[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第5回:株式譲渡と事業譲渡

~株式譲渡、事業譲渡のメリットとデメリットとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A は株式譲渡で進めることが一般的であると思いますが、事業譲渡という手法もあると聞きました。両者について説明してください。

 

A、株式譲渡は手続きが簡便であり一般的ですが、各種リスクを引き継ぐというデメリットがあります。

この点、事業譲渡であれば取得する資産を取捨選択できるため、手間はかかりますがリスクの遮断が可能です。

 

 

 

 

図表は株式譲渡と事業譲渡のイメージ図とメリット・デメリットをまとめたものです。

 

 

現状、中小企業のM&A の大多数が株式譲渡で行われています。株式の譲渡契約のみで会社の全ての権利義務の移管が可能であるためですが、当然に簿外債務を引き継ぎますので粉飾決算をしていた経営不振企業の事業再生案件などでは事業譲渡(ないしはその発展形である会社分割)が行われることも多くあります。また、対象会社株主の権利関係が不明確な場合や、所在不明株主が多数いる場合など、株式譲渡では有効に経営権が引き継げないと思われる場合にも事業譲渡は有効な手段となります。

 

 

個人株主の株式の売却において株式譲渡が好まれるのは税制の問題もあります。図表に記載のとおり、株式譲渡の場合、売手は株式譲渡益課税(20.315%)で課税が完結しますが、事業譲渡の場合、対象会社で事業譲渡益に対して法人実効税率(約35%)で課税が生じ、さらに売却代金を売手に配当で還流した場合、累進課税(最高49.44%)が生じるため手残りが極端に目減りしてしまうためです。法人株主であれば受取配当の益金不算入制度があるため、利益は配当の形で受け取った方が手残りが多くなるのとは対照的です。

 

 

事業譲渡の場合、取得する資産や承継する負債を取捨選択できるのがメリットですが、個別の移転手続きが必要になりますので手間はかかります。また、不動産を移転する場合には不動産取得税や登録免許税といったコストもかかります。さらには事業に係る許認可がうまく移転できない場合もあり、事前に監督官庁に確認を行う必要があります。この点、会社分割を用いた場合、一定の条件を満たすと不動産取得税が非課税になりますし、引き継げる許認可もあります。

 

 

事業譲渡のメリットとしては営業権が税務上の資産調整勘定の計上要件を満たす場合、損金算入できる点が挙げられます。また減価償却資産については中古資産の耐用年数の適用が可能であり、早期に損金化が可能となります。

 

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[中小企業のM&A・事業承継 Q&A解説]

第1回:事業が健全かそうでないかの判別

~経営分析とは?非数値情報分析とは?健全性のチェック方法は?~

 

[解説]

植木康彦(公認会計士・税理士)

 

 

 

 

 

 

 


 

[質問(Q)]

長男に事業を承継する予定ですが、長男から「お父さんの事業は健全なの?」と聞かれています。事業の健全性は、どのように判定したらよろしいのでしょうか。

 

 

[回答(A)]

事業承継に際して、その事業が健全か否かはとても重要です。健全性の判定に際しては、数値分析(経営分析)と非数値情報分析を組み合わせるなどして判断します。

 

 

 

健全性の判定に正解はありませんので、あくまでも一例を示します。

 

1.経営分析(ファイナンシャルステートメント分析)


経営分析を行い、営業キャッシュフロー、収益性、安全性、成長性、効率性などの観点から対象会社を評価します。例えば、営業キャッシュフロー(営業利益)が3 年連続でプラスの場合は健全と言えます。それぞれの指標にはおおよその目安があるので、その目安をクリアーしている場合は健全と言えます。また、対象会社と同業他社を比べてみることも重要です。

 

比較することにより、対象会社のポジションを把握でき、良い点、悪い点が明確になります。同業他社との比較にはTKC 会員であればTKC 経営指標BAST(バスト)、非会員なら中小企業基盤整備機構の経営自己診断システム、経済産業省のローカルベンチマーク(ロカベン)を用いる方法があります(自己診断、ロカベンは無償でネットから誰でも利用できます)。

 

2.非数値情報分析


次に、数値情報以外の項目の分析ですが、最も重要なのは対象会社のコアコンピタンス(事業価値の源泉)の状況です。事業承継の鍵はコアコンピタンスが存在し、承継できるか、しやすいか否かにかかっていると言えます。コアコンピタンスは、言い方を変えれば、“ 競争力” です。例えば企画力、技術力、ノウハウ、営業力、生産能力、ブランド、あるいはそれら複合的なものです。多くの中小零細企業では、経営者に帰属している例が多いと思いますが、経営者以外の誰かに帰属している場合や組織に帰属している場合もあります。この機会に自社のコアコンピタンスを探求し、他に誇れるものか、事業承継が可能かについて、検討してみましょう。

 

3.チェックリストによる健全性チェック


チェックリストの例を以下に示しました。

20 項目のうち過半の10 項目以上が〇であれば健全と言えます。

 

なお、チェックリストの実施によって、対象会社の強みと弱みが明確になります。強みは伸ばし弱みは克服すべき課題として位置づけ、〇又は×の理由を分析し、経営にフィードバックすることも有用です。

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷第10回:PMIって何?-M&Aの成功はPMIで決まる!-

 


M&Aを実施した際の会計処理について留意すべき点はどのようなものでしょうか。

 

M&A完了後、買い手が対象会社の支配権を取得する場合は、買い手において、対象会社の財務諸表を連結処理することになります。現在では、日本基準、IFRSともに買収に伴って受け入れる資産・負債は公正価値(時価)で計上することが求められます。

 

この会計処理がPPA(パーチェスプライスアロケーション=取得原価の配分)と呼ばれるものです。PPAは、株式等の取得対価を、受け入れた資産・負債に配分する手続であり、①資産・負債の時価評価(広義ののれん金額の確定を含む)と②無形資産の識別・評価、という2段階で検討されます。

 

①資産・負債の時価評価

前述のDD等を通じて資産・負債の時価は概ね把握されていることが多く、この段階までにほとんどの資産・負債の時価評価が完了していることが通常です。この例外に、棚卸資産の評価があります。M&A時の会計処理では、重要性等にもよりますが、ステップアップという手続により棚卸資産の評価替を行います。棚卸資産の評価額は、想定売価から売却に要する費用と販売活動に対する合理的な利益相当額を控除して求められます、この結果、買収後の活動(販売活動)による利益のみが、将来の棚卸資産の販売により実現することになります。

 

対象会社の貸借対照表に計上されている資産・負債の時価評価が完了すると、連結貸借対照表上で生じる広義ののれんの金額が確定します。M&Aの結果、のれんがどの程度発生するかという点は、買い手企業の将来の業績にも影響を及ぼすことから、特に企業のCFOや経理部門の方々にとっては大きな関心事であろうと思います。これに続いて、のれんと無形資産の配分をどのようにするかという検討が行われます。

