顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.6 Q:顧問先から「譲渡後も顧問を継続してほしい」と事前に相談された時の対応は?

 

A:

まずは、顧問先がM&Aを検討するに至った背景や希望を確認したうえで、M&A後も顧問契約を継続することを希望している旨を仲介会社などの関係者に早い段階で共有してもらうことが重要です。

M&A後の顧問契約は、譲渡先となる買手企業の意向にも左右されるため、顧問先から希望された時点で継続が決まるわけではありません。
そのため、早い段階から顧問継続の希望を共有し、買手にとっても既存の顧問税理士が関与するメリットを理解してもらうことが大切です。

 

<解説>
① まずは「なぜM&Aを検討しているのか」を確認する

顧問先から「M&A後も顧問を続けてほしい」と相談された場合、いきなり顧問継続の方法を考えるのではなく、まずM&Aを検討している背景を確認することが重要です。
後継者がいない、経営から離れたい、会社をさらに成長させたいなど、M&Aを検討する理由はさまざまです。
また、M&Aの話がどこから来たのか、すでに仲介会社などに相談しているのかによっても、その後の対応は変わります。
税理士としては、顧問先の意向を確認したうえで、必要に応じてM&Aの専門家への相談を促すなど、初期段階から適切な関係者につなぐことが重要です。

 

② 「顧問契約を継続してほしい」ではなく「買手にとってのメリット」を整理する

M&A後の顧問継続を希望する場合、その希望をそのまま受け入れるのではなく、買手企業にとって既存の顧問税理士が関与するメリットを整理することが重要です。

既存の顧問税理士には、

・過年度の会計・税務処理を把握している
・会社固有の取引や経理処理を理解している
・経営者との長年の関係がある
・M&A前後の数値変化や経緯を説明できる

といった強みがあります。

こうした情報や経験は、買手企業にとってM&A後の会計・税務体制をスムーズに整えるうえで役立つ場合があります。
そのため、顧問先から相談を受けた際には、顧問契約を継続すること自体を目的とするのではなく、買手企業にとって既存の顧問税理士が関与するメリットを整理しておくことが重要です。

 

③ 仲介会社と早い段階から共有する

M&Aの検討が進み、買手候補との交渉が始まってから顧問継続を相談するのではなく、顧問先から希望を聞いた段階で、M&Aを担当する仲介会社などにその意向を共有しておくことが重要です。

買手候補を探す段階から既存顧問税理士の存在や役割を理解してもらうことで、M&A後の関与についても話し合いやすくなります。

また、買手企業の経理体制や会計方針によっては、従来と同じ業務内容・条件での継続が難しい場合もあります。その場合は、税務顧問に限らず、会計・税務面で必要な部分を継続して支援するなど、買手のニーズに応じて関与方法を検討することも選択肢です。

M&A後の顧問継続は、売手企業の希望だけで決まるものではありません。顧問先から事前に相談を受けた場合には、その希望を早期に共有し、買手にとっても既存顧問税理士が関与するメリットを整理しておくことが、M&A後の継続的な関与につながります。

 

【今回のポイント】

・顧問先から事前に相談された場合は、まずM&Aを検討する背景や希望を確認する。
・顧問契約を継続すること自体を目的とせず、買手にとって既存顧問税理士が関与するメリットを整理する。
・顧問継続の希望は早い段階から仲介会社などの関係者と共有し、M&A後の関与方法を検討する。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】相続税の小規模宅地特例:特例対象宅地等が順次分割された場合の更正の請求期限

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~適用判定時の基準所得金額の範囲

 

【Q&A】複数代表者のうちの一人から非上場株式を相続した場合の相続税の納税猶予の特例の適用

 

 

 

【問】

個人甲は、個人乙(甲とは親族関係なし)が所有する土地Xを昭和57年から賃借し、その土地上に家屋を建てて居住していました。甲は、賃貸借契約に基づき乙に対して継続して地代を支払っていましたが、令和7年に乙が死亡し、土地Xを相続した乙の子から甲に対して土地Xの買取りの打診がありました。しかし、甲は買取資金を用意できなかったため、令和8年8月に甲の子の丙が土地Xを買い取りました。この買取り後、甲は丙に対して地代を全く支払っていません。

 

以上の場合において、丙は、「甲から土地Xに係る借地権(以下「借地権」)の贈与を受けたものとして贈与税が課税されるおそれがあり、これを避けるためには、丙の住所地の所轄税務署長に、借地権者である甲との連署による『借地権者の地位に変更がない旨の申出書』を提出する必要がある」ことを知りました。丙がこの申出書を提出した場合、この借地権に係る税務上の取扱いはどのようになりますか。なお、甲は、従前の賃貸借契約の内容や地代の支払状況等に基づき、その契約の締結時から継続して借地権を有しているものとします。

 

 

【回答】

1.結論


本問の場合、土地Xを取得した丙は、原則として借地権者の甲から借地権の贈与を受けたものとして取扱われます。ただし、地代の授受が行われないこととなった理由が使用貸借に基づくものではないとして、丙が土地Xの取得後すみやかに、その住所地の所轄税務署長に対し、甲との連署による「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出したときは、この取扱いは適用されず、丙が借地権の贈与を受けたものとして贈与税の課税対象とされることはありません

 

2.解説


(1)借地権の目的である土地をその借地権者以外の者が取得し、地代の収受がされなくなった場合

借地権の目的となっている土地を借地権者以外の者が取得し、その土地の取得者と借地権者との間で土地使用の対価としての地代の授受が行われないこととなった場合、土地の取得者は、原則として借地権者からその土地に係る借地権の贈与を受けたものとして取扱われます(相続税法個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」(以下「使用貸借通達」)5本文)。したがって、土地Xを取得した丙は、原則として甲から借地権の贈与を受けたものとして取扱われ、贈与税の課税対象となります。

 

(2)「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を提出した場合

借地権の目的となっている土地を新たに取得した者と借地権者との間で地代の授受が行われなくなった場合であっても、その理由が使用貸借に基づくものではなく、借地権者が従前の土地所有者との賃貸借契約に基づく借地権者としての地位を放棄していない旨を、土地取得者が土地の取得後すみやかに、借地権者との連署による「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」により、その住所地の所轄税務署長に申し出たときは、土地取得者が借地権の贈与を受けたものとする 上記(1)の取扱いは適用されません(使用貸借通達5ただし書、国税庁「税務手続の案内」)。
したがって、借地権につき土地所有者の丙が、借地権者の甲との連署による「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」を土地Xの取得後すみやかに丙の住所地の所轄税務署長に提出し、地代の授受が行われないこととなった理由が使用貸借に基づくものではなく、甲が従前の土地所有者との賃貸借契約に基づく借地権者としての地位を放棄していない旨を申し出たときは、上記(1)の取扱いは適用されず、借地権の贈与を受けたものとして贈与税の課税対象とされることはありません。

 

<参考>上記(2)の場合において甲が死亡した場合

土地所有者の丙が、借地権者である甲との連署による上記(2)の「借地権者の地位に変更がない旨の申出書」をその住所地の所轄税務署長に提出し、甲が従前の土地所有者との賃貸借契約に基づく借地権者としての地位を放棄していない旨を申し出た後に、甲が死亡した場合には、甲の相続開始時において借地権が存続している限り、その借地権は甲の相続財産として相続税の課税対象となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/08/24)より転載

 

 

 

[解説ニュース]

財産評価上、リースバックの一時的建物賃貸借に借家権の有無が問われた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■評価通達では斟酌できない「特別の事情」による土地評価額の減額のポイント

■贈与税の申告遅れたやむを得ない事情を巡る裁判例に学ぶ

 

 

1.はじめに


貸家・貸家建付地(財産評価基本通達93・26)の評価減の適用をめぐり、借家権があるかどうかの事実認定で争いになった裁決事例が出てきました(国税不服審判所裁決令和8年3月11日・情報公開による)。
相続税では、貸家や、貸家が建っている貸家建付地に所定の評価減が認められています。それは、その建物や宅地につき、借家権があるため、所有者の使用等に制限を受けるからです。反対に事実上、借家権がない場合には、評価減は認められないことになります。ご紹介する事例では、問題になった一時的建物賃貸借に借家権の有無が問われる場合、どのような事実をどのように確認すべきかが、ポイントになりました。

 

2.事案の概要


Ⅰ、問題となった土地と建物はA社が被相続人に売却したもので、建物は4階建の事務所等(昭和43年1月20日新築)
Ⅱ、買主(被相続人)は、A社との間で、令和3年11月の売買契約で、問題の不動産の引渡しを受けた。ただし特約で、同年12月次の契約をした
Ⅲ、賃貸借契約の内容は次のとおり。

