということです。

 

(3)Aさんは、同年7月、隣地Cを持つDさんを相手に買取交渉に入り、相場より高い9,000万円で話をまとめました。

 

(4)ところが隣地C土地の売買契約の決済日である8月5日以前に、B社が土地を借り受ける話が壊れてしまいました。

 

(5)Aさんは、仕方なく賃借人の募集を開始しました。ただし、倉庫・店舗の建物は、20年近くテナント入居がなく、屋根や壁の修繕が必要だったため、募集広告には「大幅な修繕が必要」と記載していました。

 

(6)同年11月にE社から借受の申し込みがあり、E社の要望で建物を取り壊すことにしました。

 

(7)Aさんは、平成27年・28年分の不動産所得の計算上、隣地Cの上にあった建物の取得費と取壊費用を必要経費として申告しました。

 

(8)これに対し税務署が上記の必要経費を否認しました。

 

 

 

3、裁判所の判断


裁判は、上記以外の争点もありますが、ここでは、建物の取得費・取壊費用が土地の取得費になるかどうかに絞って述べます。

 

裁判所は、まず、概ね1年以内に取壊した場合の取扱を示した通達(所基通38-1)に関し、「当初から建物を取り壊し、土地を利用する目的であることが明らかか否かについては、土地の取得目的、取得金額、土地の更地としての相場価格、建物の建築年数、現況、老朽度や利用価値、建物の取壊時期や取壊目的等の諸事情を総合し、客観的に判断するのが相当である。

 

また、本件通達は、土地及び建物の所有権を取得した場合と規定しているから、所有権を取得した日を基準として判断するのが相当である」と判断基準を示しました。

 

その上で裁判所は、Aさんが当初の計画とは異なる計画で結局建物を取り壊すことになった場合でも「土地及び建物の取得時に土地のみの価額に着目していたと認められる場合には本件通達が適用される」と考え方を示しました。

 

これは、Aさんが通達(所基通38-1)について「取得の際に計画されていた取壊しが実現した場合に限られるのではないか」との主張に反論したものです。

 

裁判所は事実関係を整理し、最終的に「原告(A)はB社が出店して本件土地のみを利用するために、これを貸し出す目的で、又は、仮にB社が出店しない場合であっても、専ら本件土地を自己の事業に利用する目的で、本件土地を取得しているといえ、また、本件建物は、その建築年数や現状、老朽度からしてそのまま利用できる物件ではなく、利用価値が極めて乏しいものであり、さらに、原告(A)は、本件建物の所有権を取得した後4か月しか経過していない時点で,本件建物を自己資金で取り壊しているのであって、(中略)原告は、専ら本件土地の価値に着目し、本件土地建物を取得したと認められる」として、税務署の処分を支持しています。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/03/01)より転載

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第14回:「合同会社のM&Aの特徴や留意点」とは?

~合同会社と株式会社との比較した特徴は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

 

Q、合同会社のM&Aを検討していますが、合同会社M&Aの特徴や留意点はありますか?


合同会社は、持分会社と呼ばれる会社形態の1種です。持分会社は株式会社と異なり株式を発行していないため、議決権の考え方や、所有と経営の分離に対する考え方等が異なります。合同会社の株式会社と比較した特徴は下記のとおりです。

 

 

合同会社におけるM&Aでは、持分を譲渡するために社員全員の同意が必要となります。さらに、持分を承継して合同会社に出資をした場合の持分は出資額に関係なく1となり、会社を支配することは難しくあまり会社売却には適していないといえるでしょう。

 

そのため、合同会社を売却するためには、会社変更手続きをして、株式会社に会社形態を変更した上で株式売却を行うことになります。

 

また、合同会社であっても、事業譲渡であれば可能です。事業譲渡は、会社を存続したまま会社の事業の一部、または全部を売却する事を意味します。

 

