[解説ニュース]

介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小泉紀子/税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

 

1.はじめに


最近相続税申告で、介護施設で亡くなられた場合の小規模宅地等の特例を適用するケースが増えてきているように思われます。今回は、その適用にあたって留意する点をお伝えします。

 

2.概要


介護施設で亡くなった場合でも、被相続人が入所前に居住していた家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件を満たすと、小規模宅地等の特例における「被相続人の居住の用」に供していたものとされます(措令第40の2②、③)。

 

①相続開始の直前に、被相続人が「要介護認定」又は「要支援認定」を受けていること
②老人福祉法等に規定する介護施設等に入所していたこと
③被相続人が居住していた家屋は、入所後に事業の用又は新たに被相続人以外の居住の用に供されていないこと

 

3.要介護認定の申請中に死亡した場合


要介護認定又は要支援認定を受けていたか否かの判定時期は、「相続開始の直前」とされています。

では、介護施設に入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょう。

このような場合に、相続開始後に要介護認定があったときには、要介護認定はその申請のあった日にさかのぼってその効力が生ずることとなり、相続開始の直前において要介護認定を受けていた者に該当するものとして取り扱うことが認められています。

 

4.添付書類


被相続人が介護施設に入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に次の書類を添付する必要があります。

 

①被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
②介護保険の被保険者証の写しなど、被相続人が要介護認定又は要支援認定を受けていたことを明らかにする書類
③施設への入所時における契約書の写しなど、その介護施設の名称及び所在地並びにその施設が老人福祉法等に規定する介護施設であることを明らかにする書類

 

①~③の書類のうち、実務上入手に困るのが②の書類です。介護保険の被保険者証は、亡くなると市区町村役場へ返却することになっているため、相続税申告にあたりご用意頂く書類を相続人の方へ伝える頃には、市区町村役場へ返却してしまっていることが多いです。市区町村役場に申請して別途要介護又は要支援の状態であったことを証明する書面を出してもらうことも可能ですが、手間がかかりますので、もしお伝えできるタイミングがありましたら、写しをとっておいてもらうことをお勧めします。

 

5.介護施設に入所中に自宅を相続した場合


以下の事例において、被相続人甲の自宅の建物を「本件家屋」、その敷地の用に供されている宅地等を「本件宅地等」とします。

 

被相続人甲はA有料老人ホームの入所前に、本件宅地等を居住の用に供していましたが、A有料老人ホームの入居中に本件家屋及び本件宅地等を配偶者乙から相続し、その後本件家屋に戻ることなく死亡しました。

 

この場合、被相続人甲は、A老人ホーム入居の直前においては本件宅地等を居住の用に供していたものの本件宅地等の所有者ではなく、本件宅地等を取得した後はこれを居住の用に供していないのですが、本件宅地等は、小規模宅地等の特例対象となるのでしょうか。

 

これについては、国税庁の平成30年12月7日付の文書回答事例で次のような見解が認められています。

 

すなわち、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等が、小規模宅地等の特例対象となる居住用宅地等に該当するか否かは、被相続人が有料老人ホーム等に入所して居住の用に供されなくなった直前の利用状況で判定することとされていますが、その時において被相続人が宅地等を所有していたか否かは、法令上特段の規定は設けられていないことから、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等に該当すると解され、特例の適用を受けることができると考えられます。」

 

なお、小規模宅地等の特例の適用判定は難しいため、適用にあたっては十分に要件を確認することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/15)より転載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

株式譲渡と営業譲渡 ~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


ここ数年M&Aが一気に進み、当社のお客さんや知り合いなど
事業承継とM&Aがかなり進んできました。

 

当社でも昨年、事業承継のプランニングを5社、M&Aのデューデリジェンスを
5社(うち4社買収)、従業員へのM&Aを1社 今年に入っても
事業承継プランの作成や、M&Aのスポットのアドバイザー業務を2件、
デューデリも以前打診がかなり来ています。

 

その中で小規模案件も増加しつつあり、株式譲渡が必ずしも
しっくりこない案件も見受けられるようになっています。

 

そこで、今回は、事業譲渡手法のメリットとデメリット」
お伝えしようと思います。

 

 

[メリット]
・一部の事業や資産のみを切り出しやすい。
・株式譲渡と異なり包括的な権利義務の移転ではないので簿外債務・訴訟リスクなどを引き継ぐリスクが低い。
・資産負債の差額はのれんとして5年償却可能。

 

[デメリット]
・個別に資産負債を移動するため、許認可などは取り直しになるケースが多い。
・資産の移転(売却)を伴うため不動産取得税・登録免許税・消費税など移転コストが高い。
・譲渡益は法人税・所得税の課税となり 株式譲渡より高くなる。

 

 

特に中小企業の場合には、「簿外債務」訴訟リスク」など見えない債務を
引き継がなくていい点が大きな魅力です。

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2019/08/14号)」より一部修正のうえ掲載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「子会社株式の譲渡に係る収益計上時期」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】子会社等を整理する場合の損失負担等について

■【Q&A】子が事業を引き継いだ場合の引き継いだ資産に係る減価償却

 

 

 


[質問]

子会社株式の譲渡契約書において、効力発生の時期を譲渡対価の2分の1を支払った時としていますが、先方の資金調達の都合から延期しており、効力発生が事業年度をまたぐ可能性があります。

 

有価証券の譲渡損益の計上時期は法61条の2第1項で契約日とされており、組織再編等の場合の譲渡損益の発生日については、規則27条の3又は通達2-1-22でそれぞれ計上日を定めていますが、子会社株式の譲渡については、特別な規定はないように思われます。

 

子会社株式の譲渡については、組織再編と同じく契約日から効力発生まで期間が長くなることが多いと思いますが、その場合でもやはり、契約日に譲渡損益を計上することになるのでしょうか。

 

 

[回答]

御指摘のとおり、法第61条の2第1項においては「その譲渡に係る契約をした日」の属する事業年度において損益に計上するものとされています。この規定は、企業会計における株式の譲渡時期に関する基準を勘案して創設されたといえますが、企業会計におけるこの基準は、上場株式においては、売買契約が成立すると即その効力が生じることを前提としたものと解されます。

 

したがって、売買契約の効力について、ご質問のような停止条件が付されている場合には、その停止条件が成就して初めて効力が発生しますから、停止条件が付されている場合の売買契約については、その契約に係る停止条件が成就した日をもって譲渡があったものと解すべきであると考えます。

 

したがって、ご質問の場合には、「効力発生の時期を譲渡代金の2分の1を支払った時」としているのであれば、そのことは停止条件と解されますから、その子会社株式の譲渡については、契約日ではなく、譲渡代金の2分の1を支払った時において譲渡があったものとして取り扱うことが相当であると解されます。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年12月18日回答)

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

贈与税の個人版事業承継税制の適用対象となる贈与者の要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

1.贈与税の個人版事業承継税制の概要


特定事業用資産(本連載2019年7月8号参照)を所有し、事業 不動産貸付業等を除く。を行っていた先代事業者として一定の者等(以下「贈与者」)から、後継者として一定の要件を満たす個人(本連載「特例事業受贈者」2019年9月6日号参照)が、令和10年12月31日までの贈与により、その事業に係る特定事業用資産の全部を取得した場合には、その特定事業用資産に係る贈与税について、担保提供その他一定の要件を満たすことによりその納税が猶予され、贈与者の死亡等により猶予されている贈与税の納付が免除されます(租税特別措置法(措法)70条の6の8第1項)。これが「贈与税の個人版事業承継税制」(以下「本特例」)です。

 

2.贈与者の主な要件


本特例の適用対象となる贈与者とは、次の(1)又は(2)のいずれに該当するかに応じ、それぞれに定める要件を満たす個人をいいます。

 

