[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

⑤実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


それでは、買い手候補先も見つかり、売却に関する協議交渉が順調に進んだ場合において、どのような点に留意していくべきでしょうか?

 

 

一般的なM&Aプロセスにおいては、買い手側は買収対象会社を対象に、デューデリジェンスという調査を実施します。

 

これは、会社が法律面から正しく存在し運営され、取引先や従業員等との法的な関係がきちんと整備されているかを調査する法務デューデリジェンスや、財務的な数値や会計処理の適切性、会社の税務に関するリスク等を調査する財務・税務デューデリジェンスなどがあります。

 

このデューデリジェンスは、買い手が対象会社から資料や情報の提供を受けて実施するもので、買い手が雇った弁護士や公認会計士や税理士が対象会社にコンタクトを取って資料を依頼したり質問を行ったりします。

 

 

 

 

その際、売り手は第1章で述べたように従業員や取引先に極力知られないように配慮しつつ、デューデリジェンスを受入れなければなりません。

 

このときに、売り手側の経営者が一人でデューデリジェンス対応をすることは現実的には難しいため、例えば、管理責任者や経営者の右腕的な人に相談して、デューデリジェンスの受入れをサポートしてもらうことが必要となります。

 

 

デューデリジェンスを受ける売り手にとっては、問題点を隠すことではなく、全てを詳らかにして買い手に問題点や潜在的なリスクを把握してもらって、それを前提に売買条件等の交渉を行う、ということが重要です。

 

仮に、悪い面を隠し通してM&Aを実行できたとしても、売り手側で意図的に隠していたことがM&A実行後に発覚したりすると、場合によっては譲渡対価の一部を返却しなければならなかったり、損害賠償を求められたりすることになります。

 

 

M&Aの際には売り手側と買い手側双方にて契約を締結しますが、一般的にはその契約書の中に、売り手の開示情報が正しくないことがM&A後に判明した場合は売り手が賠償責任を負う、といった条件が織り込まれるからです(これを表明保証といいます)。

 

 

また、一般的なプロセスでは、デューデリジェンスと並行して価格交渉等が行われますが、その交渉において、会社の収益性や財務内容等を基に、株価算定やValuationと呼ばれる会社の価値を算定するプロセスを買い手が実施することがあります。

 

そこで算出された会社の価値を参考に、売り手と買い手双方が各々希望価格を考慮しながら売買金額の妥協点を見つけて行くこととなります。

 

価格交渉の際には、先に述べたデューデリジェンスでの発見事項が考慮されて、時には価格を下げる要因となったり、または価格を上げる材料となったりします。

 

 

そのため、デューデリジェンスのプロセスは、M&A実行前の非常に重要な手続であることをご理解ください。

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係」についてです。

 

 


[質問]

鮮魚店を営む個人事業者が本年11月末日に廃業します。この個人事業者は簡易課税制度を適用しています。

 

廃業後は、事業に供していた店舗建物は、個人において車庫として使用する予定です。

 

この場合、その店舗建物を家事のために消費し、又は使用した時とは、廃業する本年11月末日をいうのでしょうか。また、その譲渡価額は簿価をいうものと考えてよいでしょうか。

 

 

[回答]

事例の場合、個人事業者が事業を廃止して棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたもの(事業用資産)を家事のために消費し、又は使用した場合には、その消費又は使用は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなされ(消法4⑤一)、その消費又は使用の時におけるその消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額をその対価の額とみなして課税の対象とすることとされています(消法28③一)。

 

そして、事例の場合、個人事業者が事業を廃止したときにおけるその事業用資産の消費又は使用の時とは、その事業の廃止に伴い事業用資産に該当しなくなった時点をいうものと考えます。

 

次に、事例の場合、その消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額とは、その事業用資産の簿価等には関係なく、合理的な方法により算出したその事業用資産に係る時価をいうものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年11月6日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

[解説ニュース]

障害者に関する所得税・相続税・贈与税の特例措置

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

1 はじめに


障害には、大きく分けると身体障害、知的障害、又は精神障害の3つがあります。また、認知症と診断されると、身体に障害がない場合は「精神障害者保健福祉手帳」の、身体の障害が大きい場合は「身体障害者手帳」の申請をすることができる場合があります。認知症の方がこれらの手帳を持っていたり、市区町村長等から一定の認定を受けていたりすれば、障害者として、税務上の特例措置の適用を受けることができます。

