[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第5回】PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

 

 

 

 

【図表1】PPAにおける無形資産評価の一般的なプロセス

 

 

前回は無形資産の認識プロセスについて詳しく解説したが,今回は,無形資産の認識を行った後の測定プロセスについて解説します。

1.無形資産の測定プロセスの概要

前回説明したように,無形資産の評価実務においては,認識プロセスにおいて初期的資料の分析や買い手企業へのインタビュー等を実施し,認識すべき無形資産を特定します。

 

その後の測定プロセスにおいては,認識対象と判断した無形資産についての定量的な評価を,価値評価の実務に基づいて進めることとなります。

 

無形資産評価においては,他の資産の価値評価の場合と同様に,絶対的な解が存在するわけではなく,個々の案件において概ね合理的かつ妥当と考えられる算定結果を導くことがゴールとなります。

 

そのために,評価者は無形資産の認識プロセスにおいて買収案件の目的や被買収企業の事業特性等を理解した上で,測定プロセスにおいてそれらの理解に基づき適切と考えられる評価手法の選択や前提条件の設定を行い,無形資産価値の測定を行います。

 

以下,無形資産の測定プロセスにおいて検討すべきポイントについて,どのような考え方に基づき評価手法が選択され,また,選択された評価手法における前提条件にはどのようなものがあるのか,といった点から概観していきます。

 

 

【測定プロセスにおいて検討すべきポイント】

(1)基礎となる考え方(公正価値アプローチ)

(2)評価手法・評価アプローチの選択

(3)評価上の前提条件等の検討

  •    ①認識する無形資産の関係性
  •    ②WACC・WARA・IRR
  •    ③事業計画
  •    ④経済的耐用年数
  •    ⑤節税効果
  •    ⑥人的資産の評価

 

 

(1)基礎となる考え方(公正価値アプローチ)

公正価値の概念は,PPAにかかる無形資産価値評価において基礎となる非常に重要な概念であり,無形資産はこの公正価値の概念により測定される。IFRS13号「公正価値」によれば,公正価値とは「測定日時点で,市場参加者間の秩序ある取引において,資産を売却するために受け取るであろう価格又は負債を移転するために支払うであろう価格」とされます。

 

これは,無形資産の評価は,一般的な市場参加者の見地に立って行わなければならないことを意味しています。日本基準においても,企業会計基準適用指針第10号に同様の内容が規定されており,公正価値とは(1)観察可能な市場価格に基づく価額であり,(2)(1)がない場合には,合理的に算定された価額とされています。

 

また,合理的に算定された価額による場合には,一般的な市場参加者が利用する情報や前提等が入手可能である限り,それらに基礎を置くこととし,そのような情報等が入手できない場合には,見積りを行う企業が利用可能な独自の情報や前提等に基礎を置くものとされています。

 

合理的に算定された価額は,一般に,コスト・アプローチ,マーケット・アプローチ,インカム・アプローチなどの見積方法を採用することが考えられ,資産の特性等により,これらのアプローチを併用又は選択して算定することとなります。この点について,IFRSと日本基準の考え方に差異はないものと解されます。

 

 

(2)評価アプローチ・評価手法の選択

上述の3つのアプローチについて解説します。

①インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは,評価対象資産から得られる将来の経済的便益の総和を現在価値に割引くことにより,評価対象資産を評価する手法です。

無形資産評価の実務ではほとんどのケースにおいて採用される主要な評価手法です。代表的な算定方法に,ロイヤリティ免除法,超過収益法などがあります。

 

②マーケット・アプローチ

評価対象資産あるいは評価対象資産に類似した資産の取引市場における取引価格を参考にして,評価対象資産の価値を算定する手法です。

 

③コスト・アプローチ

無形資産を構成する要素それぞれの再調達原価や複製原価を算定し,集計した額を評価対象資産の価値とする手法です。実務では,のれんに含まれる人的資産の評価等に用いられることが多いです。

 

 

【図表2】評価アプローチと留意事項

 

 

(3)評価上の前提条件等の検討
①認識する無形資産相互の関係性

複数の無形資産が認識される場合においては,対象会社の事業遂行上,無形資産の収益貢献度合や無形資産相互の関係性について理解・把握し,算定分析を行うことが必要であります。

 

例えば,非常に強力な製品ブランドを有する事業において,ブランド力を背景として顧客との取引関係が構築されていると考えられるようなケースにおいては,ブランドを主たる無形資産,顧客関連資産を従たる資産と捉えるのが合理的です。

 

このような関係性は,無形資産の算定上,評価手法の選択や計算過程において考慮されます。一方で,複数の無形資産が存在するものの,それぞれが相互に補完し合うことなく独立して機能し,収益稼得に貢献しているといった場合であれば,無形資産相互の影響については考慮せず,各々を個別に評価するのが合理的と考えられます。

 

 

②WACC・WARA・IRR

無形資産の測定には主にインカム・アプローチが用いられるため,割引計算に必要なWACC(加重平均資本コスト),WARA(加重平均資産収益率)といったパラメータを設定する必要があります。

 

設定にあたっては,対象案件におけるIRR(内部収益率)が参照されます。実務上は,WACC・WARA・IRRの整合が求められることが多いです。

 

 

③事業計画

PPAにおける無形資産評価は,端的に言えば,将来キャッシュ・フローからもたらされる経済的価値を無形資産とのれんに配分する手続です。将来キャッシュ・フローの構成要素のうち,無形資産の価値とのれんの価値を,事業計画上のキャッシュ・フローに基づき測定します。

 