 

 

②無形資産の識別・評価

無形資産の識別・評価手続では、会計上の無形資産の識別要件に照らして、識別が必要となる無形資産の有無を検討し、計上される無形資産があればその定量的評価を行います。無形資産の識別・評価手続は公正価値アプローチ(一般的な市場参加者の視点に立ち、客観的・合理的な評価を行うこと)の視点が求められることから、のれんの金額がごく少額となる場合等を除いて、買い手企業自身が無形資産の識別・評価を行って会計処理まで完結させることは少なく、多くの場合、買い手企業やその会計監査人から独立した評価者が第三者評価を行い、その結果に基づいて会計処理が行われます。

 

なお、M&Aに伴い生じるのれんや無形資産の会計処理は、日本基準のコンバージョンが進みIFRSや米国基準との差異が解消されつつある現在、いわゆるGAAP差異が残っている数少ない領域といえます。ご存知のように、日本基準ではのれんの償却が強制されますが、IFRS、米国基準では非償却とし、毎期減損テストの対象となります。このため、のれんと無形資産の配分を行うPPAの処理が与える業績へのインパクトは、日本基準適用会社よりもIFRS・米国基準適用会社においてより大きなものとなります。無形資産とのれんのGAAP差異をまとめたものが下表となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

コロナ対応としての中小企業経営の留意点~コロナとその先へ~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


[関連解説]

■「超速報!新型コロナウイルス対策税制」

■「M&Aの検討段階における新型コロナウイルス等による影響」とは?

■「新型コロナ対策融資と特例リスケ」 ~事業再生の専門家の観点から~

■「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」

 

 

コロナ対応としての新しい税制、補助金、セーフティーネット融資など4/30の国会での補正予算の成立を受け続々と新しい制度が始まりました。

 

各地ではテレワーク助成金や休業補償金など続々といろいろな給付金の支給も始まっています。いずれにせよ給付金や助成金は自ら取得しにいかないといけないものですので情報集をしましょう。今のところ、経済産業省のページとJ-NET21のページがとてもよくまとまっています。両方とも公的機関の運営する1次情報ですので活用しましょう。

 

その際のポイントは、助成金や融資申請はするものの一定期間がかかることから、
まずは納税猶予等の制度を使い支出を抑えることですね。

 

1 資金流出を抑える

納税猶予制度、社会保険料の猶予、各種共済や保険等の掛け金の減額や支払い猶予制度の活用、家賃の減額や猶予の交渉

 

2 資金の確保をする

セーフティーネット・日本政策公庫・商工中金・各種自治体等の融資制度(補正予算が通ったので公庫さんよりメインバンクのほうが早いかもしれません)、保険会社や中小機構等の契約者貸付制度、各種補助金(持続化助成金・雇用調整助成金等)の活用

 

3 そしてその申請が終わったら次はコロナ後の新しいビジネスモデルを考える(次に資金不足による倒産の増加→与信管理の徹底)
新しいビジネスモデルを付け加えたら、今までよりもビジネスの幅が広がるとかビジネスチャンスも増えるでしょう。飲食店ではテイクアウトや冷凍食品の宅配事業など。それ以外の業種でも意外な強みが発見され、会社の再定義ができるかもしれません。

 

 


 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2020/05/11号)」より一部修正のうえ掲載

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第4回:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

~中小企業M&Aで最も用いられている仲介会社方式とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、中小企業のM&A において用いられる株式評価方法を教えてください。

 

A、時価純資産価額に正常営業利益の何倍かの営業権(のれん)を加算する、いわゆる仲介会社方式が主流となっています。

 

 

 

図表は、非上場企業に限定せず、M&A における企業価値の算定手法を概観したものですが、事業からもたらされる利益ないしキャッシュフローから事業価値を算定するインカムアプローチ、事業が有するストックに着目するアセットアプローチ及び株式市場から事業の価値を推定計算するマーケットアプローチに大別されます。

 

中小企業の評価で現状、最も用いられている手法が時価純資産価額に、年買法により算定した「営業権」(「のれん」とも言います)の評価額を加算する方式ですが、上記図表の整理では①のインカムアプローチと②のアセットアプローチの折衷法という位置づけとなります。

 

M&A 専門の仲介会社が幅広く用いることにより普及したため、最近は「仲介会社方式」とも呼ぶようであり、企業の収益面と資産面をバランスよく評価に織り込める点が優れており、また投資額をおよそ何年で回収できるかという経営者の思考に非常にマッチする方式であるため広く普及したものと思われます。

 

ただし、年買法による営業権はあくまで過去の利益に基づき算定されるため、利益が安定しない会社や将来の黒字化に向けて赤字が継続しているような会社の評価には適さない点は押さえておく必要があります。

 

この点、企業の価値は事業運営から将来もたらされるキャッシュフローの総和であるべきであることから、理論的にはDCF 法(ディスカウント・キャッシュフロー法)が最も優れていますが、同手法を採用する前提として将来の事業計画が客観的な根拠に基づき策定されている必要があるため、事業承継目的の中小企業のM&A ではほとんど用いられていないのが実状です。

 

また、マーケットアプローチについては評価対象が上場企業であれば、自社の株価は最も尊重されるべき指標となりますが、非上場企業については業種や規模が類似する類似会社を選定することが通常は難しいため、こちらもまず用いられません。

 

よって、中小企業のM&A 実務においては仲介会社方式をマスターすればこと足りることになります。M&A におけるバリュエーションなどと言うとDCF法やEV/EBITDA 倍率などと専門的な用語が飛び交い、税理士にとっては縁遠い分野と思うかもしれませんが、それは上場企業や投資ファンドなどの世界の話であり、一般的な非上場企業のM&A の局面においては意外と簡便的な手法により対価が計算されています。

 

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

超速報!新型コロナウイルス対策税制

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


(本コラムの内容は法律案であり、また4/16現在の情報で記載しています。)

 

 

[関連解説]

■「コロナ対応としての中小企業経営の留意点 」~コロナとその先へ~

■「M&Aの検討段階における新型コロナウイルス等による影響」とは?

