[M&A専門会社スペシャルインタビュー]

U&FAS 代表 氏家洋輔 氏

~赤字や債務超過もサポートするM&A・事業承継と事業再生専門の事務所~

 


 

大手会計ファーム出身の公認会計士で構成されたM&Aアドバイザリー。品質、スピード、誠実性に拘りを持つとともに「M&A・事業承継と事業再生」のプロフェッショナルとして赤字や債務超過の企業をも支援しているのが同事務所の最大の特徴。今回は、同事務所代表の氏家洋輔氏に、同事務所の特徴やクライアント先のニーズ、事業再生を絡めた赤字や債務超過のM&Aなどについてお話を伺いました。

 

 

U&FAS 代表 氏家洋輔 氏

 

 

赤字、債務超過に積極的に取り組んでいる!M&A・事業承継と事業再生専門の事務所


――:まずは、貴所(U&FAS)のご紹介をしていただけますでしょうか。

 

氏家:当事務所は、M&A・事業承継と事業再生の支援を行う会計・財務アドバイザリーの事務所です。2019年の設立以来、M&A・事業承継支援と事業再生支援の2軸でサービスを展開しております。

 

 

 

――:貴所の特徴や強みを教えていただけますでしょうか。

 

氏家:当事務所の特徴は、「赤字・債務超過」積極的に取り組んでいることです。また、M&Aを専門としている同業者は多いですが、事業再生を専門としている同業者はあまりいないと思います。さらに、M&Aと事業再生のどちらも専門としているとなるとかなり限られると思います。この「赤字・債務超過に積極的に取り組んでいる」「M&A・事業承継と事業再生を専門にしている」というのが当事務所の最大の特徴だと思います。

 

 

 

――:たしかに、「赤字・債務超過に積極的に取り組んでいる」「M&A・事業承継と事業再生を専門にしている」というのはあまり聞かないですね。

 

氏家:はい、そうだと思います。この分野を専門にするには数多くの経験が必要ですからね。私は、公認会計士として、大手の監査法人で東証一部上場企業、売上高数兆円規模の大企業や銀行の監査を経験し、その後M&Aや事業再生の部署で計10年の修行を積みました。1つの部署でM&Aと事業再生のどちらも提供しており、どちらの業務も経験できたのが良かったのだと思います。しかも、運よく有名な先生の下で修行させて頂いたのですが、それが自分の財産になっていると思います。その先生は品質とスピードに非常に拘りのある方で、今の私の基礎となり強みになっているのだと思います。また、数多くのM&Aや事業再生のサポートをしてきましたが、製造業、小売業、建設業、卸売業、IT、サービス業、医療福祉、運送業など多種多様の案件に携わったことも現在の業務に活かされているだと思います。

 

 

 

――:どのようなクライアント先からのご相談が多いのですか。

 

氏家:よく見聞きすることですが、事業承継やM&Aを検討したいと依頼があって、中身を見てみると、実は業績が厳しい状況であるということは少なくありません。赤字や債務超過であった場合に、買手を探すのが難しいとのことで専門家から断られる場合や、アドバイザー契約を結ぶものの、あまり進捗しないことも多いようです。我々の事務所には、そんな業績の厳しい会社と直面したM&Aの専門家から相談されるケースが多いですね。上場しているコンサル企業や、外資系の大手コンサル企業から相談を頂いた時はびっくりしました。

 

 

 

――:専門家からの依頼が多いということは、やはり、赤字や債務超過の企業のM&Aは専門性が高く、業務対象としている税理士や公認会計士は少ないということなのでしょうか。

 

氏家:はい、そうだと思います。しかし。このような専門家からお話を頂く一方で、U&FASは開業2年目で広告も出しておらず、まだまだ認知度が低いため直接企業様からご連絡を頂くことはあまり多くないのが現状です。当事者である企業様もどこに相談するのがよいのか悩まれていることもあるかと思いますので、ぜひ、「赤字、債務超過ならU&FAS」と覚えて頂けると有難いですね(笑)。

 

 

 

 

赤字や債務超過の会社でも事業再生の視点を加えることでM&Aできるケースも


――:事業承継やM&Aで事業再生が活用されるケースが少ないとのことですが、それはなぜでしょうか。

 

氏家:事業承継やM&Aの局面で、売りに出ている企業は様々あるものの、買手側のニーズとしては業績の良い企業が好まれているのが現状です。理由は大きく2つあると思っていて、1つ目は買手側にとって計算がしやすいことだと思います。例えば営業利益が安定して毎年5千万円出て、今後もそれが続くことが想定される。簡便化して考えると1億5千万円での譲渡であれば3年で投資が回収できるということが計算できます。一方、営業利益が△1千万円の会社を買収しようとした場合、現状のままでは赤字ですので、これを改善して利益が出るようになる、又はしなければいけない。どの程度の利益が出せるかという見積は、経験や専門性が必要となるので、赤字企業を立て直すことを前提としたM&Aはやはり買手側からは計算が難しく、敬遠されやすいように思います。

 

もう1つは、仲介企業や専門家の問題だと思います。売手と買手をマッチングさせる業者は、譲渡金額×数パーセントを成功報酬として得ることが一般的です。赤字企業よりも黒字企業の方が譲渡金額が大きくなるので、結果として報酬額も大きくなり好まれやすいですね。

 

他にも、赤字や債務超過企業のM&Aでは、銀行を巻き込んだり、スキームも特有のものになるため、専門能力が必要となりますが、それらの専門能力を持ち合わせた専門家が少ないことも要因だと思います。

 

 

 

――:そうすると、赤字や債務超過の会社はM&Aを選択肢に入れることはやはり難しいのでしょうか。

 

氏家:業績の良い企業と比較して、赤字や債務超過の企業の買手を探すのが難しいということは事実です。先ほど申し上げたように、買手企業からも、仲介企業からも黒字企業の方が好まれますので。では、赤字や債務超過の企業はM&Aをできないかと言われると、そんなことはなく、可能性は十分にあります。ただ、そこには事業再生という観点を加えることが必要になってきます。

 

 

 

――:事業再生の視点を加える必要があるとのことですが、赤字や債務超過の会社のM&Aについてもう少し詳しく教えて頂けますか。

 

氏家:赤字や債務超過の会社とのM&Aを成約させるために考えられるケースは3つあると思います。

 

1つ目は、赤字や債務超過のまま買収するケースです。これは、買手企業にとって、相当なシナジー効果を期待できる場合等が想定されます。赤字や債務超過のままM&Aを行うため、譲渡金額は比較的小さくなります。

 

2つ目は、時間的に余裕がある場合に限られますが、自力での事業再生を行い、企業価値を高めた上でM&Aを行うケースです。事業再生により黒字化や債務超過の解消が達成されていれば、業績の良い企業としてのM&Aが可能となります。債務超過が解消されていなかったとしても、見栄えはよくなりM&Aの可能性は上がることになります。

 

3つ目は、第二会社方式というスキームがあります。恐らく聞きなれない単語だと思いますが、簡単に申し上げると既存借入金の債権放棄と、身軽になった会社の売却を同時に行うスキームです。もう少し詳細に申し上げると、新たにB会社を設立し、そこへ残す事業を会社分割や事業譲渡で移転させ、既存のA会社を借入金を含めて特別清算する、そしてB会社はM&Aにて売却するということを同時に行います。これによって金融機関からの借入金を大幅に縮小して、優良な事業のみを第三者に売却することが可能になります。このスキームによって、残したい優良な事業と従業員等を残すことができるようになります。ただし、金融機関に債権放棄をお願いするため、必要な分析、債権放棄の合理性、買手企業の適切性等を金融機関に対して行う必要があります。

 

 

 

――:特に、3つ目のケースでは非常に複雑なスキームと、分析が必要になるのが想像できますね。

 

氏家:はい。ここまでくると高度な専門性が要求されてしまいますので、やはり事業再生に強い専門家へ依頼する必要がでてくると思います。

 

 

 

 

同業からも頼られる赤字や債務超過の要素が含まれる「財務デューデリジェンス」


――:貴所の具体的なサービスラインについて教えてください。

 

氏家:当事務所のサービスラインは「M&A支援と事業再生支援」、それにプラスして「CFO支援」があります。

 

 

 

――:M&A支援と事業再生支援のサービスについて詳しく教えていただけますか。また、クライアントからはどのような依頼が多いですか。

 

氏家:「M&A支援」では、スキーム検討、デューデリジェンス、バリュエーション等を売手側、買手側に対して支援します。M&A関連で依頼が多いのはやはりデューデリジェンスですね。買手側の依頼を受けて売手に対して財務DDをする場合も、売手側の依頼を受けてDD対応の支援を行う場合もあります。最近増えているのは、M&Aで入って蓋を開けると赤字や債務超過の要素が含まれている場合ですね。それらが絡むと一気に頼りにして頂ける感覚がありますね。クライアントからも、他の専門家や同業者からも。

 

「事業再生支援」では、金融機関からの支援であるリスケやDDS(※1)や債権放棄などを得るために、財務DD、事業DD、事業計画、アクションプランの策定がサービスラインとなっています。基本的には全部任せて頂ける依頼がほとんどですね。我々も期待に応えるために精一杯やらせて頂きます。財務面のみならずビジネス面でも社長と深くディスカッションを行って事業計画を策定していきますので、良い信頼関係が築けます。金融機関からの支援が決まった時は、良い事業は残せて、雇用も守れて、本当に感謝して頂けます。これが私の大きな原動力の1つですね。

 

※1 DDS(デット・デット・スワップ):既存の借入金を劣後ローンとして借り換える手法。会社の借入金額はDDSの前後で変更はないが、金融機関の中では劣後ローンは資本とみなすことができるため、金融機関の査定上有利に働く。

 

 

最近では新型コロナの影響で、特例リスケ(※2)の相談が増えています。特例リスケは、従来のリスケとは比べ物にならないぐらい簡単に金融機関からの支援が受けられる制度です。コロナの影響を受けて資金繰りが苦しい企業で、まだ特例リスケをされていない方は是非ご検討頂くのが良いと思います。

 

※2 特例リスケ:正式名称は「新型コロナウイルス感染症特例リスケジュール」。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一定以上の業況悪化を来たした会社に対して、中小企業再生支援協議会の支援の下、1年間のリスケを実施するもの。

 

 

 

▷参考URL:新型コロナ対策融資と特例リスケ

▷参考URL:新型コロナ特例リスケジュールの実務について

 

 

 

――:CFO支援とはどのようなサービスですか?

 

氏家:「CFO支援」は、お客様によって様々な支援を行っています。事業計画の策定や、月次の経営会議資料の作成、原価計算の導入や、部門別損益の精緻化などです。私が主動する場合もあれば、これらの助言や問題が発生した場合の支援など、顧問のような支援を行う場合もあります。品質にはもちろん満足して頂いているようですが、それにプラスアルファで事業再生の専門家がすぐ近くにいることで、安心されている経営者が多いように思います。

 

 

 

 

経営者の想いを大切に、大手同様の高い品質を中小の値段で提供


――:M&A業務をされる上で、大切にしていることはありますでしょうか。ご経験談を含めてお答えください。

 

氏家:M&Aで最も大切にしているのは株主や経営者の想いですね。事業や製品、雇用などに対する想いを実現するために業務に取り組むことが最も重要であり、成功の近道だと思います。高い品質、迅速性、誠実性について特に拘りをもって取り組んでいます。品質面では、大手の高い品質を中小の値段で提供することを心がけていますね。M&Aは買手にとっても売り手にとっても、企業経営の中でもかなり重要な意思決定が必要となる局面だと思います。個人で言えば、結婚する時や家を買う時のような大きな決断をする時と似ていると思います。そのような重要な局面での情報は、ポイントが明確でわかりやすく、正確である必要があると思います。品質を高めることがM&Aを成功させることにとって重要であると考えています。

 

また、偏見かもしれませんが、良い経営者はせっかちであることが多く、とにかく早く情報を提供することを望んでおられることが多いように思います。過去にDDレポートを2週間ほどで仕上げて報告した時には、こんなにしっかりしたレポートをこんなに早く仕上げてもらったのは初めてだと仰ってくださり、それ以降もことあるごとにご連絡を頂けるようになりました。

 

 

 

――:税理士の方々と一緒にM&A業務を進めることも多いかと思いますが、M&A業務における税理士の役割をどのように感じておられますか。

 

氏家:税理士の先生はM&A業務を進めていくうえで非常に重要なパートナーだと思っています。会社のことをとても理解されていますし、DDに必要な資料を税理士の先生がお持ちになっていることも多いですね。ヒアリングする時も社長に伺うよりも、税理士の先生に伺ったほうが正確に理解できるようなことがしばしばあり、円滑にDDを進めるためには、税理士の先生の協力は大変ありがたく、不可欠だと思います。

 

また、税理士の先生は、会社のことをよく理解されているため、M&Aや事業承継を検討している場合に会社の相談相手となることが多いようですね。ただ、顧問税理士の先生にとってM&Aや事業承継は専門外であることが多いため、我々のところにお話を頂けることがあります。その場合に、ご紹介或いは、協業という形で会社をサポートさせて頂いています。

 

 

 

――:最後に、事業会社の担当者の方や事業会社をサポートする税理士等の専門家の方々へメッセージをお願いします。

 

氏家:事業承継やM&Aというのは、専門でやっていなければそう何度も経験できるものではないと思います。これらは株主や経営者の想いが非常に重要ですので、その想いを汲み取り業務に当たられると良いのでないでしょうか。また、事業承継やM&Aを成功させるには、適切な専門家が不可欠ですので、良い専門家と連係をとって進めることが重要だと思います。事業承継やM&Aを成功させることで、事業会社のご担当者や税理士の先生の業務の幅が広がるのではないでしょうか。

 

 

 

――:ありがとうございました。

 

 

 

 

 

[事務所概要]

事務所名:U&FAS

所在地:東京都千代田区丸の内2-2-1 岸本ビルヂング6階

設立:2019年1月

代表者:氏家洋輔

主な事業内容:M&A・資金調達支援、事業再生・経営改善支援、株式価値算定、CFO支援

対応エリア:全国(日本国内)

URL:https://www.u-fas.com/

 

