[解説ニュース]

住宅の譲渡所得の特例では、本当に居住していたか見られています

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

1.はじめに


マイホームを売った場合には、新たな住宅を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、その担税力が弱いという理由から、税制上、特例が設けられています。その最もポピュラーな特例が居住用財産の譲渡所得の特別控除、いわゆる3,000万円特別控除です(措法35①)。

 

こうした居住用財産に係る譲渡所得の特例では、譲渡の対象財産が「その居住の用に供している家屋の譲渡若しくはその家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等」を譲渡した場合であること、又は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡した場合であることが、大きなポイントになっています。

 

居住の用に供しているということについては、「生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するのが相当であり、また、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要するもの」と考えられています(国税不服審判所平成31年2月6日)。

 

しかし、しばしば対象財産が「居住用」であるかどうかを巡って、納税者と税務署との間で争いが起こります。今回は、最近の裁決事例から、居住の用に供している実態がどのように確認されているかをチェックします。

 

 

2.電気・水道等の利用、源泉徴収票の住所…


先の国税不服審判所平成31年2月6日の裁決事例は、納税者Aさん(請求人)が父親から相続した住宅に相続後に住民票を移してから、その住宅を売却し3,000万円特別控除を適用して申告したところ、税務署からその住宅に本当に住んでいたとは認められないとして否認、争いとなったものです。

 

ここで、Aさんがその住宅に住んでいた証拠としてチェックを受けたのは次の事項です。

 

①住民票、運転免許証、源泉徴収票の住所
②職場に届出る住所地やその変更手続き
③郵便局への転居届
④電気、ガス、水道の使用量
⑤近隣住民の証言

 

これらがチェックされるのは、「請求人が本件家屋を生活の拠点として利用していたのであれば、その事実を示す何らかの形跡(例えば、引っ越し、通勤、郵便物、近隣商店の使用に係る領収証、町内会費の支払など)が残るのが通常である」(同裁決)という考えからです。

 

また、この事案では、売却に際して不動産仲介会社に依頼をしており、譲渡対象の住宅のカギを引き渡していた点や、不動産の広告に現況についての記載が「空き家」だった点がチェックされていました。

 

同裁決では、①住民票、運転免許証は対象の住宅の住所地だったが、源泉徴収票の住所は転居前のまま、②職場へ住所変更の手続きの書面を出したが、引っ越し完了連絡がなかったためいったん預かりとなっていたこと、③郵便局への転居届はなく、④電気水道ガスの使用料はほぼなかったこと、⑤近隣住民からは「請求人が本件家屋で生活していたのを見かけたことはない」旨申述があったことから、「生活の拠点として利用していたとは認められない」として3,000万円特別控除の適用を否認した税務署の処分を支持しています。

 

 

3.介護施設への入所と居住地


ケガなどにより介護を必要とする生活となったため、自宅にいられなくなった人が、相続開始直前、その住宅を売却したケースで、3,000万円特別控除の適否が争われた事例があります(国税不服審判所平成31年1月18日)。

 

「居住用家屋」の範囲については、転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、その事情が解消したときはその配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、その配偶者等が居住の用に供している家屋(措法通31の3-2⑴)も含まれるとされています。

 

これを下敷きにしたと見られる相続人(請求人)が住宅を売却した平成26年の前、平成17年から被相続人が施設へ入居していたが、その住宅に戻る意思があったから「居住用」と主張しました。しかし国税不服審判所はこの事例でも電気、ガス、水道の使用量、自治会費の支払い等もチェックし、生活の実態が認められないことから「居住用家屋とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうのであり、治療終了後に家屋に戻る意思の有無のみによって判断されるものではない」とし請求を棄却しています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/03)より転載

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 


それでは、買い手候補先も見つかり、売却に関する協議交渉が順調に進んだ場合において、どのような点に留意していくべきでしょうか?

 

 

一般的なM&Aプロセスにおいては、買い手側は買収対象会社を対象に、デューデリジェンスという調査を実施します。

 

これは、会社が法律面から正しく存在し運営され、取引先や従業員等との法的な関係がきちんと整備されているかを調査する法務デューデリジェンスや、財務的な数値や会計処理の適切性、会社の税務に関するリスク等を調査する財務・税務デューデリジェンスなどがあります。

 

このデューデリジェンスは、買い手が対象会社から資料や情報の提供を受けて実施するもので、買い手が雇った弁護士や公認会計士や税理士が対象会社にコンタクトを取って資料を依頼したり質問を行ったりします。

 

 

 

 

その際、売り手は第1章で述べたように従業員や取引先に極力知られないように配慮しつつ、デューデリジェンスを受入れなければなりません。

 

このときに、売り手側の経営者が一人でデューデリジェンス対応をすることは現実的には難しいため、例えば、管理責任者や経営者の右腕的な人に相談して、デューデリジェンスの受入れをサポートしてもらうことが必要となります。

 

 

デューデリジェンスを受ける売り手にとっては、問題点を隠すことではなく、全てを詳らかにして買い手に問題点や潜在的なリスクを把握してもらって、それを前提に売買条件等の交渉を行う、ということが重要です。

 

仮に、悪い面を隠し通してM&Aを実行できたとしても、売り手側で意図的に隠していたことがM&A実行後に発覚したりすると、場合によっては譲渡対価の一部を返却しなければならなかったり、損害賠償を求められたりすることになります。

 

 

M&Aの際には売り手側と買い手側双方にて契約を締結しますが、一般的にはその契約書の中に、売り手の開示情報が正しくないことがM&A後に判明した場合は売り手が賠償責任を負う、といった条件が織り込まれるからです(これを表明保証といいます)。

 

 

また、一般的なプロセスでは、デューデリジェンスと並行して価格交渉等が行われますが、その交渉において、会社の収益性や財務内容等を基に、株価算定やValuationと呼ばれる会社の価値を算定するプロセスを買い手が実施することがあります。

 

そこで算出された会社の価値を参考に、売り手と買い手双方が各々希望価格を考慮しながら売買金額の妥協点を見つけて行くこととなります。

 

価格交渉の際には、先に述べたデューデリジェンスでの発見事項が考慮されて、時には価格を下げる要因となったり、または価格を上げる材料となったりします。

 

 

そのため、デューデリジェンスのプロセスは、M&A実行前の非常に重要な手続であることをご理解ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人事業者の事業承継 ~消費税の仕入税額控除の適用について~

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

鮮魚店を営む個人事業者が本年11月末日に廃業します。この個人事業者は簡易課税制度を適用しています。

 

廃業後は、事業に供していた店舗建物は、個人において車庫として使用する予定です。

 

この場合、その店舗建物を家事のために消費し、又は使用した時とは、廃業する本年11月末日をいうのでしょうか。また、その譲渡価額は簿価をいうものと考えてよいでしょうか。

 

 

[回答]

事例の場合、個人事業者が事業を廃止して棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたもの(事業用資産)を家事のために消費し、又は使用した場合には、その消費又は使用は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなされ(消法4⑤一)、その消費又は使用の時におけるその消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額をその対価の額とみなして課税の対象とすることとされています(消法28③一)。

 

そして、事例の場合、個人事業者が事業を廃止したときにおけるその事業用資産の消費又は使用の時とは、その事業の廃止に伴い事業用資産に該当しなくなった時点をいうものと考えます。

 

次に、事例の場合、その消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額とは、その事業用資産の簿価等には関係なく、合理的な方法により算出したその事業用資産に係る時価をいうものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年11月6日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

障害者に関する所得税・相続税・贈与税の特例措置

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

1 はじめに


障害には、大きく分けると身体障害、知的障害、又は精神障害の3つがあります。また、認知症と診断されると、身体に障害がない場合は「精神障害者保健福祉手帳」の、身体の障害が大きい場合は「身体障害者手帳」の申請をすることができる場合があります。認知症の方がこれらの手帳を持っていたり、市区町村長等から一定の認定を受けていたりすれば、障害者として、税務上の特例措置の適用を受けることができます。

本号では、障害者に関する所得税、相続税及び贈与税の特例措置について、その概要をご紹介します。

 

 

2 所得税法・相続税法上の障害者・特別障害者とは


所得税法・相続税法上、障害者とは精神又は身体に障害がある一定の者をいい、特別障害者とは障害者のうち精神又は身体に重度の障害がある一定の者をいいます。表にまとめると次のとおりです。

 

※1 成年被後見人はこれに該当します。

 

 

3 所得税


(1) 障害者控除

①本人が障害者の場合
居住者である障害者本人の所得税の計算上、所得金額から27万円(特別障害者の場合は40万円)を控除します。

 

②扶養親族等に障害者がいる場合
居住者である障害者の同一生計の配偶者、又は居住者である障害者を扶養している親族の所得税の計算上、所得金額から障害者1人につき27万円(特別障害者の場合には40万円、納税者等との同居を常況とする場合は75万円)を控除します。

 

(2) 心身障害者扶養共済制度の掛金・給付金の取扱い

地方公共団体が条例で実施する心身障害者扶養共済制度の掛金は、所得金額から控除します。また、これに基づき支給される給付金に所得税はかかりません。

 

(3) 少額貯蓄の利子の非課税

身体障害者手帳の交付を受けている者、遺族基礎年金や寡婦年金等を受けている妻、児童扶養手当を受けている児童の母等が受け取る預貯金等の利子等については、一定の手続を要件に貯蓄額350万円までは所得税がかかりません。

 

 

4 相続税(障害者控除)


障害者である相続人が85歳未満である場合には、その者の相続税額から、次の金額を控除します。

 

(1)一般障害者(特別障害者以外の障害者)の場合

10万円×(85歳-相続開始時の年齢)(1年未満切上)

 

(2)特別障害者の場合

20万円×(85歳-相続開始時の年齢)(1年未満切上)

 

 

5 贈与税(特定贈与信託の非課税)


(1) 概要

一定の信託契約に基づき特定障害者を受益者とする財産の信託があった場合には、その信託受益権の価額のうち、一定額までは贈与税がかかりません。

 

(2) 特定障害者の範囲と非課税限度額

 

 

※2 身体障害者は対象外です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/27)より転載

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第2回:「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第1回】PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

 

▷第2回:PPAのプロセスと関係者の役割とは?