■「新型コロナ対策融資と特例リスケ」 ~事業再生の専門家の観点から~

■「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」

 

 

コロナ対策の一環として4月中に成立予定のコロナ対策税制の解説をします。

 

納税猶予・申請期限延長に加え新規設備投資としてテレワーク設備減税や固定資産税の軽減措置が建物構築物にも拡大しています。

 

また、既存の事業用建物の固定資産税償却資産税の減免措置もできています。固定資産税なので赤字企業でも恩恵が受けられます。

 

また、消費税の課税事業者選択届出書の提出期限が申請で申告期限までに延長されますので、事業活動の急変で計算の結果還付してもらえばよかったというケースでも還付を受けることができるようになりました。(2月決算4月申告企業は特に期限に注意)

 


1.納税猶予…納期限までのどこか1か月の売り上げが20%以下の場合
国税・地方税・社会保険料が1年間納税猶予
延滞税免除・申請書の提出が困難な場合は口頭でも可

 

2.申告期限延長…所得税だけでなく法人税・相続税等も延長可
申告書余白に「新型コロナウイルスによる申告・納付期限延長申請」旨を付記でOK

 

3.中小企業経営強化税制の拡充…テレワークのための設備が新たに対象に(現状:機械・工具器具備品・建物付属設備・ソフトウェア)

 

4.新規取得固定資産税の減免措置の拡充…認定先端設備等導入計画に関する固定資産税の3年間減免措置(1/2~全額免除)の対象に建物と構築物が追加 建物の固定資産税が免除となるとかなり大きなものになります。(現状:機械・工具器具備品・建物付属設備)

 

5.既存固定資産税の減免制度…2月~10月までの3か月間の売上が30%以上減少した場合、翌年の事業用家屋の固定資産税と償却資産税が半額(50%以上減少で全額免除)※今年分は納税猶予対象

 

6.法人の繰戻還付…資本金1億円以下が対象だが 10億円までが2年間対象に追加

 

7.消費税課税事業者選択届の提出期限特例…通常は事業年度開始前までに課税事業者の選択届を提出、これが申告期限までに申請書を提出すればOKに
通常課される継続適用義務(2年・3年)もなし

 

8.印紙税免除…コロナ対策融資の印紙税は非課税に(すでに貼ったものは還付)

 

9.チケット払戻し税額控除…コンサートイベントの代金を払いもどさなかった場合放棄金額の40%を税金還付

 

10.住宅ローン控除・耐震改修不動産取得税の要件緩和…入居の遅れなどに対応

 

11.自動車税・軽自動車税の軽減延長…6か月軽減期間を延長

 

 

(参考)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/keizaitaisaku.html

 


 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2020/04/20号)」より一部修正のうえ掲載

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

▷第10回:PMIって何?-M&Aの成功はPMIで決まる!-

 


M&Aの買い手に必須の手続として、デューデリジェンス(DD)があります。今日では、企業の成長戦略としてM&Aが一般的になってきた背景もあり、デューデリジェンスという用語を耳にすることも多くなったのではないでしょうか。

 

デューデリジェンスはM&Aのプロセスにおいて最も重要な手続のひとつであり、その目的は対象会社から提供される情報に基づいて対象会社の実態を把握し、問題点を洗い出すことにあります。

 

デューデリジェンスには、財務・税務、法務、人事、ビジネス、環境等、いくつもの領域がありますが、実際のM&Aの現場では、対象会社の規模や事業の複雑性等を考慮して、どの領域について調査を実施するかを判断し、決定することになります。以下、主要なDDの概要を説明します。

 

 

財務・税務DDは、対象会社の収益性や財務状況の把握を目的として行われ、公認会計士・税理士等の専門家が実施します。過去の業績データに基づく正常収益力(対象会社が本来有している収益力)の分析や、貸借対照表上の資産の内容把握、評価額の妥当性に関する検討、潜在的なリスクに伴う簿外債務の有無、税務上のリスクの分析・把握等が行われます。財務・税務DDの結果は、事業計画や株式価値評価に反映されることとなります。

 

法務DDは弁護士によって実施され、対象会社が有している各種契約の内容の把握、訴訟や係争案件の有無、特許や商標権等の知的財産権の内容、人事労務関連の法令順守状況等の調査が対象となります。

 

ビジネスDDは、対象会社の事業内容、強み・弱み、市場環境、競合他社分析等、事業全般に関する調査・分析が行われます。通常は、対象会社の既存事業のみならず買い手が実現可能なシナジーの分析等も行われます。また、事業会社が同業他社を買収するようなケースでは、ビジネスDDを買い手企業自ら行うこともあります。ビジネスDDの結果も、財務・税務DD同様、事業計画や株式価値評価に影響を与えます。

 

 

それでは、売り手が非上場の中小企業、買い手が上場企業となるM&AにおけるDDではどのような論点が考えられるでしょうか。

 

一般的に、上場企業と比較して中小企業はコーポレートガバナンスやリスク管理の点で体制整備が十分でないことが多いと考えられます。例えばオーナー企業を例にとると、株主が経営者でもあることから意思決定のスピードや強いリーダーシップの発揮といった点で特有の強みもありますが、所有と経営が分離された上場企業で構築されているような株主による経営監視の仕組みが有効でないことが多く、強力な権限を持つ経営者自身により会社が私物化されるリスクが高いともいえます。

 

このような会社を買収しようとする場合、買い手企業は、オーナー経営者が会社との間で利益相反となるような取引を行っていないか、オーナー個人の利益のために会社に過度のリスクを負わせていないか、といった観点から関連当事者取引の詳細を重点的に調査すること等が必要となります。

 

その他にも、中小企業特有の論点として、上場企業との会計方針・会計処理の違いやリスク管理体制等の不備等に起因する会計的、法的問題が検出されるケースがみられます。

 

 

DDで検出された問題は、各DDの実施者から買い手企業に報告されます。DDで検出される問題には大小さまざまなものがありますが、重大な粉飾決算や法的な瑕疵等、問題が深刻で修復が不可能と判断されるような場合には買収交渉が中止されることもあります。

 

また、深刻ではないものの対処が必要な問題が発見された場合には、買い手企業において、検出された問題がもたらすリスクや損失を評価した上で、売り手に対して表明保証を求める、あるいは買収価格の引き下げを求めるといった対応が取られることが一般的です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第5回:「財務デューデリジェンス(財務DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス「損益項目の分析」を理解する【前編】

 

 

財務デューデリジェンス(財務DD)とは?


1、財務デューデリジェンスの目的

財務デューデリジェンスの目的は大きく4つの事項を把握することにあります。

 

①ディールブレイク要因の有無

②価値算定に影響を与える事項

③契約書の表明保証に記載すべき事

④買収後の統合に向けた事項

 

 

2、財務デューデリジェンスにおける調査分析項目

財務デューデリジェンスでは主に、次の事項の分析を行います。

 

①EBTDA(正常収益力)

②運転資本

③設備投資

④ネットデット

 

①EBITDA(正常収益力)

正常収益力の分析は、将来計画の発射台となる正常な収益力を把握し、計画利益との連続性を検討することを目的としております。正常化調整およびプロフォーマ調整を行い、案件成立後において予想されるEBITDA水準を検討します。

 

(ア)正常化調

ⅰ.イレギュラー、非継続的な取引に関わる損益

ⅱ.過去、進行期、計画上の損益、BS、CFの整合性

ⅲ.その他(会計処理の誤謬、海外通貨等)

 

(イ)プロフォーマ調整

ⅰ.案件成立後、事業構造や損益が変化することが明らかな項

 