①契約書の表題は、「建物一時賃貸借契約書」であった。

②使用目的 A社は、建物を賃貸借契約開始時の現状のまま使用する。

③賃貸借期間 令和 3年12月13日から令和4年5月31日までの期間とし、期間満了をもって契約は終了する。ただし、A社の都合で期間延長を希望する場合、A社は、期間満了の1か月以上前に被相続人に通知することで、1か月単位で延長できる。延長は、最長令和4年12月31日までとする。

④造作、設備等の修繕 建物又は被相続人の所有に係る造作、設備の修理の必要が生じ、又はそのおそれがあるときは、修理はA社負担とする。

⑤契約終了後の明渡し A社は、被相続人に対し、賃貸借契約の終了後、建物内の動産類等を全て撤去の上、遅滞なく建物を明け渡さなければならず、また、明渡しに際し名目を問わず、立退料その他これらに類する一切の要求をすることができない。

⑥賃貸借契約書には、敷金や保証金など被相続人がA社に持つ債権を担保すべき金銭等の定めはなかった。

⑦賃貸借契約は、A社の解約申入れによって、令和4年2月28日をもって終了し、A社は建物から立ち退いた。この間、被相続人の死亡に伴い相続が開始した。

⑧相続人は、相続税の申告で、問題の不動産につき、貸家・貸家建付地として評価した。

⑨所轄税務署長は、この不動産につき、評価減をしないで増額更正処分をした。このため最終的に相続人は国税不服審判所(以下、審判所という。)に対し、貸家・貸家建付地の評価を求めて審査請求をした。

 

3.審判所の判断


審判所は、貸家の評価方法を定めている財産評価基本通達93について、「借地借家法の適用のある貸家はこれに基づく評価がされる」と確認。

一方、借地借家法上、一時使用のための賃貸借契約につき同法第3章の規定を適用しない旨の規定があることから、審判所は「一時使用のための賃貸借契約と認められるためには、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断されるか否かによるべき(最高裁昭和36年10月10日第三小法廷判決)」と判断基準を示しました。

 

次に審判所はA社における次の事情を確認しました。
(1)問題の建物は築年数が古く、修繕には高額の修繕費を要する状況で、売却先を探していた。

(2)金融機関に支払うべき借入金利息を考えると少しでも早く手放したかったため、移転先が決まるまで建物を一時的に借りることを前提に問題の不動産を売却することとした。
審判所は、上記の判断基準に基づき事実関係を次のように整理し、問題の不動産の賃貸借契約は一時使用のためと認定、相続税評価をする上で「貸家・貸家建付地」として評価すべきでないと判断しています。

 

ア、賃貸借の目的は、移転先が決定するまで本件建物を一時的に借り受けるため。
イ、賃貸借の動機、経緯等では、A社には賃貸借契約を短期間に限り存続させる意思があった。建物に係る修繕費はA社の負担とされていたため。
ウ、貸借期間は、実質約2か月半であり、最初の賃貸借期間の2分の1にも満たない短期間であった。
エ、貸借期間が短期間の場合には、賃借人に対する債権を担保すべき敷金等の定めを設ける必要性に乏しく、その定めがない。契約を短期間に限り存続させ
ることが予定されていたことを推認させる。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/08/10)より転載

 

Q-23 M&Aのタイミングはいつがベストですか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-23  M&Aのタイミングはいつがベストですか?

A

 

M&Aを検討される経営者の方から、「M&Aを行うタイミングはいつがベストですか? 」というご質問をいただくことがあります。

 

このご質問の背景には、「自分はいつまで社長としてがんばれるだろうか」「後継者がいないため、家族に借入金などの負担を残したくない」「できるだけ高い価格で会社を譲渡したい 」といった様々な想いがあります。

 

一方で、買い手企業にも事情があります。買い手は、顧客基盤や技術・ノウハウなどの競争力が残っており、今後さらに成長が期待できる会社を、適正な価格で取得したいと考えています。

 

一見すると、売り手と買い手では希望するタイミングが異なるようにも思えます。しかし、実際には、両者にとって望ましいタイミングは大きく変わりません。

 

なぜなら、事業は「生き物」であり、適切なタイミングで新たな経営資源や資本、人材が加わることで、さらに成長できる可能性があるからです。

 

反対に、そのタイミングを逃してしまうと、顧客離れや競争力の低下、主要社員の退職などが進み、企業価値が下がってしまう可能性があります。

 

その結果、売り手は希望していた価格で譲渡できなかったり、借入金などの負担が残ったりすることがあります。また、買い手にとっても成長余地の少ない事業を取得することになり、期待した投資効果を得られない場合があります。

 

つまり、M&Aは「売れる時に売る」「買える時に買う」という考え方ではなく、事業を次の成長ステージへ進めるタイミングで実施することが、売り手・買い手双方にとって最も望ましいといえるでしょう。

具体的に「〇〇したとき」のように明言するのは難しいのですが、売り手と買い手、それぞれの視点を整理すると以下のようになります。

 

M&Aのタイミングを見極めるための視点(売り手・買い手比較)

売り手 買い手
後継者へ円滑に事業承継したい 売り手オーナーの経営力を引き継ぎ、さらに事業を成長させたい
できるだけ高く譲渡したい できるだけ適正な価格で取得したいが、成長余地がある企業を求めている
借入金を整理・承継したい 成長性があれば借入金も含めて承継できる
社員や顧客を守りたい 社員・顧客基盤を含めて価値ある事業を取得したい
老後資金・退職金を確保したい 退職金をM&Aのスキームに組み入れ売買価格を圧縮したい

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

このコラムでは読者の方からのご質問も募集しています。M&Aに関することで疑問に思っていること、コラムの内容に関してもっと詳しく知りたいこと、○○について取り上げてほしい、などありましたら、こちらのアドレス(links@zeiken.co.jp)までお知らせください

 

(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

税務研究会では、会計事務所の事業引継ぎ(譲渡)を検討している税理士の方を対象に、全国各地で個別勉強会・相談会を開催しております。

個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 後継者として、現在の事務所に入ってくれる若手税理士へ譲渡した事例はありますでしょうか。

 

 

 

 

弊社が支援した会計事務所M&A においても、若手税理士に譲渡した事例は数多くあります。 若手税理士にとっては、一から顧問先を開拓したり従業員を採用したりするよりも、既存の顧問先・従業員・事務所基盤を引き継げることが大きな魅力であり、このような承継を希望する若手税理士は少なくありません。

 

また、若手税理士が現事務所へ入所し、一定期間にわたり売主税理士とともに業務を行いつつ承継するケースもあります。その場合、顧問先や従業員との信頼関係を段階的に築くことができるため、比較的スムーズな引き継ぎにつながりやすい傾向があります。

 

事務所の運営方針や従業員体制をできるだけ維持しながら承継できる可能性があるため、「現在の事務所らしさを残したまま引き継いでほしい」とお考えの場合には、有力な選択肢の一つといえるでしょう。

 

なお、若手税理士への譲渡では、買手が開業間もなく十分な資金を確保できていない場合もあるため、円滑な承継に向けて、譲渡対価の金額や支払方法を柔軟に調整することもあります。

 

実際の進め方は事務所ごとの状況によって異なるため、希望される承継の形を踏まえ、専門家に相談しながら検討されることをおすすめします。

 

 


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税務研究会の「会計事務所M&Aサービス」

税務研究会では、全国の会計事務所とのネットワーク生かした、会計事務所の事業引継ぎをサポートするサービスをご用意しております。
創業75年を超え、長きにわたり税務会計業界・会計事務所と共に歩んできた税務研究会だからこそ、税理士先生の立場に寄り添った、安心感のある事業引継ぎのサポートを行うことができます。

 

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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.5 Q:M&Aで「売却が難しい会社」とはどのような会社でしょうか?