本号では、障害者に関する所得税、相続税及び贈与税の特例措置について、その概要をご紹介します。

 

 

2 所得税法・相続税法上の障害者・特別障害者とは


所得税法・相続税法上、障害者とは精神又は身体に障害がある一定の者をいい、特別障害者とは障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある一定の者をいいます。表にまとめると次のとおりです。

 

※1 成年被後見人はこれに該当します。

 

 

3 所得税


(1) 障害者控除

①本人が障害者の場合
居住者である障害者本人の所得税の計算上、所得金額から27万円(特別障害者の場合は40万円)を控除します。

 

②扶養親族等に障害者がいる場合
居住者である障害者の同一生計の配偶者、又は居住者である障害者を扶養している親族の所得税の計算上、所得金額から障害者1人につき27万円(特別障害者の場合には40万円、納税者等との同居を常況とする場合は75万円)を控除します。

 

(2) 心身障害者扶養共済制度の掛金・給付金の取扱い

地方公共団体が条例で実施する心身障害者扶養共済制度の掛金は、所得金額から控除します。また、これに基づき支給される給付金に所得税はかかりません。

 

(3) 少額貯蓄の利子の非課税

身体障害者手帳の交付を受けている者、遺族基礎年金や寡婦年金等を受けている妻、児童扶養手当を受けている児童の母等が受け取る預貯金等の利子等については、一定の手続を要件に貯蓄額350万円までは所得税がかかりません。

 

 

4 相続税(障害者控除)


障害者である相続人が85歳未満である場合には、その者の相続税額から、次の金額を控除します。

 

(1)一般障害者(特別障害者以外の障害者)の場合

10万円×(85歳-相続開始時の年齢)(1年未満切上)

 

(2)特別障害者の場合

20万円×(85歳-相続開始時の年齢)(1年未満切上)

 

 

5 贈与税(特定贈与信託の非課税)


(1) 概要

一定の信託契約に基づき特定障害者を受益者とする財産の信託があった場合には、その信託受益権の価額のうち、一定額までは贈与税がかかりません。

 

(2) 特定障害者の範囲と非課税限度額

 

 

※2 身体障害者は対象外です。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/27)より転載

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第1回】PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

1.はじめに

今回からおおよそ12回にわたって取得原価の配分(Purchase Price Allocation)に伴う無形資産評価(以下,便宜的に「PPA」という。)について解説をしていきます。PPAが2010年4月より日本の会計基準においても要求されるようになってから約10年が経過しました。

 

また,PPAが必須とされる国際会計基準(以下,「IFRS」という。)を採用する企業も増加し,日本でもPPAの実務が定着しつつありますが,まだまだ完全に定着しているとは言えない状況にあります。更に,昨今の会計不正が起きている現状において,監査を取り巻く環境も変化し,それに応じて監査人の対応も厳しくなり,PPAも重要な監査項目になってきているのではないでしょうか。

 

このような状況を踏まえて,上場会社の経営企画担当者・経理担当者が読まれることを想定して,PPAの基本的な考え方から,企業業績に与える影響,プロジェクトの進め方,監査対応などを網羅的に解説します。

 

 

2.過去から現在の状況

PPAの実務は,主に米国において確立されたものであり,長い間,多くの日本企業にとってPPAはなじみのないものでした。企業結合会計が日本に導入された後も,しばらくの間はM&A時のPPAにかかる無形資産の計上は強制ではなかったため,資産・負債の差額は,全額のれんとして一括計上処理されることが一般的であったと思われます。

 

ただし,2010年4月の企業結合会計基準の改正に伴い,日本基準においても,原則としてPPAにかかる無形資産の計上が求められることとなりました。

 

現状,経理・監査の現場においても,IRに対する企業の意識の高まりや監査の厳格化等を背景に,M&AにおけるPPAにかかる無形資産評価の要請が高まっており,筆者の個人的感覚ではPPAへの対応が必要となるケースが増加しています。

 

 