▷第3回:PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?

▷第4回:PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?

 

 

1.はじめに

今回からおおよそ12回にわたって取得原価の配分(Purchase Price Allocation)に伴う無形資産評価(以下,便宜的に「PPA」という。)について解説をしていきます。PPAが2010年4月より日本の会計基準においても要求されるようになってから約10年が経過しました。

 

また,PPAが必須とされる国際会計基準(以下,「IFRS」という。)を採用する企業も増加し,日本でもPPAの実務が定着しつつありますが,まだまだ完全に定着しているとは言えない状況にあります。更に,昨今の会計不正が起きている現状において,監査を取り巻く環境も変化し,それに応じて監査人の対応も厳しくなり,PPAも重要な監査項目になってきているのではないでしょうか。

 

このような状況を踏まえて,上場会社の経営企画担当者・経理担当者が読まれることを想定して,PPAの基本的な考え方から,企業業績に与える影響,プロジェクトの進め方,監査対応などを網羅的に解説します。

 

 

2.過去から現在の状況

PPAの実務は,主に米国において確立されたものであり,長い間,多くの日本企業にとってPPAはなじみのないものでした。企業結合会計が日本に導入された後も,しばらくの間はM&A時のPPAにかかる無形資産の計上は強制ではなかったため,資産・負債の差額は,全額のれんとして一括計上処理されることが一般的であったと思われます。

 

ただし,2010年4月の企業結合会計基準の改正に伴い,日本基準においても,原則としてPPAにかかる無形資産の計上が求められることとなりました。

 

現状,経理・監査の現場においても,IRに対する企業の意識の高まりや監査の厳格化等を背景に,M&AにおけるPPAにかかる無形資産評価の要請が高まっており,筆者の個人的感覚ではPPAへの対応が必要となるケースが増加しています。

 

 

3.PPAの課題

日本の企業では,PPAにかかる無形資産評価についての理解がまだまだ不十分な状況にあります。専門書もネット検索でも,PPAについて得られる知識・情報は豊富とは言えず,買収後の会計処理及び開示に関して,実務に即した解説をしている媒体が限られています。多くの企業にとって,M&Aを検討・実行する機会が増えた昨今,当事会社においても,PPAプロセスを円滑に進めるためにも,PPAにかかる手続や無形資産評価実務,監査プロセスに対する理解を深めることが必要となってきています。

 

今後,経理担当者の方にとっても重要性が高まる可能性が高いPPAの概略や無形資産評価の実務について,本稿をきっかけにご理解頂ければ幸いです。

 

 

4.PPAのイメージ

本稿ではまず,PPAのイメージを解説します。図表1に示す通り,従来,日本基準においては,買収価額と時価純資産の差額(以下,「広義ののれん」という。)を20年以内の一定の年数にて償却していました。

それがPPAの導入により,広義ののれんに含まれる無形資産が特定され,広義ののれんから特定された無形資産を差引いた残額(以下,「狭義ののれん」という。)が,いわゆるのれんとして扱われるものとなりました。

 

つまり,従来は買収価額と純資産の差額が一括してのれんとして計上されていたものが,PPAの導入により,のれんのうち,商標権,特許権,顧客関係などに特定された無形資産が計上され,それらを配分後の残額をのれんとして取扱うこととなりました。

 

 

 

【図表1】PPAの流れ

 

 

 

 

詳細は,今後の連載を通じて説明していきますが,無形資産として計上される無形資産にはどのようなものがあるのでしょうか。一般的には図表2で示すような項目を無形資産として認識することとなります。

 

 

 

【図表2】無形資産の例示

 

 

 

 

5.数値例を用いた説明

図表1で示した事柄について数値例を用いて説明します。

X社(日本基準を採用)がY社のすべての株式を10,000百万円で買収して子会社とし,買収時のY社の純資産は7,000百万円でした。PPAを実施する前は,買収価額10,000百万円と純資産7,000百万円の差額3,000百万円が広義ののれんとなります。

 

PPAを実施し,無形資産1,500百万円が計上されると,狭義ののれん1,500百万円は広義ののれん3,000百万円から無形資産1,500百万円を差引くことで計算されます。

 

しかしながら,PPAの手続きはここで終了ではなく,計上された無形資産は,連結上の一時差異として繰延税金負債が計上されます。

本例では,法定実効税率を30%として,1,500百万円×30%の450百万円が繰延税金負債として計上されます。

 

その結果として,繰延税金負債分だけ狭義ののれんが増加することとなることから,1,500百万円+450百万円=1,950百万円が最終的な狭義ののれんとなります。

 

 

 

【図表3】PPA実施によるB/Sの動き

 

 

 

 

Y社をX社の連結財務諸表へ取込む時の仕訳を図表3に沿って作成すると下記のようになります。

 

 

 

 

 

 

図表4がPPAの実施の有無による計上される無形資産の金額の差異を比較したものです。

PPAを実施しない場合,計上されるのはのれん3,000百万円であるのに対して,PPAを実施した場合の広義ののれん相当額は,狭義ののれん1,950百万円と無形資産1,500百万円の合計3,450百万円となります。

両者の差異は,3,450百万円と3,000百万円の差額450百万円ですが,これは無形資産に対する繰延税金負債分に該当し,その分だけのれんが増加したこととなります。

 

このため,無形資産を計上すると,その税効果分だけのれんが増加することとなるため,日本基準を採用している場合,当初ののれんにかかる償却費よりも償却額が増加することとなる点に留意が必要です。

 

 

 

【図表4】 PPA実施の有無による無形資産計上額の差異

(単位:百万円)

 

 

 

6.PPAが業績に与える影響

先ほどPPA実施の有無により計上される無形資産の金額の差異について説明しましたが,ここではP/Lに与える影響について見ていきます。のれんと無形資産では,ケースバイケースではありますが,一般的にはのれんの耐用年数が無形資産の耐用年数より長くなるケースが多いです。つまり,無形資産の耐用年数はのれんの耐用年数より短くなるケースが多いと言えます。

 

仮に,無形資産の償却年数がのれんの償却年数より短いとすると,無形資産の償却が終わるまでの単年度で見た場合,PPAを実施すると毎期の償却負担額は多くなることとなります。図表3の例で,無形資産の耐用年数を5年,のれんの耐用年数を10年とした場合,PPAを実施した場合の方がPPA未実施の場合より,償却費が195百万円多くなっています。これは,①と②の影響によるものです。

 

①無形資産に対する繰延税金負債の計上によるのれんの増加による影響

無形資産1,500百万円×30%÷10年=45百万円

 

②無形資産とのれんの耐用年数の差異による影響

無形資産1,500百万円×(1/5‐1/10)=150百万円

 

 

 

【図表5】PPAの実施が償却費に与える影響

(単位:百万円)

 

 

 

7.本連載で説明していく内容

PPAのイメージを図表と簡単な数値例で説明しましたが,PPAは広義ののれんを無形資産と狭義ののれんに切り分ける作業だけに留まらず,企業業績にも影響を与えることがご理解頂けたのではないでしょうか。

 

例えば,企業買収前の業績シミュレーションを,広義ののれんを10年で償却すると仮定して実施し,買収後にPPAを実施したところ,当初の想定と異なる結果になってしまうことも起こり得ます。このようなことを理解した上で買収を進める場合と,理解しないで進める場合とでは,買収後のプロジェクト関係者の利害調整に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

また,PPAの結果は会計監査人による監査の対象となることから,監査に要する時間を考慮したスケジューリング及び監査に耐えうるPPAのロジック付け等が必要となってきます。

 

以上のことを踏まえて,本連載では,経営企画部門,経理部門がPPAプロジェクトを進めていく上で,必要な知識及び留意点を一つずつ解説していくことを予定しています。なお,現時点で想定している記載内容は下記の通りです。

 

【主な内容】

・PPAのプロセスと登場人物

・無形資産の認識識別基準

・PPAで識別する無形資産

・無形資産の評価手法

・経済的耐用年数

・PPAを実施する上での実務上のポイント

 

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

 

[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

会社や事業を売る準備

~売るために準備しておく、財務上、労務上、法務上のポイントとは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 

 

 

 


今回は“会社や事業を売るための準備”というテーマです。”財務””労務””法務””強み弱みの整理”という順番に説明いたします。

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

 

 

 

 

 

〈財務〉


財務というよりはビジネスの話になります。そもそも、”儲かっているのか”という点が大きいポイントです。もちろん、「赤字の会社が絶対に売れない」ということはないのですが、確率論で言うと、儲かっている会社の方が圧倒的に売れる可能性が高いです。

 

 

したがって、儲かっているということを前提にした上で、そもそも“事業別とか毎月ごと、月次決算の数値が、きちんと作成できていて、資料を準備できる”かを、確認していただきたいと思います。

 

 

経営者の頭の中に、この企業の売上はいくらで、費用はいくらなのか、という情報は入ってると思いますが、買う方からすると経営者の頭の中を覗くわけにはいきませんので、きちんと資料として残っていて、最終的にはデュー・ディリジェンスで、過去の数値が、本当に正しかったのかどうかチェックしますので、「書類が残っています」「具体的には入出金の事実を確認できる通帳とか、銀行のデータがあります」という形になってないと、結局、その交渉はどこかでつまってしまいます。

 

 

「情報がないからやっぱり買うのをやめる」、あるいは「目をつぶって買うから、その代わり買収金額は大幅に割引をしてくれ」ということになりかねません。きちんと評価をして高く売るという意味で、財務の情報をきちんと整理しておく必要があります。 記帳や会計処理を会計事務所に委託している場合に、こういった月次とか事業別の記録がきちんとされていない状況が思ったよりもたくさんあります。きちんとした会計事務所であれば、月次の数値はきちんと集計されているでしょうが、意外と事業別の業績をきちんと整理している企業は少ないのが実情です。

 

 

一事業ごとの損益は把握しているけれども、一事業ごとにどんな資産があるのか”という点を把握していることは少ないのです。会社をまとめて売却するときにはあまり問題にはならないですが、会社の一部、一事業を売却しようとする際には問題になりますので注意が必要です。

 

 

結果的にこうした情報を整理することによって、ウチのビジネスは順調で将来も有望である、ということを買い手に伝えることになるので、財務というよりもビジネスそのものを第三者にわかりやすい形で準備をしておく必要があるということです。

 

 

 

 

 

〈人〉


次に人です。 “キーパーソンは存在するのでしょうか?”  “事業を回す責任者は存在するのでしょうか?”

