[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

・バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

・DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

■実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

 

「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する


①バリュエーション手法と財務デューデリジェンスの重点調査項目

前号で解説したように、財務デューデリジェンスの重点調査項目は、バリュエーション方法によって変わります。

 

 

DCF法でバリュエーションを行う場合であれば、正常収益力、設備投資、運転資本、ネットデット、事業計画の分析が重点調査項目となり、純資産を用いた評価を行う場合は、実態純資産の分析が重要調査項目となります。

 

なお、重点調査項目以外にも、店舗を保有する企業であれば店舗別損益、工場を保有する企業であれば原価計算、製品別損益、小売店であれば客数・客単価、商品別損益等重要な調査項目があり、これらは買手企業のニーズによっても異なります。

 

 

買手企業の担当者としては、バリュエーションと財務デューデリジェンスの一般的な内容を理解し、対象会社の重点的な調査項目を検討し、また自社で行っている管理会計と照らしあわせて理解しやすい分析の切り口を検討しておくべきでしょう。

 

また、アドバイザーとしてM&Aをサポートする専門家としては、デューデリジェンスの開始に先立って買手企業の業種の特性、買手企業固有の状況、ニーズ、使用するバリュエーション手法等を把握するため、買手企業と十分なコミュニケーションをとることが必要となります。

 

 

②DCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係

下記では上場会社等のM&Aにて採用する代表的なバリュエーション手法の1つであるDCF法を用いた場合の財務デューデリジェンスとの関係を説明します。

 

 

 

 

 

 

事業計画から各期のFCF(フリーキャッシュフロー)を算出し、各期のFCFおよび残存価値をWACCを用いて現在価値に割引きます。

 

この割引額の合計が事業価値となります。この事業価値からネットデット(有利子負債から余剰資金および非事業用資産の時価を差し引いたもの)を差し引くことで株式価値を算出します。

 

つまり、株式価値を算出するためには、各期のFCF、WACC、ネットデットの金額が必要ということが分かります。

 

 

WACCは一般的にバリュエーション業務で算出し、FCFの金額についてもバリュエーションで算出することもありますが、財務デューデリジェンスではその基礎となる事業計画を分析する場合があります。

 

なお、事業計画のFCFの分析を行うには、その発射台となる現状のFCFの分析が不可欠であり、正常収益力、運転資本、設備投資の分析を行った上で事業計画を分析する必要があります。

 

ただし、事業計画については買手企業で分析を行うため、財務デューデリジェンスの範囲外となることもあります。

 

よって、DCF法によるバリュエーションを行う場合、価値算定に直接影響を与える項目は正常収益力、運転資本、設備投資、ネットデット、事業計画となり、これらの項目を財務デューデリジェンスで重点的に分析することになります。

 

 

 

 

 

[新型コロナウイルスを背景としたM&A需要調査](2020年7月公表)

コロナ禍、「生き残り」のためのM&A!

64.8%の経営者が新型コロナの影響で会社や事業の買収を実施・検討の事実
〜株式会社バトンズ、新型コロナウイルスを背景としたM&A需要調査を実施〜

 

 

M&A総合支援プラットフォームを運営する株式会社バトンズ(本社:東京都千代田区丸の内1-8-2 鉃鋼ビルディング24階、代表:大山敬義)が、新型コロナウイルスを背景としたM&A需要の調査を目的に、会社・事業の売却もしくは買収について検討したことがある経営者111名を対象に、インターネットによるアンケート調査を実施しましたのでお知らせいたします。

 

 

■アンケート調査結果の詳細を見る

 

 

 

[まとめ(アンケート調査結果より)]

今回、 新型コロナウイルスを背景としたM&A需要の調査を実施しましたところ、約9割の経営者がコロナを受け会社経営に変化があったと回答しました。また、コロナ発生後の現在、会社や事業の買収もしくは売却を実施・検討した経営者は約6割にのぼることが明らかとなりました。売却理由では「撤退」のため売るという選択肢も見受けられましたが、買収理由としては「市場の変化への対応」や「自社のウィークポイントの補強のため」が多く選択されました。コロナ禍における緊急事態宣言をきっかけに、都心から離れた地方にある営業拠点の増設や取引先の確保をしていく動きが増えていたり、ひとつの業種にこだわらず事業の多角化戦略を図っていく、といったトレンドが反映されています。

 

今後ますます市場の変化が激しくなっていく中、企業の生き残り戦略としてのM&Aには成約までのスピードが早いことが求められていきます。加えて、コロナ禍を受けて突発的に財務状況が厳しくなったことを理由とする売却が増えており、正しい企業価値を見極められ、トラブルなくM&Aの交渉や実務を行える専門家のニーズは今後さらに高まっていくでしょう。

 

 

 

情報提供元:株式会社バトンズ

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

⑥財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

■「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

 

財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場はどれぐらいですか?また、どのような要素で決まりますか?


