[中小企業M&Aの進めるために知っておきたい3つのポイント]

第1回:中小企業M&Aの進め方

~M&Aを始める前に理解しておくべきM&Aの手順~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

1.中小企業のM&Aフロー図


 

(中小M&Aガイドラインより)

https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf

 

上のデータは、中小M&AガイドラインにあるM&Aフロー図です。今回は、M&Aの進め方について手続ごとに説明していきます。

 

2.意思決定について


譲渡を検討する会社が検討するのに必要な情報は2つあります。

 

●いくらで譲渡できるのか(株価)

●誰が買ってくれるのか(候補先リスト)

 

株価はいわゆる相続税評価額ではなく、第三者に譲渡する際の株価です。

 

候補先リストは譲渡会社の売上規模、業種、エリアを考慮して支援機関が持っている情報をもとに作成します。支援機関はM&Aで買収を検討している会社から「売上は〇〇百万円以上、エリアは△△△、M&A資金は□□□百万円ほど」といった情報をヒアリングし自らのデータベースに保存しています。候補先リストはそのデータベースを駆使して作成します。当然ですが、データベース上の情報量の多寡が候補先リストの精度を左右します。例えば、地方銀行のように、あるエリアの情報量は突出しているがそれ以外のエリアの情報はそれほどでもないというケースがあります。限定されたエリア内に最適な候補先がいれば問題ないですが、全国レベルで候補先を探すほうが選択肢は広がります。また、譲渡を検討する会社の中には、情報漏洩の観点から近いエリアの会社に提案してもらいたくないと考える会社もあります。

 

 

3.支援機関との契約について


M&Aを検討するのに必要な情報(株価と候補先リスト)を元に検討した結果、譲渡する方向に決めたら支援機関と契約を締結します。

 

 

4.交渉の流れ


①候補先へ提案

支援機関が買収候補先に買収の提案をする際には、必ず「秘密保持」(CA:Confidentiality AgreementまたはNDA:Non-Disclosure Agreement)を交わした上で行います。情報の漏洩があるとM&Aが頓挫してしまうためです。

 

②候補先が意向表明書を作成

支援機関からの提案を受け、候補先が話を進めたいと決断した場合、候補先は意向表明書(LOI:Letter Of Intent)を作成します。意向表明書には候補先が現時点で受領している情報を元に検討した条件(買収金額など)を記載します。意向表明書に法的拘束力はありません。

 

③独占交渉権付与

意向表明書が複数の候補先が作成しましたら、売手は、その複数の意向表明書を確認した上で、独占的に交渉する候補先を1社に絞ります。1社に絞る前に候補先とトップ同士の面談も行います。

 

④基本合意の締結

売手と、売手が独占交渉権を付与した候補先との間で基本合意(MOU:Memorandum Of UnderstandingまたはLOI:Letter Of Intent※)を締結します。基本合意には、買収金額だけでなく最終契約締結までに確定させる諸々の条件等も記載します。時間的制約があるなどの理由で、基本合意の締結を省略する場合がありますが、多くの条件をしっかりと交渉し確定させた上で基本合意を締結するほうが最終契約締結の確度が高まりますので、特段の理由が無い限り基本合意は締結したほうが良いです。

 

⑤買収監査の実施

基本合意を締結した後、候補先が売手に対して買収監査(デューデリジェンス(DD:Due Diligence))を行います。買収監査は売手の規模や業種、取引の複雑さ等々を考慮した上で財務・税務・法務・労務・ビジネス(事業)の実態を調査します。買収監査の費用は候補先が負担します。買収監査をどこまで念入りに行うかによりますが、簡易な買収監査だと100万円ほど、徹底的に買収監査を行うと数千万円のコストになることがあります。

 

⑥最終契約の締結

基本合意時に確定しなかった条件の交渉やデューデリジェンスの結果を踏まえた最終的な条件の交渉を行います。全ての条件が確定したら最終契約(DA:Definitive Agreement)を締結します。

 

⑦M&A後

最終契約が締結されて契約に基づく決済が行われたらM&Aは終わりではありません。買手にとってM&Aはあくまでスタート地点です。買収した会社との統合作業(PMI:Post-Merger Integration)が失敗してしまうと、M&Aの効果が薄れてしまいます。

 

なお、売り手が支援機関と契約してからクロージングまで、6か月~1年ほどの期間を要します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第13回:DCF法のポイント、将来キャッシュフローを求めよう、現在価値に割り引こう、DCF法の計算をしてみよう

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法のポイント

2.将来キャッシュフローを求めよう

①将来CF(キャッシュフロー)の予測

②フリーキャッシュフロー(FCF)

3.現在価値に割り引こう

①残存価値(Terminal Value)

②計算事例

4.DCF法の計算をしてみよう

5.非事業用資産(遊休資産)の加算

 

 

M&Aの場面だけではなく、事業上の判断や減損判定等多くの場面においてDCF法は使用されています。本稿では第12回に引き続き、DCF法の計算の流れについて見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1. DCF法のポイント


DCF法はざっくりお伝えすると企業・事業の「将来キャッシュフロー」を「現在価値に割り引いて」企業価値を算出する方法です。

 

そのため重要なポイントは以下の2点です。

 

 

 

企業・事業の将来キャッシュフローを算出するためには「将来のCFを予測する」ことと「FCF(フリーキャッシュフロー)を計算する」ことが必要になります。こうして求めたFCFを前回ご説明した「現在価値に割り引く」ことで、現時点での企業価値を算出することができます。

 

2. 将来キャッシュフローを求めよう


①将来CF(キャッシュフロー)の予測

企業の将来CF予測に際して、まずは予想貸借対照表・予想損益計算書を作ります。その際、企業の事業計画を反映させるとともに、当該計画の妥当性を検証(デューデリジェンス)します。第9回でご説明した事業計画分析ですね。

 

予想貸借対照表・予想損益計算書の作成は、シナジー効果等、合併に際してプラスの要素やマイナスの要素も組み込んだ計画が望ましいです。過去の財務指標推移を参考にして作成し、投資・人事計画等の事業計画を織り込みます。もちろん夢物語では信頼性に乏しいため、ある程度の説得力のある財務諸表を作る必要があります。

 

 

②フリーキャッシュフロー(FCF)

DCF法で使うのは「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念です。事業が産み出すキャッシュフローのことで、イメージとしては「債権者・株主に分配可能なキャッシュフロー」です。税金を支払い、必要な投資を行った後に債権者・株主に分配可能なキャッシュフローとなります。

 

 

 

 

P/Lの営業利益を出発点として、債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めに行きます。FCFの式は少し難解に見えますが、各項目をもう少し具体的に掘り下げていきましょう。

 

 

+営業利益×(1-税率)

税引後営業利益のことで、本業の成果である営業利益から税金分を差し引いた金額です。税金は国に支払う金額のため、債権者・株主に分配できません。そのため営業利益に帰属する税金部分を除くよう、×(1-税率)として簡便的に税引後営業利益を計算しています。

 

税引後営業利益のことを、専門用語でNOPAT(Net Operating Profit After Taxes)と言ったりします。

 

 

+減価償却費

減価償却費は営業利益の中に含まれていますが、現金支出を伴わない費用のため実際のキャッシュに影響を与えません。減価償却費は固定資産を期間配分計算しているに過ぎないので、特段現金は出ていきませんね。

 

今回必要となるのはキャッシュがいくら入るかの情報のため、営業利益に含まれている減価償却費を足し戻すことで、減価償却費の影響を排除し現金支出項目に絞っています。

 

非現金支出費用である減価償却費の影響を排除する点では、第8回でご説明したEBITDAの計算と同じ発想です。

 

 

▲(+)正味運転資本増加額

営業利益と現金収支のタイミングは通常異なります。売上や売上原価は先行して計上されますが、売掛金や買掛金は回収・支払に時間がかかります。そのため通常営業活動に投下されている資金を計算し、現金が必要になる部分を差し引きます。もちろん現金が余る場合は加算するので「正味」とついています。運転資本は各期において以下の通り求めます。

 

 

 

例えば以下の事例を考えてみましょう。売掛金と買掛金しかない会社で、運転資本が+20動いています。

 

 

 

×2年度において、売上高から手に入る現預金はいくらでしょうか。細かい条件は考えず、売上高は期末に1回のみ上がるとしましょう。

 

×2年に手に入る現預金は、×1年の売掛金精算分の100ですね。×2年の売上高はまだ売掛金なので、現金化されていません。

 

一方、×2年の損益計算書における売上高はいくらでしょうか。これは×2年に計上している売掛金分の130です。

 

 

×2年の営業損益計算においては130の売上を計上している一方、実際に流入しているキャッシュは100しかありません。そのため営業利益と実際に入っている現預金を比較すると、実際に入っている現預金の方が30小さい状況と言えますね。

 

運転資本はPL計上タイミングの方が早く、現預金の回収・支払タイミングの方が遅いために発生する状況です。

 

FCFでは債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めるため、営業損益をキャッシュフローに変換することが必要となります。今回の売掛金の例で言うと、営業損益から▲30する(30減算する)と、実際に手に入ったキャッシュに変換することができます。

 

これを買掛金でも同様に考えると、この会社の運転資本は全体として+20となっていますので、FCF計算上は正味運転資本増加分である20を減算することとなります。

 

 

 

▲設備投資額

固定資産の更新投資、新規投資等、必要な投資に係る支出を差し引きます。買収後に大規模な設備投資が予定されている場合には、その計画を反映させていくこととなります。

 

以上の計算を通して、各年度においてフリーキャッシュフロー(FCF)を求めます。

 

 

 

 

≪Column:より深くNOPATを知ろう≫


●なぜ「営業利益」を使うの?

企業価値を求める際は、債権者・株主に分配可能な、事業全体のキャッシュフローを計算する必要があります。そのため債権者に分配することとなる支払利息を差し引かないよう、便宜的に営業利益を使います。

なお、営業利益ではなく「営業利益+事業資産を源泉とする営業外損益」で計算されるEBITを使用することも多いですね。

 

●なぜ実際の税額ではなく「税引後営業利益」として計算しているの?

