[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第3回】PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

 

▷第2回:PPAのプロセスと関係者の役割とは?

▷第4回:PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?

▷第5回:PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?

 

 

 

1.何を無形資産として認識すべきか?

第3回は,PPAを実施した際に計上すべき無形資産をどのように認識するか,について解説します。

まず,のれんと無形資産の関係について,図表1をご覧ください。

 

PPAに関する会計基準がなかった時代は,図表1(左側)の図の買収価額と資産・負債の時価(=時価純資産額)との差額がのれんとして計上され,償却されていました。

 

PPAに関する会計基準導入後は,原則として当該差額の内訳として無形資産が計上されることとなります。

(差額を超える無形資産が計上される場合は,差額を超える金額が負ののれんとして取扱われることとなる。)

 

 

 

【図表1】PPAにおける無形資産評価手続の概要

 

 

 

 

 

図表1(右側)の図のように,無形資産を計上する際には,2つのステップが必要となります。

 

Step1が,本稿の主題である何を無形資産として認識するかであり,

Step2が,Step1で認識した無形資産の評価額の算出,です。

 

その意味では,Step1において認識すべき無形資産を的確に把握しないと,そのあとの無形資産の評価にまで影響を及ぼし,見当違いな無形資産が貸借対照表に計上されることとなるため,無形資産の認識の手続は,PPA手続の最初の山場となるところであり,しっかりした分析と検討が必要となります。

 

また,この段階で「無形資産として認識すべきものはない」との結論が導き出されることもあり得ます。その場合,無形資産の評価の手続は省略されます。

 

 

 

2. 無形資産の認識基準‐IFRSと日本基準

PPAにおける無形資産の認識基準は,厳密にはIFRSと日本基準の認識基準は微妙に異なるものとなっています。

日本基準では,分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には,当該無形資産は識別可能なものとして取扱う,とされ,分離して譲渡可能かどうかが実質的な判断基準となっています。

 

一方,IFRSでは,資産が分離可能かどうかを問わず,契約または法的権利から生じている場合は識別可能とされ(契約・法律規準),契約・法律規準を満たさない場合でも,分離可能であれば識別可能とされます(分離可能性規準)。

 

また,日本基準においては,分離して譲渡可能な無形資産とは,当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならないとし,企業結合の目的の1つが,特定の無形資産の受入れにあり,その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には,当該無形資産については分離して譲渡可能なものとして取扱う,とされています。

 

日本基準の認識基準は少し分かり辛いですが,意訳すると日本基準もIFRSも,法律や契約で保護されるものであるかどうか,または,分離して譲渡可能かどうか,ということが実質的な判断基準となります。

 

商標や特許は,登録されていれば法的に保護されているので,無形資産としての認識基準を満たしていることとなります。

 

一方で,商標登録をされていないがブランドとして広く認知されているものや,特許として登録はされていないが特殊な技術で価値があるものについては,法的に保護はされないが,分離して譲渡することが可能(簡単に言うと,売却することが出来る)であることから,日本基準においてもIFRS基準においても無形資産としての認識基準を満たしていることとなります。

 

 

3.具体的な無形資産の例示

無形資産の認識基準は上述のとおりですが,実際は,対象会社の業種やビジネスの概要,商流等から,何が無形資産として認識されるのかを分析・検討していくこととなります。

 

本稿では,具体的に無形資産の例示を見ながらポイントを解説します。こちらをご覧頂ければ,どのような業種の会社にどのような無形資産が認識されるか,ポイントをご理解頂けるのではないでしょうか。

なお,当該例示は,認識される全ての無形資産を網羅しているものではない点にご留意ください。

 

 

①マーケティング関連の無形資産

マーケティング関連の無形資産の例示は,図表2のとおりですが,実際に認識される無形資産は,ほとんどが商標・商号・ブランドです。筆者の経験上は,その他のものについて実際に認識されることは稀です。

 

 

 

【図表2】無形資産の例示(マーケティング関連)

 

 

 

 

②顧客関連の無形資産

顧客関連の無形資産の例示は,図表3のとおりです。顧客関連の無形資産は,業種に関係なく認識されます。

顧客との関係に価値があるかどうかは,主観的な判断が伴う場合も多いので,対象会社のビジネスにおいて顧客との関係が収益稼得の源泉となっているかどうかを,ヒアリング等で把握して分析・検討していくこととなります。

 

もし仮に,製造業の会社で,特定の顧客との関係があって,その顧客が対象会社の製品を購入しているために対象会社のビジネスが成り立っている場合においても,顧客が対象会社製品の機能や品質等の技術的なものを評価して購入しているような場合は,その技術が存在しなくなった場合に顧客関係は継続されないことも推測できることから,そのような場合においては,顧客関係を無形資産として認識すべきかどうかについては,より慎重な分析・検討が必要となります(図表6参照)。

 

 

 

【図表3】無形資産の例示(顧客関連)

 

 

 

 

③契約関連の無形資産

契約関連の無形資産の例示は,図表4のとおりです。多くの会社は,様々な取引先と種々の契約を締結しています。そのため,全ての契約について個々に検討することは現実的ではありません。

 

ポイントは,その契約が,会社の収益稼得に貢献する重要なものであるかどうかです。会社が収益を稼得する際に必要不可欠な契約,その契約が解除された場合に会社の収益が激減する契約等,直接的・間接的を問わずに,そういった契約がないかどうかをインタビュー等にて洗い出していくこととなります。

 

 

 

【図表4】無形資産の例示(契約関連)

 

 

 

 

④技術関連の無形資産

技術関連の無形資産の例示は,図表5のとおりです。製造業においては,特許や特許を含む技術が認識されることが多いです。

 

 

 

 

【図表5】無形資産の例示(技術関連)

 

 

 

4.まとめ

以上のように,実務上,無形資産の認識は,対象会社の業種やビジネスの概要,商流等を把握しながら,無形資産の例示に当て嵌めて,何を無形資産として計上すべきかを分析・検討していくことになります。

 

業種によっては,簡単に無形資産を認識することができる一方,ビジネスが複雑であったり,特殊な業種であったり,または複数の事業を営んでいるような会社の場合は,無形資産の認識についてはより慎重な分析と検討が求められることとなります。

 

無形資産として何を認識するかが,そのあとの無形資産の評価額の算出の際に,評価手法の選択であったり,経済的耐用年数の設定である場合についても影響し,評価額そのものが大きく変動する可能性があります。そのため,的確に無形資産を認識しておくことが肝要です。

 

勘所をご理解頂ければ,買収前においてどういった無形資産が認識されるのかをある程度推察可能となることから,事前検討の際には是非本稿を一読頂ければ幸いです。

 

最後に,筆者が無形資産の認識を分析・検討する際に用いている「無形資産の所在の考察」に関する簡単な図を掲記します。

このように商流や仕入先,顧客との関係性を整理すれば,自ずと何を無形資産として認識すべきかが見えてくることとなります。

 

 

 

【図表6】無形資産の所在の考察(例)

 

 

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

④一部株式譲渡スキームの危険性とその対応策

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■プレM&Aにおける株式譲渡スキームを採用した場合の、売主株主における少数株主からの株式買取(スクイーズアウト)に係るみなし贈与

■株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

 

 

株式譲渡スキームを選択した場合、どうしても一部譲渡しかできなかったとします。この場合の対応策を考えます。

 

 

中小零細企業M&Aにおける株式譲渡スキームで一部譲渡は大変危険です。交渉で全部譲渡にするか、事業譲渡スキームに変更するか、個別資産等売買契約に変更するか、それとも、破談するかを選択します。ベストは破談です。中小零細企業M&Aにおける株式の一部譲渡は実行するべきではありません[注1]。

 

 

公開企業M&Aにおいては、この場合、アーンアウト条項が付されます[注2]。

 

 

アーンアウト条項とは、クロージング日以後の一定期間を定め、当該期間において買収対象事業が一定の目標(経営指標:KPI)を達成した場合、買主が売主に対し、予め合意した算定方法に基づき、買収対価の一部を順次支払う取り決めです。

 

 

買収対価の一部順次支払いと買収後における一定の目標達成とを連動させるのは買主・売主のリスクの適切な分配がその目的とされます。公開企業M&Aにおいては、買主が想定する買収価格と売主が想定している売り価格に齟齬がある場合、最も効力を発揮するといわれます。すなわち、買主は売買価額10億円だと想定しており、売主は、「うちの企業価値は15億円である、もっと高く評価してもらいたい」などと、企業価値の認識にギャップがある場合、懐疑的な買主に対し、売主側がクロージング日以降、一定のKPI(経営指標)を達成し、売主側の提示した価格を納得させた上で、差額を支払わせるのです。

 

 

当該条項のメリットは以下の点です。売主としては、クロージング日以後、株式を手放しても、経営に関与し続け、一定の結果を出せば当初約定の追加キャッシュを手にすることが可能です。買主としては、当初約定の一定期間に売主の表明保証違反が発覚すれば、譲渡代金の減額が可能です。資金繰りという意味で、当初は手堅いと想定される範囲で資金を出し、売主のパフォーマンス次第で、ボーナス的な意味合いで支払いを随時とすることができ有利です。デメリットとして売主では一度にキャッシュを受領できないことが挙げられます。

 

 

このように当該条項は、専ら買主が自身のリスクを軽減させる目的で採用します[注3]。したがって、現在のように、中小零細企業M&Aが売手市場である状況においては、買主が有利な契約は現実的に合意に至りにくく、また、通常は売主側(の代理人弁護士、FA等)が先に最終契約書のドラフティングを行うこと等諸事情から、下記ではあくまでも上記の公開企業M&Aの実例を踏まえた上で、中小・零細企業M&Aで少しでも応用できないかを模索した買主の理想像を述べています 。

 

 

売主の役員報酬を業績連動型(法人税法第34条の業績連動給与ではない)として、株式譲渡対価の一部にその当該報酬を充当するなどの交渉も行ったりします。こうすることで、1株あたりの譲渡価額の計算に過去3期分それぞれの経常利益増加割合等を反映させることが可能となり、譲渡価額を大きくすることも可能という分割払いが代用されます。実質的には同じであり、実効力はこちらのほうが遥かにあります。なお、最終契約書に一定の期間を明示するわけですが、その期間内に表明保証違反が発覚すれば、譲渡代金の支払いをストップしてしまえばよいのです。補償条項に基づく損害賠償請求よりよほど実効性があります。

 

