[M&A案件情報(譲渡案件)](2023年12月5日)

-以下のM&A案件(7件)を掲載しております-

 

 

 

●業歴長く技術力の高いコンデンサ関連メーカー

[業種:生産用機械器具製造業/所在地:関東地方]

●財務良好、大手取引基盤のある優良運送会社

[業種:一般貨物自動車運送業/所在地:関東地方]

●関西中心に高収益不動産を9棟所有

[業種:不動産業/所在地:関西地方]

●大手ゼネコンと取引のある鉄骨・鉄筋工事業者

[業種:鉄筋工事業/所在地:関東地方]

●富裕層向け旅行業

[業種:旅行業/所在地:中部地方]

●関東地方にて住宅の設計・施工・リフォームを行う企業

[業種:建築工事業/所在地:関東地方]

●大手IT企業を顧客基盤に持つ、システム開発会社

[業種:受託開発ソフトウェア業/所在地:関東地方]

 

 

 

 

 

 

 

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案件No.SS014493
業歴長く技術力の高いコンデンサ関連メーカー

 

(業種分類製造業

(業種)生産用機械器具製造業

(所在地)関東地方

(直近売上高)5~10億円

(従業員数)50~100名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)地場では有名なコンデンサ関連メーカー

 

 

〔特徴・強み〕

◇取引先は大手中心
◇足元業績が伸びており進行期も過去最高水準の着地見込み

 

 

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案件No.SS014412
財務良好、大手取引基盤のある優良運送会社

 

(業種分類)物流・運送

(業種)一般貨物自動車運送業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)関東一円を対応エリアとした一般貨物自動車運送業

 

 

〔特徴・強み〕

◇取扱荷物は高圧ガスボンベ、及び石油化学製品(プラスチック樹脂やペットボトル原料)
◇高圧ガスの輸送していることから、ドライバー全員に危険物取扱資格を保有
◇離職率は低く、従業員の平均勤続年数は18年超(直近5年以内での退職者はなし)
◇主要取引先は殆ど大手
◇保有トラック台数は36台

 

 

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案件No.SS014355

関西中心に高収益不動産を9棟所有

 

業種)分類住宅・不動産

(業種)不動産業

(所在地)関西地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)高収益不動産の所有

 

 

〔特徴・強み〕

◇大阪・兵庫・奈良・三重・愛知に9棟の不動産を所有
◇木造3棟(平均築年数5年)、RC9棟(平均築年数22年)の内訳
◇入居率は95%以上と安定した家賃収入を見込む

 

 

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案件No.SS014064

大手ゼネコンと取引のある鉄骨・鉄筋工事業者

 

(業種)分類建設・土木

(業種)鉄筋工事業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)大手ゼネコン下請けの鉄骨・鉄筋工事を手掛ける会社

 

 

〔特徴・強み〕

◇鉄筋の太さ、長さ様々な種類を仕入れ、切断、曲げ加工している。
◇自社の加工場を保有する。

 

 

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案件No.SS014062

富裕層向け旅行業

 

(業種)分類娯楽・スポーツ

(業種)旅行業

(所在地)中部地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10~50名

譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)中部地方にて旅行業を営む

 

 

(特徴・強み)

◇インバウンド、アウトバウンド両事業を手掛ける
◇富裕層向けのサービスを展開

 

 

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案件No.SS013977

関東地方にて住宅の設計・施工・リフォームを行う企業

 

(業種分類)建設・土木

(業種)建築工事業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10名以下

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)住宅の設計・施工・リフォームを行う企業

 

 

〔特徴・強み〕

◇住宅を中心に設計、施工、リフォームを行う。
◇他社では真似できないような加工技術を強みとし、施工は外部へ委託。
◇HPから100%受注しており、営業活動を拡大することで今後売上増加が見込める。

 

 

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案件No.SS007442

大手IT企業を顧客基盤に持つ、システム開発会社

 

(業種分類)IT・ソフトウェア

(業種)受託開発ソフトウェア業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億円

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)アプリ開発・組込システム・インフラ構築を主軸に、多様なシステム開発を手掛ける

 

 

〔特徴・強み〕

◇オープン系スキルを持つエンジニアが50名在籍
◇大手IT企業を中心に安定した顧客基盤を持つ
◇売上高は約300百万円前後で安定して推移し、ネットキャッシュ95百万円ほど

 

 

 

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情報提供会社:株式会社ストライク

 

 

 

 

 

【免責事項】

・掲載情報は、内容及び正確さに細心の注意をはらい、万全を期しておりますが、人為的なミスや機械的なミス、調査過程におけるミスなどで誤りがある可能性があります。税務研究会及び情報提供会社は、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切の責任を負うものではありません。

・掲載情報は公開日時点の情報になります。既に案件が特定の対象会社と交渉に入っている場合や成約している場合もございます。

 

 

 

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[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第2回:会計事務所M&Aの税務

~事業譲渡に関する税務処理、会計事務所M&Aに関する税務処理~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

 

 

会計事務所M&Aは「事業譲渡」で行われます。

税理士法人の持分を譲渡するということも考えられますが、税理士法人の持分は税理士個人が取得するしかない(税理士法人が他の税理士法人の持分を取得することはできない)のと、税理士は2つ以上の税理士法人の社員になることはできないという制限があるため、税理士法人の持分の売買はハードルが高いです。

 

 

1.事業譲渡に関する税務処理


ではまず事業譲渡に関する税務処理について触れたいと思います。

 

(1)個人事業主が事業譲渡する場合

譲渡する資産の種類によって所得の区分が異なります。

 

①土地建物を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(分離課税)となります。

なお、土地や建物を譲渡したときの譲渡所得は、次のとおり所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。

 

 

 

(参考)分離課税の譲渡所得の計算方法

 

 

②事業所得者が商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの棚卸資産を譲渡した場合の所得は、事業所得となります。

 

 

③使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額が10万円未満である減価償却資産(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)、取得価額が20万円未満である減価償却資産で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたもの(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)を譲渡した場合の所得は、事業所得又は雑所得となります。

 

 

④その他の資産を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

⑤営業権を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。事業譲渡の対価が資産総額(負債も承継する場合は資産総額と負債総額の差額)を超えた金額は営業権となりますが、この営業権の譲渡は譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

 

(参考)総合課税の譲渡所得の計算方法

総合課税の譲渡所得の金額は次のように計算します。短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象になりますが、長期譲渡所得の金額はその1/2が総合課税の対象になります。

 

 

 

※譲渡所得の特別控除の額はその年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。

 

 

(2)法人が事業譲渡する場合

事業譲渡ですので法人が所有する資産が譲渡され、事業譲渡対価がその資産総額を上回った場合は譲渡益として計上され、法人税等の課税の対象となります。

 

 

 

2.会計事務所M&Aに関する税務処理


(1)会計事務所(個人)の場合

事務所の建物は賃借、机やパソコンは一括資産や少額資産、高額なコピー機はリースという事務所が多いです。会計事務所の資産は事業会社に比べると少ないのであまり論点にはなりません。

会計事務所運営に必要なものは顧問先と従業員です。では会計事務所の顧問先や従業員を引き継ぐ対価は営業権の譲渡、つまり譲渡所得(総合課税)となるでしょうか。

 

 

昭和42年に国税庁が通知した見解では、税理士事務所の顧客を他の税理士等に引き継いだ際の対価は、得意先のあっせんの対価ということで「雑所得」であるとしています。

 

(国税庁サイト)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/670727/01.htm

 

 

また、平成22年には上記の国税庁の見解と同じく税理士事務所を他の税理士に承継した際の対価は雑所得であるという裁決が出ています。

 

 

(国税不服審判所サイト)

https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0206140000.html

 

 

この裁決は、請求人が以下のように主張したことに対するものです。

 

この裁決では税理士事務所の顧客は「一身専属性の高いもの」とされていて、営業権の存在を否定しています。

つまり、会計事務所を譲渡した際の対価は「雑所得」として処理することになります。

 

(2)会計事務所(法人)の場合

1(2)で説明した通り、事業譲渡の対価は譲渡益として計上され、法人税等の対象になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第13回:売れる会社の特徴

売れる会社と売れない会社、その分岐点とは?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 

 

 

質問(A)


第三者承継できる会社とできない会社があるようですが、どういったところがポイントなのでしょうか。

 

回答(Q)


後継者候補が現れて上手に第三者承継ができている会社の特徴は、「5つの整理ができている」「再現性がある」「条件が高すぎない」の3つです。

 

 

 

後継者候補が集まりやすい会社の特徴


特別な商品やサービスを扱っていたり、特許を持っていたりなど特徴的な会社は、後継者が見つかりやすいのは確かである。しかし、マッチングサイトを使って後継者候補を探す場合は、あまり特徴がない普通の小さな会社でも、後継者候補が見つかる可能性がある。

 

また、ここまで見てきたように、売上規模が小さくても、赤字や借金があってもマッチングサイトを使った第三者承継では、後継者候補が見つかる可能性は十分にある。その背景には、後継者候補の「数」が増加していることと、後継者候補の「多様化」がある。

 

このようにマッチングサイトにより後継者が見つかりやすくなった状況の中でも、特に後継者候補が集まりやすい会社がある。

 

そのような会社の特徴は次のとおりである。

 

 

● 「5つの整理(株主・書類・資産や負債・私的財産や私的経費・関係会社の整理)」が事前にできている会社

● 社長がいなくてもある程度回っている会社又は再現性がある会社

● 条件が高すぎない会社

 

 

 