負債を有する場合、支払利息の税金軽減効果があるため実際の税金の方が小さいことが想定されます。しかし、DCF法においてこの税金軽減効果は第12回でご説明しているWACCの割引率に反映されています。

そのため、NOPATの段階では負債の税金軽減効果は考慮せず、株主資本100%とした場合(支払利息等がない場合)のキャッシュフローを用いるべく、営業利益に税率を乗じた値を差し引き、税引後営業利益としています。

 


 

 

3. 現在価値に割り引こう


①残存価値(Terminal Value)

これまで求めた各年度のFCFを、前回第9回でご説明した割引現在価値とすることで、企業価値を求めます。このとき、企業は永続的に続く前提を置くことが多いです。

 

読者の皆様も「30年後に企業が倒産する」といった前提は考えずに、永続的に企業が存続するつもりで日々仕事に取り組んでいるかと思います。この発想は企業価値評価の際も同様で、明確にいつ時点で解散すると決まっていない限り、永続的に存続するものとの仮定を置くことになります。

 

しかし、100年後・200年後までの計画は非現実的です。そこで実務上、5年~10年程度の事業計画を作成したうえで、その最終年度のFCFがずっと続くとして計算することが多いです。なお、30年後に終了することが分かっているような事業の場合は30年間のみしか考えませんし、その時点での解散価値を算出することとなります。

 

 

フリーキャッシュフローが一定 (ゼロ成長)の場合

 

 

フリーキャッシュフローが定率成長の場合

 

※上記の計算式は毎年のFCFに関する割引計算の数式について、年数n→∞としたときに導くことができます。無限等比級数と言われている式です。

 

算出した継続価値を現在価値に割り引いた上で、企業価値に加算します。

 

②計算事例

文章だけだと分かりにくい部分も多いので、簡単な事例を見てみましょう。

 

 

表にしてみると、毎年の流れは以下の通りです。

 

 

まずは残存価値を求めましょう。×6以降はFCF100百万円でゼロ成長(5年目と同様)ですから、継続価値は以下の通り2,000百万円となります。

 

FCF:100÷5%=2,000

 

 

継続価値のポイントは、CF計算開始年の前年の価値として表されることです。今回の例で言えば、6年目以降の継続価値を求めたので、継続価値2,000百万円は5年目における価値となります。

 

 

4. DCF法の計算をしてみよう


ここまでで各年度のFCFと、継続価値を求めてきました。DCF法に必要となる各年度のキャッシュフローの流れは全て算出したことになります。そこで、各年度のFCFを割引現在価値とすることで、事業の価値が算出されます。

 

年度毎のFCFに割引計算を行い、全ての価値を「現在」に合わせます。6年目以降の継続価値は5年目に反映されているため、計算自体は5年分で大丈夫です。1~5年目までのFCFを、各々割引計算しましょう。

 

 

上記式の通り、事業価値は1,946百万円となります。このようにして、事業の価値は算出されます。

 

 

5. 非事業用資産(遊休資産)の加算


最後に補足論点です。DCF法で算出した価値は「事業価値」となります。FCFは買収対象となる企業の事業から生じる価値ですね。特に使っていない非事業資産がない場合、この事業価値が「企業価値」となります。

 

一方、事業に用いていない非事業資産(遊休資産)があった場合、その売却によって手に入るキャッシュもまた企業の価値を構成します。そのため最後に遊休資産を加算することで「企業価値」となります。

 

 

 

 

なお、企業価値から有利子負債や非支配株主持分等を減額することで、株主にとっての価値である「株主資本価値」となります。

 

 

 

DCF法は一見すると複雑に感じますが、実は「FCFを求めて」「WACCで割り引く」だけの単純な構造です。実務上DCF法で重要なことは「どのように仮定を置くか」です。将来FCF・資本コスト・成長率等、多くの見積り要素があるため、1つ1つが信頼のおける見積りかどうかが、DCF法全体の計算結果に影響してくることとなります。

 

 

この連載も本稿で終了となります。M&Aは一見すると専門的であり、取っつきにくいと感じている方も多いかと思います。たしかに細かい論理は多々あり、実務を行う上では多くのことを確認していく必要があります。しかし、概要だけざっくりと確認するのであれば、そこまで難しい分野ではありません。全10回を通して、漠然としていたM&Aについて、ある程度でも具体的になっていただけたのであれば、大変嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第8回:会社と経営者のお金の問題対策

私的経費の整理 -承継後削減可能な私的経費の把握は社長にとっても得する話-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

後継者候補側が知りたいのは承継後利益


最も後継者候補側の関心が高いのが、「承継後の損益計算書がどうなるのか」である。つまり、「承継後に承継前の売上高がある程度見込めるのか」「承継後の利益はどうなるのか」ということである。特に小さな会社での承継後利益算定における「経費」については、「加減算が必要」となることが多いので留意が必要である。

 

例えば、承継後に営業力強化で増員を考えているのであれば、承継後利益算定においてはマイナス要素となる。一方、社長経費的なもので承継後に削減が見込めるのであれば、承継後利益算定においてはプラス要素となる。

 

社長経費的なものの把握は、実はオーナー経営者側としては後継者候補側へのアピールへとつながるので重要である。廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき4つ目の項目は、この「私的経費の整理」である。

 

 

社長の私的経費は承継後削減でき、後継者候補にはプラス要素


社長の携帯代や家族給与等( ≒私的経費)で、後継者候補側が承継後に削減可能と考えるものは、「承継後利益にプラス要素」となる。つまり、社長やその家族の私的経費の把握をすることは、後継者候補にプラスのアピールができるという意味で、実は社長が得する話なのである。

 

更にいえば、小さな会社での承継対価の実際の決め方の大半は、左記の算定方法となっており、利益が上がると承継対価の目安も上昇傾向となるのである。

 

 

【小さな会社における承継対価の一般的な算定方法】

承継対価 = 利益×1~3年分 + 時価純資産価額

 

 

利益というのは、営業利益や経常利益、税引後利益などケースによって様々であるが、よく承継に使われるのは「承継後の減価償却費計上前営業利益」である。減価償却費は、過去に社長が設備投資したものに対する「キャッシュアウトしない経費」であるので、後継者候補側においては、それをなかったものとして調整を加えることになる。

 

社長である皆さんが、自社の損益計算書において計上している私的経費があれば、承継前に一覧にするなどして、金額も含めて把握しておくことをお勧めする。

 

 

 

 

 

私的経費に該当するもの


では一般的にどんなものが私的経費に該当するのであろうか。まずどんな小さな会社でもよくあるのが、承継後不要となる社長やその家族の「通信費」「接待交際費」「(家族)役員給与」「旅費交通費」「車両費」である。これらの経費があれば、後継者候補側へのアピール材料となる。他にも、ケースによって発生する私的経費として、節税目的や資産運用目的である「保険料」や、承継後不要となる「新聞図書費」及び「寄附金」、後継者側で合理化を図れる倉庫や事務所家賃などの「地代家賃」などがある。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第11回:M&Aの後も売手企業の社長やキーマンから十分な引継ぎ、或いはこれまで同じように働いてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

 

 

 

売手企業の社長やキーマンは、特に営業系や技術系である場合に、売手企業の業績を支えるのになくてはならない存在であることが多いです。ある程度規模の大きい会社で、組織が整えられて、権限移譲が進んでいる会社は中小企業ではあまり多くなく、やはり社長などがトップセールスであったり、新製品の開発などをしていることが多々あります。このような場合は、売手企業の社長が抜けてしまうと業績が低下する可能性が高くなります

そうならないように、売手企業の社長から十分な引継ぎをしてもらうか、そのまま社長として働いてもらうことを検討しなくてはなりません。ただし、当然ですが、売手企業の社長はM&Aが終わると、株式を持っていない状態になるので、売手企業に対する関心は以前より低下することになります。

 

売手企業の社長に引継ぎを依頼する場合には、一定程度の報酬を支払う事が一つの選択肢となります。無償で引継ぎをしてくれるケースもありますが、無償の場合は引継ぎ期間や引継ぎ内容などどうしても売手企業の社長の都合などに左右されてしまいますし、多くの時間を必要とする場合は無償なのにこんなに時間を取らせて申し訳ないという気持ちになり、100%の引継ぎをすることが難しかったりするケースもあります。報酬を払うことで、売手企業の社長にも仕事としてコミットしてもらい、買手側もなんでも聞きやすい状況になるため、結局は有償の方が双方満足されるケースが多いです。

 

また、売手企業の社長がM&A成立後も引き続き社長として働くケースを考えます。この場合は、役員報酬という形で報酬を支給することになりますが、これまで株式を保有しながら経営してきた社長が、株式を持たずに役員報酬だけというのはどうしてもモチベーションが上がらないことが多いです。かといって多額の役員報酬を渡すのも難しい場合にはアーンアウト条項を使うのが一つの手段となります。

 

アーンアウト条項とは、M&A成立後特定の目標を達成した場合、買手企業が売手企業に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払うことです。

 

具体的な条項としては、5年後までに営業利益1億円達成したら、追加で売手企業の社長に株式の売却対価として5千万円支払うなどの条項を付すことで、売手企業の社長としては、業績を達成するモチベーションが上がり、買手企業としても業績が上がることで支払いも行いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第7回:決算書に係る問題の対策

資産や負債の整理  -資産の実在性や時価評価、簿外負債の事前開示が重要-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

「貸借対照表」や「減価償却台帳」の確認


第三者への承継を決断したら、必ず自社の「貸借対照表」の内容を確認してほしい。身内ではない第三者は、会社の状況が決算書に掲載されている通りだと信じて皆さんの会社を承継しようと準備している。しかし、会社の実態は決算書と異なる部分が多々あるものだ。そのため、図に掲げたように「資産の整理」及び「負債の整理」が必要となってくる。また、資産の中でも機械装置や車両などの減価償却資産については、別途「減価償却台帳」が存在しているはずなので、こちらの内容も確認してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

資産の「実在性」「時価評価」をチェック


これら貸借対照表や減価償却台帳で確認してほしいのが、資産の「実在性」や「時価評価」である。びっくりされるかもしれないが、存在していない資産が貸借対照表に計上されたままとなっている小さな会社は思いのほか多い。例えば、「過去に粉飾決算をしてありもしない売掛金や在庫が計上されたままになっている」「新しい機械を買った時に古い機械を下取りに出したが、会計事務所に伝わっておらず古い機械が計上されたままになっている」「過去に貸倒れとなった売掛金が計上されたままになっている」などである。

 

後継者候補側は最初に決算書をみて承継予定の会社をイメージする。機械装置と計上されていれば、機械装置が実際にあるのだと理解する。もし事業承継の交渉終盤でその資産が存在しないと発覚すれば、せっかくのご縁がご破算になる可能性があるので注意が必要だ。幽霊資産がみつかったら、他にもそのような資産があるのではないかと疑うのが通常であろう。

 

この場合、できれば承継前の決算で、資産が存在しないものは消去仕訳を計上しておくべきだ。会計事務所に仕訳を依頼している場合は、会計事務所に消去仕訳をするようにきちんと伝えておこう。

 

また、貸借対照表に計上されている資産の帳簿価額が、実際の時価と大きく乖離している場合も、承継前に社長が把握しておき、後継者候補側に事前に伝えておくべきだ。例えば、「過去に適正に減価償却していない機械や車両等の資産」「購入した時と現在の時価が大幅に乖離する土地や有価証券」「売れ残り在庫」などである。貸借対照表に機械装置100万円と計上されていれば、後継者候補側は、約100万円の価値のある機械装置があるのだと理解するのが当然だ。この場合も可能なら、承継前の決算で時価評価しておくのも一つの方法である。

 

 

 

 

 

「簿外資産」や「売却対象外資産」のチェック


逆に、実際は存在しているのに貸借対照表に計上されていない簿外資産が発生しているケースも時々ある。これは後継者候補側にとってはプラス要素となるが、社長にとっては事業を安く譲り渡してしまうことにもなりかねないので、事前にきちんと把握しておくべきだ。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)に加入している場合、その掛け金は、多くの会計処理上全額費用扱いである。

 

しかし、この経営セーフティ共済は40ヶ月以上払い込んだ後解約した場合に今まで払い込んだ掛け金全額が戻ってくる。つまり、この経営セーフティ共済は簿外資産となっていることが多いのである。他にも、経営者保険と呼ばれる解約を前提としたものも似たような仕組みとなっており、簿外資産となっていることが多い。

 

一方、第三者承継後も個人的に乗りたい「社長用の車」等があれば、「売却対象外資産」として、事前に後継者候補側に伝えておく必要がある。こちらも、最初から伝えておくと問題とならないことが多いが、交渉の終盤で後継者候補側に伝えることになると、交渉条件が悪くなる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

簿外負債は事前開示が重要


ここからは、貸借対照表の「負債」について説明する。この負債は、後継者候補側が一番気にする項目といっていいだろう。何を気にするのかというと、貸借対照表に計上されている買掛金や借金ではなく、計上されていない「簿外負債」があるのかどうかという点である。小さな会社でよくある簿外負債は、「退職金負債」と「社会保険未加入負債」である。退職金規程がある場合は、その計算式に則り現時点で既に発生している退職金額を概算把握しておき、後継者候補に事前に伝えておくべきである。

