[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第6回:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

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財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場はどれぐらいですか?また、どのような要素で決まりますか?


①コンサル企業の規模

財務デューデリジェンスの費用を検討するには、まず、どれぐらいの規模のコンサルディングファーム、会計事務所に依頼するかによって相場感が異なります。

 

当然の事ですが、大手のコンサルティングファームや、監査法人等に依頼すると費用は高くなり、中小のコンサルティングファームや会計事務所に依頼すると費用は安くなります。必ずしも大手であるから品質が高いとは限りませんが、一般的に大手は品質が高く、海外に提携事務所があるため海外案件等に強みを持っています。

 

一方、中小のコンサルティングファームや会計事務所は、大手と比べると品質にばらつきがありますが、小回りや融通が利き、費用は安くなります。

 

大手であれば最低500万円以上、中小であれば最低100万円以上が相場となります。(戦略的に安く請け負っている場合や、調査範囲を限定している場合等はこの限りではありません。)

 

 

②プロフェッショナル度

同規模のコンサルティングファームや会計事務所であっても、それぞれに特徴があります。M&Aのマッチングに強みを持っている場合や、財務デューデリジェンスを得意としている場合、税務顧問をメイン業務としているが財務デューデリジェンスも行う場合等、財務デューデリジェンスに対するプロフェッショナル度が大きく異なります。プロフェッショナル度が高い事務所に依頼するほど、費用は高くなることが一般的です。

 

 

③対象企業の規模

財務デューデリジェンスを行いたい対象企業の規模によっても費用は異なります。規模の大小により、調査項目の大枠はあまり影響しませんが、一般的に規模が大きくなると子会社を保有していたり、事業を複数行っている場合、海外展開している場合等がありこれらの調査が必要であれば費用も高くなることが一般的です。売上3億円の会社と売上30億円の会社の財務デューデリジェンス費用は2倍程度、売上3億円の会社と売上300億円の会社は3~5倍程度の差となることが多いでしょう。

 

 

④調査範囲

財務デューデリジェンスと言っても、M&Aスキーム、バリュエーション方法や調査の目的等により、当然調査項目は異なります。これらの調査項目を取捨選択し絞ることで、多少の費用削減にはなるでしょう。しかし、会計は様々な項目と連動していることが多く、あまり調査項目を絞りすぎると、会社全体としての動きを見誤ったり、見落としてしまうことがあるため注意が必要です。

 

財務デューデリジェンスの費用は、コンサルティング企業の規模、コンサルティング企業のプロフェッショナル度、対象企業の規模、調査範囲等で異なります。検討している企業の財務デューデリジェンスの費用を想定した上で、どのコンサルディング企業に、どの調査項目を依頼するかを検討しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第2回:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、小売業のM&Aを検討していますが、小売業M&Aの特徴や留意点はありますか?


小売業は、最終顧客に商品を販売する業種です。BtoBの業種と比較すると小売業を含むBtoCの業種は、販売先(顧客)の数が非常に多くなります。そのため、顧客ごとの売上高・利益率等を把握して分析することはせず、客数・客単価等をKPI指標として設定し、分析することが小売業の特徴の1つとなります。

 

また、小売業は、販売ルートとしては実店舗での販売と、オンライン・通販等での販売とに分類ができます。近年では、オンライン・通販等を行う小売業者も増加していますが、中小企業では実店舗での販売がメインとなっているとことが多いように思います。

 

店舗が複数ある場合には、各店舗の損益管理が経営上重要となります。店舗別損益は、最低限売上高と売上原価、そして店舗でかかった経費について把握する必要があります。さらに、店舗ごとの貢献利益・営業利益の分析や客数・客単価等のKPIの情報を把握することが望ましいでしょう。貢献利益とは、店舗の売上高から売上に直接紐づく変動費(売上原価や販促費等)および店舗単独で発生する固定費(店舗人件費や店舗家賃等)を差し引いた利益のことです。貢献利益は店舗単独でどれぐらいの利益を獲得したのかを把握し、今後の施策や出退店等を検討する重要な利益指標となります。

 

貢献利益について具体例を用いて説明します。下図は本社と3店舗を有し、売上高3億円、営業利益5百万円の企業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗Aおよび店舗Bは貢献利益がプラスであるのに対して、店舗Cは貢献利益がマイナスとなっています。店舗Cを閉店して、売上も費用も全てかからない状態になる場合は、全社損益が5百万円改善することになります。しかし、正社員の雇用を継続する必要がある場合や、地代家賃の契約上途中解約による違約金が発生する場合等個別事情がある場合には、それらの事項も含めた上で検討する必要があります。

 

M&Aを検討している場合、対象会社の損益管理の状況を把握し、損益管理ができていない場合には、デューデリジェンス等にて会計士等の専門家を用いて店舗の損益数値を分析した上で、M&Aの検討をすることをお勧めします。

 

 

 

また、飲食店等も同様ですが、小売業の特徴として、現金売上が多い点が挙げられます。現金売上が多く、商品の仕入時は掛仕入で行っている企業の場合、買掛金の支払いよりも現金売上が先に発生するため、運転資金がほとんど必要ありません。

 

 

 

 

 

 

上図の例では、5月10日に仕入れた商品の支払いが6月末であることに対して、5月20日に現金売上となり、5月20日から6月末までの間現金が多い状況が続きます。そのため、小売業は他業種と比べ資金繰り上有利な業種と言えます。

 

一方で、2019年から実施されているキャッシュレス・消費者還元事業等の影響で、クレジットカードや電子マネー等での支払いが増加しているため、資金繰り上必ずしも有利とは言えない状況になりつつあります。M&Aの対象会社の運転資金の状況を分析し、キャッシュレス化の影響も把握することが望ましいでしょう。

 

 

また、小売業でも特に生鮮食品など、商品の劣化により販売できる期間が短い商品を扱っている場合は、廃棄ロスの管理が重要です。中小企業では廃棄ロスの管理を行っていない企業も少なくありません。例えば、筆者が関与した企業で改めて廃棄ロスを計測したところ、廃棄ロス率が20%であることがわかったケースもあります。仕入れた商品5つのうち1つは廃棄する計算です。廃棄ロスをゼロにするのが良いかどうかは経営判断となりますが、20%はさすがに多いためすぐに削減の施策を実行しました。M&Aの対象会社が廃棄ロスを管理していない場合や、廃棄ロスが多い場合には、貸借対照表に計上されている棚卸資産について全額資産性があるかどうかの検討が必要となります。また、買収後は廃棄ロス率の削減等の改善施策を行う必要があります。

 

 

また、小売業特有の仕入方法として買取仕入、委託仕入、消化仕入の大きく3つの仕入方法があります。

 

●買取仕入は、一般的な仕入のイメージで、その名の通り、店舗側で商品を買取って販売することです。

 