会社売却と違い、包括的ではなく、個別に必要な事業だけを選んで売却可能ですので、売り手にも買い手にもメリットがあります。事業譲渡をすると、事業における資産、負債、取引先や契約上の地位も買収先の会社に変更されるので契約先の債権者の同意が必要です。

 

合同会社においての事業譲渡は総社員の同意ではなく、通常の業務執行として社員の過半数の決定でよいとされています。しかし、事業譲渡は経営に直結する重要な決定事項なので、定款において総社員の同意が必要と定められている会社もあるため、定款を確認してみましょう。

 

合同会社は、株式会社と比較して設立の容易さや費用面でのメリットがある一方、M&Aではデメリットに働くことがあります。M&Aでの選択可能なスキームが限定される等の特徴があるので、専門家を交えて慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第12回:DCF法とは? 割引現在価値とは? WACCとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法って何?

2.割引現在価値とは

①「今」と「1年後」の100万円

②現在価値の計算式

③事例で考える現在価値

3.WACCとは

①WACCの基本

②負債コスト

③株主資本コスト

④事例で考えるWACC

 

 

 

企業価値評価の様々な手法の中の1つがDCF法ですが、DCF法は有用性が高いため非常に多くの場面で使用される手法です。

 

本稿ではDCF法の考え方の基本となる「割引現在価値」「WACC」について見ていきます。割引現在価値やWACCの考え方は企業価値評価におけるDCF法はもちろん、収支タイミングを考慮する必要がある評価技法や、経済学・ファイナンスの分野など様々な場所で出てくる考え方ですね。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1.DCF法って何?


企業価値評価の中でも最も使用される手法が、DCF(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー)法です。会社が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に換算する方法です。DCF法が好まれるのは「将来の期待を反映できる」点と、「ファイナンスのプロでなくとも理解可能である」点にあります。

 

会社が会社を買うとき、既存事業を拡大しよう、新規事業に投資しよう、海外に参入しようというように、そこには多くの期待が含まれます。この期待は全て「将来」に向かった期待です。今はぱっとしない事業でも、将来は花開くことを期待しているから、会社の購入を決定します。事務効率化や規模の効率性を考えた結果会社の将来のためになるから、会社を購入するのです。そのため会社を購入する側は、その会社が「将来」どれだけ貢献することができるのかを一番に気にします。

 

コストアプローチである時価純資産法や、マーケットアプローチである市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)等は、あくまで「現時点」の価値を表しているにすぎません。もちろん株価はある程度投資家からの将来の期待も含まれた上で値付けがされていますから将来価値とも言えますし、また現時点の価値も重要な情報ではあります。しかし、買収効果を全て反映させて将来の期待を価値として評価するDCF法は、理論上は買収する側が最も必要とする情報になります。

 

一見すると難しそうに見えるDCF法ですが、1つずつ見ていくとそこまで難しい手法ではありません。第12回・13回の2回に分けて、DCF法の全体感についてざっくりとしたイメージをお伝えさせていただきます。

 

 

 

 

≪Column:DCF法って本当に有用なの?≫


理論上は上記のように価値ある金額の算定が可能なDCF法ですが、将来という不確定で恣意的な要素が非常に多く入るため、あまり客観的な数値とは言えません。

そのため実務上は「DCF法とマルチプル法」といったように、DCF法とその他の方法を組み合わせて総合的に判断することが多いです。企業価値は大体いくらからいくらと言ったように幅を持った金額で表現されることがほとんどですが、これも将来という読みにくいものを基礎として評価することが一因です。

 


 

 

2.割引現在価値とは


まずはDCF法の大前提として、割引現在価値をご説明します。DCFのDは割引を意味するディスカウントのDで、割引現在価値という考え方が用いられています。DCF法は将来に渡る複数年の時間軸を考えますが、最終的には「今の価値はいくら?」となりますよね。そのため割引現在価値という考え方を用いることで、「今の価値」に全て統一することとなります。

 

①「今」と「1年後」の100万円

突然ですが、「今」100万円手に入れるのと、「1年後」に100万円手に入れるのと、どちらが良いでしょうか。

 

