[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第4回:第三者承継(M&A)の進め方とM&A専門用語の意味

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

「私(K氏)は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。業績は現在芳しくなく、売上も減少傾向です。後継者候補は現在存在していません。そこで、ここ数年、検討することを躊躇していましたが、そろそろ後継者を選んで、経営の引き継ぎをしたいと考えいてます。第三者に承継(M&A)を行う場合、 どのような手順で進めればよろしいでしょうか。」

 

 


 

平野:M&Aのフローについて、簡単にステップを説明をいたします。専門用語が多いので、それぞれの用語の意味を、まとめましたので参考にしてください。

 

 

M&Aの大きな流れ


一般的なM&Aのフローは以下のようになります。大体、個別相談から成約までは、早くて6か月、一般的には1年前後かかるケースが多いので、早めに相談をする必要があります。以下、実行フローとそのポイントを記載します。

[図表(PDF)で確認する]

 

(1)個別相談(M&Aが可能かを検討する) 

■誰に相談するか決める。(詳細は次章でお話します)

事前に相談したいことを箇条書きで記載しおく

・相談に必要な資料としては、決算書・株主構成など

・自社の状況で可能性があるのか、どのように進めていくのかを確認する

・費用はどれくらいかかるのかを確認する

 

(2)秘密保持契約の締結

・M&Aで最重要なことは「秘密保持」です。秘密保持契約を最初に締結する

 

(3)ファイナンシャル・アドバイザリー(FA)契約、または仲介契約の締結

■信頼できるアドバイザーが決まれば、アドバイザリー契約を締結し、開始する

■着手金・案件化料・企業評価料を支払う

最近は、着手金等を支払うケースが減少しているが、着手金が必要な企業ほど、責任をもって業務を行ってもらえるケースも多い。あくまでも、信頼できる業者を選定することが重要。

■ご依頼の意思決定をしてもらう

 

(4)M&Aのスキーム(方法)の検討

・必要資料の収集

・承継にあたり問題点(取引先・株主・従業員)を整理し、譲渡までの課題を抽出

・承継における譲受先へのアピールポイントを検討する

・売買条件(価格・引継ぎ方法・日程・譲渡先等)基本方針決定

 

実際、この時点では、詳細な条件は決まらないケースが多いため、その後のステップと併行しながら進めていく。

 

(5)企業概要書・ノンネームシートの作成と候補先への開示

■ノンネームシート(名前を表示せずに候補先の依頼を行うためのシート)

■企業概要書の作成 

・提携先のアドバイザー、配布して候補先の検討をしてもらう。

・事業引継ぎ支援センターに同行し、相談する。

・譲渡先の承諾を得てM&Aプラットフォームに登録する。

 

(6)バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)(株価)の算定

先ずは、決算書をもとに、資産や負債の時価評価を行い、時価純資産を算定する。

・役員報酬が同業他社の平均よりも過大や過少な場合や、臨時的な損益があれば、調整をおこなって、正常な収益力や、キャッシュフローを算定する。

・時価純資産価額法や、EBITDA倍率法やDCF法など、その企業に適した評価を行う。

 

(7)株式の社長への集約手続き (株式譲渡契約→代金決裁)

・経営に参画していない者が株主になっている場合、代表株主が、M&Aを行うまえに株式を買い取り、集約することが望ましい。譲り受け側としては、100%の株式を買い取り、経営権を保有したいと考える。他の株主がM&Aに反対された場合、M&Aの進行が滞る可能性があるので、早期に行動を起こす。

・所在不明な株主がいる場合などは、弁護士や司法書士に相談をし、対策を検討する。

 

(8)譲渡先の探索と決定 (マッチング→交渉) 

①候補先の紹介→ネームクリアの決定→候補先に情報開示(秘密保持厳守)

②各種検討の資料の提出と検討

③社長同士のトップ面談

④候補先から意向表明書の提出を受ける

候補先をまずは1社に絞る

⑤基本合意のための条件交渉

 

(9)基本合意契約の締結

■取引先・従業員等へのディスクローズの決定

■目的・譲渡内容・対価・条件・役員社員の処遇

合意後の手続き・守秘義務事項・独占交渉権・有効期限など

 

(10)買収監査(デュ-デリジェンス) 

 

(11)最終契約の締結

■最終条件の交渉

■最終契約(株式譲渡契約)締結 

 

(12)クロージング手続き

■代表者・取締役の退任手続き→司法書士

■株式の譲渡、譲渡代金の決済

■役員退職金の支払

■M&Aアドバイザリー手数料(成功報酬)

 

(13)PMI  (統合・引継ぎ業務)

代表者の個人保証等がある場合は、解除手続き

 

 

 

[POINT]

・譲渡企業は、少しでも疑問や不安を感じたときは一歩立ち止まって検討する

・アドバイザーは譲渡企業の社長の心情を理解し、寄り添う姿勢を崩さないこと

 

 

 

■□■事業者が知っておきたい専門用語の説明■□■


※中小M&Aガイドライン(中小企業庁)より一部抜粋・編集

 

[仲介契約]

仲介契約とは、仲介者が譲り渡し側・譲り受け側双方との間で結ぶ契約をいい、これに基づく業務を仲介業務という。仲介者とは、譲り渡し側・譲り受け側の双方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいう。

 

ファイナンシャル・アドバイザリー契約(FA契約)]

FA 契約とは、FA が譲り渡し側・譲り受け側の一方との間で結ぶ契約をいう。我が国においては、中小 M&A に関しても、譲り渡し側・譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関を FA と称することが一般的である。FA(フィナンシャル・アドバイザー)とは、譲り渡し側又は譲り受け側の一方との契約に基づいてマッチング支援等を行う支援機関をいう。

 

[秘密保持契約(NDA、CA)]

秘密保持契約とは、秘密保持を確約する趣旨で締結する契約をいう。具体的には、譲り受け側が、ノンネーム・シート(ティーザー)を参照して譲り渡し側に関心を抱 いた場合に、より詳細な情報を入手するために譲り渡し側との間で締結するケース や、譲り渡し側や譲り受け側が仲介者・FAとの間で締結するケース(仲介契約・FA契約の中で秘密保持条項として含められるケースが多い。)がある。「NDA(NonDisclosure Agreement)」や「CA(Confidential Agreement)」ともいう。

 

[企業概要書(IM、IP)]

譲り渡し側が、秘密保持契約を締結した後に、譲り受け側に対し て提示する、譲り渡し側についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的 な情報)が記載された資料をいう。インフォメーション・メモランダム「IM(Information Memorandum)」やインフォメーション・パッケージ「IP(Information Package)」ともいう。

 

[ノンネーム・シート(ティーザー)]

ノンネーム・シート(ティーザー)とは、譲り渡し側が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報をいう。譲り受け側に対して関心の有無を打診するために使用される。

 

[バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)]

バリュエーションとは、企業又は事業の価値を定量的に評価することをいう。評価額は、中小M&Aで譲渡額を決める際の目安の一つとして取り扱われる。評価手法は様々なものがあり、企業の実態や事業の特性等に応じた手法が選択される。

 

[マッチング]

マッチングとは、譲り渡し側と譲り受け側が M&Aの当事者となり得る者として接触 することをいう。譲り渡し側と譲り受け側の交渉は、マッチング後に開始することにな る。

 

[意向表明書]

意向表明書とは、譲り渡し側が譲り受け側を選定する入札手続を行う場合等に、 譲り受け側が譲り受けの際の希望条件等を表明するために提出する書面をいう。

 

[基本合意書(LOI、MOU)]

基本合意書とは、譲り渡し側が、特定の譲り受け側に絞って M&Aに関する交渉を行うことを決定した場合に、その時点における譲り渡し側・譲り受け側の了解事項を確認する目的で記載した書面をいう。「LOI(Letter Of Intent)」「MOU(MemorandumOf Understanding)」ともいう。基本的に法的拘束力がないものの、譲り受け側の独占的交渉権や秘密保持義務等については、法的拘束力を認めることが通常である。

 

[デュー・ディリジェンス(DD)]

デュー・ディリジェンス(Due Diligence)とは、対象企業である譲り渡し側における各種のリスク等を精査するため、主に譲り受け側がFAや士業等専門家に依頼して実施する調査をいう(「DD」と略することが多い。)。調査項目は、M&A の規模や実施希望者の意向等により異なるが、一般的に、資産・負債等に関する財務調査(財務 DD)や株式・契約内容等に関する法務調査(法務 DD)等から構成される。なお、その他にも、ビジネスモデル等に関するビジネス(事業)DD、税務 DD(財務DD 等に一部含まれることがある。)、人事労務 DD(法務 DD 等に一部含まれることがある。)、知的財産(知財)DD、環境 DD、不動産 DD、ITDD といった多様な DD が存在する。

 

[クロージング]

クロージングとは、M&A における最終契約の決済のことをいい、株式譲渡、事業譲渡等に係る最終契約を締結した後、株式・財産の譲渡や譲渡代金(譲渡対価)の全部又は一部の支払を行う工程をいう。

 

[PMI]

PMI(Post-Merger Integration)とは、クロージング後の一定期間内に行う経営統合作業をいう。

 

 

 

 

 

依頼者は、専門家が意味の分からない専門用語を使ったときは、臆せず、意味をたずねるようにいたしましょう。また、専門家は、なるべく意味が分かるように優しい言葉で、依頼者に説明することが大切です。

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第11回:「食肉卸売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算の方法は?販路別の売り上げや利益は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、食肉卸売業のM&Aを検討していますが、食肉卸売業M&Aの特徴や留意点はありますか?


食肉業界は、牛肉、豚肉、鶏肉等を扱いますが、BSE(牛海綿状脳症)や口蹄疫、鳥インフルエンザ等の感染症の影響により市場環境が大きく変化する業界です。

 

食肉は、簡便的に説明すると、和牛の場合肥育を行い28ヵ月になると、市場等に出荷されます。市場等から卸売業者や加工業者を通していく過程で、枝肉、ブロック肉、精肉に加工されます。

 

 

 

 

食肉卸売業者の場合、どこから仕入れてどこに売るのか、加工を行うのか行わないのか等の特徴があります。より上流から仕入れて、下流に販売することができる卸売業者の方がマージンは大きくなることが一般的です。

 

また、牛肉であれば、例えばロースは12月の売上量が多くなり、単価も高くなるなど季節性があることも特徴であり、各社様々な営業戦略をとっています。

 

仕入については、市場等から枝肉を仕入れるのか、卸売業者からブロック肉を仕入れるのか等の違いがあります。市場で枝肉を仕入れるには買参権が必要であるため、誰でも仕入ができるわけではありません。つまり、買参権を保有していることは1つの強みとなります。また、ブロック肉を仕入れてそのままブロック肉として販売する場合は、食肉の加工の部分以外での付加価値が必要となります。

 

食肉卸の加工部分での差別化ができる内容としては、枝肉を解体して精肉にまで加工できる設備や技術の有無、熟成技術の有無、急速冷凍の設備の有無、ハムやカレー等の加工食品の製造設備や技術の有無等が挙げられます。最終製品を製造することで、B to B だけでなくB to Cの販売も可能になり販路が拡大します。

 

M&Aの検討対象として食肉加工卸業者を見る場合、どのような特徴、強みがあるのかを正確に把握した上で、自社とのシナジー等を検討しましょう。

 

また、枝肉から精肉まで加工を行う場合、歩留まりの把握も含めて原価計算が複雑となります。枝肉を解体して、ヒレやロース、ウデ等のブロック肉となりますが、それらの販売単価は異なるため、どのような原価に設定するかは企業によって異なります。原価計算の方法により、部位ごとの粗利率も異なってくるため、販売意思決定にも関わります。また在庫の金額にも影響があるため、どのような原価計算で部位ごとの原価を決定しているかは正確に理解する必要があります。

 

さらに、販路ごとに売上高は把握している企業は多いですが、販路ごとの粗利や貢献利益の把握までできている会社は少ないのが現状です。貢献利益を分析してみると赤字であったあり、利益率の高くない取引先に熱心に営業をしている場合等が少なからずあります。これらの利益の分析は財務の専門家等を活用して正確に理解する必要があります。

 

食肉卸売業のM&Aを検討する場合は、業界の特色を理解した上で、流通構造のどの部分を事業としているのか、対象会社の特徴や強み、原価計算の方法や販路別の売上・利益を理解しましょう。原価計算や販路別の利益の分析は、専門性が高いため財務の専門家をうまく活用して理解した上で、M&Aの検討することが望ましいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

M&Aの株の売却価額と評価額とのかい離で財産評価基本通達6項が適用された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

1.財産評価基本通達6項の適用事案


中小企業のM&Aの目前に中小企業オーナーが亡くなり、相続人が相続直後に亡きオーナーが取りまとめていたM&Aを実行に移し同社株式を売却した事案で、相続人が相続税申告で財産評価基本通達(以下、財基通という。)通りに中小企業の株式を評価した評価額と、M&Aで合意された売却金額との間に「著しいかい離」があるとして税務当局から更正された事案に注目が集まっています。この事案は相続人が審査請求し国税不服審判所で争われました(令和2年7月8日)。今回はこの事案について見ていきます。

2.財産評価基本通達6項とは


相続税の財産評価とは、財産の経済的価値を見積もることです。原則は、相続により取得した財産の時価です。実務では、特に税法で評価の定めがあるもの以外は、国税庁の定めた財基通に基づいて経済的価値を見積もることになっています。これは納税者の申告の際の負担を少なくするため、公平性を担保するためといわれています。たとえば、市街地の宅地の相続税評価の物差しとなる「路線価」も財基達に定められた評価に直結する指標となっていることで、よく知られています。

 

ところが、この財基通6項には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との規定があります。この規定の適用については、平成28事務年度の東京国税局の研修資料で次のような着眼点が示されています。

 

①財基通に定められた評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如していること
②財基通に定められた評価方法のほかに、他の合理的な評価方法が存在すること
③財基通に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しい乘雜が存在すること
④上記③の著しいかい離が生じたことにつき納税者側の行為が介在していること

3.事案の概要


事案の経過は次のとおりです。

 

ア、中小企業オーナーであった被相続人は、平成26年5月に、経営する会社の株式の譲渡に向けて買収会社と協議、基本合意書を締結しました。会社の株式は1株約10万円で譲渡することに合意していました。

 

イ、同年中に被相続人が死亡しました。相続人3人のうち一人が売却する株式の発行会社の代表取締役になる一方、買収交渉を継続し、同年7月に「相続人の一人に全ての株式を集めたうえでその相続人は、全ての株式を買収会社に基本合意書の価格(約10万円)で譲渡しました。相続人らは相続税の申告では財基通に基づき「取引相場のない株式で大会社のもの」として評価し1株約8千円として申告していました。

 

ウ、所轄税務署は、平成30年8月に国税庁長官の指示に基づき評価を行う専門家によるDCF法の評価(約8万円)で更正処分等をしました。この評価の際、買収価格も参考にしたとしています。

4.国税不服審判所の審理


相続人側は、処分を不服として再調査請求を経て国税不服審判所(以下、審判所という)に平成31年1月に審査請求をしました。

 

主な争点は評通6項の適用は違法か否かです(争点はもう一つありますが割愛します)。

審判所は相続税法22条を受けて財基通で評価することに一般的な合理性を認めるとともに「著しく公平を欠くような特別な事情があるときは、個々の財産の態様に応じた適正な「時価」の評価方法によるべきであり、評価通達6はこのような趣旨に基づくもの」としました。これを受けた具体的な検討では次のような指摘をしています。

 

①1株当たりの価額で比較すると、申告時の評価額は専門家のDCF法の評価の約10%にとどまり、譲渡価格等の約8%にとどまること。
②譲渡契約等について、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価額で合意が行われた旨をうかがわせる事情等は見当たらない。
③譲渡される会社は、清算を予定しておらず、株主価値の算定方法としてDC F法を採用したことは相当。

 

審判所は、こうしたことから財基通に基づく評価額はDCF法による評価額や株式譲渡価格等と著しくかい離しており、「租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、財基通の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情がある」と結論づけています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/04/26)より転載

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第5回:顧問先企業のオーナーから、後継者がいないので会社を誰かに譲りたいと相談されました。

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

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Q.顧問先企業のオーナーから、後継者がいないので会社を誰かに譲りたいと相談されました。

 

私が運営する会計事務所の顧問先企業はご高齢の経営者が多く、先日もある会社から「引退をしたいが後継者がいない。どこか引き継いでくれる会社はないか」という相談がありました。「体裁もあるので地元以外の会社で探してほしい」とのことでした。他の会計事務所の方々はM&A相談についてどのように対応されているのでしょうか?