 

②運転資本

(ア)運転資本の分析は、正常な運転資本水準を把握し、変動要因(ドライバー)を理解し、クロージング時点での想定運転資本の試算や予測キャッシュフローの作成、季節変動等に伴う価格調整の必要性の検討を目的としています

 

(イ)運転資本には、売上債権、棚卸資産、未収入金、前払金、仕入債務、未払費用、その他流動資産、その他流動負債等が含められることが一般的です

 

(ウ)正常運転資本の分析にあたっては、臨時的・非経常的な項目(滞留債権、ファクタリング、滞留在庫、供給業者への支払遅延、工場閉鎖など)を調整するとともに、正常収益力における調整項目が運転資本にあたえる影響についても検討します。

 

 

③設備投資

設備投資の分析の目的は主に下記の2点です。

 

(ア)過去の設備投資実績および維持費用の水準が適正であったか(ディールに先立ち、必要以上に設備投資が抑制されていないか)。

 

(イ)事業計画を達成するために必要な設備投資水準が適正に事業計画に織り込まれているか。

 

維持更新投資および新規投資の分類を行ったうえで、その投資額を決定づけるようなキードライバー(販売数量、物流網、顧客数、利用可能年数等)を把握し、分析することが有用です。

 

 

 

④ネットデット

(ア)ネットデットの分析は、バリュエーションモデルにおいて算定された事業価値からネットデット項目を減額すべき項目及びその金額を検出することを目的としています。

 

(イ)しかし、バリュエーションモデルは一律に決まった形式のものが存在するわけではなく、ディールごとに異なるため、それに伴いネットデットに含めるべき項目も異なります。

 

(ウ)必要手元資金の分析を行うことも有用です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[新型コロナウイルスに関するM&A・事業再生の専門家の視点]

「M&Aの検討段階における新型コロナウイルス等による影響」とは?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:新型コロナウイルス等による業績悪化を理由とした M&A ・事業売却

▷関連記事:家賃支援給付金の詳細情報が公表(2020年7月7日)。制度内容は、給付額は、申請方法は。

▷関連記事:【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与 ~コロナウイルスの影響で大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化、役員報酬の大幅な減額を検討~

 

 

M&Aを検討していますが、新型コロナウイルス等による影響はありますか?

新型コロナウイルスは、執筆時点(2020年3月末)において未だ収束の目途が立たず、世界的な混乱に陥っている状況です。このような状況下で、M&Aを検討あるいは既に進めている企業にとっては、どのような影響があるのか、どのように進めるのがよいか悩まれていることと思います。そこで、新型コロナウイルスによる影響を特にM&Aを行う観点からまとめました。

 

 

[関連解説]

■「新型コロナ対策融資と特例リスケ」 ~事業再生の専門家の観点から~

■「超速報!新型コロナウイルス対策税制」

■「新型コロナウイルス感染症に対する企業の意識調査」

■「コロナ対応としての中小企業経営の留意点」~コロナとその先へ~

 

①M&Aの見送り・延期

売手企業よりも、特に買手企業の方に影響がありますが、経営環境の先行き不透明感や株式市場の乱高下による混乱した社会情勢の中、M&Aを行うことに対して慎重な意見があります。このような意見が採用されて、M&Aを見送るあるいは混乱が落ち着くまで延期するといった経営判断をする会社が少なくない状況です。そのため、まずは会社の風土や経営判断を確認して、このような状況下でのM&Aに対する姿勢を把握する必要があります。

 

②輸出入等取引上の影響

新型コロナウイルスの影響で、売手企業の得意先や仕入先が直接的・間接的に海外(特に中国等)に依存している場合に、得意先や仕入先との取引が一時的に停止していることが考えられます。これらの事象の有無を正確に把握して、事象がある場合には、経営に対する影響を把握する必要があります。

 

飲食店や宿泊業等であれば、業績が悪化していることは容易に想像されます。それら以外の業種では、例えば仕入先からの仕入ができない状況であるならば、現状の在庫での販売は何か月可能か、仕入先の代替先はあるか、その他の手段はあるか等を確認の上、業績に与えるインパクトを把握する必要があります。

 

このように、既に業績悪化している。あるいは今後業績悪化の可能性がある場合には、譲渡金額へ反映する必要があります。

 

③従業員の在宅勤務等による稼働率の影響

新型コロナウイルスの影響で、従業員にどのような影響があるのかを把握します。現状の勤務状況等を把握して、今後在宅勤務となるような場合に、在宅勤務が可能な体制となっているかどうか等を確認します。在宅勤務等、通常とは異なった勤務形態をとった場合の、稼働率や効率性等を勘案し、業績への影響を検討する必要があります。

 

④株式市場の株価下落による価値評価への影響

新型コロナウイルスの混乱により日経平均株価は大きく下落している状況が続いています。譲渡金額の算定に、上場企業の株価を用いている場合には、どの時点の株価を用いているのかを確認する必要があります。評価の基準日(対象会社の直近の期末日又は試算表等の数値が把握可能な直近月末等)の株価を用いることが一般的であり、新型コロナウイルスの影響による下落前の株価を用いていることが想定されます。この株価の下落の影響を譲渡金額に織り込むかどうかを、買手企業と売手企業で交渉する必要があります。

 

 

 

 

新型コロナウイルスにより、様々な形で多くの企業の事業運営に影響があり、現在または将来の業績に影響を及ぼす可能性が非常に高くなっています。そのため、先行きが見通せない状況を嫌い、M&Aをそもそも見送る場合や延期する場合もあります。M&Aを行わない場合にも様々な影響がありますので、M&A担当者は、どのような影響があるのかを事前に把握した上で、交渉に臨む必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第3回:売却候補先選定の考え方

~M&Aの買手による違い、スキーム、売却後の経営体制、売却価格、売却スケジュールなど~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A における買手先選定の着眼点と手続きを教えてください。

 

A、買手には同業他社や既存取引先、また属性としてはオーナー系事業会社、上場企業、投資ファンドなど様々考えられますが、何を重視するかによって適した買手が異なってきます。

 

 

図表は買手候補とM&A の全体方針の関係についてまとめたものです。

 

まず、①同業他社ですが、事業に関する説明をする必要がないので自社の良い面も悪い面も評価されます。数字には表れていないが卓越した製造技術や特許を保有していたり、大手の会社と取引口座を持っているなど同業であるからこそ評価できるポイントがあります。

 

一方で業界特有のリスクや問題点についても熟知している点は売手にとっては不利になります。ライバル会社の子会社となることを嫌うオーナーも多いですし、それにより従業員の士気が下がる可能性がある点はマイナス要因です。また、情報漏洩や業界内に事業売却のうわさが広まってしまうことも懸念されるので慎重な対応が必要です。

 

 

