[ゼロからわかる事業再生]

第1回:経営状態の把握と事業再生

~貸借対照表と損益計算書が示す財務の状態によって、会社の方向性を考える~

 

[解説]

植木康彦(公認会計士・税理士)

 

 

[質問(Q)]

祖父の代から承継してきた事業ですが、ここ数年間は営業赤字が続いています。事業再生をした方がよいと言われますが、どのように進めたらよいか、助言をください。

 

 

[回答(A)]

会社の現状の財務状態をよく把握し、B/S 面が弱い(悪い)のか、P/L 面が弱い(悪い)のかによって対応が相違します。症状が軽度の場合はB/S 面・P/L 面ともに自助努力での対応が中心となりますが、症状が重い(悪い)場合のB/S 面・P/L 面での対応は金融機関や債権者の協力を得て再生手続を進める方法があります。

 

 

1.経営状態の把握


会社の行く末を検討するに当たって、定期的に会社の現在の状態を分析してみることは重要です。そうはいっても複雑な経営分析をするまでもなく、貸借対照表(以下、「B/S」といいます。)と損益計算書(以下、「P/L」といいます。)の2 つの計算書類が示す財務の状態によって、ある程度、会社の方向性を考えることができます。

 

B/S が資産超過でP/L が営業黒字のケース(図右上のセル)は、健全な状態を意味するセルであり、良い状態をキープすることが望まれます。

 

B/S が資産超過でP/L が営業赤字のケース(図右下のセル)は、事業(P/L)の磨き上げによる営業黒字化を検討し、無理な場合には資産超過のうちに廃業も視野に入れます。

 

B/S が債務超過でP/L が営業黒字のケース(図左上のセル)は、財務内容(B/S)の磨き上げによる資産超過を検討し、無理な場合には廃業するか、不健全な部分を切り捨てて、健全部分の継続かM&A を検討します。

 

B/S が債務超過でP/L が営業赤字のケース(図左下のセル)は、営業赤字の拡大を予防するために早急な廃業を検討します。

 

もちろん、実際にはこれほど単純な例は少なく、例えば、B/S が債務超過でP/L が営業赤字のケースでも、従業員の高いモチベーションと経営改善策によって営業黒字が見込めるときは、すぐに廃業しないで経営改善をチャレンジしてみることも可能です。

 

以上はあくまでも、原則的な指針としての位置づけですが、方向性に迷ったときには参考にしてほしいと思います。

 

 

 

2.事業再生の方法


事業再生は、弱い点や悪い点を改善し修復する手続ということができます。

 

B/S 面が弱い(悪い)ならB/S を磨き上げ、P/L 面が弱い(悪い)ならP/L を磨き上げます。

 

B/S の磨き上げは、会社の意思決定でできる低利用(低稼働)資産や不要資産の処分、不採算事業の整理・撤退のほか、金融機関や債権者の協力を得て債務の削減までしてもらう場合もあります。

 

P/L の磨き上げは、不採算事業や収益率が低い事業の廃業や売却、事業内容の見直しが中心テーマとなります。B/S の見直しと違い、会社の自助努力が中心となります。

 

 

 

 

 

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

思ったより厳しかった事業再構築補助金 しかしやってみてよかった・・・

~ぜひ皆さまも一度は事業再構築にチャレンジもしくは考えてみてはいかがでしょうか?~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


 

今年、1兆円を超える予算規模、5万社の採択予定という超大型の事業再構築補助金が出ました。5万社の採択予定ですので初回の採択率はかなり高いのだろうと思いましたが、ふたを開けてみると緊急事態宣言特別枠(大幅に業績悪化した会社用)は5181社中2866社が採択 採択率55.3%、通常枠に至っては17050社中5150社 採択率30.2%とほかの補助金に比べても採択率が低い結果となりました。

 

しかし、採択結果の分析を中小企業庁 村上経営支援部長自らYOUTUBE動画として「第1回公募終了 ~その傾向と参考事例~」を公開し、全体的な傾向や事業計画を作る上での注意点、そして、これから申請される方へのアドバイスも含め配信していただいています。さらに、採択結果について個別にフィードバックをもらえるという、過去にないサービスも実施されています。

 

▷参考URL:https://jigyou-saikouchiku.go.jp/

 

 

そこでは、新規性に関する記述が不足、既存事業の延長ではない事業としての記載をもっとすべき。思い切った挑戦とは言えない。競合分析が不十分。新規性を追うがあまり、既存事業のリソースが生かし切れていないがもっと生かせるのでは。アフターコロナのための取り組みに関する説明不足。など真摯なコメントがあふれていました。

 

今回補助金の申請まで間に合わなかったお客様、申請要件をぎりぎり満たせなかったお客様、採択されなかったお客様などからも「結果的にはダメだったが、この新規事業について考えた結果、自分のビジネスを見つめ直し、新しい取り組みのアイディアが浮かんだのでやってみてよかった。」との声を頂戴しました。

 

 

ぜひ皆さまも、一度は事業再構築にチャレンジもしくは考えてみてはいかがでしょうか?

 

 


 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2021/07/26号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.貸家建付地の相続税法上の評価


土地付き建物の所有者が建物を他に貸付けている場合、その建物の敷地を「貸家建付地」といいます。貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者もその敷地の処分や利用が制限されます。よって貸家建付地を相続により取得した場合は、相続税計算上、土地所有者の自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(=自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価をします(財産評価基本通達通26)。

 

 

2.使用貸借により土地を貸していた個人に相続が発生した場合の、その土地の相続税法上の評価の原則


使用貸借に係る土地を相続により取得した場合、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります(使用貸借通達3)。

 

建物の所有を目的として使用貸借により土地を借受けた場合の借主の使用権は、借地借家法が適用されず、借主には賃貸借による賃借権などの借地権とは違い、強い法的保護がなく、貸主は、その求めにより、いつでも無償で土地の返還を受けられます。よって、使用貸借に係る土地の使用権の経済的価値は極めて低いと考えられ、その相続税評価額はゼロとされます。つまり、使用貸借に係る土地の貸主側のその土地の相続税法上の評価は、【自用地の価額-使用貸借の使用権の価額(=0)】により、自用地としての評価となります。

 

 

3.貸家とその敷地を所有する親が、子に貸家を贈与し、その敷地を使用貸借により貸し付け後に親が死亡した場合の敷地の相続税評価


(1)原則的な考え方

貸家とその貸家の敷地を所有する親が、貸家のみを子に贈与し、その敷地を子に使用貸借により貸付けている場合、貸家贈与後のその貸家敷地の相続税法上の評価の原則的な考え方は、前述2と同様に、自用地評価となります。自用地として評価する理由につき、使用貸借通達3の取扱いを解説した「令和2年11月改訂版相続税法基本通達逐条解説」(以下「逐条解説」)867頁は次のように述べています。「…すなわち、一般に、使用貸借により借り受けた土地の上に建物が建築され、その建物が賃貸借により貸し付けられている場合における、その建物賃借人の敷地利用権は、建物所有者(土地使用借権者)の敷地利用権から独立したものではなく、建物所有者の敷地利用権に従属し、その範囲内において行使されるにすぎないものと解されている。したがって、土地の使用借権者である建物の所有者敷地利用権の価額をゼロとして取り扱うこととした以上、その建物賃借人の有する敷地利用権についてもゼロとして取り扱うことは当然であり、また、その土地自体の価額も自用であるとした場合の価額によるべきと考えられるからである。」

 

(2)貸家に係る賃貸借契約が贈与前に既に締結されており、贈与後から敷地の相続による取得の時までその契約が継続している場合の貸家の敷地の評価

表題の場合、その貸家の敷地の相続税法上の評価は、次の理由により貸家建付地としての評価とされます(参考:「逐条解説」867頁~868頁)。

 

貸家の贈与前は、貸家の所有者である親がその敷地の所有者でもあり、貸家の所有者である親と貸家の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、貸家の借家人は貸家を通じてその敷地利用権を有しています。その敷地利用権は敷地の所有権に対するものであり、判例(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁、最判昭和41年5月19日民集20巻・989頁参照)において、貸家借家人の有する敷地利用権は、貸家が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしています。つまり、借家人の権利の保護の観点から、その貸家の譲渡(贈与や相続による所有権の移転も含むと解されます)により、貸家自体の土地に対する利用権が使用貸借となっても、借家人の従前の敷地の所有権に対する敷地利用権が、敷地の使用貸借による利用権(ゼロ評価)に対する敷地利用権に変わることはないということです。

 

表題の場合の貸家の借家人は、相続で新たにその貸家の敷地の所有者が変わっても、それより前の贈与の前に取得している貸家の敷地に対する利用権は侵害されることなく有しているため、その敷地は、相続で誰に取得されても、引き続きその処分や利用が、その利用権により直接制限されるため、表題の場合の貸家敷地の評価額は、自用地としての評価額から貸家建付地と同等の減額を行うのが当然といえます。以上により、表題の場合の貸家の敷地の相続税法上の評価は、前述 (1)にかかわらず、貸家建付地としての評価とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/07/26)より転載

[会計事務所の事業承継・M&Aの実務]

第4回:M&A後の所長税理士の関与方法

~M&A後の所長税理士の関与方法はどのようになりますか?~

 

[解説]

辻・本郷税理士法人 辻・本郷ビジネスコンサルティング株式会社

黒仁田健 土橋道章

 

 

 

▷関連記事:失敗例から学ぶM&A ~従業員の大半が退職したケース 、所長税理士と新所長の引継ぎがうまくいかなかったケース ~

▷関連記事:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

 

Q、M&A後の所長税理士の関与方法はどのようになりますか?