通常,買収案件の検討時においては,複数の事業計画が策定されるが,測定の実務では,公正価値アプローチに基づき一般的な市場参加者の観点と整合的な事業計画が採用されます。

公正価値アプローチでは,買い手が誰であろうと,買い手の特性等については価値に影響を及ぼさない,という前提に立つため,買い手企業によってのみ実現可能なシナジー効果からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産の構成要素とは看做さずに,のれんの構成要素となります。

 

また,こちらも重要なポイントであるが,PPAの無形資産評価において測定対象となるものは,評価基準日時点に存在する無形資産です。

したがって,無形資産は,評価基準日時点において既に存在する顧客・契約・技術・製品等から生じるキャッシュ・フローに基づき測定・評価されなければなりません。対象企業が将来獲得すると想定する顧客・契約・技術・製品等からもたらされるキャッシュ・フローは,無形資産ではなくのれんの構成要素となる点に留意が必要です。

 

 

【図表3】キャッシュ・フロー配分の概念図

 

 

④経済的耐用年数

経済的耐用年数は,測定される資産価値に影響するとともに,無形資産の会計上の償却年数にも影響を及ぼす実務上最も重要な論点であると考えられ,十分な分析・検討が必要となります。

 

無形資産評価において難しいのは,例えば,有形固定資産であれば,税法上の規定など資産の種別に応じた耐用年数に関する指針等が存在しますが,PPAにかかる無形資産評価の場合そのような個別具体的な指針はなく,認識される無形資産について個別的な検討が求められます。

 

実務上は,下表にあるように,商標権や契約関連資産で法的保護期間(契約期間)が明示的なものについては,残存保護期間や更新可能性が考慮されることが多いです。一方,契約期間が不明確な契約関連資産や顧客資産については,取引の継続実績や過去の顧客減少率といった,被買収企業から入手できる関連データを総合的に勘案して,経済的耐用年数が決定される場合が多いです。

 

 

【図表4】経済的耐用年数の検討材料(例)

 

⑤節税効果
無形資産価値の測定において,当該無形資産の償却による節税効果を,資産価値に含めることが一般的です。連結財務諸表のみに無形資産が計上され,実際の単体決算の税務申告上,償却費が発生しないような場合であっても,償却を擬制して節税効果を見積もり,その価値を加味する場合がある点に留意ください。

 

 

⑥人的資産の評価

人的資産は,インカム・アプローチに属する評価手法である超過収益法が採用される場合に測定が必要となります。一般的に,企業買収において,買収者は資産設備等以外に,対象会社の組織化され訓練された労働力を得ることとなります。

 

そのため買収者は,対象会社の事業を継続運営する上で,新たに人を採用し,訓練するためのコストを節約できたとみなして,当該節約コストを見積ることによって人的資産の価値を概算することとなります。具体的な概算方法としては,評価基準日時点の人員を採用して,職務を果たせるレベルまで教育訓練した場合に生ずるコストの合計値が人的資産の価値となります。

 

 

2.最後に

今回は無形資産の測定プロセスを解説したが,測定プロセスの流れや検討すべきポイントについてご理解頂けたでしょうか。無形資産の測定においては,選択される評価手法や設定される前提条件等によって測定結果が大きく異なります。よって,測定プロセスは慎重かつ適切な判断に基づいて進めることが必要です。

 

次回は,無形資産の測定プロセスにおける代表的な評価手法について解説します。

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー(2020年6月下旬公開予定)
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

⑨M&A時の会計処理は?-企業業績へのインパクトは!?-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 


M&Aを実施した際の会計処理について留意すべき点はどのようなものでしょうか。

 

M&A完了後、買い手が対象会社の支配権を取得する場合は、買い手において、対象会社の財務諸表を連結処理することになります。現在では、日本基準、IFRSともに買収に伴って受け入れる資産・負債は公正価値(時価)で計上することが求められます。

 

この会計処理がPPA(パーチェスプライスアロケーション=取得原価の配分)と呼ばれるものです。PPAは、株式等の取得対価を、受け入れた資産・負債に配分する手続であり、①資産・負債の時価評価(広義ののれん金額の確定を含む)と②無形資産の識別・評価、という2段階で検討されます。

 

①資産・負債の時価評価

前述のDD等を通じて資産・負債の時価は概ね把握されていることが多く、この段階までにほとんどの資産・負債の時価評価が完了していることが通常です。この例外に、棚卸資産の評価があります。M&A時の会計処理では、重要性等にもよりますが、ステップアップという手続により棚卸資産の評価替を行います。棚卸資産の評価額は、想定売価から売却に要する費用と販売活動に対する合理的な利益相当額を控除して求められます、この結果、買収後の活動(販売活動)による利益のみが、将来の棚卸資産の販売により実現することになります。

 

対象会社の貸借対照表に計上されている資産・負債の時価評価が完了すると、連結貸借対照表上で生じる広義ののれんの金額が確定します。M&Aの結果、のれんがどの程度発生するかという点は、買い手企業の将来の業績にも影響を及ぼすことから、特に企業のCFOや経理部門の方々にとっては大きな関心事であろうと思います。これに続いて、のれんと無形資産の配分をどのようにするかという検討が行われます。

 

 

②無形資産の識別・評価

無形資産の識別・評価手続では、会計上の無形資産の識別要件に照らして、識別が必要となる無形資産の有無を検討し、計上される無形資産があればその定量的評価を行います。無形資産の識別・評価手続は公正価値アプローチ(一般的な市場参加者の視点に立ち、客観的・合理的な評価を行うこと)の視点が求められることから、のれんの金額がごく少額となる場合等を除いて、買い手企業自身が無形資産の識別・評価を行って会計処理まで完結させることは少なく、多くの場合、買い手企業やその会計監査人から独立した評価者が第三者評価を行い、その結果に基づいて会計処理が行われます。

