[解説ニュース]

 

【Q&A】被相続人が保険料の全額を負担した生命保険契約に係る相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■土地の譲渡契約を締結後、売主が物件の引渡前に死亡した場合の所得税の譲渡所得の取扱い

 

■所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~極めて高い水準の所得に対する負担の適正化~

 

 

 

【問】

令和7年6月に亡くなった甲さんは、生前に次の①~③の生命保険契約(全て満期・解約返戻金あり)の保険料を全て負担していました。

 

①X生命保険会社に係る契約 契約者甲、被保険者A(甲の長男)、死亡保険金受取人B (Aの子)

②Y生命保険会社に係る契約 契約者C (甲の次男)、被保険者C、死亡保険金受取人D(Cの子)

③Z生命保険会社に係る契約 契約者及び被保険者甲、死亡保険金及び入院給付金の受取人乙(甲の配偶者)

 

この生命保険契約に係る相続税の取扱いついて、以下の通り質問します。

 

【問1】①と②の生命保険契約に関する権利は、甲さんに係る相続税の計算上、どのような取扱いになるのでしょうか。

 

【問2】甲さんの死亡後、配偶者の乙さんは、③の生命保険契約に基づき死亡保険金とともに入院給付金も受け取っています。この入院給付金についても、死亡保険金と同様に甲さんに係る相続税の課税対象とされるのでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


(1)【問1】の場合、①の契約の契約者は被相続人甲であることから、その契約に係る権利は本来の相続財産として相続税の課税対象とされます。一方、②の契約に係る権利については本来の相続財産ではありませんが、相続税の計算上、契約者のCが甲からこれを相続により取得したものとみなされ、課税対象とされます。

 

(2)【問2】の場合、③の入院給付金は乙が受取人として支払われたことから、本来の相続財産に該当せず、甲に係る相続税は課税されません。

 

 

2.解説


(1) 被相続人が保険料を負担した生命保険契約に関する権利に係る相続税の取扱い(【問1】)

 

①被相続人が保険契約者の場合

生命保険契約に関する権利は、保険契約者が有するものであり、被相続人が契約者であって、かつ保険料の全額を負担していた場合は、その権利は本来の相続財産となります。したがって、①の契約に係る権利は本来の相続財産として相続人による遺産分割協議の対象となり、甲に係る相続税の課税対象とされます。

 

②被相続人以外の者が保険契約者の場合

被相続人以外の者が保険契約者である場合は、その生命保険契約に関する権利は本来の相続財産には該当しません。ただし、被相続人以外の者が保険契約者で、かつ被相続人が保険料を負担した生命保険契約に関する権利のうち一定のものについては、その契約者が生命保険契約に関する権利を相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象とされます(相続税法3条1項3号)。したがって、②の契約に係る権利は、甲に係る相続税の計算上は契約者であるCが、甲から相続により取得したものとみなされ、課税対象とされます。

 

(2) 被相続人以外の者が受取人である入院給付金に係る相続税の取扱い(【問2】)

相続税法3条1項1号に基づき相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象とされる生命保険金は、被保険者の死亡を保険事故として支払われる死亡保険金に限られます。被保険者の傷害 (死亡の直接の基因となった傷害を除く。)、疾病その他これらに類するもので死亡を伴わないものを保険事故として支払われる保険金又は給付金は、その被保険者の死亡後に支払われたものであっても、相続税の課税対象には含まれません(相続税法基本通達3-7)。よって甲に係る相続税の計算上、乙が受取った入院給付金は課税対象とされません。なお、入院給付金の受取人が被保険者の甲で、その給付金が甲の死亡後に支払われた場合は、本来の相続財産として相続税が課税されます。

 

(注)乙が受取った入院給付金は、相続税法5条1項に定める贈与により取得したものとみなされる保険金等に該当しないことから、贈与税は課税されません。さらにこの入院給付金は、所得税法9条1項18号と同施行令30条1項が定める非課税とされる保険金等に該当することから、所得税も課税されません(所得税基本通達9-20、9-21)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/8/25)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

使い勝手アップの相続時精算課税制度では、みなし贈与にご用心

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■調整区域の約4千平米の宅地が地籍規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

■借地人の原状回復の履行と土壌汚染の相続評価に関する裁判事例

 

 

1.はじめに


相続時精算課税制度は、特定の親から子・祖父母から孫の間で選択できる贈与税の課税制度です。

 

この制度は①財産の贈与時には、贈与額2500万円までは特別控除により課税されず、それを超える金額の贈与には20%の税率で課税され、②その後、その贈与をした親や祖父母の相続開始時には、相続時精算課税で贈与を受けた財産を、相続又は遺贈により取得した財産に加算、その合計金額を基に計算した相続税額から既に支払った相続時精算課税に係る贈与税類を控除した金額を納付する(贈与税額が相続税額を上回る場合には還付を受ける)ことになります。
令和5年度税制改正では、110万円の基礎控除が創設され、以前に比べ令和6年1月1日以後の贈与では使い勝手がよくなりました。

 

国税庁の報道発表資料「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によると、改正後の令和6年中の贈与について、相続時精算課税制度を適用して申告した人は約8万人、前年に比べ59.2%も増加しました。

 

しかし相続時精算課税制度には、注意すべき点もあります。たとえば、相続時精算課税制度の適用を始めた年以降、基礎控除を超える贈与は無申告でも相続財産に取り込まれる点です。特に対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けたとされる「みなし贈与」についても、相続財産に加算される点が要注意といえます。

 

 

2.みなし贈与が相続財産に加算された裁判例


たとえば最近の事例では、平成21年の親子間で行われた借地権設定に際し本来授受されるべき権利金相当を授受をせず、同年暮れに同親子間で現金贈与をして現金贈与のみ相続時精算課税制度で贈与税の申告していたケースで、後年、授受しなかった借地権の権利金相当額につき税務署から「みなし贈与」と認定され借地権を贈与した被相続人の相続財産になるとした事例があります(東京高裁令和7年6月26日判決)。

 

判決によると、問題になったのは、平成21年に被相続人とその子である相続人2人の間で結ばれた借地権設定契約です。相続人は被相続人の土地の上に建物を建てようと、平成21年7月に建築会社と建築工事請負契約を締結していました。借地権設定契約は同年中に結ばれたものでしたが、この土地がある地域では借地権設定に伴い権利金等の一時金の授受する取引慣行があったのに、相続人は、被相続人に権利金などの一時金を支払わなかったといいます。

 

平成21年の現金610万円の贈与については、翌年に相続時精算課税の選択をして贈与税の申告をしていましたが、借地権の経済的利益は申告しませんでした。

 

 

3.相続が開始した後に…


その後、令和の時代になって相続が開始。相続人は相続税の申告でも借地権相当額を相続財産に加算しませんでした。

 

ところが税務署は、一人当たり2400万円弱に上る「みなし贈与」に当たる借地権の経済的利益(借地権相当額)のほか、満期保険金や現金の申告漏れを把握し、修正申告を勧めてきました。

 

けれども相続人は申告漏れのあった満期保険金や現金を相続財産に加算して修正申告、借地権の経済的利益については加算しませんでした。申告漏れによる贈与税の追徴が10年以上もなったからです。しかし税務署は、借地権の経済的利益を”相続財産”に加算して追徴したため最終的に裁判に発展したのです。

 

 

4.裁判所の判断


一審の東京地裁はまず、借地権の経済的利益について「相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けた」から、「当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる(相続税法9条)」と認定。そのため「借地権相当額は、特定贈与者(被相続人)からの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、原告らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する」とし「借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算されるべきもの」と判断していました。

 

東京高裁は一審判決を引用・支持したうえ、相続時精算課税が適用される財産について「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」(相続税法21条の15)とされており、その対象から「贈与税の更正決定等の期間制限を経過した贈与を除外しているとはいえない」と説示し、贈与税の更正処分等の除斥期間経過で、相続時精算課税の適用される相続財産に加算されないとする相続人の主張を退けています。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/8/12)より転載

 

Q-11 M&Aの相手方との打合せは何がポイントになりますか?交渉の流れについても教えてください。|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-11 M&Aの相手方との打合せは何がポイントになりますか?交渉の流れについても教えてください。

A

Q9でも簡単にふれましたが、M&Aの基本的な交渉の流れは、次のようになるのが一般的です。
(1)意向表明
(2)トップ面談
(3)デューデリジェンス
(4)基本合意
(5)詳細交渉
(6)本契約
(7)クロージング
(8)表明保証条項期間終了
この流れを図にしてみましたので併せてご確認ください。

 

ポイントとしては、下記の通りです。
A どの段階で金額が明らかにされるか?
B そのAの金額に対して、どの程度買い手を信頼できるか?
C 譲渡の条件は何なのか?