(1)贈与者が先代事業者の場合

次の①及び②の要件の全てを満たすことは必要です(措法施行令(措令)40条の7の8第1項1号)。

 

①その贈与の時において、所得税の税務署長にその事業を廃止した旨の届出書を提出していること、又は本特例に係る贈与税の申告書の提出期限までに、その事業を廃止した旨の届出書を提出する見込みであること。

 

②その事業について、その贈与の日を含む年、その前年及びその前々年の所得税の確定申告書を、青色申告書(措法25条の2第3項に規定する65万円の青色申告特別控除に係るものに限る。)により税務署長に提出していること。

 

(2)贈与者が先代事業者以外の場合

本特例の適用対象となる贈与者には、先代事業者と生計を一にする配偶者その他の親族等のうち一定の者が含まれます(措法70条の6の8第2項1号かっこ書)。

 

先代事業者の親族が本特例の適用対象となる贈与者に該当するためには、次の①及び②の要件の全てを満たすことが必要です(措令40条の7の8第1項2号)。

 

①(1)の贈与の直前において、(1)の先代事業者と生計を一にする親族であること(注1)。

②(1)の先代事業者の本特例の適用に係る贈与の時後に、その特定事業用資産(注2)の贈与をしていること。

③本特例の適用を受けようとする者が、その贈与の時前に相続又は遺贈により取得した、本特例の適用を受けようとする特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制(措法70条の6の10)の適用を受けようとする場合、又は受けている場合は、その先代事業者である被相続人の相続の開始の時後に、その特定事業用資産の贈与(注3)をしていること。

 

 

(注1)本特例の適用を受けようとする者(受贈者)が、その贈与の時前に相続又は遺贈により取得した、その特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制の適用を受けようとする場合、又は受けている場合には、「その先代事業者である被相続人の相続開始の直前において、その被相続人と生計を一にしていた親族であること。」が要件とされます。

 

(注2)先代事業者と生計をーにする親族が有する資産が特定事業用資産に該当するためには、その資産が先代経営者の一定の青色申告書に係る貸借対照表に計上されている必要があります(措法70条の6の8第2項1号かっこ書)。

 

(注3)③の贈与は、平成31(2019)年1月1日から令和10(2028)年12月31日までの間の贈与で、次の[1]又は[2]に掲げる日から1年を経過する日までの贈与に限ります(措法70条の6の8第1項かっこ書、措令40条の7の8第2項)。

 

[1]本特例の適用に係る贈与の日
[2]本特例の適用を受けようとする者が、本特例に係る贈与の時前に、相続等により取得した特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制の適用を受けようとする場合、又は受けている場合には、最初の相続税の個人版事業承継税制の適用に係る相続開始の日

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/07)より転載

[初級者のための入門解説]

事業承継税制の手続きの流れ ~ゼロから学ぶ「事業承継 超入門」④~

 

事業承継の基本ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『事業承継 超入門』」シリーズです。

今回は、事業承継税制の手続きの流れについて解説していきます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

2代目への生前贈与

事業承継税制は相続と贈与の両方ともに利用できますが、通常は「計画できない相続」でなく「計画が立て易い贈与」で利用するのが一般的です。

 

そういうわけで、今回は「贈与ケース」の利用の流れ=利用の全体像について、解説いたします。

 

特例事業承継税制(以下、単に「事業承継税制」といいます)を適用する場合には、都道府県への特例承継計画(様式21)の提出が必要ですが、特例承認計画の提出期限は、令和5年3月31日までとなっております。特例承継計画は対象会社が認定経営革新等支援機関(認定を受けた税理士・公認会計士等)の指導・助言を受けて作成し、通常は贈与前に都道府県に提出します。しかし、令和5年3月31日までであれば、贈与・相続後、認定申請までの提出でも認められます。(参考:中小企業庁ホームページ)

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_tokurei_yoshiki.htm

 

次に、生前贈与の実行へと進みますが、通常はXDayである贈与日を先に決め、贈与者である経営者は贈与日前に代表取締役を退任し、受贈者である先代後継者は贈与日前に代表取締役に就任しておきます。贈与日前に代表取締役の交代がすでに行われていれば交代は直前である必要はありません。また、贈与者である先代経営者は代表取締役の地位を辞すればよく、取締役として会社に残り役員報酬を受領することは可能です。

 

代表取締役交代を行った後に、株式を後継者に対して生前贈与します。

 

端的に言えば、代表取締役の地位と株式を先代経営者から後継者にバトンタッチするイメージです。

 

また、事業承継税制は、複数の株式保有者(例えば、先代経営者の妻)から後継者に対して株式を無税で贈与することも可能です。この場合、先代経営者の贈与に引き続いて贈与を実行します。このタイミングはとても重要で、先代経営者の贈与よりも先に、あるいは同時贈与するとその贈与株式については事業承継税制の適用は無いのでご注意ください。

 

贈与後に、対象会社が期限内(贈与翌年1月15日)に都道府県の担当部局に必要書類をそろえて認定申請を行います。この申請は、個人でなく対象会社が行います。

 

後継者(2代目)は、認定書の写しと共に、贈与税の申告期限内(贈与翌年3月15日)に税務署に贈与税の申告を行います。申告時に、猶予税額とこれに対する利子税に相当する担保の提供を行うと、この株式贈与についての後継者の贈与税は100%猶予されることとなります。

 

株式の贈与の際には、前回解説した入口3要件(あげる人、もらう人、対象会社)を満たしている必要があります。

 

 

 

生前贈与後の流れ

贈与税の申告期限の翌日から5年間は要件の厳しい経営承継期間です。この間、後継者(2代目)は代表者であり続け、対象となった株式は保有し続ける必要があります。その他前回解説した事後要件(5年間、5年経過後)を満たし続ける必要があります。

 

なお、先代経営者(1代目)は代表権を有することは認められませんが、有給役員として会社に在籍することが可能ですので、後継者(2代目)を支え、共に要件遵守をサポートできると理想的です。

 

申告期限の翌日から5年間は、都道府県への報告は毎年申告期限応当日の翌日から3ケ月以内に、税務署への届出書は5ケ月以内に提出が必要です。5年を過ぎると、3年を経過するごとに税務署に届出書の提出が必要ですが、都道府県への報告は不要です。

 

猶予された免除は

先代経営者(1代目)が亡くなると、後継者(2代目)が猶予されていた贈与税は全額免除されます。

 

また、後継者(2代目)が贈与を受けた株式は、贈与時の価額で後継者(2代目)が相続または遺贈により取得したものとみなされ、他の相続財産と合算して改めて相続税額が計算されます。

 

対象会社は、先代経営者(1代目)の死亡後期限内(8ケ月)に都道府県の担当部局に対して切替申請を行い、要件を満たしていることについて確認を受けると、対象株式に対して新たに発生した相続税は、相続税の猶予・免除制度の適用により引続き猶予されることとなります。この切替手続きを失念してしまい、相続税の猶予・免除制度が適用できなくなってしまうので注意が必要です。

 

3代目への承継

2代目の後継者から次の後継者(3代目)に対して事業承継税制により株式を生前贈与し、無事、次の世代へ承継できたところで2代目の後継者が猶予されていた相続税は晴れて免除となります。他方、後継者(2代目)の死亡により相続が発生した場合も同様に免除されます。

 

以上の流れを適用が可能なかぎり、代々繰り返していきますと、株式に対する承継時の税金負担が無く承継することが可能です。ただし、事業承継税制はあくまで令和9年12月31日までの制度ですので、今のところ令和10年以降は従前税制のみの適用となります。

 