①コンサル企業の規模

財務デューデリジェンスの費用を検討するには、まず、どれぐらいの規模のコンサルディングファーム、会計事務所に依頼するかによって相場感が異なります。

 

当然の事ですが、大手のコンサルティングファームや、監査法人等に依頼すると費用は高くなり、中小のコンサルティングファームや会計事務所に依頼すると費用は安くなります。必ずしも大手であるから品質が高いとは限りませんが、一般的に大手は品質が高く、海外に提携事務所があるため海外案件等に強みを持っています。

 

一方、中小のコンサルティングファームや会計事務所は、大手と比べると品質にばらつきがありますが、小回りや融通が利き、費用は安くなります。

 

大手であれば最低500万円以上、中小であれば最低100万円以上が相場となります。(戦略的に安く請け負っている場合や、調査範囲を限定している場合等はこの限りではありません。)

 

 

②プロフェッショナル度

同規模のコンサルティングファームや会計事務所であっても、それぞれに特徴があります。M&Aのマッチングに強みを持っている場合や、財務デューデリジェンスを得意としている場合、税務顧問をメイン業務としているが財務デューデリジェンスも行う場合等、財務デューデリジェンスに対するプロフェッショナル度が大きく異なります。プロフェッショナル度が高い事務所に依頼するほど、費用は高くなることが一般的です。

 

 

③対象企業の規模

財務デューデリジェンスを行いたい対象企業の規模によっても費用は異なります。規模の大小により、調査項目の大枠はあまり影響しませんが、一般的に規模が大きくなると子会社を保有していたり、事業を複数行っている場合、海外展開している場合等がありこれらの調査が必要であれば費用も高くなることが一般的です。売上3億円の会社と売上30億円の会社の財務デューデリジェンス費用は2倍程度、売上3億円の会社と売上300億円の会社は3~5倍程度の差となることが多いでしょう。

 

 

④調査範囲

財務デューデリジェンスと言っても、M&Aスキーム、バリュエーション方法や調査の目的等により、当然調査項目は異なります。これらの調査項目を取捨選択し絞ることで、多少の費用削減にはなるでしょう。しかし、会計は様々な項目と連動していることが多く、あまり調査項目を絞りすぎると、会社全体としての動きを見誤ったり、見落としてしまうことがあるため注意が必要です。

 

財務デューデリジェンスの費用は、コンサルティング企業の規模、コンサルティング企業のプロフェッショナル度、対象企業の規模、調査範囲等で異なります。検討している企業の財務デューデリジェンスの費用を想定した上で、どのコンサルディング企業に、どの調査項目を依頼するかを検討しましょう。

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実践講座『価値評価(バリュエーション)』]

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、マーケット・アプローチ

2、倍率法

3、類似会社の選定

◇EBITDA倍率の計算例

4、個別論点

①類似会社は何社必要なのか?

②対象会社が複数事業を抱える会社(例えば、電子機器、化学品、自動車部品)の場合、どのように評価すればいいか?

③倍率法でサイズプレミアム(SCP)を考慮するケースはあるのか?

④倍率法でよくある誤りとは?

5、異次元緩和の影響

 

 

[関連記事]

■M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

 

 

1、マーケット・アプローチ


マーケット・アプローチには、①対象会社の株価を基準とする評価方法(市場株価法)、②対象会社と類似する上場会社の株価を参考とする評価方法(倍率法)、③類似のM&A取引の取引価額を参考とする評価方法(取引事例法)等があります。どれも株式市場や第三者間の取引価格を参考とする評価であるため、評価の客観性が高いと考えられています。

 

 

①市場価格法は、対象会社が上場会社であるケースや上場会社が絡む組織再編時に採用されており、対象会社が非上場会社の場合は適用できない方法です。

 

②倍率法は、対象会社が非上場企業の場合に適用できます。M&A取引の中で対象会社が非上場会社の場合が圧倒的に多いことを考慮すると、最も使用頻度の高い方法と言えます。

 

③取引事例法は、そもそも類似取引自体が少なく、存在する場合であっても、個々のM&A取引は個別要因が深く絡んでいる(シナジー効果の見立て等)ので、あるM&Aの取引価格を別のM&Aの取引価格に適用するには高度な判断が必要となります。そのため、取引事例法は参考値として利用されるケースが多いです。

 

 

2、倍率法


上場企業の中から、対象企業と事業内容、事業規模、収益の状況等が類似する企業を複数選定し、それら類似会社の株式時価総額や事業価値に対する財務指標の倍率を算定し、当該倍率を対象企業の財務指標に乗じて価値を推計する手法です。

 

倍率は、EBITDA倍率の使用頻度が最も高いですが、その他にも様々な倍率が考えられます。下記のような業界特有の倍率を使用するケースもあります。

 

 

 

 

 

 

倍率の計算式の分子(事業価値と株式価値のどちらか)に注意する必要があります。PERは株式時価総額(株式価値)を分子とするため、「PER」×「対象会社の税引後利益」によって、対象会社の株式価値が算定されます。一方、EBITDA倍率は、事業価値を分子とするため、「EBITDA倍率」×「対象会社のEBITDA」によって、対象会社の事業価値が算定されます。事業価値と株式価値の整理ができていないと、交渉時に意見がかみ合わず、時間のロスが発生してしまいます。

 

 

 

 

 

 

使用する倍率に関して、特別の理由がない限り、M&Aで最も使用頻度の高いEBITDA倍率を用いるのがベターです。ただし、対象会社の一過性の損益を平準化した後の調整後EBITDAが赤字の場合、EBITDA倍率を使用できないため、その際は売上倍率等を検討します。なお、売上高倍率とEBITDA倍率を30:70のようにウェイト付けをしたレポートを見ることがありますが、ウェイト付けの計算根拠が曖昧で、社内外に対して説明に窮することになるため、避けた方がいいです。