 

また、会社であれば社会保険への加入は必須であるが、残念ながら未加入の会社も現実的には存在している。このケースに該当する場合、そのことを後継者候補側に事前に伝えておくべきであろう。承継後に、後継者が国から追加徴収される可能性があるからだ。もし交渉途中で後継者候補側の指摘によって社会保険の未加入負債が発覚したような場合は、破談となることが多い。後継者候補側としては、「他にも簿外負債があるのではないか」と疑心暗鬼になるからである。

 

株式譲渡で会社を承継した場合、承継後は簿外負債だけではなく、会社への訴訟案件やそれにまつわる損害賠償請求など、基本的にはすべて後継者側が責任を負うことになる。そのため、第三者承継における簿外負債の事前開示は重要といえるのである。

 

 

 

 

 

人的保証や物的保証


他に負債で事前に確認しておくべきなのは、社長個人が借入金やリースで個人保証しているかどうかや、自宅などの物的保証をしているかどうかである。可能であれば、第三者承継手続きに入る前に、これらの保証を外しておくのがベターではあるが、そうもいかないことが多いだろう。

 

この場合、これら人的保証や物的保証を一覧にしておき、「人的保証及び物的保証を外すことが承継の条件である」と、事前に後継者候補側に開示しておく必要がある。

 

 

 

 

 

[用語解説]

■経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

取引先が倒産などした場合に掛け金総額の10倍までの金額(8,000万円以内)の融資が、無担保・無保証・無利子で受けられるというもの。毎月支払う掛け金が全額費用となり、掛け金を40ヶ月以上支払うと解約手当金が100%戻ってくるため、節税対策として利用しているケースが多い。

 

■未払残業代

従業員に請求権があるものの未だ支払われていない残業代のこと。従業員からの請求によって発覚するケースがあるなど把握が難しく、譲り渡し手にとっては売却価額にも影響がある。また、簿外債務を引き受ける譲り受け手にとっては大きなリスクのひとつである。

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[ゼロからわかる事業再生]

第6回:自力再建かM&A かの選択

~自力再建とは、スポンサー支援型(M&A型)再建とは、自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合~

 

[解説]

髙井章光(弁護士)

 

 

[質問(Q)]

窮境状況に至り、このままでは破産となってしまうため、事業再生を行いたいと思いますが、自力再生とスポンサー支援を受けたM&A を行う場合の違いについて教えてください。

 

 

[回答(A)]

事業再生をめざす場合、その経営陣において経営をあきらめてしまっているような場合以外においては、まずは当該会社が自助努力によって経営改善、事業収益力の改善を図ることになります。

 

しかし、収益力が自力ではなかなか上がらず、債権者から了解を得ることができる状況まで再建策を講じることが難しい場合には、第三者の支援を得て、その資金力、経営力、事業シナジーなどによって、債権者への返済を実施し、事業収益力を改善することをめざすことになります。この第三者から支援を受けるに当たり経営権を第三者に譲渡する場合をM&A といいます。

 

 

 

1.自力再建とは


自力再建とは、窮境状況にある会社において、事業再生の手続の中で、一定期間の支払猶予を得ながら、経営改革や事業収益力の改善策を構築し実践することで、事業を立て直すことです。事業収益力が回復したとしても、支払猶予となっている過大な負債の処理が問題として残りますが、事業再生の手続内にて、債務免除を得ることができれば、再生が可能となります。

 

債務免除後の適正規模となった負債に対する返済は、基本的に改善した事業による収益をもって長期間の分割弁済を実施することになります。

 

2.スポンサー支援型(M&A型)再建とは


自力再建が困難である場合に、スポンサー支援を受けることでより安定した再建を図ることを目的として、第三者の支援を受ける方法です。

 

第三者からの支援としては、業務提携など資本参加がない形で行う場合もありますが、窮境状況にある会社の再建においては、資本参加を必要とする場合が多く、出資を受けて共同経営となる方法のほか、株式譲渡や合併、既存株式の減資後に出資する形にて、経営権を譲り渡す場合も多くみられます。

 

そのほか、事業の一部を譲り渡す方法として事業譲渡や会社分割の手法がとられることもあります。資金支援を受ける形の場合には、通常、その資金をもって債務免除後の債務に対して一括にて弁済が行われます。

 

3.自力再建を断念してスポンサー支援を求める場合


自力再建ではなく、スポンサー支援を最初から求める場合もありますが、自力再建をまず検討することの方が多いと思います。自力再建を最初に検討し、自力再建がうまく行かない結果になったときにスポンサー支援を求めることになります。

 

自力再建がうまく行かない場合としては、①事業再生を実施するだけの資金的余裕がない場合、②負債が過大であり、自力再建による収益力では再建計画を立てることができない場合、③経営者に適任者がいない場合、④債権者において従前の経営陣による自力再建を拒絶した場合が考えられます。

 

事業再生を実施する場合には、通常は半年以上の時間がかかることになるため、この期間に資金ショートが生ずるほど資金不足が甚だしい場合には、即時にスポンサーを探して資金的支援を得る必要があります。工場などにおいて近い将来に高額の設備投資が必要不可欠であるような場合にも、その資金負担ができず、自力再建では事業継続は困難であり、スポンサー支援が必要となります。

 

 

 

 

また、自力再建によって、一定の収益を上げて返済原資を作ることができたとしても、例えば、優先債権である公租公課の滞納額が大きく、この返済が精一杯であって、支払猶予を受けている金融機関等への返済がまったくできないのであれば、足りない弁済資金をスポンサー支援によって賄う必要が生じます。

 

さらに、現社長が高齢であったり、経営責任をとって退任するような場合に、後継者となる者が不在であれば、そもそも会社経営が成り立たないため、第三者に経営を委ねることになります。

 

債権者によってスポンサー支援型とするよう求められることもあります。すなわち、現経営陣は経営を継続する意思があるものの、それまでの経営内容から、経営責任を問われ、金融機関から経営者交代を求められ、又は第三者のスポンサー支援による経営でないと再建策を支援しない旨の意向が示されることがあり、このような場合にもスポンサー支援を必要とすることになります。

 

スポンサー支援を意図しても、適切なスポンサーを探すことには大変な苦労が伴い、うまく行かない場合もあるため、適切なスポンサーを見つけられず、やむを得ず自主再建を継続する場合もあり得ます。

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第6回:必要書類の整理(スモールM&Aのための必要書類)

ー後継者の立場に立って書類を整理し、知識をマニュアル化ー

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

後継者の立場に立って書類を整理


廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき2つ目は、会社にある「書類の整理」である。第三者への承継を決断したら、常に後継者側の立場に立って日々の仕事や経営をしていくことが大切である。「自分が後継者側であれば、こんなグチャグチャな帳簿を渡されたら怒るだろうな」と思うのであれば、第三者がみてもわかるように事前に整理をしておくべきであろう。更に後継者側の視点に立って、「こういう資料を事前に準備しておいてもらうと助かるな」と思えるようなものがあれば、やはり対応することが賢明である。事前準備資料の中でも、下記の5つは最低限必要な資料となる。

 

 

● 会社登記簿謄本
● 決算書及び税務申告書一式3期分
● 直近の試算表
● 主要人員の経歴書
● 社内規定(就業規則、給与賞与規程、退職金規程)

 

 

 

これまでなかった書類を作成する必要は?


「会社登記簿謄本」や「決算書及び税務申告書」が存在しない会社はあり得ないが、社内規定である「就業規則」や「退職金規程」が存在しない会社はある。ではこの場合、小さな会社の第三者承継において、新たに就業規則や退職金規程を作成する必要があるのだろうか。

 

答えは、ノーである。これまでなかった書類をわざわざ作成する必要はない。しかし、その社内規定及び書類がないことはきちんと後継者側に伝えておかなければならない(法律上必要なものが整備されていないケースは問題ではあるが、この論点はここでは割愛する)。後継者側の立場に立てば、事業を引き継いだ後、従業員などの退職金をいつまでにどれくらい準備しなければならないのかなどを把握するために、これらの資料を要求するのである。

 

事前準備する書類は最初は一覧に掲げたもののうち赤字のものだけでいいが、承継が決まったら最終的には一覧に掲げた書類すべてが必要となるので、参考にしてもらいたい。多くの書類を準備するのは大変と思われるかもしれないが、やはりここは後継者側の立場に立って、作業を進めてほしい。

 

 

 

 

 

 

社長が会社経営で培った知識をマニュアル化


小さな会社の場合、営業も、入金や請求書発行など経理も、更には商品開発までも社長一人で行っているケースはよくある。

 

しかし承継後はそのまま継続雇用となることが多い従業員とは異なり、社長のほとんどは1ヶ月から1年以内には実質的に退職となる。つまり、社長は、承継後は最終的には会社からいなくなるのである。

 

後継者候補側の方からよく「その会社は社長がいなくても経営がスムーズに回りますか」と聞かれることがある。要は、後継者側は社長がもっている「暗黙知」をきちんと譲り受け後に承継できるのかということが心配なのである。

 

であれば、社長の「暗黙知」を「形式知」に置き換える作業として、「メモ書き(マニュアル)」を作成することをお勧めする。

 

現在小さな会社でここまでできている会社は非常に少ないので、社長が会社経営で培ってきた知識がマニュアル化されていたら後継者候補側に好印象となり、結果的に良い条件で引き継いでもらえる可能性が高まるだろう。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第5回:株式対策を理解する

「廃業ではなく承継」を決断した社長が最初にやるべきこと -株主の整理-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

「5つの整理」は早めに着手!


失敗しない第三者への事業引継ぎのための事前準備として、重要なのが「5つの整理」である。

 

【5 つの整理】

1.株主の整理
2.書類の整理
3.資産・負債の整理
4.私的経費の整理
5.関係会社の整理

 

どれも早めの着手が成功のカギになるので、覚えておいてほしい。

 

 

 

の整「別第二


そもそも会社は誰のものかご存じだろうか。

 

社長(=役員と仮定)のものと思われるかもしれないが、厳密には違う。会社は「株主のもの」である。多くの小さな会社では、社長=株主であるので、その場合は社長のものということになるが、会社の最高意思決定機関は株主総会であることを覚えておいてほしい。

 

では、誰が株主で、株主それぞれの所有割合はどうなっているのかは、小さな会社の場合、どうすればわかるのだろうか。小さな会社で「株主名簿」や「株券」を作成しているケースは少ないだろうから、この場合、会社の法人税申告書の「別表第二」というものをチェックすることになる。これにより、株主名簿や株券に代わる株主の明細として、「氏名」「住所」「所有株式数」等が確認できる。

 

会社は株主のものであるのだから、会社を第三者承継で譲り渡そうと考える場合は、まず自社の株主が社長以外に誰で、その了解がきちんと得られるのかを確認する必要がある。

 

 

 

「名義株」や「不明株」の整理


平成2年の商法改正前においては、株式会社を設立するためには最低7人の発起人が必要であり、各発起人は1株以上の株式を引き受けねばならなかった。そのため、平成2年改正前の株式会社にあっては、株主が7人以上となるように、親戚や従業員等の名前だけ借りて体裁を整える、いわゆる「名義株」があるケースがある。

 

他にも、歴史の長い会社や、株主に相続が発生している会社などでは、一体誰が株主なのかが正確にはよくわからないというケースもあるだろう。

 

