土地賃貸借に際し無償返還届出を提出した場合の非上場株式の相続税評価(土地と株式の所有者が別の場合)

[解説ニュース]

 

土地賃貸借に際し無償返還届出を提出した場合の非上場株式の相続税評価(土地と株式の所有者が別の場合)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

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【問】

(株)Xの発行済株式の全部を保有していた甲が令和7年2月に死亡しました。X社は、甲の妻の乙の所有する土地Yについて、平成10年に賃貸借契約を締結し、借地権を設定しています。乙は、賃貸借契約によりX社から毎年土地Yの固定資産税・都市計画税の年額の3倍相当の地代を受けていました。また賃貸借契約に際して、借地人であるX社が将来土地Yを無償で地主の乙に返還する旨を記載した「無償返還届出書」を、X社と乙の連名で乙の所轄税務署長に提出しています。X社株式は、全て甲の長男でX社代表取締役の丙が相続する予定です。

 

上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、X社株式を純資産価額により評価する場合、被相続人(甲)が土地Yの所有者である場合と同様に、土地Yの自用地評価額の20%相当額を借地権の価額として純資産価額に算入することになりますか

 

 

【回答】

1.結論


土地Yの所有者が被相続人の甲ではないので、X社株式の純資産価額の計算上、土地Yの自用地評価額の20%相当額を算入する必要はないと考えます。

2.解説


(1)土地の賃貸借に際し権利金を支払わずに無償返還届出書を提出した場合の、土地の相続税評価

土地の貸借において、貸主である地主が受取る地代の水準が、その土地の公租公課(主に固定資産税等)相当額を超える場合には賃貸借契約とされ、借地借家法上、借地人に借地権が生じます。土地の貸借に際し権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、借地人である法人と地主との間で権利金の収受が行われず、法人税法施行令137条の「相当の地代」(注)も収受しない場合には、法人税法上、原則として地主から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人において贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法22条2項)。

 

(注)「相当の地代」とは、権利金の額の収受がない場合に、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格又は相続税評価額も選択できます。)に年6%の地代水準を乗じた額をいいます(法人税基本通達(法基通)13-1-2)。

 

本問の場合、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準であり、これは通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。ただし、法人が土地の賃貸借契約により土地を借受ける場合で、権利金を支払わず、かつ支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、賃貸借契約書において法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ地主と法人の連名で無償返還の届出書を地主の所轄税務署長に提出したときには、法人税上はその借地権の経済的価値がないものとして取扱われます(法基通13-1-14(1))。

 

 

 (2)X社の株式の相続税評価における土地Yに設定された借地権の相続税評価

賃貸借契約に基づき借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、相続税評価上も借地権の価額は0とされます(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い」(昭60課資2-58、直評9)5)。この場合、被相続人がその土地の所有者で、これを同族関係者である同族会社に対して貸付けているときは、その土地の相続税評価額は自用地評価額の80%相当額で評価されます(同8)。

 

また、その土地の評価額が地主個人と借地人である同族会社を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることから、その同族会社の株式の純資産価額の計算上は、その土地の自用地評価額の20%相当額が借地権価額として算入されます(前掲通達8後段、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30)」)。ただ、本問のように土地所有者が被相続人以外の者である場合でも、上記の下線部と同じ取扱いとすべきかどうかは疑問が残るところです。

 

これについて、上記の下線部の取扱いは、被相続人が同族関係者となっている同族会社に対し土地を貸付けている場合における、被相続人が所有する同社の株式を評価する際の借地権の価額についての取扱いであり、土地所有者と株式所有者が同一であることを前提としているものです。

 

したがって、本問のように土地の貸主(所有者)が被相続人ではなく、土地所有者と株式所有者が同一でない場合は、X社の株式の純資産価額の計算上、借地権に相当する価額として土地Yの自用地評価額の20%相当額を算入する必要はないと考えます。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/5/26)より転載