 

 

3、類似会社の選定


倍率法では、類似会社の選定が最も重要です。対象会社に類似する上場企業を選定する際、以下のような基準を設定します。

 

[ビジネス]

●事業の類似性:業界、商品、製品、サービス

●事業の成熟度:製品ライフサイクル

●事業戦略:直営vsFC、自社製造vsファブレス、ブランド戦略vs低価格戦略 等

 

[財務]

●収益性、成長率、事業規模 等

●地域

●販売拠点、製造拠点 等

 

 

 

具体的には、以下のようなスクリーニング作業(初期的⇒量的⇒質的)を通じて、類似会社を選定します。

 

(初期的スクリーニング)

●データーベースの産業別分類による抽出

 

(量的スクリーニング)

●売上高規模:1,000億円超を除外

●EBITDAマージン30%超及び10%未満を除外

●売上高成長率10%超を除外 等

 

(質的スクリーニング)

●有価証券報告書、企業ホームページ等をチェック

✓事業が過度に多角化している会社を除外

✓収益の大半が製造業からの収益ではない会社(投資事業、不動産事業等)を除外

✓事業戦略の異なる会社を除外(B2C向け、ファブレス企業等) 等

 

 

◇EBITDA倍率の計算例◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4、個別論点


①類似会社は何社必要なのか?

⇒重複の程度の高い会社があれば、選定する企業は少なくてもいいが、倍率の分散傾向が強ければ、傾向を把握するために、より多くの類似会社が必要と考えています。実務上、上記のスクリーニングを通じて4社~7社程度の適当な類似会社が選定されていれば、評価結果の信頼性に問題ないと考えられます。

 

 

②対象会社が複数事業を抱える会社(例えば、電子機器、化学品、自動車部品)の場合、どのように評価すればいいか?

⇒対象会社の各事業別(電子機器、化学品、自動車部品)に類似会社を選定し、各事業別の倍率を用いて、事業別の事業価値を算定します。その後、事業別の事業価値を合算して全社の事業価値を計算します。なお、ソニーのような上場会社は、コングロマリット・ディスカウントによって、全社の事業価値が、事業別の事業価値の合計よりも小さいと考えられます。一方で、シナジー効果(共通仕入、多能工の活用、管理部門の共通化等)が存在する場合もあるため、複数事業のケースにおいて、コングロマリット・ディスカウントを機械的に反映するのではなく、案件ごとの詳細な検討が必要です。

 

 

③倍率法でサイズプレミアム(SCP)を考慮するケースはあるのか?

⇒サイズプレミアム(SCP)は、株式時価総額が小さな企業に対して適用するプレミアムのことをいいます。ビジネスリスクが同程度の場合、規模の大きな企業よりも小さい企業の方がリターンは高いという実証研究に基づくもので、実務で広く共有されている概念です。具体的には、DCF法の割引率を推定する際に、対象会社の株式価値の規模に応じたサイズプレミアム(5%~5.5% )を加味します。

⇒倍率法において、類似する上場会社が規模の大きい会社しかない場合、算定された倍率は大企業ベースの倍率と考えられるため、対象会社が小規模会社のケースでは、倍率法で算定された株式価値に対してサイズプレミアムを反映させることを検討します。具体的には、DCF法で、サイズプレミアムの有無に対応する株式価値の差額(比率)を用いて、倍率法の株式価値を減額させます。

 

 

④倍率法でよくある誤りとは?

⇒翌期以降、大型の設備投資を予定しているが、株式価値に反映されていない。DCF法では、将来の設備投資はフリーキャッシュフローに反映されますが、倍率法では、事業価値から翌期以降の大型の設備投資額(通常の設備投資と異なる規模)を控除する必要があります。

⇒規模、利益率、成長率等が大きく異なる会社を類似会社としているケース

⇒類似会社のEBITDAに一過性の損益が含まれているケース

⇒対象会社のEBITDAに一過性の損益が含まれているケース

⇒対象会社のEBITDAに経済合理性のない関連当事者取引が含まれているケース(多額の役員報酬、社長のプライベートの費用等)等が要因として考えられます。

 

 

 

5、異次元緩和の影響


2010年以降、日本銀行が金融緩和を目的として上場投資信託(ETF)を購入しており、2013年以降、インフレ目標を達成するため異次元緩和の一環として、毎年の購入量が大幅に増加しています(2020年3月:日本銀行のETF購入残高29.4兆円)。日本銀行は、一般投資家の経済合理性とは異なる価値判断に基づいて株式投資(日本銀行のETF購入は間接的な株式購入)をしているため、日本銀行のETF購入がマーケットに歪みを生じてる可能性があると考えています。マーケットの歪みの程度について、学術的な実証研究の成果がまだないので、定量的な判断は出来ないのですが、倍率法の倍率もある程度の影響を受けていると実務の中で感じることがあります。

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

—連載(全5回)—

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

※掲載タイトル、内容は予定のものを含みます。

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第2回:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連記事]

■「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

 

小売業のM&Aを検討していますが、小売業の特徴や留意点はありますか?


