[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

①実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性

~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が行うM&A 支援業務の相互の関連性を教えてください。

 

A、DD により検出されたリスク要因をスキームの工夫によって遮断・軽減できる場合があります。また、リスク要因はバリュエーションにマイナスの影響を及ぼしますが、これもスキームの工夫で軽減させることが可能な場合があるなど各業務は密接に関連しています

 

 

 

 

 

図表はM&A の実行段階における支援業務の全体像と関連性を示したものです。DD、バリュエーション及びスキーム策定は独立したものではなく相互に関連していることを理解することが重要です。

 

 

まず、DD ですが、図に列挙したとおり、各種観点から対象会社をM&A で取得する際のリスク要因を洗い出す手続きとなります。税理士や会計士が行う財務・税務DD は必須の手続きと言えます。

 

 

弁護士が行う法務DD も大多数の案件で行われますが、図表 のDD の欄内の④以降のDD については必要に応じて行われます。めっき工場の売買で土地の環境汚染が心配であれば専門家に依頼し環境DD を行いますし、多様な形態で人員を雇用し、未払残業代や名ばかり管理職など労働法規上の問題が懸念されるのであれば社会保険労務士に依頼して人事面の調査を行うといった感じです。こうしたDD を行う場合、案件全体をコントロールする税理士としては常にリスクを定量化する思考を持つことが大切です。金額に換算できるリスクであれば売買金額の調整などでクリアできるためです。

 

 

次にスキーム策定ですが、DD において検出されたリスクについてスキームを工夫することで遮断したり軽減したりできることがあります。株式取得では対象会社の潜在リスクが全て引き継がれますが、スキームを事業譲渡に切り替えることによりリスクを遮断するといった対応が可能です。また、スキームを工夫することで税金コストの削減が可能になるのであれば、利益やキャッシュフローが増加しますので株価評価にもプラスの影響が生じます。

 

 

最後にバリュエーション(価値算定)ですが、DD においてリスクが検出された場合、当然に評価額に対してマイナスの影響を与えます。中小企業のM&A では仲介会社方式と呼ばれる方法が一般的です。

 

 

以上、M&A の実行段階における支援業務の相互関連について説明しました。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント

②売却したいけれどどうしたらいい?  -会社を売却すると決めたら-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


それでは、会社を売却したいと思った場合は、どうすればいいでしょうか?

 

売却したいというからには、この場合は売り手の立場でのお話となります。

 

会社を売却したいと考える場合は、前章でも述べた通り、会社を将来に向けて継続させることを前提に、株式を売却して経営を他の人に任せる、ということを目指します。その場合、まずは株式を買ってくれて、会社を自身に変わって経営してくれる人を探すことになります。

 

 

では、そのような人をどうやって探せばよいのでしょうか?

 

よくあるケースとしては、懇意にしている取引先に相談して、その取引先に資金力や経営能力等があれば、その取引先に買ってもらう、ということが考えられます。また、日頃から経営相談をしている税理士の先生や取引銀行に相談して、買い手候補を探してもらう、ということもよくあるケースです。

 

最近では、M&A専門の仲介会社がたくさん出てきていますので、インターネットなどでそういった仲介会社を探して、そこに相談して買い手候補を探してもらう、ということも多くなっています。

 

 

このように、買い手候補を探す場合は、自身で探すには限界があることから、誰かしらに相談して買い手候補を探していく、ということが現実的な方法になっています。

 

 

その場合に、留意すべき点は、会社を売却したいと思って買い手候補先を探しているということを、可能な限り秘密にして動くということです。

 

会社を売却しようとしていることが、例えば従業員や取引先の耳に入ってしまうと、従業員が不安になって会社を辞めたり、また、取引先がいらぬ勘繰りをして取引を絞り込んだりする可能性がないとは言えません。そういう事態を招かないためにも、買い手候補を探す段階においては、社内の信頼できるごく一部の人間にだけ相談して秘密裏に進める慎重さが必要となります。

 

会社を売却すると決めたら、まずは信頼できる人に相談して、買い手候補を探しましょう。そのためにも、普段からM&Aに関する情報収集や、信頼できる・相談できる相手を作っておく、という準備は行っておくべきだと思います。

 

 

 

 

 

 

また、会社の経営管理体制をしっかりと整備しておくことも、会社を売却する際の買い手からの評価にはプラスとなり、より売り易くなることから、日頃から意識しておくべきと考えます。

