Q-21  M&Aにおける事業譲渡(営業譲渡)のメリット・デメリットは?株式譲渡との違いは?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-21  M&Aにおける事業譲渡(営業譲渡)のメリット・デメリットは?株式譲渡との違いは?

A

 

M&Aの代表的な手法として、実務上は「事業譲渡(旧商法上の営業譲渡)」又は「株式譲渡」が選択されます。なお、「営業譲渡」と「事業譲渡」は基本的には同義です。2006年(平成18年)の会社法施行に伴い、旧商法で用いられていた「営業譲渡」という呼称が、「事業譲渡」に改められたもので、現在の実務では「事業譲渡」という表現が一般的に用いられています。

 

一方、M&Aにおいて最も一般的な手法は株式譲渡であり、会社そのものの支配権を移転する方法となります。

 

今回は事業譲渡を中心に、そのメリット・デメリットや株式譲渡との違いをみていきましょう。

 

1.事業譲渡(営業譲渡)とは

事業譲渡とは、会社が営む事業の全部または一部を、他社へ譲渡する取引をいいます。

株式譲渡が「会社そのもの」を引き継ぐのに対し、事業譲渡では、譲渡対象となる資産・負債・契約等を個別に選択することが可能です。

そのため、譲受側にとっては、必要な事業のみを取得しやすいという特徴があります。

 

2.営業権(のれん)の考え方

事業譲渡においては、「営業権(のれん)」の評価が重要な論点となります。

営業権とは、社会的信用、顧客との継続的取引関係、技術力・ノウハウ、ブランド力、立地条件など、企業が有する無形の財産的価値を指します。一般的に、事業譲渡価格は以下の考え方により算定されます。

事業譲渡価格 = 時価純資産額 + のれん価値

ここでいう「時価純資産額」とは、現預金、売掛金、固定資産、棚卸資産等を時価評価したうえで、負債を差し引いた純資産額をいいます。

また、「のれん価値」の評価方法としては、実務上、利益年倍法が用いられるケースが多く、概ね以下のように算定されます。

のれん価値 = 平均純利益 ×年数

年数については、業種特性や顧客継続性等を踏まえ、一般的には1年~5年程度の範囲で交渉されるケースが多く見られます。

 

3.譲渡側の主なメリット

(1)不採算事業からの撤退

譲渡企業が事業譲渡を検討する理由の一つとして、業績不振事業による経営圧迫があります。経営悪化が深刻化する前に事業を売却することで、資金確保、本業への経営資源集中、多角化事業の整理、人員整理、事業承継などを図ることが可能となります。

(2) 減損リスクの回避

上場企業等では、不採算事業について減損会計の適用が問題となる場合があります。事業譲渡を行うことで、含み損資産の整理、バランスシートの健全化、損失計上による税効果などを期待できるケースがあります。

 

4.譲受側の主なメリット

(1)既存事業の拡大

同業種またはシナジー効果が期待できる事業を取得することで、既存事業の拡大を加速させることが可能となります。

(2)新規事業への迅速な参入

ゼロから新規事業を立ち上げるよりも、既存事業を取得することで、顧客基盤、人材、ノウハウ、設備などを一括して取得でき、短期間で市場参入できるメリットがあります。

(3)税務上のメリット

事業譲渡により発生した「のれん」は、税務上「資産調整勘定」として取り扱われ、5年間で均等償却することが認められています。そのため、譲受企業においては、将来的な節税効果が期待できる場合があります。

 

5.事業譲渡(営業譲渡)のデメリット

(1) 譲渡益に対する課税

譲渡側には、譲渡益に対して法人税等が課税されます。実質的には、「時価純資産額」と「簿価純資産額」の差額、および「のれん相当額」に対して課税関係が生じることになります。

また、事業譲渡では一定の資産について消費税の課税対象となります。主な対象は、建物・機械装置等の有形固定資産、営業権・商標権等の無形固定資産、棚卸資産などです。なお、売掛金・買掛金等の債権債務は、原則として消費税の課税対象外となります。

(2)契約・雇用関係の再構築

事業譲渡では、契約や従業員について個別承継が必要となります。そのため、取引先との契約再締結、従業員の転籍同意、雇用契約の再締結、関係者への説明など、多くの実務負担が発生します。

小職も、営業権譲渡において売り手サイドの実務に携わった経験がありますが、取引先や関係者、従業員に対する事業売却の説明、異動の可否、退職勧奨、さらには継続雇用を希望する従業員の転籍同意など、多くの調整が必要となりました。

これらは最終的に「営業権譲渡価格」にも影響する重要な要素であり、実務上、精神的負担の大きい業務であったことを記憶しています。

 

6.事業譲渡と株式譲渡の比較

事業譲渡と株式譲渡の特徴を対比的にまとめますと以下の通りとなります。

項目 事業譲渡(営業譲渡) 株式譲渡
譲渡対象 事業の全部または一部 会社そのもの
契約関係 個別承継が必要 原則そのまま継続
従業員 転籍同意が必要 原則継続雇用
簿外債務リスク 限定しやすい 引き継ぐ可能性あり
消費税 課税対象となる場合あり 原則非課税
手続負担 多い 比較的簡便
のれん償却 可能 原則不可
適したケース 一部事業のみ取得したい場合 会社全体を承継する場合

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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 若手の税理士に事務所を譲渡し、時間をかけてソフトランディングでの引き継ぎを行いたいのですが、そのような相手先は見つかるのでしょうか。

 

 

 

 

当社がこれまで携わってきた事例においても、若手税理士へ円滑に承継されたケースは数多くあります。

 

近年では、「顧問先の新規開拓」「職員採用や組織づくり」に悩みを持つ若手税理士が増加しているようです。そのため、一定規模の顧問先と安定した職員体制を有する事務所のM&Aによる承継は、魅力的な選択肢として捉えられています。

 

また、譲渡先となる若手税理士からは、顧問先との関係性の引き継ぎや業務のフォローアップを目的として、数年間のサポートを希望されるケースも少なくありません。一定の引き継ぎ期間を設けることで、職員の退職リスクの低減や顧問先の離脱防止、新代表へのスムーズな信頼移行が可能となり、双方にとって安心感の高い承継につながります。そのため、「譲渡後は業務量を徐々に減らしながら、段階的に引退したい」とお考えの先生にとっても、相性の良い選択肢といえるでしょう。

 

なお、若手税理士への譲渡の場合、引き継ぎ期間が比較的長期に及ぶ傾向があります。少しでも余裕を持ったスケジュールで準備を進めることが、成功の鍵となります。

 

 

 

 


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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.3 Q:顧問先の会社が「同業者が〇億で売れたと聞いたのですがうちも同じくらいで売れますか?」などと聞いてきた場合、どう答えるべきか?