 

 

Aの金額については、(1)の段階、(2)の段階、(4)の段階、(6)の段階まで持ち越し、さらには日本長期信用銀行のリップルウッド・ホールディングスへの譲渡のように表明保証条項により、後日、結果、ゼロ円(実はマイナス)となるケースもあります。

 

 

上記の日本長期信用銀行の譲渡については、かなり特異なケースですが、基本的には、売り手・買い手のパワーバランスによって、いかにようにもなるのが必定です。日本のM&A仲介会社は、「双方代理(売り手と買い手双方の代理人/世界的には稀な商習慣)」であるため、このような争いごとを嫌う傾向にあります。よって、上記(1)~(7)の各段階で早めに、前述のA~Cについて、念入りに、より売り手・買い手の信頼が醸成されるよう動いていきます(担当者のコミュニケーション能力にも拠るところですが)。

 

 

そういう意味では、如何に信頼できるMA仲介会社・担当者に巡り合えるかが、とても大事なことだと思っています。

 

【参考】
極端な例として、日本長期信用銀行のリップルウッド・ホールディングスへの譲渡について紹介しておきます。平成12年1月の国会でも質疑がなされましたが、「瑕疵担保条項」として「3年以内に正常先債権の返済が遅延するなどの「瑕疵」が生じ、その資産が二割以上減価した場合……その債権を当初価値で預金保険機構に買い戻させることができる。」という条項(当時日本の国会では欧米ではM&Aの商慣習としては当たり前のこととなっていた、この「表明保証条項」を「瑕疵担保責任」と日本語訳していました。)により、当初約10億円で譲渡した日本長期信用銀行が、結果、マイナスで譲渡することに後日修正されたというケースで日本長期信用銀行は国有化の上の譲渡故、日本国(預金保険機構)がこの二割以上減価した正常先債権(譲渡代金を大きく上回る金額)をリップルウッド・ホールディングスに返却したものと推察されます。

 

M&Aにおける基本的な交渉の流れ

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

 

非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例:複数の者から贈与を受ける場合の贈与の期限

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

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【問】

X株式会社(X社)は、発行済株式(すべて1株式1議決権)の90%相当を代表取締役のAさん、10%相当をAさんの叔母のBさんが保有しています。Aさんは、令和5年3月1日に当時X社の代表取締役であった父からX社株式の発行済株式の90%相当の贈与を受け、その贈与に係る贈与税について非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)の適用を適法に受けています。

 

上記の場合において、Aさんが父の存命中にBさんの保有するX社株式の全部の贈与を受け、その贈与についても贈与税の特例措置の適用を受けようとするときには、AさんはBさんからいつまでにX社株式の贈与を受ける必要がありますか。

 

 

【回答】

1.結論


本問の場合、令和11年3月15日までの間に贈与税の申告期限が到来する贈与であることが特例措置の適用要件とされることから、令和10年12月31日までにX社株式の贈与を受ける必要があります。

 

 

2.解説


(1)特例措置の対象となる贈与の取得時期の要件

贈与税の特例措置の適用を受けるためには、次の①又は②のいずれかの贈与であることが要件とされます(措法70条の7の5第1項)。

 

①令和9年12月31日までの間の最初の贈与税の特例措置の適用に係る贈与

 

②上記①の贈与の日から(2)の「特例経営贈与承継期間」(措法70条の7の5第2項7号)の末日までの間に、贈与税の申告期限(措法又は国税通則法の規定により申告期限が延長された場合は延長前の期限)が到来する贈与

 

贈与税の特例措置は、令和9年12月31日までに行われた非上場株式の贈与が適用対象とされますが、これは①の「最初の贈与」(本問の場合は、令和5年3月1日にAさんが父から受けたX社株式の贈与が該当)について設けられている要件です。本問のAさんのように最初の贈与後に、その最初の贈与に係る非上場株式(X社株式)の贈与を追加で受ける場合は、上記②の贈与に該当することが贈与税の特例措置の適用要件となります(措法通達70の7の5-3なお書及びその逐条解説、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例措置等に関する質疑応答事例について(情報)」問2-17)。

(2)「特例経営贈与承継期間」の意義

(1)②の「特例経営贈与承継期間」とは、次の①の開始の日から②の終了の日までの期間をいいます(措法70条の7の5第2項7号)。

①開始の日

贈与税の特例措置の適用に係る贈与の日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限の翌日(通常は贈与の日を含む年の翌年3月16日)。

②終了の日

Aさんのように、父から受けたX社株式の最初の贈与について贈与税の特例措置の適用を受けている場合、その贈与後の次の贈与に係る特例贈与承継期間の終了の日は、【その特例経営承継受贈者の最初の贈与税の特例措置の適用に係る贈与の日の属する年分の贈与税の申告書の提出期限の翌日(通常は最初の贈与税の特例措置の適用に係る贈与の日を含む年の翌年3月16日)以後5年を経過する日】となります。

 

ただし、上記下線部の日よりも先に特例経営承継受贈者(本問ではAさん)又はその者に係る特例贈与者(本問ではAさんの父)が死亡した場合は、これらの者の死亡の日のうちいずれか早い日が「終了の日」となります。

 

(3)本問へのあてはめ

Aさんは父から贈与により取得したX社株式については既に贈与税の特例措置の適用を受けています。したがってAさんが、父の存命中にBさんからX社株式を贈与により取得し、贈与税の特例措置の適用を受けようとする場合には、その贈与は、父よりX社株式の贈与を受けた日(令和5年3月1日)から、その贈与税の特例措置に係る特例贈与承継期間の末日(上記(2)②より、「(父からの)贈与の日を含む年の翌年3月16日以後5年を経過する日」、つまり令和11年3月15日)までの間に贈与税の申告期限が到来するものであることが必要です。このためAさんは、令和10年12月31日までに、BさんからX社株式の贈与を受ける必要があります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/7/28)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

一団の宅地に用途の異なる建物がある時の小規模宅地等の特例の利用上の注意

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■調整区域の約4千平米の宅地が地籍規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

■借地人の原状回復の履行と土壌汚染の相続評価に関する裁判事例

 

 

1.はじめに


被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される小規模宅地等の特例を適用する場合には、選択する宅地の面積や宅地の単価を十分に意識する必要があります。

 

(表)小規模宅地等の特例の主な宅地の種類と限度面積と減額割合

 

たとえば、一団の宅地に用途の異なる建物がある場合には、その按分の仕方に注意したいところです。同特例を適用するための相続税の申告等では、過少に宅地を選択すると、後で、適正な面積に拡大して修正しようとしても難しくなる場合があるからです。過少に面積を選択したため、後で面積の計算誤りがあったとして、更正の請求が認められるかどうかで裁判になったケースがあります(東京高裁令和7年4月16日判決・確定)

 

2.事案の概要


判決によると、問題になったのは特定事業用宅地等の面積。農家を継いだ納税者Aさんは平成31年、遺産分割協議により、自宅、納屋、倉庫などの建物とその敷地である2筆1団の宅地を取得し、申告期限まで保有するなど小規模宅地等の特例の要件を満たし、納屋の敷地について「特定事業用宅地等」の面積として75㎡と申告しました。

 

ところが後で、倉庫なども特定事業用宅地等に含めるべきところ、事実誤認があったとして税務署に更正の請求で直してもらおうとしましたが、認められなかったという事案です。東京地裁の1審判決では、申告には問題がなかったので、更正の請求は「適用範囲を拡大することを求めるものである」と判断し、面積を直すことはできませんでした。

 

3.納税者の追加的主張


東京高裁でAさんは、宅地選択以前に誤りがあり、次のような面積の計算をすべきだったと追加主張しました。

 

・一団の土地等のうち、 2以上の建物等の用に一体的に利用されている部分については、当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎としてその上に存する各建物等の建築面積の比により按分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分を、当該各建物等の敷地部分とするとした地価税法取扱通達6-3(2)に従って面積を計算すると、納屋敷地部分の面積は154.56㎡となる。

 

・財産評価基本通達には一団の土地上に複数の建物が存在する場合の判断手法の定めはなく、そのため、地価税法取扱通達6-3の考え方に従って評価をするのが、実務上の考え方だ。

 

参考《地価税法取扱通達》(あん分計算の基礎となる土地等)
6‐3土地等が令第3条第3項に規定する「業務目的の用にも業務目的の用以外の用にも供されている」ものに該当するかどうかは、原則として一の建物等(同項第1号に規定する建物等をいう。以下9-2までにおいて同じ。)の用に供されている土地等(以下この項において「敷地部分」という。)ごとに判定するものとする。
この場合、一団の土地等の用途が単一でないときは、当該一団の土地等を、おおむね次のように区分し、整理した上で、それぞれに定めるところにより各建物等の敷地部分を判定するものとする。

 

(2)当該一団の土地等のうち、2以上の建物等の用に一体的に利用されている部分((3)の部分を除く。)当該部分の土地等のうち、当該部分の土地等の面積を基礎としてその上に存する各建物等の建築基準法施行令第2条第1項第2号((面積、高さ等の算定方法))に規定する建築面積の比によりあん分して計算した当該各建物等に係る面積に相当する部分を当該各建物等の敷地部分とする。

 

4.東京高裁の判断


東京高裁は、追加主張について更正の請求をすることができる事由(国税通則法23条1項:課税標準や税額の計算が法律の規定に従っていなかった又は計算に誤りがある等)には該当しないと判断しました。

 

(1)明細書等において特定事業用宅地等に区分されている納屋敷地の面積(75㎡)については、当初申告に際し、現地確認を行った上で課税明細書や登記事項証明書を基にして選択特例対象宅地等の面積を算定した上、納屋の敷地46.58㎡及び車庫の敷地28.52㎡を合算した面積として特定したものと認められる。

 

(2)本件特例における選択特例対象宅地等の面積を算定するための計算に当たっては地価税法取扱通達による方法が唯一の計算方法というものではないから、上記に従った計算方法によるものではなかったとしても、直ちに誤りがあったとみるべき法的根拠はうかがわれず、75㎡が計算誤りによるものとみることはできない。

 

(3)明細書等においても納税者の主張の納屋の敷地面積「154.56㎡から上記75.00㎡を除いたもの」が特定事業用宅地等として区分されていたものと認めることはできない。

 

上記事例のように、選択すべき宅地の面積を過少に申告してしまうと、後で訂正するのは困難です。一団の宅地に用途の異なる建物がある場合の区分は、はじめが肝心といえそうです。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/7/14)より転載

 

Q-10 M&Aのマッチングというのはどのような形で行うのでしょうか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-10 M&Aのマッチングというのはどのような形で行うのでしょうか?

