[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

東京都家賃等支援給付金 ~国の家賃支援給付金とは別に、東京都で独自の家賃支援等給付金の制度があります~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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国の家賃支援給付金とは別に、東京都で独自の家賃支援等給付金の制度があります。国の家賃支援給付金は受給したものの、東京都の家賃支援等給付金の存在を知らず、申し込んでいない事業者が多いため改めて制度の説明をさせていただきます。

 

■制度概要

事業者における家賃等の負担を軽減し、事業の継続を下支えするため、国の家賃支援給付金に東京都が独自の上乗せ給付(3 か月分)を実施します。ただし、都の給付金は都内の物件の家賃等を対象としており、都外の物件の家賃等は、対象となりません。

 

「東京都家賃等支援給付金」の申請には、国の「家賃支援給付金」の給付通知を受けていることが必要です。まずは、国へ「家賃支援給付金」を申請し、国から給付通知を受けた後に、「東京都家賃等支援給付金」を申請する必要があります。なお、「東京都家賃等支援給付金」は都内の物件の家賃等を対象となる点留意が必要です。

 

 

■支援対象者

東京都家賃等支援給付金の申請要件は、次の全ての要件を満たす事業者となります。

 

●国の家賃支援給付金の給付通知を受けていること

●都内に本店または支店等のある中小企業等又は個人事業主であること

●都内の土地又は建物において、自らの事業のために他人の所有する土地又は建物を直接占有し、使用及び収益をしていることの対価として、家賃等の支払いを行っていること。

 

 

■給付額

給付額 = 基準額 × 給付率 × 3か月分

 

基準額とは国の家賃支援給付金の対象となった都内物件の家賃等の総額(月額)を言います。給付率は以下の算定方法となります。

 

 

【中小企業等】

(75万円以下)

Ⓐ基準額×給付率(1/12)×3

※最大給付額は187,500円となります。

 

(75万円超)

Ⓐ+{(基準額-750,000)×給付率(1/24)}×3

※最大給付額は375,000円となります。

 

 

出所:東京都

 

 

 

【個人事業主】

(37万5千円以下)

Ⓐ基準額×給付率(1/12)×3

※最大給付額は93,750円となります。

 

(37万5千円以下)

Ⓐ+{(基準額-375,000)×給付率(1/24)}×3

※最大給付額は187,500円となります。

 

 

出所:東京都

 

 

 

なお、制度の詳細については以下の東京都のwebサイト等でご確認ください。

https://tokyoyachin.metro.tokyo.lg.jp/

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第5回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】

~運転資本の分析、固定資産・設備投資の分析~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

▷第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

 

 

財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】


1、運転資本の分析

運転資本分析の主な目的は、対象会社の①短期的な資金的側面を把握すること、および、②事業計画上の必要な運転資本を把握することです。

 

運転資本は一般的に、売上債権、棚卸資産、仕入債務、前払金、未払費用、その他流動資産、その他流動負債等が含められますが、ネットデットの調整項目としていない貸借対照表の勘定科目を運転資本に含めるかどうかは慎重に検討する必要があります。

 

運転資本の増減がキャッシュフローに与える影響は重要であることが多いため、少なくとも数期間の分析を行うことが有用です。運転資本の増減は、売上高や売上原価(仕入)がドライバーとなることが一般的ですが、それ以外のドライバーの有無を理解することも必要となります。

 

 

①短期的な資金的側面の把握

対象会社の運転資本の金額および運転資本回転期間の水準を把握します。例えば、運転資本がプラスである場合は売上が増加する局面では運転資本が増加するため追加の資金が必要となります。

 

また、下図のように月次で運転資本の増減があるような場合には、年間の変動トレンドや必要額を把握することで対象会社の運営上必要な資金水準を把握することができます。

 

 

 

さらに、月次での運転資本の変動が大きい場合、評価対象時点とM&Aのクロージング時点がどの水準なのかを正確に把握する必要があります。一般的にバリュエーションは評価対象時点の運転資本の水準で行うため、評価対象時点とクロージング時点の運転資本が大きく異なる場合、追加の資金が必要となる場合があります。

 

例えば、評価対象時点がx4/3月末でクロージング予定がx4/11月とします。X4/3月の運転資本は500百万円ですが、11月の運転資本は毎年小さくなることが過去のトレンドから把握可能ですので、x4/11月の運転資本も小さくなることが想定されます。X3/11月の水準であれば250百万円であり、x4/3月と比較して250百万円少なくなります。クロージング予定のx4/11月の翌月は12月であり、毎期運転資本が大きく1,200百万円程度となることが想定され、クロージング後すぐに250百万円との差額の950百万円の追加の運転資本が必要となることが想定されます。

 

そのため、対象会社の基準運転資本残高について、売手と買手の間で協議し、株式譲渡契約書に記載することが考えられます。

 

 

②事業計画上の必要な運転資本

事業計画上の必要運転資本残高を把握するために、過年度の運転資本を分析します。

 

 

 

運転資本項目を特定した上で、過年度の正常運転資本としての調整後運転資本を把握します。事業計画上の運転資本残高は売上高等に対する回転期間で見積もられることが一般的ですが、滞留等の異常な残高が含まれた運転資本の回転期間で将来の残高を見積もると誤った運転資本の金額となります。

 

売上債権では、滞留債権の内容を確認して、長期滞留している残高の有無、回収可能性、回転期間分析による異常値、それらの会計処理等を分析し、異常な残高があれば除外します。また、手形の割引やファクタリング等をしている場合もそれらによる影響を除外する必要があります。さらに、月末が休日等の年度があれば、入金のタイミングがずれることで残高が通常よりも少なくなることがあるため、それらの異常値も除外して検討する必要があります。

 

棚卸資産では、滞留在庫の内容を確認して、長期滞留している残高の有無、販売可能性、回転期間分析による異常値、それらの会計処理等を分析し、評価替えの必要性等を検討します。筆者の経験上、棚卸資産は利益操作のため過大計上による不適切会計が行われやすい勘定科目であるため、棚卸資産の金額水準については特に慎重に検討を行う必要があります。

 

仕入債務では、売上債権と同様に滞留債務の有無を確認し、長期滞留している残高の有無、支払可能性、回転期間分析による異常値、それらの会計処理等を分析し、異常な残高があれば理由を確認の上、除外する調整を行います。また、売上債権と同様に月末が休日等の年度があれば、支払いのタイミングがずれることで残高が通常よりも多くなることがあるため、それらの異常値も除外して検討する必要があります。

 

その他の残高では、他の分析と同様に、推移分析、滞留分析、会計処理の確認等を行い、異常な残高があればそれらを除外する調整を行います。

 

また、各運転資本残高の項目について、合計額だけではなく明細を把握し、少なくとも主要な残高については個別に締め日、支払日等のリードタイムを把握しておく必要があります。M&A成立後に、特定の得意先への販売、特定の仕入先からの仕入、特定の商品の販売等を増加、減少させる計画である場合、それらの運転資本の回転期間が他の運転資本と異なる場合は、全体としての運転資本の回転期間に影響を及ぼす場合があるためです。

 

 

2、固定資産・設備投資の分析

固定資産・設備投資の分析の主な目的は、対象会社の過去の設備投資実績および維持費用の水準の把握および事業計画上の必要な設備投資水準の把握です。

 

 

 

 

過年度に行われた投資実績および設備の維持費用の金額を把握して、必要以上に設備投資が抑制されていないかを把握します。M&Aに先立って設備投資を抑制し見た目のフリーキャッシュフローを高く見せることが行われる可能性があるためです。また、過去に作成した設備投資計画や設備予算等があればそれを入手し、計画と実績の比較を行い、必要以上の設備投資の抑制が行われていないかを検討します。

 

過年度の設備投資の金額と売上高とを比較することで、売上計画を実現するためにどの程度の設備投資が必要なのかの参考値として有用です。また、過年度の設備投資の金額と減価償却費とを比較することで、設備を維持するのに十分であったかを検討する参考値として有用です。

 

また、設備投資を維持更新投資と新規投資とに区分して把握することが有用です。維持管理に必要な設備投資は、現状の生産能力を維持するために必要な支出額で、新規投資による設備投資は、生産能力の拡大や効率化等にかかる支出額です。これらを区分して把握することで、将来において生産能力の維持を目的とした必要最低限の投資額の参考値が理解でき、買手側での新たな設備投資の検討にも有用となります。

 

固定資産の残高の分析は、主にネットデット項目の有無の把握、バリュエーションで純資産法を採用する場合は純資産に影響を与える項目の把握が目的となります。固定資産を事業用資産と非事業用資産とを区分して把握する必要があります。遊休資産を含む非事業用資産はM&Aの成立後売却が想定されるため、金額が重要な場合は買手とディスカッションの上、不動産鑑定評価書を取得する等して時価を把握する必要があります。また、所有不動産を店舗等で使用しており、当該店舗が赤字の場合には減損の検討が必要となる場合もあるため留意が必要です。

 

固定資産をリースしている場合には、それらがファイナンス・リースかオペレーティングリースかを把握し、ファイナンス・リースの場合は、貸借対照表にオンバランスされているかを確認します。オンバランスされていない場合は、リース債務を把握する必要があり、ネットデットでの調整項目とするかを検討します。オペレーティングリースの場合であってもリース債務残高を把握し、ネットデットの調整項目とするかを検討します。

 

無形固定資産に計上される資産は権利関係やソフトウェア等で、経済的価値は契約内容や事実関係により大きく変化し、売手企業にとっては価値を有していた無形固定資産も買手企業にとっては無価値となることもあります。そのため、無形固定資産が買手企業にとって有用であるのか、不要である場合に売却は可能であるか等検討をする必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第1回:取引先に知られないように会社を譲渡することはできますか?

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

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Q.取引先に知られないように会社を譲渡することはできますか?

光学機器関連の製造業を営んでいます。私どもの業種は専門性が高く、市場が狭い技術分野ですので、信頼できる従業員達や取引先の仲間としっかりと協力し合って成長してきました。ただ、私も高齢になり、健康に不安を感じるようになってきました。妻や子どもからも「いつまで経営を続けるのか」「健康を害したり、事故にあったりするなど、何かが起こってからでは遅い」などと言われ、事業承継を考えるようになりました。親族に後継者の候補がいないので、良い経営者に会社を譲渡できればと思っています。

 

しかし、一つ難点があります。我々の業界は、狭い市場で複数社がしのぎを削っている状況です。私自身が弊社の信用になっているところがあり、取引先も「Tさんがいるので」と言って委託してくれています。考えすぎかもしれませんが、私が急に経営から降りると業績悪化要因になりかねません。取引先に知られないように、スムーズに会社を譲渡することはできないでしょうか。

 

(埼玉県 光学機器部品製造業代表取締役 Tさん)

 

 

A.可能ですが、いずれ取引先に告知する必要があります。

Tさんが希望されるように、取引先に知られないようにM&Aを進めること自体は可能です。また、M&Aで最も多く活用されている株式譲渡という手法は、株主が変わるだけですので、対外的には目立った変化がないように見えます。

 

ただし、実際のM&Aでは取引先を引き継げるかどうかが、事業を続けるうえで重要なポイントとなります。このため重要な取引先には、契約締結前や契約締結後、すぐに説明に行くケースが多いです(※)。また、会社を譲渡した経営者が代表権のない会長や顧問に就任する場合もあります。例えば1年間というふうに一定期間、会社に残って経営に関与する条件で、M&Aをするというやり方です。その間に取引先への告知、新社長への引き継ぎなどを、一定の時間をかけながら行うこともできます。いずれにしても、いつかは取引先に会社を譲渡することについて告知しなくてはなりません。もちろん取引先への告知のタイミングや方法等には細心の注意を払い、トラブル等を避ける必要があります。まずはM&Aの専門家にご相談されることをお勧めします。

 

※取引先との契約で、株主が変更する場合に事前に了承を得る条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が付されている場合には、例外的に事前に了承を得る必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(廣瀬 理佐/税理士)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

 

1.特定事業用宅地等


小規模宅地等の評価減の特例の対象となる宅地等のうち「特定事業用宅地等」とは、被相続人等の事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等で、相続又は遺贈によりその宅地等を取得した親族がその事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き保有し、事業を継続していた場合が該当します。
では、相続税の申告期限までの間に転業した場合はどうなるでしょうか。

 

2.被相続人の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース1>

被相続人甲が相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいた宅地を相続人Aが相続し事業を引き継ぎましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得した親族が、①相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等の上で営まれていた「被相続人の事業」を引き継ぎ、かつ、相続税の申告期限まで引き続き「その事業」を営んでいること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース1>では甲の営んでいた事業(飲食業)は継続されておらず①の要件を満たさないので、特定事業用宅地等には該当しません。

 

 