 

A:

初期段階では具体的な金額を提示しないように注意しましょう。
「価格を考えるうえでの目安はありますが、最終的な価格は会社の個別条件と、買手との交渉によって決まります」と伝えてください。
そのうえで、「決算書上の利益がそのままM&A価格に使われるわけではない」という点を補足しておくことが重要です。

 

<解説>
① 買手は決算書の利益を「そのまま」では使わない

買手側は、決算書の利益をそのまま評価に使うことはありません。たとえばオーナーの役員報酬が市場水準より高い場合や、実態を伴わない経費が含まれている場合は、それらを除いた「正常化利益」を算出したうえで価格を検討します。役員報酬を市場水準ベースで調整するだけで、評価上の利益が数百万単位で変わることも珍しくありません。顧問税理士が把握している利益と、買手が評価する利益は、同じ決算書を見ていても一致しないケースは多くあります。

「うちの利益はこれだけある」という経営者の前提と、買手側が算出する利益が最初から食い違っていると、交渉が進むにつれて期待値のギャップが表面化します。

 

② 噂は参考にならない

「知り合いの会社が〇億で売れた」といった噂をもとに相談されるケースもありますが、他社の成約価格はM&A業界では非公開が原則です。聞こえてくる数字の裏に、買手の戦略的な意図があったか、不動産の含み益があったのか、借入金の処理がどうだったのかは、実際の当事者以外には知る術がありません。同じ業種・同じ規模に見えても、成約価格の構成はまったく異なります。価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」で決まります。

 

③ ある経営者の実例

ある経営者が「同じ業界内で規模が近い企業が5億円で売れたから、うちも同じくらいの価格で売れるだろう」と言っていました。しかし、その5億円で売却された会社は、自社ビルを保有しており、その不動産価値だけで2億円以上あったのです。つまり、事業の収益力だけを見れば、その会社とこの経営者の会社では実際の価値が大きく異なる可能性が高いということです。

M&Aでの売却価格は、単純に同業他社の価格を参考にするだけでは不十分で、個別の事情が必ず影響します。

 

【今回のポイント】

・「〇億で売れた」といった発言にうっかり同調をしない
・決算書の利益は「正常化」されてから評価に使われる
・他社の成約事例は背景が異なるため単純比較にならない
・価格は「誰が、どのような戦略目的(シナジー)で買うか」によって決まる

M&Aの譲渡価格は、単純に利益を何倍かした数字で決まるわけではありません。実際には、資産や負債の調整項目や、買い手企業との相性など、多くの要素が関係して価格が変動します。
早い段階で自社の価値や条件を整理しておくことで、経営者が考える価格と実際の売却価格のギャップを防ぎやすくなります。

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

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 67歳の税理士です。体力的な不安が出てきたため、できれば今年中に税理士事務所の譲渡を完了させたいと考えています。年内の譲渡は現実的に可能でしょうか。また、スムーズに進めるために注意すべき点があれば教えてください。

 

 

 

ご年齢や体力面を考慮され、「今年中に税理士事務所の譲渡を完了させたい」というご希望は、進め方を工夫すれば十分に可能です。ただし、通常業務を行いながら進めることになりますので、年内完了を前提とした明確なスケジュールを組み、早めに動き出すことが重要です。

 

具体的な流れとしては、4月~6月にかけて仲介契約を締結し、譲渡条件(引き継ぎ方法や譲渡価額など)や、顧問先や職員体制などの事務所情報を整理します。この初期準備を丁寧に行うことで、後工程がスムーズになります。7月~9月は譲渡先の探索と具体的な交渉を進める期間となり、条件面や引き継ぎ体制について双方の認識をすり合わせていきます。そして10月~12月には譲渡契約を締結し、実務的な引き継ぎへと移行する想定です。

 

体力的なご負担を減らすためにも、譲渡後にどの程度関与するのかを事前に決めておくことも重要です。

 

税務研究会では、年内完了を見据えたスケジュール管理から、無理のない引き継ぎ方法の検討まで丁寧にサポートいたしますので、安心してご相談ください。

 

 

 

 


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Q-20  M&Aが進まない理由は何ですか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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 Q-20 M&Aが進まない理由は何ですか?

A

M&Aを進めていても、イメージ通りに進まないことが多々発生します。M&Aは、大きく(1)事前検討・準備、(2)マッチング・交渉、(3)契約締結の3つの段階に分けることができます。それぞれの段階ごとに、M&Aが進まない要因について、詳しく触れていきたいと思います。

 

 

(1)事前検討・準備
この段階では主にM&Aを実施すべきかどうかを事前に検討するために、情報収集やM&Aの目的・条件等を設定し、どのような方法で進めていくかなどの戦略を策定します。また、多くの企業はこの段階でM&A仲介会社等とアドバザイリー契約を結び、相談しながらM&Aを進めることになります。

この点、信頼できるM&A仲介会社が見つからない場合や、M&Aについて十分な知識を有していない会社が自力でM&Aを進めようとする場合には、自社の分析や市場調査に必要以上に時間がかかることがあります。また、M&Aの目的設定が曖昧な状態だと、方向性がぶれてしまい、M&Aが進まない要因の一つとなります。

 

(2)マッチング・交渉
この段階では主に買収先および売却先の候補を選定した上で絞りこみ、売り手がノンネームシート(注)や企業概要書を作成し、売却先へ提示の上、お互いの希望条件にあった企業とのマッチングを行います。その後、マッチングした企業の経営者同士によるトップ面談や交渉を進めていき、基本合意書の締結まで行います。

この点、一般的にM&Aは売り手よりも買い手の方が多く存在しており、買い手の条件と適合する売り手がなかなか見つからずにマッチングに時間がかかるケースがあります。また、売り手が作成した企業概要書で会社の魅力が伝わりにくい場合や、(1)事前検討・準備段階における自社分析が不十分だったために譲渡希望価格を不当に高く設定してしまった場合などにも、双方の条件が適合せずにマッチングに時間を要し、M&Aが進まない要因となります。
注: 売り手の名前が分からない状態で会社概要、財務状況、譲渡価格などの希望条件等が記載された資料

 

(3)契約締結
この段階では、主に売り手企業に対してデューディリジェンスと呼ばれる企業調査を実施し、その調査結果を踏まえて最終条件の交渉を行った上で、最終契約の締結を進めます。デューディリジェンスには財務、税務、法務、労務、ITなど様々な種類の調査があり、基本的には買い手が選定した第三者の専門家によって行われ、潜在的なリスクや問題点を洗い出し、買い手の意思決定に資する情報を提供します。

この点、特に次のようなケースにおいてはデューディリジェンスの実施や契約締結が遅れることがあり、M&Aが進まない要因となります。

売り手から十分な情報が開示されないケース
売り手がM&Aに不慣れな場合には、買い手から要求される資料リストが不十分であったり、準備や確認に時間を要したりすることがあり、デューディリジェンスの実施が遅れる要因となります。

売り手が不適切な会計処理を行っているケース
売り手が架空の売上計上や資産の過大計上及び認識していない負債が多額にある場合などの不適切な会計を行っている場合には、その原因を究明して企業のあるべき財政状態、経営成績を把握する必要があるため、その修正に時間を要することがあり、デューディリジェンスの実施が遅れる要因となります。

デューディリジェンスの結果を踏まえた最終交渉が難航するケース
デューディリジェンスを実施した結果、予期せぬ潜在的なリスクが発見された場合には、最終交渉において譲渡金額や譲渡対象資産・負債の範囲、売り手の経営者の待遇などが当初の希望条件から大きく変わることもあり、なかなか双方の折り合いがつかずに契約の締結が遅れることになります。

 

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.2 Q:M&Aのトラブルとはどのようなものか?