②の既存取引先への譲渡は実務上よくあるケースです。売手としては相手と長年の付き合いがありますので安心感がある点がメリットとなります。デメリットとしては既存顧客が離反する可能性が挙げられます。複数の上場メーカーを顧客に持つ卸売会社が、そのうちの1 社であるA 社の傘下に入ったところA 社のライバルであるB 社やC 社が商品を買ってくれなくなったといった話もあります。

 

また、同業他社同様、情報漏洩の可能性もあります。M&Aの過程では顧客別の取引条件など機密事項も開示をすることになりますが、M&A が成立しなかった場合、取引先に機密情報を知られただけに終わることにもなりますので情報開示には慎重な対応が必要です。

 

 

③から⑤は買手の属性の比較です。③のオーナー系事業会社であれば意思決定が早くスケジュールが比較的スムーズに進みます。考慮点ですが、オーナー企業はオーナーの個性が企業の個性に強く反映しますので社風が合わない場合、従業員が退職してしまうなどのデメリットが生じます。

 

なお、株価評価については現在、非上場企業による非上場企業を対象としたM&A では仲介会社方式が一般的となります。

 

 

④上場企業は③と全く逆で、デュー・ディリジェンス(DD)や機関決定などの手続きがあるためスケジュールは後ろ倒しになります。

 

また、譲渡価格は厳格なDD を行った上でDCF 法(ディスカウント・キャッシュフロー法)などを用いて決められますので成熟企業の評価額は厳しいものになることが多いです。従業員にとっては知名度のある企業グループに入れることになるので仕事の進め方についていけるかといった課題はあるものの、士気が上がる効果も期待できます。オーナーが従業員の将来を案じて信頼できる上場企業に自社を託すというのはストーリーとしても美しいのですが、上記のデメリットも勘案して候補にするか決めたいところです。

 

 

最後の⑤投資ファンドも基本的には上場企業と同じですが、一番異なるのはファンドは投資の回収で利益を上げないといけないので、原則として3 年~5年後には再売却されるという点です。また、ファンドは金融投資家であり、事業経営のノウハウは持たないことが多いので、交渉次第ですが、株式を売却した後も経営陣として残留できるメリットもあります。

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第4回:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

▷関連記事:M&A における株式評価方法と中小企業のM&A における株式評価方法

 

 

法務デューデリジェンス(法務DD)とは?


1、法務デューデリジェンスの目的

デューデリジェンスを行う際に、買手企業がある程度の規模を有している場合には、財務デューデリジェンスと同様に法務デューデリジェンスを行うことは一般的です。

 

法務デューデリジェンスの目的は対象企業の法務リスクを洗い出すことですが、それらを細分化すると下記の4点に分類されます。

 

 

①事業継続の障害となりうる項目の確認

対象企業について法的な観点から、「その事業が中断されるリスクがある、もしくは当該事業について競争力の源泉が毀損される恐れのある事業が存在するか」を確認します。

 

 

②ディールブレイクとなる項目の確認

ディールにおいて法制度や法規制が阻害要因にならないかを確認します。

 

 

③対象会社の価値を減少させる項目の確認

事業継続そのものや法的問題の解決によって対象企業の収益性が危ぶまれることはないものの、法的問題の解決によって対象企業の収益性が減少する、もしくは資産が毀損するなどにより、企業価値を減少させることとなるような事項を確認します。

 

 

④当該ディールの法的スキームの検討

M&Aを実施することにおいて株式の取得のほか、会社分割や株式移転、事業譲渡など、様々なスキームが発生します。これらのスキームについて、想定通りに実行できるかを検証します。

 

 

 

 

2、法務デューデリジェンスにおける調査分析項目

調査項目は、①会社の基本的事項の確認、②資産・債務の調査、③リース、④契約関係の調査、⑤人事労務関係の調査、⑥訴訟等、⑦知的財産権、⑧環境等多岐にわたります。

 

 

①会社の基本的事項の確認

沿革、法人格と商業登記、株主の概要と大株主の状況、株式の種類と株式数(発行数、授権株式数)、定款、ガバナンス(取締役、監査役会・その他機関)、組織・会議体、許認可の状況、過去の事業買収・合併・事業譲渡・営業譲受等を確認することで、会社の基盤を確認すると同時に、ガバナンスのスタイル等を理解します。

 

 

②資産資産・債務の調査

資産や負債の金額的な分析は財務デューデリジェンスが行うため、法務デューデリジェンスではこれらの法的な評価を行います。

 

 

③リース

リース物件の所有権、契約期間、契約期間中の解約、解約金、瑕疵担保責任、危険負担などの調査を行います。

 

 

④計画関係の調査

会社は一般的に、取引(基本)契約、外注契約、ライセンス契約、共同事業(ジョイントベンチャー)契約等、営業に直接かかわる業務契約以外にも、賃貸借契約、消費貸借契約、債務保証契約、保険契約等、通常、様々な契約を締結しています。契約の承継はスキームによって異なるため、慎重に調査する必要があります。

 

 

⑤人事労務関係の調査

雇用契約の実態や契約の履行状況を把握します。また、労働関連法の遵守状況や、現状の労使関係と今までの経緯、労働紛争の有無等過去の労働争議や従業員との間に法的トラブルがなかったかについて調査します。

さらに、従業員について、属性や雇用契約を把握・調査します。

 

 

⑥訴訟等

訴訟係属中の紛争があれば、その背景や結審の見通し、訴訟にかかる費用、事業に与える影響等について調査します。法務デューデリジェンスで粗相係属中の紛争および予期し得る紛争の存在が明らかとなった場合はその他のデューデリジェンスとの連係が重要になります。

 

 

⑦知的財産権

対象会社の名称や事業名、事業内容が他人の権利を侵害しているリスクの有無を調査します。

 

 

⑧環境

対象会社の関連法令の遵守状況、過去に当局から受けた調査や是正勧告の履歴、当局への報告書類や対応実績等について調査を行います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷第9回:M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

 


M&Aは売り手・買い手双方にとって重要な取引です。特に買い手側ではM&Aのプロセス推進を担うプロジェクトチームが組成されます。

 

プロジェクトチームは経営企画部門、事業部門、財務部門、経理部門等から部門横断的にメンバーを選任する必要があります。M&Aでは、的確な理解力、分析力、判断力といったスキルが求められますので、上記部門において相応の経験や知見をもった社員から構成することが望ましいと考えます。

 

経営企画部門はM&A全体の取り纏め、推進を担います。他部門の意見を取りまとめ、調整し、経営陣とコミュニケーションを取り、案件全体の舵取りを行います。また、後述するフィナンシャル・アドバイザーとの窓口を務め、平時においては案件のソーシングを行うのも経営企画部門の役割であることが多いです。

 

事業部門は、買い手企業と同業の企業を買収する場合等で、特にその知見を発揮することが期待され、そうした場合、ビジネスDDを事業部門が行うケースもあります。

 

