[解説ニュース]
遺産分割に伴う相続税更正請求時の自社株評価で税金裁判
〈解説〉
税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)
1.はじめに
相続税の更正の請求の特則を巡る税金裁判で、東京地裁は異例の判決を下しました(平成30年1月24日)。争点となったのは、主に相続財産である製造業グループの不動産管理会社(中会社)の非上場株式の評価が、遺産の未分割状態での当初申告と異なる評価額により行うことが認められるかどうかでした。ただ問題となった製造業グループ中心の大会社の非上場株式の評価について、以前に税務訴訟が提起され、納税者側が勝訴していたことが事態を複雑にしたようです。
その裁判では、主たる争点の1つにおいてグループ中心の大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にあわないとして、更正処分で採用された純資産価額を反映させた評価額ではなく、類似業種比準方式による評価額が認められています。これにより、同じく相続財産であった同社の子会社である不動産管理会社(中会社)の株式については、親会社の株式を70%以上保有して「株式保有特定会社」であったため、純資産価額方式で評価され、正しく計算し直した評価額が認定されていました(東京高裁平成25年2月28日・確定)。
これにより、国税庁は後に、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行ったことはよく知られています(「財産評価基本通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準の改正について」国税庁平成25年5月)。
2.相続税の更正の請求の特則とは
相続税では、未分割の財産の相続税の計算については、とりあえず各相続人が法定相続分で相続したものとして課税価格や税額を計算することになっています(相続税法55条)。その後分割されていなかった財産の分割協議が成立し、実際に相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なる場合がでてきます。こうして課税価額が減額した場合には、このことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は更正の請求(特則)をすることができるとされています(相続税法32条)。
3.争いの内容
上記の東京地裁異例判決の事案では、納税者が法定相続分で当初申告していた相続税につき、その際の税務訴訟でグループ中心の大会社の評価で類似業種比準方式が認められたことから、この評価を前提に正しく計算し直して認定した不動産管理会社(中会社)の株式の評価額を利用して遺産分割協議が調ったことに伴う更正の請求をしていました。というのも、上記の財産評価基本通達の変更という後発的な事由により更正の請求をするにしても、法定申告期限等から5年を経過している場合には法令上、減額できなかったからです。しかし当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして更正処分をしたため争いになったわけです。
4.裁判所の判断
東京地裁は判決で、更正の請求の特則について「原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち申告または従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできない」と解されると説示しました。
ただし、東京地裁はこの事案における相続税の更正の請求の特則の適用に当たり次のような問題点を指摘しました。①以前の裁判の判決が「課税価格および納付すべき税額につきその更正処分における金額と異なる金額を認定し、更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではない」。②しかし「その価額を申告における価額と置き換えることもその価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではない」。このため東京地裁は、「争点となった個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断ならびにこれらを基礎として算定される課税価格および相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定および法律判断として行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じている(中略)、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)に係る事件についても同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格および相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当」と判断、過去の税務訴訟で認定された株式の評価額も税務当局を拘束するとしています。
税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/03)より転載