なお、令和9年12月31日までに対象株式を贈与した場合のその後の事業承継税制の適用に関してですが、先代経営者が令和10年1月1日以降も生存している場合、みなし相続は令和10年1月1日以降何年先になっても事業承継税制が認められることになっています。すなわち、贈与ケース先行の場合には事実上令和9年12月31日までの期限が伸長される効果が得られます。

 

 

相続の場合

相続の場合は、事業承継税制適用には贈与ケースと同様、特例承認計画の提出が必要ですが、他の実質的な適用関係は先代経営者が亡くなり、相続が発生したところから開始となります。しかしながら、相続発生直後の不安定な状況のなか、後継者単独で5年間の経営承継期間を乗り切らなければならないのは大変なことなので、やはり計画できる贈与の方に優位性があると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「廃業・清算」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑦~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した7回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。 但し、現状がタイプDの会社であると判断しても、会社の健全性を高めて他のタイプの事業承継を選択する可能性もあり得ますので一度、外部専門家のコンサルティングを受けることも有用と考えられます。最終的にやむを得ず廃業・清算を選択する場合は以下のような手続きになります。なお、清算の際に債務超過である場合の取り扱いに関しては次回ご紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 三好誠司/公認会計士

 


【廃業・清算手続】

一般的な廃業・清算手続きの流れを簡単に図示しています。廃業の手続きは様々な手続きが必要となりますので、廃業を決断して即廃業できる訳ではありません。

 

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【廃業時の留意点】

①取引先への告知

廃業日を決めたら取引先に迷惑をかけないように廃業を伝えるあいさつを行うため廃業挨拶状を出します。廃業手続きは2~3か月程度かかるため廃業によって迷惑が掛からないように早い段階で行うことが望ましいです。

 

②従業員への通知

従業員は会社と雇用契約を締結しています。雇用先である会社が消滅すると従業員は解雇となりますが、解雇の場合には30日前に通知する必要があります。30日前に通知することが困難な場合は30日に満たない期間の給与支払いが必要となります。

③上記以外の関係者

・店舗や土地を賃借している場合、廃業に伴い物件の明渡しが必要となります。期限前の契約解除の場合は、契約内容に従った手続きが必要となりますので敷金や保証金、原状回復義務等についてあらかじめ条件を確認しておく必要があります。
・リース契約について中途解約は残期間までのリース料又はそれに相当する違約金を支払う必要がある契約が多いので資金面の手当てが必要になります。

 

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年4月22日)より再編集のうえ掲載

[解説ニュース]

連帯納付義務履行後の還付 ~納付書の記載に注意!~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

1.はじめに


同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産の価額を限度として、他の相続人又は受遺者が納付すべき相続税額について連帯納付義務があります(相法34①)。

 

したがって、例えば、相続人のうちの1人が相続税を滞納した場合には、他の相続人や受遺者にその納付を求められる場合があり、その際は、税務署から連帯納付義務者へ納付通知書が送付されます(相法34⑥)。

 

なお、実務上は、税務署から納付通知書の送付がある前であっても、連帯納付義務者が延滞税を心配して、連帯納付義務を果たすために、自主的に他の者の相続税を納付することがありますが、その際の納付書の記載方法によっては、その後に生じた過誤納金の還付を受ける者が異なるため注意が必要です。

 

2.前提となる事例


本稿では、次の事例を前提として解説します。

 

(1)被相続人甲の相続人は、配偶者乙と長男丙の2名。
(2)丙が相続税を納める様子がないことから、乙は自身の連帯納付義務と延滞税を懸念し、丙に係る相続税を納付した。
(3)その後、丙に係る相続税について過誤納金があることが判明し、その一部が還付されることになった。

 

3.過誤納金があった場合の還付先


(1)丙名義で納付した場合

上記2(2)で、乙が丙に係る相続税を納付する際、丙名義の納付書にて納付した場合には、基本的に※1、税務署においては実質的な出捐者が誰であるかということや、その納付手続を行ったのが誰であるかということに関わらず、丙が納付したものとして処理されます。

 

そして、その後、過誤納金が判明した場合の還付請求権は納税名義人である丙が有し、還付先は丙となります(ただし、乙・丙間では、債権債務が発生します。東京地裁平成25年11月26日判決)。

 

※1 納付時に乙が税務署へその旨の連絡をしていた場合等には、異なる取扱いがされることも考えられます。

 

(2)納付書に連帯納付義務に係る納付である旨を記載し、連帯納付義務者として納付した場合

上記2(2)で、乙が丙に係る相続税を納付する際、乙が下記のような納付書※2により納付していた場合には、税務署においては乙が納付したものとして処理されます。そして、その後、過誤納金が判明した場合の還付請求権は納税名義人である乙が有し、還付先は乙となります。

 

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※2 実際に東京国税局及び芝税務署の指導に基づき作成・納付した納付書をもとに記載しています。

 

4.最後に


上記3(1)のように、乙が丙名義の納付書で納付をしてしまうと、過誤納金の還付先は丙となります。

 

連帯納付義務を果たすため、他の相続人や受遺者の相続税を納付する場合には、後に税金が還付される場合に備えて、納付書の記載に留意するとともに、納付時には、その旨を税務署へ連絡しておくことが望ましいと考えます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/24)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

 

 

 


[質問]

次の事実が認められる場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるでしょうか。

 

①被相続人甲は平成30年1月に死亡し、公正証書遺言を残していました。

 

②遺言に従い、平成30年4月頃から各種財産の処分や登記、名義変更が開始されました。

 

③平成30年7月頃、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚しました。

 

④遺言書に記載のない財産について、遺言書には下記の通り記載されていました。

『遺言者は上記以外の一切の財産を、相続人乙に相続させる』

 

⑤しかし、相続人間の話し合いにより、財産Aは相続人丙が取得する旨の分割協議書を締結し、丙が取得しました。

 

結果、遺言に従うと乙が取得すべきである財産を、分割協議書の締結により丙が取得することになりましたが、この場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるのでしょうか。

 

 

[回答]

1 最高裁平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)は、「「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」と判示しています。

 

そこで、ご質問の場合も、その「相続させる」趣旨の遺言に従って、遺言書に記載の各種財産を各相続人が承継(取得)していたところ、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚したことから、遺言書に『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』と記載されてはいるものの、相続人間で遺産分割協議をして、この財産Aを相続人丙が取得することにしたというものです。

 

 

2 ご質問は、上記の場合、乙から丙に財産Aの贈与があったものと考えられるかどうかと問われるものですが、① 「相続させる」趣旨の遺言の内容と異なる遺産分割(の効力)が認められていること、② そもそもご質問の遺言書には財産Aについての帰属が定められていないと解する余地があることから、相続人全員の合意による遺産分割により、財産Aについては丙が相続により取得したものであるとして相続税の申告をする場合には、乙から丙に対し贈与があったものとして贈与税が課税されることはないものと考えます。

 

すなわち、上記判例によれば、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言は、特段の事情がない限り、被相続人の死亡時に当該遺産が当該相続人に直ちに相続されるので、遺産分割の協議や審判が介在する余地はないことになりますが、さいたま地裁平成14年2月7日判決(下級裁判所裁判例速報)は、「判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである」として、遺言の内容と異なる遺産分割の効力を認めています。なお、同判決に「このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能である」との判示があることから、贈与税の課税関係が生じるという考え方もありますが、(ご質問の場合は別として)課税庁が贈与部分や交換部分を特定することは極めて困難であると思われますし、遺産分割の効力が認められる以上、相続税の課税関係で足りるものと考えます。

 