 

A:

売却が難しい会社とは、買手がリスクを感じやすい会社を指します。たとえ現在の業績が良くても、引継ぎ後の収益性が不透明であれば、交渉が進まなくなる可能性があります。
売却が困難になる要因はいくつかありますが、それらが複数重なるほど条件が厳しくなります。

 

 

<解説>

売却が難しくなる代表的なケースの一例を紹介します

① オーナー依存が強い会社

仲介会社が買手候補に案件を提案した際、最も多く返ってくる懸念が「社長がいなくなった後、売上は本当に維持できるのか」という点です。主要顧客との関係がオーナーの個人的な信頼関係に依拠していたり、現場の判断がすべてオーナーに集中していたりする会社は、候補に挙がっても優先順位が下がりやすくなります。幹部に一定の権限が委譲され、オーナー不在でも業務が回る体制が整っている会社は、それだけで買手の安心感が高まります。

 

② 希望価格の高い会社

希望売却価格が収益力から算定される相場と大きくかけ離れている場合、交渉が進みません。「この価格では合わない」と判断した買手は、最初の提案段階で撤退します。経営者が「他社が〇億で売れたから」という情報をもとに根拠のない希望価格を持っている場合は特に注意が必要です。成約価格の背景には純資産の構成や買手の事情など様々な要素が絡んでおり、表面上の数字だけでは比較になりません。希望価格の根拠を整理しておくことが、スムーズなM&Aへの第一歩です。

 

③ 財務・労務リスクのある会社

業績・体制に問題がなくても、デューデリジェンス(DD)の段階で破談になるケースがあります。現場でよく見られるのは、長年放置された役員貸付金、実態のない在庫計上、未払残業代等の潜在リスクです。これらは決算書の表面には現れにくく、買手側の調査で初めて判明することが多いものとなります。発覚した時点で価格の大幅な引き下げを求められるか、交渉そのものが進まなくなるケースがあります。「もう少し前に整理しておけば」という案件を、仲介の現場では繰り返し経験しています。

 

④ その他、売却を難しくする要因

上記以外にも、以下のような要因が重なると買手がつきにくくなります。
・ 斜陽産業・市場縮小が明確な業界(成長が見込みにくいと買手が判断)
・ 売上の大部分が特定の1〜2社に集中している(取引先離脱リスク)
・ 許認可や資格がオーナー個人に紐づいており、承継が困難
・ 係争中の訴訟や保証債務など、簿外の偶発債務が存在する
こうした要因の多くは、M&Aを検討し始めてからでは対処が難しいものです。顧問税理士として、日頃の関与を通じて状況を把握し、必要な整理を進めておくことが、顧問先が円滑にM&Aを進められる体制を整えることにつながります。

 

【今回のポイント】

・オーナー依存・希望価格の乖離・財務労務リスクが主な要因
・斜陽産業・売上集中・許認可・偶発債務なども買手離れの原因になる
・こうした要因の多くは、日頃の関与を通じて現状を把握・整理しておく

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】相続税の小規模宅地特例:特例対象宅地等が順次分割された場合の更正の請求期限

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~適用判定時の基準所得金額の範囲

 

【Q&A】複数代表者のうちの一人から非上場株式を相続した場合の相続税の納税猶予の特例の適用

 

 

 

【問】

被相続人甲は令和7年3月4日に亡くなりました。相続人は長男Aと次男Bの2人です。甲に係る相続税申告において、AとBは、租税特別措置法(措法)69条の4の「小規模宅地等についての課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地特例」)の適用対象となり得る宅地Xと宅地Yにつき、申告期限までに分割がまとまらなかったため、当初申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出しました。

その後、宅地Xについては令和8年3月1日に遺産分割が成立しAが取得しました。Aは宅地Xに係る更正の請求について、宅地Yの分割後にまとめて行うつもりだったので、結局その翌日から4ヶ月以内に更正の請求をしていません。

一方、宅地Yについては、令和8年7月19日に遺産分割が成立し、Bが取得しました。Bは同月27日に更正の請求を行いました。

以上の場合において、甲に係る相続税の計算上、Aは宅地X、Bは宅地Yについて小規模宅地特例の適用を受けることができるでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


宅地Xについて、Aは分割が成立した令和8年3月1日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をしていないため、小規模宅地特例の適用を受けることはできません。一方、宅地Yについて、Bは分割が成立した令和8年7月19日の翌日から4ヶ月以内である同月27日に更正の請求をしているため、小規模宅地特例の適用を受けることができます。

2.解説


(1)小規模宅地特例の概要

小規模宅地特例は、個人が相続又は遺贈により取得した宅地等のうち、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等について、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業又は居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合に適用される制度です。この場合、その個人が小規模宅地特例の適用を受けるものとして選択した宅地等については、被相続人等に係る相続税の計算上、一定面積までの部分について、相続税の課税価格のうち一定額を減額することができます(措法69条の4第1項)。

 

(2)遺産分割要件

小規模宅地特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限までにその特例の適用対象となる宅地等(「特例対象宅地等」)につき、遺産分割が行われていることが必要です。

ただし、その宅地等について相続税の申告期限までに遺産分割が行われていない場合であっても、その当初申告において「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付して提出し、その宅地等が申告期限から3年以内に分割されたときには、分割が行われた日の翌日から4ヶ月以内に「更正の請求」を行うことにより、小規模宅地特例の適用を受けることができます(措法69条の4第4項、5項、措法施行令40条の2第26項)。

 

(3)宅地等が順次分割された場合の更正の請求期限

上記(2)の更正の請求の期限は、特例対象宅地等が分割された日において他に分割されていない特例対象宅地等がある場合であっても、その分割された日の翌日から4ヶ月以内に限られます。その期間を経過した後は、その分割された特例対象宅地等について更正の請求をすることはできません(措法通達69の4-26)。

したがって、後日、他の特例対象宅地等の分割が成立した場合であっても、既に更正の請求の期限が過ぎた特例対象宅地等については、小規模宅地特例の適用を受けることができないことになります。

 

(4)本問へのあてはめ

宅地Xは、分割された日(令和8年3月1日)の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をしていないことから、小規模宅地特例の適用を受けることができません。一方、宅地Yは、分割された日(令和8年7月19日)の翌日から4ヶ月以内である同月27日に更正の請求をしていることから、小規模宅地特例の適用を受けることができます。

仮に宅地Yよりも宅地Xの方が1㎡当たりの評価額が高く、宅地Xに小規模宅地特例を適用することが相続税の計算上有利であったとしても、宅地Xは期限内に更正の請求をしていない以上、その特例の適用を受けることはできません。したがって、期限内に更正の請求をしている宅地Yについてのみ、小規模宅地特例の適用を受けることになります。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/07/27)より転載

 

 

 

 

◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

税務研究会では、会計事務所の事業引継ぎ(譲渡)を検討している税理士の方を対象に、全国各地で個別勉強会・相談会を開催しております。

個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 会計事務所M&A の買収監査(デューデリジェンス)とはどのようなことをするのでしょうか?

 

 

 

 

会計事務所M&A におけるデューデリジェンスは、買手側が中心となって行い、事務所を安心して引き継げるかを確認するための大切な手続きです。

 

財務だけでなく、顧問料収入が安定しているか、顧客が特定の取引先に偏っていないか、所長や担当者の業務内容まで幅広く確認されます。一般企業のM&A と違い、外部の専門家を入れるケースは少なく、買手自身が実施することが多い点も特徴です。

 

売手としては、数字の説明だけでなく、「従業員の働きぶり」と「顧客との関係」を分かりやすく伝えることが重要になります。特に、従業員が安定して働いているか、顧客の関係がしっかりしているか、キーパーソンが誰かといった点は必ず見られます。これらに不安があると、顧客が離れるリスクがあると判断されてしまいます。また、面談などを通じて、実際にスムーズな引継ぎができるかどうかも確認されます。

 

譲渡後のトラブルを防ぐためにも、隠し事をせず、実態を正しく伝えることが大切です。デューデリジェンスは単なる調査ではなく、事務所の状況を正確に理解してもらうための機会と考えることが重要です。

 

 


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[解説ニュース]

母の二次相続に係る申告後、 一次相続で申告不要の父からの遺産を母が相続しないとする更正の請求は可能か

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

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■使い勝手アップの相続時精算課税制度では、みなし贈与にご用心

 

 

1.はじめに


相続税がかからない遺産額だったので、父からの一次相続では分割協議もせずやり過ごすことは、ありがちなことです。しかし母からの二次相続では相続税申告に迫られて、とりあえず法定相続分で申告したというケースも少なくないでしょう。こうしたなか、二次相続の申告後に、一次相続の際に母が父から遺産を相続していないことにする遺産分割をしたらどうでしょうか?その分、二次相続で課税される相続財産が減るはずです。そこで、二次相続にかかる相続税の申告について、相続税の減額を求めて更正の請求ができたら…と考えた人がいました。しかし国税不服審判所は、この更正の請求を認めませんでした(国税不服審判所令和7年10月29日公開裁決)。今回はこの事案のポイントを探ります。

 