3.生計一親族の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース2>

被相続人甲の所有する宅地で、甲と生計を一にする相続人Bが相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいました。この宅地をBが相続しましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得したその親族が、①相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を「自己の事業」の用に供していること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース2>では生計一親族であるBは、甲の生前中から営んでいた事業(飲食業)は廃業しましたが、その後自己の新たな事業として小売業を営んでいます。「自己の事業」の用に供している、という上記①の要件(及び②の要件)は転業後も満たしているので特定事業用宅地等に該当します。

 

4.「事業継続要件」


<ケース1>のように被相続人が事業を営んでいた宅地等の場合は、被相続人の事業を全部廃業又は全部転業してしまうと「被相続人の事業」を引き続き営んでいないことから特定事業用宅地等に該当しないことになります。なお、被相続人が営んでいた複数の事業のうちの一部の事業を廃業した場合であれば、廃業しなかった事業に係る敷地部分については特定事業用宅地等に該当します。また、転業が事業の一部であり、被相続人の事業と転業後の事業の双方を相続税の申告期限まで営んでいる場合には転業部分に係る敷地を含めて全体を特定事業用宅地等と扱います。

 

一方、<ケース2>のように被相続人と生計を一にする親族が事業を営んでいた宅地等の場合は、申告期限まで引き続きその親族の「自己の事業」の用に供していればよく、相続開始前に行なっていた事業と同一の事業であることは要件とされていません。

 

5.不動産貸付業に転業した場合


ただし、転業後の「事業」に不動産貸付業等は含まれません。飲食業を営んでいた生計一親族が相続税の申告期限までの間に店をやめ、そこを貸店舗としてテナントに賃貸した場合は、その不動産貸付業に該当する部分については事業継続要件を満たさなくなり、特定事業用宅地等に該当しないことになります。

 

〇飲食業➡小売業 事業継続要件を満たす
×飲食業➡不動産貸付業 事業継続要件を満たさない

 

同様に、被相続人の事業の用に供されていた宅地等の場合における事業の一部転業が不動産貸付業への転業であった場合にはその部分については特定事業用宅地等に該当しません。

 

この不動産貸付業に係る部分については、被相続人が相続開始前に営んでいた不動産貸付業をその親族が引き継いだものではないので、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の評価減の適用が受けられることになるわけでもありません。(租税特別措置法69条の4第3項1号、4号、租税特別措置法通達69の4-16)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/10/12)より転載

[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第4回:M&Aの流れ(計画段階)

~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

全体像

計画段階

1.戦略は明確に

2.ターゲット会社を見つけよう

 

 

▷第1回:なぜ「会社を買う」のか~買う側の理由、売る側の理由~

▷第2回:どのようにM&Aを行うのか~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

▷第3回:M&A手法の選び方~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

 

 

M&Aの流れ(全体像)

本稿では皆様に分かりやすいよう、M&Aを「計画段階」「実行段階」の大きく2段階に分けています。

M&Aは多くのステップを踏み、分かりにくい部分も多いです。一方、M&Aに限らずどんな仕事であっても計画して実行するという流れを踏みますね。そのため、大まかに「計画段階」と「実行段階」で分けています。

 

そして、計画段階を「M&Aの戦略決定」「ターゲット会社の選定」、実行段階を「ターゲット会社への接触」「相手会社の詳細調査」「詳細の合意」と全部で5ステップのみにしました。重要なセンテンスを抜粋して全体感をご説明しますので、M&Aの一連の流れについて少しでも具体的になっていただけると幸いです。

 

 

 

M&Aの流れ(計画段階)

1. 戦略は明確に

まずは計画段階から見ていきましょう。初めにM&Aの戦略を定めます。M&A成功のためには、この戦略策定が非常に重要となります。会社は経営課題を見直し、より成長するためのM&A戦略を立てます。第1回で書いたようにM&Aはあくまで「実現したいゴール」に辿り着く手法の1つであるため、会社が目指す理想と、M&A戦略がいかに一致しているかが成功の鍵となります。

 

<Step1は、M&Aの戦略を決めること>

 

 

 

家電が欲しいと思って八百屋に行くことはありませんよね。野菜や果物が欲しければ八百屋に行くし、家電が欲しければ家電量販店に行く、M&Aでも同じことが言えるわけです。会社の課題について「家電が必要」なのか「野菜が必要」なのかを見極め、適切な計画を立てないと、見当違いの会社を買ったり事業を売ったりしてしまいます。

 

 

買い手会社におけるM&Aの戦略は大きく2つに分かれます。

●経営戦略に合致した会社や事業の買収

●投資による対象会社価値の増大

 

 

前者は通常の一般事業会社が良く取る戦略です。自社の経営戦略に照らし合わせて、足りない部分はどこか、どのように補えば拡大していくことができるかを考え、M&Aの戦略を組み立てていきます。

 

一方後者は投資ファンドが良く取る戦略です。例えば経営が傾いている会社をどのように探し、どのように投資し、どのようの経営を立て直すかといった戦略です。

 

 

 

2. ターゲット会社を見つけよう

戦略が決まったら、次は戦略に合致する会社を見つけます。M&Aにおいては、まず広範囲の条件で会社をリストアップし、徐々に詳細な条件により絞り込んでいく選び方(スクリーニング)をすることが一般的です。

 

<Step2は、ターゲット会社を選ぶこと>

 

 

例えば相手会社の規模・収益性・成長性といった数値に表すことができる条件でまず会社を広範囲にリストアップします。その後相手会社の経営方針や経営者の意向、組織文化といった数値化が難しい条件で候補を絞っていくやり方があります。

 

文章を見ただけでも大変な作業であることが分かりますね。そのため複数の案件を抱えている専門の仲介会社に依頼をするケースや、仲介会社が案件を持ってくるケースもよく見られます。

 

 

 

 

[計画段階のPoint]

M&A成功のためには、自社の経営課題に沿った戦略策定が重要!

 

 

 

 

≪Column:投資ファンドとは??≫


「投資ファンド」という言葉に耳馴染みの無い方や、あってもハゲタカのようにあまり良いとは言えない印象を持つ方が多いと思います。しかし、多くの方から投資目的で資金を集め運用していく仕組みのことを「投資ファンド」と言うので、一口に投資ファンドと言っても多種多様なプレイヤーがいます。

 

余剰資金を活かして株式・社債等に投資することはよく行われていますし、皆様がよく投資をしている投資信託も広義には投資ファンドと言えるでしょう。

 

そして、投資対象が「会社」になると、M&Aに登場するような投資ファンドになります。このような投資ファンドは多くの場合経営に参画し、会社の業績を上げることで企業価値を高めていくことになります。

 


 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「事業を譲り受けた場合に営業権の計上について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

■【Q&A】のれんの税務上の取扱い

 

 

 


[質問]

下記の場合の営業権の考え方についてご教示ください。

 

1. 前提
A社:株主Bが100%保有
C社:株主Bが100%保有

他にも株主Bが保有する会社が数社あります。
業種は小売業で多数店舗展開しています。
C社は毎期500万円前後の経常利益を計上しています。

 

2. 店舗の譲渡を検討
今回、C社の保有している店舗をすべて(2店舗)A社に譲渡することにしました。これはA社とC社は営業地域(関西)が同じ場所にあるからであり、譲渡後C社は清算する予定です。

 

3. 営業権の計上の可否
A社・C社は株主が同一のため計上は必要ないと考えています。

 

 

[回答]

【結論】
黒字の店舗の事業譲渡を受ける場合において、それが適格組織再編によるものでないときは、原則として営業権(創設営業権を含む)の計上が必要であると考えられます。

 

なお、その黒字店舗の譲受後の事業に係る見込み利益について黒字が見込めない等その営業権に価値がないとすることに合理的な理由がある場合には、その限りではありません。

 

仮に、有償性のある営業権を無償で譲り受けた場合には、C社において受贈益を計上する必要があることを申し添えます。

 

※ グループ税制の受贈益の益金不算入規定は、本件のような個人Bによる完全支配関係のような法人による完全支配関係に該当しない関係の場合には、適用されません(法人税法25条の2第1項)。

 

 

【理由】
事業を譲り受けた場合に関して、法人税法62条の8第1項において、事業譲受けに係る対価が、その譲り受けた事業に係る時価純資産(資産(営業権にあっては、一定のものに限る。)時価から負債の時価を控除した金額)の価額を超える場合には、その超える部分の金額は、原則として資産調整勘定の金額とする旨の規定が置かれています。

 

なお、ここでいう営業権は、他人間で取引する場合に有償で取引されるようなものをいう旨が法人税法施行令第123条の10第3項に規定されています。つまり、有償性のある営業権は、時価純資産に含まれること、換言すれば、資産として認識することが予定されていると解されます。

 

この規定は、取引当事者の株主が同一である(完全支配関係がある)場合にも適用されます。

 

さらに、取引当事者であるA社とC社との間には、株主Bを同一者とする完全支配関係があるとのことですので、参考に次の点も確認することとします。

 

 

1 グループ税制(法人税法第61条の13、法人税法施行令第122条の14第1項)
完全支配関係のある法人間で譲渡損益調整資産を譲渡した場合には、その譲渡による譲渡損益は繰延されることとされています。

 

ご照会の営業権は創設営業であると思料されるため、帳簿価額が0であると想定され、帳簿価額が1,000万円に満たないため、譲渡損益調整資産に該当しないこととなりますので、譲渡損益の計上が必要となります。

 

 

2 組織再編税制(適格合併)(法人税法第62条の2)
完全支配関係のある法人間で適格合併が行われた場合には、その合併により移転した資産及び負債は合併直前の被合併法人の帳簿価額で引継ぎをしたものとする旨が規定されています。

 

したがって、本件の事業譲渡が適格合併により行われたものとした場合には、被合併法人において営業権の帳簿価額が0であれば、引継ぎを受けた法人において営業権を計上する必要がないこととなります。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第5回:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

~特有の規制は?設備投資は?スキームは?バリュエーションは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「情報通信(IT)業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、医療業界のM&Aを検討していますが、医療業界M&Aの特徴や留意点はありますか?


他業界と比較した医療業界の特徴は公益性が非常に高く、そのため規制が多いことです。

 

規制産業であることで、医業収益を制約する項目が存在します。例えば、病院の開設・増床をするためには、その開設地域における都道府県知事等の許可が必要となります。開設・増床しようとする地域の既存病床数が、医療計画が定める基準病床数を上回っている場合、都道府県知事等は新たな病院開設・増床を認めないことが可能です。つまり、病院側が増床を行いたくても、認められない可能性があります。

 

製造業であれば、会社の規模の拡大には工場の設備投資を行うことが一般的ですが、病院の場合、上述のように病床を増やすことは地域によっては難しい場合があります。そのため、病院の規模拡大を行う場合は、M&Aを活用して他の病院を買収し病床を増やすことが必要となる点が医業業界のM&Aの特徴となります。

 

 

また、保険診療に係る各診療行為には、その報酬金額算定のための点数(1点10円換算)が定められています。これによって、同じ条件で保険診療を行う限りは、どの医師が診療を行ったとしても、その医業収益は同じ金額となります。つまり、保険診療を行う限りは、医師1人当たりの医業収益の上限がある程度決まります。

 

さらに、病床数により、医師やコ・メディカル(看護師や薬剤師等)の必要な配置基準が定められています。例えば、一般病床であれば病床数に対して、医師は16:1、看護師は3:1等の基準です。一般企業では人員を削減して効率的な経営を行ったとしても特に問題とはなりませんが、医療業界では人員数を削減して配置基準を下回った場合には、医療法に反することとなり、診療点数が減算されるため医業収益が減少することとなります。そのため、有資格者の一定数の確保が必要となり、労働集約型である医療法人にとって人件費は最も大きい費用ですが、思うように下げられないという特徴があります。一方で、従前より看護師等の不足が医療業界の問題となっていますが、看護師を確保できない事により、配置基準を達成できないという問題を抱える医療法人も少なくありません。

 

 

他にも、医療業界の特徴として、診察室、手術室、処置室、病室、その他医療提供に必要となる各種設備・施設を設ける必要があります。これらの設備については、安全上、衛生上、防火上、療養環境上など様々な視点で規定が定められており、設備基準を満たすために設備投資の金額も多額になることが一般的です。

 

 

ところが、資金繰り等の理由で設備投資を後ろ倒しにしていることがあります。このような場合は、M&A実施後多額の設備投資が必要になる可能性があるため、M&Aを検討する場合には、設備投資を実施しておらず設備が老朽化していないかについて確認する必要があります。M&A実施後に設備投資が必要な場合は、設備投資に必要な金額を譲渡価格から減額する等の交渉をすることを検討しましょう。

 

 