●委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置きます。商品が売れたら商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。

 

●消化仕入れは、商品が店舗に納品されても仕入計上せずに、商品が販売された時点で初めて仕入れが計上される方法となります。売上仕入とも言います。

 

 

買取仕入は、買取っていますので商品が売れ残っても返品はできませんが、消化仕入と委託仕入は商品が売れ残った場合に返品が可能であり在庫リスクがないことが特徴です。M&Aの対象会社の仕入方法を確認し、在庫リスク等を把握した上でM&Aを検討することをお勧めします。

 

 

小売業のM&Aを検討する場合は、店舗損益をどのレベルまで把握できるかを確認しましょう。損益が把握できていない場合には、資料を入手して店舗損益を作成・分析する必要があります。また、KPIの分析状況、運転資金の状況、キャッシュレス化での影響、仕入先との契約関係等を把握した上でM&Aに臨むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」]

第1回:「財務デューデリジェンスの目的」を理解する

 

〈目次〉

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事項

④買収後の統合に向けた事項

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷第2回:「バリュエーション手法」と「財務デューデリジェンス」の関係を理解する

▷第3回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

▷第4回:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【後編】

 

 

「財務デューデリジェンスの目的」を理解する


財務デューデリジェンスの目的は大きく4つの事項を把握することにあります。

 

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事項

④買収後の統合に向けた事項

 

①ディールブレイク要因の有無

買収を進めるにあたり、重大な障害の有無を把握します。重大な障害はディールキラー、すなわちその事実のみで買収をしない意思決定を行う可能性があります。重大な障害が発生した場合、他のデューデリジェンスの内容は不要となるため、その時点でデューデリジェンスを一時中止・終了することもあります。

 

具体的には、全株主の把握ができていない場合、法令違反、粉飾決算などが挙げられます。全株主が把握できていない場合、M&A実行後に想定していない株主が株主として残る場合や、それらの株主に対して支払う株式の買い取り資金が追加でかかってしまうリスクがあります。

 

また、特に上場企業等社会的責任が大きい会社が買手の場合、法令違反のある会社を買収し、そのまま法令違反をし続けることはできません。そのため、当該法令違反を除去する必要がありますが、法令違反の除去が難しい場合や多大な資金がかかる場合には、M&Aを取りやめることになります。

 

ディールブレイク要因が確認された場合は、これらの要因によるリスクは何か、リスクは許容可能か、許容できない場合は除去が可能か、除去するための弊害は何か、どのくらいの追加資金がかかるのか、それらを考慮にいれてもなおM&Aが会社にとって必要か等を検討します。

 

 

②価値算定に影響を与える事項

買収価格に直接影響のある内容を把握します。次号にて解説する「『バリュエーション手法』と『デューデリジェンス』の関係を理解する」で詳細を記載しますが、バリュエーションの方法によって価値算定に影響のある内容は異なるので、分析の重点をどこに置くかがかわってきます。

 

例えばバリュエーションをDCF法を用いて評価する場合は、正常収益力、運転資本、設備投資、ネットデット、事業計画等の分析が価値算定に影響を及ぼしますので、重点的に分析することになります。

 

 

③契約書の表明保証に記載すべき事項

デューデリジェンスで把握された検出事項のうち、価値算定に直接影響を与えるものでない事項(訴訟の有無、労務問題、法令違反等)がある場合には、契約書の表明保証に記載するかどうかを検討する必要があります。

 

これらは潜在的な簿外債務の項目が多く、網羅的に把握することが必要となります。特に労務問題は、多くの会社で大なり小なり発生しているため、事実関係を正確に把握し、漏れがないように記載することが必要です。

 

 

④買収後の統合に向けた事項

買収対象会社をどこまで統合するかは経営判断になりますが、統合する場合の必要事項は把握しておく必要があります。どこまで把握するかは、買手企業により異なるため、M&A担当者としては自社のM&Aの方針、リソースの有無等総合的に判断をする必要があります。

 

把握すべき事項としては一般的には、会計方針、管理会計の内容、内部管理体制、人事制度、使用しているシステム等が挙げられます。特に使用しているシステムは、M&Aにより使用できない場合は、追加でコストが発生する可能性があるため注意が必要です。

 

またカーブアウト案件等では、必要に応じて事業分離後の移行期間に提供するサービスをどのように買手・売手間でマネージメントするかを規定した契約書であるTSA(Transition Service Agreement)の締結により、売手企業から継続サービスを受けることもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失敗しないM&Aのための「財務デューデリジェンス」

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第1回:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

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Q、製造業のM&Aを検討していますが、製造業M&Aの特徴や留意点はありますか?


製造業の特徴は、当たり前ですが製品を製造しているということです。製品を製造していると製造していないでは、経営管理上大きく異なります。なお、製造業といっても多岐にわたりますが、広く一般的な製造業について記載いたします。

 

製造業のビジネスは、簡潔に記載すると「部品調達→製造→販売」となります。良い製品・商品・サービスを販売することはどの業種でも同様に重要ですが、製造業では製造工程の改善等による自社内の努力による利益改善の余地が大きいことがまず重要な特徴となります。

 

また、自社内で製品の製造を行うため、一般的に製造部品の仕入額、製造人員の人件費、外注費が重要な費用項目となります。会社の費用構造を把握した上で、製品の製造の中でどの部分が会社の強みであり、また改善余地があるのかを把握することが重要となります。

 

例えば小売業であれば、A商品を100円で仕入れて150円で販売すると、A商品の売上総利益は50円となりますが、製造業では商品の製造原価を算出する必要があります。製造原価を算出すること、つまり原価計算ですが、この原価計算を正確に行わないと製品ごとの原価が分からず、150円で販売した場合に利益がいくらになるのかが不透明となってしまいます。

 

 

しかし中小企業の場合、原価計算を行っておらず、製品の原価を把握できないままに製造し販売していることも少なくありません。社長の頭の中には、なんとなくの原価が想定されていますが、専門家により原価計算を行うと、実は赤字販売をしていたというような事もあります。つまり、原価計算を正確に行っていないと、製品ごとの利益の大小がわからず、どの製品を重点的に製造し・販売するのが会社として良いのか等の経営判断を誤る可能性があります。

 

製造業は、「部品調達→製造→販売」となり、一般的に製品のリードタイムが長いため、運転資金が他の業種と比べて多額になる傾向にあります。

 

 

仕入の支払いサイト、製造にかかる期間、売上の回収サイト等を把握することで製品リードタイムが把握でき、必要な運転資本の把握が可能となります。併せて、在庫の棚卸の頻度や滞留状況、廃棄の実施状況等の確認もしましょう。

 

また、M&Aにより、製造する製品の種類や量が変更になる場合、どの工程がボトルネックになるのかを把握することも重要です。ボトルネックを事前に把握しておくことで、製造工程の変更や、投資による解消を早期から検討できるからです。