A、M&A後の所長税理士(「所長税理士」は、売主側の個人事務所の所長をいいます。以下同様。)の関与度合いは、契約の中で待遇面も含めて決めることが重要です。M&A後の所長税理士の関与度合いには、大きく分けて四つのケースが考えられます。

 

①M&Aと同時に退職する
②M&A後一定期間は、所長として従来通りの業務をし、一定期間経過後退職する
③M&A後顧問などの相談役となり、一定期間経過後退職する
④期間は設けず、所長を継続する

 

①のM&Aと同時に退職するケースでは、業務の引継ぎに時間をかけることができず、瞬間的な引継ぎとなってしまいますので、引継ぎを受ける方の負担が大きくなり、また、従業員や顧問先も所長税理士が急に変わることによる不安感が大きいので、買主側としてはできるだけ避けます。

 

ただし、売主側である所長税理士は健康問題や個人的な事情があり、やむなく選択するケースがあります。この場合には、新しい所長をみつけて手配する必要があり、他のケースに比べて対応すべきことのスピードを速める必要が出てきます。

 

会計事務所の場合、高齢化や健康問題を要因とした事業承継型のM&Aをするケースが多いので、②又は③のように一定期間残って、引継ぎを進めていくケースが大半です。

 

なお、一定期間をどのくらいにするかは、その後の所長税理士のライフプランもあるので、契約段階での調整となりますが、1 年~ 5 年程度が目安となります。

 

特に③のケースのように、顧問などの相談役として関与する場合の出社頻度は、業務の引継ぎ状況に応じて決めていくケースが大半であり、毎日の場合もあれば、徐々に日数を減らす場合、当初から週何日と決める場合があります。

 

④の期間を設けず所長を継続するケースは、相当長い期間を見据えてM&Aをした場合が考えられますが、あまり多くありません。期間を設けず、そのまま継続するのであれば、個人事務所で事業をしているのと変わらないため、M&Aになるケースが少ないからです。

 

いずれにしろ従業員・顧問先に対して安心してもらうためにも、長年にわたり牽引してきた所長税理士が残ってくれることが重要です。

 

 

 

 

▷参考URL:M&A各種契約書等のひな形(書籍『会計事務所の事業承継・M&Aの実務』掲載資料データ)

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「法人が解散した場合の欠損金の控除」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】法人が解散・残余財産が確定した場合の事業年度

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

 

 

 


[質問]

顧問先がコロナの影響を受けて売上が激減したため法人の解散を検討しております。当該法人は代表取締役(現在70歳)とその兄弟が100%出資の株式会社で同族会社であり青色申告法人です。

 

現在の貸借対照表の状況は、資産の部700万円(うち不動産は無し)、負債の部が3,000万円(負債はほぼ代表取締役からの役員借入金で第三者からの借入金は無し)、純資産の部が△2,300万円(うち資本金が1,000万円、別途積立金が500万円)という状況です。

 

なお、直前期の別表7(一)5の繰越欠損金は約200万円残っており、別表5(1)の差引翌期首現在利益積立金額は約3,400万円となっています。

 

この状況で期限切れ欠損金を損金算入できるか否かご教示頂きたく照会させて頂いております。

 

私見としては、資産を処分価格で算定したとしても「残余財産は無いと見込まれる」状況にあると考えるため法人税法59条3項より期限切れ欠損金(別表5(1)の3,400万円)は損金算入でき、債務免除益として出てくるであろう約2,300万円に法人税は課税されないと考えておりますが、私の考え方に間違い無いでしょうか。

 

[回答]

ご承知のように、平成22年度税制改正において、清算所得課税が廃止され、通常所得課税に移行したことに伴い、従来の清算所得課税においては残余財産がない場合には最終的な清算所得もゼロであったことを考慮して、通常所得課税においても残余財産がないと見込まれるときには、その所得の金額を限度として期限切れ欠損金を損金算入することにより、税額が生じないようにする仕組みが導入されたものです。

 

つまり、法人が解散した場合において、「残余財産がないと見込まれる」ときは、その清算中に終了する事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額(期限切れ欠損金額)に相当する金額は、青色欠損金等の控除後の所得の金額を限度として、その事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入することとされています(法法59③)。

 

そして、この措置の適用上、残余財産がないと見込まれるかどうかの判定は、この措置を受けようとする清算中の各事業年度終了の時の現況により行うこととされ(法基通12-3-7)、その事業年度終了の時において債務超過の状態にあるときは「残余財産がないと見込まれる」ことが明らかにされています(法基通12-3-8)。また、一般には、実態貸借対照表(その法人の有する資産及び負債の時価ベースで作成された貸借対照表)により債務超過の状態にあるかどうかが確認できることとなります(法基通12-3-9)。

 

ご照会の事例の場合、「解散を検討」しているとのことで、まだ解散はしていないようですが、ご照会の事例の法人が解散し、清算中の事業年度に入ったという前提で考え、実態貸借対照表がご照会にあるとおりの数額であるとするならば、ご照会のとおりでおおむね差し支えないと考えます(別表5(1)の「約3,400万円」はマイナスの金額であると理解します)。

 

なお、言わずもがなですが、「期限切れ欠損金(別表5(1)の3,400万円)」の全額が損金算入されて所得金額がマイナスになるわけではありませんから、念のため申し添えます。

 

また、損金算入の対象となる期限切れ欠損金額は、この措置を受けようとする事業年度(適用年度)の前事業年度から繰り越された欠損金額の合計額から法人税法第57条第1項《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》又は第58条第1項《青色申告書を提出しなかった事業年度の災害による損失金の繰越し》により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される青色欠損金額又は災害欠損金額を控除した金額とされており(令118)、「前事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」とは、適用年度の確定申告書に添付する申告書別表5(1)の「期首現在利益積立金額」の合計額として記載されるべき金額で、その金額がマイナスである場合のその金額(申告書別表7(1)の控除未済欠損金額に満たない場合にはその控除未済欠損金額)とされています(法基通12-3-2)。

 

ただし、適用年度終了の時における資本金等の額がマイナスである場合には、「繰り越された欠損金額の合計額」からそのマイナスの資本金等の額を減算することとされており、そのマイナスの資本金等の額を欠損金額と同じように損金算入の対象とすることとされています(法法59③、法令118①一)。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2021年5月14日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第12回:「トラック運送業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~トラックの取得条件は?人員(ドライバー)の確保は?損益管理の状況は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「産業廃棄物処理業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

▷関連記事:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

 

 

 

Q、トラック運送業のM&Aを検討していますが、トラック運送業M&Aの特徴や留意点はありますか?


トラック運送業は、当たり前ですがトラックを保有しているという特徴があります。会社の資産の大部分が車両運搬具(トラック)となっている会社も多いです。トラックは、取得にかかる投資が必要となり、金融機関から借入又はリースによりトラックを調達します金融機関やリース会社と信頼関係を築けていないと、借入期間やリース期間が少し短くなる場合があります。期間が短いと月々の返済金額が多くなり、資金繰りが苦しくなるため注意が必要です。なお、一般的には、リースよりも借入の方が利率や手数料が低いため有利な条件でトラックを取得できます。また、リースよりも借入でトラックを購入している方が、財務的な健全であることが多いため、M&Aを検討している場合にはこれらを確認するようにしましょう。

 

また、トラック運送業は人員の確保に苦慮している業界の1つであると言えるでしょう。職業別労働市場関係指標によると、ドライバーの有効求人倍率は2019年で約3倍となっており、募集をかけてもなかなか応募が来ないのが現状となっています。

 

 

 

 

 

 

このような状況であるため、ドライバーを獲得するというのもM&Aの主要な役割となっています。この場合には、ドライバーが高齢化していないか、年齢を確認する必要があります。

 

トラック運送業の主なコストは、人件費、減価償却費(又は支払リース料)、燃料費です。人件費の上昇はどの業種でも同様となっていますが、燃料である軽油を少しでも安く調達するために、協会や組合等に加入している会社が多いです。また、資源エネルギー庁によると軽油の価格は2004年から2019年の間では@90円から@135円程度をだいたい5年周期で変動しています。

 

 

 

 

 

人件費の上昇や軽油の価格の変動を価格に転嫁できると良いですが、中小企業の運送業は大手の下請けを行っている場合が多く、値上げ交渉をできずにいる会社も少なくありません。この点、国土交通省から基本運賃が公表されていますが、やはり中小企業は基本運賃を獲得できていない会社が多いのが実情となっています。

 

車両は10年程度で買い替えることになるため、車両の購入費用等を賄えているかを確認するためにも、車両別の損益管理が必要です。さらに、車両だけでは戦略的に安い金額で受注している場合等もあるため、得意先別での損益管理も重要となります。M&Aを検討する場合には、損益管理の状況も含めて把握すると良いでしょう。

 

トラック運送業は、トラックを保有して事業を行うため、どうしてもトラック関連と人件費関連の支出がメインとなります。M&Aを検討する場合には、これらの経費のコントロールの状況や、取引条件等の得意先との関係性、トラックを借入で購入しているのかリースとしているのか、ドライバーの年齢の確認等を行いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第6回:ノンネームシートや企業概要書とは何か? 譲渡企業側のアピールの方法を考える。

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

「私は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。第三者に承継(M&A)を行う場合、候補先に、どのようにアピールしていけばよいでしょうか。また、よく、「ノンネームシート」とか「企業概要書」という資料があると聞きますが、どういったものでしょうか。よろしくお願いいたします。」

 


 

平野:ご質問いただきありがとうございます。以下のような手順でご説明をいたします。

 

①M&Aにおいて、譲渡企業はどのような資料を候補先に開示するのか説明いたします。具体的には、「ノンネームシート」、「企業概要書」についての説明を行います。

②ノンネームシートの役割や留意点、アピール方法を説明いたします。

③企業概要書の役割や留意点、アピール方法を説明いたします。

④成功事例を紹介します。

 

 

1、ノンネームシート(ティーザー)

M&Aで候補先を探索を開始するにあたり、まずは「ノンネームシート」と呼ばれる匿名での案内書を作成します。

 

ノンネームシート(ティーザー)とは、譲渡企業が特定されないよう企業概要を簡単に要約した企業情報をいいます。譲受企業側に対して関心の有無を打診するために使用されるものです。

 

 

 

 

2、企業概要書(IM、IP)

企業概要書とは、譲渡企業側が秘密保持契約を締結した後に、譲受企業側に対して提示する譲渡企業についての具体的な情報(実名や事業・財務に関する一般的な情報)が記載された資料をいいます。インフォメーション・メモランダム「IM(Information Memorandum)」やインフォメーション・パッケージ「IP(Information Package)」とも呼びます。

 

 

 

 

3、提出時期と提出目的の違い

ノンネームシートと企業概要書はそれぞれ役割が違っており、以下のとおり、目的と提出時期が異なります。

 

①目的

(ノンネームシート)

譲受企業側に対して関心の有無を打診するために使われます。関心があれば、連絡を受けて、企業名等を開示するかの検討に入ります。

 

(企業概要書)

譲受企業側に対して、譲渡企業の経営・財務情報を開示することによって、関心があれば、企業トップ同士の面談や基本合意へと交渉を進めるために使われます。

 

②提出時期

(ノンネームシート)

M&A の方法や時期などの方針が概ね決まり、これから候補先の探索を始める段階。

 

(企業概要書)

譲受企業側との秘密保持契約を締結すると同時に実名の開示が行われ、譲受企業側が、譲渡企業に関心を持って、交渉に進みたいと打診をしてきた段階。

 