多くの方が「今」手に入れる方が嬉しいと感じるはずです。嬉しい理由は様々だと思いますが、「今」手に入れた現金の方が「1年後」に手に入れる同額の現金よりも価値が高いということを無意識に感じている結果ではないかと思います。これを投資の観点から見てみましょう。

 

「今」100万円手に入れて、銀行預金に預けました。預金利息が3%だとすると、1年間に3万円の利息が手に入ります。「今」の100万円は、「1年後」には103万円になります。100×(1+0.03)=103ですね。(預金利息にしてはかなり高いですが、3%あたりが分かりやすいので説明上は3%としています。)

 

 

 

 

 

逆に考えると、1年後に手に入れる100万円は、今の価値にするといくらでしょうか。

 

1年後にするためには「×(1+0.03)」をしていましたので、1年前に戻すには割り算「÷(1+0.03)」をすれば良いです。100万円÷(1+0.03)=約97.09万円となります。

 

 

 

 

 

この割り算という考え方が大事ですので、検算をしてみましょう。

 

(検算)97.09万円×(1+0.03)=100万円

 

 

無事1年後に100万円になりましたね。「今」97.09万円を手に入れて銀行預金に預けると、1年後には100万円になります。1年後の利息を含めた金額を算定するには掛け算をしますので、逆に1年前の金額を算定するには割り算をすることになります。

 

このように、貨幣には「時間価値」の概念があります。先に現金を手に入れた方が、運用によって増やすことができる分価値が高いという概念です。何年にもわたって現金を産み出す会社の1時点の価値を考える際は、時間価値を考慮することよくあります。

 

 

さて、時間価値で重要な点は、「今の価値で比較が出来る」ことです。

 

今100万円もらうことと、1年後に100万円もらうことの価値を比較してみましょう。

 

 

1年後の100万円は今の価値で97.09万円になってしまうので、1年後に100万円もらうより今100万円もらった方が良い、ということが言えますね。

 

②現在価値の計算式

現在価値の計算式は以下のようにあらわすことができます。

 

 

 

 

先程の例を使って、かみ砕いて見ていきましょう。今の100万円は、1年後の103万円と同じ価値になっていました。1年後の金額は単純に×(1+利率)でしたね。1年前に戻す場合は、÷(1+利率)とすれば良いはずです。

 

 

では、2年後、3年後になったらどうでしょうか。1年後の103万円に更に×(1+利率)をしていきます。そのため2年後であれば現在の100万円に、(1+利率)を2回乗じる形になります。逆に、2年後から現在を考えるときは、同じく2回割り算をしていきます。

 

 

この2年後を「n年後」として割り算の形にすると、現在価値の数式となりますね。

 

③事例で考える現在価値

簡単な事例として、以下のような案件の現在価値を考えてみましょう。

 

年度毎の現在価値は次の通りです。

1年後:100万円÷1.03=97.0874…

2年後:100万円÷(1.03)^2=94.2596…

3年後:100万円÷(1.03)^3=91.5142…

 

 

これらを合計すると、282.8611…となるので、四捨五入すると283万円が今の価値(割引現在価値)となります。

 

 

 

 

≪Column:現在価値を求める際の割引率≫


現在価値を求める際に重要となるのは割引率です。何で割り引くかによって現在価値が全く異なる結果となるためです。

 

例えば銀行に預けて将来100万円を引き出すとしたら、銀行の預金利率を使います。同様に社債に投資して将来100万円返ってくる場合は、社債の利息を使うことになります。

 

このように、投資に対して求めることになる期待運用収益率で割り引くことが一般的です。リスクの低い投資(銀行預金等)であれば、期待運用収益率が低いため、割引率も低くなります。一方、リスクの高い投資(株式等)であれば、期待運用収益率が高く、割引率も高いものとなります。DCF法では、後述するWACCという割引率を使用することとなります。

 


 

 