 

特に、会計処理の適正化や、契約書等の法的書類の整備、労務管理のあたりは、いざM&Aを実行する際にここができていないと、後々追加的な負担が生じるため買い手からの評価を下げることになり、M&Aを進める上で大きなボトルネックとなったりしますので、日頃から意識して整備しておくことをお薦めします。

 

 

次章では、買い手探しの際のポイントについて解説したいと思います。

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「事業存続に向けて検討すべき方策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑧

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した8回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。 前回は最終的に会社が廃業・清算を選択した場合の手続の流れを説明いたしましたが、今回は廃業という選択に至る前に事業存続に向けて検討すべき方策について紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 前田俊/公認会計士

 


【検討すべき方策】

タイプDの会社に限らず、承継に向けては、①経営状況・経営課題等の把握(見える化)をし、②事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)を進める必要があります。これは専門家を活用することでより効率的・効果的に実行することができます。

 

①では、外部専門家を活用し、先入観を除外した第三者の視点でより詳細な分析を行うことで、経営状況や課題等をより適切に把握することができます。今まで会社では認識できていなかった収益源泉や強み(人材、取引先、技術、知的財産等)を認識する機会になり得ます。

 

①を基に、②として競争力強化のための「強み」を作り、「弱み」を改善する取り組みを策定・実行していくことで経営改善(収益力の改善)を進めていきます。ここでも外部専門家による知見はより効果的な改善に向けて有益となります。①②のような取り組みだけで財務の健全化が図れない場合、金融支援による再生(私的整理)という選択肢もあります。

 

 

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また、上記のような対応により財務健全性を高めることで、M&AやMBOも選択肢になります(タイプDからタイプBへのポジション移行)。上記①で認識した強みが、事業の買手にとって魅力となり得ることがあります。

 

 

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なお、健全性を高めることが出来れば、健全性が低いことを理由に事業承継に消極的であった親族(ご子息等)に対して親族内事業承継を再検討する可能性も生じます(タイプDからタイプAへのポジション移行)。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年5月21日)より再編集のうえ掲載

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

①何のためのM&A? ーM&Aの目的を考えるー

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


近年、主に国内のオーナー会社の後継者不足の問題が論じられており、様々な対策や議論がなされていることはご周知のとおりです。その有力な解決策の一つとして、M&Aを活用することが実務の現場では大変多くなっています。

 

それでは、M&Aとは何をすることでしょうか?

 

M&Aとは、端的に言うと、企業を売ったり買ったり、統合したりすることです。

 

 

では、M&Aは何のためにされるのでしょうか?

 

M&Aの目的を考えるとき、企業を売る側の立場(売り手)に立って考えるのか、買う側の立場(買い手)になって考えるのか、によって考え方や見え方が大きく異なります。M&Aについて議論や検討をする場合は、売り手なのか買い手なのかについて、常に意識しておく必要があります。読者の皆さんには、是非覚えておいて頂ければと思います。

 

 

M&Aを行う目的について、売り手の立場と買い手の立場に分けて考えてみたいと思います。

 

会社を売る立場の人はどういった人たちでしょうか?

 

売り手は会社の株主(オーナー)であり、会社のオーナー兼経営者や、会社の経営には関与していないが株式を持っている人が主な売り手になります。その人たちが会社を売る場合の目的は、前述したように株式や経営を引き継いでくれる後継者が見つからず仕方なく、といったケースも多いですが、株式を売却してまとまった資金を得て(これをExitといったりします)新しい事業を立ち上げたり、他にやりたいことをやるためにM&Aをするというようなケースもあります。

 

どちらにしても、対象となる会社自体は閉鎖や清算をせずに事業を継続していくことが前提となります。売る側の立場からM&Aを選択する場合は、究極的には会社や事業を将来に向けて継続させたままで、オーナーや経営者が交代するということが目的となります。

 

一方で、買う側の立場ではM&Aの目的はどういったものがあるでしょうか?