小売業は、最終顧客に商品を販売する業種です。BtoBの業種と比較すると小売業を含むBtoCの業種は、販売先(顧客)の数が非常に多くなります。そのため、顧客ごとの売上高・利益率等を把握して分析することはせず、客数・客単価等をKPI指標として設定し、分析することが小売業の特徴の1つとなります。

 

また、小売業は、販売ルートとしては実店舗での販売と、オンライン・通販等での販売とに分類ができます。近年では、オンライン・通販等を行う小売業者も増加していますが、中小企業では実店舗での販売がメインとなっているとことが多いように思います。

 

店舗が複数ある場合には、各店舗の損益管理が経営上重要となります。店舗別損益は、最低限売上高と売上原価、そして店舗でかかった経費について把握する必要があります。さらに、店舗ごとの貢献利益・営業利益の分析や客数・客単価等のKPIの情報を把握することが望ましいでしょう。貢献利益とは、店舗の売上高から売上に直接紐づく変動費(売上原価や販促費等)および店舗単独で発生する固定費(店舗人件費や店舗家賃等)を差し引いた利益のことです。貢献利益は店舗単独でどれぐらいの利益を獲得したのかを把握し、今後の施策や出退店等を検討する重要な利益指標となります。

 

貢献利益について具体例を用いて説明します。下図は本社と3店舗を有し、売上高3億円、営業利益5百万円の企業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗Aおよび店舗Bは貢献利益がプラスであるのに対して、店舗Cは貢献利益がマイナスとなっています。店舗Cを閉店して、売上も費用も全てかからない状態になる場合は、全社損益が5百万円改善することになります。しかし、正社員の雇用を継続する必要がある場合や、地代家賃の契約上途中解約による違約金が発生する場合等個別事情がある場合には、それらの事項も含めた上で検討する必要があります。

 

M&Aを検討している場合、対象会社の損益管理の状況を把握し、損益管理ができていない場合には、デューデリジェンス等にて会計士等の専門家を用いて店舗の損益数値を分析した上で、M&Aの検討をすることをお勧めします。

 

 

 

また、飲食店等も同様ですが、小売業の特徴として、現金売上が多い点が挙げられます。現金売上が多く、商品の仕入時は掛仕入で行っている企業の場合、買掛金の支払いよりも現金売上が先に発生するため、運転資金がほとんど必要ありません。

 

 

 

 

 

 

上図の例では、5月10日に仕入れた商品の支払いが6月末であることに対して、5月20日に現金売上となり、5月20日から6月末までの間現金が多い状況が続きます。そのため、小売業は他業種と比べ資金繰り上有利な業種と言えます。

 

一方で、2019年から実施されているキャッシュレス・消費者還元事業等の影響で、クレジットカードや電子マネー等での支払いが増加しているため、資金繰り上必ずしも有利とは言えない状況になりつつあります。M&Aの対象会社の運転資金の状況を分析し、キャッシュレス化の影響も把握することが望ましいでしょう。

 

 

また、小売業でも特に生鮮食品など、商品の劣化により販売できる期間が短い商品を扱っている場合は、廃棄ロスの管理が重要です。中小企業では廃棄ロスの管理を行っていない企業も少なくありません。例えば、筆者が関与した企業で改めて廃棄ロスを計測したところ、廃棄ロス率が20%であることがわかったケースもあります。仕入れた商品5つのうち1つは廃棄する計算です。廃棄ロスをゼロにするのが良いかどうかは経営判断となりますが、20%はさすがに多いためすぐに削減の施策を実行しました。M&Aの対象会社が廃棄ロスを管理していない場合や、廃棄ロスが多い場合には、貸借対照表に計上されている棚卸資産について全額資産性があるかどうかの検討が必要となります。また、買収後は廃棄ロス率の削減等の改善施策を行う必要があります。

 

 

また、小売業特有の仕入方法として買取仕入、委託仕入、消化仕入の大きく3つの仕入方法があります。

 

●買取仕入は、一般的な仕入のイメージで、その名の通り、店舗側で商品を買取って販売することです。

 

●委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置きます。商品が売れたら商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。

 

●消化仕入れは、商品が店舗に納品されても仕入計上せずに、商品が販売された時点で初めて仕入れが計上される方法となります。売上仕入とも言います。

 

 

買取仕入は、買取っていますので商品が売れ残っても返品はできませんが、消化仕入と委託仕入は商品が売れ残った場合に返品が可能であり在庫リスクがないことが特徴です。M&Aの対象会社の仕入方法を確認し、在庫リスク等を把握した上でM&Aを検討することをお勧めします。

 

 

小売業のM&Aを検討する場合は、店舗損益をどのレベルまで把握できるかを確認しましょう。損益が把握できていない場合には、資料を入手して店舗損益を作成・分析する必要があります。また、KPIの分析状況、運転資金の状況、キャッシュレス化での影響、仕入先との契約関係等を把握した上でM&Aに臨むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

⑩PMIって何?-M&Aの成功はPMIで決まる!-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


M&Aにおいて、クロージング(買収契約締結)までの手続はもちろん非常に重要ですが、クロージングをもってM&Aが終わるわけではありません。M&Aを真の意味で成功に導くための鍵を握るのがPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)です。

 

PMIとは、合併や買収後において買い手企業と対象会社を統合する一連のプロセスを言います。

 

M&Aによる企業統合の目的には、市場シェアの獲得、海外進出、先進技術の獲得等さまざまなものがありますが、そのような統合の効果を最大化するために行われるプロセスがPMIであり、統合の対象範囲は経営、業務全般、企業文化など統合に関わるすべてのプロセスに及びます。