③M&Aの流れと「ノンネームシート」と「企業概要書」の作成時期

ノンネームシートと企業概要書は、以下のようなタイミングで作成されることが求められます。

 

❶アドバイザー等に相談⇒❷アドバイザリー契約の締結⇒❸ノンネームシートの作成候補先の探索・紹介⇒➎候補作と秘密保持契約の締結⇒❻企業概要書の作成トップ面談(お見合い)⇒❽意向表明提出(譲渡企業)⇒❾基本合意の締結(独占交渉権付与)⇒❿譲受企業による買収監査⇒⓫最終条件交渉⇒⓬最終契約書(本契約)の締結⇒⓭対価の授受、業務引継ぎ

 

 

 

4、「ノンネームシート」のアピールポイント

①業種

(例)〇〇の製造販売 など

 

業種はできる限り具体的に記載することがポイントです。ここを広げすぎると、無用な対応の時間が増えてしまいます。しかし、ニッチな業種の場合、特定される可能性があるので、業種を絞らずに大きく記載する場合もあります。

 

②譲渡理由

(例)事業の選択と集中のため

 

譲渡理由は、「後継者不在のため」「事業の選択と集中のため」「アーリーリタイアし別事業へ挑戦するため」「企業の成長・発展のため」などと記載します。業績不振や健康不安など負のイメージはノンネームの段階では、なるべく記載しないようにします。

 

③会社所在地

(例)関西地方

 

業種によっては、地域を狭めると特定されるケースもあるので留意します。

 

④売上高等

(例)1億円弱

 

売上は大きい方が好まれるが、嘘のない範囲で数字を丸めて記載します。また、売上高以外に、純資産額なども譲受企業は重視する傾向があるので、財務内容が良い企業はあえて記載することもあります。

 

⑤従業員数

(例)9名(役員除く)

 

従業員数も、「10人前後」「10人~15人」などとぼやかす場合もあります。ただし、引退予定の役員などは含めない方がよいです。

 

⑥希望形態条件

(例)株式譲渡 (社長所有の事業用不動産の賃貸を希望)

 

「株式譲渡」「事業譲渡」や「会社分割後新設会社を譲渡」などと記載します。100%株式譲渡でない場合など、特殊な場合はその旨を記載しておく必要があります。また、個人の事業用不動産を譲渡や賃貸する場合も記載します。その他条件として、「従業員全員の雇用継続」「代表者の保証債務の抹消」「オーナー一族以外の役員の勤務継続」など記載しておきたいことを簡単に記載します。

 

⑦譲渡希望額

(例)応相談

 

譲渡希望価額はまだ算定できていないケースもあり、その場合は「応相談」と記載しておきます。あまり法外な価額を記載することは相手先が見つからない可能性があります。一方で、低く見積もるとその後の値上げには応じてもらえない可能性があるため慎重に記載する必要があります。

 

⑧特徴

(例)〇〇の部品・を製造・販売している。〇〇品にも力を入れている。歴史ある企業で長年の実績があり、顧客との信頼関係が強い。在庫管理が行き届いており、迅速な配送体制が強みである。本社事務所社屋はオーナー親族の所有であり、譲渡後は適正価格にて賃借が可能であり、交通の便が良好な場所に位置している。

 

①~⑦までの内容について、もう少し詳細に記載したい場合に補足説明します。たとえば、支店や営業所がある場合など。企業の持つ強み・特長を完結に記載します。具体的には、会社の社風や、歴史、ブランド力、取引先の多さ、多様なネットワーク・立地のよさ、技術力・知的財産権などです。逆指名として「〇〇〇〇のような企業を求める」というような記載をしても良いです。

 

 

 

5、「企業概要書」のアピールポイント

【フルバージョンの場合の企業概要書の一例】

1.はじめに

2.概要

3.会社の沿革・代表者のプロフィール

4.会社付近の地図・全景写真など

5.自社の製品・サービスの案内

6.自社の強み

7.株主名簿

8.従業員/役員の状況/労働組合の状況

9.主な売上先・仕入・外注先の概要

10.地代家賃の概要

11.不動産・固定資産の概要

12.借入金の状況

13.M&A後のシナジー効果

14.3期(または2期)比較財務諸表

15.時価貸借対照表

16.EBITDAの計算

 

 

企業概要書は、譲受企業が初めて手にする譲渡企業の概要です。この資料で、譲り受けの判断をすることになるので、非常に重要です。

 

ポイントとしては、4つあります。

 

①「良い会社、希望を持てる会社である」という印象をもってもらう必要があります。そのため、自社の強みについては分かりやすく記載します。

 

②開示した資料についての「算定根拠についてはなるべく詳細に記載する」ことで、読み手の理解を助けることになります。とくに「イレギュラーな数値や内容についてはコメントを記して説明」しておく必要があります。

 

③現状、業績が芳しくない企業については「その原因を記載し改善策も提示」しておくことで、少しでも希望をもってもらう必要があります。

 

④想定される譲受企業の譲受後の統合作業のイメージがわくように、「M&A後のシナジー効果」なども記載しておくと、譲受企業が参考にしやすいと思います。

 

 

【企業概要書のアピール法】
■自社の強みの説明ポイント

(留意点)

●強みを「営業面・商品面、生産面・技術面、組織面」などに区分して記載する

●商品の特長については、写真や図を付けて、視覚的にアピールする

●他社製品との比較表なども付けると、競争力のある事業だと感じてもらえる

●具体的に記載することが重要(実績・経験・資格・許認可・成果など)

 

 

生産プロセスや、サービス提供プロセスなどを、上図のように簡単に図解し、写真なども添付しながら説明を行い、プロセスのどの部分に強み(付加価値)があるのかを記載します。

 

■従業員・株主・役員構成の記載のポイント

従業員の内容は、譲受企業の多くが関心を持つので、丁寧な記載が必要になります。また、イレギュラーな内容がある場合は脚注を付すなどして、理解をしてもらいやすくします。

 

 

 

 

■主要な取引先の記載ポイント

譲受企業の関心の一つに、取引先企業の業種、規模、件数、構成比などがあります。上位5社から10社程度の取引先を以下のように開示すると、参考にしてもらいやすくなります。

 

 

 

 

 

■固定資産等の記載ポイント

固定資産の場合は、できる限り現況を記載する。固定資産台帳などが実際の現況と異なる記載がある場合は、脚注にその旨を記載するなど、配慮をすると参考になります。

 

 

 

 

 

■損益計算書の記載ポイント

●過去3期分程度の損益計算書の推移を決算書などから作成する。

●イレギュラーな数字がある場合は脚注にて説明を行う。

●増減が大きい数字については原因なども記載をするとわかりやすい。

 

 

 

 

 

 

■貸借対照表(時価貸借対照表)の記載ポイント

●過去3期分程度の貸借対照表の推移を決算書などから作成する。

●イレギュラーな数字がある場合は脚注にて説明を行う。

●以下のように簡易な時価評価を記載することで、実態に合った財政状態を提示できる。

 

 

 

 

 

 

6、成功事例(学習塾の場合)

【事例概要】

(譲渡企業)

●30代男性社長

●1教室のみ独立型学習塾を経営

●数年程前に起業をし、駅前のビルを賃貸し、学習塾を立ち上げる

●誠実な指導方法が評判で順調であったが、アーリーリタイアにより、M&Aを検討

 

(譲受企業)

●10教室以上を経営している中堅学習塾

●コロナウイルス禍で学習塾が休業になり、一時交渉が延び延びになったにもかかわらず、交渉は順調に進み、値引きなしの当初の売買価格にてクロージングが達成

 

【成約のポイント】

①譲渡社長の誠実な人柄が信頼されたこと

②充実したサービスを提供しているにもかからず、講座価格等が低く、収益性は悪かったが、平均以上の顧客を抱えており、潜在能力を評価してもらえたこと

 

【企業概要書でのアピールポイント】

●ノンネームの生徒の情報(学校名・学年・学力など)・ 講師の情報(出身校・経験・得意科目など)を掲載して、商圏や学力レベル、講師の指導レベルなどが一目でわかるように記載した。

●授業料の計算方法やサービスの内容を詳細に記載して、問題点と解決策などを記載した。

●本来、受け取るべきテキスト代や臨時講習料なども適正価格に修正した損益シミュレーションを作成し、業務改善しだいでは高い収益を得ることができることを記載した。

●講師1人に対する生徒数の数比率を世間一般での生徒数に変更することで、なお、高い収益性が確保できることをアピールした。

●当面、現経営者にも講師として参画してもらうことで、既存の生徒に安心感をもらってもらうように、現経営者を含めた収益予測を行い企業概要書に提示した。

 

【結果

当初の提示額の3~4倍の譲渡価額で納得いただき、成約することができた

 

 

7、まとめ

①ノンネームシート

●譲受企業に判断してもらいやすいように、情報を簡潔に記載する。

●企業名が特定できないように、記載方法に注意すること。

●ホームページなどの用語をコピーすると、検索に引っかかる可能性があるので注意する。

●ノンネームとはいえ、信頼できるアドバイザーに渡すこと(承諾なく、ファックスやメールでばら撒く業者も存在するので注意する)。

 

②企業概要書

●必ず、秘密保持契約を交わすか、秘密保持の誓約書を受けとってから開示する。

●企業概要書は自社のプレゼンテーション資料だという認識で記載する。

●提示する相手の重要度・信頼度によって、提出する資料の詳細は加減して提示する。

●強みを強調し、今後も持続的に発展する要因がある旨をアピールする。

●問題点を敢えて提示し、その解決策を示すことで、誠実さをアピールする。

●譲渡後の改善策とともに、改善後の収益予測など数字でアピールする。

●確認に時間がかかる場合は、後で随時改良し、概要書の品質を高めていく。

 

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第8回:経営コンサルタントから「売りたくても売れないタイミングが来るよ」と言われました。本当ですか?

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

▷関連記事:取引先に知られずに会社を譲渡することはできる?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:顧問先企業のオーナーから、後継者がいないので会社を誰かに譲りたいと相談されました。

 

 

Q.経営コンサルタントから「売りたくても売れないタイミングが来るよ」と言われました。本当ですか?

 

半導体関連の製造業を営んでいます。創業来25年、特殊なオーダーにも応えられる高い技術力を軸に、取引先から多くの受注をいただいてきました。利益も出しており、財務状態は健全です。私はまだ体力、気力共に充実していますので、これから10年くらいかけてさらに会社を成長させ、70歳を迎えたら会社を譲渡して引退しようと考えております。

 

ただ、知り合いのコンサルタントにその話をしたところ、「10年も待っていたら経済環境が変わって、売りたくても売れなくなってしまうし、引退もしづらくなる」と指摘されました。今のところ取引も順調ですし、10年後に譲渡してもまったく問題ないと思うのですが、そんなことがあるのでしょうか?