医療法人は株式会社とは異なり、その多くは持ち分の定めのある社団法人であり、機関設計が異なります。株式会社では株主総会が最高意思決定機関となりますが、医療法人では社員総会、取締役会にあたる期間が理事会となります。また、医療法人の理事長は医師である必要があります(一部例外あり)。

 

M&Aの局面においても、医療法人は株式会社とは異なります。まず、スキームは事業譲渡、合併、出資持分の譲渡および理事長等の交代のどれかを選択することとなります。

 

第一に、事業譲渡は病院の新規開設と廃止手続きを同時に行う等、行政の許可が求められるため、手続期間は比較的長くなります。さらに、病床の引継ぎができないこともあり、実務上ではほとんど採用されていません。

 

第二に、合併は事業譲渡とは手続きは異なりますが、行政の許可が求められることは同様であるため、手続期間は比較的長くなります。事業譲渡と異なる部分として、病床を引き継ぐことが可能であるため、大手の医療法人等は合併を利用してM&Aを行うことがあります。

 

第三に、出資持分の譲渡及び理事長等の交代では、社員総会で議決権を有する社員の交代をし、さらに理事会のメンバー(理事長等)を交代することで経営権を取得します。この方法は、行政手続上の許可は不要で、届出で足りることから手続期間は比較的短くなります。M&A後も、売手側の医療法人格は存続し、病床の引継ぎも可能であることから実務上広く利用される方法です。

 

 

上述のように、医療法人は株式会社とは異なり様々な制約があるため、株式会社を設立して経営を柔軟に行う場合があります。その方法として、医療法人の関連事業をMS(メディカル・サービス)法人として株式会社を設立し、経営している場合があります。MS法人は医療法人と一体として経営されているため、売手側の医療法人がMS法人も経営している場合には、基本的にはMS法人も含めてM&Aを検討することとなります。

 

 

診療報酬は、健康保険が7割(後期高齢者の場合は9割)を負担するため、医療法人のメインの医療収益の回収先は当該7割の支払業務を行う審査支払機関となります。審査支払機関は国によって設立が定められた機関であり、一般企業と比較して貸倒れのリスクが低いため、ファクタリングを行うことが容易となります。ファクタリングとは、審査支払機関に対する債権を売却し早期に資金を回収することです。資金繰りの苦しい医療法人はファクタリングを行っていることが多く、M&Aを検討する場合に、対象の医療法人のファクタリングの利用の有無、利用している場合にどのような会計処理を行っているかを確認しましょう。

 

 

他産業と比べて規制が多い特性から、バリュエーション手法も一般的なDCF法や時価純資産法、年買法等だけでなく、病床数を基準とする方法等も取られることがあります。売手側の場合は買手側のバリュエーション手法を理解することで交渉がスムーズに進むことも多いため、把握できる場合は把握しましょう。

 

 

さらに、医療業界は規制産業であるため、異業種からの参入は難しく閉鎖的な産業となっています。また、医療法人は近年赤字の法人が多くなっていることもあり、財務内容を正確に把握する必要があります。規制産業であることから他業種と比較して事業や財務の内容や把握すべきポイントが異なることも多いため、医療法人のM&Aを検討する場合は、医療法人の事業をよく理解しているアドバイザーや、財務の専門家を利用することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[会計事務所の事業承継・M&Aの実務]

第1回 :M&Aのメリット・デメリット

 

[解説]

辻・本郷税理士法人 辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社

黒仁田健 土橋道章

 

〈目次〉

⑴売主側におけるメリット

①顧問先や従業員の承継

②事務所の譲渡に伴う資金化

⑵買主側におけるメリット

①顧問先の獲得

②従業員の獲得

③規模拡大に伴うシナジー

⑶売主及び買主双方におけるデメリット

①顧問先の契約解除

②従業員の退職

 

 

 

 

▷関連記事:失敗例から学ぶM&A ~従業員の大半が退職したケース 、所長税理士と新所長の引継ぎがうまくいかなかったケース ~

▷関連記事:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

⑴売主側におけるメリット


売主側におけるM&Aの主なメリットは、①顧問先や従業員の承継と②事務所の譲渡に伴う資金化です。

 

①顧問先や従業員の承継

会計事務所の担う業務は、顧問先における日常の会計・税務相談や経理業務、経営相談など多岐にわたります。社内に経理や総務、経営企画などの部門がある大手企業とは異なり、特に中小企業にとっては、会計事務所に依存している部分が多く、当然に信頼関係の下にこれらの業務が成立しています。

 

今後10年、20年と顧問先は成長を続け、従業員も家庭を持ち、年を重ねていく中で、会計事務所として長期間のサービスを提供し続けていかなければなりません。

 

顧問先と従業員を一緒に承継できるのがM&Aのメリットと考えられます。

 

個別に承継していく場合は、引継ぎ先の事務所を1件ずつ紹介していくこととなり、また、従業員についても転籍先をあっせんしていくことになります。この場合、従業員は、顧問先の担当者として長年、同じ顧問先の業務にあたっていることが一般的で、顧問先=担当従業員のセットとなっており、双方で信頼関係ができています。それぞれの承継先が同じ事務所でない場合は、注意が必要です。

 

②事務所の譲渡に伴う資金化

M&Aの手法による最も大きいメリットとなります。会計事務所の資産は、顧問先と従業員、所長税理士の信頼を表したものとなります。

 

これら無形の資産から生み出されるキャッシュフローを、譲渡時点に資金化できることがメリットとなります。もちろん、会計事務所業は誰でもできるわけではないので、流動性の観点からは低いこと、目に見えない顧問先・従業員・所長税理士の複合的な信頼関係を維持できるような承継先を見つけることが重要になります。

 

⑵買主側におけるメリット


買主側におけるM&Aのメリットは、①顧問先の獲得、②従業員の獲得、③規模拡大に伴うシナジーが考えられます。

 

①顧問先の獲得

顧問先の獲得は、売上の拡大が一時で図れる点がメリットとなります。つまり通常の顧問契約の獲得は、時間をかけて1件ずつ増やしていく形となりますが、それにかかる時間を短縮することができます。

 

通常、顧問契約を獲得するのに、次のような流れの中で、それぞれの段階で時間とコストをかけて獲得していきます。これら一連の流れを省略でき、また、複数の顧問先を一括で承継できることがメリットと考えられます。

 

 

 

 

②従業員の獲得

人が稼ぐ労働集約型の会計事務所業界において、人材の確保は非常に重要な要素です。特に事務所ごと承継する意味は、通常の採用と異なり、意思疎通がとれた人材の集まり(組織体)を取得することができ、またそれぞれの従業員が担当先を持っていることから、承継したその日から売上・スキル・組織コミュニケーション力を持っている点で大きなメリットがあります。

 

通常、従業員の採用は、下記のような流れがあり、それぞれの段階で時間とコストが発生します。顧問先との契約と同様に雇用契約においても、これら一連の流れを省略でき、また複数の雇用を一括で承継できることがメリットと考えられます。

 

 

③規模拡大に伴うシナジー

規模拡大に伴うシナジーは、事業所の統合により主に管理コスト等の圧縮と、知識やノウハウの共有により提供するサービスの質や従業員の教育面の充実が見込まれます。

 

管理コスト等の圧縮の例としては、利用会計システムの料金、地代家賃、給与計算や請求書の発行事務などが挙げられます。また、知識やノウハウの共有においては、各種事例の集積により事案を検討する時間の圧縮や、より専門性の高いサービスの追求が行えるとともに、従業員1 人1 人のスキルアップによる生産性の効率化がはかられます。したがって、事例研究や社内勉強会といった機会を設け、情報共有や人材交流が行いやすい環境を整えることが重要となります。

 

⑶売主及び買主双方におけるデメリット


一方、売主及び買主双方におけるM&Aのデメリットは、①顧問先の契約解除、②従業員の退職となります。

 

①顧問先の契約解除

顧問先から契約を解除されるのは、主に二つの理由によります。

 

一つ目は、売主である所長税理士や従業員の退職をきっかけに、顧問先から解約の申出がなされるケースです。特に所長税理士が退職される場合、古い顧問先であればあるほど人間関係が深いことから顧問契約が維持されていましたが、M&Aをきっかけに解約の申出を行いやすい状況になります。

 

また、もともと顧問先に、監査頻度が少ない、提案をしてくれない、ITサービスへの対応が遅れているなどの不満があったものの、所長税理士には設立からお世話になっていたり、親の世代からのつきあいで言いにくかったような場合は、M&Aを機に契約解除の可能性が高まりますので、そのような顧問先がないか、後任担当者の選定は適切か、事務所としてフォローアップできるかなど事前に検討しておくことが大事です。

 

二つ目は、新しい会計事務所や担当者によるサービスへの不満です。これは、特に所長税理士が直接担当している顧問先を新しい担当者が引き継いだ場合に起こりやすいのですが、当然、所長税理士と同等の経験やスキルをもった担当者をつけることは困難です。M&Aに際して、サービス内容、契約金額、担当者経歴などをもとに顧問先を分類し、M&Aの前後にサービスの低下が起こらないようにフォローできる体制を事前に検討しておくことが重要です。特に、大口の顧問先については、契約解除となった場合には対象事務所の損益に大きく影響するため慎重な対応が求められます。

 

 

②従業員の退職

M&Aによる譲渡時に従業員が転籍をしないケースとM&A後に退職をするケースがあります。

 

人手不足で売手市場の現在では、特に中堅どころの30~40代の社員は引く手あまたの状況です。事務所を売却する話が出た場合、売られた側の従業員にとっては身売りされたように感じたり、経営体制や環境が変わることについて自分自身の処遇がどのように変わるのか、不安を感じたりします。

 

従業員は、年齢や、家族構成、働き方に関するモチベーションなど状況が様々です。またこれらは、時の経過とともに変化をします。M&Aの前段階においては、本人との面談により、新しい体制になって、何が変わるのか、何が変わらないのかをきちんと明示し、本人のやりたいことや、やりたくないことをヒアリングするとともに、引き続き働いてほしい旨を伝える必要があります。

 

できれば、スタート時点としては、「今までと何も変わらない+α」で新しい仕事にチャレンジできる環境(成長できる環境)を用意できると望ましいと考えられます。

 

M&A後に退職をするケースは、新しい環境に慣れないことが一番の要因です。新しい勤務地、出勤時間や給与等の待遇面の変更、新しい会計システムへの移行など、通常業務の負担に加えて、何かと従業員には負荷がかかります。

 

会計事務所のM&Aの場合、顧問先と従業員が揃って初めて事業として成り立ちます。つまり、極端な話、顧問契約をすべて承継できても従業員が1人も承継できなければ、顧問先へのサービスを買主側の従業員で行う必要が出てきますし、逆に従業員を全員承継できても顧問契約を一つも承継できなければ、従業員へ支払う給与を買主側の事務所の経費で賄う必要が出てきます。

 

すなわち、買主側では顧問契約と雇用契約の両面から、これらのリスクを認識し重要な顧問先や従業員の洗い出し、また、実際に離反が出た際の対処方法も併せて検討しておくことが重要となります。

 

 

 

 

▷参考URL:M&A各種契約書等のひな形(書籍『会計事務所の事業承継・M&Aの実務』掲載資料データ)

 

[解説ニュース]

個人が共有持分を分割した場合の所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

 

 

 

【問】

甲と弟の乙は、昨年に父から相続した東京都内の土地(X土地)を持分2分の1で共有しています。甲と乙は、X土地を分割して共有を解消したいと考えていますが、この場合の税務上の取扱いについて次の通り質問します。

 

【問1】X土地を甲と乙が単独で所有する2筆の土地に分割した場合、甲が乙に、乙が甲に、それぞれのX土地の持分の譲渡があったものして、甲と乙に所得税が課税されるのでしょうか。なおX土地は遊休地であり、何ら使用されていません。

 

【問2】甲と乙は、X土地以外に、15年前に父から相続した神奈川県内の土地(Y土地)を持分2分の1で共有しています。X土地の価額とY土地の価額がほぼ同額であることから、甲のY土地の持分と乙のX土地の持分を交換し、X土地を甲の単独所有、Y土地を乙の単独所有にすることも検討していますが、この場合にはX土地の持分とY土地の持分の譲渡があったものとして、甲と乙に所得税が課税されるのでしょうか。

 

【回答】

1.【問1】について


(1)共有物の分割に係る所得税の譲渡所得の課税

二以上の者が一の土地を共有している場合において、その土地をそれぞれの共有持分にて現物分割し、それぞれ単独所有の土地としたときは、判例上、共有者相互問において、共有各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行われることであって、各共有者が取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではないといわれています(最判、昭42.8.25民集21巻 7号1729頁、平成29年版所得税基本通達逐条解説194頁)。

 

したがって、共有の土地を、それぞれの持分に従って現物分割した場合、①その法律的性格に着目すれば、その共有持分の交換(交換も「譲渡」の一種です。)があったことになるので、その譲渡による利益について所得税が課税されるのではないかという疑問が生じます。