 

さらに、工場の設備や機械の実質的な耐用年数、現在の消耗度、設備投資の周期や金額等を事前に把握しておくことも重要です。売手企業は、M&A実施前に設備投資は積極的には行わず、むしろ抑えることが多いため、買手企業による買収後、設備投資により多額の出費が必要になる可能性があります。設備投資の予定等も踏まえて買収価格の交渉を行うことが望ましいでしょう。

 

製造業は、他の業種とは異なる様々な特徴や留意点があるため、事前にデューデリジェンス等を通じてこれらを十分に理解した上でM&Aに臨むことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第1回:事業が健全かそうでないかの判別

~経営分析とは?非数値情報分析とは?健全性のチェック方法は?~

 

[解説]

植木康彦(公認会計士・税理士)

 

 

 

 

 

 

 


 

[質問(Q)]

長男に事業を承継する予定ですが、長男から「お父さんの事業は健全なの?」と聞かれています。事業の健全性は、どのように判定したらよろしいのでしょうか。

 

 

[回答(A)]

事業承継に際して、その事業が健全か否かはとても重要です。健全性の判定に際しては、数値分析(経営分析)と非数値情報分析を組み合わせるなどして判断します。

 

 

 

健全性の判定に正解はありませんので、あくまでも一例を示します。

 

1.経営分析(ファイナンシャルステートメント分析)


経営分析を行い、営業キャッシュフロー、収益性、安全性、成長性、効率性などの観点から対象会社を評価します。例えば、営業キャッシュフロー(営業利益)が3 年連続でプラスの場合は健全と言えます。それぞれの指標にはおおよその目安があるので、その目安をクリアーしている場合は健全と言えます。また、対象会社と同業他社を比べてみることも重要です。

 

比較することにより、対象会社のポジションを把握でき、良い点、悪い点が明確になります。同業他社との比較にはTKC 会員であればTKC 経営指標BAST(バスト)、非会員なら中小企業基盤整備機構の経営自己診断システム、経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)を用いる方法があります(自己診断、ロカベンは無償でネットから誰でも利用できます)。

 

2.非数値情報分析


次に、数値情報以外の項目の分析ですが、最も重要なのは対象会社のコアコンピタンス(事業価値の源泉)の状況です。事業承継の鍵はコアコンピタンスが存在し、承継できるか、しやすいか否かにかかっていると言えます。コアコンピタンスは、言い方を変えれば、“ 競争力” です。例えば企画力、技術力、ノウハウ、営業力、生産能力、ブランド、あるいはそれら複合的なものです。多くの中小零細企業では、経営者に帰属している例が多いと思いますが、経営者以外の誰かに帰属している場合や組織に帰属している場合もあります。この機会に自社のコアコンピタンスを探求し、他に誇れるものか、事業承継が可能かについて、検討してみましょう。

 

3.チェックリストによる健全性チェック


チェックリストの例を以下に示しました。

20 項目のうち過半の10 項目以上が〇であれば健全と言えます。

 

なお、チェックリストの実施によって、対象会社の強みと弱みが明確になります。強みは伸ばし弱みは克服すべき課題として位置づけ、〇又は×の理由を分析し、経営にフィードバックすることも有用です。

 

 

 

 

 

 

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

⑤M&A関連費用の取扱い

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

 

 

 

中小零細企業M&A関連費用の取扱いについて基本的な考え方・裁決については下記の通り考えられます。

 

 

コンサルティング費用は株式取得価額に算入します。損金算入できたものに関しては売主側が費用を負担していた場合、当該負担金額を譲渡所得の計算上、取得費に含めることが可能です。

 

 

買主側の原則的な処理は下記のとおりです。

 

〇着手金

・・・損金算入

〇基本合意報酬及びDD等報酬

・・・案件が成約:取得価額に加算

・・・案件不成約:損金算入

〇仲介手数料(仲介会社に支払う成功報酬等)

・・・取得価額に加算

 

 

根拠条文等は、法人税法施行令第119条と法人税基本通達2-3-5となります[注1]。

 


(法人税法施行令第119条第1項)

(有価証券の取得価額)

第百十九条 内国法人が有価証券の取得をした場合には、その取得価額は、次の各号に掲げる有価証券の区分に応じ当該各号に定める金額とする。

一 購入した有価証券(法第六十一条の四第三項(有価証券の空売り等に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)又は第六十一条の五第三項(デリバティブ取引に係る利益相当額又は損失相当額の益金又は損金算入等)の規定の適用があるものを除く。) その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)

 

(法人税基本通達2-3-5)

(有価証券の購入のための付随費用)

2-3-5 令第119条第1項第1号《購入した有価証券の取得価額》に規定する「その他その有価証券の購入のために要した費用」には、有価証券を取得するために要した通信費、名義書換料の額を含めないことができる。

 外国有価証券の取得に際して徴収される有価証券取得税その他これに類する税についても、同様とする。(平12年課法2-7「四」により追加、平15年課法2-7「八」により改正

 


 

 

当該事案に係る裁決です。

 


 

【株式交換契約を含む経営統合に関するアドバイザリー業務につき取得価額に含まれるとした事例】

 

 

(有価証券の取得価額/経営統合に際し支出した法律業務、財務調査業務等の手数料)

本件各支払手数料は、株式交換完全子法人の株式を取得する目的の下でその取得に関連して生じたものであり、「株式の取得をするために要した費用」に該当すると判断された事例(平成26年4月4日裁決)

 

〔裁決要旨〕

1 本件は、審査請求人が、証券会社等に対する業務委託等に係る手数料及び調査用のパチンコ器等の製造費用を損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該手数料は同業他社の株式を株式交換により取得するために要した費用であるから当該株式の取得価額に加算すべきであり、製造費用はその耐用年数で減価償却費を計算すべきであるなどとして、法人税の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当該手数料及び製造費用はいずれも損金の額に算入されるものであり、また、損金の額に算入していなかった特許権実施料(売上原価)があるから、その特許権実施料は所得金額から減算されるべきであるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

 

2 適格株式交換により取得した株式交換完全子法人の株式の取得価額に加算すべき「株式の取得をするために要した費用」とは、実際に取得した株式について、原則として、当該株式の取得を目的としてその取得に関連して支出する一切の費用が含まれると解されるところ、この判断に当たっては、取得しようとする株式の候補が複数ある時点において、いずれの株式を取得すべきかを決定するために行う調査等に係る費用は、通常、当該取得を目的とする株式が特定されていないことから、実際に取得した株式の取得との関連性は希薄であるといえるものの、少なくとも、特定の法人の株式を取得する前提で行う調査等に係る費用は、その特定の法人の株式の取得を断念した場合を除き、当該株式の取得を目的としてその取得に関連して支出する費用というべきである。

 