2. 事案の概要


(1)父からの相続(一次相続)の状況

父は、平成26年10月に死亡。このときの法定相続人は、配偶者である母と、国税不服審判所(以下、「審判所」という。)で争った請求人らの4人。このときは相続税の課税価格の合計額が基礎控除額以下だったので、相続税の申告はしていない。

(2)母からの相続(二次相続)の状況

母は平成28年3月に死亡。このときの法定相続人は、請求人らの3人だった。このときの相続税の申告は、母からの遺産分割が成立しなかったため、法定相続分の割合で遺産を取得したものとして(相続税法55条)、相続税の申告書を法定申告期限までに申告した。ただ、2人は父から母が相続した遺産について申告していなかった。このため後に修正申告等をしていた。

(3)遺産分割協議の状況

相続人3人は令和6年3月22日付で、概ね次のような内容の遺産分割を成立させた。
①一次相続では相続人3人が父の財産を3分の1ずつ相続、亡き母に相続させる財産はないこととした。
②二次相続では相続人3人が父の財産を3分の1ずつ相続し、債務・葬式費用等は3分して負担する。

(4)以上を受け、相続人は二次相続の相続税のかか

る遺産が減少し、税額も減ることから令和6年5月、税務署長に相続税の減額を求めて「更正の請求」をした。

(5)同年8月、税務署長は更正の請求を認めなかったため、相続人は審判所に更正の請求ができるものとして審査請求した。

 

3. 審判所の判断


審判所はまず、次の法律上の規定を確認しました。

 

①遺産分割されていないときの相続税申告について、法定相続分に従って遺産を取得したものとしてその課税価格を計算して申告をするものとされていること(相続税法55条)。

 

②申告後に遺産分割協議が整い、法定相続分に従って計算された課税価格と異なって、課税価格・相続税額が過大となったときは、4月以内に、更正の請求をすることができること(相続税法32条)。

 

この趣旨について審判所は「申告の後に遺産分割が行われて各相続人の取得財産が変動したという相続税特有の後発的事由が生じた場合において、(中略)遺産分割後の一定の期間内に限り、上記後発的事由により上記申告に係る相続税額等が過大となったとして更正の請求をすること及び当該請求に基づき更正がされた場合には他の相続人の相続税額等に生じた上記後発的事由による変動の限度で更正をすることができることとした」と指摘、「当初の申告に存在するとされる過誤の是正を求めることを目的とするものではないと解するのが相当」との考え方を示しました。

 

このことから、審判所は「未分割の遺産を分割した結果、既に確定した課税価格及び相続税額が過大になるか否かの判断に当たって、算定の基礎となる遺産の価額は、申告(その後に更正があった場合にはその更正)により確定した遺産の価額を基礎とすべきであり、申告(その後に更正があった場合にはその更正)により確定した遺産の価額を前提としない更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に基づく更正の請求に当たらないというべきである」と判断の方針を明らかにしました。

 

具体的には「申告により確定した遺産の価額を前提としない更正の請求は、相続税法第32条第1項第1号に基づく更正の請求に該当しないところ、請求人らは、本件申告等により確定した遺産の総額を前提とせずに、更正の請求を行っているのであるから、同号に規定する事由に基づく更正の請求には該当しない」と判断しています。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/07/13)より転載

 

Q-22  M&Aにかかる期間として目安はありますか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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 Q-22 M&Aにかかる期間として目安はありますか?

A

M&Aは、買い手が見つかればすぐに終わる、というものではありません。相手が決まったのに、そこからなかなか前に進まない、ということも実際にはよくあります。ではなぜ時間がかかるのでしょうか。上場しているM&A仲介会社の開示を見ると、平均成約期間は6〜7か月程度とされています。ただこれは成約まで至った案件の平均で、実際の期間は規模や業種、スキームによって、数か月のこともあれば1年を超えることもあります。

 

そのため、質問に対する回答としては、数か月から1年を超えることもある、ということになりますが、M&Aにかかる期間を左右しているのは、相手が見つかるかどうかよりも、もう少し別の部分にあるようです。そのため、まずはM&Aの流れを簡単に振り返りながら、時間を要する理由を探っていきたいと思います。

 

 

1.M&Aの全体の流れ

M&Aは、大きく、(1)事前検討・準備、(2)マッチング・交渉、(3)契約締結の3つの段階に分けられます。(1)では、売り手が方針を固めて資料を整え、買い手は買収の方針やシナジーを検討します。(2)では、買い手候補との間で秘密保持契約(NDA)を結び、トップ面談を経て基本合意に進みます。(3)では、買い手によるデューデリジェンス(DD=詳細な調査)を受けて、最終契約を結び、クロージングに至ります。こうして並べてみると、「相手を探す」のは(2)の一部にすぎないことがわかります。実際のスケジュールはその前後で売り手・買い手の双方が進める作業の積み重ねで決まってきます。

 

 

2.時間がかかるのは、売り手・買い手それぞれの準備

時間が延びやすい場面は、売り手側と買い手側の両方にあります。売り手側でポイントになるのは、(3)のDDに耐えられる組織体制になっているかどうかです。DDは、買い手が会社の中身を細かく調べる、いわば身体測定のようなものです。月次決算が遅かったり、借入金や経営者保証、主要な契約や事業に必要な許認可等がきちんと管理されていなかったりすると、買い手は正しい収益力も実質的な純資産も十分に判断できません。その結果、追加の資料依頼や価格の再交渉が必要となり、結果として交渉に時間がかかります。

 

一方、買い手側にも事情があります。DDひとつとっても、依頼する専門家(公認会計士や弁護士など)の選定や契約、調査項目の検討等、着手するまでに意外と日数がかかります。資金面では、自己資金で賄えるなら比較的早く進みますが、借入による場合は金融機関の審査に時間を要します。買収についての社内の承認手続きにも、それなりの日数が必要です。また、DDでは財務面だけでなく、契約や許認可、係争の有無といった法務面の確認も行われ、規模の大きい案件では、これに加えて独占禁止法などの対応が必要になることもあります。

 

 

3.ただし、早ければよいというわけでもない

とはいえ、とにかく早いほうがよいかというと、そうとも言い切れません。売り手の立場からすると、買い手が同業他社の場合には、DDを通じて顧客別の売上や粗利、価格条件、技術情報といった、本来は社外に出したくない内部情報まで見られてしまう心配があります。経済産業省の「企業買収における行動指針」でも、目的の正当性が疑われる例として、競合他社が情報収集を目的に買収を持ちかけるケースが挙げられています。

 

一方で、買い手の立場からも急いで雑なDDをするのは禁物です。簿外債務や偶発債務を見落とすと、買収した後に思わぬ負担を抱えることになりかねません。

 

売り手は機微な情報を段階的に開示し、買い手は資金の裏付けや社内の承認状況を適時に示す。こうしたやりとりを丁寧に進めるほうが、結果として早く進みます。

 

 

最後に

結局のところ相手が決まっても話が進まないのは、売り手・買い手それぞれの準備がどこまで整っているか、によるところが大きいのだと思います。売り手は、いつ見られても問題のない数字を、買い手は、資金と社内の合意の段取りを。M&Aにかかる時間は、相手が見つかるまでの時間というよりも、双方が実際に動ける状態になるまでの時間だと考えると、わかりやすいのではないでしょうか。そこを早めに整えておくことが、結果的には近道になるはずです。

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.4 Q:顧問先からM&Aを進める際に「どこに相談すればいいか」と聞かれました。どうアドバイスをすればいいですか?

 

A:

「まずはM&Aの支援実績がある専門家に相談することをお勧めします。具体的にはM&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)が代表的な相談先です。ただし、仲介会社によって得意とする業種や規模、担当者の経験に差があるため、どこに依頼するかが重要になります」と伝えてください。
相談先を選ぶ際のポイントを事前に整理しておくことで、顧問先が安心して最初の一歩を踏み出せるようサポートできます。

 

 

<解説>

では、仲介会社を選ぶ際のポイントは何を基準にしたらよいのでしょか?

