[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第7回:財務デューデリジェンス「事業計画の分析」を理解する

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

▷第5回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】

▷第6回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【後編】

 

 

財務デューデリジェンス「事業計画の分析」を理解する


事業計画は、バリュエーション手法でDCFを採用している場合、将来キャッシュフローの前提であり、対象会社の今後の事業運営を検討するうえでも非常に重要です。

 

重要であるため、財務デューデリジェンスの枠内での外部の公認会計士等の専門家による事業計画の検討の有無によらず、買手企業が自社内で分析を行うことが基本となります。

 

買手企業の財務デューデリジェンスにかける予算の都合から事業計画の検討を行わないことや、事業デューデリジェンスを行う場合には事業計画の主な分析は事業デューデリジェンスで行う場合もあります。

 

以下では、財務デューデリジェンスにおける、事業計画の分析について解説したいと思います。

 

1、外部環境の把握

事業計画を策定するうえで、外部環境の把握は重要です。外部環境は事業デューデリジェンスで行われることが多いため、事業デューデリジェンスのレポートを参考にします。

 

外部環境の過去のトレンドや今後のトレンド予測と事業計画との整合性を確認します。

 

例えば、製品の製造に必要な主要原材料の単価が、過去から上昇傾向にあり、今後も上昇が予測されるにも関わらず、事業計画上の売上高原材料費比率が過年度と同水準である場合、外部環境と不整合となります。このような場合は特に、原材料の仕入単価の上昇を抑える施策等合理的な説明が必要となります。

 

また、店舗型の小売業を営んでおり、同じ商圏内に競合店の出店が予定されている場合、当該事項が事業計画上に織り込まれているかどうかの確認も必要となります。

 

2、事業計画の策定時期、目的の把握

財務デューデリジェンスの中で事業計画の分析を行う上で、事業計画の策定時期や目的の把握は前提となります。事業計画の策定時期よりも後に、急激な外部環境の変化や対象会社で重要な意思決定等があった場合は、事業計画にそれらの影響が反映されていないため留意する必要があります。また、事業計画策定の目的がM&Aのためである場合には、達成可能性が低く楽観的な計画となっている可能性があるため留意する必要があります。

 

3、各計画の整合性の確認

一般的に、企業で事業計画を策定する場合は、多くの人が事業計画に関与して策定されます。また、事業計画策定にかかるリソースの不足から、同時期に全ての項目の検討を行っていない場合もあり、各事業部の計画や各種計画がそれぞれ整合していないことがあります。

 

そのため、財務デューデリジェンスでは各計画がそれぞれ整合しているかどうかを確認する必要があります。例えば、各事業部の計画の合計と全社計画が整合していない場合や、人員計画では採用を強化して従業員が増加する計画となっているにも関わらず、損益計画では人件費が同水準で推移している場合等、不整合が生じることがあります。これらの不整合がある場合には、事業計画上これらの調整を加味して分析を行う必要があります。

 

4、事業計画の前提の確認

事業計画は、将来の計画であるため、一定の仮定や前提を置いて作成されることが一般的です。一般的な前提は、マーケット成長率、得意先の獲得・喪失、新製品の有無、店舗の出退店、販売価格・数量、原材料価格、人員数の推移、1人あたり人件費、為替相場、関連法規制の変更等です。これらの前提を把握した上で、対象会社の作成している事業計画の合理性を検討します。

 

5、過年度の計画又は予算と達成状況

事業計画は将来の計画であるため、事業計画通りに全ての施策を実施しないことや、全ての施策を実施しても、様々な要因から事業計画が達成できないことも少なくありません。また、各企業によって事業計画策定の精度は異なり、どの程度の精度で策定されているかを把握するために、過年度に策定された事業計画や予算と実績の比較の分析が有用です。

 

6、売上高の分析

製品、得意先、店舗等の分類を行い、既存製品、得意先、店舗等の売上高と、新製品、新規得意先、新店舗等の売上高、およびM&Aの影響による売上高に区分して分析することが有用です。これらの分析の切り口は、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスの切り口と同じであることが必要です。逆に言うと、財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスの分析の切り口は、事業計画と同様の切り口とする必要があります。

 

 

 

 

 

上図は既存店舗の店舗別売上実績および事業計画です。デューデリジェンスで分析した切り口と同様の切り口で売上計画を分析することで、外部環境、連続性および実現可能性等の把握が可能となります。

 

既存店舗の分析を行った上で、新規店舗による売上高を把握します。

 

 

 

 

既存店舗での売上高と、新店舗による売上増加をそれぞれ区分して把握します。新店舗の売上増加分については、既存店舗で分析をしたKPIを用いて、実現可能性を分析します。店舗であれば、立地や広さ等で検討することが一般的で、これらの実現可能性等を検討する必要があります。

 

なお、売上増加に伴い、新店舗への出店等が予定されている場合には、設備投資計画に当該投資が織り込まれているか、金額の妥当性等も含めて検討する必要があります。

 

7、売上原価の分析

売上高の増減に対して、売上原価がどのように見積もられているかを分析します。デューデリジェンスの過年度の分析で、それぞれの勘定科目ごとのドライバーを把握していますので、それらのドライバーで事業計画上の売上原価が作成されているかを確認します。

 

 

 

 

材料費は、一般的には売上高をドライバーとして売上高の増減に合わせて増減するように見積もられます。その他、外部環境から材料仕入高の上昇等が予想されている場合には、当該上昇率等も織り込まれているかを確認します。

 

直接労務費は、一般的には固定費とされることが多いです。正社員の賃金は固定費、パート・アルバイトの賃金は変動費とするケースも見受けられます。固定費であるため、計画上横置きとなっているケースがありますが、ある程度売上高が増加すると新たに人員を採用する必要があり、新店舗を開店すれば通常人件費は増加します。そのため、人件費について、固定費とするものの、どのような事象により人件費が増加するかを過年度のデューデリジェンスで把握する必要があります。また、人事制度の改定が織り込まれているか、過年度の1人あたり人件費との整合性等も確認する必要があります。

 

製造間接費は、それぞれの勘定科目ごとのドライバーで事業計画が作成されているかを確認します。キャッシュフローの影響はありませんが、設備投資を行う計画の場合は減価償却費が増加するため、それが織り込まれているか留意する必要があります。

 

また、これらの勘定科目ごとに売上高割合を分析します。必ずしも売上高に連動する費用ばかりではありませんが、売上高割合が大きく増減するような場合には、費用の作成前提に織り込むべき事象の漏れがないか等再度確認する必要があります。

 

8、販管費の分析

販管費の分析のアプローチは製造間接費の分析アプローチと類似しています。販管費は、製造間接費と同様に、それぞれの勘定科目ごとのドライバーで事業計画が作成されているかを確認します。

 

その他の留意点としては、売上の増減に対して、販売費や消耗品費等が適切に織り込まれているか、店舗の増減に伴い適切に人員計画が作成され、人員計画と人件費の計画が整合しているか等を確認します。

 

また、1人あたり人件費が過去の実績と整合しているか、人事制度の変更の影響が適切に見積もられているかを確認します。人員が増加する場合に、本社等の移転の必要はないか、研修費等も適切に見積もられているかを確認する必要があります。

 

9、税金の分析

過年度の分析で、法人税申告書の別表四の調整項目を把握し、計画上税額計算上影響を及ぼす可能性のある重要な金額があれば、それらが適切に計画上の税額計算上も考慮されているかを確認する必要があります。また、過年度に発生している繰越欠損金があれば、それらを使用する計画となっているかを確認します。

 

なお、税務ストラクチャ―において、適格・非適格の別により、繰越欠損金の引継ぎや、資産・負債の時価評価等取扱がかわるため、税務上の判断が重要である場合には、税務の専門家に助言をもらう等の検討が必要になります。

 

10、運転資本の分析

運転資本は、回収条件、支払条件、在庫施策、得意先ポートフォリオ、仕入先ポートフォリオ、製品ポートフォリオに重要な変更がないとするならば、売上高や仕入高に対する回転期間は一定であると考えられます。

 

そのため、過年度分析で正常な回転期間を分析していますので、回転期間が過年度から計画にかけて整合しているかがポイントとなります。回転期間が計画上変化している場合は、変化している理由、その合理性を検討する必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「合併に伴う繰越欠損金の引継ぎ」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限

■【Q&A】合併における税制適格要件について

 

 

 


[質問]

A社は、甲が50%の株式、乙が50%の株式を5年間以上保有する会社です。
B社は、A社が50%、甲が25%、乙が25%の株式を5年以上保有する会社です。
A社を合併法人、B社を被合併法人として合併する場合、A社とB社の関係は、支配関係と解してよいですか。
この合併によりA社はB社の繰越欠損金をどのような場合に引き継ぐことができますか。

 

[回答]

(回答要旨)
B社とA社との間に5年以上継続して支配関係があり、かつ、本件の合併が適格合併に該当する場合には、被合併法人の未処理欠損金額は、合併法人の合併事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額とみなして、合併事業年度以降の各事業年度において繰越欠損金額の控除制度が認められます。

 

 

(解説)
1 被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ
適格合併が行われた場合には、被合併法人の合併の日前10年以内に開始した事業年度に発生した未処理欠損金額は、原則として、合併法人の合併事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額とみなして、合併事業年度以降の各事業年度において繰越欠損金額の控除制度が認められます(法法57②)。

 

ただし、この制度を無制限に認めると、過度な節税目的に利用される可能性があるため、企業グループ内の合併については、共同で事業を行うための合併に比べて税制適格要件が緩和されていることを考慮して、特定の場合には被合併法人の未処理欠損金額の合併法人への引継ぎが制限されています(法法57③)。

 

具体的には、被合併法人(合併法人との間に支配関係のある場合に限る。)から引き継ぐ未処理欠損金額には、①適格合併が「みなし共同事業要件」を満たす場合、又は、②被合併法人と合併法人との間に合併法人のその適格合併の日の属する事業年度開始の日の5年前の日、被合併法人の設立の日若しくは合併法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合を除き、所定の欠損金額を含まないこととされています。

 

 

2 適格合併の要件
本件のA社とB社との関係は、A社がB社の発行済株式の総数の50%以上を直接又は間接に保有している関係なので、当事者間に支配関係があるものと認められます(法法2十二の七の五)。

 

当事者間に支配関係がある法人グループ内の合併の要件は、次の2つの要件を満たす場合に適格合併に該当します(法法2十二の八ロ)。

 

イ 被合併法人の合併直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が、その合併後の合併法人の業務に従事することが見込まれていること(従業者従事要件)
ロ 被合併法人の合併前に行う主要な事業が、その合併後の合併法人において引き続き行われることが見込まれていること(事業継続要件)。

 

 

3 本件における未処理欠損金額の引継ぎの適否
本件においては、B社とA社との間には5年以上継続して支配関係があるということなので、上記1の②の要件により、いわゆる引継制限規定は適用されないものと考えられます。

 

そうすると、本件の合併が上記2の要件を満たす適格合併に該当する場合には、被合併法人の未処理欠損金額は、合併法人の合併事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額とみなして、合併事業年度以降の各事業年度において繰越欠損金額の控除制度が認められるものと考えます。

 

 

4 租税回避行為の判断
本件の場合は、合併に際し支配関係の要件である従業者従事要件及び事業継続要件を満たす必要があるので、繰越欠損金額を引き継ぐことだけを目的とする合併ということはないと思いますが、過去の裁判例においては、事業を別の法人に引き継がせて、親法人が欠損金と不動産だけとなった子会社を合併した事例において、いわゆる行為計算否認の規定(法法132の2)の規定が適用され、欠損金の引継ぎが認められなかった事例があるので、ご注意してください(東京地判令和元年6月27日・東京高判令和元年12月11日)。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年9月18日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第2回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」では、買い手候補が7社以上

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

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(1)誰にとってもモッタイナイ状況

本連載の第1回にも書きましたが、親族外の役員従業員承継という一時しのぎを除けば、後継者不在の会社の行く末は、2つしかありません。つまり、「廃業」か「第三者承継(M&A)」です。さらに、後継者不在の年商2億円以下のスモール企業(中小零細企業)に限っていうと、買い手候補を連れてきてくれるM&A仲介業者が費用対効果の関係でほぼ存在しないことから、実質、「第三者承継(M&A)」の選択肢はありませんでした(唯一あるとすれば、売り手社長ご自身が、知り合いの会社などお相手を見つけてくることができた稀なケースです)。ということは、スモール企業は、後継者を見つけられなかった場合は、基本的に「廃業しか選択肢がない」というのが、残念ながら今までの日本のスモール企業の現状でした。

 

何十年と商売を続けてくると、どんな会社でも、何某かの「経営資源」を築いていることが多いです。例えば、「自社オリジナル製品やサービス」、「技術力」、「得意先や仕入先、外注先の数と質」、「ビジネスの仕組みそのもの」、「育成コスト含めた従業員の数と質」等です。長く続けてきた会社の経営資源は、客観的に誰が見ても評価されるものもあれば、ある特定の企業や起業家から見たときに、それを一から築き上げることとの比較で評価されさることもあります。