また、平成27年10月2日裁決は、相続税調査により新たに発見された財産が、当初の遺産分割協議書に妻が取得する財産として「現金、家庭用財産など上記相続人が取得する以外の全財産」と記載されている条項に含まれるか否かについて、「一般に、個別的財産の遺産分割を定める条項により各人が取得する財産以外の財産を一部の者に取得させる旨の本件条項のようなものは、個別的財産の遺産分割による取得を定めた条項を設けた上での補充的なものであって、失念していた財産や家財道具を被相続人と同居していた家族等の適当な者に取得させるために用いられるものと考えられ、個別的な記載のない相当高額な財産については、当該補充的条項にその高額な財産をも含める旨合意されているなどの特別の事情がない限り、含まれないと解するのが自然である」と判断しています。ご質問の場合、(財産Aの内容は明らかではありませんが)遺言書の『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』との記載についても、裁決にいう「補充的条項」と解し、『上記以外の一切の財産』に財産Aは含まれないと解したことから、相続人全員で財産Aを丙に取得させる遺産分割を行ったという説明ができるのではないでしょうか。

 

 

○ さいたま地裁平成14年2月7日判決
(1) 特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。

 

しかしながら、このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。

 

被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、そうでなければ、被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら、遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。

 

法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが、このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし、その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり、ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから、前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

 

 

(2) 本件においては、本件土地を含むDの遺産につき、原告ら全ての相続人間において、本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ、Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく、原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上、被告は本件遺産分割については、第3者の地位にあり、その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると、本件遺産分割の効力を否定することはできず、本件土地は原告らの共有に属すると認められる。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年6月14日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[初級者のための入門解説]

デューデリジェンス(DD)とは?  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑥~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「デューデリジェンス(DD)」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aの場面でよく耳にする「デューデリジェンス(DD)」とは、簡単に言ってしまえば対象会社を調査することです。では、なぜM&Aの際にデューデリジェンス(DD)が必要とされるのでしょうか。

 

デューデリジェンス(DD)はなぜ必要?

M&Aの目的は様々ですが、対象会社をM&A候補とすることには理由(魅力)があることが一般的です。例えば、自社事業とのシナジー効果が期待できること、エンジニア等の優秀な人材が確保されていること、業界規制や新規契約が困難な重要な契約や権利を保有していることなどが挙げられるでしょう。

 

しかし、いざ会社を取得してみたら「想定と違った」「契約内容に欠陥があった」ということでは、会社を取得した目的が果たせなくなる可能性が生じます。

 

また、会社自体を取得する株式譲渡によるM&Aでは、対象会社の負う責任(義務)も合わせて取得することとなります、「会社の財務諸表が適切に作成されておらず、想定していない多額の簿外債務や債務保証が存在した」「重要な税務リスクや訴訟リスクを抱えていた」ということでは投資する意味は乏しく、またいくら魅力的に見える会社であっても事業として立ちいかなくなる可能性も存在します。

 

デューデリジェンス(DD)は、このような事態が発生しないよう、対象会社の実態を調査し、リスクや課題の洗い出しを行うために実施されます。

 

また、調査結果を踏まえて、「契約内容の見直しは必要か」「投資の方法(株式譲渡又は事業譲渡)への影響は」「取引価額(企業価値)は妥当か」などが検討されるのが一般的です。

 

M&Aの目的が様々なように、会社が持つリスクも様々です。そのため、対象会社のリスクや課題を洗い出すためには様々な視点から目的に応じて調査を実施する必要があり、デューデリジェンス(DD)もこの視点に応じて様々な種類があります。

 

 

 

 

 

拾い出す課題やリスクは?

デューデリジェンス(DD)は、その調査の視点から様々な種類がありますが、ここでは一般的なものとして、「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」「法務デューデリジェンス(法務DD)」について、具体的な調査方法やこの調査によって拾い出す課題やリスクを見ていきましょう。

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)の流れ、実施後の対処は?

これまででご紹介したデューデリジェンス(DD)はほんの一部であり、このほかにも様々な種類のデューデリジェンス(DD)があります。

 

課題やリスクの洗い出しの観点からは、様々なデューデリジェンス(DD)を実施することが望ましいですが、これにはコストも時間や労力も必要となります。そのため、一般的には対象企業の特徴やM&Aの目的から必要なデューデリジェンス(DD)やその深度を決定していくこととなります。

 

また、M&Aは多くの利害関係者(取引先や従業員等)に影響を及ぼすものであるため、余計な動揺を生じさせないためにも、その前段で行われるデューデリジェンス(DD)実行の情報が外部に漏れないようにすることも重要です。

 

 

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)による調査結果(報告)を参考に、「投資の最終意思決定」を行うこととなります。

 

具体的には、「買収リスクを抑制するための契約内容への反映」「M&Aの方法(株式譲渡か事業譲渡か)」「取引価額への反映」「買収後の事業運営方針」などを検討していくこととなります。

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「相続税・贈与税の事業承継税制について~資産保有型会社の判定で採用する基準~」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】事業承継税制の要件における会社の代表権を有していたことの意義

 

 

 


[質問]

資産保有型会社の判定において、貸借対照表に計上されている帳簿価額で判定することとされています。

中小企業においては、株式交換等の組織再編を行った場合などには税務基準で会計処理を行うことが一般的だと思われます。しかし、結合会計等の会計基準との金額のかい離が大きいため、どの基準によるかにより結果が大きく異なります。組織再編以外にも中小企業においては税効果会計、減損会計等の会計処理は、通常行われていないように思います。

 

意図的に税務基準、会計基準を使い分けし、要件をクリアにすることも可能な素地があるかと思いますが、あくまでも法人が採用している会計基準で判定するとの理解で良いですか。

 

 

[回答]

1 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除(の特例)の適用を受けることができない「資産保有型会社」を次のように定義しています(措法70の7②八、70の7の5②三)。

 

資産保有型会社とは、贈与の日又は相続開始の日の属する事業年度の直前の事業年度開始の日から贈与税額又は相続税額の全部につき納税猶予に係る期限が確定する日までの期間(措令40の8⑲)において、次の算式による割合が100分の70以上となる会社をいう、とされています。

 

 

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Aは、その日におけるその会社の総資産の貸借対照表に計上されている帳簿価額の総額

 

Bは、その日におけるその会社の特定資産(現金、預貯金、有価証券、書画骨董、その会社が自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、親族等に対する貸付金等をいいます。)の貸借対照表に計上されている帳簿価額の合計額

 

Cは、その日以前5年以内において、後継者及びその後継者と特別の関係がある者がその会社から受けた剰余金の配当等の額及び損金不算入となる役員給与の額の合計額

 

 

 

2 法令により資産保有型会社の定義を上記のとおりその法人が採用している経理方法による貸借対照表上の計上金額により判定することとされていますので、仮装経理など実体のない計上金額でない限りお尋ねの理解でよいと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月25日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

贈与税の個人版事業承継税制の対象となる後継者(特例事業受贈者)の要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

1.贈与税の個人版事業承継税制の概要


特定事業用資産(本連載2019年7月8日号参照)を所有し、事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)を行っていた先代事業者として一定の者 (贈与者)から、後継者として一定の個人(特例事業受贈者)が、令和10年12月31日までの贈与により、その事業に係る特定事業用資産の全部を取得した場合、特定事業用資産のうちこの税制の適用を受けるものに係る贈与税について、担保提供その他一定の要件を満たすことにより納税が猶予され、贈与者の死亡等により猶予されている贈与税の納付が免除されます(租税特別措置法(措法)70条の6の8第1項)。これが、贈与税の個人版事業承継税制(以下「本特例」)です。

 

2.後継者(特例事業受贈者)の要件


本特例の適用を受けるためには、上記1のとおり後継者が「特例事業受贈者」であることが必要です。特例事業受贈者とは、贈与者から贈与により特定事業用資産の取得をした個人で、 次に掲げる要件の全てを満たす者をいいます(措法70条の6の8第2項2号)。

 