財務部門は資金全般を担当します。M&Aでは多額の資金が必要となるケースが多く、財務部門の役割も重要といえます。

 

経理部門はプロジェクトチームの中では後方部隊に位置付けられます。M&Aに伴う業績や財務状況へのインパクトを分析・把握し、事業計画や財務報告に反映させるという非常に重要な役割を担います。一般的な投資家にとって企業のM&Aは将来の業績や株価に影響を与える重要なイベントです。上場企業には、投資家に対してM&Aの目的や狙いを的確に説明するとともに、将来業績への貢献度合いを高い精度を持って予測し開示することが求められています。

 

ここまでは買い手企業の社内におけるプロジェクトチームについてみてきましたが、M&Aを成功に導く上では社内リソースだけでなく社外専門家を活用することも不可欠といえます。多くのM&Aで社外の専門家が起用されます。社外専門家には、案件全般にわたってサポートを行うフィナンシャル・アドバイザー(FA)、デューデリジェンスを行う公認会計士や弁護士等の各種専門家などが挙げられます。通常、一定規模以上のM&Aでは、売り手と買い手それぞれにFAが付き、DD対応や交渉全体の取りまとめを行うことが一般的です。FAには、M&A仲介会社、証券会社の投資銀行部門などが起用されます。

 

M&Aの買い手企業においては、社内のプロジェクトチーム間のみならず、社外専門家ともうまく連携していくことが、プロジェクトを円滑に進める上で大変重要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

▷第8回:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

 


私達が日常生活で接している商品やサービスの売買では、売り手はなるべく高く売りたい、買い手はなるべく安く買いたいと考えるのが自然ですが、売買の対象が株式や事業であるM&Aでもその点は同じです。

 

それでは、実際のM&Aでは対象となる株式や事業の売買価格はどのようにして決まるのでしょうか。

 

 

一般的に、株式等の価値の算定方法にはインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチという3つの考え方があります。

 

 

インカム・アプローチは、将来獲得されるリターン(フリーキャッシュフロー、利益、配当⾦など)を現在価値に割り引くことで株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法としてDCF法、収益還元法、配当還元法などがあります。

 

DCF法は、算定対象の将来キャッシュ・フローを基礎としており、算定対象の将来に亘る超過収益⼒や事業リスクを株式価値に反映させることが可能となるため、⼀般的に、理論価値の算定を行う上で最も合理的な算定手法であると考えられています。一方で、インカム・アプローチに属する方法は、事業計画や割引率、成長率といった前提条件が算定結果に大きく影響を与えるため、客観的なデータに基づいて算定を行う必要があります。

 

 

マーケット・アプローチは、算定対象もしくは類似会社の株価、財務指標等を用いて株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法には市場株価法、類似会社比準法などがあります。

 

市場株価法は、算定対象⾃身の株価を用いる手法であり、類似会社比準法は算定対象と同種の事業を営む会社の株価及び財務指標を用いる手法です。

 

類似上場企業の株価と財務指標の倍率など、一般に入手が容易なデータに基づいて評価を行えることから採用しやすく、また市場株価を用いるため客観性が保たれるという長所があります。一方で、類似企業の選定に恣意性が介入する余地もあり、留意が必要です。

 

 

コスト・アプローチは、算定対象の財産価値をある⼀定時点で評価することにより株式等の価値を算定する方法であり、代表的な算定手法に簿価純資産法、時価純資産法などがあります。

 

コスト・アプローチは、対象会社の貸借対照表に基づいて評価を行える点で採用しやすいという長所はありますが、営業権(のれん)や無形資産等の目に⾒えない資産の価値を算定分析に反映させることが困難であり、また、将来の利益⽔準が価値に反映されない点には留意が必要です。加えて、事業の継続を前提としない価値算定手法と解されるため、事業継続を前提とする企業の価値算定手法としてはそぐわないとも考えられている面もあります。

 

 

このように、3つの算定アプローチにはそれぞれ長所・短所がありますので、実際のM&Aでは、状況に応じてこれらの中から適したものを採用し、場合によっては組み合わせて使うのがよいでしょう。

 

例えば、対象会社や事業の業績が安定していて、なおかつ、合理的な事業計画が策定されているような場合は、インカム・アプローチが適しているといえます。反対に、将来の業績やキャッシュ・フローの予測が難しいような場合には、インカム・アプローチを採用すると評価の客観性や信頼性が損なわれてしまうこともあります。

 

M&Aにおいては、これらの算定手法に基づく理論価値を参考としつつ、直接的には売り手と買い手による交渉で売買価格が決まります。これを示したものが図表1であり、概念的にはスタンドアロンの価値 をベースに一定程度買い手のシナジーを加味した金額で合意されるものと考えられます。

 

買い手の目線では、買収プレミアムの裏付けとなる合理的な材料があるか、例えば、どの程度シナジーが実現されれば売り手の売却希望価格に達するか、シナジーの実現可能性はどの程度あるか、といった検討を行い買収可否の判断を行うこととなります。

 

 

最近のM&A市場では、超低金利政策等により余剰資金を持つ企業が増加していることや、M&Aが多くの企業にとって一般化してきたこと等により、どちらかというと需要が供給を上回る状況にあるのではないかと考えます。買い手企業にとっては、優良な売り手企業を見極める判断力と粘り強い交渉力が求められると言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第2回:M&A 手続きの全体像

~中小企業のM&Aの売手の流れ、買手の流れとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、M&A 手続き全体の流れを教えてください。

 

A、事前準備、探索業務(ソーシング)、実行業務(エグゼキューション)の流れとなります。大企業のM&A では、会計士や税理士の業務はほぼ実行段階に限定されていますが、中小企業のM&A では案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

 

 

図表は相対取引におけるM&A 業務の流れの全体像を示したものです。大きく分けて事前準備、探索業務(「ソーシング」とも言います。)、実行業務(「エグゼキューション」とも言います。)に区分されます。

 

 

まず、事前準備では①売手からの事前相談に基づき、アドバイザーが②秘密保持契約書やアドバイザリー契約書を締結した上で、③案件の概要把握を行い、買手候補に提示する案件概要書を作成します。

 

また、④売却の基本方針、買手候補や譲渡株価の目線について売手と議論を重ねます。次に探索業務の段階では、買手候補に対して⑤匿名情報を開示して興味の有無を確認し、興味を示した候補に対しては⑥秘密保持契約書を締結した上で、⑦案件概要書他、決算書や人事情報などの詳細情報を開示します。

 

 

買手はこうした情報を検討し、株式取得を希望する場合には、株式の取得価格や取得スキーム、その他諸条件を記載した⑧意向表明書を提出します(相対取引の場合は口頭での調整を経て直接基本合意書を締結するケースもあります。)。

 

売手が意向表明書の内容を受け入れることができる場合、⑨基本合意書を締結しますが、基本合意書は法的拘束力を持たせないケースが一般的です。

 

合意書締結後、⑩デュー・ディリジェンスにより対象会社の詳細を調査した上で、株価交渉やその他の条件交渉を経て⑪株式譲渡契約書の締結を行い、売買代金を決済して⑫クロージングとなります。

 

 

大企業のM&A では全体のコントロールは投資銀行や専門のアドバイザリー会社が行うことが一般的ですので、税理士や会計士の業務は実行段階の業務に限定されます。これに対して中小企業のM&A では税理士や会計士が案件全体のコントロールをする役割が求められるケースも増加するものと思われます。

 

前述したとおり、顧問税理士は対象会社の社長と長年にわたる関係を築いていますのでアドバイザーに適任の存在であり、専門業者に任せきりにせず、積極的に関与したいところです。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第3回:「事業デューデリジェンス(事業DD)」とは?