 

 

オーナーがいないと事業が回らない場合には、基本的には売れません。したがって、将来の売却を考える場合には、オーナーが抜けても商売が回るようにしておかないといけません。あるいは、キーパーソンがいないということであれば、売却後も1年間、ないし2年間程度は、会社に残り、後継者候補を育成して、引き継ぎをすることが必要になります。このようなパターンのM&Aもありますので、キーパーソンがいないからといって、「絶対に譲渡ができない」と悲観的に考えないでいただきたいと思います。

 

 

基本的に、キーパーソンがいてオーナーは抜けてもなんとか回る番頭というか店長クラスの人はいるんだということを前提に続きの話をすると、”その方が仕事を続けてくれること”が、重要な条件です。 経営人材がどこの会社でも不足していますので、譲渡後も社長として残ってほしいという要望も数多くあります。むしろ、それなりの規模であれば、こうしたパターンの方が多いです。

 

 

彼らは、M&Aを人不足、経営人材不足をカバーするための手段としても考えているのです。その場合に、売り手にその覚悟があるのか、これまでオーナーの判断で、ある意味好き勝手やってきた経営が、そうではなくなります。一方で責任は軽くなります。その覚悟があるのか、という点もあらかじめよく考えておいたほうがよいでしょう。

 

 

その覚悟がない場合には、大企業の傘下に入り、経営を続けるという選択肢はない、とあらかじめ、買い手に明示しておくべきです。

 

 

 

 

 

〈労務〉


今の時代は、労務管理について非常に厳しい世の中になっています。“例えば社会保険の未払がある”  “あるいはそもそも社会保険に加入していない”ような場合です。 社会保険に加入していない状態で、例えば2,000万円の利益がでているとしましょう。買収後、社会保険に加入すると、利益は減ります。買い手としては、当然、その減った利益を基準に、買収金額を決めますので、売り手と買い手の売買金額の目線に差がでてきてしまいます。

 

 

したがって、売却を考えるのであれば、事前に社会保険にきちんと加入しておくということも重要な準備になります。 社会保険料の未納があるような場合には、買い手に迷惑がかかりますし、通常、売却できません。

 

 

このような状況がある場合には、法的整理の一環で事業譲渡をする場合を除き、事前に整理をしておくことが必要です。 労務管理は、今、売買時に非常に重視されるポイントです。

 

 

 

 

 

〈法務〉


少なくとも、“契約書が整理、保管されていること”は基本的なポイントです。 次に“会社法、各種業法によって要請されている書類が適正に整理されている”かどうかも買い手が気にするポイントです。

 

 

これがないと、免許の取り消しやペナルティーの可能性もあるわけですから、買い手としては慎重にならざるを得ません。 長年、経営を続けてきた方が経営を続けるのであれば大きな問題にならないようなことについて、M&Aをするということは、これまで経営に関与していない第三者がきて、あらたに経営を始めるということです。

 

 

彼らにわかりやすい書類、体制を作っておく必要がどうしてもでてきます。

 

 

 

 

 

〈強みと弱みの明示〉


最後にとても重要な”強みと弱みの明示”です。 皆さんの会社の強みと弱みはどこでしょうか。

 

 

強みについては、じっくり考えれば1つ2つは出てくると思います。 一方で弱みはどうでしょうか。弱いところを明らかにするだけではあまり意味がありませんが、弱みを補完できる先はどこなのか、というところまで考えると、どんな会社に買ってもらうがベストなのか、という点が明確になってきます。

 

 

買い手からすると、”お金さえ出せば儲かるという事業”があれば最高です。そのお金を生産設備、販促なのか、個別案件によって異なりますが、その穴を埋めれば、売上、利益があがっていく、そんなイメージがはっきりできると買い手は最高です。 今、厳しいのは人さえいれば、というパターンです。それは買い手も同じ状況だからです。

 

 

 

 


【動画解説を見る(外部サイト)】

[解説ニュース]

医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度活用について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小林 良治/税理士)

 

1.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度


令和2年度税制改正大綱により、良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の改正を前提に、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予免除制度(以下、「本制度」と言います。)の適用期限が新たに3年間延長される見通しとなりました。今回は本制度の概要及びその活用についてお伝えします。

 

(1)本制度概要

相続人が出資持分あり医療法人の出資持分を相続等により取得した場合、その法人が出資持分なし医療法人への移行計画の認定を受けた医療法人であるときは、移行計画の期間満了まで相続税の納税が猶予され、持分を放棄した場合は、一定要件を満たすことにより猶予税額が最終的に免除されます(租法70の7の12)。また、出資者の持分放棄により、他の出資者持分が相対的に増加することで、贈与を受けたものとみなし他の出資者に贈与税が課される場合(全出資者が持分放棄した場合は医療法人に贈与税が課されます)も同様に移行計画の満了まで納税が猶予され、一定要件を満たすことで最終的に免除されます(租法70の7の9)。

 

(2)移行計画の認定申請、移行期限等

本制度の適用を受ける場合、まず移行計画提出等の申請手続き等で一定要件を満たして厚生労働省より認定を受け、認定後3年以内に出資持分なし医療法人に移行し、移行後6年間は厚生労働省に運営状況の報告を行うことで継続して認定要件を満たす必要があります。今回税制改正によりこの認定制度が令和5年9月30日まで延長される見込みです。

 

(3)本制度創設時

そもそも本制度は、出資持分あり医療法人の出資持分をなくすことで出資持分にかかる相続時等の税負担・出資者からの払戻請求額の負担軽減を図り、医業経営の安定化を目指すことを目的として平成26年に創設されました。しかし、当初は計画通りに出資持分なし医療法人に移行した場合でも移行時の税負担が免除されるケースは以下の3パターンであり極めて限定的でした。

 

①社会医療法人への移行
②特定医療法人への移行
③一定の非課税要件(相令33条3項)を満たす出資持分なし医療法人への移行

 

これらはいずれも公益性の担保された医療法人への移行を前提とするものであり、①~③への移行以外の場合は移行時に医療法人を個人とみなして贈与税を支払うこととされました。(相法66④)

創設時の本制度活用の主なメリットは、課税時期を最大猶予期間である3年間先送りできること等、当面の納税負担に関することでした。

 

 

2.平成29年度税制改正後


(1)認定要件の追加

平成29年度税制改正では運営に関する要件が追加され、新たに3年間延長されました。追加された主な認定要件は

 

①法人関係者に利益供与しないこと
②役員報酬について不当に高額にならないように定めていること
③社会保険診療収入に係る収入が全収入の80%超となっていること 等

 

となっており従来の認定要件が強化されました(ただし、非同族要件等は含まれておりません)。認定後3年以内の移行期間中の猶予の取り扱いは変わりませんが、従来と異なり移行時の贈与税負担は生じないこととなり(租法70の7の14)、前記1.(2)により認定要件を移行後6年間維持すること(認定取消時のみ医療法人に贈与税課税)で相続税・贈与税免除の可能性が広がりました。

 

(2)本制度活用の可能性

本制度が延長されてもなお出資持分なし医療法人への移行については慎重な検討が必要です。例えば出資持分なし医療法人の解散時残余財産は国等に帰属し出資払戻額の請求はできません。本制度の活用を検討すべきと考えられるのは、出資持分評価額が高く、現状のままだと承継時に多額の税負担が見込まれる場合や出資者間相互の関係が悪く、将来の払戻請求リスクを排除しておきたい場合等が考えられます。本制度選択の検討は円滑な承継を行うため有用であるのかそのきっかけを与えるものと言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/20)より転載

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

②株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与

■【Q&A】解散をした場合の役員退職金の支給について

 

 

 

中小零細企業M&Aで株式譲渡スキームを採用したとします。当該スキームでは通常、税効果を享受するため、売主において、役員慰労退職金を支給するケースが多いようです。この場合において、「現金支給するか、現物支給するかの有利不利判定」について課税関係をもとに考えてみます。

 

 

税負担のみを考慮すると、下記の事項を総合勘案して有利不利判定をすることになります。

 

(1)現物配当の場合、法人が含み損資産を有している場合、含み損を実現することが可能となります。グループ法人税制下で、関連会社への移転によっても含み損が実現できない資産について有効です。実務では、当該時点での解約返戻金が低い保険を支給するケースも多いようです。

 