 

このような経営資源のあるスモール企業が「後継者不在」というたった一つのトリガーで廃業しか選択できないというのは、売り手にとっても買い手にとっても、さらには日本経済にとっても勿体ないことだと思います。

 

しかし、この問題を打破できる可能性の秘めたものが一つあります。それは、「M&Aマッチングサイト」です。政府の資料では、「プラットフォーマー」などといわれています。

 

 

(2)実例「今まで廃業しか選択肢がなかった年商数千万円の会社が売れる!?」

では実際、M&Aマッチングサイトに後継者不在企業が登録(ほとんどのマッチングサイトでは無料で登録することが可能で、マッチングサイトによっては無料登録サポートが付いているところもあります)したケースで、その後どのようになったのかを弊社がサポートした事例でご紹介します。

 

最初、後継者不在企業がマッチングサイトに仮登録をされ、その後弊社とアドバイザリー契約をした上でトータルサポートをさせて頂きました。

 

 

(後継者不在企業の概要)

■業種:金属製品製造業

■売上高:6,000万円

■営業利益:△290万円

■総資産:1,900万円

■有利子負債:300万円

■純資産:900万円

■従業員数:3名、妻(経理、梱包発送)、従業員A(仕入担当)、従業員B(梱包発送、雑務)

 

 

マッチングサイトに正式登録をして2~3日のうちに、「4~5件」の買い手候補から「質問」や「実名開示依頼(買い手候補が自社の売上等の説明を記載した上での正式な手続き)」がサイト上で行われました。因みにこの反応数は、一般的な数字よりやや多いぐらいで、それほど特筆すべき数字ではありません。例えばマッチングサイトに登録して1週間たっても何も反応がなければ、マッチングサイトに掲載した紹介文などの表現が伝わりにくい、または、価格含めた条件面が相場とかけ離れている可能性が高いと思われますので、修正後に再アップされると良いでしょう。こういったトライアンドエラーを繰り返せるのが、ネットの良さですね。

 

さてその後、質問などの引き合い件数は「23件」、その中で本気度の高い実名開示依頼件数が「12件」、買い手の会社概要などから売り手が実際に実名開示を了承した件数が「7件」でした。売り手が実名開示を承諾すると、ネット上で秘密保持契約を締結した上で、買い手は売り手の決算書など詳細な資料を見ることができます。

 

そして、その7件のうち「6件」が弊社との買い手面談へと進みましたので、実名開示承諾で決算書などを見て実際の案件の中身が良かったのだと思います。

 

その中で買い手の意向と売り手の希望などを考えて、「2社」とトップ面談をして、そのうちの同業である「1社」と基本合意、最終契約となりました。

 

 

≪成約までの経緯≫

引き合い件数「23件」⇒実名開示依頼数「12件」⇒実名開示数「7件」⇒買い手面談数「6件」⇒トップ面談数「2件」⇒基本合意数「1件」

 

 

 

ちなみに、買い手企業の概要は下記となります。

 

≪買い手企業の概要≫

■業種:同業

■売上高:20,000万円

■従業員数:20人

■予算:2,000万円

 

 

 

売り手企業を振り返ると、年商6,000万円で赤字、従業員数は社長の奥様含めて3人というM&AマッチングサイトのスモールM&Aではよくある規模感等でした。気になる承継対価は1,600万円、マッチングサイト登録から引き渡しまでの期間は4ヶ月弱で、雇用の継続はもとより、得意先や仕入先、外注先すべて継続されることになっていました。

 

買い手は社長である父とその息子が交渉窓口だったのですが、父にとって今回のM&Aは、息子がいずれ本体を承継するための一つのステップとしての側面もあったようです。

 

 

 

(3)M&Aマッチングサイトを使えば、買い手候補が7社以上

いくつかのM&Aマッチングサイトがありますが、弊社が使っているバトンズというサイトでは、通常、売り手がサイトに登録すると、平均して7社の買い手候補が現れます。もちろん全く現れないことも稀にありますが、20社以上が候補企業として現れるようなこともあります。

 

M&Aマッチングサイトでアドバイザーとして買い手候補からのアプローチなどを見ていて、しばしばびっくりさせられることがあります。何にびっくりさせられるのかというと、「この売り案件にこの買い手がよくマッチングをしてきたな」という、そのマッチング自体にです。売り手及び買い手のマッチングの例をいくつかご紹介します。

 

 

●(売り手)東京の従業員0名の映画製作業×(買い手)大阪の従業員50名の広告業

●(売り手)関西の従業員6名の企業食堂×(買い手)関西の従業員20名の製造業

●(売り手)関東の従業員2名の製造業×(買い手)都内のサラリーマン

●(売り手)関東の従業員5名の塗装業×(買い手)関東の従業員10名の不動産業

●(売り手)関東の従業員1名の鋼管材卸業×(買い手)関西の従業員15名の塗装業

 

 

エリアも業種もバラバラで、買い手にサラリーマンが出てくるところも、M&Aマッチングサイトを使ったスモールM&Aの特徴です。

 

日本に事業者数は381万者あるといわれていますが、そこにサラリーマンまで買い手候補の可能性があるとなると、どんな優秀なM&A専門会社や専門家が頑張っても、上記のようなマッチングを成立させることは不可能でしょう。M&Aマッチングサイトだから実現できた第三者承継(M&A)といえるでしょう。もちろん、売り手も買い手も、引いては日本経済にとってもハッピーとなります。

 

「M&Aマッチングサイト」というのは、今まで廃業しか選択肢がなかったスモール企業に、第三者承継(M&A)という新たな希望のある選択肢を与えたという意味で、また、買い手にも事業拡大の新たな手法を与えたという意味で、控えめに言って「革命」を起こしたのではないかと感じています。

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■ 速報!令和3年度税制改正案

■【Q&A】居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否適用を受けることの可否

 

1.はじめに


令和3年度税制改正大綱では、住宅借入金等特別控除(以下、住宅ローン控除という)の拡充(2022年12月末までの入居分)が盛り込まれました。これはコロナ禍の影響による先行き不透明さなどを背景に内需の柱となる住宅投資を刺激するためです。改正の主な項目は、①13年控除の適用期限の延長、②床面積要件の40㎡への緩和です。以下、これらについて解説します。

 

2.13年控除の概要


ノーマルな住宅ローン控除は年末の住宅ローン残高の1%相当額を限度として、居住した年から10年にわたって所得税と住民税から税額控除する制度です(租法41①)。

 

拡充された住宅ローン控除(租法41⑬以下、13年控除という)は平成31年度税制改正で創設された制度で、家屋に係る消費税等の税率が10%であることを前提にノーマルな制度とは次の点で異なりました。

 

表1

 

 

なお、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合には控除限度額の計算上住宅ローン年末残高の上限は5,000万円となるほか、建物価額の上限も5,000万円となります。

3.コロナ対策による入居期限等の延長


令和2年4月30日に施行された 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の税制上の措置では、入居期限である令和2年12月31日までに入居できなかった場合でも、取得・新築または増改築の日から6か月以内に居住する等、所定の要件を充たしている場合、入居期限が1年延長されることとされました。所定の要件とは次の通りです。

 

⑴一定の期日までに契約が行われていること。
イ-1注文住宅を新築する場合=令和2年9月末
ロ-1分譲住宅・既存住宅を取得する場合、増改築等をする場合=令和2年11 月末

 

⑵新型コロナウイルス感染症の影響によって、注文住宅、分譲住宅、既存住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと。
確定申告では、契約日がわかる契約書等のほか、コロナ禍の影響により引き渡しが遅れたこと等を証する書類を用意する必要がありました。

 

4.①13年控除の適用期限の延長


大綱によれば、上記⑴の契約期間が延長され、次の期間中に契約した場合には、さらに入居期限が1年延長され令和4年12月31日とされる見通しです。

 

イ-2居住用家屋の新築 令和2年10月1日から令和3年9月30日までの期間
ロ-2居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等 令和2年 12 月1日から令和3年 11 月30日までの期間

 

これに伴い、国土交通省によると、この期間の契約で延長される改正後の13年控除では、確定申告でコロナ禍の影響を証する書類等の添付が不必要になります。
なお、延長前の契約期間に住宅購入契約等をして従前の期限までに入居する場合には、コロナ禍の影響により引渡し等が遅れたことを証する書面の添付が必要なことに変わりがありません。

 

5.②床面積要件の緩和


上記の①の13年控除の適用を前提に、取得する家屋の床面積については、50㎡以上から40㎡以上へと引下げられます。ただし、住宅ロ―ン控除を適用する個人のその年分の所得税に係る合計所得金額が 1,000 万円を超える年については、住宅ローン控除が適用されません。

 

床面積要件の緩和は、住宅取得等資金の贈与税の非課税特例(租法70条の2)、同相続時精算課税制度の特例(租法70条の3)でも行われる予定です(令和3年度税制改正大綱)。

 

なお、住宅税制のうち登録免許税の軽減税率(租法72条の2~75)、不動産取得税1200万円控除ほか(地法73条の14ほか)固定資産税の税額軽減(地法附則15条の6ほか)にも、50㎡を下限とする床面積要件がありますが、これらは、令和3年度税制改正大綱で改正項目に挙がっていませんので、適用にはご注意ください。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/12/23)より転載

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第12回】(最終回)PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

 

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?
▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
▷第11回:PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー

 

1.はじめに

当連載では,PPAの基本的な考え方や概要について解説を行ってきました。

連載の最終回として,PPAを実施しても無形資産が計上されないケースについて解説します。

 

PPAにおいては,買収時点において存在する無形資産を評価することになるため,買収時点において赤字若しくは利益があまり出ていない会社を買収した場合,無形資産が認識されたとしても,評価した結果価値が出ず(マイナス値)に無形資産が計上されないことがあります。

 

 

2.買収の主たる目的である資産が無形資産として計上されないケース

企業がM&Aを実行する目的は様々ですが,その多くは,被買収企業が持つブランド,顧客基盤,流通販売網,特許,技術などを獲得することを目的とします。

 

PPAでは,その手続きを通じて,被買収企業が持つそれら無形資産を識別・評価することになりますが,必ずしも企業が買収時に意図していた無形資産が計上されないケースがあります。

 

これは,PPAが,買収した「その時点」において存在する無形資産を評価するプロセスであることから生じるもので,一般的なPPAのイメージと,実際のPPA実務との間でギャップが生じやすいところであります。

 

例えば,X00年3月31日にある企業の顧客関連資産を獲得したようなケースでは,無形資産として計上され得るものは,X00年3月31日時点において存在する顧客であり,買収時以降,すなわち,X00年4月1日以降に買収企業による施策等によって新たに増加すると予想される顧客ではありません。

 

また,買収時点において被買収企業が赤字のようなケースにおいては,当該顧客が生み出す価値は0と評価されてしまい,無形資産が計上されないようなケースもあります。更には,買収時点において赤字の企業を買収後のシナジー効果を見込んだプレミアム込みの価格で買収したようなケースでは,無形資産が全く計上されずに,買収価額と純資産の差額が全額のれんとなって,のれんの金額が多額となるケースも考えられます。

 

 

3.具体例を用いた説明

次に,上記で述べたことを,具体例を使って説明します。(説明の便宜上簡略するための前提を置いている点はご容赦ください。)

 

 

前提条件

【図表1】前提条件

 

 

(1)経済的耐用年数の設定

スポーツクラブWの既存会員の評価には,顧客資産の評価手法として一般的に用いられる超過収益法を用います。まず,既存会員の経済的耐用年数を検討します。

 

本例では,過去3期に亘る会員数の増減データが入手できたことから,図表2の通り,買収時点から過去3年間において,各期の期首に在籍していた会員の退会率の平均値33%を算出し,1÷33%=3年間を経済的耐用年数として設定します。

 

ただし,このような退会率(顧客減少率)のようなデータが入手できるケースはそう多くはなく,このようなデータを入手できた場合は,より合理的な経済的耐用年数の設定が可能となります。

 

 

 

【図表2】顧客関連資産の耐用年数の計算

 

 

(2)超過収益法による評価

図表3が超過収益法に基づく既存会員の評価額の計算例になります。Z社がW社の買収を検討した際に利用したスタンドアローン計画の事業計画を利用することとなりますが,同事業計画の営業利益には買収時点の既存会員と買収後に獲得予定の新規会員の両方から生み出される営業利益であるため,既存会員のみから生み出される営業利益を算出する必要があります。

 

実務上は両者を分けることは容易ではないケースが多いと思いますが,ここでは両者を分けることができるとし,図表4に示す既存会員に帰属する営業利益を用いています。

 

 

【図表3】顧客関連資産の評価

 

 

【図表4】 基準日時点の顧客関連資産に帰属する営業利益

 

 