A

M&Aにおけるマッチングとは、それぞれの希望やニーズにあった会社・事業の売り手と買い手同士が結びつくことを意味します。仮に、売り手と買い手が出会ったとしても、それぞれの希望やニーズに合わなければ意味がありません。重要なのは適切な条件・価格で株式譲渡等のM&A契約を締結することができるかどうかや、売り手と買い手双方の会社にとってM&A後にもメリットが感じられるかどうかになります。 M&Aにおいては納得のできる相手先とマッチングすることが最大のハードルといってもいいでしょう。

 

 

主なマッチングの方法としては、以下の2つが挙げられます。

 

 

■仲介(相対)
この方法は、売り手及び買い手がM&A仲介会社やFA(ファイナンシャル・アドバイザー)にそれぞれの希望条件を提示します。
それを受けて、M&A仲介会社やFAは、その提示された条件を受けてマッチングを行い、もっとも条件に適した会社を候補先としてピックアップします。そのため、基本的に売り手はピックアップされた買い手候補1社ずつと交渉を進めていくことになります。
現在はWEBサイトなどでM&Aの希望条件等を簡単に申し込みができるM&A仲介会社やマッチングサイトが複数存在しています。

 

 

■入札(オークション)
この方法は、売り手が購入を希望する買い手候補を複数社募り、応募してきた買い手がそれぞれの希望の買収条件や金額を文書化した「意向表明書」という形で売り手に提示します。売り手は提示された条件を比較・検討したのち、もっとも好条件を提示した買い手を交渉相手として選び、交渉を進めていくことになります。

 

 

それぞれの方式について以下のようなメリット、デメリットが考えられるため、自社に合った方式を選択することでM&Aをより円滑に進めることができます。

 

 

■メリット、デメリット
仲介は1対1での交渉となるため、競合相手がいないことから買い手にとって入札よりも買収金額が低くなりやすいことと、情報の開示が1社のみに限定されるため、情報が漏えいするリスクが相対的に低いことがメリットとしてあげられます。反対に、仲介は競争原理が働きにくくなるため、売り手にとって買収金額が安くなる傾向があり、また、希望の買収条件が通りづらくなるなど交渉力も低くなりやすい点がデメリットとしてあげられます。

 

 

一方、入札は競争原理が働き、買い手は選んでもらうために他社よりも好条件を提示する必要があるため、売り手にとっては仲介よりも買収金額や交渉力が高くなりやすい点がメリットとしてあげられます。反対に、入札は競合相手が複数いることから買い手にとっては買収金額が高くなりやすいことと、複数社に対して情報を開示することで情報漏えいリスクが相対的に高くなることがデメリットとしてあげられます。

 

 

それぞれの方法のメリット、デメリットをまとめると次の表になります。

このようにM&Aのマッチング方法にはそれぞれメリット、デメリットがあります。それらを考慮して最終的なマッチング方法を選択することが重要になりますが、最も重要なのは希望にあうマッチング対象先と出会えるかどうかです。そのため、マッチング方法のみにとらわれずに、常にアンテナを張り巡らせることが重要になってくるでしょう。

 

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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[解説ニュース]

 

土地の譲渡契約を締結後、売主が物件の引渡前に死亡した場合の所得税の譲渡所得の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

 

 

 

【問】

Aさんは令和7年5月に死亡しました。相続人は子のBさん1人です。Aさんは亡くなる直前の令和7年2月に上場会社(株)Cと、所有する土地Dを対価1億円で譲渡する契約を締結し、手付金1,000万円を受取りましたが、引渡前の令和7年3月に亡くなりました。相続人のBさんは、令和7年5月にこの譲渡契約に係る残代金9,000万円を受け取るとともに、買主の㈱Cへの土地Dの引渡しを完了しています。土地DはAさんの一族が代々相続してきたもので、この譲渡に係る長期譲渡所得の金額は9,200万円です。

 

以上の場合において、土地Dに係る所得税の譲渡所得の申告はどのように行うべきでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


Bの選択により、次の①又は②のいずれかの方法を採ることができます。この選択の結果により、Bが負担する税額が異なることになりますので、注意が必要です。

 

①土地Dに係る譲渡所得を契約効力発生日基準により計算し、被相続人Aの所得として令和7年分の所得税を申告(準確定申告)する。

 

②土地Dに係る譲渡所得を引渡日基準により計算し、AからBが土地Dを相続により取得後、買主のC㈱に譲渡したものとして、Bの所得として令和7年分の所得税を申告する。

 

 

2.解説


(1)譲渡所得の総収入金額の収入すべき時期の判定

個人が土地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額の計算上は、その譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)から、その土地の取得費や譲渡費用を控除します。譲渡所得の金額の計算では「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により「その年において収入すべき金額」とされています。

 

この場合の「総収入金額の収入すべき時期」については、所得税基本通達36-12でその判断基準が示されています。同通達では総収入金額の収入すべき時期、つまり資産の譲渡の時期について、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日によること(「引渡日基準」)を原則とし、納税者の選択により、その資産の譲渡契約の効力発生の日(通常は契約締結日)によること(「契約効力発生日基準」)も認めています。

 

 

 (2)本問における当てはめ

本問における土地Dに係る譲渡所得の申告は、Bの選択により次の①又は②のいずれかの方法を採ることができます。

 

①譲渡所得を契約効力発生日基準により申告する

 

これは土地Dに係る譲渡所得を契約効力発生日基準により、被相続人Aの所得(総収入金額は譲渡対価の1億円)として令和7年分の所得税を申告する方法です。この場合、相続人のBはAの相続開始日から4ヶ月以内に行う準確定申告(所得税法125条)により、その譲渡所得に係る所得税を納めることになります。また、この準確定申告によりBが納めた所得税は、Aに係る相続税の計算上、債務控除の対象とされます。
一方、土地Dに係る譲渡所得に対する令和8年度分の個人住民税については、賦課期日の令和8年1月1日にAは生存していないので課税されません。

 

②譲渡所得を引渡日基準により申告する

 

これは土地Dに係る譲渡所得を引渡日基準により、BがAから土地Dを相続により取得後、買主のC㈱に譲渡したものとして、Bの所得(総収入金額は譲渡対価の1億円)として令和7年分の所得税を申告する方法です。この場合において、土地Dの相続に際しBが納付した相続税のうち一定額については、Bの譲渡所得の金額の計算上、取得費に加算することができます(租税特別措置法39条)。
また、Bの令和8年度分の個人住民税の計算上、土地Dに係る譲渡所得に対する税額が課されます。

 

 

<参考>譲渡代金をめぐる相続税の取扱い

本問のAのように、土地の譲渡契約を締結して譲渡代金に含まれる手付金を受け取った後、残代金の受け取りや土地の引渡し、所有権移転登記等の完了前に売主が死亡した場合には、売主に係る相続税の計算上、譲渡した土地ではなく残代金請求権(本問では9,000万円)が、課税対象とされます。なお、相続開始前に売主が受け取った手付金(本問では1,000万円)は、その相続財産である預貯金の中に含まれており、これも売主に係る相続税の課税対象とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/6/24)より転載

 

 

 

 

Q-9 M&Aでは複数の相手から譲渡先を選ぶようなこともできますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-9 M&Aでは複数の相手から譲渡先を選ぶようなこともできますか?

A

基本、多くの相手先の中からM&A仲介会社等を通してマッチングが行われます。その中から売り手・買い手のおよその希望の範囲の会社から少数の相手先に絞られてきます。そこから先は、M&A仲介会社・相手先との交渉の流れについて主導権を握ることが実はとても大切なのです。

 

 

M&Aの流れについてはQを改めて解説しますが、下記のような形が基本です。
(1)意向表明
(2)トップ面談
(3)デューデリジェンス
(4)基本合意
(5)詳細交渉
(6)本契約
(7)クロージング

 

 

場合により、(1)と(2)が逆になる場合、(3)と(4)が逆になる場合があります。

 

 

また、どの段階で金額提示をするかについてもさまざまなケースがあり、(1)で行う場合、(2)でそれとなく伝える場合、(4)で行う場合等々さまざまです。

 

 

その上で、本題の「複数の相手から譲渡先を選ぶようなこともできるか」についてですが、もちろん可能です。上記の(1)~(4)のいずれかのフェーズにおいて、「排他的独占交渉権」というものが買い手に付与されることになります。そこまではいくつかの選択肢があるということになります。

 

 

日本のM&A仲介会社においては、M&Aのディールを円滑に進めるべく、基本的には上記(1)の段階で「排他的独占交渉権」を買い手に付与したい旨の打診があるのも通常です。

 

 

しかしながら、M&Aの世界は、売り手・買い手のパワーバランス(売り手市場か、買い手市場か)により、その力学が変わってきますので、例えば、誰もが欲しがる業態で収益性も見込める会社の譲渡であれば、この「排他的独占交渉権」を買い手に付与するのを、かなり後ろ倒しにすることも検討可能です。

 

 

筆者の経験で言えば、この「排他的独占交渉権」を買い手に付与するのを(6)の段階まで後にした例もあります(かなり強気な交渉です!!)。
つまり、複数の相手に財務諸表・事業計画を提出し、瑕疵内容を全開示した上で、かつ、表明保証等詳細にわたる本契約条項も買い手に提示してもらった上で(残す交渉事項がほとんどない状態で)、買い手に「独占的交渉権」を付与したケースです。

 

 

いずれにせよ、全てがパワーバランスの中で決まるものとご理解いただければと思います。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

マンション建替え決議と、転入後売買の3000万円控除適用を巡る裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■法律によらない土地の交換分合で譲渡所得税がかかるかどうかのポイント

■簡易課税制度選択届出済みを失念、ビル建替えで売上急減後トラブルなった事例

 

 

1.はじめに


古いマンションを手放す際の譲渡益に対する課税については、住み続けていれば、問題なく譲渡所得課税の特例、いわゆる3000万円控除の適用を受けて、軽減することが可能です。では、借家にした古いマンションをそのまま売却する場合は、どうでしょうか?