 

 

 

 

 


[掲載希望募集中]

ZEIKEN LINKSでは、本連載に掲載を希望するM&A専門会社(M&A仲介会社、M&Aアドバイサリー会社、M&Aマッチングサイト、税理士法人、弁護士法人、金融機関など)を募集しております。

ご希望の会社様は下記アドレスまで、お気軽にお問合せください。

お問合せ先:links@zeiken.co.jp

 


 

[Batonz research](Sep.2020 Vol.1 )

 

 

〈目次〉

●大型M&Aが激減する一方、中小M&Aは過去最高に

●第三者承継支援総合パッケージの発表と小規模M&A市場の拡大

●中小M&Aガイドラインで初めてM&Aプラットフォーマーの利用推進 を明記

●経営資源引継ぎ補助金制度の創設

●スモールM&A市場の出現と拡大

●M&Aニーズの変化に対応できるかが鍵に

 

 

 

大型M&Aが激減する一方、中小M&Aは過去最高に

世界的な新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、クロスボーダーを中心とする大型M&Aが大幅に減少する一方、中小規模のM&Aは急激に増加している実態が各種調査会社の調査結果で明らかとなった。

 

調査会社によると日本の2020年上半期(1~6月期)のM&A総額は2兆9111億円にとどまり、これは半期ベースで実に16年半ぶりの低水準となった。また、金融データ・プロバイダーであるリフィニティブの調査でも同様に、日本関連M&A公表案件は5.1兆円と前年同期から42%もの減少となり、これは2013年以降最低の水準となっている。この記録的な減少はクロスボーダーや業界再編に絡む1,000億円超の大型M&A案件の大幅な減少がその主要因である。例えばリフィニティブの調査では大型M&A案件は件数ベースで前年比75%あまり減少し、僅か5件、取引金額ベースでも1.3兆円と実に72.7%の減少という記録的な減少となった。国際的な大型M&Aは新型コロナウイルス感染症の影響をもっとも大きく受けた分野であるといえ、ワクチンの開発等、劇的な状況改善が進まない限り、その回復には相当の時間を要するものと思われる。

 

しかし注目すべきは、大型案件が激減する一方、M&A全体の案件数は2,178件と過去最多を記録したことであろう。この背景としてここ十年来に渡って指摘されてきた日本の中小企業の深刻な事業承継問題が存在するが、中でも新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、中小企業経営者が一気に同族承継からM&Aに舵を切ったことが大きな要因であると推定される。バトンズでは新型コロナウイルス感染症の拡大がどのように中小企業経営者の意思決定に影響を及ぼしたのかについて、2020年6月に全国の中小企業経営者を対象とした調査を実施した。この調査は緊急事態宣言発令前の2020年2月以前と比べ経営者の買収意向と売却意向がどのように変化したのかを比較したもので、その結果買収意向については買収に前向きな経営者が64.8%に上り緊急事態宣言前より7.2ポイント増、売却意向については前向きに考えている経営者が60.3%の9ポイント増といずれも大幅に上昇したとの結果となった。

 

 

 

また、買い手のみの調査であるが、事業承継M&Aプラットフォームであるビズリーチ・サクシードが買い手とM&Aアドバイザー向けに行ったアンケートでも、今後M&Aが活性化するという回答が97%を占めるなど、新型コロナウイルス感染症の拡大が大型M&Aとは真逆に中小M&Aの急拡大を後押しする結果となっていることが窺える。

 

 

出典:「コロナ禍の影響下におけるM&Aに関するアンケート」(事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」調べ)https://br-succeed.jp/content/news/pr/post-1501

 

 

第三者承継支援総合パッケージの発表と小規模M&A市場の拡大

こうした中小M&A市場の急拡大を後押しした要因の一つに、国の事業承継政策の大転換があげられる。従来、国は数度にわたる事業承継税制の改定など主として親族内承継の推進に力を入れてきた。しかし近年親族外の第三者への承継(M&A)が急増し、中小企業におい ても事業承継の主流を占めつつあるのが実態だ。 例えば、全国の都道府県に設置された国の委託事業である事業引継ぎ支援センターに寄せられた事業承継に関する相談は過去最多の11,514 社となり始めて1万件を突破した。実際の成約件数は前年比27%増の1,176 件であったが、実にその3分の2以上を第三者承継 (M&A)が占める。また、成約件数の内訳を見ると譲渡側の61.1%が売上1億円以下の小規模企業となっており、我が国の企業の87%を占める小規模企業の存続を考えると、小規模事業者の第三者承継(スモールM&A)の推進が特に政策的に重要なテーマとなりつつあると考えられよう。

 

 

 

こうした状況を踏まえ2019年12月に経済産業省は10年間の集中実施政策として「第三者承継支援総合パッケージ」を発表した。これは年間6万者、10年で60万者の事業者に対し、第三者承継の実現を目指すというもので ある。全国の事業引継ぎ支援センターの成約数が親族承継も含めて年間1000件あまり、民間企業 のM&A成約数を併せても数千件と推定されている中、これは極めて野心的な計画であると言える。

 

 

 

 

中小M&Aガイドラインで初めてM&Aプラットフォーマーの利用推進を明記

こうした状況下、中小企業庁は2020年5月、2015年3月に策定された第三者承継推進の嚆矢とされるM&A「事業引継ぎガイドライン」を全面改訂し、新たに「中小M&Aガイドライ ン」を策定した。 同ガイドラインではM&Aのプロセスや手数料の考え方等を具体的に提示したのに加え、M&A専門業者に対しても行動指針を示すなど、中小M&Aマーケットの拡大という現状を反映した個別具体的な内容となっているが、その中で新たに付け加えられた大きな変更点の一つとして「M&Aプラットフォーマー」の利用が挙げられる。 M&Aプラットフォーマーとはバトンズに代表される売り手と買い手のマッチングサイトに、様々な専門家による仲介サービスを内包したインターネットを活用した新たな形態のM&Aサービスの総称である。 ここ数年で登場したこの新しいM&A支援機関の利用をガイドラインに織り込むため、事業引継ぎガイドライン改訂検討会委員には従来の学識者や民間大手M&A&仲介会社に加えて、バトンズCEOである大山 敬義をはじめとするM&Aプラットフォーマーも名を連ねて論 議が行われた。その結果特に小規模な事業者について、「M&Aプラットフォームの活用を積極的に検討す ることが望まれる」という文言が明記され、我が国の第三者承継推進政策の一翼を担うもの として大きく注目されるに至ったのである。

 

 

 

 

経営資源引継ぎ補助金制度の創設

2月より本格的に拡大を始めた新型コロナウイルス感染症が中小企業に与える影響を憂慮 し、迅速な第三者承継を後押しすべく、中小企業庁は2020年7月に「経営資源引継ぎ補助 金」の受付を開始した。これは新型コロナウイルス感染症の影響で廃業が懸念される中小企 業の事業再編・事業統合等に伴う経費の一部を補助する新設の補助金であるが、特筆すべき は新型コロナウイルス感染症等の影響により対面での交渉が難しいという判断から、新たなにM&Aプラットフォームのシステム利用料についても補助金の対象となったことが挙げられる。 従前、事業承継関係の補助金としては「事業承継補助金」が存在したが、その採択件数は1 18件、採択率は6割程度に過ぎなかった。 しかし経営資源引継ぎ補助金は36億円の予算から950件の採択を目指しているとされる。こうした政府による第三者承継推進政策は、コロナ禍での中小企業経営者のM&A検討意欲の高まりとともに、中小、小規模企業M&Aの拡大の大きな後押しとなると考えられる。

 

 

スモールM&A市場の出現と拡大

こうしたM&Aプラットフォームの利用拡大によって、もう一つ大きく注目されるのが、従来の起業の代替手段として、サラリーマンなどの個人がM&Aで会社を買って経営していく事例が数多く生まれたことである。 バトンズでも前身である「@net(アットネット)」において、早くも2013年3月に東京都 内の歯科医院を個人の勤務医が承継した事例が生まれているが、この数年は個人を買い手と したスモールM&Aが多数成約している。この全く新しい市場は従来の仲介会社のクローズドな市場では到底起こり得なかったものであり、まさにインターネットによるM&Aプラットフォームの普及によって新たに誕生した 市場であるといえよう。新たに生まれた膨大な買い手の出現は127万者とも言われる後継者難によって廃業が懸念される事業者の第三者承継に大きな光明をもたらすものと期待される所以である。もちろんM&Aプラットフォームの利用価値はこうしたスモールM&Aに留まらず、今後更に 拡大していくことが考えられる。他の産業分野で見られた人的なリソースに依存したローカ ルモデルがI T化されることで生産性が高まり、同時に飛躍的な量的拡大を果たしたことと 同様の出来事がM&A業界において繰り返されることは十分考えられることである。

 

米国などのI T先進国では既に小規模企業のM&Aの大半はネット取引となり、最大手のプラ ットフォームでは常時7万件以上の案件が閲覧可能なほどであるが、同様に我が国においても将来的には年商5億円以下の市場で行われるM&Aの大部分が、人の力のみで仲介を行うモ デルからインターネット上でのマッチングに切り替わる可能性がある。今後M&Aプラットフォームの普及により、米国と同様の量の経済が動く状況となれば、経 済産業省が目指す年間6万者の第三者承継の実現も現実的なものとなってくるだろう。

 

 

M&Aニーズの変化に対応できるかが鍵に

先に触れたバトンズの調査において、会社・事業の売却を実施、検討した理由のトップ3は 経営不振が53.7%、将来不安が46.3%、事業再編が46.3%であった。 それに次ぐ形で後継者不在が31.3%となっており、従来中小M&Aの主要因と考えられてきた事業承継問題より、現実的な経営不安が売却の主要素として挙げられるようになったことは 注目に値する出来事である。つまり既にM&Aは将来の関心事ではなく、直近に差し迫った経営課題である、ということ なのである。一方会社・事業の買収を実施、検討した理由として挙げられたのは市場変化への対応のためが70.8%、自社のウィークポイントの補強のためが62.5%で、従来不動のトップであった事業拡大のためが54.2%で第3位に後退するなど、まさにコロナという突然の状況の変化に対 する対応策としてM&Aが検討されているという状況がわかる。

 

このことはM&Aサービスを提供する専門家、事業者に対して重要視する点は何かという質問の結果にも現れている。これによれば、手数料が安いことが45.0%、専門家によるサポートが受けられることが43.2%とあり、ここまでは以前とそう大きく変わらないものの、新たに成約までのスピードが 早いことをあげたのが33.3%と3位につける結果となっている。

 

コロナ以前のM&A業界の主要テーマは俗に2025年問題と呼ばれる中小企業の事業承継問題の解決にあった。しかし現在では売り手買い手ともに、コロナによって激変したマーケットに、迅速に適応するための手段としてM&Aを検討しており、各種M&Aの専門家、仲介会社 は大きく変化した顧客のニーズに的確に対応することが望まれている。

 

M&Aプラットフォームの普及はこうしたニーズに合致するもので、今後更に幅広い層に活用されることになると考えられるが、一方で専門知識を持たない素人の相対交渉によるトラブルの多発や、ネットに精通した専門家、特に地方における担い手の少なさなど課題も多い。今後多種多様な選択肢の中から迅速にマッチングが可能であるというネットの特性を生かしつつも、M&A専門家の介在により、いかにトラブルなく安全なM&Aを可能にできるかが、 日本においてもIT先進国の米国などと同様にM&Aプラットフォームが本格的な普及に至るかどうかの試金石となるだろう。

 

 

 

 

情報提供元:株式会社バトンズ

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第4回:公的機関の活用(事業引継ぎ支援センター)

~事業引継ぎ支援センターとは?どのような相談ができる?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

 

 

 


[質問(Q)]

M&Aを検討するにあたり、相手先探しを支援してくれる公的機関として事業引継ぎ支援センター(以下、「センター」という)があると聞きましたが、よくわかりません。概要とどのような支援をしてくれるのか教えてください。また、センターに相談すると費用はいくらぐらいかかりますか。

 

 

[回答(A)]

センターは、後継者不在の中小企業・小規模事業承継をM&A等を活用して支援する目的である国の事業です。現在47 都道府県に設置されています。センターは、親族・従業員承継、再生、創業、廃業等事業承継に関連した相談やトラブルについても幅広く相談に乗り、対応しています。また、後継者不在の企業に対するマッチング支援を実施しています(相談料は無料です)。

 

 

 

1.センターの概要


センターは産業競争力強化法に基づき実施されている国の事業です。2011年から東京、大阪に開設されて以降、後継者問題に課題等を抱える中小企業経営者・小規模事業者に対して事業承継全般のご相談を受け、事業引継ぎ支援(M&A、役員・従業員承継)を実施しています。

 

また、地元の金融機関、士業と連携して、マッチングについて進捗支援を行うほか、登録機関等(※)にはノンネームデータベース(以下、「NNDB」という)を通じて案件情報を提供して相手先探しを促進しています。また、M&Aの経験が少ない士業の育成も実施しているセンターがあります。2018年度には全国で相談者数11,677 者、成約923 組の支援をしました。

 

 

(※) 登録機関は登録民間支援機関とマッチングコーディネーター(以下「MC」という)の総称。それぞれ各センターに登録した支援者を言います。

 

「登録民間支援機関」: 金融機関や民間仲介会社等がM&Aをフルサポートできる支援者
「MC」:士業法人等小規模マッチングに取り組む支援者

 

 

2.特徴


①立ち位置
公的機関ですので、公平、中立、秘密厳守で相談を受けています。

 

②受けられる相談
以下のようなご相談も幅広く受け付けています。
・ 事業承継について悩んでいる経営者が何から考えてよいのかわからない
・ 役員・従業員に事業承継したいがどのようにしたらよいかわからない
・ M&Aで相手先を探したい(譲渡、譲受両方)
・ 事業を成長させるために会社を引き継ぎたい(譲受)
・ 相手先と基本的な合意があるがどのように進めてよいかわからない
・ 後継者が不在なので廃業したい
等々です。

 

③ 主たる支援対象
・ 支援企業規模は小規模企業が中心

図1 にあるとおり、成約している譲渡側事業者の約60%が売上高1億円以下の事業者です。従業規模で見ても45%が従業員数1~5名以下の事業者となっています。

 