 

しかし、共有関係にある一の資産を現物で分割するということは、②その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていないということもできます。

 

そこで、国税庁は所得税基本通達(所基通)33-1の7により、個人が他の者と共有している土地について、その持分に応ずる現物分割があったときには、税務上は①の考え方によらず、②の考え方に基づき、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税関係を生じさせないこととして取扱うこととしています。

 

なお、現物分割された土地の面積の比と共有持分との比が異なる場合がありえますが、そのような場合であっても、その分割後のそれぞれの土地の価額の比が共有持分の割合におおむね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当することとされます(所基通33-1の7(注)2)

 

(2)結論

甲と乙が共有しているX土地を、それぞれの持分に従って現物分割した場合、前述(1)より、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとされ、所得税の課税関係は生じません。

 

 

 

2.【問2】について


ご質問のように、東京都所在のX土地の乙の持分と、神奈川県所在のY土地の甲の持分を交換し、X土地を甲の単独所有、Y土地を乙の単独所有とした場合には、交換する持分が別の土地の持分であるため、前述1(1)②で述べたような「その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていない」とはいえません。したがって私法上の関係通り、甲と乙において、それぞれX土地の持分とY土地の持分の交換(譲渡)があったものと認められることから、甲と乙にそれぞれ所得税が課税されます。

 

ただし、X土地とY土地の持分の交換において、一定の要件を満たす場合には、固定資産の交換に係る所得税の特例(所得税法58条)の適用により”譲渡がなかったもの”とみなすことができます。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/28)より転載

[M&A担当者のための 実務活用型誌上セミナー『税務デューデリジェンス(税務DD)』]

第2回:M&A取引の税務ストラクチャリング

 

[解説]

税理士法人LINK 公認会計士・税理士 長野弘和

 

〈目次〉

1.M&Aのストラクチャー

2.オーナー企業を買収する場合

(1)株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)の比較

(2)役員退職慰労金の利用

3.他社の子会社を買収する場合

(1)株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)の比較

(2)配当金の利用

4.買収対象に多額の繰越欠損金がある場合

5.終わりに

 

 

▷第1回:M&Aにおける税務デューデリジェンスの目的、手順、調査範囲など

▷第3回:M&A取引に伴う税務リスクとその対応

 

1.M&Aのストラクチャー


M&Aに際しては、様々な観点から最適なストラクチャーを検討することになりますが、税務の観点からはストラクチャーの選定によって税務上の有利・不利が生じることも少なくありません。税務上、M&Aのストラクチャーとして、株式買収(株式譲渡)や事業買収(事業譲渡)、合併、株式分割、株式交換、株式移転等、様々な手法が紹介されています。実務上は、株式買収(株式譲渡)、あるいは事業買収(事業譲渡)の手法が採られることが多いので、これらについて解説します。

 

株式買収(株式譲渡)は、買収対象となる企業の株主(売手)から株式を取得する手法で、最もシンプルな手法と言えます。法人格をそのまま維持したい、既存の契約関係や許認可等をそのまま維持したい場合等に検討されます。

 

 

 

 

 

 

事業買収(事業譲渡)は、買収対象となる事業を行う売手から事業の全部又は重要な一部を取得する手法で、株式買収(株式譲渡)に比べて手続は煩雑になります。取得する資産・負債を選択したい、簿外債務を切り離したい場合等に検討されます。

 

 

 

 

 

 

ストラクチャーの検討では、誰が買収するのかという点が論点になることもあります。クロスボーダーの案件では特に論点となり、日本企業が買収するよりも、その海外子会社が買収する形を採る方が、租税条約の関係で源泉税率が軽減される等、税務上の有利・不利が生じることも少なくありません。

 

 

2.オーナー企業を買収する場合


(1)株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)の比較

よくあるケースとして、オーナー企業を買収する場合を例に、株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)で税負担にどの程度の差が生じるのか検討してみましょう。

 

 

 

 

(前提)

✓対象会社の株式(事業)の譲渡価額は2,000百万円

✓売手株主が保有する対象会社の株式の取得価額は100百万円

✓法人税率は30%、譲渡所得の税率は20%、配当所得の税率は50%

 

 

(売手サイドの税負担)

①株式買収(株式譲渡)の場合

✓対象会社:影響なし(株主が変わるのみ)

✓売手の株主:取得価額100百万円の株式を譲渡価額2,000百万円で譲渡した結果、譲渡所得は1,900百万円となり、税負担は380百万円(=1,900百万円×20%)となります。

 

②事業買収(事業譲渡)の場合

✓対象会社:純資産500百万円の事業を譲渡価額2,000百万円で譲渡した結果、譲渡益は1,500百万円となり、税負担は450百万円(=1,500百万円×30%)となります。

✓売手の株主:対象会社を清算して資金を回収した結果、配当所得は1,050百万円(=1,500百万円-450百万円)となり、税負担は525百万円(=1,050百万円×50%)となります(ここでは簡便的に計算しています)。

 

 

 

 

 

(買手サイドの税負担)

①株式買収(株式譲渡)の場合

✓対象会社:影響なし(株主が変わるのみ)

✓買手の株主:影響なし(株式を取得するだけで税負担は生じない)

 

②事業買収(事業譲渡)の場合

✓受皿会社:純資産500百万円の事業を譲渡価額2,000百万円で取得した結果、1,500百万円の資産調整勘定(いわゆる、税務上ののれん)が発生します。資産調整勘定はその後の償却を通じて450百万円(=1,500百万円×30%)の税負担を軽減することができます。

✓買手の株主:影響なし(事業を取得するだけで税負担は生じない)

 

 

 

 

 

上記は非常にシンプルな例ですが、売手側には株式買収(株式譲渡)の方が有利、買手側には事業買収(事業譲渡)の方が有利となり、売手・買手の合計で考えると株式買収(株式譲渡)の方が有利と言えます。オーナー企業を買収する場合には、オーナーの税負担の観点から株式買収(株式譲渡)が採用されることが多いです。ただし、売手の都合で事業買収(事業譲渡)の方が望ましい場合もある点には留意が必要です。

 

 

 

(2)役員退職慰労金の利用

上述のとおり、一般的には、オーナー企業を買収する場合には株式買収(株式譲渡)が採用されることが多いですが、単純に株式を売買するだけでなく、役員退職慰労金の支払いと組み合わせた手法が採られることが少なくありません。

 

例えば、上記のケースは対象会社の株式の譲渡価額は2,000百万円ですが、2,000百万円のうち400百万円を役員退職慰労金として支給し、株式の譲渡価額を1,600百万円に引き下げるという手法が考えられます。売手(オーナー)から見ると、総額2,000百万円を受領することに違いはなく、また譲渡所得と退職所得の税負担はそれほど大きくは変わりません。買手から見ると、総額2,000百万円を支払うことに違いはなく、また役員退職慰労金は対象会社において損金の額に算入されますので、400百万円×30%=120百万円の節税メリットが得られます。

 

なお、役員退職慰労金は、税務調査において不相当に高額と指摘された場合には、不相当に高額な部分について損金の額に算入することができません。過大な役員退職慰労金として否認されないように留意する必要があります。

 

 

3.他社の子会社を買収する場合


(1)株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)の比較

よくあるケースとして、他社の子会社を買収する場合(対象会社の株主が法人の場合)を例に、株式買収(株式譲渡)と事業買収(事業譲渡)で税負担にどの程度の差が生じるのか検討してみましょう。

 

 

 

(前提)

✓対象会社の株式(事業)の譲渡価額は2,000百万円

✓売手株主が保有する対象会社の株式の取得価額は100百万円

✓法人税率は30%

 

 

(売手サイドの税負担)

①株式買収(株式譲渡)の場合

✓対象会社:影響なし(株主が変わるのみ)

✓売手の株主:取得価額100百万円の株式を譲渡価額2,000百万円で譲渡した結果、譲渡益は1,900百万円となり、税負担は570百万円(=1,900百万円×30%)となります。

 

②事業買収(事業譲渡)の場合

✓対象会社:純資産500百万円の事業を譲渡価額2,000百万円で譲渡した結果、譲渡益は1,500百万円となり、税負担は450百万円(=1,500百万円×30%)となります。

✓売手の株主:影響なし(受取配当金の益金不算入により税負担は生じない)

 

 

 

 

 

(買手サイドの税負担)

①株式買収(株式譲渡)の場合

✓対象会社:影響なし(株主が変わるのみ)

✓買手の株主:影響なし(株式を取得するだけで税負担は生じない)

 

②事業買収(事業譲渡)の場合

✓受皿会社:純資産500百万円の事業を譲渡価額2,000百万円で取得した結果、1,500百万円の資産調整勘定(いわゆる、税務上ののれん)が発生します。資産調整勘定はその後の償却を通じて450百万円(=1,500百万円×30%)の税負担を軽減することができます。

✓買手の株主:影響なし(事業を取得するだけで税負担は生じない)

 

 

 

 

 

上記は非常にシンプルな例ですが、売手側には事業買収(事業譲渡)の方が有利、買手側には事業買収(事業譲渡)の方が有利となり、売手・買手の合計で考えても事業買収(事業譲渡)の方が有利と言えます。実務上は消費税や不動産取得税等、その他の税負担も考慮の上で検討する必要があります。

 

 

 

 

(2)配当金の利用

上述のとおり、他社の子会社を買収する場合(対象会社の株主が法人の場合)には、一般的に事業買収(事業譲渡)の方が税務上はメリットがあるとされていますが、株式買収(株式譲渡)の場合でも配当金の支払いと組み合わせることで、それに近いメリットを得るという手法が採られています。

 

例えば、上記のケースは対象会社の株式の譲渡価額は2,000百万円ですが、2,000百万円のうち400百万円を株式譲渡の前に配当金として対象会社から支給することで、株式の譲渡価額を1,600百万円に引き下げるという手法が考えられます。売手から見ると、総額2,000百万円を受領することに違いはなく、また受取配当金の益金不算入の適用を受けることで、配当金で受け取る分について税負担を軽減することが出来ます。買手から見ると、総額2,000百万円を支払うことに違いはなく、税負担も変わりません。

 

✓売手の株主:取得価額100百万円の株式を譲渡価額1,600百万円(=2,000百万円-400百万円)で譲渡した結果、譲渡益は1,500百万円となり、税負担は450百万円(=1,500百万円×30%)となります。配当金として受領した400百万円は、受取配当金の益金不算入の適用を受けることで、税負担は生じません。結果として、上記の例では事業買収(事業譲渡)の場合の税負担(450百万円)と変わらない結果となっています。

 

 

 

 

なお、配当金の支払いと組み合わせた手法について、連結納税制度に加入している連結子会社を買収する場合には有効な手法とならない点に留意する必要があります。また、連結納税制度に加入していない子会社を買収する場合であっても、令和2年度の税制改正により、その子会社(対象会社)が過去に買収した会社の場合等では同様の効果が得られない可能性がある点についても留意する必要があります。

 

 

4.買収対象に多額の繰越欠損金がある場合


買収対象に多額の繰越欠損金がある場合、株式買収(株式譲渡)の手法を採用すると、買手はその後その繰越欠損金を利用することができるというメリットがあります。繰越欠損金には使用期限(9年~10年)がありますので、その繰越欠損金が発生した時期や、その後の使用見込み等を勘案する必要はありますが、株式買収(株式譲渡)を採用する一つのメリットとなります。

 

 

5.終わりに


M&Aに際しては、最適なストラクチャーを検討することになりますが、そこでは税務の観点からだけでなく、事業の観点や法務の観点等、様々な観点から検討されることになります。事業の観点から検討した結果、株式買収(株式譲渡)の選択肢しか考えられない場合、あるいは、法務の観点から検討した結果、事業買収(事業譲渡)の選択肢しか考えられない場合等、その他の観点から検討した結果、採り得るストラクチャーが限られることもあります。税務上の有利・不利も確かに重要ですが、常にあらゆる選択肢を詳細に検討するというのも非効率と言えます。ストラクチャーの検討に際しては、考慮すべき事項を挙げて優先度を明確にしておくことで、効果的・効率的に検討を進めることができます。

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第9回】PPAで使用する事業計画とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

前回は無形資産の経済的耐用年数について詳しく解説します。第9回は,無形資産評価において用いられる事業計画について解説します。なお,以下の解説は,無形資産の測定においてインカム・アプローチを採用する場合を前提としています。

 

 

▷第7回:WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

 

1.使用される事業計画について

PPAにおける無形資産評価は,端的に言えば,事業計画上の将来キャッシュ・フローからもたらされる経済的価値を,無形資産の価値とのれんの価値に配分する手続です。

 