再現性のある会社


1つ目にあげた「5つの整理」は、これまでの解説をもう一度確認してほしい。ここでは、2つ目にあげた「社長がいなくてもある程度回っている会社又は再現性がある会社」を確認する。後継者候補の視点は常に、「承継後」にある。承継自体は後継者候補にとっては、スタート地点に過ぎない。承継後にこの会社をどうやって経営していくのか、ノウハウや取引先をどうやって引き継ぐのかなどが重要なのである。

 

承継が済めば、基本的に元社長はその会社からいなくなるが、その時に問題なく会社運営ができるのかが後継者候補の最大の関心事といっていい。承継対象会社が、既に社長抜きでほぼ運営できている場合は、後継者候補にとっては安心だ。この場合は第三者承継とはいえ、トップが代わるだけで、実務はそのまま問題なく継続できるだろう。

 

しかし、小さな会社ではそういった会社はとても少ないのが現実だ。では、一般的な小さな会社が後継者候補に興味をもってもらうためにはどうしたらいいのだろうか。それは、再現性のある会社にすることである。「再現性がある」とは、他の人でも同様の作業ができて、結果が出るような仕組みのことである。具体的には第6回の解説で説明したように、社長が独自にしている業務を、紙に落とし込んでマニュアル化していくのである。

 

 

 

条件が高すぎない会社


特別な商品があり、再現性もある会社なのに、なかなか第三者承継ができない会社がある。なぜであろうか。その理由はズバリ、「条件が高すぎる」のである。これは、小さな会社でも時々ある。たとえ小さくとも特別な商品やサービスがあり、更に再現性のあるような会社では、オーナー経営者自身にとっては自慢の会社である。そうすると、時に、相場とかけ離れた条件を提示してしまい、結果的に後継者候補が現れなくなってしまうのである。こういった時は是非、マッチングサイトに精通したアドバイザーなどの専門家に相談をして、相場観を確認してほしい。そうしないと、取引先も従業員も、オーナー経営者自身も望まない結果となってしまうのだから……。

 

最後は信頼できるかどうか


最後に、「5つの整理」や「再現性」があり、条件も「高すぎない」にもかかわらず、第三者承継ができない会社も実は稀にあるのだが、どんなケースだろうか。 意外と思われるかもしれないが、第三者承継の過程で信頼を醸成できなかったケースである。最終的にお金を支払って全責任を背負うのは、後継者候補である。

 

その後継者候補からみて、オーナー経営者などに対して、「何か隠しているのではないか」という疑念が最後まで払拭できなければ、後継者候補は最終的にお金を支払うことはしないだろう。たとえ資金力や経験豊富な有名企

業が後継者候補として現れても、信頼を相手に抱くことができなければ、雇用の継続や取引先の継続を強く望むオーナー経営者の場合、最終的に会社を引き渡すことはしないだろう。

 

小さな会社の第三者承継では、こういった部分は大変重要であることを覚えておいてほしい。第三者承継を特殊なことと思わず、通常の仕事と同じように考え判断することができれば、納得のできる形で会社を引き継ぐことも可能であるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第12回:個人事業の事業引継ぎ

個人事業でも第三者承継の対象になりますか?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 

質問(Q)


私は個人事業で豆腐屋を30年間続けてきました。息子が豆腐屋を継がないことになったので、廃業することも覚悟していますが、個人事業で第三者承継はできませんよね。

 

回答(A)


いいえ。個人事業でも第三者承継は可能です。しかし、承継までに時間があるなら法人成りすることをお勧めします。

 

 

個人事業と会社の違い


個人事業と会社の違いについて、売上高や従業員数、あるいは知名度などをイメージする人もいるかもしれない。しかし、これは間違いである。個人事業であっても売上高や知名度の高い会社は多数存在する。個人事業とは、税務署への開業届の提出など簡単な手続きで、名前や屋号などを使って商売を始めることである。

 

一方、会社は事前に1ヶ月ほどかけて法務局で設立手続きを行い、設立費用がかかる。また、その会社の資金拠出者=会社の所有者として株主が必要になる。もちろん、株主は社長が兼ねることも可能だ。

 

 

 

個人事業は「事業譲渡」しか選択できない


会社組織であると、株主を通じて会社を丸ごと売却する「株式譲渡」が選択できる。この場合、取引先との各種契約、従業員との雇用契約、事務所の賃貸借契約まで、原則的にはすべて譲り受け手に渡すことができるので、手続きは楽だ。特に事業を行うにあたって必要な許認可がある場合などは、そのまま承継ができると、譲り受け手にとって大きなメリットと感じることも多い。

 

一方、個人事業の場合は、会社組織ではないため、資産を1つずつ売却する「事業譲渡」しか選択できない。事業譲渡とは、契約によって個別の資産・負債・権利関係等を移転させる手続きで、営んでいるすべての事業を譲渡することも一部の事業のみを譲渡することも可能となっている。

 

しかし、譲り受け手にとっては、事業譲渡の場合、すべての契約がまき直しとなるため、引き継いだ後に、取引先との契約が結べないリスク、従業員の退職リスク、賃貸借契約が結べないリスクが発生する。更には、許認可等は、原則、再度取得し直す必要がある。引き継いでも数ヶ月間事業が行えないということも、小さな会社の第三者承継では時々発生している。

 

 

 

法人成りも一考


個人事業でも第三者承継は可能であるし、多数行われている。ただし、先述のリスクを考慮すると、承継までに時間があるなら法人成りすることをお勧めする。法人成りとは、個人事業を法人である会社に移行することであるが、実務的には個人事業で所有されている資産等を、図にあるような「売買契約」「賃貸」「現物出資」のいずれかの方法で移行することになる。個人事業から会社に移行していれば、会社を丸ごと売却する「株式譲渡」を選択することができるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第1回:会計事務所の事業承継について

~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

1.会計事務所の実態


税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。

 

後継者がいないために、事業承継で悩む中小企業が増えておりますが、会計事務所でも同じことが起きています。税理士1人の会計事務所で、税理士が仕事を辞めたいと思っても職員をクビにしたくないし、かといって事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、、、と悩んでいる税理士は多いのではないでしょうか。

 

 

 

2.事業承継型M&Aと成長戦略型M&A


後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段として、M&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。

 

一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので、今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。

 

 

 

3.会計事務所のM&A(譲渡)


中小企業でM&Aが増えているのと同様に会計事務所のM&Aも増えています。M&Aを選択する理由も様々です。

 

①引退したいが後継者がいない

●子供がいない

●子供はいるが試験に合格できない

●子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない

●後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない

●事務所にいる税理士は経営者としては頼りない

 

これは、先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも、会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が中小企業以上に狭いため、より後継者問題で悩む人が多いです。

 

②先行き不安

●毎年顧問報酬の値下げを要求される

●顧問先が年々減少する

●職員を新規採用できない

●複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない

●事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない

●税理士業界全体の将来が心配

 

会計事務所の代表である税理士は、事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。

 

③他業種への転換

会計事務所の他に、コンサル会社などの別会社を運営している方は多いです。他にも、不動産仲介の会社や保険代理店、中にはファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。

 

②と③は先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。

 

中小企業のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えています。

 

 

 

 

4.会計事務所のM&A(買収)


会計事務所を譲渡したいニーズと同様、会計事務所を買収したいニーズも増えています。会計事務所が他の会計事務所を買収する目的について、いくつか説明いたします。

 

①売上の増加

顧問先を引き受けることで、単純に売上の増加につながります。しかし、買収する会計事務所にはそれ以上のメリットが生まれる可能性があります。買収側の会計事務所が税務以外にも様々なサービス(経営コンサル、資金調達、給与計算、保険販売、IPO等々)を提供できる一方で、譲渡側の会計事務所は顧問先に対して記帳代行や決算業務等のサービスしか提供していなかった場合を考えてみますと、既存の顧問先に対して新たなサービスを提供することが可能になり、顧問報酬のアップ(=売上増加)につながることになります。

 

事業会社のM&Aでも同じようなケースがあります。運送業を例に挙げると、小規模であるがゆえに荷主に価格交渉ができず利益率が低いために赤字が継続している運送会社があるとします。その運送会社が、大手の運送会社の傘下に入ることで荷主と強気の価格交渉を行ったり、違う荷物を運ぶことが可能になったりして、一気に黒字に転換することはよくあります。

 

②人の確保

事業規模の拡大のため従業員採用の募集をかけてもなかなか集まらないので、まとまった数の従業員を確保するために他の会計事務所を買収したいというニーズです。今後、会計事務所のDX化が進んでいくでしょうが、まだまだ人の確保は必要です。

 

③新たなエリアへの進出

既存のエリアでの成長が難しくなってきたので、他のエリアに進出したいけど、一から拠点を築くのは大変なので、進出したいエリアにある会計事務所を買収したいというニーズです。地方から東京や大阪、名古屋といった大都市に進出したいと考える方が多いです。また、従業員が何人も税理士試験に合格し、1つの事務所内で資格者の割合が高くなった会計事務所が資格者を活用するため、他のエリアに進出したいと考える方もいらっしゃいます。

 

このように、会計事務所がM&Aを活用することで急成長することが可能になります。

 

 

 

 

 

[M&A案件情報(譲渡案件)](2022年11月28日)

-以下のM&A案件(7件)を掲載しております-

 

 

 

●多品種小ロットで幅広い加工が可能な金属加工業

[業種:金属加工業/所在地:関西地方]

●【財務状況良好】金融取引システム・投資情報等のパッケージ製品開発運用業。

[業種:受託開発ソフトウェア業/所在地:関東地方]

●多くの医療機関に販売基盤を確立している医療機器販売・メンテナンス業

[業種:医療機器販売・メンテナンス/所在地:九州地方]