 

 

3.支援方法


支援方法は主に3 つの段階に分かれています。

 

①一次対応(相談)~方針決定まで
面談を通じて相談者の現状やご要望の相談を受け、方針決定まで助言をします。

 

②二次対応(登録機関に橋渡し)
M&A 方針の決定した候補先探索が必要な譲渡希望事業者、譲受希望事業者をセンターに登録している登録機関に橋渡しして支援する方法です(センターの相談は無料ですが、登録機関との契約は民間の契約となり、登録機関の費用は有料です)。

 

③三次対応(センター自ら引継ぎ支援)
相手が既に決定している相談者や、二次対応で相手先が見つからなかった相談者、後継者人材バンク(廃業予定の事業者と創業希望者をマッチングする支援手法)でセンターがお手伝いする方法です。主に、マッチングコーディネーターとして士業の皆様と連携支援しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[わかりやすい‼ はじめて学ぶM&A  誌上セミナー]  

第2回:どのようにM&Aを行うのか

~株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)、合併、事業譲渡、会社分割、株式交換・株式移転~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

1.株式の売買(相対取引、TOB、第三者割当増資)

2.合併

3.事業譲渡

4.会社分割

5.株式交換・株式移転

 

 

▷第1回:なぜ「会社を買う」のか~買う側の理由、売る側の理由~

▷第3回:M&A手法の選び方~必要資金、事務手続の煩雑さ、買収リスクを伴うか~

▷第4回:M&Aの流れ①(計画段階)~M&Aの流れ(全体像、戦略は明確に、ターゲット会社を見つけよう)~

 

 

どのようにM&Aを行うのか

「株式の売買」「合併」「事業譲渡」「会社分割」「株式交換・株式移転」という5種類の代表的M&A手法を見ていきます。多くの手法があるため代表例のみ簡潔にお伝えしますので、ここでは「そんな手法もあるんだ」という気持ちで軽く見ていきましょう。

 

 

1. 株式の売買

最も分かりやすい方法は「株式の売買」です。株式を取得することによって議決権を獲得し、会社経営に参画する形となります。

 

 

 

 

株式の売買と一口に言っても、相対取引・TOB(Take Over Bid:公開買付)・第三者割当増資と様々な手法があります。

 

 

■相対取引

上図のように、現在の株主と買い手が証券取引所を通さず直接行う売買で、中堅規模までの株式売買によるM&Aは大多数が相対取引となります。

 

■TOB

金融商品取引法に定めされている株式の買収手続で、上図における「現在の株主」が大多数いるような大企業を買収する場合に、買収の意思と条件を示したうえで一般の投資家から株式を買い付けます。

 

■第三者割当増資

特定の相手にのみ新株を発行する方法で、買い手としては株を大量に取得して議決権を入手します。これは企業再生のM&Aにおいて、スポンサーが新規資金を注入するといった、切羽詰まった局面で使用されることが多いやり方ですね。

 

 

2. 合併

次に分かりやすいのが「合併」です。M&Aと言えば「合併」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。大手銀行が次々と合併していったように、2つ以上の会社を1つの会社にすることにより相手のビジネスを獲得する方法が合併です。

 

 

 

 

合併は複数の会社が1つの会社になるため、非常に強力な結合関係を構築することができます。先程の株式売買では買収する側と買収される側が明確でしたが、合併は上図の通り会社が1つになるため、現場社員の感覚としては株式売買と比べると比較的対等な立場での組織再編となります。

 

合併は大きく分けると新設合併と吸収合併があります。上図の会社「A+B」が、新規に立ち上げた会社であれば新設合併、会社Aが残ったまま会社Bを買収していれば吸収合併です。

 

新設合併では全く新しい会社になることから、事業の許認可等を再申請する手間がかかります。そのため多くの場面において吸収合併が用いられています。

 

 

3. 事業譲渡

これまでご説明してきた株式売買・合併は、会社自体のM&A手法となります。一方、事業譲渡は、会社の「事業」単位でM&Aを行う手法となり、会社全体・会社の一部等多様な切り分け方ができることが特徴です。この「事業」は、店舗単位、工場単位、セグメント単位はもちろん、会社の全ての事業も対象になります。

 

 

 

 

事業譲渡は資産負債の移転手続を個々に行う必要がある等、手続が煩雑ですので、大企業同士のM&Aにはあまり用いられません。中堅規模の案件で事業のみの売買を行いたい場合に使用される手法です。

 

 

4. 会社分割

上記の事業譲渡と似た手法に「会社分割」があります。会社の中から事業を切り出して、権利義務の全部または一部を包括的に別の会社へ承継します。図のイメージは上記事業譲渡と同じです。

 

事業譲渡は会社法上あくまで取引法上の契約ですが、会社分割は「組織再編行為」と位置付けられており、合併のように権利義務を包括的に承継することが可能な手続となります。

 

 

新規設立した会社に事業を承継する「新設分割」と、既存会社に事業を承継する「吸収分割」の2つに分類できます。

 

対価は多くの場合において切り出した事業分の価値を有する株式となりますが、対価を相手の会社自体に渡す場合が「分社型」、相手の会社の株主に渡す場合が「分割型」と呼ばれます。

 

新設or吸収と、分社型or分割型の組み合わせで、合計4通りの手法になりますね。

 

 

会社分割は、規模が膨らんだ事業の分社化や、グループ内企業への一部事業移管等、組織内の再編に使用されることが多い手法です。

 

切り出した事業を既存企業に吸収させることで事業譲渡に似た形となりますし、会社全部を事業として切り出すことで合併に似た形にもなるように、種類が豊富で手続も柔軟な手法となります。

 

 

5. 株式交換・株式移転

株式交換は、自社の株式を対価として他社の株式を全て取得する手法です。他社が新設会社の場合は株式移転となります。(会社法上、この組織再編行為だけは新設の場合に用語が分かれています。不思議な感じですね。)

 

 

 

 

株式交換はグループ内の再編行為でよく使われますが、経営統合や買収の際にも使用されることがあります。例えば経営統合の局面ですと、新設持株会社を作り、その持株会社の下に2社がつくイメージですね。

 

「株式」の交換・移転ですので、対価は株式のみで現金を必要としない点が特徴です。単純に株式を現金購入するより手続は煩雑ですが、買収資金を用意せずに済むのは大きな利点になります。

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第3回:譲渡・M&A手続の流れ

~M&Aの一般的な手続きの流れとは? 留意点は?~

 

[解説]

上原久和(公認会計士)

 

 

 

 


 

[質問(Q)]

M&Aで会社売却する場合、進める手順と必要事項・留意点を教えてください。

 

 

[回答(A)]

仲介会社やFA(フィナンシャルアドバイザー)などの支援会社とコンサルタント(仲介)契約した場合には、下記の手順で進めていくことが一般的です。

 

【株式譲渡の場合の一般的な手順】
 ①ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診
 ②候補先を絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定
 ③秘密保持契約の締結とIM等による情報開示
 ④譲受側の検討
 ⑤条件交渉と基本合意の締結
 ⑥買収監査(デューデリジェンス)
 ⑦譲渡契約書(最終契約)の締結
 ⑧クロージング(資金決済)

 

 

 

 

1.ロングリストの作成と譲受候補企業への初期的打診


仲介会社(又はFA)は譲渡会社の営業や事業内容を調査した上で、当該事業の譲受を希望する会社やその事業とのシナジーが期待できる会社を大まかな形でリスト化します(ロングリストの作成)。また、ケースによってはこの段階で譲受候補の企業に対し、興味の有無について初期的に打診する場合もあります。

 

 

2.候補先の絞り込み、ショートリストの作成と候補先の決定


作成されたロングリストから、地域や規模など一定の基準(ケースによっては初期的な打診の結果)をもとにして具体的な候補先を絞り込んでいきます。こうして絞り込まれた候補先のリストをショートリストと呼び、当面の接触予定先になります。この中から具体的な打診先を支援会社のアドバイザーとともに検討し、打診候補先(譲受候補企業)を絞り込みます。

 

 

3.秘密保持契約の締結とIM等による情報開示


仲介会社やFAのコンサルタントは絞り込んだ譲受候補企業に打診するために、譲渡会社の社名が把握できないノンネーム情報(以下、「NN情報」)と具体的に譲受を検討するための詳細情報を記載したIM(インフォメーション・メモランダム)を作成します。

コンサルタントは最初に打診候補先にNN情報を提示して、興味の有無を確認します。打診候補先がNN情報に興味を持った場合には、秘密保持契約(CA又はNDA)を締結し、社名を含めた詳細情報が記載されているIMを提供します。

 

 

4.譲受側の検討


譲受側である譲受希望企業は、条件提示に必要となる情報をIMから入手します。また、条件提示の検討に必要となる情報や質問がある場合には、担当のコンサルタントを通じて譲渡企業から回答を入手します。これら入手した情報を基にして、譲渡側に提示する条件を検討します。

 

 

5.条件交渉と基本合意の締結


譲受側が譲渡側に提示した条件や意向表明を基に具体的な条件交渉に入ります。条件交渉の結果、買収金額や買収形態(スキーム)など基本的な事項が双方で合意できた場合には、当該合意事項を文書化した基本合意書(LOI)を交わすことが一般的です。基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが多く、双方の確認書的な要素が強いものです。

 

 

6.買収監査(デューデリジェンス)


買収監査(デューデリジェンス)は、譲受側が譲渡企業について、M&Aの実施の可否やその後の統合作業に必要となる情報や問題点を検出するために実施する作業です。譲受側が条件提示に用いたIMや財務情報は、あくまで譲渡側が提示されたものであり、譲受側としてはその情報の妥当性を確認していません。譲受側としては条件提示の前提になっている情報と譲渡企業の内部資料を検証することで、前提となっている情報を確認することになります。仮に前提情報と検証した結果が大きく乖離する場合には、提示条件の修正や、場合によってはM&Aの実施自体が取り止めになることもあります。このため譲受側にとっては、過大なリスクや買収金額にならないように、また円滑に統合作業を進めるためにもデューデリジェンスを実施することが望ましいといえます。

 

 

7.譲渡契約書(最終契約)の締結


デューデリジェンスの結果を基に、最終的な譲渡条件や譲渡形態(スキーム)を確定させ、譲渡契約書を作成します。双方が契約内容に合意できれば、譲渡契約書を締結します。

 

 

8.クロージング(資金決済)


クロージングとは、譲渡対象(株式譲渡であれば株式、事業譲渡であれば対象資産)と対価である資金の受渡のことです。譲渡契約を締結し、クロージングが終了することによって、初めてM&Aが成立すると言えます。このため、譲渡契約の締結とクロージングを同日に設定したり、同日のクロージングができない場合も可能な限り、クロージング日が伸びないようすることがトラブル防止の観点から重要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第3回:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~工事管理は?経営審査事項とは?会計処理は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、建設業のM&Aを検討していますが、建設業M&Aの特徴や留意点はありますか?


建設業は、元請となる大手の建設企業から、下請となる中小零細の工事企業まで様々な企業が含まれます。一つの工事に多数の企業が関与することは建設業の特徴の一つとなります。そして、多数の企業が関与するため、スケジュールの管理や予算の管理が難しいと言えます。

 

また、工事が長期にわたることも特徴の一つです。数か月で終了する工事もありますが、数年かかる工事もあります。一般的な商品・製品であれば、商品・製品の引渡しと対価であるお金(又は売上債権)の受取は同時に行われます。一方で、建設業の場合は工事が長期間にわたること、受注額が多額である性質から、数回に分けてお金が支払われることが一般的です。支払い金額やタイミングは個別の契約ごとに異なりますが、契約、中間、引渡の3回程度とされることが多いようです。下図のように、3回入金がある場合では、工事関連の運転資金は入金のタイミングが合えばほとんど必要にならず、クライアントからの売上金で工事費用を賄えます。

 

 

 

 

次に、公共工事が多いことも他業種と比べた際の特徴となります。公共工事をメインのビジネスとしている企業であれば、年度末が最も忙しく、売上高も多く計上されることとなります。公共工事を元請企業として受注するためには、経営審査事項(通称経審)と呼ばれるもので一定の点数を獲得する必要があります。経営審査事項の点数は財務諸表の数値等(例えば赤字だと点数が低い)で決定されるため、公共工事を受注するためには、赤字にしたくないというインセンティブが働きます。

 

建設業以外では、決算の数値を操作する目的は銀行から融資を獲得することが多いですが、建設業では、銀行からの融資に加えて、経営審査事項の点数獲得を目的として決算数値を操作することがあります。特に公共工事を元請として行っている企業をM&Aにて買収検討している場合は、決算数値の確からしさをには留意が必要となります。

 

 

さらに、建設業は会計処理が特有であり、建設業会計と呼ばれる会計処理を用いることも特徴の一つです。工事にかかる会計基準は、工事完成基準と工事進行基準があり、どちらかを用います。会計処理の詳細は割愛しますが、それぞれの特徴を簡単に説明します。

 

工事の時系列は下図のように20/3期に工事を開始して、21/3期に完成・引渡が行われる例を想定します。受注額は100,000千円、見積原価は85,000千円とします。

 

 

 

 

工事完成基準は、工事完成・引渡のタイミングで売上高と売上原価(材料費、人件費、外注費等)を計上します。つまり、工事が完成するまで損益としては認識されず、完成・引渡により初めて損益計上されます。例えば20/3期に工事を開始して、20/3期の期末に未完成の場合は、20/3期では売上高や売上原価は計上されません。そして、21/3期に工事が完成した場合は、21/3期に20/3期に稼働した分も含めて損益計上がなされます。

 

 

 

 

 

 

工事進行基準は、材料仕入や人件費、外注費の発生のタイミングで当初の見積原価率を用いて売上高を概算計上します。

 

下図では、19/12月より工事を開始しており、工事の開始月より費用が発生しております。19/12月の費用は10,000千円であり、見積原価率から売上高を計算すると10,000÷0.85=11,765千円が売上高として計上されます。毎月同様に計算され、20/3期で売上高76,471千円、売上原価65,000千円(粗利率15%)が計上されます。同様に、21/3期で売上高23,529千円、売上原価20,000千円(粗利率15%)が計上されます。工事完成基準とは異なり、工事の進行に応じて売上と売上原価が計上されるのが特徴となります。