3 請求人は、○○に本件法律業務を委任し、その後、○○からA社及びその子会社等に対する法的監査の結果報告及び経営統合の経営判断に対する取締役の善管注意義務等に関する意見を受けているところ、請求人は、本件法律業務を○○に委任した時点において、本件株式交換によりA社株式を取得することを目的としていたことが認められる。そして、A社及びその子会社等に対する法的監査は、経営統合に関する取引に際して重要な影響を与え得る法的問題の調査のために行われたものであることに加え、その結果が記載された法的監査報告書は、株式交換に係る株式交換比率の算定の基礎資料としても使用されている。そうすると、本件法律業務は、いずれも経営統合、すなわち、株式交換によるA社株式の取得に関連した業務であった(下線筆者)と認められる。

 

4 本件各支払手数料は、A社株式を取得する目的の下でその取得に関連して生じたものであり、その後、実際にA社株式を株式交換により取得しているのであるから、各支払手数料は、「株式の取得をするために要した費用」に当たる(下線筆者)ものである。

 

 

出典:TAINS

(TAINSコード F0-2-697)

 


 

取得価額に算入すべき金額の時期ついても問題になります。

 

 

調査課所管法人用の申告書確認表において(TAINS収録)、「別表五(一)に記載された株式の取得価額に算入すべきデューデリジェンス費用等の金額についても調整を行う必要があります。」との記載があります。

取得価額に含めるのは、M&A対象株式を購入することを意思決定した後の費用です。この前後によって取扱いが明確に変わるため、M&A対象株式購入の意思決定はいつ決裁されたかを明確に示す、エビデンスの保存が必要になってきます。最終決裁者によっても変わりますが、通常の中小企業・零細企業では取締役会議事録や役員同士での社内稟議書により、購入決定した「意思時点」を明確にしなければなりません。

 

 

では、事業譲渡スキームにおけるM&A費用等の取扱いはどうなるのでしょうか。本稿脱稿時点においては、上記に係る法文がありません。

 

事業譲渡は組織再編成の一手法のため、他の手法と比較して検証します。

 

○適格合併・適格分割型分割

・・・明文規定なし(法法62の2、法令123の3③)

○非適格再編成・事業譲受

・・・明文規定なし(法法62の8①・③)

○適格分社型分割・適格現物出資[注2]

・・・取得価額に加算(法令123の4・123の5)

 

適格分社型分割、適格現物出資において株式譲渡と同様の取扱いをされているのは当該組織再編成行為が株式譲渡に経済的実態が近似しているから、とも考えられなくもありません。それ以外に関しては上記のとおり、法文(や法令解釈通達)がないため、諸費用は損金計上できると考えられます[注3]。

 

 

なお、下記の質疑応答事例は参考になります。

 


 

【合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い】

 

【照会要旨】

当社は、A社を吸収合併(以下「本件合併」といいます。)することを計画しています。本件合併の実施に当たり、当社は、専門家に対して、A社の事業内容や権利義務関係の把握、企業価値の評価、合併の実行に必要な手続の把握等を内容とするいわゆるデューディリジェンスを委託しました。

このデューディリジェンスに要する費用は、本件合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額に含めるなど資産として計上せずに、一時の損金として処理して差し支えありませんか。

また、本件合併が適格合併に該当する場合と非適格合併に該当する場合とで、取扱いに違いはありますか。

 

【回答要旨】

ご照会のデューディリジェンス費用は、一時の損金として処理することになります。また、本件合併が適格合併に該当するか否かで取扱いに違いはありません。

 

(理由)

法人税の所得金額の計算上、販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で債務の確定していないものを除きます。)の額は損金の額に算入することとされています(法22③二)。

 

また、減価償却資産の取得価額については、資産の区分に応じて取得価額とすべき金額が法人税法施行令第54条に定められています。

 

適格合併により被合併法人から資産の移転を受けた場合には、その資産の帳簿価額を引き継ぐこととされていますが(法令123の3③)、その資産が減価償却資産である場合の償却費の計算の基礎となるその減価償却資産の取得価額については、①被合併法人がその適格合併の日の前日の属する事業年度においてその資産の償却限度額の計算の基礎とすべき取得価額と、②合併法人がその資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされています(法令54①五)。

 

非適格合併により移転を受けるなど同条第1項第1号から第5号までに規定する方法以外の方法により取得した減価償却資産の取得価額については、①取得の時におけるその資産の取得のために通常要する価額と、②その資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額とされています(法令54①六)。

 

ご照会のデューディリジェンス費用は、被合併法人の事業内容や権利義務関係の把握などを内容とする業務委託に要する費用であり、本件合併により移転を受ける個々の減価償却資産を事業の用に供するために直接要した費用には該当しないと考えられますので、本件合併が適格合併に該当するか否かにかかわらず、本件合併により移転を受ける減価償却資産の取得価額には含まれないこととなります。

 

なお、本件合併により移転を受ける棚卸資産がある場合も、上記と同様に、その取得価額には含まれないこととなります(法令28③、32①三)。

 

 

【関係法令通達】

法人税法第22条第3項第2号

法人税法施行令第28条第3項、第32条第1項第3号、第54条第1項第5号、第6号、第123条の3第3項

 

出典:国税庁ホームページ(https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/33/46.htm)

 


【注釈】

[1]「例えば購入に当たって支出したあっせん手数料,謝礼金等があれば,そのあっせん手数料,謝礼金等は取得価額に算入される」佐藤友一郎 (編著)「法人税基本通達逐条解説」305頁(九訂版 税務研究会出版局 2019)とあります。

[2] 現物出資は会社法上の組織再編成に該当しませんが、租税法上では組織再編成の一類型として整理されているため、上記のような分類をしています。

[3] 森・濱田松本法律事務所(編)「税務・法務を統合したM&A戦略」66頁~67頁(中央経済社 第2版 2015)、成松洋一「M&Aによる株式等の取得に要する費用の損金性」週刊税務通信3352号P40以下参照のこと。

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

▷第10回:PMIって何?-M&Aの成功はPMIで決まる!-

 


M&Aの買い手に必須の手続として、デューデリジェンス(DD)があります。今日では、企業の成長戦略としてM&Aが一般的になってきた背景もあり、デューデリジェンスという用語を耳にすることも多くなったのではないでしょうか。

 

デューデリジェンスはM&Aのプロセスにおいて最も重要な手続のひとつであり、その目的は対象会社から提供される情報に基づいて対象会社の実態を把握し、問題点を洗い出すことにあります。

 

デューデリジェンスには、財務・税務、法務、人事、ビジネス、環境等、いくつもの領域がありますが、実際のM&Aの現場では、対象会社の規模や事業の複雑性等を考慮して、どの領域について調査を実施するかを判断し、決定することになります。以下、主要なDDの概要を説明します。

 

 