 

(愛知県 製造業 K・T さん)

 

 

 

A.会社の業績やご自身の年齢だけでなく、M&Aの市場動向や日本の人口構造も考慮して引退時期を決めた方が良いでしょう。

 

会社の業績も良く、ご相談者の体力・気力が充実されている中で、引退を急かされるような指摘をいただいても、なかなかピンときませんよね。気持ちはよくわかります。一方で、トップの引退を考えるに当たり、今後の経済環境をまったく考えなくてよいかと問われると、決してそんなことはありません。M&Aでは、良い買い手を見つけて会社運営や従業員の雇用を任せることが大事です。譲渡価額などを含めて良い条件でのM&Aを実現するには、自分の主観や都合だけで引退時期を考えるのではなく、好条件で譲渡できる最適なタイミングを客観的に検討する必要があると思います。

 

経営者の平均引退年齢は68歳前後が多いです。ご相談者も70歳を迎えたらとおっしゃっていますので、同じぐらいの年齢ですね。年齢別人口の分布では70~74歳、65~69歳が多くなっています。多くの経営者はこのボリュームゾーンに集中していると考えられています。

 

 

このような情報から見えてくることは次の2つです。

 

①経営者の多くが引退年齢を迎え、譲渡ニーズが増加し始めている。

②それに伴い、買収ニーズに対して譲渡ニーズが過多となり、社長が譲渡したくとも買い手企業が少ない状況に陥ることが見込まれる。

 

 

 

人口構造の変化を考えると、業種を問わず「売りたくても売れなくなる状況」が予測されますので、それを踏まえて経営の出口を考えなければならないと思います。

 

ご相談者に「売りたくても売れなくなる時がくる」とおっしゃったコンサルタントは半導体関連事業の将来性を気にされていたのかもしれません。以前に私がお手伝いしたM&Aでも、ご相談者と似たケースがありました。金型関連のファブレスメーカーで、優良な取引先を有し、売上は減少しているものの無借金で純資産は2億円、ノウハウを持った従業員達が複数在籍する会社でした。「このまま自社単独で経営していたら、今は良いが、いずれ行き詰まる。ならば企業価値が高いうちに譲渡したい」とのご要望があり、ちょうど第二の収益の柱を求めていた異業種のメーカーとのM&Aが早々に実現しました。「今ならば売れる、今しか売れない」―― その決断力が成功要因だったと社長は話されていました。

 

また、買収側の企業は、譲渡側のオーナーの年齢はもちろん、継続勤務する従業員(特にキーパーソン)の年齢も気にします。M&A後、数年でキーパーソンも定年退職する可能性がある場合、買い手企業は二の足を踏んでしまいます。ご相談者は10年後に譲渡を検討すると仰っていますが、その時の社内のキーパーソンは何歳になっているでしょうか。

 

M&Aニーズの多寡は業種・エリア・事業規模により異なります。「少し前のタイミングだったら、良いお相手がいたのに…」と後悔しないために、最近のM&A市場の動向や具体的な候補先の有無、M&Aの条件などについて、ぜひ専門のM&Aアドバイザーにご相談されてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

[事業再生・企業再生の基本ポイント]

第3回:事業再生の概要を教えてください

~事業再生の概要、法的整理と私的整理のメリットとデメリット、財務面と事業面の検討~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

▷関連記事:法的整理と私的整理の比較

▷関連記事:民事再生と会社更生の比較

▷関連記事:事業再生業務の全体像を教えてください

 

 

【事業再生の概要】

営業不振や過剰な設備投資等により営業活動に支障をきたす程資金繰りに窮してしまった会社・事業を、財務面や事業面で正常な営業活動を行える状態に再生していくことを、事業再生と言います。

 

事業再生には、法的整理と私的整理があります。

 

 

 

【法的整理と私的整理】

法的整理は、その名の通り法的な事業再生となるため、裁判所が関与し法律に則り事業再生をすすめていくことになります。一方で、私的整理は、法律に縛られることなく事業再生を進めていくことになります。

 

法的整理と私的整理の違いについての詳細な説明は本章では割愛しますが、主な特徴として、法的整理を行った場合は倒産企業として外部に周知されるという点があります。この点、私的整理では再生企業と事業再生に参加している債権者等以外に情報が洩れることはないため、事業や取引関係をこれまで通り行えるというメリットがあります。一方で、私的整理では事業再生に参加した債権者の全ての同意が必要となります。この点、法的整理は債権者の多数決や債権金額の多数決により決定されるため、債権者が多い場合や一部反対している債権者がいる場合には私的整理ではなく法的整理で事業再生を進めていくことになります。

 

事業再生をする場合に、まずは私的整理を検討して、様々な要因により私的整理が難しい場合には法的整理となるケースが多いです。件数としては、法的整理と私的整理では圧倒的に私的整理の件数の方が多く、私的整理であれば情報が外部に漏れることはないため、実は取引先が私的整理を行っていたということも決して少なくないでしょう。

 

【財務面と事業面の検討】

事業再生は、財務面と事業面の2面から検討する必要があります。

 

 

 

事業再生はリストラ、業務の効率化、採算管理の徹底などのイメージが先行すると思いますが、これらはどちらかというと事業面の施策となります。事業面での施策を実施するためにも、事業面での施策を実施している間の資金繰りを担保するための金融支援が必須となります。金融支援とは、金融機関への返済を一時的に止めたり、返済を免除してもらう等の方法があります。これらの金融支援の検討・獲得が事業再生を進めていくために必須であり、事業面の施策と両輪で進めていくことが重要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

【Q&A】2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の取得費の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

 

 

【問】

Aさんは、令和3年6月に保有するB社株式(上場株式)4,000株のうち1,000株を、証券市場において1株1,000円で譲渡しました。

 

Aさんは、平成25年に1株600円で1,000株(600,000円)のB社株式を証券市場で購入後、平成30年に亡父より同じB社株式3,000株を相続しています。なおAさんの父は、平成26年にそのB社株式を1株500円(1,500,000円)で、証券市場より購入しています。

 

AさんのB社株式に係る譲渡所得金額の計算上、控除する取得費の額は、平成25年に購入時の対価600,000円でよいのでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


ご質問のB社株式の取得費の額は、下記2(3)の通り、Aさんが亡父から相続により取得した3,000株につき亡父の取得価額を引き継いだうえで、「総平均法に準ずる方法」により計算され、525,000円(1株525円)となります。

 

2.解説


(1)相続により取得した株式の取得価額

個人が相続又は遺贈により取得した譲渡所得の基因となる資産(例えば株式)は、原則、被相続人がその財産を取得した時から引き続きその個人が所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。したがって、Aさんが平成30年に相続により取得したB社株式の取得価額は、亡父の取得時期(平成26年)と取得価額(500円×3,000株=1,500,000円)を引き継ぐことになります。

 

(2)2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の取得費の計算

(1)よりAさんは、B社株式を平成25年に1株600円で1,000株、平成26年に1株500円で3,000株取得し、これらの株式のうち1,000株を令和3年に譲渡したことになります。このようにAさんは、父から相続により取得したB社株式と自ら購入したB社株式が混ざってしまい、どちらの株式を譲渡したのかはっきりしないことから、その株式に係る譲渡所得の取得費(=B社株式の取得価額)の計算方法が問題となります。

 

Aさんのように2回以上にわたって株式を取得した後、その一部を譲渡した場合、その株式に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額は、所得税法施行令118条1項に規定する「総平均法に準ずる方法」により計算します(所得税基本通達33-6の4(注)2)。

 

この場合の「総平均法に準ずる方法」とは、譲渡の都度、直前の譲渡の時からその譲渡の時までの期間を基礎として下記の算式により計算を行う方法をいいます。

 

(算式)

(①譲渡の年1月1日に所有していたその株式の取得価額+②譲渡の年の譲渡日までに取得したその株式の取得価額)÷(①の株式数+②の株式数)=その譲渡株式の譲渡時の1株当たりの取得価額

(3)Aさんに係るB社株式の取得費の額の計算

(600円×1,000株+500円×3,000株)÷4,000株=525円  525円×1,000株=525,000円

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/28)より転載

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第5回:相手先の発掘や、手続きなどの支援を受けるため相談先

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業のM&A支援・事業計画支援を専門で行っている株式会社N総合会計コンサルティングの平野栄二氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

株式会社N総合会計コンサルティング

平野栄二

 

 

 

「私(K氏)は現在75歳です。従業員5人の製造業を経営しています。業績は現在芳しくなく、売上も減少傾向です。後継者候補は現在存在していません。そこで、ここ数年、検討することを躊躇していましたが、そろそろ後継者を選んで、経営の引き継ぎをしたいと考えいてます。第三者に承継(M&A)を行う場合、相手先の発掘や、手続きなどの支援を受けるためには、誰に相談すればよろしいでしょうか。」

 

 


 

平野:M&Aは、専門的な知識や経験が必要となる場合が多く、M&Aの専門家に相談を行うことが望ましいと考えます。どのような相談機関があるのかを、ご説明いたします。

 

 

 

1.誰に相談するか?