3.PPAの課題

日本の企業では,PPAにかかる無形資産評価についての理解がまだまだ不十分な状況にあります。専門書もネット検索でも,PPAについて得られる知識・情報は豊富とは言えず,買収後の会計処理及び開示に関して,実務に即した解説をしている媒体が限られています。多くの企業にとって,M&Aを検討・実行する機会が増えた昨今,当事会社においても,PPAプロセスを円滑に進めるためにも,PPAにかかる手続や無形資産評価実務,監査プロセスに対する理解を深めることが必要となってきています。

 

今後,経理担当者の方にとっても重要性が高まる可能性が高いPPAの概略や無形資産評価の実務について,本稿をきっかけにご理解頂ければ幸いです。

 

 

4.PPAのイメージ

本稿ではまず,PPAのイメージを解説します。図表1に示す通り,従来,日本基準においては,買収価額と時価純資産の差額(以下,「広義ののれん」という。)を20年以内の一定の年数にて償却していました。

それがPPAの導入により,広義ののれんに含まれる無形資産が特定され,広義ののれんから特定された無形資産を差引いた残額(以下,「狭義ののれん」という。)が,いわゆるのれんとして扱われるものとなりました。

 

つまり,従来は買収価額と純資産の差額が一括してのれんとして計上されていたものが,PPAの導入により,のれんのうち,商標権,特許権,顧客関係などに特定された無形資産が計上され,それらを配分後の残額をのれんとして取扱うこととなりました。

 

 

 

【図表1】PPAの流れ

 

 

 

 

詳細は,今後の連載を通じて説明していきますが,無形資産として計上される無形資産にはどのようなものがあるのでしょうか。一般的には図表2で示すような項目を無形資産として認識することとなります。

 

 

 

【図表2】無形資産の例示

 

 

 

 

5.数値例を用いた説明

図表1で示した事柄について数値例を用いて説明します。

X社(日本基準を採用)がY社のすべての株式を10,000百万円で買収して子会社とし,買収時のY社の純資産は7,000百万円でした。PPAを実施する前は,買収価額10,000百万円と純資産7,000百万円の差額3,000百万円が広義ののれんとなります。

 

PPAを実施し,無形資産1,500百万円が計上されると,狭義ののれん1,500百万円は広義ののれん3,000百万円から無形資産1,500百万円を差引くことで計算されます。

 

しかしながら,PPAの手続きはここで終了ではなく,計上された無形資産は,連結上の一時差異として繰延税金負債が計上されます。

本例では,法定実効税率を30%として,1,500百万円×30%の450百万円が繰延税金負債として計上されます。

 

その結果として,繰延税金負債分だけ狭義ののれんが増加することとなることから,1,500百万円+450百万円=1,950百万円が最終的な狭義ののれんとなります。

 

 

 

【図表3】PPA実施によるB/Sの動き

 

 

 

 

Y社をX社の連結財務諸表へ取込む時の仕訳を図表3に沿って作成すると下記のようになります。

 

 

 

 

 

 

図表4がPPAの実施の有無による計上される無形資産の金額の差異を比較したものです。

PPAを実施しない場合,計上されるのはのれん3,000百万円であるのに対して,PPAを実施した場合の広義ののれん相当額は,狭義ののれん1,950百万円と無形資産1,500百万円の合計3,450百万円となります。

両者の差異は,3,450百万円と3,000百万円の差額450百万円ですが,これは無形資産に対する繰延税金負債分に該当し,その分だけのれんが増加したこととなります。

 

このため,無形資産を計上すると,その税効果分だけのれんが増加することとなるため,日本基準を採用している場合,当初ののれんにかかる償却費よりも償却額が増加することとなる点に留意が必要です。

 

 

 

【図表4】 PPA実施の有無による無形資産計上額の差異

(単位:百万円)

 

 

 

6.PPAが業績に与える影響

先ほどPPA実施の有無により計上される無形資産の金額の差異について説明しましたが,ここではP/Lに与える影響について見ていきます。のれんと無形資産では,ケースバイケースではありますが,一般的にはのれんの耐用年数が無形資産の耐用年数より長くなるケースが多いです。つまり,無形資産の耐用年数はのれんの耐用年数より短くなるケースが多いと言えます。

 