財務・税務DDは、対象会社の収益性や財務状況の把握を目的として行われ、公認会計士・税理士等の専門家が実施します。過去の業績データに基づく正常収益力(対象会社が本来有している収益力)の分析や、貸借対照表上の資産の内容把握、評価額の妥当性に関する検討、潜在的なリスクに伴う簿外債務の有無、税務上のリスクの分析・把握等が行われます。財務・税務DDの結果は、事業計画や株式価値評価に反映されることとなります。

 

法務DDは弁護士によって実施され、対象会社が有している各種契約の内容の把握、訴訟や係争案件の有無、特許や商標権等の知的財産権の内容、人事労務関連の法令順守状況等の調査が対象となります。

 

ビジネスDDは、対象会社の事業内容、強み・弱み、市場環境、競合他社分析等、事業全般に関する調査・分析が行われます。通常は、対象会社の既存事業のみならず買い手が実現可能なシナジーの分析等も行われます。また、事業会社が同業他社を買収するようなケースでは、ビジネスDDを買い手企業自ら行うこともあります。ビジネスDDの結果も、財務・税務DD同様、事業計画や株式価値評価に影響を与えます。

 

 

それでは、売り手が非上場の中小企業、買い手が上場企業となるM&AにおけるDDではどのような論点が考えられるでしょうか。

 

一般的に、上場企業と比較して中小企業はコーポレートガバナンスやリスク管理の点で体制整備が十分でないことが多いと考えられます。例えばオーナー企業を例にとると、株主が経営者でもあることから意思決定のスピードや強いリーダーシップの発揮といった点で特有の強みもありますが、所有と経営が分離された上場企業で構築されているような株主による経営監視の仕組みが有効でないことが多く、強力な権限を持つ経営者自身により会社が私物化されるリスクが高いともいえます。

 

このような会社を買収しようとする場合、買い手企業は、オーナー経営者が会社との間で利益相反となるような取引を行っていないか、オーナー個人の利益のために会社に過度のリスクを負わせていないか、といった観点から関連当事者取引の詳細を重点的に調査すること等が必要となります。

 

その他にも、中小企業特有の論点として、上場企業との会計方針・会計処理の違いやリスク管理体制等の不備等に起因する会計的、法的問題が検出されるケースがみられます。

 

 

DDで検出された問題は、各DDの実施者から買い手企業に報告されます。DDで検出される問題には大小さまざまなものがありますが、重大な粉飾決算や法的な瑕疵等、問題が深刻で修復が不可能と判断されるような場合には買収交渉が中止されることもあります。

 

また、深刻ではないものの対処が必要な問題が発見された場合には、買い手企業において、検出された問題がもたらすリスクや損失を評価した上で、売り手に対して表明保証を求める、あるいは買収価格の引き下げを求めるといった対応が取られることが一般的です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第5回:「財務デューデリジェンス(財務DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

 

 

財務デューデリジェンス(財務DD)とは?


1、財務デューデリジェンスの目的

財務デューデリジェンスの目的は大きく4つの事項を把握することにあります。

 

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事

④買収後の統合に向けた事項

 

 

2、財務デューデリジェンスにおける調査分析項目

財務デューデリジェンスでは主に、次の事項の分析を行います。

 

①EBTDA(正常収益力)

②運転資本

③設備投資

④ネットデット

 

①EBITDA(正常収益力)

正常収益力の分析は、将来計画の発射台となる正常な収益力を把握し、計画利益との連続性を検討することを目的としております。正常化調整およびプロフォーマ調整を行い、案件成立後において予想されるEBITDA水準を検討します。

 

(ア)正常化調

ⅰ.イレギュラー、非継続的な取引に関わる損益

ⅱ.過去、進行期、計画上の損益、BS、CFの整合性

ⅲ.その他(会計処理の誤謬、海外通貨等)

 

(イ)プロフォーマ調整

ⅰ.案件成立後、事業構造や損益が変化することが明らかな項

 

 

②運転資本

(ア)運転資本の分析は、正常な運転資本水準を把握し、変動要因(ドライバー)を理解し、クロージング時点での想定運転資本の試算や予測キャッシュフローの作成、季節変動等に伴う価格調整の必要性の検討を目的としています

 

(イ)運転資本には、売上債権、棚卸資産、未収入金、前払金、仕入債務、未払費用、その他流動資産、その他流動負債等が含められることが一般的です

 

(ウ)正常運転資本の分析にあたっては、臨時的・非経常的な項目(滞留債権、ファクタリング、滞留在庫、供給業者への支払遅延、工場閉鎖など)を調整するとともに、正常収益力における調整項目が運転資本にあたえる影響についても検討します。

 

 

③設備投資

設備投資の分析の目的は主に下記の2点です。

 

(ア)過去の設備投資実績および維持費用の水準が適正であったか(ディールに先立ち、必要以上に設備投資が抑制されていないか)。

 

(イ)事業計画を達成するために必要な設備投資水準が適正に事業計画に織り込まれているか。

 

維持更新投資および新規投資の分類を行ったうえで、その投資額を決定づけるようなキードライバー(販売数量、物流網、顧客数、利用可能年数等)を把握し、分析することが有用です。

 

 

 

④ネットデット

(ア)ネットデットの分析は、バリュエーションモデルにおいて算定された事業価値からネットデット項目を減額すべき項目及びその金額を検出することを目的としています。

 

(イ)しかし、バリュエーションモデルは一律に決まった形式のものが存在するわけではなく、ディールごとに異なるため、それに伴いネットデットに含めるべき項目も異なります。

 

(ウ)必要手元資金の分析を行うことも有用です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第4回:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

▷関連記事:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

 

 

法務デューデリジェンス(法務DD)とは?


1、法務デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスを行う際に、買手企業がある程度の規模を有している場合には、財務デューデリジェンスと同様に法務デューデリジェンスを行うことは一般的です。

 

法務デューデリジェンスの目的は対象企業の法務リスクを洗い出すことですが、それらを細分化すると下記の4点に分類されます。

 

 

①事業継続の障害となりうる項目の確認

対象企業について法的な観点から、「その事業が中断されるリスクがある、もしくは当該事業について競争力の源泉が毀損される恐れのある事業が存在するか」を確認します。

 

 

②ディールブレイクとなる項目の確認

ディールにおいて法制度や法規制が阻害要因にならないかを確認します。

 

 

③対象会社の価値を減少させる項目の確認

事業継続そのものや法的問題の解決によって対象企業の収益性が危ぶまれることはないものの、法的問題の解決によって対象企業の収益性が減少する、もしくは資産が毀損するなどにより、企業価値を減少させることとなるような事項を確認します。

 

 

④当該ディールの法的スキームの検討

M&Aを実施することにおいて株式の取得のほか、会社分割や株式移転、事業譲渡など、様々なスキームが発生します。これらのスキームについて、想定通りに実行できるかを検証します。

 

 

 

 