① 大手仲介会社と中小仲介会社、何が違うのか

大手M&A仲介会社は、豊富な買手候補データベースや全国規模のネットワークを有している点が強みです。多くの候補先へアプローチできるため、マッチング機会の広さが期待できます。
一方で、多数の案件を同時に取り扱うケースもあるため、案件によっては担当者との接触頻度やサポート体制に差が生じることがあります。
中小の仲介会社は、特定の業種や地域に特化している場合が多く、担当者が案件に深く関与しながら進められることが特徴です。オーナーとの距離が近く、柔軟な対応が期待できる一方で、買手ネットワークの規模や得意領域には違いがあるため、自社との相性を見極めることが重要です。

 

② 相談先だけではなく「担当者」も重要

M&Aでは、実際に案件を担当する担当者の経験や知識、提案力が結果に大きく影響します。
初回面談では、
・同業種の支援実績があるか
・どのような買手候補を想定しているか
・自社の強みや魅力をどのように評価しているか
・サポート体制はどのようになっているか
といった点を確認するとよいでしょう。
会社の知名度だけで判断するのではなく、「自社の事業をどれだけ理解しようとしているか」という視点も大切です。

 

③ 担当者との「相性」が結果を左右することもある

実際に、売上3億円規模の製造業者が仲介会社と契約したものの、担当者が業界特性を十分に理解しておらず、買手候補への提案内容が的確でなかったため長期間進展しなかったケースがありました。

その後、業界知識のある担当者が在籍する別の仲介会社へ相談したところ、買手候補の選定や提案内容が改善され、成約に至りました。

もちろん全てのケースに当てはまるわけではありませんが、仲介会社の規模や知名度だけでなく、自社の業種や課題を理解してくれる担当者かどうかも重要な判断材料になります。

 

④ 報酬体系の違いも必ず確認しておく

M&A仲介会社の報酬体系は大きく2種類に分かれます。成約時のみ報酬が発生する「完全成功報酬型」と、着手金や月額報酬が発生する「着手金あり型」です。
報酬体系の種類よりも、まず確認すべきは「どの段階でいくらかかるのか」が明確かどうかです。着手金・月額報酬・成功報酬の有無と金額が事前に明示されているか、成約に至らなかった場合の費用負担はどうなるのか、これらが曖昧な仲介会社は避けた方が無難です。
成約報酬の相場はレーマン法※を用いる会社が多く、譲渡対価に対して5〜10%程度が目安となりますが、会社によって料率の設定や最低報酬額が異なります。複数の仲介会社に見積もりを求め、報酬体系と具体的なサポート内容を比較したうえで判断することをお勧めします。

※レーマン法:譲渡対価の金額に応じて料率を段階的に変動させる成功報酬の算定方式。取引金額が大きくなるほど料率が低下する逓減方式が一般的で、国内のM&A仲介会社の多くが採用している。

 

【今回のポイント】

・大手はネットワークの広さ、中小は専門性や密な支援が強み。
・仲介会社だけではなく担当者の経験や提案力も確認する。
・初回面談では業界理解や具体的な経験、提案力も確認する。
・担当者変更があった場合の引継ぎ体制も事前に確認しておく。
・報酬体系(完全成功報酬 or 着手金あり)は複数社を比較したうえで選ぶ。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】教育資金贈与の特例に係る贈与者が、教育資金管理契約の期間中に死亡した場合の相続税

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~適用判定時の基準所得金額の範囲

 

【Q&A】複数代表者のうちの一人から非上場株式を相続した場合の相続税の納税猶予の特例の適用

 

 

 

【問】

甲は、令和4年4月に孫のA(長男乙の子。当時18歳。令和3年の合計所得金額0円)に対し、贈与契約書を交わして現金1,000万円を贈与しました。Aはその現金について、教育資金管理契約(以下「契約」)に基づきB銀行へ預け入れ、教育資金非課税申告書を提出して、租税特別措置法(措法)70条の2の2第1項の「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」(以下「本特例」)の適用を受けています。その契約中かつ乙が存命中に甲が死亡した場合に、甲がAに贈与した1,000万円のうち、Aの教育資金として支出されていない残額があるときは、甲に係る相続税の計算上、その残額はどのように取扱われますか。

 

 

【回答】

1.結論


本問の場合、贈与者である甲の相続開始時に受贈者Aが23歳未満である場合等(後記2(2)②参照)には、教育資金として支出されていない残額(後記2(2)①の「管理残額」)について相続税は課税されません。一方、23歳未満である場合等に該当しない場合には、Aがその残額を甲から遺贈により取得したものとみなされ、相続税が課税されます。

 

2.解説


(1)本特例の概要

本特例は、30歳未満の個人(前年分の所得税の合計所得金額が1,000万円超の者を除く。以下「受贈者」)が、教育資金に充てるため金融機関等の一定の契約に基づき、受贈者の祖父母等の直系尊属(以下「贈与者」)から書面による贈与により取得した金銭を銀行に預け入れる等の一定の行為をした場合、その金銭等の額のうち1,500万円までの金額に相当する部分の価額については、受贈者が金融機関等の営業所等に教育資金非課税申告書の提出等をすることにより、贈与税が非課税とされる税制です(措法70条の2の2第1項、第3項)。

(2)契約期間中に贈与者が死亡した場合の相続税

①原則

 

契約期間中に贈与者が死亡した場合は、原則、その死亡日における【非課税拠出額*1-教育資金支出額*2】のうち一定の計算をした金額(以下「管理残額」)を、受贈者が贈与者から相続または遺贈(以下「相続等」)により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に加算されます(措法70条の2の2第12項2号)。

*1「非課税拠出額」は、教育資金非課税申告書等に本特例の適用を受けるものとして記載された金額の合計額(1,500万円を限度)をいいます。
*2「教育資金支出額」は、金融機関等の営業所等で、領収書等により教育資金の支払の事実が確認され、かつ記録された金額の合計額をいいます。

 

②相続税が課税されない場合

 

受贈者が令和3年4月1日から5年3月31日までの間にその贈与者から金銭等の取得をし、本特例の適用を受けた後に契約期間中に贈与者が死亡したときにおいて、受贈者が贈与者の死亡日において23歳未満である場合等(注)に該当するときには、①にかかわらず、管理残額を相続等により取得したものとはみなされず、相続税が課税されません(措法70条の2の2第13項、措法通達70の2の2-9、同逐条解説(表)参照)。

(注)「23歳未満である場合等」とは、次に掲げる場合(ロ又はハに掲げる場合には贈与者死亡の届出と併せて一定の書類を提出等した場合に限る。) をいいます。

 

イ.23歳未満である場合
ロ.学校等に在学している場合
ハ.雇用保険法第60条の2第1項に規定する教育訓練を受けている場合

 

(3)本問へのあてはめ


受贈者のAが令和4年4月に贈与者の甲から金銭等を取得し、本特例の適用を受けた後、契約期間中に甲が死亡したときにおいて、Aが甲の死亡日に前記(2)②(注)の「23歳未満である場合等」に該当するときは、前記(2)②より、管理残額を甲から遺贈により取得したものとはみなされず、相続税は課税されません(措法70条の2の2第13項)。

 

一方、「23歳未満である場合等」に該当しないとき、つまり甲の死亡時においてAが23歳以上であること等の場合には、管理残額を甲から遺贈により取得したものとみなされ、Aに相続税が課税されます。この場合において、甲の長男乙(=甲の相続人)が存命中のときは、Aの相続税の計算上、「相続税額の2割加算」(相続税法18条第1項)が適用されます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/06/22)より転載

 

 

 

 

Q-21  M&Aにおける事業譲渡(営業譲渡)のメリット・デメリットは?株式譲渡との違いは?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-21  M&Aにおける事業譲渡(営業譲渡)のメリット・デメリットは?株式譲渡との違いは?