 

(1)その贈与の日において20歳以上(令和4年4月1日以後の贈与については、「18歳以上」)であること。

 

 

(2)その個人が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)2条に規定する中小企業者に該当し、本特例の適用要件を満たすことにつき同法12条第1項の都道府県知事の認定(注1)を受けていること。

 

(注1)都道府県知事の認定の申請は、原則として、その特定事業用資産の贈与のあった年の翌年1月15日までに、後継者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事に対して行います(円滑化法施行規則7条第10項、第12項)。

 

 

(3)その贈与の日まで引き続き3年以上にわたり特定事業用資産に係る事業又はこれと同種もしくは類似の事業に係る業務(一定の就学を含む)に従事していたこと。

 

 

(4)その贈与の時からその贈与の日を含む年分の贈与税の申告期限まで引き続きその特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していること。

 

 

(5)その贈与の日を含む年分の贈与税の申告期限において、所得税法の規定によりその特定事業用資産に係る事業について開業届出書を提出し、かつ所得税の青色申告の承認(所得税法143条、147条)を受けていること。

 

 

(6)その特定事業用資産に係る事業が、その贈与の時において、資産保有型事業及び資産運用型事業(注2)ならびにいわゆる風営法が規定する性風俗関連特殊営業のいずれにも該当しないこと。

 

(注2)「資産保有型事業」とは、原則として、贈与の日を含む年の前年1月1日から、その特例事業受贈者の贈与税の納税猶予税額の全額の猶予の期限が確定(猶予の終了)する日までの期間のいずれかの日において、その日におけるその事業に係る貸借対照表上の総資産の帳簿価額のうち、現預金、有価証券、自ら使用していない不動産その他の資産(特定資産)の占める割合が70%以上となる事業をいいます(措法70条の6の8第2項4号、同施行令40条の7の8第14項)。

 

「資産運用型事業」とは、原則として、特例受贈事業用資産の贈与の日を含む年の前年1月1日から、その特例事業受贈者の贈与税の納税猶予税額の全額の猶予の期限が確定(猶予の終了)する日までの期間のいずれかの年において、事業所得に係る総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の占める割合が75%以上となる事業をいいます(措法70条の6の8第2項5号、同施行令40条の7の8第17項)。

 

 

(7)都道府県知事による個人事業承継計画の確認(円滑化法施行規則17条第1項3号)を受けていること(措法施行規則23条の8の8第6項)。

 

 

なお、後継者が上記の確認を受けるためには、所定の申請書に後継者候補の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営見通しや承継後の事業計画等を記載し、さらに認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受けた旨を記載のうえ、令和6年3月31日までに、これを先代事業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事あてに提出する必要があります(円滑化法施行規則17条4項、中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル」)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/06)より転載

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「M&Aによる第三者への売却」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑥~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した6回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプB(健全性は高いものの親族内後継者がいない会社)に着目します。 タイプBは、親族外の役員・従業員へ承継するケースと、第三者へ売却するケースに分けられますが、今回は、第三者へ売却(=M&A)するケースをご紹介します。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 藤田祐紀/公認会計士

 


【M&Aによる会社株式の第三者への売却】

M&Aによって会社株式を第三者へ売却するケースは、「会社を売る」ことであるため、心理的な抵抗感がある、株式売却後のキャッシュフローが得られなくなる、買手が付かなければ成立しない、などの特徴がある一方、一般的に親族内承継と比べて下記のようなメリットがあると言われています。

 

【親族内承継と比べたM&Aのメリット】

①現経営者は株式の売却資金を得ることができる

事業承継の場合、後継者は「会社」は引き継ぐ(=以降のキャッシュフローを得られる)ものの、承継時点では得られる資金はありません。それどころか、承継にあたって時価相当額に対する贈与税(現経営者が急逝の場合は相続税のことも)を支払う必要があり、納税資金の確保が必要となります。

 

その一方M&Aであれば、株式の売却代金から税金(売却益に係る所得税)を差し引いた分を現経営者が得ることとなりますので、承継(売却)時点での納税資金の確保は不要となります。

 

さらに、株式売却後、相続発生までに節税対策(生前贈与や不動産の購入による相続財産の引き下げ、非課税財産の購入など)を実施することで、相続税を抑えられる可能性も考えられます。

 

 

②個人保証を外す(承継しない)ことができる

通常、中小企業のオーナー社長は、会社の借入に対して個人保証を行っているケースが多いと思います。

 

金融機関のプロパー融資はもちろん、信用保証協会等が介在する公的な融資に対しても同様に個人保証を行うケースが大半だと思います。

 

事業承継の場合は後継者がこれら個人保証を引き継ぐことが一般的ですが、M&Aによって株式が譲渡された場合、買手は会社の全財産を引き継ぐこととなるため、個人保証は外れることとなります(自宅や個人所有財産を担保に差し入れていた場合はこれらの抵当権も外れることとなります)。

 

前回、述べた通り、個人保証を引き継ぐことは、後継者の事業承継意欲を阻害する一因と言われており、M&Aではこの個人保証の問題をクリアすることができると考えられます。

 

M&Aのメリットについて上記の様に述べて参りましたが、事業承継のうちどの方法が最適かは、現経営者の会社売却後のライフプラン、後継者の有無、買手企業の有無等によって変わってきますので、公認会計士・税理士の方にご相談することをおすすめします。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年3月20日)より再編集のうえ掲載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

事業承継事例 「子供に株式、甥には議決権」~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


今回は 当社がスキーム作りを手掛けた事業承継事例をお送りします。

 

直系親族以外への承継・甥への承継事例です。

 

 

A社の創業者は80歳になり、子供さんたちも40歳を超えていますが、
みなさん会社以外に勤務されそれぞれの道を歩んでおられます。

 

会社も継ぐつもりはないと・・・ 唯一親族で甥っ子さんが子会社の社長として
頑張られ徐々に業績も伸長し経営手腕を発揮されつつあります。

 

その状態で当社に保険会社の方を通じて相談に来られました。

 

 

社長は、「子供たちはもう立派に生活しているのだから株はいらないだろう、
会社を継ぐはずの甥っ子に相続してもらいたい」とおっしゃっていました。

 

 

しかし、なんとなく寂しさや決断しきれない様子でした。

 

・親族に継がないのであれば事業承継税制は使えない。
・単に娘に株式を上げてしまうと議決権が確保できず甥っ子さんは経営しにくいだろう
・甥っ子さんも若く数億円での買取も難しそうだ・・・

 

 

そこで社長に、「財産としての株式をお嬢さんに残し、議決権だけを甥っ子さんに

与えることができたらどうします??」と聞いてみました。

 

社長は「そんなことができるなら是非やりたい!」ということでした。
当社が司法書士先生と一緒に組み立てたスキームは下記のとおりです。

 

 

「株主間契約で議決権を甥っ子さんに預ける」

 

 

しかしお子さんたちは、契約なんて破棄できてしまうので、OO君(甥っ子)が
困るよね?きちんとした形で公正証書でやりたいとうことでした。

 

最終的には社長・お子様たち・甥っ子さんと一緒に会議を数度重ね

 

 

(1)配当と譲渡した場合の財産価値としての株式はお子さんたちに順次贈与

 

(2)議決権は民事信託によりまずは社長に信託、社長に万が一のことが
ある場合には甥っ子さんがそれを引継行使する

 

(3)社長の思いや守ってもらいたい約束事は、社長・お子様たち・
甥っ子さんの株主間契約を締結し守ってもらう。

 

 

これにより、後継者へは議決権が渡り、お子さんたちには財産権としての
株式が渡り思いに沿った事業承継ができました。また信託することにより、
受託者・委託者・受益者の全員の合意がない限り信託契約は変更できないため、
かなり強固な権利関係の固定化ができたと思います。
(誰か1名の暴走では契約変更・撤回できない)