なお、上記とは全く逆の流れになるクローバック条項も存在はしますが、(公開企業も含めて)実務ではほぼ実行されません[注4]。

 

 

最後に、アーンアウト条項に係る収入時期についての取扱いが初めて判断された裁決をご紹介します[注5]。

 

 


 

(収入すべき金額/非上場株式の譲渡)

本件譲渡契約に、代金の一部について、会社の将来における業績に応じて算出される金額をもって分割して支払う旨の条項が置かれていることを勘案しても、当該株式の引渡しがあった日に、譲渡代金の全額が確定的に発生したものと認めるのが相当であるとした事例(平成29年2月2日裁決)

 

〔裁決の要旨〕

1 請求人甲は、平成25年中に非上場会社(A社)の株式を譲渡したが、譲渡契約に、代金の一部について、A社の将来における業績に応じて算出される金額(調整金額)をもって分割して支払う旨の条項が置かれていることを根拠に、当該条項に基づく金額を株式等に係る譲渡所得の収入金額に含めずに平成25年分の所得税等の確定申告をし、その後、上記条項に基づく金額の支払を受けた後に、当該金額を収入金額に加算して同年分の修正申告をしていた。本件は、原処分庁が、譲渡代金全額を一括して収入金額として計上すべきであるとして更正処分等をした事案である。

 

2 所属税法36条1項にいう「収入すべき金額」の意義

 

3 譲渡所得に対する課税は、資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨のものであり、年々に蓄積された当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したものとみて課税する建前が採用されていることにも鑑みると、譲渡所得に係る収入の原因たる権利が確定的に発生した時、すなわち、原則としてその所得の基因となる資産の引渡しがあった日の属する年に、当該譲渡所得に係る収入金額の全部が発生したものとして、これをその年において収入すべき金額と認めるべきものと解される。

 

4 本件譲渡契約の実行日に、譲渡契約に基づき、A社株式に係る株券が交付されるとともに、株主名簿に、買主が請求人甲からA社株式を譲り受けてこれを取得した旨が記載されたことに照らせば、A社株式の引渡しがあった日は、本件実行日であると認めるのが相当である。

 

5 本件調整条項は、A社が成長著しいものの社歴の浅い新興企業であることを考慮した買主の要望により、A社の経営リスクを請求人甲及び乙に分担させる趣旨で設けられたものであるが、A社は、右肩上がりの急成長を遂げており、調整金額の算定指標である計画値は、そうした同社の好調な経営状態を踏まえて設定されたものと認められる。そのうえ、そうした急成長を成し遂げたA社の生みの親である請求人甲及び乙が、株式を譲渡した後も引き続き代表取締役ないし取締役として同社に残り、その経営に携わることが予定されていたことや、本件調整条項は、かかる両名に対するインセンティブとなるものでもある。

6 さらに、ある事業年度において計画値を達成できず、調整金額が満額支払われないことがあったとしても、その後の事業年度において計画値以上の業績を挙げた場合には、過去の未達分が埋め合わせられるものとされていたことに加え、請求人甲と同時にA社株式を譲渡したものに係る譲渡契約には、調整条項のような条項はなく、代金全額が一括で支払われるものとされていたこととの均衡も考慮すれば、本件調整条項は、基本的には、計画値がいずれの事業年度においても達成され、調整金額が満額支払われることを想定して設けられたものとみるのが相当である。

 

7 以上によれば、本件譲渡契約に調整条項が置かれていることを勘案しても、A社株式の引渡しがあった実行日に、譲渡に係る収入金額たる譲渡代金の全額が確定的に発生したものと認めるのが相当(下線筆者)である。したがって、本件譲渡に係る平成25年において収入すべき金額は、譲渡代金の全額であると認められる。

 

出典:TAINS

(TAINSコード F0-1-767)

 

 


【注釈】

[注1] 理由は前問解説「プレM&Aにおける株式譲渡スキームを採用した場合の、売主株主における少数株主からの株式買取(スクイーズアウト)に係るみなし贈与」における「仮に売主株式を100%取得しないと、取得できなかった、つまり、クロージング日以後も、旧売主株主として残存している者から、会社法上の少数株主に各種認められる権利を行使して、いわゆる嫌がらせをされる可能性があるため」参照のこと。

[注2] アーンアウト条項が付された取引をアーンアウト・ディールといい、追加代金の支払い義務のことをアーンアウトと呼びます。

[注3] この点につき、実際の活用場面として、森・濱田松本法律事務所 (編)「M&A法大系」311頁(有斐閣 2015)参照のこと。

[注4] クローバックは当初譲渡代金全額を支払、表明保証違反や一定の期間におけるKPI未達成等、各種返還条項を別途定め、それに該当した場合、売主が買主に返還する取引です。この「当初満額支払、契約書各種条項違反があったら返還」というのはM&Aに限定されたものではなく、公開企業における役員給与設定等の場面でも見受けられます。租税法上の取扱いについての一考察として、日本公認会計士協会 「租税調査会研究報告第35号 法人税法上の役員報酬の損金不算入規定の適用をめぐる実務上の論点整理」64~72頁(2019年),佐藤丈文・田端公美「一定の事由で役員報酬を返還させるしくみ『クローバック条項』導入上の法的留意点」(旬刊経理情報No.1557 中央経済社 2019年)を参照のこと。

[注5] この点につき、詳細等は森・濱田松本法律事務所「最新事例解説―アーンアウト条項付の株式譲渡において、譲渡代金のうち当該条項の対象となる部分の収入時期を株式の引渡時期であると判断した裁決」(TAX LAW NEWSLETTER 2018年10月号 Vol.32)参照のこと。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

被相続人が相続開始直前に老人ホームに入居していた場合の「相続した空き家の敷地に係る譲渡所得の特別控除」

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1. 特例の概要


相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたも(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合は、一定の要件を満たすことにより、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法(措法)35条第3項2号、4項、措法施行令23条6項。以下この特例を「本特例」といいます)。

 

 

 

2. 被相続人居住用家屋の意義


この特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、次の①~③のすべての要件を満たす家屋をいいます(措法35条4項)。

 

①相続開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた家屋であること。
②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除きます。)であること。
③相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること。

 

 

 

3. 被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居していた場合の本特例の適用


(1) 被相続人居住用家屋とその敷地の対象の拡大

上記2①より、「被相続人居住用家屋」は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋であることが要件とされ、老人ホームに入居中に 相続が開始した場合は、被相続人が入居前に住んでいた自宅は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていないことから、被相続人居住用家屋に該当しません。しかし高齢者が自宅を離れ老人ホームに入居後に元の自宅に戻る場合や、元の自宅を家財置き場等として使用する場合があり、生活の本拠が完全に老人ホームに移ったとは言えないケースもあります。そこで被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居したときでも、一定の要件を満たす場合には元の自宅が「被相続人居住用家屋」に該当するものとして、本特例の適用が認められています。

 

具体的には、本特例の適用対象となる被相続人居住用家屋およびその敷地として、「”『対象従前居住の用』に供されていた”被相続人居住用家屋およびその敷地」が含まれることとされています。 (措法35条4項、措法施行令23条7項、6項)

 

(2)「対象従前居住の用」の意義

「対象従前居住の用」とは、 [1]次の①~③の要件を満たし、かつ[2]下記(3)の特定事由により相続の開始直前において家屋が被相続人の居住の用に供されていなかった場合における、その特定事由により居住の用に供されなくなる直前のその被相続人の居住の用をいいます。

 

①特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続き被相続人居住用家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと
②特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、その被相続人居住用家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
③被相続人が、(3)①の有料老人ホーム等に入居等をした時から、相続開始の直前までの間において、被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうち、その施設等が、被相続人が主としてその居住の用に供していた一の家屋に該当するものであること。

 

(3) 特定事由の意義

特定事由は、次の①又は②の事由をいいます。

 

①介護保険法の要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅等に入居等をしていたこと。
②一定の障害者区分の認定を受けた被相続人が、障害者支援施設等に入居等をしていたこと。

 

(注)上記の要介護認定等を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において判定します。

 

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/16)より転載

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第3回:売却候補先選定の考え方

~M&Aの買手による違い、スキーム、売却後の経営体制、売却価格、売却スケジュールなど~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A における買手先選定の着眼点と手続きを教えてください。

 

A、買手には同業他社や既存取引先、また属性としてはオーナー系事業会社、上場企業、投資ファンドなど様々考えられますが、何を重視するかによって適した買手が異なってきます。

 

 

図表は買手候補とM&A の全体方針の関係についてまとめたものです。

 

まず、①同業他社ですが、事業に関する説明をする必要がないので自社の良い面も悪い面も評価されます。数字には表れていないが卓越した製造技術や特許を保有していたり、大手の会社と取引口座を持っているなど同業であるからこそ評価できるポイントがあります。

 

一方で業界特有のリスクや問題点についても熟知している点は売手にとっては不利になります。ライバル会社の子会社となることを嫌うオーナーも多いですし、それにより従業員の士気が下がる可能性がある点はマイナス要因です。また、情報漏洩や業界内に事業売却のうわさが広まってしまうことも懸念されるので慎重な対応が必要です。

 

 

②の既存取引先への譲渡は実務上よくあるケースです。売手としては相手と長年の付き合いがありますので安心感がある点がメリットとなります。デメリットとしては既存顧客が離反する可能性が挙げられます。複数の上場メーカーを顧客に持つ卸売会社が、そのうちの1 社であるA 社の傘下に入ったところA 社のライバルであるB 社やC 社が商品を買ってくれなくなったといった話もあります。

 

また、同業他社同様、情報漏洩の可能性もあります。M&Aの過程では顧客別の取引条件など機密事項も開示をすることになりますが、M&A が成立しなかった場合、取引先に機密情報を知られただけに終わることにもなりますので情報開示には慎重な対応が必要です。

 

 

③から⑤は買手の属性の比較です。③のオーナー系事業会社であれば意思決定が早くスケジュールが比較的スムーズに進みます。考慮点ですが、オーナー企業はオーナーの個性が企業の個性に強く反映しますので社風が合わない場合、従業員が退職してしまうなどのデメリットが生じます。

 

なお、株価評価については現在、非上場企業による非上場企業を対象としたM&A では仲介会社方式が一般的となります。

 

 

④上場企業は③と全く逆で、デュー・ディリジェンス(DD)や機関決定などの手続きがあるためスケジュールは後ろ倒しになります。

 