 

買った会社を自分で経営して利益を上げたい、あるいは自社の事業と協業させてより大きく成長させたい、というところが主な目的になると思います。その場合も、会社を引き継ぎ、事業を継続させていくことが前提となります。

 

 

このように、M&Aの売り手と買い手に共通する究極の目的は、会社を閉鎖や清算したり、倒産させたりせずに、従業員や取引先などの利害関係者が存在する状態を維持したまま会社を継続させることなのです。そのために、色々な選択肢がある中で、売り手はM&Aを選択し、買い手は会社を引き継ぎ、事業を継続していくのです。

 

前述した後継者不足の問題は、裏を返すと、会社を引き継ぐ人が誰もいない場合は、会社を清算して事業を止める、ということになります。その場合、従業員や取引先はもちろん、今まで事業を運営してきた中で培われた技術であったりノウハウであったり色々な価値のあるものが承継されずに消滅してしまうことになります。

 

そういった会社に存在する様々な目に見えない資産や従業員や取引先を将来にわたって活用していくために、経営を承継して事業を運営できる方に会社を引き継ぐ、ということがM&Aの目的となります。

 

売り手は、会社を譲り渡す相手先として買い手が適切かどうか見定めつつ、より多くの売却代金を受け取りたいと考えます。一方、買い手は譲り受ける会社の実態をきちんと把握して、自らが期待するM&Aの目的を達成できるか見極めたい、そしてできれば買収対価は安く抑えたい、と考えます。

 

M&Aは、会社を存続させたまま引き継ぐという目的のために、このような売り手と買い手の利害の調整を図り、相互の合意を模索しながら進められていきます。

 

 

 

 

 

次章以降では、M&Aを実際に検討していく場合の考え方について解説します。

[初級者のための入門解説]

M&Aの相談先  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑧~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。今回は、「M&Aの相談先」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士・本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにより会社や事業の売却を行う場合の、課題や検討すべき事項は多岐にわたり、また専門的な知識が必要となる局面が多数あります。そのため、迅速にM&Aを進めるためには、状況に応じて適切な相談先を選定することが重要となります。

 

ここでは、M&Aの主要な相談先である会計事務所とM&A仲介会社について、具体的なケースで一般的にどちらが適していると考えられるか、それぞれの特徴と主な依頼可能業務をご紹介いたします。

 

 

会計事務所に相談するケース

会計事務所は、顧問契約等により既に関係があるケースが多いことから、経営者にとって気軽に相談できる相手先と言えるでしょう。

 

M&Aにおける会計事務所の特徴は、会計や税務の専門知識を有していることから、財務・税務デューデリジェンスやタックスプランニングを得意とする場合が多いと言えます。他方、M&A仲介会社と比較するとM&Aマーケットでのネットワークはさほど持っていないことが一般的です。

 

そのため、比較的規模が小さい案件(事業価値1億円未満)や、すでに買い手候補がある場合、また、税理士経由でのみ利用可能な日本税理士協会連合会の運営するマッチングサイト「担い手探しナビ」を利用したい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

会計事務所に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニング等が挙げられます。

 

 

M&A仲介会社に相談するケース

M&Aに際しては、M&A仲介会社を利用するのは一般的な方法です。

 

M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短時間のうちに相手先を探してもらうことができ、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション、売買契約までフルパッケージでしっかりと支援してもらえる場合が多いと言えます。他方で、専門家をフルに活用するのでそれなりの費用がかかることが一般的です。

 

そのため、比較的規模が大きい案件(事業価値1億円以上)や広く買い手を探す場合、仲介や価格交渉等の専門業務を任せたい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

M&A仲介会社に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、仲介、交渉、契約等、M&Aに係る全般的な事項を依頼することが可能です。

 

 

 

会計事務所に相談した方が良いケース

上記表の通り、M&A仲介会社へ相談すればM&Aに係る業務をフルパッケージでサポートしてもらうことが可能なため、大規模な案件ではM&A仲介会社が介入することが一般的です。これに対し、会計事務所では、M&Aに係る業務の中で、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニングを得意としており、M&A仲介会社で行われるこれらの業務も会計士や税理士等の専門家が行っているケースが大半です。

 

そのため、これらの業務をメインに依頼したい場合には、会計事務所へ相談した方がコストを抑えることが可能なケースもあります。

 

特に、スキームやタックスプランニング次第で、M&Aに係る税務コストが大きく変動するため、小規模なM&A案件であってもこれらの検討は行うべきと言えるでしょう。

 

例えば、退職金支給スキームでは、譲渡代金の一部を税率の低い退職金として受け取ることで、総額の手取り額を増加させることができる可能性があります。また、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件の「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったことから、譲渡事業の含み益課税を受けずにM&Aを実施するスキームを構築することも可能となりました。(詳細は「M&Aにおけるタックスプランニング ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~」をご参照ください。)