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2019/02/10号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

 

1.はじめに


今回は最近の相続税の財産評価をめぐり、家屋の評価で特別の事情が認められるかどうかが問われた裁判例を取り上げます。

 

2.相続税の家屋評価


相続税の計算をする場合には、不動産や株式などの現物の相続財産については、金銭的価値を見積もり評価する必要があります。この際に指針となるのが、国税庁の財産評価基本通達(以下、財基通という)です。

 

財基通の評価の原則1⑵では「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」とされています。評価の際には「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」(財基通1⑶)ことになっています。

 

さて、家屋の評価は「その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条(固定資産課税台帳の登録事項)の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価」します(財基通89からの引用)。

 

固定資産評価基準(以下、評価基準という)における家屋の評価方法は、建物の構造や設備などの所定の部分について評点数をつけ積算し、建築後の年数に応じた経年減点補正率と評価の年の評点1点当たりの金額を乗じて評価額を求めます。また必要に応じて損耗減点補正、需給事情による減点補正が出来ます(評価基準第2章)。

 

そして、①評価基準及び財基通が、評価方法として合理的であること、②評価基準・財基通の通りに家屋が評価されていること、③明らかに「時価」を超えていないこと、④評価基準・財基通により評価することが適切ではない特別の事情がないこと、この4つを満たす限り、評価基準及び財基通による評価が適正な評価額と推認されるという考え方になっています。

 

3.家屋評価で争いになった裁判例


ここで取り上げる家屋の評価の裁判例は、古い家屋のうち1戸の評価について、「特別の事情」があるため不動産鑑定評価額約300万円で相続税の当初申告、不動産鑑定評価額約400万円で修正申告等をしていた納税者が、税務署から財基通に基づく評価約1,800万円で更正され、争いになった事例です(札幌地裁平成31年3月8日判決、他の争点もありますがここでは割愛します)。

 

4.納税者の主張


納税者は概略「築後約20年から40年が経過したものであり、老朽化が見受けられるものであるから、その評価に際しては、必要な経年減価が行われるべきである。しかし、評価基準及び財基通においては、最低20%という高い補正率(経年減点補正率)が採用されており、減価が不十分なものとなっている」と指摘し、特別の事情があるとしました。

 

そのうえで納税者は「「時価」(中略)の算定方法は評価通達の定める評価方式に限られるものではなく、不動産鑑定評価によってその算出を行うことも可能」との考えで不動産鑑評価額が「客観的な交換価値を反映した評価である」と主張しました。

 

5.裁判所の判断


裁判所は「評価基準により算出された価額を基にして家屋の評価を行う評価通達の定めも、家屋の客観的な交換価値を算出する方法として一般的な合理性を有するもの」と認めました。

 

そのうえで、納税者が「経年減点補正率の下限が20 %と極めて高く、家屋の実際の取引価格との帯離が著しく大きい」ことから評価方法として、一般的な合理性がないと指摘した点について、裁判所は経年減点補正率だけでは適当と認められない場合に個別事情を踏まえた減点補正ができることから「評価基準の一般的な合理性を否定する事情にはならない」としました。

 

また鑑定評価額と財基通に基づく評価額に乖離があることについて裁判所は、「時価を評価する方法として客観的で、一義的なものがあるわけではなく、その評価額にも自ずと一定の幅が生じることは避けられない。(中略)相続財産について評価通達の定める評価方法によって算出した額が不動産鑑定評価基準に則って鑑定した額を上回る場合であっても、それはいずれも合理性を有する異なる評価(の)基準を用いて算出した結果が異なるものであることを意味しているにすぎず、評価通達の定める評価方式によって時価を適切に算定することができない特別の事情があることを推認させるものではない」として納税者の主張を退けています(判決文書からの引用、()括弧内・赤字は筆者加筆)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/02)より転載

[初級者のための入門解説]

事業承継税制の概要~ゼロから学ぶ「事業承継 超入門」③~

 

事業承継の基本ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『事業承継 超入門』」シリーズです。

今回は、事業承継税制の制度の概要や利用の仕方について解説していきます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

税制の利用の仕方は

前回、解説したとおり事業承継には、親から子などへの「親族承継」、役員や従業員への「社内承継」、外部に譲渡する「M&A」の3つの類型がありますが、このうち、「親族承継」の場合には事業承継税制の利用を検討すべきです。

 

理由は、事業承継税制の利用によって、株式の相続や贈与に係る税金が無税にできるためですが、無償の取引でないと利用できないので、通常は親族への贈与や相続が対象になります。言い方を変えると、役員・従業員、M&Aでも「無償取引」であれば事業承継税制の対象になります。

 

 

 

 

事業承継税制は、「無償」の贈与か相続で利用できます。事業承継は、事業をスムーズに後継者にバトンタッチする一連の手続です。

 

当然税金だけの問題でなく、「経営者保証の問題」「他の事業用資産の有無」「議決権の支配状況」「後継者教育」「従業員や取引関係者・金融機関の協力取り付け」などの諸課題の検討を同時並行的に進めるため、計画できない相続でなく、計画的な贈与がマッチします。そこで、通常は「XDay(贈与日)」を決めた上で、承継計画を立案します。

 

 

 

 

 

事業承継税制の主な要件

2018年4月に新しく生まれ変わった事業承継税制(以下、「新税制」といいます)は対象株式に係る相続税又は贈与税が無税(あくまで猶予です)となる画期的な制度です。

 

「株式」が対象ですが、あらかじめ個人所有資産を会社に移管してしまえば、その資産も株式に包含される形で対象にすることができます(移管には制約があります)。

 

新税制の要件としては、適用を受ける際の「入口要件」と適用を受けた後、その税が免除されるまで(死亡等まで)の期間中順守しなければならない「事後要件」によって構成されます。

 

入口要件としては、「あげる人」、「もらう人」、「その対象会社」の3つの要件を満たす必要があります。

 

(1)入口要件

新税制の適用を受けるためには、適用を受ける際に3つの要件、すなわち、「先代経営者の要件」「後継者の要件」「対象会社の要件」のすべてを満たす必要があります。簡単に言うと、あげる人、もらう人、その対象となる会社、の3要件で、それぞれの主な要件を示すと下記図のとおりです。

 

 

(2)事後要件

事業承継税制は、税がいきなり免除されるわけでなく、税の猶予からスタートします。それではいつ免除されるかと言うと、「先代経営者(贈与者)が死亡した時等」に後継者が猶予されていた贈与税が免除されます。

 

あくまでも税の猶予制度ですから、猶予期間中、守らなければならない要件、すなわち”事後要件“があり、「申告期限から5年間」守らなければならない要件と、「5年経過後も」守らなければならない要件によって構成されます。

 

当然のことながら最初の5年間の方が厳しく、「代表者でありつづけること」「株式を継続保有(すべての承継株式)し続けること」などを守る必要があります。

 

5年経過後は、代表者を退任すること、株式を売却することも可能ですが、株式を売却した場合には売却分に応じた猶予税の納付をしなければなりません。なお、経営環境変化事由に該当する場合はその時点での税の再計算が認められております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

民法改正 ~特別の寄与~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

1. はじめに


民法改正により創設された「特別の寄与」について解説します(2019年7月1日以後の相続から適用)。

 

2. 特別の寄与に関する民法規定(民法1050①②⑤)


特別寄与者(下記3.参照)は、相続開始後、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。また、その支払いについて当事者間に協議が調わない場合等には、一定期間内に、家庭裁判所にそれに代わる処分を請求することができます。

 

相続人が複数いる場合には、各相続人は法定相続分又は指定相続分に応じて特別寄与料を負担します。

 