キャピタルチャージは各資産の残高に期待される収益率を乗じることで計算されます。例えば,X04期の運転資本の場合,167×3%=5でキャピタルチャージを計算しており,X04期の運転資本残高167は,200×(1‐16.65%)で計算しています。

 

ここで,運転資本の残高が200ではなく167となっているのは,顧客関連資産の経済的耐用年数(3年)の期間内で運転資本が減少していくという前提を置いているからです。

 

また,既存会員の年間減少率33.3%を前提とした各期の減少率の計算方法は,例えば,X04年の減少率は33.3%×1/2=16.65%と計算し,X06年の減少率は33.3%×2+33.3%×1/2=83.25%とします。そして,(1‐各期の減少率)を買収日時点の各資産に乗じることで,各期の資産残高を計算します。

例えば,X06期の運転資本は,200×(1‐83.25%)=34となります。

 

このようにして各期の資産残高を計算し,期待収益率を乗じることでキャピタルチャージが計算されます。そして,税引後営業利益からキャピタルチャージを控除した値が顧客関連資産に帰属する超過収益となり,その超過収益の現在価値合計は△77となります。

 

この結果として,顧客関連資産として計上されるものはないこととなります。

 

 

(3)のれんの計算

図表5が示す通り,PPAの結果として計上される無形資産はなく,すべてのれんとして計上されることとなりました。この理由としては,買収時点において,W社が赤字であったことが大きいと言えます。無形資産の評価は,あくまでも買収時点を基準とするため,買収時点で業績が赤字であると,その後業績が回復したとしても,買収時以降の新規会員からもたらされる収入はのれんに包含されるため,結果として無形資産は計上されないこととなります。

 

また,耐用年数が3年と比較的短いのも要因の一つと言えます。そのため,本例では計上される無形資産はなく,純資産額と株式の取得原価との差額1,500百万円は全額のれんとなりました。

 

 

【図表5】のれんの算定

 

 

4.最後に

買収時の業績が無形資産の計上にどのような影響を与えるかを解説しました。買収の主な目的と考えたものが,無形資産として計上されないことも有りうるので,特に買収時における適時開示の内容と,有価証券報告書等での開示内容の整合性などには,買収前から注意が必要です。

 

なお,PPAの結果,のれんの金額に比して無形資産の金額が少額となる場合は,その妥当性につき監査人から詳細を質問されるケースも多いです。多額に生じたのれんの源泉は何なのか。買収後のシナジー効果や将来の期待等々,無形資産としては認識されずにのれんに含まれることとなる収益稼得の源泉につき,予め検討・分析を行っておくことをお薦めします。

 

最後に,本稿での具体例では,経済的耐用年数の決定に必要なデータが入手可能であったという前提でありましたが,実務上はデータの入手が困難なケースも考えられます。そのため,なるべく財務や法務のデューデリジェンスの際に必要データや情報の入手をリクエストしておくことが望ましいでしょう。

 

本連載は今回で終了となりますが,12回の連載を通して,PPAの概要から,無形資産の認識・識別,評価アプローチ,経済的耐用年数の設定方法などについて解説してきました。まだまだ実務として定着しておらず,イメージがつきにくい面があったかと思いますが,少しでも読者の皆様の理解にお役に立てれば嬉しい限りです。

 

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第8回:「グループホーム(障がい者向けの共同生活援助)のM&Aの特徴や留意点」とは?

~運転資金は?入居者の状況は?入居者の獲得ルートは?従業員の状況は?許認可等は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「産業廃棄物処理業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、グループホーム(障がい者向けの共同生活援助)のM&Aを検討していますが、グループホームM&Aの特徴や留意点はありますか?


グループホームとは障がいのある人が、日常生活上の介護や支援を受けながら共同生活を営む住居のことです。 グループホームで暮らす人に対し、入浴、食事などの介護や生活相談、その他の日常生活上の支援を提供するサービスは「共同生活援助」と呼ばれ、障がい者総合支援法が定める「障がい福祉サービス」のひとつです。この共同生活援助のことを通称としてグループホームと呼びます。

 

なお、介護保険制度にも高齢者を対象とする「グループホーム」がありますが、「認知症対応型共同生活介護」と呼ばれる別のサービスにおける住居を指します。

 

 

グループホーム利用者は、障害者総合支援法が定めるサービス利用料が必要となります。利用料はグループホームの入居者数などにより異なります。 入居者は原則として利用料の1割を負担しますが、負担額には前年の世帯収入に応じた上限が設定されており、上限額以上の自己負担は生じません。利用料の他グループホームの家賃、食費や水道光熱費、その他の経費(町内会費や新聞代など)の実費を自己負担します。これらの料金設定はグループホームにより異なりますが、家賃は一般の住宅に比べ低く設定されているケースが一般的です。また、グループホームには家賃補助制度があります。対象は「市町村民税非課税世帯」または「生活保護」の対象者です。入居者1人当たりの家賃月額1万円を上限とした助成があります。利用者は、これらの費用を一般企業やA型事業所で受ける給料、障がい者年金、家族等の補助によって賄います

 

 

グループホーム運営会社の収入は、利用者からの収入および、地方自治体からの収入がメインとなりますが、通常地方自治体からの収入の割合が大きくなります。

 

地方自治体からの収入は給付金という名目で、障がい支援区分や夜間支援等の体制加算等により決定・支給されます。このような制度により、グループホーム運営会社の主な債権の相手先は地方自治体となります。地方自治体への債権は基本的に貸し倒れることがなく安定した収入となります。ただし、請求から入金までの期間が2か月間となるため、運転資金が必要な点に留意しましょう。運転資金を賄うためにファクタリングを実施している企業もあるため、M&Aの対象企業がファクタリング利用の有無を含め、債権内容を確認しましょう。

 

 

ビジネスモデルとしては、定められた人員配置基準や資格等により給付金の金額が決まるため、入居者および従業員を雇用することができれば安定的でかつ見通しの立てやすい収入が得られまます。利益の獲得のためには入居者の獲得、従業員の雇用、効率的な運営が重要となります。

 

 

グループホームのM&Aを検討する場合は、ビジネスモデルを理解した上で、入居者の状況、入居者の獲得ルート、従業員の状況、施設の状況、運営体制、許認可等を正確に把握しましょう。収益は地方自治体が大半であることから、回収はほぼ確実となりますが、回収期間が長く、運転資金が必要となることからファクタリングの有無を含めた運転資金の状況を確認することが必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第4回:M&Aの株式価値評価と自社株の相続税評価の違いは何でしょうか?

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

▷関連記事:譲渡・M&Aにおいて準備すべきこと~企業価値を向上させ売却金額を増大させるためには?~

 

 

Q.M&Aの株式価値評価と自社株の相続税評価の違いは何でしょうか

 

同族会社で30 年以上、食品卸業を営んできました。息子に会社を承継させるため、顧問税理士に相続税について相談していましたが、突然に息子が病気になってしまいました。回復に相当な時間がかかるため、外部の会社に譲渡することを考えています。顧問税理士に自社株式の相続税評価額を計算してもらっていますが、知人から「M&Aの場合はもっと高く売れる」とも言われています。両者はどう違うのでしょうか?

 

(福岡県 K・Nさん)

 

 

A.M&Aの株式価値評価は、相続税評価の数倍になることもあります

 

一般的に、M&Aで株式を譲渡する場合の価額は、相続税評価額より高くなります。例えば相続税評価額の数倍で会社株式を譲渡したオーナー経営者もおられます。「相続税評価」と「M&Aの株式価値評価」には、決定的な違いがあるためです。

 

親族内で事業を承継する場合、相続税を低く抑えるため、株式価値を低くすることがよくあります。一方で、M&Aによって株式を外部に売却する場合、オーナー経営者は、売却金額の目安となる株式価値を高くしたいと考える傾向があります。

 

M&Aでは時価純資産に「のれん(営業権)」が上乗せされます。「のれん」は会社の無形資産の一種で、会社の買収・合併時の「買収された会社の時価純資産」と「譲渡価額」との差額のことです。例えば将来収益の見込み、信用力やブランドイメージなど、目に見えない収益獲得能力です。市場拡大の見込まれる業種であった場合、他の業種に比べて、のれんは高くなります。他では得難い技術やノウハウ、権益や有力な販路なども、のれんが高くなる要因となります。

 

M&Aで買い手候補が複数になると、価格が高くなることもあります。M&Aの株式価値評価は、評価者の経験や知識によって差異が出ますが、高すぎても安すぎても、現実味のない評価はその後の条件交渉に悪影響を及ぼします。当社は在籍する公認会計士も多く、M&Aの価値評価のご相談も数多く承っております。M&Aの株式価値評価については、信頼のおけるM&A専門会社にご相談されることをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「持続化給付金・家賃支援給付金の収益計上時期」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】持続化給付金と家賃支援給付金の未収計上について

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与 ~コロナウイルスの影響で大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化、役員報酬の大幅な減額を検討~

 

 

 


[質問]

持続化給付金、家賃支援給付金の収益計上時期についてご教授ください。

 

今期申請を行い、決算をまたいで翌期に給付決定がなされ、入金がなされる場合、どちらの期で益金算入すべきでしょうか。

 

法人税基本通達2-1-42を準用してよいと判断したのですが、①事実があった(月売上が50%以上下がった)期に概算計上するべきものなのか、②支給決定があった日の属する事業年度で益金算入すべきなのか読み切れず、教えていただけると助かります。

 

持続化給付金は実際の経費の支出を前提としていないため②に該当し、家賃支援給付金の場合は家賃の支払いを前提としているので①に該当するのか①でよいのかと、考えている次第です。

 

[回答]

御質問の場合の給付金に係る収益の計上時期については、御指摘のとおり法基通2—1—42の取扱いの考え方を踏まえて判断することになります。この点、費用と収益の対応関係からすると御指摘のとおりの考え方があり得ます。しかし、持続化給付金及び家賃支援給付金については、法人がこれらの給付金を受けるための特別な行為を行ったというものではなく、法人の意思に関係のない業績の悪化という事実が後発的に生じたため給付されるものであるといえます。

 

このことからすると、持続化給付金及び家賃支援給付金のいずれについても給付が決定した日を含む事業年度の収益に計上することになると考えます。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年9月18日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

速報!令和3年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

 

 

~与党税制改正大綱に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

 

 

■【相続税・贈与税】《「令和3年度税制改正大綱」P45、41~42、42~43、43~44》

1.事業承継税制(非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例措置)【拡充】

非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例措置につき、次に掲げる場合には、後継者が被相続人の相続開始の直前において特例認定承継会社の役員でないときであっても、本特例措置の適用を受けることができる(①は、一般制措置についても同様とされる)。

 

①被相続人が、70歳未満(現行:60歳未満)で死亡した場合
②後継者が、経営承継円滑化法施行規則の規定により都道府県知事の確認を受けた特例承継計画において、特例後継者として記載されている者である場合

 

 

2.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置等【拡充】

(1)令和3年4月1日から同年12月31日までの間に、耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋の新築等に係る契約を締結した場合における非課税限度額が、次のとおり、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの間の非課税限度額と同額まで引き上げられる。

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(注)一般の住宅用家屋に係る非課税限度額は、上記の非課税限度額からそれぞれ500万円を減じた額とされる。

 

(2)受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が 1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50 ㎡以上)に引き下げられる。
(注)上記の改正は、令和3年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用される。

 

(3)特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例につき、床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50㎡以上)に引き下げられる。
(注)上記の改正は、令和3年1月1日以後に贈与により取得される住宅取得等資金に係る贈与税につき適用される。

 

(4)税務署長が、納税者から提供された既存住宅用家屋等に係る不動産識別事項等を使用して入手等をした当該既存住宅用家屋等の登記事項により床面積要件等を満たすことの確認ができた住宅が、本措置の対象となる既存住宅用家屋等に含めることとされる。
(注)上記の改正は、令和4年1月1日以後に贈与税の申告書を提出する場合について適用される。

 

3.直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置【適用期限の延長・見直し】

次の措置を講じた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(1)信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(その死亡の日において受贈者が①23歳未満である場合、②学校等に在学している場合、③教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合の、いずれかに該当する場合を除く。)には、その死亡の日までの年数にかかわらず、同日における管理残額(=非課税拠出額-教育資金支出額)を、受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなされる。

 

(2)上記(1)により相続等により取得したものとみなされる管理残額につき、贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額が、相続税額の2割加算の対象とされる。
(注)上記(1)と(2)の改正は、令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

4.直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置【適用期限の延長・見直し】

次の措置を講じた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(1)贈与者から相続等により取得したものとみなされる管理残額(=非課税拠出額-結婚・子育て資金支出額)につき、当該贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額が、相続税額の2割加算の対象とされる。
(注)上記の改正は、令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

(2)民法の成年年齢の引き下げに伴い、受贈者の年齢要件の下限を18歳以上(現行:20 歳以上)に引き下げる。
(注)上記の改正は、令和4年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