●【低圧 太陽光売電事業】FIT価格20円台~40円台

[業種:売電事業/所在地:中国地方]

●【財務内容良好】土木工事・管工事に強みを持つ公共工事中心の土木・管工事会社

[業種:土木工事業/所在地:中部地方]

●助成金コンサルティングを中心に、中小企業向け支援事業を展開。

[業種:経営コンサルタント/所在地:関東地方]

●土木工事・不動産業を手掛ける/収益物件も複数保有

[業種:土木工事業/所在地:中国地方]

 

 

 

 

 

 

 

 

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案件No.SS011168
多品種小ロットで幅広い加工が可能な金属加工業

 

(業種分類)製造業

(業種)金属加工業

(所在地)関西地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)多品種小ロットで幅広い加工が可能な金属加工業

 

〔特徴・強み〕

◇多品種小ロットを得意とする金属加工業
◇板金、溶接、プレス、曲げ、切断、穴加工、レーザー加工と幅広く対応が可能
◇アルミ、ステンレス、チタン、銅と多種な金属への加工が可能
◇後継者不在により譲渡を検討

 

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案件No. SS011128
【財務状況良好】金融取引システム・投資情報等のパッケージ製品開発運用業。

 

(業種分類)IT・ソフトウェア

(業種)受託開発ソフトウェア業

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)自社パッケージ製品の販売・運用・保守がメインであり、収益性高い事業展開を行っている。

 

〔特徴・強み〕

◇金融・証券会社向け、金融取引システム・投資情報ツールの開発運用を高品質で行う。
◇取引先は大手エンドユーザーが中心。
◇無借金経営、営業利益は2億円以上を見込む。

 

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案件No. SS010791
多くの医療機関に販売基盤を確立している医療機器販売・メンテナンス業

 

(業種分類)小売業

(業種)医療機器販売・メンテナンス

(所在地)九州地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10名以下

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)医療機器の販売・メンテナンス事業を展開

 

〔特徴・強み〕

◇多くの医療機関に販売基盤を確立している
◇小型の医療機器装置の販売に強み
◇装置のメンテナンス業務により安定的な収入がある

 

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案件No. SS010385
【低圧 太陽光売電事業】FIT価格20円台~40円台

 

(業種分類)小売業

(業種)売電事業

(所在地)中国地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10名以下

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)複数の太陽光売電施設を保有し、売電事業を行う。

 

〔特徴・強み〕

◇FIT価格20円台~40円台と高水準
◇表面利回りは10%
◇電気設備工事士が在籍しており、自社内でメンテナンスを行う。

 

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案件No. SS009682
【財務内容良好】土木工事・管工事に強みを持つ公共工事中心の土木・管工事会社

 

(業種分類)建設・土木

(業種)土木工事業

(所在地)中部地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)公共工事中心に土木工事(推進工事等)・管工事を営む

 

〔特徴・強み〕

◇財務内容良好で管工事・推進工事に強みを持ち、主に公共工事に取り組む
◇1級土木施工管理技士、1級管工事工管理技士複数名在籍し、特定建設業許可を有する
◇近年、県内工事受注に注力しており、業績は増収傾向

 

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案件No. SS008538
助成金コンサルティングを中心に、中小企業向け支援事業を展開。

 

(業種分類)教育・コンサル

(業種)経営コンサルタント

(所在地)関東地方

(直近売上高)1~5億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)助成金コンサルティングを中心に、中小企業向け支援事業を展開。

 

〔特徴・強み〕

◇創業僅かながら、ニッチなコンサルティングサービスに特化し、高収益体質を維持しながら、業容を拡大中。
◇自社営業と代理店営業を併用し、契約数を順調に伸ばしている。

 

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案件No. SS007676
土木工事・不動産業を手掛ける/収益物件も複数保有

 

(業種分類)建設・土木

(業種)土木工事業

(所在地)中国地方

(直近売上高)5~10億

(従業員数)10~50名

(譲渡スキーム)株式譲渡

(事業概要)土木工事・不動産業を手掛ける/収益物件も複数保有

 

〔特徴・強み〕

◇土木工事業は一般土木から地盤改良と幅広く手掛ける
◇不動産事業は多店舗展開し対応エリアを広げ成長中
◇収益物件も所有しており安定的な収益を得る
◇後継者不在により譲渡を検討中

 

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情報提供会社:株式会社ストライク

 

 

 

 

【免責事項】

・掲載情報は、内容及び正確さに細心の注意をはらい、万全を期しておりますが、人為的なミスや機械的なミス、調査過程におけるミスなどで誤りがある可能性があります。税務研究会及び情報提供会社は、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切の責任を負うものではありません。

・掲載情報は公開日時点の情報になります。既に案件が特定の対象会社と交渉に入っている場合や成約している場合もございます。

 

 

 

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[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第11回:売却の条件

正社員0人・年商1,500万円、こんな会社でも第三者承継できるのですか?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

質問(Q)


40年ほど前に始めたパン屋ですが、景気の良い時代は学校やホテル等への卸売も好調で、年間5,000万円の売上げがあり、正社員も2名いました。しかし現在では、年間売上げ1,500万円、正社員は0人で、数名のパートの方がいる状況です。 このような会社でも、第三者への承継(売却)ができるのでしょうか。

 

回答(A)


はい。マッチングサイトを使って探せば、可能性は十分あります。

 

 

 

 

マッチングサイトは後継ぎ探しの新しい手段


第三者への承継で一番大事なのは、「後継ぎ探し」である。つまり、それはその会社の価値を認めてくれる後継者候補を見つける作業であるといえる。第三者に承継する場合、以前は友人や知人、従業員など周囲の人から探し出すしか手段がなかった。そして、その場合でも秘密保持の観点から、誰それ構わずに話をする訳にはいかなかった。「例えばの話であるが……」と仮定の話をしたり、それとなく様子を探るなどしかできなかったのではないだろうか。以前は小さな会社の社長が親族以外の後継者候補を探すのは非常に難しかったといえるだろう。しかし、そういった小さな会社に明るい未来を提示してくれたのが、「マッチングサイト」の出現である。マッチングサイトに登録すれば、ケースによっては後継者候補が平均して10社以上現れることもあるのだ。

 

 

 

20件弱の後継者候補が現れた実例


実例を紹介する。対象会社は創業40年以上の関東近郊の金属メーカーで、年商700万円、正社員0人であった。メーカーといっても工場や機械は保有せず、過去の製作実績や図面が多数あった。

 

マッチングサイトに登録してわずか1ヶ月ほどで、20件弱の後継者候補が現れた。その中で、お互いに実名を開示して本格交渉となったのは6件、リアルに面談したのは2件、そして40代の会社員が後継者に決まり最終契約、引渡しとなった。

 

ネットのマッチングサイトユーザーの9割は、実は譲り受け手である。また、その半分が個人というデータもある。個人といってもケスはいろいろあるのであるが、この例のように会社員が起業の一手段として会社を譲り受けるケースも最近では増えている。譲り受け手が多様化している事例でもある。

 

 

 

価値は見る人によって大いに異なる


オーナー経営者からすると、こんな小さな会社に対価を支払ってまで承継させてほしいという会社や個人がいることが信じられないかもしれない。しかし、20件弱の後継者候補が現れる上記のような実例があるのである。もちろん、どんな会社でも後継者候補が現れるわけではないし、1年以上後継者候補が現れない会社も複数ある。一般的に、後継者候補が現れるかどうか、つまり後継者候補が対価を支払う価値があると考えるかどうかのポイントは、次の2点ではないかと思う。

 

 

【後継者候補が現れるかどうかの2つのポイント】
1. 価値がある

2. 価値があっても、条件が高すぎない

 

 

 

マッチングサイトに譲り渡し案件を登録すると、意外な会社が後継者候補として名乗りを挙げることがある。北陸の会社が関西の会社を、飲食業が製造業を、中堅企業が小さな会社を、などである。会社員なども後継者候補として参戦してきている。

 

例えば、異業種の会社が新規事業立上げを考えている場合に、一から始めるよりは、第三者承継の方が「時間短縮」や「費用対効果が高い」と考えるのであろう。たとえ規模が小さく売上げが減少傾向の譲り渡し案件であってもである。つまり、オーナー経営者自身が考える小さな会社の価値は、エリアや業種、属性などが異なる立場から見た時は、良い意味で大きく乖離していることがある。

 

また、このように後継者候補に価値を認めてもらっても、条件が高すぎると、なかなか承継は成功しないということも知っておいてほしい。条件とは主に承継対価となるが、それ以外にも社名の変更をかたくなに禁じる、取引先との契約や従業員の就業条件について過剰な要求をするといったことは控えたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第7回:売却に向く会社と向かない会社

~仕組みで儲ける会社と属人的な技術やノウハウで儲ける会社~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、デザイン会社を営む顧問先の社長からM&Aによる会社売却を検討していると相談されましたが、留意点を教えてください。

 

A、社長の能力に依存している会社は第三者に売りにくい側面があります。また、デザイン会社の場合、デザイナーの離反などにも留意が必要です。一般論としては、仕組みで儲ける会社は売りやすく、属人的な技術やノウハウで儲ける会社は売りにくいです。

 

M&Aによる外部売却は、向いている業種と向いていない業種があるため、留意が必要です。特定の個人の能力に依存している会社は売りにくく、スタッフ個々人の能力というよりはビジネスモデルが確立されている会社は売りやすいです。この点、会計事務所の売却をイメージ頂くとわかりやすいと思いますが、所長の専門的能力や人脈に依存する事務所は、売却により所長が引退すると顧客も離れてしまうと考えるのが自然です。また、エース格の税理士が業務の大半をコントロールしているような事務所もM&Aを機に独立されてしまう可能性があり、買手にとってはリスクがあります。