A

 

M&Aの代表的な手法として、実務上は「事業譲渡(旧商法上の営業譲渡)」又は「株式譲渡」が選択されます。なお、「営業譲渡」と「事業譲渡」は基本的には同義です。2006年(平成18年)の会社法施行に伴い、旧商法で用いられていた「営業譲渡」という呼称が、「事業譲渡」に改められたもので、現在の実務では「事業譲渡」という表現が一般的に用いられています。

 

一方、M&Aにおいて最も一般的な手法は株式譲渡であり、会社そのものの支配権を移転する方法となります。

 

今回は事業譲渡を中心に、そのメリット・デメリットや株式譲渡との違いをみていきましょう。

 

1.事業譲渡(営業譲渡)とは

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、他社へ譲渡する取引をいいます。

株式譲渡が「会社そのもの」を引き継ぐのに対し、事業譲渡では、譲渡対象となる資産・負債・契約等を個別に選択することが可能です。

そのため、譲受側にとっては、必要な事業のみを取得しやすいという特徴があります。

 

2.営業権(のれん)の考え方

事業譲渡においては、「営業権(のれん)」の評価が重要な論点となります。

営業権とは、社会的信用、顧客との継続的取引関係、技術力・ノウハウ、ブランド力、立地条件など、企業が有する無形の財産的価値を指します。一般的に、事業譲渡価格は以下の考え方により算定されます。

事業譲渡価格 = 時価純資産額 + のれん価値

ここでいう「時価純資産額」とは、現預金、売掛金、固定資産、棚卸資産等を時価評価したうえで、負債を差し引いた純資産額をいいます。

また、「のれん価値」の評価方法としては、実務上、利益年倍法が用いられるケースが多く、概ね以下のように算定されます。

のれん価値 = 平均純利益 ×年数

年数については、業種特性や顧客継続性等を踏まえ、一般的には1年~5年程度の範囲で交渉されるケースが多く見られます。

 

3.譲渡側の主なメリット

(1)不採算事業からの撤退

譲渡企業が事業譲渡を検討する理由の一つとして、業績不振事業による経営圧迫があります。経営悪化が深刻化する前に事業を売却することで、資金確保、本業への経営資源集中、多角化事業の整理、人員整理、事業承継などを図ることが可能となります。

(2) 減損リスクの回避

上場企業等では、不採算事業について減損会計の適用が問題となる場合があります。事業譲渡を行うことで、含み損資産の整理、バランスシートの健全化、損失計上による税効果などを期待できるケースがあります。

 

4.譲受側の主なメリット

(1)既存事業の拡大

同業種またはシナジー効果が期待できる事業を取得することで、既存事業の拡大を加速させることが可能となります。

(2)新規事業への迅速な参入

ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、既存事業を取得することで、顧客基盤、人材、ノウハウ、設備などを一括して取得でき、短期間で市場参入できるメリットがあります。

(3)税務上のメリット

事業譲渡により発生した「のれん」は、税務上「資産調整勘定」として取り扱われ、5年間で均等償却することが認められています。そのため、譲受企業においては、将来的な節税効果が期待できる場合があります。

 

5.事業譲渡(営業譲渡)のデメリット

(1) 譲渡益に対する課税

譲渡側には、譲渡益に対して法人税等が課税されます。実質的には、「時価純資産額」と「簿価純資産額」の差額、および「のれん相当額」に対して課税関係が生じることになります。

また、事業譲渡では一定の資産について消費税の課税対象となります。主な対象は、建物・機械装置等の有形固定資産、営業権・商標権等の無形固定資産、棚卸資産などです。なお、売掛金・買掛金等の債権債務は、原則として消費税の課税対象外となります。

(2)契約・雇用関係の再構築

事業譲渡では、契約や従業員について個別承継が必要となります。そのため、取引先との契約再締結、従業員の転籍同意、雇用契約の再締結、関係者への説明など、多くの実務負担が発生します。

小職も、営業権譲渡において売り手サイドの実務に携わった経験がありますが、取引先や関係者、従業員に対する事業売却の説明、異動の可否、退職勧奨、さらには継続雇用を希望する従業員の転籍同意など、多くの調整が必要となりました。

これらは最終的に「営業権譲渡価格」にも影響する重要な要素であり、実務上、精神的負担の大きい業務であったことを記憶しています。

 

6.事業譲渡と株式譲渡の比較

事業譲渡と株式譲渡の特徴を対比的にまとめますと以下の通りとなります。

項目 事業譲渡(営業譲渡) 株式譲渡
譲渡対象 事業の全部または一部 会社そのもの
契約関係 個別承継が必要 原則そのまま継続
従業員 転籍同意が必要 原則継続雇用
簿外債務リスク 限定しやすい 引き継ぐ可能性あり
消費税 課税対象となる場合あり 原則非課税
手続負担 多い 比較的簡便
のれん償却 可能 原則不可
適したケース 一部事業のみ取得したい場合 会社全体を承継する場合

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

 いわゆる事故物件の相続税評価で10%評価減の適用が認められるか?

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■療養のため転地したら、自宅に小規模宅地等の特例の適用が認められなくなった事例

■被相続人が契約した修繕工事の着工が相続開始後になっても債務控除が認められた事例

 

 

1. はじめに


古い賃貸住宅で人が死亡し長期間放置されていた物件、いわゆる事故物件を相続した人が、その物件の相続税評価額の減額を求めて、国税不服審判所(以下、審判所という。)に審査請求をした事案が情報公開により、明らかになりました(令和7年12月1日裁決、他の争点は割愛します。)。

 

2. 事故物件とは?


事故物件は不動産取引でしばしば問題となるものです。公式の定義ではないようですが、およそ過去に事故などにより人が死亡し長期間放置されるなどして特殊清掃が必要になった物件で、忌避されるような心理的瑕疵があり取引に影響を及ぼすものとされています。

 

国土交通省が令和3年10月にまとめた「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、住宅において、人の死が発生した事案で取引の当事者が契約するかどうかの判断に大きな影響を及ぼす可能性がある点に配慮。

 

特に宅地建物取引業者が住宅の売買・賃貸借においてその事実について告知すべきかどうかといったケースを整理しています。この意味合いでは、取引に影響する可能性がある点、不動産の相続税評価額への波及も想定されるでしょう。

 

3. 10%減の取扱いとは?


仮に、土地の取引に影響するとした場合、考えられるのが相続税の評価上の「10%評価減」の取扱いです。これは、土地の相続税評価の取扱い上、付近の土地の利用状況と比較して著しく利用価値が低下している土地に適用できるとされています。国税庁のホームページでは次のような記載があります。

 

(1) 道路より高い位置にある宅地又は低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの
(2) 地盤に甚だしい凹凸のある宅地
(3) 震動の甚だしい宅地
(4) (1)から(3)までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします。)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの

 

ただし適用が認められるのは、①こうした減価要因が路線価または固定資産評価額・倍率に反映されていないこと、②現に減価要因が生じていること、③この減価要因により実際に取引金額に影響が出ていることの3つを満たすのがポイントとされています(国税不服審判所令和2年6月2日裁決)。

 

4. 問題の土地に関する事情等


相続人が相続した問題の土地は、相続の開始日において、賃貸共同住宅の敷地として使用されていましたが、賃借人はいませんでした。

 

相続人によると、平成30年7月から8月頃、この土地の建物の賃借人が、居室内で死亡していたことが近隣住民からの異臭を原因とする通報により発覚。相続人は前記ガイドラインを引き合いに、この建物では特殊清掃は行われなかったが、異臭が近隣住民の記憶に残っていることから、この土地は取引の際、こうした事情の告知が必要な事故物件に該当すると考え、「忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの」に該当し、利用価値が著しく低下しているものとして相続税の減額を求めて令和6年7月、更正の請求をしました。

 

しかし、税務署が減額を認めなかったことから審判所に判断を仰ぐことになったものです。

 

5. 審判所の判断


審判所はまず、更正の請求においては「更正の請求を基礎付ける理由の立証責任は請求人にある」との見地に立って、10%評価減の取扱いについて、本件の場合「忌み等を理由とする減額評価が認められるためには、忌み施設が存すること等の事情による当該宅地の取引金額への影響が、当該宅地の減額評価を正当化する程度に具体的なものであり、この影響が当該宅地の評価に用いる路線価において考慮されていないことを要するというべき」と立証の方向性を示しました。

 

これを踏まえ審判所は、更正の請求時、建物内で賃借人の死亡により問題の土地の利用価値が著しく低下していることを示す客観的な証拠を提出しなかったことを指摘。

 

次いで審判所は、前記ガイドラインは宅地建物取引業者が取るべき対応を取りまとめたものであり、ガイドラインの定めに当てはまるからといって直ちに10%評価減の取扱いが認められるものではないとしたうえで、相続人が、具体的に問題の土地の価額にどのような影響を及ぼすのか、合理的な理由を示していないと指摘しました。

 

最終的に「建物の賃借人が居室内で死亡したことが近隣住民からの通報により発覚したという事実をもって、問題の土地の取引金額への影響が、減額評価を正当化する程度に具体的なものであるとは認められない」として、10%評価減の適用は認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/06/08)より転載

 

 

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 若手の税理士に事務所を譲渡し、時間をかけてソフトランディングでの引き継ぎを行いたいのですが、そのような相手先は見つかるのでしょうか。

 

 

 

 

当社がこれまで携わってきた事例においても、若手税理士へ円滑に承継されたケースは数多くあります。

 

近年では、「顧問先の新規開拓」「職員採用や組織づくり」に悩みを持つ若手税理士が増加しているようです。そのため、一定規模の顧問先と安定した職員体制を有する事務所のM&Aによる承継は、魅力的な選択肢として捉えられています。

 

また、譲渡先となる若手税理士からは、顧問先との関係性の引き継ぎや業務のフォローアップを目的として、数年間のサポートを希望されるケースも少なくありません。一定の引き継ぎ期間を設けることで、職員の退職リスクの低減や顧問先の離脱防止、新代表へのスムーズな信頼移行が可能となり、双方にとって安心感の高い承継につながります。そのため、「譲渡後は業務量を徐々に減らしながら、段階的に引退したい」とお考えの先生にとっても、相性の良い選択肢といえるでしょう。

 

なお、若手税理士への譲渡の場合、引き継ぎ期間が比較的長期に及ぶ傾向があります。少しでも余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが、成功の鍵となります。

 

 

 

 


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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.3 Q:顧問先の会社が「同業者が〇億で売れたと聞いたのですがうちも同じくらいで売れますか?」などと聞いてきた場合、どう答えるべきか?