 

 

 

■【住宅・土地税制】《令和3年度税制改正大綱」P23~24、44、45、52》

1.住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除【拡充】

(1)住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除及び当該控除の控除期間の3年間延長の特例を適用することができる。
(注)上記の「特別特例取得」とは、その対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等で、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める期間内にその契約が締結されているものをいう。
①居住用家屋の新築 …令和2年10月1日から令和3年9月30日までの期間
②居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等…令和2年12月1日から令和3年11月30日までの期間

 

(2) 上記(1)の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、個人が取得等をした床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋についても適用される。ただし、床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋に係る上記(1)の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える年については適用されない。
(注)上記(1)と(2)について、その他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様とされる。

 

(3)税務署長が納税者から提供された既存住宅等に係る不動産識別事項等を使用して、入手等をした当該既存住宅等の登記事項により床面積要件等を満たすことの確認ができた住宅を、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の対象となる既存住宅等に含めることとされる。
(注)上記の改正は、令和4年1月1日以後に確定申告書を提出する場合について適用される。

 

2.宅地等に係る固定資産税等の負担調整措置【拡充】

(1)宅地等に係る固定資産税の負担調整措置は、令和3年度から令和5年度までの間、据置年度に価格の下落修正を行う措置並びに商業地等に係る条例減額制度及び税負担急増土地に係る条例減額制度を含め、現行の仕組みが継続される。

 

(2)(1)に加えて、令和3年度限りの措置として、次の措置が講じられる。
①宅地等(商業地等は負担水準が 60%未満の土地に限り、商業地等以外の宅地等は負担水準が100%未満の土地に限る。)について、令和3年度の課税標準額は令和2年度の課税標準額と同額とされる。
②令和2年度において条例減額制度の適用を受けた土地については、所要の措置が講じられる。

 

(3)宅地等に係る都市計画税の負担調整措置についても、 (1)と(2)の固定資産税の改正に伴う所要の改正が行われる。

 

3.その他【適用期限の延長】

(1)土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限が、令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(2)①宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準を価格の2分の1とする特例措置並びに、②住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の標準税率(本則4%)を3%とする特例措置の適用期限が、令和6年3月31日まで3年延長される。

 

 

 

 

■【中小企業税制(法人税)】《「令和3年度税制改正大綱」P68、72~73》

1.中小企業者等の法人税の軽減税率の特例(税率を15%とする特例)【適用期限の延長】

適用期限が2年延長され、令和5年3月31日までに開始する事業年度について適用される。

 

2.中小企業(法人)の経営資源の集約化に資する税制【創設】

(1)青色申告書を提出する中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く。)のうち、令和6年3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る。)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合(その株式等の取得価額が10億円を超える場合を除く。)において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度の法人税の計算上、損金に算入することができる。

 

(2)(1)の準備金は、[1]①その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合、②その株式等の帳簿価額を減額した場合等においては取り崩して、その事業年度の法人税の計算上、益金に算入する。さらに、[2]その積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間で、その経過した準備金残高の均等額を取り崩し、各事業年度の法人税の計算上、益金に算入する。
(注)上記の「中小企業者」とは、中小企業等経営強化法の中小企業者等であって、租税特別措置法の中小企業者に該当するものをいう。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/12/14)より転載

[会計事務所の事業承継・M&Aの実務]

第3回:M&Aの譲渡対価とその後の処遇

 

[解説]

辻・本郷税理士法人 辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社

黒仁田健 土橋道章

 

〈目次〉

⑴譲渡対価の計算方法

⑵譲渡対価の支払方法と事後的な価格調整条項

⑶承継後にかかる負担の確認も

⑷経営統合後の待遇等について

⑸役員退職慰労金

⑹従業員退職金

 

 

 

 

▷関連記事:いくらで売却できる?-譲渡金額の算出方法-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」

▷関連記事:株式譲渡スキームにおける役員慰労退職金支給~現金支給・現物支給の有利不利判定~

 

⑴譲渡対価の計算方法

譲渡対価について、ディスカウント・キャッシュ・フロー等の収益還元的な考えに基づく評価方法や、時価純資産等の静的な評価方法などが考えられます。

 

一方で、一身専属に基づく士業という事業の特殊性から、その収益獲得の源泉が、代表者の個人的な実力によるところもあれば、数十人規模での組織的な実力によるところもあり、その評価はケースによりまちまちなのが実態です。

 

そのような中で実務的な慣習として、年間報酬総額に一定率を乗じて算出されるケースが多いのも事実です。顧問報酬、税務申告報酬などの継続的に収入が見込める報酬をベースに検討されますが、よほどスポット業務(相続税や保険手数料など)の売上割合が多くない限り、別途計算はせず、年間報酬総額として算出します。

 

例えば、法人の顧問報酬で毎年3,000万円、個人の確定申告報酬で毎年1,000万円、相続税の申告報酬で1,000万円が年間の報酬であった場合、毎年継続的に見込まれる4,000万円が年間報酬総額となります。

 

また、譲渡対価の検討時には、譲渡資産の特定をしておかないと、どこまでが対象かわからないので、対象範囲を契約内容に盛り込んでおく必要があります。

 

 

⑵譲渡対価の支払方法と事後的な価格調整条項

譲渡対価の支払方法については、

①クロージング時に一括で支払う方法

②クロージング時に一部を支払い、分割又は一定期間経過後に残金を支払う方法

があります。

 

売主にとっては、①の方法が望ましい反面、買主にとっては資金調達の問題や譲渡後の顧問契約や雇用契約の継続が未確定であることから、②の方法が望ましいこととなります。

 

また、顧問契約等の継続状況に応じて、譲渡後一定期間を経過した後、譲渡対価を見直す方式をとることも可能ですが、継続をしなかった理由が買主側に起因することも想定されるため、支払方法や事後的な譲渡対価の見直しは慎重に協議したうえで、契約書に明記する必要があります。

 

 

さらに、譲渡対価の分割又は一定期間経過後に残金を支払う方法を選んでいて、売主が死亡したときは、その相続人が債権者となります。売主及び買主はその点も留意して、支払方法や事後的な譲渡対価の価格調整条項を設定します。

 

 

⑶承継後にかかる負担の確認も

譲渡対価の決定に際して、承継後にかかる費用も確認する必要があります。

 

継続的に発生する経費もありますが、比較的大きな支出は会計ソフトにかかるものとなり、使用しているソフトのバージョンや更新時期等を確認し、その負担も考慮して譲渡対価を決める必要もありますので、注意してください。

 

また、事務所を借りている場合には、更新時期に手数料が発生しますので、確認が必要となります。これらの後発的に発生が見込まれる費用について、譲渡対価の算定上、織り込んでおく必要があります。

 

 

⑷経営統合後の待遇等について

一般的に承継元の代表者は、顧問先や従業員の引継ぎの関係から、事業承継後も一定期間は社員税理士や顧問として関与することになります。社用車や交際費の利用など、事前に細かく取り決めをしておくと後々のトラブルを回避できます。

 

また、競合避止義務との関係がありますが、顧問先の監査役に就任しているケースも見受けられます。このような場合の取扱いについて、どのようにするかの取り決めを統合前に行っていくことと、それを踏まえて譲渡対価の算定を行う必要があります。

 

 

⑸役員退職慰労金

税理士法人を取得する場合に、承継元の代表が退任する際に退職慰労金の支給があるときは、当然、出資持分の譲渡対価の金額は減少します。退職金は実際に退職するまで支給ができない点で、承継元にとっては、受領できるまで時間を要する一方、承継先にとっては退職までの期間、きちんと承継業務に従事できる点と、支給時には法人にとって損金となるため、税務メリットを得ることができます。

 

なお、個人事業で行っている場合には、退職金という考え方は発生しません。

 

 

⑹従業員退職金

従業員の退職金制度として、特定退職金共済制度に加入しているケースが見受けられます。また、独自の退職金制度を導入している事務所もありますので、これらの退職金制度を継続するのか、継続する場合には譲渡対価に反映するべきか検討が必要です。

 

 

 

 

 

▷参考URL:M&A各種契約書等のひな形(書籍『会計事務所の事業承継・M&Aの実務』掲載資料データ)

 

[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第1回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」が活況なワケ~コロナも追い風~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

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(1)4つの数字「381」「127」「650」「22」からみる中小M&Aの今

日本の高齢化率は世界一ですが、同様に中小企業経営者も高齢化しています。具体的な数字を挙げると、全国における事業者数は、会社も個人事業主も含めて約「381」万者。そのうち、経営者の年齢が70歳以上の数は245万者で、そのうち後継者未定の数は「127」万者となっています(2025年予測値)。

 

つまり、日本にある製造業や建設業、飲食店や町のお豆腐屋さんなどすべての事業主のうち、3分の1は、「経営者年齢70歳以上かつ後継者未定」なのです。

 

 

ではこの127万者は、将来どうなるのでしょうか?

 

 

実は、最終的な選択肢は2つしかありません。1つは、「M&Aで第三者承継先に譲渡する」、もう1つは、残念なことではありますが、「廃業」です(親族外の従業員や役員に承継するというのも稀にありますが、単に代表者が変わるだけが大半で、きちんと株主が変わり銀行保証も精算されるケースは極めて少ないです)。

 

さらには、127万者のうち8割である約100万者は、いわゆる中小企業ではなく小規模企業です。小規模企業の場合、M&Aで第三者承継先を探そうとしても、売買対価が低額で十分な手数料が支払えないことから、M&A仲介業者や銀行等に依頼する案件としては相応しくありません。つまり、これまでは、小規模企業の場合は第三者承継先を探そうにも相談者がおらず、結果的に「廃業」しか選択肢がなかったといえます。

 

 

 

この廃業しか選択肢がなかった小規模企業に、「第三者承継」という選択肢を与えてくれるのが、このシリーズの主題である「マッチングサイトを使ったスモールM&A」なのです。

 

 

 

(2)第三者承継支援総合パッケージで「M&Aマッチングサイト」に言及

このまま放置しておくと日本経済に与えるマイナス要素が大き過ぎるため、中小企業庁は、2019年12月20日に、中小企業支援策として、「第三者承継支援総合パッケージ」を発表しました。「第三者承継=M&A」ですから、この資料には親から子へといった従来政府が推し進めてきた「親族内承継」の言葉はありません。親族内承継だけでは、日本経済は救えないと国がはっきりと方針を打ち出したようにも思います。

 

 

では国は、経済的に日本が沈没してしまうのを回避するために、先ほど見た127万者すべてに支援の手を差し伸べてくれるのでしょうか?

 

 

答えは、「ノー」です。昨今政治も新政権に変わり、「自助・公助・共助」を掲げられ、また、政権ブレーンであるイギリス出身日本在住の経営者デービッド・アトキンソン氏の影響も大きく、「廃業止む無し、生産性向上のためM&Aを推進」の方向性のようです。

 

第三者承継支援総合パッケージによると、2025年までに、70歳以上となる後継者未定の中小企業約127万者のうち、黒字廃業の可能性のある約60万者の第三者承継を促すことを目標としています。60万者のM&Aを10年間かけて実現するということですから、1年間で6万者のM&Aを実現させるということです。

 

 

ではこの国の目標に対して、現在、どれくらいのM&Aが行われているのでしょうか?