(2)当該現物支給対象の現物が消費税の課税取引、非課税取引、課税対象外取引のいずれに該当するかで消費税の課税区分は決定されます。支給金額によっては、支給後の課税売上割合が変動する可能性があります。課税対象外取引となるべく、後述の通り、株主総会において支給決議をするのが必須です[注1]。

 

(3)現物支給の場合、別途、それに係る源泉所得税をグロスアップ計算する必要があります。源泉所得税は金銭での納付しかできないためです。

 

 

下記では、現物を分類して課税関係を検証します。

 

(イ)土地

【売買の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

 

登録免許税と不動産取得税は軽減税率の改正(延長含む)が頻繁に入るため、実行時の税率を確認します。本稿脱稿時点においては、不動産取得税及び登録免許税の軽減税率適用による税負担軽減効果が高いため、土地については、売買の方が有利になる可能性があります。

 

 

(ロ)建物・車両・ゴルフ会員権

【売買の場合】

〇建物

・・・消費税、登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇車両

・・・消費税、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇ゴルフ会員権

・・・消費税、売買契約書(預託金方式のみ)、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇建物

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇車両

・・・コストなし

〇ゴルフ会員権

・・・コストなし

 

建物・車両・ゴルフ会員権については、現物支給の方が有利です。

 

 

現物支給では、株主総会決議があるかないかで消費税課税区分が変更します。この理由づけには様々なものがあります[注2]。

 

下記の考え方が最もわかりやすいです。

 

役員報酬等の決定方法については、会社法第361条第1項を確認します。

 


(会社法第361条)

(取締役の報酬等)

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

 


 

 

現物支給する場合は、総会決議によって、その具体的な内容、すなわち、支給する現物資産の種類、金額、支給日等々の決議が必要です。よって、株主総会の決議なき場合、現物支給は代物弁済による資産の譲渡に該当します。代物弁済に係る消費税の取扱いは下記から読み取れます。

 

 

 


(消費税法第2条第1項第8号)

事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

 

(消費税基本通達5-1-4)

法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいうのであるから、例えば、いわゆる現物給与とされる現物による給付であっても、その現物の給付が給与の支払に代えて行われるものではなく、単に現物を給付することとする場合のその現物の給付は、代物弁済に該当しないことに留意する。

 


 

 

上記より、株主総会決議がない場合、代物弁済に該当し、資産の譲渡に係る取引なので課税取引に該当しますし、ある場合、給与扱いですから課税対象外です。なお、国税OB執筆の解説本の一部では課税取引と記載しているものもありますが、これは、中小零細企業実務において、株主総会決議をしていないだろう、という前提にたった、すなわち、実態に即した上での解説をされているものと筆者は邪推します。

 

 

 

 


【注釈】

[注1] 役員においては、株主総会の支給決議によってはじめて退職慰労金の支給義務が生じます(法基通9-2-28)。たとえ現実に退職しており、役員退職慰労金支給規定が予め作成されていても、株主総会での決議がない限り、債務確定にはなりません(最判昭和39年12月11日、最判昭和48年11月26日、最判昭和58年2月22日)。一方、最判昭和48年11月26日では明確な支給基準が存在し、本店備付けなど、それが株主に閲覧できるという要件等を満たせば、取締役会への一任できるとあります。以上につき、岡野訓=内藤忠大=濱田康宏=村木慎吾=白井一馬「実務目線からみた税務判断~実務で直面する厳選20事案~」88頁(大蔵財務協会 2014)を参照しています。

[注2] この点につき、前掲注1  96~99頁において、所得税と消費税の対価性の違いから理由づけを行っています。消費税は事前に対価性を問われるため、株主総会決議で現物支給決議を行えば、課税対象外取引なるという考え方です(消基通5-1-4も参照のこと)。

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

 


会社を売却する場合、株式を売却すれば、株式を譲り受けた人に会社の経営権が移りますので、株式を売買することが一般的な方法ではあります。ただし、会社の法人格をそのまま引き継ぐことで何らかのデメリットや将来のリスクが存在するような場合、買い手側が株式の売買ではなく、事業譲渡を希望する場合があります。

 

事業譲渡とは、会社の中の特定の事業であったり資産であったり人であったりをピックアップして売買することです。M&Aの際に、何らかの事情があって株式売買がそぐわないと判断された場合に、事業譲渡スキームがとられることがあります。

 

 

では、事業譲渡を選択した場合にどういったメリットがあるのでしょうか。

 

まず、買い手から見ると、会社そのものを取得して会社を経営していく場合に、もしかすると隠れた債務や将来の税務等のリスクをも一緒に承継してしまう可能性があると判断される場合や、引継ぎたくない事業や資産・負債等がある場合は、それらのリスクを遮断するために法人格そのものは承継せずに、必要な事業とそれに付随する資産や人のみを譲り受けるという選択を採ることができます。

 

そうすることで、元々の法人格にリスクや隠れた債務等を残したまま、買収したい事業のみを承継することができます。

 

 

一方、売り手から見ると、売りたい事業だけを売却できる方法でもあります。株式を譲渡すると会社の全ての経営権が移ってしまいますが、例えば、いくつかの事業を営んでいたものの、事業のリストラを検討した結果、ある事業をどこかに承継してもらいたいというようなケースにおいては、事業譲渡が選択されることもあります。

 

しかし、事業譲渡にはデメリットもあります。特定の事業や資産や人を承継する場合には、対象となる資産等を一つずつ特定して承継しなければなりません。

 

取引先との契約があれば、それら全ての取引先から承諾を得た上で契約を巻き直す、もしくは契約を移すという手続が必要となります。

 

また、人については、会社そのものの経営権が移るのであれば全従業員が会社にそのまま在籍する形となり、会社と従業員の雇用関係には影響はありませんが、事業譲渡の場合は、譲渡される事業に従事する従業員を個別に説得して新たな会社に移ってもらう、という手続が必要となります。

 

そのため、それらの手続が簡略化出来るよう、事業譲渡のような煩雑な手続を行わずに、包括的な手続によることを可能とする会社分割という手法なども認められています。

 

その他にも、2つの会社の株主を入れ替える株式交換という手法や、2つ以上の会社を統合して1社にまとめる合併という手法などもあります。

 

 

 

 

どのような手法を採るにしても、M&Aのスキームについては、売り手と買い手の協議によって決められますから、メリットとデメリットを慎重に検討して双方納得の上で決定する、ということが肝要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

1.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた贈与者から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(経営承継受贈者)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。この猶予税額は、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡した等の場合には、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

 

(2)(1)の贈与者が死亡した場合の相続税の特例

経営承継受贈者が(1)の納税猶予の適用を受けていた場合において、その者よりも先に贈与者が死亡したときは、経営承継受贈者は(1)の通り猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、その株式は贈与者に係る相続税の課税対象とされます。

 

 

 

2.個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合の税務


(1)みなし配当課税となる部分

個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡する場合には、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は”発行会社からの配当”とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算されて最高 55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。

 

(2)株式譲渡所得となる部分

個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常その譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)の通り譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされ、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用を差引いて、譲渡所得の金額が計算されます。この譲渡所得は他の所得と分離され、20.315%の税率で課税されます(措法37条の10第1項等)。

 

(3)相続等により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続等により非上場株式を取得(相続税法および租税特別措置法の規定により、相続等による財産の取得とみなされるものを含む)した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、2(1)(2)にかかわらず、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。

 

 

 

3.贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用


個人が贈与税の納税猶予の適用を受けて生前贈与により非上場株式を取得したものの、その贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合は、その者が他の要件を全て満たすときであっても、上記2(3)の「みなし配当課税の特例」の適用が受けられないのではないかという疑問が生じます。

 

この点について、相続等による財産の取得には、租税特別措置法の規定により相続等による財産の取得とみなされるものが含まれ (2(3)下線部参照)、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式は、その贈与者の死亡した場合、その経営承継受贈者が贈与者から相続等により取得したものとみなされます(1(2)下線部参照)。ゆえに表題の場合は一定の手続の下で、2(3)の特例の適用を受けることができます。

 

なお、後継者が非上場株式の贈与による取得において「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70条の7の5)の適用を受ける場合も、上記と同様の取扱いがなされます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/14)より転載

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「廃業・清算を選択した場合の検討すべき方策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑨~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題したテーマの最終回となる今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。前回(令和元年5月第3号)は廃業・清算という選択に至る前に事業存続に向けて検討すべき方策を説明いたしましたが、今回は後継者不在や厳しい将来性等からやむを得ず廃業・清算という選択をした場合に、検討すべき方策について紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 山田隆寛/公認会計士

 


【廃業・清算を選択した場合の検討すべき方策】

廃業をする場合、取引先・従業員・金融機関等多くの関係者に多大な影響を及ぼし、また場合によっては経営者の個人資産への影響を及ぼすため、廃業に向けた事前の準備が必要となります。会社の財産状況によって廃業の手続や対応が異なってくるため、会社の財産状況の把握(『資産超過』か『債務超過』かの判断)が重要となります。財産状況の把握において、資産については個々の資産を簿価ではなく処分価額で評価することになります。また、負債については賃貸借契約の違約金等の貸借対照表に現れない簿外債務の検討が必要になるため、専門家の利用が有効と考えられます。

 

【会社の財産状況に応じた清算の流れ】

0625.bmp

 

※ 経営者保証に関するガイドラインとは
中小企業の経営者が金融機関等と締結している個人保証(経営者保証)について、保証契約を検討する際や、金融機関等の債権者が保証履行を求める際における、中小企業・経営者・金融機関の自主的なルールを定めたもの。

 

いずれのケースにおいても会社が赤字の場合は、事業が長引くほど会社の財産が目減りしていくことになりますので、できるだけ早期の廃業を目指すことが有効になります。特に、『経営者保証に関するガイドライン』による保証債務整理をする際には、早期に債権者の同意を求めることで、個人資産を手許に残せる可能性が高くなります。