 

一方で、記帳代行など業務アウトソースをメインとする会計事務所はスタッフ個人の能力というよりも仕組みで儲けるモデルであり、顧客離反のリスクが低いためM&Aに適していると考えられます。

 

このような観点で考えると我々税理士のような士業、エンジニアを多く抱えるIT企業、デザイン等アート系の会社など専門職が活躍する事業は人材流出リスクを考慮の上、手続きを進める必要があります。

 

筆者の経験でもオーナー同士の合意で事業を買収したものの、実権を握っているナンバー2が離反してM&A後に役職員の大量退職が生じてしまった事案がありました。会社の売買は株主との合意のみで行えますが、M&A を成功させるにはなかで働く役職員のモチベーションをいかに保つことができ、また高めることができるかが重要になります。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第6回:税理士が関与できるM&A 業務

~M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が関与できるM&A 業務を当事者別に教えてください。

 

A、売手、買手、対象会社に対して幅広い業務提供の機会があります。M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代であると言っても過言ではありません。

 

 

 

 

 

 

図表は当事者別にM&A支援業務をまとめたものです。売手向けと買手向けの業務について売買の仲介、スキーム策定、DD及び株価算定は支援する相手が違うだけでほぼ同一です。通常、DDとは買手サイドが行う買収監査を指しますが、売手が自社を調査するセルサイドDDも行われることがあります。買手のDDにより問題点を指摘されてから対処するよりも、事前に自社を調査して議論になりそうな点について事前準備をするために行います。特に複数の候補先に入札させるような案件では前さばきとしてセルサイドDDを行うケースが多いです。売手に対しては売却時の確定申告や売却後の資産管理業務も行えますし、買手に対しては購入時の税務申告の支援も行えます。とりわけ事業譲渡の案件では、譲渡対価の各資産への振り分け、減価償却資産の耐用年数の決定、営業権の処理など会計・税務で多数の論点が生じます。

 

また、対象会社に対してもPMI(Post Merger Integration) と言われるM&A 後の統合コンサルティング(事務処理体制の確立や買手との会計処理の統一、原価計算制度の構築など)や顧問税理士や監査役に就任しての関与などの業務提供が可能です。

 

以上、M&Aは税理士にとって非常に多くの業務機会がある一方、M&Aによる優良顧客喪失の可能性もあり、M&Aに対する対応力が会計事務所の成長力を左右すると言っても過言ではありません。

 

また、1 年の間でM&Aがよく行われる時期は7月以降で、4、5月は相対的に減少しますが何故だかわかりますか?日本の会社は3月決算が多いため、買手も売手も春先は自社の決算で忙しくM&Aなどやっている暇がないためです。自社の直近確定決算に基づき、いくらで売れそうか検討してから案件がスタートするため夏から秋がM&Aの繁忙期になるということです。

 

これは我々税理士の繁忙期(年末~5月)とかぶらないという点が重要なポイントです。事務所所長としては事務所スタッフの有効活用につながりますし、スタッフの方にとってもスキルの向上に役立ちますので、会計事務所がM&Aに取り組むことは収益源の多様化も含めて一石三鳥の効果があると言えます。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第10回:企業価値UPの秘策

高い価格で小さな会社を引き継いでもらうポイント

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

小さな会社の第三者承継において、できるだけ高い価格で会社を引き継いでもらうためのポイントは、以下の3つである。

 

【できるだけ高い価格で会社を引き継いでもらうためのポイント】
1. 複数の優秀な後継ぎ候補を集めるために、自社の情報を正確にマッチングサイトに登録すること

2. 承継を決めたら、承継直前期の売上げや利益を上げる努力をすること

3. 社長業の終活をすること

 

 

 

引き合い件数が多いのは、デューデリジェンスを実施した会社


できるだけ高い価格で引き継いでもらうポイントの1つ目は、複数の優秀な後継ぎ候補を集めるために、正確な情報をマッチングサイトに登録することである。これまで手掛けてきた承継事例でも、きちんと自社のデューデリジェンスを実施し、それに基づいた情報をマッチングサイトに登録している会社は最初の引き合い件数が多かった。そして、価格や雇用継続などの条件でオーナー経営者の希望にそった形で交渉を進めることができているのである。

 

 

 

承継直前期の売上げや利益を上げる努力をする


ポイントの2つ目は、承継を決めたら、承継直前期の売上げや利益を上げる努力をすることである。小さな会社の価格算定に、土地のような路線価や固定資産税評価額などの目安となる公的指標はない。また、会社が小さければ小さいほど、取引事例のデータストックもない。ではどのように価格が決められているのかというと、特に小さな会社の第三者承継でよく用いられるのが、下記の簡便的価格算定方法である。

 

 

【小さな会社の第三者承継でよく用いられる簡便的価格算定方法】

承継直前の利益金額 × 〇年分 + 時価純資産価額

 

 

上記の計算式のとおり、なるべく高い価格で会社を第三者承継しようと考えると、承継直前期の売上げや利益を上げることが大切である。つまり承継前に売上げや利益を上げるべく努力すると、それがそのまま会社の価格に反映されることが多いと知っておいてほしい。もしそれほど売上げや利益を上げられなくとも、「売上げや利益が上がる傾向にあるのか」「下がる傾向にあるのか」というトレンドも価格算定や他の条件に大きく影響するので、たとえわずかでも上昇局面を作っておくということは、オーナー経営者側にとってとても大切なことになる。

 

 

 

社長業の終活をすること


ポイントの3つ目は、「社長業の終活をすること」である。小さな会社では、特に仕事における社長への依存度が高い。また、会社が組織化されていないため、書類の整理や情報の共有などで一般的な中小企業に大きく遅れていることが多い。書類がきちんと整理されていて、重要な取引先や仕入れ先などが一覧できる状態になっていると、それだけで後継者候補へのアピールとなるのだ。マッチングサイトに登録しても後継者候補がそれほど現れなかった場合や、努力しても承継直前期の売上げや利益を上げられなかった場合でも、このような終活を実行すれば、高い価格で会社を譲ることができる可能性がある。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第9回:関係会社の整理

~資産の会社間移動や現物支給の役員退職金を活用~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

関係会社があると第三者承継が難しくなる傾向


小さな会社で複数社の経営をしているようなケースは、少ないであろう。

しかし次のようなケースはないであろうか。

 

 

● 事務所や工場、倉庫の名義は社長個人の不動産所有会社である。

● 資産管理会社を持っている。

● 以前商いが多かった時に作った中間会社がある。

 

 

このように小さな会社でも、社長の個人会社に「工場家賃を支払っている」等のケースはある。社長が現役で仕事をしている間であればもちろん問題はないが、第三者への承継となると、「その家賃金額は適正なのか」「保証金や権利金はどうなっているのか」「そもそも正式な賃貸借契約書は存在するのか」などの懸念が出てくる。

 

 

 

関係会社の整理がスムーズな承継につながる


そこで、承継を決断した社長がやるべき5つ目の項目は、「関係会社の整理」となる。

 

小さな会社の第三者承継はまだまだ認知度が低いこともあって、後継者候補側は疑心暗鬼になっていることが多い。そんな中、関係会社がいくつかあって、関係会社との契約書類の不備や契約金額に曖昧なところがあるとなると、スムーズな承継といきにくいのはご理解できるであろう。今まで多数の小さな会社の事業承継のお手伝いをしてきて、はっきりいえるのは、「シンプルな会社には、多数の優良な引受け手が現れる」ということだ。承継前に、関係会社を整理しておき余計な説明が不要の状態にしておくことは、小さな会社の承継ではとても大切な事項といえるだろう。

 

 

 

関係会社の整理の仕方


では具体的にどうやって、関係会社の整理を行えばいいのか。例えば、過去には意味があったが今では2つに分けている必要がない2社があり、共に承継対象なのであれば、「会社合併」という法的手続きがある。

 

また逆に、承継対象の会社に、承継後もプライベートで使いたい社用車や承継対象外の不動産が計上されているようなケースでは、承継対象外の個人会社に一部を引き継がせる「会社分割」という法的手続きがある。

 

しかし、会社合併や会社分割という法的手続きには、専門家を交えた手間のかかる作業や費用が必要なため、小さな会社の承継では基本的にはお勧めしない。

 

ではどうするのか。単純に「会社間の資産売却」や「役員退職金制度を使って社長個人に移す」という形をとるのがベターであることが大半だ。具体的には、承継予定会社に事業用資産を集約し、承継対象外の会社に承継対象外資産や個人資産を集約するのである。または、第三者承継時に、社用車などを現物支給という形で社長個人に役員退職金として支給するのである。

 

 

 

 

 

 

[用語解説]

■資産管理会社
法律で定義があるわけではなく一般的な俗称で、「株式や不動産、太陽光発電設備などの資産を持っている方が、その資産を管理するために設立する会社」のことをいう。

 

■中間会社
法律で定義があるわけではなく一般的な俗称で、「例えば、自社で製造したものを直接ユーザーに販売するのではなく、いったん中間会社に販売し、その会社を経由してユーザーに販売するための会社」のことをいう。

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

[中小企業M&Aの進めるために知っておきたい3つのポイント]

第1回:中小企業M&Aの進め方

~M&Aを始める前に理解しておくべきM&Aの手順~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

1.中小企業のM&Aフロー図


 

(中小M&Aガイドラインより)

https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf

 