 

なお、M&Aに伴い生じるのれんや無形資産の会計処理は、日本基準のコンバージョンが進みIFRSや米国基準との差異が解消されつつある現在、いわゆるGAAP差異が残っている数少ない領域といえます。ご存知のように、日本基準ではのれんの償却が強制されますが、IFRS、米国基準では非償却とし、毎期減損テストの対象となります。このため、のれんと無形資産の配分を行うPPAの処理が与える業績へのインパクトは、日本基準適用会社よりもIFRS・米国基準適用会社においてより大きなものとなります。無形資産とのれんのGAAP差異をまとめたものが下表となります。

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第3回】PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(松本 久幸/公認会計士・税理士)

 

1.何を無形資産として認識すべきか?

第3回は,PPAを実施した際に計上すべき無形資産をどのように認識するか,について解説します。

まず,のれんと無形資産の関係について,図表1をご覧ください。

 

PPAに関する会計基準がなかった時代は,図表1(左側)の図の買収価額と資産・負債の時価(=時価純資産額)との差額がのれんとして計上され,償却されていました。

 

PPAに関する会計基準導入後は,原則として当該差額の内訳として無形資産が計上されることとなります。

(差額を超える無形資産が計上される場合は,差額を超える金額が負ののれんとして取扱われることとなる。)

 

 

 

【図表1】PPAにおける無形資産評価手続の概要

 

 

 

 

 

図表1(右側)の図のように,無形資産を計上する際には,2つのステップが必要となります。

 

Step1が,本稿の主題である何を無形資産として認識するかであり,

Step2が,Step1で認識した無形資産の評価額の算出,です。

 

その意味では,Step1において認識すべき無形資産を的確に把握しないと,そのあとの無形資産の評価にまで影響を及ぼし,見当違いな無形資産が貸借対照表に計上されることとなるため,無形資産の認識の手続は,PPA手続の最初の山場となるところであり,しっかりした分析と検討が必要となります。

 

また,この段階で「無形資産として認識すべきものはない」との結論が導き出されることもあり得ます。その場合,無形資産の評価の手続は省略されます。

 

 

2. 無形資産の認識基準‐IFRSと日本基準

PPAにおける無形資産の認識基準は,厳密にはIFRSと日本基準の認識基準は微妙に異なるものとなっています。

日本基準では,分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には,当該無形資産は識別可能なものとして取扱う,とされ,分離して譲渡可能かどうかが実質的な判断基準となっています。

 

一方,IFRSでは,資産が分離可能かどうかを問わず,契約または法的権利から生じている場合は識別可能とされ(契約・法律規準),契約・法律規準を満たさない場合でも,分離可能であれば識別可能とされます(分離可能性規準)。

 

また,日本基準においては,分離して譲渡可能な無形資産とは,当該無形資産の独立した価格を合理的に算定できなければならないとし,企業結合の目的の1つが,特定の無形資産の受入れにあり,その無形資産の金額が重要になると見込まれる場合には,当該無形資産については分離して譲渡可能なものとして取扱う,とされています。

 

日本基準の認識基準は少し分かり辛いですが,意訳すると日本基準もIFRSも,法律や契約で保護されるものであるかどうか,または,分離して譲渡可能かどうか,ということが実質的な判断基準となります。

 

商標や特許は,登録されていれば法的に保護されているので,無形資産としての認識基準を満たしていることとなります。

 

一方で,商標登録をされていないがブランドとして広く認知されているものや,特許として登録はされていないが特殊な技術で価値があるものについては,法的に保護はされないが,分離して譲渡することが可能(簡単に言うと,売却することが出来る)であることから,日本基準においてもIFRS基準においても無形資産としての認識基準を満たしていることとなります。

 

 

3.具体的な無形資産の例示

無形資産の認識基準は上述のとおりですが,実際は,対象会社の業種やビジネスの概要,商流等から,何が無形資産として認識されるのかを分析・検討していくこととなります。

 

本稿では,具体的に無形資産の例示を見ながらポイントを解説します。こちらをご覧頂ければ,どのような業種の会社にどのような無形資産が認識されるか,ポイントをご理解頂けるのではないでしょうか。

なお,当該例示は,認識される全ての無形資産を網羅しているものではない点にご留意ください。

 

 

①マーケティング関連の無形資産

マーケティング関連の無形資産の例示は,図表2のとおりですが,実際に認識される無形資産は,ほとんどが商標・商号・ブランドです。筆者の経験上は,その他のものについて実際に認識されることは稀です。

 

 

 

【図表2】無形資産の例示(マーケティング関連)

 

 

 

 

②顧客関連の無形資産

顧客関連の無形資産の例示は,図表3のとおりです。顧客関連の無形資産は,業種に関係なく認識されます。

顧客との関係に価値があるかどうかは,主観的な判断が伴う場合も多いので,対象会社のビジネスにおいて顧客との関係が収益稼得の源泉となっているかどうかを,ヒアリング等で把握して分析・検討していくこととなります。

 

もし仮に,製造業の会社で,特定の顧客との関係があって,その顧客が対象会社の製品を購入しているために対象会社のビジネスが成り立っている場合においても,顧客が対象会社製品の機能や品質等の技術的なものを評価して購入しているような場合は,その技術が存在しなくなった場合に顧客関係は継続されないことも推測できることから,そのような場合においては,顧客関係を無形資産として認識すべきかどうかについては,より慎重な分析・検討が必要となります(図表6参照)。