 

A:

直近では、いわゆる“悪質な買手”による資金流出型のトラブルが問題視されました。
具体的な事例として現預金を有する債務超過企業が安価で買収され、買収後に資金だけを抜かれて放置されるケースがあります。
この場合、旧オーナーの個人保証が残り、最終的に倒産リスクを負うという深刻な被害につながります。

 

<解説>
■ 解説|実際に起きているスキーム

実際に、以下のような流れが確認されています。

 

・現預金を持つ会社(債務超過でも可)を低額で買収

・買収後、「貸付金」などの名目で現預金を買手先口座へ送金

・金融機関借入に対する旧オーナーの個人保証は解除されないまま放置

・一定期間後、買手が連絡不能となり会社は実質的に放置

・資金流出により資金繰りが破綻し倒産

・結果として旧オーナーに個人保証債務のみが残る

 

形式上は株式譲渡が成立していても、実態としては“資金の持ち逃げ”に近い事例です。価格がつく案件では発生しにくく、債務超過・赤字・後継者不在といった「早く手放したい」企業ほど狙われやすい傾向があります。

 

■ 税理士が確認すべき防止ポイント

この種のトラブルは、財務内容の確認だけでは防げません。買手の実在性と資金計画の妥当性をチェックすることが重要です。

 

・買収資金の出所と自己資金割合

・買収後の資金管理体制(資金移動権限・口座管理者)

・個人保証の解除スケジュールが金融機関と合意されているか

・買手の過去の買収実績と継続保有状況

 

特に個人保証の解除がクロージング条件に組み込まれているかどうかは、旧オーナーのリスクに直結する重要な論点です。

こうした点については、税理士だけで判断するのではなく、M&Aの実務に精通した仲介会社や専門家と連携しながら確認することが望ましいといえます。

なお、中小企業庁が策定している「中小M&Aガイドライン」においても、M&A実行後に旧オーナーの保証債務が不適切に残存することがないよう、金融機関との保証解除に向けた調整を適切に行うことの重要性が示されています。

譲渡を判断する際には同ガイドラインを順守し、クロージング条件を整理したうえで手続きを進めているかどうか、専門家を交えて進めていくことが重要となります。

 

■ 顧問先への伝え方

経営者には「赤字でも引き受けると言う相手ほど慎重に見る必要がある」ことを伝えるべきです。安価でも確実に保証解除まで完了する相手と、形式上の譲渡だけでリスクが残る相手では、最終的な安全性が大きく異なります。

 

買手の財務的裏付けと保証処理の進捗を管理することで、この種の被害は大幅に回避できます。価格ではなく“譲渡後に何が残るか”を基準に助言することが、顧問先を守る上で最も重要かつ実務的な対応です。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

 

 

Q-19 M&Aと退職金の活用について|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-19 M&Aと退職金の活用について

A

M&Aの実務においては、退職金の支給を組み込んだスキームが採用されるケースが少なくありません。

これは、単なる譲渡対価の調整にとどまらず、買い手・売り手双方にとって合理的なメリットが期待できるためです。

 

その背景として、主に次の二点が挙げられます。
第一に、買い手にとっては買収希望価格を増額することなく、売り手経営者の手取り額を増やすことが可能となる点です。

第二に、退職金に係る税務上の効果が、買い手・売り手双方にメリットをもたらす点です。

 

以下では、一般的なスキームとその効果について整理します。

(1)余剰現預金の退職金への振替

M&Aの対象会社において、貸借対照表上の現預金が運転資金として必要な水準を上回っている場合、その超過部分を売り手経営者に対する退職金として支給するスキームが検討されることがあります。

(2)譲渡対価を増やさずに手取り額を増加

上記の方法により、買い手は買収希望価格を引き上げることなく、売り手経営者の実質的な手取り額を増やすことが可能となります。
結果として、譲渡対価と退職金を組み合わせた形で、双方が納得しやすい条件設定が実現します。

(3)買い手側における税務上のメリット

退職金が税務上、損金算入可能な範囲内で支給される場合、その分の税効果は買収会社の財務諸表に寄与することとなります。
もっとも、役員退職金については、在籍期間や最終役員報酬との関係から算定される適正額を超えないよう、慎重な検討が必要です。

(4)売り手経営者の引退後の生活設計への寄与

売り手経営者にとっては、M&A完了後の引退を見据えた生活設計が立てやすくなる点も、大きなメリットといえます。
特に、退職金は税務上の優遇措置(【1】退職所得控除と【2】2分の1課税)があるため、資金計画の観点からも重要な意味を持ちます。

留意点

このような退職金スキームは、M&Aプロセスの中で一定の検討時間を要するものの、実務上は非常に有効な手法です。なお、M&A仲介会社の中には、退職金の支給を組み込んだスキームを重要視し、退職金を含めた金額を手数料算定の基礎とする会社も存在しますので、M&A仲介会社選定にあたっては、手数料に関する条件を十分に確認する必要があります。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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 従業員2名の小規模事務所です。従業員のうち1名は20年以上の付き合いがあります。M&Aによる事務所の売却を予定しており、従業員にも伝えたうえで進めようと思っていますが、そのような進め方で問題ないでしょうか。

 

 

 

従業員への情報共有については慎重な対応が必要です。

M&Aは交渉の過程で条件変更や中止となる可能性があるため、一般的には従業員の不安や混乱を避ける目的で、譲渡契約(最終契約)締結後に知らせるケースが多いです。一方で、長年にわたり信頼関係を築いてきた従業員がいる場合は、基本合意が成立し方向性が固まった段階で、適切な範囲で共有するケースもあります。

その際は、雇用や待遇など、従業員が懸念しやすい点を丁寧に説明し、安心してもらえるよう配慮することが重要です。また、情報漏洩防止のため取り扱いに注意してもらうとともに、これまでの貢献への感謝や今後のサポート姿勢を伝えることで、移行を円滑に進めやすくなります。

進め方に不安がある場合は、会計事務所M&Aの経験が豊富な専門アドバイザーに相談しながら進行することをお勧めします。

 

 

 

 


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顧問先からのM&A相談対応Q&A(入門編)

本連載は、顧問先のM&Aの疑問に答える税理士の視点で解説してきます。

 

Vol.1 Q:顧問先から「M&Aを検討している」と言われた時の初動対応は?