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年6月20日)より再編集のうえ掲載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業者の事業承継  ~消費税の仕入税額控除の適用について~」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

 

 

 


[質問]

個人事業者である肥育牛農家Aは、高齢のため2019年11月30日にその事業を廃止し、同日に生計を一にする子Bに譲ることを考えています。

 

現在、〇〇万円程度の棚卸資産に該当する肥育牛があり、これは同日にAからBに売却し、事業用の固定資産はAからBに無償で貸与する考えです。

 

Aの事業の廃業の日は2019年11月30日となり、この日にその肥育牛の棚卸資産を譲渡することとしています。

 

この場合、Bの開業の日をAの廃業の日の2019年11月30日として、Bは「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより、その肥育牛である棚卸資産に係る消費税について仕入税額控除をすることができるという認識で間違いはないでしょうか。

 

 

 

[回答]

消費税において、免税事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署長に提出した場合には、その提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(その提出をした日の属する課税期間が事業を開始した課税期間である場合等には、その課税期間)から課税事業者になるとされています(消法9④、消令20)。

 

事例の場合、Bにとって2019年が事業を開始した課税期間であることを前提とすれば、Aの廃業日、Bの開業日及び棚卸資産の譲渡日を2019年11月30日とし、2019年中にBが「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより、Bは2019年1月1日から課税事業者となるので、棚卸資産の譲受けに係る課税仕入れについては仕入税額控除の適用を受けることができると考えます。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年9月3日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

滞納固定資産税の”相続”問題にご用心

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

1. はじめに


相続の現場では、財産整理や遺産分割が速やかに行われていなかったことが災いして、税務上不利な状況に見舞われるケースが少なくありません。

 

よく知られているのは、相続税申告の際、相続税の特例である、配偶者の税額軽減、小規模宅地等の特例事業承継税制が適用できないということ。固定資産税にも気を付ける必要があります。財産・債務の整理や遺産分割を放置していたことから、後になって思わぬ税負担を求められるケースが少なくないためです。

 

というのも、不動産の相続があった場合、被相続人の固定資産税の納税義務は、次の通り相続人が承継することになっているからです。「相続があった場合には、その相続人(包括受遺者を含む)は、被相続人(包括遺贈者を含む。以下同)に課されるべき、又は被相続人が納付し、若しくは納入すべき地方団体の徴収金を納付し、又は納入しなければならない」(地法9①)。

 

市町村は、固定資産税の徴収をする場合ときには、納税者に文書で納付又は納入の告知をしなければならないことになっています(地法13)。その上で督促、滞納処分に入ることになります。

 

納税者の中には、このように降って湧いたような納税義務に、抵抗する人もいます。しかしその言い分はなかなか聞いてもらえないのが実情です。そこで最近、実際に税務上争いになった事例を見てみましょう。

 

 

2. 未分割で請求が回ってきた事例


被相続人の滞納固定資産税の納付を管轄の市町村から請求されたとき、無視して支払わないと督促の上、最悪の場合、督促された相続人の預金等が差押えられ、税金を強制的に徴収されることがあります。

 

中でも気を付けたいのは、相続人が複数いる場合に遺産分割をせず相続財産が共有になったままのケースです。

 

なぜなら共有物の税金は連帯納付義務が生じるからです。(地法10の2)。連帯納付義務のある税金については、徴収権のある市町村は、連帯納税義務者の1人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯納税義務者に対し、その税金の支払いを請求することができる点に注意が必要です。

 

 

花巻市の事例です(平成28年11月22日裁決)。

 

市内の30物件の所有者である被相続人Xさん対し数年度分課税していた固定資産税につき、花巻市は、遺産分割前だったことから複数の共同相続人のうち代表者として相続人Aさんを指定し、賦課徴収の書類を送付していました。

 

ところがAさんは、納期限後になっても納付しません。そこで一転、花巻市は平成28年3月、別の相続人Bさんに納期限を3月末とする連帯納税通知書を送付しました。Bさんも無視。花巻市は同年4月20日付で、督促状をBさんに送付しました。

 

Bさんはここで督促処分に不服を申立てました。いわく「Aが単独で課税対象不動産を流用し、年間100万円超の賃料収入を得ており、その固定資産税はAから徴収すべき」と。

 

しかし、審理した花巻市は、督促処分に違法性はないとする裁決を下しています。

 

 

3. 90年以上前の相続が発端の事例


防府市の事例です(平成29年10月4日裁決)。

 

90年以上前に亡くなった祖父の兄弟名義の不動産につき、相続人と見なされて、課税されたうえ、預貯金を差し押さえられたケースがありました。

 

防府市は、平成18年になって、問題の不動産の現況が原野から雑種地に変わっていたことから固定資産税の課税評価をしたところ、免税点を超えたため祖父の代の兄弟やその子の世代も亡くなっている中、相続人14人を確認し、市内に住む祖父の兄弟の孫Cさんを相続人代表者と認定。課税処分したうえ、滞納処分に入り、預貯金を差押さえて、強制的に固定資産税を徴収してしまいました。

 

Cさんは、「市内に居住していることのみを理由として相続人代表者に指定され、自分だけに課税され、それに基づいて差押処分を受けることには納得できない。」と反発、不服申立しました。

 

審査した防府市は、相続人間の公平性を損なう事情があり、新たな課税は取消されるべきだが、不服申立をする期間を過ぎて時効となった課税分は取消できず、徴収した税額については滞納固定資産税に充当済みで、「取消しによって審査請求人の権利の回復を図ることはできず、審査請求の申立ての利益はないことから却下せざるを得ない」としてCさんの言い分を退けています。

 

子や孫が苦労しないためにも財産整理・遺産分割は、しっかり済ませておきたいものです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/01/07)より転載

[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

①M&Aにおいて一部門を譲受(譲渡)する際の注意点

~一部門を譲受(譲渡)する際に把握しておくべき情報とは?売買金額のつけ方とは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 

 

 

 


今回は、“一部門を譲受(譲渡)する際の注意点”というテーマです。 まず一部門を譲渡するというのはどういうことかを確認します。

 

 

 

▷売上1,000万円程度からの「スモールM&Aお任せサービス」受付開始!M&A仲介業者への依頼に至らない規模の小さい案件も依頼しやすい手数料で。まずはお気軽にご相談を。

 

[株式譲渡と事業譲渡]

通常M&Aというと、株式譲渡を想定される方が多いと思います。改めて、株式譲渡とはどのようなものかを整理します。

 

 

 

売り手とは、対象会社のオーナー(株主)となります。中小企業の場合は、社長が株主を兼ねていることが多いので、株主兼社長のような方が株式譲渡における売り手になることが多くなります。

 

 

その方が持っている会社の株を、買い手が買うというのが、シンプルなM&Aとなります。何も言わないでM&Aというと、ほとんどの方がこれを想像すると思います。ただし、この場合(株式譲渡)、対象会社の権利は全て買い手に移ってしまいますので、100%の株を譲渡した場合、例えば、この対象会社が店を3つ持っていた場合、3つ全ての権利義務が売り手から買い手に移ります。

 

 

もしかすると、3つのお店(事業)のうち、1つのお店(事業)のみ、買い手が欲しい場合もあるかと思います。実務的に言えば、このようなケースは意外とあります。場合によっては、「不採算部門(事業・店舗)のみを売却したい」「儲かっていないから、それだけを引き取って欲しい」というように考える売り手もいるかと思います。一方で、「儲かっていない事業はいらないから、儲かっている事業のみ売って欲しい」という買い手もいると思いますので、部分的に会社の一部だけを譲渡しなければいけないというケースは思ったよりあるわけです。

 

 

そのような時に、株式譲渡という通常のスキームを使ってしまうと、言い方が悪いですが“いらない部分(事業)”も含めて、会社を丸ごと引き取らないといけないわけです。

 

 

 

それを避けるための1つの方法が“事業譲渡”となります。事業譲渡というスキームは、会社の一部を切り取って売買の対象とすることができるので、先ほどの“株式譲渡”の絵とは少し変わってきます。 この“事業譲渡”の売り手というのは、先ほどで言うところの対象会社になります。自分の会社の一部を切り取って、買い手に売るわけですので、対象会社が“事業譲渡”の当事者となります。

 

 

1つの会社の中にビジネスが3つあり、そのうち1つのビジネスを買い手に買ってもらう。こうなると、当たり前ですが対象会社というのは譲渡契約の当事者となりますので、譲渡代金はこの売り手である対象会社に入ってくる(支払われる)ことになります。 この点が、株式譲渡と少し違うところです。

 

 

 

このような形で、会社の一部譲渡というのが行われています。事業譲渡というのは、これはこれで便利な部分もあるのですが、デメリットもあります。理由があって、事業譲渡のスキームは使えないということがあります。しかしながら、どうしても会社の一部だけを欲しいといったニーズもあります。

 

 

そのような場合は、そもそもの売買の対象となる会社のうち、譲渡の対象としたい事業の一部のみを新しく作った会社に振る(会社を分ける)ことができるのです。 これを“会社分割”と言いますが、例えば譲渡の対象としたい会社の「一部のみを譲渡したい」とします。その一部を切り取って新しい会社に振る(会社を分ける)わけです。その新しい会社の株を売り手と買い手で売買するということを行います。このようなやり方もあるわけです。 このスキームは、弁護士の先生にしっかりと相談して、法的に問題が無いかの確認を取ってもらいたいと思います。やり方はいくらでもあるということです。

 

 

どうしても、会社とか事業の一部を譲渡しなければならないといったニーズはあるわけです。ですので、一部門を譲渡するということは比較的、頻繁に起きているということです。

 

 

[一部譲受の際に必要な情報とは?]