 

 

実は、公表ベースですが、年間たったの「4,000件」です。毎年増加しているとはいえ、この数字です。年間6万件と比較すると、15倍の開きがあります。これは対面(リアル)で人がいくら頑張っても実現できる数字ではありません。特に、お相手を探してくるというとても時間と費用の掛かる作業を対面(リアル)で行うことを想定すると、どのようなやり方をしようが実現は不可能でしょう。そこで国は、民間プラットフォーマーとの連携など、ネットを使ったM&Aに大きくシフトしていこうとしているのです。

 

国は年間6万件のM&A実現へ向けて、2015年に作成された「事業引継ぎガイドライン」を、マッチングサイトを使ったM&Aや専門家向けへの記述を加え全面改訂し、コロナ禍の最中である2020年3月31日に「中小M&Aガイドライン」を作成公表しました。

 

また、2020年7月には、マッチングサイトを使ったスモールM&A向けといっても過言ではない、「経営資源引継ぎ補助金」が創設され、M&Aにおける着手金や成功報酬に対して最大200万円が支給されることになりました。ちなみにこの補助金は、売り手も買い手も中小企業であれば対象となっています。

 

 

このように、マッチングサイトを使ったスモールM&Aを、あの手この手で国が支援してくれているのが現状なのです。

 

 

(3)意識の変化や金融緩和で案件増加!(コロナも追い風)

スモールM&Aが活況な理由は、他にもあります。現場に出ていて最近特に顕著に感じるのは、売り手や買い手における「意識の変化」です。

 

今どきの売り手では、例えば父親経営者は、たとえ承継候補となる息子や娘がいても、自ら継がそうとしないケースが増えてきました。それこそ一昔前の特に地方では、父親の会社を承継するというのはある種、運命みたいな部分があったかもしれませんが、それを父親自身がストップをかけるのです。

 

しかし自分事としてこの父親経営者のことを想像してみると、納得がいきます。今までそれこそ四六時中仕事のことを考え、時に従業員との確執なども乗り越えてきて、この先この会社を息子に承継させるとなれば、それこそ死ぬまで会社の心配や不安をぬぐうことはできないでしょう。もしこれを第三者に売却(M&A)できれば、老後はゆっくりと趣味や奥様との時間に何の心配もなく過ごすことができます。老後を不安なく自由に暮らしたいと考える父親経営者は、思いのほか増えています。さらにこのコロナで、立ち止まり考える時間も増えたため、コロナがトリガーとなり、M&Aを決心する経営者が増加しているように思われます。

 

 

息子のほうも、田舎にある父親の会社を引き継げといわれても、都会暮らしを手放したくない、妻の反対や子供の学区のこともある、などでM&Aを父親に自ら提案することも多いようです。

 

 

また、買い手においては、特にこのコロナ禍で、従来のような同業種や類似業種へのM&Aだけではなく、全く異なる分野へのM&Aを検討されるケースが増えています。背景にあるのは、事業におけるリスク分散だと考えられます。リスク分散としてのM&Aを考えるとき、いきなり大きな買い物はしにくいですから、「スモールM&A」が向いているのです。他にも、金融緩和で資金が余っていることもM&Aの追い風となっています。

 

 

このような理由により、現在、スモールM&A、特に手軽に始められる「マッチングサイトを使ったスモールM&A」がかつてない活況を見せているのです。

 

 

 

[参考資料]

第三者承継支援総合パッケージ(中小企業庁、2019年12月20日)

https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191220012/20191220012-1.pdf

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

事業承継税制:三代にわたって贈与税の特例措置の適用を受けた場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制:「みなし相続の特例措置」の概要と留意点

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

 

 

1.贈与税の特例措置の概要


中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当し、かつ、都道府県知事の認定を受けた会社の株式を、令和9年12月31日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者として一定の要件を満たす者(以下「特例経営承継受贈者」)である場合、その者が納付すべき当該株式(一定の部分に限る。以下「特例対象受贈非上場株式等」)に対応する贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の7の5第1項)。これを「贈与税の特例措置」といいます。
贈与税の特例措置の適用を受けることにより納税が猶予された贈与税額は、贈与者の死亡や、特例経営承継受贈者による下記2の「免除対象贈与」等の事由が生じた場合、特例経営承継受贈者が一定の手続をすることにより、その全部又は一部が免除されます(措法70条の7の5同第11項、70条の7第15項)。

 

 

2.特例経営承継受贈者(2代目経営者)が免除対象贈与をした場合の、納税猶予分の贈与税額の免除


上記1の特例経営承継受贈者が、特例経営贈与承継期間*の末日の翌日(原則)以後に、その特例受贈非上場株式等の全部又は一部をその後継者に贈与し、その後継者が贈与を受けたその特例受贈非上場株式等について、贈与税の特例措置の適用を受ける場合は、その特例経営承継受贈者が一定の届出をすることにより、特例経営承継受贈者の納税猶予分の贈与税額(納税猶予期限が一部確定した税額を除く。)のうち、後継者に係る贈与税の納税猶予の適用に係るものに対応する部分の金額に相当する額が免除されます(措法70条の7の5第11項、70条の7第15項3号)。この場合の特例経営承継受贈者による特例対象受贈非上場株式等の贈与を、「免除対象贈与」といいます。

 

*原則、非上場株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます(措法70条の7の5第2項7号)。

 

 

例えば、1代目経営者から株式を贈与により取得して贈与税の特例措置の適用を受けた2代目経営者(=特例経営承継受贈者)が、特例経営贈与承継期間経過後に、その株式の全部を3代目経営者に贈与し、3代目経営者がその贈与により取得した株式に係る贈与税について贈与税の特例措置の適用を受ける場合、2代目経営者から3代目経営者への株式の贈与は「免除対象贈与」に該当し、2代目経営者が一定の届出をすることにより、納税猶予分の贈与税額が免除されます。

 

 

3.免除対象贈与の後、その贈与者に係る”前の贈与者”が死亡した場合


贈与税の特例措置の適用を受ける特例経営承継受贈者に係る贈与者の贈与が、「免除対象贈与」である場合に、特例経営承継受贈者の死亡の日以前にその贈与者の”前の贈与者”が死亡したときは、特例経営承継受贈者は前の贈与者から特例対象受贈非上場株式等を相続又は遺贈により取得したものとみなされ、贈与者が前の贈与者から贈与を受けた時の価額を基に、相続税が課税されます(措法70条の7の7第2項)。

 

この場合において、贈与税の特例措置の適用を受けた特例対象受贈非上場株式等を、相続又は遺贈により取得をしたものとみなされた特例経営承継受贈者は、一定の要件を満たすことにより、その贈与者の死亡に係る相続税額のうち、その株式等に係る納税猶予分の相続税額について、その特例経営承継受贈者の死亡の日まで納税が猶予されます(措法70条の7の8第1項)。これを「みなし相続の特例措置」といいます。

 

例えば、1代目経営者から贈与により株式を取得して贈与税の特例措置の適用を受けた2代目経営者が、特例経営贈与承継期間経過後に、その株式の全部を後継者である3代目経営者に贈与し、3代目経営者が特例経営承継受贈者としてその贈与により取得した株式に係る贈与税につき贈与税の特例措置の適用を受けた場合、2代目経営者から3代目経営者への株式の贈与は「免除対象贈与」に該当します。この場合の「前の贈与者」とは、特例対象受贈非上場株式等の免除対象贈与をした者(2代目経営者)に対し、その贈与の前にその株式の贈与をした者、すなわち1代目経営者が該当します(措法70条の7の7第2項、第1項、同政令40条の8の5第4項、40条の8第5項2号)。

 

したがって、1代目経営者(=前の贈与者)の死亡により、3代目経営者(=特例経営承継受贈者)は、特例対象受贈非上場株式等を、1代目経営者から相続又は遺贈により取得したものとみなされ(措法70条の7の7第2項)、3代目経営者に対し1代目経営者に係る相続税が課税されます。この場合、1代目経営者から3代目経営者が取得したものとみなされた特例対象受贈非上場株式等に係る相続税の額について、一定の要件を満たすことにより、「みなし相続の特例措置」の適用を受けることができます。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/11/25)より転載

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第11回】PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー

 

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

▷第8回:PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?

▷第9回:PPAで使用する事業計画とは?

▷第10回:PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー

 

 

 

当連載では,前回まで10回に渡ってPPAにおいて基礎となる考え方や認識プロセス及び測定プロセスにおける前提条件や算定方法等について解説を行ってきました。第11回は,それらの論点について具体的な設例を用いて解説を行います。

 

 

【設例】

X0年12月31日にX社がY社の全株式を3,000百万円で購入した。X社はもともと消費財のメーカーであるが,OEMでの受託生産のみを行っており,自社で商品を販売するブランドも流通網も有していなかった。そこで,X社は高い知名度を持つブランド「Z」(日本において商標登録されている)を保有し,それを販売する小売店への流通網を持った国内のY社を買収することとなった。なお,X社の会計基準は日本基準である。また,クロージング日はX0年12月31日であるため,評価基準日をX0年12月31日とする。事業計画は図表1の通りである。

 

 

【図表1】事業計画と株式価値

 

 

1.算定手順の解説

(1)無形資産の認識

 

まず,認識すべき無形資産の検討を行います。本設例の場合,買収対象のブランドは高い知名度を持ち,かつ商標登録もされていることから分離して譲渡可能という無形資産認識の要件を満たすと考えられます。さらに,流通網についても対象会社にとっての顧客である小売業者との取引関係が顧客資産として無形資産の認識要件を満たすと考えられます。以上から,認識される無形資産は商標権(ブランド)と顧客資産の2点となります。

 

 

(2)クロージングB/Sの確認(図表2)

 

次に,クロージング日時点のB/Sにおける運転資本,固定資産,投資等の残高を確認します。

本設例では下記のとおりとなります。

 

運転資本=現預金50+売上債権700‐仕入債務550=200

固定資産=1,200

投資等=300

 

 

【図表2】クロージングB/S(単位:百万円)

 

 

ここで確認した運転資本及び固定資産の金額は,無形資産測定の際,超過収益法におけるキャピタルチャージの計算にも使用されます。

 

また,この段階で無形資産認識前の広義ののれんが2,346百万円となることを確認します。

 

 

(3)採用する事業計画及びWACCの決定

 

無形資産を測定するために採用する事業計画の検討を行います。事業計画が複数ある場合は,一般的な市場参加者からみて最も合理的と考えられる事業計画を採用することに留意します。

本設例においては,株式の取得価額3,000百万円をサポートする事業計画(図表1)を採用します。

 

通常,WACCは買収検討段階の株式価値算定時に用いられた割引率や,投資案件の想定IRR(内部収益率)を勘案して設定されます。本設例では,株式取得価額3,000百万円のベースとなる事業計画上のWACCである10%を採用します。

 

 

(4)各資産の期待収益率の仮設定

 

採用する事業計画とWACCが決まったら,WARAがWACCと整合するように各資産の期待収益率を設定します。通常の実務では,B/Sの資産・負債残高や無形資産の測定値等が変わる度にWARAが変動し,その都度資産の期待収益率を調整していく作業が必要となります。

本設例では,運転資本,固定資産,商標権,顧客資産,のれんの期待収益率を下記のとおりとします。

 

 

 

(5)無形資産の測定

①商標権(図表3)

ここから,無形資産の測定プロセスに移ります。本設例の商標権は,インカム・アプローチの代表的手法であるロイヤリティ免除法により測定を行います。

 

【前提条件】

・ロイヤリティレート:3%

・商標は日本で登録されており,クロージング時点の残存保護期間は5年,今後1回の更新が見込まれている。日本における商標権の法的保護期間は10年である。

・商標権の税務上償却期間は10年である。

・事業計画期間経過後売上高は毎期1%増加するものとする。

 

 

以上を織り込んだ計算過程が図表3です。経済的耐用年数は残存保護期間に更新後の保護期間10年を加えた15年としています。

 

 

【図表3】商標権の評価

 

 

②人的資産の算定(図表4-1及び4-2)

顧客資産の測定の前に人的資産の算定を行います。現在と同規模の100名の人員を再雇用し教育訓練を行うと仮定した場合のコストに基づいています。

 

実務上,人的資産の期待収益率はのれんの期待収益率もしくはWACCとされることが多いです。

本設例では,のれんの期待収益率である13%としています。

 

 

【図表4-1】人的資産の見積り(節税効果考慮前)

 

 

【図表4-2】償却による節税効果の計算

 

 

③顧客資産の測定(図表5)

最後に超過収益法により顧客資産の測定を行います。経済的耐用年数については,取引実績等に基づき8年で顧客が入れ替わる想定を置き,減少率12.5%(1/8年)を用いています。

 

なお,複数の無形資産を認識する場合には,無形資産相互の関係性や事業への貢献度合について検討し,測定に反映することが必要となります。

本設例では,商標権(ブランド)の貢献が基礎にあり,その上で顧客資産の構築・維持が行われてきたものとの考えに立ち,顧客資産の測定上,商標権へのキャピタルチャージを行っている点にご留意ください。

 

④測定結果の確認(図表6及び7)

以上の測定結果をまとめたものが図表6及び7です。図表6において,各資産の期待収益率,WARA及びWACCの関係性について再度ご確認ください。また,図表7において,無形資産が計上される場合,会計上の一時差異に該当し,繰延税金負債が計上され,同額ののれんが増加する点についてご留意ください。

 

 

【図表5】顧客資産の評価

 

 

【図表6】WARAとWACC

 

 

【図表7】PPAの結果

 

 

2.まとめ

今回解説した設例では,実務でも非常に多くみられる商標権及び顧客資産が計上される例を取り上げました。数値や前提条件については可能な限り簡素化に努めましたが,無形資産の算定手順についてご理解頂けたでしょうか。

 

次回(最終回)は,PPAにおける実務上のポイントについて解説します。

 

 

—本連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「父から相続した建物を父の事業に従事していた者に低額譲渡した事例に対するみなし贈与課税の適用について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業を譲り受けた場合に営業権の計上について

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

個人で診療所を経営している甲医師(以下「甲」という)は、甲の叔父が所有している土地を賃貸借契約して賃借し、その土地に建物を建て、診療所を経営していました。土地の賃貸料は安く相当の地代に満たないそうです。

 

甲は2月に病気になり入院したため休診にしていましたが、病気が完全に治るという可能性がないこと、また甲の子も医師ですが、甲の診療所を利用して開業する意思がないため、甲は廃業して建物を解体する予定でした。しかし4月に病状が急変し死亡しました。

