[解説ニュース]

令和5年度税制改正:贈与税の相続時精算課税の見直し

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

 


1.改正前の相続時精算課税のあらまし


相続時精算課税は、原則、60歳以上の父母又は祖父母(以下「特定贈与者」)から18歳以上の子又は孫(以下「相続時精算課税適用者」)が、財産の贈与を受けた場合に、一定の届出により適用を受けることができます。具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(最大2,500万円)を控除し、その残額に一律20%の税率をかけて贈与税を計算します(相続税法(相法)21条の9、12、13)。

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に相続時精算課税を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算し、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します(相法21条の14~16)。

 

 

2.令和5年度税制改正のあらまし


相続時精算課税の使い勝手を向上させ、生前にまとまった財産を次世代に移転しやすくする税制を構築することを目的に、次の改正が行われました。

 

(1)基礎控除制度の導入

 

相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により財産を取得した場合、その財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に課税価格から最大110万円の基礎控除が控除されます(相法21条の11の2第1項、租税特別措置法(措法)70の3の2第1項)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Aが特定贈与者の父から現金200万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、200万円-110万円(基礎控除)-90万円(特別控除)=0円となります。その後、令和7年にその父からAが現金2,600万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、{2,600万円-110万円(基礎控除)-(2,500万円-90万円)(特別控除)}×20%=16万円となります。

 

なお、相続時精算課税適用者が同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けているときは、特定贈与者ごとに、それぞれ贈与を受けた財産の価額に応じて基礎控除の110万円を按分計算します(相法21条の11の2第2項、相法施行令5条の2、措法70の3の2第2項、措法施行令(措令)40条の5の2)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Bが特定贈与者の父から400万円、特定贈与者の母から100万円の贈与を受けた場合、父から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×400万円÷(400万円+100万円)=88万円、母から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×100万円÷(400万円+100万円)=22万円となります。

 

(2)特定贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に、【相続時精算課税適用者が死亡した特定贈与者から取得した贈与財産の価額-(1)の基礎控除】が加算されます(改正後の相法21条の15第1項)。例えば、相続時精算課税適用者Cが特定贈与者の父から令和6年に現金200万円、令和7年に現金2,600万円の贈与を受けた後、父が令和8年に死亡した場合、(200万円-110万円)+(2,600万円-110万円)=2,580万円が父に係る相続税の計算に加算されます。

 

(3)適用時期

 

(1)と(2)の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます(改正法附則19条第1項)。

 

(4)贈与により取得した土地又は建物が災害により被害を受けた場合の特例

 

上記1の通り、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地や建物が、その取得後に災害により被害を受けたことにより、特定贈与者の死亡時の価額が贈与時点の価額よりも下落した場合であっても、特定贈与者に係る相続税の計算上は贈与時の価額を加算するのが原則です。これが今回の改正により、その贈与により取得した土地や建物につき災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続税の計算上、特例的に加算する贈与財産の価額の減額が認められることになりました。

 

具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により一定の土地又は建物を取得した場合において、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間に、災害によりその土地または建物が一定の被害を受けたときは、その災害が発生した日から3年を経過する日までに、所轄税務署長に一定の申請書を提出して承認を受けることにより、その特定贈与者に係る相続税の計算上、【その土地又は建物の贈与時の価額-その災害により被害を受けた部分に相当する額】を加算することになります(措法70条の3の3第1項、措令40条の5の3第5項)。この改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます(改正法附則51条第5項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/29)より転載

[解説ニュース]

親の土地を無権代理で売買、引渡し前に相続開始で税金紛争

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

 


1.はじめに


疾病により意思の確認が困難な親の持つ土地を、子が無権代理で売買契約した直後、相続が開始したため、税金トラブルになった事例が出てきました(国税不服審判所裁決、令和4年10月4日)。トラブルになったのは、親の土地が買主に引渡前で、いわゆる「売買契約中の相続」だったためです。

 

このケースで、売主側で開始した相続の場合には、相続財産として課税対象になるのは、土地そのものではなく、手付金を除いた残代金請求権という金銭債権になるとされます。残代金請求権となると土地の含み益が実現した形で相続税の課税が及びます。