 

 

 

【図表3】無形資産の例示(顧客関連)

 

 

 

 

③契約関連の無形資産

契約関連の無形資産の例示は,図表4のとおりです。多くの会社は,様々な取引先と種々の契約を締結しています。そのため,全ての契約について個々に検討することは現実的ではありません。

 

ポイントは,その契約が,会社の収益稼得に貢献する重要なものであるかどうかです。会社が収益を稼得する際に必要不可欠な契約,その契約が解除された場合に会社の収益が激減する契約等,直接的・間接的を問わずに,そういった契約がないかどうかをインタビュー等にて洗い出していくこととなります。

 

 

 

【図表4】無形資産の例示(契約関連)

 

 

 

 

④技術関連の無形資産

技術関連の無形資産の例示は,図表5のとおりです。製造業においては,特許や特許を含む技術が認識されることが多いです。

 

 

 

 

【図表5】無形資産の例示(技術関連)

 

 

 

4.まとめ

以上のように,実務上,無形資産の認識は,対象会社の業種やビジネスの概要,商流等を把握しながら,無形資産の例示に当て嵌めて,何を無形資産として計上すべきかを分析・検討していくことになります。

 

業種によっては,簡単に無形資産を認識することができる一方,ビジネスが複雑であったり,特殊な業種であったり,または複数の事業を営んでいるような会社の場合は,無形資産の認識についてはより慎重な分析と検討が求められることとなります。

 

無形資産として何を認識するかが,そのあとの無形資産の評価額の算出の際に,評価手法の選択であったり,経済的耐用年数の設定である場合についても影響し,評価額そのものが大きく変動する可能性があります。そのため,的確に無形資産を認識しておくことが肝要です。

 

勘所をご理解頂ければ,買収前においてどういった無形資産が認識されるのかをある程度推察可能となることから,事前検討の際には是非本稿を一読頂ければ幸いです。

 

最後に,筆者が無形資産の認識を分析・検討する際に用いている「無形資産の所在の考察」に関する簡単な図を掲記します。

このように商流や仕入先,顧客との関係性を整理すれば,自ずと何を無形資産として認識すべきかが見えてくることとなります。

 

 

 

【図表6】無形資産の所在の考察(例)

 

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?(2020年4月公開予定)
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第2回】PPAのプロセスと関係者の役割とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(大和田 寛行/公認会計士・税理士)

 

 

1.M&AのプロセスにおけるPPA

第2回では,PPAを進めるにあたってのプロセスに登場する人物(ステークホルダー)とその役割,当該登場人物の関係性等について解説します。

 

M&AのプロセスにおけるPPAの実施時期は図表1のとおりです。

 

 

 

【図表1】M&AのプロセスにおけるPPA

 

 

 

 

PPAは,M&Aによって取得する資産及び負債の金額を確定する会計処理であり,会計基準上,企業結合日(取得日)から最長1年以内に処理することが求められます。一般的な実務では,各種のデューデリジェンスが終了した後,価格交渉・調整等を経てクロージングが見えてきた段階でPPAの準備作業に入り,クロージング日の属する会計期間の期末決算時において,会計処理を確定させるというスケジュールで進められることが多いです。

 

近年では,M&Aを重要な成長戦略と位置付け日常的に調査・検討を行う企業も増加しており,M&Aは企業にとってより身近なものとなってきています。監査の厳格化等の流れの中で,PPAが必要となるM&Aも増加傾向にあり,最近ではデューデリジェンスや株式価値評価の段階で,M&Aを実行した場合に発生が予測されるのれん及び無形資産の金額や,償却による損益インパクトをシミュレーションするプレPPAが行われるケースも増えています。

 

プレPPAの利点は,早い段階で買収企業の業績への影響を把握できることや関係者間の情報共有や意見調整等の準備を整えることにより,本番のPPAをスムーズに進められることです。

 

 

2.PPAにおける登場人物

続いて,PPAに登場するステークホルダーとその関係性についてみていきます。

 

図表2はM&Aの当事者である買収企業を中心に,左側を買収企業の監査法人グループ,右側を外部評価者として,4者のやりとりを図示したものです。

 

買収企業から依頼を受けた外部機関が,買収企業及び被買収企業が提供する情報に基づき,PPAにかかる無形資産評価を実施し,その評価結果が監査上妥当であるか否かについて,買収企業の監査法人とレビュー専門家が検討を行う,という流れです。

 

 

 

【図表2】PPAにおけるステークホルダー関係図

 

 

 

 

PPAは,M&Aにより取得される資産・負債の金額を確定する手続であり,その結果計上されるのれん及び無形資産の償却等を通じて,買収後の企業業績や事業計画に直接的な影響を与えます。特に,大規模なM&Aになると,PPAが企業の業績や経営そのものに与える影響は重大なものとなることから,監査上も重要なテーマの一つとなって,監査法人が専門家をアサインしてレビューを行うこととなります。

 

では,PPAにおける無形資産評価は具体的にどのような方法で行われるのでしょうか。

 

PPAに関連する会計基準においては,PPAは一般的な市場参加者の目線,すなわち公正価値アプローチによって評価しなければならないという原則論や,無形資産の認識要件は示されているものの,評価手続に関する具体的な指針や詳細な規定といったものは存在しません。無形資産の評価は,株式価値評価等と同様に一般的な実務上確立された手法に則って,多くの場合は将来予測やファイナンス理論といった見積りや不確実性が伴う前提条件に基づいて行われます。

 