上のデータは、中小M&AガイドラインにあるM&Aフロー図です。今回は、M&Aの進め方について手続ごとに説明していきます。

 

2.意思決定について


譲渡を検討する会社が検討するのに必要な情報は2つあります。

 

●いくらで譲渡できるのか(株価)

●誰が買ってくれるのか(候補先リスト)

 

株価はいわゆる相続税評価額ではなく、第三者に譲渡する際の株価です。

 

候補先リストは譲渡会社の売上規模、業種、エリアを考慮して支援機関が持っている情報をもとに作成します。支援機関はM&Aで買収を検討している会社から「売上は〇〇百万円以上、エリアは△△△、M&A資金は□□□百万円ほど」といった情報をヒアリングし自らのデータベースに保存しています。候補先リストはそのデータベースを駆使して作成します。当然ですが、データベース上の情報量の多寡が候補先リストの精度を左右します。例えば、地方銀行のように、あるエリアの情報量は突出しているがそれ以外のエリアの情報はそれほどでもないというケースがあります。限定されたエリア内に最適な候補先がいれば問題ないですが、全国レベルで候補先を探すほうが選択肢は広がります。また、譲渡を検討する会社の中には、情報漏洩の観点から近いエリアの会社に提案してもらいたくないと考える会社もあります。

 

 

3.支援機関との契約について


M&Aを検討するのに必要な情報(株価と候補先リスト)を元に検討した結果、譲渡する方向に決めたら支援機関と契約を締結します。

 

 

4.交渉の流れ


①候補先へ提案

支援機関が買収候補先に買収の提案をする際には、必ず「秘密保持」(CA:Confidentiality AgreementまたはNDA:Non-Disclosure Agreement)を交わした上で行います。情報の漏洩があるとM&Aが頓挫してしまうためです。

 

②候補先が意向表明書を作成

支援機関からの提案を受け、候補先が話を進めたいと決断した場合、候補先は意向表明書(LOI:Letter Of Intent)を作成します。意向表明書には候補先が現時点で受領している情報を元に検討した条件(買収金額など)を記載します。意向表明書に法的拘束力はありません。

 

③独占交渉権付与

意向表明書が複数の候補先が作成しましたら、売手は、その複数の意向表明書を確認した上で、独占的に交渉する候補先を1社に絞ります。1社に絞る前に候補先とトップ同士の面談も行います。

 

④基本合意の締結

売手と、売手が独占交渉権を付与した候補先との間で基本合意(MOU:Memorandum Of UnderstandingまたはLOI:Letter Of Intent※)を締結します。基本合意には、買収金額だけでなく最終契約締結までに確定させる諸々の条件等も記載します。時間的制約があるなどの理由で、基本合意の締結を省略する場合がありますが、多くの条件をしっかりと交渉し確定させた上で基本合意を締結するほうが最終契約締結の確度が高まりますので、特段の理由が無い限り基本合意は締結したほうが良いです。

 

⑤買収監査の実施

基本合意を締結した後、候補先が売手に対して買収監査(デューデリジェンス(DD:Due Diligence))を行います。買収監査は売手の規模や業種、取引の複雑さ等々を考慮した上で財務・税務・法務・労務・ビジネス(事業)の実態を調査します。買収監査の費用は候補先が負担します。買収監査をどこまで念入りに行うかによりますが、簡易な買収監査だと100万円ほど、徹底的に買収監査を行うと数千万円のコストになることがあります。

 

⑥最終契約の締結

基本合意時に確定しなかった条件の交渉やデューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な条件の交渉を行います。全ての条件が確定したら最終契約(DA:Definitive Agreement)を締結します。

 

⑦M&A後

最終契約が締結されて契約に基づく決済が行われたらM&Aは終わりではありません。買手にとってM&Aはあくまでスタート地点です。買収した会社との統合作業(PMI:Post-Merger Integration)が失敗してしまうと、M&Aの効果が薄れてしまいます。

 

なお、売り手が支援機関と契約してからクロージングまで、6か月~1年ほどの期間を要します。

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第13回:DCF法のポイント、将来キャッシュフローを求めよう、現在価値に割り引こう、DCF法の計算をしてみよう

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法のポイント

2.将来キャッシュフローを求めよう

①将来CF(キャッシュフロー)の予測

②フリーキャッシュフロー(FCF)

3.現在価値に割り引こう

①残存価値(Terminal Value)

②計算事例

4.DCF法の計算をしてみよう

5.非事業用資産(遊休資産)の加算

 

 

M&Aの場面だけではなく、事業上の判断や減損判定等多くの場面においてDCF法は使用されています。本稿では第12回に引き続き、DCF法の計算の流れについて見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1. DCF法のポイント


DCF法はざっくりお伝えすると企業・事業の「将来キャッシュフロー」を「現在価値に割り引いて」企業価値を算出する方法です。

 

そのため重要なポイントは以下の2点です。

 

 

 

企業・事業の将来キャッシュフローを算出するためには「将来のCFを予測する」ことと「FCF(フリーキャッシュフロー)を計算する」ことが必要になります。こうして求めたFCFを前回ご説明した「現在価値に割り引く」ことで、現時点での企業価値を算出することができます。

 

2. 将来キャッシュフローを求めよう


①将来CF(キャッシュフロー)の予測

企業の将来CF予測に際して、まずは予想貸借対照表・予想損益計算書を作ります。その際、企業の事業計画を反映させるとともに、当該計画の妥当性を検証(デューデリジェンス)します。第9回でご説明した事業計画分析ですね。

 

予想貸借対照表・予想損益計算書の作成は、シナジー効果等、合併に際してプラスの要素やマイナスの要素も組み込んだ計画が望ましいです。過去の財務指標推移を参考にして作成し、投資・人事計画等の事業計画を織り込みます。もちろん夢物語では信頼性に乏しいため、ある程度の説得力のある財務諸表を作る必要があります。

 

 

②フリーキャッシュフロー(FCF)

DCF法で使うのは「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念です。事業が産み出すキャッシュフローのことで、イメージとしては「債権者・株主に分配可能なキャッシュフロー」です。税金を支払い、必要な投資を行った後に債権者・株主に分配可能なキャッシュフローとなります。

 

 

 

 

P/Lの営業利益を出発点として、債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めに行きます。FCFの式は少し難解に見えますが、各項目をもう少し具体的に掘り下げていきましょう。

 

 

+営業利益×(1-税率)

税引後営業利益のことで、本業の成果である営業利益から税金分を差し引いた金額です。税金は国に支払う金額のため、債権者・株主に分配できません。そのため営業利益に帰属する税金部分を除くよう、×(1-税率)として簡便的に税引後営業利益を計算しています。

 

税引後営業利益のことを、専門用語でNOPAT(Net Operating Profit After Taxes)と言ったりします。

 

 

+減価償却費

減価償却費は営業利益の中に含まれていますが、現金支出を伴わない費用のため実際のキャッシュに影響を与えません。減価償却費は固定資産を期間配分計算しているに過ぎないので、特段現金は出ていきませんね。

 

今回必要となるのはキャッシュがいくら入るかの情報のため、営業利益に含まれている減価償却費を足し戻すことで、減価償却費の影響を排除し現金支出項目に絞っています。

 

非現金支出費用である減価償却費の影響を排除する点では、第8回でご説明したEBITDAの計算と同じ発想です。

 

 

▲(+)正味運転資本増加額

営業利益と現金収支のタイミングは通常異なります。売上や売上原価は先行して計上されますが、売掛金や買掛金は回収・支払に時間がかかります。そのため通常営業活動に投下されている資金を計算し、現金が必要になる部分を差し引きます。もちろん現金が余る場合は加算するので「正味」とついています。運転資本は各期において以下の通り求めます。

 

 

 

例えば以下の事例を考えてみましょう。売掛金と買掛金しかない会社で、運転資本が+20動いています。

 

 

 

×2年度において、売上高から手に入る現預金はいくらでしょうか。細かい条件は考えず、売上高は期末に1回のみ上がるとしましょう。

 

×2年に手に入る現預金は、×1年の売掛金精算分の100ですね。×2年の売上高はまだ売掛金なので、現金化されていません。

 

一方、×2年の損益計算書における売上高はいくらでしょうか。これは×2年に計上している売掛金分の130です。

 

 

×2年の営業損益計算においては130の売上を計上している一方、実際に流入しているキャッシュは100しかありません。そのため営業利益と実際に入っている現預金を比較すると、実際に入っている現預金の方が30小さい状況と言えますね。

 

運転資本はPL計上タイミングの方が早く、現預金の回収・支払タイミングの方が遅いために発生する状況です。

 

FCFでは債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めるため、営業損益をキャッシュフローに変換することが必要となります。今回の売掛金の例で言うと、営業損益から▲30する(30減算する)と、実際に手に入ったキャッシュに変換することができます。

 

これを買掛金でも同様に考えると、この会社の運転資本は全体として+20となっていますので、FCF計算上は正味運転資本増加分である20を減算することとなります。

 

 

 

▲設備投資額

固定資産の更新投資、新規投資等、必要な投資に係る支出を差し引きます。買収後に大規模な設備投資が予定されている場合には、その計画を反映させていくこととなります。

 

以上の計算を通して、各年度においてフリーキャッシュフロー(FCF)を求めます。

 

 

 

 

≪Column:より深くNOPATを知ろう≫


●なぜ「営業利益」を使うの?

企業価値を求める際は、債権者・株主に分配可能な、事業全体のキャッシュフローを計算する必要があります。そのため債権者に分配することとなる支払利息を差し引かないよう、便宜的に営業利益を使います。

なお、営業利益ではなく「営業利益+事業資産を源泉とする営業外損益」で計算されるEBITを使用することも多いですね。

 

●なぜ実際の税額ではなく「税引後営業利益」として計算しているの?