 

実は古いマンションでは借家の割合が増加する、そんな傾向があります(国土交通省「マンションの政策の最近の動向について」)。こうしたなか建替えが課題になったマンションをいつ売却するか、費用負担の関係で悩む人も少なくない状況です。組合に売り渡す場合でも課税される場合がある点も懸念材料です。

 

そこで一計を案じて、マンションの建替えについて区分所有者の間で決議がなされ、住んでいる区分所有者の立退き期限が定められたタイミングで、保有する家屋から賃借人を立ち退かせ、自分がそこに舞い戻ってから、売却して3000万円控除の適用をした人(仮にAさんとします)がいました。

 

ところが、税務署はその適用を認めませんでした。そのポイントの1つは、3000万円控除の適用対象となる家屋について「真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の本拠としていたもの」とされているのに、Aさんはマンションの建替え決議があって長く住めないことを知っていたと認定されたこと。今回は、この事案について見ます(国税不服審判所令和6年11月19日裁決)。

 

 

2.事案の概要


①このマンション1戸はAさんの配偶者が昭和60年に1945万円で購入、平成22年にAさんが相続した。

 

②Aさんは平成23年に賃貸を開始、令和3年5月まで継続した。

 

③Aさんは令和3年5月に住民票を同マンションに異動し、同年6月25日に別の住まいに異動した。

 

④Aさんは、令和3年4月に同マンションを4830万円で売買する契約を締結、引渡しを7月1日とした。

 

⑤ただし、同マンションを含むこの集合住宅の全区分所有者が明渡しを完了していない場合等、建替え工事までの段取りに不調があった場合は契約解除できる特約があった。

 

⑥同マンションの管理組合は令和2年12月に臨時総会で建替え決議を可決していた。

 

⑦Aさんは、令和4年に3000万円控除を適用する旨の期限内申告をした。

 

⑧所轄税務署は令和5年に3000万円控除の適用を認めず、更正処分等をした。

 

⑨Aさんは国税不服審判所に審査請求した。

 

 

3.審判所の判断


国税不服審判所(以下、審判所という。)は、3000万円控除を定めた法律(措置法第35条第2項第1号)に規定する「その居住の用に供している家屋」とは、「譲渡者が、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうものと解される」と特例の対象となる家屋についての考え方を示し、「譲渡資産がこれに該当するか否かについては、その者の日常生活の状況やその家屋の利用の実態等の諸事情を総合的に考慮し、社会通念に従って判断するのが相当である」としました。これを踏まえ審判所は、次のような主な事実関係を改めて指摘しました。

 

(1)マンション建替え決議後、2か月ほどで、反対者に対し売渡請求を行い、売買が成立、全員建て替え事業に賛成することとなったこと。

 

(2)マンション建替え事業の説明会が行われ、資料が配布され、建替え事業に係る売買契約の締結は令和3年4月11日を予定しており、また、各区分所有者は同年6月30日午後1時までに区分所有建物内の荷物を全て撤去し、区分所有建物の鍵を各譲受人に引き渡すこと等が記載されていたこと。

 

審判所は、マンションの継続的な利用の可能性について次のように検討しました。すなわち上記などから「建替え事業の円滑な進行を妨げる客観的な事情は特段認められない。また、法定説明会を経るなどの手続が行われた上で、建替え決議は法定の要件を充足し可決されており、建替え決議の効力に疑義が生じるような事情も認められない」。また、賃借人との間の契約解除や明渡しについても、Aさんが建替え事業に係るマンションの引渡し時期を認識していたことを示すものと指摘、最終的にAさんが同マンションにつき同日を超えて継続的に生活の拠点として使用することは客観的に見てほぼ不可能であったということができ、そのことは請求人(Aさん)においても、十分、認識していた」と認定しました。

 

このほか審判所は、Aさんが事実上、このマンションで生活した実態が見られないことなどを指摘し、「真に居住する意思を持っており、継続して生活の拠点として居住している実態があったとはいえない」として3000万円控除の適用を認めなかった税務署の更正処分等を支持しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/6/10)より転載

 

[解説ニュース]

 

土地賃貸借に際し無償返還届出を提出した場合の非上場株式の相続税評価(土地と株式の所有者が別の場合)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】住宅取得等資金の贈与のあった年に贈与者が死亡した場合の課税関係

 

■店舗建物の貸主における消費税の2割特例の適用と、適用後の簡易課税選択届出の特例調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

 

 

 

【問】

(株)Xの発行済株式の全部を保有していた甲が令和7年2月に死亡しました。X社は、甲の妻の乙の所有する土地Yについて、平成10年に賃貸借契約を締結し、借地権を設定しています。乙は、賃貸借契約によりX社から毎年土地Yの固定資産税・都市計画税の年額の3倍相当の地代を受けていました。また賃貸借契約に際して、借地人であるX社が将来土地Yを無償で地主の乙に返還する旨を記載した「無償返還届出書」を、X社と乙の連名で乙の所轄税務署長に提出しています。X社株式は、全て甲の長男でX社代表取締役の丙が相続する予定です。

 

上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、X社株式を純資産価額により評価する場合、被相続人(甲)が土地Yの所有者である場合と同様に、土地Yの自用地評価額の20%相当額を借地権の価額として純資産価額に算入することになりますか

 

 

【回答】

1.結論


土地Yの所有者が被相続人の甲ではないので、X社株式の純資産価額の計算上、土地Yの自用地評価額の20%相当額を算入する必要はないと考えます。

2.解説


(1)土地の賃貸借に際し権利金を支払わずに無償返還届出書を提出した場合の、土地の相続税評価

土地の貸借において、貸主である地主が受取る地代の水準が、その土地の公租公課(主に固定資産税等)相当額を超える場合には賃貸借契約とされ、借地借家法上、借地人に借地権が生じます。土地の貸借に際し権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、借地人である法人と地主との間で権利金の収受が行われず、法人税法施行令137条の「相当の地代」(注)も収受しない場合には、法人税法上、原則として地主から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人において贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法22条2項)。

 

(注)「相当の地代」とは、権利金の額の収受がない場合に、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格又は相続税評価額も選択できます。)に年6%の地代水準を乗じた額をいいます(法人税基本通達(法基通)13-1-2)。

 

本問の場合、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準であり、これは通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。ただし、法人が土地の賃貸借契約により土地を借受ける場合で、権利金を支払わず、かつ支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、賃貸借契約書において法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ地主と法人の連名で無償返還の届出書を地主の所轄税務署長に提出したときには、法人税上はその借地権の経済的価値がないものとして取扱われます(法基通13-1-14(1))。

 

 

 (2)X社の株式の相続税評価における土地Yに設定された借地権の相続税評価

賃貸借契約に基づき借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、相続税評価上も借地権の価額は0とされます(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い」(昭60課資2-58、直評9)5)。この場合、被相続人がその土地の所有者で、これを同族関係者である同族会社に対して貸付けているときは、その土地の相続税評価額は自用地評価額の80%相当額で評価されます(同8)。

 

また、その土地の評価額が地主個人と借地人である同族会社を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることから、その同族会社の株式の純資産価額の計算上は、その土地の自用地評価額の20%相当額が借地権価額として算入されます(前掲通達8後段、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30)」)。ただ、本問のように土地所有者が被相続人以外の者である場合でも、上記の下線部と同じ取扱いとすべきかどうかは疑問が残るところです。

 

これについて、上記の下線部の取扱いは、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸付けている場合における、被相続人が所有する同社の株式を評価する際の借地権の価額についての取扱いであり、土地所有者と株式所有者が同一であることを前提としているものです。

 

したがって、本問のように土地の貸主(所有者)が被相続人ではなく、土地所有者と株式所有者が同一でない場合は、X社の株式の純資産価額の計算上、借地権に相当する価額として土地Yの自用地評価額の20%相当額を算入する必要はないと考えます。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/5/26)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

借地人の原状回復義務の履行と土壌汚染土地の相続税評価に関する裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■贈与税の申告遅れたやむを得ない事情を巡る裁判例に学ぶ

■賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

 

 

1、はじめに


相続した土地に特定有害物質による土壌汚染があってその取引価額にも影響を及ぼすことが見込まれる場合には、相続税の土地評価においても考慮すべき事態となります。

 

その場合の土地の相続税評価額は、土壌汚染がないとした場合の土地の評価額から、土壌汚染の浄化・改善費用相当額等を控除することになっています(国税庁「土壌汚染地の評価等の考え方について(情報)」平成16年7月5日)。浄化・改善費用相当額は、汚染の適切な浄化等の方法に基づく合理的なものであることを前提に、相続税評価額のレベルに合わせて見積額の80%相当額とすることとされています。

 

ところで、賃借人が被相続人保有の土地を賃借しており、契約上、返還に際して原状回復義務がある場合に、浄化・改善費用相当額の控除は認められるのでしょうか。

 

最近、賃借人が事業の遂行上賃借した土地を汚染し、返還に際して契約上の原状回復義務により、相続開始後1年以内に土壌汚染の浄化・改善工事に着手・その後完了したケースで、土地の相続税評価をする上で浄化・改善費用相当額の控除を認めなかった国税不服審判所(以下、審判所という。)の事例が明かになりました(令和 6年12月9日裁決)。

 

ポイントになったのは、財産評価基本通達1(評価の原則)(3)の「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」という取扱いです。

 

 

2、事案の概要


この事案は、「中小工場地区」に所在する地積4千平米弱の土地での相続税評価が争われたものです。相続が開始したのは、2019年。プレス加工会社と被相続人らの間には、この土地の賃貸借契約が締結され、賃借人自身の負担において原状回復義務をする取り決めが行われていました。

 

ただ、相続開始時点では、土地の土壌汚染は浄化等がなされていませんでした。
しかし経済的な状況から会社の清算を決めたプレス加工会社が土地の明け渡しに向けて、土壌汚染対策法に基づき土壌汚染状況調査を開始。相続開始からおよそ1年半で土壌汚染の除染等の工事を完了。費用はプレス加工会社の財務状況が悪かったため、その親会社が負担したというものです。

 

争点は、この土地について土壌汚染が除去されたものとして評価すべきか、又は、浄化・改善費用相当額を控除して評価すべきか(ほかの争点は割愛)です。

 

 

3、審判所の判断


審判所はまず、「相続開始日におけるプレス加工会社の原状回復義務の有無及び同義務の履行可能性の程度は、土地の価額に影響を及ぼすべき事情といえる」として、相続開始日における原状回復義務の有無・同義務の履行可能性の程度を検討する」こととし、次のような事実関係を確認しました。

①原状回復義務については、賃貸借契約の終了により発生するものではあるが、相続開始日において、土地賃貸借契約の終了によって土壌汚染の除去という原状回復義務が発生することが確実であったこと。

 

②プレス加工会社は単独では土壌汚染の除去・改善費用全額を負担することはできなかったが、親会社が費用の肩代わりをしなかった場合の信用棄損の程度は著しく、同社グループの経営に及ぼす被害が大きいことが想定され、事実上、親会社が汚染除去費用を負担せざるを得ない状況であったと認められること。

 

③相続開始日前の時点で、土壌汚染対策法上の調査義務の発生前の先行調査として本件地歴調査が実施され、土壌汚染の結果次第という留保はありつつも、プレス加工会社が汚染土壌の除去の具体的な方法を検討し、施工業者まで選定していること。

 

④相続開始日後9か月以内のうちに、プレス加工会社は、土地の土壌汚染の掘削除去等を行う旨を一般向けに公表。相続開始日から1年も経過しない翌年3月9日には、除染工事を着手させ、その後、親会社が工事代金を立替払していること。

 

⑤相続開始日時点において、プレス加工会社が、当時実施中であった本件地歴調査によって土壌汚染が判明した場合には、速やかにその除去を行うべきものと認識・予定していたことは明らか。汚染除去費用については、親会社が立替払を行うことが十分想定されており、また、親会社にもその意図があったと推認されること。
上記から審判所は、「相続開始時点で原状回復義務の履行の蓋然性が高かった」として、問題の土地の評価に当たって、土壌汚染が除去されたものとして評価すべきであり、浄化・改善費用相当額を控除するのは相当ではないと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/5/13)より転載

 

Q-8 どうやってM&A先を探すのですか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-8 どうやってM&A先を探すのですか?

A

M&Aの件数は年々増加する傾向となっており、M&A先の探し方も様々な方法がありますが、現時点では次のような探し方が存在します。

 

 

・取引先や知人に相談する
・税理士、公認会計士、弁護士等の専門家へ相談する
・M&A仲介会社に相談する
・商工会議所等の公的な機関に相談する
・銀行等の金融機関に相談する
・M&Aのマッチングサイトを利用する

 

以下、具体的にみていきます。

 

 

 

・取引先や知人に相談する

取引先や知人は、企業やオーナーにとってもいつも身近で事業内容などの理解も進んでいることが多いため、会社の実情を把握した上でM&A先の紹介を受けることが可能であること、仲介料などの関連する費用が抑えやすいことなどがメリットです。

ただし、M&Aを専門に行っているわけではないためタイミングがよければM&A先が見つかる可能性もありますが、見つからない可能性もあります。また、売却を希望しているなどの情報漏洩のリスクもあるため相談も慎重に行う必要があります。

 

 

・税理士、公認会計士、弁護士へ相談する

自社の顧問を担当しているなど関わりある各種士業へ相談する方法です。M&Aを専門としているわけではありませんが、様々な顧問先を持ち、取引先や知人とは違ったネットワークがありますし、M&Aは会計・税務・法律での知識が必要となるためそれぞれの専門分野における相談も可能です。

こちらもタイミングによりM&A先が見つかる可能性はありますが、見つからない可能性もあります。

 

 

・M&A仲介会社に相談する

M&Aを希望する売り手と買い手の交渉を仲介し、成約させる業務を専門にしている会社であるM&A仲介会社へ相談する方法です。M&Aを専門としているため、売却先の選択肢は多く、またM&A全体を通してアドバイス・サポートを受けることができます。

一方で各種手数料は高くなる傾向にあり、また、買い手側へも同様のアドバイス・サポートを行っているため、利益相反(注)の問題があります。そのあたりの状況も理解した上で、サポートを受ける必要があります。

 

(注)利益相反とは、ある行為が一方にとっては利益になるが、他方にとっては不利益になってしまう行為をいいます。例えば、M&A仲介会社では、買い手と売り手の双方と仲介契約を契約し双方に助言を行いますが、安く買いたい買い手と、高く売りたい売り手双方に有利になるような助言は一般的には困難とされています。

 

 

・商工会議所等の公的な機関に相談する

商工会議所や事業引継ぎ支援センターなどの公的な機関に無料で相談が行えることはメリットです。また、公的な機関であるため安心感もあります。

しかし、M&A全体を通しての専門的なサポートを受けられるわけではないため、必要に応じて各種専門家等への相談を別途行う必要があり、その場合には別途費用が発生することになるため、留意が必要です。

 

 

・銀行等の金融機関に相談する

取引のある金融機関へ相談する方法です。金融機関は様々な顧客との取引があるため案件数としては多く、また、金融機関と取引のある先の紹介であれば一定の信頼感があります。一方で、金融機関側の利益(買い手側への融資など)を考えての案件紹介の可能性もあるため留意が必要です。

 

 

・マッチングサイトを利用する

M&Aの売り手と買い手をマッチングさせるインターネットサービスを利用する方法です。

自身でマッチングサイトから検索することになるため、求める条件を自身で探せることや手数料が抑えられる点がメリットです。

ただしM&A仲介業者に比べると、M&A全体を通してのサポートは受けにくくなります。また、必要に応じて各種専門家等への相談を別途行う必要があり、その場合には別途費用が発生することになります。

 

参考として以上の情報を表に整理してみました。

 

それぞれのメリット・デメリットをよく理解したうえで、まずは無料相談などを活用しつつ、自身のケースにあう探し方を検討するのもよいでしょう。

(編注:Q-5でも相談先を選ぶ際のポイントを解説していますので、併せてご参照ください。)

 

探し方 メリット デメリット
取引先や知人に相談する 費用が抑えられる 案件が見つからない可能性あり、情報漏洩リスクが高い
身近な税理士、公認会計士、弁護士等の専門家へ相談する M&A関連の専門相談も可能 案件が見つからない可能性あり
M&A仲介会社に相談する M&A全体のアドバイス・サポートを受けられる 費用が高い、利益相反問題あり
銀行等の金融機関に相談する 案件数多い、一定の信頼感 案件紹介の可能性あり
M&Aのマッチングサイトを利用する 自身で検索可能、費用が抑えられる M&A全体のサポートは受けにくい

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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[解説ニュース]

M&A直前の相続で取得した株式の相続税評価に係る裁判は納税者勝訴で確定

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

■売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

 

 

1. はじめに


東京高裁は令和6年8月28日、M&A直前に開始した相続で、相続人が取得した取引相場のない株式について、財産評価基本通達6項(以下、財産評価基本通達を評価通達、同6項を評価通達6項という)による財産の再評価・追徴を認めないとした今年1月の東京地裁判決を支持する判決を下しました。国側は控訴を見送ったため、同裁判は確定しました。

 