これら「名義株」や「不明株」がある場合は、まずは、誰が株主なのか現況を把握する必要があるが、そのために収集しておくべき資料を下記に挙げておく。

 

 

 

 

上記の資料に照らし合わせ、実質株主と名義上の株主が異なる場合には名義株主と交渉する必要がある。名義株の場合は、本人の了承を得て名義を実質株主に変更することになる。少数株主などについては、税務上の価格などをベースに買取価格を算出し、個別に交渉することになるが、第三者承継が近いとその承継対価を元に買い取らなければならなくなる可能性が高くなり、割高となるかもしれない。早めの株主整理をお勧めする理由でもある。

 

 

 

株券不発行会社に変更


平成18年に会社法が施行され、原則株券不発行会社になったが、それ以前は株券発行会社が原則であった。その影響もあってか、実際は株券を発行していないのに、株券発行会社となっている会社もある。

 

自社がどちらなのかは登記簿謄本を見ればわかる。

 

株券を実際は発行しておらず、株券不発行会社で問題がないようなら、第三者承継の手続きを始める前に、定款及び謄本上株券不発行会社に変更されることをお勧めする。買い手にあらぬ疑念を抱かせないためである。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[事業再生・企業再生の基本ポイント]

第7回:事業再生における財務DDとは何ですか?-実態純資産

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点-

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷関連記事:経営状態の把握と事業再生

 

 

事業再生における財務DDでの実態純資産の分析は、最も重要な分析項目の1つです。簡便的に財務DDを行う場合でも、必ず行う分析となります。

 

監査法人の監査を受けていない中小企業は多くの場合、上場企業のような精緻な会計処理を行ってはいません。中小企業ごとに従っている会計処理がバラバラで、企業によっては貸倒処理をしていなかったり、固定資産を除却しても固定資産台帳上は消し忘れていたりと、企業ごとに様々な決算内容となっています。これらを一定の基準で分析し、本来あるべき純資産の金額を把握するための分析が実態純資産の分析です。

 

 

 

 

 

上記の表に分析内容、グラフに分析結果を示しています。

 

 

 

【実態純資産】

決算内容が実態純資産の分析は、調査対象期の帳簿純資産からスタートします。帳簿純資産から、調整項目を調整し、実態純資産を分析します。この実態純資産は事業用不動産は簿価であることから、事業継続を前提とした純資産ということになります。

 

調整内容の具体例を下記に説明します。

 

a.回収可能性に疑義のある売上債権

得意先が倒産してしまっている場合や、長年得意先やその代表者と連絡が取れなくなってしまっている場合などは、回収可能性が低く、売上債権の資産性が認められません。このような場合に、売上債権を回収可能な金額まで減額するなど、貸倒評価を行い、純資産の調整項目とします。

 

b.長期間滞留している棚卸資産の評価減

もう販売していない商品や、数年単位で滞留している商品は販売して収益化される見込みが低く、棚卸資産の資産性が認められません。このような場合に、一定の基準を置いて、棚卸資産の評価減を実施し、純資産の調整項目とします。

 

c.固定資産の減価償却不足額

中小企業は減価償却は、利益が出た時に償却し、赤字の場合は償却しないなどの会計処理をしている企業が少なくありません。減価償却を調整している企業は、毎期減価償却を実施してきた企業と比べて固定資産の簿価が高くなっています。毎期減価償却を実施している企業と同じ条件で評価するため、減価償却の再計算を実施し、適正な簿価を把握します。適正な簿価と現在の簿価との差額を純資産の調整項目とします。

 

 

【不動産含み損益調整後実態純資産】

実態純資産から、事業用不動産含み損益を調整し不動産含み損益調整後実態純資産を分析します。不動産含み損益調整後実態純資産は、事業用不動産についても時価評価していることから事業継続を前提としていない純資産の金額ということになります。

 

 

【中小企業特性考慮後実態純資産】

中小企業は、会社と代表取締役とを一体と見た方が実態と即している場合が多いため、代表取締役の資産を企業の純資産に加える調整を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第14回:「合同会社のM&Aの特徴や留意点」とは?

~合同会社と株式会社との比較した特徴は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

 

Q、合同会社のM&Aを検討していますが、合同会社M&Aの特徴や留意点はありますか?


合同会社は、持分会社と呼ばれる会社形態の1種です。持分会社は株式会社と異なり株式を発行していないため、議決権の考え方や、所有と経営の分離に対する考え方等が異なります。合同会社の株式会社と比較した特徴は下記のとおりです。

 

 

合同会社におけるM&Aでは、持分を譲渡するために社員全員の同意が必要となります。さらに、持分を承継して合同会社に出資をした場合の持分は出資額に関係なく1となり、会社を支配することは難しくあまり会社売却には適していないといえるでしょう。

 

そのため、合同会社を売却するためには、会社変更手続きをして、株式会社に会社形態を変更した上で株式売却を行うことになります。

 

また、合同会社であっても、事業譲渡であれば可能です。事業譲渡は、会社を存続したまま会社の事業の一部、または全部を売却する事を意味します。

 

会社売却と違い、包括的ではなく、個別に必要な事業だけを選んで売却可能ですので、売り手にも買い手にもメリットがあります。事業譲渡をすると、事業における資産、負債、取引先や契約上の地位も買収先の会社に変更されるので契約先の債権者の同意が必要です。

 

合同会社においての事業譲渡は総社員の同意ではなく、通常の業務執行として社員の過半数の決定でよいとされています。しかし、事業譲渡は経営に直結する重要な決定事項なので、定款において総社員の同意が必要と定められている会社もあるため、定款を確認してみましょう。

 

合同会社は、株式会社と比較して設立の容易さや費用面でのメリットがある一方、M&Aではデメリットに働くことがあります。M&Aでの選択可能なスキームが限定される等の特徴があるので、専門家を交えて慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第12回:DCF法とは? 割引現在価値とは? WACCとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法って何?

2.割引現在価値とは

①「今」と「1年後」の100万円

②現在価値の計算式

③事例で考える現在価値

3.WACCとは

①WACCの基本

②負債コスト

③株主資本コスト

④事例で考えるWACC

 

 

 

企業価値評価の様々な手法の中の1つがDCF法ですが、DCF法は有用性が高いため非常に多くの場面で使用される手法です。

 

本稿ではDCF法の考え方の基本となる「割引現在価値」「WACC」について見ていきます。割引現在価値やWACCの考え方は企業価値評価におけるDCF法はもちろん、収支タイミングを考慮する必要がある評価技法や、経済学・ファイナンスの分野など様々な場所で出てくる考え方ですね。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1.DCF法って何?


企業価値評価の中でも最も使用される手法が、DCF(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー)法です。会社が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に換算する方法です。DCF法が好まれるのは「将来の期待を反映できる」点と、「ファイナンスのプロでなくとも理解可能である」点にあります。

 

会社が会社を買うとき、既存事業を拡大しよう、新規事業に投資しよう、海外に参入しようというように、そこには多くの期待が含まれます。この期待は全て「将来」に向かった期待です。今はぱっとしない事業でも、将来は花開くことを期待しているから、会社の購入を決定します。事務効率化や規模の効率性を考えた結果会社の将来のためになるから、会社を購入するのです。そのため会社を購入する側は、その会社が「将来」どれだけ貢献することができるのかを一番に気にします。

 

コストアプローチである時価純資産法や、マーケットアプローチである市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)等は、あくまで「現時点」の価値を表しているにすぎません。もちろん株価はある程度投資家からの将来の期待も含まれた上で値付けがされていますから将来価値とも言えますし、また現時点の価値も重要な情報ではあります。しかし、買収効果を全て反映させて将来の期待を価値として評価するDCF法は、理論上は買収する側が最も必要とする情報になります。

 

一見すると難しそうに見えるDCF法ですが、1つずつ見ていくとそこまで難しい手法ではありません。第12回・13回の2回に分けて、DCF法の全体感についてざっくりとしたイメージをお伝えさせていただきます。

 

 

 

 

≪Column:DCF法って本当に有用なの?≫


理論上は上記のように価値ある金額の算定が可能なDCF法ですが、将来という不確定で恣意的な要素が非常に多く入るため、あまり客観的な数値とは言えません。

そのため実務上は「DCF法とマルチプル法」といったように、DCF法とその他の方法を組み合わせて総合的に判断することが多いです。企業価値は大体いくらからいくらと言ったように幅を持った金額で表現されることがほとんどですが、これも将来という読みにくいものを基礎として評価することが一因です。

 


 

 

2.割引現在価値とは


まずはDCF法の大前提として、割引現在価値をご説明します。DCFのDは割引を意味するディスカウントのDで、割引現在価値という考え方が用いられています。DCF法は将来に渡る複数年の時間軸を考えますが、最終的には「今の価値はいくら?」となりますよね。そのため割引現在価値という考え方を用いることで、「今の価値」に全て統一することとなります。

 

①「今」と「1年後」の100万円

突然ですが、「今」100万円手に入れるのと、「1年後」に100万円手に入れるのと、どちらが良いでしょうか。

 

多くの方が「今」手に入れる方が嬉しいと感じるはずです。嬉しい理由は様々だと思いますが、「今」手に入れた現金の方が「1年後」に手に入れる同額の現金よりも価値が高いということを無意識に感じている結果ではないかと思います。これを投資の観点から見てみましょう。

 

「今」100万円手に入れて、銀行預金に預けました。預金利息が3%だとすると、1年間に3万円の利息が手に入ります。「今」の100万円は、「1年後」には103万円になります。100×(1+0.03)=103ですね。(預金利息にしてはかなり高いですが、3%あたりが分かりやすいので説明上は3%としています。)

 

 

 

 

 

逆に考えると、1年後に手に入れる100万円は、今の価値にするといくらでしょうか。

 

1年後にするためには「×(1+0.03)」をしていましたので、1年前に戻すには割り算「÷(1+0.03)」をすれば良いです。100万円÷(1+0.03)=約97.09万円となります。

 

 

 

 

 

この割り算という考え方が大事ですので、検算をしてみましょう。

 

(検算)97.09万円×(1+0.03)=100万円

 

 

無事1年後に100万円になりましたね。「今」97.09万円を手に入れて銀行預金に預けると、1年後には100万円になります。1年後の利息を含めた金額を算定するには掛け算をしますので、逆に1年前の金額を算定するには割り算をすることになります。

 

このように、貨幣には「時間価値」の概念があります。先に現金を手に入れた方が、運用によって増やすことができる分価値が高いという概念です。何年にもわたって現金を産み出す会社の1時点の価値を考える際は、時間価値を考慮することよくあります。

 

 

さて、時間価値で重要な点は、「今の価値で比較が出来る」ことです。

 

今100万円もらうことと、1年後に100万円もらうことの価値を比較してみましょう。

 

 

1年後の100万円は今の価値で97.09万円になってしまうので、1年後に100万円もらうより今100万円もらった方が良い、ということが言えますね。

 

②現在価値の計算式

現在価値の計算式は以下のようにあらわすことができます。

 

 

 

 

先程の例を使って、かみ砕いて見ていきましょう。今の100万円は、1年後の103万円と同じ価値になっていました。1年後の金額は単純に×(1+利率)でしたね。1年前に戻す場合は、÷(1+利率)とすれば良いはずです。

 

 

では、2年後、3年後になったらどうでしょうか。1年後の103万円に更に×(1+利率)をしていきます。そのため2年後であれば現在の100万円に、(1+利率)を2回乗じる形になります。逆に、2年後から現在を考えるときは、同じく2回割り算をしていきます。

 

 

この2年後を「n年後」として割り算の形にすると、現在価値の数式となりますね。

 