負債を有する場合、支払利息の税金軽減効果があるため実際の税金の方が小さいことが想定されます。しかし、DCF法においてこの税金軽減効果は第12回でご説明しているWACCの割引率に反映されています。

そのため、NOPATの段階では負債の税金軽減効果は考慮せず、株主資本100%とした場合(支払利息等がない場合)のキャッシュフローを用いるべく、営業利益に税率を乗じた値を差し引き、税引後営業利益としています。

 


 

 

3. 現在価値に割り引こう


①残存価値(Terminal Value)

これまで求めた各年度のFCFを、前回第9回でご説明した割引現在価値とすることで、企業価値を求めます。このとき、企業は永続的に続く前提を置くことが多いです。

 

読者の皆様も「30年後に企業が倒産する」といった前提は考えずに、永続的に企業が存続するつもりで日々仕事に取り組んでいるかと思います。この発想は企業価値評価の際も同様で、明確にいつ時点で解散すると決まっていない限り、永続的に存続するものとの仮定を置くことになります。

 

しかし、100年後・200年後までの計画は非現実的です。そこで実務上、5年~10年程度の事業計画を作成したうえで、その最終年度のFCFがずっと続くとして計算することが多いです。なお、30年後に終了することが分かっているような事業の場合は30年間のみしか考えませんし、その時点での解散価値を算出することとなります。

 

 

フリーキャッシュフローが一定 (ゼロ成長)の場合

 

 

フリーキャッシュフローが定率成長の場合

 

※上記の計算式は毎年のFCFに関する割引計算の数式について、年数n→∞としたときに導くことができます。無限等比級数と言われている式です。

 

算出した継続価値を現在価値に割り引いた上で、企業価値に加算します。

 

②計算事例

文章だけだと分かりにくい部分も多いので、簡単な事例を見てみましょう。

 

 

表にしてみると、毎年の流れは以下の通りです。

 

 

まずは残存価値を求めましょう。×6以降はFCF100百万円でゼロ成長(5年目と同様)ですから、継続価値は以下の通り2,000百万円となります。

 

FCF:100÷5%=2,000

 

 

継続価値のポイントは、CF計算開始年の前年の価値として表されることです。今回の例で言えば、6年目以降の継続価値を求めたので、継続価値2,000百万円は5年目における価値となります。

 

 

4. DCF法の計算をしてみよう


ここまでで各年度のFCFと、継続価値を求めてきました。DCF法に必要となる各年度のキャッシュフローの流れは全て算出したことになります。そこで、各年度のFCFを割引現在価値とすることで、事業の価値が算出されます。

 

年度毎のFCFに割引計算を行い、全ての価値を「現在」に合わせます。6年目以降の継続価値は5年目に反映されているため、計算自体は5年分で大丈夫です。1~5年目までのFCFを、各々割引計算しましょう。

 

 

上記式の通り、事業価値は1,946百万円となります。このようにして、事業の価値は算出されます。

 

 

5. 非事業用資産(遊休資産)の加算


最後に補足論点です。DCF法で算出した価値は「事業価値」となります。FCFは買収対象となる企業の事業から生じる価値ですね。特に使っていない非事業資産がない場合、この事業価値が「企業価値」となります。

 

一方、事業に用いていない非事業資産(遊休資産)があった場合、その売却によって手に入るキャッシュもまた企業の価値を構成します。そのため最後に遊休資産を加算することで「企業価値」となります。

 

 

 

 

なお、企業価値から有利子負債や非支配株主持分等を減額することで、株主にとっての価値である「株主資本価値」となります。

 

 

 

DCF法は一見すると複雑に感じますが、実は「FCFを求めて」「WACCで割り引く」だけの単純な構造です。実務上DCF法で重要なことは「どのように仮定を置くか」です。将来FCF・資本コスト・成長率等、多くの見積り要素があるため、1つ1つが信頼のおける見積りかどうかが、DCF法全体の計算結果に影響してくることとなります。

 

 

この連載も本稿で終了となります。M&Aは一見すると専門的であり、取っつきにくいと感じている方も多いかと思います。たしかに細かい論理は多々あり、実務を行う上では多くのことを確認していく必要があります。しかし、概要だけざっくりと確認するのであれば、そこまで難しい分野ではありません。全10回を通して、漠然としていたM&Aについて、ある程度でも具体的になっていただけたのであれば、大変嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第8回:会社と経営者のお金の問題対策

私的経費の整理 -承継後削減可能な私的経費の把握は社長にとっても得する話-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

後継者候補側が知りたいのは承継後利益


最も後継者候補側の関心が高いのが、「承継後の損益計算書がどうなるのか」である。つまり、「承継後に承継前の売上高がある程度見込めるのか」「承継後の利益はどうなるのか」ということである。特に小さな会社での承継後利益算定における「経費」については、「加減算が必要」となることが多いので留意が必要である。

 

例えば、承継後に営業力強化で増員を考えているのであれば、承継後利益算定においてはマイナス要素となる。一方、社長経費的なもので承継後に削減が見込めるのであれば、承継後利益算定においてはプラス要素となる。

 

社長経費的なものの把握は、実はオーナー経営者側としては後継者候補側へのアピールへとつながるので重要である。廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき4つ目の項目は、この「私的経費の整理」である。

 

 

社長の私的経費は承継後削減でき、後継者候補にはプラス要素


社長の携帯代や家族給与等( ≒私的経費)で、後継者候補側が承継後に削減可能と考えるものは、「承継後利益にプラス要素」となる。つまり、社長やその家族の私的経費の把握をすることは、後継者候補にプラスのアピールができるという意味で、実は社長が得する話なのである。

 

更にいえば、小さな会社での承継対価の実際の決め方の大半は、左記の算定方法となっており、利益が上がると承継対価の目安も上昇傾向となるのである。

 

 

【小さな会社における承継対価の一般的な算定方法】

承継対価 = 利益×1~3年分 + 時価純資産価額

 

 

利益というのは、営業利益や経常利益、税引後利益などケースによって様々であるが、よく承継に使われるのは「承継後の減価償却費計上前営業利益」である。減価償却費は、過去に社長が設備投資したものに対する「キャッシュアウトしない経費」であるので、後継者候補側においては、それをなかったものとして調整を加えることになる。

 

社長である皆さんが、自社の損益計算書において計上している私的経費があれば、承継前に一覧にするなどして、金額も含めて把握しておくことをお勧めする。

 

 

 

 

 

私的経費に該当するもの


では一般的にどんなものが私的経費に該当するのであろうか。まずどんな小さな会社でもよくあるのが、承継後不要となる社長やその家族の「通信費」「接待交際費」「(家族)役員給与」「旅費交通費」「車両費」である。これらの経費があれば、後継者候補側へのアピール材料となる。他にも、ケースによって発生する私的経費として、節税目的や資産運用目的である「保険料」や、承継後不要となる「新聞図書費」及び「寄附金」、後継者側で合理化を図れる倉庫や事務所家賃などの「地代家賃」などがある。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第11回:M&Aの後も売手企業の社長やキーマンから十分な引継ぎ、或いはこれまで同じように働いてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

 

 

 

売手企業の社長やキーマンは、特に営業系や技術系である場合に、売手企業の業績を支えるのになくてはならない存在であることが多いです。ある程度規模の大きい会社で、組織が整えられて、権限移譲が進んでいる会社は中小企業ではあまり多くなく、やはり社長などがトップセールスであったり、新製品の開発などをしていることが多々あります。このような場合は、売手企業の社長が抜けてしまうと業績が低下する可能性が高くなります

そうならないように、売手企業の社長から十分な引継ぎをしてもらうか、そのまま社長として働いてもらうことを検討しなくてはなりません。ただし、当然ですが、売手企業の社長はM&Aが終わると、株式を持っていない状態になるので、売手企業に対する関心は以前より低下することになります。

 

売手企業の社長に引継ぎを依頼する場合には、一定程度の報酬を支払う事が一つの選択肢となります。無償で引継ぎをしてくれるケースもありますが、無償の場合は引継ぎ期間や引継ぎ内容などどうしても売手企業の社長の都合などに左右されてしまいますし、多くの時間を必要とする場合は無償なのにこんなに時間を取らせて申し訳ないという気持ちになり、100%の引継ぎをすることが難しかったりするケースもあります。報酬を払うことで、売手企業の社長にも仕事としてコミットしてもらい、買手側もなんでも聞きやすい状況になるため、結局は有償の方が双方満足されるケースが多いです。

 

また、売手企業の社長がM&A成立後も引き続き社長として働くケースを考えます。この場合は、役員報酬という形で報酬を支給することになりますが、これまで株式を保有しながら経営してきた社長が、株式を持たずに役員報酬だけというのはどうしてもモチベーションが上がらないことが多いです。かといって多額の役員報酬を渡すのも難しい場合にはアーンアウト条項を使うのが一つの手段となります。

 

アーンアウト条項とは、M&A成立後特定の目標を達成した場合、買手企業が売手企業に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払うことです。

 

具体的な条項としては、5年後までに営業利益1億円達成したら、追加で売手企業の社長に株式の売却対価として5千万円支払うなどの条項を付すことで、売手企業の社長としては、業績を達成するモチベーションが上がり、買手企業としても業績が上がることで支払いも行いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第7回:決算書に係る問題の対策

資産や負債の整理  -資産の実在性や時価評価、簿外負債の事前開示が重要-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