このような性質から,PPAは評価の前提条件や採用する考え方等によって,結果が大きく異なってしまう点に留意が必要です。

 

すなわち,不適切な前提条件や評価手法等を採用すると,不適切な結果につながってしまうというリスクを孕んでいるため,適切な前提条件や評価手法を採用することが大前提となります。当然のことながら,そのためには必要な専門的知識や十分な実務経験が要求され,多くの場合,そのような条件を満たす評価機関が買収企業をサポートする外部評価者として起用されることになります。また,見積りには主観的要素や恣意性が介入する余地があり,PPAを通じた利益操作や不適切な処理が行われる恐れもあることから,監査上重点項目として扱われる点にも留意が必要です。

 

以下では,PPAの一般的なプロセスと関係者間のやり取りについてみていくこととします。

 

 

 

【図表3】PPAにおける無形資産評価の一般的なプロセス

 

3.PPAのプロセス

(1)無形資産の認識・測定

買収企業において,PPAに関与するのは,M&Aの実行部隊である経営企画部門,会計処理や開示を行う経理部門等です。外部評価者が起用される多くのケースでは,必要な情報が全て揃っていれば,PPAの検討開始から会計処理の確定まで最短であれば2ヵ月程度で行うことが可能と考えられますが,そのような期間で手続が完了するケースは少ないです。

 

例外もありますが,M&Aのクロージング前から検討を開始し,結果的にはその期の期末決算で会計処理を確定させるようなスケジュールとなる場合が少なくありません。効率的にPPAを進める上で初動は非常に重要です。PPAの分析開始の段階で必要な資料が全て揃っていると評価者の分析が遅滞なく進み,結果として買収企業との意見交換や調整に十分な時間をかけることが可能となります。このため,買収企業においては,M&A実施段階からPPAを念頭におき,必要な情報を収集・整理しておくことが肝要となります。

 

特に,海外企業を買収する場合等は,PPAに使用する情報をデューデリジェンスの段階で入手しておけば時間と手間の節約になるため,頭に入れておくとその後の手続がスムーズとなります。

 

質疑・インタビューは,外部評価者が買収企業の案件責任者やキーマン,そして被買収企業のマネジメントを対象に行います。また,無形資産評価の基礎となるクロージングB/S(買収企業の財務報告において連結対象となる貸借対照表)の入手に時間を要する場合は,仮のB/Sに基づき予備的評価を行うこともあります。以上を経て,評価結果のドラフトが買収企業に提出されます。

 

 

(2)評価結果の確認
買収企業は,外部評価者の評価結果について,自社の認識や理解との間に不整合や矛盾がないかどうか,また,自社の会計方針等に照らして受入可能な内容となっているか等を確認します。

 

必要な場合は外部評価者との間で適宜ディスカッション等を行い,監査法人に提出します。評価を外部機関へ依頼する場合においても,評価結果とそれに伴う会計処理及び開示に関する責任は,買収企業が有する点に留意ください。

 

 

(3)監査法人及び専門家によるレビュー
監査法人及びレビュー専門家が,買収企業が提出した無形資産評価結果の合理性,妥当性等について検討を行います。PPAの実務は,専門的な知見が必要となることから,通常は監査法人と同一ファーム内の専門部署がレビュー専門家として起用されるケースが多いです。

 

レビュー専門家は,PPAや価値評価に精通したプロフェッショナルでありますが,監査法人の意見形成にも影響を与える重要な役割を担うことから,PPAや価値評価の実務のみならず,監査実務に対する理解も求められます。

 

 

(4)調整及び会計処理の確定
監査法人及びレビュー専門家が,無形資産の評価手続に関し,外部評価者及び買収企業に対し,質問等の監査・レビュー手続を行います。前述の通り,無形資産評価は見積りの要素を含み,いわば絶対的な解が存在しない類のものであるため,専門家同士でも見解が異なる状況がたびたび生じうることがあります。

 

特に,インカム・アプローチにより評価を行う場合のWACC(加重平均資本コスト)や継続成長率,認識した無形資産の経済的耐用年数といった重要項目は,しばしば論点となるところです。

 

外部評価者には,買収企業の会計上の要請に最大限配慮しつつ,監査法人やレビュー専門家からの厳しい質問や指摘に対応する高度な専門性と調整能力が求められることとなります。

 

実務においては,この手続だけで1ヵ月,場合によっては数ヵ月を要するケースもあります。

 

監査上の論点が事業そのものに関係するようなケースでは,当事者である買収企業を含めた4者でのディスカッション等が必要となる場合もあります。買収企業においては,PPAにかかるのれん及び無形資産の会計処理について,早い段階で監査法人に相談しておくことも有用です。

 

以上のプロセスが完了した後,買収企業において,評価結果に基づく財務報告(会計処理・開示等)が行われます。

 

 

4.まとめ

本稿で最も強調したい点は,それぞれに異なるミッションを持った4者が,限られた時間の中で必要十分なコミュニケーションをとって,議論をしながら,最善の結果を導くべく,協力して手続を進めていく必要があるということです。これら一連のPPAのプロセスは,企業の経理担当者の立場からみると,監査法人への対応,外部評価人との連携,社内関係部署への報告・説明など,相当なタスクが生じる点にも留意ください。

 

特に,大企業においては,監査対応を行う経理部門とM&Aを実行した経営企画部門との連携は非常に重要です。通常,企業担当者がPPA評価を自ら行うケースは少ないと思われますが,手続全体をスムーズに進める上で,PPAの実務に対する理解を深めておくことは有用です。

 

 