その際に注意しなければならないことですが、会社の一部(一部門)の譲受(譲渡)をする場合には当然ですが“当該部門の情報が必要”となります。

 

 

全社の数字(BS、PLなど)ではなくて、譲渡の対象となっている部門やお店の情報がないと話にならないわけです。なぜならば、会社全体を引き取るわけではないためです。 たとえば、全く利益が出ていない事業を譲受しようとした際に、会社全体の数字を見て「こんなに儲かっているのですか?」と言っても何も意味がないわけです。 反対に、会社全体としての業績は良くないのですが、業績の良い事業を買収して、売り手はその資金を基に、残っている会社(事業譲渡しなかった事業)を再生したいといった場合は、会社全体を見れば悪いに決まっているわけですので、「こんなに悪いのか」と考えても仕方がないのです。

 

 

ターゲットとなっているお店もしくは事業の財務状態や契約関連などを把握しなければならないわけです。そのようなことから、会社全体の財務数値を入手しても始まらないわけです。

 

 

むしろ売り手の方にとってみると、「売買の対象となっていないような事業の情報を、なんで買い手候補に出さなければいけないのか?」といった話になるわけです。そもそも会社全体は売り物でなく、会社のほんの一部が譲渡対象でしかないのに、「それ以外の情報をなぜ提供しなければならないのか?」というのは売り手の立場に立ってみれば当然のことになります。

 

 

買い手としては、譲渡対象外の情報も「提供してくれるなら欲しい」と言われる方も当然いるかと思いますが、「その情報をもらって何に使うのですか?」というところもあるわけです。お互いのメリット・デメリットのことを考えると、しっかりとフォーカスをして必要な情報を取っていくことを念頭に置いておかなければならないのです。

 

 

ですから、全社の数字がどうしても欲しいと、例えばM&Aの本に“M&Aをする際は、少なくとも全社の過去3年間分の決算書が必要”と書いてあったから「3年間分の全社の数字をください」と言っても意味がないわけです。譲渡の対象(ターゲット)となっている箇所(部門)の数字を見なければいけないということになります。

 

 

 

[一部譲受の売買金額のつけ方]

では、その一部の譲受(譲渡)の時の金額のつけ方についてですが、基本的に株式譲渡の場合と変わりません。ターゲットとなっている対象事業の財務諸表の数値をベースにバリュエーションを実施することになります。

 

 

 

これは中小企業の事例(案件)になると、実務的にネックになるところです。「部門別あるいはお店別の収支や財務状況をください」とお願いしても、現実問題として作成していない会社があります。先ほど、全社の数字を見ても仕方がないと言いましたが、全社の数字は年に1回税務申告をしなければいけないため、どの会社も基本的にはあります。しかし、対象となっている事業やお店の数字がないとなると基本的には諦めることになると思います。

 

 

 

どれくらい稼いているかさっぱり分からない、どのような資産を持っているかさっぱり分からない事業の買収は中々できません。ただし、それで諦めるのはもったいないというのであれば、我々はこのようなやり方を行います。

 

 

少なくとも売上に関しては実在していないと話になりませんので、過去の売上の実績がどれぐらいであったのかといったチェックをしてもらいます。これは財務デュー・ディリジェンスの一環でもありますが、それほど難しいことではないです。

 

 

売上が分からないのであれば、その案件は止めた方がよいかもしれません。売上が全く分からないというケースは殆んど無いので、「そのデータをベースに本当に入金されているのか?」を預金通帳などでチェックすればよいのです。そう考えればさほど難しくはないわけです。

 

 

 

では、売上だけしか分からなくて、「事業の譲渡ができるのか?」「価値の算定ができるのか?」という話ですが、買い手が買った後に「どのように経営をしていくのか?」ということを想定します。例えば、店舗を想像してもらえると分かるかもしれませんが、“意外と難しくない”のです。発生する経費と言えば賃料があります。あるいはスタッフの方の人件費、あとは店舗で使う消耗品類、あるいは飲食店などであれば部材や商材などがあると思います。あと水道光熱費など、その他もろもろです。

 

 

事業を買収した後に、「どんな経費が掛かるのか?」「どんなコストがかかるのか?」というのは意外とシミュレーションできるものなのです。自分が譲渡を受けた後に、「このような体制でやっていくのだ」と、数字もシミュレーションできるので、そのシミュレーションした数字をベースに金額を算出することが出来るわけです。

 

 

 

もちろん、売り手にとってはちゃんとした情報や数字を出し、自分たちが有利に交渉を進めるようにした方が良いに越したことはないですが、そうは言ってもそのような部門別の数字なんて今まで作ったことがない。そうなると、どうしても今回事業を売りたいというのであれば、買い手の立場に立って、協力してそのようなシミュレーションをすることもできます。

 

 

M&Aというのは多種多様の案件によって事情が異なりますので、「数字が出て こないので、情報が不足しているから買収は止めよう」というように考えるのでは少しもったいない案件もあります。必ずしも、このようなやり方で一部譲渡のM&A案件全てが上手くいくわけではないのですが、工夫の仕方によって、このようなことが出来るということを覚えて置いて頂きたいと思います。

 

 

 

事業譲渡契約は個別にリストアップしていきます。「これとこれとこれを下さい」「これとこれとこれを譲り渡します」といった契約になりますので、簿外債務を引き継ぐ必要がないのです。つまりはリスクが非常に低いのです。ただし、株式譲渡の場合は会社丸ごとになりますので、譲渡をしたときに気が付かなかった債務や負債を引き継ぐ可能性があります。事業譲渡にはそれがないので、財務のデュー・ディリジェンスについてもやり方次第では、かなりコストや工数も軽くなります。つまりは、コストや時間やリスクも取らずに、事業を譲渡することができるのです。

 

 

このようなやり方もあるのだということを皆さんには是非知っておいて頂きたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 


動画解説を見る(外部サイト)

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 


[質問]

非上場会社M社のオーナー社長A(持株比率100%)は、この度上場企業P社より、M社株式の全株購入(買収)を持ち掛けられ、提案を前向きに検討し、弁護士B及び公認会計士Cにその交渉支援、契約内容の法的チェック等を依頼することになりました。この場合の弁護士費用等は、株式譲渡に係る譲渡費用と解して問題ないでしょうか。

 

 

 

[回答]

所得税基本通達33-7は、譲渡費用の範囲について仲介手数料、運搬費等を例示したうえで「・・・当該譲渡のために直接要した費用」とする旨明らかにしております。

 

おたずねの弁護士費用等をA氏のM株式の譲渡に係る譲渡費用とすることができるかどうかもこの取扱いに照らし、M株式譲渡のために直接要した費用であるかどうかを検討しその可否を判断することになります。したがって、A氏がM株式の譲渡に当たりB弁護士およびC公認会計士に対して支払った費用をM株式の譲渡に係る譲渡費用に算入できるかどうかは、支払った費用別にそれぞれその支払いがM株式を譲渡するために直接要するものであったかどうかを検討してその可否を判断する必要があります。

 

国税庁のホームページの質疑応答事例によると、譲渡代金の取立てに要した弁護士費用や譲渡資産に係る訴訟に際し支払った弁護士費用については、いずれも譲渡に直接要した費用であるとは認められないので譲渡費用に該当しないと回答しております。

 

ご照会の事例の支払費用についても交渉支援、法的チェック等の詳細について検討したうえで、それらがM株式を譲渡するために欠かせないものであったかどうかにより譲渡費用に該当するかどうか判断すべきものと考えます。

 

株式の譲渡に備えて一般的な事項について関与を求めてその報酬として支払ったものであるとすると、それをM株式の譲渡費用に該当するとの結論には賛否両論があるのではないかと思われ、賛否のいずれによるかは当事者A氏の考えによることになるのではないかと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年10月7日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

【前提】

父(日本国籍・日本在住)が死亡しました。相続人である長男(日本国籍)は、仕事の関係で2年前から米国に住んでおり、日本の市区町村に住民登録はありません。父の財産は、すべて日本の国内財産であり、長男はそのうち1,500万円ほどを相続予定です。

 

〔Q〕日本の相続税法における納税義務者と課税財産の範囲について教えてください。

〔A〕日本の相続税法では、被相続人が日本国籍かつ日本在住であれば、相続人の国籍や居住地に関係なく、相続人は日本の無制限納税義務者となり、相続により取得した国内財産・国外財産すべてに対して、日本の相続税が課税されます。本問の場合、長男は、相続により取得した財産すべてに対して、日本の相続税が課税されます。

 

 

〔Q〕米国の連邦遺産税における納税義務者と課税財産の範囲について教えてください。

〔A〕米国の連邦遺産税では、被相続人が米国市民又は米国居住者でなければ、被相続人は米国の制限納税義務者となり、被相続人の財産のうち、米国国内にある財産のみに対して、連邦遺産税が課税されます。
本問の場合、被相続人である父の財産は日本国内にしかないということですので、米国で連邦遺産税が課税される財産はありません。

 

 

〔Q〕日本の相続税の申告をする上で相続人の住民票や印鑑証明が必要な場合、日本の市区町村に住民登録がない長男はどうすればよいですか?

〔A〕米国の日本大使館や領事館で、住民票に代わる書類として在留証明書の、印鑑証明に代わる書類として署名証明書の発行を受けることができます。
在留証明は、どこに住所を有しているかを証明するものです。また、署名証明は、領事の面前で行われた私文書上の署名が申請された本人のものであることを証明するものです。

 

 

〔Q〕米国の居住者である長男にとって、相続後に米国で必要となる手続はありますか?