第5回でも解説したように,無形資産の評価は,公正価値アプローチに基づき行われます。

繰り返しになりますが,公正価値とは「測定日時点で,市場参加者間の秩序ある取引において,資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」であり,無形資産の評価は,一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないことを意味しています。

事業計画についても,上述のような公正価値アプローチに基づき策定されたものを使用することが求められます。

 

それでは,公正価値アプローチに基づき一般的な市場参加者の見地に立った事業計画とはどのようなものでしょうか。

 

M&Aのプロセスにおいて,企業価値や株式価値の算定にあたっては,複数の事業計画を用いて検討されることが一般的です。これは,将来のビジネスの予測にはリスクや不確実性が伴うためであり,競合状況や市場の成長性といった外部環境,新製品開発の成否やシナジーの発現等,企業内外のさまざま要素を考慮して複数のシナリオを想定することが通常です。

 

M&Aにおいては,当然のことながら,売り手は高く売却したいと考え,買い手は安く譲り受けたいと考えます。買収金額は,買い手と売り手が合意した価格ですが,買い手と売り手の交渉力等に左右されるものの,多くの場合,概ねスタンドアロン価格をベースに一定程度買い手のシナジーを加味した金額で合意されるものと考えられます。

 

 

【図表1】買収価格とシナジーのイメージ

 

 

無形資産評価の一般的な実務においては買い手「固有」のシナジーを除いた事業計画が使用されます。

「固有」とは,買い手のみがコントロールし実現できることを意味します。買い手固有のシナジーは,それを実現できる買い手にとってのみ価値を有するものの,一般的な市場参加者からみた場合その価値を実現できるものではないため無形資産の価値を構成しない,という考え方が基礎となっています。

買い手固有のシナジーによりもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんを構成することとなります。

 

一方で,買い手が実現可能なシナジーのうち客観的に見て誰が買い手となる場合であっても実現可能と考えられるシナジーは,事業計画上考慮しなければならない点には留意が必要です。

 

それらに該当するものとしては,例えば,事業規模拡大に伴うスケールメリットや,管理体制一元化によるコスト削減といったシナジーが考えられます。

 

 

【図表2】WACC,IRR,WARAの関係図

 

 

 

2.実務上の対応

一般的な無形資産評価の実務では,買い手企業と外部評価者の間で,どの事業計画を無形資産評価において使用すべきかについてディスカッションが行われます。

 

その結果,実際の買収価額と整合的な事業計画が使用される場合が多いです。そのような事業計画は,案件によってベースケースであったり,コンサバティブケースであったりとさまざまですが,買い手固有のシナジーを含まない点において共通しています。

 

使用される事業計画を決定したら,当該事業計画数値をもとに無形資産の測定を行います。中でも重要なプロセスは下記の2点です。

 

 

(1)IRRの算定

買収価格と事業計画上の将来キャッシュ・フローをもとにプロジェクトのIRRを算出します。

第7回で解説したとおり,IRRの算定は無形資産の測定に用いるWACCが合理的な水準かどうかを確認するために行われます。IRRは,買収価格及び投資実行時期と,事業計画上の将来キャッシュ・フロー金額及びその発生時期を設定の上,エクセルのXIRR関数を用いれば容易に計算が可能です。

 

公正価値アプローチの考え方に立つと,ここで用いられる買収価格は一般的な市場参加者が想定する金額であり,買い手が支払ったプレミアムを除いた金額となります。

 

同時に,事業計画上の将来キャッシュ・フローについても,買い手固有のシナジー効果による影響を除外した金額となります。このような前提の下,算出されたIRRが,設定されたWACCに近似しているかどうかが判断のポイントとなります。

 

ここで留意すべきは,設定されたWACCの水準が無形資産価値に重大な影響を与えるという点です。WACCの合理性がIRRによって確かめられた後,当該WACCとWARAが一致するように無形資産を含む各資産の期待収益率が設定されることとなりますが,その水準によって,最終的に算定される無形資産の金額が大きく異なることはお分かり頂けるかと思います。

 

 

【図表3】キャッシュ・フロー配分の概念図

 

 

算出されるIRRは,買収金額とそれに整合する事業計画が入手可能な場合,当然のことながらWACCに近似する値となります。しかし,実務では,入手可能な事業計画が買収金額と整合しないケースもあり,その場合算出されたIRRと想定されるWACCに差異が生じることがあります。そのような場合,以下のような要因が考えられます。

 

 

① IRR<WACCとなるケース

一般投資家の想定よりも高い価格で買収が行われている,あるいは,買収価格に買い手が支払ったプレミアムが含まれてしまっている場合が考えられます。

 

また,事業計画が過度に弱気である可能性があります。例えば,事業計画に一般的な市場参加者からみて当然に享受できると考えられるシナジーが織り込まれていないような場合が考えられます。

 

 

② IRR>WACCとなるケース

一般投資家の想定よりも低い価格で買収が行われている,または,事業計画が過度に楽観的または強気である可能性があります。また,買い手固有のシナジー等がキャッシュ・フローに含まれてしまっているような場合も考えられます。

 

実務上は,上記要因による影響を勘案して,事業計画を一般的な市場参加者が想定する水準へ可能な限り調整し,WACCの合理性を判断することになります。

 

 

(2)価値測定におけるキャッシュ・フローの検討

 

続いて,ロイヤリティ免除法や超過収益法といった評価技法を用いて,無形資産の測定に使用する事業計画を基礎として,どのように無形資産の測定を行うかを検討することとなります。

 

事業計画上の将来キャッシュ・フローに基づき無形資産を評価することは,将来キャッシュ・フローの価値を,無形資産とのれんの価値に配分することです。

 

また,無形資産は,評価基準日時点に存在する顧客・契約・技術・製品等から生じるキャッシュ・フローに基づき測定・評価されます。よって,対象企業が将来獲得する顧客や契約,技術等からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんの価値を構成することとなる点に留意が必要です。

 

 

① 商標権の場合

測定される無形資産が商標権の場合,評価手法は多くのケースでロイヤリティ免除法が採用されます。ロイヤリティ免除法は将来の売上高に一定のロイヤリティレートを乗じたロイヤリティ収入をもとに無形資産価値を算定する評価技法ですが,将来売上高は,使用される事業計画における商標関連事業の想定売上をそのまま採用することが一般的といえます。

 

 

② 顧客資産の場合

一方,顧客資産の場合は商標権と少々取扱いが異なる点に留意を要します。顧客資産の測定においては超過収益法を採用することが一般的ですが,前述のように,測定対象となるのは評価基準日時点に既に存在する顧客であることから,その価値を測定する際には事業計画上の数値に調整を加える必要があります。

 

当該調整は,主に新規顧客からもたらされる価値を除外することと,測定対象となる既存顧客の減少率を考慮することの2点です。

 

通常,事業計画上のキャッシュ・フローには将来獲得が期待される新規顧客からもたらされる価値が含まれるため,当該価値について顧客資産の価値を構成するキャッシュ・フローから除く必要があります。

 

また,前回も述べたように,長い期間でみると顧客は入れ替わりが生じると考えることが合理的であることから,有限の経済的耐用年数を設定し,当該年数に即した減少率を考慮することとなります。

 

 

3.まとめ

無形資産価値の測定に使用する事業計画については,一般的な市場参加者が想定するであろう事業計画を使用するという点が最も基本的かつ重要であると考えます。買い手企業においては,PPAにおいてこのような要請があることを理解して,予め事業計画上のキャッシュ・フローの構成について整理・把握しておくことが必要です。

 

次回は,人的資産と節税効果について解説します。

 

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

特定生産緑地制度の税務上の留意点について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(猪狩 祐介/税理士)

 

 

 

【問】

私は東京都A市に農地を所有し、農業を営んでいます。私の父は所有していた農地の全部について、A市より平成4年(1992年)11月に生産緑地の指定を受けており、私は父から平成10年にその生産緑地の全部を相続し、農業相続人として農地等に係る相続税の納税猶予(措法70の6)の適用を受けています。

 

生産緑地の指定を継続する場合には、その指定の告示から30年経過する前に、A市による「特定生産緑地(生緑法10の2)の指定(10年継続)」を受ける必要があると聞きました。生産緑地の指定から30年を経過する2022年において、特定生産緑地の指定を受ける場合と受けない場合とで、私の相続税の納税猶予や固定資産税の課税にどのような影響がありますか。

 

【回答】

1.特定生産緑地制度の概要


①特定生産緑地制度とは

特定生産緑地制度とは、市町村が、生産緑地指定から30年を経過する日(申出基準日)が近く到来することとなる生産緑地のうち、その周辺の地域における公園、緑地整備の状況など勘案して、申出基準日以後もその保全を確実に行うことが良好な都市環境の形成を図る上で特に有効であると認められるものを、特定生産緑地として指定することをいいます(生緑法10の2)。いわば再指定され た生産緑地を特定生産緑地といいます。

 

②特定生産緑地の指定を受ける場合

特定生産緑地の指定を受けると、10年間の営農義務が課されますが、固定資産税は、従来通り農地課税(低い金額)になります。相続税の納税猶予も営農している限り継続されることになります(措法70の6)。また、特定生産緑地の指定を受けた後でも、生産緑地の所有者である主たる従事者が死亡した等の場合は、相続人が相続税の納税猶予の適用を受けることや、買取りの申出をして生産緑地の指定の解除をすることができます(生緑法10)。

 

③特定生産緑地の指定を受けない場合

特定生産緑地の指定を受けない場合、農地に対する固定資産税は5年をかけて段階的に宅地並み課税になります。現在受けている相続税の納税猶予については、当代に限り継続されますが、次の世代では、生産緑地の指定を受けていないことから、新たに相続税の納税猶予を受けることができません。

 

 

 

 

2.農業相続人の有無別の特定生産緑地の指定と税務上の留意点


特定生産緑地の指定をめぐる税務上の取扱いは、あなたの相続時に相続人となる人のなかに、農業の後継者(農業相続人)がいるかどうかにより、次の通りに区分されます。

 

①農業相続人がいる場合
相続税の納税猶予の適用を受けている場合には、猶予を継続するため、終身営農が必要となります。特定生産緑地の指定を受けなかった場合でも、営農している限り、あなたの納税猶予は打ち切りになりませんが、あなたの親族に農業の後継者がいる場合であっても、あなたの相続において相続税の納税猶予の適用を受けることができず、固定資産税も宅地並み課税となるため、特定生産緑地の指定を受けておくことが望ましいと考えられます。

 

②農業相続人がいない場合
次の世代に農業相続人となる人がいない場合

 

(イ)特定生産緑地の指定を受け10年間営農を継続する(10年毎に継続の可否を判断)
(ロ)30年経過前に買取りの申出を行い、生産緑地の指定を解除し、土地の有効活用を行う。
(ハ)特定生産緑地の指定を受けず、買取りの申出も行わず、いつでも買取りの申出ができる状態で営農を継続する。

 

の3つから選択することになります。

 

引き続き税制上のメリット(固定資産税の農地課税、相続税の納税猶予)を受けるためには、上記(イ)を選択することとなります。対して、宅地に転用して活用するのであれば(ロ)(ハ)を選択することになります。ただし、買取りの申出を行うと、納税猶予が打ち切りとなり、あなたは相続税額と利子税を一括で納付することになります。

 

 

将来農地をどのように維持するかは、税制面からも重要な問題です。特定生産緑地の指定を受けるかどうかについては、農地税制に詳しい税理士に相談しながら検討してください。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/23)より転載

[解説ニュース]

法人が匿名組合契約により営業者に金銭出資している場合の出資金の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

 

1.匿名組合契約の概要


(1)匿名組合契約とは

匿名組合契約とは、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業に対して出資し、営業者はその営業から生ずる利益を匿名組合員に分配することを約する契約をいいます(商法535条)。

 

 

(2)匿名組合員の出資した財産の帰属

匿名組合員の出資は営業者の財産に属し(商法536条1項)、匿名組合員は営業者の行為につき第三者に対して権利義務を有しません(同4項)。
匿名組合員の出資した財産はすべて営業者に帰属し、匿名組合員は営業者が匿名組合員の出資により取得した財産に対して、何らの持分も有しません。

 

(3)契約期間中の利益と損失の分担

営業者はその各営業年度末において、匿名組合員に対し、匿名組合の営業により生じた利益を分配すべき義務を負い、匿名組合員は営業者に対し、匿名組合の営業から生ずる利益の分配を受ける権利を持ちます。匿名組合員による損失の分担は匿名組合契約に必要な要素ではありませんが、匿名組合契約に係る事業は匿名組合員と営業者による事実上の共同事業であることから、その契約に損失を分担しない旨の定めがない限り、匿名組合員は損失の分担をするものと解されています。

 