M&Aのアドバイスをする専門家・事業者は以下の通りに分類できます。それぞれの特徴を記載していますので、参考にしてください。(※参考:中小 M&A ガイドライン(中小企業庁)より)

 

①MA専門業者

専門業者は、譲り渡し側・譲り受け側に対するマッチング支援や、中小M&Aの手続進行に関する総合的な支援を専門に行う民間業者 M&Aを専門的に取り扱う独立系のM&Aブティックや監査法人、弁護士、会計事務所や経営コンサルティング会社を母体する事業者、不動産、リース会社などを母体とする事業者などがある。

 

[仲介者]

譲り渡し側・譲り受け側の双方と契約を締結する。譲り渡し側・譲り受け側の双方の事業内容が分かるため、両当事者の意思疎通が容易となり、中小M&Aの実行に向けて円滑な手続が期待できる。

●譲り渡し側が譲渡額の最大化だけを重視するのではなく、譲り受け側とのコミュニケーションを重視して円滑に手続を進めることを意図する場合などに適している。

●譲り渡し側の事業規模が小さく、支援機関に対して単独で手数料を支払うだけの余力が少ないが、できるだけ支援機関のフルサービスを受けたい場合に適している。

 

[FA(フィナンシャル・アドバイザー)]

譲り渡し側、譲り受け側の一方と契約を締結する。契約者の意向を踏まえ、契約者に対し踏み込んだ助言、指導等を行うことが多い。一方当事者のみと契約を締結しており、契約者の利益に忠実な助言・指導等を期待しやすい。

●譲り渡し側が譲渡額の最大化を特に重視し、厳格な入札方式(最も有利な条件を示した入札者を譲り受け側とする方式)による譲り渡しを希望する場合に適している。

 

[ブローカー]

自らの人脈やネットワークを活用し、マッチングを行い、譲り渡し側と譲り受け側の間、または、譲り渡し、譲り受け側と契約しているFAや仲介者の間に立ち、取引を成立させる事業者をいう。通常、事業者自らブローカーと名乗る事業者は少ない。FAや仲介者のように、直接、譲り渡し側、譲り受け側に対してM&Aの手続きに関する専門的なアドバイスなどの支援は行わないケースが多い。

 

②M&Aプラットフォーマー

M&Aプラットフォーマーとは、M&Aプラットフォームを運営する支援機関をいう。M&Aプラットフォームとは、インターネット上のシステムを活用し、オンラインで譲り渡し側・譲り受け側のマッチングの場を提供するウェブサイトをいう。譲り渡し側・譲り受け側がインターネット上のシステムに登録することで、主にマッチングをはじめとする中小 M&A の手続を低コストで行うことができる。

 

③士業専門家

士業等専門家とは、公認会計士、税理士、中小企業診断士 、弁護士等の資格を有する専門家をいう 。それぞれの専門家としての本来業務から得られた知見を活かす。これら士業等専門家の中には本来業務のほか 、マッチング支援等を行う者もいる。

 

④金融機関

金融機関は、貸付先(与信先)である 顧客の詳細な財務情報等を保有しており、 顧客にとって経営相談等も行う身近な支援機関であり、特に地方においては非常に重要なネットワークを有する存在である。顧客のマッチング候補先を外部に求めるだけでなく、自らの顧客基盤の中からマッチング候補先を抽出できる。

 

士業専門家とM&A事業者の比較

 

 

2.専門家を選択するポイント


●どの分類に属する専門家であったとしても、自らの利益が優先で、適切な支援を行わない悪徳事業者は、残念ながら存在します。

●著名な企業であっても、担当者によって経験不足や、相性が合わない場合もあります。その為、専門家に依頼をする場合は、単に料金や、知名度だけではなく、しっかりと、話し合いを行ったうえで、相性が合って、信頼できる事業者かどうかを、見極めたうえで、選定を行う必要があると思います。

●一度、専門家のオフィスに訪問し、社内の雰囲気や、上司や社長とも面会をして、M&Aに対する考え方などを確かめてみることも重要だと思います。

●基本合意を締結するまでは、一つの事業者と専任契約を締結せず、複数の事業者と提携を行う場合もあります。しかし、あまり過度に複数の事業者と提携しすぎると、専門業者から「出回り案件」として認識されたり、警戒されて、親身なアドバイスを得られない可能性もあります。

●専門家に依頼しない場合も増加していますが、M&Aの場合は、経営、税務、法務、財務、労務など専門的な知識や、交渉・提案のスキルが必要ですので、問題なく成約を進めるため、専門家に依頼することをお薦めします。

 

(良くない専門家の見分け方)

●いかにも自身が公的機関であるかのように振る舞い、DMや電話を行い、近づこうとうする

●候補先があるように見せかけるが、直接、その候補先とのつながりがない

●M&Aの意思を確認していない企業を、いかにも候補先であるように見せかける

●他の案件や、他のアドバイザーの案件を、べらべら話す。(守秘義務を守らない)

●手順を踏まずに成約を急がせる、良く説明もせずに契約書の署名捺印を急がせる

●話が大きい、プラス面しか語らない(自分なら、実際の価格よりも高い価格で譲渡できると煽る)

●言葉の使い方が粗い、やたらと専門用語を使う

 

 

 

3.公的支援機関でも相談を受けられる


[事業引継ぎ支援センター]

経済産業省の委託を受けた機関(都道府県商工会議所、県の財団等)が実施する事業である。具体的には、中小M&Aのマッチング及びマッチング後の支援、従業員承継等に係る支援に加え、事業承継に関連した幅広い相談対応を行っている。センターは、全国48か所(全都道府県に各1か所、ただし東京都は2か所)に設置されている。「事業引継ぎ支援センター」に登録された民間M&A仲介業者、金融機関等を紹介。紹介を受けた登録支援機関が、譲渡企業にマッチした譲受企業を紹介し、マッチング及び譲渡契約成約までを実施する。

 

※第三者による事業引継ぎを支援してきた「事業引継ぎ支援センター」は、おもに親族内承継を支援してきた「事業承継ネットワーク」の機能を統合し、令和3年4月より新たに『事業承継・引継ぎ支援センター』として発足した。

 

[商工団体]

商工会議所、商工会、中小企業団体中央会 、商店街振興組合連合会等といった商工団体 は、地域に根差し、地域における商工業の振興 に向けた取組を行う組織であり、地域の中小企業 における最も身近な相談窓口であり、かつ、中小企業に向けられた公的な支援制度の詳細を最も熟知した支援機関 の1つ である。

 

 

 

4.小規模な事業者が、M&A専門家に依頼するポイント


①引継ぎの方向性をしっかり示す事業者を探す

M&Aは、不動産や物品の売買ではなく、経営理念や、組織文化、技術やノウハウ、従業員や取引先の引き継ぎなど、いわば、会社という「生きもの」を承継します。そのため、単にモノの売買のように、お金だけで、相手先を選んでしまうと、引継ぎが失敗してしまう場合があります。事業の引継ぎの方向性をしっかり示し、自社の存続・成長・発展の提案ができる事業者を選定することが望ましいです。

 

負担できる料金で、支援を受けられる事業者を探す

小規模事業者や業績が厳しい企業など、株式評価額が低い企業は、M&A事業者の最低報酬額が500万円を超えるような場合、報酬額の負担が重く、依頼が困難なケースが多いです。その場合、比較的小規模な企業を専門に行っているM&A事業者を選定することが望ましいです。

 

じっくりと意思決定ができる事業者を探す

事業者の状況では、早急にM&Aを実行しなければないケースもあるが、事業者によっては、自社の利益を優先し、成約を急かす事業者も見受けられます。事業の引き継ぎが円滑に進めていける候補先を選定しないと、後でトラブルになる場合もあるので、納得ができる助言をもらえる事業者を選定することです。

 

 

 

5.成功事例 ~小規模事業者が専門家に依頼する場合~


学習塾の場合 個人事業 年商1千万円 従業員10名(ほとんどがアルバイト社員)

 

ある地方都市の駅前のビルの一室を借りて、単独で学習塾を経営していた経営者が、自ら講師として現場に入りながら、日々の資金繰りや人材の確保などの業務で多忙を極め、体調が悪化されました。そこで、いったん経営から離れ、療養するために、M&Aを行うことを決意されました。まずは、M&Aのプラットフォーマーに登録し、その後、そのプラットフォーマーからの紹介で、専門家に依頼をされました。

 

一般的なM&Aの事業者の報酬体系では、負担できない財務状況でしたので、支援する内容を絞り込み、かつ、月々報酬を支払うことで、費用負担の軽減を行いました。そして、依頼後6か月で、相手先の発掘ができなければ、解約するような契約を結び支援を受けることになりました。専門家は、譲り受け先の探索では、プラットフォームからの情報以外にも、近隣地域数十社にDMを発送したり、直接電話でアポをとって訪問するなどの探索活動を行いました。苦労の結果、晴れて地元の学習塾の譲受先が見つかり、交渉の末、無事成約を行うことができました。

 

(成功のポイント) 

1)依頼者の負担能力にあった報酬体系で支援を受けることができたこと。

→柔軟な料金体系で支援してもらえる、小規模事業者を専門とする支援者を探すこと。

 

2)依頼者の経営者が誠実な人柄で、支援者との協力関係が構築できたこと。

→支援する側(専門家)にとっては、依頼者が必要な資料の提供などの協力を得られない場合は、報酬が低価格なので支援ができない。また、M&Aを行う上でのリスクも、依頼者が負うことを了承してもらう必要がある。しかし、本事例では、相互の信頼関係のもと、依頼者と支援者が二人三脚で、進めていくことができた。

 

3)お金よりも、あくまでも経営の承継を行うという目的を最優先したこと。

→譲渡価額については、希望価格が高いと、交渉が進まないので、高くを望まなかったことも、早期のⅯ&Aが実現できた要因であった。

 

[解説ニュース]

iDeCo(個人型確定拠出年金) ~節税効果を解説~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

■令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

1. はじめに


iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、個人で任意に加入できる私的年金制度です。コロナ禍でも堅調にその加入者数を増やしており、加入者数は過去5年間で約7.5倍に増加しています。老後生活資金の不安を懸念する声が聞かれる昨今ですが、iDeCoをうまく活用すれば、税制優遇措置の恩恵を受けつつ老後の生活資金を効率よく蓄えられる可能性があります。

 

本稿では、iDeCo最大のメリットとも言われる税制優遇措置を中心に、具体例を用いて解説します。

 

 

 

2.制度概要


(1)掛金の拠出・商品の運用

加入者※1が、運営管理機関※2や運用商品※3を選び、掛金※4を拠出します。運用益(利息や分配金等)は再投資に充てられ、資産は原則として60歳になるまで引き出すことができません。

 

※1 企業型確定拠出年金の加入者等は加入できない場合がある。ただし、2022年10月からはほぼ誰でも利用できるように制度改正が予定されている。
※2 iDeCoを取り扱う証券会社や銀行等の金融機関のこと。本稿執筆日現在、約160社あり、その中から1社だけ選ぶ。運営管理機関によってサービスや手数料が異なる。
※3 各社、3~35銘柄程度の厳選された商品(「元本確保型」の商品(定期預金・保険)と「元本変動型」の商品(投資信託))がある。運用商品によって信託報酬が異なる。
※4 拠出額には上限がある。例えば、自営業者は月額6.8万円、企業年金のない会社に勤務する会社員や専業主婦(夫)は月額2.3万円、公務員は月額1.2万円が上限。

 

(2)老齢給付金の受給

原則として60歳以降に、その運用結果に基づいた老齢給付金を一時金又は年金(分割)で受け取ります。

 

 

 

3.個人の税務上の取扱い(所得税・住民税)