 

A:

まずは、相手の話をしっかり聴きましょう。
その場で判断せず、期待値を上げず、決めつけたりするような言動は控えてください。
税理士として最初の役割は、顧問先の意向や背景を正確に把握することです。
そのうえで、「一緒に考えていきましょう」という姿勢を明確にしてクライアント寄り添うことが大切です。

 

<解説>

では、顧問税理士として、クライアントのM&Aに関わるにはどのような点に注意すればよいのでしょうか?

 

①なぜ「判断しない」ことが重要なのか

M&Aの現場では、「税理士に最初に相談したが話が噛み合わなかった」という譲渡企業経営者の声を多く耳にします。

その原因の多くは、初回相談時に判断・評価・方向性まで踏み込んでしまうことにあります。

M&Aは、税務だけで完結するテーマではありません。

雇用、取引先、家族関係など、複数の要素が絡むため、初動での即断はミスマッチを生みやすくなります。

そのため初回は、「現時点では判断材料が不足している」というスタンスを明確にすることが重要です。

 

②なぜ「期待値を上げてはいけない」のか

「この規模なら〇億くらいでしょう」「最近この業界は高いですよ」

といった不用意な一言は、後にトラブルの火種になります。

M&Aの価格は相場ではなく、個別条件と交渉によって決まります。

初期段階での価格感提示は、経営者の期待値を不必要に引き上げ、結果として「話が違う」という不信感につながりかねません。

 

③「選択肢を閉ざさない」姿勢が信頼を生む

M&Aに対して否定的な意見を持つこと自体が問題なのではありません。

問題となるのは、代替案や整理を示さずに否定してしまうことです。

実際、M&Aを検討している経営者は多く、「理解してもらえなかった」と感じた瞬間に、別の相談先へ移ってしまいます。

結果として、成約後に初めて知らされ、顧問契約が解除されるケースも少なくありません。

 

実際のところ、売上数億円以上で一定の利益を確保している“優良顧客”ほど、金融機関、コンサル会社などから日常的にM&Aの提案を受けているのが実情です。

他にライバルが多数登場する中でも、信頼関係を崩すことなく顧問契約を継続してもらうためには、

常日頃からクライアントに対して真摯に向き合い、相談を受けた際には慎重に対応する必要があります。

 

 

【今回のポイント】

M&Aの現場からみた、初動対応のポイントは下記の通りです。

  • ・判断しない
  • ・期待値を上げない
  • ・ただし、選択肢は閉ざさない

 

 

この連載では、税理士の先生が実際に顧問先から受けるような相談に対する回答を連載体系的に解説していきます。

 

 

 

【著者】

株式会社たすきコンサルティング 代表取締役 森田 修

【プロフィール】

代表取締役 森田 修

1974年生まれ、大阪府出身。清風高等学校を卒業後、日本大学文理学部を経て、東洋大学大学院経済学研究科を修了。2004年に税理士登録。事業会社での実務経験を積んだ後、株式会社エスネットワークスにて株式公開コンサルティングなどに従事。

2005年に株式会社たすきコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。以降、M&A・組織再編コンサルティングを中心に、税務・労務・株式公開支援など幅広い分野にわたりサービスを展開。グループ全体で約1,000社の企業と取引実績を持つ。

実務に裏打ちされた高い専門性と現場目線のアドバイスに定評があり、特に中小企業の経営支援において豊富な実績を誇る。剣道錬士六段の腕前も持ち、ビジネスと武道の両面で研鑽を重ねている。

 

 

 

 

Q-18  相続対策としてM&Aは利用できますか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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 Q-18  相続対策としてM&Aは利用できますか? 

A

M&Aは相続対策としても利用することが可能です。
買い手となる場合と、売り手となる場合とで相続対策としての内容が異なってくるため、それぞれに分けて解説します。

 

 

 

<買い手の場合>
実際の相続税計算は複雑であるため、詳細な説明はここでは省略しますが、簡略化すると相続税は「相続財産×税率」で計算されます。
ここでいう相続財産は、現金や預金であればその財産の金額は額面金額の通りとなります。しかし、非上場株式を保有していた場合の財産の金額については、実際の取得金額ではなく、会社規模等により一定の算定方法で相続財産としての金額を算定することが必要になります。
非上場会社の規模によっていくつか評価方法が分かれますが、その評価方法の一つである純資産価額方式を簡便的に説明すると、この計算方法では対象の会社の資産を相続税のルールで評価し、負債との差額を評価額とします。
例えば、合理的な取引価値が4億円である会社の株式100%を、4億円で取得したとします。
下図にある通り、ここでの各資産の相続税における評価方法で評価すると結果は3億円となるため、一般的には実際の取引価格よりも評価額が低くなることが多々あります。
このような評価になった場合に、相続が発生すると、現金で4億円を保有したままの場合は相続財産4億円に対して税率を乗じた相続税が発生しますが、M&Aにより株式を取得していた場合には相続財産3億円に対して税率を乗じた相続税が発生することになり、現金を保有するよりも非上場株式を保有していたほうが有利となります。

 

 

このようにM&Aにより相続財産の評価額が低くなる可能性があります。しかし、実際の会社を取り巻く経営環境や、将来的にその後の事業運営が適切にできるのか等含めクリアにすべきポイントは多くあるため留意が必要です。

 

 

<売り手の場合>
相続税の税率は最大で55%となっており、多額の資産を保有していた場合には相続税額も多額となります。その際に資産の大半が経営する会社の株式などの流動性の低い資産であった場合には、相続発生時に必要な納税資金が不足してしまうことになります。
また、相続人が会社経営に関与しない立場である場合には、その後の会社経営に大きな影響を及ぼしてしまう可能性があります。
納税資金の準備やその後の会社運営という意味でも、会社経営に関与している役員等が相続発生前にM&Aを行い、適切な価格で売却し現金化しておくということも、相続対策のひとつと言えます。

 

今回はかなり簡略化した説明となっていますが、実際には様々な要素やルールに基づき計算されます。また売却時にも利益がでていれば売却した本人に課税が発生する場合や、非上場株式の相続においては事業承継税制というM&Aとは違う形での相続税の対策方法の選択など、多面的に税務の専門的な知識が必要となるため、実行に際しては税務専門家への事前相談が必須といえます。

 

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

このコラムでは読者の方からのご質問も募集しています。M&Aに関することで疑問に思っていること、コラムの内容に関してもっと詳しく知りたいこと、○○について取り上げてほしい、などありましたら、こちらのアドレス(links@zeiken.co.jp)までお知らせください

 

(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

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個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 税理士事務所をM&Aで譲渡する際、「顧問先をうまく引き継げなかった」という事態だけは避けたいです。円滑に引き継ぎを進めるために、気を付けるべきポイントはありますか?