また、譲渡価格は厳格なDD を行った上でDCF 法(ディスカウント・キャッシュフロー法)などを用いて決められますので成熟企業の評価額は厳しいものになることが多いです。従業員にとっては知名度のある企業グループに入れることになるので仕事の進め方についていけるかといった課題はあるものの、士気が上がる効果も期待できます。オーナーが従業員の将来を案じて信頼できる上場企業に自社を託すというのはストーリーとしても美しいのですが、上記のデメリットも勘案して候補にするか決めたいところです。

 

 

最後の⑤投資ファンドも基本的には上場企業と同じですが、一番異なるのはファンドは投資の回収で利益を上げないといけないので、原則として3 年~5年後には再売却されるという点です。また、ファンドは金融投資家であり、事業経営のノウハウは持たないことが多いので、交渉次第ですが、株式を売却した後も経営陣として残留できるメリットもあります。

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「税理士事務所の事業承継と一時払金の処理」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

 

 

 

 

 


[質問]

この度、先代の税理士より事務所の承継を行いましたが、顧問先をそのまま譲るための費用として、一定の金額を支払いました。

 

この費用は、いわゆる暖簾(営業権)となるのでしょうか。

また、暖簾となる場合は、下記の処理で宜しいのでしょうか。

 

① 無形固定資産  定額法  残存価額 ゼロ
② 償却年数5年 (税制改正により月割り計算を行うこととされた。)

 

 

[回答]

現行所得税法の判断を行う各審級(地裁・高裁・最高裁)における裁判例では、税理士事務所の事業主変更に伴い授受される金員の所得区分については雑所得に該当するとしています。

 

 

これらの裁判所の判断は、課税庁側の主張を全面的に採用したものとなっているわけですが、課税庁側の主張の源流は、昭和42年7月27日付直審(所)47「税務及び経理に関する業務の譲渡に伴う所得の種類の判定について(個別通達)」にあります。

 

 

すなわち、当該通達において、上申局である広島国税局長に対し、国税庁長官から「税理士が、その業務を他の税理士等に引き継いだ対価として受ける金銭等は(企業権とか営業権の譲渡とは考えられず)、あっせんの対価と認められる」ので、雑所得として取り扱うよう指示したところに拠っているものと認められます。

 

 

それでは、対価を支出した「他の税理士側の会計処理」はどうかというと、現時点まで具体的な取扱い例を示しているものはないものと考えていますが、東京高裁(平成25年10月10日判決)平成25年(行コ)第236号所得税更正処分等取消請求控訴事件の 判決の傍論部分で「承継法人(回答者(注)本件の税務・会計業務を引き継いだ者は、税理士法人です。)は、業務譲渡の対価を顧問先紹介に係る『市場開発費』として経理処理している」と判示している箇所があります。当該判決はその経理処理の是非を直接判断しているわけではありませんが、判決文の趨勢からすると、この会計処理を容認しているかのように窺知し得るものと考えられます。

 

 

だとすると、税務上は、当該金銭の支出は、営業権の譲受けによるその取得対価に該当するものとは解さず、顧問先の紹介という開発費(市場の開拓のために特別に支出する費用)に該当するものとして処理することが相当ではないかと考えられます(所得税法施行令第7条第1項第2号参照)。

 

 

従って、当該繰延資産の償却は、同令第137条第1項第1号に規定するところに従い計算した金額(=支出額÷60×各年の月数)を各年分(5年~6年間)の必要経費に算入することが相当であろうと考えられ、結果的にはご照会の算定額と同様の額になるものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年02月04日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■借地人の建物を地主が取壊した際の費用をめぐる税金トラブル

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.はじめに


所得税の確定申告時期で申告手続きの最盛期を迎えています。そこで、譲渡所得税に関係する最近の裁決事例から、少し変わったトラブル事例を集めてみました。

 

2.スーパーカーの売却益は譲渡所得?


1台8,000万円もする限定生産のフェラーリなどのスーパーカーの売却益を巡って納税者と税務署の間で争いになった事例がありました(国税不服審判所令和元年6月18日裁決)。

 

裁決書によると、この争いは、納税者が「自己保有していたスーパーカーは生活の用に供する動産であるから、その売却益は非課税になる」との考えから、税務署が行った譲渡所得として課税の取消し等を求めたものです。

 

自家用車の売却益については、その自家用車が例えば通勤用なら、非課税とされます。生活に要する資産と認められるからです(所法9①九、所令25)。逆に売却損が出たとしても、損失はなかったものとされます。これに対し、自家用車が個人のレジャー用などの場合は、その利益は譲渡所得に区分され、課税対象となります。

 

さて、国税不服審判所は、この納税者が「平成22年6月から平成29年5月までの間に、少なくとも15台の車両を購入しており、特に、平成25年及び平成26年には、それぞれ1年聞に3台の車両を購入するなど、同時に複数台の車両を保有している」等の事実関係を認定。こうしたことを受けて、国税不服審判所は、売却された限定生産のスーパーカー3台は、500台以下の生産数しかなく、「購入者が限られる上、(中略)購入時の車両 本体価格がいずれも8,000万円を超える高級車であること等を考慮すると、各限定車が通常の社会生活を営むのに必要とされる動産であるとは認められない。(中略)各限定車は、「生活に通常必要な動産」に該当しない」と判断、納税者の言い分を退けています。

 

3.予め特例を変更できるようにしていたつもり?


譲渡所得の申告で、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の2、以下、優良住宅地特例という。)と特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税 の特例(措法37、以下、買換え特例という。)の適用を受けるべく申告書に書き、一方の特例が受けられなかったことから、修正申告で変更しようとしたところ、税務署が認めなかったため争いとなった事例があります(国税不服審判所裁決平成30年1月25日)。

 

裁決書によると、納税者は、夫から相続し、花の栽培など事業の用に供していた市街化区域内の土地を2億円余りで売りました。

 

譲渡所得税の申告の際には、上記の両特例の適用を受ける旨の申告書に書いたうえ、マンションに買い換えることを予定し、税額は買換え特例の定めに則って計算して申告していました。

 

ところが、買い換えが出来なかったため、改めて優良住宅地特例で税額を計算し直して修正申告をしたところ、税務署から更正処分されたため、争いとなったものです。

 

納税者は「当初の申告で買換特例の適用を受けたとしても、その後の修正申告で買換特例の適用を受けないなら、買換特例と優良住宅地特例の重複適用を認めない法の趣旨(両特例の重複適用が屋上屋を重ねることとなり適当ではないというもの)に反しないから、修正申告で優良住宅地特例の適用を認めるべき」と主張しました。

 

 

国税不服審判所は、「措法第31の2④」について次のように解釈。

 

いわく同項は「買換特例の適用を受けるときは、その土地の譲渡は、優良住宅地等のための譲渡に該当しないものとみなす旨規定し、優良住宅地特例の適用を排除している。この「規定の適用を受けるとき」とは、当初の申告において、その有する土地につき、将来買換資産を取得する見込みであるとして買換特例の適用を受けた(同法37④)が、その後、買換資産を所定の期間内に取得しなかったため、義務的修正申告書を提出した場合を含むもの」。

 

このため「納税者が、当初の申告において、(中略)買換特例の適用を選択した場合には、その譲渡は、その後、買換資産を所定の期間内に取得せず、義務的修正申告書を提出したとしても、同法第31の2④により、優良住宅地等のための譲渡に該当しないとみなされて、その納税者は、義務的修正申告書において、買換特例に代えて本件特例の適用を受けることができないものと解される」と判断、義務的修正申告書において買換特例に代えて優良住宅地特例の適用を受けようとすることは、当初の確定申告における買換特例の適用を撤回することになるが、瑕疵なく確定申告した以上、これを自由に撤回することができないとして、納税者の主張を認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/09)より転載

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第4回:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

▷関連記事:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

 

 

法務デューデリジェンス(法務DD)とは?


1、法務デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスを行う際に、買手企業がある程度の規模を有している場合には、財務デューデリジェンスと同様に法務デューデリジェンスを行うことは一般的です。

 

法務デューデリジェンスの目的は対象企業の法務リスクを洗い出すことですが、それらを細分化すると下記の4点に分類されます。

 

 

①事業継続の障害となりうる項目の確認

対象企業について法的な観点から、「その事業が中断されるリスクがある、もしくは当該事業について競争力の源泉が毀損される恐れのある事業が存在するか」を確認します。

 

 

②ディールブレイクとなる項目の確認

ディールにおいて法制度や法規制が阻害要因にならないかを確認します。

 

 

③対象会社の価値を減少させる項目の確認

事業継続そのものや法的問題の解決によって対象企業の収益性が危ぶまれることはないものの、法的問題の解決によって対象企業の収益性が減少する、もしくは資産が毀損するなどにより、企業価値を減少させることとなるような事項を確認します。

 

 

④当該ディールの法的スキームの検討

M&Aを実施することにおいて株式の取得のほか、会社分割や株式移転、事業譲渡など、様々なスキームが発生します。これらのスキームについて、想定通りに実行できるかを検証します。

 

 

 

 

2、法務デューデリジェンスにおける調査分析項目

調査項目は、①会社の基本的事項の確認、②資産・債務の調査、③リース、④契約関係の調査、⑤人事労務関係の調査、⑥訴訟等、⑦知的財産権、⑧環境等多岐にわたります。

 

 

①会社の基本的事項の確認

沿革、法人格と商業登記、株主の概要と大株主の状況、株式の種類と株式数(発行数、授権株式数)、定款、ガバナンス(取締役、監査役会・その他機関)、組織・会議体、許認可の状況、過去の事業買収・合併・事業譲渡・営業譲受等を確認することで、会社の基盤を確認すると同時に、ガバナンスのスタイル等を理解します。

 

 

②資産資産・債務の調査

資産や負債の金額的な分析は財務デューデリジェンスが行うため、法務デューデリジェンスではこれらの法的な評価を行います。

 

 

③リース

リース物件の所有権、契約期間、契約期間中の解約、解約金、瑕疵担保責任、危険負担などの調査を行います。

 

 

④計画関係の調査

会社は一般的に、取引(基本)契約、外注契約、ライセンス契約、共同事業(ジョイントベンチャー)契約等、営業に直接かかわる業務契約以外にも、賃貸借契約、消費貸借契約、債務保証契約、保険契約等、通常、様々な契約を締結しています。契約の承継はスキームによって異なるため、慎重に調査する必要があります。

 

 