 

 

 

 

工事完成基準と工事進行時基準の損益計上の概要を説明しましたが(貸借対照表項目については割愛しております。)、工事完成基準は稼働とは関係なく完成・引渡時に損益計上されとてもシンプルです。一方、工事進行基準は稼働と連動して損益が計上されるため適切に会計処理が行われれば実態に合った損益計上がなされます。しかし、工事進行基準は上記で説明したように、「見積」による利益率が会計数値に影響を与えます。この「見積」により、利益の操作が可能となる点は留意が必要です。工事進行基準を採用している場合には、工事完成基準に比べて、会計操作を容易に行える状況にありますので、特に留意が必要です。

 

建設業は工事の管理の難しさ、経営審査事項という決算数値を含めた点数が求められること、会計処理の複雑さ等により、会計操作が行われる可能性が他の業種と比べて高いものと思います。M&Aを検討する場合には、これらの点を留意して、決算数値の確からしさを公認会計士等の専門家を用いて調査することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[データを読む!データを活用する!「中小零細企業の事業承継型M&A」]

第1回:事業承継型M&Aに対する経営者の意識と傾向分析

 

〈解説〉

株式会社帝国データバンク データソリューション企画部産業データ分析課 窪田剛士

 

 

 

日本経済が持続的に成長するためには、企業がこれまでに培ってきた技術やノウハウ、貴重な人材や設備などを次世代に引き継ぐことが喫緊の課題といわれています。こうしたなかで、政府や行政などの支援も後押しとなり、中小企業における事業承継などの課題解決の手段の1つとしてM&A(合併・買収)が注目されます。本稿では、事業承継型M&Aに対する経営者の意識について紐解いていきます。

 

 

 

1、M&Aへの注目度が高まる一方、企業の3社に2社は後継者が不在

近年、M&Aの活況が続いています。M&Aデータベースなどを提供しているレコフデータによると、2019年に日本企業が関わった案件は4,088件(前年比6.2%増)と初めて4,000件を超え、過去最多を記録しました(図表1)。また、M&Aに関するマスコミへの掲載状況をみると、2019年は前年より減少したものの、5年連続で6,000件を上回るなど、おおむね増加傾向で推移しており社会的な注目度も増しています(図表2)。

 

一方で、企業の3社に2社は後継者が不在となっています[1]。近年は後継者が見つからないことで、事業が黒字でも廃業を選択する企業も多くみられるなか、企業による後継者候補人材の育成といった自助努力のほか、国や自治体によるプッシュ型の公的支援、利便性の高い事業承継制度の拡充など、後継者問題への解決に向けた取り組みが求められています。こうしたなかで、企業価値を認めた第三者に経営を委ねる「M&A方式の事業承継」が、後継者問題を解決する有用な選択肢となってきました。

 

 

〈図表1〉

 

 

〈図表2〉

 

 

 

2、近い将来に『M&Aに関わる可能性がある』企業は35.9%

では、企業の経営者はM&Aについてどのように捉えているのでしょうか。帝国データバンクが実施したアンケート調査[2]によると、企業の35.9%が今後5年以内に自社がM&Aに関わる可能性があると考えていました(図表3)。その内訳は、「買い手となる可能性がある」が22.2%、「売り手となる可能性がある」が7.9%、「買い手・売り手両者の可能性がある」が5.8%となっています。

 

他方、企業の39.0%はM&Aに関わる可能性はないと考えており、おおむね企業の3割~4割の間でM&Aに対する見方が二分している様子がうかがえます。

 

こうしたM&Aへの見方、特に売り手となる可能性については、だれが後継者となっているかによって傾向が異なります[3]。後継者がいる企業では、売り手となる可能性は後継者不在企業と比べてやや低くなりますが、配偶者が後継者である場合は売り手となる可能性が12.8%へと上昇しています(図表4)。後継者への事業承継がうまくいかないと見込むなかで、事業の売却を考えている企業も一定程度みられます。一方で、子どもが後継者となっている企業では、M&Aに関わる可能性がないと考える傾向が高くなっています。

 

実際に、企業からもさまざまな声が寄せられています。M&Aに関わる可能性がある企業からは、「将来を見据えた企業規模の拡大、事業戦略としてM&Aは必要と考えている」(建設機械器具賃貸、大企業、後継者あり)や「事業承継や事業の一部譲渡といった観点から、M&Aは有効な一つの手段と考える」(こん包業、中小企業、後継者あり)といった声が聞かれました。

 

また売り手の可能性がある企業からは、「事業承継のためにM&Aを考える時期は近いと思う」(乾物卸売、小規模企業、後継者なし)や「当社を買収したいと思わせるように、魅力的な会社に成長させている」(ソフト受託開発、中小企業、後継者なし)などの意見もあがっています。

 

逆に、近い将来においてM&Aに関わる可能性がない企業からは、「後継者が育っているので、当社には不必要」(製紙機械・パルプ装置製造、小規模企業、後継者あり)や「現状は考えていないが、条件が合致すれば、買い手として考えてみても良い」(包装用品卸売、中小企業、後継者なし)などの見方が寄せられていました。すでに後継者や事業承継の道筋が立っている企業からは、そもそもM&Aを検討していないという声がある一方で、条件などが合致すれば検討するなど前向きな企業もみられています。

 

 

〈図表3〉

 

 

〈図表4〉

 

 

 

3、買い手と売り手で異なる優先順位、買い手は「金額の折り合い」、売り手は「従業員の処遇」を最も重視

ここまで、企業の3社に1社がM&Aに関わる可能性があることをみてきました。しかしながら、いざM&Aに取り組もうとしてもなかなか合意に至らない、ということも少なくありません。そこには、買い手と売り手のそれぞれにおいて重視することの違いが背景にあると考えられます。

 

上述の調査では、M&Aを行う際に何を重視しているかも尋ねています。それによると、買い手として相手企業にM&Aを進める上で重視することは「金額の折り合い」が76.8%で最も高くなっていました(複数回答、以下同)。次いで、「財務状況」(70.3%)、「事業の成長性」(67.4%)、雇用維持などの「従業員の処遇」(54.6%)、「技術やノウハウの活用・発展」(54.3%)が続いています(図表5)。

 

他方で、売り手として重視することは「従業員の処遇」が78.3%でトップとなり、買い手の割合を23.7ポイント上回っています。企業からも「従業員などの生活基盤が大きく崩れないよう配慮する必要がある」(鉄鋼卸売、中小企業、後継者なし)などの声が聞かれ、従来から雇用している従業員の今後を第一に考えている様子がうかがえます。もちろん「金額の折り合い」(72.7%)も7割を超えて高水準であり、売り手も十分に考慮している項目であることは確かです。以下、「経営陣の意向」(50.4%)、「人事労務管理や賃金制度」(35.9%)、「財務状況」(32.6%)が上位にあげられました。

 

「金額の折り合い」は買い手・売り手ともに7割を超えており、売買金額を重視する割合は非常に高いものがあります。また、雇用維持などの「従業員の処遇」では売り手が買い手を、「財務状況」「事業の成長性」では買い手が売り手を大きく上回りました。立場によってM&Aを進める上での重要事項に大きな差異があることが浮き彫りとなっています。

 

 

〈図表5〉

 

 

 

 

4、買い手と売り手をつなぐ仲介者の充実が一段と重要に

中小企業では、事業承継問題の解決や貴重な経営資源の散逸を防ぐ手段としてM&Aに高い可能性を感じています。さらに、今後、社会の大きな変化や経営者の高齢化が進むなかで、企業の半数以上はM&Aの必要性が高まるとみていることも確かです。しかし、実際にM&Aを進める上では、適切な情報収集や仲介役となる企業との関係性なども大きな課題となっています。また、新型コロナウイルスにともなう社会・経済活動の変化や新しい生活様式などが、経営者のM&Aに対する考え方に与える影響は現時点で不明です。

 

しかし政府や行政は、M&Aが企業の直面する課題解決の手段として活用されるよう、引き続き取り組み支援や財政支援を行う必要があります。特に中小企業においては、行政をはじめとする公的な機関に加えて、民間の仲介業者の必要性も高まっており、買い手と売り手をつなぐ仲介者の充実が一段と重要になると言えるでしょう。

 

 

 

 

[1] 帝国データバンク「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」2019年11月15日発表

[2] 帝国データバンク「M&Aに対する企業の意識調査」2019年7月25日発表

[3] 帝国データバンクの企業概要データベース「COSMOS2」および信用調査報告書をもとに、後継者の有無および後継者属性等を抽出

[M&A専門会社スペシャルインタビュー]

株式会社MJS M&Aパートナーズ 代表取締役社長 中俣和久  氏

~中小企業と会計事務所の視点に立ったM&A支援業務を展開~

 


 

財務・会計システムや経営情報サービスを提供するミロク情報サービスの子会社として中小企業の事業承継やM&Aを支援するM&Aアドバイザリー会社。これまで培ってきた会計事務所とのネットワークを生かしたサービス展開と、会計事務所と中小企業の視点に立ったサービスが同社の最大の強み。今回は、同社の代表取締役社長の中俣氏に、同社の特徴やクライアント先のニーズなどについてお話しを伺いました。

 

 

株式会社MJS M&Aパートナーズ代表取締役社長 中俣和久 氏

 

 

中小企業と会計事務所に寄り添ったM&Aアドバイザリー会社


――:貴社(株式会社MJS M&Aパートナーズ、以下mmap)のご紹介をしていただけますでしょうか。

 

中俣 :当社は、財務・会計システムや経営情報サービスを提供するミロク情報サービス(以下、MJS)の子会社として、2014年9月に設立されたM&Aアドバイザリー会社です。日本経済を支える中小企業経営者の高齢化が進行し、後継者の確保が難しく事業承継問題が深刻化しております。当社はこのような状況下において、中小企業の事業活動の継続、雇用の維持等に資するために、M&Aの手法を用いた事業承継・事業再生等の支援サービスを提供しております。

 

 

――:貴社(mmap)の特徴や強みを教えていただけますでしょうか。

 

中俣:親会社であるMJSのお客様である全国8,400件の会計事務所とのネットワークを活用して中小企業に特化した案件ソーシング(※1)を行っていることが当社の強みだと思ます。M&A専門会社は数多くございますが、当社のように全国の税理士とこのようにネットワークを築いている会社はあまりないのではないでしょうか。

 

※1 案件ソーシング:要望に合った相手先の企業を見つけること

 

 

 

――:会計事務所と長年お付き合いのある貴社(mmap)であるからこそ、そのネットワークを生かして相手先を見つけることができるのですね。

 

中俣:はい。長年にわたり培ってきた全国8,400件の会計事務所とのネットワークは当社の大きな強みだと思っております。さらに言うと、会計事務所には、それぞれ多くの中小企業を関与先として抱えておりますから、そのネットワークは案件ソーシングにはとてもメリットがあることだと思います。

 

 

 

――:たしかに、会計事務所は多くの関与先がありますから、会計事務所と連携するメリットは大きいですね。

 

中俣:はい、非常に大きいメリットだと思います。しかし、メリットは案件ソーシングに関することだけではありません。例えば、企業価値算定で必要になる決算書等の資料を速やかに共有していただくこともできますし、また、M&Aではオーナー様の気持ちが不安定になる場合もございますが、そのような際にも、オーナー様のフォローを会計事務所とともに行うことができますので、オーナー様にとっても安心感があるように感じます。結果として、案件着手から成約まで短期間で実現できています。そのようなことも当社の特徴かもしれませんね。

 

 

 

 

譲渡企業オーナーを考えたM&A支援サービスの最低成功報酬


――:貴社(mmap)のサービスラインについて教えてください。

 

中俣:主なサービスは、「M&A支援」、「MBO支援」、「事業再生支援」の3つになります。その中でも中心的なサービスは、「M&A支援」です。M&A戦略の助言から、相手先の選定、企業価値評価(バリュエーション)、条件交渉、基本合意・トップ面談、デューデリジェンスの立ち合い、契約締結の助言と、M&Aの一連の流れを一気通貫でサポートしております。

 

 

 

 

 

――:M&A支援サービスの報酬体系はどのようになっていますか。

 

中俣:当社では、他社に比べ最低成功報酬を低く設定しております。具体的には、成功報酬算定方式として、いわゆるレーマン方式を採用し、最低成功報酬として、譲渡企業側で300万円(税別)、譲受企業側で700万円(税別)を頂いております。

 

 

 

――:最低成功報酬額は、一般的なものよりも抑えられているようですが。

 

中俣:できるだけ譲渡企業オーナー様の手残りを多く残すことを考えてサービスを提供するようにしております。中小企業の事業承継型M&Aの案件が多いということもあり、中小企業が事業承継をしやすいような最低報酬を設定しております。

 

 

 

――:中小企業のM&Aオーナーにとっては、M&Aによる費用も気になるところですよね。

 

中俣:はい、M&A会社に支払う報酬額が高額であるということは、特に案件規模の小さなM&Aでは大きな懸念材料の一つとなっていると思います。「中小企業の事業承継がしやすい環境をつくりたい」という当社の思いもございまして、できるだけ譲渡企業のオーナー様の手残りを多く残せるような最低成功報酬額を設定しております。

 

 

 

 

実務経験豊富なメンバーで会計事務所をサポート


――:では、M&A業務を担当している貴社(mmap)のメンバーは何名くらいいるのでしょうか。

 

中俣:計15名のメンバーがおります。M&A実務経験で職責を分けておりまして、シニアアドバイザーが4名、アドバイザーが6名、エリア担当アドバイザーが5名となっております。

 

 

 

――:シニアアドバイザー、アドバイザー、エリア担当アドバイザーについて詳しく教えていただけますか。

 

中俣:「シニアアドバイザー」は、10年以上のM&A実務経験と20件以上の案件を本人が主体でM&Aを成立させた実績を持つ者です。アドバイザーが担当する案件をフォローし、OJTを行う役割も兼務しております。主に金融機関やM&Aブティックの経験者で構成しております。