 

 

 

税理士事務所のM&A において、顧問先の離脱を最小限に抑えるためには、計画的で丁寧な引き継ぎが不可欠です。特に小規模事務所の場合、旧所長が一定期間(目安として約1 年)業務に関与し、「これまでと同じ体制でサポートを受けられる」という安心感を顧問先に提供することが重要です。この“継続性の担保” が、信頼維持の鍵となります。

 

また、顧問先にとっては“担当者が変わらないこと” も大きな安心材料となり、契約継続率の向上に直結します。そのため、従業員の雇用を安定的に維持するための配慮も欠かせません。これらのことを含めて、譲渡後の体制について、譲渡先とともに、顧問先に丁寧に説明し、「新体制でも安心して任せられる」 と感じてもらうことが重要です。

 

税務研究会では、ご依頼者様の個別事業にあわせた、「顧問先の離脱を最小限に抑えるための対応策」についても、必要なタイミングで情報提供を行いながら、しっかりとサポートいたします。どうぞ安心してご相談ください。

 

 

 

 


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 税理士事務所を譲渡する際、そのタイミングで会計システムを変更されることはありますか?50歳代や60歳代の従業員がいるので、できれば変更せずに引き継ぎたいです。

 

 

 税務研究会が携わった事例では、譲渡時に会計システムが変更されたケースはほぼありません。特に顧問先が自計化している場合や、従業員が高齢で会計システムの変更が従業員の大きなストレスとなる場合などは、現行の会計システムを維持することが一般的です。

 

買い手にとっても、スムーズな引き継ぎと、従業員や顧問先の満足度維持が重要ですので、会計システムを含め、その他の既存環境を尊重する傾向があります。もちろん、将来的に会計システムの統一を検討する場合もありますが、従業員の反応を見つつ、段階的な移行期間を設けることが多いようです。

 

しかし、買い手によっては、譲渡時に会計システムの統一を考えているケースもありますので、そのようなご不安を抱えているようでしたら、事前にアドバイザーにご相談してみてはいかがでしょうか。税務研究会では、こうした希望を条件に反映した相手探しも可能ですので、安心してご相談ください。

 

 

 

 


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Q-17 M&Aの成約まで、どのくらいの時間がかかりますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-17 M&Aの成約まで、どのくらいの時間がかかりますか?

A

M&Aの成約までに要する期間は、案件の規模や対象会社の事業内容、利害関係者の多寡などにより大きく異なりますが、一般的には最低でも3か月程度、大規模な案件においては3年程度を要する場合もあります。

 

この期間は、よく「知り合ってから結婚するまでの期間」に例えられます。

出会ってすぐに結婚するケースもあれば、時間をかけて相手を理解し、納得したうえで人生を共にする選択をするケースもあるように、M&Aも同様です。

 

以下では、一般的なM&Aのプロセスを、かかる時間がイメージしやすいように結婚に例えながら見てみましょう(交渉の流れについてはQ11も参照して下さい)。

 

 

(1)基本的な情報開示

事業内容、基礎的な財務諸表、主要取引先などの情報が開示されます。この段階は、当事者間の相互理解を深めるための初期フェーズであり、M&A検討の前提となる重要なプロセスです。
いわゆる「釣書」の交換にあたる段階です。お互いの基本情報を開示し、相手がどのような会社なのかを知るための最初のステップとなります。

 

(2) M&Aを進めるかどうかの意思確認(意向表明)

当該M&Aを進める意思が双方にあるかを確認する段階です。条件面や方向性を踏まえたうえで、次のフェーズへ進むか否かを判断します。
これは、知人の紹介を受けた後に「お見合いを進めるかどうか」を確認する段階に似ています。

 

(3)トップ面談

経営理念、事業方針、譲渡条件などについて、経営トップ同士で直接確認を行います。
財務条件のみならず、経営理念や将来像の一致が、M&A成功における重要な要素となります。
実際に顔を合わせ、お互いの考え方や価値観を確認する重要な場面です。結婚において人生観の一致が重要であるのと同様に、M&Aでも経営理念や将来像の共有は極めて重要です。

 

(4)基本合意

金額、時期、主要な条件について合意が形成されます。通常、法的拘束力を有するのは守秘義務契約や独占交渉権に限られますが、実務上は関係者への影響も大きく、慎重な判断が求められます。
この段階は「結納」に例えられます。基本合意に至った後に交渉が破談となると、当事者だけでなく、従業員や取引先、市場に与える影響も小さくありません。精神的・実務的な「しこり」が残る点は、結婚と非常によく似ています。

 

(5)デューディリジェンス

財務・税務・法務・ビジネス面などから、対象会社の詳細な調査が行われます。
買い手にとっては投資判断の根拠となる重要なプロセスであり、売り手にとっても自社のリスクや課題を整理する機会となります。買い手は「この会社に投資して、どれだけのリターンが見込めるのか」「どのようなリスクがあるのか」を確認します。一方で、売り手側が実施するセラーデューディリジェンスも重要です。
これは、実際に交際を重ね、相手の長所だけでなく短所も理解する期間、いわば婚前期間に相当します。近年、婚前同棲が一般化しているように、この確認期間はM&Aにおいても極めて重要です。

 

(6)最終譲渡契約の締結

金額、時期、表明保証条項、引渡条件等々法的拘束力を有する最終契約が締結されます。
従業員の雇用継続や取引先との関係承継は努力義務として条文化されるケースが多いですが、それ以外のものは原則としてすべてに法的権利義務が生じます。

 

(7) クロージング

株式または事業の引渡しおよび代金決済が行われ、M&Aが実行されます。
結婚式を挙げ、「めでたし、めでたし」となる瞬間です。

 

(8) 表明保証期間の終了

M&A完了後、3か月から2年程度の期間、財務諸表の虚偽や権利関係の瑕疵があった場合の保証責任が続きます。この期間が終了して、ようやくすべての権利義務が精算されます。こういった表明保証といった瑕疵担保責任のようなものは結婚にはありませんが、M&Aに関しては、限られた時間内で生きた事業体(経営戦略・資金・ノウハウ・顧客・従業員等々)の価値算定⇒合意に至たらなくてはなりませんので、こういった表明保証が行われるのが通常です。

 

 

おわりに

M&Aは、スピードが速ければ必ず成功するものではありません。
結婚と同じく、どれだけ時間をかけて相手を理解し、失敗を回避するための確認を行ったかが、その後の「幸せ」を左右します。成約までの期間は、決して無駄な時間ではなく、全てが成功のために必要不可欠なプロセスなのです。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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Q-16 M&Aにはどの程度の費用が掛かるのでしょう?  |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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 Q-16 M&Aにはどの程度の費用が掛かるのでしょう? 