⑤人事労務関係の調査

雇用契約の実態や契約の履行状況を把握します。また、労働関連法の遵守状況や、現状の労使関係と今までの経緯、労働紛争の有無等過去の労働争議や従業員との間に法的トラブルがなかったかについて調査します。

さらに、従業員について、属性や雇用契約を把握・調査します。

 

 

⑥訴訟等

訴訟係属中の紛争があれば、その背景や結審の見通し、訴訟にかかる費用、事業に与える影響等について調査します。法務デューデリジェンスで粗相係属中の紛争および予期し得る紛争の存在が明らかとなった場合はその他のデューデリジェンスとの連係が重要になります。

 

 

⑦知的財産権

対象会社の名称や事業名、事業内容が他人の権利を侵害しているリスクの有無を調査します。

 

 

⑧環境

対象会社の関連法令の遵守状況、過去に当局から受けた調査や是正勧告の履歴、当局への報告書類や対応実績等について調査を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

 


M&Aは売り手・買い手双方にとって重要な取引です。特に買い手側ではM&Aのプロセス推進を担うプロジェクトチームが組成されます。

 

プロジェクトチームは経営企画部門、事業部門、財務部門、経理部門等から部門横断的にメンバーを選任する必要があります。M&Aでは、的確な理解力、分析力、判断力といったスキルが求められますので、上記部門において相応の経験や知見をもった社員から構成することが望ましいと考えます。

 

経営企画部門はM&A全体の取り纏め、推進を担います。他部門の意見を取りまとめ、調整し、経営陣とコミュニケーションを取り、案件全体の舵取りを行います。また、後述するフィナンシャル・アドバイザーとの窓口を務め、平時においては案件のソーシングを行うのも経営企画部門の役割であることが多いです。

 

事業部門は、買い手企業と同業の企業を買収する場合等で、特にその知見を発揮することが期待され、そうした場合、ビジネスDDを事業部門が行うケースもあります。

 

財務部門は資金全般を担当します。M&Aでは多額の資金が必要となるケースが多く、財務部門の役割も重要といえます。

 

経理部門はプロジェクトチームの中では後方部隊に位置付けられます。M&Aに伴う業績や財務状況へのインパクトを分析・把握し、事業計画や財務報告に反映させるという非常に重要な役割を担います。一般的な投資家にとって企業のM&Aは将来の業績や株価に影響を与える重要なイベントです。上場企業には、投資家に対してM&Aの目的や狙いを的確に説明するとともに、将来業績への貢献度合いを高い精度を持って予測し開示することが求められています。

 

ここまでは買い手企業の社内におけるプロジェクトチームについてみてきましたが、M&Aを成功に導く上では社内リソースだけでなく社外専門家を活用することも不可欠といえます。多くのM&Aで社外の専門家が起用されます。社外専門家には、案件全般にわたってサポートを行うフィナンシャル・アドバイザー(FA)、デューデリジェンスを行う公認会計士や弁護士等の各種専門家などが挙げられます。通常、一定規模以上のM&Aでは、売り手と買い手それぞれにFAが付き、DD対応や交渉全体の取りまとめを行うことが一般的です。FAには、M&A仲介会社、証券会社の投資銀行部門などが起用されます。

 

M&Aの買い手企業においては、社内のプロジェクトチーム間のみならず、社外専門家ともうまく連携していくことが、プロジェクトを円滑に進める上で大変重要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無

 

 

 


[質問]

被相続人の自筆証書遺言があります。裁判所の検認も受けており、遺言書としての法的効力も認められております。

 

法定相続人に相続させる旨、及び、法定相続人以外(甥、姪など)に遺贈する旨が書かれておりますが、相続人間で遺産分割に関して揉めており、遺言書通りに執行できず遺産分割ができない状況です。

 

この場合、相続税の申告は、申告期限までに、遺言書に基づいて申告を行うのか、もしくは未分割財産として申告を行うのか、どちらが正しいのでしょうか。

 

 

[回答]

ご照会の事例は、遺産の分割が行われておりませんので相続税法55条の定めるところにより未分割遺産に対する課税の手続きによることになります。

 

被相続人の遺産は不動産、動産、無形資産など多様な構成となっており、その個々の遺産を承継する地位を有する相続人等がどのように取得するかを定めるのが遺産分割です。例えば、被相続人甲の遺産にA町に所在する地積100㎡、価額500万円のa土地とB町に所在する地積100㎡、価額500万円のb土地があるという場合において、それぞれ法定相続分2分の1を有する相続人乙および丙がいずれもa土地の取得を望んだとする法定相続分が等しくa土地とb土地の地積および価額も等しいところから、その所在地の別を如何にするかだけが問題として残されます。この点について協議してそれぞれの相続する土地を決めるのが遺産分割協議であり、個々の遺産について個別にその取得者を定めるために遺産分割の協議は行われます。

 

ご照会の事例では、この遺産分割の協議が行われない状態にあり、相続税の申告は上記のとおり相続税法55条の定めに従い申告手続きを進めることになります。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年12月09日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

 

 

【問】

私(C)の祖父(A)は、X1年1月に死亡しました(以下「1次相続」)。祖父はすべての財産1,000を私の父(B)に相続させるという遺言を残しており、これに対して叔母(Z)が遺留分侵害額請求をしてきました。

 

また、X1年2月、父(B)が死亡しました(以下「2次相続」)。父はすべての財産を私(C)に相続させるという遺言を残していました。

 

祖父(A)の相続税の申告期限までに叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、1次相続に係る父(B)の相続税申告は、祖父(A)の遺言通り、父(B)が1,000すべてを相続したものとして、X1年11月に行いました。

 

また、父(B)の相続税の申告期限までにも叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、2次相続に係る私(C)の相続税申告は、父(B)に祖父(A)から相続した1,000の財産があるものとして、X1年12月に行いました。

 

その後、X2年2月に、遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定し、叔母へは200を支払うこととなり、その結果、父(B)が相続した財産は800となりました。

 

この場合、1次相続に係る父(B)の相続税申告、及び2次相続に係る私(C)の相続税申告において、更正の請求をすることはできますか?

 

 

 

〔親族関係図〕
822-1.png

 

 

〔1次相続に係る課税価格〕

 

〔2次相続に係る課税価格(1次相続の影響のみ記載)〕

 

 

【解説】

1. 相続税法における更正の請求


相続税の申告書を提出した者は、遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をすることができます。

 

2. 本問への当てはめ


(1)1次相続に係るBの相続税申告

上記1の規定のとおり、B(実際に手続をするのはその相続人)は、更正の請求をすることができます。
なお、1次相続に係る相続税申告についてBが更正の請求をする場合、Zが期限後申告をしなければ、Zは決定処分を受けることになります。ただし、更正の請求及び期限後申告をしたとしても、しなかった場合と比べて相続税の総額は変わらないため、実務的にはこれらの申告等を行なわず、当事者のB・Z間で修正税額の精算のみを行うこともあります。

(2)2次相続に係るCの相続税申告

上記1の赤字の箇所は、次の波線のような言葉を補って解釈するものと考えます。

その者(遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告書を提出した者)が 遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その 遺留分侵害額請求をされた相続の 申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、」

すなわち、上記1の規定は、遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告(本問の場合、1次相続に係る申告)に関しての更正の請求について定められたものであり、遺留分侵害額請求とは直接関係のない申告(本問の場合、2次相続に係る申告)についても更正の請求を認めるという規定ではないと解されます。また、本問の場合、国税通則法の更正の請求事由にも該当しません。したがって、Cは、2次相続に係る相続税について更正の請求をすることはできないと考えます。

 

3. 最後に


上述のとおり、相続税法における更正の請求の規定は本問の場合の2次相続については適用されず、その結果、Cは1次相続においてBが相続しないこととなった財産200についても2次相続で相続税を負担しなければならないことになると考えます。

(参考:大阪国税局WAN質疑応答事例検索システム相続税関係2929)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/25)より転載

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

③プレM&Aにおける株式譲渡スキームを採用した場合の、売主株主における少数株主からの株式買取(スクイーズアウト)に係るみなし贈与

 

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■一部株式譲渡スキームの危険性とその対応策

■M&A関連費用の取扱い

 

 

 

中小零細企業M&Aにおいては、株式譲渡スキームを採用する際、ほとんどのケースで、買主は売主の株式を100%取得します。公開企業M&Aのような段階取得、支配権を維持するだけの取得等はありません(仮に売主株式を100%取得しなかった場合、クロージング日以後も、旧売主株主として残存している者から、会社法上の少数株主で認められる各種権利を行使して、いわゆる嫌がらせを受ける可能性があるため)。

 

 

このため、プレM&Aの段階で下記のように少数株主から株式を集約する必要があります。なお、筆者は会社法上規定されている各種スクイーズアウトは中小零細企業実務においては機能しないという所感があるため、下記では相対取引での株式集約を指していることをご理解ください。

 

 

売主株主が法人である場合、子会社を株式譲渡スキームでM&Aをする際には、譲渡対価の一部を子会社から親会社へ配当、もしくは、自己株式取得をさせる場合が一般的です。親会社においては配当、または、自己株式取得に係るみなし配当のいずれであっても、受取配当の益金不算入がありますので(所有割合によって変わりますが、原則として)課税は生じません。したがって、当該配当後の分配可能限度額を超過した残りの部分を売却します。

 

なお、売主株主が個人の場合は、当該配当が配当所得として総合課税の洗礼を受けることになり、税負担が重くなるため実行しません。

 

 

上記における自己株式取得において既存子会社における少数株主からの買取に関して、論者によっては相続税基本通達9-2が適用される、との見解も散見されます。すなわち、少数株主からの買取金額(こちらを1,000円とする、税務上適正評価額)とM&A時の譲渡対価の額(こちらを10,000円とする)に差額(10,000円-1,000円=9,000円)があれば、その差額相当額はみなし贈与ではないか、という見解です。

 

 

筆者はみなし贈与は適用されない見解をとっています。上記は一連の取引ではないからです。少数株主からの買取を行う場合、上記では税務上適正評価額を採用しています。取引はそこで分断されます。その後、全く別の取引として、第三者に対してM&Aを行っています。M&Aにおける株式譲渡対価について租税法上の法文等が適用される余地はありません[注1]。

 

 

売主株主が個人の場合でも上記と同様です。売主会社(対象会社)の少数株主からの買取に関して、上記でいうところの差額(10,000円-1,000円=9,000円)があれば、その差額相当額はみなし贈与ではないか、という見解ですが、上記と同様のロジックで、みなし贈与にはあたりません。

 

 