 

「アドバイザー」とは、10年未満の実務経験者で、主に案件のメイン担当としてフロント業務にあたっています。数多くの相談案件を担当し、専任契約案件を通じて実務経験も豊富にあるメンバーです。主に、MJSでの営業経験者や金融機関経験者で構成しております。

 

そして、「エリア担当アドバイザー」とは、大宮、名古屋、京都、岡山、福岡のミロク情報サービス各支社に席を設けて長年お付き合いのある会計事務所を巡回しているメンバーのことです。案件が発生した場合は、本人がフロント業務を行い、会計事務所と連携をとったM&Aを実行しております。主にMJSで20年以上の営業経験者で、会計業界のことを知り尽くしたメンバーが担当しております。

 

 

 

――:経験豊富なM&A実務のプロフェッショナルと、中小企業や会計業界のことを知り尽くしたプロフェッショナルにサポートしてもらえるとなると、非常に心強く感じますね。

 

中俣:そう言っていただけるとありがたいですね。このようなメンバーが揃っておりますので、中小企業M&Aのことなら何でも当社(mmap)に相談してもらえるとありがたいと思っております。

 

 

 

 

不安や課題を解消するためのヒアリングを重視


――:それでは、どのようなクライアントが多いでしょうか。

 

中俣:譲渡希望企業様については、会計事務所経由でご紹介されることが多いので、特に決まった業種や規模のお客様ということはありません。ただ、譲渡理由としては、後継者のいらっしゃらない、または後継者育成に上手くいかなかったクライアントが圧倒的に多いように感じます。

 

 

 

――:クライアントである企業様からはどのようなニーズが多いと感じていらっしゃいますでしょうか。

 

中俣:クライアント先からは、自社の意向を最大限に実現してくれることを常に期待されていると感じます。また疑問に思うこと、不安に思うことに対して速やかな対応をしてくれることも期待されています。ですので、当社としても、できる限り直接お会いしてお話をしてその不安や疑問の解消に努めております。

 

 

 

――:譲受企業のクライアントはいかがですか。

 

中俣:譲受希望企業様についても、数多くの要望と情報を頂戴していますが、買収戦略が明確ではないニーズも多いように感じます。なぜM&Aを手段として選択するかということが明確ではないと、たとえM&Aを実行できたとしても、最終的には事業が上手くいかない場合があります。ですから、詳細なヒアリングと決裁権者との直接面談によって、より具体的なイメージを共有させていただくことを心がけています。また、経営環境が不安定な時こそチャンスと捉えている企業経営者も多いため、アドバイザーとしてタイミングを逃さない情報提供が重要と認識して日々活動を行っております。

 

 

 

――:クライアント先へのお気持ちに沿ったサポートを心がけているということですね。

 

中俣:はい。譲渡希望企業様では事業承継に関するお悩み、譲受希望企業様では買収戦略に関する課題などといろいとあるかと思います。それぞれの課題やお悩みについて、クライアント先としっかりとしたヒアリングを実施しながらその解決策を探っていきます。やはり、その不安や課題をお聞きすることが重要だと思います。

 

 

――:その他に、M&A業務をされる上で、大切にしていることはありますでしょうか。ご経験談を含めてお答えください。

 

中俣:まず第一に「譲渡希望オーナー様の立場を尊重して取り組む一方、ビジネスに徹すること」です。中小企業のオーナー様にとって『会社=自分の人生』であり、『企業価値評価=自分の人生価値評価』と捉える方が多いと感じています。一方『企業価値評価=市場価値評価』であり、決して人生の評価ではありません。このことをオーナー様が信頼できる人を通じてご理解して頂くことが第一だと考えています。その役割をアドバイザーは担っていると考えております。このようなアドバイザーの役割を果たすためにも、オーナー様の感情を敏感に察知すること、不要な誤解や不安を与えるような進め方・言葉使い・メール文面・言動を一切とらないよう日々肝に銘じて活動を行っています。

 

 

 

――:なるほど、オーナー様の心の内側にある感情を捉えて、誤解や不安感を与えないようにM&A業務を進めておられるのですね。その他に気をつけていることはありますか。

 

中俣:初期段階で、譲渡したい理由、スキーム、譲渡金額、時期、従業員に関することなど、企業希望オーナー様のご要望をすべて洗い出してもらうことと、株主の総意が取れていることを確認します。また、何が出てきても驚かないことです。中小企業の経営内容は事実と異なることも多いのが普通だと捉えています。どんなことが出てきても驚かず、冷静に対応することを心がけています。

 

 

 

――:初期段階の確認作業も重要ということですね。また冷静に対処する、ということですね。

 

中俣:はいそうです。それと当然ではありますが、M&Aで適切な価格で譲渡できるよう企業価値向上のお手伝いの下準備は徹底して行います。個人資産、会社資産を明確にしたり、事業の強み弱みを再確認したり、業務フローや決裁権限など組織体制のアドバイスも合わせて行える知見を蓄積しています。

 

 

 

――:最後に、事業承継やM&Aに関する業務に取り組もうと考えている税理士の方々へメッセージをお願いします。

 

中俣:クライアントの後継者問題に積極的に関与して、まずは向き合って頂くことを強くお勧めしたいです。第三者承継(M&A)の有効性が認められた場合、個人資産、会社資産を明確にしたり、事業の強み弱みを再確認したり、業務フローや決裁権限など組織体制のアドバイスなどの事前準備のお手伝いをして頂くことをお願いしたいと思います。また、「譲渡先が出る」=「クライアントの減少」とは必ずしもならないケースも発生しています。ですので、後継者不在のクライアントについては、積極的に第三者承継(M&A)のご案内を行っていただきたいと考えています。今一度先生ご自身でクライアントの後継者問題について一件ずつ向き合っていただけるとありがたいです。

 

 

 

――:ありがとうございました。

 

 

 

 

 

[会社概要]

会社名:株式会社MJS M&Aパートナーズ

所在地:東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル48階

設立:2014年9月22日

代表者:代表取締役社長 中俣和久

主な事業内容:中小企業の事業承継・事業再生等に関するサポートおよび教育・研修事業

対応エリア:全国(日本国内)

URL:https://www.mmap.co.jp/

 

 

 

 

 

 

 

 


[掲載希望募集中]

ZEIKEN LINKSでは、本連載に掲載を希望するM&A専門会社(M&A仲介会社、M&Aアドバイサリー会社、M&Aマッチングサイト、税理士法人、弁護士法人、金融機関など)を募集しております。

ご希望の会社様は下記アドレスまで、お気軽にお問合せください。

お問合せ先:links@zeiken.co.jp

 


 

[新型コロナウイルスを背景としたM&A需要調査](2020年7月公表)

コロナ禍、「生き残り」のためのM&A!

64.8%の経営者が新型コロナの影響で会社や事業の買収を実施・検討の事実
〜株式会社バトンズ、新型コロナウイルスを背景としたM&A需要調査を実施〜

 

 

M&A総合支援プラットフォームを運営する株式会社バトンズ(本社:東京都千代田区丸の内1-8-2 鉃鋼ビルディング24階、代表:大山敬義)が、新型コロナウイルスを背景としたM&A需要の調査を目的に、会社・事業の売却もしくは買収について検討したことがある経営者111名を対象に、インターネットによるアンケート調査を実施しましたのでお知らせいたします。

 

 

■アンケート調査結果の詳細を見る

 

 

 

[まとめ(アンケート調査結果より)]

今回、 新型コロナウイルスを背景としたM&A需要の調査を実施しましたところ、約9割の経営者がコロナを受け会社経営に変化があったと回答しました。また、コロナ発生後の現在、会社や事業の買収もしくは売却を実施・検討した経営者は約6割にのぼることが明らかとなりました。売却理由では「撤退」のため売るという選択肢も見受けられましたが、買収理由としては「市場の変化への対応」や「自社のウィークポイントの補強のため」が多く選択されました。コロナ禍における緊急事態宣言をきっかけに、都心から離れた地方にある営業拠点の増設や取引先の確保をしていく動きが増えていたり、ひとつの業種にこだわらず事業の多角化戦略を図っていく、といったトレンドが反映されています。

 

今後ますます市場の変化が激しくなっていく中、企業の生き残り戦略としてのM&Aには成約までのスピードが早いことが求められていきます。加えて、コロナ禍を受けて突発的に財務状況が厳しくなったことを理由とする売却が増えており、正しい企業価値を見極められ、トラブルなくM&Aの交渉や実務を行える専門家のニーズは今後さらに高まっていくでしょう。

 

 

 

情報提供元:株式会社バトンズ

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第2回:譲渡・M&Aにおいて準備すべきこと

~企業価値を向上させ売却金額を増大させるためには?~

 

[解説]

宇野俊英(M&Aコンサルタント)

 

 

 

 

 


[質問(Q)]

当社は後継者不在であることからM&Aで会社売却をしたいと考えています。具体的に何から手を付けてよいかわかりません。M&Aにおいて事前に準備しておくべき必要な事項を教えてください。

 

 

[回答(A)]

事前準備で必要な事項は会社の状況に異なります。事業承継への対応では後継者の有無によって手法は異なりますが、いずれも早めの検討と準備が求められます。M&Aを選択する場合にはより企業価値をブラッシュアップし、譲渡・売却しやすい会社に近づかせることにより、企業価値を向上させ売却金額を増大させる方向が望ましいと考えられます。

 

そのためには、
 ①会社の実態の見える化(実態把握、個人の資産と事業用資産の整理)
 ②M&Aのメリット・デメリットを理解した上で意思決定
 ③株式が分散していた場合には集約化と名義株の整理
 ④仲介・FA機関の選定とFA・仲介契約の締結
等が必要になります。

 

 

 

まずは経営者に改めて事業承継に向けたM&Aへの準備の必要性の認識を持っていただくことが最初の一歩です。

 

1.準備の必要性を認識しましょう


M&Aをする場合にも相応の時間が必要です。M&Aはある意味タイミングが重要です。適切なタイミングを逃してしまうと探してもそもそも候補先が見つからないということがあり得ます。また、候補先がいてもタイミングが適切でなければ不利な条件を許容せざるを得なくなってしまったり、交渉自体が流れてしまうこともあり得ます。

 

タイミングの一つは業績が上げられます。一期赤字でM&Aを決断しても交渉成立時に2 期連続赤字の状態であれば、期待していた売却価格にならないことはよくあることです。また、いたずらに時間を費やしている間に譲渡側の経営者が健康上の問題を引き起こしてしまうこともあります。経営者には「まだ先のことだから……」「日常業務で忙しいから……」とさまざまな理由はあります。しかし、準備が遅れるほど希望する条件に合った候補者を探すことが難しくなってきます。

 

 

2.経営状況・経営課題の「見える化」をしてみましょう


M&Aを準備するためにはまず、自社の経営状況・経営課題、経営資源等を見える化し、正確に現状把握することから始まります。

 

把握した自社の経営状況・経営課題等をベースに自社の強みの伸長と弱みを改善する方向性を見つけ、着手することが重要です。その際に経営者の視点に加え顧問税理士、中小企業診断士などの専門家や金融機関に協力を求めることで客観的かつ効率的に把握することが可能になります。また「見える化」することの効能はM&A に役立つのみならず、自社の経営改善につながる効果も見込まれます。

 

 

3.M&Aの意思決定、信頼できる仲介者等の選定及び仲介契約等の締結


上記過程を経てM&Aの意思決定がなされ、候補者を探索する必要があるときには仲介者・アドバイザリー(以下、「仲介者等」という)を選定して仲介契約若しくはアドバイザリー契約(以下、「仲介契約等」という)を締結します。

 

締結後は基本仲介者等の指導・助言に基づき実行していきますが、仲介者等も必ずしもすべての工程・分野に習熟してない場合もあり得ます。必要に応じて専門家や事業引継ぎ支援センター等のセカンドオピニオンを活用しましょう。あわせて、見える化で把握した課題の改善を図り、企業価値の増大を目指していきます。

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第6回:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

▷関連記事:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

▷関連記事:「財務デューデリジェンス実施における『事前資料依頼一覧』」サンプル

 

財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場はどれぐらいですか?また、どのような要素で決まりますか?


①コンサル企業の規模

財務デューデリジェンスの費用を検討するには、まず、どれぐらいの規模のコンサルディングファーム、会計事務所に依頼するかによって相場感が異なります。

 

当然の事ですが、大手のコンサルティングファームや、監査法人等に依頼すると費用は高くなり、中小のコンサルティングファームや会計事務所に依頼すると費用は安くなります。必ずしも大手であるから品質が高いとは限りませんが、一般的に大手は品質が高く、海外に提携事務所があるため海外案件等に強みを持っています。

 

一方、中小のコンサルティングファームや会計事務所は、大手と比べると品質にばらつきがありますが、小回りや融通が利き、費用は安くなります。

 

大手であれば最低500万円以上、中小であれば最低100万円以上が相場となります。(戦略的に安く請け負っている場合や、調査範囲を限定している場合等はこの限りではありません。)

 

 

②プロフェッショナル度

同規模のコンサルティングファームや会計事務所であっても、それぞれに特徴があります。M&Aのマッチングに強みを持っている場合や、財務デューデリジェンスを得意としている場合、税務顧問をメイン業務としているが財務デューデリジェンスも行う場合等、財務デューデリジェンスに対するプロフェッショナル度が大きく異なります。プロフェッショナル度が高い事務所に依頼するほど、費用は高くなることが一般的です。

 

 

③対象企業の規模

財務デューデリジェンスを行いたい対象企業の規模によっても費用は異なります。規模の大小により、調査項目の大枠はあまり影響しませんが、一般的に規模が大きくなると子会社を保有していたり、事業を複数行っている場合、海外展開している場合等がありこれらの調査が必要であれば費用も高くなることが一般的です。売上3億円の会社と売上30億円の会社の財務デューデリジェンス費用は2倍程度、売上3億円の会社と売上300億円の会社は3~5倍程度の差となることが多いでしょう。

 

 

④調査範囲

財務デューデリジェンスと言っても、M&Aスキーム、バリュエーション方法や調査の目的等により、当然調査項目は異なります。これらの調査項目を取捨選択し絞ることで、多少の費用削減にはなるでしょう。しかし、会計は様々な項目と連動していることが多く、あまり調査項目を絞りすぎると、会社全体としての動きを見誤ったり、見落としてしまうことがあるため注意が必要です。

 

財務デューデリジェンスの費用は、コンサルティング企業の規模、コンサルティング企業のプロフェッショナル度、対象企業の規模、調査範囲等で異なります。検討している企業の財務デューデリジェンスの費用を想定した上で、どのコンサルディング企業に、どの調査項目を依頼するかを検討しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第2回:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

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▷関連記事:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

Q、小売業のM&Aを検討していますが、小売業M&Aの特徴や留意点はありますか?