A

M&Aの実施に掛かる費用として、対象となる会社の取得価格以外にも、様々な費用が発生することになります。実際に、買い手側、売り手側で発生するM&A費用は異なり、対象となる会社の事業規模などによっても大きく変わってきます。

 

 

 

買い手側で発生する主な費用

・仲介手数料、アドバイザリー費用

仲介手数料はM&A仲介会社に対して支払う手数料です。M&A仲介会社が売り手と買い手の間に入り、双方の要望や意見を聞きながら調整を行い、円滑にM&Aを進めるための費用となります。

他方、アドバイザリー費用は仲介とは異なり、買い手または売り手のどちらか一方とのみ契約するFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に対して支払う費用です。FAがアドバイザリー契約した会社の利益最大化を目指してM&Aの実施をサポートするための費用となります。仲介手数料、アドバイザリー費用の主な内容としては次のようなものがあります。

▷相談料
M&Aを実施するかどうかに関わらず初回の相談時に発生する費用。
一般的な費用相場としては無料~数万円程度。

▷着手金
M&A仲介会社やFAへ業務を委託した際に発生する費用。
一般的な費用相場としては無料~数百万円程度。

▷中間報酬
買い手と売り手がマッチングし、基本合意に至った際などに発生する費用。
一般的な費用相場としては成功報酬の10%~20%程度(数十万円~数百万円程
度)。

▷月額報酬
M&Aが成立するまで毎月定額で発生するコンサルティング費用。
一般的な費用相場としては無料~数十万円程度。

▷デューデリジェンス費用
売り手企業の財務、税務、法務、労務等に関する調査に係る専門家への依頼費
用。基本的には買い手が実施するため、買い手が負担するケースが多い。
一般的な費用相場としては数十万円~数百万円程度。

▷成功報酬
M&A成立時に発生する費用。一般的にはレーマン方式と呼ばれる「取引金額」
に一定の手数料率を乗じる計算方法で算定されることが多い。なお、算定の基
礎となる「取引金額」には、譲渡の対象となる株式価額、移動する総資産額、
企業価値の金額などが用いられることとなる。
一般的な費用相場としては数十万円~数百万円程度。

 

・買収費用

M&Aの対象会社を買収するための費用であり、買収金額は対象会社の規模、業種、経営環境等により様々です。なお、株式や事業の譲り受け対価が現金の場合には現金の支出が発生しますが、買い手の株式と売り手の株式を交換する株式交換などの組織再編手法を利用した場合には現金の支出が伴わないことがあります。

 

・税金費用

事業を譲り受けた場合に、譲渡の対象となる課税資産については消費税等の支払いが発生します。また、譲り受けた資産に不動産が含まれている場合には、不動産取得時に不動産取得税、不動産登記時に登録免許税などの税金が発生します。

 

 

 

売り手側で発生する費用

・仲介手数料、アドバイザリー費用

基本的にはデューデリジェンス費用を除いて買い手側と同様に発生します。

 

・税金費用

M&A実施の結果、生じた譲渡益に応じて、売り手が会社の場合には法人税や法人住民税、個人の場合には所得税等(譲渡所得)の税金の支払いが発生します。また、買い手から受領した消費税等については、申告・納付の対象となりますので留意が必要です。

 

買い手および売り手において発生する費用をまとめると次の表になります。

買い手 売り手
相談料 無料~数万円程度 無料~数万円程度
着手金 無料~数百万円程度 無料~数百万円程度
中間報酬 成功報酬の10%~20%程度
(数十万円~数百万円程度)
成功報酬の10%~20%程度
(数十万円~数百万円程度)
月額報酬 無料~数十万円程度 無料~数十万円程度
デューデリジェンス費用 数十万円~数百万円程度 基本的には負担なし
成功報酬 数十万円~数百万円程度 数十万円~数百万円程度
買収費用 対象会社の価格により変動
税金費用 課税資産に係る消費税等
不動産取得税や登録免許税等
譲渡益に係る法人税及び
法人住民税または所得税等
(譲渡所得)

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

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 顧問先に迷惑をかけないように、税理士事務所を売却したいと考えています。
そのため、1 年間程度の引き継ぎ期間を設けたいのですが、可能でしょうか

 

 

 顧問先に負担をかけず、スムーズに引き継ぎたいというお気持ちは自然なことです。実際、多くの売却希望者が同じように「約1 年間の引き継ぎ期間」を希望しています。

 

買い手側も、顧問先や従業員の離脱を防ぐため、一定期間売り手が事務所に残ることを歓迎するケースが多いです。売り手が引き継ぎに協力的であることは、顧問先だけではなく、買い手にとっても安心材料になります。

 

引き継ぎの具体的な内容は、買い手側の意向も考慮する必要があります。理想的なのは、引き継ぎ期間の中で、徐々に買い手のスタイルに合わせながら、円滑に移行することです。そのため、買い手を選ぶ際には、顧問先対応の方針やスタイルをしっかり確認して、売り手事務所との違いを把握しておくことが大切です。

 

 

 

 


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Q-15 M&Aのアドバイザーを入れる場合、報酬の相場はあるのでしょうか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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Q-15 M&Aのアドバイザーを入れる場合、報酬の相場はあるのでしょうか?

A

M&Aアドバイザー報酬の相場はあります。上場M&A仲介4社の料金表を見比べてみると、主に、(1)着手金、(2)中間金、(3)成功報酬にわかれます。それぞれ買い手・売り手の報酬は、どの会社においても買い手・売り手ごとに価格体系が設定されています。まとめると、下記のようになります。大くくりで見ていくと、ほとんど違いはないイメージをお持ちになられたのではないでしょうか?

【料金比較表】

それぞれの内容については以下の通りです。

(1)着手金…概要提案・NDA(守秘義務契約)締結後にトップ面談が設定される場合に、そのトップ面談前に着手金が発生する仲介会社と発生しない仲介会社があります。これについては、婚活サイトなどでも有料なものと無料なものがあるように、ほぼそれと同じ原理が働きます。無料の仲介会社の場合、「ちょっと試しに相談してみる」というケースもないわけではありません。無料の仲介会社をご利用される場合は、売買の動機・背景など売り手・買い手双方の意思の確認を入念にされることをお勧めいたします。

 

(2)中間報酬…基本合意書が締結される時点で買い手側に発生するのが通常です。売り手には基本発生しませんが、発生する仲介会社もあります。発生する仲介会社は、売り手にとっての基本合意書を重視しているからと推察されます。基本合意書は、(イ)買収価額、(ロ)諸条件(退職金・借入金引継ぎ・従業員の承継・ブランド使用等々)、(ハ)株式等の譲渡時期について最低限記載されるわけですので、M&Aにとっての重要な枠組みが設定されることになります。そのため買い手に中間金が発生するのが通常です。特に、基本合意書における法的拘束力を持たせる重要事項としては、守秘義務条項と排他的独占交渉権がありますので、売り手・買い手双方の本気度が上がった時点の支払いということで、金額の多少の多寡はありますが、いずれも妥当なものと思われます。