[初級者のための入門解説]

M&Aにおけるタックスプランニング  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「M&Aにおけるタックスプランニング」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにおいてタックスプランニングは重要です。というのも、キャッシュアウトに占める税金の負担が大きいためです。今回は、売り手と買い手、それぞれの事例を見ていきたいと思います。

 

売り手側


売り手側で残したい事業や資産がある場合、あるいは、会社全体では黒字事業と赤字事業があって、赤字事業は買いたくないという買い手側の希望がある場合など、実務ではいろんなケースがあります。

 

以上のようなケース、すなわち会社丸ごとでないM&Aの手続選択肢としては「対象事業そのものを譲渡する方法」「会社分割して分割した会社の株式を譲渡する方法」があります。買い手の希望があるので、売り手側の意向だけで決められるものではありませんが、節税の意識を持って対応することも重要です。

 

 

(1)事業譲渡で含み益事業を譲渡するケース

会社で営んでいる含み益事業をM&Aで譲渡する場合、含み益が実現した事業譲渡益に対して法人税が課税されます。もちろん、法人税の計算上は他の営業損益があれば合算されますし、青色欠損金があれば控除できます。

 

 

 

この場合のタックスプランニングとしては、経営陣(オーナー)や従業員の今までの功労に報いるために、事業譲渡益を財源として「退職金を支給する方法」が考えられます。

 

従業員は譲渡先との間で再雇用される機会があったとしても、経営陣は事業譲渡によって退職し将来の生活の糧を失うことが多いため、特に経営陣に対して退職金を支給し譲渡益課税される所得を圧縮した方がメリットになります。

 

また、もう一つのメリットとして、事業譲渡代金は会社に帰属するため譲渡代金を株主個人に帰属させるには法人税課税後に、配当所得課税され、都合2回の課税(法人と個人)によって個人株主が受取る対価が大きく目減りするのに対し、退職金の場合は退職所得として優遇税制が利用できるので、個人が受け取る対価は増加します。

 

 

 

(2)事業を分割し、分割会社の株式を譲渡するケース

一部の事業を譲渡し、一部の事業(資産)を残したい場合、譲渡対象外の事業を会社分割により簿価で切り出してから譲渡する方法が、平成29年度税制改正で可能となりました。

 

すなわち、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件が、改正前の「支配株主と分割法人及び分割承継法人との間の関係継続」から「支配株主と分割承継法人との関係継続」のみに改正され「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったものです。

 

その結果、以下の例のように、含み益を有するB事業(残したい事業)を会社分割によってB社(分割承継会社)として切り離し、M&A対象のA事業を持つA社(分割会社)株式を譲渡するスキームが可能となりました。

 

改正前はB社分割時に税制非適格となりB社事業の時価譲渡となったものが、改正後は税制適格となり簿価譲渡(含み益は未実現のまま)が認められることになったものです。

 

譲渡しない事業や譲渡対象外の資産に含み益がある場合には、簿価のままの分割が可能になったので、例えば、不動産賃貸業は残したい(不動産に含み益有り)という希望がある場合には、検討すべきスキームです。

 

 

 

買い手側


事業の買い方としては、株式売買または事業譲渡の方法がありますが、それぞれの会計処理は相違します。

 

株式売買の場合は、投資有価証券となり、投資有価証券の取得価額は、購入対価に加えて購入手数料や購入に要した費用を加算した額とされているので、少額費用を除き取得価額になります。

 

他方の事業譲渡の場合は、取得した事業を土地、建物、たな卸資産など資産の区分ごとに細分化した上で簿価でなく時価額をもって受入の会計処理を行い、時価純資産額を超える購入価額の部分(下記図の15)は資産調整勘定(のれん)とし、5年間で損金に算入します。

 

 

株式売買の場合には、支出した対価が取得時に損金になることはありませんが、事業譲渡の場合は時価純資産額を超える部分は資産調整勘定(のれん)として5年間の損金になるので、損金の額を得たい場合には事業譲渡の方にメリットがあります。

[初級者のための入門解説]

事業承継税制の手続きの流れ ~ゼロから学ぶ「事業承継 超入門」④~

 

事業承継の基本ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『事業承継 超入門』」シリーズです。

今回は、事業承継税制の手続きの流れについて解説していきます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