(1)掛金の拠出時

加入者が拠出する掛金は、所得税・住民税の計算上、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。すなわち、拠出期間にわたり、毎年「その年の拠出額×税率※」相当額の節税効果があります。

 

※所得税は課税所得金額に応じて5~45%、住民税は10%。

 

(2)商品の運用時

金融商品の運用益は、通常は所得税及び住民税の課税対象(多くは源泉分離課税20%※)ですが、iDeCoの運用商品から生じた運用益は、非課税となります。すなわち、運用期間にわたり、毎年「その年の運用益×20%」相当額の節税効果があります。

 

※ 2037年までは復興特別所得税も課税されるため20.315%。

 

(3)老齢給付金の受給時

①一時金で受給する場合
次の算式により計算した金額が、退職所得として、他の所得とは分離して課税されます。

 

退職所得の金額 =(勤務先からの退職一時金等の額 + iDeCoの一時金の額- 退職所得控除額)× 1/2

 

②年金で受給する場合
次の算式により計算した金額が、雑所得として、課税されます。 

雑所得の金額 = 公的年金等の年金額 + iDeCoの年金額 - 公的年金等控除額

 

 

 

4. 具体例


(1)前提

30歳の会社員が30年間、毎月2万円の掛金をiDeCoに拠出し、年利3%で運用できたとします。

 

(2)運用結果・節税効果(1万円未満切捨てにて表示)

上記(1)の前提に基づく、60歳の時点での運用資産総額は約1,168万円(元本約720万円+運用益約448万円)、節税効果は次のとおりです。

 

※課税所得金額に応じた所得税の適用税率は20%とし、復興特別所得税及び老齢給付金の受給時は考慮外とします。

 

(3) iDeCoの活用有無による財産額の差

毎月2万円を30年間運用する場合、iDeCoの活用の有無により、財産額に次のような差が生じます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/14)より転載

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第7回:M&Aにおける売却価格は

~企業価値や売却価格の算定のポイントは? 会社を高く売却するためには?~

 

[解説]

上原久和(公認会計士)

 

 

 

 


[質問(Q)]

M&Aで会社売却を意思決定するにあたり、企業価値や売却価格の算定ポイントが知りたいです。また、実際に会社を高く売却するためにはどのようにすればよいのでしょうか。

 

 

[回答(A)]

M&Aの企業価値並びに売買価格は譲渡側と譲受側の交渉によって決定されます。ただし、交渉にあたっての売却価格には一般的にはいくつかの算定方式があり、その間の範囲で決まることが一般的です。特に中小企業で用いられものとして以下の算定方法があります。

 

① 資産・負債を基礎に算定(時価純資産法、年買法)
② 収益を基礎に算定(収益還元法)
③ キャッシュフローを基礎に算定(DCF法)
等が一般的です。

 

実際に高い価格で売却するためには、これらの算定で株価が高くなるように財務内容を改善し、かつ収益性の向上に努める必要があります。

 

 

1.資産・負債を基礎に算定(時価純資産法、年買法)


対象会社の資産・負債を時価で評価し直した後の純資産額を株主価値として評価する方法です(時価純資産法)。このためバブル期などに取得した土地やゴルフ会員権などは簿価上の金額より低下するケースが多いことに留意する必要があります。また、売掛金や在庫の金額も同様に時価にすると、回収見込みのない売掛金や販売見込みのない在庫などが評価減されることにより評価額が低下する可能性があります。

 

なお、中小企業のM&A時の評価としては、単純に時価純資産額をベースとすることもあれば、これに「のれん」として営業利益又は経常利益の数年分を加算して評価額とする算定方法も使われています(年買法)。この時に用いられる営業利益や経常利益については、過大な役員報酬や役員保険などを調整した正常収益力に調整して利益を加算することに留意が必要です。他の算定方法と比較すると算定が容易で、わかりやすいという特徴があります。

 

 

 

2.収益を基礎に算定(収益還元法)


将来の獲得が見込まれる収益(税引後利益)を資本還元率で割り戻して株価を算定する方法で、DCF法の簡易版的な計算方法です。ここで用いられる資本還元率は、一般には資本コストと呼ばれるもので、個々の会社の事業の個別リスク(危険率)などを加味して算定されます。

 

留意点とすれば、将来見込まれる収益算定がDCF法より精度が落ちるという点と、見積もり的な要素が強く恣意性が入りやすいという弱点があります。

 

 

3.キャッシュフローを基礎に算定(DCF法)


キャッシュフローを基礎に株価を算定する代表として、DCF(Discounted Cash Flow)法があります。DCF法とは、対象会社が将来獲得すると予想されるフリーキャッシュフロー(FCF)を株主資本コストと負債コストの加重平均である加重平均コスト(WACC)で現在価値に割り引いて「事業価値」を算定する方法です。

 

なお、「事業価値」から「株主価値(株価)」を算定するためには、事業価値に非事業資産を加算し、負債を控除しなければなりません。このDCF法についても将来利益(将来事業計画)をベースに将来キャッシュフローを算定するため、見積もり的な要素が強いという弱点があります。

 

なお、フリーキャッシュフローと収益の大きな相違点としては、減価償却費がキャッシュフローには含まれていますが収益には含まれていません。また、年度の設備投資などがフリーキャッシュフローでは控除されている点が相違しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

コロナ融資の返済が難しい場合の対応

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:コロナ禍における飲食店の事業再生の現状

▷関連記事:新型コロナ特例リスケジュールの実務について

▷関連記事:法的整理と私的整理の比較

 

 

 

 

2020年の4月頃から新型コロナウイルス感染症特別貸付等(以下、コロナ関連融資)を多くの企業が借り入れました。返済期間や返済猶予期間は企業によって様々ですが、借入後1年から3年の返済猶予となっているケースが多く、早い会社では2021年の4月頃より返済が始まっています。

 

コロナ関連融資は国の制度として多額の予算をもって行われたため、通常の融資よりも借りやすく、通常の融資であれば断られる企業であっても借りることができました。通常銀行は、借入をする企業の返済能力を総合的に判断して貸し付けますが、通常の融資の場合はこれ以上の借入は難しいと判断されるような企業にもコロナ融資であれば貸し付けています。

 

企業側から見ると、返済能力以上の借入をしたということになります。既往の借入金に加え、コロナ関連融資を加えた返済を行う必要があります。

 

コロナ融資を借りた時は、緊急事態宣言等もあり、借りなければ立ち行かなくなるような状況の企業が多かったと思います。そして、1年後の返済開始のタイミングとなって、業績がコロナ前と同等かそれ以上となっている企業はありますが、まだまだ多くないのが現状です。コロナ前では既存の借入金の返済で精いっぱいだった企業にとっては、業績がコロナ前よりもよくなっていないとコロナ融資の返済まで資金が回りません。

 

つまり、下記の企業はコロナ融資の返済ができないのです。

 

①コロナ前から業績が芳しくなく、コロナ融資を借りたが、業績はコロナ前と比べて改善していない。

②コロナで業績が厳しくなり、コロナ融資を借りたが、コロナが収束せず業績はコロナ前にまで戻っておらず、既往の借入の返済で手一杯。

 

 

返済ができない場合に、取ってほしくない行動は、社保や税金の延滞、仕入先への支払いの延滞、給料の未払等です。これらを行うと、このQ&Aでは詳細は割愛しますが、最悪の場合、会社の存続が難しくなる可能性があるためです。

 

返済ができなくなった場合は、身近なコンサル、金融機関、再生支援協議会等に相談しましょう。返済の猶予(リスケ)や、返済の免除、新たな借入などを行える場合があります。従来では、リスケを実施することも大変な労力が必要でしたが、コロナ禍の現状ではまだ特例リスケという制度が存在しており、特例リスケであれば通常のリスケと比較して、少ない労力、費用で返済の猶予が可能となるため、検討することをお勧めいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業を引き継いだ場合の償却方法の引継ぎ方について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人事業で代替わりする場合の従業員に対する退職金の取扱い

■【Q&A】父から相続した建物を父の事業に従事していた者に低額譲渡した事例に対するみなし贈与課税の適用について

 

 

 


[質問]

個人事業主の父が廃業して、令和 2 年に息子が事業を引き継ぎました。

 

父が事業で使用していた建物等の減価償却資産を息子が買い取り使用しているのですが、この場合の取得年月日は息子の購入日(事業の用に供した日)、父からの耐用年数を引き継ぐ、償却方法は旧定額法ではなく息子が取得した時点での償却方法である定額法で計上しようと思います。

 

この考えで問題ないでしょうか。

 

 

[回答]

平成19年4月1日以後に取得した建物の減価償却の方法は、定額法とされ(所得税法施行令第120条の2第1項第1号)、この「取得」には、相続、遺贈又は贈与によるものも含まれます(所得税基本通達49-1)。

 

そして、相続により取得した減価償却資産については、減価償却資産の耐用年数等に関する省令第3条第1項《中古資産の耐用年数等》の中古資産に係る見積もりによる使用可能期間に基づく年数により減価償却費を計算することはできず、被相続人から取得価額、耐用年数、経過年数及び未償却残高を引き継いで減価償却費を計算することになります。

 

ご質問の場合は、相続による取得ではなく購入とのことですので、取得年月日はご子息の購入日(事業の用に供した日)となり、償却方法は旧定額法ではなくご子息が取得した時点での償却方法である定額法となりますが、耐用年数については、法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によることができるものと考えます。

 

詳細につきましては、中古資産を取得した場合の耐用年数をご確認いただければと思います。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2021年4月2日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

不動産所得の計算で争いになった最近の事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.国外不動産の減価償却費


不動産は土地建物まとめていくらという形で契約して売買することがあります。この場合、土地・建物の価額を合理的に按分してそれぞれの取得価額を求めることになります。たとえば、消費税から建物の価額を逆算する方法、土地と建物の固定資産税評価額の価額比で按分する方法が代表的です。

 

もっとも建物の取得価額が多くなるように操作することで、買主側では減価償却費を多く計上することを考える人もいます。この問題は納税者と国税当局の間でしばしば、争いの種になってきたところです。

 

国内の納税者が、アメリカの賃貸用コンドミニアムを土地建物を一括で買って、建物の取得費を購入にかかった金額の80%として減価償却をしたところ、税務当局から否認された事例があります(国税不服審判所、令和2年6月4日裁決)。

 

この納税者は、投資するにあたり、斡旋業者が紹介したパンフレットなどに米州の相場では土地は金額の20%程度、建物は80%程度となるのが一般的と記載されていたことから、これを基に減価償却費の計算の基になる建物の金額を按分したのです。