〔A〕上述のとおり、本問の場合には連邦遺産税は課税されません。しかし、米国の居住者である長男には次のような報告義務があります。怠った場合のペナルティもあるため、提出を忘れないよう、留意が必要です
(出所:税理士法人タクトコンサルティング編『Q&A国際相続の実務と国外転出時課税』Q125日本法令)。

 

 

(1) IRSへ相続財産の報告


①報告(Form 3520)
米国の居住者は、米国の非居住外国人から年間10万ドルを超える財産を相続や贈与により取得した場合には、原則として翌年4月15日までに、IRS(米国内国歳入庁)へ報告しなければなりません。

 

②ペナルティ
無申告や期限後申告の場合には、1万ドル以下の罰金が科されることがあります。

 

 

(2) 米国財務省へ米国外金融資産の報告


①報告(FinCEN Form 114)
米国の居住者は、米国外にある金融資産の年度内最高残高が1万ドルを超える場合には、翌年4月15日までに、米国財務省へその情報を報告しなければなりません。

 

② ペナルティ
報告漏れが意図的でないと認められる場合には1万ドル以下の罰金が、意図的に隠ぺいしたと判断される場合には10万ドル又は総資産残高の50%の大きいほうの金額以下の罰金が科されることがあり、さらに刑事罰が適用されるケースもあります。

 

 

(3)IRSへ米国外金融資産の報告


①報告(Form 8938)
米国の居住者は、米国外にある金融資産の合計残高が年度内に7.5万ドル超又は年末に5万ドル超(夫婦合算申告の場合はそれぞれ倍額)である場合には、翌年4月15日までに、IRSへその情報を報告しなければなりません。

 

②ペナルティ
報告漏れがあった場合等には、6万ドル以下の罰金が科されることがあり、さらに刑事罰が適用されるケースもあります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/12/23)より転載

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第2回:売却したいけれどどうしたらいい?  -会社を売却すると決めたら-

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 


会社を売却することを決めて、買い手候補先を探す場合に、どういった先がよいでしょうか?

 

前章にあったように、懇意にしている取引先がいて、そこが買い手候補先となってくれるというようなケースは、事業の内容もよくわかっているでしょうし、従業員もあの取引先であればと安心するでしょう。

 

しかし、そのような身近なところに買い手候補先があるケースは稀です。そうなると、顧問税理士や取引銀行、またはM&A仲介会社等にある程度幅広く買い手候補を探してもらうことになります。その場合にまず聞かれるのが、どういった先に売却することが、会社として、または、会社オーナーとして望ましいと考えるか、ということです。

 

 

会社の事業を継続して従業員や取引先も今まで通りの関係を継続して、ということになると、同業者や近い事業をしている事業会社が望ましい、ということになります。その場合に、買い手候補先の規模が小さ過ぎたり、資金力がなかったり等、何らかの不安があるような会社であれば買い手候補先としては不十分となってしまうでしょう。

 

最近の傾向としては、資金力もあって事業運営もしっかりしていて、人材も経営資源も豊富な上場会社が、自社の事業と近い事業を営む会社を買収するということが多くなっています。ですので、まずは自社と近い事業を営んでいる上場会社(またはそれに準ずる企業)から探してみる、ということが最初に考えられるステップです。

 

 

また、事業会社ではないものの、近年は様々な企業を買収して、種々の施策を打ってより良い会社にしていくことを目的とするファンドに売却するケースも増えています。事業会社では事業面や資金面での様々な制約があって売買条件が納得いくものとはならないようなケースであっても、ファンドであればそのような制約を乗り越えて納得のいく条件を提示してくれる、というケースもあります。

 

また、一昔前までは、ファンドという響きに対してネガティブなイメージもありましたが、最近はファンドもM&Aの有力な受け皿であるということが一般的に認知されてきておりますし、ファンド自体もそういったイメージを払拭しようとしていますので、以前ほどファンドに売却することを躊躇うケースは減っているのではないかと思われます。

 

そのため、まずは同業や近い業種の比較的規模の大きな事業会社を買い手候補先として探しながら、条件次第ではファンドにも接触する、というようなケースが多く見受けられるようになってきています。

 

 

 

 

どちらに売却するにしても、売却する側としては、会社が将来に向かって発展していくことを望むでしょうから、買い手候補先の将来のビジョンや当該M&Aの目的について、きちんと説明を受けた上で、売却する相手先を決めることが必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第1回:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

~M&Aとは?M&Aの流れと専門家の役割とは?~

 

〈目次〉

1、M&Aとは?

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?

① 売手企業と買手企業のマッチング

② IM(Information Memorandum)の作成

③ 売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーショ

④ 株式譲渡契約の締結

3、まとめ

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士 氏家洋輔

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:中小企業のM&Aの売手の流れ、買手の流れとは?

▷関連記事:事業引継ぎ支援センターとは?どのような相談ができる?

 

1、M&Aとは?


M&A(Mergers and Acquisitions)にはいくつかの種類がありますが、大きくは「会社の全部を譲渡する方法」と「会社の一部だけを譲渡する方法」の2つの方法に分けることができます。

 

前者の会社の全部を譲渡するスキームには「株式譲渡」「株式交換・株式移転」「合併」があり、後者の会社の一部を譲渡するスキームには「会社分割」「事業譲渡」があります。

 

それぞれのスキームには特徴があり、M&Aの目的や事業遂行上の問題、それぞれの企業の置かれている状況等により最適なスキームは異なってくるため、スキームの検討は専門家を交えて慎重に行う必要があります。

 

最も一般的なスキームである株式譲渡のイメージを下記に示します。

 

 

 

 

 

株式譲渡の場合、一般的には買手企業の方が規模が大きいことが多いため、上図では売手企業よりも買手企業を大きく描いています。

 

買手企業が売手企業の株主へ現金等を支払い、売手企業の株主から売手企業の株式全てを取得します。その結果、売手企業は買手企業の100%子会社となり、売手企業の株主は現金等の対価を手にすることになります。

 

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?


①売手企業と買手企業のマッチング

一般的にM&AはFA(フィナンシャルアドバイザー)と呼ばれる専門家が関与します。

 

FAは、M&Aのマッチングからクロージングまで、売手企業又は買手企業(場合によっては双方)に対して、進め方のサポートや価格や条件面での交渉のアドバイス等を行う役割を担います。FAは様々な企業が行っており、M&Aの仲介会社はもとより、証券会社、投資銀行、銀行、コンサルティング会社、弁護士、公認会計士等が行います。

 

 

 

 

上図は、売手企業と買手企業の双方にFAがついている場合のイメージ図です。昨今では、投資先を探している企業が多く、売手企業に比べ買手企業が多いため、上図でも買手企業を3社としています。

 

FA(買手側)は買手企業A、買手企業B、買手企業Cとそれぞれアドバイザリー契約を結んでいて(結んでいない場合もあります)、FA(売手側)は売手企業の株主とアドバイザリー契約を結んでいることが一般的です。価格等を含む様々な条件により、買手企業と売手企業がマッチングしたら、基本合意契約を結びます。

 

 

②IM(Information Memorandum)の作成

売手企業と買手企業をマッチングさせ、プロセスをスムーズに進めるためにはIM(Information Memorandum)が必要になります。

 

売手企業がIMを作成することで、IMがない場合と比べて、買手企業は売手企業のことを短期間で深く理解することが可能となります。このIMの作成をサポートするのが、FAまたは財務等の専門家です。

 

財務等の専門家は、売手企業とアドバイザリー契約を結び、IMの作成支援を行います。財務等の専門家はIMの作成のみにとどまらず、売手企業の事業計画の策定支援や、株価上昇等のアドバイスを実施することもあります。

 

 

 

 

 

③売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーション

基本合意書を結んだ後、買手企業は売手企業を ①買うか買わないか、②買う場合、いくらで買うのか、③金額以外の条件はどうするか、④買収後の統合に向けた情報の整理等を検討します。

 

これらの検討は専門スキルが必要となるため、公認会計士、税理士および弁護士等が外部アドバイザーとして調査することが一般的です。

 

 

 

 

 

 

買手企業の財務等の専門家は買手企業と財務等アドバイザリー契約を結び、売手企業のデューデリジェンス、バリュエーション等を実施します。

 

買手企業の場合、M&Aが初めての会社もあれば毎月のようにM&Aを実施する会社もありますが、売手企業にとっては、財務デューデリジェンスの対象会社となることは、初めてのケースが多いです。

 

財務デューデリジェンスは専門的な調査を短期間で行うことが多く、売手企業にとっては大きな負担となります。そこで、売手企業の財務等の専門家がデューデリジェンスのサポートを行うことで、売手企業の負担を軽減することが可能となります。

 

さらに、M&Aの専門家である財務等の専門家がサポートを行うことで、買手企業の財務等の専門家とのコミュニケーションが円滑化され、買手売手双方にとってストレスを軽減し、スムーズにデューデリジェンスを完了することが可能となります。

 

 

④株式譲渡契約の締結

デューデリジェンスとバリュエーションの結果を受けて、買手企業と売手企業は最終の条件交渉を行い、双方合意すれば株式譲渡契約を締結します。

 

法務の専門家は契約書の作成や法律面でのアドバイスを、財務の専門家は金額等の財務面にかかる契約条件等のアドバイスを行います。

 

 

3、まとめ


以上のように、M&AではFAや財務の専門家、法律の専門家等様々な専門家が関与して多面的なサポートを行います。

 

特に中小零細企業では、M&A自体初めてのことも多く、たとえ案件規模がそれほど大きくなかった場合であっても、専門家の幅広いサポートが必要となることが多いです。また一定規模以上の会社では、専門家が社内にいる場合もありますが、M&Aをより成功に導くために、多くの社外専門家と上手く連携しM&Aをすすめてくことが重要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