2、法務デューデリジェンスにおける調査分析項目

調査項目は、①会社の基本的事項の確認、②資産・債務の調査、③リース、④契約関係の調査、⑤人事労務関係の調査、⑥訴訟等、⑦知的財産権、⑧環境等多岐にわたります。

 

 

①会社の基本的事項の確認

沿革、法人格と商業登記、株主の概要と大株主の状況、株式の種類と株式数(発行数、授権株式数)、定款、ガバナンス(取締役、監査役会・その他機関)、組織・会議体、許認可の状況、過去の事業買収・合併・事業譲渡・営業譲受等を確認することで、会社の基盤を確認すると同時に、ガバナンスのスタイル等を理解します。

 

 

②資産資産・債務の調査

資産や負債の金額的な分析は財務デューデリジェンスが行うため、法務デューデリジェンスではこれらの法的な評価を行います。

 

 

③リース

リース物件の所有権、契約期間、契約期間中の解約、解約金、瑕疵担保責任、危険負担などの調査を行います。

 

 

④計画関係の調査

会社は一般的に、取引(基本)契約、外注契約、ライセンス契約、共同事業(ジョイントベンチャー)契約等、営業に直接かかわる業務契約以外にも、賃貸借契約、消費貸借契約、債務保証契約、保険契約等、通常、様々な契約を締結しています。契約の承継はスキームによって異なるため、慎重に調査する必要があります。

 

 

⑤人事労務関係の調査

雇用契約の実態や契約の履行状況を把握します。また、労働関連法の遵守状況や、現状の労使関係と今までの経緯、労働紛争の有無等過去の労働争議や従業員との間に法的トラブルがなかったかについて調査します。

さらに、従業員について、属性や雇用契約を把握・調査します。

 

 

⑥訴訟等

訴訟係属中の紛争があれば、その背景や結審の見通し、訴訟にかかる費用、事業に与える影響等について調査します。法務デューデリジェンスで粗相係属中の紛争および予期し得る紛争の存在が明らかとなった場合はその他のデューデリジェンスとの連係が重要になります。

 

 

⑦知的財産権

対象会社の名称や事業名、事業内容が他人の権利を侵害しているリスクの有無を調査します。

 

 

⑧環境

対象会社の関連法令の遵守状況、過去に当局から受けた調査や是正勧告の履歴、当局への報告書類や対応実績等について調査を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第3回:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

 

事業デューデリジェンス(事業DD)とは?


1、概要

事業デューデリジェンスとは、対象会社の事業性および企業価値の評価をするためには欠かすことのできない重要な調査で、経営管理や事業モデル、将来のキャッシュフロー等を詳細に調査し分析します。また、事業デューデリジェンスで得られた情報を財務デューデリジェンスや事業計画の分析に活用します。

 

事業デューデリジェンスにおける調査の対象は、沿革、経営状況、事業モデル、商品力、労使関係、事業の社会性、経営者のコンプライアンス対応等、会社の経営や事業に関する項目全般であることから、通常その調査は広範に及びます。

 

事業デューデリジェンスで重要なことは、会社を取り巻く外部環境やマーケットにおける位置づけ、各事業のビジネスモデル、内部資源等を充分に把握した上で、会社のSWOTを分析し、事業別の今後の事業計画を策定、検討することです。

 

 

2、事業デューデリジェンスにおける分析

 

事業デューデリジェンスの分析段階では、ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析、収益性分析、事業ポートフォリオなどを行います。

 

①ビジネスモデル分析

事業デューデリジェンスの出発点は、対象会社の各事業におけるビジネスモデルを正しく理解することです。そのためには、対象会社の全般的事項の調査に続き、経営者ないしは、事業部門責任者に対してインタビューを行い、彼らにビジネスモデルを説明してもらうことが必要となります。このインタビューの目的はビジネスモデルを分析し理解することの他に、経営者や事業部門責任者の資質を評価するという目的も併せもっています。

 

経営者や事業部門責任者へのインタビューを行い、ビジネスモデルの大枠を理解できたら、現場で活動している中間管理職や担当者に対してインタビューを行い、各調査項目の詳細を捉えつつ、ビジネスモデルの分析を進めます。

 

②SWOT分析

SWOT分析とは、対象会社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析しまとめたものです。

 

SWOT分析の目的は、その企業が持っているビジネスの機会や外的脅威等の「外部環境分析」とコア・コンピタンスや組織体制等の「内部要因分析」から、経営課題を具体化し、事業の方向性を明確にすることです。

 

③マーケット分析

対象会社の各事業が属するマーケットの状況とマーケットに対する自社の商品力の分析を行います。これらは、証券会社やシンクタンク等が発表している業界別のアナリストレポートや行政機関が発表している統計情報を入手し、各業界の有識者へのインタビューを行い、様々な観点からマーケットの現況、過去の状況や傾向、今後の見通し等を分析します。

 

④競合他社分析

対象会社の主要な競合他社を分析し、比較を行います。対象会社の業界内での位置付けや、強み・弱み、改善しなければならない点が明確になります。競合他社分析を行う上での重要なポイントは、財務諸表のみならず対象企業が属するマーケットにおけるKPI(Key Performance Indicator)として用いられる指標の比較を行うことです。

 

⑤収益性分析

ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析の結果を総合的に勘案した上で、財務デューデリジェンスにより入手した過去の営業成績にかかる情報を加味し、対象企業の各事業の収益性の分析を行います。

 

⑥事業ポートフォリオ

市場成長率および市場占有率の2軸にて、対象会社のポートフォリオの検討を行います。対象会社の現在の立ち位置、各事業の立ち位置、投資の分散の状況などを把握して、今後の戦略に役立てます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 


それでは、買い手候補先も見つかり、売却に関する協議交渉が順調に進んだ場合において、どのような点に留意していくべきでしょうか?

 

 

一般的なM&Aプロセスにおいては、買い手側は買収対象会社を対象に、デューデリジェンスという調査を実施します。

 

これは、会社が法律面から正しく存在し運営され、取引先や従業員等との法的な関係がきちんと整備されているかを調査する法務デューデリジェンスや、財務的な数値や会計処理の適切性、会社の税務に関するリスク等を調査する財務・税務デューデリジェンスなどがあります。

 

このデューデリジェンスは、買い手が対象会社から資料や情報の提供を受けて実施するもので、買い手が雇った弁護士や公認会計士や税理士が対象会社にコンタクトを取って資料を依頼したり質問を行ったりします。

 

 

 

 

その際、売り手は第1章で述べたように従業員や取引先に極力知られないように配慮しつつ、デューデリジェンスを受入れなければなりません。

 

このときに、売り手側の経営者が一人でデューデリジェンス対応をすることは現実的には難しいため、例えば、管理責任者や経営者の右腕的な人に相談して、デューデリジェンスの受入れをサポートしてもらうことが必要となります。