 

A:

初期段階では具体的な金額を提示しないように注意しましょう。
「価格を考えるうえでの目安はありますが、最終的な価格は会社の個別条件と、買手との交渉によって決まります」と伝えてください。
そのうえで、「決算書上の利益がそのままM&A価格に使われるわけではない」という点を補足しておくことが重要です。

 

<解説>
① 買手は決算書の利益を「そのまま」では使わない

買手側は、決算書の利益をそのまま評価に使うことはありません。たとえばオーナーの役員報酬が市場水準より高い場合や、実態を伴わない経費が含まれている場合は、それらを除いた「正常化利益」を算出したうえで価格を検討します。役員報酬を市場水準ベースで調整するだけで、評価上の利益が数百万単位で変わることも珍しくありません。顧問税理士が把握している利益と、買手が評価する利益は、同じ決算書を見ていても一致しないケースは多くあります。

「うちの利益はこれだけある」という経営者の前提と、買手側が算出する利益が最初から食い違っていると、交渉が進むにつれて期待値のギャップが表面化します。

 

② 噂は参考にならない

「知り合いの会社が〇億で売れた」といった噂をもとに相談されるケースもありますが、他社の成約価格はM&A業界では非公開が原則です。聞こえてくる数字の裏に、買手の戦略的な意図があったか、不動産の含み益があったのか、借入金の処理がどうだったのかは、実際の当事者以外には知る術がありません。同じ業種・同じ規模に見えても、成約価格の構成はまったく異なります。価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」で決まります。

 

③ ある経営者の実例

ある経営者が「同じ業界内で規模が近い企業が5億円で売れたから、うちも同じくらいの価格で売れるだろう」と言っていました。しかし、その5億円で売却された会社は、自社ビルを保有しており、その不動産価値だけで2億円以上あったのです。つまり、事業の収益力だけを見れば、その会社とこの経営者の会社では実際の価値が大きく異なる可能性が高いということです。

M&Aでの売却価格は、単純に同業他社の価格を参考にするだけでは不十分で、個別の事情が必ず影響します。

 

【今回のポイント】

・「〇億で売れた」といった発言にうっかり同調をしない
・決算書の利益は「正常化」されてから評価に使われる
・他社の成約事例は背景が異なるため単純比較にならない
・価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」によって決まる

M&Aの譲渡価格は、単純に利益を何倍かした数字で決まるわけではありません。実際には、資産や負債の調整項目や、買い手企業との相性など、多くの要素が関係して価格が変動します。
早い段階で自社の価値や条件を整理しておくことで、経営者が考える価格と実際の売却価格のギャップを防ぎやすくなります。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】相続空き家の敷地に係る譲渡所得の3,000万円控除(被相続人が老人ホーム退所後に子の自宅で死亡した場合)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

【Q&A】法人が100%子会社の株式を譲渡する場合における法人税基本通達による株式時価の評価

 

法人が土地と建物を一括取得した場合の法人税・消費税における適正な取得価額の区分

 

 

 

【問】

Aさんは、令和7年6月に父親のBさんからC家屋とその敷地を相続し、C家屋を取壊し後、その敷地を令和8年5月に上場会社D㈱に譲渡(以下「本件譲渡」)しました。C家屋はBさんが昭和55年に新築し、妻との死別後は一人で居住していましたが、令和6年3月にBさんが老人ホームに入所した後は、その死亡の時まで空き家になっていました。Bさんは令和6年9月にその老人ホームを退所し、以後は死亡の時までAさんの自宅(Aさん所有)で同居していました。C家屋は築46年の古家で、地震に対する安全基準等に適合している家屋ではありません。
上記の場合に、Aさんの本所得税の計算上、租税特別措置法(措法)35条3項2号の「相続空き家の敷地の譲渡に係る譲渡所得の3,000万円控除」(以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


被相続人のBさんは相続開始の直前においてC家屋に居住しておらず、その敷地は相続の開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋(「被相続人居住用家屋」)の敷地に該当しないことから、その敷地の譲渡について本特例の適用を受けることはできません。

2.解説


(1)被相続人居住用家屋の意義

本特例の適用対象となる「被相続人居住用家屋」の敷地は、相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋の敷地であることが要件とされています(措法35条3項2号)。老人ホームに入所中に相続が開始した場合、被相続人が入所前に住んでいた自宅は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていないことから、本来は被相続人居住用家屋には該当しません。しかし、被相続人が相続開始の直前において老人ホームに入所していて元の自宅に居住していない場合であっても、下記(2)の要件を満たすときには、元の自宅とその敷地が被相続人居住用家屋およびその敷地に該当するものとされ、その譲渡について本特例の適用が認められます。

(2)被相続人が老人ホームに入所していた場合の被相続人居住用家屋の範囲

本特例の適用対象となる被相続人居住用家屋には、『”「対象従前居住の用」に供されていた”被相続人居住用家屋』が含まれます(措法35条5項3号)。「対象従前居住の用」とは、①次のイ~ハの要件を満たし、かつ、②特定事由(注)により相続の開始直前において家屋が被相続人の居住の用に供されていなかった場合における、その特定事由により居住の用に供されなくなる直前のその被相続人の居住の用をいいます(措法35条5項、同施行令23条9項、10項、11項)。

イ.特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続き被相続人居住用家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと。

ロ.特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、被相続人居住用家屋が事業の用、貸付の用または被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。

ハ.被相続人が有料老人ホーム等に入所等をした時から、相続開始の直前までの間において、被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうち、その施設等が被相続人の主としてその居住の用に供していた一の家屋に該当するものであること。
(注)「特定事由」とは、介護保険法に規定する要介護認定等を受けていた被相続人等が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設等に入所等をしていたことをいいます(措法35条5項、同施行令23条8項)。

(3)本問へのあてはめ


被相続人のBさんは、相続開始の直前においてC家屋を居住の用に供していないことから、前記(1)下線部の要件を満たしません。また、Bさんが相続開始の直前においてC家屋を居住の用に供さず、C家屋が空き家になった理由が、(2)(注)の特定事由(=老人ホーム等への入所等)によるものでなく、Aさんの自宅での居住によるものであることから、上記(2)下線部の要件も満たしません。
以上によりC家屋は被相続人居住用家屋に該当せず、その敷地の譲渡について本特例の適用を受けることはできません。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/05/25)より転載

 

 

 

 

 

◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

税務研究会では、会計事務所の事業引継ぎ(譲渡)を検討している税理士の方を対象に、全国各地で個別勉強会・相談会を開催しております。

個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 67歳の税理士です。体力的な不安が出てきたため、できれば今年中に税理士事務所の譲渡を完了させたいと考えています。年内の譲渡は現実的に可能でしょうか。また、スムーズに進めるために注意すべき点があれば教えてください。

 

 

 

ご年齢や体力面を考慮され、「今年中に税理士事務所の譲渡を完了させたい」というご希望は、進め方を工夫すれば十分に可能です。ただし、通常業務を行いながら進めることになりますので、年内完了を前提とした明確なスケジュールを組み、早めに動き出すことが重要です。

 

具体的な流れとしては、4月~6月にかけて仲介契約を締結し、譲渡条件(引き継ぎ方法や譲渡価額など)や、顧問先や職員体制などの事務所情報を整理します。この初期準備を丁寧に行うことで、後工程がスムーズになります。7月~9月は譲渡先の探索と具体的な交渉を進める期間となり、条件面や引き継ぎ体制について双方の認識をすり合わせていきます。そして10月~12月には譲渡契約を締結し、実務的な引き継ぎへと移行する想定です。

 

体力的なご負担を減らすためにも、譲渡後にどの程度関与するのかを事前に決めておくことも重要です。

 