仮に,無形資産の償却年数がのれんの償却年数より短いとすると,無形資産の償却が終わるまでの単年度で見た場合,PPAを実施すると毎期の償却負担額は多くなることとなります。図表3の例で,無形資産の耐用年数を5年,のれんの耐用年数を10年とした場合,PPAを実施した場合の方がPPA未実施の場合より,償却費が195百万円多くなっています。これは,①と②の影響によるものです。

 

①無形資産に対する繰延税金負債の計上によるのれんの増加による影響

無形資産1,500百万円×30%÷10年=45百万円

 

②無形資産とのれんの耐用年数の差異による影響

無形資産1,500百万円×(1/5‐1/10)=150百万円

 

 

 

【図表5】PPAの実施が償却費に与える影響

(単位:百万円)

 

 

 

7.本連載で説明していく内容

PPAのイメージを図表と簡単な数値例で説明しましたが,PPAは広義ののれんを無形資産と狭義ののれんに切り分ける作業だけに留まらず,企業業績にも影響を与えることがご理解頂けたのではないでしょうか。

 

例えば,企業買収前の業績シミュレーションを,広義ののれんを10年で償却すると仮定して実施し,買収後にPPAを実施したところ,当初の想定と異なる結果になってしまうことも起こり得ます。このようなことを理解した上で買収を進める場合と,理解しないで進める場合とでは,買収後のプロジェクト関係者の利害調整に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

また,PPAの結果は会計監査人による監査の対象となることから,監査に要する時間を考慮したスケジューリング及び監査に耐えうるPPAのロジック付け等が必要となってきます。

 

以上のことを踏まえて,本連載では,経営企画部門,経理部門がPPAプロジェクトを進めていく上で,必要な知識及び留意点を一つずつ解説していくことを予定しています。なお,現時点で想定している記載内容は下記の通りです。

 

【主な内容】

・PPAのプロセスと登場人物

・無形資産の認識識別基準

・PPAで識別する無形資産

・無形資産の評価手法

・経済的耐用年数

・PPAを実施する上での実務上のポイント

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?(2020年2月公開予定)

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

会社や事業を売る準備

~売るために準備しておく、財務上、労務上、法務上のポイントとは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 


 

今回は“会社や事業を売るための準備”というテーマです。”財務””労務””法務””強み弱みの整理”という順番に説明いたします。

 

 

【小規模M&A(マイクロM&A)の会場型セミナー(2020年3月18日開催/講師:大原達朗)はこちら】

 

 

 

 

 

 

〈財務〉


財務というよりはビジネスの話になります。そもそも、”儲かっているのか”という点が大きいポイントです。もちろん、「赤字の会社が絶対に売れない」ということはないのですが、確率論で言うと、儲かっている会社の方が圧倒的に売れる可能性が高いです。

 

 

したがって、儲かっているということを前提にした上で、そもそも“事業別とか毎月ごと、月次決算の数値が、きちんと作成できていて、資料を準備できる”かを、確認していただきたいと思います。

 

 

経営者の頭の中に、この企業の売上はいくらで、費用はいくらなのか、という情報は入ってると思いますが、買う方からすると経営者の頭の中を覗くわけにはいきませんので、きちんと資料として残っていて、最終的にはデュー・ディリジェンスで、過去の数値が、本当に正しかったのかどうかチェックしますので、「書類が残っています」「具体的には入出金の事実を確認できる通帳とか、銀行のデータがあります」という形になってないと、結局、その交渉はどこかでつまってしまいます。

 

 

「情報がないからやっぱり買うのをやめる」、あるいは「目をつぶって買うから、その代わり買収金額は大幅に割引をしてくれ」ということになりかねません。きちんと評価をして高く売るという意味で、財務の情報をきちんと整理しておく必要があります。 記帳や会計処理を会計事務所に委託している場合に、こういった月次とか事業別の記録がきちんとされていない状況が思ったよりもたくさんあります。きちんとした会計事務所であれば、月次の数値はきちんと集計されているでしょうが、意外と事業別の業績をきちんと整理している企業は少ないのが実情です。

 

 

一事業ごとの損益は把握しているけれども、一事業ごとにどんな資産があるのか”という点を把握していることは少ないのです。会社をまとめて売却するときにはあまり問題にはならないですが、会社の一部、一事業を売却しようとする際には問題になりますので注意が必要です。

 

 

結果的にこうした情報を整理することによって、ウチのビジネスは順調で将来も有望である、ということを買い手に伝えることになるので、財務というよりもビジネスそのものを第三者にわかりやすい形で準備をしておく必要があるということです。

 

 

 

 

 

〈人〉


次に人です。 “キーパーソンは存在するのでしょうか?”  “事業を回す責任者は存在するのでしょうか?”