 

 

デューデリジェンスを受ける売り手にとっては、問題点を隠すことではなく、全てを詳らかにして買い手に問題点や潜在的なリスクを把握してもらって、それを前提に売買条件等の交渉を行う、ということが重要です。

 

仮に、悪い面を隠し通してM&Aを実行できたとしても、売り手側で意図的に隠していたことがM&A実行後に発覚したりすると、場合によっては譲渡対価の一部を返却しなければならなかったり、損害賠償を求められたりすることになります。

 

 

M&Aの際には売り手側と買い手側双方にて契約を締結しますが、一般的にはその契約書の中に、売り手の開示情報が正しくないことがM&A後に判明した場合は売り手が賠償責任を負う、といった条件が織り込まれるからです(これを表明保証といいます)。

 

 

また、一般的なプロセスでは、デューデリジェンスと並行して価格交渉等が行われますが、その交渉において、会社の収益性や財務内容等を基に、株価算定やValuationと呼ばれる会社の価値を算定するプロセスを買い手が実施することがあります。

 

そこで算出された会社の価値を参考に、売り手と買い手双方が各々希望価格を考慮しながら売買金額の妥協点を見つけて行くこととなります。

 

価格交渉の際には、先に述べたデューデリジェンスでの発見事項が考慮されて、時には価格を下げる要因となったり、または価格を上げる材料となったりします。

 

 

そのため、デューデリジェンスのプロセスは、M&A実行前の非常に重要な手続であることをご理解ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第2回:「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[小規模M&A(マイクロM&A)を成功させるための「M&A戦略」誌上セミナー]

会社や事業を売る準備

~売るために準備しておく、財務上、労務上、法務上のポイントとは?~

 

〈解説〉

公認会計士 大原達朗

 

 

 

 


今回は“会社や事業を売るための準備”というテーマです。”財務””労務””法務””強み弱みの整理”という順番に説明いたします。

 

 

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〈財務〉


財務というよりはビジネスの話になります。そもそも、”儲かっているのか”という点が大きいポイントです。もちろん、「赤字の会社が絶対に売れない」ということはないのですが、確率論で言うと、儲かっている会社の方が圧倒的に売れる可能性が高いです。

 

 

したがって、儲かっているということを前提にした上で、そもそも“事業別とか毎月ごと、月次決算の数値が、きちんと作成できていて、資料を準備できる”かを、確認していただきたいと思います。

 

 

経営者の頭の中に、この企業の売上はいくらで、費用はいくらなのか、という情報は入ってると思いますが、買う方からすると経営者の頭の中を覗くわけにはいきませんので、きちんと資料として残っていて、最終的にはデュー・ディリジェンスで、過去の数値が、本当に正しかったのかどうかチェックしますので、「書類が残っています」「具体的には入出金の事実を確認できる通帳とか、銀行のデータがあります」という形になってないと、結局、その交渉はどこかでつまってしまいます。

 

 

「情報がないからやっぱり買うのをやめる」、あるいは「目をつぶって買うから、その代わり買収金額は大幅に割引をしてくれ」ということになりかねません。きちんと評価をして高く売るという意味で、財務の情報をきちんと整理しておく必要があります。 記帳や会計処理を会計事務所に委託している場合に、こういった月次とか事業別の記録がきちんとされていない状況が思ったよりもたくさんあります。きちんとした会計事務所であれば、月次の数値はきちんと集計されているでしょうが、意外と事業別の業績をきちんと整理している企業は少ないのが実情です。

 

 

一事業ごとの損益は把握しているけれども、一事業ごとにどんな資産があるのか”という点を把握していることは少ないのです。会社をまとめて売却するときにはあまり問題にはならないですが、会社の一部、一事業を売却しようとする際には問題になりますので注意が必要です。

 

 

結果的にこうした情報を整理することによって、ウチのビジネスは順調で将来も有望である、ということを買い手に伝えることになるので、財務というよりもビジネスそのものを第三者にわかりやすい形で準備をしておく必要があるということです。

 

 

 

 

 

〈人〉


次に人です。 “キーパーソンは存在するのでしょうか?”  “事業を回す責任者は存在するのでしょうか?”

 

 

オーナーがいないと事業が回らない場合には、基本的には売れません。したがって、将来の売却を考える場合には、オーナーが抜けても商売が回るようにしておかないといけません。あるいは、キーパーソンがいないということであれば、売却後も1年間、ないし2年間程度は、会社に残り、後継者候補を育成して、引き継ぎをすることが必要になります。このようなパターンのM&Aもありますので、キーパーソンがいないからといって、「絶対に譲渡ができない」と悲観的に考えないでいただきたいと思います。

 

 

基本的に、キーパーソンがいてオーナーは抜けてもなんとか回る番頭というか店長クラスの人はいるんだということを前提に続きの話をすると、”その方が仕事を続けてくれること”が、重要な条件です。 経営人材がどこの会社でも不足していますので、譲渡後も社長として残ってほしいという要望も数多くあります。むしろ、それなりの規模であれば、こうしたパターンの方が多いです。

 

 

彼らは、M&Aを人不足、経営人材不足をカバーするための手段としても考えているのです。その場合に、売り手にその覚悟があるのか、これまでオーナーの判断で、ある意味好き勝手やってきた経営が、そうではなくなります。一方で責任は軽くなります。その覚悟があるのか、という点もあらかじめよく考えておいたほうがよいでしょう。

 

 

その覚悟がない場合には、大企業の傘下に入り、経営を続けるという選択肢はない、とあらかじめ、買い手に明示しておくべきです。

 

 

 

 

 

〈労務〉


今の時代は、労務管理について非常に厳しい世の中になっています。“例えば社会保険の未払がある”  “あるいはそもそも社会保険に加入していない”ような場合です。 社会保険に加入していない状態で、例えば2,000万円の利益がでているとしましょう。買収後、社会保険に加入すると、利益は減ります。買い手としては、当然、その減った利益を基準に、買収金額を決めますので、売り手と買い手の売買金額の目線に差がでてきてしまいます。

 

 

したがって、売却を考えるのであれば、事前に社会保険にきちんと加入しておくということも重要な準備になります。 社会保険料の未納があるような場合には、買い手に迷惑がかかりますし、通常、売却できません。

 

 

このような状況がある場合には、法的整理の一環で事業譲渡をする場合を除き、事前に整理をしておくことが必要です。 労務管理は、今、売買時に非常に重視されるポイントです。

 

 

 

 

 

〈法務〉


少なくとも、“契約書が整理、保管されていること”は基本的なポイントです。 次に“会社法、各種業法によって要請されている書類が適正に整理されている”かどうかも買い手が気にするポイントです。

 

 

