株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給 ~現金支給・現物支給の有利不利判定~[伊藤俊一先生が伝授する!中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

[伊藤俊一先生が伝授する!中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

②株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


中小零細企業M&Aで株式譲渡スキームを採用したとします。当該スキームでは通常、税効果を享受するため、売主において、役員慰労退職金を支給するケースが多いようです。この場合において、「現金支給するか、現物支給するかの有利不利判定」について課税関係をもとに考えてみます。

 

 

税負担のみを考慮すると、下記の事項を総合勘案して有利不利判定をすることになります。

 

(1)現物配当の場合、法人が含み損資産を有している場合、含み損を実現することが可能となります。グループ法人税制下で、関連会社への移転によっても含み損が実現できない資産について有効です。実務では、当該時点での解約返戻金が低い保険を支給するケースも多いようです。

 

(2)当該現物支給対象の現物が消費税の課税取引、非課税取引、課税対象外取引のいずれに該当するかで消費税の課税区分は決定されます。支給金額によっては、支給後の課税売上割合が変動する可能性があります。課税対象外取引となるべく、後述の通り、株主総会において支給決議をするのが必須です[注1]。

 

(3)現物支給の場合、別途、それに係る源泉所得税をグロスアップ計算する必要があります。源泉所得税は金銭での納付しかできないためです。

 

 

下記では、現物を分類して課税関係を検証します。

 

(イ)土地

【売買の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇土地(宅地)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇土地(宅地以外)

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

 

登録免許税と不動産取得税は軽減税率の改正(延長含む)が頻繁に入るため、実行時の税率を確認します。本稿脱稿時点においては、不動産取得税及び登録免許税の軽減税率適用による税負担軽減効果が高いため、土地については、売買の方が有利になる可能性があります。

 

 

(ロ)建物・車両・ゴルフ会員権

【売買の場合】

〇建物

・・・消費税、登録免許税軽減、不動産取得税軽減、売買契約書・代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇車両

・・・消費税、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

〇ゴルフ会員権

・・・消費税、売買契約書(預託金方式のみ)、代金受領書に係る印紙税のトータルコスト

 

【現物支給の場合】

〇建物

・・・登録免許税軽減、不動産取得税軽減のトータルコスト

〇車両

・・・コストなし

〇ゴルフ会員権

・・・コストなし

 

建物・車両・ゴルフ会員権については、現物支給の方が有利です。

 

 

現物支給では、株主総会決議があるかないかで消費税課税区分が変更します。この理由づけには様々なものがあります[注2]。

 

下記の考え方が最もわかりやすいです。

 

役員報酬等の決定方法については、会社法第361条第1項を確認します。

 


(会社法第361条)

(取締役の報酬等)

取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(以下この章において「報酬等」という。)についての次に掲げる事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める。

一 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額

二 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法

三 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

 


 

 

現物支給する場合は、総会決議によって、その具体的な内容、すなわち、支給する現物資産の種類、金額、支給日等々の決議が必要です。よって、株主総会の決議なき場合、現物支給は代物弁済による資産の譲渡に該当します。代物弁済に係る消費税の取扱いは下記から読み取れます。

 

 

 


(消費税法第2条第1項第8号)

事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。

 

(消費税基本通達5-1-4)

法第2条第1項第8号《資産の譲渡等の意義》に規定する「代物弁済による資産の譲渡」とは、債務者が債権者の承諾を得て、約定されていた弁済の手段に代えて他の給付をもって弁済する場合の資産の譲渡をいうのであるから、例えば、いわゆる現物給与とされる現物による給付であっても、その現物の給付が給与の支払に代えて行われるものではなく、単に現物を給付することとする場合のその現物の給付は、代物弁済に該当しないことに留意する。

 


 

 

上記より、株主総会決議がない場合、代物弁済に該当し、資産の譲渡に係る取引なので課税取引に該当しますし、ある場合、給与扱いですから課税対象外です。なお、国税OB執筆の解説本の一部では課税取引と記載しているものもありますが、これは、中小零細企業実務において、株主総会決議をしていないだろう、という前提にたった、すなわち、実態に即した上での解説をされているものと筆者は邪推します。

 

 

 

 


【注釈】

[注1] 役員においては、株主総会の支給決議によってはじめて退職慰労金の支給義務が生じます(法基通9-2-28)。たとえ現実に退職しており、役員退職慰労金支給規定が予め作成されていても、株主総会での決議がない限り、債務確定にはなりません(最判昭和39年12月11日、最判昭和48年11月26日、最判昭和58年2月22日)。一方、最判昭和48年11月26日では明確な支給基準が存在し、本店備付けなど、それが株主に閲覧できるという要件等を満たせば、取締役会への一任できるとあります。以上につき、岡野訓=内藤忠大=濱田康宏=村木慎吾=白井一馬「実務目線からみた税務判断~実務で直面する厳選20事案~」88頁(大蔵財務協会 2014)を参照しています。

[注2] この点につき、前掲注1  96~99頁において、所得税と消費税の対価性の違いから理由づけを行っています。消費税は事前に対価性を問われるため、株主総会決議で現物支給決議を行えば、課税対象外取引なるという考え方です(消基通5-1-4も参照のこと)。