③事例で考える現在価値

簡単な事例として、以下のような案件の現在価値を考えてみましょう。

 

年度毎の現在価値は次の通りです。

1年後:100万円÷1.03=97.0874…

2年後:100万円÷(1.03)^2=94.2596…

3年後:100万円÷(1.03)^3=91.5142…

 

 

これらを合計すると、282.8611…となるので、四捨五入すると283万円が今の価値(割引現在価値)となります。

 

 

 

 

≪Column:現在価値を求める際の割引率≫


現在価値を求める際に重要となるのは割引率です。何で割り引くかによって現在価値が全く異なる結果となるためです。

 

例えば銀行に預けて将来100万円を引き出すとしたら、銀行の預金利率を使います。同様に社債に投資して将来100万円返ってくる場合は、社債の利息を使うことになります。

 

このように、投資に対して求めることになる期待運用収益率で割り引くことが一般的です。リスクの低い投資(銀行預金等)であれば、期待運用収益率が低いため、割引率も低くなります。一方、リスクの高い投資(株式等)であれば、期待運用収益率が高く、割引率も高いものとなります。DCF法では、後述するWACCという割引率を使用することとなります。

 


 

 

3.WACCとは


①WACCの基本

これまでは「割引現在価値」の考え方について見てきました。将来キャッシュフローを運用利率で割り引くのが、割引現在価値です。

 

では、企業価値算出に際して使用する利率(割引率)は、どのようなものを使えば良いのでしょうか。

 

企業価値算出の際には、「WACC」という割引率を使用します。WACCはWeighted Average Cost of Capital:加重平均資本コストの略で、債権者(負債側)と株主(資本側)が対象企業に求める期待投資利回りの加重平均を示します。

 

 

 

企業が資金を調達する手段は大きく2つあります。返済義務のある負債で調達するか、返済義務がない資本(株式)で調達するかです。

 

両者は返済義務が異なるので、投資リスクが当然異なります。リスクが高い投資をする人はリターンも相応に求めることになるので、リスクが異なれば要求利回りも異なることとなります。債権者と株主、リスクの異なる投資をする両者の要求利回りを加味しつつ、調達金額比で加重平均を取るのがWACCです。

 

BSの右側(負債・資本)の調達にともなう利回りの平均を取るイメージですね。

 

企業が資金を1円調達するのに、平均していくらのコストがかかっているかを示す指標となります。

 

 

②負債コスト

負債コストは、評価対象企業の格付や実際の借入利率等を用いて算定します。多くの場合では現行の借入コスト(借入利率等)を使用し、事業計画期間における想定値がある場合はそれを加味しつつ、検証として評価対象会社と同水準の格付を持つ企業の社債利回りを参考にします。

 

ここで、負債の利息は税務上損金となります。利息100円、法人税率30%としたときに、利息100円を支払うとその分利益(課税所得)が減りますね。負債の利息を支払わない時と比べて、100×30%=30円だけ税金が小さくなります。

 

そのため負債利息は100ですが、実質的には100-30=70が負債に係るコストであると考えられます。この税金軽減効果を数式上示しているのが、(1-T)の部分です。

 

実質的に負担するコストは、(1-税率30%)である70%部分のみということですね。

 

③株主資本コスト

株主資本コストは、評価対象会社の株式へ投資する際の期待収益率です。負債コストは現行の借入利率があるので比較的算定に困りませんが、株主に対しては利率等の明確な概念がないため、株主の要求利回りをもとめることは一筋縄ではいきません。

 

そこでよく使用されるのが、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)という手法です。投資家の期待利回りを、リスクなく獲得できる利回り部分と、リスクを負うにあたり追加で求める利回り部分に分解して算定する手法です。このように一定の手法を用いて、株主資本コストを算定することとなります。

 

 

 

≪Column:CAPMについて≫


少し発展的な内容となりますが、CAPMの内容を少しご説明します。株主の要求利回りを大きく以下のように表すのがCAPMです。

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ値×リスクプレミアム

 

リスクフリーレートはその名の通り無リスクの利回りで、長期国債利回りを使用することが多いです。リスクプレミアムは上記リスクフリーレートを超えて株式市場に求められる超過利回りです。これにベータ値という値を乗じて、評価対象企業固有のリスクを示す形となります。

ベータ値は評価対象企業のリスクと市場全体のリスクとの相関を示す係数というイメージです。市場全体の超過利回りを、評価対象企業固有のリスクに変換するための係数ですね。このような計算を経て、株主資本コストを算定していくこととなります。

 


 

 

④事例で考えるWACC

 

まず、株主資本比率E/(D+E)・負債比率D/(D+E)は以下の通りですね。ポイントは両者とも時価で考える点です。特に株式は時価と帳簿価格に乖離が生じることがほとんどですので、その時点の価値である時価とします。

 

株主資本比率E/(D+E)=20,000÷(20,000+30,000)=0.4

負債比率D/(D+E)=30,000÷(20,000+30,000)=0.6

 

株主資本が40%、負債が60%となりますので、この割合で加重平均を取ると、WACCは以下の通りとなります。

 

 

株主資本コスト10%、負債コスト3%の会社でしたが、加重平均を取ると5.26%となりました。そのためこの会社全体の資金調達コストは5.26%と言えます。

一般的に株主の方が債権者よりリスクを取っている分要求利回りも大きいため、株主資本比率が高い会社はWACCも高く、逆に負債比率が高い会社はWACCも小さくなることが多いです。

 

今回はDCF法の基礎となる割引現在価値と、割り引く利率であるWACCの考え方について見てきました。次回最終第10回は、これらの考え方を用いた上でのDCF法をご説明していきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第10回:事業価値を高めるために実施した施策の失敗例

~M&Aの売り手側の「事業の磨き上げ」という考え方(運送会社の事例)~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

 

 

M&Aの売り手側の事業の磨き上げという考え方について、コンサルタントが言っているのをよく見かけるようになりました。コンサルタントの勧めによる磨き上げを行った結果、資金繰りが苦しくなり、M&Aによる会社売却どころではなくなった事例を紹介します。

 

紹介する会社は運送会社で、経営状況はそれほど芳しくはありません。そのため、将来的にM&Aで会社を売却するために、コンサルタントは利益をねん出したいと考えました。利益をねん出するためには、受注を増やしたり、運送単価を上げることで売上を増加させるか、燃料費などの変動費や人件費などの固定費の削減を実施することで利益をねん出することが一般的です。

 

ここで、当運送会社の費用構造を見てみると、最も多いのはドライバーの人件費、次いで燃料費、旅費交通費、修繕費、リース料となります。

 

コンサルタントは、リース料に目を付け、車両をリースではなく現金で購入することで、リース料を削減して利益をねん出する方法を勧めたのです。

 

 

しかし、この方法は2つの重要な問題があります。

 

1つ目は、当会社は経営状況が芳しくないため、車両を購入するために借入を行うことができません。借入ができないため、通常はリースを組んで車両を調達するのですが、そのリースを組まずに、手元現金で調達するということをしました。運送業の車両は数千万円ほどの金額となるため、数台購入すると億単位の手元の現預金が減少します。経営状況が芳しくない状況で、現預金を減らすべきではありません。

 

2つ目は、M&Aの買手企業の株価算定方法によっては、車両をリースではなく現預金で購入するという施策は、実はあまり意味をなさないということです。株価算定の方法が償却前営業利益の数倍のような方法であれば、リースよりも現預金で購入した方が利益がよくなるため、株価が高くなる可能性があります。一方で、DCF法のように、株価算定の計算の中に車両の購入についても考慮に入れる株価算定手法の場合であれば、リースであれ現預金で購入した場合であれ株価は大きく変わらないのです。

 

コンサルタントの勧めにより、M&Aで会社を売却するどころか、資金繰りが苦しくなり経営が立ち行かなくなってしまうという可能性があります。コンサルタントの勧めを鵜吞みにせずに、おかしいと思った場合には、信頼のおける人や、専門家のセカンドオピニオンなどを求めることも必要になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第4回:マッチングサイトの種類

ネット音痴でも大丈夫!こんなに進化したマッチングサイトの実情とは

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

様々なマッチングサイト


マッチングサイトは、わずか数年で一気に増えた。増えるだけではなく、毎月のようにどこかのマッチングサイトがリニューアルを繰り返している状況だ。マッチングサイトは現在、多種多様なものが存在していて、利用しにくいものや、マッチング数が少ないもの等も含めて玉石混交といっていいだろう。

 

マッチングサイトを敢えて色分けすると、「本格系」「IT企業系」「業種特化系」「M&A専門会社系」となる。本格系とは、サイトの使いやすさやリニューアル頻度、サポート体制、譲り渡し手・譲り受け手・専門家の数などが充実しているサイトのことである。IT企業系とは、まさにIT企業が始めたマッチングサイトで、M&A業界にはなかった発想でサイトが構築されており、アルゴリズムや情報開示の方法などにも特徴がある。業種特化系とは、飲食業や不動産業など、ある特定の業種の譲り渡し案件を中心に扱っているサイトのことである。M&A専門会社系とは、第三者承継の仲介会社やFA会社が運営しているサイトのことである。その他、税理士会が行っているサイトなどがある。

 

また、マッチングサイトの登録数が少なくて現在は活況なようにはみえなくても、今後の市場環境やサイト機能などの条件によって、もしかしたら登録数が増加するかもしれないと思えるほど、マッチングサイト業界は日進月歩であることも付け加えておく。

 

 

 

 

登録サポートや逆オファー機能があるサイトも


マッチングサイトのサービスや機能の部分についても様々なものがある。例えば、皆さんのような後継ぎを探している会社がサイト運営会社に電話をすると、マッチングサイトへの登録のサポートを丁寧にしてくれるところもある。もちろん、無料である。この場合、一般的にはサイト運営会社は後継者候補から手数料を徴収しているのである。

 

オーナー経営者がサイトに登録して、じっと後継者候補が現れるのを待つ以外にも、逆オファーのような形で、オーナー経営者から後継者候補へアプローチできる機能が付いているサイトもある。

 

更には、多数の専門家を抱えていて、適宜必要に応じて専門家をオーナー経営者や後継者候補に紹介できることをメリットとしてうたっているサイトもある。

 

 

登録者の9割は後継者候補


ここで小さな会社の社長である皆さんにとって、重要な情報がある。それは、これらマッチングサイトに登録している人たちのことである。実はそのほとんどが後継者候補であるということだ。とあるサイトでは、登録者の9割が後継者候補であると公表している。ということは、後継ぎ不在の社長の皆さんにとっては、チャンスが広がっているということだ。廃業を選択する前に、マッチングサイトの登録に是非チェレンジしてみよう。

 

ご自身で登録が難しい場合は、会計事務所に相談することをお勧めする。特に「第三者承継支援」を行っている会計事務所や、マッチングサイトを活用した実績があればなお安心だ。

 

 

 

[用語解説]

■仲介会社
同一のアドバイザーが譲り渡し手と譲り受け手の双方の間に立ち、交渉の仲介を行う。マッチングに強みがある。

■FA会社
ファイナンシャル・アドバイザー会社の略で、譲り渡し手と譲り受け手どちらかと個別に契約を結び、一方のみの第三者承継業務をサポートする。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第9回:会社分割および事業譲渡のメリットとデメリット(比較)

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:株式譲渡と事業譲渡~株式譲渡、事業譲渡のメリットとデメリットとは?~

▷関連記事:M&Aの主なスキーム (株式譲渡、事業譲渡、会社分割)~メリットとデメリット?留意点は?~

▷関連記事:どのようにM&Aを行うのか~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

 