 

このため相続人である子供は、売買契約を無権代理で行っていたことから、契約は無効だったとして、土地としての相続税評価額で相続税の申告をしましたが、税務署がそれを否認して争いになったものです。

 

2.事例の概要


裁決書によると、事実の経過は次のとおりです。

 

1.平成30年4月13日、相続人のうちの1人Aが、認知機能の低下した被相続人の保有する土地2万㎡弱を買主に売る契約を締結し、契約書の売主欄には被相続人の記名押印があった。

 

2.契約では、同年7月13日までに引き渡すことが約されたほか、手付金の交付が約され、契約日である4月13日に、手付金は被相続人口座に振り込まれた。

 

3.土地の引渡し前に被相続人が死亡し相続が開始。

 

4.同年6月29日、相続人AとBの2名は、買主との間で、土地の引渡し日を同年8月末日に変更する「不動産契約取引期日変更同意書」を取り交わした。相続人A・Bの署名押印がなされた。

 

5.同年6月30日、売買契約目的の土地等について相続人A・Bが取得することを決めた遺産分割協議を成立させた。同年8月15日、相続人A・Bは、売主との間で、売主の地位が被相続人から承継されていることなどについて「覚書」を交わした。同月31日、相続人A・Bは残代金を受領した。

 

この後、相続人らは、売買契約中の土地につき路線価評価で期限内に相続税申告。これに対し税務当局は令和3年9月に売買契約中の財産につき「残代金請求権」と認定し追徴しました。相続人はこれを不服として国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の判断を仰ぐことになったものです。

 

 

3.審判所の判断の概要


争点は「相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等であるか、売買残代金請求権であるか」。

 

民法では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じないとの規定(第113条第 1項)があります。この事案では売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないまま被相続人本人が死亡しています。そこで審判所は、被相続人の共同相続人による売買契約を追認又は拒絶する権利の行使について、次のように検討しました。

 

1.無権代理人が、被相続人本人の持つ無権代理行為を追認又は拒絶する権利について、他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認又は拒絶する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。共同相続人全員が共同して追認又は拒絶する権利を行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない。

 

2.相続人は全員で、売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないままに、遺産分割協議を成立させ、その結果として、無権代理をした相続人等は、土地等の所有権を相続により取得した。

 

3.「無権代理をした相続人ら」は、売買契約を追認又は拒絶する権利も土地等の所有権とともに、相続により取得したものとみるべき。

 

審判所は上記を踏まえ、被相続人の無権代理人として締結した売買契約について、被相続人死亡後、買主との間で交わした「売主の地位を被相続人から承継したとする」覚書で追認したものと認められ、民法第116条に規定するとおり、追認は別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずることとなるから、売買契約は、被相続人が亡くなる前の無権代理で契約のあった日に遡って有効であったと認定しました。

 

結論として審判所は「相続の開始の時において、売買契約の履行が、相当程度確実になっていたものと認められることから、相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等ではなく、売買残代金請求権であると認めるのが相当である」と判断し、税務当局の追徴を支持しました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/15)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「税理士法人の出資持分の評価」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した法人の役員退職金

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 

 

 


[質問]

<前提条件>

①  弊社:税理士法人(決算8月)

② A社員税理士は令和4年8月31日に退職したため、A社員税理士の出資持分の全部をB社員税理士へ贈与した。(贈与日:令和4年9月1日)

③ 定款には「当法人の社員は、その持分の全部又は一部を他人に譲渡するには他の総社員の承諾を得なければならない」旨の規定があるが、承諾済みである。

④ 弊社の会社規模は「小会社」

⑤ 弊社の出資持分の評価については以下のように認識している。

・税理士法人は持分会社であり、その社員税理士は無限責任社員である。

・その無限責任社員の退社時の出資の評価については、持分承継の規定があるかどうかによって変わる。

・持分承継の規定がある場合は「取引相場のない株式」の相続税評価に準じる。

・持分承継の規定がない場合は払戻請求権になるので、純資産価額(法人税等相当額を控除しない)での評価。

 