争われていたのは、中小企業のM&A目前に企業オーナーが亡くなり、オーナーが生前に取りまとめていたM&Aを相続人が実行し、同社株式を同業他社に売却した事案です。相続人は売却前の株式を評価通達により評価したが、その評価額と、M&Aで合意された売却金額との間に「著しいかい離」があるとして、税務署が売却価額約10万円に近い約8万円で更正したことで争いになっていました。

 

 

2. 事案の概要


判決によると、事案の概要は次のとおりです。

 

(1)被相続人は平成26年5月、経営する会社の株式の譲渡に向けて買収会社と協議、基本合意書を締結した。会社の株式は1株約10万円で譲渡するとしていたが、法律的に拘束するものではないことを確認していた。

 

(2)被相続人は基本合意書をまとめた後に死亡。相続人3人のうち被相続人の配偶者が売却する株式の発行会社の代表取締役になる一方、買収交渉を再開し、同年7月に相続人の一人に全ての株式を集めたうえで、全株式を買収会社に基本合意書の価格(約10万円)で譲渡した。

 

(3)相続人らは相続税の申告では評価通達に基づき「取引相場のない株式で大会社のもの」として評価し、1株約8千円として申告した。

 

(4)所轄税務署は、評価通達6項により平成30年8月に国税庁長官の指示に基づき、上記株式について、専門家によるDCF法の評価(約8万円)で更正処分等をした。

 

 

3. 国税の主張


東京高裁における国側の主な主張は次のとおりです。

 

①評価通達6項を適用すべき根拠として、問題の相続株式につき通達評価額と相続開始日における客観的な交換価値との間に著しいかい離があり、被控訴人がそのことを十分に認識することが可能であった。

 

②売買契約が成立しその所有権が買主に移転する前に、問題の株式の所有者である売主が死亡した場合、売主の相続財産は売買代金債権になり、その価額は原則として売買相当金額で評価される(最高裁昭和56年(行ツ)第89号 昭和61年12月5日)とした上で、相続開始時に売買契約が成立していなかったとしても、近い将来、売買契約が成立し売買代金債権に転化する蓋然性が高い場合には、当該株式の価値としては、その売買代金相当額が基準になり得る。

 

 

4. 東京高裁の判断


東京高裁は、①の点について次のように述べました。

 

・「取引相場のない株式の客観的な交換価値は、本来、専門的評価を経ない限り判明しないものであって、外形的事実によって取引相場のない株式の交換価値を合理的に推測することが可能であるとは必ずしもいえない。」

 

・その理由として「M&Aが行われる場合においては、高度な経営判断や双方の交渉の結果等により株式の売買代金が決定されるのであって、売買代金が交換価値を反映しているとは限らない」

 

その上で東京高裁は、譲渡予定価格約10万円や更正処分の株価約8万円等が「通達評価額(約8千円)と大きくかい離しているからといって、更正処分の時点までさかのぼって、譲渡予定価格が交換価値を反映したものであるとして評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情(特段の事情)が存在したということにはならない」としました。

 

②について東京高裁は、「昭和61年の最高裁判決は、本件のように売買契約がまだ成立していない場合とは明らかに状況を異にする」と指摘、「仮に、上記蓋然性の程度を基準とすることが許容されると解したとしても、本件相続開始日において、被控訴人らと買収会社)との間で本件相続株式の売買契約が成立し、譲渡予定価格による売買代金債権に転化する蓋然性が高かったと認めることはできない」と判断しました。

 

というのも、基本合意では、ア譲渡予定価格に法的な拘束力があることは明確に否定されている、イ相続開始後に買収監査等が行われているから、買収会社が「譲渡予定価格により取得する確定的意思を有していたとは直ちに認め難い」というわけです。

 

このほか、東京高裁は、「本件被相続人及び被控訴人らによる相続税の負担を減じ又は免れる行為があったとは認めがたい」ことなどを指摘。国側の控訴に理由はないとして、税務署の更正処分を取り消した一審判決を支持しました。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/4/21)より転載

 

Q-7 M&Aで買いたい(譲り受けたい)時に知っておくべき情報はどんなものがありますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-7 M&Aで買いたい(譲り受けたい)時に知っておくべき情報はどんなものがありますか?

A

まずは、買いたい(譲り受けたい)会社・事業について、(1)M&A市場にどの程度の候補会社数が出回っているか(2)その出回っている会社のおよその規模・価格帯、そして(3)どの地域(都心なのか、特定の地域なのか)等を予め調査しておく必要があります。

 

 

M&Aは当然に買い手と売り手の需給バランスの中で成り立っている市場があります。

以下、昨今需要が高い状態が続いている運送業を例に、具体的に考えてみましょう。

 

 

(1)については、現状の需給バランスの中で、運送業の売出し候補会社は、いわば取り合いの状況です。多少高いと思っても、即断即決で、例えば最低限「買取の意向表明」まで持っていかないことには、多くの買い希望の競争相手に持って行かれるでしょう。

 

 

(2)については、(1)におけるその業態における規模感というものがあります。例えば、運送業でも比較的規模感の小さいもの(単にトラック数台といったケース)は、あちらこちらで散見されることでわかるように、後継者が見つからず、結果、廃業を考えている売り手希望者は相当程度ありますので、買い希望を複数のM&A仲介会社等に提示しておくと、候補が定期的に上がってきます。一方、同じ運送業でも規模が大きく、また、老舗など顧客の固定化が万全な売り会社(いわゆる希少価値のある“出物”)については、即断即決が求められます。

 

 

そして、(3)の地域性については、やはりこれも需給バランスの中で決まってきます。運送業の例で言うと、これから成長性が高いと見込まれる地域や、戦略的に物流のボトルネックとなっているようなカテゴリー(港からの陸揚げのドレージ輸送、ロジスティックスセンター間をつなぐ幹線物流等)の運送業態については、やはり、即断即決が求められるのが実情です。

 

 

最後に、金融機関サイドの見方として、事業領域によって、どの程度借入をつけられるかも重要な要素です。業種によっては、金融機関がその借入金の返済能力が高いと見ている一方、返済能力はおろか事業リスクが高いと見ている業種もあります。やはり一般的に、高付加価値の特許・許認可・免許等々を有している事業や会社に対し、金融機関は債務返済能力を高く見ていく一方、算入障壁の低い業種や会社に対しては、事業リスクを高く見積もっているため、相当程度の自己資金がない限り、M&Aは成立しないケースが多いです。

 

 

また、業種の問題もありますが、顧客基盤が盤石であるとか、認知されたブランド力のある会社について金融機関は、当然に高評価をもっているのが通常ですが、このような会社は、売却価格も小さくありませんので、買い手としては、悩ましいのが常ということになります。

 

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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[解説ニュース]

 

相続税の小規模宅地等の特例における修正申告時の特例対象宅地等の選択変更

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価

 

■調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

 

 

 

【問】

不動産賃貸業を営んでいた甲さんは、令和6年2月に死亡しました。相続人は子のAさん1名です。Aさんは、甲に係る相続税の計算上、貸家の敷地であるX宅地200㎡を貸付事業用宅地等として、租税特別措置法(措法)69条の4の小規模宅地等の特例(以下「本特例」)の適用をして期限内に申告を行いました。その後、預金の申告漏れが見つかり、Aさんは修正申告のため当初申告のチェックをしたところ、X宅地と同じ貸家の敷地であるY宅地200㎡について本特例の適用をした方が、相続税計算上有利になることが判明しました。
Aさんは、この相続税の修正申告にあたり、本特例の適用を受ける宅地を、X宅地からY宅地に変更しようと考えていますが、その変更は可能でしょうか。なお、X宅地及びY宅地は、ともに本特例の適用を受けるための要件を満たしています。

【回答】

1.結論


Aさんは、当初申告においてX宅地を本特例の適用対象として適法に選択していることから、修正申告において適用対象宅地をY宅地に変更することは認められません。

 

2.解説


(1)本特例の概要

本特例は、個人が相続又は遺贈により取得した宅地等(土地または土地の上に存する権利)のうち、被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用または居住の用に供されていた一定の宅地等のうち、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業や居住の用に供するなど一定の要件を満たすものがある場合、その個人が本特例の適用を受けるものとして選択した宅地等については、被相続人等に係る相続税の計算上、一定面積までの部分について、相続税の課税価格のうち一定額を減額することができる特例です。

 

本特例の適用を受けるためには、適用を受けようとする個人が相続税の申告書(修正申告書を含む)に、本特例の適用を受けようとする旨を記載するとともに、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があります(措法69条の4第7項)。

 

 

(2)修正申告等により、小規模宅地等の選択替えが認められる場合

上記(1)の下線部の通り、本特例は、修正申告書にこの特例の適用を受けようとする旨を記載し、一定の書類の添付がある場合にも適用されます。ただし、国税庁は質疑応答で「当初申告におけるその宅地に係る小規模宅地等の特例の適用について何らかの瑕疵がない場合には、その後、その適用対象宅地の選択換えをすることは許されないこととされています」との見解を示しています(国税庁質疑応答事例「遺留分減殺に伴う修正申告及び更正の請求における小規模宅地等の選択替えの可否(令和元年7月1日前に開始した相続)」)。

 