 

 

M&Aを検討する場合に、最も多く用いられるスキームは株式譲渡です。株式譲渡によりそのまま親子関係となり、他のスキームと比べとてもシンプルな方法です。一方で、M&Aのニーズとして、会社の一部の事業だけを売却したいというニーズがあり、その場合には株式譲渡は用いずに、会社分割又は事業譲渡を用います。下図のような、A社のY事業をB社に移転するという方法に会社分割又は事業譲渡が用いられます。会社の置かれた状況によりどちらを用いた方がよいかが異なるため、違いを理解しておく必要があります。

 

 

 

 

 

会社分割は組織再編行為であることに対して、事業譲渡は取引法上の行為であることから以下のような違いが生じます。

 

 

 

権利義務の承継には包括承継と特定承継があります。包括承継は、その権利義務の全部または一部を包括的に別の会社へ承継することをいいます。特定承継は事業に関する財産等を個別移転することをいいます。会社分割では権利義務は包括承継となり、事業譲渡では特定承継となります。

 

会社分割のような組織再編では、資産の変動や債務者の変更により債権者の利害に影響を及ぼす恐れがあります。債権者保護手続きは債権者の利益を守る目的で、会社法で定められた手続きです。官報公告や個別催告で組織再編の通知を受けた債権者は、最低1か月間は異議を述べる機会が与えられます。債権者が異議を申し立てた場合、当事会社は弁済もしくは相当の担保を提供するといった対応をとる必要があります。会社分割では一定の場合を除いて債権者保護手続きが必要であるのに対して、事業譲渡では債権者保護手続きは不要です。

 

また、雇用、許認可、消費税、登録免許税、不動産取得税等の違いがあるため、譲渡事業の特性等に応じてスキームを検討する必要があります。

 

 

留意事項

一般的に、特定承継である事業譲渡は引き継ぐ資産負債、従業員等と個別に特定したうえで契約を行うため実務的に煩雑になります。

 

また、事業を行うにあたり許認可が必要であり、かつ許認可の取得が容易ではない場合は、事業譲渡では許認可の引継ぎが行われないため、事業運営に支障をきたす可能性があります。

 

さらに、譲渡事業に多額の不動産が含まれる場合に事業譲渡を選択すると、登録免許税や不動産取得税の金額が高額となります。

 

上記のように、会社分割と事業譲渡は異なる点が多く、これらの内容を理解せずにスキームを決定すると、思わぬ落とし穴がある場合があるためスキームの選定は専門家を交えて慎重に行いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第3回:「補助金」や「税金」で、国も小さな会社の事業承継を積極支援!

~スモールM&Aで活用できる国の支援策とは?~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

 拡充される国の事業承継支援策


「マッチングサイトを活用した小さな会社の事業承継」が活況になりつつある大きな理由の1つとして「国の支援策の拡充」が挙げられる。ここでは特に「補助金」と「税金」を取り上げる。

 

 

「事業承継・引継ぎ補助金」とは


「事業承継・引継ぎ補助金」は、2020年のコロナ禍のさなかに創設された「経営資源引継ぎ補助金」と、以前からある「事業承継補助金」を統合し、補助額も増額して2021年に再スタートしたものである。

 

 

図1を見てほしい。改正前の「経営資源引継ぎ補助金」が図1の②事業引継ぎ時の士業専門家の活用費用の補助に当たる。この②の補助の対象者は、小さな会社を含む中小企業者等を前提として「第三者承継=M&Aを行う譲渡側及び譲受側」となっていて、補助対象経費は、「成功報酬、財務調査費用、着手金、マッチングサイトの利用料等」と幅広く、補助率「1/2」、補助上限額は「250万円」である。

 

また、オーナー経営者側では、一部事業譲渡や一部廃業ということも想定されており、その時の廃業費用に対する補助金200万円も別途手当されている。

 

 

改正前の「事業承継補助金」は図1の①事業承継・引継ぎを契機とする新たな取組や廃業に係る費用の補助に当たる。例えば、第三者承継を実施後、後継者が経営統合を兼ねて大型の機械装置を購入する場合に、その機械装置購入費用について、補助率「1/2」で補助上限額「250万円又は500万円(廃業部分がある場合は別途上乗せ措置あり)」となる。この補助金は、「第三者承継時の専門家報酬」ではなく、「第三者承継後の新たな取組への後継者向け支援」といったイメージであるが、後継者が得をするということは、その分承継対価の条件が良くなるため、オーナー経営者である皆さんにも良い影響があるということだ。

 

 

 

「経営資源集約化税制」とは


2021年度税制改正において、第三者承継で会社を株式譲渡で承継した場合に、その承継対価の7割を費用計上できるという「経営資源集約化税制」が創設された。この税制も後継者向けの支援策となる。

 

 

 

 

例えば、1,000万円で会社を承継した場合、通常はその1,000万円は後継者側の貸借対照表の「資産」に計上される。「費用」にはならない。

 

しかし、後継者には、承継後に思わぬ出費が発生するというリスクもある。例えば、きちんとした専門家を付けずに第三者承継を実行した場合、隠れ負債や未払残業代等の事後発覚もありうるのだ。こういった承継後リスクを税金面から軽減するため、承継対価700万円(1,000万円×70%)の一括費用計上を認めてくれるのが、この経営資源集約化税制である。

 

ただし、この税制では5年経過後から5年間で積立金額の均等取崩し(収益計上)が行われるので、この点にも注意が必要である。

 

 

 

国による第三者承継支援策の今後


最後にお伝えしたいのは、これら国の支援策が、これで終わり又は今がピークというものではなく、この先更に拡大していくであろうということである。小さな会社の後継者不足問題は待ったなしである。少なくともこの先10年は、国の生産性向上や創業促進施策と相まって、小さな会社の第三者承継支援策は続々と出てくるものと思われる。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第11回:類似会社比較法(マルチプル法)とは

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.類似会社比較法(マルチプル法)とは

①マルチプル法って何?

②マルチプル法の手順

2.マルチプル法の実務

①類似企業を選ぼう

②倍率を出そう:EV/EBITDA倍率

③倍率を出そう:PER・PBR

④計算事例

 

 

今回はバリュエーションの中でもよく使用される「マルチプル法」についてご説明します。マルチプル法は類似上場会社の数値を基礎として価値を評価する手法です。ざっくりとした企業価値を算出するのにもってこいの手法なので、事例を基に見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1. 類似会社比較法(マルチプル法)とは


①マルチプル法って何?

東証や大証などの市場に株式が出回っている場合、価値の算定はそこまで難しくありません。普通株式であれば、単純に株価×発行済株式数を基礎として株主資本価値を算定することが可能です。

 

しかし、M&Aにおいて市場に株式が出回っている会社が登場することは非常に稀です。多くのM&A案件は非公開会社の売買案件ですので、上記のように単純に価値を評価することが出来ません。しかし、一定程度の客観性を持った評価金額が必要となります。

 

そこで、類似上場会社の数値を基礎として価値を評価する類似会社比較法(マルチプル法)を使用していくこととなります。

 

 

 

≪Column:企業価値評価の手法について≫


前回ご紹介した通り多くの企業価値評価手法がありますが、実際に使用される手法ランキングを作成した場合、1位:DCF法、2位:マルチプル法になると思われます。(筆者私見ですが、この2手法は群を抜いて使用されています。3位以下を大きく引き離してのワンツーフィニッシュですね。)

 

DCF法は将来情報を企業価値として織り込むことから非常によく用いられています。マルチプル法はそこまで難しくない計算過程の割に、一定の客観性を保った金額を得ることが出来るため重宝されています。

 


 

②マルチプル法の手順

まずはざっくりと、マルチプル法の手順についてご説明します。マルチプル法は、ある指標(倍率)が、評価対象会社と類似企業でほぼ同じである前提に基づいて価値を計算する手法です。実際には後述するEV/EBITDA倍率等が良く使用されますが、まずはイメージを掴みやすいよう、第10回で挙げた「経常利益」を指標とする例を再掲します。

 

 

 

 

 

❶上場している類似会社の決定

まず上場している類似企業を見つけます。バリュエーションにおける評価対象となる企業とビジネスが類似している上場企業を見つけます。今回は以下の会社が類似企業として選定されたとします。

 

 

 

 

❷倍率の算定

上記類似企業のデータを用いて倍率を算定します。時価総額を経常利益で割った倍率を求めてみましょう。

 

 

 

 

❸対象企業の価値評価

上記倍率(20倍)という数字が評価対象会社にも当てはまる前提に基づき、算定した倍率を評価対象会社に当てはめて、株主資本価値を求めます。

 

 

 

 

 

 

 

そこまで難しくなさそうですね。類似上場企業の倍率を算定し、その倍率をM&A対象となる非公開会社に当てはめて計算するだけです。類似企業であれば、ある程度倍率も同じ傾向を示すだろうという仮定に基づいている点がポイントです。

 

 

 

[Point]

マルチプル法は、評価対象会社と類似企業で使用する倍率が同じ傾向を示す前提での計算方法。

 

 

 

2.マルチプル法の実務


ざっくりとしたイメージは上記の通りですが、実務上はより細かく慎重に検討していくこととなります。

 

①類似企業を選ぼう

マルチプル法で最も重要なことは類似企業の選定と言っても過言ではないです。業種・業界の類似性はもちろん、製品や規模、地域、資本構成、利益率等様々な要素を加味して類似企業の選定を行うこととなります。

 

実務上は3社~10社程度の類似企業を選定することが多いです。上記の項目1つ1つを見た場合、当然対象会社とは異なると感じる項目も発生します。例えば業界や製品は似ているものの、資本構成が異なる(対象会社は負債が多い一方、類似企業は負債が少ない等)場合があります。類似企業の母集団が小さいと客観的な数値になりにくいため、そのように差異がある場合でも類似企業として含め、ある程度の類似企業数とすることが多いです。使用する倍率は類似企業の平均値や中央値を使います。

 

②倍率を出そう:EV/EBITDA倍率

使用する倍率はEV/EBITDA倍率、PERやPBRが使用されることが多いです。まずは最も使用されるEV/EBITDA倍率を見ていきましょう。

 

 

●EV/EBITDA倍率

EV/EBITDA倍率はEV÷EBITDAで求める倍率です。分子の「EV」はEnterprise Valueの略で企業価値と訳されますが、実際には事業価値がより近い概念となります。該当企業を買収する際、実際に必要な金額はいくらか?という観点からの指標です。

 

純有利子負債=有利子負債-余剰資金-非事業性資産等)

 

 

数式の通り、時価総額に純有利子負債を足した金額がEVです。時価総額は「株主資本価値」を示し、株主にとっての会社の価値部分です。これに純有利子負債を足すことで、その企業自体を保有した際に必要となる正味金額を示していることになります。

 

例えば100%株式買収により会社を買収したとします。その際、株式時価総額を支払うことで会社の買収は完了しますが、同時に会社が元々持っている負債の返済義務を負いますね。一方、余剰資金や非事業性資産の売却による現金流入によってカバーできる分もあります。そのため返済義務のある有利子負債から、余剰資金や非事業性資産を差し引いた正味の返済必要金額である「純有利子負債」が、実際購入金額に追加で必要となる金額です。株式時価総額に正味の返済義務である「純有利子負債」を足した金額が、「実際に必要な金額」であるEVとなります。

 

なお、非支配株主持分がある場合は上記に加算します。非支配株主持分は有利子負債と同様に他人資本であるため、正味金額に含めるべきという考え方です。

 

 

 

 