5.無形資産評価に必要な資料の例

最後に,一般的なPPAにおいて必要とされる情報・資料についてみていきます。

 

必要な情報は,デューデリジェンス(DD)報告書等,M&Aの実施段階で入手されるものがほとんどですが,定量的,定性的,さまざまな情報が必要となります。無形資産評価において採用される方法によっては,下記資料の他に,顧客データや人事データ等が必要となる場合があります。

 

 

PPAにおいて必要となる資料の例

・買収案件の概要や買収目的に関する資料
・買収案件に関するインフォメーションメモランダム
・買収対象会社の決算書
・買収対象会社の税務申告書
・財務・税務DDレポート
・法務DDレポート
・ビジネスDDレポート
・株式譲渡契約書
・株式価値算定レポート
・対象会社の将来事業計画
・事業上のシナジー効果に関する検討資料
・対象会社のクロージングB/S(連結開始対象B/S)

 

次回は,無形資産の認識要件について解説します。

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPAの基本的な考え方とは?
第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?
第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?(2020年3月公開予定)
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

[関連解説]

■デューデリジェンスとは?-各種DDと中小企業特有の論点―

■財務デューデリジェンス(財務DD)の費用の相場とは?

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

②「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い

~会計監査とは? デューデリジェンスとは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

「会計監査」と「デューデリジェンス(買収監査)」の違い


デューデリジェンスとよく比較される調査行為に会計監査があります。デューデリジェンスと会計監査は、会計情報等を調査するという面では類似する部分もありますが、両者の目的は基本的には全く異なります。

 

 

会計監査は企業が作成した財務諸表が、一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適正に作成されているかを調査し、監査意見を出すことを目的としています。これに対して、デューデリジェンスとは、ある特定の者や企業が関心を持っている企業について、その特定の目的を満たすための範囲と深度で調査が実施されます。

 

その特定の目的で主なものは、M&Aの買手企業が売手企業の買収調査により、M&Aを実施すべきか、実施する場合の金額その他の条件面、買収後の統合に必要な情報等を取得することを目的とします。

 

他にも、金融機関からの借入の返済が滞る等して、金融機関からの金融支援が必要な場合に、事業再生計画を策定しますが、その前段として実態を把握する目的でデューデリジェンスを実施します。

 

 

また、会計監査は、その手続きや基準が法律や業界の規律によって規定されていますが、デューデリジェンスは、特定の者(M&Aの場合は買手企業、事業再生の場合は金融機関等)のニーズに応えるために行われる私的な調査であるため、実施方法や基準等は法律等では定められておりません。

 

さらに、会計監査はどのような手続きを実施して、どのような結果が得られ、結論に至ったのかを詳細に記述する必要があります。それらの監査証拠の積み重ねにより監査意見を形成し、監査報告書を監査対象企業に提出します。監査報告書はひな形が存在し、基本的にはひな形通りに記述します。

 

一方でデューデリジェンスでは、特定の者や企業に対してデューデリジェンス報告書を作成しますが、その報告書にどのような内容が記述されるかは、報告書の受け手、すなわちデューデリジェンスの依頼人の目的・ニーズによって異なります。

 

M&Aにおけるデューデリジェンスであれば、買収するにあたり必要な情報(買収価格に影響を与える事項、契約書に記載すべき事項、買収後の統合に必要な情報等)が記載されるべきですし、事業再生であれば、窮境に陥った原因やその除去可能性、金融機関目線での財務情報等が記載されるべきでしょう。

 

 

 

以上のように、会計監査とデューデリジェンスは、法令に定めれているものと私的に実施されるものであることから、実施すべき手続きや報告書への記載事項等が大きく異なります。

 

 

 

 

 

[経営企画部門、経理部門のためのPPA誌上セミナー]

【第1回】PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

 

〈解説〉

株式会社Stand by C(角野 崇雄/公認会計士・税理士)

 

1.はじめに

今回からおおよそ12回にわたって取得原価の配分(Purchase Price Allocation)に伴う無形資産評価(以下,便宜的に「PPA」という。)について解説をしていきます。PPAが2010年4月より日本の会計基準においても要求されるようになってから約10年が経過しました。

 

また,PPAが必須とされる国際会計基準(以下,「IFRS」という。)を採用する企業も増加し,日本でもPPAの実務が定着しつつありますが,まだまだ完全に定着しているとは言えない状況にあります。更に,昨今の会計不正が起きている現状において,監査を取り巻く環境も変化し,それに応じて監査人の対応も厳しくなり,PPAも重要な監査項目になってきているのではないでしょうか。

 

このような状況を踏まえて,上場会社の経営企画担当者・経理担当者が読まれることを想定して,PPAの基本的な考え方から,企業業績に与える影響,プロジェクトの進め方,監査対応などを網羅的に解説します。

 

 

2.過去から現在の状況

PPAの実務は,主に米国において確立されたものであり,長い間,多くの日本企業にとってPPAはなじみのないものでした。企業結合会計が日本に導入された後も,しばらくの間はM&A時のPPAにかかる無形資産の計上は強制ではなかったため,資産・負債の差額は,全額のれんとして一括計上処理されることが一般的であったと思われます。

 

ただし,2010年4月の企業結合会計基準の改正に伴い,日本基準においても,原則としてPPAにかかる無形資産の計上が求められることとなりました。

 

現状,経理・監査の現場においても,IRに対する企業の意識の高まりや監査の厳格化等を背景に,M&AにおけるPPAにかかる無形資産評価の要請が高まっており,筆者の個人的感覚ではPPAへの対応が必要となるケースが増加しています。

 

 