税務研究会では、年内完了を見据えたスケジュール管理から、無理のない引き継ぎ方法の検討まで丁寧にサポートいたしますので、安心してご相談ください。

 

 

 

 


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[解説ニュース]

療養のため転地したら、自宅に小規模宅地等の特例の適用が認められなくなった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■M&A直前の相続で取得した株式の相続税評価に係る裁判は納税者勝訴で確定

■一団の宅地に用途の異なる建物がある時の小規模宅地等の特例の利用上の注意

 

 

1.はじめに


療養のため転地したことが、相続税の合法的な節税の妨げになる事例が明らかになりました(国税不服審判所令和7年12月11日裁決、情報公開による)。
この事案は、納税者Aさんが病気の妹(被相続人)と母親を伴い、自宅から離れて治療に専念するため病院の近場にある場所に転地していたケースでした。
争点は、転地する前の自宅が「小規模宅地等の特例」の適用できる特定居住用宅地等に該当するかどうかというものでした(本稿で他の争点は割愛します)。
税務署が生活の本拠は転地先で、自宅ではないとして否認したため、正しいのはどちらか、最終的に国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことになったのです。

2. 小規模宅地等の特例


小規模宅地等の特例とは、被相続人の住んでいた宅地を相続した場合に、その宅地等のうち所定の要件を満たした宅地での相続税の課税対象額を減額する制度です。本件では居住用の宅地330㎡までについて、相続税の課税対象額を最大80%減額するものです。

3. 事案の概要


(1)妹(被相続人)が死亡し相続人は母親のみであった。
(2)亡き妹の相続財産には、住民登録のあった家屋と敷地(以下、自宅という。)があり、母親は、その家屋と土地の所有権を相続した。
(3)母親は、令和3年3月、公正証書によって、遺言の効力発生時に母親が有する一切の財産をAさんに相続させる旨の遺言をした。
(4)母親は、上記相続に係る相続税の申告書を提出することなく死亡し、相続が開始した。法定相続人は、Aさんのほかに、母親の長男、次男もいたが、公正証書遺言があったため、Aさんのみが母親から妹に係る相続税の申告及び納税義務を承継した。
(5)被相続人(妹)と母親が死亡した場所は、C市に所在する転地先のD居室であった。もっとも、請求人等の住民票上の住所は、昭和62年2月26日以降、自宅が存するEであり、亡き妹及び母親の住民票上の住所は、それぞれ死亡の日まで異動はなかった。
(6)Aさんは承継した相続税につき、自宅の土地に小規模宅地等の特例を適用して申告期限までに提出した。
(7)税務署は、亡き妹がその相続の開始の直前において、自宅に生活の拠点を置いていたとは認められないから、自宅の土地について小規模宅地等の特例を適用することはできないなどとして更正処分をした。
(8)Aさんはマイホームを譲渡した場合の特例の取扱いを定めた措置法通達31の3−2を引き合いに、次のように主張しました。
「被相続人(妹)は転地療養の場として一時的な使用目的で転地先の居室に入居し、病状が回復した暁には自宅において生活を再開することを家族の総意としていた。転地先居室は生活の拠点には当たらず、住民票のある家屋が生活の拠点である」

4. 審判所の判断


審判所は、「ある宅地等が、相続開始の直前において、この特例の適用対象となる被相続人等の「居住の用に供されていた宅地等」に当たるか否かは、生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべき」と基準を示しました。
もっとも「相続開始の直前において、被相続人等が当該宅地等を敷地とする建物において現実に起居していなかった場合であっても、それが一時的なものであって、被相続人等が当該建物に生活の拠点を置いていたといえるときには、当該宅地は、被相続人等の「居住の用に供されていた宅地等」に当たる」とも述べました。
上記を踏まえ、審判所は具体的な検討において、「被相続人が自宅で現実に起居することが極めて困難な状況にある一方で、転地先居室は被相続人の生活の拠点たり得る場所であったこと、以後、これらの客観的状況に格別の変化はみられず、被相続人は、2年余りという少なくない期間にわたって、転地先居室で現実に起居し続けていたこと」から、それが「一時的なものであったとはいえない」と判断しました。
Aさんは、必要に応じて自宅に帰っていたことや、家財・貴重品等を置いていたことなどを主張しました。
しかし審判所は上記の事情について「病状が回復すれば本件家屋に戻ることを決意していたことを推認させるものではあるが、Aさんが自宅を管理していたことを示すものではあっても、被相続人が本件家屋に生活の拠点を置いていたことを基礎付ける事情であるとはいえない。」として、税務署の処分を支持しました。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2026/05/12)より転載

 

Q-20  M&Aが進まない理由は何ですか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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□■―――――――――

今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

―――――――――■□

 

 

 Q-20 M&Aが進まない理由は何ですか?

A

M&Aを進めていても、イメージ通りに進まないことが多々発生します。M&Aは、大きく(1)事前検討・準備、(2)マッチング・交渉、(3)契約締結の3つの段階に分けることができます。それぞれの段階ごとに、M&Aが進まない要因について、詳しく触れていきたいと思います。

 

 

(1)事前検討・準備
この段階では主にM&Aを実施すべきかどうかを事前に検討するために、情報収集やM&Aの目的・条件等を設定し、どのような方法で進めていくかなどの戦略を策定します。また、多くの企業はこの段階でM&A仲介会社等とアドバザイリー契約を結び、相談しながらM&Aを進めることになります。

この点、信頼できるM&A仲介会社が見つからない場合や、M&Aについて十分な知識を有していない会社が自力でM&Aを進めようとする場合には、自社の分析や市場調査に必要以上に時間がかかることがあります。また、M&Aの目的設定が曖昧な状態だと、方向性がぶれてしまい、M&Aが進まない要因の一つとなります。

 

(2)マッチング・交渉
この段階では主に買収先および売却先の候補を選定した上で絞りこみ、売り手がノンネームシート(注)や企業概要書を作成し、売却先へ提示の上、お互いの希望条件にあった企業とのマッチングを行います。その後、マッチングした企業の経営者同士によるトップ面談や交渉を進めていき、基本合意書の締結まで行います。

この点、一般的にM&Aは売り手よりも買い手の方が多く存在しており、買い手の条件と適合する売り手がなかなか見つからずにマッチングに時間がかかるケースがあります。また、売り手が作成した企業概要書で会社の魅力が伝わりにくい場合や、(1)事前検討・準備段階における自社分析が不十分だったために譲渡希望価格を不当に高く設定してしまった場合などにも、双方の条件が適合せずにマッチングに時間を要し、M&Aが進まない要因となります。
注: 売り手の名前が分からない状態で会社概要、財務状況、譲渡価格などの希望条件等が記載された資料

 

(3)契約締結
この段階では、主に売り手企業に対してデューディリジェンスと呼ばれる企業調査を実施し、その調査結果を踏まえて最終条件の交渉を行った上で、最終契約の締結を進めます。デューディリジェンスには財務、税務、法務、労務、ITなど様々な種類の調査があり、基本的には買い手が選定した第三者の専門家によって行われ、潜在的なリスクや問題点を洗い出し、買い手の意思決定に資する情報を提供します。

この点、特に次のようなケースにおいてはデューディリジェンスの実施や契約締結が遅れることがあり、M&Aが進まない要因となります。

売り手から十分な情報が開示されないケース
売り手がM&Aに不慣れな場合には、買い手から要求される資料リストが不十分であったり、準備や確認に時間を要したりすることがあり、デューディリジェンスの実施が遅れる要因となります。

売り手が不適切な会計処理を行っているケース
売り手が架空の売上計上や資産の過大計上及び認識していない負債が多額にある場合などの不適切な会計を行っている場合には、その原因を究明して企業のあるべき財政状態、経営成績を把握する必要があるため、その修正に時間を要することがあり、デューディリジェンスの実施が遅れる要因となります。

デューディリジェンスの結果を踏まえた最終交渉が難航するケース
デューディリジェンスを実施した結果、予期せぬ潜在的なリスクが発見された場合には、最終交渉において譲渡金額や譲渡対象資産・負債の範囲、売り手の経営者の待遇などが当初の希望条件から大きく変わることもあり、なかなか双方の折り合いがつかずに契約の締結が遅れることになります。

 

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

このコラムでは読者の方からのご質問も募集しています。M&Aに関することで疑問に思っていること、コラムの内容に関してもっと詳しく知りたいこと、○○について取り上げてほしい、などありましたら、こちらのアドレス(links@zeiken.co.jp)までお知らせください

 

(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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