 

 

オーナーがいないと事業が回らない場合には、基本的には売れません。したがって、将来の売却を考える場合には、オーナーが抜けても商売が回るようにしておかないといけません。あるいは、キーパーソンがいないということであれば、売却後も1年間、ないし2年間程度は、会社に残り、後継者候補を育成して、引き継ぎをすることが必要になります。このようなパターンのM&Aもありますので、キーパーソンがいないからといって、「絶対に譲渡ができない」と悲観的に考えないでいただきたいと思います。

 

 

基本的に、キーパーソンがいてオーナーは抜けてもなんとか回る番頭というか店長クラスの人はいるんだということを前提に続きの話をすると、”その方が仕事を続けてくれること”が、重要な条件です。 経営人材がどこの会社でも不足していますので、譲渡後も社長として残ってほしいという要望も数多くあります。むしろ、それなりの規模であれば、こうしたパターンの方が多いです。

 

 

彼らは、M&Aを人不足、経営人材不足をカバーするための手段としても考えているのです。その場合に、売り手にその覚悟があるのか、これまでオーナーの判断で、ある意味好き勝手やってきた経営が、そうではなくなります。一方で責任は軽くなります。その覚悟があるのか、という点もあらかじめよく考えておいたほうがよいでしょう。

 

 

その覚悟がない場合には、大企業の傘下に入り、経営を続けるという選択肢はない、とあらかじめ、買い手に明示しておくべきです。

 

 

 

 

 

〈労務〉


今の時代は、労務管理について非常に厳しい世の中になっています。“例えば社会保険の未払がある”  “あるいはそもそも社会保険に加入していない”ような場合です。 社会保険に加入していない状態で、例えば2,000万円の利益がでているとしましょう。買収後、社会保険に加入すると、利益は減ります。買い手としては、当然、その減った利益を基準に、買収金額を決めますので、売り手と買い手の売買金額の目線に差がでてきてしまいます。

 

 

したがって、売却を考えるのであれば、事前に社会保険にきちんと加入しておくということも重要な準備になります。 社会保険料の未納があるような場合には、買い手に迷惑がかかりますし、通常、売却できません。

 

 

このような状況がある場合には、法的整理の一環で事業譲渡をする場合を除き、事前に整理をしておくことが必要です。 労務管理は、今、売買時に非常に重視されるポイントです。

 

 

 

 

 

〈法務〉


少なくとも、“契約書が整理、保管されていること”は基本的なポイントです。 次に“会社法、各種業法によって要請されている書類が適正に整理されている”かどうかも買い手が気にするポイントです。

 

 

これがないと、免許の取り消しやペナルティーの可能性もあるわけですから、買い手としては慎重にならざるを得ません。 長年、経営を続けてきた方が経営を続けるのであれば大きな問題にならないようなことについて、M&Aをするということは、これまで経営に関与していない第三者がきて、あらたに経営を始めるということです。

 

 

彼らにわかりやすい書類、体制を作っておく必要がどうしてもでてきます。

 

 

 

 

 

〈強みと弱みの明示〉


最後にとても重要な”強みと弱みの明示”です。 皆さんの会社の強みと弱みはどこでしょうか。

 

 

強みについては、じっくり考えれば1つ2つは出てくると思います。 一方で弱みはどうでしょうか。弱いところを明らかにするだけではあまり意味がありませんが、弱みを補完できる先はどこなのか、というところまで考えると、どんな会社に買ってもらうがベストなのか、という点が明確になってきます。

 

 

買い手からすると、”お金さえ出せば儲かるという事業”があれば最高です。そのお金を生産設備、販促なのか、個別案件によって異なりますが、その穴を埋めれば、売上、利益があがっていく、そんなイメージがはっきりできると買い手は最高です。 今、厳しいのは人さえいれば、というパターンです。それは買い手も同じ状況だからです。

 

 

 

 

 

 

売買金額1,000万円以下の第三者承継に関係するM&A(マイクロM&A)と財務デュー・ディリジェンスの実務(3/18東京) 【小規模M&A実務セミナーのご案内】

 