小売業は、最終顧客に商品を販売する業種です。BtoBの業種と比較すると小売業を含むBtoCの業種は、販売先(顧客)の数が非常に多くなります。そのため、顧客ごとの売上高・利益率等を把握して分析することはせず、客数・客単価等をKPI指標として設定し、分析することが小売業の特徴の1つとなります。

 

また、小売業は、販売ルートとしては実店舗での販売と、オンライン・通販等での販売とに分類ができます。近年では、オンライン・通販等を行う小売業者も増加していますが、中小企業では実店舗での販売がメインとなっているとことが多いように思います。

 

店舗が複数ある場合には、各店舗の損益管理が経営上重要となります。店舗別損益は、最低限売上高と売上原価、そして店舗でかかった経費について把握する必要があります。さらに、店舗ごとの貢献利益・営業利益の分析や客数・客単価等のKPIの情報を把握することが望ましいでしょう。貢献利益とは、店舗の売上高から売上に直接紐づく変動費(売上原価や販促費等)および店舗単独で発生する固定費(店舗人件費や店舗家賃等)を差し引いた利益のことです。貢献利益は店舗単独でどれぐらいの利益を獲得したのかを把握し、今後の施策や出退店等を検討する重要な利益指標となります。

 

貢献利益について具体例を用いて説明します。下図は本社と3店舗を有し、売上高3億円、営業利益5百万円の企業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗Aおよび店舗Bは貢献利益がプラスであるのに対して、店舗Cは貢献利益がマイナスとなっています。店舗Cを閉店して、売上も費用も全てかからない状態になる場合は、全社損益が5百万円改善することになります。しかし、正社員の雇用を継続する必要がある場合や、地代家賃の契約上途中解約による違約金が発生する場合等個別事情がある場合には、それらの事項も含めた上で検討する必要があります。

 

M&Aを検討している場合、対象会社の損益管理の状況を把握し、損益管理ができていない場合には、デューデリジェンス等にて会計士等の専門家を用いて店舗の損益数値を分析した上で、M&Aの検討をすることをお勧めします。

 

 

 

また、飲食店等も同様ですが、小売業の特徴として、現金売上が多い点が挙げられます。現金売上が多く、商品の仕入時は掛仕入で行っている企業の場合、買掛金の支払いよりも現金売上が先に発生するため、運転資金がほとんど必要ありません。

 

 

 

 

 

 

上図の例では、5月10日に仕入れた商品の支払いが6月末であることに対して、5月20日に現金売上となり、5月20日から6月末までの間現金が多い状況が続きます。そのため、小売業は他業種と比べ資金繰り上有利な業種と言えます。

 

一方で、2019年から実施されているキャッシュレス・消費者還元事業等の影響で、クレジットカードや電子マネー等での支払いが増加しているため、資金繰り上必ずしも有利とは言えない状況になりつつあります。M&Aの対象会社の運転資金の状況を分析し、キャッシュレス化の影響も把握することが望ましいでしょう。

 

 

また、小売業でも特に生鮮食品など、商品の劣化により販売できる期間が短い商品を扱っている場合は、廃棄ロスの管理が重要です。中小企業では廃棄ロスの管理を行っていない企業も少なくありません。例えば、筆者が関与した企業で改めて廃棄ロスを計測したところ、廃棄ロス率が20%であることがわかったケースもあります。仕入れた商品5つのうち1つは廃棄する計算です。廃棄ロスをゼロにするのが良いかどうかは経営判断となりますが、20%はさすがに多いためすぐに削減の施策を実行しました。M&Aの対象会社が廃棄ロスを管理していない場合や、廃棄ロスが多い場合には、貸借対照表に計上されている棚卸資産について全額資産性があるかどうかの検討が必要となります。また、買収後は廃棄ロス率の削減等の改善施策を行う必要があります。

 

 

また、小売業特有の仕入方法として買取仕入、委託仕入、消化仕入の大きく3つの仕入方法があります。

 

●買取仕入は、一般的な仕入のイメージで、その名の通り、店舗側で商品を買取って販売することです。

 

●委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置きます。商品が売れたら商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。

 

●消化仕入れは、商品が店舗に納品されても仕入計上せずに、商品が販売された時点で初めて仕入れが計上される方法となります。売上仕入とも言います。

 

 

買取仕入は、買取っていますので商品が売れ残っても返品はできませんが、消化仕入と委託仕入は商品が売れ残った場合に返品が可能であり在庫リスクがないことが特徴です。M&Aの対象会社の仕入方法を確認し、在庫リスク等を把握した上でM&Aを検討することをお勧めします。

 

 

小売業のM&Aを検討する場合は、店舗損益をどのレベルまで把握できるかを確認しましょう。損益が把握できていない場合には、資料を入手して店舗損益を作成・分析する必要があります。また、KPIの分析状況、運転資金の状況、キャッシュレス化での影響、仕入先との契約関係等を把握した上でM&Aに臨むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第5回:株式譲渡と事業譲渡

~株式譲渡、事業譲渡のメリットとデメリットとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A は株式譲渡で進めることが一般的であると思いますが、事業譲渡という手法もあると聞きました。両者について説明してください。

 

A、株式譲渡は手続きが簡便であり一般的ですが、各種リスクを引き継ぐというデメリットがあります。

この点、事業譲渡であれば取得する資産を取捨選択できるため、手間はかかりますがリスクの遮断が可能です。

 

 

 

 

図表は株式譲渡と事業譲渡のイメージ図とメリット・デメリットをまとめたものです。

 

 

現状、中小企業のM&A の大多数が株式譲渡で行われています。株式の譲渡契約のみで会社の全ての権利義務の移管が可能であるためですが、当然に簿外債務を引き継ぎますので粉飾決算をしていた経営不振企業の事業再生案件などでは事業譲渡(ないしはその発展形である会社分割)が行われることも多くあります。また、対象会社株主の権利関係が不明確な場合や、所在不明株主が多数いる場合など、株式譲渡では有効に経営権が引き継げないと思われる場合にも事業譲渡は有効な手段となります。

 

 

個人株主の株式の売却において株式譲渡が好まれるのは税制の問題もあります。図表に記載のとおり、株式譲渡の場合、売手は株式譲渡益課税(20.315%)で課税が完結しますが、事業譲渡の場合、対象会社で事業譲渡益に対して法人実効税率(約35%)で課税が生じ、さらに売却代金を売手に配当で還流した場合、累進課税(最高49.44%)が生じるため手残りが極端に目減りしてしまうためです。法人株主であれば受取配当の益金不算入制度があるため、利益は配当の形で受け取った方が手残りが多くなるのとは対照的です。

 

 

事業譲渡の場合、取得する資産や承継する負債を取捨選択できるのがメリットですが、個別の移転手続きが必要になりますので手間はかかります。また、不動産を移転する場合には不動産取得税や登録免許税といったコストもかかります。さらには事業に係る許認可がうまく移転できない場合もあり、事前に監督官庁に確認を行う必要があります。この点、会社分割を用いた場合、一定の条件を満たすと不動産取得税が非課税になりますし、引き継げる許認可もあります。

 

 

事業譲渡のメリットとしては営業権が税務上の資産調整勘定の計上要件を満たす場合、損金算入できる点が挙げられます。また減価償却資産については中古資産の耐用年数の適用が可能であり、早期に損金化が可能となります。

 

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第1回:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、製造業のM&Aを検討していますが、製造業M&Aの特徴や留意点はありますか?


製造業の特徴は、当たり前ですが製品を製造しているということです。製品を製造していると製造していないでは、経営管理上大きく異なります。なお、製造業といっても多岐にわたりますが、広く一般的な製造業について記載いたします。

 

製造業のビジネスは、簡潔に記載すると「部品調達→製造→販売」となります。良い製品・商品・サービスを販売することはどの業種でも同様に重要ですが、製造業では製造工程の改善等による自社内の努力による利益改善の余地が大きいことがまず重要な特徴となります。

 

また、自社内で製品の製造を行うため、一般的に製造部品の仕入額、製造人員の人件費、外注費が重要な費用項目となります。会社の費用構造を把握した上で、製品の製造の中でどの部分が会社の強みであり、また改善余地があるのかを把握することが重要となります。

 

例えば小売業であれば、A商品を100円で仕入れて150円で販売すると、A商品の売上総利益は50円となりますが、製造業では商品の製造原価を算出する必要があります。製造原価を算出すること、つまり原価計算ですが、この原価計算を正確に行わないと製品ごとの原価が分からず、150円で販売した場合に利益がいくらになるのかが不透明となってしまいます。

 

 

しかし中小企業の場合、原価計算を行っておらず、製品の原価を把握できないままに製造し販売していることも少なくありません。社長の頭の中には、なんとなくの原価が想定されていますが、専門家により原価計算を行うと、実は赤字販売をしていたというような事もあります。つまり、原価計算を正確に行っていないと、製品ごとの利益の大小がわからず、どの製品を重点的に製造し・販売するのが会社として良いのか等の経営判断を誤る可能性があります。

 

製造業は、「部品調達→製造→販売」となり、一般的に製品のリードタイムが長いため、運転資金が他の業種と比べて多額になる傾向にあります。

 

 

仕入の支払いサイト、製造にかかる期間、売上の回収サイト等を把握することで製品リードタイムが把握でき、必要な運転資本の把握が可能となります。併せて、在庫の棚卸の頻度や滞留状況、廃棄の実施状況等の確認もしましょう。

 

また、M&Aにより、製造する製品の種類や量が変更になる場合、どの工程がボトルネックになるのかを把握することも重要です。ボトルネックを事前に把握しておくことで、製造工程の変更や、投資による解消を早期から検討できるからです。

 

さらに、工場の設備や機械の実質的な耐用年数、現在の消耗度、設備投資の周期や金額等を事前に把握しておくことも重要です。売手企業は、M&A実施前に設備投資は積極的には行わず、むしろ抑えることが多いため、買手企業による買収後、設備投資により多額の出費が必要になる可能性があります。設備投資の予定等も踏まえて買収価格の交渉を行うことが望ましいでしょう。

 

製造業は、他の業種とは異なる様々な特徴や留意点があるため、事前にデューデリジェンス等を通じてこれらを十分に理解した上でM&Aに臨むことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

⑥(特別編)新型コロナウイルス等による業績悪化を理由とした M&A ・事業売却

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 

[目次]

1)  はじめに

2)(買主視点)M&AにおけるFAの初動ポイント

3)(買主視点)買主側で簡易的な投資レンジ(投資の許容幅)の決定方法

4)(売主・買主双方)のれんの考え方

5)(売主・買主双方)経営資源引継ぎ補助金

6)(売主・買主双方)事業承継税制(特例)と業績悪化

 


[関連解説]

■新型コロナウイルス等による業績不振に関連する税務上の注意点

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与 ~コロナウイルスの影響で大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化、役員報酬の大幅な減額を検討~

 

1)はじめに

本稿脱稿時点、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響から、業績不振に陥っている法人が多いと思われます。このような状態下では、キャッシュリッチな会社にとってはM&Aによる買収の機会ともいえます。これまで、売主主導であった中小零細企業のM&Aにおいて、対象会社の業績不振から、いわゆる「買いたたき」が起きる可能性があります(これは不動産や、普段プレミアムがついている趣味嗜好品(骨董品、高級車など)でも全く同様のことがいえます)。

 

リーマンショック以降の不況時もそうでしたが、いわゆる本格的なコロナ不況に仮に陥ったとしても、M&Aの件数自体にはさほど影響を与えないと思われます。しかし、上記の買いたたきの結果、スモールなディールが多くなっていくことが予想されます。

 

 

2)(買主視点)M&AにおけるFAの初動ポイント

①初動ヒアリング

FAはオーナー(買主株主)に対してM&A 意向の確認のため、初動で下記のヒアリングを実施します。

 

(初動ヒアリングのポイント)

⇒「明確な」買収の目的

⇒対象会社の事業内容

⇒対象会社の事業規模・地域

⇒買収予算(※不況時には、まさに「買いたたき」による買収価格の引下げが起きる可能性があります)

 

上記のうち、買収目的が最大のポイントです。これが不明確な場合、M&A を実行すべきではありません。単に買収価格が安いからといって、シナジー等、将来的な経営目的、経営戦略なくして、購入すべきではありません。

 

 

3)(買主視点)買主側で簡易的な投資レンジ(投資の許容幅)の決定方法

 

 

上記表に具体的な数値を当てはめていくだけです。

 

通常、ベスト、ニュートラル、ワーストの三種のシナリオを用意します。

 

なお、上記表はファイナンスの観点からすると全く正しくありません。

ファイナンスの考え方でいうと、× 1 年~× 5 年のCF はDCF 法の考え方に沿って、現在価値に割り引いて計算されるべきです。

 

しかし、中小零細企業のM&A実務においてはそこまでは必要がないと考えます。DCF法にて買収価格を算出するよりも、上記表の数値で投資額を割り引いた方が中小零細企業オーナーには直感的で分かりやすいからです。また、この方法であれば、税理士単独でも株価算定ができます。

 

そもそも、中小零細企業では買主自身も将来FCF の予測がつかないのに、対象会社が買収後、そのまま存続するかもわかりません(デフォルトリスク(倒産リスク))。そこで現時点での静的価値が譲渡対価の最低限の担保である、という買主側のニーズを捉えているということが言えます。

 

 

 

4)(売主・買主双方)のれんの考え方

業績悪化による買いたたきにより事業譲渡の場合、のれんを考慮する機会が増加すると思われます。

 