 

(3)成功報酬…これについては、買収価格帯やレンジの刻みなど多少の差異はあるものの大きな違いはないようにみえます。仲介会社によっては、退職金を報酬算定の基礎に入れている「オーナー受取額基準」を採用している場合(のれん交渉・退職金交渉は、売り手の立場での努力表明の意味もあるかと思います。)や、「株価」を基準としている場合(基準額としては最も小さい数値となります。)、総資産額(株式価額に有利子負債・買掛金・未払金などを加算した金額)を基準としている場合などがあります。

 

これらの価格体系を見ていくと、それぞれの仲介会社が何を大切に考えているかが透けて見えてきます。例えば、売り手側の視点から言えば、企業の大切なノウハウの買い手への開示について慎重な仲介会社、買い手の本気度を確認している仲介会社、買い手側の視点から言えば、売却後のオーナーの生活設計について、売り手の立場になって考えていくことを重要視している仲介会社、等々です。

 

そして、何よりも大切なのは、着手してから譲渡に至るまでの成功確率です。なぜなら着手後にM&Aディール(取引)が失敗すると、様々な不幸が生じるからです。会社の重要なノウハウも含めて見られてしまった、また、従業員・お取引先に知られてしまった等の風評リスクなど、何もなかった元の状態に戻すことはもはや不可能です。会社によってはこの成功確率が10%前半のところもあれば、50%近い成功確率のところもあります。この成功確率は前述の料金体系にも関係することですが、M&Aにおける各アクションにおける入念さ・専門性・担当者のコミュニケーション能力に大きく左右されることはいうまでもありません。

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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(注意)回答・解説は原則このコラム内で行い、個別の回答はできません。個別事例についてのご相談には対応できませんのであらかじめご承知おきください。

 

 

 

高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 従業員が3名の事務所の代表です。後継者を募集したのですが、
見つからないのでM&Aで譲渡しようと思っています。
ただ、仲介会社に支払う手数料が高額であるということも聞きます。
M&Aの「手数料」とは、どのようなものなのでしょうか?

 

 

 仲介会社に支払う手数料は、会社ごとに異なります。

以下の点に留意して、各社の手数料を確認するとよろしいかと思います。

 

 

(1)手数料を支払うタイミング
手数料の種類として、一般的に「着手金」「中間報酬」「成功報酬」があります。「着手金」は、仲介契約時に支払う手数料で、成約しなくても返金されないことが多いです。「中間報酬」は基本合意締結時に、「成功報酬」は最終契約締結時に支払う手数料です。「着手金」「中間報酬」は仲介会社により設定していないことも多いですが、「成功報酬」はほぼすべての仲介会社で設定しています。これとは別に、「月額報酬」を設定している仲介会社もあります。

 

(2)「成功報酬」の最低報酬額
手数料の中で最も高額となるのが「成功報酬」です。大規模案件を手掛ける仲介会社では、成功報酬の「最低報酬額」が2,000 万円程度に設定されています。小規模案件を手掛ける仲介会社では、200 万円~ 1,000 万円程度に設定されていることが多いです。

なお、税務研究会パートナーズの手数料は、「成功報酬」のみで、成功報酬の「最低報酬額」は、200 万円(税別)です。※2025 年11 月時点

 

 

 


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Q-14 M&Aが成功する確率はどの程度でしょうか? |3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-14 M&Aが成功する確率はどの程度でしょうか? 

A

M&Aの成功確率は、売り手および買い手企業の規模、業種、地域などに加えて、企業の置かれている経営環境、さらにはM&Aを実施する目的により大きく左右されます。また、M&Aが成功したかどうかについても各企業にてそれぞれの判断基準があるため、画一的に成功する確率を言うことは難しいですが、後述するように、過去の統計データを見ると概ね2割から3割程度となっています。野球の打率であれば十分かもしれませんが、この確率が高いのか低いかの最終的な判断は当事者の感覚にゆだねられているといえます。

 

 

 

何をもってM&Aが成功したと言えるか

では、企業はどのような判断基準でM&Aが成功したかどうかを判断するのでしょうか。

M&A実施企業を対象とした大手コンサル会社のアンケート結果*1によると、成功・失敗を評価する際に用いた定量指標としては、特に「売上・収益の伸び」が多く、次いで「利益水準」となっており、これらの指標を複数組み合わせて判断する企業が多いことがわかります。

さらに、上記指標において目標達成度合いが60%を超えていれば概ね当初の期待どおりの結果が得られたものとしてM&Aが成功したと考える企業が全体の8割程度を占めています。

また、M&A実施効果について帝国データバンクが行った満足度調査*2によれば、「やや満足」「満足」と回答した割合は、買い手側においてはM&Aの相手先業種が同業種の場合に63.5%、異業種の場合に56.5%が、売り手側においてはM&Aの相手先業種が同業種の場合に58.8%、異業種の場合に60.2%となっております。このことから、いずれのケースにおいてもM&Aを実施した結果、当初の期待どおりの結果が得られたものとして成功と考えている会社は全体の6割程度と言えます。

 

 

M&Aが成立しなかったケースを考慮するとさらに成功確率は下がる

M&A実施後の満足度だけを見ると成功確率は6割程度あるように見えますが、これらの割合はM&Aが成立した企業のみをアンケート対象としているため、そもそも目的や条件にあった相手先とマッチングしなかった場合や、マッチング後の交渉が難航した結果、不成立となる場合もあるため、M&Aが成立しなかったケースも考慮する必要があります。

ここで、中小企業庁の「中小企業白書」に記載されたM&Aの過去実施状況*3によれば、M&Aを「実施した」の回答割合は11.6%、「実施していないが検討をした」の回答割合は15.6%、「実施、検討をしていない」の回答割合は72.8%でした。このことから、M&Aを検討した企業は全体の27.2%となり、検討した企業を母集団とした場合に、実施までに至った割合は約43%(=11.6%÷27.2%)と計算できます。この割合を上述のM&A実施について成功と考えている約6割に乗じた結果が2割から3割程度であり、この数字が一般的にM&Aを検討した企業におけるM&Aの成功確率と言えるでしょう。

 

*各種統計をもとに筆者作成

 

 

 

■M&Aの成功確率を上げるためには

ただし、先に述べたように成功確率は経営環境やM&A実施の目的により大きく左右されるため、成功確率を高めるためには特に次のポイントを意識することが重要です。

・M&A実施の目的を明確にし、適切な目標を設定する

なぜM&Aを実施するのかその目的を明確にするとともに、目的達成のためには合理的に達成可能な具体的な目標を設定することが必要です。精度の高い適切な目標を立てることにより、M&Aの成否の判断基準となる目標達成度合いの割合も高めることが可能となります。