「貸借対照表」や「減価償却台帳」の確認


第三者への承継を決断したら、必ず自社の「貸借対照表」の内容を確認してほしい。身内ではない第三者は、会社の状況が決算書に掲載されている通りだと信じて皆さんの会社を承継しようと準備している。しかし、会社の実態は決算書と異なる部分が多々あるものだ。そのため、図に掲げたように「資産の整理」及び「負債の整理」が必要となってくる。また、資産の中でも機械装置や車両などの減価償却資産については、別途「減価償却台帳」が存在しているはずなので、こちらの内容も確認してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

資産の「実在性」「時価評価」をチェック


これら貸借対照表や減価償却台帳で確認してほしいのが、資産の「実在性」や「時価評価」である。びっくりされるかもしれないが、存在していない資産が貸借対照表に計上されたままとなっている小さな会社は思いのほか多い。例えば、「過去に粉飾決算をしてありもしない売掛金や在庫が計上されたままになっている」「新しい機械を買った時に古い機械を下取りに出したが、会計事務所に伝わっておらず古い機械が計上されたままになっている」「過去に貸倒れとなった売掛金が計上されたままになっている」などである。

 

後継者候補側は最初に決算書をみて承継予定の会社をイメージする。機械装置と計上されていれば、機械装置が実際にあるのだと理解する。もし事業承継の交渉終盤でその資産が存在しないと発覚すれば、せっかくのご縁がご破算になる可能性があるので注意が必要だ。幽霊資産がみつかったら、他にもそのような資産があるのではないかと疑うのが通常であろう。

 

この場合、できれば承継前の決算で、資産が存在しないものは消去仕訳を計上しておくべきだ。会計事務所に仕訳を依頼している場合は、会計事務所に消去仕訳をするようにきちんと伝えておこう。

 

また、貸借対照表に計上されている資産の帳簿価額が、実際の時価と大きく乖離している場合も、承継前に社長が把握しておき、後継者候補側に事前に伝えておくべきだ。例えば、「過去に適正に減価償却していない機械や車両等の資産」「購入した時と現在の時価が大幅に乖離する土地や有価証券」「売れ残り在庫」などである。貸借対照表に機械装置100万円と計上されていれば、後継者候補側は、約100万円の価値のある機械装置があるのだと理解するのが当然だ。この場合も可能なら、承継前の決算で時価評価しておくのも一つの方法である。

 

 

 

 

 

「簿外資産」や「売却対象外資産」のチェック


逆に、実際は存在しているのに貸借対照表に計上されていない簿外資産が発生しているケースも時々ある。これは後継者候補側にとってはプラス要素となるが、社長にとっては事業を安く譲り渡してしまうことにもなりかねないので、事前にきちんと把握しておくべきだ。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)に加入している場合、その掛け金は、多くの会計処理上全額費用扱いである。

 

しかし、この経営セーフティ共済は40ヶ月以上払い込んだ後解約した場合に今まで払い込んだ掛け金全額が戻ってくる。つまり、この経営セーフティ共済は簿外資産となっていることが多いのである。他にも、経営者保険と呼ばれる解約を前提としたものも似たような仕組みとなっており、簿外資産となっていることが多い。

 

一方、第三者承継後も個人的に乗りたい「社長用の車」等があれば、「売却対象外資産」として、事前に後継者候補側に伝えておく必要がある。こちらも、最初から伝えておくと問題とならないことが多いが、交渉の終盤で後継者候補側に伝えることになると、交渉条件が悪くなる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

簿外負債は事前開示が重要


ここからは、貸借対照表の「負債」について説明する。この負債は、後継者候補側が一番気にする項目といっていいだろう。何を気にするのかというと、貸借対照表に計上されている買掛金や借金ではなく、計上されていない「簿外負債」があるのかどうかという点である。小さな会社でよくある簿外負債は、「退職金負債」と「社会保険未加入負債」である。退職金規程がある場合は、その計算式に則り現時点で既に発生している退職金額を概算把握しておき、後継者候補に事前に伝えておくべきである。

 

また、会社であれば社会保険への加入は必須であるが、残念ながら未加入の会社も現実的には存在している。このケースに該当する場合、そのことを後継者候補側に事前に伝えておくべきであろう。承継後に、後継者が国から追加徴収される可能性があるからだ。もし交渉途中で後継者候補側の指摘によって社会保険の未加入負債が発覚したような場合は、破談となることが多い。後継者候補側としては、「他にも簿外負債があるのではないか」と疑心暗鬼になるからである。

 

株式譲渡で会社を承継した場合、承継後は簿外負債だけではなく、会社への訴訟案件やそれにまつわる損害賠償請求など、基本的にはすべて後継者側が責任を負うことになる。そのため、第三者承継における簿外負債の事前開示は重要といえるのである。

 

 

 

 

 

人的保証や物的保証


他に負債で事前に確認しておくべきなのは、社長個人が借入金やリースで個人保証しているかどうかや、自宅などの物的保証をしているかどうかである。可能であれば、第三者承継手続きに入る前に、これらの保証を外しておくのがベターではあるが、そうもいかないことが多いだろう。

 

この場合、これら人的保証や物的保証を一覧にしておき、「人的保証及び物的保証を外すことが承継の条件である」と、事前に後継者候補側に開示しておく必要がある。

 

 

 

 

 

[用語解説]

■経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

取引先が倒産などした場合に掛け金総額の10倍までの金額(8,000万円以内)の融資が、無担保・無保証・無利子で受けられるというもの。毎月支払う掛け金が全額費用となり、掛け金を40ヶ月以上支払うと解約手当金が100%戻ってくるため、節税対策として利用しているケースが多い。

 

■未払残業代

従業員に請求権があるものの未だ支払われていない残業代のこと。従業員からの請求によって発覚するケースがあるなど把握が難しく、譲り渡し手にとっては売却価額にも影響がある。また、簿外債務を引き受ける譲り受け手にとっては大きなリスクのひとつである。

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[ゼロからわかる事業再生]

第6回:自力再建かM&A かの選択

~自力再建とは、スポンサー支援型(M&A型)再建とは、自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合~

 

[解説]

髙井章光(弁護士)

 

 

[質問(Q)]

窮境状況に至り、このままでは破産となってしまうため、事業再生を行いたいと思いますが、自力再生とスポンサー支援を受けたM&A を行う場合の違いについて教えてください。

 

 

[回答(A)]

事業再生をめざす場合、その経営陣において経営をあきらめてしまっているような場合以外においては、まずは当該会社が自助努力によって経営改善、事業収益力の改善を図ることになります。

 

しかし、収益力が自力ではなかなか上がらず、債権者から了解を得ることができる状況まで再建策を講じることが難しい場合には、第三者の支援を得て、その資金力、経営力、事業シナジーなどによって、債権者への返済を実施し、事業収益力を改善することをめざすことになります。この第三者から支援を受けるに当たり経営権を第三者に譲渡する場合をM&A といいます。

 

 

 

1.自力再建とは


自力再建とは、窮境状況にある会社において、事業再生の手続の中で、一定期間の支払猶予を得ながら、経営改革や事業収益力の改善策を構築し実践することで、事業を立て直すことです。事業収益力が回復したとしても、支払猶予となっている過大な負債の処理が問題として残りますが、事業再生の手続内にて、債務免除を得ることができれば、再生が可能となります。

 

債務免除後の適正規模となった負債に対する返済は、基本的に改善した事業による収益をもって長期間の分割弁済を実施することになります。

 

2.スポンサー支援型(M&A型)再建とは


自力再建が困難である場合に、スポンサー支援を受けることでより安定した再建を図ることを目的として、第三者の支援を受ける方法です。

 

第三者からの支援としては、業務提携など資本参加がない形で行う場合もありますが、窮境状況にある会社の再建においては、資本参加を必要とする場合が多く、出資を受けて共同経営となる方法のほか、株式譲渡や合併、既存株式の減資後に出資する形にて、経営権を譲り渡す場合も多くみられます。

 

そのほか、事業の一部を譲り渡す方法として事業譲渡や会社分割の手法がとられることもあります。資金支援を受ける形の場合には、通常、その資金をもって債務免除後の債務に対して一括にて弁済が行われます。

 

3.自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合


自力再建ではなく、スポンサー支援を最初から求める場合もありますが、自力再建をまず検討することの方が多いと思います。自力再建を最初に検討し、自力再建がうまく行かない結果になったときにスポンサー支援を求めることになります。

 

自力再建がうまく行かない場合としては、①事業再生を実施するだけの資金的余裕がない場合、②負債が過大であり、自力再建による収益力では再建計画を立てることができない場合、③経営者に適任者がいない場合、④債権者において従前の経営陣による自力再建を拒絶した場合が考えられます。

 

事業再生を実施する場合には、通常は半年以上の時間がかかることになるため、この期間に資金ショートが生ずるほど資金不足が甚だしい場合には、即時にスポンサーを探して資金的支援を得る必要があります。工場などにおいて近い将来に高額の設備投資が必要不可欠であるような場合にも、その資金負担ができず、自力再建では事業継続は困難であり、スポンサー支援が必要となります。

 

 

 

 

また、自力再建によって、一定の収益を上げて返済原資を作ることができたとしても、例えば、優先債権である公租公課の滞納額が大きく、この返済が精一杯であって、支払猶予を受けている金融機関等への返済がまったくできないのであれば、足りない弁済資金をスポンサー支援によって賄う必要が生じます。

 

さらに、現社長が高齢であったり、経営責任をとって退任するような場合に、後継者となる者が不在であれば、そもそも会社経営が成り立たないため、第三者に経営を委ねることになります。

 