 (山形県 会計事務所 S・Gさん)

 

 

 

A.顧問先企業からのM&A相談は、積極的に対応した方が良い結果につながります。

 

経営者の多くが、事業売却に関する相談相手について、「長年の付き合いがあり、会社の状態も知り尽くしている税務顧問の先生が最適」と考えていらっしゃるようです。先生方の知らないところで譲渡されるような事態を避けるためにも、相談を受けたときには、先生方にイニシアチブをとっていただくことをお勧めします。ストライクのようなM&A専門会社にご相談いただければ、最適な譲渡スキームの構築等を共同で行うことが可能です。

 

顧問先減少につながると考える先生方もおられますが、会社分割方式を使えるような事案であれば、顧問先を減らさずに済むケースもあります。他エリアのお相手とのM&Aを望まれるケースでは、買い手企業より引き続き税務顧問を依頼されるケースもあります。

 

例えば、会社分割で本業と不動産賃貸業とを分け、不動産事業は元の経営者が引き続き経営し、本業の会社を株式譲渡したという事例がありました。税務顧問の先生を通じてご相談いただいた案件でしたが、先生は不動産事業の税務顧問を引き続き担当されています。

 

M&Aが成立するまでのプロセスには、財務諸表を含む資料の開示、買収監査への対応、各種税金の納付等があり、税務顧問の先生なしには進められません。相談の初期段階でのメリットやリスクの説明、売却意思の確認、M&Aアドバイザー選定の必要性等の助言は、長年に渡り築いてきた経営者との信頼関係や幅広い知識力が重要です。後継者不在を理由に存在意義のある会社が廃業に追い込まれないようにするためにも、M&Aについて前向きに考えていただければと思います。

 

 

 

 

[M&A専門会社スペシャルインタビュー]

株式会社 Stand by C 代表取締役 松本久幸 氏

~「サービスクオリティの高さ」が最大の魅力 PPAをはじめとするM&Aサービスの専門ファーム~

 


 

大手会計系ファーム出身の公認会計士や税理士で構成された独立系ファーム。大手会計系ファームでの経験と、M&A専業で行っている豊富な実績をもとにした「クオリティの高さ」が同社最大の強み。また、顧客ニーズに合わせて依頼業務内容がオーバークオリティにならないよう配慮し、費用面においても大手会計系ファームとの差別化を打ち出している。今回は、同社代表の松本久幸氏に、同社の特徴やクライアントからのニーズ、また、近年ニーズが高まっているPPAの会計処理についてなど、お話を伺った。

 

株式会社Stand by C 代表取締役 松本久幸 氏

 

 

大手会計系ファームが報酬面やクオリティ面で手を出さない領域やニーズに対応した独立系の専門ファーム。


――:貴社(株式会社Stand by C)の創業からこれまでの経緯をお話いただけますでしょうか。

 

松本:弊社は、私が大手会計系ファームを辞めて独立した2010年1月に創業いたしました。当時は、あまり具体的な目的やポリシーを持って独立したわけではありませんでした。しかし、色々な方よりお仕事のお声掛けをいただく中で、M&Aを会計・税務・数字面から総合的にサポートできるファームは、大手会計系ファーム等の限られたところしかなく、また、その大手会計系ファームが報酬面やクオリティ面で手を出さない領域やニーズがあることを徐々に知り、そのニーズに合うような専門ファームとなっていったというのが、創業からこれまでの経緯です。

 

 

 

――:大手会計系ファームが手を出さない領域やニーズとは? 具体的に教えていただけますか。

 

松本:はい。私は元々、大手会計系ファームで修業を積ませていただきましたが、大手会計系ファームは大企業をクライアントとして、新聞に載るような大きな案件を高い報酬で引き受ける、というビジネスモデルでした。そのため、大手会計系ファーム在籍時は、中堅・中小企業やベンチャー企業とはあまり接点がありませんでした。ですが、独立後は、中堅・中小企業やベンチャー企業においてもM&Aが積極的になされる時代へと変遷していったこともあり、そこに大きなニーズがあるということを知りました。また、大企業においても、海外案件や大きな案件であれば高い報酬を支払ってでも大手会計系ファームに依頼しますが、M&Aが一般化するにつれて、国内の中小規模の案件にまで高い報酬を支払って、オーバークオリティな調査や評価を依頼することは必ずしも必要ない、という考え方に移っていき、大手会計系ファームから独立した弊社のような専門ファームへ依頼される方向へと変わってきたのでは、と感じています。

 

 

 

――:中堅・中小企業のM&Aが活発化されてきたこと、また、クライアントもM&Aの規模や内容など、そのM&A案件の実情に合わせた依頼をされ始めたということですね。

 

松本:はい。そうだと思います。そういうこともあって、弊社へのご依頼がどんどんと増えていったのだろうと思っています。

 

 

 

「サービスクオリティの高さ」が最大の魅力。オーバークオリティにならない配慮で、予算面でも大手会計系ファームとの違いを見出す。


――:貴社の特徴や強みについて教えていただけますでしょうか。

 

松本:弊社の特徴としましては、まず「サービスクオリティの高さ」です。業務に中心的に携わる人間はほぼ全員が公認会計士または税理士の資格を持っており、かつ、大手会計系ファームで働いていた経験があり、その経験が活かされているのだと思います。特にM&A関連のサポートサービスでは、大手を除くほとんどの会計系ファームは、税務顧問業務や監査業務をメインとし、その中からM&A関連のサポートが必要な場面において、非日常業務としてM&A関連のサービスを提供されていると拝察していますが、弊社はM&Aサポートサービスを専門として行っておりますので、その点で経験値や品質面において、差別化ができていると思っています。

 

特に、財務報告目的で実施され監査対象となる「のれんの減損テスト」や「PPA」のサポートは、公認会計士等の資格がなくても行える業務ではあるものの、弊社では評価実務と監査実務の経験を兼ね備えた公認会計士が業務にあたりますので、監査法人とのコミュニケーションにおいて強みを発揮できると考えています。

 

 

 

――:大手会計系ファームでご経験を積んだ公認会計士や税理士のメンバーが、M&A業務を専業で携わっているということで、クライアントからすると非常に心強いですね。

 

松本:はい。そのように感じでもらえると嬉しいです。もちろん、かけるコストや人員数が違いますので、そこは大手会計系ファームには、敵わないのは当然ですが、M&Aの案件によっては、そこまで人や時間やコストをかけずにやりたい、というニーズも多くあります。大手会計系ファームに依頼した場合はオーバースペックかつ予算オーバーだが、弊社であれば「報酬も予算内に収まり、かつ、クオリティも求める水準」である、ということで、そこに大手会計系ファームとの違いを見出してお仕事をご依頼いただくことが多いのだと思います。

 

 

 

東京のほか、大阪、京都、福岡に拠点を設け、全国各地のクライアントをサポートする体制を確立。


――:貴社の組織体制はどのようになっていますか。

 

松本:今年からは大阪にある税理士事務所と弊社の税理士法人(税理士法人Stand by C)が経営統合して、関西でも腰を据えて業務を行っていく体制となりました。ちなみにですが、2021年4月1日からは、大阪の中の島にあるフェスティバルタワーへ大阪の拠点を移して、より一層関西方面での活動に力を入れていくことを考えております。

 

また、福岡にも拠点があり常駐の者が1名おりますし、京都にも拠点があります。各地域の様々な企業様のM&Aや数字面に関わるサポートをこれからも積極的にどんどん行っていきたいと思っています。

 

 

 

――:M&A全体のニーズの高まりに合わせて、貴社の拠点も拡大しているようですね。大阪、京都、福岡と拠点が広がり、全国各地のクライアントから業務を受け付ける体制が整いつつありますね。

 

松本:はい。そのようになっていると思います。コロナ禍以降はZoomやTeamsなどでお客様や対象会社などとやり取りすることも一般的になってきましたが、各地に拠点を設けて活動していくことは、地域のお客様とのつながりやコミュニケーションの上でプラスになるものと考えています。

 

 

 

 

企業側に求めれれる第三者評価。実務面からも事前の調査が求めれている。


――:それでは、どのようなクライアントが多いのでしょうか。

 

松本:クライアントは、M&Aのサポートサービスが必要な会社ということになりますので、その多くは上場企業様となります。また、PEファンド様も、会社買収の際は必ずデューデリジェンスを実施される、ということから、広くお付き合いがあります。

 

特に最近の傾向としては、繰り返しにもなりますが、大企業やPEファンドが、以前は大手会計系ファームに高額な報酬を支払ってハイスペックな調査や評価を依頼していましたが、一部の案件については、そこまでコストをかけなくても十分な調査や評価ができるのではないか、ということで、弊社のような独立系の専門ファームにご依頼いただくことが多くなっている印象があります。そのような流れもあって、弊社ではいわゆる大企業と呼ばれる会社様も多くクライアントとしていらっしゃいます。

 

 

 

――:クライアントである企業様はどのような課題を抱えていると感じていますでしょうか。

 

松本:最近のコーポレートガバナンスの厳格化やそれに伴う情報開示を充実させる、という流れの中で、特に上場会社様は、第三者による評価や調査を実施する必要性に迫られている、というところに大きな課題を抱えていらっしゃると思います。

 

 

 

――:具体的にお話していただけますか。

 

松本:自社内だけの調査や評価でM&Aを実行しようとした場合、例えば、社外役員から「第三者からの調査報告書や評価書は入手していないのか?」との意見が出たり、また、「適時開示規則の中で第三者評価の入手が必要」ということであったりするようです。

 

また、実質面からでも、M&Aが一般化してきたことから、M&Aを実行する際にはきちんと調査や評価を行って、買収によるメリットやデメリットをきちんと検討された上でM&Aを実行する、ということも一般的になってきたと感じます。

 

 

 

――︓ますます、貴社が提供するM&Aサポートサービスの重要性が増していきそうですね。

 

松本︓はい。そうなるといいですね。M&Aを進めていくうえで、先ほどお話したような課題やお悩みなどがございましたら、ぜひ、弊社にご相談いただければと思います。

 

 

 

PPAにかかる無形資産価値評価サービスへのニーズが急増。のれんやPPAの会計処理に注⽬が集まっている。


――︓それでは、貴社の具体的なサービスラインについて教えてください。

 

松本︓弊社のサービスラインは⼤きく分けると、「M&Aサポートサービス」「ベンチャー⽀援サービス」「決算/経理サポートサービス」「税務業務」「ファミリーオフィスサポートサービス(富裕層向けファミリーオフィスサポート)」の5つになります。

 

 

 

――︓M&Aサポートサービスとはどのようなサービス業務内容となりますか。

 

松本︓M&Aサポートサービスは、「株式価値算定」「財務/税務デューデリジェンス」「PPAにかかる無形資産価値評価」「財務モデリング」「税務ストラクチャリング」になります。いずれも、弊社の専⾨性を⽣かしたサービス内容となっています。

 

 

 

――︓貴社HPを拝⾒するとIPOやストックオプション評価も業務サービスとして展開されているようですが。

 

松本︓先ほどお話ししたとおり、弊社は、元々はM&Aを会計・税務・数字⾯からサポートするM&Aサポート業務、いわゆるFAS業務を専業でやっていたのですが、その中から、時には「買収後の会社の経理や会計⾯のサポートをお願いしたい」というご要望や、「IPOを⽬指すのでそのサポートをしてほしい」といった様々なお声がけを受けて徐々に業務領域を拡⼤していったということです。現在では、IPO⽀援サービス、決算経理サポートサービス、また、ストックオプション評価等の業務も⾏っております。

 

 

 

――︓クライアントである企業様からは、貴社サービスに関して、具体的にどのような業務へのご依頼が多いのでしょうか。

 

松本︓ここ数年は、PPAにかかる無形資産価値評価サービスへのニーズが急増しております。これは、2010年より⽇本の会計基準においても、M&A時に発⽣する「のれん」について、抽象的なのれんのままで終わらせるのではなく、具体的な資産、特にブランドや顧客や技術といった無形資産として区分してBSに計上することが求められたことから、特に近年ご依頼が多くなっております。

 

特に、数年前のいわゆるオリンパス事件や東芝事件において、のれんやPPAの会計処理にスポットがあたったことから、監査法⼈が厳しく監査をするようになったことに伴い、PPAにかかる無形資産価値評価の実績では⽇本有数の弊社へ、HPからであったり、ご紹介であったりでお問合せが増えました。

 

ZEIKEN LINKS様にも寄稿させて頂きましたが、セミナーや雑誌等への寄稿依頼も、PPAに関するご要望が⼀番多い状況となっております。

 

 

▷参考記事︓ZEIKEN LINKS 特集解説「経営企画部⾨、経理部⾨のためのPPA誌上セミナー」

 

 

 

 

――︓PPAを含めて、M&A全体の流れと貴社サービスの関係性を教えていただけますか。

 

松本︓M&Aにおいては、以下のようなプロセスに沿って、様々な検討がなされます。

 

弊社では、『事前調査』のプロセスのとろで⾊付けされている「株式価値算定」「事業計画策定」「財務デューデリジェンス」「税務デューデリジェンス」「ストラクチャリングアドバイス」に関する業務を主にご提供させていただいてております。

 

また、『クロージング後』のところでは、無形資産価値算定(PPA)業務をご提供させて頂いておりますが、PPAについては、事前の検討段階でも「Pre PPA」ということでご提供させて頂いております。

 

なお、これら以外でも、必要やご要望に応じて、様々な業務をクライアントの傍に⽴ってご提供させて頂いておりますので、何なりとお問合せ頂ければと思います。

 

 

 

 

 

 

PPAとは、M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産及び負債の基準⽇時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産及び負債に配分する⼿続きのこと。


――︓「PPA」について、わかりやすく教えて頂いてもよろしいでしょうか。

 

松本︓パーチェスプライスアロケーション(PPA)とは、M&A完了後に買い⼿企業が⾏う⼀連の会計処理であり、M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産及び負債の基準⽇時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産及び負債に配分する⼿続きのことです。

 

PPAの概念図を資料にまとめましたので、ご参考にして頂ければと思います。また、無形資産の例⽰として、マーケ―ティング関連、顧客関連、契約関連、技術関連に分けて図表にしましたので、こちらもあわせてご覧いただくと、PPAに関する基本的な理解が深まると思います。

 

⻑い間、多くの⽇本企業にとってなじみの薄い実務であったPPAですが、昨今のM&Aの増加や監査の厳格化等を背景に、いまやM&Aとセットで考えなければならない会計的イシューとなったと⾔っても過⾔ではありませんので、基本的な事項だけでも押さえておいた⽅がよろしいかと思います。

 

 

 

 

[PPAの概念図]

●パーチェスプライスアロケーション(以下、PPA)とは、M&Aにおける買収対価(買収価額)を、買収対象企業の資産及び負債の基準⽇時点における時価を基礎として、買収対象企業の資産及び負債に配分する⼿続であり、会計(財務報告)⽬的で⾏われる。
●PPAは、オフバランスとなってB/S計上されていない無形資産も併せて時価評価する必要があることから、PPA⼿続の⼀環として、買収対象企業に存在すると考えられる無形資産(商標権、顧客関連資産等)を識別・測定し、買収対価を当該無形資産に配分する⼿続が必要となる。
●買い⼿企業においては、会社買収後1年以内にPPAの処理が求められる。無形資産の識別・測定は会計上の⾒積項⽬であり、かつ、計算には⾼度な専⾨性が要求されること等から、外部第三者による評価が利⽤されることが多い。

 

 

[無形資産の例⽰(マーケティング関連)]

 

[無形資産の例⽰(顧客関連)]

 

[無形資産の例⽰(契約関連)]

 

[無形資産の例⽰(技術関連)]

 

 

 

 

どの程度の調査が必要なのか。事前の社内コンセンサスが、依頼会社の選定やコストにも影響する。


――︓事業会社のM&A担当者として気を付けておくべきことは、どのようなことがありますでしょうか。担当者の⽅へのアドバイスをお願いいたします。

 

松本︓M&Aのサポートをご依頼される際には、予算を先に決められて、そこからサポート会社を選んでいくというプロセスを取られることも多いと思いますが、M&Aにおいては、買収対象会社の規模や所在国、また、買い⼿企業においてどの程度広く深く検討を⾏うかによって、依頼すべきサポート会社も異なってきますので、まずはその案件において、どの程度の調査が必要かを社内でコンセンサスを取って頂ければと思います。

 

 

 

――︓どの程度調査が必要かについて、社内でしっかりとコンセンサスを取ることが⼤切なのですね。

 

松本︓はい、そうです。というのも、先程お話しました通り、海外企業や、⼤きい会社を買収する場合においては、専⾨性や⼈的リソースを相当かけてでもきちんと調査や評価を⾏って、事前検討を⾏う必要がありますが、⼀⽅で、よく知っている取引先を買収する場合や、国内の⼩規模事業者を買収する場合などは、そこまでリソースやコストを掛けて調査をする必要がない場合もあります。

 

リソースを掛けてでも調査をするべき場合は、コストを掛けて⼤⼿会計系ファームへ依頼した⽅が良いかと思います。そういった案件において、例えば、⽇頃は税務顧問業務や監査をメインとしているファームへM&Aの調査や評価の依頼をした場合においては、必要⼗分な調査がなされなかったり、少しずれたアドバイスを受ける、というようなことになりかねません。

 

⼀⽅で、あまりリソースを掛ける必要がないような案件において、⼤⼿会計系ファームに依頼した場合、必要ない⼿続や調査が時間をかけてなされて、売り⼿企業が怒ってしまったり、細かな検出事項に捉われてしまって交渉が前に進まない、というようなことになりかねません。