速報!令和2年度税制改正案 ~大綱に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

【土地・住宅税制(所得税・登録免許税・印紙税)】

《「令和2年度税制改正大綱」P33~34、27~28、29、50、52》改正案


1.国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例【創設】

(1)個人が令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合に、その年分の不動産所得の金額の計算上、国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用において生じなかったものとみなされる。

 

(注1)「国外中古建物」とは、個人において使用され又は法人において事業の用に供された国外にある建物であって、個人が取得してその個人の不動産所得を生ずべき業務の用に供したもののうち、不動産所得の金額の計算上その建物の償却費として必要経費に算入する額を計算する際の耐用年数を、次の方法により算定しているものをいう。

 

①法定耐用年数の全部を経過した資産について、その法定耐用年数の20%に相当する年数を耐用年数とする方法。

 

②法定耐用年数の一部を経過した資産について、その資産の法定耐用年数から経過年数を控除した年数に、経過年数の20%に相当する年数を加算した年数を耐用年数とする方法。

 

③その用に供した時以後の使用可能期間の年数を耐用年数とする方法(使用可能期間の年数が適切であることを証する一定の書類の添付がある場合を除く)。

 

(注2)「国外不動産所得の損失の金額」とは、不動産所得の金額の計算上生じた国外中古建物の貸付けによる損失の金額(その国外中古建物以外の国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額がある場合は、その損失の金額をその国外にある不動産等から生ずる不動産所得の金額の計算上控除してもなお控除しきれない金額)をいう。

 

 

(2)上記(1)の適用を受けた国外中古建物を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算上、その取得費から控除する償却費の額の累計額からは、上記(1)によりなかったものとみなされた償却費に相当する部分の金額が除かれる。

 

 

2.配偶者居住権の消滅等に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費【整備】

(1)配偶者居住権及び又は配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地等を配偶者居住権に基づき使用する権利(以下「配偶者敷地利用権」)が消滅等し、その消滅等に係る対価の支払を受ける場合には、その対価の額に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、次の算式により計算される。

 

(算式)被相続人に係る配偶者居住権の目的となっている建物又はその建物の敷地の用に供される土地等(以下「居住建物等」)の取得費*1×配偶者居住権等割合*2-配偶者居住権の設定から消滅等までの期間に係る減価の額

 

*1 建物の取得費については、その取得の日からその消滅等の日までの期間に係る減価の額を控除する。
*2 配偶者居住権等割合=その配偶者居住権の設定時における配偶者居住権又は配偶者敷地利用権の価額に相当する金額÷居住建物等の価額に相当する金額

 

 

(2)相続により居住建物等を取得した相続人が、配偶者居住権及び配偶者敷地利用権が消滅する前にその居住建物等を譲渡した場合において、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、その居住建物等の取得費から配偶者居住権又は配偶者敷地利用権の取得費を控除した金額とされる。

 

(注)上記の居住建物等のうち建物の取得費については、その取得の日から譲渡の日までの期間に係る減価の額を控除することとし、上記の配偶者居住権又は配偶者敷地利用権の取得費については、その配偶者居住権の設定の日から譲渡の日までの期間に係る減価の額を控除する。

 

 

3.居住用財産の譲渡に係る譲渡所得の特例【適用期限の延長・見直し】

(1)①特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期譲渡所得の課税の特例、②居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除等及び③特定居住用財産の讓渡損失の繰越控除等の適用期限が、それぞれ2年延長される。

 

 

(2)住宅の取得等をした家屋(以下「新規住宅」)をその居住の用に供した個人が、その居住の用に供した日のする年から3年目に該当する年中に新規住宅及びその敷地の用に供されている土地等以外の資産の譲渡(以下「従前住宅等の譲渡」)をした場合に、その者が従前住宅等の譲渡につき次に掲げる特例の適用を受けるときは、新規住宅について、所得税の住宅借入金等特別控除等の適用を受けることができない。

 

①居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
②居住用財産の譲渡所得の特別控除
③特定の居住用財産の買換え及び交換の場合の長期渡所得の課税の特例
④既成市街地等内の土地等の中高層耐火建築物等の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例

 

(注)上記の改正は、令和2年4月1日以後に従前住宅等の譲渡をする場合について適用される。

 

 

4.登録免許税・印紙税の特例【適用期限の延長】

(1)住宅用家屋の所有権保存登記等に係る登録免許税の税率の特例の適用期限が、令和4年3月31日まで2年延長される。

 

(2)不動産の譲渡に関する契約書等に係る印紙税の税率の特例の適用期限が、令和4年3月31日まで2年延長される。

 

【消費税】

《令和2年度税制改正大綱」P84~85、82》改正案


1.居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等【見直し】

(1)住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの(以下「居住用賃貸建物」)の課税仕入れについては、仕入税額控除制度の適用が認められない。ただし、居住用賃貸建物のうち、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については、引き続き仕入税額控除制度の対象とされる。

 

(注)高額特定資産とは一取引単位につき支払対価の額が税抜1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいう。

 

 

(2)上記(1)により仕入税額控除制度の適用を認めないこととされた居住用賃貸建物について、その仕入れの日から同日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間の末日までの間に住宅の貸付け以外の貸付けの用に供した場合又は譲渡した場合には、それまでの居住用賃貸建物の貸付け及び譲渡の対価の額を基礎として計算した額を、その課税期間又は譲渡した日の属する課税期間の仕入控除税額に加算して調整が行われる。

 

 

2.住宅の貸付けに係る消費税の非課税【見直し】

契約において貸付けに係る用途が明らかにされていない場合であっても、その貸付けの用に供する建物の状況等から人の居住の用に供することが明らかな貸付けについては、消費税は非課税とされる。

 

 

3.高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度【見直し】

適用を制限する措置の対象に、高額特定資産である棚卸資産が納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚資産に係る消費税額の調整措置(以下「棚卸卸産の調整措置」)の適用を受けた場合が追加される。

 

(注)上記1の改正は令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について、上記2の改正は同年4月1日以後に行われる貸付けについて、上記3の改正は同日以後に棚卸資産の調整措置の適用を受けた場合について、それぞれ適用される。ただし上記1の改正は、同年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には、適用されない。

 

 

4.法人に係る消費税の申告期限の特例【創設】

法人税の確定申告書の提出期限の延長の特例の適用を受ける法人が、消費税の確定申告書の提出期限を延長する旨の届出書を提出した場合には、その提出をした日の属する事業年度以後の各事業年度の末日の属する課税期間に係る消費税の確定申告書の提出期限が1ヶ月延長される。

 

(注)上記4の改正は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用される。なお上記提出期限が延長された期間の消費税の納付は、その延長された期間に係る利子税を併せて納付する必要がある。

 

 

【その他 (法人税・相続税・贈与税・国外財産調書等)】

《「令和2年度税制改正大綱」P76、50、94~96、93》


1. 法人の長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えの特例【適用期限の延長・見直し】

買換資産から鉄道事業用車両運搬具を除外し、所要の経過措置が講じられた上で、その適用期限が令和5年3月31日まで3年延長される。

 

 

2.医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等【適用期限の延長】

良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律の改正を前提に、医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予制度等の適用期限が令和5年9月30日まで3年延長される。

 

 

3.国外財産調書制度等【見直し等】

(1)相続国外財産に係る相続直後の国外財産調書への記載の見直し等

相続開始年の12月31日においてその有する国外財産に係る国外財産調書については、その相続又は遺贈により取得した国外財産(以下「相続国外財産」)を記載しないで提出することができる。この場合において、国外財産調書の提出義務については、国外財産の価額の合計額からその相続国外財産の価額の合計額を除外して判定する。

 

なお上記の取扱いは、財産債務調書における相続又は遺贈により取得した財産(以下「相続財産」)も同様とされる。

 

(注)上記の改正は、令和2年分以後の国外財産調書又は財産債務調書について適用される。

 

(2)国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置の見直し

①国外財産調書の提出がない場合等の過少申告加算税等の加重措置(以下「加算税の加重措置」)の適用対象に、相続国外財産に対する相続税に関し修正申告等があった場合が追加される。

 

②その年の12月31日において相続国外財産を有する者の責めに帰すべき事由がなく、提出期限内に国外財産調書の提出がない場合や、国外財産調書に記載すべき相続国外財産の記載がない場合(記載不備を含む)には、原則として加算税の加重措置は適用されない。(財産債務調書における相続財産についても同様とされる)。

 

(3)国外財産調書に記載すべき国外財産に関する書類の提示等がない場合の加算税の軽減・加重措置の特例の創設

国外財産を有する者が、国税庁職員から国外財産調書に記載すべき国外財産の取得、運用又は処分等に係る書類のうち、その者が通常保存し、又は取得することができると認められるものの提示又は提出を求められた場合において、その提示等を求められた日から一定の日までにその提示等をしなかったときは、原則として①その国外財産に係る加算税の軽減措置は適用せず、②その国外財産に係る加算税の加重措置については、その加算する割合が10%*(適用前加算割合:5%)とされる。

*上記(2)②に該当する場合には、その加算する割合が5%(適用前加算割合:なし)とされる。

 

(注)上記の改正は、令和2年分以後の所得税又は令和2年4月1日以後に相続若しくは遺贈により取得する財産に係る相続税について適用される。

 

 

4.納税地の異動があった場合の振替納税手続の簡素化【見直し】

個人が令和3年1月1日以後に提出する納税地の異動届出書等について、「振替納税を行う個人が他の税務署管内へ納税地を異動した場合には、異動後も従前の金融機関の口座から振替納税を行う」旨をその異動届出書等に記載したときは、異動後の所轄税務署長に対してする申告等について振替納税を引き続き行うことが可能とされる。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/12/16)より転載