上記2つとも、少数株主からの買取価格は税務上適正評価額で行っていると前提においています。この評価額の算定根拠は通常取引(親族間での相対取引等)の株価算定と同様に必要です。

 

なお、上記論点が実務で当局から指摘されたという事例は、筆者自身も経験がありませんし、これまで周囲からも聞いたことがありません。

 

 

なお、「売主株主が法人である場合、子会社を株式譲渡スキームでM&Aをする際には、譲渡対価の一部を子会社から親会社へ配当、もしくは、自己株式取得をさせる場合が一般的」については今後、下記の点に留意が必要です。

 

令和元年12月12日に発表された「令和2年度税制改正大綱」87頁以降において「五 国際課税 1 子会社からの配当と子会社株式の譲渡を組み合わせた租税回避への対応 (1)法人が、特定関係子法人から受ける配当等の額(その事業年度開始の日からその受ける直前までにその特定関係子法人から受ける配当等の額を含む。以下「対象配当金額」という。)が株式等の帳簿価額の10%相当額を超える場合には、その対象配当金額のうち益金不算入相当額を、その株式等の帳簿価額から引き下げることとする。」とあります。

 

 

 


【注釈】

[注1] この点につき、代表的な文献として、佐藤友一郎 (編著)「法人税基本通達逐条解説」798頁(九訂版 税務研究会出版局 2019)(法人税基本通達9-1-14(いわゆる小会社方式)の解説において)「ただし、純然たる第三者間において種々の経済的合理性を考慮して定められた取引価額は、たとえ上記したところと異なる価額であっても、一般に常に合理的なものとして是認されることとなろう」とあります。第三者M&Aにおける譲渡価額は典型的な「純然たる第三者間において種々の経済的合理性を考慮して定められた取引価額」に該当します。そもそもこの考え方は、当局が納税者が私的自治の原則に基づき選択した取引に対して、いかなる場合にもおいても租税法上の評価(取引相場のない株式であれば財産評価基本通達)に引き直すのは、取引自体に干渉していることになることから、経済的中立を逸脱することとなり許されないとの指摘もあります。この点につき、茂腹敏明「非上場株式鑑定ハンドブック」460頁(中央経済社 2009年)参照のこと。

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第2回】PPAのプロセスと関係者の役割とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

▷第1回:PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

▷第3回:PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?

▷第4回:PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?

 

 

1.M&AのプロセスにおけるPPA

第2回では,PPAを進めるにあたってのプロセスに登場する人物(ステークホルダー)とその役割,当該登場人物の関係性等について解説します。

 

M&AのプロセスにおけるPPAの実施時期は図表1のとおりです。

 

 

 

【図表1】M&AのプロセスにおけるPPA

 

 

 

 

PPAは,M&Aによって取得する資産及び負債の金額を確定する会計処理であり,会計基準上,企業結合日(取得日)から最長1年以内に処理することが求められます。一般的な実務では,各種のデューデリジェンスが終了した後,価格交渉・調整等を経てクロージングが見えてきた段階でPPAの準備作業に入り,クロージング日の属する会計期間の期末決算時において,会計処理を確定させるというスケジュールで進められることが多いです。

 

近年では,M&Aを重要な成長戦略と位置付け日常的に調査・検討を行う企業も増加しており,M&Aは企業にとってより身近なものとなってきています。監査の厳格化等の流れの中で,PPAが必要となるM&Aも増加傾向にあり,最近ではデューデリジェンスや株式価値評価の段階で,M&Aを実行した場合に発生が予測されるのれん及び無形資産の金額や,償却による損益インパクトをシミュレーションするプレPPAが行われるケースも増えています。

 

プレPPAの利点は,早い段階で買収企業の業績への影響を把握できることや関係者間の情報共有や意見調整等の準備を整えることにより,本番のPPAをスムーズに進められることです。

 

 

2.PPAにおける登場人物

続いて,PPAに登場するステークホルダーとその関係性についてみていきます。

 

図表2はM&Aの当事者である買収企業を中心に,左側を買収企業の監査法人グループ,右側を外部評価者として,4者のやりとりを図示したものです。

 

買収企業から依頼を受けた外部機関が,買収企業及び被買収企業が提供する情報に基づき,PPAにかかる無形資産評価を実施し,その評価結果が監査上妥当であるか否かについて,買収企業の監査法人とレビュー専門家が検討を行う,という流れです。

 

 

 

【図表2】PPAにおけるステークホルダー関係図

 

 

 

 

PPAは,M&Aにより取得される資産・負債の金額を確定する手続であり,その結果計上されるのれん及び無形資産の償却等を通じて,買収後の企業業績や事業計画に直接的な影響を与えます。特に,大規模なM&Aになると,PPAが企業の業績や経営そのものに与える影響は重大なものとなることから,監査上も重要なテーマの一つとなって,監査法人が専門家をアサインしてレビューを行うこととなります。

 

では,PPAにおける無形資産評価は具体的にどのような方法で行われるのでしょうか。

 

PPAに関連する会計基準においては,PPAは一般的な市場参加者の目線,すなわち公正価値アプローチによって評価しなければならないという原則論や,無形資産の認識要件は示されているものの,評価手続に関する具体的な指針や詳細な規定といったものは存在しません。無形資産の評価は,株式価値評価等と同様に一般的な実務上確立された手法に則って,多くの場合は将来予測やファイナンス理論といった見積りや不確実性が伴う前提条件に基づいて行われます。

 

このような性質から,PPAは評価の前提条件や採用する考え方等によって,結果が大きく異なってしまう点に留意が必要です。

 

すなわち,不適切な前提条件や評価手法等を採用すると,不適切な結果につながってしまうというリスクを孕んでいるため,適切な前提条件や評価手法を採用することが大前提となります。当然のことながら,そのためには必要な専門的知識や十分な実務経験が要求され,多くの場合,そのような条件を満たす評価機関が買収企業をサポートする外部評価者として起用されることになります。また,見積りには主観的要素や恣意性が介入する余地があり,PPAを通じた利益操作や不適切な処理が行われる恐れもあることから,監査上重点項目として扱われる点にも留意が必要です。

 

以下では,PPAの一般的なプロセスと関係者間のやり取りについてみていくこととします。

 

 

 

【図表3】PPAにおける無形資産評価の一般的なプロセス

 

 

 

3.PPAのプロセス

(1)無形資産の認識・測定

買収企業において,PPAに関与するのは,M&Aの実行部隊である経営企画部門,会計処理や開示を行う経理部門等です。外部評価者が起用される多くのケースでは,必要な情報が全て揃っていれば,PPAの検討開始から会計処理の確定まで最短であれば2ヵ月程度で行うことが可能と考えられますが,そのような期間で手続が完了するケースは少ないです。

 

例外もありますが,M&Aのクロージング前から検討を開始し,結果的にはその期の期末決算で会計処理を確定させるようなスケジュールとなる場合が少なくありません。効率的にPPAを進める上で初動は非常に重要です。PPAの分析開始の段階で必要な資料が全て揃っていると評価者の分析が遅滞なく進み,結果として買収企業との意見交換や調整に十分な時間をかけることが可能となります。このため,買収企業においては,M&A実施段階からPPAを念頭におき,必要な情報を収集・整理しておくことが肝要となります。

 

特に,海外企業を買収する場合等は,PPAに使用する情報をデューデリジェンスの段階で入手しておけば時間と手間の節約になるため,頭に入れておくとその後の手続がスムーズとなります。

 

質疑・インタビューは,外部評価者が買収企業の案件責任者やキーマン,そして被買収企業のマネジメントを対象に行います。また,無形資産評価の基礎となるクロージングB/S(買収企業の財務報告において連結対象となる貸借対照表)の入手に時間を要する場合は,仮のB/Sに基づき予備的評価を行うこともあります。以上を経て,評価結果のドラフトが買収企業に提出されます。

 

 

(2)評価結果の確認
買収企業は,外部評価者の評価結果について,自社の認識や理解との間に不整合や矛盾がないかどうか,また,自社の会計方針等に照らして受入可能な内容となっているか等を確認します。

 

必要な場合は外部評価者との間で適宜ディスカッション等を行い,監査法人に提出します。評価を外部機関へ依頼する場合においても,評価結果とそれに伴う会計処理及び開示に関する責任は,買収企業が有する点に留意ください。

 

 

(3)監査法人及び専門家によるレビュー
監査法人及びレビュー専門家が,買収企業が提出した無形資産評価結果の合理性,妥当性等について検討を行います。PPAの実務は,専門的な知見が必要となることから,通常は監査法人と同一ファーム内の専門部署がレビュー専門家として起用されるケースが多いです。

 

レビュー専門家は,PPAや価値評価に精通したプロフェッショナルでありますが,監査法人の意見形成にも影響を与える重要な役割を担うことから,PPAや価値評価の実務のみならず,監査実務に対する理解も求められます。

 

 

(4)調整及び会計処理の確定
監査法人及びレビュー専門家が,無形資産の評価手続に関し,外部評価者及び買収企業に対し,質問等の監査・レビュー手続を行います。前述の通り,無形資産評価は見積りの要素を含み,いわば絶対的な解が存在しない類のものであるため,専門家同士でも見解が異なる状況がたびたび生じうることがあります。

 

特に,インカム・アプローチにより評価を行う場合のWACC(加重平均資本コスト)や継続成長率,認識した無形資産の経済的耐用年数といった重要項目は,しばしば論点となるところです。

 

外部評価者には,買収企業の会計上の要請に最大限配慮しつつ,監査法人やレビュー専門家からの厳しい質問や指摘に対応する高度な専門性と調整能力が求められることとなります。

 

実務においては,この手続だけで1ヵ月,場合によっては数ヵ月を要するケースもあります。

 

監査上の論点が事業そのものに関係するようなケースでは,当事者である買収企業を含めた4者でのディスカッション等が必要となる場合もあります。買収企業においては,PPAにかかるのれん及び無形資産の会計処理について,早い段階で監査法人に相談しておくことも有用です。

 

以上のプロセスが完了した後,買収企業において,評価結果に基づく財務報告(会計処理・開示等)が行われます。

 

 

4.まとめ

本稿で最も強調したい点は,それぞれに異なるミッションを持った4者が,限られた時間の中で必要十分なコミュニケーションをとって,議論をしながら,最善の結果を導くべく,協力して手続を進めていく必要があるということです。これら一連のPPAのプロセスは,企業の経理担当者の立場からみると,監査法人への対応,外部評価人との連携,社内関係部署への報告・説明など,相当なタスクが生じる点にも留意ください。