分母にくる「EBITDA」は第8回目でご説明した「金利支払前、税金支払前、減価償却費控除前の利益」(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization)です。

 

借入金の支払利息・税金・減価償却費を除くことで、事業そのものの正常収益力を図ろうとしています。なお、EBITDAは簡便的に「営業利益+減価償却費」で表現されることが多いです。営業利益であれば支払利息や税金を除いた状態ですので、営業利益に減価償却費を加算することで簡便的にEBITDAを表現しています。

 

上記の通り個別にEV・EBITDAを求め、EV÷EBITDAの倍率を算定することになります。

 

 

③倍率を出そう:PER・PBR

その他指標として、PERやPBRが使われることもあります。PER・PBRは株式に関する指標としてよく出てきますので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 

 

PER(Price Earnings Ratio:1株当たり当期純利益)=株式時価総額÷当期純利益

PBR(Price Book-value Ratio:1株当たり純資産)=株式時価総額÷純資産

 

 

1株当たりの当期純利益や純資産を用いています。EV/EBITDA倍率のように一捻りしておらず、株式時価総額を使用してさくっと求めることが可能ですので、M&Aの初期段階でざっくりした価値を求めるのに向いています。

 

 

 

 

≪Column:倍率の意味≫


マルチプル法はいずれも割り算を用いていますね。この割り算にも実は意味があり、EV/EBITDA倍率であれば「企業の買収に必要な株式時価総額と、買収後の純負債返済に必要な金額が、EBITDA何年分で充当できるか」、PERであれば「企業の買収に必要な株式時価総額が、当期純利益何年分で充当できるか」といった意味になります。

 

さて、マルチプル法を採用する場合、まずEV/EBITDA倍率の採用をまずは考えます。

 

EBITDAは借入金の支払利息・税金・減価償却費を除くことで、事業そのものの正常収益力を図る指標でしたね。そのため、「買収に必要となる正味金額」が、「正常収益力の何年分か」を示す指標がEV/EBITDA倍率です。

 

EV/EBITDAの特徴

通常の事業活動を行った結果正味金額を何年で回収できるのかを確認する目安となる

●EBITDAは償却費等を除いているため企業間の比較可能性が高い

 

M&Aにおける企業価値算定の場面でEV/EBITDAがその他指標と比べてよく登場するのは、上記の通り客観的であり有用な情報となるためです。

 


 

④計算事例

EV/EBITDA倍率を用いた事例を見ていきましょう。簡単化のために、類似企業は1社とし、ストックオプションや非支配株主持分等の複雑な条件はなしとしています。

 

類似企業データ

 

 

類似企業のEV/EBITDA倍率は以下の通りとなります。

 

 

EV=株式時価総額21,000+純有利子負債12,000=33,000百万円

EBITDA=営業利益1,000+償却費3,000=4,000百万円

 

→EV/ EBITDA倍率=33,000÷4,000=8.25

 

 

 

 

この類似企業は、「買収に必要となる正味金額」が、「正常収益力の8.25年分」に相当すると言うことができますね。

 

評価対象企業と似た企業を類似企業として選定していますので、評価対象企業のEV/ EBITDA倍率もだいたい8.25になるだろうという前提のもと、評価対象企業の価値を求めていきます。

 

評価対象企業データ

 

評価対象企業のEBITDAは営業利益200+償却費800=1,000です。EV/ EBITDA倍率が8.25倍ですので、評価対象企業のEVは以下の通りとなります。

 

EV=EBITDA1,000×8.25=8,250百万円

 

 

 

EVが8,250百万円と算定されました。純有利子負債が7,000百万円ですので、対象会社の株主資本価値は8,250-7,000=1,250百万円と、ざっくり計算することができます。

 

 

≪Column:EV/EBITDA倍率の目安≫


一般的にEV/EBITDA倍率が6倍~12倍程度の案件が適正な案件と言われています。すなわち、「買収に必要となる正味金額」が、「正常収益力の6年~12年分」であればM&Aを行いやすいとも言えますね。

 

倍率が高いほど正常収益力で回収できる年数が増加し、倍率が低いほど方が早めの回収が見込まれるイメージです。経営者として実際にM&Aを行う際には、低倍率の方が目途を立てやすいためM&Aを実行しやすいですね。

もちろん業種によっても倍率感は様々で、医薬業界では15倍といった高倍率も普通だったりします。

 


 

 

 

 

[Point]

EV/EBITDA倍率は、「買収に必要となる正味金額」が、「正常収益力の何年分か」を示す指標とも言える!

 

 

バリュエーションは難しいという印象を持っている方も多いと思います。たしかに細かい計算は難しい部分も多いですが、全体像はそこまで難しくはありません。この連載で、少しでもイメージが具体的になっていただけると嬉しいです。

 

次回から、バリュエーションで最も使用されるDCF法について見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[事業再生・企業再生の基本ポイント]

第6回:事業再生における財務DDとは何ですか?-フリーキャッシュフロー

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

▷関連記事:事業再生における財務DDとは何ですか?

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷関連記事:経営状態の把握と事業再生

 

 

事業再生における財務DDでのフリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー+投資キャッシュフロー、以下FCFという。)の分析は、再生企業の過年度の営業、投資、財務でのキャッシュフロー(以下CFという。)を把握することで、どのようにして資金繰りに窮してしまったのかを検討するうえで重要な分析となります。

 

損益の分析は直近から過年度の3年間の分析を行うことが一般的ですが、FCFの分析は3年間ではなく、10年間の分析をする場合があります。これは、多くの再生企業は、直近の業績不振のみならず、過年度からの慢性的な業績不振や、過剰な投資を行っているケースが多く、窮境となった原因の全体を把握するためには概ね10期程度の分析が必要となるからです。

 

 

 

 

上のグラフはFCFの分析結果です。ほとんどの期で、FCFの金額はマイナスとなっています。これは、本業で獲得したCFである営業CFの金額を、設備等の投資で使用した投資CFの金額が上回っているからです。上記の再生企業の場合は、x9期を除いて営業キャッシュフローはプラスで推移しているため、本業でCFを獲得はできていたのです。しかし、それを上回る投資を毎期行っていたことでFCFがマイナスとなり資金繰りに窮してしまったと考えられます。

 

FCFがマイナスとなっている場合は、通常不足した資金は財務CFで補います。そのため、下表のように借入残高が大きくなることが一般的です。借入残高が大きくなると、借入金の返済負担が重くなり、返済できるだけのFCFを獲得できていないと資金繰りに窮するという流れとなります。

 

 

 

このように、FCFの分析は、会社の資金の流れを掴むのにとても重要な分析ですので、必ず分析を実施し、可能な限り10期程度の長期間での分析とすることをお勧めします。

 

なお、FCFの算出方法は様々な方法がありますが、10期分の貸借対照表と損益計算書からキャッシュフロー計算書を作成した上で、営業CFと投資CFを把握する方法が正確で納得感のある分析となるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第2回:事業引継ぎ(スモールM&A)のスケジュール「事業の引継ぎって どうやって進めるの?」

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

早期の準備が成功の秘訣


マッチングサイトを使えば今までになかった新しい方法で「後継ぎ」が見つかるかもしれない。

 

では、実際に第三者への事業引継ぎはどのように進めていくことになるのだろうか。

 

過去の例によると、その多くにおいて成功要因といえるのが「早いうちに事業引継ぎのための準備」を行っていたことだ。これはとても大事な視点で、経営者が高齢になるにつれ売上げが減少していくことも多く、結果として承継対価などが下がることになる。そのため、廃業が脳裏にちらついたら、すぐにでも事業引継ぎの準備を始めてほしい。事業引継ぎは「早期の準備が成功の秘訣」なのである。

 

 

さて、親族内承継であれば、阿吽の呼吸である程度のおおまかな承継でも、新経営者と伴走しながら伝言不足の軌道修正などができるかもしれない。また、書類不足なども事後に補完して上手くいく可能性もある。

 

しかし、「第三者への承継」となると、そうはいかない。会社にとって大事な「契約書」や「規定」があれば、当然に承継前にきちんと開示し、最終的には現物を後継者候補に渡さないといけない。資産の中に承継後も社長が必要となる「車」や「生命保険」があれば、個人のものとして名義変更するなど事前に対策しなければならない。「借金」はなるべくなら減らしておいた方が、承継がスムーズなのは自明の理である。会社承継前に後継者候補にきちんと情報開示できていれば問題となることはほぼないが、退職金規程の有無や契約書の一部を紛失しているなどの情報を開示できていないと後日問題となる。これは誤解のないようにしておきたいのだが、書類が不備であるかどうかも大事だが、たとえ不備であったとしても、その不備であるということを事前にきちんと伝えておくことの方がより重要だということだ。

 

こういった整理をきちんと行い、決算書などの資料を準備した上で、マッチングサイトに登録し、後継者候補と交渉する場合と、後継者候補からの質問で慌てて整理を急いだり、資料を準備したりするのでは、当然にその最終結果は大きく異なるものとなる。実は、第三者承継の場合でも、不動産と似ていて、「最初に来た客=後継者候補」が一番良い客ということはよくある。そのためにも、マッチングサイト活用前に、まずは事前準備をしっかり行っておこう。

 

 

 

第三者への事業引継ぎスケジュール(スモールM&Aの手順)


事前準備を十分に行った上でマッチングサイトに登録することになるが、その登録は秘密保持の観点から、「会社名などを伏せた形のノンネームバリューシート(業種やエリア、概算売上金額や利益金額、特徴などの文章、売買価格を含めた売却条件などを記したもの)」で行うことになる。

 

その後、ノンネームバリューシートを見た後継者候補が、承継を考える社長やそのアドバイザーにアプローチをしてくるのが一般的な流れとなる。

 

次には、それら複数の後継者候補との「質疑応答」や「トップ面談」を経て、仮契約となる「基本合意書の締結」となる。この基本合意書の締結で、特定の後継者候補1社による承継を考える社長との独占交渉権が発生することになるが、それぞれの納得のもと、行うことになる。

 

更には、後継者候補による財務や労務を中心とした「会社調査(デューデリジェンス=DD)」を経て、「最終契約書の締結」がなされ、無事に「会社の引渡し」となる。

 

 

 

 

[用語解説]

■ノンネームシート
会社名などを伏せた状態で会社の概要を記したもの。

 

■ノンネームバリューシート
マッチングサイト用に、ノンネームシートに文章などを更に追加したもの。マッチングサイトを使った第三者承継で、特に最初の段階では、リアルで交渉を行う場合と比較して、文章情報のみで交渉相手を探さないといけないので、ノンネームバリューシートの上手な作成は第三者承継の成功のカギとなる。

 

■デューデリジェンス(DD)

M&Aを行うに当たって、リスクや課題を洗い出すために対象会社を詳しく調査すること。ビジネス、財務、税務、法務などの種類がある。

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第10回:企業価値評価(Valuation)の全体像

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.なぜ企業価値評価(Valuation)が必要なの?

①買収価格決定の参考情報

②利害関係者への説明責任

2.バリュエーションで求める価値とは?

3.バリュエーションの方法

4.コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)

①簿価純資産法

②時価純資産法(修正純資産法)

5.マーケットアプローチ

①市場株価法

②類似会社比較法(マルチプル法)

6.インカムアプローチ.

①DCF(Discounted Cash Flow)法

②配当還元法

 

 

今回からはM&Aにおける企業価値評価(Valuation)についてです。バリュエーションの全体像について、具体的なイメージに結びつくよう1つずつ見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1.なぜ企業価値評価(Valuation)が必要なの?