 

しかし、国税当局はアメリカでの不動産税(固定資産税)の査定価額を基に按分するのが合理的として、納税者の建物価額が高すぎる結果、減価償却費も過大だとして否認しました。国税不服審判所はこの処分を支持しています。

 

 

2.固定資産税の還付金


固定資産税・都市計画税(以下、固定資産税等という)の土地等の評価額に誤りが見つかると、還付金をもらうことがあります。この場合、還付金をどのように扱うか問題になります(国税不服審判所、平成30年2月13日)。

 

土地の貸付けで不動産所得を得ていたAさんは、平成8年度から平成27年度分までの固定資産税等について、同年9月、評価誤りを見付け地方税務当局に評価誤りを訂正迫り、過誤納金還付を請求しました。

 

地方税務当局は、評価誤りを訂正し、平成23年度から26年度分の納め過ぎとなっていた固定資産税等と還付加算金併せて約90万円を還付する通知をするとともに、平成8年度から平成22年度の納め過ぎの固定資産税等については、地方税法上還付不能となった場合に対応する「要綱」等に基づき、約420万円を補填金として支払う通知をしました。

 

これを受けてAさんは、平成27年分の所得税の当初申告では還付金・補填金を不動産所得の総収入金額に算入していましたが、平成8年度から平成22年度の補填金は非課税、平成23年度分以後の還付金は平成23年から平成26年のそれぞれの年分の不動産所得の金額の計算上必要経費の金額を減算すべきとして更正の請求をしました。しかし、国税当局はこれを認めなかったことから争いになったものです。

 

Aさんは補填金について「損害賠償金に類するもので、必要経費を補填するための金額ではない」、「平成23年度から平成26年度分の固定資産税等は還付通知を受けたことにより遡って過誤納となった。還付金は本来必要経費に算入できない金額であるのに算入していたから各年分の必要経費を減算すべき」と主張しました。

 

国税不服審判所は、補填金について所得税法9条の非課税規定を受けた所得税法施行令30条に規定する「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金」に類するものに該当すると認定。また、国税不服審判所は施行令30条の括弧書き「これらのものの額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分」の趣旨について、損害賠償金等の額のうち「必要経費に算入される金額を補填するための金額」を控除するのは非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を防ぐためと指摘。

 

そのうえで「平成8年分ないし平成22年分の不動産所得の計算上必要経費に算入した固定資産税等は、必要経費として別建てで計算されており、補填金はそのうち還付不能となった固定資産税等の相当額を補填するものだから非課税から除外される「必要経費に算入される金額を補填するための金額」に該当すると判断しました。

 

平成23年分以後の還付金については、国税不服審判所は「還付金の支払請求権は平成27年の過誤納金還付・充当通知書により確定したものとみるのが相当」として、この金額は平成27年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきもの」と判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/01)より転載

[中小企業経営者の悩みを解決!「M&A・事業承継 相談所」]

~M&Aで会社や事業を売却しようとご検討の中小企業経営者におすすめ~

 

第7回:会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

 

 

〈解説〉

株式会社ストライク

 


M&A(合併・買収)仲介大手のストライク(東証一部上場)が、中小企業の経営者の方々の事業承継やM&Aの疑問や不安にお答えします。

 

 

▷関連記事:取引先に知られずに会社を譲渡することはできる?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:顧問先企業のオーナーから、後継者がいないので会社を誰かに譲りたいと相談されました。

 

 

Q.会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

 

48歳の経営者です。25年前に創業し、現在では同業のなかでは中堅クラスの規模になりました。ただ自分の年齢や能力、資本力を考慮すれば、これ以上の事業拡大は難しいと思っております。このため、大会社の資本傘下での成長を考え始めました。

 

心配なのが譲渡後の自分の処遇です。体調に問題なく、これまでの業務経験や人脈もありますので、譲渡した後も会社に貢献した方が、会社にプラスではないかと考えております。ただ、周囲の一部の方からは、引退したら会社には関わらないものだ、と言われました。経営者は譲渡後、会社には残れないのでしょうか。

 

 

 

A.会社に残るか否かは前オーナー経営者の意思が尊重されるのが一般的です。

 

前オーナー経営者は、一般的には他社に会社を譲渡した後でも一定期間は引継ぎ期間として会社に残ります。前オーナー経営者がM&A後にすぐに引退してしまうと会社が円滑に運営できなくなるリスクがあるためです。譲渡された企業の関係者が不安になれば企業間の融和をスムーズにできなくなります。「自分達の処遇や新しい会社の方針はどうなのか」「これまで通り仕事ができなくなるのではないか」。譲渡側の従業員や取引先企業はM&Aの後に不安を感じることがあります。その状況を放置すると従業員が相次いで退職したり、取引先から重要な契約が打ち切られたりするリスクがあります。前の経営者が一定期間在籍することで、従業員も安心して仕事を続けやすくなります。

 

引継ぎ期間が終了した後に前のオーナー経営者が会社に残るか残らないかは、前オーナー経営者自身の意思が最大限尊重されるのが一般的です。自身が高齢で後継者もいないため、引退して第二の人生を歩みたいというオーナー経営者は、引継ぎ期間終了時の引退を望むケースが多いです。

 

一方で、比較的年齢が若く、元気に働ける前オーナー経営者は、肩書や報酬等は別途相談にはなりますが、長期間会社で働くことも可能です。例えば、50歳手前の経営者から、独力での経営に限界を感じ、「M&Aで大企業の傘下に入りたいが60歳までは会社で働きたい」という相談を受けたことがあります。その際は、要望に応じた条件で引き受けてくれる相手を探して実現しました。

 

M&A後にどのような形で会社に関与したいかを私たちに相談していただければ、経営者のご意思を最大限尊重する形でお相手を探しますので、ぜひご連絡いただければと思います。

 

 

 

 

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

コロナ禍における飲食店の事業再生の現状

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

 

▷関連記事:コロナ禍における飲食店の売上高や今後の考察。

▷関連記事:法的整理と私的整理の比較

▷関連記事:外食産業に関する実態調査(2021年1月公開分)

コロナ禍において、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の中での休業や時間短縮営業等、飲食店の経営環境は厳しい状況となっています。

 

営業時間短縮に係る感染拡大防止協力金等の支援が制度としてはあるものの、これらがスピーディに支払われるわけではありません。例えば、1月の協力金について、5月のこの本稿作成時点において、まだ支払われていない事業者があることも事実です。小規模店舗の多くの事業者は、1日6万円の協力金を受け取ることで「利益」では黒字となります。しかし、「利益」では黒字であっても、協力金が入金されるまでに家賃の支払いや経費の支払いなどが発生しているため、「資金繰り」の観点からは、入金がなく、支払いが先行することで資金残高はどんどん減少していく状況です。このような状況から、窮境に陥る飲食店は多く、既に閉店してしまった飲食店も少なくありません。

 

このような状況の飲食店が事業再生を行う場合は、施策を講じて赤字額を減少させ、コロナが落ち着くまで耐えるという方法を取らざるを得ないのが現状です。上で述べたように、時短要請等の最中は資金繰りが苦しくなるため、一定程度の資金を調達して資金残高が減少しないようにすることが非常に重要となります。筆者が関与した飲食店の場合も、資金繰りが苦しかったため億単位の資金を調達し、資金繰りを安定させたうえで施策を講じるということとなりました。ただし、この厳しい状況で新たな融資を受けることはハードルが高いことも事実です。金融機関には、誠実な態度で現状の共有と、今後の事業計画について丁寧に根気強く説明する必要があるでしょう。

 

現状の把握として、店舗別に損益を把握し、赤字店舗については撤退も含めてより詳細に分析を行う必要があります。しかし、赤字であるからと言っても、内装や設備について長期のリース契約を締結している場合があり、これらの多くは解約時に多額の違約金が必要となることから、違約金も含めたうえで検討する必要があります。

 

赤字額を減らすためには、売上を増加させるために、すでに多くの店舗で行われていますが、テイクアウトや宅配、ゴーストレストラン等を検討し、売上を確保しつつ、経費の削減によりコロナが落ち着くまで持ちこたえるということが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

貸家建築のため既存建物を取壊した場合の取壊し損失等に係る所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

 

 

個人が貸家の新築のため、既存の建物を取壊す場合があります。この場合、建物の取壊しにより生じた損失等に係る所得税の取扱いは、その建物が貸家かその個人の自宅であるかにより、以下のようになります。

 

1.貸家を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


(1)貸家について生じた損失の必要経費算入

貸家の取壊しや除却等により生じた損失(以下「資産損失」といいます。)の金額については、その損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。この場合において、貸家の取壊し時における不動産の貸付けが事業的規模であるのか、事業と称するに至らない規模(以下「業務的規模」といいます。)であるかどうかにより、必要経費に算入できる金額が次の通り異なります。

 

①その貸付けが事業的規模の場合
その資産損失及び取壊しに要した費用の全額が必要経費に算入されます(所得税法(所法)51条1項)。不動産所得の金額の計算上、控除しきれなかった損失の額は、給与所得など他の所得の金額との損益通算ができ、青色申告の場合には純損失の繰越控除の適用を受けることができます(同69条、70条)。

 

②その貸付けが業務的規模の場合
その資産損失の額のうち、その取壊し年分の不動産所得の金額(その資産損失を控除する前の金額)を限度として、必要経費に算入されます(所法51条4項)。ただし取壊しに要した費用は資産損失ではないので、その貸付けの規模にかかわらず、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として全額が必要経費に算入できます(同37条)。

 

(2)損失の金額の計算の基礎とされる資産の価額

不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される貸家の資産損失の額は、その貸家の未償却残高を基に計算されます。この場合の未償却残高とは、貸家の取壊し等の日にその貸家の譲渡があったものとみなした場合における、貸家の取得費とされる金額とされます(所法38条1項、2項1号、所法施行令(所令)142条1号)。

 

また、貸家など減価償却資産を年の中途で譲渡した場合、その年分の償却費の取扱いは納税者が譲渡所得の金額の計算上取得費に含めるか、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入するかのいずれかを選択できます(所得税基本通達(所基通)49−54)。この取扱いは、資産損失の金額の計算においても同様に適用されます。

 

したがって、不動産所得の金額の計算上、貸家に係る資産損失の計算の基礎とされる未償却残高は、納税者の選択により、次の①又は②の取扱いとなります。

 

①その貸家に係る償却費を不動産所得の必要経費に算入した場合は、その貸家の取壊し日時点における未償却残高となります。
②①以外の場合は、その貸家の取壊し年の前年12月31日時点における未償却残高となります。

 

(3)「事業的規模」に該当するかどうかの判定基準

前述(2)において、不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断されます。

 

ただし建物の貸付けについて、次のいずれかの基準に当てはまる場合は、原則、事業として行われているものとして取扱われます(所基通26−9)。

 

①貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

 

 

2.自宅を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


自宅として使用していた建物の取壊しは、家事上の資産を任意に処分したものと考えられます。このため、その取壊しが貸家に係る事業又は業務を開始するためであっても、その取壊しによる損失の額及び取壊しに要した費用の額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入できません。

 

また、自宅の取壊しによる損失及び取壊しに要した費用の額は、貸家の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額や、貸家を業務の用に供するために直接要した費用の額に該当しないため、貸家の減価償却計算の基礎とされる取得価額に算入することはできません(所令126条1項2号)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/05/17)より転載

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第7回:財務デューデリジェンス ~貸借対照表分析とは?~

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.貸借対照表分析とは

①財務デューデリジェンス

②貸借対照表分析

2.具体例:現預金

①気になる点はどこ?