 

 

ではどのようにPMIを進めればM&Aによる企業統合の効果を最大化することができるのでしょうか。

 

実務上は多様な考え方がありますが、一般的に、以下の3点が重要なポイントになると考えられます。

 

①プレディール(契約締結前)からの準備

プレディールの段階から統合後のあるべき姿を意識することが必要と考えられます。この時点で統合にかかるシナジーや機会の実現による統合効果を評価しておくとともに、統合後の課題についても整理・把握し、考え得るリスクや不安にどのように対処すべきか予め検討しておくことが有用です。

 

上場企業が非上場企業を買収するM&Aでは、クロージング後、遅くとも3か月以内に四半期決算を迎えることになります。膨大な財務データを集計し、正確かつ迅速な決算が求められる上場企業の決算報告プロセスに即座に対応できる非上場企業は多くありません。経理・財務の観点からは、決算体制の統合が喫緊のPMIの課題となるものと考えられます。

 

②PMIプロジェクト体制の構築

PMIを円滑に進めるためにプロジェクトの適切なリーダーを選任した上で、可能な限り早いタイミングに統合プロジェクト体制を構築すべきと考えられます。プロジェクトメンバーは、専門性や統合実務への関与度合いをベースに選定し、実効性とスピード感を担保する必要があります。

 

また、PMIにはプロジェクトメンバー以外のマネジメント・従業員もなるべく巻き込む必要があり、特に統合先の従業員に疎外感や他人事の感覚を抱かせず、「我が事」として共にPMIを進めていくという視点が大切になります。この熱量が維持される期間としても次に述べる100日間が重要であり、この期間で統合先との根本的な認識を合わせられるかがPMIの成否を左右すると言えます。

 

③100日プランの策定

前述のように、PMIは実効性とスピード感をもって進めていくことが重要であり、そのために一般によく採用されるのが、PMIのあらゆる課題への取り組みを100日間のスケジュールに落とし込む「100日プラン」です。

 

100日プランにおける課題は、統合後の組織・マネジメント体制の決定、全従業員レベルでの企業理念等の共有、事業戦略策定と経営課題への取組み、事業計画や予算の策定、業務プロセスやITシステムの整備、人事・報酬体系の設計等多岐にわたります。M&AのプロセスにおけるPMIの目的と活動を一覧にしたものが下図となりますのでご参照頂ければと思います。

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

⑤株式譲渡と事業譲渡

~株式譲渡、事業譲渡のメリットとデメリットとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A は株式譲渡で進めることが一般的であると思いますが、事業譲渡という手法もあると聞きました。両者について説明してください。

 

A、株式譲渡は手続きが簡便であり一般的ですが、各種リスクを引き継ぐというデメリットがあります。

この点、事業譲渡であれば取得する資産を取捨選択できるため、手間はかかりますがリスクの遮断が可能です。

 

 

 

 

図表は株式譲渡と事業譲渡のイメージ図とメリット・デメリットをまとめたものです。

 

 

現状、中小企業のM&A の大多数が株式譲渡で行われています。株式の譲渡契約のみで会社の全ての権利義務の移管が可能であるためですが、当然に簿外債務を引き継ぎますので粉飾決算をしていた経営不振企業の事業再生案件などでは事業譲渡(ないしはその発展形である会社分割)が行われることも多くあります。また、対象会社株主の権利関係が不明確な場合や、所在不明株主が多数いる場合など、株式譲渡では有効に経営権が引き継げないと思われる場合にも事業譲渡は有効な手段となります。

 

 

個人株主の株式の売却において株式譲渡が好まれるのは税制の問題もあります。図表に記載のとおり、株式譲渡の場合、売手は株式譲渡益課税(20.315%)で課税が完結しますが、事業譲渡の場合、対象会社で事業譲渡益に対して法人実効税率(約35%)で課税が生じ、さらに売却代金を売手に配当で還流した場合、累進課税(最高49.44%)が生じるため手残りが極端に目減りしてしまうためです。法人株主であれば受取配当の益金不算入制度があるため、利益は配当の形で受け取った方が手残りが多くなるのとは対照的です。

 

 

事業譲渡の場合、取得する資産や承継する負債を取捨選択できるのがメリットですが、個別の移転手続きが必要になりますので手間はかかります。また、不動産を移転する場合には不動産取得税や登録免許税といったコストもかかります。さらには事業に係る許認可がうまく移転できない場合もあり、事前に監督官庁に確認を行う必要があります。この点、会社分割を用いた場合、一定の条件を満たすと不動産取得税が非課税になりますし、引き継げる許認可もあります。

 

 

事業譲渡のメリットとしては営業権が税務上の資産調整勘定の計上要件を満たす場合、損金算入できる点が挙げられます。また減価償却資産については中古資産の耐用年数の適用が可能であり、早期に損金化が可能となります。

 

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「取得した株式の取得価額と時価純資産価額に乖離がある場合」についてです。

 

 

[関連解説]

■【Q&A】のれんの税務上の取扱い

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 


[質問]

日本法人がM&Aで外国法人の株式を取得した場合における日本法人株式の財産評価基本通達に基づく純資産価額方式による評価上、当該外国法人の買収価額と時価純資産価額に乖離がある場合の差額(のれん)の相続税法上の評価について、どのように取り扱うべきでしょうか。

 