<質問>

以上のような認識のもと、今回の持分贈与は持分承継の規定があるため、通常の取引相場のない株式評価となり、「小会社」として類似業種比準価額が50%使えると考えてよろしいでしょうか。

 

 

 

 

[回答]

1 税理士法人とは

税理士法人は、社員を税理士に限定した、商法上の合名会社に準ずる特別法人です。合名会社とは、出資者が「出資持分」という形で財産権を保有する持分会社の一種であり、株式会社のように株式を発行することはできません。

 

税理士法人の「出資持分」は、「社員は、他の社員の全員の承諾があれば、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる」などの定めを定款におけば、他者に譲渡することができます(税理士法48条の21第1項、会社法585条)。ただし、税理士法人の社員は税理士でなければならないとされているため(税理士法48条の4第1項)、税理士法人の「出資持分」は個人税理士に対してのみ譲渡することができます。

 

 

2 持分会社の退社時の出資の評価

合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称します。)の社員は、死亡によって退社するとされていることから(会社法第607条第1項)、原則として「出資持分」は、出資として相続人に引き継がれません。

 

したがって、その持分について払戻しを受ける場合には、会社法第611条第2項に「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」と規定されていることから、持分の払戻請求権として評価します。その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額になります。

 

ただし、「出資持分」の相続について定款に別段の定めがあり、その持分を承継する場合には、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(国税庁ホームページ/法令等/質疑応答事例/財産評価「持分会社の退社時の出資の評価」参照)。

 

なお、税理士法人の社員が死亡した場合には、たとえ社員の相続人が税理士であっても、社員の資格を相続することはできず、単に死亡した社員の持分払戻請求権等を相続することになります。これは、持分の相続に関する定款の定めについて規定した会社法608条《相続及び合併の場合の特則》が税理士法では準用されていないため、「出資持分」を相続により承継することができないからです(税理士法48条の21第1項)。

 

 

3 質問事例における出資持分の評価方法

譲渡は他人に財産を「譲る」ことであり、譲渡には無償譲渡と有償譲渡があります。そして、有償譲渡は対価を伴うもので、無償譲渡は対価を伴わないものであり、無償譲渡は贈与と同じ意味になります。

 

したがって、ご質問事例が記載されている前提条件である場合には、贈与により承継された「出資持分」は、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じてその価額を評価します(財産評価基本通達194)。すなわち、評価する税理士法人の会社規模が「小会社」に当たる場合は、類似業種比準価額と純資産価額との併用により評価することができます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年12月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


【業界別M&A動向】

IT業界のM&A動向と事例について

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(佐々木 翼)

 

 

〈目次〉

1.IT業界のM&A動向 ~ IT業界はその他業界と比べて、M&Aが活発に起きている業界 ~

2.IT業界のカテゴリ

3.カテゴリ別のM&A動向と事例

①インターネット・WEB業界のM&A動向と事例

②通信インフラ業界のM&A動向と事例

③ソフトウェア業界のM&A動向と事例

④ハードウェア業界のM&A動向と事例

⑤情報処理サービス(SI)業界のM&A動向と事例

4. 最後に

 

 

 

 

1.IT業界のM&A動向 ~ IT業界はその他業界と比べて、M&Aが活発に起きている業界 ~


M&A件数推移

※レコフデータより弊社作成

 

 

2011年~2021年の期間中、国内M&A件数の中でソフトウェア・情報業界のM&Aの件数が最多く、2021年度は全体の約35%を占めています。(図①)

また、IT業界では他の業界と比較し、譲渡時のオーナーの年齢が若いことが特徴として挙げられます。日本M&Aセンターの調査によるとIT企業のオーナーは他の業界のオーナーと比較して譲渡時の年齢が10歳若いというデータがあります。(図②)

 

 

成約時の譲渡オーナーの年齢

(出典)日本M&Aセンター2021年 IT業界のM&A 回顧と展望より弊社作成

 

 

40代以下のオーナーが1/3を占めており、事業承継の為にM&Aを検討するオーナーがいる一方で、
会社を売却しEXITを目指す若い起業家が多い業界でもあると想定されます。