3.PPAの課題

日本の企業では,PPAにかかる無形資産評価についての理解がまだまだ不十分な状況にあります。専門書もネット検索でも,PPAについて得られる知識・情報は豊富とは言えず,買収後の会計処理及び開示に関して,実務に即した解説をしている媒体が限られています。多くの企業にとって,M&Aを検討・実行する機会が増えた昨今,当事会社においても,PPAプロセスを円滑に進めるためにも,PPAにかかる手続や無形資産評価実務,監査プロセスに対する理解を深めることが必要となってきています。

 

今後,経理担当者の方にとっても重要性が高まる可能性が高いPPAの概略や無形資産評価の実務について,本稿をきっかけにご理解頂ければ幸いです。

 

 

4.PPAのイメージ

本稿ではまず,PPAのイメージを解説します。図表1に示す通り,従来,日本基準においては,買収価額と時価純資産の差額(以下,「広義ののれん」という。)を20年以内の一定の年数にて償却していました。

それがPPAの導入により,広義ののれんに含まれる無形資産が特定され,広義ののれんから特定された無形資産を差引いた残額(以下,「狭義ののれん」という。)が,いわゆるのれんとして扱われるものとなりました。

 

つまり,従来は買収価額と純資産の差額が一括してのれんとして計上されていたものが,PPAの導入により,のれんのうち,商標権,特許権,顧客関係などに特定された無形資産が計上され,それらを配分後の残額をのれんとして取扱うこととなりました。

 

 

 

【図表1】PPAの流れ

 

 

 

 

詳細は,今後の連載を通じて説明していきますが,無形資産として計上される無形資産にはどのようなものがあるのでしょうか。一般的には図表2で示すような項目を無形資産として認識することとなります。

 

 

 

【図表2】無形資産の例示

 

 

 

 

5.数値例を用いた説明

図表1で示した事柄について数値例を用いて説明します。

X社(日本基準を採用)がY社のすべての株式を10,000百万円で買収して子会社とし,買収時のY社の純資産は7,000百万円でした。PPAを実施する前は,買収価額10,000百万円と純資産7,000百万円の差額3,000百万円が広義ののれんとなります。

 

PPAを実施し,無形資産1,500百万円が計上されると,狭義ののれん1,500百万円は広義ののれん3,000百万円から無形資産1,500百万円を差引くことで計算されます。

 

しかしながら,PPAの手続きはここで終了ではなく,計上された無形資産は,連結上の一時差異として繰延税金負債が計上されます。

本例では,法定実効税率を30%として,1,500百万円×30%の450百万円が繰延税金負債として計上されます。

 

その結果として,繰延税金負債分だけ狭義ののれんが増加することとなることから,1,500百万円+450百万円=1,950百万円が最終的な狭義ののれんとなります。

 

 

 

【図表3】PPA実施によるB/Sの動き

 

 

 

 

Y社をX社の連結財務諸表へ取込む時の仕訳を図表3に沿って作成すると下記のようになります。

 

 

 

 

 

 

図表4がPPAの実施の有無による計上される無形資産の金額の差異を比較したものです。

PPAを実施しない場合,計上されるのはのれん3,000百万円であるのに対して,PPAを実施した場合の広義ののれん相当額は,狭義ののれん1,950百万円と無形資産1,500百万円の合計3,450百万円となります。

両者の差異は,3,450百万円と3,000百万円の差額450百万円ですが,これは無形資産に対する繰延税金負債分に該当し,その分だけのれんが増加したこととなります。

 

このため,無形資産を計上すると,その税効果分だけのれんが増加することとなるため,日本基準を採用している場合,当初ののれんにかかる償却費よりも償却額が増加することとなる点に留意が必要です。

 

 

 

【図表4】 PPA実施の有無による無形資産計上額の差異

(単位:百万円)

 

 

 

6.PPAが業績に与える影響

先ほどPPA実施の有無により計上される無形資産の金額の差異について説明しましたが,ここではP/Lに与える影響について見ていきます。のれんと無形資産では,ケースバイケースではありますが,一般的にはのれんの耐用年数が無形資産の耐用年数より長くなるケースが多いです。つまり,無形資産の耐用年数はのれんの耐用年数より短くなるケースが多いと言えます。

 

仮に,無形資産の償却年数がのれんの償却年数より短いとすると,無形資産の償却が終わるまでの単年度で見た場合,PPAを実施すると毎期の償却負担額は多くなることとなります。図表3の例で,無形資産の耐用年数を5年,のれんの耐用年数を10年とした場合,PPAを実施した場合の方がPPA未実施の場合より,償却費が195百万円多くなっています。これは,①と②の影響によるものです。

 

①無形資産に対する繰延税金負債の計上によるのれんの増加による影響

無形資産1,500百万円×30%÷10年=45百万円

 

②無形資産とのれんの耐用年数の差異による影響

無形資産1,500百万円×(1/5‐1/10)=150百万円

 

 

 

【図表5】PPAの実施が償却費に与える影響

(単位:百万円)

 

 

 

7.本連載で説明していく内容

PPAのイメージを図表と簡単な数値例で説明しましたが,PPAは広義ののれんを無形資産と狭義ののれんに切り分ける作業だけに留まらず,企業業績にも影響を与えることがご理解頂けたのではないでしょうか。

 

例えば,企業買収前の業績シミュレーションを,広義ののれんを10年で償却すると仮定して実施し,買収後にPPAを実施したところ,当初の想定と異なる結果になってしまうことも起こり得ます。このようなことを理解した上で買収を進める場合と,理解しないで進める場合とでは,買収後のプロジェクト関係者の利害調整に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