 

相続人になる甲の子(以下「乙」という)も、建物を解体しようと考えていましたが、甲の診療所に勤務している従業員の子で、他の病院に勤務している勤務医がおり、従業員と勤務医をしている子が乙に診療所を承継したい旨を話すと、乙も快諾しました。乙としても建物を解体しても費用がかかること、また廃業するためにはいろいろな面倒な手続きがあること、また承継を望んでいる従業員の子の開業の助けになればと考えたそうです。

 

診療所の建物は、診療所専用で鉄筋造りの2階建てで、総床面積は600㎡です。入院設備はありません。

 

建物の固定資産償却額は6,000万円ですが、乙は診療所を承継してもらえるならと500万円で譲る考えです。

 

乙に対しては建物の相続税評価額6,000万円に対して、また借地権に対して相続税が課税されますがその課税については了解しています。

 

500万円という値段については、甲が生前に入院中、他人からもし診療所を廃業して建物を売却する考えがあれば500万円で売ってほしいという話がもとになっているようです。

 

この建物を有効に活かせる人から見れば3,000万円あるいは4,000万円の値段がつくかもしれません。

 

乙と従業員は親族関係にはなく他人のため、固定資産税評価額6,000万円の建物と借地権を500万円で売却しても従業員に対してみなし贈与は発生しないと考えますが、いかがでしょうか。

 

また、みなし贈与以外に何か課税上問題が発生するでしょうか。

 

なお、建物の帳簿価額は6,400万円です。

 

[回答]

ご照会の事案は、相続人乙が被相続人甲から相続により取得する建物を低額譲渡した場合において譲受人に対してみなし贈与課税の適用があるかどうかを問題としております。

 

ご照会では、乙と譲受人との間に親族関係はなく他人であるところからみなし贈与課税の適用はないと結論しております。

 

事実関係について建物の価額など詳細に示されていますが、ご照会の事案の検討に当たっては次に挙げる事項について事実関係を明らかにする必要があるのではないかと思われます。

 

① 甲は診療所の建物(以下、「A建物」といいます。)の敷地として甲の叔父の土地(以下、「B土地」といいます。)を賃借しておりましたが、A建物に係るB土地の借地権はどのように取り扱われていたか。

 

② A建物を譲り受けるのは甲の診療事業に従事していた従業員(以下、「丙」といいます。)または丙の子(以下「戊」といいます。)の何れか。

 

ご意見では、A建物の価額について固定資産税評価額、相続税評価額などを取り上げたうえで500万円という価額に至った経緯などを基に、乙と丙との身分関係などに照らしてみなし贈与課税の要件を欠くのではないかと結論しておられます。

 

しかしながら、上記の「①」で取り上げたところにより譲渡資産として取引される資産がA建物に加えてB土地の借地権も含まれるとすると、取引される資産の価額と対価の開差は大きく異なる見解も考えられるのでにわかにご意見に頷けないものがあります。

 

上記の「②」はA建物が診療所専用であるということからすると、医師である戊が譲り受けることには理解できますが、医師の資格を有しない丙が譲り受けることには素直に理解できないものがあります。

 

ご照会のおたずねでは、乙と丙との間に親族関係が存しないことを大きな要素としておりますが、固定資産税評価額との比較において取引価額に大差が存する事実からするとご意見によることは難しいのではないかと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第7回:「産業廃棄物処理業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~収集運搬業者か処分業者か?許認可、設備、人材は?社内管理体制は?法改正は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、産業廃棄物処理業のM&Aを検討していますが、産業廃棄物処理業M&Aの特徴や留意点はありますか?


廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物に分けられ、産業廃棄物は特別管理産業廃棄物等、一般廃棄物は事業系一般廃棄物、家庭廃棄物等それぞれ細分化されます。

 

 

 

 

 

 

産業廃棄物処理業は、大きく「収集運搬業」「中間処理業」「最終処分業」に分けられ、各業態でも例えば収集運搬業は、運搬する廃棄物の種類によって細かく細分化されます。一般家庭ゴミの収集運搬にしても、生ゴミ(可燃ゴミ)・プラスチック包装容器・缶瓶ペットボトル・紙・布・粗大ゴミと収集運搬業者はそれぞれ違います。

 

 

 

 

収集運搬業は排出元と処分場の両方の区域の許可を取得する必要があります。積替保管とは、排出元と処分場の間に廃棄物を一時的に保管する施設を設置し、そこを経由して処分場へ運ぶことを言います。積替保管なしの場合、排出元から処分場に直行する必要がありますが、積替保管ありの場合は一定量蓄積してから運搬するなど輸送効率の向上が可能となります。対象となる廃棄物の保管基準を満たす必要があり、許可取得難易度は積替保管なしと比較し高くなります。

 

中間処理では、埋立処分等の最終処分前に、生活環境保全上支障を生じないように、破砕、焼却、脱水、中和による減量・減容化、安定化、無害化を行います。

 

最終処分では、原則最終処分場への埋立処分により行われます。最終処分場は対象となる産業廃棄物により3タイプに分かれます。

 

●安定型最終処分場……処分対象:安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、がれき類、金属くず、ガラス・陶磁器くず、環境大臣が指定する産業廃棄物)

●遮断型最終処分場……処分対象:有害物質を含む特別管理廃棄物

●管理型最終処分場……処分対象:①、②以外の産業廃棄物

 

 

M&Aを検討している場合に、対象企業の産業廃棄物処理業が「収集運搬業」なのか、「中間処理業」なのか、「最終処分業」なのかを把握しましょう。一般的に「収集運搬業」よりも「中間処理」や「最終処分」業者の方が設備や埋め立てのための土地等を保有することから規模が大きく、参入障壁が高いことから利益率は高くなる傾向にあります。

 

また、産業廃棄物処理業特有の論点として、不法投棄の問題があります。不法投棄防止のために産業廃棄物管理表(マニフェスト制度)が導入されており、マニフェスト制度に沿った対応が必要となります。

 

 

産業廃棄物処理業のM&Aを検討する場合、収集運搬業者か処分業者か、また所有する許認可、設備、人材等について確認をする必要があります。どの業界向けの産業廃棄物を処理できるのか等の能力を確認しましょう。

 

また、社内管理体制の整備、マニフェスト(産業廃棄物管理表)の適切な処理ができているか、不法投棄を行ったり、近隣住民とトラブルを起こしたりしていないかを把握する必要があります。また、法改正の影響を受けやすい業界であるため、法改正の動向も確認しておく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第3回:自社の売却を検討していますが、家族や従業員には伝えづらいです。どのように伝えればよいのでしょうか?

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

▷関連記事:取引先に知られないように会社を譲渡することはできますか?

▷関連記事:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

▷関連記事:事業が健全かそうでないかの判別~経営分析とは?非数値情報分析とは?健全性のチェック方法は?~

 

 

Q.自社の売却を検討していますが、家族や従業員には伝えづらいです。どのように伝えればよいのでしょうか

 

北海道で従業員20人の広告代理店を営んでおります。65歳を越えて体調の不安を感じるようになっていた折に、セミナーで事業承継型M&Aの話を聞きました。弊社も後継者がいませんので、会社の譲渡によって後継者問題を解決できないかと考えております。

 

心配なのは妻や従業員達の反応です。妻は私の引退により資金面での不安を感じるかもしれません。また、苦楽を共にしてきた従業員達からは、私が皆を裏切ったと受け止められてしまうかもしれません。反対が予想される中で、他の経営者の方々はどのように対応・解決されたのでしょうか。

 

(北海道 広告代理店 S.Aさん)

 

 

A.タイミングとポイントを押さえた説明をすれば理解を得られることは多いです。

 

日本の企業経営で「信頼関係」や「情」は重要な要素です。M&Aに際して、ご家族や従業員、そして取引先の反応を心配される経営者の方は多いですが、タイミングとポイントを押さえてきちんと説明すれば、周囲の理解は得られるものです。ケース・バイ・ケースですが、今回はよくお伝えする内容をご紹介します。

 

M&Aを進めるうえで最も重要なことは「契約を締結するまでは極秘で進める」ことです。従業員にも取引先にも最終契約締結後に知らせるのが基本です。事業承継型の友好的なM&Aであっても、詳しくない従業員はM&Aと聞くだけで「身売り」「リストラ」などを想起し、漠然とした不安を感じるものです。こうした不安が従業員から取引先に伝わり、場合によっては従業員の退職などによる企業価値の毀損を招きかねません。取引先との関係が悪くなることも企業価値を毀損することになりかねません。

 

ご家族、特に奥様の年齢が比較的若い場合、収入がなくなることによる老後の不安が生じてしまうことがあります。経営者の年齢や健康状態にもよりますが、M&Aに際しては、負債をご家族に相続させないようにしたり、それを正確に伝えたりすることが重要です。

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者のための実務活用型誌上セミナー『価値評価(バリュエーション)』」

第4回:支配権プレミアム&流動性ディスカウントについて

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  中田博文

 

〈目次〉

1、株式価値の調整項目

2、支配権プレミアム

3、支配権プレミアムの適用

4、非流動性ディスカウント

5、評価方法との関係

6、適用順序

7、実務上の検討

 

 

▷第1回:M&Aにおける価値評価(バリュエーション)の手法とは?

▷第2回:倍率法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

▷第3回:DCF法における価値評価(バリュエーション)のポイントとは?

 

▷関連記事:M&A取引の税務ストラクチャリング

▷関連記事:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷関連記事:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

 

1、株式価値の調整項目


実務では、DCF法及び倍率法で計算した株式価値からさらに調整を行います。具体的には、支配権プレミアム、非流動性ディスカウントを反映させます。支配権プレミアム及び非流動性ディスカウントは、充分なマーケットデーターが整備されておらず、案件の内容に応じた数値が用いられます。

 

 

2、支配権プレミアム


支配権を取得した株主は、対象企業のキャッシュ・フローを実質的に支配できるため、少数株主の一株当たりの株価と比較した場合、支配権株主の一株当たりの株価の方が高いと言われています。これは、議決権比率が高まるにつれて、支配株主は少数株主よりも重要な権利を享受できるためです。支配権の獲得を目的とするTOB案件では、マーケットの株価よりも高値でTOB価格が設定されるケースが多く、その差額の一部には支配権プレミアムが含まれています。このように、経営権の移動を伴うM&A取引では、評価の際に、支配権プレミアムを考慮して株式価値を算定します。支配権プレミアムは、支配株主である売り手にとっては、高値で売却できることになるため、売却のインセンティブとして機能します。

 

 

 

 

 

なお、支配権の内容は、配当額の決定の他、経営方針の決定からガバナンス構築まで幅広い範囲が含まれます。

 

 

 

 

 

3、支配権プレミアムの適用


実務上、株式譲渡時に支配権(50%超)の移転を伴うか否かで、支配権プレミアムの適否を決定します。そして、支配権プレミアムは、20%~40%の範囲内で設定するケースが多いです。ただし、買収には様々なケースがあり、支配の程度に応じたプレミアムの検討が必要です。例えば、以下のような事例は、社内ルールで決められた支配権プレミアム20%程度を杓子定規に適用すべきではなく、個別検討を要します。

 

 

●50%超⇒7%⇒100%と買増しをする場合のぞれぞれのプレミアム

●50%ずつ保有する合弁会社(2社)への参画時のプレミアム

●33.3%ずつ保有する合弁会社(3社)への参画時のプレミアム

●過半数を保有する株式保有者がいない株主構成の中で、最大の株式数を保有する場合のプレミアム

●過半数を保有していないが、取締選任権を付与された株式を保有する場合のプレミアム

●過半数を保有していないが、重要事項の拒否権を付与された株式を保有する場合のプレミアム

 

 

4、非流動性ディスカウント


流動性のない株式(マーケットのない株式)を売却する際には、買い手候補を探す時間と手間、交渉に費やす時間と手間、アドバイザリー手数料等の取引コストが発生するため、取得時に高い利回りを要求します。この利回りの増し分(株式価値の減額)を非流動性ディスカウントといいます。実務上は、20%~30%のディスカウントを適用するケースが多く見られますが、前述の支配権プレミアムと同様、個別具体的なケースごとにディスカウントの数値検討が必要です。

 

<検討項目>

 

 

少数の株式を売却するよりもボリュームの大きい株式の方が、売却は容易と考えられます。そのため、支配持分の非流動性ディスカウントは、少数持分の非流動性ディスカウントと比べて、低いと言われます。米国の事例では、支配持分の非流動性ディスカウントは10~25%、少数持分の非流動性ディスカウントは30~50%とされています。

 

なお、支配持分の場合は、会社の売却、配当金の決定等を通じて、現金化の手段を有していることから、対象会社のキャッシュ・フローを実質的に支配しています。そのため、支配持分を有している場合は、非流動性ディスカウントを適用しないという考え方もあります。

 

 

 

5、評価方法との関係


DCF法の将来CFの前提となる事業計画には、経営者(支配株主)の意思が反映されています。そのため、DCF法によって算定された株式価値は、支配権プレミアムを含んでいると言われています。支配権を取得しない買収案件の場合、DCF法の計算結果にマイノリティーディスカウントを考慮して株式価値を算定する必要があります。

 

倍率法は、基礎数値(EBITDA等)×倍率で計算され、基礎数値は実績又は達成見込みを使用し、倍率はマーケットデーター(支配権のない株価)から引用します。そのため、倍率法の計算結果は、少数株主の価値を表しています。支配権を取得する買収案件の場合、倍率法の計算結果に支配権プレミアムを考慮して株式価値を算定する必要があります。

 

 

 

 

 

6、適用順序


前述のとおり、支配持分の非流動性ディスカウントは10~25%、少数持分の非流動性ディスカウントは30~50%というように、非流動性ディスカウントは、支配権の有無の影響を受けます。

 

そのため、DCF法で非公開会社の少数株主の価値を算定する場合又は倍率法で非公開会社の支配株主の価値を算定する場合、まず、①マイノリティーディスカウント/支配権プレミアムを反映した後、②非流動性ディスカウントを適用します。

 

 

 

7、実務上の検討


1、次のような場合、DCF法又は倍率法によって算定された株式価値は、支配株主の価値又は少数株主の価値のどちらを表しているか?