3. 特別寄与者の要件(民法1050①)


(1)被相続人の親族(相続人、相続放棄をした者、及び相続権を失った者を除く)であること
(2)被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供をしたこと
(3)上記(2)により、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと

 

4. 相続税法における取扱い


(1)特別寄与料の支払確定前

特別寄与料は、当事者間で協議が調うまで、又は家庭裁判所の審判があるまでは、その支払いが確定しません。したがって、その支払確定前は、請求中であったとしても特別寄与料の支払いがないものとして相続税を計算します。

 

(2)特別寄与料の支払確定後 ※1
①特別寄与者

(a) 相続税の計算(相法4②)
特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与料相当額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法29①、33)
上記(a)による計算の結果、納付すべき相続税額がある場合には、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の期限内申告書を提出し、相続税を納付しなければなりません。

 

②相続人

(a) 相続税の計算(相法13④)
特別寄与料の額が確定した場合には、「各相続人が相続又は遺贈により取得した財産の価額から特別寄与料の額のうちその相続人の負担に属する部分の金額を控除して、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法27①、32①、33)

5.税務上の留意点等


(1)相続税額の2割加算(相法18)

特別寄与者となり得る者の多くは、相続税額の2割加算の適用対象者でもあるため、特別寄与料の支払いがあった場合には、基本的に、同一の被相続人に係る相続税の納税総額は増加する点に留意が必要です。

 

(2)特別寄与者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産がある場合(相法19)

特別寄与者が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、相続税の計算上、贈与財産の加算と贈与税額控除の適用があります。特別寄与料の額のみを申告すればよいわけではない点に留意が必要です。

 

(3)特別寄与料を金銭ではなく不動産や有価証券等の現物で支払った場合

特別寄与者が有する特別寄与料の支払請求権は、民法上、金銭債権とされています。したがって、相続人がその金銭債権に係る債務を履行するために、特別寄与者に対して不動産や有価証券等の現物を移転した場合には、その相続人が代物弁済をしたものとして取り扱われます(民法482)。

 

税務上、代物弁済があった場合には、その代物弁済により移転する資産の譲渡があったものとして取り扱われます。すなわち、代物弁済により譲渡所得の基因となる資産を移転する場合には、原則として代物弁済により消滅する債務の額(特別寄与料の額)を譲渡所得の総収入金額として譲渡所得を計算することになります。

 

(4)特別寄与料に相当する金額の贈与をする場合

上記(1)に記載のとおり、特別寄与料を加味して相続税申告をする場合には、基本的に納税総額は増加します。

 

また、期限内申告書の提出後に特別寄与料の額が確定したような場合には、あらためて相続税の申告書等を作成しなければならないという実務上の煩雑さもあります。

 

特別寄与料の額、追加で納付することとなる税額、専門家報酬の額等によっては、実務上は、民法の「特別の寄与」の制度によることなく(相続人から特別寄与者への特別寄与料の支払いではなく)、相続人と特別寄与者との合意により、「相続人から特別寄与者への特別寄与料相当額の金銭の贈与」をし、贈与税の申告・納付で解決することもあると考えます。

 

 

※1 特別寄与者は、特別寄与料以外の財産を被相続人からの遺贈により取得していないものとします。
※2 相続人は、相続税の期限内申告・納付をしている場合を前提とします。

 

 

 

 

 

 

 

法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/26)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「子会社等を整理する場合の損失負担等」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】子会社株式の譲渡に係る収益計上時期

■【Q&A】子が事業を引き継いだ場合の引き継いだ資産に係る減価償却

 

 

 


[質問]

業績不振の子会社の株式譲渡を考えており、その譲渡前に債権放棄の実行も計画しています。
その債権放棄が寄附金と認定された場合、グループ法人税制を踏まえた申告書の表し方にわからない点があります。

 

1. 持株関係

1826030①.jpg

 

 

2. 動き
①B社は、子会社であるC社が業績不良であるため、全くのグループ外部であるD社に株式譲渡を考えている。

②B社はC社に対し、多額の貸付金を有し、C社は債務超過であるため、譲渡前に債権放棄を計画している。

 

3. 質問
B社の債権放棄が寄附金となった場合

 

グループ法人税制により、B社は寄附金の損金不算入、別表五で子会社の簿価修正③増となり、C社は受贈益の益金不算入、B社は寄附金修正認容を立て、別表五減で子会社簿価修正を消し、改めて寄附金限度額計算を行うのか。

 

それとも期末申告時にはグループ法人ではないので、ごく普通の外部への寄附としてB社C社ともに申告書を作成すればよいのか。

 

 

1826030②.jpg

 

 

[回答]

 

1、 営業不振の子会社を解散させずに他の企業に経営権を譲渡する場合があります。例えば、経営不振で再建に自信のない子会社の経営権を他の企業に移譲するため株式を譲渡した場合でも、譲り受ける側の企業としては、その譲受け後における子会社経営上の責任を考えて、赤字をできるだけ圧縮した上でなければ株式の譲受けには応じられないとの要求が十分に考えられます。このため、やむを得ず子会社に対する貸付金等の一部(又は全部)を切捨てをしてある程度子会社の財政面を改善した上で株式の譲渡をするという事例があります。

 

このような債権の切捨てについても、親会社として今後発生するであろうより大きな損失を回避するためにやむを得ず行う損失の負担であると認められる場合が少なくないとの考え方から、法人がその子会社の解散、経営権の譲渡等に伴い、債務の引受、債権の放棄その他の損失の負担をした場合であっても、それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情があるときは、税務上もこれを寄附金として取り扱わないこととされています(法基通9-4-2)。

 

ご照会事例については、C社の債務超過の状態、債権放棄の規模等が明らかでありませんので確答はできかねますが、一般論としては、法基通9-4-1の取扱いの適用の可能性は高いものと考えます。

 

(参考)

損失負担等をする相当な判断基準については、国税庁タックスアンサーホームページ「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例(コード№5280)」を参考にしてください。

 

 

2、 法人税法37条2項において「内国法人が各事業年度において当該法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額は~」と規定していることから、寄附金を支出した時点で完全支配関係があるかどうかを判断することになると思われます。したがって、ご照会事例については、債権放棄した時点ではB社とC社との間に完全支配関係がありますのでグループ法人税制の適用があると考えます。

 

したがって、本件については、寄附金修正事由が生じているため、A社及びB社についてそれぞれ次のような処理を行うことになると思われます。

 

まず、A社はB社株式について寄附金の額に持分割合100%を乗じた金額を利益積立金から減算するとともに、同額を寄附金修正事由が生じた時の直前のB社株式から減算し、減算後の帳簿価額を株式の数で除した金額を1株当たりの帳簿価額とします(例9①七、令119の3⑥)。

 

また、B社は寄附金の額に持分割合100%を乗じた金額を利益積立金額に加算するとともに、同額を寄附金修正事由が生じた時の直前の帳簿価額に加算し、加算後の帳簿価額を株式の数で除した金額を1株当たり帳簿価額とします。

 

したがって、B社がC社株式を譲渡した場合の譲渡原価の額は、修正後の金額になると考えます。

 

なお、C社においては、完全支配関係の判定時点は、受贈時点と考えられますので、B社がC社株式を譲渡した場合であっても受贈益の修正処理(益金算入)はないものと考えます。

 

(参考)

寄附金修正事由が生じた場合の株主の処理については、平成22年8月10日付「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)(情報)」の問7を参考としてください。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年11月28日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

会社の特別清算に伴う法人の金銭債権の貸倒処理(参考:東京地裁平29年1月19日判決)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1. はじめに