~目的は?調査分析項目とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

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▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

 

事業デューデリジェンス(事業DD)とは?


1、概要

事業デューデリジェンスとは、対象会社の事業性および企業価値の評価をするためには欠かすことのできない重要な調査で、経営管理や事業モデル、将来のキャッシュフロー等を詳細に調査し分析します。また、事業デューデリジェンスで得られた情報を財務デューデリジェンスや事業計画の分析に活用します。

 

事業デューデリジェンスにおける調査の対象は、沿革、経営状況、事業モデル、商品力、労使関係、事業の社会性、経営者のコンプライアンス対応等、会社の経営や事業に関する項目全般であることから、通常その調査は広範に及びます。

 

事業デューデリジェンスで重要なことは、会社を取り巻く外部環境やマーケットにおける位置づけ、各事業のビジネスモデル、内部資源等を充分に把握した上で、会社のSWOTを分析し、事業別の今後の事業計画を策定、検討することです。

 

 

2、事業デューデリジェンスにおける分析

 

事業デューデリジェンスの分析段階では、ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析、収益性分析、事業ポートフォリオなどを行います。

 

①ビジネスモデル分析

事業デューデリジェンスの出発点は、対象会社の各事業におけるビジネスモデルを正しく理解することです。そのためには、対象会社の全般的事項の調査に続き、経営者ないしは、事業部門責任者に対してインタビューを行い、彼らにビジネスモデルを説明してもらうことが必要となります。このインタビューの目的はビジネスモデルを分析し理解することの他に、経営者や事業部門責任者の資質を評価するという目的も併せもっています。

 

経営者や事業部門責任者へのインタビューを行い、ビジネスモデルの大枠を理解できたら、現場で活動している中間管理職や担当者に対してインタビューを行い、各調査項目の詳細を捉えつつ、ビジネスモデルの分析を進めます。

 

②SWOT分析

SWOT分析とは、対象会社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を分析しまとめたものです。

 

SWOT分析の目的は、その企業が持っているビジネスの機会や外的脅威等の「外部環境分析」とコア・コンピタンスや組織体制等の「内部要因分析」から、経営課題を具体化し、事業の方向性を明確にすることです。

 

③マーケット分析

対象会社の各事業が属するマーケットの状況とマーケットに対する自社の商品力の分析を行います。これらは、証券会社やシンクタンク等が発表している業界別のアナリストレポートや行政機関が発表している統計情報を入手し、各業界の有識者へのインタビューを行い、様々な観点からマーケットの現況、過去の状況や傾向、今後の見通し等を分析します。

 

④競合他社分析

対象会社の主要な競合他社を分析し、比較を行います。対象会社の業界内での位置付けや、強み・弱み、改善しなければならない点が明確になります。競合他社分析を行う上での重要なポイントは、財務諸表のみならず対象企業が属するマーケットにおけるKPI(Key Performance Indicator)として用いられる指標の比較を行うことです。

 

⑤収益性分析

ビジネスモデル分析、SWOT分析、マーケット分析、競合他社分析の結果を総合的に勘案した上で、財務デューデリジェンスにより入手した過去の営業成績にかかる情報を加味し、対象企業の各事業の収益性の分析を行います。

 

⑥事業ポートフォリオ

市場成長率および市場占有率の2軸にて、対象会社のポートフォリオの検討を行います。対象会社の現在の立ち位置、各事業の立ち位置、投資の分散の状況などを把握して、今後の戦略に役立てます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

M&A後-グループ企業の統率とホールディングスの活用-  ~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


 

当社のお客様でも1昨年からM&Aが急激に増加していまして年間4-5件のペースでM&Aが成立しています。今年は現状で、すでに3件のM&Aが予定されています。

 

昨年から数百万~数千万円の小規模な事業譲渡に近い案件が増加しており、その傾向はこの後もしばらく続きそうと感じています。

 

知り合いの会社とか取引先とか後継者難の会社を引く継ぐようなケースでのM&Aの活用が増えるでしょう。

 

 

 

そうなると重要なのが増えるグループ企業の管理と統率です。

 

 

 

1、PMI(買収後の体制整備)

一点目は買収後の管理体制です。財務・法務や給与計算労務など様々な問題点があります。それに対する体制整備が非常に重要な論点です。買収するのがゴールではありません(PMIについては「ICTを活用しM&A後の経理体制を合理的に作る【体験記】」をご参照ください」)。

 

 

2、グループの管理体制をどう構築するか

ここは、会社が増えるなどした場合どのような体制を作るかという点です。
支店や事業部のような形で会社の中にセグメントとして置く場合と、持株会社を作りホールディングス化をするケースがあります。

 

持株会社も

A 純粋持株会社(経営管理などだけを行い事業は行わない)
B 事業持株会社(中核会社が事業をやりつつ持株会社の役割もこなす)

 

の2つがあります。

 

どちらがいいかはケースバイケースですが純粋持株会社のほうが、事業を行わない分、事業会社のグループ間の関係が兄弟に近くなります。事業持株会社は親子関係に近いと言えます。

 

また、事業を行わないのでグループ全体の統制や投資活動に責任を持つようなイメージになります。「PL」としての短期の業績管理ではなく「BS」による投資の管理や中長期の視点といった役割求められるといえるでしょう。

 

また、グループ管理ではグループ全体での業績管理に加え決算期の統一なども検討するケースが増えています。

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2020/02/04号)」より一部修正のうえ掲載

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

▷第7回:M&Aのプロジェクトチームはどうする?-社内メンバーと社外専門家の活用-

 


それでは、買い手候補先も見つかり、売却に関する協議交渉が順調に進んだ場合において、どのような点に留意していくべきでしょうか?