 

(1)持分法の範囲内で株式を取得

●対象会社の策定した事業計画に対して買い手(30%取得予定)がストレスをかけた修正事業計画をもとに、DCF法によって株式価値を算定した場合

●対象会社の策定した事業計画に対して買い手(30%取得予定)がシナジー効果を反映した修正事業計画をもとに、DCF法によって株式価値を算定した場合

 

(回答)

事業計画を修正できるのは支配株主だけであるという前提に立つと、少数株主が事業計画を修正していますが、あたかも自分が支配株主であると考えています。そのため、その事業計画を用いてDCF法で算定された株式価値は、支配株主の価値を表します。本件は、持分法の範囲内の株式取得のため、DCF法で算定された株式価値にマイノリティーディスカウントを反映して少数持分の株式価値を算定します。

 

なお、ストレスをかけた場合は、①フリー・キャッシュ・フローの減額、②ディスカウントによる減額と2重に減額調整が入るため、売り手サイドの認識する株式価値との乖離が非常に大きくなりますので、①②の内容を丁寧に売り手に説明する必要があります。

 

 

(2)支配権を取得

●対象会社の策定した着地見込みに対して買い手(100%取得予定)がストレスをかけた修正予算をもとに、倍率法によって株式価値を算定した場合

●対象会社の策定した着地見込みに対して買い手(100%取得予定)がシナジー効果を反映した修正予算をもとに、倍率法によって株式価値を算定した場合

 

(回答)

原則、どちらも修正予算を使用しているため、支配株主の価値を表していると考えられます。本件は、持分法の範囲内の株式取得のため、倍率法によって算定された株式価値にマイノリティーディスカウントを反映して少数持分の株式価値を算定します。

 

なお、ストレスをかけた場合は、①財務数値の減額、②ディスカウントと2重に減額調整が入るため、対象会社の認識する株式価値との乖離が非常に大きくなりますので、①②を売り手に丁寧に説明しないと交渉が決裂する可能性があります。

 

 

2、プレミアム/ディスカウントは株式価値と事業価値のどちらに適用するべきか?

 

(回答)

事業価値又は企業価値(事業価値に非営業資産を加算したもの)に対して、支配権プレミアム、非流動性ディスカウント等を適用して、事業価値及び企業価値を減額することも考えられますが、実務上は、株式価値に対してプレミアム/ディスカウントを適用しています。

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「持続化給付金と家賃支援給付金の未収計上について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】持続化給付金・家賃支援給付金の収益計上時期

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与

 

 

 


[質問]

法人税基本通達2—1—42に基づいて決算までに給付決定がない又は申請手続はしていないが決算前の対象月で後日申請する場合には、いずれの場合も給付金は決算において未収計上すべきですか。

 

通達を読むかぎり、持続化給付金は未収計上不要、家賃支援給付金は未収計上必要と考えますがいかがでしょうか。

 

 

(法令に基づき交付を受ける給付金等の帰属の時期)
2—1—42 法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費をほてんするために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。

 

[回答]

法令等に基づき交付を受ける給付金等の収益計上時期については、貴見のとおり、法基通2-1-42においてその取り扱いを明らかにしています。

 

この取り扱いにおいては、雇用保険の規定による雇用調整助成金等のように、あらかじめ給付金による補填を前提として所定の手続きを取り、その手続きのもとにこれらの経費の支出がなされるものについては、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった時点であらかじめその支給を受けるべき給付金の額を見積計上することにより、収支の対応関係を持たせることとされています。これに対し、雇用保険法の規定高年者雇用継続基本給付金等のように、具体的な経費支出の補填という性格のものでなく、一定基準に基づいて支給される奨励金のようなものについては、あらかじめ収益の計上をする必要はなく、支給決定を受けた時点で収益計上すれば足りることとされています。

 

ところで、ご質問の持続化給付金とは、感染症拡大により、特に大きな影響を受けた事業者に対して事業の継続を下支えし再起の糧とするための給付金であり、また、家賃支援給付金とは、5月の緊急事態宣言の延長等により、売り上げの減少に直面する事業者の事業継続を下支えするため、地代・家賃の負担を軽減する給付金であると説明されています(経済産業省)。

 

また、給付金は、申請者からの申請で成立し、事務局の行う申請内容の適格性等を確認する審査を経て長官が給付額を決定する贈与契約であるとされています(持続化給付金給付規定9、家賃支援給付金給付規定10)。

 

持続化給付金及び家賃支援給付金のいずれも、「事業の継続を下支えする」という目的の給付であり、その給付は中小企業庁長官(国)が給付額を決定する贈与契約であることからすると、これを区分する必然性はないものと考えます。また、家賃支援給付金制度においては、支払い賃料の額を給付金の算定基準としていますが、これはあくまでも給付金の算定基準であって、その給付目的に鑑み、必ずしも具体的な経費支出(家賃等)の補填という性格を有しているものとは言い切れないと考えられます。

 

したがって、持続化給付金及び家賃支援給付金のいずれも、法基通2-1-42(注)の取り扱いを準用して、支給決定を受けた日の属する事業年度で収益計上するのが相当と考えます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年7月21日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

事業承継税制:「みなし相続の特例措置」の概要と留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

■贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

 

 

1.贈与税の特例措置の概要


中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当し、かつ、都道府県知事の認定を受けた会社の株式を、令和9年12月31日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者(特例経営承継受贈者)として一定の要件を満たす者(以下「後継者」)に当たる場合、その者が納付すべき贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の7の5第1項)。これを「贈与税の特例措置」といいます。

 

納税猶予税額は、その贈与者の死亡等の事由が生じた場合には、後継者が一定の手続をすることによりその全部又は一部が免除されます(同第11項、措法70条の7第15項)。

 

贈与税の納税猶予税額が免除される時までに一定の事由が生じた場合は、原則、納税猶予が打切りとなり、後継者はその事由に応じた各期限までに、納税猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要があります(措法70条の7の5第3項等)。

 

 

2.贈与税の特例措置の贈与者が死亡した場合


後継者が上記の贈与税の特例措置の適用を受けていた場合に、その納税猶予の打切りの日またはその後継者の死亡の日以前にその贈与者が死亡したときは、上記1のとおり納税猶予とされていた贈与税が免除となります。その一方で、贈与税の特例措置の適用を受けたその株式は、後継者が贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなされ(措法70条の7の7第1項)、相続税が課税されます。

 

ただし、この取扱いにより贈与税の特例措置の適用を受けた非上場株式につき、相続または遺贈により取得をしたものとみなされた後継者は、一定の要件を満たす場合、その贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、その非上場株式に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、その後継者の死亡の日まで納税が猶予されます(措法70条の7の8第1項)。これを「みなし相続の特例措置」といいます。

 

みなし相続の特例措置の適用について定める法令等において、贈与税の特例措置に係る贈与者の死亡時期の制限規定はありません。したがって、後継者が贈与税の特例措置の適用を受けている場合、特例措置の贈与者の相続開始が(相続税の特例措置の期限切れの)令和10年1月1日以降であっても、みなし相続の特例措置の適用を受けることができます。

 

 

3.みなし相続の特例措置の適用時の留意点


みなし相続の特例措置の適用にあたっては、後継者に関する要件について注意する必要があります。

 

例えば、先代経営者から後継者(1人)が贈与により株式を取得する場合、その後継者がみなし相続の特例措置の適用の前提となる贈与税の特例措置の適用を受けるためには、贈与時に次の三要件を満たす必要があります(措法70条の7の5第2項6号)。

 

①個人が、その贈与の時において対象となる会社の代表者であること。
②その贈与の時において、その個人およびその者と一定の特別の関係のある個人や法人(以下「特別関係者」)の有する、その会社の株式の議決権の数の合計が、その会社の総議決権の数の50%超であること。
③その贈与が行われた時において、その個人が有する会社の株式に係る議決権の数が、その個人の特別関係者のいずれの者(その時点で、贈与税又は相続税の特例措置の適用を受ける個人がいる場合はその人を除く。) の有する議決権の数以上であること。

 

 

後継者は、特例経営贈与承継期間*中に、納税猶予 が打切りとならず継続されるためには、上記①~③の要件を満たす必要があります(措法70条の7の5第3項、70条の7第3項)。

 

*原則、その非上場株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます(措法70条の7の5第2項7号)。

 

 

特例経営贈与承継期間の経過後は、上記①~③の要件は撤廃され、後継者がこの三要件を満たさない場合であっても、贈与税の納税猶予は継続します(措法70条の7の5第3項、70条の7第5項)。

 

ただし贈与税の特例措置に係る贈与者が死亡し、その贈与者に係る相続税について、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始時点において、後継者は前述①~③の要件をすべて満たす必要があります(措法70条の7の8第2項1号)。つまり贈与税の特例措置の適用を受けるための後継者の要件は、特例経営贈与承継期間を経過後に緩和され、①~③の要件がなくなりますが、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始の時(瞬間)において、この三要件を満たす必要があるので注意が必要です。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/11/09)より転載

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第6回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【後編】

~ネットデットの分析、純資産の分析~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

▷第5回:財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【前編】

 

 

財務デューデリジェンス「貸借対照表項目の分析」を理解する【後編】


3、ネットデットの分析

ネットデットの分析に先だって、ネットデットは考え方が1つに定まっておらず、どの項目をネットデットに含めてどの項目を含めないのかは、バリュエーションを行う人や考え方によって左右されるということをお断りしておきます。その上で、筆者の実務上の経験等により、ネットデットに含める項目および含めない項目を記載しますが、筆者の考え方であるということをご留意ください。

 

ネットデットは、貸借対照表上の有利子負債から現金及び現金同等物を控除した金額として設定し、そこから調整項目を検討します。ネットデットの調整項目を検討するうえで重要な観点は、検討している債務の金額が事業計画上、EBITDA、運転資本および設備投資で既に事業価値の算定に取り込まれていないかを検討することです。既にネットデット以外の項目で事業価値に織り込まれている場合は、ネットデットでも計上すると二重で事業価値に織り込まれることになるため注意が必要です。

 

 

 

 

①必要手元資金

必要手元資金は、小売業におけるレジに必要な現金など事業運営に最低限必要な現金や引き出しに制約のある現金については運転資本としての性格があると考えられるため、ネットデットの現金および現金同等物から控除する調整が必要となります。

 

②未払法人税

未払法人税は、対象企業の売上ではなく利益によって左右されるものであるため、運転資本とは考えずにネットデットの調整項目とします。一方、未払消費税は課税売上と課税仕入により左右され、売上の規模にある程度連動することが見込まれるため、ネットデットではなく運転資本と考えます。

 

③ファイナンス・リース債務

ファイナンス・リース債務は、今後リース債務の支払いが行われ、リース資産から減価償却費が計上されます。事業計画上、EBITDAでは当該支払いは反映されず、設備投資上でリース債務の支払いが反映されていればネットデットではなく設備投資のキャッシュアウトとしてバリュエーションに織り込まれます。設備投資上でリース債務の返済を織り込んでいなければ当該リース債務はネットデットとしてバリュエーションを行うことになります。しかし、事業計画上で、設備投資でリース債務の支払いが折り込まれている場合であっても、M&Aの成立後、買手企業がリース取引を行わない方針等で全てのリース債務を買取る等する場合には評価基準日時点のリース債務残高は有用となりますので、ネットデットの調整項目として記載しておくのが有用です。

 

④退職給付引当金

対象会社の退職金規程において退職金を支給することとなっている場合には、確定給付なのか確定拠出なのかを確認します。確定給付制度を採用している場合には、退職給付引当金の計上が必要となります。退職給付引当金が未計上である会社の多くは従業員300人未満の会社であると想定されますので、その場合は簡便法にて退職給付引当金を計算します。簡便法では多くの場合、期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法がとられることが多いように思います。そして計算された退職給付引当金をネットデットの調整項目とするかを検討します。