2代目への生前贈与

事業承継税制は相続と贈与の両方ともに利用できますが、通常は「計画できない相続」でなく「計画が立て易い贈与」で利用するのが一般的です。

 

そういうわけで、今回は「贈与ケース」の利用の流れ=利用の全体像について、解説いたします。

 

特例事業承継税制(以下、単に「事業承継税制」といいます)を適用する場合には、都道府県への特例承継計画(様式21)の提出が必要ですが、特例承認計画の提出期限は、令和5年3月31日までとなっております。特例承継計画は対象会社が認定経営革新等支援機関(認定を受けた税理士・公認会計士等)の指導・助言を受けて作成し、通常は贈与前に都道府県に提出します。しかし、令和5年3月31日までであれば、贈与・相続後、認定申請までの提出でも認められます。(参考:中小企業庁ホームページ)

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_tokurei_yoshiki.htm

 

次に、生前贈与の実行へと進みますが、通常はXDayである贈与日を先に決め、贈与者である経営者は贈与日前に代表取締役を退任し、受贈者である先代後継者は贈与日前に代表取締役に就任しておきます。贈与日前に代表取締役の交代がすでに行われていれば交代は直前である必要はありません。また、贈与者である先代経営者は代表取締役の地位を辞すればよく、取締役として会社に残り役員報酬を受領することは可能です。

 

代表取締役交代を行った後に、株式を後継者に対して生前贈与します。

 

端的に言えば、代表取締役の地位と株式を先代経営者から後継者にバトンタッチするイメージです。

 

また、事業承継税制は、複数の株式保有者(例えば、先代経営者の妻)から後継者に対して株式を無税で贈与することも可能です。この場合、先代経営者の贈与に引き続いて贈与を実行します。このタイミングはとても重要で、先代経営者の贈与よりも先に、あるいは同時贈与するとその贈与株式については事業承継税制の適用は無いのでご注意ください。

 

贈与後に、対象会社が期限内(贈与翌年1月15日)に都道府県の担当部局に必要書類をそろえて認定申請を行います。この申請は、個人でなく対象会社が行います。

 

後継者(2代目)は、認定書の写しと共に、贈与税の申告期限内(贈与翌年3月15日)に税務署に贈与税の申告を行います。申告時に、猶予税額とこれに対する利子税に相当する担保の提供を行うと、この株式贈与についての後継者の贈与税は100%猶予されることとなります。

 

株式の贈与の際には、前回解説した入口3要件(あげる人、もらう人、対象会社)を満たしている必要があります。

 

 

 

生前贈与後の流れ

贈与税の申告期限の翌日から5年間は要件の厳しい経営承継期間です。この間、後継者(2代目)は代表者であり続け、対象となった株式は保有し続ける必要があります。その他前回解説した事後要件(5年間、5年経過後)を満たし続ける必要があります。

 

なお、先代経営者(1代目)は代表権を有することは認められませんが、有給役員として会社に在籍することが可能ですので、後継者(2代目)を支え、共に要件遵守をサポートできると理想的です。

 

申告期限の翌日から5年間は、都道府県への報告は毎年申告期限応当日の翌日から3ケ月以内に、税務署への届出書は5ケ月以内に提出が必要です。5年を過ぎると、3年を経過するごとに税務署に届出書の提出が必要ですが、都道府県への報告は不要です。

 

猶予された免除は

先代経営者(1代目)が亡くなると、後継者(2代目)が猶予されていた贈与税は全額免除されます。

 

また、後継者(2代目)が贈与を受けた株式は、贈与時の価額で後継者(2代目)が相続または遺贈により取得したものとみなされ、他の相続財産と合算して改めて相続税額が計算されます。

 

対象会社は、先代経営者(1代目)の死亡後期限内(8ケ月)に都道府県の担当部局に対して切替申請を行い、要件を満たしていることについて確認を受けると、対象株式に対して新たに発生した相続税は、相続税の猶予・免除制度の適用により引続き猶予されることとなります。この切替手続きを失念してしまい、相続税の猶予・免除制度が適用できなくなってしまうので注意が必要です。

 

3代目への承継

2代目の後継者から次の後継者(3代目)に対して事業承継税制により株式を生前贈与し、無事、次の世代へ承継できたところで2代目の後継者が猶予されていた相続税は晴れて免除となります。他方、後継者(2代目)の死亡により相続が発生した場合も同様に免除されます。

 