 


【動画解説を見る(外部サイト)】

[解説ニュース]

医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度活用について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小林 良治/税理士)

 

1.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度


令和2年度税制改正大綱により、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の改正を前提に、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度(以下、「本制度」と言います。)の適用期限が新たに3年間延長される見通しとなりました。今回は本制度の概要及びその活用についてお伝えします。

 

(1)本制度概要

相続人が出資持分あり医療法人の出資持分を相続等により取得した場合、その法人が出資持分なし医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、一定要件を満たすことにより猶予税額が最終的に免除されます(租法70の7の12)。また、出資者の持分放棄により、他の出資者持分が相対的に増加することで、贈与を受けたものとみなし他の出資者に贈与税が課される場合(全出資者が持分放棄した場合は医療法人に贈与税が課されます)も同様に移行計画の満了まで納税が猶予され、一定要件を満たすことで最終的に免除されます(租法70の7の9)。

 

(2)移行計画の認定申請、移行期限等

本制度の適用を受ける場合、まず移行計画提出等の申請手続き等で一定要件を満たして厚生労働省より認定を受け、認定後3年以内に出資持分なし医療法人に移行し、移行後6年間は厚生労働省に運営状況の報告を行うことで継続して認定要件を満たす必要があります。今回税制改正によりこの認定制度が令和5年9月30日まで延長される見込みです。

 

(3)本制度創設時

そもそも本制度は、出資持分あり医療法人の出資持分をなくすことで出資持分にかかる相続時等の税負担・出資者からの払戻請求額の負担軽減を図り、医業経営の安定化を目指すことを目的として平成26年に創設されました。しかし、当初は計画通りに出資持分なし医療法人に移行した場合でも移行時の税負担が免除されるケースは以下の3パターンであり極めて限定的でした。

 

①社会医療法人への移行
②特定医療法人への移行
③一定の非課税要件(相令33条3項)を満たす出資持分なし医療法人への移行

 

これらはいずれも公益性の担保された医療法人への移行を前提とするものであり、①~③への移行以外の場合は移行時に医療法人を個人とみなして贈与税を支払うこととされました。(相法66④)

創設時の本制度活用の主なメリットは、課税時期を最大猶予期間である3年間先送りできること等、当面の納税負担に関することでした。

 

 

2.平成29年度税制改正後


(1)認定要件の追加

平成29年度税制改正では運営に関する要件が追加され、新たに3年間延長されました。追加された主な認定要件は

 

①法人関係者に利益供与しないこと
②役員報酬について不当に高額にならないように定めていること
③社会保険診療収入に係る収入が全収入の80%超となっていること 等

 

となっており従来の認定要件が強化されました(ただし、非同族要件等は含まれておりません)。認定後3年以内の移行期間中の猶予の取り扱いは変わりませんが、従来と異なり移行時の贈与税負担は生じないこととなり(租法70の7の14)、前記1.(2)により認定要件を移行後6年間維持すること(認定取消時のみ医療法人に贈与税課税)で相続税・贈与税免除の可能性が広がりました。

 

(2)本制度活用の可能性

本制度が延長されてもなお出資持分なし医療法人への移行については慎重な検討が必要です。例えば出資持分なし医療法人の解散時残余財産は国等に帰属し出資払戻額の請求はできません。本制度の活用を検討すべきと考えられるのは、出資持分評価額が高く、現状のままだと承継時に多額の税負担が見込まれる場合や出資者間相互の関係が悪く、将来の払戻請求リスクを排除しておきたい場合等が考えられます。本制度選択の検討は円滑な承継を行うため有用であるのかそのきっかけを与えるものと言えるでしょう。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/20)より転載

[伊藤俊一先生が伝授する!中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

②株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


中小零細企業M&Aで株式譲渡スキームを採用したとします。当該スキームでは通常、税効果を享受するため、売主において、役員慰労退職金を支給するケースが多いようです。この場合において、「現金支給するか、現物支給するかの有利不利判定」について課税関係をもとに考えてみます。

 

 

税負担のみを考慮すると、下記の事項を総合勘案して有利不利判定をすることになります。

 