 

 

 

 

――︓対象案件により、どこまで調査が必要であるかと把握し、それに⾒合うファームに依頼すべきなんですね。そこを⾒誤ると、コストも時間も必要以上に発⽣したり、または、不⾜してしまったりするのですね。

 

松本︓はい、その通りです。M&Aの案件には、難易度等の⾼低があり、その⾼低によって依頼すべきファームが変わってくる、ということは、M&Aに慣れていらっしゃる会社であればよくご存知ですが、M&Aはそうちょくちょく実施されるものではありませんので、数年に⼀度のM&Aを検討する際にも、案件の重要度や難易度を⾒極めて、依頼するファームを決定するべきであると思います。

 

 

 

 

――︓これまで、M&Aのご経験がない企業の場合は、その判断も難しそうですね。

 

松本︓そうでね。M&Aが初めて、その辺りの感覚もわからない、ということであれば、まずは弊社へご相談頂ければ、ファーム選定についてもアドバイスさせて頂きますので、お気軽にご連絡をいただければと思います。

 

 

 

 

クライアントの⽴場に⼀緒に⽴って考えて、調査や評価やアドバイスを⾏うことが「Stand by C」のモットー。


――︓クライアントと接する際に、⼤切にしていることはありますでしょうか。ご経験談を含めてお答えください。

 

松本︓弊社は、社名が「Stand by Client」でStand by Cとなります。クライアントの近くで、クライアントの⽬線に⽴って、という意味の社名となります。その点からも、弊社において⼀番⼤切にしていることは、クライアントの⽴場に⽴った調査や評価、アドバイスを⾏う、ということとなります。

 

例えば、株式価値評価においては、もちろん、第三者評価機関ということでご依頼されておりますので、第三者性はしっかりと担保した上ではありますが、評価を⾏う際に、売り⼿側に⽴つか、買い⼿側に⽴つか、で評価の考え⽅や⽅針が180度異なります。

 

売り⼿であれば⾼く売りたいわけですし、買い⼿であれば出来る限り安く買いたいということは当たり前のことですが、あまり経験のないファームに依頼した場合は、第三者性ばかりを強調して、買い⼿についているのか、はたまた売り⼿についているのか、そこが明確にならないままに株式価値の算定がなされる、ということはよくあるケースです。

 

そういったことからも、弊社は、特にM&Aサポートにおいては、クライアントの⽴場に⼀緒に⽴って考えて、調査や評価やアドバイスを⾏うことをモットーとしています。

 

 

 

 

――︓最後に、事業会社の担当者の⽅々へメッセージをお願いします。

 

松本︓⽇本でもここ数年、M&Aは企業の成⻑戦略として⼀般的なものとなってきました。⾼齢化社会となる⽇本においては、経営者の⾼齢化の問題から後継者問題によるM&Aも益々増えていくことでしょう。そのような中でもしM&Aを検討されることになった際は、専⾨性の⾼いM&Aサポートの会社へまずはご相談されることをお勧めします。

 

M&Aを考えるに当たっては、⾝近な顧問税理⼠や銀⾏担当者へ相談されるというケースも多いと聞きますが、M&Aは⼤きな⾦額が動く取引でもありますし、やはり専⾨性の⾼いファームへまずはご相談された⽅が、報酬が⾼い、というケースもあるとは思いますが、結果としてはよかった、ということになることが多いと思いますので、その点も考慮されてご検討頂ければと思います。

 

 

 

――︓ありがとうございました。

 

 

 

 

 

[事務所概要]
会社名︓株式会社Stand by C
本社︓東京都千代⽥区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング 17階

大阪営業所:大阪府大阪市北区中之島2-3-18 中之島フェスティバルタワー16階
設⽴︓2010年1⽉
代表取締役︓松本久幸
主な事業内容︓PPAサポート(無形資産価値算定)、ストック・オプション評価、IPO⽀援、デューデリジェンス、株式価値算定、フィナンシャル・アドバイザー(FA)、財務モデリング策定⽀援
対応エリア︓全国(⽇本国内)
URL︓https://standbyc.com/

 

 

 

 

 


[掲載希望募集中]
ZEIKEN LINKSでは、本連載に掲載を希望するM&A専⾨会社(M&A仲介会社、M&Aアドバイサリー会社、M&Aマッチングサイト、税理⼠法⼈、弁護⼠法⼈、⾦融機関など)を募集しております。
ご希望の会社様は下記アドレスまで、お気軽にお問合せください。
お問合せ先︓links@zeiken.co.jp

 


 

[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第4回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」こそ専門家選びが重要!

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

(1)ネットM&Aの世界は文字でしかない

後継者不在などの理由で、「廃業」ではなく「第三者承継(M&A)」を売り手社長が選択したとします。年商2億円以下のスモール企業(中小零細企業)であれば、「対面(リアル)」でお相手を探す銀行やM&A仲介業者には高額な費用の面で頼むことができません。

 

そこで、前々回お伝えしましたように、バトンズやトランビのようなM&Aマッチングサイトに無料登録を試みようとします。当然ですが、会社が特定されないノンネーム状態の会社概要のような感じでの登録となりますが、そのノンネーム状態の会社概要に、買い手の興味を引くような、もっといえば条件に合った買い手が現れるような情報を書き込まないといけません。

 

買い手からしてみると、最初は対面の説明など一切なく、また写真や動画ももちろんなく、文字オンリーでの情報で、買いたいか買いたくないかを判断する必要があります。そこに単に、「関西、製造業、従業員3名、売上6,000万円、赤字、安定した売上が特長」とだけ書かれていて、買い手が買いたいと思うでしょうか。

 

逆に、下記のような会社概要であれば、買い手はどう感じ、どのように行動するでしょうか。

 

超極細ばねから太物まで!バネの総合メーカー

【事業内容】

金属製スプリングの製作並びに販売 お客様からご注文をいただいた際は原材料・部品の購入から完成品として出荷されるまでの工程の各段階での、管理特性や管理方法を記載した表を使いご提案。その上で15社ほどの生産協力会社の中から適合性の高い先を選定し、製品の生産を依頼しています。 出来上がった製品を検査データとともに受け取り、当社にて受入検査を行ったのち、梱包・出荷をいたします。

【譲渡希望額】

1,000万円〜2,000万円

【会社概要】

[事業形態]法人

[都道府県・地域]××県

[設立年月]10年以上

[従業員数(正社員数、パート・アルバイトの合計)]1人〜4人

【財務概要】 ※ 公開日、または更新日から起算した直近期の財務概要です。

[売上高]5,000万円〜1億円

[売上総利益]2,000万円〜5,000万円

[営業利益]-100万円〜0円

[役員報酬総額]1,000万円〜2,000万円

[減価償却費]0円〜100万円

[現預金等]300万円〜500万円

[売掛金等]500万円〜1,000万円

[金融借入金]1,000万円未満

[純資産]1,000万円〜2,000万円

【M&A譲渡概要】

[譲渡希望額]1,000万円〜2,000万円

[譲渡対象]会社譲渡

[M&A交渉対象]すべて(個人も含む)

[その他希望条件]連帯保証の解除, 従業員雇用継続, 車を引き取りたい
【補足】借入金500万円の連帯保証の解除をお願いします。

 

[譲渡に際して最も重視する点]想いを継いでくれること

[譲渡理由]後継者不在

[支援専門家の有無]あり

【事業概要】

●商流(仕入先、販売先やエンドユーザー、モノの流れ)

 

[顧客、エンドユーザーについて]

家電や航空業界に使われるバネを販売。またばねの総合メーカーともお取引がございます。

 

[仕入れ先の特徴や関係性について]

長年の付き合いがあり、安定したお付き合いを続けています。

 

 

●アピールポイント(商品・サービス、資産・立地、会社の歴史等の強み)

 

[商品・技術・サービスの特徴や魅力]

15社ほどの生産協力会社との独自ネットワークを築き上げております。そのため一般的なスプリングの生産は勿論のことながら、特殊製品にも対応し数多くの商品を取り扱っています。

 

[当事業の歴史や創業の背景、想い]

社長は元々サラリーマンとして同業界の企業にお勤めでしたが、2002年、定年を機に当社を創業。長年の経験で得た知識・ネットワークを生かし、自ら営業活動を行ってまいりました。順調に仕事を増やしてきましたが、次を担う後継者がいらっしゃらないことからこちらへ掲載をすることになりました。社長は譲渡を急いでいるわけではなく働ける限りは現場にて業務に取り組みたいというお気持ちです(経理と荷造り担当の妻も同様)。 お客様のどんなニーズにもお応えすることがモットーです。

 

[事業の強み、発展性]

売上先が安定しております。 また、新規開拓をしていないため、売上向上の余地があります(見込先一覧表あり)。 品質には自信ありです。

 

 

以下、省略


(M&A総合支援プラットフォーム バトンズhttps://batonz.jp/より転載、一部修正)

 

 

 

 

M&Aという性格上、多数の優良な買い手にアピールしたいと思う反面、秘密保持にはそれ以上に注意を払わないといけません。そのため、売り手が特定されるような情報は載せられませんので、当然ながら写真等も基本的には掲載不可となります。

 

つまり、売り手は最初、「ほぼ文字だけの情報で、秘密を守りながら買い手へのアピール」を行わなければなりません。文章が得意な社長であればまだいいのですが、そうでなければ、文章力や表現力が豊富なマッチングサイトでのM&Aに特化したアドバイザーに頼まれた方がいいでしょう。文章作りは得意という方でも、「買い手目線で」会社概要を書かないといけないということと、買い手の数より質を高めることが重要でそのため「条件に合う良質な買い手を集める」という視点でも書かないといけませんので、やはり、売り手の方は、最初からこういったM&Aマッチングサイトの特性をよく知ったアドバイザーに頼んだ方がいいでしょう。

 

因みにですが、買い手が現れたらアドバイザーを入れようとするのはタイミングとして間違いです。不動産の売り案件と一緒で、一般的には最初に来る客が一番良い客であることが多いですので、最初のM&Aマッチングサイトに載せるところからアドバイザーに相談されることをお勧めします。

 

 

(2)買い手も最初からM&Aマッチングサイトに精通したアドバイザーを付けるとスムーズ

一方、買い手においては、サイト上で売り案件を見て、興味のあるものに対して、サイト上でメールを送るような感覚で、質問や実名開示依頼を行っていきます。

 

前回の解説で説明しましたが、M&Aマッチングサイト初心者の買い手がよくやる落とし穴は、「自己紹介や購入理由等の記載が何もなく、また売り手への配慮が無い言葉で質問のみ」を実行して、その後、売り手や売り手アドバイザーから「音沙汰なし」又は「返信はあるが素っ気ない」対応をされてしまうことです。

 

いずれは変化があると思いますが現在では、M&Aマッチングサイトは、買い手9割売り手1割の世界です。特に優良な売り案件には、20人以上の買い手が当然のように手を挙げます。M&Aマッチングサイトでは、買い手は、多数の買い手から売り手やそのアドバイザーにまずは選んでもらないといけないということを、常に念頭において交渉を進めないといけません、特に最初が肝心です。

 

弊社では過去に多数の売り手アドバイザーをしてきています。その結果、多数の買い手からのオファーをネット上で買い手同士の文章比較をしながら見ていますが、「よく売り手の立場を考えて練られた文章を送ってくる買い手や買い手アドバイザー」と「それ以外」は明白です。いくら、買い手に知名度や資金力があっても、M&Aマッチングサイトでは選ばれる買い手にならないと優良な売り案件にはその交渉の場にすらたどり着くことができません。過去にどれほど大きなディールに取り組まれていようが、「M&AマッチングサイトにはM&Aマッチングサイトなりの流儀やお作法」というものが存在します。そういった意味では、買い手も最初から、M&Aマッチングサイトに明るいM&Aアドバイザーを付けてその方に交渉をお任せした方が良いでしょう。

 

 

(3)全国の会計事務所に立ち上がって欲しい

私自身も会計事務所(税理士事務所)を経営していますが、顧客の8割は年商2億円以下のスモール企業です。もっと具体的にいえば、「年商8,000万円、従業員3名、トントンか赤字」といった感じの規模感等です。

 

会計事務所や税理士事務所の皆さん、このようなメイン顧客の社長が70歳を超えて後継者不在の場合、どんなアドバイスや支援をされてきましたか?高齢の社長より、「息子が継ぎたくないっていっているけど、この先どうしよう?」と言われて、どんな励ましの言葉をかけることができましたか、どんな対策を提案されてきましたか?

 

既存のM&A仲介業者や銀行等に頼むと、最低手数料1,000万円からと言われますので、ご紹介すらできませんし、先方も引き受けてくれません。

 

今までこのような顧問先にできることといえば、粛々と廃業に向けての「会社の終活支援」や「廃業支援」くらいではなかったでしょうか?さらにいえば、これらの支援すらしてあげられなかったのが、多くの会計事務所の実態ではないでしょうか。

 

同業者ですからご容赦願う前提でストレートに言わせていただければ、今までの会計事務所の後継者不在スモール企業への対応は、「ほったらかし」でした。もしその顧問先の年間顧問料が50万円で、20年のお付き合いがあれば50万円×20年=1,000万円、40年のお付き合いがあれば50万円×40年=2,000万円を、今まで頂戴してきたにも関わらず、最後にできることは、「ほったらかし」です。

 

これでいいのでしょうか?こんな無策で、本当に間違っていないのでしょうか?こんな仕事のやり方で、子供世代に会計業界について自信をもって説明できますか?

 

「M&Aマッチングサイトを使ったスモールM&A」では、このような後継者不在企業に、平均して7社の買い手候補を、無料で連れてきてくれます。「M&Aマッチングサイトを使ったスモールM&A」の仕組みを顧問先に伝えることは、会計事務所の使命ではないかと思います。

 

例えばですが、バトンズというM&Aマッチングサイトでは、無料登録が可能で更には登録サポートも無料になっています。社長やその親族等に、「バトンズとネット検索してみて」などとお伝えしてみてはいかがでしょうか。

 

できれば、会計事務所の方が登録の仕方やネットを使ったスモールM&Aの仕組みを理解して、登録代行等をしてあげるとなお良いでしょう。M&Aマッチングサイトを通じてマッチングをしてきた買い手の情報を顧問先にお持ちすると、それこそ飛び上がって喜ばれることもあります。「廃業しかないと思っていたのに、継いでくれる可能性のある人が現れるとは!」、と。

 

今まで廃業しか選択肢が無かった、特に地方のスモール企業に、第三者承継という手段を与えたという意味で、控えめにいって、プラットフォームとも呼ばれるM&Aマッチングサイトは、「革命」を起こしたと言えるでしょう。廃業であれば、650万人の雇用と22兆円のGDPが喪失する可能性がありますが、廃業ではなく第三者承継が実現すれば、取引先や雇用が継続されます。売り手社長自身にとっても、廃業より手残りが多くなるでしょう。

 

M&Aマッチングサイトを革命の第1章とすれば、革命の第2章は、全国の会計事務所や税理士事務所が立ち上がって、後継者不在の顧問先をマッチングサイトに多数登録していくような状況をいうのではないかと考えています。全国には、127万者の後継者不在企業等がありますが、まだまだM&Aマッチングサイトを見る限りそれらの一部しか登録がされていません。廃業予備軍ともいえる多数のスモール企業に、M&Aマッチングサイトを使ったM&Aの世界がまだまだ認知されていないからです。これら全国のスモール企業にリーチできるのは、全国の会計事務所しかありません。そう考えると、革命の第2章の主役は、全国の、特に地方の会計事務所や税理士事務所ではないでしょうか。全国の会計事務所や税理士事務所の皆さん、共に立ち上がり、革命第2章を共に歩みましょう。

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第6回:デューデリジェンスとは何か?デューデリジェンスはなぜ必要なの? デューデリジェンスの種類とは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.デューデリジェンスとは何か

2.デューデリジェンスはなぜ必要なの?

3.デューデリジェンスの種類

①財務デューデリジェンス

②税務デューデリジェンス

③法務デューデリジェンス

④ビジネスデューデリジェンス

⑤人事労務デューデリジェンス

⑥環境デューデリジェンス

⑦ITデューデリジェンス

 

 

第5回では相手会社を「しっかりと」知るためにデューデリジェンスを行うことに触れました。M&A実行後に何か致命的な問題が出てきても後の祭りです。当初見込んでいた相乗効果を上回る程の費用が発生してしまい、最悪の場合は自社の信用が失墜してしまいます。

 

対象会社についてしっかりと把握し、「概要しか知らない」会社や事業を買う「怖さ」を減らすために行うデューデリジェンスについて見ていきましょう。

 

 

 

1. デューデリジェンスとは何か


実務でM&Aを行う場合、必ず「デューデリジェンス(Due Diligence)」という言葉を聞く機会があります。頭文字を取ってDDと略されることが多いデューデリジェンスですが、いったい何のことなのでしょうか。

 

1単語ずつ訳すとDueは「正当の、当然の、相応の」、Diligenceは「勤勉、精励、注意」ですので、「当然の勤勉」や「正当な注意」と直訳することができるでしょうか。

 

M&Aに限らず不動産投資やプロジェクトファイナンス等で出てくる単語で、取引を行う前に投資対象の事業内容・実態を詳細に調査することを言います。

 

会社や事業を行う前に詳細に調査することは「当然行うべきこと」とも言えますし、投資対象として適切かどうかを確認することは「正当な注意」と言えますね。そこから派生して、現在では「デューデリジェンス」という言葉がよく使われています。

 

 

 

 

2. デューデリジェンスはなぜ必要なの?