以上の流れを適用が可能なかぎり、代々繰り返していきますと、株式に対する承継時の税金負担が無く承継することが可能です。ただし、事業承継税制はあくまで令和9年12月31日までの制度ですので、今のところ令和10年以降は従前税制のみの適用となります。

 

なお、令和9年12月31日までに対象株式を贈与した場合のその後の事業承継税制の適用に関してですが、先代経営者が令和10年1月1日以降も生存している場合、みなし相続は令和10年1月1日以降何年先になっても事業承継税制が認められることになっています。すなわち、贈与ケース先行の場合には事実上令和9年12月31日までの期限が伸長される効果が得られます。

 

 

相続の場合

相続の場合は、事業承継税制適用には贈与ケースと同様、特例承認計画の提出が必要ですが、他の実質的な適用関係は先代経営者が亡くなり、相続が発生したところから開始となります。しかしながら、相続発生直後の不安定な状況のなか、後継者単独で5年間の経営承継期間を乗り切らなければならないのは大変なことなので、やはり計画できる贈与の方に優位性があると思います。

 

 

 

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「廃業・清算」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑦

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した7回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。 但し、現状がタイプDの会社であると判断しても、会社の健全性を高めて他のタイプの事業承継を選択する可能性もあり得ますので一度、外部専門家のコンサルティングを受けることも有用と考えられます。最終的にやむを得ず廃業・清算を選択する場合は以下のような手続きになります。なお、清算の際に債務超過である場合の取り扱いに関しては次回ご紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 三好誠司/公認会計士

 


【廃業・清算手続】

一般的な廃業・清算手続きの流れを簡単に図示しています。廃業の手続きは様々な手続きが必要となりますので、廃業を決断して即廃業できる訳ではありません。

 

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【廃業時の留意点】

①取引先への告知

廃業日を決めたら取引先に迷惑をかけないように廃業を伝えるあいさつを行うため廃業挨拶状を出します。廃業手続きは2~3か月程度かかるため廃業によって迷惑が掛からないように早い段階で行うことが望ましいです。

 

②従業員への通知

従業員は会社と雇用契約を締結しています。雇用先である会社が消滅すると従業員は解雇となりますが、解雇の場合には30日前に通知する必要があります。30日前に通知することが困難な場合は30日に満たない期間の給与支払いが必要となります。

③上記以外の関係者

・店舗や土地を賃借している場合、廃業に伴い物件の明渡しが必要となります。期限前の契約解除の場合は、契約内容に従った手続きが必要となりますので敷金や保証金、原状回復義務等についてあらかじめ条件を確認しておく必要があります。
・リース契約について中途解約は残期間までのリース料又はそれに相当する違約金を支払う必要がある契約が多いので資金面の手当てが必要になります。

 

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年4月22日)より再編集のうえ掲載

[初級者のための入門解説]

デューデリジェンス(DD)とは?  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑥~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「デューデリジェンス(DD)」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aの場面でよく耳にする「デューデリジェンス(DD)」とは、簡単に言ってしまえば対象会社を調査することです。では、なぜM&Aの際にデューデリジェンス(DD)が必要とされるのでしょうか。

 

デューデリジェンス(DD)はなぜ必要?

M&Aの目的は様々ですが、対象会社をM&A候補とすることには理由(魅力)があることが一般的です。例えば、自社事業とのシナジー効果が期待できること、エンジニア等の優秀な人材が確保されていること、業界規制や新規契約が困難な重要な契約や権利を保有していることなどが挙げられるでしょう。

 

しかし、いざ会社を取得してみたら「想定と違った」「契約内容に欠陥があった」ということでは、会社を取得した目的が果たせなくなる可能性が生じます。

 

また、会社自体を取得する株式譲渡によるM&Aでは、対象会社の負う責任(義務)も合わせて取得することとなります、「会社の財務諸表が適切に作成されておらず、想定していない多額の簿外債務や債務保証が存在した」「重要な税務リスクや訴訟リスクを抱えていた」ということでは投資する意味は乏しく、またいくら魅力的に見える会社であっても事業として立ちいかなくなる可能性も存在します。

 

デューデリジェンス(DD)は、このような事態が発生しないよう、対象会社の実態を調査し、リスクや課題の洗い出しを行うために実施されます。

 

また、調査結果を踏まえて、「契約内容の見直しは必要か」「投資の方法(株式譲渡又は事業譲渡)への影響は」「取引価額(企業価値)は妥当か」などが検討されるのが一般的です。

 

M&Aの目的が様々なように、会社が持つリスクも様々です。そのため、対象会社のリスクや課題を洗い出すためには様々な視点から目的に応じて調査を実施する必要があり、デューデリジェンス(DD)もこの視点に応じて様々な種類があります。

 

 

 

 

 

拾い出す課題やリスクは?