(1)現物配当の場合、法人が含み損資産を有している場合、含み損を実現することが可能となります。グループ法人税制下で、関連会社への移転によっても含み損が実現できない資産について有効です。実務では、当該時点での解約返戻金が低い保険を支給するケースも多いようです。

 

(2)当該現物支給対象の現物が消費税の課税取引、非課税取引、課税対象外取引のいずれに該当するかで消費税の課税区分は決定されます。支給金額によっては、支給後の課税売上割合が変動する可能性があります。課税対象外取引となるべく、後述の通り、株主総会において支給決議をするのが必須です[注1]。

 

(3)現物支給の場合、別途、それに係る源泉所得税をグロスアップ計算する必要があります。源泉所得税は金銭での納付しかできないためです。

 

 

下記では、現物を分類して課税関係を検証します。

 

(イ)土地

【売買の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

 

登録免許税と不動産取得税は軽減税率の改正(延長含む)が頻繁に入るため、実行時の税率を確認します。本稿脱稿時点においては、不動産取得税及び登録免許税の軽減税率適用による税負担軽減効果が高いため、土地については、売買の方が有利になる可能性があります。

 

 

(ロ)建物・車両・ゴルフ会員権

【売買の場合】

〇建物

・・・消費税、登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇車両

・・・消費税、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇ゴルフ会員権

・・・消費税、売買契約書(預託金方式のみ)、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇建物

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇車両

・・・コストなし

〇ゴルフ会員権

・・・コストなし

 

建物・車両・ゴルフ会員権については、現物支給の方が有利です。

 

 

現物支給では、株主総会決議があるかないかで消費税課税区分が変更します。この理由づけには様々なものがあります[注2]。

 

下記の考え方が最もわかりやすいです。

 

役員報酬等の決定方法については、会社法第361条第1項を確認します。

 


(会社法第361条)

(取締役の報酬等)

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

 


 

 

現物支給する場合は、総会決議によって、その具体的な内容、すなわち、支給する現物資産の種類、金額、支給日等々の決議が必要です。よって、株主総会の決議なき場合、現物支給は代物弁済による資産の譲渡に該当します。代物弁済に係る消費税の取扱いは下記から読み取れます。

 

 

 


(消費税法第2条第1項第8号)

事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

 

(消費税基本通達5-1-4)

法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいうのであるから、例えば、いわゆる現物給与とされる現物による給付であっても、その現物の給付が給与の支払に代えて行われるものではなく、単に現物を給付することとする場合のその現物の給付は、代物弁済に該当しないことに留意する。

 


 

 

上記より、株主総会決議がない場合、代物弁済に該当し、資産の譲渡に係る取引なので課税取引に該当しますし、ある場合、給与扱いですから課税対象外です。なお、国税OB執筆の解説本の一部では課税取引と記載しているものもありますが、これは、中小零細企業実務において、株主総会決議をしていないだろう、という前提にたった、すなわち、実態に即した上での解説をされているものと筆者は邪推します。

 

 

 

 


【注釈】

[注1] 役員においては、株主総会の支給決議によってはじめて退職慰労金の支給義務が生じます(法基通9-2-28)。たとえ現実に退職しており、役員退職慰労金支給規定が予め作成されていても、株主総会での決議がない限り、債務確定にはなりません(最判昭和39年12月11日、最判昭和48年11月26日、最判昭和58年2月22日)。一方、最判昭和48年11月26日では明確な支給基準が存在し、本店備付けなど、それが株主に閲覧できるという要件等を満たせば、取締役会への一任できるとあります。以上につき、岡野訓=内藤忠大=濱田康宏=村木慎吾=白井一馬「実務目線からみた税務判断~実務で直面する厳選20事案~」88頁(大蔵財務協会 2014)を参照しています。

[注2] この点につき、前掲注1  96~99頁において、所得税と消費税の対価性の違いから理由づけを行っています。消費税は事前に対価性を問われるため、株主総会決議で現物支給決議を行えば、課税対象外取引なるという考え方です(消基通5-1-4も参照のこと)。

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

④「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


会社を売却する場合、株式を売却すれば、株式を譲り受けた人に会社の経営権が移りますので、株式を売買することが一般的な方法ではあります。ただし、会社の法人格をそのまま引き継ぐことで何らかのデメリットや将来のリスクが存在するような場合、買い手側が株式の売買ではなく、事業譲渡を希望する場合があります。