財産評価基本通達185のかっこ書きの評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとされることを準用し、買収後3年間は買収価額(=帳簿価額)による評価を実施し、3年経過後は当該外国法人の純資産価額方式による評価としても差し支えないでしょうか。

 

[回答]

ご照会の趣旨は、評価会社の株式の価額を評価する際、評価会社がM&Aにより取得した本件外国法人の株式の取得価額と同法人の株式の時価純資産価額に乖離があることから、その乖離している差額部分(のれん)をどのように取り扱えばよいのか、を問うものです。

 

以下の1又は2のいずれにより取扱っても差し支えないと考えます。

 

 

1 取得した株式の価額のままで取扱う場合
本件事例の評価会社がM&Aにより取得した本件外国法人の株式の取得価額と同法人の株式の時価純資産価額に乖離がある場合で、その時価純資産価額が取得価額を下回っている場合には、評価会社の株式を評価する純資産価額(相続税評価)が過大に評価されることがないと考えますので、その乖離している部分の金額(以下「本件乖離差額の金額」といいます。)を特に考慮しないでも差し支えないと考えます。

 

評価会社の株式の価額を1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を評価する際、その評価会社の保有資産に本件外国法人の株式が含まれていますので、本件外国法人の株式の価額は、財産評価基本通達(以下「評基通」といいます。)186-3《評価会社が有する株式等の純資産価額の計算》の定めにしたがって計算します。

 

その計算により算出された本件外国法人の株式の価額は、評価会社の株式を評価する際の「取引相場のない株式の評価明細書」の第5表の資産の部の有価証券(外国法人に係る株式)の科目の相続税評価額欄に記載され、その有価証券の帳簿価額欄の金額は本件外国法人に係る株式の帳簿価額(取得価額)を記載します。

結果的に、評価会社が有する有価証券(本件外国法人に係る株式)を含む各資産の価額の合計額が相続税評価額及び帳簿価額のそれぞれの純資産価額(第5表の⑤及び⑥)の計算の基に含まれているので、同表の⑤-⑥による⑦欄に評価差額に相当する金額(マイナスの場合は0)では本件乖離差額の金額が整理、吸収された後の金額が算出されます。

 

そうすると、評価会社が取得した本件外国法人の株式の取得価額と同株式の相続税評価額に乖離があったとしても、本件乖離差額の金額は評価会社の株式評価における純資産の評価差額の計算において整理、吸収されてしまうことになります。
評価差額に相当する金額は、株式の課税時期における純資産価額(相続税評価額)を計算する際に控除する法人税額等相当額(同表の⑨)の計算の基になる価額です。

 

したがって、本件乖離差額の金額は、評価会社の株式の純資産価額(相続税評価額)を算出する際の控除項目の中で整理、吸収されてしまいますので、評価会社の株価が過大に評価されることがないと考えます。

 

 

2 営業権として取扱う場合
評価会社の決算において、M&Aにより本件外国法人を買収した際の営業権を新たに貸借対照表に資産として計上がある場合には、評価会社の株式の評価における純資産価額(相続税評価額)の計算において営業権の科目を計上して評価することになります。

 

そのM&Aにより本件外国法人を買収した際、評価会社が本件外国法人の有する営業権(のれん)の価値を認め、その価値を評価してM&Aの買収価額を決定している場合は、その認定した営業権の価値に相当する金額を営業権の取得価額として取扱い、評価会社の資産に本件外国法人に係る営業権の価額を計上すべきと考えます。

 

なお、M&Aの契約書に本件外国法人に係る営業権が取引対象として掲記されていない場合には、簿外の営業権を含めて本件のM&Aが行われたと考えられます。

 

ところで、営業権とは、「企業が有する好評、愛顧、信認、顧客関係その他の諸要件によって期待される将来の超過収益力を資本化した価値」であると説明されています。

 

財産評価においては、営業権は、他からの有償取得のものであるか、自家創設のものであるかを問いませんが、本件においては他から取得した営業権になります。
相続税財産の評価上、営業権の価額は、企業の超過収益力を基に計算することで取扱われています(評基通165、166)。本件外国法人に係る営業権の価額は、評基通165、166の定めにより評価するのが相当です。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年10月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

[M&A担当者のための実践講座『価値評価(バリュエーション)』]

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、社内価値評価の重要性

2、社内価値評価の作業

3、評価対象

(事業価値、株式価値)

4、評価手法の概要

(インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コストアプローチの概要とメリット・デメリット)

5、終わりに

 

 

[関連記事]

■倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

 

1、社内価値評価の重要性


M&Aのリスクの一つは、高値買いです。M&Aが成長戦略のツールとして定着し、買い手候補は増加する一方で、高収益企業の売り案件はまだまだ少ない状況です。そんな中、入札形式を採用するケースが増加しているため、買収価格は高騰する傾向にあります。

 

高値掴みを防止するためには、外部評価機関の価値評価レポートの入手とともに、社内での適切な価値評価が重要です。相対取引の場合であっても、売り手企業の言い値に左右されず、売り手に対して合理的な評価額を主張することが必要です。

 

売り手の仲介会社から株式価値算定書が開示されることもありますが、その多くは純資産法をベースとしたものが多く、マーケット水準との乖離が不明であり、また将来の収益力を反映していません。純資産に営業権を加味したものであっても、営業権の算定に恣意性が関与しており、ファイナンス理論の裏付けのない評価方法といえます。特に、外部ステークホルダーに買収価格の説明責任がある場合、説明に窮することになりますので、あくまでも参考程度に留めることをお勧めします。