「同族特殊関係法人間のM&A」については下記のように見解が分かれます。

 

 

(1)一切不要と考える説

●もともと、売主で営業権の帳簿価額が存在していないのなら、それを敢えて認識することは事実上、評価益の認識計上となる。法人税法の原則は法令に定めのあるものを除き、評価損益は不計上(損金又は益金に計上しない)である。

●当事者間で有償、無償を問わず、営業権の譲渡があったとした会計処理について、当局が営業権の存在を否認する処分等は実際にある。しかし、当事者間でそもそも認識していないものを、当局が営業権の存在をあるものとみなして認定課税をすることは上記「・」の理由からあり得ない。

●この説を採用する論者は、第三者間M&A 等により取得した営業権につき、これを無償譲渡した場合には、当該無償譲渡に係る営業権相当額分だけ寄附・受贈があったものではないかと指摘するむきがある。

●営業権の定義は、「法人税法上、営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を統合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することのできる無形の財産的価値を有する事実関係であると解する。」(昭和57年6 月24日鳥取地裁判決ほか)等とある。

仮に現時点で無形である財産的価値があったものとしても、当事者間がそれをそもそも認識していない自己創設のれんについて計上余地は一切ない。

●中小零細企業実務における事業譲渡に係るのれんは差額概念である。厳密には、当該営業権として評価、計上された金額が、売主会社の将来の収益性、採算性等(つまりDCF)から妥当と認められる場合には課税上の問題は生じない。

●この点、この説を支持する論者は、上記の収益性等を総合勘案しての営業権評価、計上額と実際計上額に差がある場合、当該差額相当額を、高額譲受に認定し、寄附金課税等が発動する見解もある。

●現実には、両社間の利益調整等によって、営業権相当の恩恵(税メリット)は両者が受けるはず。同族法人間での利益調整が過度に行われる場合、寄附金課税等が行われる可能性がある(ただしグループ法人税制の適用がある場合、実害は生じない)。

●まとめると、営業権の評価、計上自体が論点になるのではなく、差額概念が税務上適正額と差異があれば、寄附・受贈の論点に集約される。したがって、営業権の創設自体が不要である。

 

 

(2)自己創設のれんも計上すべきとする説

●上記のように「計上しない場合」寄附金認定の論点が登場する。したがって、当初から自己創設のれんを計上しておけば、そもそも寄附金認定課税の論点が生じない。

●営業権はどのように評価するのかということについては、諸説あり。

当該評価方法については、法令上の明確な定めなし。実務では、

○時価総額/事業価値と時価純資産価額(個別資産の時価の合計)との差額をもって営業権の時価を求める方法

○収益還元法等により営業権の時価を求める方法

○財産評価基本通達165項準用

等々が考えられる。なお、法文に根拠がないため、当該算定に合理性があれば租税法でも認容されると考えられる。

●非適格合併等(法法62の8 )における資産調整勘定(法令123の10④)の計算においては、当該非適格合併等により移転を受けた事業の価値は、当該事業により見込まれる収益の額を基礎とし、合理的に見積もられる金額を時価純資産価額とすることが容認されている(法規27の16①)。

明文化されていないが、黙示できるものとして、税制非適格再編成における資産調整勘定について、対価資産の交付時価額-移転事業の収益額を基礎として合理的な見積額における事業価値はDCF 法とある(法令123の10、法規27の16)。

●DCF 法-純資産価額=営業権とする考え方も許容される。法人税法上、DCF 法の許容を明示しているのは「適正評価手続に基づいて算定される債権及び不良債権担保不動産の価額の税務の取扱いについて(法令解釈通達課法2 -14、査調4 -20、平成10年12月4 日)」。ここでは、各手法で計算の基礎とした収支予測額及び割引率が適正であれば租税法においても許容されると読みとれる。

●非上場株式評価は法人税基本通達9 – 1 -14で行うが、これは財産評価基本通達178から189- 7 を準用するため、その際、営業権についても財産評価基本通達165項、166項(営業権の評価明細書のこと)で評価して良いかという論点もある。これはもともと個人の財産評価基準であって法人同士で類推するのは不適切との見解も多々あり、理論的にはそれは正しいと思われる。しかし、課税実務上、便宜のため、これを使うことも往々にしてある。

●各同族法人の株主構成が異なっていた場合、営業権を計上しなかった分だけ株主間贈与の認定があり得るのかという論点もあり。計上しなかった場合、または低かった場合、その差額が法人間での寄附の問題になりうる可能性があり。

前者の株主間贈与は、会社に対して時価より著しく低い価額の対価で財産を譲渡した場合、財産を譲り受けた会社の株式の価額が増加した場合には、当該増加部分を、譲渡した者から贈与により取得したものとみなすという、相続税第9 条の論点。

●まとめると、別途のれんを評価しなければ、寄附・受贈(株主間贈与)の論点に帰結するため、それならば、予め評価、計上しておいたほうがよい、ということ。

 

 

なお、上記と異なり、純然たる第三者間における当事者間合意価格には、租税法が介入する余地は一切ありません。第三者M&Aにおける租税法の適正な時価は当事者間合意価格です。

 

 

5)経営資源引継ぎ補助金

経済産業省支援策パンフレットによると、「第三者承継時に負担となる、士業専門家の活用に係る費用(仲介手数料・デューデリジェンス費用、企業概要書作成費用等)および、経営資源の一部を引き継ぐ際の譲渡側の廃業費用を補助」する施策が打ち出されています。

 

出典:経済産業省ウエブサイト(https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

 

 

廃業、清算を検討する場合には、M&Aにおける売主としてのポジションもとりえる、そして、それに係る専門家等への報酬は上記施策により一定程度、負担軽減されること、についてクライアントに周知すべきです。

 

 

6)(売主・買主双方)事業承継税制(特例)と業績悪化

売主法人が事業承継税制特例適用対象会社の場合、将来、中小零細企業M&A 実務において、下記のような価格交渉手法が定着するかもしれません。

 

業績悪化事由において株式譲渡の場合は、一定の要件のもと、当該株式譲渡時に一部免除、さらに2年後に上乗せで一部免除が期待できます(措法70の7の5 ⑭等)。この一定要件は下記です。

 

 

M&A における買主側で当初譲渡後、当該2年を経過する日において、次の要件全てを満たす場合になります(措令40の85㉛等、措規23の12の2 ㉗等)。

 

⑴ 一定の業務を行っている。

⑵ (当初)譲渡等の事由に該当することとなった時の直前における特例認定贈与承継会社の常時使用従業員のうちその総数の2分の1以上に相当する数の者が、当該該当することとなった時から当該2年を経過する日まで引き続きその会社の常時使用従業員である。

⑶ 事務所、店舗、工場その他を所有し、又は賃借している。

 

価格交渉で利用できるのは⑵でしょう。当初M&A において売主会社の従業員を解雇した場合、上記の特典(2 年後の税メリット)の恩恵を授かることはできません。売主会社従業員継続雇用コスト(その他の雇用リスクも同時に考慮する必要があります)と2年後の一部免除額との有利・不利判定をし、売主、買主双方は最終価額を調整することになります。

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第1回:事業が健全かそうでないかの判別

~経営分析とは?非数値情報分析とは?健全性のチェック方法は?~

 

[解説]

植木康彦(公認会計士・税理士)

 

 

 

 

 

 

 


 

[質問(Q)]

長男に事業を承継する予定ですが、長男から「お父さんの事業は健全なの?」と聞かれています。事業の健全性は、どのように判定したらよろしいのでしょうか。

 

 

[回答(A)]

事業承継に際して、その事業が健全か否かはとても重要です。健全性の判定に際しては、数値分析(経営分析)と非数値情報分析を組み合わせるなどして判断します。

 

 

 

健全性の判定に正解はありませんので、あくまでも一例を示します。

 

1.経営分析(ファイナンシャルステートメント分析)


経営分析を行い、営業キャッシュフロー、収益性、安全性、成長性、効率性などの観点から対象会社を評価します。例えば、営業キャッシュフロー(営業利益)が3 年連続でプラスの場合は健全と言えます。それぞれの指標にはおおよその目安があるので、その目安をクリアーしている場合は健全と言えます。また、対象会社と同業他社を比べてみることも重要です。

 

比較することにより、対象会社のポジションを把握でき、良い点、悪い点が明確になります。同業他社との比較にはTKC 会員であればTKC 経営指標BAST(バスト)、非会員なら中小企業基盤整備機構の経営自己診断システム、経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)を用いる方法があります(自己診断、ロカベンは無償でネットから誰でも利用できます)。

 

2.非数値情報分析


次に、数値情報以外の項目の分析ですが、最も重要なのは対象会社のコアコンピタンス(事業価値の源泉)の状況です。事業承継の鍵はコアコンピタンスが存在し、承継できるか、しやすいか否かにかかっていると言えます。コアコンピタンスは、言い方を変えれば、“ 競争力” です。例えば企画力、技術力、ノウハウ、営業力、生産能力、ブランド、あるいはそれら複合的なものです。多くの中小零細企業では、経営者に帰属している例が多いと思いますが、経営者以外の誰かに帰属している場合や組織に帰属している場合もあります。この機会に自社のコアコンピタンスを探求し、他に誇れるものか、事業承継が可能かについて、検討してみましょう。

 

3.チェックリストによる健全性チェック


チェックリストの例を以下に示しました。

20 項目のうち過半の10 項目以上が〇であれば健全と言えます。

 

なお、チェックリストの実施によって、対象会社の強みと弱みが明確になります。強みは伸ばし弱みは克服すべき課題として位置づけ、〇又は×の理由を分析し、経営にフィードバックすることも有用です。

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第4回:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

~中小企業M&Aで最も用いられている仲介会社方式とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、中小企業のM&A において用いられる株式評価方法を教えてください。

 

A、時価純資産価額に正常営業利益の何倍かの営業権(のれん)を加算する、いわゆる仲介会社方式が主流となっています。

 

 

 

図表は、非上場企業に限定せず、M&A における企業価値の算定手法を概観したものですが、事業からもたらされる利益ないしキャッシュフローから事業価値を算定するインカムアプローチ、事業が有するストックに着目するアセットアプローチ及び株式市場から事業の価値を推定計算するマーケットアプローチに大別されます。

 

中小企業の評価で現状、最も用いられている手法が時価純資産価額に、年買法により算定した「営業権」(「のれん」とも言います)の評価額を加算する方式ですが、上記図表の整理では①のインカムアプローチと②のアセットアプローチの折衷法という位置づけとなります。

 

M&A 専門の仲介会社が幅広く用いることにより普及したため、最近は「仲介会社方式」とも呼ぶようであり、企業の収益面と資産面をバランスよく評価に織り込める点が優れており、また投資額をおよそ何年で回収できるかという経営者の思考に非常にマッチする方式であるため広く普及したものと思われます。

 

ただし、年買法による営業権はあくまで過去の利益に基づき算定されるため、利益が安定しない会社や将来の黒字化に向けて赤字が継続しているような会社の評価には適さない点は押さえておく必要があります。

 

この点、企業の価値は事業運営から将来もたらされるキャッシュフローの総和であるべきであることから、理論的にはDCF 法(ディスカウント・キャッシュフロー法)が最も優れていますが、同手法を採用する前提として将来の事業計画が客観的な根拠に基づき策定されている必要があるため、事業承継目的の中小企業のM&A ではほとんど用いられていないのが実状です。

 

また、マーケットアプローチについては評価対象が上場企業であれば、自社の株価は最も尊重されるべき指標となりますが、非上場企業については業種や規模が類似する類似会社を選定することが通常は難しいため、こちらもまず用いられません。

 

よって、中小企業のM&A 実務においては仲介会社方式をマスターすればこと足りることになります。M&A におけるバリュエーションなどと言うとDCF法やEV/EBITDA 倍率などと専門的な用語が飛び交い、税理士にとっては縁遠い分野と思うかもしれませんが、それは上場企業や投資ファンドなどの世界の話であり、一般的な非上場企業のM&A の局面においては意外と簡便的な手法により対価が計算されています。

 

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

⑤M&A関連費用の取扱い

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

 

 

 

中小零細企業M&A関連費用の取扱いについて基本的な考え方・裁決については下記の通り考えられます。

 

 

コンサルティング費用は株式取得価額に算入します。損金算入できたものに関しては売主側が費用を負担していた場合、当該負担金額を譲渡所得の計算上、取得費に含めることが可能です。

 

 

買主側の原則的な処理は下記のとおりです。

 

〇着手金

・・・損金算入

〇基本合意報酬及びDD等報酬

・・・案件が成約:取得価額に加算

・・・案件不成約:損金算入

〇仲介手数料(仲介会社に支払う成功報酬等)

・・・取得価額に加算

 

 

根拠条文等は、法人税法施行令第119条と法人税基本通達2-3-5となります[注1]。

 


(法人税法施行令第119条第1項)

(有価証券の取得価額)

第百十九条 内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した有価証券(法第六十一条の四第三項(有価証券の空売り等に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)又は第六十一条の五第三項(デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)の規定の適用があるものを除く。) その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

 

(法人税基本通達2-3-5)

(有価証券の購入のための付随費用)

2-3-5 令第119条第1項第1号《購入した有価証券の取得価額》に規定する「その他その有価証券の購入のために要した費用」には、有価証券を取得するために要した通信費、名義書換料の額を含めないことができる。

 外国有価証券の取得に際して徴収される有価証券取得税その他これに類する税についても、同様とする。(平12年課法2-7「四」により追加、平15年課法2-7「八」により改正

 


 

 

当該事案に係る裁決です。

 


 

【株式交換契約を含む経営統合に関するアドバイザリー業務につき取得価額に含まれるとした事例】

 

 

(有価証券の取得価額/経営統合に際し支出した法律業務、財務調査業務等の手数料)

本件各支払手数料は、株式交換完全子法人の株式を取得する目的の下でその取得に関連して生じたものであり、「株式の取得をするために要した費用」に該当すると判断された事例(平成26年4月4日裁決)

 