3.WACCとは


①WACCの基本

これまでは「割引現在価値」の考え方について見てきました。将来キャッシュフローを運用利率で割り引くのが、割引現在価値です。

 

では、企業価値算出に際して使用する利率(割引率)は、どのようなものを使えば良いのでしょうか。

 

企業価値算出の際には、「WACC」という割引率を使用します。WACCはWeighted Average Cost of Capital:加重平均資本コストの略で、債権者(負債側)と株主(資本側)が対象企業に求める期待投資利回りの加重平均を示します。

 

 

 

企業が資金を調達する手段は大きく2つあります。返済義務のある負債で調達するか、返済義務がない資本(株式)で調達するかです。

 

両者は返済義務が異なるので、投資リスクが当然異なります。リスクが高い投資をする人はリターンも相応に求めることになるので、リスクが異なれば要求利回りも異なることとなります。債権者と株主、リスクの異なる投資をする両者の要求利回りを加味しつつ、調達金額比で加重平均を取るのがWACCです。

 

BSの右側(負債・資本)の調達にともなう利回りの平均を取るイメージですね。

 

企業が資金を1円調達するのに、平均していくらのコストがかかっているかを示す指標となります。

 

 

②負債コスト

負債コストは、評価対象企業の格付や実際の借入利率等を用いて算定します。多くの場合では現行の借入コスト(借入利率等)を使用し、事業計画期間における想定値がある場合はそれを加味しつつ、検証として評価対象会社と同水準の格付を持つ企業の社債利回りを参考にします。

 

ここで、負債の利息は税務上損金となります。利息100円、法人税率30%としたときに、利息100円を支払うとその分利益(課税所得)が減りますね。負債の利息を支払わない時と比べて、100×30%=30円だけ税金が小さくなります。

 

そのため負債利息は100ですが、実質的には100-30=70が負債に係るコストであると考えられます。この税金軽減効果を数式上示しているのが、(1-T)の部分です。

 

実質的に負担するコストは、(1-税率30%)である70%部分のみということですね。

 

③株主資本コスト

株主資本コストは、評価対象会社の株式へ投資する際の期待収益率です。負債コストは現行の借入利率があるので比較的算定に困りませんが、株主に対しては利率等の明確な概念がないため、株主の要求利回りをもとめることは一筋縄ではいきません。

 

そこでよく使用されるのが、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)という手法です。投資家の期待利回りを、リスクなく獲得できる利回り部分と、リスクを負うにあたり追加で求める利回り部分に分解して算定する手法です。このように一定の手法を用いて、株主資本コストを算定することとなります。

 

 

 

≪Column:CAPMについて≫


少し発展的な内容となりますが、CAPMの内容を少しご説明します。株主の要求利回りを大きく以下のように表すのがCAPMです。

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ値×リスクプレミアム

 

リスクフリーレートはその名の通り無リスクの利回りで、長期国債利回りを使用することが多いです。リスクプレミアムは上記リスクフリーレートを超えて株式市場に求められる超過利回りです。これにベータ値という値を乗じて、評価対象企業固有のリスクを示す形となります。

ベータ値は評価対象企業のリスクと市場全体のリスクとの相関を示す係数というイメージです。市場全体の超過利回りを、評価対象企業固有のリスクに変換するための係数ですね。このような計算を経て、株主資本コストを算定していくこととなります。

 


 

 

④事例で考えるWACC

 

まず、株主資本比率E/(D+E)・負債比率D/(D+E)は以下の通りですね。ポイントは両者とも時価で考える点です。特に株式は時価と帳簿価格に乖離が生じることがほとんどですので、その時点の価値である時価とします。

 

株主資本比率E/(D+E)=20,000÷(20,000+30,000)=0.4

負債比率D/(D+E)=30,000÷(20,000+30,000)=0.6

 

株主資本が40%、負債が60%となりますので、この割合で加重平均を取ると、WACCは以下の通りとなります。

 

 