 

なお、上場会社では、M&A後の会計処理(減損の判定、PPA)において、DCF法によって計算された評価額を前提とするため、買収時に適切な価値評価を実施していないと、開示スケジュールに間に合わない(監査に時間がかかる)等の事態が生じる可能性があります。

 

 

2、社内価値評価の作業


M&Aにおける価値評価の主な社内作業は、以下となります。

 

①   倍率法で大まかな水準感をつかむ
②   DCF法の算定結果との整合性を確認する
③   ①②に差異がある場合、差異要因(事業計画、割引率、成長率、類似会社の選定)を分析する
④   価値変動に影響を与える項目を抽出し、シナリオ分析(パラメーターの設定)を実施する
⑤   シナジー効果の価値を算定する
⑥   財務税務DDの確認項目を抽出する
⑦   DDの結果を価値評価に反映する
⑧   最終的な提案価格を確定する

 

 

①倍率法は、EBITDA倍率を用いるケースが一般的です。類似会社は、データーベースの産業別分類等を利用して、企業規模、収益性、事業分野等の類似した会社を少なくとも5社程度選定します。

 

②DCF法では事業計画が必要となります。売り手企業から事業計画の開示がある場合、売り手の事業計画に一定の修正を加味した修正事業計画を基にDCF法の計算を行います。事業計画の開示がない場合は、予算等を参考に買い手企業が作成します。

 

③倍率法とDCF法によって算定された評価額のレンジは、一般的にオーバーラップすることが多いですが、乖離が生じるケースもあります。その場合は、乖離の要因を分析し、整合性を阻害している要因を特定し、修正の要否を検討します。

 

④事業計画の前提条件のうち、価値評価に影響を与える項目(例えば、材料費率、外注費率、労務費、設備投資等)を抽出し、それらをパラメーターとするシナリオ分析を行います。

 

⑤M&Aによるシナジー効果を検討します。DCF法の場合、シナジー効果の金額の見える化が可能です。

 

⑥④のシナリオ分析において、価値に与える影響の大きい項目及び⑤のシナジー効果の実現可能性を財務DDの重点項目として抽出し、調査します。

 

⑦DDの結果(例えば、主要取引先の喪失の可能性、主力製品の販売落ち込み予測、主要材料の調達コストの増加見込み、運送費の上昇見込み)を価値評価に反映させます。

 

⑧価値評価の算定結果と売り手との交渉過程を通じて、最終的な買収価格が確定します。なお、買収価格は、株式譲渡契約の契約内容(表明保証、補償条項)等の影響も受けます。

 

 

3、評価対象


「事業価値」と「株式価値」の言葉の定義が曖昧な場合、交渉時の意思疎通が上手く行かない可能性がありますので、正確に理解する必要があります。

 

[事業価値]

事業(ビジネス)から創出される価値です。DCF法ではフリー・キャッシュ・フローの割引現在価値の合計、EBITDA倍率法ではEBITDA×倍率、貸借対照表では運転資本、固定資産及びのれんの合計です。

 

[株式価値]

事業価値に非営業用資産(投資資産、遊休資産等)の時価を加算し、純有利子負債(借入金等の負債から現預金を控除)の時価を差し引いたものです。

 

 

 

 

 

 

4、評価手法の概要


価値算定の手法は、①インカム・アプローチ、②マーケット・アプローチ、③コスト・アプローチの3つに分類されます。

 

①インカム・アプローチ

DCF法が代表的な評価手法です。企業の事業活動によって生み出される将来のキャッシュ・フロー(FCF)を、想定割引率を用いて現在価値に割り引いて、事業価値を算定する手法です。事業価値に非営業用資産を加算し、純有利子負債を控除して株式価値を算出します。

 

 

(メリット)

●将来の収益力を考慮するため、継続企業の評価に適しています。また、キャッシュ・フローをベースとする計算であるため、会計処理方法の影響を受けません(クロスボーダーのM&Aでは重要な点となります)。さらに、将来CFと事業価値・株式価値の関係を明示的に把握できるため、買収価格のシミュレーションやシナジー効果の見える化が可能です。そして、前述のように会計上のPPA・減損テストでも用いられる手法であるため、買収時に必須の方法と考えられます。

 

(デメリット)

●事業計画、資本構成、割引率、成長率等により評価額が大きく左右されます。そのため、可能な限り客観的・合理的・説明可能な前提条件の設定が重要になります。

 

 

②マーケット・アプローチ

株価等のマーケット情報を基礎に価値を推定する方法で、市場株価法、類似会社比準法及び取引事例法が多く用いられています。

 

◆市場株価法

対象会社が上場会社の場合に使用される方法です。株価には、企業の将来性、収益力、財政状態が織り込まれています。上場会社の組織再編の株価算定、TOB価格、自己株式の買取価格に使用されています。

 

◆類似会社比準法

上場企業の中から、対象会社と事業内容、事業規模、収益の状況等が類似する企業を複数選定し、それら類似会社の株式時価総額や事業価値に対する財務指標の倍率を算定し、当該倍率を評価対象企業の財務指標に乗じて価値の推計を行う手法です。

 