〔裁決要旨〕

1 本件は、審査請求人が、証券会社等に対する業務委託等に係る手数料及び調査用のパチンコ器等の製造費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該手数料は同業他社の株式を株式交換により取得するために要した費用であるから当該株式の取得価額に加算すべきであり、製造費用はその耐用年数で減価償却費を計算すべきであるなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該手数料及び製造費用はいずれも損金の額に算入されるものであり、また、損金の額に算入していなかった特許権実施料(売上原価)があるから、その特許権実施料は所得金額から減算されるべきであるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

 

2 適格株式交換により取得した株式交換完全子法人の株式の取得価額に加算すべき「株式の取得をするために要した費用」とは、実際に取得した株式について、原則として、当該株式の取得を目的としてその取得に関連して支出する一切の費用が含まれると解されるところ、この判断に当たっては、取得しようとする株式の候補が複数ある時点において、いずれの株式を取得すべきかを決定するために行う調査等に係る費用は、通常、当該取得を目的とする株式が特定されていないことから、実際に取得した株式の取得との関連性は希薄であるといえるものの、少なくとも、特定の法人の株式を取得する前提で行う調査等に係る費用は、その特定の法人の株式の取得を断念した場合を除き、当該株式の取得を目的としてその取得に関連して支出する費用というべきである。

 

3 請求人は、○○に本件法律業務を委任し、その後、○○からA社及びその子会社等に対する法的監査の結果報告及び経営統合の経営判断に対する取締役の善管注意義務等に関する意見を受けているところ、請求人は、本件法律業務を○○に委任した時点において、本件株式交換によりA社株式を取得することを目的としていたことが認められる。そして、A社及びその子会社等に対する法的監査は、経営統合に関する取引に際して重要な影響を与え得る法的問題の調査のために行われたものであることに加え、その結果が記載された法的監査報告書は、株式交換に係る株式交換比率の算定の基礎資料としても使用されている。そうすると、本件法律業務は、いずれも経営統合、すなわち、株式交換によるA社株式の取得に関連した業務であった(下線筆者)と認められる。

 

4 本件各支払手数料は、A社株式を取得する目的の下でその取得に関連して生じたものであり、その後、実際にA社株式を株式交換により取得しているのであるから、各支払手数料は、「株式の取得をするために要した費用」に当たる(下線筆者)ものである。

 

 

出典:TAINS

(TAINSコード F0-2-697)

 


 

取得価額に算入すべき金額の時期ついても問題になります。

 

 

調査課所管法人用の申告書確認表において(TAINS収録)、「別表五(一)に記載された株式の取得価額に算入すべきデューデリジェンス費用等の金額についても調整を行う必要があります。」との記載があります。

取得価額に含めるのは、M&A対象株式を購入することを意思決定した後の費用です。この前後によって取扱いが明確に変わるため、M&A対象株式購入の意思決定はいつ決裁されたかを明確に示す、エビデンスの保存が必要になってきます。最終決裁者によっても変わりますが、通常の中小企業・零細企業では取締役会議事録や役員同士での社内稟議書により、購入決定した「意思時点」を明確にしなければなりません。

 

 

では、事業譲渡スキームにおけるM&A費用等の取扱いはどうなるのでしょうか。本稿脱稿時点においては、上記に係る法文がありません。

 

事業譲渡は組織再編成の一手法のため、他の手法と比較して検証します。

 

○適格合併・適格分割型分割

・・・明文規定なし(法法62の2、法令123の3③)

○非適格再編成・事業譲受

・・・明文規定なし(法法62の8①・③)

○適格分社型分割・適格現物出資[注2]

・・・取得価額に加算(法令123の4・123の5)

 

適格分社型分割、適格現物出資において株式譲渡と同様の取扱いをされているのは当該組織再編成行為が株式譲渡に経済的実態が近似しているから、とも考えられなくもありません。それ以外に関しては上記のとおり、法文(や法令解釈通達)がないため、諸費用は損金計上できると考えられます[注3]。

 

 

なお、下記の質疑応答事例は参考になります。

 


 

【合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い】

 

【照会要旨】

当社は、A社を吸収合併(以下「本件合併」といいます。)することを計画しています。本件合併の実施に当たり、当社は、専門家に対して、A社の事業内容や権利義務関係の把握、企業価値の評価、合併の実行に必要な手続の把握等を内容とするいわゆるデューディリジェンスを委託しました。

このデューディリジェンスに要する費用は、本件合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額に含めるなど資産として計上せずに、一時の損金として処理して差し支えありませんか。

また、本件合併が適格合併に該当する場合と非適格合併に該当する場合とで、取扱いに違いはありますか。

 

【回答要旨】

ご照会のデューディリジェンス費用は、一時の損金として処理することになります。また、本件合併が適格合併に該当するか否かで取扱いに違いはありません。

 

(理由)

法人税の所得金額の計算上、販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で債務の確定していないものを除きます。)の額は損金の額に算入することとされています(法22③二)。

 

また、減価償却資産の取得価額については、資産の区分に応じて取得価額とすべき金額が法人税法施行令第54条に定められています。

 

適格合併により被合併法人から資産の移転を受けた場合には、その資産の帳簿価額を引き継ぐこととされていますが(法令123の3③)、その資産が減価償却資産である場合の償却費の計算の基礎となるその減価償却資産の取得価額については、①被合併法人がその適格合併の日の前日の属する事業年度においてその資産の償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額と、②合併法人がその資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされています(法令54①五)。

 

非適格合併により移転を受けるなど同条第1項第1号から第5号までに規定する方法以外の方法により取得した減価償却資産の取得価額については、①取得の時におけるその資産の取得のために通常要する価額と、②その資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされています(法令54①六)。

 

ご照会のデューディリジェンス費用は、被合併法人の事業内容や権利義務関係の把握などを内容とする業務委託に要する費用であり、本件合併により移転を受ける個々の減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用には該当しないと考えられますので、本件合併が適格合併に該当するか否かにかかわらず、本件合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額には含まれないこととなります。

 

なお、本件合併により移転を受ける棚卸資産がある場合も、上記と同様に、その取得価額には含まれないこととなります(法令28③、32①三)。

 

 

【関係法令通達】

法人税法第22条第3項第2号

法人税法施行令第28条第3項、第32条第1項第3号、第54条第1項第5号、第6号、第123条の3第3項

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/46.htm)

 


【注釈】

[1]「例えば購入に当たって支出したあっせん手数料,謝礼金等があれば,そのあっせん手数料,謝礼金等は取得価額に算入される」佐藤友一郎 (編著)「法人税基本通達逐条解説」305頁(九訂版 税務研究会出版局 2019)とあります。

[2] 現物出資は会社法上の組織再編成に該当しませんが、租税法上では組織再編成の一類型として整理されているため、上記のような分類をしています。

[3] 森・濱田松本法律事務所(編)「税務・法務を統合したM&A戦略」66頁~67頁(中央経済社 第2版 2015)、成松洋一「M&Aによる株式等の取得に要する費用の損金性」週刊税務通信3352号P40以下参照のこと。

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

▷第10回:PMIって何?-M&Aの成功はPMIで決まる!-

 


M&Aの買い手に必須の手続として、デューデリジェンス(DD)があります。今日では、企業の成長戦略としてM&Aが一般的になってきた背景もあり、デューデリジェンスという用語を耳にすることも多くなったのではないでしょうか。

 

デューデリジェンスはM&Aのプロセスにおいて最も重要な手続のひとつであり、その目的は対象会社から提供される情報に基づいて対象会社の実態を把握し、問題点を洗い出すことにあります。

 

デューデリジェンスには、財務・税務、法務、人事、ビジネス、環境等、いくつもの領域がありますが、実際のM&Aの現場では、対象会社の規模や事業の複雑性等を考慮して、どの領域について調査を実施するかを判断し、決定することになります。以下、主要なDDの概要を説明します。

 

 

財務・税務DDは、対象会社の収益性や財務状況の把握を目的として行われ、公認会計士・税理士等の専門家が実施します。過去の業績データに基づく正常収益力(対象会社が本来有している収益力)の分析や、貸借対照表上の資産の内容把握、評価額の妥当性に関する検討、潜在的なリスクに伴う簿外債務の有無、税務上のリスクの分析・把握等が行われます。財務・税務DDの結果は、事業計画や株式価値評価に反映されることとなります。

 

法務DDは弁護士によって実施され、対象会社が有している各種契約の内容の把握、訴訟や係争案件の有無、特許や商標権等の知的財産権の内容、人事労務関連の法令順守状況等の調査が対象となります。

 

ビジネスDDは、対象会社の事業内容、強み・弱み、市場環境、競合他社分析等、事業全般に関する調査・分析が行われます。通常は、対象会社の既存事業のみならず買い手が実現可能なシナジーの分析等も行われます。また、事業会社が同業他社を買収するようなケースでは、ビジネスDDを買い手企業自ら行うこともあります。ビジネスDDの結果も、財務・税務DD同様、事業計画や株式価値評価に影響を与えます。

 

 

それでは、売り手が非上場の中小企業、買い手が上場企業となるM&AにおけるDDではどのような論点が考えられるでしょうか。

 

一般的に、上場企業と比較して中小企業はコーポレートガバナンスやリスク管理の点で体制整備が十分でないことが多いと考えられます。例えばオーナー企業を例にとると、株主が経営者でもあることから意思決定のスピードや強いリーダーシップの発揮といった点で特有の強みもありますが、所有と経営が分離された上場企業で構築されているような株主による経営監視の仕組みが有効でないことが多く、強力な権限を持つ経営者自身により会社が私物化されるリスクが高いともいえます。

 

このような会社を買収しようとする場合、買い手企業は、オーナー経営者が会社との間で利益相反となるような取引を行っていないか、オーナー個人の利益のために会社に過度のリスクを負わせていないか、といった観点から関連当事者取引の詳細を重点的に調査すること等が必要となります。

 

その他にも、中小企業特有の論点として、上場企業との会計方針・会計処理の違いやリスク管理体制等の不備等に起因する会計的、法的問題が検出されるケースがみられます。

 

 

DDで検出された問題は、各DDの実施者から買い手企業に報告されます。DDで検出される問題には大小さまざまなものがありますが、重大な粉飾決算や法的な瑕疵等、問題が深刻で修復が不可能と判断されるような場合には買収交渉が中止されることもあります。

 

また、深刻ではないものの対処が必要な問題が発見された場合には、買い手企業において、検出された問題がもたらすリスクや損失を評価した上で、売り手に対して表明保証を求める、あるいは買収価格の引き下げを求めるといった対応が取られることが一般的です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

「M&Aの検討段階における新型コロナウイルス等による影響」とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:新型コロナウイルス等による業績悪化を理由とした M&A ・事業売却

▷関連記事:家賃支援給付金の詳細情報が公表(2020年7月7日)。制度内容は、給付額は、申請方法は。

▷関連記事:【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与 ~コロナウイルスの影響で大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化、役員報酬の大幅な減額を検討~

 

 

M&Aを検討していますが、新型コロナウイルス等による影響はありますか?

新型コロナウイルスは、執筆時点(2020年3月末)において未だ収束の目途が立たず、世界的な混乱に陥っている状況です。このような状況下で、M&Aを検討あるいは既に進めている企業にとっては、どのような影響があるのか、どのように進めるのがよいか悩まれていることと思います。そこで、新型コロナウイルスによる影響を特にM&Aを行う観点からまとめました。

 

 

[関連解説]

■「新型コロナ対策融資と特例リスケ」 ~事業再生の専門家の観点から~

■「超速報!新型コロナウイルス対策税制」

■「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」

■「コロナ対応としての中小企業経営の留意点」~コロナとその先へ~

 

①M&Aの見送り・延期

売手企業よりも、特に買手企業の方に影響がありますが、経営環境の先行き不透明感や株式市場の乱高下による混乱した社会情勢の中、M&Aを行うことに対して慎重な意見があります。このような意見が採用されて、M&Aを見送るあるいは混乱が落ち着くまで延期するといった経営判断をする会社が少なくない状況です。そのため、まずは会社の風土や経営判断を確認して、このような状況下でのM&Aに対する姿勢を把握する必要があります。

 

②輸出入等取引上の影響

新型コロナウイルスの影響で、売手企業の得意先や仕入先が直接的・間接的に海外(特に中国等)に依存している場合に、得意先や仕入先との取引が一時的に停止していることが考えられます。これらの事象の有無を正確に把握して、事象がある場合には、経営に対する影響を把握する必要があります。

 

飲食店や宿泊業等であれば、業績が悪化していることは容易に想像されます。それら以外の業種では、例えば仕入先からの仕入ができない状況であるならば、現状の在庫での販売は何か月可能か、仕入先の代替先はあるか、その他の手段はあるか等を確認の上、業績に与えるインパクトを把握する必要があります。

 

このように、既に業績悪化している。あるいは今後業績悪化の可能性がある場合には、譲渡金額へ反映する必要があります。

 

③従業員の在宅勤務等による稼働率の影響

新型コロナウイルスの影響で、従業員にどのような影響があるのかを把握します。現状の勤務状況等を把握して、今後在宅勤務となるような場合に、在宅勤務が可能な体制となっているかどうか等を確認します。在宅勤務等、通常とは異なった勤務形態をとった場合の、稼働率や効率性等を勘案し、業績への影響を検討する必要があります。

 

④株式市場の株価下落による価値評価への影響

新型コロナウイルスの混乱により日経平均株価は大きく下落している状況が続いています。譲渡金額の算定に、上場企業の株価を用いている場合には、どの時点の株価を用いているのかを確認する必要があります。評価の基準日(対象会社の直近の期末日又は試算表等の数値が把握可能な直近月末等)の株価を用いることが一般的であり、新型コロナウイルスの影響による下落前の株価を用いていることが想定されます。この株価の下落の影響を譲渡金額に織り込むかどうかを、買手企業と売手企業で交渉する必要があります。

 

 

 

 

新型コロナウイルスにより、様々な形で多くの企業の事業運営に影響があり、現在または将来の業績に影響を及ぼす可能性が非常に高くなっています。そのため、先行きが見通せない状況を嫌い、M&Aをそもそも見送る場合や延期する場合もあります。M&Aを行わない場合にも様々な影響がありますので、M&A担当者は、どのような影響があるのかを事前に把握した上で、交渉に臨む必要があります。