(4)匿名組合契約終了時の出資の返還

匿名組合契約が終了した場合には、営業者は匿名組合員にその出資の価額を返還しなければなりません。ただし、出資額が損失の分担により減少している場合には、その残額を返還すればよいとされています(同542条)。

 

 

 

2.【Q&A】法人が保有する匿名組合契約に係る出資の相続税法上の評価の解説


【問】

非上場会社の㈱Aは、B㈱との間で、自社を匿名組合員、B社を営業者とする匿名組合契約を締結し、B社の行う航空機リース事業に対して金銭出資をしています。A社の株主甲の死亡に伴い、甲に係る相続税の計算上、A社株式の1株当たりの純資産価額を評価する場合、A社の有する匿名組合契約に係る出資の評価はどのように行うべきでしょうか。なお匿名組合契約上、A社はその匿名組合の事業により生じた損失を分担しない旨の定めはありません。

 

【回答】

(1)匿名組合出資の評価の考え方

匿名組合契約に係る組合員の権利(以下「匿名組合出資」)の相続税法上の評価方法について、法令及び通達による特段の定めがありません。実務上は、平成20年7月25日東京国税不服審判所の裁決例等により、次のように取扱われています。

 

まず匿名組合出資の内容は、1(3)と(4)より、【営業者に対する利益配当請求権+匿名組合契約終了時における出資金返還請求権】と認められます。

 

匿名組合契約が終了した場合、上記1(4)より営業者は匿名組合員に匿名組合出資の価額を返還する必要があり、営業者はその財産状態を計算して、匿名組合員に対しその出資の価額を返還することになります。その出資の価額の返還における計算は、営業者と匿名組合員の間で実質上共同により事業を行っているといえるため、民法上の組合の規定(民法681条)を類推適用することが妥当であり、民法681条では組合員が脱退した場合の持分の払戻しにつき、脱退時における組合財産の状況に従って行うべきと定められているところです。

 

以上により匿名組合出資の価額は、出資金を含めた匿名組合契約に基づく営業者の全ての財産及び債務を対象とし、課税時期(本問では相続により財産を取得した日)において、その匿名組合契約が終了したものとした場合に、匿名組合員が分配を受けることができる清算金の額に相当する金額とするべきと解されます。また清算金の額は、財産評価基本通達(財基通)185(純資産価額)を準用し、課税時期における営業者のその匿名組合事業に係る全ての財産の相続税法上の評価額から、同事業に係る全ての負債の金額を差引いて計算すべきといえます。この場合、匿名組合自体には法人税が課税されないので、法人税等相当額の控除(37%控除)は行いません。

 

(2)匿名組合の事業に属する航空機の評価方法

(1)の匿名組合出資の相続税法上の評価においては、匿名組合の事業に属する航空機を評価する必要がありますが、財基通にその定めがありません。実務上は、財基通5より、航空機と同様に中古市場がある船舶の評価方法を定めた同136を準用し、原則、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものと考えられます。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/14)より転載

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

~原価計算の分析、販管費の分析、営業外・特別損益の分析~

 

〈目次〉

4、原価計算の分析

5、販管費の分析(①人件費の内容の把握、②1人あたり人件費水準の把握、③人員の過不足状況、退職率の把握、④残業の有無、支払いの有無の把握、⑤未払、引当等有無の確認、⑥退任役員の報酬水準の把握)

6、営業外・特別損益の分析

 

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

▷第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷第5回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】

 

 

財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】


4、原価計算の分析

原価計算の分析を行う場合、原価計算の前提内容を把握します。作成方法の理解を進めながら、その作成方法が最もよい基準で作成されているかの検証を行います。

 

原価計算が行われていない場合は、財務デューデリジェンスの中で原価計算を行います。まず、製造原価に計上されている勘定科目、その内容、金額を把握します。その上で、それぞれの費用について原価計算を行う単位(製品等)に対して直課するのか配賦するのかの検討を行います。次に直課あるいは配賦を行う時のキードライバーを把握します。配賦を行う場合、実務的には売上高基準で行うことも多いですが、配賦を行う費用の金額が大きく、その配賦が原価計算の中で重要な場合等は、正確にキードライバーを把握し、そのドライバーで配賦を行うことで原価計算の精度を高めます。

 

しかし、中小企業の場合、これらの分析に必要な基礎情報が記録されておらず、精度の高い原価計算を行うことが難しい場合があります。原材料費であれば、仕入先別に金額は把握しているものの、1つの仕入先から複数の商品を購入している場合、原材料ごとの仕入金額を把握していないケースがあります。また、原材料ごとの仕入金額が把握できる場合であっても、原価計算を行う単位(製品等)ごとに原料の投入量が把握されていないケースもあります。そうすると、原料の正確な投入量がわからないため、原価計算単位ごとの製品1つあたり標準原料投入量および製品製造数量から原料投入量を推定する等行う場合もありますが、標準原料投入量を設定していない場合もあり、短期間のデューデリジェンスの期間の分析では精度の高い分析が難しい場合があります。このような場合、どこまで原価計算を行うかは買手企業との相談をした上で、分析を行います。

 

また、原価計算をデューデリジェンスで作成する場合には、特に慎重な検討が必要となります。期間や物理的なアクセス、ヒアリングの可否等の制約が多い状況下で、対象会社の損益の核となる部分を専門家と言えども外部の人間が作成する場合には、必ずしも正確な金額が示せるとは限らず、むしろ精緻なものの作成は難しいと考えます。そのため、分析の前提条件や作成方法を正確に記して、レポートの読み手に誤解を与えないようにすることが必要となります。また、前提条件や作成方法を正確に記述することで、デューデリジェンスを実施しているチーム内での検証も行いやすくなります。

 

5、販管費の分析

販管費の分析の主な目的は、EBITDA、ネットデットでの調整項目の把握、事業計画の前提条件である過去数値(1人あたり人件費や人員の過不足の状況等)の把握となります。

 

製造原価内容は人件費と経費に分けて分析を行うことが一般的です。

 

製造原価に計上すべき費用が販管費に計上されている場合や、年度によって製造原価の計上となっていたり、販管費の計上となっていたり継続的に同じ計上区分となっていない場合があるため、販管費の分析を行う場合には、併せて製造原価の分析を行うことが望ましいです。

 

 

人件費の分析は、主に下記の観点から行います。

 

①人件費の内容の把握

②1人あたり人件費水準の把握

③人員の過不足状況、退職率の把握

④残業の有無、支払いの有無の把握

⑤未払、引当等有無の確認

⑥退任役員の報酬水準の把握

 

①人件費の内容の把握

まず人件費の内容をレビューし、役員報酬の金額感、社員やパートのバランス、出向者の有無、退職金の支払いの有無、法定福利費の計上等の内容を把握します。

 

②1人あたり人件費水準の把握

対象会社が作成した、事業計画上の人員採用計画で、人員の採用数と採用に伴い増加する人件費が折り込まれます。その計画上の人件費の金額が適切であるかどうかは過年度の人件費の分析により確認を行います。

 

1人あたり人件費を分析する場合、部門ごとに人件費の金額水準が異なる場合には部門別に人件費を分析するのが有用です。今後、どの部門の人員を採用するのかで増加する人件費が異なるからです。上表では全体の人件費分析を行います。

 

上表のように月次平均人員数を賃金台帳等から算出します。月次で人員数を把握するのが困難な場合は、期初と期末の人員数の平均として分析することもありますが、人員の出入りが多い会社では、1人あたり人件費の水準の精度が下がってしまいますので、可能なかぎり月次で把握するのが望ましいでしょう。

 

また、社員、パートの別で賃金水準は大きく異なるため、それらを区分して把握します。給料手当が社員の給与、雑給がパートの給与であることを確認した上で、それぞれ平均人員数で除することで1人あたり給料手当・雑給を算出します。

 

この場合、1人あたり人件費ではなく、給与・雑給としているのは、法定福利費等を除いた純粋な給料の水準を把握する目的があります。法定福利費等には役員の法定福利費も含まれた金額となっているため、それを含めて人員数で除した金額は本来の社員1人あたりの人件費よりも高くなってしまいます。役員にかかる金額を除いて分析することも考えられますが、デューデリジェンスの短い期間での分析であるため、他の分析の重要度と勘案して行いますが、筆者の経験および見聞きした限りではここまでは分析していないものばかりでした。

 

役員報酬の金額が人件費の中で占める割合があまり多くない場合は、法定福利費等も含んだ社員1人あたり人件費は本来の金額とは大きく変わらないため、算出することが有用となります。

 

③人員の過不足状況、退職率の把握

現状の会社運営において、人員の過不足の状況を把握し、事業計画上の人員採用計画の妥当性を検証するための情報を入手します。人員が不足している状況下で、売上が増加する計画を作成しているものの、人員の補充が足りていない場合等が考えられ、このような場合は事業計画を修正する必要があります。また、事業計画上人員の採用を行っており十分な補充となっているように見えても、退職による人員減の影響を加味しておらず、計画上の採用人員では不足するケース等も考えられるため、人員の退職率等も把握するのが望ましいでしょう。

 

残業の有無、支払いの有無の把握

こちらの項目は未払残業代の金額を把握することが目的で、法務デューデリジェンスの労務部分との連係が必要となります。中小企業では残業代を支払っていない会社も少なくありません。また、残業代を支払っている場合でも、管理職には支払っておらず、法務デューデリジェンスの結果によっては当該管理職にも残業代の支払義務が生じていたことがわかるケースがあります。そのような場合は、ネットデットにて未払残業代を計上します。

 

⑤未払、引当等有無の確認

中小企業では、人件費の支払を発生主義ではなく現金主義を採用しており、発生したタイミングではなく、支払ったタイミングで費用処理をしている会社が少なくありません。例えば、対象会社が人件費の支払いは月末締め翌月25日払いであったとします。3月決算の場合、現金主義であれば3月末締めで4月25日払いの給料は費用処理されていません。発生主義で計上すると、3月末締めの給料は費用処理され、貸方に未払金が計上されます。当該未払金をネットデットの調整項目とするかを検討します。また給料だけでなく、会社負担の未払社会保険料も同様の処理を行います。

 

また、賞与を支給している場合であれば、賞与引当金の有無を確認します。賞与引当金が計上されていない場合は、対象会社の賞与規程を閲覧し賞与の支給対象期間を確認した上で、賞与引当金を計算します。当該賞与引当金をネットデットに計上するかを検討します。

 

さらに、対象会社の退職金規程において退職金を支給することとなっている場合には、確定給付制度なのか確定拠出制度なのかを確認します。確定給付制度を採用している場合には、退職給付引当金の計上が必要となります。退職給付引当金が未計上である会社の多くは従業員300人未満の会社であると想定されますので、その場合は簡便法にて退職給付引当金を計算します。簡便法では多くの場合、期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法がとられることが多いように思います。そして計算された退職給付引当金をネットデットの調整項目とするかを検討します。

 

⑥退任役員の報酬水準の把握

M&Aの成立によって退任役員が決まっている場合には、EBITDAのプロフォーマ調整項目となりますので、退任役員の役員報酬の金額を把握します。

 

 

6、営業外・特別損益の分析

営業外損益の分析の主な目的は、EBITDAに調整すべき項目の有無の把握および利息や売上割引、仕入割引等の金融費用を把握することです。

 

事業関連性が高く、経常的に発生する項目があればEBITDAの調整項目となります。例えば借上社宅の賃料支払いは販管費にて計上しており、従業員負担分を営業外収益としている場合には、それらは表裏一体と考えるのが自然ですので、EBITDA調整項目とします。また、持分法適用会社を所有している場合、持分法適用会社から生じる持分法投資損益が今後も発生が見込まれる場合には、EBITDA調整項目とします。

 

また、金融費用については、M&Aが成立した場合は負債構成が変更され、金融費用は従前と同様には発生しないと考えられます。事業計画上は、従前の金融費用を除外して新たな金融費用を組み込みます。

 

特別損益の分析の主な目的は、過年度における会社の主な動きの把握、EBITDA調整項目の有無の把握をすることです。

 

特別損益は、「特別」な項目ですので、会社として特別な事象が発生した場合に計上されます。固定資産の売却や店舗の撤退、補助金の取得等が計上され、過年度の会社の動きを特別損益項目からも確認します。

 

特別損益に計上されている項目であっても、事業関連性が強く経常的に発生する項目があればEBITDA調整項目とすることがあります。例えば、助成金収入を特別利益に計上している場合、助成金が継続的に得られ、今後も継続的に得られる見込みがある場合等は、EBITDA調整項目とすることを検討します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』」

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

◆DCF法とは?

1、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定

2、WACC(割引率)の計算

(WACC、負債コスト、株主資本コスト、リスクフリーレート、株式リスクプレミアム(ERP)、ベータ、サイズプレミアム

3、継続価値の算定

(継続価値、FCFに基づく成長モデル(ゴードンモデル)、倍率法モデル)

4、事業価値の算定

5、株式価値の算定

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

▷関連記事:M&Aにおける税務デューデリジェンスの目的、手順、調査範囲など

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

DCF法とは?