また,PPAの結果は会計監査人による監査の対象となることから,監査に要する時間を考慮したスケジューリング及び監査に耐えうるPPAのロジック付け等が必要となってきます。

 

以上のことを踏まえて,本連載では,経営企画部門,経理部門がPPAプロジェクトを進めていく上で,必要な知識及び留意点を一つずつ解説していくことを予定しています。なお,現時点で想定している記載内容は下記の通りです。

 

【主な内容】

・PPAのプロセスと登場人物

・無形資産の認識識別基準

・PPAで識別する無形資産

・無形資産の評価手法

・経済的耐用年数

・PPAを実施する上での実務上のポイント

 

 

 

 

 

 

□■本連載の今後の掲載予定□■

 

—連載(全12回)—

第1回 PPA(Purchase Price Allocation)の基本的な考え方とは?

第2回 PPAのプロセスと関係者の役割とは?

第3回 PPAにおける無形資産として何を認識すべきか?
第4回 PPAにおける無形資産の認識プロセスとは?
第5回 PPAにおける無形資産の測定プロセスとは?
第6回 PPAにおける無形資産の評価手法とは?-超過収益法、ロイヤルティ免除法ー
第7回 WACC、IRR、WARAと各資産の割引率の設定とは?
第8回 PPAにおいて認識される無形資産の経済的対応年数とは?
第9回 PPAで使用する事業計画とは?
第10回 PPAの特殊論点とは?ー節税効果と人的資産ー
第11回 PPAプロセスの具体例とは?-設例を交えて解説ー
第12回 PPAを実施しても無形資産が計上されないケースとは?

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

M&Aにおけるタックスプランニング  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「M&Aにおけるタックスプランニング」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにおいてタックスプランニングは重要です。というのも、キャッシュアウトに占める税金の負担が大きいためです。今回は、売り手と買い手、それぞれの事例を見ていきたいと思います。

 

売り手側


売り手側で残したい事業や資産がある場合、あるいは、会社全体では黒字事業と赤字事業があって、赤字事業は買いたくないという買い手側の希望がある場合など、実務ではいろんなケースがあります。

 

以上のようなケース、すなわち会社丸ごとでないM&Aの手続選択肢としては「対象事業そのものを譲渡する方法」「会社分割して分割した会社の株式を譲渡する方法」があります。買い手の希望があるので、売り手側の意向だけで決められるものではありませんが、節税の意識を持って対応することも重要です。

 

 

(1)事業譲渡で含み益事業を譲渡するケース

会社で営んでいる含み益事業をM&Aで譲渡する場合、含み益が実現した事業譲渡益に対して法人税が課税されます。もちろん、法人税の計算上は他の営業損益があれば合算されますし、青色欠損金があれば控除できます。

 

 

 

この場合のタックスプランニングとしては、経営陣(オーナー)や従業員の今までの功労に報いるために、事業譲渡益を財源として「退職金を支給する方法」が考えられます。

 

従業員は譲渡先との間で再雇用される機会があったとしても、経営陣は事業譲渡によって退職し将来の生活の糧を失うことが多いため、特に経営陣に対して退職金を支給し譲渡益課税される所得を圧縮した方がメリットになります。

 

また、もう一つのメリットとして、事業譲渡代金は会社に帰属するため譲渡代金を株主個人に帰属させるには法人税課税後に、配当所得課税され、都合2回の課税(法人と個人)によって個人株主が受取る対価が大きく目減りするのに対し、退職金の場合は退職所得として優遇税制が利用できるので、個人が受け取る対価は増加します。

 

 

 

(2)事業を分割し、分割会社の株式を譲渡するケース

一部の事業を譲渡し、一部の事業(資産)を残したい場合、譲渡対象外の事業を会社分割により簿価で切り出してから譲渡する方法が、平成29年度税制改正で可能となりました。

 

すなわち、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件が、改正前の「支配株主と分割法人及び分割承継法人との間の関係継続」から「支配株主と分割承継法人との関係継続」のみに改正され「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったものです。

 

その結果、以下の例のように、含み益を有するB事業(残したい事業)を会社分割によってB社(分割承継会社)として切り離し、M&A対象のA事業を持つA社(分割会社)株式を譲渡するスキームが可能となりました。

 

改正前はB社分割時に税制非適格となりB社事業の時価譲渡となったものが、改正後は税制適格となり簿価譲渡(含み益は未実現のまま)が認められることになったものです。

 

譲渡しない事業や譲渡対象外の資産に含み益がある場合には、簿価のままの分割が可能になったので、例えば、不動産賃貸業は残したい(不動産に含み益有り)という希望がある場合には、検討すべきスキームです。

 

 

 

買い手側


事業の買い方としては、株式売買または事業譲渡の方法がありますが、それぞれの会計処理は相違します。

 

株式売買の場合は、投資有価証券となり、投資有価証券の取得価額は、購入対価に加えて購入手数料や購入に要した費用を加算した額とされているので、少額費用を除き取得価額になります。

 

他方の事業譲渡の場合は、取得した事業を土地、建物、たな卸資産など資産の区分ごとに細分化した上で簿価でなく時価額をもって受入の会計処理を行い、時価純資産額を超える購入価額の部分(下記図の15)は資産調整勘定(のれん)とし、5年間で損金に算入します。

 

 

株式売買の場合には、支出した対価が取得時に損金になることはありませんが、事業譲渡の場合は時価純資産額を超える部分は資産調整勘定(のれん)として5年間の損金になるので、損金の額を得たい場合には事業譲渡の方にメリットがあります。