①買収価格決定の参考情報

企業価値評価(Valuation:バリュエーション)は、会社・事業の価値を評価することです。

 

例えば、にんじん1袋を買おうと思ったとき、いくらで買えば良いでしょうか。スーパーに行くと150円で買うことができるのであれば、にんじん1袋の価値は「150円」と確認することが出来ます。そのため、150円で買えば良いとすぐ分かります。では、会社を1社買おうと思ったとき、いくらで買えば良いでしょうか。スーパーに行って確認できるものではないですし、金額はすぐには分かりません。

 

そこでバリュエーションを行うことで、会社を買う時に値段をつけることができるようになります。バリュエーションによって「100億円」の価値がある会社であると分かれば、100億円が取引の参考価格になります。

 

このように、買収に際する価額の検討を行う参考資料としてバリュエーションが行われます。

 

②利害関係者への説明責任

株主や債権者等、会社は多くの利害関係者からの出資の基で成り立っています。

 

M&Aともなれば会社の命運を左右しかねない重大案件ですので、当然利害関係者からの注目を集めますし、その買収価格は最大の関心事となります。このとき、バリュエーションに基づく買収価格であれば、利害関係者への説明もしやすくなりますね。もちろん、証券取引所、監査法人、税務署等への説明にも役立ちます。

 

M&Aで最も重要になるのは買収に際する価額の検討ですが、あまりに価格が高すぎると本当に良かったのかといった話になってしまいます。そのため関係各所への説明責任を果たすことも企業価値評価の目的となります。

 

グループ内でのM&Aや事業譲渡もよくあります。新聞でも○○企業再編!と記事になっていますね。グループ内といえども各企業は独立した企業ですし、税金を支払う単位も各企業になりますので、ある程度適切な金額で譲渡金額を算出する必要があるのです。

 

 

2. バリュエーションで求める価値とは?


バリュエーションでは「事業価値」「企業価値」「株主資本価値」という価値を求めます。紛らわしい単語が3つもありますが、これらの関係についてまずは図で見てみましょう。

 

 

 

事業遂行のために使用される純粋な事業用資産・負債から生じる価値は「事業価値」と言われます。そこに事業に使用されていない資産の価値を加えたものが、企業全体の価値を示す「企業価値」となります。

 

 

 

企業価値から有利子負債や非支配株主持分等を減額することで、株主にとっての価値である「株主資本価値」となります。

 

 

 

用語だけ見ると紛らわしいですが、1つ1つの意味は分かりやすいです。買い手の立場に立つと、「本業から生じる価値はいくらか」、「会社全体の価値はいくらか」、「株主に帰属する価値はいくらか」という点が気になりますね。そのため事業価値、企業価値、株主資本価値を求めることになるのです。

 

 

3. バリュエーションの方法


バリュエーションは大きく3つの方法に分かれます。実務では3つの方法の中から、1つもしくは複数の方法を選びます。案件の特性に応じて合う方法、合わない方法がありますので、バリュエーションを行う際はM&A対象となる会社が置かれている状況を見極め、適切な方法を選択することになります。

 

●コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)

●マーケットアプローチ

●インカムアプローチ

 

 

4. コストアプローチ(ネットアセットアプローチ)


コストアプローチは、企業の純資産価値に基準にする方法です。

 

ざっくりお伝えすると、資産-負債で計算される「純資産」が株主資本価値になるという考え方です。直感的に分かりやすいアプローチですね。コストアプローチには「簿価純資産法」や「時価純資産法(修正純資産法)」といった計算方法があります。

 

①簿価純資産法

単純に企業の純資産を株主資本価値とする手法です。とても分かりやすい手法ですが、欠点として企業の時価を反映していないことが挙げられます。

 

例えば30年前に10億円で購入した土地があるとします。現在の値段が5倍の50億円になっていた場合、相当な含み益(40億円)が会社にあることになります。しかし、土地は購入時の値段である原価で持ち続けているため、含み益(40億円)は純資産には反映されていません。

 

今「土地だけ」を購入すると50億円かかる一方、今「土地を持っている会社」を購入した際の土地部分代金は10億円ですむというのはおかしいですね。

 

現時点での会社の価値を厳密に計算できる訳ではないことから、コストアプローチを用いる場合は、実務上、次の「時価純資産法」が通常使われます。

 

②時価純資産法(修正純資産法)

時価と簿価に大きな差が出ている項目について時価で評価した上で「純資産」を求める手法です。上記欠点を克服した形となりますが、どこまで時価評価するかは案件によって異なります。

 

先程の例では、純資産価額に土地の時価評価に伴う含み益40億円を加算した金額が株主資本価値となります。なお、継続して使用する資産負債は「再調達する際の時価」、廃止する資産負債は「処分する際の時価」を使います。

 

 

5. マーケットアプローチ


株式市場(マーケット)で成立する相場価格を基礎として企業価値を算定する手法です。「市場株価法」、「類似会社比較法(マルチプル法)」といった計算方法があります。

 

①市場株価法

上場企業の場合、既にマーケットに出回っている株式があるため、その金額も容易に確認することができます。この時に、株式市場で取引された株価の一定期間における平均値等を使用して、株主資本価値を評価します。

 

市場の評価に基づくことから非常に客観的で有用である反面、非上場企業には用いることができません。

 

②類似会社比較法(マルチプル法)

対象となる企業の類似会社を上場会社の中から見つけ、売上高・経常利益・EBIT・EBITDA・純資産等の項目から算出された倍率(マルチプル)を基礎として株主資本価値を算定する方法です。

 

非上場会社の場合は当然ながら市場株価が存在しないため、市場株価法に代替する手段として利用されます。

 

文章だけでは分かりにくいと思いますので、具体例を用いて見ていきましょう。指標には事業価値/EBITDAや事業価値/EBIT等が使用されることが多いですが、やや専門的となってしまいますので、ここでは分かりやすく「経常利益」を指標として用いることにします。

 

 

❶上場している類似会社の決定

まず上場している類似企業を見つけます。バリュエーションにおける評価対象となる企業とビジネスが類似している上場企業を見つけます。

 

 

 

 

❷倍率の算定

上記類似企業のデータを用いて倍率を算定します。

 

 

 

 

❸対象企業の価値評価

算定した倍率を評価対象会社に当てはめて、株主資本価値を求めます。

 

 

 

 

計算を見ると分かりやすいですね。類似会社であれば株主資本価値と指標(経常利益)の倍率は大きく変わらないという前提のもと、株主資本価値を求める手法です。

 

 

 

 

 

なお、非上場会社の株式は市場がないため、売買は必ず相対取引となります。譲渡制限がついている場合もあり、上場会社株式と比べて非上場会社株式は売却が困難です。そのため、売主は売却先が見つかった際に割引してでも売りたいと思うでしょう。

 

この発想を「非流動性ディスカウント」と言い、非上場企業の企業価値評価はやや割り引いて小さい金額で求めることが実務上よく行われます。

 

 

 

 

≪Column:類似会社の選定≫


類似会社は業界・業種・顧客属性・事業構造・ビジネスモデル・地域制・許認可等の観点から選びます。類似会社によって評価額が変わることも多いから、類似会社の選定が最も肝となる部分となります。

 


 

 

 

6. インカムアプローチ


将来期待されるキャッシュフローや損益(インカム)を基礎として企業価値を算定する方法です。主に「DCF(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー)法」、「配当還元法」といった計算方法があります。

 

①DCF(Discounted Cash Flow)法

DCF法は将来のフリーキャッシュフローを算定し、現在価値に割り引いた上で企業価値を評価する方法です。企業価値評価の中心どころとなる評価方法で、次回以降詳細に取り上げることとします。

 

②配当還元法

株主が受け取る配当に着目して企業価値を評価します。実績ベース・業種平均ベースでの配当を使用するほか、国税庁が公表している財産基本通達に規定する評価方法もあります。

 

配当のみを重視することとなるため、配当を重視する非支配株主間における企業評価に適していますが、その企業のビジネスモデル等は勘案されないことから、配当以外を考慮に入れる必要がある合併には適していません。

 

 

バリュエーションは難しいという印象を持っている方も多いと思います。たしかに細かい計算は難しい部分も多いですが、全体像はそこまで難しくはありません。この連載で、少しでもイメージが具体的になっていただけると嬉しいです。

 

次回から、バリュエーションで最も使用されるマルチプル法とDCF法について見ていきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第1回:『廃業と承継の 比較』~「廃業」するとこんなに大変! 「承継」できるとこんなに幸せ!~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

廃業するとこんなに大変


「もし自分が明日倒れたり病気になったら、従業員やお客さん、取引先はどうなるのだろう?」と、食事の後や寝る前に、又は夢の中で、不安に駆られたことはないだろうか。

 

後継者不在の多くの社長と話をしていると、大体60歳を超えたあたりでまず「漠然と今後の会社の行く末」に不安を感じ始め、65歳を超えると「廃業」が頭をよぎり始めるようである。

 

 

では、皆さんの会社が「もし」廃業した場合、ご自身や周囲に実際どのような影響があるのだろうか。

 

まずは従業員であるが、廃業する場合には基本的には「解雇」となる。小さな会社であれば、その多くが地元採用であろうから、現実的には、解雇でハイサヨウナラと杓子定規にドライに対応することなどできない。例えば、社長が謝罪すると共に再就職先を斡旋することまで行うケースもある。従業員の配偶者と社長の配偶者が同じ社交ダンスサークルのメンバーだったり、廃業した次の日にスーパーで出会うなんてことも想定されるのが、小さな会社の廃業の現実だからである。

 

 

社長が廃業を選択した場合に、得意先や仕入先、外注先などの取引先にはどのような影響があり、何をしないといけないのだろうか。

 

今まで長くお付き合いがあったところが大半だろうから、取引の頻度や金額にもよるが、できるだけ早く廃業予定の案内をすることになる。御社が取引終了することにより、連鎖的に廃業や倒産とならないようにするべきなのは当然であるから、得意先に限らず広く取引先全般に、なるべく早めに案内を行うべきだ。

 

 

法律論はさておき現実的には、小さな会社で廃業を選択した社長は、広く取引先への謝罪行脚をしないといけない。時には、こちらで自社に代わる会社を紹介する必要も出てくる。

 

また、ご自身にとっての影響も事前に知っておくべきである。事業で使っている機械や車両、備品などは、事業継続して使い続ける限り高い価値があるが、それを廃業と共に売却するとなると二束三文に、時には逆に廃棄コストがかかることもある。更には、工場や店舗、事務所には、撤去費用が莫大にかかることもある。

 

 

承継できればこんなに幸せ


では、マッチングサイトを使ってお相手が現れ、廃業ではなく「第三者承継(M&A)」ができた場合は、どうであろうか。

 

まずは従業員であるが、ほとんどの第三者承継では、雇用の継続が図られる。理由は単純で、昨今の人手不足の影響もあるが、小さな会社では従業員個々の役割が重要なことが多く、承継者である買い手には貴重な存在だからである。

 

次に取引先であるが、こちらも基本的には継続となる。廃業前の謝罪行脚ほど、辛く恥ずかしいものはないと思うので、これは廃業予定だった社長にとって有り難いことではないかと思う。

 

 

小さな会社の場合、雇用や取引先の継続が図られるということは、その多くが地元採用や地元企業であることも含めて考えると、地域社会に好影響となることも付け加えておく。

 

 

最後にお金の話であるが、社長の手残りは、廃業よりも第三者承継を選択できた方が多くなることが大半だ。廃業コストがかからず、承継対価も貰えるので、一般的には手残りが多くなるのである。税金も株式譲渡の2割課税であると、一般的には得することが多い。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より