デューデリジェンスを行う段階はどの段階でしょうか。第5回でご説明させていただきました、M&Aの実行段階でしたね。ターゲット会社に接触して基本合意書を締結した後に行うのが一般的ですから、かなり「本気度が高い」状況で行うことになります。

 

<第5回:実行段階の流れ(再掲)>

 

この「本気度が高い」というのがポイントで、どの会社にしようかと迷っていたり、理想を求める手法としてM&A以外の選択肢があったりするときは、対象となる会社について「ある程度」の知識のみで問題ありません。他と比較して意思決定を行うことができるだけの情報で事足りるからです。

 

例えば家電を買う際に、まずはある程度のスペックや金額だけでいろいろ比較しますね。カタログに載るような、比較できる項目のみを知っていれば問題ないのです。

 

一方、基本合意書を締結した後ということは、この会社と「本格的に交渉する」ことを決定していることになります。他と目移りしている状況ではなく、会社を絞って本気でM&Aを実行すると決めた状況になります。ここで会社や事業を買う側の気持ちになってみると、「ある程度」の情報だけで会社の命運を左右するかもしれないM&Aを行うのはかなり怖いです。家電を買う際はメーカーが保証してくれる部分も大きいですし、変なものが混じっている怖さはあまりないでしょう。しかし、M&Aは「ビジネスを行う組織を売買すること」でした。組織を買うとなると、単純なモノを買うより厄介ごとが含まれている可能性が高そうです。

 

 

 

具体的には、組織を買う場合は以下のような怖さがあります。

 

●思わぬ訴訟を抱えている

●全く知らない簿外負債を抱えている

●相乗効果を見込んで買収したのに、実は自社と全く相乗効果が発揮されない分野だった

●組織風土が自社と大きく異なる

●税務署から指摘される可能性のある処理をしている

●環境問題を抱えている

●残業代を巡って労働者と対立している

●保有する技術に重大な瑕疵がある

●優良顧客がM&A後に離れてしまう可能性がある

●自社と全く合わないシステムを使用しており、統合に際し多大な労力がかかる

 

これらを買う前に知ることができたのと、買った後で知ったのとでは大違いです。

 

事前に知っておくことで費用の発生をある程度予見することができますし、社会的信用が失墜する可能性を検討することもできます。それらは全て価格に織り込むことができますし、致命的な事項が見つかった場合はM&Aを破談にすることもできます。

 

この「怖さ」を減らし、相手会社を「しっかりと」知るために「デューデリジェンス」が必要となります。多くの場合において「本気度が高い」状況になるとデューデリジェンスを行うことになります。(なお、この「怖さ」の程度を表す言葉の1つとして、「リスク」という表現がよく使われます。)

 

買う会社の規模が非常に小さい場合や、リスクがあまりないと想定される会社であれば簡易的なデューデリジェンスで済ませる場合がありますが、そのM&Aが重要であればあるほど、相手会社のことをしっかりと知りたいと感じてデューデリジェンスを行う流れとなります。

 

 

[Point]

デューデリジェンスは、M&Aにおけるリスク(怖さ)を確認し、必要な対策を講じるために行うもの。

 

 

 

3. デューデリジェンスの種類


デューデリジェンスは相手会社を知ることですから、その種類は相手会社によって変わってきます。ここではよく行われるデューデリジェンスについて、概要を見ていきましょう。

 

① 財務デューデリジェンス

会社や事業を買う際の価格決定に当たってまず参考とする情報は、相手会社の「財務諸表」でしょう。どのような損益構造で、どのような資産構造かの把握は必須と言えます。財務デューデリジェンスでは、財務に関する事項に焦点を絞って詳細に知っていくこととなります。

 

不良資産・簿外負債・債務保証・不採算事業を財務の観点から事前に発見することができ、不当に高額な取引価格となることを防ぐことができます。また、結果に応じてどのように買収するかを決定することもできますし、一部事業のみの買収といった形態に変更する意思決定を行うこともできるようになります。

 

②税務デューデリジェンス

会社を買収すると、基本的にはその会社の過去の税務処理について買い手が引き継ぐこととなります。過去の税務処理が誤っていると、思わぬ追加税金の発生があり得ますので、会社の過去の税務申告を分析し、税務リスクの程度を確認する必要があります。

 

税務リスクには主として以下のようなものがあります。

 

●税務申告が適正ではないため、過小申告・繰越欠損金の過大計上がなされている。

●関係会社間取引について、寄附金認定・移転価格税制適用による追加税金発生があり得る。

●過去の税務調査で指摘されているにもかかわらず、対応策がない。

●税務処理能力があまりないため、買収後に新たな間違いをしてしまう。

 

これらの税務リスクを早期に確認し、買収することに問題がないかを税務の観点から見ていくのが税務デューデリジェンスです。

 

 

実施者

上記の財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンスは、企業内部で財務・税務に精通したメンバーによって行われることもありますし、外部の公認会計士や税理士に依頼して行われることもあります。専門性が求められる分野でもありますし、外部への説明の際に独立した立場からの調査の方が信頼度が増しますので、外部の専門家に依頼することの方が多いですね。

 

 

③法務デューデリジェンス

法律関係の詳細な調査が法務デューデリジェンスです。企業活動には契約関係や人事問題はもちろん、許認可や関連資産、関連会社、訴訟等、様々な法律分野に関する活動が含まれています。これから買収する予定の会社が、どのような法務上の問題を抱えているかを確認せずにM&Aを実施するのは非常にリスクが高く、必須の手続と言えるでしょう。

 

デューデリジェンスに際しては、財務・税務チームと法務チームで連携を取って、対象会社の事業内容を調査していきます。財務・税務上の問題が法務に影響を与えることは多いですし、法律上の問題を数値に落とし込む必要がある場合も多いためです。

 

よくある例として、チェンジオブコントロール(COC:Change of control)条項が挙げられます。チェンジオブコントロール条項とは、買収予定の会社の主要取引先との契約書において、経営権の移動があった場合の対応が記載されている条項です。会社が取引先と交わしている契約を解除せざるを得なかったり、契約相手に対して事前の承諾が必要となる場合、事業計画分析に多大な影響を与えます。法務デューデリジェンスで確認している「主要な相手先との取引がなくなる可能性」を、財務デューデリジェンスのリスクに落とし込む形です。

 

 

実施者

法務デューデリジェンスは企業内部で法務に精通したメンバーによって行われることもありますが、多くの場合において外部の弁護士が実施しています。弁護士はどのようにM&Aを行うかといった仕組みづくりを法律の面からサポートし、契約書案を会社とともに作成する等、M&Aの多くの局面で活躍します。

 

 

④ビジネスデューデリジェンス

会社の事業内容を把握して、どのような事業からどのように利益を獲得することができるのかを調査するのがビジネスデューデリジェンスです。ビジネスを分析することは非常に難しく、その分析手法は多岐に渡ります。例えば強み(strengths)、弱み(weaknesses)、機会(opportunities)、脅威(threats)を分析するSWOT分析を用いて、買収予定の会社を分析します。

 

⑤人事労務デューデリジェンス

人事・労務の観点から詳細な調査を行うのが人事労務デューデリジェンスです。主に労働争議や労働組合との関係、未払賃金や未払退職金の有無、労働法の遵守状況を確認します。

 

法務デューデリジェンスのように広範な調査ではなく、人事労務の観点に焦点を絞った調査です。特に議論になるのが未払残業代の有無で、買収後に労働者又は退職者から追加の未払残業代支払を求める声が上がると、M&Aの買い手としては追加の費用が発生する可能性が高くなりますし、社会的信頼を損なうことにもつながります。会社は残業代を固定分として支払済であると認識していたとしても、法令に照らし合わせると支払義務が生じることもありますので、事前に調査を行います。

 

⑥環境デューデリジェンス

会社や主要な工場を取り巻く環境に関するリスク調査です。

 

では、環境リスクとはどのようなリスクでしょうか。分かりやすいのは、工場から排出される有害物質の影響で周辺の土壌汚染や大気汚染が起こる場合です。原状回復費用は膨大になりますし、企業の社会的信頼も著しく損なうことになります。

 

騒音問題や振動問題、産業廃棄物処理、危険物や特殊な液体等を扱う施設の管理状況等、一たび発生すると致命的になりかねないリスクが多いため、特殊な環境下にある企業を買収する際には欠かせない手続となります。

 

⑦ ITデューデリジェンス

ITシステムに関する状況を確認するリスク調査です。

 

ビジネスを行う上でITシステムはどの企業も取り入れている項目ですが、その状況はまちまちです。

 

買収対象となる会社のITが脆弱で追加の投資が必要となった場合、大規模な追加費用が発生することになってしまいます。また、ITが脆弱ではない場合でも、自社のシステムと買収対象のシステムがマッチするとは限りません。買収後の相乗効果を考えて、システムを統一する会社も多いです。このような状況を詳細に調査し、M&A前にシステム計画を設計できるよう、システムに関するリスクを確認していくこととなります。

 

 

このように様々なデューデリジェンスがありますが、M&Aでは会社に内在する様々なリスク(怖さ)を鑑み、必要なデューデリジェンスを実施していきます。

 

 

 

 

 

 

[Point]

M&Aにおけるリスク(怖さ)の程度に応じて、必要なデューデリジェンスが実施される。

 

 

以上、M&Aの対象となる会社の特殊性や、リスクの度合いを鑑み、様々なデューデリジェンスがあることが分かりました。案件に応じて実施されるデューデリジェンスとされないデューデリジェンスがありますが、デューデリジェンスに対する漠然としたイメージが、少しでも具体的になっていただけると嬉しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第3回:事業承継における後継者の選定方法について

~親族承継、従業員承継、第三者承継(M&A)のメリット・デメリットと事前対策~

◆参考になる成功事例!取引先の社長へ株式譲渡し、従業員が社長になった事例◆

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

 

「私(K氏)は現在75歳です。ここ数年、検討することを躊躇していましたが、そろそろ後継者を選んで、甲社の経営の引き継ぎをしたいと考えています。しかし、娘はサラリーマンの男性(A氏)と結婚し、現在は専業主婦で経営に参画をしておらず、事業を引き継ぐ意思がありません。可能性があるとしたら、娘婿(A氏)が脱サラをして、後を引き継いでもらうということです。

 

また、従業員に、引き継ぐ人材がいるかというと、以前に、番頭格の幹部(B氏)に、お酒の席の雑談の中で、確認を行いましたが、B氏は「承継は荷が重く、妻も反対している」というという感想でした。

 

以上のような状況で、M&Aという選択肢も視野に入れて、後継者の検討をしていますが、①親族が承継する場合、②従業員が承継する場合、③第三者に承継(M&A)を行う場合、それぞれの留意点などを、お教えいただきますでしょうか。」

 

 

 

 

 

平野:それでは、順番にご回答いたします。

 

1.親族への承継(娘婿への承継)について


一般的に親族への承継は、他の方法と比べて、①社内・社外の関係者から心情的に受け入れられやすい、②後継者の早期決定により長期の準備期間の確保が可能である、③相続等により財産や株式を後継者に移転できるため所有と経営の一体的な承継が期待できる、といったメリットがあります。

 

しかし、甲社のケースで、嫁婿(A氏)に承継させる場合、①まったく異業種で甲社の実務経験と経営者としての経験がない、②A氏本人のやりたいという意思を確認していない、③直系血族ではなく、実務経験もないA氏が、従業員から直ぐに受け入れられるか、などの懸念があります。

 

まずは、娘様とA氏にしっかりとお話をして、意思を確認するとともに、A氏が甲社の経営者としての資質・能力があるのかを、K氏ご自身がしっかりと判断することが重要です。また、実務経験や経営者としての経験がないため、5年から10年の準備期間を設ける必要があります。そのため、75歳のK氏のご年齢を考えると、少なくとも80歳までは経営の指揮をとり、A氏を後継者として育成していく覚悟をしておかなければなりません。

 

 

 

2.従業員・役員への承継について


現在、従業員・役員への承継は増加傾向であり、①経営者としての能力のある人材を見極めてから承継することができる、②社内で長期間働いてきた従業員であれば経営方針等の一貫性を保ちやすい、③社内の信頼の厚い適任者に承継させることで社内外の関係者より受け入れてもらいやすい、といったメリットがあります。

 

ご質問の甲社の場合、従業員B氏は、承継には消極的な姿勢であったということが懸念されます。しかし、雑談の中で、お話をしただけでは、B氏の本意が分かりませんので、しっかりとした席を設け、意思確認を行う必要があります。

 

B氏は番頭格で、社内の信頼も厚いので、適任者と考えられますが、経営者の補佐役としての才覚が発揮できても、経営者としての資質がないケースもあります。無理をして、経営者になった場合、リーダーシップが発揮できなかったり、重責に耐えられず心身に支障が生じるケースも見受けられます。また、B氏の家族にも受け入れられないと、株式の買い取りや、個人保証の引き継ぎを家族に反対されると、本人に意思があっても、頓挫するケースもあります。

 

引き継ぐ場合は、現経営者が、全面的にサポートを行い、後継者教育を計画的に行っていきます。

 

 

 

3.第三者へのM&Aによる承継


親族・従業員以外の第三者へ承継を行う方法は、広く候補者を外部に求めることができ、また、現経営者は会社の株式を譲渡した利益を得ることができる等のメリットがあります。第三者への引継ぎを成功させるためには、本業の強化や、内部の諸問題を解決し、企業価値を十分に高めておく必要があります。そのためには、現経営者にはできるだけ早期に専門家に相談を行い、企業価値(株価)の向上(磨き上げ)に着手することが望まれます。

 

M&Aを行う場合は、①相応しい譲受企業の発掘とその企業との交渉、②企業評価の算定・譲渡価額の提案、③譲受企業へ承継のメリットの提案、④法務・労務・税務上の問題点の抽出と解決策の提案など、さまざまな専門的な知見が必要になります。そのため、目先の利益を追うのではなく、最適な選択ができるように助言が受けられる、信頼のおけるアドバイザーを確保する必要があります。

 

ご質問の甲社の場合、親族、従業員への承継という選択肢も残されていますので、それぞれの長所・短所を検討し、優先順位を決めて、行動を起こす必要があると考えます。慎重に検討しつつも、行動することで、躊躇しがちな決断を促すことに繋がります。

 

M&Aの場合、行動を起こしてから成約まで早くても半年、場合によっては2~3年かかるケースもあります。そのため、秘密が取引先や従業員に漏洩しないように注意しつつ、早期に相手先の探索に取り掛かる必要があります。そして、譲受企業の選定が見込まれそうな段階を見て、親族やB氏に、意思確認を行うなど、M&Aと他の選択肢を併行して、検討を進めていかれることを推奨いたします。また、現経営者(K氏)は、バトンタッチがされるまで、甲社を更なる魅力ある企業へ、磨き上げを行うことも頑張っていただきたいです。

 

 

 

 

◆参考になる成功事例!取引先の社長へ株式譲渡し、従業員が社長になった事例

①事業承継の決意し、専門家に相談

従業員5人の、食に関連する卸売業で創業40年の企業(甲社)です。後継者がいないままで、社長(K氏)が70歳になり、事業承継の着手をはじめられました。最初は、サラリーマンの息子に事業を引き継ぐ予定でいましたが、息子の妻の強い反対にあい断念し、第三者承継を目指すべく、M&Aのアドバイザーと相談しながら、後継候補先の探索を始めることになりました。

 

②取引先へ話を持ち込む

業界は、昔ながらのネットワークが存在し、まずは、取引先に継承をしてもらうことを考え、創業当時から懇意にしている取引先の社長(D氏)に相談をいたしました。話し合いの中で、「株式は、私が譲り受けるが、経営は今いる従業員に任せたい」という意向を持たれました。対象となる従業員(A氏)は、実務には精通していましたが、経営の経験どころか、管理職の経験もありませんでした。

 

③意欲のある従業員を社長に

A氏に、その話を打診したところ、突然の打診に驚きながらも、「せっかくの、職業人生、社長という仕事をやってみたい」と意欲をもたれました。幸い甲社の借入金は少額であり、A氏は、家族の賛成も得ることができました。話し合いの末、晴れて話がまとまり、D氏は、役員にはならず、従業員A氏が代表取締役社長に就任されました。他の従業員も、納得し、新たな体制がスタートしました。旧経営者のK氏は1年ほど会長という呼称で、引継ぎを行った後、引退をされました。

 