 

また、例えば退職一時金制度を採用しており、従業員が300人未満であるため簡便法で期末時点の自己都合退職金の金額を調整しているとします。退職給付引当金を対象会社が計上しておらず、財務デューデリジェンスの中で調整項目としてネットデットに含めた場合は、当該引当金がバリュエーション上二重で控除される可能性があるため留意が必要です。対象会社が、退職給付引当金を計上していないということは、退職金の支払い時に費用処理を行っているため、EBITDAの中で退職金の支払いが反映されます。EBITDAで退職金を支払った上で、ネットデットでも基準日時点の退職給付引当金を事業価値から控除すると、基準日時点に発生している退職給付債務を二重で控除することになります。そのため、EBITDAの中で退職金の支払いが行われているかどうかを確認の上、ネットデットの調整項目とするかを検討します。また、退職給付引当金を他の人件費と同様に運転資本とする考え方もあるため留意が必要です。

 

⑤資産除去債務

資産除去債務は、税法基準で会計処理をしている中小企業の場合、計上していないことが通常です。資産除去債務は、工場を賃借している場合や、店舗等を賃借しており、内装を大幅に変更している場合や店舗数が多い場合に金額が大きくなる傾向があります。

 

工場であれば、有害物質や土壌汚染の問題が発生すると、億単位の費用となる場合があるため注意が必要です。工場の土壌汚染等の問題が重要な場合は、環境デューデリジェンス等により詳細な調査および見積もりを行うことも必要となります。

 

店舗の賃借であれば、内装を大幅に変更していると原状回復費用が多額になる傾向にありますし、それらの店舗が多ければ多いほど合計額は大きくなります。既に撤退を予定している店舗であれば、業者による正式な見積が可能であれば、見積を依頼することもあります。撤退を予定していない店舗であれば、過去の原状回復費用の実績から、平米数等を基準として見積を行います。但し、差入保証金・敷金からの充当により、追加のキャッシュアウトが生じない場合もあるため、差入保証金・敷金の取り扱いとの整合性を加味した上でネットデットの調整項目の可否を検討します。

 

⑥投資有価証券

投資有価証券は、非事業用資産で売却が可能であるものについて時価で評価をしてネットデットの調整項目とします。事業関連性があるものについては、今後も投資を継続することが想定されますので、ネットデットの調整項目とはしないことが多いですが、対象会社の株主が変更されることにより投資価値が変わる場合がありますので、投資先との取引関係、役員の兼任や株主の投資状況などの人的・資本的な関係についても確認する必要があります。

 

⑦保険積立金

保険積立金は、非事業用資産でありM&Aの成立後に解約される場合が想定されます。そのため、基準日時点での時価(一般的には解約返戻金の金額)で評価を行い、ネットデットの調整項目とします。

 

⑧遊休資産

遊休資産は、事業計画上も活用されない場合は非事業用資産であり、売却が検討されます。金額が重要な場合は買手とディスカッションの上、不動産鑑定評価書を取得し、金額的重要性が低い場合は固定資産税評価額等から時価を把握して、ネットデットの調整項目とします。

 

潜在的調整項目は、分析の結果ネットデットの調整項目とはしないものの、M&Aの買手企業のシナリオやその他の要因により今後発生する可能性がある事項について記載します。

 

⑨オフバランスのオペレーティングリース債務

オペレーティングリース債務は、現状の日本の会計基準ではオンバランスする必要はありませんが、IFRS(国際財務報告基準)ではオンバランスが求められています。そのため、買手企業の採用している会計基準がIFRSであれば、ネットデットの調整項目とすることが望ましいでしょう。また、買手企業のシナリオにより、当該資産のリースを行わないことも想定されるため、参考情報としてオペレーティングリース債務を記載しておく必要があります。さらに、中小企業の場合は支払リース料がEBITDAに含まれているため、参考情報として債務額を記載するケースもあります。

 

⑩オフバランスの保証債務

オフバランスの保証債務は、主要な関連会社や取引先等に対して、対象会社が債務保証を行っている場合に当該保証額を記載します。債務保証を行っている場合は、保証先が倒産等で債務を履行できなくなった場合に、対象会社が当該債務を支払う必要があるため、潜在的な債務として認識します。また、M&Aの成立により、債務保証の契約を外す交渉をすることや、保証債務の履行が請求された場合は対象会社の現在の株主が支払う等の条項を表明保証に織り込むことが想定されますが、備忘のため保証債務の金額を記載しておく必要があります。

 

⑪未払残業代

未払残業代は、対象会社が支払う必要がある費用ですが、未払残業代が発生した要因は対象会社の現株主の経営によるものです。そのため、未払残業代については、買収価格の調整にて精算するケースや、現在の株主が未払残業代を支払ってから譲渡するケース、経営判断で過去の分については支払わず、表明保証に記載するというケースもあるため、備忘のため未払残業代の金額を記載しておく必要があります。

 

 

4、純資産の分析

バリュエーションで、DCF法を採用している場合は純資産の分析がバリュエーションに影響することはないため、バリュエーション手法でDCFを採用している場合の財務デューデリジェンスで純資産の分析を行うことは実務的にはあまり多くありませんが、純資産法を採用している場合は、純資産の分析が重要となります。

 

ここで説明する純資産の分析は、純資産法でバリュエーションを行うための修正時価純資産を分析することを目的とした説明とします。

 

 

 

 

①回収可能性に疑義のある売上債権

長期滞留している等で、回収可能性に疑義のある売上債権については回収可能性を加味した金額まで減額します。回収可能性を加味した金額とは、対象会社で滞留期間等による貸倒設定基準を設けていれば当該基準を検討の上、売上債権の減額(貸倒引当金の設定)を行います。貸倒設定基準を設けていない場合は、税法基準や、ヒアリング等による実態を加味した金額を売上債権から減額(貸倒引当金の設定)を行います。

 

②長期間滞留している棚卸資産の評価減

棚卸資産では、滞留在庫の内容を確認して、長期滞留している残高の有無、販売可能性、回転期間分析による異常値、それらの会計処理等を分析し、評価替えの必要性等を検討します。筆者の経験上、棚卸資産は利益操作のため過大計上による不適切会計が行われやすい勘定科目であるため、棚卸資産の金額水準については特に慎重に検討を行う必要があります。対象会社が、棚卸資産の評価減の基準を設けていない場合には、販売可能期間、過去の処分実績、値引販売の実績、滞留期間と販売実績割合の分析等を行い、評価減の金額の算出を行います。

 

③固定資産の除却漏れ金額

中小企業の場合、固定資産を処分しても、会計上除却を行っていないことは少なくありません。そのため、調査基準日時点の固定資産の簿価の中には、過年度に処分をしており調査日時点では実在しない固定資産が含まれていることがあります。そのため、財務デューデリジェンスでは、固定資産台帳の閲覧やヒアリングにより除却漏れの固定資産がないかを確認します。除却漏れの固定資産があった場合は、調査日時点の簿価を調整額とします。

 

④固定資産の減価償却不足額

中小企業の場合は税法基準により会計処理を行っていることが多く、税法基準によっている場合、減価償却は強制されません。そのため、業績が芳しくない年度で減価償却費を計上しないことも少なくありません。よって、調査基準日に計上されている固定資産の簿価は、取得以降減価償却を行っていた場合と比較して、大きい残高となっていることが想定されます。財務デューデリジェンスでは、固定資産台帳より固定資産の事業供用日、取得価額、償却方法、耐用年数、基準日の簿価等より、当初から減価償却を行っていた場合の簿価を算出し、対象会社にて計上されている簿価との比較を行い、償却不足がある場合は純資産の調整項目とします。

 

⑤遊休不動産の時価評価

遊休資産は、事業計画上も活用されない場合は非事業用資産であり、売却が検討されます。また、会計上も減損の検討が必要となります。当該遊休資産の金額が重要な場合は買手とディスカッションの上、不動産鑑定評価書を取得し、金額的重要性が低い場合は固定資産税評価額等から時価を把握して、純資産の調整項目とします。

 

⑥投資有価証券の時価評価

投資有価証券は、保有目的を把握し、基本的にはそれぞれの保有目的に即した会計処理を行います。対象会社は売買目的で保有していなかったとしても、買手企業のシナリオ上当該有価証券は不要であり売却を予定している場合等には、時価評価を行う等、今後のシナリオも考慮の上評価を行う必要があります。上場有価証券であれば時価を把握するのは容易ですが、非上場であれば投資先の決算書を取り寄せて時価を検討します。

 

⑦保険積立金の時価評価

実務上の煩雑性から、保険契約は金融商品会計基準の対象外とされています。(実務指針13項、224項)それは、保険料の中の保険部分と積立部分の区分計算が困難であること等が理由と考えられます。一方で、対象会社は中小企業であり、税法基準で会計処理をしている場合は支払額の半分を資産計上している場合、それに対応する年ベースの解約返戻金は容易に把握可能となります。また、M&Aの成立後、生命保険を解約することも少なくないため、生命保険の解約返戻金の額を把握することは有用です。そのため、純資産の調整項目で生命保険の解約返戻金と簿価との差額を調整することを検討します。

 

⑧未計上の資産除去債務

税法基準で会計処理をしている中小企業の場合、資産除去債務を計上していないことが通常です。資産除去債務は、工場を賃借している場合や、店舗等を賃借しており、内装を大幅に変更している場合や店舗数が多い場合に金額が大きくなる傾向があります。

 

工場であれば、有害物質や土壌汚染の問題が発生すると、億単位の費用となる場合があるため注意が必要です。工場の土壌汚染等の問題が重要な場合は、環境デューデリジェンス等により詳細な調査および見積もりを行うことも必要となります。

 

店舗の賃借であれば、内装を大幅に変更していると原状回復費用が多額になる傾向になりますし、それらの店舗が多ければ多いほど合計額は大きくなります。既に撤退を予定している店舗であれば、業者による正式な見積が可能であれば、見積を依頼することもあります。撤退を予定していない店舗であれば、過去の原状回復費用の実績から、平米数等を基準として見積を行います。

 

⑨未計上の期末月未払人件費

中小企業では、人件費の支払を発生主義ではなく現金主義を採用しており、発生したタイミングではなく支払ったタイミングで費用処理をしている会社が少なくありません。例えば、対象会社が人件費の支払いは月末締め翌月25日払いであったとします。3月決算の場合、現金主義であれば3月末締めで4月25日払いの給料は費用処理されていません。発生主義で計上すると、3月末締めの給料は費用処理され、貸方に未払金が計上されます。当該未払金を純資産の調整項目とするかを検討します。また給料だけでなく、会社負担の未払社会保険料も同様の処理を行います。

 

⑩未計上の退職給付引当金

対象会社の退職金規定において退職金を支給することとなっている場合には、確定給付なのか確定拠出なのかを確認します。確定給付制度を採用している場合には、退職給付引当金の計上が必要となります。退職給付引当金が未計上である会社の多くは従業員300人未満の会社であると想定されますので、その場合は簡便法にて退職給付引当金を計算します。簡便法では多くの場合、期末自己都合要支給額の金額を退職給付債務とする方法がとられることが多いように思います。そして計算された退職給付引当金を純資産の調整項目とします。

 

⑪撤退予定店舗の資産負債差額

M&Aの成立後撤退することが予定されている店舗は、買手企業に引き継がれない、或いは引き継がれたのちに撤退することになります。どちらの場合であっても撤退店舗にかかる資産および負債は精算(撤退店舗の資産および負債を別店舗等で引き継ぐ場合は調整不要となります)されることになります。他の項目で時価調整、減価償却不足等の調整を行っている場合にはそれらを考慮の上、資産負債差額を純資産調整額として調整します。

 

⑪オフバランスの保証債務

オフバランスの保証債務は、主要な関連会社や取引先等に対して、対象会社が債務保証を行っている場合に当該保証額を記載します。債務保証を行っている場合は、保証先が倒産等で債務を履行できなくなった場合に、対象会社が当該債務を支払う必要があるため、潜在的な債務として認識します。また、M&Aの成立により、債務保証の契約を外す交渉をすることや、保証債務の履行が請求された場合は対象会社の現在の株主が支払う等の条項を表明保証に織り込むことが想定されますが、備忘のため保証債務の金額を記載しておく必要があります。

 

⑫未払残業代

未払残業代は、対象会社が支払う必要がある費用ですが、未払残業代が発生した要因は対象会社の現株主の経営によるものです。そのため、未払残業代については、買収価格の調整にて精算するケースや、現在の株主が未払残業代を支払ってから譲渡するケース、経営判断で過去の分については支払わず、表明保証に記載するというケースもあるため、備忘のため未払残業代の金額を記載しておく必要があります。