 

・信頼できる専門家に相談する

M&Aは専門的な知識が必要となるため、M&A仲介会社や、公認会計士・税理士・弁護士といった専門家等に相談することが一般的です。経験豊富な信頼できる専門家を利用することで適切なサポートやアドバイスを適時に受けてM&Aを円滑に進められることにより、効果的なM&Aの成立可能性を高めることが可能となります。

 

(参考)

*1株式会社KPMG FAS『M&A Survey』「日本企業によるM&Aの特徴」(2019年)

*2株式会社帝国データバンク『令和5年度中小企業実態調査委託費 中小企業の実態把握に関する調査研究 報告書』「M&A 実施効果についての満足度」(2024年)

*3中小企業庁『中小企業白書』「M&A実施企業の実態」(2018年)

 

 

 

(執筆:税理士・公認会計士 風間啓哉)

 

 

 

 

 


 

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風間啓哉(かざま けいや) 

税理士・公認会計士(風間会計事務所 代表)

2005年公認会計士登録、2010年税理士登録。

監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けの各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証プライム)へ参画し、同社取締役CFOを経て、同社非常勤監査役(現任)を経験。2018年から会計事務所を本格的に立ち上げ、現在に至る。

(著書等)『PB・FPのための上場会社オーナーの資産管理実務(三訂版)』『資産家・事業家 税務コンサルティングマニュアル』(共著、税務研究会)、『ケーススタディ M&A会計・税務戦略』(共著、金融財政事情研究会)

 

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◇◆ 会計事務所M&Aの疑問(譲渡/入門編)◇◆

 

税務研究会では、会計事務所の事業引継ぎ(譲渡)を検討している税理士の方を対象に、全国各地で個別勉強会・相談会を開催しております。

個別勉強会・相談会の参加者から寄せられた質問の一部をご紹介いたします。

 


 地方都市の税理士です。2 年後に税理士事務所を譲渡したいと考えています。仲介契約はいつ締結すべきでしょうか?

 

 

 2年後の譲渡をお考えでしたら、できるだけ早く仲介契約を締結されることをおすすめします。

 

税務研究会がこれまで携わった事例では、仲介契約から最終契約の締結まで、通常7~8か月ほどかかることが多いです。ただし、買い手探しが難航し、さらに時間がかかるケースも少なくありません。特に地方都市の場合は、首都圏に比べて買い手が見つかるまでに時間がかかる傾向があります。

 

そのため、地方都市で事務所の譲渡を希望される場合は、譲渡予定日の1 年半~ 2 年前には仲介契約を結び、余裕を持って準備を進めることが重要です。

 

もちろん、税務研究会では急ぎのご相談にも対応しておりますが、売り手の先生が冷静にご判断いただけるよう、できるだけ早めにご相談いただけると安心です。

 

 

 


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Q-13 M&Aが向いている業種・向いていない業種はありますか?|3分でわかる!M&Aのこと【解説コラム】

 

 

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今後、ますます活用が進んでいくであろうM&Aについて、できるだけわかりやすくQ&A形式で解説するコラムを掲載することにしました。ぜひご一読ください!

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Q-13 M&Aが向いている業種・向いていない業種はありますか?

A

M&Aが向いている業種、ということですが、「向いている」ということが、M&Aがよく行われている、多くの人が対象の案件を探している、ひいては対象として人気がある、ということだとしても、「〇〇業が向いている」のように一概にいうことは難しいのが実情です。

流行り廃りもありますし、時流といいますが、その時の状況によってM&Aが行われる業種の傾向は変わってくるものだからです。

よって、「M&Aが向いている業種・向いていない業種はあるか?」という問に関する答えは「ない」もしくは「その時の状況によって変わる」ということになるかと思います。

しかし、それでは身も蓋もないので、業種にこだわらず、どんな要素があればということを起点として「M&Aに向いている」と言えるのかを考えてみたいと思います。

 

 

M&Aが向いていると言える状況とは、M&Aという商品が存在し、そこにお客様が買い求める価値があるということ、要は、商品(M&A対象会社)に価値がつくことが最低条件になります。そうなると、概念論になりますが、(1)成長市場がある、(2)固定的な顧客を有する、(3)特許等はじめしくみに競争力がある、(4)立地が良い、(5)取引先が複数に分散している等があげられます。逆に申し上げますと、下記の(1)~(5)の要素がない場合、ほとんど営業権の価値はありませんので、資産中に価値ある不動産等が存在しない限り、M&A価格は値が付かないこととなり、M&Aに向いていないこととなります。(「不動産M&A」については、別の機会にご案内させていただければと思いますので、本稿のM&Aは「不動産M&A」とご理解ください。)

 

 

まずは(1)ですが、M&Aが成立する基本図式として、成長市場があり、その認識やそれに立ち向かうパッション・能力の差にギャップがあればあるほど、買い手が名乗りを上げてくれること自体が売り手にとって有り難いこととなります。M&Aで最も一般的な事業承継におけるケースも、当然、この原理が働きます。

 

(2)の固定的な顧客については、昨今では、その顧客からの売上・利益がどれだけ見込めるかということはもちろん、その顧客を持っていること自体が他のビジネスにどう相乗効果をもたらすかについて買い手は大いに興味を示すところです。

 

(3)については、技術的なこととなりますが、その特許の有効期間や範囲、技術・ノウハウ等の賞味期限や競争性が問われます。例えば、非破壊検査の技術などは、昨今、引っ張りだこです。

 

(4)については過去、「普通借家権」をベースにM&Aが行われていたころ、大変重要視されてきましたが、昨今のように「定期借家権」がベースとなっている事業については、あまり考慮されません(逆に、商業系・飲食系は、立地が価値を大きく決定づけます)。

 

最後に(5)の取引先の分散については、分散度合いが高ければ高いほど、買い手としての価値評価が大きく上がります。昨今では、アクティブ・ユーザー数(有効アドレス数)が重要なバリュードライバーとなるM&Aが多く散見されるところです。

 

 

 

(執筆:税理士 高井 寿)

 

 

 

 

 


 

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高井 寿(たかい ひさし) 

高井国際税務会計事務所 代表税理士 東京税理士会世田谷支部副支部長

2002年税理士登録、経営品質協議会認定アセッサー、CFPファイナンシャルプランナー、経営計画策定、国内及び国際タックスマネジメント、事業・資産承継、組織再編・連結納税、MAが専門。財団法人日本民事信託協会代表理事。

(著書等)「連結納税マニュアル(税務研究会)」「営業権の実務」(税務通信(税務研究会))、「経理システムと税務」「寄付金課税の問題点」(ともに税務弘報(中央経済社))、「資産家・事業家税務コンサルティングマニュアル」(税務研究会)

 

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