④身の丈にあった経営に

その後、A社長より先輩の社員が退職したり、新しい社員を採用しても育たず退職したりと問題は発生しましたが、株主であるD社長は、じっと甲社とA氏を見守り続け、「身の丈のあった規模で経営をすればよい」と、採算の合わない分野は撤退をするなど、規模を縮小しながらも、利益がでる体質へと企業再構築を図っていきました。5年経った現在は、高い経常利益率を維持しています。将来は、D氏の持つ株式を社長へ段階的に譲渡する運びで話が進んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

〈事業承継が成功した要因を考えてみましょう〉

1.小規模事業者であったこと  


①変化に対応しやすい組織であったこと 

事業承継に成功した理由の一つとして、従業員が5人という小規模であったため、組織をまとめやすかったことがあります。また、株式の譲受者(D氏)にとっても株式価額が少額で、投資がしやすく、外部の借入金も少額であったため、万一の場合でも、本業が受けるダメージも少ないことも後押ししたことになったと思われます。よく、「うちは小規模事業だから、M&Aはできない」と思っておられる経営者の声を聴きますが、小規模事業者だからこそ、M&Aが成立する場合もありますので、決して諦めないことが重要です。

 

②身の丈にあった組織に再構築したこと

会社の規模を拡大することだけが、成長戦略ではないと考えます。甲社の場合、不採算の事業から撤退することで、A氏が経営者として身の丈にあったマネジメントができる体制に再構築したことも、承継が成功した要因であると考えられます。

 

 

2.従業員が、勤勉で、後継する強い意欲があったこと   


①後継者がポジティブであったこと

A氏は、代表になることに前向きな姿勢を崩さなかったことも、大きな成功要因です。 高い実務能力があっても、引き継ぐ意欲が低いと、当事者意識の欠如により、組織内で紛争が起きることがあります。また、意欲があっても、責任感が強すぎると、重荷となって、意思決定が遅れて経営判断を誤ったり、精神的に疲弊してしまう後継者も多く見受けられます。そのため、前向きな姿勢で経営に邁進されたことは、経営者の資質があったといえます。従業員承継を検討する場合は、後継者の「意欲と覚悟」の有無は、仕事の能力以上に、重要な成功要因であると言えます。

 

②後継者が勤勉であったこと

A氏は勤勉で、実務能力に長けており、通常業務は滞りなく任せられたため、先代社長K氏が引退後も、強力なマネジメントの必要性がなかったことも成功要因だと考えられます。 承継後は、毎月の業績報告をD氏に行い、都度重要な意思決定は相談を行うなど、コミュニケーションを円滑にとることができたことも、株主との信頼関係を維持し、事業が継続できた要因です。

 

 

3.取引先社長(D氏)との長年の信頼関係があったこと  


①業界のことを良く知り、専門家と相談しながら戦略的に進めたこと

業界の結束が固く、他の異業種からM&Aによって参入されることは取引先(D氏)にとっても脅威であったため、D氏自らが株主になることで、サプライチェーン(商品の供給連鎖)の強化をはかり、参入障壁を高める戦略的な意図もありました。

 

譲渡者がM&Aを検討する場合、業界の慣習や動向、顧客の動向をよく分析を行うことで、最適な譲受先に、最適な提案が可能であるので、M&A専門家と相談するなどしてじっくり検討を行う事が重要です。このケースの場合、異業種の候補先に話を持ち込んでいたら、承継後、問題が生じていたかもしれません。

 

②利害関係者との良好な人間関係を構築していたこと

K氏とD氏は、創業当時から苦楽を共にした仲で、同志的な信頼関係が構築できていました。事業承継の成功要因で、「良好な人間関係」は大切な要素になります。得意先、仕入先、取引業者、従業員、同業者、家族、株主など、普段からなるべく良好な人間関係を構築していると、思わぬ協力をいただける可能性もあり、事業承継がスムーズに運ぶことができます。

 

現在、関係性が悪い場合があっても、会社の存続のために、今からでも遅くはありませんので、関係の修復をはかる努力することが重要だと考えます。

 

 

[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第3回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」で、選ばれる買い手になるために

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

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(1)ユーザーの9割は買い手という現実

前回の解説にてスモール企業(中小零細企業)の売り手目線の選択肢として、「廃業」ではなく「ネットを使った第三者承継、(M&A)」を、弊社がサポートした実例を踏まえて説明をしましたが、いかがだったでしょうか。

 

前回の末尾に、サラリーマンを含めて買い手が多数いることについても少し触れました。 M&Aマッチングサイトをスマホやパソコンで見てみると、トップページにユーザー数が表示さています。そのマッチングサイトを使っているユーザーの数のことですが、一般的には約9割が買い手といわれています。つまり、10人いれば、1人が売り手で9人が買い手という感じです。

 

多数の買い手がマッチングサイトには存在しているのですが、それら買い手の成り立ちや業種業態、規模感などは多種多様です。一般的によくあるのは、今までM&Aを検討したことはあるのだけれど、売買価格や専門家費用が高く、なかなか実現できなかったようないわゆる中小零細企業の方々です。売上規模でいうと、3億円未満でしょうか。

 

他にも、過去に数億円ほどのM&Aを実現したことがあるような売上規模でいうと30億円未満の中小企業も多数います。中には、上場企業が買いくるケースもあり、弊社でもM&Aの成約実績があります。

 

一方で、自身もスモール企業といえるような売上2億円未満の企業も、売上拡大や昨今のコロナ禍でのリスクヘッジを買収理由として、マッチングサイトでのM&Aに積極的です。

 

さらには、冒頭申し上げたサラリーマンの方がいずれの起業や副業目的で、主婦の方やリタイヤメント世代が第二の人生に向かう1つの手段として、M&Aマッチングサイトに買い手候補として個人登録をしています。

 

また、買い手の業種業態や本社等のエリアは、マッチングサイトという性格も相まって、あまり偏りがなくあらゆる業種業態やエリアの方々がいます。

 

マッチングサイトを活用したM&Aの最前線でアドバイザーとして仕事をしていて、最近強く感じるのは、中国などのアジアを中心とした買い手企業が多数出てきていることです。マッチングサイトは日本語オンリーであることが多いので、日本語がある程度できるということ(また、形式上は日本企業ということでもあります)ですが、日本のスモール企業の魅力は日本人以上に外国の方々の方が強く感じているのかもしれません。

 

一方で、本連載の第1回で、「事業者数381万者のうち、3者に1者に当たる127万者が経営者70歳以上かつ後継者不在で廃業の危機にある」と説明しました。これら127万者の廃業が日本経済に与えるインパクトは、「650万人の雇用喪失、22兆円のGDP喪失」です。そのため、国は2019年12月20日に「第三者承継支援総合パッケージ」を、2020年3月31日に「中小M&Aガイドライン」をそれぞれ公表しました。これら政府資料では、127万者のうち黒字廃業率49.1%をかけた60万者を、今後10年間でM&Aを実現していく、との目標を掲げています。つまり、今後は圧倒的な売り案件がマッチングサイトに出てくるはずです。しかし、現状ではまだまだ、売り手の社長自身が自分の会社が第三者に売れるとは考えていないことなどもあり、圧倒的に買い手の方がマッチングサイトのユーザーとなっています。この部分については次回に説明したいと考えていますが、全国の会計事務所が立ち上がって、今まで救えなかった廃業間近の顧問先への情報提供や、M&Aマッチングサイトを利用するお手伝いをして欲しいと、強く思っています。

 

 

(2)ほとんどの買い手がハマる「落とし穴」

マッチングサイトに登録している買い手候補は、こういった買い手9割という実情をあまり知らないようです。場合によっては、「買い手がお金を出すのだから」と上から目線で交渉に臨んでいるケースもあります。

 

M&Aマッチングサイトに買い手が初めて登録して、この案件に少し興味あるなと思って、質問をしたり、前回、説明した実名開示依頼をしたりした時に、ほとんどの方がハマる「落とし穴」があります。

 

それは、メッセージを送ったのに、「何も返信がない」または「返信はあるが素っ気ない」ということです。このコラムをお読みの方でも、ご経験あるのではないでしょうか。

 

理由は明確です。現在のM&Aマッチングサイトでは、圧倒的な買い手過多なのです。また、人気案件は誰が見ても興味を引くものですから、1つの売り案件に、10件、20件買い手候補が現れることも珍しくありません。弊社も売り手アドバイザーをしていて、多数の買い手候補が現れているときに、「スマホからメール文言のチェックもせずに片手でよこしてきたな、しかもこの時間であれば飲み屋からか?」とわかるようなメールには、なかなか時間をかけて返信することはできません。

 

ネットの世界というのは、これはM&Aに限らずですが、リアルに会っているわけではありませんから相手の顔色など全く不明で、基本的にネット情報やメール文章のみで、判断をすることになります。過去にM&Aを多数実行してきた名の知れた大企業が買い手であっても、そこは同じです。実際に、弊社で過去成約した事例を振り返ると、規模も大きく知名度のある買い手候補が必ずしも、優良な売り案件の成約を実現できておらず、意外な伏兵ともいえるような小企業や時には個人が数多ある買い手候補をねじ落とし、売り手の心を射止めています。

 

 

(3)選ばれる買い手になるためには

先ほど「相手の顔色など全く不明で」と書きましたが、実は、文章というのは、思いっきり顔色が出ます。これを知っているかどうかは、M&Aマッチングサイトで選ばれる買い手になるためには重要です。

 

メールのやりとりを続けていくと、相手がどんな状況でこのメールを書いているのかまでわかりますし、もちろんどれくらいの熱意で書いているのかもわかります。残念なのは、本当はすごく熱意もあるし、もちろんそのための準備としての資金なども潤沢にあるにも関わらず、最初の売り手やそのアドバイザーとのやり取りを、疎かにされてしまうケースです(メール含めたネット音痴の方も含みます)。最初のメールで、「挨拶や買い手自身のことを何も書かずに、一方的な買手目線で、質問のみする」というのでは、十中八九上手くいかないでしょう。どんな交渉事でもそうだと思いますが、相手つまり売り手の立場に立って、常に発言をされることが大事です。この辺り、不得意と言うことであれば、少し費用は発生しますが、こういったM&Aマッチングサイトの交渉に長けたアドバイザーを、最初から付けられることをお勧めします。せっかくの貴重な売り案件を逃すことになりますから。

 

選ばれる買い手になるためには、「常に売り手の立場に立つ」ということは重要ですが、他にも、「売り手の条件を満たしている」ことをきちんと説明することも必要です。ケースによっては許認可や業種などが条件になっていることもありますが、多くの売り案件に共通する条件は、「価格」です。その価格を買い手はきちんと用意できるのかです。

 

つまり、選ばれる買い手になるためには、買収価格を例えば自己資金で用意しているとか、既に銀行に話をしていて内諾を得ているなどであれば、かなりのアピールになるでしょう。当然ですが、買収価格はその後に交渉していく前提で決して売り手が最初に提示した価格で購入するということではありませんが、とにかく最初は多数の買い手候補から売り手やそのアドバイザーに選んでもらわないと交渉のステージにすら進めないわけですから、資金手当ての話は重要なこととなります。

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第10回:「アパレル小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~ブランド・店舗ごとの損益管理は?商品仕入れは?会計処理は?在庫状況・利益率は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

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▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、アパレル小売業のM&Aを検討していますが、アパレル小売業M&A特徴や留意点はありますか?


 

アパレル小売業の多くは、店舗での販売とECでの販売を併用しています。また、1ブランドのみを運営している企業もありますが、ある程度の規模になると複数のブランドを運営している企業が多くなってきます。複数の店舗や複数のブランドを運営している場合に、重要となってくるのがブランドごとの損益、店舗ごとの損益管理ができているかです。ブランドごとや店舗ごとに損益管理をすることで、実状の正確な把握と今後の適切な打ち手の検討が可能となるからです。M&Aを検討する場合でも、ブランド別や店舗別の損益状況は非常に重要な損益指標となります。

 

ブランド別や店舗別の損益以外に、KPIとしてされる基本的な指標として、客数・客単価が挙げられます。売上高を購入客数、客単価に分解をして分析を行います。入店客数の把握が可能な場合には、購入率(購入客数/入店客数)もKPIとして設定しましょう。買上点数を把握して、客単価を買上点数×平均商品単価に分解することも可能となります。どのようにKPIを設定するかは企業ごとの判断になりますが、一般的にはこれらの指標は重要であるため、分析している企業も多いです。

 

また、アパレル業界の特徴として、小売価格を上代(じょうだい)、卸売価格を下代(げだい)と呼ぶので、覚えておきましょう。また、アパレル業界だけではないですが、商品仕入に関して、買取仕入、委託仕入、消化仕入の3つの取引方法があります。

 

 

①買取仕入は、仕入れ先から商品を買取る仕入れ方法です。買取るわけですから、売れなかったとしても返品することは出来ません。つまり在庫リスクがあるため、商品の仕入れ内容や数の精度が重要となります。

 

②委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置き、商品が売れた場合に商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。在庫リスクがないことがメリットとなります。

 

③消化仕入は、商品が売れるまでは仕入先の資産となり、商品が売れた場合に、仕入と売上を計上します。委託仕入と同様に在庫リスクがないことがメリットとなります。

 

 

委託仕入や消化仕入は在庫リスクがないことがメリットですが、1商品あたりの利益率は買取仕入よりも低くなります。それぞれの仕入方法を理解した上で、在庫の状況や商品の利益率を正確に把握しましょう。

 

アパレル業界では一般的に夏と冬の売上・利益が大きくなり、中でも冬の売上・利益の金額が最も大きくなります。これは、夏と冬にバーゲン等が行われること、冬物はコート等を取り扱うことから商品単価が大きくなることためです。夏は暑く、冬は寒い方が売上は大きくなる傾向にあり、バーゲン期間中や売上が大きくなる土日の天気によっても売上は変動します。自社の努力以外の天候の要素等で売上高が変動してしまうというところもアパレル業界の特徴となります。

 

商品の売上の状況により在庫も増減しますが、アパレル企業の在庫は鮮度が重要であることが多く、1シーズン売れ残ってしまうと価値が一気に下落します。そのため、在庫の状況の把握は非常に重要です。滞留在庫の会計処理や、値引き販売時の会計処理、在庫処分時の会計処理は企業により様々であるため、M&Aを検討している場合は、対象の企業がどのような会計処理を選択しているのかを把握して、実態を掴む必要があります。

 

小売業の場合は、バイヤーは非常に重要な役割を持っており、アパレル企業におけるバイヤーも例外ではなく、むしろ一般的な小売業よりも重要度は高いかもしれません。ある程度の規模のブランドになるとカリスマ性のあるバイヤーが存在することが多く、M&Aを検討する場合にはキーマンとなります。

 

アパレル小売業では、ブランド別や店舗別、商品別等の売上・損益、KPI指標等基本的な項目を把握しましょう。さらに、アパレル小売業特有の季節性や仕入方式および会計処理を理解した上で実態を掴み、M&Aを成功に導きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第6回:M&Aの仲介契約とFA契約の違い

~仲介契約とアドバイザリー契約の違いとは?報酬体系は?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

 

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[質問(Q)]

後継者を探しましたが、親族内、役員・従業員にも適任者が見当たりません。ついてはM&Aで事業継続を図りたいと思いますが、現在候補先にあてがない状態です。候補先を探索する場合、誰に相談したらよいですか。

 

 

[回答(A)]

一般的には決まった相手先がいない場合には仲介者若しくはアドバイザーからの支援を受けることが一般的です。仲介者・アドバイザー(以下、「仲介者等」といいます)の選択は、業務範囲や業務内容、活動提供期間、報酬体系、ディール実績、利用者の声等をホームページや担当者から、確認した上で複数の仲介者等に打診、比較検討して決定することが望ましいです。また、公的相談窓口として事業引継ぎ支援センターにご相談いただいても、信頼できる仲介者等を紹介してもらうことができます。

 

 

 

1.信頼できる仲介者等の選任


信頼できる仲介者等を選任することが重要です。仲介者等はM&Aを支援する機関で、候補先は民間のM&A事業者、金融機関、税理士を含む士業専門家等です。身近な相談先として顧問税理士や取引金融機関も挙げられます。主な契約は2 種類でそれぞれの機関ごとの指針や取引状況により契約体系が大きく異なる仲介契約とアドバイザリー契約があります。選定の際には仲介者等の担当者との相性や信頼関係の構築ができそうかという点も重要なポイントになります。

 

また、契約を締結する際は調印前に充分な説明を納得がいくまで受けることも重要です。特に契約内容や報酬等については後程問題になるケースもあることから確認が必須となります。もし、契約内容等に疑義がある場合には、必要に応じセカンドオピニオンを受けることが有効です。

 

 

 

2.仲介契約とアドバイザリー契約の違い


仲介契約仲介者と譲渡企業、譲受企業との間の契約です。双方の間になって中立・公平の立場から助言を行うため、交渉が円滑に進みやすいという特徴を持っています。

 

アドバイザリー契約アドバイザーが譲渡企業又は譲受企業の一方との間で締結する契約です。契約者の意向が交渉に全面的に反映されるという特徴があります。

 

中小企業のM&Aでは仲介契約が一般的であることが多いと推察されますが、契約者に対する利益相反の観点からアドバイザリー契約のみに限定している支援者もいます。また、弁護士は弁護士法で双方代理は認められていないため、自動的にアドバイザリー契約となります。

 

 

3.仲介者等の役割


一般的には以下のような支援をすることが多いです。

 

また、以下の一部のみサービスを提供している仲介者等もいます。

 

①事業評価
②候補先選定サポート
③交渉サポート
④基本合意締結サポート
⑤デューデリジェンスサポート
⑥最終契約締結・クロージングサポート

 

 

4.報酬体系


一般的な報酬は以下のとおりです。別途交通費等の実費やデューデリジェンスの費用が必要な場合があります。また、着手金やリテーナーフィー、基本合意時の報酬は不要として成功報酬のみとしている仲介者等もいます。

 

● 対応開始時:着手金
● 対応中:リテーナーフィー(月額報酬)
● 基本合意締結時:中間的な報酬で、成功報酬の一定割合としている仲介者等もいます。
● 成約時(決済時):成功報酬、レーマン方式といわれるM&Aで一般的に使用される方式を採用しています。一方、最低報酬額を別途定めている仲介者等も多く存在します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第9回:「民泊運営事業者のM&Aの特徴や留意点」とは?