デューデリジェンス(DD)は、その調査の視点から様々な種類がありますが、ここでは一般的なものとして、「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」「法務デューデリジェンス(法務DD)」について、具体的な調査方法やこの調査によって拾い出す課題やリスクを見ていきましょう。

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)の流れ、実施後の対処は?

これまででご紹介したデューデリジェンス(DD)はほんの一部であり、このほかにも様々な種類のデューデリジェンス(DD)があります。

 

課題やリスクの洗い出しの観点からは、様々なデューデリジェンス(DD)を実施することが望ましいですが、これにはコストも時間や労力も必要となります。そのため、一般的には対象企業の特徴やM&Aの目的から必要なデューデリジェンス(DD)やその深度を決定していくこととなります。

 

また、M&Aは多くの利害関係者(取引先や従業員等)に影響を及ぼすものであるため、余計な動揺を生じさせないためにも、その前段で行われるデューデリジェンス(DD)実行の情報が外部に漏れないようにすることも重要です。

 

 

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)による調査結果(報告)を参考に、「投資の最終意思決定」を行うこととなります。

 

具体的には、「買収リスクを抑制するための契約内容への反映」「M&Aの方法(株式譲渡か事業譲渡か)」「取引価額への反映」「買収後の事業運営方針」などを検討していくこととなります。

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「M&Aによる第三者への売却」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑥~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した6回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプB(健全性は高いものの親族内後継者がいない会社)に着目します。 タイプBは、親族外の役員・従業員へ承継するケースと、第三者へ売却するケースに分けられますが、今回は、第三者へ売却(=M&A)するケースをご紹介します。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 藤田祐紀/公認会計士

 


【M&Aによる会社株式の第三者への売却】

M&Aによって会社株式を第三者へ売却するケースは、「会社を売る」ことであるため、心理的な抵抗感がある、株式売却後のキャッシュフローが得られなくなる、買手が付かなければ成立しない、などの特徴がある一方、一般的に親族内承継と比べて下記のようなメリットがあると言われています。

 

【親族内承継と比べたM&Aのメリット】

①現経営者は株式の売却資金を得ることができる

事業承継の場合、後継者は「会社」は引き継ぐ(=以降のキャッシュフローを得られる)ものの、承継時点では得られる資金はありません。それどころか、承継にあたって時価相当額に対する贈与税(現経営者が急逝の場合は相続税のことも)を支払う必要があり、納税資金の確保が必要となります。

 

その一方M&Aであれば、株式の売却代金から税金(売却益に係る所得税)を差し引いた分を現経営者が得ることとなりますので、承継(売却)時点での納税資金の確保は不要となります。

 

さらに、株式売却後、相続発生までに節税対策(生前贈与や不動産の購入による相続財産の引き下げ、非課税財産の購入など)を実施することで、相続税を抑えられる可能性も考えられます。

 

 

②個人保証を外す(承継しない)ことができる

通常、中小企業のオーナー社長は、会社の借入に対して個人保証を行っているケースが多いと思います。

 

金融機関のプロパー融資はもちろん、信用保証協会等が介在する公的な融資に対しても同様に個人保証を行うケースが大半だと思います。

 

事業承継の場合は後継者がこれら個人保証を引き継ぐことが一般的ですが、M&Aによって株式が譲渡された場合、買手は会社の全財産を引き継ぐこととなるため、個人保証は外れることとなります(自宅や個人所有財産を担保に差し入れていた場合はこれらの抵当権も外れることとなります)。

 

前回、述べた通り、個人保証を引き継ぐことは、後継者の事業承継意欲を阻害する一因と言われており、M&Aではこの個人保証の問題をクリアすることができると考えられます。

 

M&Aのメリットについて上記の様に述べて参りましたが、事業承継のうちどの方法が最適かは、現経営者の会社売却後のライフプラン、後継者の有無、買手企業の有無等によって変わってきますので、公認会計士・税理士の方にご相談することをおすすめします。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年3月20日)より再編集のうえ掲載