 

特に,大企業においては,監査対応を行う経理部門とM&Aを実行した経営企画部門との連携は非常に重要です。通常,企業担当者がPPA評価を自ら行うケースは少ないと思われますが,手続全体をスムーズに進める上で,PPAの実務に対する理解を深めておくことは有用です。

 

 

5.無形資産評価に必要な資料の例

最後に,一般的なPPAにおいて必要とされる情報・資料についてみていきます。

 

必要な情報は,デューデリジェンス(DD)報告書等,M&Aの実施段階で入手されるものがほとんどですが,定量的,定性的,さまざまな情報が必要となります。無形資産評価において採用される方法によっては,下記資料の他に,顧客データや人事データ等が必要となる場合があります。

 

 

PPAにおいて必要となる資料の例

・買収案件の概要や買収目的に関する資料
・買収案件に関するインフォメーションメモランダム
・買収対象会社の決算書
・買収対象会社の税務申告書
・財務・税務DDレポート
・法務DDレポート
・ビジネスDDレポート
・株式譲渡契約書
・株式価値算定レポート
・対象会社の将来事業計画
・事業上のシナジー効果に関する検討資料
・対象会社のクロージングB/S(連結開始対象B/S)

 

次回は,無形資産の認識要件について解説します。

 

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPAの基本的な考え方とは?
第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?
第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小野寺 太一/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

 

 

1.後継者が複数の場合の事業承継税制の取り扱い


2027年12月末までの贈与又は相続等に適用することができる非上場株式等に係る新事業承継税制(以下、「特例措置」という。)では、対象会社の代表権を有し、同族関係者のうち最も多くの議決権を有する者を含め上位3名までの者で、議決権数の10%以上を有する者であるという要件を満たすことを前提に、後継者3人までの適用が可能となりました。

 

従来の制度(以下、「一般措置」という。)では非上場株式等を受け取る後継者は1人に限定されていますが、特例措置では、例えば兄弟で会社経営を引き継ぐ場合において、必ずしも株式の承継者を1人に限定せず、2人又は3人で株式を受け取る場合でも適用が可能となっています。

 

 

2.後継者が複数の場合の留意点


一般に非上場株式等が複数の株主に分散すると、後継者の経営権の安定性に問題が生じたり、その後の相続等により更なる株式の分散を招くことから、非上場株式等については後継者1人に集中する方が望ましいと言われることが多く、複数の後継者に株式を承継するかについては、承継時に十分な検討が必要です。さらに上記の一般的な注意点の他に、事業承継税制の適用に際して、複数後継者の場合に注意を要する事項があります。

 

例として、A社のオーナー社長甲がA社の発行済株式総数100株の全てを保有している状態で相続が発生し、特例措置の適用により、長男乙が60株、次男丙が40株を相続したとします。乙と丙への相続自体は1に記載の要件、その他の要件を満たす前提であれば特例措置の適用に問題は生じないと考えられます。

 

 

問題が生じる可能性があるのは、乙と丙からその次の後継者への承継のタイミングです。乙、丙がそれぞれ贈与により次の後継者へ株式の移転を考える場合、乙と丙は贈与者としての要件を満たしている必要があります。

 

 

贈与者の要件(既に贈与税の特例措置の適用を受けている者等がいない場合)は概略以下の通りです。

 

①贈与の前に、その会社の代表権を有していたこと
②贈与の直前において、その個人と同族関係者の有するその会社の株式に係る議決権の数の合計が議決権総数の50%超であること
③贈与の直前において、その個人が有するその会社の株式に係る議決権の数が、同族関係者のいずれかの者が有する議決権の数を下回らないこと
④贈与の時において、その個人がその会社の代表権を有していないこと

 

 

ここで、乙、丙から次の後継者への贈与の際に問題となるのは、③の要件です。
乙と丙が株式を相続により取得して以降、まず先に乙が贈与により、次の後継者に特例措置により株式を承継する場合には、乙は丙よりも多くの議決権を有していることから、③の要件を満たし、乙からの承継に問題はないと考えられます。また、その後、丙が贈与により株式を承継させる場合(既に贈与税の特例措置の適用を受けている者がいる場合)には、丙は①~③の要件を満たす必要がないことから、こちらも特例措置の適用に問題はないと考えられます。

 

 

一方で、丙が乙よりも先に次の後継者に特例措置により贈与する場合は問題が生じます。丙の有する議決権の数は、乙の有する議決権の数よりも少ないため、③の要件を満たすことができず、結果として、丙から次の後継者への承継の際に、特例措置を適用することはできないと考えられるためです。以上から、丙が生前に贈与により次の後継者に株式を承継させる場合には、乙から次の後継者への承継を待ってから行うか、事業承継税制を適用せずに贈与することとなると考えられます(後者の場合には、丙が猶予されている甲に係る相続税額は打ち切りとなり納税が必要となります)。

 

贈与であれば、タイミングを調整し、乙からの贈与を先に行う等の調整ができるかもしれませんが、乙からの贈与よりも前に、丙の相続が発生してしまった場合には、特例措置の適用を受けられないこととなります。

 

 

甲の相続の際に、乙と丙が同数の議決権を有するように非上場株式等を相続すれば、乙と丙どちらから次の承継を行う場合でも、③の要件を満たすことは可能ですが、乙と丙が全くの同数を有すること自体が会社経営上、問題ないのかの検討は必要と思われます。

 

なお、乙、丙からの承継が2028年以降となり、一般措置の適用となる場合にも問題が生じます。現在の一般措置では、複数の後継者への承継は認められていないため、先に乙から一般措置により承継された後継者1名に対してのみ、丙から承継することが可能であり、他の後継者に対して丙から株式を承継する場合には、一般措置の適用を受けることができません。

 

 

特例措置では、複数の後継者への承継が行えるようになったことから、これまでよりも柔軟な承継が行えるようになったことは事実ですが、上記のような問題が考えられることから、その次の承継まで見据えて決定する必要があります。また、これらの取り扱いについては今後改正される可能性もあるため、実行の際には確認が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/17)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「合併における税制適格要件について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】適格合併における従業員引継要件

■【Q&A】適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限

 

 

 


[質問]

【事実関係】
1. A法人は個人aを筆頭株主とし、その他の株主も個人aの親族であるaグループが株式を全部保有する同族会社に該当。

 

2. B法人(昭和59年設立)は設立以来、個人bが株式を全部保有する同族会社に該当。また個人bは個人aの父親である。

 

3. A法人は黒字会社であり、主たる事業は卸売業を継続して営み、従たる事業として不動産賃貸業を昭和59年から継続して営んでいる。

 

4. B法人は欠損会社であり、主たる事業として不動産賃貸業を設立時から営んでいる。

 

5. A法人は直前5年間でaグループ間での株主構成の異動はあるが、aグループが継続して株式を全部保有。

 

 

【質問】
B法人は欠損会社であり合併比率の算出が不可能ですが、B法人の発行済株式180株式に対し、A法人の株式1株を合併対価として個人bに交付する予定です。

 

上記のような状況でA法人を合併法人、B法人を被合併法人とする吸収合併を行う場合、本件合併は適格合併に該当するのでしょうか。

 

 

[回答]

合併により被合併法人の株式は消滅し、被合併法人の株主はこれに代わるものとして、通常の場合は、合併契約に定める合併比率等に基づいて、合併法人の合併により発行する合併法人株式の交付を受けることになります。

 

 

ところで、合併が税制上の適格合併に該当するかどうかの判定要件として、次に掲げるものがあります。

 

① 被合併法人の株主に合併法人の株式以外の資産が交付されないものであること。
② 被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係があり、かつ、合併後もその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていること。

 

 

このように、完全支配関係がある法人間の合併については、完全支配関係が継続するかどうかの観点によるものと考えられます。したがって、上記①及び②の要件を満たしている限りは、例え合併比率が適正でない場合であっても、適格合併を否定するものではないと考えます。

 

 

ご照会事例については、被合併法人Bと合併法人Aとの間に同一の者(個人a一族)による完全支配関係がありますので、その合併は適格合併に該当するものと考えます。

 

 

 

(参考)合併比率は、本来的には経済合理性の前提とされています。つまり被合併法人の株主は被合併法人の株式を譲渡し、その対価として合併法人から株式を取得することになりますので、妥当な対価とすることが必要となります。そのためには合併比率が適正でなければならないと考えます。しかしながら、合併法人と被合併法人の株主が同一である場合又は株式の出資割合が同一である場合には、株主の利害関係に変動が生じませんので合併比率が税務上問題になることはないと考えますが、それ以外の場合には、事実認定によってはみなし贈与(相法9、相基通9-2)の問題が生ずることがありますのでご留意ください。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年11月26日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

 


私達が日常生活で接している商品やサービスの売買では、売り手はなるべく高く売りたい、買い手はなるべく安く買いたいと考えるのが自然ですが、売買の対象が株式や事業であるM&Aでもその点は同じです。

 

それでは、実際のM&Aでは対象となる株式や事業の売買価格はどのようにして決まるのでしょうか。

 

 

一般的に、株式等の価値の算定方法にはインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチという3つの考え方があります。

 

 

インカム・アプローチは、将来獲得されるリターン(フリーキャッシュフロー、利益、配当⾦など)を現在価値に割り引くことで株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法としてDCF法、収益還元法、配当還元法などがあります。

 

DCF法は、算定対象の将来キャッシュ・フローを基礎としており、算定対象の将来に亘る超過収益⼒や事業リスクを株式価値に反映させることが可能となるため、⼀般的に、理論価値の算定を行う上で最も合理的な算定手法であると考えられています。一方で、インカム・アプローチに属する方法は、事業計画や割引率、成長率といった前提条件が算定結果に大きく影響を与えるため、客観的なデータに基づいて算定を行う必要があります。

 

 

マーケット・アプローチは、算定対象もしくは類似会社の株価、財務指標等を用いて株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法には市場株価法、類似会社比準法などがあります。

 

市場株価法は、算定対象⾃身の株価を用いる手法であり、類似会社比準法は算定対象と同種の事業を営む会社の株価及び財務指標を用いる手法です。

 

類似上場企業の株価と財務指標の倍率など、一般に入手が容易なデータに基づいて評価を行えることから採用しやすく、また市場株価を用いるため客観性が保たれるという長所があります。一方で、類似企業の選定に恣意性が介入する余地もあり、留意が必要です。

 