~どの法律に基づいて運営しているか?物件は所有か賃貸か?物件オーナーとの契約内容は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、民泊運営事業者のM&Aを検討していますが、民泊運営事業者M&Aの特徴や留意点はありますか?


民泊運営事業者が民泊事業を行うには、旅館業法簡易宿泊営業、特区民泊、住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)のいずれかに従う必要があります。2018年6月に住宅宿泊業法(民泊新法)が施行されたことにより、これまで民泊運営を行ってきた事業者の多くが事業を見直すきっかけとなりました。住宅宿泊業法(民泊新法)では、年間営業日数が180日以内という制限が課されたため、180日の営業では利益が出しづらく事業としては成り立たないケースがほとんどとなったためです。

 

事業として行うには、旅館業法簡易宿泊営業又は特区民泊のどちらかにて営業を行うことが考えられます。旅館業法簡易宿泊営業および特区民泊では住宅宿泊事業法(民泊新法)に比べ遵守事項が多く、特に通常の住宅設備では消防法の遵守事項を達成できないケースが多く民泊事業を続けることを断念した事業者も多くいました。

 

 

 

そのため、まずはM&Aを検討している会社がどの法律に基づいて運営しているのかを把握する必要があります。そして、物件を所有しているのか、賃借しているのか、或いはオーナーから民泊運営のみの委託を受けているのかについて把握しましょう。これにより固定資産の有無や、損益分岐点が大きく異なってきます。また、運営委託を受けている場合は、物件のオーナーとの契約関係が非常に重要な事項であるため、契約書は必ず確認しましょう。

 

民泊事業者の主な収入はインターネットの旅行サイト等からの収入であり、その収入に応じて支払手数料を支払っています。主な費用はこの支払手数料と、物件の清掃費、人件費、その他外注部分があればその外注費等です。

 

コロナ禍で、外国人観光客の減少によりインバウンドの産業が厳しい状況の中、民泊事業も厳しい状況となっており、今後M&A案件が増加する可能性もあるため、民泊事業の特徴や留意点を把握しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』」

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、財務DD

2、買収価格への反映

3、収益性分析

4、BS分析

5、事業計画分析

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

 

1、財務DD


中規模以上のM&Aでは、公認会計士が財務DDを行い、調査結果を報告するケースが多いと思います。財務DDの目的は、「買収をストップするような重要イシューの検出」です。さらに、調査結果を①買収価格に反映、②契約書に反映、③PMI計画に反映することによって、買い手のリスク低減を図ります。

 

 

①買収価格に反映

「過去に設備投資が十分に行われておらず、事業計画の売上高を達成するために、買収後に200百万円の設備投資が必要」という調査結果が報告された場合、事業計画の設備投資額の十分性(設備投資のタイミング及び金額)を確認し、金額等が適当でないと判断される場合は、事業計画を修正します。これによって、財務DDの検出事項が、買収価格に反映され、高値買いのリスクが低減されます。

 

②契約書に反映

「環境債務等の定量化できない偶発債務の存在」が報告された場合、①土地を譲渡対象から除外する等のスキーム変更、②土壌改善をM&Aの成立条件とする、③当事者が把握していない汚染事実が発覚した場合の補償方法等を検討し、契約書に織り込みます。これによって、財務DDの検出事項が、契約書に反映され、買い手のリスクが低減されます。

 

③PMI計画に反映

「多額の滞留債権」が報告された場合、買収後に内部統制の構築が必要になります。具体的には、与信管理、月次債権管理資料の作成・報告によって、滞留債権の適時検出、債権回収の早期実行ができる管理体制を構築します。そのための、経理規定の整備、経理メンバーの追加、本社サポート体制を検討します。このように内部統制の構築によって、買い手のビジネスリスクが低減されます。

 

 

2、買収価格への反映


財務DDの報告書は、調査結果を価値評価に反映する方法を明示的に記載したものばかりではないため、買い手は、財務DDの検出項目の価値評価(DCF法及び倍率法)への反映方法を理解しておく必要があります。倍率法では、すべての検出項目を価値評価に反映できるわけではない点に注意してください。

 

 

 

3、収益性分析


(1)一過性費用

●例えば、「創業50周年記念費用として100百万円を計上」のように一過性費用を前期に計上していた場合、DCF法及び倍率法では、どのように反映すればいいでしょうか。

 

●DCF法では、基準日以降のFCFの割引現在価値の合計が事業価値となるため、過去の一過性費用は、価値評価には影響しません。ただし、事業計画の販管費を見積もる際に、過去の販管費率を参考にする場合は、過去の販管費率の計算から一過性費用の影響を除外する必要があります。

 

●倍率法では、過去実績及び予算値に倍率を乗じて事業価値を計算します。そのため、過去実績及び予算値から一過性費用を除外することによって、一過性費用の影響のない事業価値が算定されます。

 

 

(2)撤退事業・取引先の喪失

●DCF法では、事業計画に撤退事業・取引先の喪失の影響が反映されているかを確認し、反映されていない場合は事業計画を修正します。なお、新規取引先の増加によって売上減少の補填を見込んでいる場合、当該取引の実現可能性を十分に検討します。

 

●倍率法では、過去実績又は当期予算から撤退事業・取引先の喪失にかかる影響を控除する必要があります。具体的には、過去実績又は当期予算から撤退事業にかかる損益及び喪失した取引にかかる損益を取り除きます。

 

 

4、BS分析


(1)滞留債権・滞留在庫(帳簿上、評価減を計上していない)

●滞留債権・滞留在庫は財務DDの最頻出の検出項目です。基準時点の運転資本に滞留債権・滞留在庫が含まれている場合、運転資本の水準が、適正な水準と比較して過大になっている可能性があります。そのため、基準時点の運転資本から滞留部分を控除して、運転資本の増減を計算します。なお、基準時点の債権・在庫の回転期間を用いて、将来の債権・在庫の残高推移を推計する場合、基準時点の債権・在庫から滞留部分を控除して回転期間を計算します。さらに、滞留在庫の処分に廃棄コストが見込まれる場合、廃棄コストを純有利子負債に含めます。

 

●倍率法では、運転資本の水準・増減を考慮しないため、滞留債権・滞留在庫の影響を価値評価に反映することが出来ません。そのため、DCF法との計算結果の相違要因となります。なお、滞留在庫の処分に廃棄コストが見込まれる場合、DCF法と同様に廃棄コストを純有利子負債に含めます

 

 

(2)引当金の不足

●財務DDで引当金不足が検出されるケースも非常に多いです。DCF法では、検出された引当金が毎期経常的に発生するキャッシュアウトに対応する場合(ex 製品保証引当金、賞与引当金等)、事業計画に適切な引当金の見込額を費用計上するとともに、引当金残高の増減を運転資本の増減としてFCFに反映させます。これによって、引当金のキャッシュアウトのタイミングとFCFが対応して、引当金の不足が事業価値に反映されます。検出された引当金が一時的に発生するキャッシュアウトに対応する場合(ex 資産除去債務)、キャッシュアウト見込み額を純有利子負債に含めます。

 

●倍率法では、検出された引当金が毎期経常的に発生するキャッシュアウトに対応する場合(ex 製品保証引当金、賞与引当金)、過去実績又は当期予算に適切な引当金の見込額を費用計上します。これによって、引当金の不足が事業価値に反映されます。検出された引当金が一時的に発生するキャッシュアウトに対応する場合(ex 資産除去債務)、DCF法と同様にキャッシュアウト見込み額を純有利子負債に含めます。

 

 

(3)偶発債務(訴訟、環境債務等)

●偶発債務は定量化しないと、価値評価に反映できないので、財務DD担当者は可能な限り、前提条件を置いて、偶発債務の定量化を図ります。DCF法及び倍率法ともに、定量化された偶発債務を純有利子負債として、事業価値の控除項目とします。

 

 

(4)過去の設備投資の不足

●過去の資金繰りの影響によって、設備投資が十分に行われていないケースがあります。DCF法では、事業計画の売上高を達成するために必要な設備投資見込額を将来のFCFに反映します。

 

●一方、倍率法では、将来の設備投資額を考慮しない(類似会社の設備投資の水準をベースとしており、個別企業の特殊事情を考慮しない)ので、過去の設備投資の不足の影響を価値評価に反映することが出来ません。そのため、DCF法との計算結果の相違要因となります。設備投資の不足額が金額的に重要である場合は、不足額を純有利子負債として、事業価値から控除することを検討します。

 

 

5、事業計画分析


(1)事業計画の前提条件

●「製品が成熟化しているにも関わらず、事業計画の販売価格が横置きのままである」、「新規取引先の増加によって販売数量の増加を達成する見込み」、「材料価格の変動を販売価格に転嫁するまでのタイムラグが長い」、「人件費のベースアップが考慮されていない」等、事業計画の前提条件が、過去の実績と比較してアグレッシブになっているケースが多くあります。DCF法では、市場データーや専門家のアドバイスを参照して、前提条件を見直し、見直し後の修正事業計画を基にした事業価値を算定します。

 

●倍率法では、過去実績又は予算をベースに事業価値を算定するため、前提条件の修正をダイレクトに事業価値に反映させることが出来ません。

 

 

(2)カーブアウト

●カーブアウト案件では、①コスト構造の変化( 売り手のグループ間取引から買い手のグループ間取引への変更等)と②一過性コストの発生(ex. ITデーターの移管コスト、オフィス移転コスト、従業員の引越費用等)が検出事項となります。

 

●DCF法では、カーブアウト後の前提条件に沿った事業計画を用いて価値評価をすることで、検出事項を価値評価に反映することができます。具体的には、①コスト構造の変化を事業計画に織り込み、②一過性コストを純有利子負債に含めて事業価値の控除項目とします。

 

●倍率法では、過去実績又は予算をカーブアウト後の数字に修正(プロフォーマ調整:過去にカーブアウトがあったと仮定して財務諸表を作成)をします。具体的には、①コスト構造の変化を過去実績又は予算に織り込み、これに倍率を乗じて事業価値を算定します。②一過性コストは、DCF法と同様に、純有利子負債に含めて事業価値の控除項目とします。

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第7回:財務デューデリジェンス「事業計画の分析」を理解する

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

財務デューデリジェンス「事業計画の分析」を理解する


事業計画は、バリュエーション手法でDCFを採用している場合、将来キャッシュフローの前提であり、対象会社の今後の事業運営を検討するうえでも非常に重要です。

 

重要であるため、財務デューデリジェンスの枠内での外部の公認会計士等の専門家による事業計画の検討の有無によらず、買手企業が自社内で分析を行うことが基本となります。

 

買手企業の財務デューデリジェンスにかける予算の都合から事業計画の検討を行わないことや、事業デューデリジェンスを行う場合には事業計画の主な分析は事業デューデリジェンスで行う場合もあります。

 

以下では、財務デューデリジェンスにおける、事業計画の分析について解説したいと思います。

 

1、外部環境の把握

事業計画を策定するうえで、外部環境の把握は重要です。外部環境は事業デューデリジェンスで行われることが多いため、事業デューデリジェンスのレポートを参考にします。

 

外部環境の過去のトレンドや今後のトレンド予測と事業計画との整合性を確認します。

 

例えば、製品の製造に必要な主要原材料の単価が、過去から上昇傾向にあり、今後も上昇が予測されるにも関わらず、事業計画上の売上高原材料費比率が過年度と同水準である場合、外部環境と不整合となります。このような場合は特に、原材料の仕入単価の上昇を抑える施策等合理的な説明が必要となります。

 

また、店舗型の小売業を営んでおり、同じ商圏内に競合店の出店が予定されている場合、当該事項が事業計画上に織り込まれているかどうかの確認も必要となります。

 

2、事業計画の策定時期、目的の把握

財務デューデリジェンスの中で事業計画の分析を行う上で、事業計画の策定時期や目的の把握は前提となります。事業計画の策定時期よりも後に、急激な外部環境の変化や対象会社で重要な意思決定等があった場合は、事業計画にそれらの影響が反映されていないため留意する必要があります。また、事業計画策定の目的がM&Aのためである場合には、達成可能性が低く楽観的な計画となっている可能性があるため留意する必要があります。

 

3、各計画の整合性の確認

一般的に、企業で事業計画を策定する場合は、多くの人が事業計画に関与して策定されます。また、事業計画策定にかかるリソースの不足から、同時期に全ての項目の検討を行っていない場合もあり、各事業部の計画や各種計画がそれぞれ整合していないことがあります。

 

そのため、財務デューデリジェンスでは各計画がそれぞれ整合しているかどうかを確認する必要があります。例えば、各事業部の計画の合計と全社計画が整合していない場合や、人員計画では採用を強化して従業員が増加する計画となっているにも関わらず、損益計画では人件費が同水準で推移している場合等、不整合が生じることがあります。これらの不整合がある場合には、事業計画上これらの調整を加味して分析を行う必要があります。

 

4、事業計画の前提の確認

事業計画は、将来の計画であるため、一定の仮定や前提を置いて作成されることが一般的です。一般的な前提は、マーケット成長率、得意先の獲得・喪失、新製品の有無、店舗の出退店、販売価格・数量、原材料価格、人員数の推移、1人あたり人件費、為替相場、関連法規制の変更等です。これらの前提を把握した上で、対象会社の作成している事業計画の合理性を検討します。

 

5、過年度の計画又は予算と達成状況

事業計画は将来の計画であるため、事業計画通りに全ての施策を実施しないことや、全ての施策を実施しても、様々な要因から事業計画が達成できないことも少なくありません。また、各企業によって事業計画策定の精度は異なり、どの程度の精度で策定されているかを把握するために、過年度に策定された事業計画や予算と実績の比較の分析が有用です。

 

6、売上高の分析

製品、得意先、店舗等の分類を行い、既存製品、得意先、店舗等の売上高と、新製品、新規得意先、新店舗等の売上高、およびM&Aの影響による売上高に区分して分析することが有用です。これらの分析の切り口は、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスの切り口と同じであることが必要です。逆に言うと、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスの分析の切り口は、事業計画と同様の切り口とする必要があります。

 

 

 

 

 

上図は既存店舗の店舗別売上実績および事業計画です。デューデリジェンスで分析した切り口と同様の切り口で売上計画を分析することで、外部環境、連続性および実現可能性等の把握が可能となります。

 

既存店舗の分析を行った上で、新規店舗による売上高を把握します。

 

 

 

 

既存店舗での売上高と、新店舗による売上増加をそれぞれ区分して把握します。新店舗の売上増加分については、既存店舗で分析をしたKPIを用いて、実現可能性を分析します。店舗であれば、立地や広さ等で検討することが一般的で、これらの実現可能性等を検討する必要があります。

 

なお、売上増加に伴い、新店舗への出店等が予定されている場合には、設備投資計画に当該投資が織り込まれているか、金額の妥当性等も含めて検討する必要があります。

 

7、売上原価の分析

売上高の増減に対して、売上原価がどのように見積もられているかを分析します。デューデリジェンスの過年度の分析で、それぞれの勘定科目ごとのドライバーを把握していますので、それらのドライバーで事業計画上の売上原価が作成されているかを確認します。

 

 

 

 

材料費は、一般的には売上高をドライバーとして売上高の増減に合わせて増減するように見積もられます。その他、外部環境から材料仕入高の上昇等が予想されている場合には、当該上昇率等も織り込まれているかを確認します。

 

直接労務費は、一般的には固定費とされることが多いです。正社員の賃金は固定費、パート・アルバイトの賃金は変動費とするケースも見受けられます。固定費であるため、計画上横置きとなっているケースがありますが、ある程度売上高が増加すると新たに人員を採用する必要があり、新店舗を開店すれば通常人件費は増加します。そのため、人件費について、固定費とするものの、どのような事象により人件費が増加するかを過年度のデューデリジェンスで把握する必要があります。また、人事制度の改定が織り込まれているか、過年度の1人あたり人件費との整合性等も確認する必要があります。