この国税庁の質疑応答では、上記の「瑕疵」について具体例を示していません。ただ、大阪国税局「資産課税関係 謝りやすい事例(相続税関係 令和6年版)25」では、修正申告における本特例の適用が認められる場合について「法令に定める要件を欠く誤った選択をしていたこととなった場合」と説明しており、これが「瑕疵」の具体例に当たるものと考えられます。

 

このため、当初申告後、修正申告により本特例の適用対象となる宅地等を変更できるのは、当初申告で本特例の適用対象とした宅地等が実は法令の定める要件を満たしておらず、誤った選択をしていたような場合に限られると思われます。

 

 

(3)本問へのあてはめ

X宅地は本特例の適用要件を満たしており、Aさんは当初申告において本特例を適法に適用している(=「瑕疵」がない)ことから、修正申告の際に適用対象宅地をX宅地からY宅地に変更することは認められません。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/4/8)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

 

所得税の特定の基準所得金額の課税の特例~極めて高い水準の所得に対する負担の適正化~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】法人が100%子会社の株式を譲渡する場合における法人税基本通達による株式時価の評価

 

■相続した空き家の敷地を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除:契約効力発生日基準により申告する場合

 

 

 

 

【問】

 

甲さんは、昭和60年に設立し、発行済株式の全部を保有するとともに代表取締役として経営していた㈱A(A社)の株式の全部を、令和7年中に某上場会社に全て譲渡する予定です。この譲渡により甲さんには、株式譲渡益が約15億円生じる見込みです。甲さんのように高額の株式譲渡益が生じた場合、所得税の追加的な課税がされると聞きましたが、その概要について教えてください。

 

 

 

【回答】

1.結論


税負担の公平性を確保する観点から、令和7年分以後の所得税につき、極めて高い金額の所得に対する最低限の負担を求める措置として、「特定の基準所得金額の課税の特例」(以下「本特例」)が導入されています。株式等に係る譲渡所得等の金額や、土地建物に係る長期譲渡所得の金額が高額となる場合には、本特例の適用の有無について確認が必要です。

 

 

2.解説


(1)本特例の概要

基準所得金額(下記(2)参照)が3億3,000万円を超える場合、[1]の算式で計算した金額から[2]の基準所得税額(下記(3)参照)を控除した金額に相当する所得税が追加で課されます(租税特別措置法(措法)41条の19、改正法附則36条)。

[1](その年分の基準所得金額-3.3億円)×22.5%
[2]その年分の基準所得税額

 

(2)基準所得金額の意義

「基準所得金額」は、措法41条の19第2項に定める所得となりますが、具体的にはその年分の所得税につき申告不要制度(注)を適用しないで計算した所得金額(特別控除額控除後の額をいい、源泉分離課税の対象となる利子所得の金額や、NISA制度等により非課税とされる金額を含まない。)の合計額をいいます。例えば給与所得が含まれる総所得金額や、退職所得の金額、土地建物等の長期譲渡所得の金額(特別控除の適用がある場合には、その控除後の金額)、土地建物等の短期譲渡所得の金額(特別控除の適用がある場合には、その控除後の金額)、上場株式等に係る譲渡所得等の金額、(上場株式等以外の)一般株式等に係る譲渡所得等の金額などが、基準所得金額に含まれます。

 

(注)「申告不要制度」とは、源泉徴収あり特定口座内で上場株式の配当(配当所得)を取得した場合や譲渡による所得が生じた場合に、確定申告が不要とすることができる特例(措法8条の5、37条の11の5)をいいます。

 

 

(3)基準所得税額の意義

「基準所得税額」は、その年分の基準所得金額に係る所得税の額(外国税額控除を適用しない場合の所得税の額をいい、附帯税及び本特例により課される所得税の額を除く。)をいいます(措法41条の19第3項)。

 

 

(4) 本特例に係る所得税の計算例

甲さんのA社株式を譲渡した令和7年分の給与所得の金額が1,000万円、所得控除の合計額が200万円、A社株式の譲渡に係る一般株式等に係る譲渡所得等の金額が15億円、A社からの退職金に係る退職所得の金額が4,000万円の場合、本特例に係る所得税の計算は以下の通りになります。

 

①1,000万円+4,000万円+15億円>3.3億円  ∴本特例の適用あり。

 

②(1,000万円+4,000万円+15億円-3.3億円)×22.5%=2億7,450万円

 

③給与所得の金額1,000万円、所得控除の合計額が200万円の場合の総所得金額に対する所得税額(1,000万円-200万円)×23%-63.6万円=120.4万円

 

④一般株式等に係る譲渡所得等の金額15億円に対する所得税額(税率15%)=2億2,500万円

 

⑤退職所得の金額に対する所得税額 4,000万円×40%-279.6万円=1,320.4万円

 

⑥③+④+⑤=2億3,940.8万円

 

⑦追加で課される所得税額
②-⑥=3,509.2万円
(2(1)~(3)の参考資料:財務省「令和5年度税制改正の解説」P234~240)

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/3/24)より転載

 

 

 

 

[解説ニュース]

法律によらない土地の交換分合で譲渡所得税がかかるかどうかのポイント

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

■簡易課税制度選択届出済みを失念、ビル建替えで売上急減後トラブルなった事例

 

 

1.はじめに


自分の所有する土地を他人の土地と交換した場合、税法上「譲渡」扱いとされるのが原則です。しかし、固定資産の交換の特例(所得税法58条)に規定する要件を満たすと、土地の交換であっても「譲渡はなかったもの」とされ、譲渡所得税はかかりません。

 

 

2. 特例以外の取扱いも


ところで、譲渡所得税がかからない交換は、上記交換の特例に限られるかというと、そうでもありません。所得税では、土地区画整理法等の法律の規定に基づき租税特別措置が設けられているほか、取扱いとして次の2つがあります。①「法律の規定に基づかない区画形質の変更に伴う土地の交換分合」(所得税基本通達33‐6の6)、②宅建業者等の事業者が絡む場合の「宅地造成契約に基づく土地の交換等」(所得税基本通達33‐6の7)です。

 

①一団の土地の区域内に「土地及びその土地の上に存する借地権など」(以下、土地等という。)を有する2以上の人が、その一団の土地の利用の増進を図るために行う土地の区画形質の変更に際し、相互にその区域内に有する土地の交換分合)を行った場合には、その交換分合が当該区画形質の変更に必要最小限の範囲内で行われるものである限り、その交換分合による土地の譲渡はなかったものとされる取扱いです。

 

②一団の土地の区画形質の変更に関する事業が施行される場合において、その事業の施行者とその一団の土地の区域内に土地等を有する者(従前の土地の所有者)との間に締結された契約に基づき、従前の土地の所有者の有する土地をその事業の施行のためにその事業施行者に移転し、その事業完了後に区画形質の変更が行われたその区域内の土地の一部を従前の土地の所有者が取得するときは、その従前の土地の所有者が有する土地とその取得する土地との位置が異なるときであっても、その土地の異動が当該事業の施行上必要最小限の範囲内のものであると認められるときは、その従前の土地の所有者の有する土地のうちその取得する土地の面積に相当する部分は譲渡がなかったものとされる取扱いです。ただし一部金銭で補われている場合には、金銭で取得した土地部分を除きます。

 

そして①②のどちらもこの交換分合が、一団の土地の区画形質の変更に伴い行われる道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等に基因して行われるもので、四囲の状況からみて必要最小限の範囲内であると認められる場合に上記取扱いを適用できるとされています。

 

 

3. 区画形質の変更とは?


上記の特例以外の交換分合の取扱いでは、一団の土地において「土地の区画形質の変更」に際し土地の交換分合が行われることが条件になっています。この土地の区画形質の変更とは、(1)区画の変更、(2)土地の形状の変更、(3)宅地化することとされています。具体的にどのような形で認められるのか、国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の裁決事例から手がかりを捜してみましょう。

4.平成13年12月20日裁決


この事例は1団の土地を構成する土地を持つ3人が、無道路地をなくすための私道を開設しようと、それぞれ土地を交換等して所有する土地を使いやすくした事例です。税務署は上記①の取扱いの適用はないとして課税しました。

 

税務署の考えは「土地の区画形質の変更とは、一団の土地の登記地番及び所有権に基づく区画に対して、道路その他の公共施設の整備、不整形地の整理等によって区画を適正にし、土地の形状・土質を改良して適正な宅地を造成すること」だとして、3人の行った交換分合について次の問題点を指摘していました。

 

ア、地番・地積の変更・更正等を行うことなく、従来のままの地番・地積で所有権移転登記がされている。

 

イ、一部の土地は、何ら造成等は行われず、区画形質の変更があったとは認められない。

 

しかし審判所は、上記①の取扱いについて、「その経済実態から、土地所有者相互間における相隣関係の問題として単に土地の境界線を整理しただけとか不整形地であったところに道路を付け区画を整理するというのであれば、その土地の交換分合が土地所有者相互間において必要最小限の範囲内で行われた場合には、税務上はその交換分合による土地の譲渡はなかったものとする趣旨」を踏まえ、「土地の区画を整理し、又は土地の形状及び土質を変更し、利用しやすい土地にすることをいうと解され、必ずしも土地の形質の変更を伴わなければならないというものではない」と述べ、上記①の取扱いの適用を認め「譲渡はなかったもの」としています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/3/10)より転載

 

Q-6 M&Aで売りたい(譲渡したい)時はどんな準備が必要でしょうか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-6 M&Aで売りたい(譲渡したい)時はどんな準備が必要でしょうか?