DCF法は、対象事業の営業活動から生じる評価基準日以降の「FCF(フリー・キャッシュ・フロー)」を「WACC (当該キャッシュ・フローのリスクを反映した割引率)」を用いて現在価値に割り引き、事業価値を算定する方法です。

 

将来の事業価値を買うという買収実態に適合する評価方法ですが、将来キャッシュ・フロー(見積もり)への依存が大きいため、評価の客観性に欠ける面もあります。そのため、倍率法等の結果を用いたクロスチェックが必要です。

 

 

◇DCF法の株式価値は、以下の手順で計算します。

(1)FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定

(2)WACC(割引率)の計算

(3)継続価値の算定

(4)事業価値の算定

(5)株式価値の算定

 

 

 

 

 

1、FCF(フリー・キャッシュ・フロー)の算定


FCFとは、営業活動によって獲得したキャッシュ・フローのことです。このキャッシュは、投資家(債権者と株主)に自由に分配することができるため、フリーという文字が付いています。

具体的には、以下の式によって計算されます。

 

FCF=A)営業利益+B)減価償却費-D)税金-E)設備投資±F)運転資本の増減

 

 

 

FCF算定の基礎となる事業計画は、対象会社から提供された事業計画をベースとします。売り手の事業計画の前提条件が買い手の想定と異なる場合は、売り手にする前提条件のヒアリング、両者の相違要因の検討、根拠資料の裏取り、外部コンサルタントからのアドバイスの入手等の作業を通じて、買い手の修正事業計画を作成します。

 

さらに、買い手のシナジー効果の金額効果を把握できるように、シナジー効果の有無を分けた事業計画を作成すると、価格交渉時にシナジー効果を売り手にどの程度与えるかという実践的な検討が可能となります。

 

 

 

2、WACC(割引率)の計算


【WACC】

WACCとはFCFのリスク(運用サイド)を反映した割引率のことです。投資家が要求する利回り(調達サイド)と説明されることもあります。割引率は、負債コストと株主資本コストの加重平均で算定されます。

割引率=(負債コスト/ 負債+資本)+(株主資本コスト/負債+資本)

 

負債は純有利子負債の残高、資本は株式時価総額(自己株式調整後)を用います。(厳密には、非支配持分等も考慮します)なお、以下で述べるβの観測期間中(2年~5年)に資本構成が大きく変動している場合、直近四半期末の負債及び時価総額ではなく、期間中の平均とすることを検討します。

 

 

 

【負債コスト】

負債コストとは、借入(借入金、社債等)による資金調達コストのことです。例えば、資金調達金利が3.0%の場合、税率30%と仮定すると、負債コストは2.1%(=3.0%×(1-30%)となります。支払利息は税務上損金算入できるので、負債コストは節税効果を考慮します。

 

実務では、対象会社が社債発行会社と社債未発行会社の場合に区分して、社債発行会社の場合は、当該社債の金利、社債未発行会社の場合は、対象会社と同等の格付けの社債金利を使用します。格付け別の社債金利情報は、日本証券業協会のHPに開示されています。

 

なお、借入金の金利を使用する場合、①借入時期が価値評価基準日の数年前の場合、その間に市場金利の水準や会社の信用リスクが変動している可能性があり、また、②対象会社が子会社である場合、親会社の信用補完が借入コストに反映されている可能性があります。そのため、価値評価基準日時点の社債市場等の公表利回りデータを参考にして、クロスチェックをすることをお勧めします。

 

 

 

【株主資本コスト】

株主資本コストは、対象会社の事業に対して、株主が要求する投資収益率のことをいいます。実務上は資本資産評価モデル(CAPM: Capital Asset Pricing Model)の公式を用いて、株主資本コストを推計します。

Ke = Rf +β×ERP

 

Ke:株主資本コスト

Rf:リスクフリーレート

β:株式市場全体に対する個別株式の感応度

ERP :株式リスクプレミアム(Equity Risk Premium)

 

投資家の合理的な行動を前提とする場合、リスクを最も低減しつつ、リターンを最も高めるポートフォリオは、株式市場全体の構成比率に分散させたポートフォリオであり、その場合の株主資本コストはRf+ERPとなります。

 

βは、株式市場全体の期待収益率の変化に対する個別株式の変化の度合いをいいます。βが1の場合は、株式市場全体が1変動すると、個別株式も1変動します。βが1.5の場合は、株式市場全体が1変動すると、個別銘柄は1.5変動します。このβをERPに乗じてRfを加算することによって、個別株式のリターンを算定しています。上場企業のβは、Bloomberg、日経会社情報等の市場データーベースから入手できます。

 

 

 

【リスクフリーレート】

取得の容易性、流動性を考慮して、直近日の日本国債(10年物)の流通利回りを用いるのが一般的です。Bloomberg、財務省HP等の市場データーベースから入手します。

 

 

 

【株式リスクプレミアム (ERP)】

株式リスクプレミアム(ERP)とは、株式市場全体(TOPIX等)に投資しようとする場合、投資家がリスクフリーレートに対して追加的に要求する期待リターンのことをいいます。

 

過去の東京証券取引所の上場株式に対する平均投資利回りと日本国債の投資利回りの差に関する実証分析から、実務では、5.5%~6.0%の範囲内で設定するケースが多いです。

 

 

 

【ベータ】

βとは、対象会社への株式投資が、株式式市場全体への投資と比較して、どれだけリスク(ボラティリティ)があるかを表す指標です。実務では、過去2年間の週次又は過去5年間の月次データを用いるのが一般的です。

 

 

 

 

対象会社が非上場会社の場合、類似会社数社のベータの中央値(異常値を除いた平均値)を使用します。なお、マーケットから入手した類似会社のベータ―は、財務リスク(資本構成の影響)を取り除く作業が必要なのですが、紙面の都合上、ここでは割愛します。

 

 

 

【サイズプレミアム】

サイズプレミアム(SCP)は、株式時価総額が小さな企業に対して適用するプレミアムのことをいいます。βが同じである場合、大企業よりも規模の小さな企業の方がリターンが高いという実証研究に基づくものであり、資本資産評価モデルでは捉えきれないリスクです。実務では、 ダフ・アンド・フェルプス株式会社が毎年公表している資料を参考にして、対象会社の株式時価総額の規模に応じたサイズプレミアム( 3.5%~5.3% )を決定します。

 

<計算例>

・社債金利: 3.0%

・税率: 30%

・リスクフリーレート:-0.05%

・β:18

・株式リスクプレミアム(ERP): 6.0%

・サイズプレミアム(SCP): 5.37%

・負債:資本=60:40

 

⇒負債コスト:2.1% = 3.0%×(1-30%)

⇒株主資本コスト:12.4%= -0.05% + 1.18 ×6.0% + 5.37%

⇒WACC:6.22% = 2.1%×60/(60+40)+12.4%×40/(60+40)

 

 

 

3、継続価値の算定


【継続価値】

DCF法による事業価値は、事業計画期間のFCFの現在価値と計画期間以降のFCFの現在価値(継続価値)から構成されます。継続価値は事業価値の過半以上を占めるケースが多く、慎重に算定する必要があります。実務では、案件の状況に応じて、以下の2つの方法がよく使用されます。

 

 

 

【FCFに基づく成長モデル(ゴードンモデル)】

 

 

計画期間以降の期間を通じて成長率が一定であること及び永久成長率がWACCを上回らないことを前提とします。実務上、永久成長率は、予想インフレ率・GDP成長率等を考慮して設定します。最近の国内案件では0%とすることが多いです。

 

 

 

【倍率法モデル】

 

EBITDA倍率は、事業計画期間終了時の会社の成長率・投資利回り・資本コスト等を総合的に考慮して設定します。なお、投資ファンド等の投資家は、将来の株式売却(EXIT)がほぼ確定しているため、現時点のEBITDA倍率を用いることがあります。

 

 

 

4、事業価値の算定


事業価値は、各期のFCF及び継続価値の現在割引価値の合計額となります。実務上、割引計算は、期央主義(各期のFCFは各期の中間時点で発生)を採用します。継続価値は、事業計画の最終年度と同じディスカウントファクターを用いて現在価値に割り引きます。

 

 

 

5、株式価値の算定


事業価値から非営業用資産の時価を加算し、純有利子負債を控除して株式価値を算定します。

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

—連載(全5回)—

第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

第5回:財務デューデリジェンスの発見事項の取扱い

※掲載タイトル、内容は予定のものを含みます。

 

 

[解説ニュース]

借地人の建物を地主が取壊した際の費用をめぐる税金トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.はじめに


最近、借地人側で相続が開始し、借地契約の解約、借地人の建物収去の問題が発生、それが地主の税金トラブルになるケースが散見されます。問題なのは、借地人の相続人に財力が期待できない場合です。というのも、地主側で建物を取壊す場合には、借地人名義の建物の収去費用について税金トラブルになることがあるからです。

 

借地人名義の建物の取壊しは本来、借地人が行うべきものです。建物を収去して更地にして返す契約となっているためです。この建物収去費用が地主の不動産所得の計算上必要経費と認められるかどうかをめぐって、昨年2つの裁決事例が出ています。1つは、必要経費と認められたもの(国税不服審判所、令和元年9月20日)、もう1つは必要経費として認められなかったもの(国税不服審判所、令和元年9月3日)です。その違いはどこにあったのか、見ていくことにします。

 

 

2.必要経費と認められた場合


事案の成り行きは次の通りです。

 

1、未払地代もあった借地人の相続(平成24年10月)に伴い、その相続人全員が相続放棄をした。

 

2、亡くなった借地人の財産は、相続財産法人に移行(民法951条)。

 

3、地主は平成25年8月、管轄の家庭裁判所に借地人の相続財産管理人の選任の申立てを行い(民法952条)、費用約100万円を予納した。同年9月管理人が選任。

 

4、地主は、平成25年10月、未払賃料の1週間以内の支払い催告とともに、支払いなきときは土地の賃貸借契約解除の意思表示の書面を相続財産管理人に送る。同月、土地の賃貸借契約は解除。

 

5、地主は相続財産法人を相手に、管轄の裁判所に対し賃貸住宅である建物の収去、損害金支払い等を求め提訴。

 

6、地主は、平成27年4月、建物の借家人の立退き、建物収去などにつき相続財産法人と和解が成立。

 

7、地主は和解条項通りに建物が収去されなかったので、同年12月までに裁判所の建物収去の代執行、土地明け渡しの強制執行を申立て、翌年3月までに執行を完了。収去費用は約650万円。

 

 

国税不服審判所は、前記事実関係などから「請求人らが本件土地を賃貸業務以外の用途に転用したことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、請求人らの土地の貸付けに係る業務、すなわち、不動産所得を生ずべき業務は、土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまで継続していたものと認められる」と認定。

 

そのうえで「土地から収益を得る業務を遂行するためには、(借地人の)建物を収去する必要があり、その収去に係る費用については、当初から自らが負担することを想定して建物の収去までの手続を遂行し、建物収去費を支出したところ、実際にも、相続財産法人は無資力であり、支出の時点において、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあったのであり、客観的にみても、建物収去費は、請求人らにおいて、自ら負担するほかなかったものと認められる」として「建物収取壊費用の支出は、客観的にみて、不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであった」としています。

 

 

3.必要経費と認められなかった場合


次の事案も、借地人側で相続が開始し、借地人の相続人が地代滞納したため、平成25年に地主が賃料債務不履行を理由に契約解除の意思表示をし、契約解除、建物収去明け渡しに関し裁判沙汰になったものです。ただ、平成26年に裁判外で「借家人の退去や建物解体手続きに協力すること、それが実現したときはその費用等を免除する」といった和解をしていました。

 

建物の収去は平成26年6月あら8月末までの間に行い、地主は、取壊しに係る費用3,656,880円を支払ったというものです。

 

国税不服審判所は、地主が「借地人が経済的に困窮しているため、建物の収去義務を確実かつ迅速に履行する保証がない旨判断し、和解契約を締結した上で、自己の負担で本件建物を取り壊した」としているが「各借地人の資産状況及び支払資力などを裏付ける客観的な資料をいずれも確認しておらず、また、各借地人のうち少なくとも1名にはその当時一定の所得があったことが認められることからすれば、請求人が取壊費用を負担せざるを得ない事情があったとは認められない」として、収去費用を必要経費と認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/07)より転載

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第4回:公的機関の活用(事業引継ぎ支援センター)

~事業引継ぎ支援センターとは?どのような相談ができる?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

 

 

 


[質問(Q)]