株主資本コスト10%、負債コスト3%の会社でしたが、加重平均を取ると5.26%となりました。そのためこの会社全体の資金調達コストは5.26%と言えます。

一般的に株主の方が債権者よりリスクを取っている分要求利回りも大きいため、株主資本比率が高い会社はWACCも高く、逆に負債比率が高い会社はWACCも小さくなることが多いです。

 

今回はDCF法の基礎となる割引現在価値と、割り引く利率であるWACCの考え方について見てきました。次回最終第10回は、これらの考え方を用いた上でのDCF法をご説明していきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

【問】

Bさんは、土地の譲渡に係る譲渡所得の申告において、確定申告期限までにその取得価額を明らかにする契約書が見つからなかったため、やむなく下記2(2)の概算取得費により所得税の申告をしました。その所得税の確定申告期限後に、譲渡した土地の取得時の契約書が見つかり、その契約書に記載の買入金額が概算取得費よりも大きいので、譲渡所得の金額の計算をやり直すため更正の請求をしようと考えているのですが、認められるでしょうか。

 

【結論】

当初の申告において概算取得費により譲渡所得の金額の計算を行い、その後、取得時の契約書の発見により真の控除すべき取得費が分かった時点で、その真の取得費を主張して更正の請求を行うことは認められると考えます。

 

【解説】

(1)取得費の原則

土地に係る譲渡所得の金額上控除する取得費は、土地の取得に要した金額(例えば土地の取得にかかる買入代金や宅地建物取引業者に支払った仲介手数料等)及び改良費(例えば土盛り、地ならし等)の合計額とされます(所得税法38条第1項)。

 

(2)概算取得費の特例

昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地を譲渡した場合における長期譲渡所得の金額の計算上収入金額から控除する取得費は、上記(1)の金額よりもその譲渡に係る収入金額の5%相当額の方が多い場合には、その譲渡に係る収入金額の5%相当額をもって、土地の取得費とすることができます(租税特別措置法31条の4)。

 

なお、昭和28年1月1日以後に取得した土地について、取得費がわからない場合や、実際の取得費が収入金額の5%相当額を下回る場合については、その取得費は譲渡に係る収入金額の5%相当額とすることができます(租税特別措置法通達31の4-1)。

(3)所得税の更正の請求とは

所得税の申告書を提出した人が、その申告書に記載した課税標準等や税額等の計算について、所得税法等の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより、所得税を納めすぎたときは、法定申告期限(所得税の場合、原則としてその年の翌年3月15日の確定申告期限)から5年以内に限り、税務署長に対し、その申告に係る課税標準等または所得税額等につき減額更正の請求をすることができます(国税通則法23条第1項)。

 

(4)更正の請求が認められると考える理由

国税通則法第23条第1項第1号は、更正をすべき旨の請求をすることができる場合として、納税申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大であるときを定めています。この点について、ご質問でのBさんは租税特別措置法第31条の4第1項等の規定等に基づき取得費を計算していることから、上記(3)に規定する「計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当せず、更正の請求ができないのではないか、という疑問が生じるところです。

 

しかし租税特別措置法31条の4第1項は、その本文で「取得費は、(中略)当該収入金額の100分の5に相当する金額とする」と規定しているものの、そのただし書において、「当該金額(=概算取得費)がそれぞれ次の各号に掲げる金額に満たないことが証明された場合には、当該各号に掲げる金額とする」とし、その1号において、「その土地等の取得に要した金額と改良費の額との合計額」としています。

 

つまり、概算取得費は、譲渡した土地等の取得に要した金額に満たないことが証明されていない場合に適用するものであり、Bさんの場合はそのことが証明されています。よって、概算取得費ではなく、土地等の取得に要した金額である買入価額により取得費を計算することが正しい処理となります。
したがって、Bさんは、当初申告で行った譲渡所得の金額(取得費)の計算の誤りにより所得税を納めすぎたものとして、国税通則法第23条第1項の規定により、更生の請求を行うことができると考えます(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」211頁)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/02/14)より転載