これがないと、免許の取り消しやペナルティーの可能性もあるわけですから、買い手としては慎重にならざるを得ません。 長年、経営を続けてきた方が経営を続けるのであれば大きな問題にならないようなことについて、M&Aをするということは、これまで経営に関与していない第三者がきて、あらたに経営を始めるということです。

 

 

彼らにわかりやすい書類、体制を作っておく必要がどうしてもでてきます。

 

 

 

 

 

〈強みと弱みの明示〉


最後にとても重要な”強みと弱みの明示”です。 皆さんの会社の強みと弱みはどこでしょうか。

 

 

強みについては、じっくり考えれば1つ2つは出てくると思います。 一方で弱みはどうでしょうか。弱いところを明らかにするだけではあまり意味がありませんが、弱みを補完できる先はどこなのか、というところまで考えると、どんな会社に買ってもらうがベストなのか、という点が明確になってきます。

 

 

買い手からすると、”お金さえ出せば儲かるという事業”があれば最高です。そのお金を生産設備、販促なのか、個別案件によって異なりますが、その穴を埋めれば、売上、利益があがっていく、そんなイメージがはっきりできると買い手は最高です。 今、厳しいのは人さえいれば、というパターンです。それは買い手も同じ状況だからです。

 

 

 

 


【動画解説を見る(外部サイト)】

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第1回:実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性

~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が行うM&A 支援業務の相互の関連性を教えてください。

 

A、DD により検出されたリスク要因をスキームの工夫によって遮断・軽減できる場合があります。また、リスク要因はバリュエーションにマイナスの影響を及ぼしますが、これもスキームの工夫で軽減させることが可能な場合があるなど各業務は密接に関連しています

 

 

 

 

 

図表はM&A の実行段階における支援業務の全体像と関連性を示したものです。DD、バリュエーション及びスキーム策定は独立したものではなく相互に関連していることを理解することが重要です。

 

 

まず、DD ですが、図に列挙したとおり、各種観点から対象会社をM&A で取得する際のリスク要因を洗い出す手続きとなります。税理士や会計士が行う財務・税務DD は必須の手続きと言えます。

 

 

弁護士が行う法務DD も大多数の案件で行われますが、図表 のDD の欄内の④以降のDD については必要に応じて行われます。めっき工場の売買で土地の環境汚染が心配であれば専門家に依頼し環境DD を行いますし、多様な形態で人員を雇用し、未払残業代や名ばかり管理職など労働法規上の問題が懸念されるのであれば社会保険労務士に依頼して人事面の調査を行うといった感じです。こうしたDD を行う場合、案件全体をコントロールする税理士としては常にリスクを定量化する思考を持つことが大切です。金額に換算できるリスクであれば売買金額の調整などでクリアできるためです。

 

 

次にスキーム策定ですが、DD において検出されたリスクについてスキームを工夫することで遮断したり軽減したりできることがあります。株式取得では対象会社の潜在リスクが全て引き継がれますが、スキームを事業譲渡に切り替えることによりリスクを遮断するといった対応が可能です。また、スキームを工夫することで税金コストの削減が可能になるのであれば、利益やキャッシュフローが増加しますので株価評価にもプラスの影響が生じます。

 

 

最後にバリュエーション(価値算定)ですが、DD においてリスクが検出された場合、当然に評価額に対してマイナスの影響を与えます。中小企業のM&A では仲介会社方式と呼ばれる方法が一般的です。

 

 

以上、M&A の実行段階における支援業務の相互関連について説明しました。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[資料データ(EXCELデータ)]

「財務デューデリジェンス実施における『事前資料依頼一覧』」サンプル

 

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[サンプル(イメージ)]

 

枚数:計3ページ(A4サイズ)

 

 

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[初級者のための入門解説]

デューデリジェンス(DD)とは?  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑥~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「デューデリジェンス(DD)」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aの場面でよく耳にする「デューデリジェンス(DD)」とは、簡単に言ってしまえば対象会社を調査することです。では、なぜM&Aの際にデューデリジェンス(DD)が必要とされるのでしょうか。

 

デューデリジェンス(DD)はなぜ必要?

M&Aの目的は様々ですが、対象会社をM&A候補とすることには理由(魅力)があることが一般的です。例えば、自社事業とのシナジー効果が期待できること、エンジニア等の優秀な人材が確保されていること、業界規制や新規契約が困難な重要な契約や権利を保有していることなどが挙げられるでしょう。

 

しかし、いざ会社を取得してみたら「想定と違った」「契約内容に欠陥があった」ということでは、会社を取得した目的が果たせなくなる可能性が生じます。

 

また、会社自体を取得する株式譲渡によるM&Aでは、対象会社の負う責任(義務)も合わせて取得することとなります、「会社の財務諸表が適切に作成されておらず、想定していない多額の簿外債務や債務保証が存在した」「重要な税務リスクや訴訟リスクを抱えていた」ということでは投資する意味は乏しく、またいくら魅力的に見える会社であっても事業として立ちいかなくなる可能性も存在します。

 

デューデリジェンス(DD)は、このような事態が発生しないよう、対象会社の実態を調査し、リスクや課題の洗い出しを行うために実施されます。

 

また、調査結果を踏まえて、「契約内容の見直しは必要か」「投資の方法(株式譲渡又は事業譲渡)への影響は」「取引価額(企業価値)は妥当か」などが検討されるのが一般的です。

 

M&Aの目的が様々なように、会社が持つリスクも様々です。そのため、対象会社のリスクや課題を洗い出すためには様々な視点から目的に応じて調査を実施する必要があり、デューデリジェンス(DD)もこの視点に応じて様々な種類があります。

 

 

 

 

 

拾い出す課題やリスクは?

デューデリジェンス(DD)は、その調査の視点から様々な種類がありますが、ここでは一般的なものとして、「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」「法務デューデリジェンス(法務DD)」について、具体的な調査方法やこの調査によって拾い出す課題やリスクを見ていきましょう。

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)の流れ、実施後の対処は?

これまででご紹介したデューデリジェンス(DD)はほんの一部であり、このほかにも様々な種類のデューデリジェンス(DD)があります。

 

課題やリスクの洗い出しの観点からは、様々なデューデリジェンス(DD)を実施することが望ましいですが、これにはコストも時間や労力も必要となります。そのため、一般的には対象企業の特徴やM&Aの目的から必要なデューデリジェンス(DD)やその深度を決定していくこととなります。

 

また、M&Aは多くの利害関係者(取引先や従業員等)に影響を及ぼすものであるため、余計な動揺を生じさせないためにも、その前段で行われるデューデリジェンス(DD)実行の情報が外部に漏れないようにすることも重要です。

 

 

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)による調査結果(報告)を参考に、「投資の最終意思決定」を行うこととなります。

 

具体的には、「買収リスクを抑制するための契約内容への反映」「M&Aの方法(株式譲渡か事業譲渡か)」「取引価額への反映」「買収後の事業運営方針」などを検討していくこととなります。