債権者によってスポンサー支援型とするよう求められることもあります。すなわち、現経営陣は経営を継続する意思があるものの、それまでの経営内容から、経営責任を問われ、金融機関から経営者交代を求められ、又は第三者のスポンサー支援による経営でないと再建策を支援しない旨の意向が示されることがあり、このような場合にもスポンサー支援を必要とすることになります。

 

スポンサー支援を意図しても、適切なスポンサーを探すことには大変な苦労が伴い、うまく行かない場合もあるため、適切なスポンサーを見つけられず、やむを得ず自主再建を継続する場合もあり得ます。

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第6回:必要書類の整理(スモールM&Aのための必要書類)

ー後継者の立場に立って書類を整理し、知識をマニュアル化ー

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

後継者の立場に立って書類を整理


廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき2つ目は、会社にある「書類の整理」である。第三者への承継を決断したら、常に後継者側の立場に立って日々の仕事や経営をしていくことが大切である。「自分が後継者側であれば、こんなグチャグチャな帳簿を渡されたら怒るだろうな」と思うのであれば、第三者がみてもわかるように事前に整理をしておくべきであろう。更に後継者側の視点に立って、「こういう資料を事前に準備しておいてもらうと助かるな」と思えるようなものがあれば、やはり対応することが賢明である。事前準備資料の中でも、下記の5つは最低限必要な資料となる。

 

 

● 会社登記簿謄本
● 決算書及び税務申告書一式3期分
● 直近の試算表
● 主要人員の経歴書
● 社内規定(就業規則、給与賞与規程、退職金規程)

 

 

 

これまでなかった書類を作成する必要は?


「会社登記簿謄本」や「決算書及び税務申告書」が存在しない会社はあり得ないが、社内規定である「就業規則」や「退職金規程」が存在しない会社はある。ではこの場合、小さな会社の第三者承継において、新たに就業規則や退職金規程を作成する必要があるのだろうか。

 

答えは、ノーである。これまでなかった書類をわざわざ作成する必要はない。しかし、その社内規定及び書類がないことはきちんと後継者側に伝えておかなければならない(法律上必要なものが整備されていないケースは問題ではあるが、この論点はここでは割愛する)。後継者側の立場に立てば、事業を引き継いだ後、従業員などの退職金をいつまでにどれくらい準備しなければならないのかなどを把握するために、これらの資料を要求するのである。

 

事前準備する書類は最初は一覧に掲げたもののうち赤字のものだけでいいが、承継が決まったら最終的には一覧に掲げた書類すべてが必要となるので、参考にしてもらいたい。多くの書類を準備するのは大変と思われるかもしれないが、やはりここは後継者側の立場に立って、作業を進めてほしい。

 

 

 

 

 

 

社長が会社経営で培った知識をマニュアル化


小さな会社の場合、営業も、入金や請求書発行など経理も、更には商品開発までも社長一人で行っているケースはよくある。

 

しかし承継後はそのまま継続雇用となることが多い従業員とは異なり、社長のほとんどは1ヶ月から1年以内には実質的に退職となる。つまり、社長は、承継後は最終的には会社からいなくなるのである。

 

後継者候補側の方からよく「その会社は社長がいなくても経営がスムーズに回りますか」と聞かれることがある。要は、後継者側は社長がもっている「暗黙知」をきちんと譲り受け後に承継できるのかということが心配なのである。

 

であれば、社長の「暗黙知」を「形式知」に置き換える作業として、「メモ書き(マニュアル)」を作成することをお勧めする。

 

現在小さな会社でここまでできている会社は非常に少ないので、社長が会社経営で培ってきた知識がマニュアル化されていたら後継者候補側に好印象となり、結果的に良い条件で引き継いでもらえる可能性が高まるだろう。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第5回:株式対策を理解する

「廃業ではなく承継」を決断した社長が最初にやるべきこと -株主の整理-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

「5つの整理」は早めに着手!


失敗しない第三者への事業引継ぎのための事前準備として、重要なのが「5つの整理」である。

 

【5 つの整理】

1.株主の整理
2.書類の整理
3.資産・負債の整理
4.私的経費の整理
5.関係会社の整理

 

どれも早めの着手が成功のカギになるので、覚えておいてほしい。

 

 

 

の整「別第二


そもそも会社は誰のものかご存じだろうか。

 

社長(=役員と仮定)のものと思われるかもしれないが、厳密には違う。会社は「株主のもの」である。多くの小さな会社では、社長=株主であるので、その場合は社長のものということになるが、会社の最高意思決定機関は株主総会であることを覚えておいてほしい。

 

では、誰が株主で、株主それぞれの所有割合はどうなっているのかは、小さな会社の場合、どうすればわかるのだろうか。小さな会社で「株主名簿」や「株券」を作成しているケースは少ないだろうから、この場合、会社の法人税申告書の「別表第二」というものをチェックすることになる。これにより、株主名簿や株券に代わる株主の明細として、「氏名」「住所」「所有株式数」等が確認できる。

 

会社は株主のものであるのだから、会社を第三者承継で譲り渡そうと考える場合は、まず自社の株主が社長以外に誰で、その了解がきちんと得られるのかを確認する必要がある。

 

 

 

「名義株」や「不明株」の整理


平成2年の商法改正前においては、株式会社を設立するためには最低7人の発起人が必要であり、各発起人は1株以上の株式を引き受けねばならなかった。そのため、平成2年改正前の株式会社にあっては、株主が7人以上となるように、親戚や従業員等の名前だけ借りて体裁を整える、いわゆる「名義株」があるケースがある。

 

他にも、歴史の長い会社や、株主に相続が発生している会社などでは、一体誰が株主なのかが正確にはよくわからないというケースもあるだろう。

 

これら「名義株」や「不明株」がある場合は、まずは、誰が株主なのか現況を把握する必要があるが、そのために収集しておくべき資料を下記に挙げておく。

 

 

 

 

上記の資料に照らし合わせ、実質株主と名義上の株主が異なる場合には名義株主と交渉する必要がある。名義株の場合は、本人の了承を得て名義を実質株主に変更することになる。少数株主などについては、税務上の価格などをベースに買取価格を算出し、個別に交渉することになるが、第三者承継が近いとその承継対価を元に買い取らなければならなくなる可能性が高くなり、割高となるかもしれない。早めの株主整理をお勧めする理由でもある。

 

 

 

株券不発行会社に変更


平成18年に会社法が施行され、原則株券不発行会社になったが、それ以前は株券発行会社が原則であった。その影響もあってか、実際は株券を発行していないのに、株券発行会社となっている会社もある。

 

自社がどちらなのかは登記簿謄本を見ればわかる。

 

株券を実際は発行しておらず、株券不発行会社で問題がないようなら、第三者承継の手続きを始める前に、定款及び謄本上株券不発行会社に変更されることをお勧めする。買い手にあらぬ疑念を抱かせないためである。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[事業再生・企業再生の基本ポイント]

第7回:事業再生における財務DDとは何ですか?-実態純資産

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点-

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷関連記事:経営状態の把握と事業再生

 

 

事業再生における財務DDでの実態純資産の分析は、最も重要な分析項目の1つです。簡便的に財務DDを行う場合でも、必ず行う分析となります。

 

監査法人の監査を受けていない中小企業は多くの場合、上場企業のような精緻な会計処理を行ってはいません。中小企業ごとに従っている会計処理がバラバラで、企業によっては貸倒処理をしていなかったり、固定資産を除却しても固定資産台帳上は消し忘れていたりと、企業ごとに様々な決算内容となっています。これらを一定の基準で分析し、本来あるべき純資産の金額を把握するための分析が実態純資産の分析です。

 

 

 

 

 

上記の表に分析内容、グラフに分析結果を示しています。

 

 

 

【実態純資産】

決算内容が実態純資産の分析は、調査対象期の帳簿純資産からスタートします。帳簿純資産から、調整項目を調整し、実態純資産を分析します。この実態純資産は事業用不動産は簿価であることから、事業継続を前提とした純資産ということになります。

 

調整内容の具体例を下記に説明します。

 

a.回収可能性に疑義のある売上債権

得意先が倒産してしまっている場合や、長年得意先やその代表者と連絡が取れなくなってしまっている場合などは、回収可能性が低く、売上債権の資産性が認められません。このような場合に、売上債権を回収可能な金額まで減額するなど、貸倒評価を行い、純資産の調整項目とします。

 

b.長期間滞留している棚卸資産の評価減

もう販売していない商品や、数年単位で滞留している商品は販売して収益化される見込みが低く、棚卸資産の資産性が認められません。このような場合に、一定の基準を置いて、棚卸資産の評価減を実施し、純資産の調整項目とします。

 

c.固定資産の減価償却不足額

中小企業は減価償却は、利益が出た時に償却し、赤字の場合は償却しないなどの会計処理をしている企業が少なくありません。減価償却を調整している企業は、毎期減価償却を実施してきた企業と比べて固定資産の簿価が高くなっています。毎期減価償却を実施している企業と同じ条件で評価するため、減価償却の再計算を実施し、適正な簿価を把握します。適正な簿価と現在の簿価との差額を純資産の調整項目とします。

 

 

【不動産含み損益調整後実態純資産】

実態純資産から、事業用不動産含み損益を調整し不動産含み損益調整後実態純資産を分析します。不動産含み損益調整後実態純資産は、事業用不動産についても時価評価していることから事業継続を前提としていない純資産の金額ということになります。

 

 

【中小企業特性考慮後実態純資産】

中小企業は、会社と代表取締役とを一体と見た方が実態と即している場合が多いため、代表取締役の資産を企業の純資産に加える調整を行います。