特別清算とは、会社法上の制度で、解散後・清算中の株式会社について債務超過の疑いがある場合等に裁判所の命令により開始され、その監督のもとで行われる(特別の)清算手続であり(会社法510条~574条外)、協定型と個別和解型があります。

 

2. 特別清算の2類型と特別清算に伴う貸倒処理に係る法人税基本通達9-6-1(2)とその他の通達


表題の通達9-6-1 (2)は、法人の有する清算会社に対する金銭債権の額のうち、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額」は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」旨を定めています。

 

ここでいう「協定」とは、会社法563条以下の定めに従って行われる手続きで、清算会社と協定債権者(一般債権者のこと)との間で、清算会社が協定債権者に弁済をすること及び協定債権者は弁済を受けられなかった部分を免除することを取り決めることで、清算会社が債権者集会に対して協定の申し出をして、債権者集会において法定の要件を満たす同意を得て可決し、さらに、裁判所の認可の決定を得て成立し効力を生じます。協定が成立するとそれに同意しなかった債権者も拘束されます。

 

これに対し、債権者が少数の場合(特に、清算会社の親会社などその関係者のみが債権者である場合)、協定に代え、協定よりコストや迅速性で勝る「個別和解」により清算が行われる場合があります。個別和解は、一部弁済と引き換えに残債免除とする場合が一般的で、裁判所の許可により効力が生じます(同法535条①4)。

 

ここで留意すべきは、特別清算により切り捨てられた金銭債権につき、9-6-1がその(2)該当の貸倒損失として損金の額に算入することを認めるのは、あくまで協定により免除される(切り捨てられる)場合のその免除額に限っており、個別和解による免除(切り捨て)額はこの(2)に当たらないということです。それは、まず、同通達(2)の文言上、そこに個別和解も含むことは読みとれないことから明らかであるといえますが、それを措いても、個別和解は、協定の裁判所による認可とは別個の手続で、当事者間の公平を担保する、又は通常の合理性のない馴れ合い的な和解を修正するための規定もないため、たとえば、親会社と子会社のみが当事者の場合、いかようにも和解(債務免除)の合意ができます。よって、個別和解による債務免除を協定によるそれと同等に扱うことは不合理です。

 

以上の通り、協定型ではなく個別和解型の特別清算手続が多く利用されているとしても、特別清算手続でありさえすれば、子会社の整理に関する親会社の負担(債務免除)額を無条件に損金の額に算入できるわけではありません。基本通達が、特別清算による債権の切り捨てについて協定によるものであることを要件に貸倒損失として損金算入を認めようとしていることには合理性があり、それを満たすことが必要です。

 

以上の通り、個別和解による免除額は上記通達の(2)に当たりませんが、個別和解による債務免除は、同通達が貸倒損失として損金算入を認める4つ目の類型として挙げる「(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」に当たる余地は残ります。この(4)の「場合」に該当するかどうかの判断は、金銭債権の弁済の可能性の判断につき「債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき等による経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、 社会通念に従って総合的に判断されるべき」と判示した平成16年12月24日の最高裁判決に沿って行うべきと考えられます。

 

この(4)にも当たらない場合は、別の法人税基本通達9-4-1により、法人税法37条の寄附金に該当するか否かの判断をすることになります。つまり、同通達が寄附金に当たらない要件として示す「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められる」か否かを検討することになりますが、この(4)に当たらない場合は、9-4-1が示す要件も満たさないことが多い、すなわち寄附金となる場合が多いと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/19)より転載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

ICTを活用しM&A後の経理体制を合理的に作る【体験記】 ~事業承継に活用したい手法~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、「M&A後の経理体制」についてご解説いただきます。ぜひご参考にしてみてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


シリーズ事業承継の活用手法として、中小企業の事業承継や財産の分散防止に効果的な信託などを解説していますが、今回は「M&A後の経理体制を作る」【体験記】をお送りします。

 

 

今年3月にお客様の依頼で、M&Aのデューデリジェンスを行い5月に買収実施しました。

売上10億円の製造業の会社です。

 

その会社は社長と経理の奥様が一緒にご引退されることになりましたので、経理の後釜を探す予定でした。

 

当社に相談が来たのですが

 

(1)経理人材はなかなか募集しても来ない
(2)会社の営業事務や総務がしっかりされているので、基本的な資料はそろっている。

 

上記の2点から当社で経理事務を一括で請け負うことにしました。

結果下記の体制ができました。

 

 

(1)売上・原価は販売管理システムから仕訳を読み込み

(2)預金はFintech機能で自動計上

(3)現金は現金出納帳のエクセルから読み込み

(4)給与は勤怠データと修正事項だけお伝えいただき当社で計算し、振込データ作成→社長に確認承認いただく 会計データは給与計算システムから自動連動

(5)様々な証憑請求書はチャットワークに会社の人に貼っていただき当社で確認読込

(6)2クリックで会計データからデータを切り出し、会社のお好みの形式の経営管理データを一瞬にして作ることができる。

 

結果一部の仕訳以外99%が仕訳読込で 手入力はほぼなくなりました。

会計データも翌月8日程度には完成しています。

 

会社様も経理人材を雇用することなく
大幅なコストカット&属人的な業務に陥っていた体制が改善され
試算表も早く出ることになりました。

 

また、同時に売上データからセグメントデータも読み込んでいるため
セグメント管理も実現することができました。

 

その結果、社長、常務と業績等について話を聞く時間を十分に確保することができ、意思決定も早くなり、

 

会社の社長常務のお好みのセグメントデータも2クリックでリアルタイムに見ることができ経営陣のコミュニケーションも活発化し、大変喜ばれています。

 

ICTの活用で経理は1社一人もいらない時代になったんですね!

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2018/11/20号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

■配偶者居住権等の評価

 

 

1.配偶者居住権の意義


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割または遺言により、その居住していた建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住したり賃貸したりする権利(=「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

2.配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例


(1)小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例とは、個人が相続等により取得した宅地(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下「宅地等」。)のうち被相続人又は被相続人と生計をーにしていた被相続人の親族(被相続人等)の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等(下図の4区分)について、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業や居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合は、被相続人等に係る相続税の計算上、一定の面積(限度面積)までの部分について、その相続税の課税価格を次のとおり減額する特例をいいます(租税特別措置法69条の4)。

 

 

(2)配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用

配偶者居住権自体は、建物に関する権利であることから、宅地等に係る特例である、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権は、前述(1)の「土地の上に存する権利」に該当することから、上図④の特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
居住建物の敷地の所有権についても、その取得者が居住建物に被相続人と同居していた等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第1項、第3項2号・財務省「平成31(令和元)年度税制改正の解説」539頁)。

 

3.配偶者居住権等と相続税の物納


(1)相続税の物納の概要

相続税法は、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として金銭以外の一定の財産による納税(物納)が認められています(同41条第1項)。
相続税の物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税の適用を受ける財産を除く。)で、日本国内に所在するもののうち一定のものをいい、譲渡制限が付されている株式など一定の財産は、管理処分に不適格な財産(「管理処分不適格財産」)として物納財産から除外されています(相続税法41条第2項、同施行令18条)。また物納財産が複数ある場合には、相続税法上、物納に充てることができる財産の順位が定められています(相続税法41条第2項、第5項)。

(2)配偶者居住権等と物納の適用

配偶者居住権自体は譲渡が禁止(民法1032条第2項)されていることから、上記3(1)の「管理処分不適格財産」に該当し、物納に充てることができません(相続税法41条第2項)。
配偶者居住権が設定された建物およびその敷地の所有権は、他の財産に比べて物納の順位が後れる「物納劣後財産」とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます(同法第4項)。

 

4.適用時期


上記2(2)と3(2)の取扱いは、配偶者居住権に関する民法の施行日である、令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます(改正法附則1条7号ロ)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/13)より転載