 

製造間接費は、それぞれの勘定科目ごとのドライバーで事業計画が作成されているかを確認します。キャッシュフローの影響はありませんが、設備投資を行う計画の場合は減価償却費が増加するため、それが織り込まれているか留意する必要があります。

 

また、これらの勘定科目ごとに売上高割合を分析します。必ずしも売上高に連動する費用ばかりではありませんが、売上高割合が大きく増減するような場合には、費用の作成前提に織り込むべき事象の漏れがないか等再度確認する必要があります。

 

8、販管費の分析

販管費の分析のアプローチは製造間接費の分析アプローチと類似しています。販管費は、製造間接費と同様に、それぞれの勘定科目ごとのドライバーで事業計画が作成されているかを確認します。

 

その他の留意点としては、売上の増減に対して、販売費や消耗品費等が適切に織り込まれているか、店舗の増減に伴い適切に人員計画が作成され、人員計画と人件費の計画が整合しているか等を確認します。

 

また、1人あたり人件費が過去の実績と整合しているか、人事制度の変更の影響が適切に見積もられているかを確認します。人員が増加する場合に、本社等の移転の必要はないか、研修費等も適切に見積もられているかを確認する必要があります。

 

9、税金の分析

過年度の分析で、法人税申告書の別表四の調整項目を把握し、計画上税額計算上影響を及ぼす可能性のある重要な金額があれば、それらが適切に計画上の税額計算上も考慮されているかを確認する必要があります。また、過年度に発生している繰越欠損金があれば、それらを使用する計画となっているかを確認します。

 

なお、税務ストラクチャ―において、適格・非適格の別により、繰越欠損金の引継ぎや、資産・負債の時価評価等取扱がかわるため、税務上の判断が重要である場合には、税務の専門家に助言をもらう等の検討が必要になります。

 

10、運転資本の分析

運転資本は、回収条件、支払条件、在庫施策、得意先ポートフォリオ、仕入先ポートフォリオ、製品ポートフォリオに重要な変更がないとするならば、売上高や仕入高に対する回転期間は一定であると考えられます。

 

そのため、過年度分析で正常な回転期間を分析していますので、回転期間が過年度から計画にかけて整合しているかがポイントとなります。回転期間が計画上変化している場合は、変化している理由、その合理性を検討する必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第2回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」では、買い手候補が7社以上

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

(1)誰にとってもモッタイナイ状況

本連載の第1回にも書きましたが、親族外の役員従業員承継という一時しのぎを除けば、後継者不在の会社の行く末は、2つしかありません。つまり、「廃業」か「第三者承継(M&A)」です。さらに、後継者不在の年商2億円以下のスモール企業(中小零細企業)に限っていうと、買い手候補を連れてきてくれるM&A仲介業者が費用対効果の関係でほぼ存在しないことから、実質、「第三者承継(M&A)」の選択肢はありませんでした(唯一あるとすれば、売り手社長ご自身が、知り合いの会社などお相手を見つけてくることができた稀なケースです)。ということは、スモール企業は、後継者を見つけられなかった場合は、基本的に「廃業しか選択肢がない」というのが、残念ながら今までの日本のスモール企業の現状でした。

 

何十年と商売を続けてくると、どんな会社でも、何某かの「経営資源」を築いていることが多いです。例えば、「自社オリジナル製品やサービス」、「技術力」、「得意先や仕入先、外注先の数と質」、「ビジネスの仕組みそのもの」、「育成コスト含めた従業員の数と質」等です。長く続けてきた会社の経営資源は、客観的に誰が見ても評価されるものもあれば、ある特定の企業や起業家から見たときに、それを一から築き上げることとの比較で評価されさることもあります。

 

このような経営資源のあるスモール企業が「後継者不在」というたった一つのトリガーで廃業しか選択できないというのは、売り手にとっても買い手にとっても、さらには日本経済にとっても勿体ないことだと思います。

 

しかし、この問題を打破できる可能性の秘めたものが一つあります。それは、「M&Aマッチングサイト」です。政府の資料では、「プラットフォーマー」などといわれています。

 

 

(2)実例「今まで廃業しか選択肢がなかった年商数千万円の会社が売れる!?」

では実際、M&Aマッチングサイトに後継者不在企業が登録(ほとんどのマッチングサイトでは無料で登録することが可能で、マッチングサイトによっては無料登録サポートが付いているところもあります)したケースで、その後どのようになったのかを弊社がサポートした事例でご紹介します。

 

最初、後継者不在企業がマッチングサイトに仮登録をされ、その後弊社とアドバイザリー契約をした上でトータルサポートをさせて頂きました。

 

 

(後継者不在企業の概要)

■業種:金属製品製造業

■売上高:6,000万円

■営業利益:△290万円

■総資産:1,900万円

■有利子負債:300万円

■純資産:900万円

■従業員数:3名、妻(経理、梱包発送)、従業員A(仕入担当)、従業員B(梱包発送、雑務)

 

 

マッチングサイトに正式登録をして2~3日のうちに、「4~5件」の買い手候補から「質問」や「実名開示依頼(買い手候補が自社の売上等の説明を記載した上での正式な手続き)」がサイト上で行われました。因みにこの反応数は、一般的な数字よりやや多いぐらいで、それほど特筆すべき数字ではありません。例えばマッチングサイトに登録して1週間たっても何も反応がなければ、マッチングサイトに掲載した紹介文などの表現が伝わりにくい、または、価格含めた条件面が相場とかけ離れている可能性が高いと思われますので、修正後に再アップされると良いでしょう。こういったトライアンドエラーを繰り返せるのが、ネットの良さですね。

 

さてその後、質問などの引き合い件数は「23件」、その中で本気度の高い実名開示依頼件数が「12件」、買い手の会社概要などから売り手が実際に実名開示を了承した件数が「7件」でした。売り手が実名開示を承諾すると、ネット上で秘密保持契約を締結した上で、買い手は売り手の決算書など詳細な資料を見ることができます。

 

そして、その7件のうち「6件」が弊社との買い手面談へと進みましたので、実名開示承諾で決算書などを見て実際の案件の中身が良かったのだと思います。

 

その中で買い手の意向と売り手の希望などを考えて、「2社」とトップ面談をして、そのうちの同業である「1社」と基本合意、最終契約となりました。

 

 

≪成約までの経緯≫

引き合い件数「23件」⇒実名開示依頼数「12件」⇒実名開示数「7件」⇒買い手面談数「6件」⇒トップ面談数「2件」⇒基本合意数「1件」

 

 

 

ちなみに、買い手企業の概要は下記となります。

 

≪買い手企業の概要≫

■業種:同業

■売上高:20,000万円

■従業員数:20人

■予算:2,000万円

 

 

 

売り手企業を振り返ると、年商6,000万円で赤字、従業員数は社長の奥様含めて3人というM&AマッチングサイトのスモールM&Aではよくある規模感等でした。気になる承継対価は1,600万円、マッチングサイト登録から引き渡しまでの期間は4ヶ月弱で、雇用の継続はもとより、得意先や仕入先、外注先すべて継続されることになっていました。

 

買い手は社長である父とその息子が交渉窓口だったのですが、父にとって今回のM&Aは、息子がいずれ本体を承継するための一つのステップとしての側面もあったようです。

 

 

 

(3)M&Aマッチングサイトを使えば、買い手候補が7社以上

いくつかのM&Aマッチングサイトがありますが、弊社が使っているバトンズというサイトでは、通常、売り手がサイトに登録すると、平均して7社の買い手候補が現れます。もちろん全く現れないことも稀にありますが、20社以上が候補企業として現れるようなこともあります。

 

M&Aマッチングサイトでアドバイザーとして買い手候補からのアプローチなどを見ていて、しばしばびっくりさせられることがあります。何にびっくりさせられるのかというと、「この売り案件にこの買い手がよくマッチングをしてきたな」という、そのマッチング自体にです。売り手及び買い手のマッチングの例をいくつかご紹介します。

 

 

●(売り手)東京の従業員0名の映画製作業×(買い手)大阪の従業員50名の広告業

●(売り手)関西の従業員6名の企業食堂×(買い手)関西の従業員20名の製造業

●(売り手)関東の従業員2名の製造業×(買い手)都内のサラリーマン

●(売り手)関東の従業員5名の塗装業×(買い手)関東の従業員10名の不動産業

●(売り手)関東の従業員1名の鋼管材卸業×(買い手)関西の従業員15名の塗装業

 

 

エリアも業種もバラバラで、買い手にサラリーマンが出てくるところも、M&Aマッチングサイトを使ったスモールM&Aの特徴です。

 

日本に事業者数は381万者あるといわれていますが、そこにサラリーマンまで買い手候補の可能性があるとなると、どんな優秀なM&A専門会社や専門家が頑張っても、上記のようなマッチングを成立させることは不可能でしょう。M&Aマッチングサイトだから実現できた第三者承継(M&A)といえるでしょう。もちろん、売り手も買い手も、引いては日本経済にとってもハッピーとなります。

 

「M&Aマッチングサイト」というのは、今まで廃業しか選択肢がなかったスモール企業に、第三者承継(M&A)という新たな希望のある選択肢を与えたという意味で、また、買い手にも事業拡大の新たな手法を与えたという意味で、控えめに言って「革命」を起こしたのではないかと感じています。

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第8回:「グループホーム(障がい者向けの共同生活援助)のM&Aの特徴や留意点」とは?

~運転資金は?入居者の状況は?入居者の獲得ルートは?従業員の状況は?許認可等は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、グループホーム(障がい者向けの共同生活援助)のM&Aを検討していますが、グループホームM&Aの特徴や留意点はありますか?


グループホームとは障がいのある人が、日常生活上の介護や支援を受けながら共同生活を営む住居のことです。 グループホームで暮らす人に対し、入浴、食事などの介護や生活相談、その他の日常生活上の支援を提供するサービスは「共同生活援助」と呼ばれ、障がい者総合支援法が定める「障がい福祉サービス」のひとつです。この共同生活援助のことを通称としてグループホームと呼びます。

 

なお、介護保険制度にも高齢者を対象とする「グループホーム」がありますが、「認知症対応型共同生活介護」と呼ばれる別のサービスにおける住居を指します。

 

 

グループホーム利用者は、障害者総合支援法が定めるサービス利用料が必要となります。利用料はグループホームの入居者数などにより異なります。 入居者は原則として利用料の1割を負担しますが、負担額には前年の世帯収入に応じた上限が設定されており、上限額以上の自己負担は生じません。利用料の他グループホームの家賃、食費や水道光熱費、その他の経費(町内会費や新聞代など)の実費を自己負担します。これらの料金設定はグループホームにより異なりますが、家賃は一般の住宅に比べ低く設定されているケースが一般的です。また、グループホームには家賃補助制度があります。対象は「市町村民税非課税世帯」または「生活保護」の対象者です。入居者1人当たりの家賃月額1万円を上限とした助成があります。利用者は、これらの費用を一般企業やA型事業所で受ける給料、障がい者年金、家族等の補助によって賄います

 

 

グループホーム運営会社の収入は、利用者からの収入および、地方自治体からの収入がメインとなりますが、通常地方自治体からの収入の割合が大きくなります。

 

地方自治体からの収入は給付金という名目で、障がい支援区分や夜間支援等の体制加算等により決定・支給されます。このような制度により、グループホーム運営会社の主な債権の相手先は地方自治体となります。地方自治体への債権は基本的に貸し倒れることがなく安定した収入となります。ただし、請求から入金までの期間が2か月間となるため、運転資金が必要な点に留意しましょう。運転資金を賄うためにファクタリングを実施している企業もあるため、M&Aの対象企業がファクタリング利用の有無を含め、債権内容を確認しましょう。

 

 

ビジネスモデルとしては、定められた人員配置基準や資格等により給付金の金額が決まるため、入居者および従業員を雇用することができれば安定的でかつ見通しの立てやすい収入が得られまます。利益の獲得のためには入居者の獲得、従業員の雇用、効率的な運営が重要となります。

 

 

グループホームのM&Aを検討する場合は、ビジネスモデルを理解した上で、入居者の状況、入居者の獲得ルート、従業員の状況、施設の状況、運営体制、許認可等を正確に把握しましょう。収益は地方自治体が大半であることから、回収はほぼ確実となりますが、回収期間が長く、運転資金が必要となることからファクタリングの有無を含めた運転資金の状況を確認することが必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[会計事務所の事業承継・M&Aの実務]

第3回:M&Aの譲渡対価とその後の処遇

 

[解説]

辻・本郷税理士法人 辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社

黒仁田健 土橋道章

 

〈目次〉

⑴譲渡対価の計算方法

⑵譲渡対価の支払方法と事後的な価格調整条項

⑶承継後にかかる負担の確認も

⑷経営統合後の待遇等について

⑸役員退職慰労金

⑹従業員退職金

 

 

▷関連記事:いくらで売却できる?-譲渡金額の算出方法-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」

▷関連記事:株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

⑴譲渡対価の計算方法

譲渡対価について、ディスカウント・キャッシュ・フロー等の収益還元的な考えに基づく評価方法や、時価純資産等の静的な評価方法などが考えられます。

 

一方で、一身専属に基づく士業という事業の特殊性から、その収益獲得の源泉が、代表者の個人的な実力によるところもあれば、数十人規模での組織的な実力によるところもあり、その評価はケースによりまちまちなのが実態です。

 

そのような中で実務的な慣習として、年間報酬総額に一定率を乗じて算出されるケースが多いのも事実です。顧問報酬、税務申告報酬などの継続的に収入が見込める報酬をベースに検討されますが、よほどスポット業務(相続税や保険手数料など)の売上割合が多くない限り、別途計算はせず、年間報酬総額として算出します。

 

例えば、法人の顧問報酬で毎年3,000万円、個人の確定申告報酬で毎年1,000万円、相続税の申告報酬で1,000万円が年間の報酬であった場合、毎年継続的に見込まれる4,000万円が年間報酬総額となります。

 

また、譲渡対価の検討時には、譲渡資産の特定をしておかないと、どこまでが対象かわからないので、対象範囲を契約内容に盛り込んでおく必要があります。

 

 

⑵譲渡対価の支払方法と事後的な価格調整条項

譲渡対価の支払方法については、

①クロージング時に一括で支払う方法

②クロージング時に一部を支払い、分割又は一定期間経過後に残金を支払う方法

があります。

 

売主にとっては、①の方法が望ましい反面、買主にとっては資金調達の問題や譲渡後の顧問契約や雇用契約の継続が未確定であることから、②の方法が望ましいこととなります。

 

また、顧問契約等の継続状況に応じて、譲渡後一定期間を経過した後、譲渡対価を見直す方式をとることも可能ですが、継続をしなかった理由が買主側に起因することも想定されるため、支払方法や事後的な譲渡対価の見直しは慎重に協議したうえで、契約書に明記する必要があります。

 

 

さらに、譲渡対価の分割又は一定期間経過後に残金を支払う方法を選んでいて、売主が死亡したときは、その相続人が債権者となります。売主及び買主はその点も留意して、支払方法や事後的な譲渡対価の価格調整条項を設定します。

 

 

⑶承継後にかかる負担の確認も

譲渡対価の決定に際して、承継後にかかる費用も確認する必要があります。

 

継続的に発生する経費もありますが、比較的大きな支出は会計ソフトにかかるものとなり、使用しているソフトのバージョンや更新時期等を確認し、その負担も考慮して譲渡対価を決める必要もありますので、注意してください。

 

また、事務所を借りている場合には、更新時期に手数料が発生しますので、確認が必要となります。これらの後発的に発生が見込まれる費用について、譲渡対価の算定上、織り込んでおく必要があります。

 

 

⑷経営統合後の待遇等について

一般的に承継元の代表者は、顧問先や従業員の引継ぎの関係から、事業承継後も一定期間は社員税理士や顧問として関与することになります。社用車や交際費の利用など、事前に細かく取り決めをしておくと後々のトラブルを回避できます。

 

また、競合避止義務との関係がありますが、顧問先の監査役に就任しているケースも見受けられます。このような場合の取扱いについて、どのようにするかの取り決めを統合前に行っていくことと、それを踏まえて譲渡対価の算定を行う必要があります。

 

 

⑸役員退職慰労金

税理士法人を取得する場合に、承継元の代表が退任する際に退職慰労金の支給があるときは、当然、出資持分の譲渡対価の金額は減少します。退職金は実際に退職するまで支給ができない点で、承継元にとっては、受領できるまで時間を要する一方、承継先にとっては退職までの期間、きちんと承継業務に従事できる点と、支給時には法人にとって損金となるため、税務メリットを得ることができます。

 

なお、個人事業で行っている場合には、退職金という考え方は発生しません。

 

 

⑹従業員退職金

従業員の退職金制度として、特定退職金共済制度に加入しているケースが見受けられます。また、独自の退職金制度を導入している事務所もありますので、これらの退職金制度を継続するのか、継続する場合には譲渡対価に反映するべきか検討が必要です。

 

 

 

 

 

▷参考URL:M&A各種契約書等のひな形(書籍『会計事務所の事業承継・M&Aの実務』掲載資料データ)

 

[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第1回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」が活況なワケ~コロナも追い風~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

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(1)4つの数字「381」「127」「650」「22」からみる中小M&Aの今

日本の高齢化率は世界一ですが、同様に中小企業経営者も高齢化しています。具体的な数字を挙げると、全国における事業者数は、会社も個人事業主も含めて約「381」万者。そのうち、経営者の年齢が70歳以上の数は245万者で、そのうち後継者未定の数は「127」万者となっています(2025年予測値)。

 

つまり、日本にある製造業や建設業、飲食店や町のお豆腐屋さんなどすべての事業主のうち、3分の1は、「経営者年齢70歳以上かつ後継者未定」なのです。

 

 

ではこの127万者は、将来どうなるのでしょうか?