A

M&Aにより会社を売りたいと思った時には事前の情報収集と整理が必要です。
それは、M&Aの売り手と買い手との間には経験の差が存在するためです。
一般的にM&Aによる売り手サイドは初めてのM&Aであることが多いのに対して、買い手サイドはこれまでに何度も企業を買収した経験があることも珍しくありません。
このように、経験に差がある中で、事前の準備ができていない場合には、安く買いたたかれたり、不利な条件による売却となってしまったりする可能性もあります。

 

そのため、具体的には以下のような情報を事前に整理し、集めておくことが重要です。

 

・会社を売りたい目的

まず、会社を売りたい目的を整理することが必要です。目的を整理していく中で、これだけは譲れない、などの諸条件を明確にすることで、そもそもM&Aが最善の方法なのかを再確認するとともに、M&Aによる売却を行う場合でもその後にしっかりとした交渉ができることにつながり、結果としてM&Aの成功につながることになります。

 

・M&Aについて相談する窓口

M&Aは会社の売却であり、会社にとってもオーナーにとっても大変重要なイベントです。そのため、事前に相談する窓口は信頼がおける相手であることが非常に重要になってきます。一般的には、M&A仲介会社や、公認会計士・税理士・弁護士といった専門家、さらに銀行等の金融機関、そして商工会議所、事業承継・引継ぎ支援センターなどの地域の自治体と密接な機関等が相談窓口として挙げられます。選択肢として複数あることを認識した上で、信頼のおける専門機関等と一体となって進めていくことが重要です。

 

・会社の数値に現れない価値

Q-3のコラムでも記載しているように、売り手サイドとしては、今まで築き上げた顧客基盤・ノウハウ・社員教育・ブランド価値を適正に評価してもらいたいと考えますが、これらは決算書などの財務諸表数値には反映されていないことが通常です。

これらの会社の強みとなるような企業価値をM&Aを検討する前から事前に時間をかけて整理しておくことで、M&Aの取引価額を適正に評価することが可能となり、最終的にM&Aの成功へとつながると考えます。

なお、このような情報は会社の代表者だけでは客観的な評価が難しいこともあるので、税務顧問先やM&A仲介の担当者等に事前に相談しておくことがとても重要です。

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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[解説ニュース]

調整区域の約4千平米の宅地が地積規模の大きな宅地として減価できないと判断された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

[関連解説]

■相続財産譲渡時の取得費加算の特例で加算される相続税額で争いになった事例

■売却する不動産にある遺品の片付け費用が譲渡費用と認められなかった事例

 

 

1、はじめに


贈与税の確定申告もこの時期が申告の最盛期です。贈与税は財産をもらった人が、原則として贈与のあった年の翌年3月15日までに申告することになっています。もちろん、申告期限を守れなかったら、原則として無申告加算税というペナルティが付けられます。

 

ただし申告書の提出がなかったことについて、「正当な理由」がある場合には、無申告加算税は賦課されません。この「正当な理由」とは、「災害、交通・通信の途絶その他期限内に申告書を提出しなかったことについて真にやむを得ない事由」のことを指します(国税庁HP,相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針))。

 

 

2、「やむを得ない事情」をめぐる事例


この「やむを得ない事情」について、例えば次のような裁判例があるので、見てみることにしましょう(東京地裁平成31年2月1日、最高裁令和2年1月16日不受理)
判決によると、問題になったのは事業承継に絡んだ非上場会社の株式の贈与です。納税者Aさんは平成26年に父親からその株式の贈与を受けました(本件贈与といいます)。

 

ところがその年末、父親が他の会社関係者とともにAさんに対し株式を贈与したことはないなどと主張して、Aさんと株式の発行会社などを相手に、父が株式を有する株主であることの確認を求める等の訴訟を東京地裁に提起したというのです。
この父から提起された裁判は平成28年2月に判決が下り、確定しました。その内容はAさんへの株式の贈与は有効に成立したと認められるなどとするものでした。

 

贈与された株式について贈与税の申告は、本来平成27年の3月16日までにすべきものでしたが、Aさんは平成28年6月になって「期限後申告」をしました。というのもAさんは、父から訴えられたことについて、次のように考え、「このような状況において、贈与税の納付を強制することは、無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たる」と考えたからです。

 

1、父は贈与の撤回を求めるもので、権利移転が認められる判決が確定すれば贈与の効力が確定したと考えられる。

 

2、贈与の対象となった非上場株式は換金性に乏しく、贈与税を支払うには金融機関から借入をするしかなかったが、父方の訴訟提起があったため借入できなかった。

 

しかし税務署は、平成28年7月に無申告加算税の賦課をしたことからAさんは無申告加算税の賦課決定取消を求めて争いとなったものです。

 

 

3、裁判所の判断


裁判所は過去の過少申告加算税を巡る最高裁平成18年4月20日判決などから「国税通則法66条1項ただし書にいう「正当な理由」があると認められる場合とは、法定申告期限内に申告書が提出されなかったことについて真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、(中略)納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である」と解釈しました。

 

これを踏まえ裁判所は、父から提起された裁判があったとしても「ひとまず贈与税の申告書を提出し、後に判決に於いて贈与が無効とされたときに、更正の請求をすることが可能であるから、このような場合に期限内申告書の不提出に対し無申告加算税を賦課しても、当該贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識して期限内申告書を提出しなかったというような真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情が存在することを納税者が主張立証しない限り、当該納税者にとって不当又は酷になるということはできない」としました。

 

Aさんのケースについて裁判所は、平成27年中に行われた株主総会で贈与を受けた株式をベースとする議決権を行使していたことを指摘。

 

裁判所は、Aさんが「法定申告期限である平成27年3月16日までの時点において、本件贈与を有効であると認識していたことは明らかであり、本件贈与が無効であるか又は有効である可能性が小さいことを客観的に裏付けるに足りる事実を認識していたとは認められない」としてAさんの主張を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/2/25)より転載

 

[解説ニュース]

 

【Q&A】生命保険金を目的とした代償分割を行う場合の課税関係

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】自宅と敷地の所有者が異なる場合の居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除の適用

 

■【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

 

 

 

【問】

 

甲さんは、令和6年12月に死亡しました。相続人は長男Aさんと次男Bさんの2人です。Aさんは、甲さんの死亡により、甲さんが保険料を負担した生命保険金1億円を受け取っています。その生命保険金以外の甲さんの本来の相続財産は、6,000万円です。この相続に係る遺産分割において、AさんとBさんは、生命保険金と相続財産の合計額1億6,000万円を折半することにし、相続財産6,000万円は全てBさんが取得し、Aさんは受取った生命保険金1億円から現金2,000万円をBさんに支払うことを考えています。

 

以上の場合に、AさんがBさんに支払う現金2,000万円は、相続財産を目的とする代償分割が行われて代償債務の支払いがあったときと同様に、甲に係る相続税の計算上、代償債務として控除することができますか。あるいはBさんに対する贈与とされて、Bさんに贈与税が課税されますか。

 

 

 

【回答】

1.結論


生命保険金は受取人(Aさん)の固有財産であり、代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産となりえないので、Bさんに支払った2,000万円を代償債務として、Aさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円については、Bさんに対する贈与となり、Bさんに対して贈与税が課税されます。

 

 

2.解説


 (1)代償分割による相続財産の分割

代償分割とは、相続人のうちの1人又は数人に相続財産を現物で取得させる一方で、その現物を取得した者に、他の相続人に対して、自己の固有財産を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行うことをいいます。

 

本問のように複数の相続人が相続財産を分割する場合、個々の相続財産をそれぞれ相続人に分配する、現物分割による遺産分割の方法を用いるのが一般的です。

 

ただし、遺産分割の実務においては、相続人のうちの1人又は数人に法定相続分を超えて相続財産の全部又は大きな部分を現物で取得させ、その代償として、その現物を取得した者に他の相続人に対し自己の固有財産(代償財産)を提供するという債務を負担させる方法で相続財産の分割を行う、いわゆる「代償分割」による遺産分割の方法も広く行われています。

 

(2)代償分割を行った場合の相続税の取扱い

代償分割を行った場合の相続税における取扱いは、次のようになります(相続税法基本通達11の2-9、11の2-10)。

 

①代償財産の交付を受けた人
相続又は遺贈により取得した現物の財産(相続財産)の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額を課税価格とします。

 

②代償財産の交付をした人
相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額を課税価格とします。

 

 

(3)本問へのあてはめ

AさんとBさんは生命保険金を目的とした代償分割を想定していますが、代償分割は、本来の相続財産を現物分割することに代えて行われるものであり、生命保険金は相続財産に該当しません。生命保険契約は保険契約者と保険会社との間で締結された第三者(保険金受取人)のためにする契約であり、その契約に基づく生命保険金は、保険事故(被保険者の死亡)を原因として第三者である受取人が固有の権利として取得するものだからです。

 

以上により、Aさんが受け取った生命保険金は代償債務の目的となるべき現物分割の対象財産とならず、Bさんに生命保険金から支払った2,000万円は、代償債務としてAさんの相続税の課税価格から控除することはできません。Aさんが支払った2,000万円は、Bさんに対する贈与とされ、Bさんに贈与税が課税されます(参考:大阪国税局「資産課税関係 誤りやすい事例(相続税関係 令和5年版)」19)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/2/12)より転載