 

コスト・アプローチは、算定対象の財産価値をある⼀定時点で評価することにより株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法に簿価純資産法、時価純資産法などがあります。

 

コスト・アプローチは、対象会社の貸借対照表に基づいて評価を行える点で採用しやすいという長所はありますが、営業権(のれん)や無形資産等の目に⾒えない資産の価値を算定分析に反映させることが困難であり、また、将来の利益⽔準が価値に反映されない点には留意が必要です。加えて、事業の継続を前提としない価値算定手法と解されるため、事業継続を前提とする企業の価値算定手法としてはそぐわないとも考えられている面もあります。

 

 

このように、3つの算定アプローチにはそれぞれ長所・短所がありますので、実際のM&Aでは、状況に応じてこれらの中から適したものを採用し、場合によっては組み合わせて使うのがよいでしょう。

 

例えば、対象会社や事業の業績が安定していて、なおかつ、合理的な事業計画が策定されているような場合は、インカム・アプローチが適しているといえます。反対に、将来の業績やキャッシュ・フローの予測が難しいような場合には、インカム・アプローチを採用すると評価の客観性や信頼性が損なわれてしまうこともあります。

 

M&Aにおいては、これらの算定手法に基づく理論価値を参考としつつ、直接的には売り手と買い手による交渉で売買価格が決まります。これを示したものが図表1であり、概念的にはスタンドアロンの価値 をベースに一定程度買い手のシナジーを加味した金額で合意されるものと考えられます。

 

買い手の目線では、買収プレミアムの裏付けとなる合理的な材料があるか、例えば、どの程度シナジーが実現されれば売り手の売却希望価格に達するか、シナジーの実現可能性はどの程度あるか、といった検討を行い買収可否の判断を行うこととなります。

 

 

最近のM&A市場では、超低金利政策等により余剰資金を持つ企業が増加していることや、M&Aが多くの企業にとって一般化してきたこと等により、どちらかというと需要が供給を上回る状況にあるのではないかと考えます。買い手企業にとっては、優良な売り手企業を見極める判断力と粘り強い交渉力が求められると言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

更正の請求による相続税の還付

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1.国税通則法上の相続税の更正の請求


相続税の申告書を提出した人が、その申告書に記載した課税価格や税額等の計算について相続税法等の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより相続税を納めすぎたときは、法定申告期限から5年以内に限り税務署長に対し、その申告に係る課税価格または相続税額等につき、減額更正の請求をすることができます(国税通則法23条第1項)。例えば、土地の評価を誤って過大に計算し、納税者が相続税を納めすぎた場合には、更正の請求をすることにより納めすぎた税金の還付を受けることになります。

 

更正の請求をする場合は、その請求に係る更正前の課税価格または税額等、更正後の課税価格または税額等、その更正の請求をする理由、その請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書に、更正の請求の理由の基礎となる「事実を証明する書類」を添付の上、税務署長に提出しなければなりません(同条第3項、同法施行令6条第2項後段)。

 

 

2.更正の請求の特例


法定申告期限から5年を経過した後であっても、次のような特段の事情が生じた場合には、更正の請求により相続税の還付を受けることができます。

 

(1)国税通則法上の特例

法定申告期限から5年経過後であっても、例えば次の事由に該当する場合、その事由が生じた日の翌日から起算して2ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正をすべき旨の請求ができます(国税通則法23条2項、同法施行令6条第1項)。

 

 

①課税価格または税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解等を含む)により、その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。

 

②申告等をした者に帰属するものとされていた相続財産等が、他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正または決定があったとき。

 

③その申告、更正または決定に係る課税価格または税額等の計算の基礎となった事実にかかる国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正または決定にかかる審査請求もしくは訴えについての裁決もしくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、その課税価格または税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなることを知ったこと。

 

 

(2)相続税法上の特例

相続の特殊性から上記1の他、相続税の申告書を提出した者または決定を受けた者が、例えば次のいずれかに該当する事由により、その課税価格や相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正の請求ができます(相続税法32条、同法施行令8条第2項)。

 

 

①未分割財産につき民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合に、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人または包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、その相続分または包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったこと。

 

②民法に規定する認知、相続人の廃除またはその取消しに関する裁判の確定、相続の回復、相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。

 

③遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。

 

④遺贈に係る遺言書が発見され、または遺贈の放棄があったこと。

 

⑤相続もしくは遺贈または贈与により、取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと、その他一定の事由が生じたこと。

 

⑥相続税の期限内申告書の提出期限において未分割であった財産が分割されたことにより、その分割に基づき配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額が、その時前において配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと(①に該当する場合を除く)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/10)より転載

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第2回:M&A 手続きの全体像

~中小企業のM&Aの売手の流れ、買手の流れとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A 手続き全体の流れを教えてください。

 

A、事前準備、探索業務(ソーシング)、実行業務(エグゼキューション)の流れとなります。大企業のM&A では、会計士や税理士の業務はほぼ実行段階に限定されていますが、中小企業のM&A では案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

 

 

図表は相対取引におけるM&A 業務の流れの全体像を示したものです。大きく分けて事前準備、探索業務(「ソーシング」とも言います。)、実行業務(「エグゼキューション」とも言います。)に区分されます。

 

 

まず、事前準備では①売手からの事前相談に基づき、アドバイザーが②秘密保持契約書やアドバイザリー契約書を締結した上で、③案件の概要把握を行い、買手候補に提示する案件概要書を作成します。

 

また、④売却の基本方針、買手候補や譲渡株価の目線について売手と議論を重ねます。次に探索業務の段階では、買手候補に対して⑤匿名情報を開示して興味の有無を確認し、興味を示した候補に対しては⑥秘密保持契約書を締結した上で、⑦案件概要書他、決算書や人事情報などの詳細情報を開示します。

 

 

買手はこうした情報を検討し、株式取得を希望する場合には、株式の取得価格や取得スキーム、その他諸条件を記載した⑧意向表明書を提出します(相対取引の場合は口頭での調整を経て直接基本合意書を締結するケースもあります。)。

 

売手が意向表明書の内容を受け入れることができる場合、⑨基本合意書を締結しますが、基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが一般的です。

 

合意書締結後、⑩デュー・ディリジェンスにより対象会社の詳細を調査した上で、株価交渉やその他の条件交渉を経て⑪株式譲渡契約書の締結を行い、売買代金を決済して⑫クロージングとなります。

 

 

大企業のM&A では全体のコントロールは投資銀行や専門のアドバイザリー会社が行うことが一般的ですので、税理士や会計士の業務は実行段階の業務に限定されます。これに対して中小企業のM&A では税理士や会計士が案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

前述したとおり、顧問税理士は対象会社の社長と長年にわたる関係を築いていますのでアドバイザーに適任の存在であり、専門業者に任せきりにせず、積極的に関与したいところです。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第3回:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

 

事業デューデリジェンス(事業DD)とは?


1、概要

事業デューデリジェンスとは、対象会社の事業性および企業価値の評価をするためには欠かすことのできない重要な調査で、経営管理や事業モデル、将来のキャッシュフロー等を詳細に調査し分析します。また、事業デューデリジェンスで得られた情報を財務デューデリジェンスや事業計画の分析に活用します。

 

事業デューデリジェンスにおける調査の対象は、沿革、経営状況、事業モデル、商品力、労使関係、事業の社会性、経営者のコンプライアンス対応等、会社の経営や事業に関する項目全般であることから、通常その調査は広範に及びます。

 

事業デューデリジェンスで重要なことは、会社を取り巻く外部環境やマーケットにおける位置づけ、各事業のビジネスモデル、内部資源等を充分に把握した上で、会社のSWOTを分析し、事業別の今後の事業計画を策定、検討することです。

 

 

2、事業デューデリジェンスにおける分析

 

事業デューデリジェンスの分析段階では、ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析、収益性分析、事業ポートフォリオなどを行います。

 

①ビジネスモデル分析

事業デューデリジェンスの出発点は、対象会社の各事業におけるビジネスモデルを正しく理解することです。そのためには、対象会社の全般的事項の調査に続き、経営者ないしは、事業部門責任者に対してインタビューを行い、彼らにビジネスモデルを説明してもらうことが必要となります。このインタビューの目的はビジネスモデルを分析し理解することの他に、経営者や事業部門責任者の資質を評価するという目的も併せもっています。

 

経営者や事業部門責任者へのインタビューを行い、ビジネスモデルの大枠を理解できたら、現場で活動している中間管理職や担当者に対してインタビューを行い、各調査項目の詳細を捉えつつ、ビジネスモデルの分析を進めます。

 

②SWOT分析

SWOT分析とは、対象会社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析しまとめたものです。

 

SWOT分析の目的は、その企業が持っているビジネスの機会や外的脅威等の「外部環境分析」とコア・コンピタンスや組織体制等の「内部要因分析」から、経営課題を具体化し、事業の方向性を明確にすることです。

 

③マーケット分析

対象会社の各事業が属するマーケットの状況とマーケットに対する自社の商品力の分析を行います。これらは、証券会社やシンクタンク等が発表している業界別のアナリストレポートや行政機関が発表している統計情報を入手し、各業界の有識者へのインタビューを行い、様々な観点からマーケットの現況、過去の状況や傾向、今後の見通し等を分析します。

 

④競合他社分析

対象会社の主要な競合他社を分析し、比較を行います。対象会社の業界内での位置付けや、強み・弱み、改善しなければならない点が明確になります。競合他社分析を行う上での重要なポイントは、財務諸表のみならず対象企業が属するマーケットにおけるKPI(Key Performance Indicator)として用いられる指標の比較を行うことです。

 

⑤収益性分析

ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析の結果を総合的に勘案した上で、財務デューデリジェンスにより入手した過去の営業成績にかかる情報を加味し、対象企業の各事業の収益性の分析を行います。

 

⑥事業ポートフォリオ

市場成長率および市場占有率の2軸にて、対象会社のポートフォリオの検討を行います。対象会社の現在の立ち位置、各事業の立ち位置、投資の分散の状況などを把握して、今後の戦略に役立てます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

M&A後-グループ企業の統率とホールディングスの活用-  ~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


 

当社のお客様でも1昨年からM&Aが急激に増加していまして年間4-5件のペースでM&Aが成立しています。今年は現状で、すでに3件のM&Aが予定されています。

 

昨年から数百万~数千万円の小規模な事業譲渡に近い案件が増加しており、その傾向はこの後もしばらく続きそうと感じています。

 