 

事業譲渡とは、会社の中の特定の事業であったり資産であったり人であったりをピックアップして売買することです。M&Aの際に、何らかの事情があって株式売買がそぐわないと判断された場合に、事業譲渡スキームがとられることがあります。

 

 

では、事業譲渡を選択した場合にどういったメリットがあるのでしょうか。

 

まず、買い手から見ると、会社そのものを取得して会社を経営していく場合に、もしかすると隠れた債務や将来の税務等のリスクをも一緒に承継してしまう可能性があると判断される場合や、引継ぎたくない事業や資産・負債等がある場合は、それらのリスクを遮断するために法人格そのものは承継せずに、必要な事業とそれに付随する資産や人のみを譲り受けるという選択を採ることができます。

 

そうすることで、元々の法人格にリスクや隠れた債務等を残したまま、買収したい事業のみを承継することができます。

 

 

一方、売り手から見ると、売りたい事業だけを売却できる方法でもあります。株式を譲渡すると会社の全ての経営権が移ってしまいますが、例えば、いくつかの事業を営んでいたものの、事業のリストラを検討した結果、ある事業をどこかに承継してもらいたいというようなケースにおいては、事業譲渡が選択されることもあります。

 

しかし、事業譲渡にはデメリットもあります。特定の事業や資産や人を承継する場合には、対象となる資産等を一つずつ特定して承継しなければなりません。

 

取引先との契約があれば、それら全ての取引先から承諾を得た上で契約を巻き直す、もしくは契約を移すという手続が必要となります。

 

また、人については、会社そのものの経営権が移るのであれば全従業員が会社にそのまま在籍する形となり、会社と従業員の雇用関係には影響はありませんが、事業譲渡の場合は、譲渡される事業に従事する従業員を個別に説得して新たな会社に移ってもらう、という手続が必要となります。

 

そのため、それらの手続が簡略化出来るよう、事業譲渡のような煩雑な手続を行わずに、包括的な手続によることを可能とする会社分割という手法なども認められています。

 

その他にも、2つの会社の株主を入れ替える株式交換という手法や、2つ以上の会社を統合して1社にまとめる合併という手法などもあります。

 

 

 

 

どのような手法を採るにしても、M&Aのスキームについては、売り手と買い手の協議によって決められますから、メリットとデメリットを慎重に検討して双方納得の上で決定する、ということが肝要となります。

[解説ニュース]

贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

1.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた贈与者から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(経営承継受贈者)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。この猶予税額は、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡した等の場合には、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

 

(2)(1)の贈与者が死亡した場合の相続税の特例

経営承継受贈者が(1)の納税猶予の適用を受けていた場合において、その者よりも先に贈与者が死亡したときは、経営承継受贈者は(1)の通り猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、その株式は贈与者に係る相続税の課税対象とされます。

 

 

 

2.個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合の税務


(1)みなし配当課税となる部分

個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡する場合には、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は”発行会社からの配当”とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算されて最高 55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。

 

(2)株式譲渡所得となる部分

個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常その譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)の通り譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされ、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用を差引いて、譲渡所得の金額が計算されます。この譲渡所得は他の所得と分離され、20.315%の税率で課税されます(措法37条の10第1項等)。

 

(3)相続等により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続等により非上場株式を取得(相続税法および租税特別措置法の規定により、相続等による財産の取得とみなされるものを含む)した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、2(1)(2)にかかわらず、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。

 

 

 

3.贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用


個人が贈与税の納税猶予の適用を受けて生前贈与により非上場株式を取得したものの、その贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合は、その者が他の要件を全て満たすときであっても、上記2(3)の「みなし配当課税の特例」の適用が受けられないのではないかという疑問が生じます。

 

この点について、相続等による財産の取得には、租税特別措置法の規定により相続等による財産の取得とみなされるものが含まれ (2(3)下線部参照)、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式は、その贈与者の死亡した場合、その経営承継受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされます(1(2)下線部参照)。ゆえに表題の場合は一定の手続の下で、2(3)の特例の適用を受けることができます。

 

なお、後継者が非上場株式の贈与による取得において「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70条の7の5)の適用を受ける場合も、上記と同様の取扱いがなされます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/14)より転載