 

 

一般的なM&Aプロセスにおいては、買い手側は買収対象会社を対象に、デューデリジェンスという調査を実施します。

 

これは、会社が法律面から正しく存在し運営され、取引先や従業員等との法的な関係がきちんと整備されているかを調査する法務デューデリジェンスや、財務的な数値や会計処理の適切性、会社の税務に関するリスク等を調査する財務・税務デューデリジェンスなどがあります。

 

このデューデリジェンスは、買い手が対象会社から資料や情報の提供を受けて実施するもので、買い手が雇った弁護士や公認会計士や税理士が対象会社にコンタクトを取って資料を依頼したり質問を行ったりします。

 

 

 

 

その際、売り手は第1章で述べたように従業員や取引先に極力知られないように配慮しつつ、デューデリジェンスを受入れなければなりません。

 

このときに、売り手側の経営者が一人でデューデリジェンス対応をすることは現実的には難しいため、例えば、管理責任者や経営者の右腕的な人に相談して、デューデリジェンスの受入れをサポートしてもらうことが必要となります。

 

 

デューデリジェンスを受ける売り手にとっては、問題点を隠すことではなく、全てを詳らかにして買い手に問題点や潜在的なリスクを把握してもらって、それを前提に売買条件等の交渉を行う、ということが重要です。

 

仮に、悪い面を隠し通してM&Aを実行できたとしても、売り手側で意図的に隠していたことがM&A実行後に発覚したりすると、場合によっては譲渡対価の一部を返却しなければならなかったり、損害賠償を求められたりすることになります。

 

 

M&Aの際には売り手側と買い手側双方にて契約を締結しますが、一般的にはその契約書の中に、売り手の開示情報が正しくないことがM&A後に判明した場合は売り手が賠償責任を負う、といった条件が織り込まれるからです(これを表明保証といいます)。

 

 

また、一般的なプロセスでは、デューデリジェンスと並行して価格交渉等が行われますが、その交渉において、会社の収益性や財務内容等を基に、株価算定やValuationと呼ばれる会社の価値を算定するプロセスを買い手が実施することがあります。

 

そこで算出された会社の価値を参考に、売り手と買い手双方が各々希望価格を考慮しながら売買金額の妥協点を見つけて行くこととなります。

 

価格交渉の際には、先に述べたデューデリジェンスでの発見事項が考慮されて、時には価格を下げる要因となったり、または価格を上げる材料となったりします。

 

 

そのため、デューデリジェンスのプロセスは、M&A実行前の非常に重要な手続であることをご理解ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第2回:「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

▷関連記事:財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

▷関連記事:「法務デューデリジェンス(法務DD)」とは?

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

▷第6回:売買価格の決め方は?-価値評価の考え方と評価方法の違い-

 


会社を売却する場合、株式を売却すれば、株式を譲り受けた人に会社の経営権が移りますので、株式を売買することが一般的な方法ではあります。ただし、会社の法人格をそのまま引き継ぐことで何らかのデメリットや将来のリスクが存在するような場合、買い手側が株式の売買ではなく、事業譲渡を希望する場合があります。

 

事業譲渡とは、会社の中の特定の事業であったり資産であったり人であったりをピックアップして売買することです。M&Aの際に、何らかの事情があって株式売買がそぐわないと判断された場合に、事業譲渡スキームがとられることがあります。

 

 

では、事業譲渡を選択した場合にどういったメリットがあるのでしょうか。

 

まず、買い手から見ると、会社そのものを取得して会社を経営していく場合に、もしかすると隠れた債務や将来の税務等のリスクをも一緒に承継してしまう可能性があると判断される場合や、引継ぎたくない事業や資産・負債等がある場合は、それらのリスクを遮断するために法人格そのものは承継せずに、必要な事業とそれに付随する資産や人のみを譲り受けるという選択を採ることができます。

 

そうすることで、元々の法人格にリスクや隠れた債務等を残したまま、買収したい事業のみを承継することができます。

 

 

一方、売り手から見ると、売りたい事業だけを売却できる方法でもあります。株式を譲渡すると会社の全ての経営権が移ってしまいますが、例えば、いくつかの事業を営んでいたものの、事業のリストラを検討した結果、ある事業をどこかに承継してもらいたいというようなケースにおいては、事業譲渡が選択されることもあります。

 

しかし、事業譲渡にはデメリットもあります。特定の事業や資産や人を承継する場合には、対象となる資産等を一つずつ特定して承継しなければなりません。

 

取引先との契約があれば、それら全ての取引先から承諾を得た上で契約を巻き直す、もしくは契約を移すという手続が必要となります。

 

また、人については、会社そのものの経営権が移るのであれば全従業員が会社にそのまま在籍する形となり、会社と従業員の雇用関係には影響はありませんが、事業譲渡の場合は、譲渡される事業に従事する従業員を個別に説得して新たな会社に移ってもらう、という手続が必要となります。

 

そのため、それらの手続が簡略化出来るよう、事業譲渡のような煩雑な手続を行わずに、包括的な手続によることを可能とする会社分割という手法なども認められています。

 

その他にも、2つの会社の株主を入れ替える株式交換という手法や、2つ以上の会社を統合して1社にまとめる合併という手法などもあります。

 

 

 

 

どのような手法を採るにしても、M&Aのスキームについては、売り手と買い手の協議によって決められますから、メリットとデメリットを慎重に検討して双方納得の上で決定する、ということが肝要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「廃業・清算を選択した場合の検討すべき方策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑨~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題したテーマの最終回となる今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプD(健全性が低く親族内後継者がいない会社)に着目します。前回(令和元年5月第3号)は廃業・清算という選択に至る前に事業存続に向けて検討すべき方策を説明いたしましたが、今回は後継者不在や厳しい将来性等からやむを得ず廃業・清算という選択をした場合に、検討すべき方策について紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 山田隆寛/公認会計士

 


【廃業・清算を選択した場合の検討すべき方策】

廃業をする場合、取引先・従業員・金融機関等多くの関係者に多大な影響を及ぼし、また場合によっては経営者の個人資産への影響を及ぼすため、廃業に向けた事前の準備が必要となります。会社の財産状況によって廃業の手続や対応が異なってくるため、会社の財産状況の把握(『資産超過』か『債務超過』かの判断)が重要となります。財産状況の把握において、資産については個々の資産を簿価ではなく処分価額で評価することになります。また、負債については賃貸借契約の違約金等の貸借対照表に現れない簿外債務の検討が必要になるため、専門家の利用が有効と考えられます。

 

【会社の財産状況に応じた清算の流れ】

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※ 経営者保証に関するガイドラインとは
中小企業の経営者が金融機関等と締結している個人保証(経営者保証)について、保証契約を検討する際や、金融機関等の債権者が保証履行を求める際における、中小企業・経営者・金融機関の自主的なルールを定めたもの。

 

いずれのケースにおいても会社が赤字の場合は、事業が長引くほど会社の財産が目減りしていくことになりますので、できるだけ早期の廃業を目指すことが有効になります。特に、『経営者保証に関するガイドライン』による保証債務整理をする際には、早期に債権者の同意を求めることで、個人資産を手許に残せる可能性が高くなります。

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年6月20日)より再編集のうえ掲載