知り合いの会社とか取引先とか後継者難の会社を引く継ぐようなケースでのM&Aの活用が増えるでしょう。

 

 

 

そうなると重要なのが増えるグループ企業の管理と統率です。

 

 

 

1、PMI(買収後の体制整備)

一点目は買収後の管理体制です。財務・法務や給与計算労務など様々な問題点があります。それに対する体制整備が非常に重要な論点です。買収するのがゴールではありません(PMIについては「ICTを活用しM&A後の経理体制を合理的に作る【体験記】」をご参照ください」)。

 

 

2、グループの管理体制をどう構築するか

ここは、会社が増えるなどした場合どのような体制を作るかという点です。
支店や事業部のような形で会社の中にセグメントとして置く場合と、持株会社を作りホールディングス化をするケースがあります。

 

持株会社も

A 純粋持株会社(経営管理などだけを行い事業は行わない)
B 事業持株会社(中核会社が事業をやりつつ持株会社の役割もこなす)

 

の2つがあります。

 

どちらがいいかはケースバイケースですが純粋持株会社のほうが、事業を行わない分、事業会社のグループ間の関係が兄弟に近くなります。事業持株会社は親子関係に近いと言えます。

 

また、事業を行わないのでグループ全体の統制や投資活動に責任を持つようなイメージになります。「PL」としての短期の業績管理ではなく「BS」による投資の管理や中長期の視点といった役割求められるといえるでしょう。

 

また、グループ管理ではグループ全体での業績管理に加え決算期の統一なども検討するケースが増えています。

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2020/02/04号)」より一部修正のうえ掲載

[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

③借金過多の状態とM&A

~破綻前の事業売却のリスクとは?再建型M&Aの前提とは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 

 

 


 

今回は、“借金過多の状態とM&A”というテーマです。

 

 

 

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これは会社(事業)の借金(負債)が非常に大きな状態になって、苦しい状態になってから、「どなたかに救済してほしい」ということで、売却のご相談を受けることが多々ありますので、そのような場合の売却の可能性について説明いたします。

 

 

まず経営者やオーナーの方が、売却を検討(決断)する動機について、ポジティブな場合としては“事業承継をしたい”(ご自身はやるだけのことはやったので、あとは引退したい。もっと若い経営者に任せたい。大きな会社に任せたい。)というような場合と、同じような動機かもしれませんが、“さらなる拡大をしたい”(個人のレベルとしては、上手くビジネスを行ってきて、例えば店舗を10店舗までにしたが、このビジネスを日本全国あるいは世界中に数千店舗に増やしたいといった場合で、個人では限界があるので資金力のある会社に買収をしてもらい、1段2段と上の事業展開をしたい)というのはポジティブな売却の動機だと思います。

 

 

割合としてはネガティブな方が非常に多くて、先ほどお話ししたように、業績悪化に伴い苦しいので、どこかの会社に救済してほしいというパターンです。

 

 

 

 

 

これを救済型M&Aと、ここでは一括りで呼んでおきますが、実行はやはり難しいです。よほど何か特徴のあるものがあれば、業績が悪くてもあるいは負債が大きくても、どこかの企業が引き取るという可能性はありますが、普通に考えてよほど何か光るものがあるのなら、その会社(事業)は利益が出ているはずです。よほど過去の放漫経営で物凄く無駄なお金を使ってしまい「今のビジネスであれば利益は出ているが、負債が多すぎる。この負債を返していては、ほとんど手元にキャッシュが残らない」というような場合は、可能性がありますが、この後、説明いたしますが、法的整理をする過程の中で企業再生ができる場合もあります。

 

 

しかし、今は利益が出ているが過去の放漫経営によって借金が過多である。ついでに言えば、借金をしているということは、お金をその会社に貸している金融機関や債権者がいるわけですから、再生あるいは一部法的整理をするとなると、簡単に言えば借金の棒引きを行うわけです。

 

 

例えば、「10億円借りているものを、2億円に減らしてもらう。そうすれば会社は回っていく。だから借金を10億円から2億年円の差額の8億円を棒引きするか考えてくれる」ということなのです。

 

 

その種類として、“法的整理”“私的整理”の2種類の方法があります。

 

 

法的整理というのは、法律に基ついで「10億円ある借金を2億円に減らしましょう」というものです。事実上、倒産(破産の手続きはこれに当てはまりますが)です。つまりは会社を潰してしまうわけです。会社が潰れる時というのは、お金が回らなくなっているわけですから、負債を返済するのは不可能です。というような状況の時に、破産の手続は口で言ってしまえば簡単です。お金になりそうな物は全部売ってしまって、いくらにもなりそうもないですが現金に替えて、その現金を債権者の方々に少しずつ配当するというやり方です。

 

 

この中には、“民事再生”とか“会社更生”といった方法があります。 例えば、みなさんが良くご存じのJALは会社更生を行いました。一旦、法的整理を受けているわけです。裁判所が介入して借金を棒引きにして再生したのです。 ただし、みなさんがご存じの通りJALがいきなり無くなって、JALの運行している飛行機が飛ばなくなったら、日本全体が困ってしまいますよね。JALはそう簡単には潰せないわけです。

 

 

厳しい言い方かもしれませんが、皆さんの会社が明日からビジネスをしなくなったとしても、日本国民は困らないわけです。そのため、そう簡単に会社更生を受けられません。借金をしてしまったら「その分の責任を自分でとりなさい」ということです。この類似事例として“民事再生”というものありますが、民事再生も大まかにいえば“会社再生”と同じようなものです。

 

 

例えば、ソフトバンクがスポンサーになりグループインしたウィルコムなども民事再生の実例でした。PHSのビジネスをしていた会社ですが、相当数のお客様を集めておいて、業績が悪いからと、いきなりサービスを止めてしまっては、ユーザーの方々への影響は非常に大きなものになります。そのような場合は、会社は残して借金を棒引きして、その後にキッチリとお金を出して経営を引き継いでくれるような方がいれば、裁判所も「今潰すよりも、そちらに任せた方が金融機関にも少しはお金が返ってくるだろうし、お客様も困らないだろう」といった判断が特別に許された場合にのみ、会社更生や民事再生など法的整理になっても、会社自身は残るといったケースがあります。

 

 

しかし、こういったケースは極めて稀です。新聞やニュースを見ているとそのような事例が目につきますが、件数でいうとほとんどないと思って頂いた方がよいです。

 

 

では、「法的整理は難しいので、私的整理という方法は使えないのか?」となります。私的整理というのは、裁判所が変わらずに“個別”に金融機関など債権者と交渉していくというやり方ですが、難易度が法的整理よりもっと高いです。 金融機関でも、「お金は返さない」ということになれば、当然、社内でその手続きをしなければなりません。

 

 

当然お金を貸したが返ってこないのであれば、「その会社に誰がどうして貸したのだ?」と責任を問われることになります。それを法律で法的に整理してしまったら“しょうがない”となるわけですが、法律が介在しないで、民間同士で行っていくとなると、法的整理よりも交渉が厳しくなることは想像できるのではないでしょうか。

 

 

銀行員の立場でみると、少し理解しやすいかもしれません。「法律で借金は棒引きになってしまいました。」となったら“どうしようもない”ですが、法律が介在せずに「10億円の借金を2億円にしてください」と言われても“NO”に決まっていますよね?「できる限りの債権を回収する」というのが彼ら銀行員の仕事ですので、私的整理の方が、難易度が高いわけです。

 

 

 

 

 

一方で、このようなパターンもあります。ビジネス全体としては厳しいが、一部の事業(あるいは店舗)では、しっかりと利益が出ている。その一部分だけ切り取れば事業の継続は可能である。ということは十分にあり得るのです。 その一部分だけ第三者に売却して、残りは潰してしまうということもあり得ますが、結構大事なことなのですが、金融機関からすると、この虎の子である最後のキャッシュを生む事業(店舗)を誰かが買ってしまったとなった。その値段が適正価格であればよいのですが、知り合いに安く売ってしまったというようなことをすると、他の債権者は一方的に不利になってしまいますので、「知り合いに適当に売りました。安く売ってしまいました。」その後に裁判所が入ってきて、法的整理をするときに、その譲渡を取り消されてしまう可能性があります。

 

 

このように後になって、その譲渡を裁判所によって取り消されるとなると、騒ぎが非常に大きくなってきます。これをやる場合には法的整理の一環でやっていかないと(裁判所が絡んでいる中で行わないと)非常に難しく、裁判所あるいは管財人といわれる専門家の方が来て、法的整理をするわけですが、その方が選んだスポンサーであったり、資金を出してくれる方であったり、売却先に譲渡していかないと、非常にリスクが高いことになっていくということです。

 

 

実際問題、まだ稼ぐことができる事業に関しては、外に売却したほうが良いのですが、業績が苦しいオーナーにとってみると、業績の良い事業(良いビジネス)を外に出して(売却して)も、結局残った会社は潰れるしかないのです。会社の借入れをオーナー社長が個人保証をしていると、個人としても自己破産するし、持っていた会社も無くなってしまう(倒産する)ということで、あまり良いことが無いので、実際にこのような決断をされる方は少ないようです。しかし、将来的に潰れてしまうのなら、1年や2年ぐらい粘っていても、続くはずの業績の良いビジネス(社内の1事業)さえも、続かなくなってしまう可能性があります。

 

 

例えば、会社全体の業績が悪くなってくると、業績の良い事業の取引先も離れて行ってしまう可能性もありますし、従業員の方々も仕事ができる方々から、辞めていってしまうということが良くあります。そのようなことを考えると、経営者の方は早めに決断をするべきだと思います。

 

 

会社の延命をしていく中で、オーナー個人の資産を出すということは、創業オーナーであれば、仕方がないということもありますが、個人のお金が無くなると親戚から借りてくる、友人から借りてくるということもよくあります。しかし、“このお金”を出して、会社が何とかなるものなら良いのですが、大半の場合は、そのタイミングで1000万~2000万円のお金を集めたところで、結果的にはそのお金はすぐに無くなってしまうのです。その結果、親戚や友人にお金を返すこともできなくなってしまうわけです。

 

 

要するに、悪影響が拡散する可能性がありますので、「最悪のケースはどうなってしまうのか?」ということと「どうせ会社も潰れてしまうなら、結果は変わらない」と思うのではなく、早めに手を打つことも知っておいて頂きたいと思います。 あるいは、これからビジネスを始める方、あるいは会社を買収される方にもこのようなリスクもあるのだということを知っておいて頂きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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