 

 

実は、最終的な選択肢は2つしかありません。1つは、「M&Aで第三者承継先に譲渡する」、もう1つは、残念なことではありますが、「廃業」です(親族外の従業員や役員に承継するというのも稀にありますが、単に代表者が変わるだけが大半で、きちんと株主が変わり銀行保証も精算されるケースは極めて少ないです)。

 

さらには、127万者のうち8割である約100万者は、いわゆる中小企業ではなく小規模企業です。小規模企業の場合、M&Aで第三者承継先を探そうとしても、売買対価が低額で十分な手数料が支払えないことから、M&A仲介業者や銀行等に依頼する案件としては相応しくありません。つまり、これまでは、小規模企業の場合は第三者承継先を探そうにも相談者がおらず、結果的に「廃業」しか選択肢がなかったといえます。

 

 

 

この廃業しか選択肢がなかった小規模企業に、「第三者承継」という選択肢を与えてくれるのが、このシリーズの主題である「マッチングサイトを使ったスモールM&A」なのです。

 

 

 

(2)第三者承継支援総合パッケージで「M&Aマッチングサイト」に言及

このまま放置しておくと日本経済に与えるマイナス要素が大き過ぎるため、中小企業庁は、2019年12月20日に、中小企業支援策として、「第三者承継支援総合パッケージ」を発表しました。「第三者承継=M&A」ですから、この資料には親から子へといった従来政府が推し進めてきた「親族内承継」の言葉はありません。親族内承継だけでは、日本経済は救えないと国がはっきりと方針を打ち出したようにも思います。

 

 

では国は、経済的に日本が沈没してしまうのを回避するために、先ほど見た127万者すべてに支援の手を差し伸べてくれるのでしょうか?

 

 

答えは、「ノー」です。昨今政治も新政権に変わり、「自助・公助・共助」を掲げられ、また、政権ブレーンであるイギリス出身日本在住の経営者デービッド・アトキンソン氏の影響も大きく、「廃業止む無し、生産性向上のためM&Aを推進」の方向性のようです。

 

第三者承継支援総合パッケージによると、2025年までに、70歳以上となる後継者未定の中小企業約127万者のうち、黒字廃業の可能性のある約60万者の第三者承継を促すことを目標としています。60万者のM&Aを10年間かけて実現するということですから、1年間で6万者のM&Aを実現させるということです。

 

 

ではこの国の目標に対して、現在、どれくらいのM&Aが行われているのでしょうか?

 

 

実は、公表ベースですが、年間たったの「4,000件」です。毎年増加しているとはいえ、この数字です。年間6万件と比較すると、15倍の開きがあります。これは対面(リアル)で人がいくら頑張っても実現できる数字ではありません。特に、お相手を探してくるというとても時間と費用の掛かる作業を対面(リアル)で行うことを想定すると、どのようなやり方をしようが実現は不可能でしょう。そこで国は、民間プラットフォーマーとの連携など、ネットを使ったM&Aに大きくシフトしていこうとしているのです。

 

国は年間6万件のM&A実現へ向けて、2015年に作成された「事業引継ぎガイドライン」を、マッチングサイトを使ったM&Aや専門家向けへの記述を加え全面改訂し、コロナ禍の最中である2020年3月31日に「中小M&Aガイドライン」を作成公表しました。

 

また、2020年7月には、マッチングサイトを使ったスモールM&A向けといっても過言ではない、「経営資源引継ぎ補助金」が創設され、M&Aにおける着手金や成功報酬に対して最大200万円が支給されることになりました。ちなみにこの補助金は、売り手も買い手も中小企業であれば対象となっています。

 

 

このように、マッチングサイトを使ったスモールM&Aを、あの手この手で国が支援してくれているのが現状なのです。

 

 

(3)意識の変化や金融緩和で案件増加!(コロナも追い風)

スモールM&Aが活況な理由は、他にもあります。現場に出ていて最近特に顕著に感じるのは、売り手や買い手における「意識の変化」です。

 

今どきの売り手では、例えば父親経営者は、たとえ承継候補となる息子や娘がいても、自ら継がそうとしないケースが増えてきました。それこそ一昔前の特に地方では、父親の会社を承継するというのはある種、運命みたいな部分があったかもしれませんが、それを父親自身がストップをかけるのです。

 

しかし自分事としてこの父親経営者のことを想像してみると、納得がいきます。今までそれこそ四六時中仕事のことを考え、時に従業員との確執なども乗り越えてきて、この先この会社を息子に承継させるとなれば、それこそ死ぬまで会社の心配や不安をぬぐうことはできないでしょう。もしこれを第三者に売却(M&A)できれば、老後はゆっくりと趣味や奥様との時間に何の心配もなく過ごすことができます。老後を不安なく自由に暮らしたいと考える父親経営者は、思いのほか増えています。さらにこのコロナで、立ち止まり考える時間も増えたため、コロナがトリガーとなり、M&Aを決心する経営者が増加しているように思われます。

 

 

息子のほうも、田舎にある父親の会社を引き継げといわれても、都会暮らしを手放したくない、妻の反対や子供の学区のこともある、などでM&Aを父親に自ら提案することも多いようです。

 

 

また、買い手においては、特にこのコロナ禍で、従来のような同業種や類似業種へのM&Aだけではなく、全く異なる分野へのM&Aを検討されるケースが増えています。背景にあるのは、事業におけるリスク分散だと考えられます。リスク分散としてのM&Aを考えるとき、いきなり大きな買い物はしにくいですから、「スモールM&A」が向いているのです。他にも、金融緩和で資金が余っていることもM&Aの追い風となっています。

 

 

このような理由により、現在、スモールM&A、特に手軽に始められる「マッチングサイトを使ったスモールM&A」がかつてない活況を見せているのです。

 

 

 

[参考資料]

第三者承継支援総合パッケージ(中小企業庁、2019年12月20日)

https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191220012/20191220012-1.pdf

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第7回:「産業廃棄物処理業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~収集運搬業者か処分業者か?許認可、設備、人材は?社内管理体制は?法改正は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、産業廃棄物処理業のM&Aを検討していますが、産業廃棄物処理業M&Aの特徴や留意点はありますか?


廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物に分けられ、産業廃棄物は特別管理産業廃棄物等、一般廃棄物は事業系一般廃棄物、家庭廃棄物等それぞれ細分化されます。

 

 

 

 

 

 

産業廃棄物処理業は、大きく「収集運搬業」「中間処理業」「最終処分業」に分けられ、各業態でも例えば収集運搬業は、運搬する廃棄物の種類によって細かく細分化されます。一般家庭ゴミの収集運搬にしても、生ゴミ(可燃ゴミ)・プラスチック包装容器・缶瓶ペットボトル・紙・布・粗大ゴミと収集運搬業者はそれぞれ違います。

 

 

 

 

収集運搬業は排出元と処分場の両方の区域の許可を取得する必要があります。積替保管とは、排出元と処分場の間に廃棄物を一時的に保管する施設を設置し、そこを経由して処分場へ運ぶことを言います。積替保管なしの場合、排出元から処分場に直行する必要がありますが、積替保管ありの場合は一定量蓄積してから運搬するなど輸送効率の向上が可能となります。対象となる廃棄物の保管基準を満たす必要があり、許可取得難易度は積替保管なしと比較し高くなります。

 

中間処理では、埋立処分等の最終処分前に、生活環境保全上支障を生じないように、破砕、焼却、脱水、中和による減量・減容化、安定化、無害化を行います。

 

最終処分では、原則最終処分場への埋立処分により行われます。最終処分場は対象となる産業廃棄物により3タイプに分かれます。

 

●安定型最終処分場……処分対象:安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、がれき類、金属くず、ガラス・陶磁器くず、環境大臣が指定する産業廃棄物)

●遮断型最終処分場……処分対象:有害物質を含む特別管理廃棄物

●管理型最終処分場……処分対象:①、②以外の産業廃棄物

 

 

M&Aを検討している場合に、対象企業の産業廃棄物処理業が「収集運搬業」なのか、「中間処理業」なのか、「最終処分業」なのかを把握しましょう。一般的に「収集運搬業」よりも「中間処理」や「最終処分」業者の方が設備や埋め立てのための土地等を保有することから規模が大きく、参入障壁が高いことから利益率は高くなる傾向にあります。

 

また、産業廃棄物処理業特有の論点として、不法投棄の問題があります。不法投棄防止のために産業廃棄物管理表(マニフェスト制度)が導入されており、マニフェスト制度に沿った対応が必要となります。

 

 

産業廃棄物処理業のM&Aを検討する場合、収集運搬業者か処分業者か、また所有する許認可、設備、人材等について確認をする必要があります。どの業界向けの産業廃棄物を処理できるのか等の能力を確認しましょう。

 

また、社内管理体制の整備、マニフェスト(産業廃棄物管理表)の適切な処理ができているか、不法投棄を行ったり、近隣住民とトラブルを起こしたりしていないかを把握する必要があります。また、法改正の影響を受けやすい業界であるため、法改正の動向も確認しておく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』」

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、株式価値の調整項目

2、支配権プレミアム

3、支配権プレミアムの適用

4、非流動性ディスカウント

5、評価方法との関係

6、適用順序

7、実務上の検討

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

1、株式価値の調整項目


実務では、DCF法及び倍率法で計算した株式価値からさらに調整を行います。具体的には、支配権プレミアム、非流動性ディスカウントを反映させます。支配権プレミアム及び非流動性ディスカウントは、充分なマーケットデーターが整備されておらず、案件の内容に応じた数値が用いられます。

 

 

2、支配権プレミアム


支配権を取得した株主は、対象企業のキャッシュ・フローを実質的に支配できるため、少数株主の一株当たりの株価と比較した場合、支配権株主の一株当たりの株価の方が高いと言われています。これは、議決権比率が高まるにつれて、支配株主は少数株主よりも重要な権利を享受できるためです。支配権の獲得を目的とするTOB案件では、マーケットの株価よりも高値でTOB価格が設定されるケースが多く、その差額の一部には支配権プレミアムが含まれています。このように、経営権の移動を伴うM&A取引では、評価の際に、支配権プレミアムを考慮して株式価値を算定します。支配権プレミアムは、支配株主である売り手にとっては、高値で売却できることになるため、売却のインセンティブとして機能します。

 

 

 

 

 

なお、支配権の内容は、配当額の決定の他、経営方針の決定からガバナンス構築まで幅広い範囲が含まれます。

 

 

 

 

 

3、支配権プレミアムの適用


実務上、株式譲渡時に支配権(50%超)の移転を伴うか否かで、支配権プレミアムの適否を決定します。そして、支配権プレミアムは、20%~40%の範囲内で設定するケースが多いです。ただし、買収には様々なケースがあり、支配の程度に応じたプレミアムの検討が必要です。例えば、以下のような事例は、社内ルールで決められた支配権プレミアム20%程度を杓子定規に適用すべきではなく、個別検討を要します。

 

 

●50%超⇒7%⇒100%と買増しをする場合のぞれぞれのプレミアム

●50%ずつ保有する合弁会社(2社)への参画時のプレミアム

●33.3%ずつ保有する合弁会社(3社)への参画時のプレミアム

●過半数を保有する株式保有者がいない株主構成の中で、最大の株式数を保有する場合のプレミアム

●過半数を保有していないが、取締選任権を付与された株式を保有する場合のプレミアム

●過半数を保有していないが、重要事項の拒否権を付与された株式を保有する場合のプレミアム

 

 

4、非流動性ディスカウント


流動性のない株式(マーケットのない株式)を売却する際には、買い手候補を探す時間と手間、交渉に費やす時間と手間、アドバイザリー手数料等の取引コストが発生するため、取得時に高い利回りを要求します。この利回りの増し分(株式価値の減額)を非流動性ディスカウントといいます。実務上は、20%~30%のディスカウントを適用するケースが多く見られますが、前述の支配権プレミアムと同様、個別具体的なケースごとにディスカウントの数値検討が必要です。

 

<検討項目>

 

 

少数の株式を売却するよりもボリュームの大きい株式の方が、売却は容易と考えられます。そのため、支配持分の非流動性ディスカウントは、少数持分の非流動性ディスカウントと比べて、低いと言われます。米国の事例では、支配持分の非流動性ディスカウントは10~25%、少数持分の非流動性ディスカウントは30~50%とされています。

 

なお、支配持分の場合は、会社の売却、配当金の決定等を通じて、現金化の手段を有していることから、対象会社のキャッシュ・フローを実質的に支配しています。そのため、支配持分を有している場合は、非流動性ディスカウントを適用しないという考え方もあります。

 

 

 

5、評価方法との関係


DCF法の将来CFの前提となる事業計画には、経営者(支配株主)の意思が反映されています。そのため、DCF法によって算定された株式価値は、支配権プレミアムを含んでいると言われています。支配権を取得しない買収案件の場合、DCF法の計算結果にマイノリティーディスカウントを考慮して株式価値を算定する必要があります。

 

倍率法は、基礎数値(EBITDA等)×倍率で計算され、基礎数値は実績又は達成見込みを使用し、倍率はマーケットデーター(支配権のない株価)から引用します。そのため、倍率法の計算結果は、少数株主の価値を表しています。支配権を取得する買収案件の場合、倍率法の計算結果に支配権プレミアムを考慮して株式価値を算定する必要があります。

 

 

 

 

 

6、適用順序


前述のとおり、支配持分の非流動性ディスカウントは10~25%、少数持分の非流動性ディスカウントは30~50%というように、非流動性ディスカウントは、支配権の有無の影響を受けます。

 

そのため、DCF法で非公開会社の少数株主の価値を算定する場合又は倍率法で非公開会社の支配株主の価値を算定する場合、まず、①マイノリティーディスカウント/支配権プレミアムを反映した後、②非流動性ディスカウントを適用します。

 

 

 

7、実務上の検討


1、次のような場合、DCF法又は倍率法によって算定された株式価値は、支配株主の価値又は少数株主の価値のどちらを表しているか?

 

(1)持分法の範囲内で株式を取得

●対象会社の策定した事業計画に対して買い手(30%取得予定)がストレスをかけた修正事業計画をもとに、DCF法によって株式価値を算定した場合

●対象会社の策定した事業計画に対して買い手(30%取得予定)がシナジー効果を反映した修正事業計画をもとに、DCF法によって株式価値を算定した場合

 

(回答)

事業計画を修正できるのは支配株主だけであるという前提に立つと、少数株主が事業計画を修正していますが、あたかも自分が支配株主であると考えています。そのため、その事業計画を用いてDCF法で算定された株式価値は、支配株主の価値を表します。本件は、持分法の範囲内の株式取得のため、DCF法で算定された株式価値にマイノリティーディスカウントを反映して少数持分の株式価値を算定します。

 

なお、ストレスをかけた場合は、①フリー・キャッシュ・フローの減額、②ディスカウントによる減額と2重に減額調整が入るため、売り手サイドの認識する株式価値との乖離が非常に大きくなりますので、①②の内容を丁寧に売り手に説明する必要があります。

 

 

(2)支配権を取得

●対象会社の策定した着地見込みに対して買い手(100%取得予定)がストレスをかけた修正予算をもとに、倍率法によって株式価値を算定した場合

●対象会社の策定した着地見込みに対して買い手(100%取得予定)がシナジー効果を反映した修正予算をもとに、倍率法によって株式価値を算定した場合

 

(回答)

原則、どちらも修正予算を使用しているため、支配株主の価値を表していると考えられます。本件は、持分法の範囲内の株式取得のため、倍率法によって算定された株式価値にマイノリティーディスカウントを反映して少数持分の株式価値を算定します。

 

なお、ストレスをかけた場合は、①財務数値の減額、②ディスカウントと2重に減額調整が入るため、対象会社の認識する株式価値との乖離が非常に大きくなりますので、①②を売り手に丁寧に説明しないと交渉が決裂する可能性があります。

 

 

2、プレミアム/ディスカウントは株式価値と事業価値のどちらに適用するべきか?

 

(回答)

事業価値又は企業価値(事業価値に非営業資産を加算したもの)に対して、支配権プレミアム、非流動性ディスカウント等を適用して、事業価値及び企業価値を減額することも考えられますが、実務上は、株式価値に対してプレミアム/ディスカウントを適用しています。