M&Aを検討するにあたり、相手先探しを支援してくれる公的機関として事業引継ぎ支援センター(以下、「センター」という)があると聞きましたが、よくわかりません。概要とどのような支援をしてくれるのか教えてください。また、センターに相談すると費用はいくらぐらいかかりますか。

 

 

[回答(A)]

センターは、後継者不在の中小企業・小規模事業承継をM&A等を活用して支援する目的である国の事業です。現在47 都道府県に設置されています。センターは、親族・従業員承継、再生、創業、廃業等事業承継に関連した相談やトラブルについても幅広く相談に乗り、対応しています。また、後継者不在の企業に対するマッチング支援を実施しています(相談料は無料です)。

 

 

 

1.センターの概要


センターは産業競争力強化法に基づき実施されている国の事業です。2011年から東京、大阪に開設されて以降、後継者問題に課題等を抱える中小企業経営者・小規模事業者に対して事業承継全般のご相談を受け、事業引継ぎ支援(M&A、役員・従業員承継)を実施しています。

 

また、地元の金融機関、士業と連携して、マッチングについて進捗支援を行うほか、登録機関等(※)にはノンネームデータベース(以下、「NNDB」という)を通じて案件情報を提供して相手先探しを促進しています。また、M&Aの経験が少ない士業の育成も実施しているセンターがあります。2018年度には全国で相談者数11,677 者、成約923 組の支援をしました。

 

 

(※) 登録機関は登録民間支援機関とマッチングコーディネーター(以下「MC」という)の総称。それぞれ各センターに登録した支援者を言います。

 

「登録民間支援機関」: 金融機関や民間仲介会社等がM&Aをフルサポートできる支援者
「MC」:士業法人等小規模マッチングに取り組む支援者

 

 

2.特徴


①立ち位置
公的機関ですので、公平、中立、秘密厳守で相談を受けています。

 

②受けられる相談
以下のようなご相談も幅広く受け付けています。
・ 事業承継について悩んでいる経営者が何から考えてよいのかわからない
・ 役員・従業員に事業承継したいがどのようにしたらよいかわからない
・ M&Aで相手先を探したい(譲渡、譲受両方)
・ 事業を成長させるために会社を引き継ぎたい(譲受)
・ 相手先と基本的な合意があるがどのように進めてよいかわからない
・ 後継者が不在なので廃業したい
等々です。

 

③ 主たる支援対象
・ 支援企業規模は小規模企業が中心

図1 にあるとおり、成約している譲渡側事業者の約60%が売上高1億円以下の事業者です。従業規模で見ても45%が従業員数1~5名以下の事業者となっています。

 

 

 

3.支援方法


支援方法は主に3 つの段階に分かれています。

 

①一次対応(相談)~方針決定まで
面談を通じて相談者の現状やご要望の相談を受け、方針決定まで助言をします。

 

②二次対応(登録機関に橋渡し)
M&A 方針の決定した候補先探索が必要な譲渡希望事業者、譲受希望事業者をセンターに登録している登録機関に橋渡しして支援する方法です(センターの相談は無料ですが、登録機関との契約は民間の契約となり、登録機関の費用は有料です)。

 

③三次対応(センター自ら引継ぎ支援)
相手が既に決定している相談者や、二次対応で相手先が見つからなかった相談者、後継者人材バンク(廃業予定の事業者と創業希望者をマッチングする支援手法)でセンターがお手伝いする方法です。主に、マッチングコーディネーターとして士業の皆様と連携支援しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

円滑な事業承継のための種類株式の活用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(吉濱 康倫/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

■贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

 

 

 

1.種類株式とは


会社法では「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」(会社法109条1項)としており、株式一株の権利内容は、原則として同じです。しかし、株式会社は異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行するように、定款で定めることができます(会社法108)。これを「種類株式」といいます。

 

 

2.種類株式の活用例


(1)議決権制限株式

議決権制限株式とは、株主総会における議決権を行使することができる事項について、他の株式とは異なる定めを置く株式です(会社法108条1項3号)。事業承継における問題として、相続による株式の分散により議決権が分散するため、後継者が過半数の議決権を確保することが困難になるという点が考えられます。これを解消するため、オーナー経営者が保有する普通株式の一部を完全無議決権株式に転換しておき、後継者に普通株式を、後継者以外の相続人には完全無議決権株式を相続させることで、株式は分散しても議決権を分散させないことが可能です。

 

(2)取得条項付株式

取得条項付株式は、株式を発行する会社が一定の事由が生じたことを条件として、その株式を取得できるという株式です(会社法108条1項6号)。取得条項付株式の対価は金銭に限らず、社債や他の種類株式など幅広い設定ができます。これを利用して、議決権制限株式に取得条項をつけておき、いつでも普通株式に転換できるようにしておくことも可能です。例えば、複数の後継者候補に議決権制限付かつ取得条項付株式を贈与しておき、後継者が確定した時点で普通株式に転換することで、後継者のみが議決権を手にすることができます。また、後継者以外の者に相続させる株式を取得条項付株式にしておけば、分配可能額((3)参照)の範囲で会社は自由にその株式を買い取ることが可能であり、少数株主対策の心配が無くなります。

 

(3)分配可能額

分配可能額とは、簡単に言うと、株式会社の最終の貸借対照表の純資産の部に計上されているその他資本剰余金の額とその他利益剰余金の合計額から、自己株式の帳簿価額等及び当期に既に分配した価額をマイナスした残額です(会社法461条2項)。また、株式会社が期中に臨時決算手続き(会社法441条)を行うことにより、前期末から配当基準日までの期間分の利益を分配可能額に反映させ、当該利益分だけ分配可能額を増加させることができます(会社法461条2項2号)。
株式会社が自己株式の買い取りを行う場合には、自己株式の取得の対価の総額が、分配可能額を超えることができないという規制(財源規制)があります(会社法461条1項)。この財源規制に違反して、株式会社が自己株式の買い取りをした場合であっても、原則としてその買い取り自体は無効にはなりません。しかし、取得条項付株式が自己株式として買い取られる場合(会社法155条1号)は、これらの財産の帳簿価額が分配可能額を超えているときには、取得条項付株式の取得が無効になります。(会社法170条5項)

 

 

3.種類株式を発行するための手続き


種類株式を発行するには、種類株式の内容及び発行する数を定款に定めて登記しなければなりません。(会社法108条2項、911条3項7号)。定款に種類株式に関する定めがない場合は定款を変更する必要があります。定款を変更するためには、株主総会の特別決議(議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数)が必要です(会社法309条2項11号、466条)。

 

 

4.種類株式の相続税法上の評価


財産評価基本通達(以下「財基通」)には種類株式の類型ごとに評価方法を定めている規定はありません。平成30年版財基通逐条解説704頁~705頁の「[参考2]種類株式の評価方法」では、「多種多様な種類株式については、権利内容や転換条件など様々な要因によってその発行価格や時価が決まってくると考えられる。しかもこのような種類株式については、社会一般における評価方法も確立されていないうえに、権利内容の組み合わせによっては、相当数の種類の株式の発行が可能であるから、その一般的な評価方法をあらかじめ定めておくことは困難である。したがって、財基通に定める評価方法がなじめないような種類株式については、個別に権利内容等を判断して評価する」という趣旨の考え方が示されています。その中で、中小企業の事業承継目的で活用が想定される特定の種類株式の評価方法は、国税庁から公表されている「相続等により取得した種類株式の評価について」や質疑応答事例において紹介されています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/08/31)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「従業員である相続人に退職金を支払った場合の債務控除の可否」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

 

 

 


[質問]

被相続人甲は、2020年2月に死亡しました。

 

相続人は甲の事業を承継しないこととし、甲が雇用していた全ての従業員を解雇し、退職金を支払います。甲が雇用していた従業員の中には、甲の相続人である乙も含まれています。

 

被相続人の死亡によって事業を廃止し、従業員を解雇していることから、乙以外の従業員に対して支払う退職金については、甲の相続税申告に当たって債務控除の対象になると考えます。

 

しかし、乙に対して支払う退職金については、相続税法第13条の規定により債務控除の対象とならないとの認識でよいでしょうか。

 

 

[回答]

個人事業者が死亡し、その事業を相続人が承継せず廃業したときに、当該個人事業者が雇用していた従業員に対して退職金を支払った場合、その退職金は相続税の債務控除の対象になる旨の質疑応答事例が国税庁ホームページに掲載されていますが、これはご承知のことかと思います。

 

この質疑応答事例によると、「その支給された退職金は、被相続人の生前事業を営む期間中の労務の対価であり、被相続人の債務として確実なものであると認められる」との考え方の下、債務控除することが可能との取扱いを明らかにしています。

 

ところで、ご質問の事例の乙への退職金については、乙が被相続人甲の相続人であることから、相続税法第13条の規定により債務控除の対象とならない、とのご見解のようですが、債務控除の対象になるとする考え方は、上記のとおり、被相続人が事業を営んでいる間の労務の対価であるかどうかがポイントですから、乙が実際に従業員として勤務した事実があれば、相続人(家族従業員)であるか否かは関係しませんし、相続税法第13条の規定をみても、相続人に対する債務を債務控除の対象から除外する規定もありません。

 

確かに、家族・相続人に対する支払いや債務ということだと、例えば、所得税法第56条のように、生計を一にする親族に労務の対価等を支払った場合は必要経費に算入しないという規定がありますし、民法上、相続人が積極財産と債務を承継した場合、混同により債務が消滅するということもありますので、第三者の場合とは異なるところがあるのではないかという疑問も生じるかも知れませんが、こと相続税の債務控除については、相続人乙に勤務実績があって、他の従業員と同様の基準等により退職金が支払われる限り、債務控除の対象にして差し支えないものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月3日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A  誌上セミナー]  

第3回:M&A手法の選び方

~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.必要資金

2.事務手続の煩雑さ

3.買収リスクを伴うか

 

 

▷第1回:なぜ「会社を買う」のか~買う側の理由、売る側の理由~

▷第2回:どのようにM&Aを行うのか~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

▷第4回:M&Aの流れ①(計画段階)~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

 

M&A手法の選び方

前回の解説にて多くのM&A手法を見てきました。では、実際にどの手法を選べばよいのでしょうか。まず「必要資金」「事務手続の煩雑さ」「買収リスク」の観点を考慮して自社の戦略を決定し、交渉事の世界に入っていく形となります。

 

 

1. 必要資金

M&Aを行う際、必要となる資金の観点は非常に重要ですね、まず大きい点として、対価を現金ではなく自社株式とすれば現金を用意する必要はありません。これは交渉事の世界ですが、事業を売る側が現金を必要としていない場合は、自社株による売買が可能となります。合併、会社分割、株式交換・株式移転が株式対価とすることが可能な手続です。

 

また、実際にかかるコストを見逃すことはできません。紹介会社や調査会社、アドバイザーへの事務手数料等、M&Aでは多くのコストがかかってきます。必要となる税金資金も異なります。課税の繰延によりその時点では税金がかからないケースもありますし、コスト負担は案件ごと・手法ごとにばらばらのため、M&Aの状況に照らし合わせてコストを考える必要があります。

 

 

2. 事務手続の煩雑さ

手法によって事務手続の煩雑さは異なりますが、株式売買であれば売買契約のみで済むため、比較的楽に終わります。

 

合併や会社分割、株式交換・株式移転は原則として株主総会特別決議が必要となります。合併や会社分割では債権者に対する異議申立の機会も必要です。

 

事業譲渡ですと資産負債を個別に売買するため、各契約・登記・許認可関係を一から行う必要があります。事業規模が膨らむほど手続は煩雑になります。また、重要な譲渡等一定の場合には株主総会の特別決議が必要です。

 

 

3. 買収リスクを伴うか

個々の資産にはリスクを伴わないものの、会社や事業全体を譲り受ける場合は一定のリスクを伴うことになります。思わぬ訴訟を抱えていたり、思わぬ簿外負債を抱えていたり、事業単位をまるっと買った場合には思わぬリスクがついてくるのです。

 

当然リスクを減らすよう表明保証やデューデリジェンス等様々な方策がM&Aの過程で取られますが、最終的にリスクを引き受けるのは買い手となります。

 

事業譲渡であれば個々の資産の承継となるので、事務手続は非常に煩雑であるものの、思わぬリスクを取らずに済むことができます。

 

 

あとは交渉事の世界となります。相手がどのような形を望むのか、自社として望ましい展開はどれかを考慮に入れ、最終的な着地を目指していきます。

 

 

 

 

[Point]

M&Aには多くの手法があり、自社と相手会社の思惑に合わせた手法を選択することが可能!

 

 

 

 

 

前回と今回でM&Aの第一歩として、「なぜM&Aが行われるか」「M&Aにはどのような方法があるか」を見ていきました。漠然としたM&Aに対するイメージが、少しでも具体的になっていただけると嬉しいです。