◆取引事例法

対象会社と類似事業の買収事例にもとづき、事業価値及び株式価値を評価する手法です。

 

 

(メリット)

●市場株価法は、実際の市場株価に基づくため、不特定多数の投資家の評価を反映できる客観的な指標といえます。類似会社比準法は、簡便に計算できる点がメリットです。取引事例法は、実際の第三者による買収実績を反映しているため、客観的な評価と考えらる場合があります。

 

(デメリット)

●市場株価法は、上場会社の株価であっても、あらゆる場面で適用できるものでなく、株式の取引状況、マーケット環境、市場株価の動向を踏まえて、採用できないケースがあります。

●類似会社比準法は、対象企業と類似性の高い上場企業の選定が困難な場合は、対象企業と類似会社の相違点の調整や採用する倍率の選定等の高度な判断が必要です。

●取引事例法は、案件の特異性等によって買収価額が実態価格と乖離した状態で取引されている可能性があります。

 

 

③コスト・アプローチ

貸借対照表上の純資産額を基礎に株式価値を算定する方法です。資産及び負債のうち時価の判明するものについては時価に評価替えを行い、その評価替え後の資産と負債の差額である修正純資産(含み損益を反映)によって株式価値を評価します。

 

 

(メリット)

●純資産法による株式価値は、貸借対照表を基に評価するため、その計算方法が一般的に理解されやすく、比較的客観的な評価結果と言えます。また、金融資産が主要資産である金融会社や不動産会社等のアセットビジネスに対して有用な評価手法です。

 

(デメリット)

●将来の超過収益力が評価に反映されません。対象会社の強み(超過収益力)に着目してM&Aを実行しているにも関わらず、その超過収益力が評価されないため、M&Aの実態に整合しない評価方法と言えます。また、営業用資産の含み損益を時価評価しても、事業を廃止しない限り、価値として実現しないので、事業継続性を前提とした評価と乖離する可能性があります。

 

 

5、終わりに


このように、価値評価の一般的な算定手法として、「DCF法」、「類似会社比準法」、「取引事例法」、 「純資産法」等があります。それぞれの方法にメリット、デメリットがあるため、評価対象事業の特性、評価の目的等を総合的に勘案して評価方法を選定し、さらに、評価方法間のクロスチェックが重要となります。

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全5回)—

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

※掲載タイトル、内容は予定のものを含みます。

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第1回:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連記事]

■「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

 

Q、製造業のM&Aを検討していますが、製造業の特徴や留意点はありますか?


製造業の特徴は、当たり前ですが製品を製造しているということです。製品を製造していると製造していないでは、経営管理上大きく異なります。なお、製造業といっても多岐にわたりますが、広く一般的な製造業について記載いたします。

 

製造業のビジネスは、簡潔に記載すると「部品調達→製造→販売」となります。良い製品・商品・サービスを販売することはどの業種でも同様に重要ですが、製造業では製造工程の改善等による自社内の努力による利益改善の余地が大きいことがまず重要な特徴となります。

 

また、自社内で製品の製造を行うため、一般的に製造部品の仕入額、製造人員の人件費、外注費が重要な費用項目となります。会社の費用構造を把握した上で、製品の製造の中でどの部分が会社の強みであり、また改善余地があるのかを把握することが重要となります。

 

例えば小売業であれば、A商品を100円で仕入れて150円で販売すると、A商品の売上総利益は50円となりますが、製造業では商品の製造原価を算出する必要があります。製造原価を算出すること、つまり原価計算ですが、この原価計算を正確に行わないと製品ごとの原価が分からず、150円で販売した場合に利益がいくらになるのかが不透明となってしまいます。

 

 

しかし中小企業の場合、原価計算を行っておらず、製品の原価を把握できないままに製造し販売していることも少なくありません。社長の頭の中には、なんとなくの原価が想定されていますが、専門家により原価計算を行うと、実は赤字販売をしていたというような事もあります。つまり、原価計算を正確に行っていないと、製品ごとの利益の大小がわからず、どの製品を重点的に製造し・販売するのが会社として良いのか等の経営判断を誤る可能性があります。

 

製造業は、「部品調達→製造→販売」となり、一般的に製品のリードタイムが長いため、運転資金が他の業種と比べて多額になる傾向にあります。

 

 

仕入の支払いサイト、製造にかかる期間、売上の回収サイト等を把握することで製品リードタイムが把握でき、必要な運転資本の把握が可能となります。併せて、在庫の棚卸の頻度や滞留状況、廃棄の実施状況等の確認もしましょう。

 

また、M&Aにより、製造する製品の種類や量が変更になる場合、どの工程がボトルネックになるのかを把握することも重要です。ボトルネックを事前に把握しておくことで、製造工程の変更や、投資による解消を早期から検討できるからです。

 

さらに、工場の設備や機械の実質的な耐用年数、現在の消耗度、設備投資の周期や金額等を事前に把握しておくことも重要です。売手企業は、M&A実施前に設備投資は積極的には行わず、むしろ抑えることが多いため、買手企業による買収後、設備投資により多額の出費が必要になる可能性があります。設備投資の予定等も踏まえて買収価格の交渉を行うことが望ましいでしょう。

 

製造業は、他の業種とは異なる様々な特徴や留意点があるため、事前にデューデリジェンス等を通じてこれらを十分に理解した上でM&Aに臨むことが必要です。