②実施手続

3.具体例:売上債権

① 売上債権の気になる点は?

②実施手続

4.具体例:棚卸資産

①棚卸資産の気になる点は?

②実施手続

 

 

第6回目ではM&Aの場面でどのようなデューデリジェンスが行われるのかを見ていきました。第7回目となる今回は「財務デューデリジェンス」に焦点をあてます。財務諸表といえば「貸借対照表」と「損益計算書」が中心ですが、今回はその中でも「貸借対照表」に照準を絞って見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンスにおいて事業計画をどのように分析するのか?

▷関連記事:財務デューデリジェンス ~損益計算書分析はなぜ必要か?(正常収益力、EBITDA、事例で確認してみよう)~

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】~正常収益力の分析、事業別・店舗別・製品別・得意先別等損益の分析、製造原価の分析~

 

 

1. 貸借対照表分析とは


① 財務デューデリジェンス

財務といえば「貸借対照表」と「損益計算書」の2つを思い浮かべる方が多いですね。会社の財産を示す貸借対照表と、会社のもうけを示す損益計算書は非常に重要な財務に関する書類です。

 

読者の皆様が概要だけ知っている会社をM&Aで購入するとします。財務面で最も気になるのは相手会社の「貸借対照表」「損益計算書」に問題があるかどうかではないでしょうか。財務デューデリジェンスは、主に「貸借対照表」と「損益計算書」を分析し、問題がないかを確認していくこととなります。

 

② 貸借対照表分析

貸借対照表分析に当たっては、バリュエーションを見据えた「ネットデット分析」と企業の財務諸表に問題がないかを確認する「純資産分析」が行われることが多いです。

 

バリュエーションで株主価値を算出する際、事業価値から控除するネットデットの内容を確認することがネットデット分析です。

 

一方、純資産分析は企業の実態純資産がどの程度あるかを把握する分析です。

 

ネットデット分析はやや専門的で、入門には難しい内容となりますので、本稿では直感的に分かりやすい純資産分析を取り上げます。

 

「貸借対照表」の中でも、皆様に馴染みのある「現金預金」「売上債権」「棚卸資産」といった資産科目に焦点をあてて、具体例を交えつつご説明します。

 

財務デューデリジェンスは多くの専門的要素が絡む複雑な調査ですが、本記事ではどのようなことをやっているのかイメージがつきやすいよう噛み砕いてご説明しますので、少しでも財務デューデリジェンスについて具体的なイメージになっていただけると幸いです。

 

2. 具体例:現預金


①気になる点はどこ?

帳簿上の現金預金期末残高が10,000千円あるとします。読者の皆様が買い手の立場であるとして、どのような点が気になるでしょうか。

(貸借対照表はある一時点の資産を表すストック数値ですので、基本的には調査対象期間の末日の数値について検証します。)

 

<帳簿上の現金預金>

 

 

<気になる点>

もちろん、実際に現金預金があるか(現金預金が実在しているか)が一番気になる点ですね。

そのため、帳簿上の預金残高について、銀行の残高証明書や預金通帳で残高がきちんとあるかを確認します。

② 実施手続

通常であれば帳簿上の預金残高と銀行の残高は一致するはずです。年度末であれば正確に一致させている会社がほとんどですが、財務デューデリジェンスは年度末を基準日とすることは少なく、調査開始直近の月末を基準日とすることが多いです。月次では預金残高を合わせていない会社もあり、時たまズレが生じているのを見かけます。

例えば、以下の通り相違していました。

 

 

相違金額500千円の内容が分かれば適切な勘定科目に振り替えますが、内容が分からない際は資産を減額します。

 

帳簿上は現預金が10,000千円あるものの、実際には9,500千円しかありませんでした。この結果をDD上反映することとなります。

 

このように、科目毎に「気になる点」(現預金で言えば実際にあるかどうか)を確認し、実態の純資産がいくらかを考えていくのが、財務デューデリジェンスにおける実態純資産分析です。

 

3. 具体例:売上債権


① 売上債権の気になる点は?

売上債権は、売掛金や受取手形等営業取引から獲得した金銭債権です。では、売掛金を見てどのような点が気になるでしょうか。

 

<帳簿上の売掛金>

 

 

<気になる点①>

まず気になるのが、貸倒引当金▲1,000が適切かどうかです。貸倒引当金は、売掛金が貸し倒れるリスクを見積もって金額に落とし込む勘定科目です。そのためリスクの見積方法によって金額にばらつきが生じます。中小企業であれば法人税法に則って貸倒引当金を計算していることが多いですが、財務DDでは実際に貸し倒れる可能性のある金額を可能な限り見積って反映させますので、貸倒引当金の金額は確認が必要です。

 

例えば、官公庁向け売上であれば貸し倒れるリスクはほとんどないですし、業績が悪い企業への売上であれば貸倒リスクは高いといえます。

 

<気になる点②>

次に気になるのが、この売掛金は本当にあるのかどうか、当期に計上してよいのかどうかです。

業績を良く見せるために手っ取り早いのが「当期の売上を増やす」ことです。売上が増えれば当然売掛金も増えますから、売掛金の金額に問題ないかを確認することは不正の有無を確認する上でも非常に重要です。

 

例えば架空の売上を計上して業績を良く見せたとします。架空ですから当然入金がないため、売掛金は残り続けますね。このような売掛金に資産価値はありません。

 

3月決算の会社において、4月の売上を3月に発生したことにすれば、当期の業績は良く見えることとなります。この方法は将来入金がなされる点で架空売上とは異なりますが、実態より資産価値が高い(売掛金が多く計上されている)状態となっていますので、会社を買う側からすると実態より高く買ってしまうことに繋がります

 

このような期ズレ(正しい期間に収益が計上されていない)も投資判断を歪ませますので、注意が必要です。

 

② 実施手続

上記の気になる点を確認するために、様々な手法を使用します。

 

趨勢分析、取引内容や取引条件の把握、契約書や請求書、入金証憑の閲覧、年齢調べ、回転期間分析等がありますが、ここでは分かりやすい「回転期間分析」を例としてみましょう。

 

買収予定の会社の主要顧客として、A社(売掛金残高10,000千円)とB社(売掛金残高25,000千円)があります。どちらも契約上は月末締め翌月末払いの相手先です。残高だけを見ても何も分からないので、年間売上高を使用して回転期間を求めてみると、以下表の通りです。

 

<売上債権の回転期間分析>

 

 

回転期間とは、売掛金等の営業債権計上後、回収されるまでの期間を示す指標です。月末締め翌月末払いですから、回転期間は通常30日から多くて60日程度になるはずです。

 

A社は回転期間が36.5日と特段異常はありませんが、B社は回転期間が60日を超えていますので、何かありそうですね。60日近辺ですので、取引の関係上月初に全ての売上を計上している可能性もありますし、前述した期ズレや架空計上の可能性もあります。

 

その後B社について追加調査を行うことで、その内容を把握することができますね。

 

今回は、M&A前に売上を良く見せようと翌期の売上10,000千円を当期に回していたことが分かったとします。この結果をDDに反映させることとなります。

 

 

 

4. 具体例:棚卸資産


① 棚卸資産の気になる点は?

棚卸資産は営業目的で保有する在庫のことで、製品や仕掛品、半製品、原材料の総称です。

 

<帳簿上の棚卸資産>

 

 

<気になる点>

棚卸資産についても売上債権と同様に、その在庫が実在しているか、在庫価額は適切か、期間配分は正確かというところが主に着目するポイントです。

 

一般的な製造業のDDにおいては、まず原価計算や在庫管理がどのように行われているかを把握します。例えば材料費のみが集計されていて、製造に直接関係する人件費等は集計されていない(販売管理費として期間費用処理されている)ことは多いです。

 

外注先があるケースや預け在庫・預り在庫があるケースも多く、原価計算や在庫管理の方法は第一に把握すべきところです。

 

② 実施手続

実際に行う手続としては、売上債権と同じく趨勢分析、取引内容や取引条件の把握、契約書や請求書、入金証憑の閲覧、回転期間分析、年齢調べ等があります。

今回は「年齢調べ」を例としてみましょう。

 

会社は4種類の製品A~Dを保有しており、それぞれ在庫が入庫されてからの期間が以下の通りであるとします。

 

<在庫年齢調べ>

 

 

製品Aは1か月以内に売却されている一方、製品Bは6ヶ月保有しているものがあることが分かります。相手先との関係から常に在庫を保有し続けている場合もありますので、製品Bはそのような製品なのかもしれません。

 

最も気になるのは製品Dですね。1年超のものが3,000千円あり、明らかに滞留していることが確認出来ます。

 

そこで、製品Dについて追加調査を行うことで、その内容を把握します。

 

例えば他社の完成品における重要な補修部品であり、完成品の保証期間中一定量を保有し続けなければならない製品かもしれません。または新しいモデルが販売されたことによる型落ち品であり、今後の販売見込が立っていない不良在庫かもしれません。

 

今回は、今後の販売見込が立っていない不良在庫であることが分かりました。一切販売が見込まれないと確認が取れましたので、実態をはかる上では全て評価減とします。

 

<帳簿上の売掛金>

 

 

 

[今回のPoint]

事例のように、実態純資産分析においては各科目について気になる点を考え、様々な手法を用いて実態はどうなっているかを1つ1つ確認していくこととなります。

 

 

 

漠然とした財務デューデリジェンスに対するイメージが、少しでも具体的になっていただけたでしょうか。次回は損益計算書分析について見ていきましょう。