また、同業同士でのM&Aも活発ですが、不動産×ITの様に他業種がIT企業を求めているケースもあります。

 

 

2.IT業界のカテゴリ


IT業界と一括りにしても、IT業界には様々なカテゴリがあります。IT業界を大きく分けると5つのカテゴリに分けることができます。

●インターネット・WEB業界
仕事内容:Webサービスの開発、インターネット広告等
代表企業:Google、Yahoo!、楽天等

 

●通信インフラ業界
仕事内容:ネット環境の整備、保守、運用等
代表企業:NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI等

 

●ソフトウェア業界
仕事内容:ソフトウェア開発、プログラミング等
代表企業:Microsoft、サイボウズ、日本オラクル等

 

●ハードウェア業界
仕事内容:セールスマーケティング、商品デザイン等
代表企業:日立、SONY、Panasonic等

 

●情報処理サービス(SI)業界
仕事内容:システム設計、開発、ITコンサル、AIエンジニアリング等
代表企業:日本総研、野村総研、富士通等

 

 

3.カテゴリ別のM&A動向と事例


①インターネット・WEB業界のM&A動向と事例

インターネットWEB業界のM&Aは広告代理店と密接に関わっています。

 

従来の広告代理店はテレビ、ラジオ等のマスメディアを中心に事業を展開していました。

しかしながら、スマートフォンの普及により、インターネットの需要が急速に拡大。それに伴いインターネット広告の需要が増えてきました。(図③)
ITの技術は現在も進んでおり、新たな技術や広告手法を得る為にM&Aが活用されています。

 

 

インターネット広告市場の推移

(出典)矢野経済研究所より弊社作成

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:フィードフォース
譲渡企業:アナグラム<買収目的>
フィードフォースはインターネット広告市場が着実に成長する一方で、通信環境やテクノロジーの発展に伴い広告形式が多様化し、専門的な知見がより一層必要になっていました。そこでアナグラムより経営統合の打診があり、両社が蓄積してきた専門的な知見を活かし、既存サービスだけでなくテクノロジーを活用したサービスラインの拡充を図ることを目的としてM&Aを実行しました。両社はフィードフォースのデータフィード広告とアナグラムのリスティング広告などそれぞれの得意領域でのノウハウを通じてインターネット広告事業の拡大を図ります。

 

 

②通信インフラ業界のM&A動向と事例

 

通信インフラ業界では新規参入を行う為のM&Aや、事業拡大のためのM&Aを目的として行われる傾向があります。
業者数は年々大幅に増加しているのがわかります。(図④)

 

 

図④通信業界の事業社数推移

(出典)情報通信白書より弊社作成

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:ケイ・テクノス
譲渡企業:西日本電話工事<買収目的>
ケイ・テクノスは、通信インフラ事業を事業の核とし、土木・電気、環境施設工事等多数の事業を展開しています。一方で、西日本電話工事は電気通信工事事業において豊富な施工実績があり、施工技術と保守を高い技術力でワンストップのサービス対応をするなど、通信 インフラ構築技術とノウハウを有しています。今回の株式取得を通して、ケイ・テクノスと西日本電話工事の高い施工技術力を掛け合わせて、人材やノウハウの共有とリソースの最適化を図り、両社の事業を拡大することを目的とし、M&Aを実行しました。

 

③ソフトウェア業界のM&A動向と事例

 

ICT、Iot化が加速する中、企業のソフトウェア投資に対する考え方は年々上昇傾向にあります。
それに伴って、ソフトウェア開発業界では、買収、資本提携等により新しい技術や機能を補完し業容を拡大するケースが増えてきています。

 

 

令和2年度 ICTの経済分析に関する調査

(出典)総務省「令和2年度 ICTの経済分析に関する調査」より

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:PKSHA Technology
譲渡企業:アシリレラ<買収目的>
PKSHA Technologyは自社で開発した機械学習領域のアルゴリズムを活用したアルゴリズムソリューション事業を展開する企業です。
アシリレラはRPA事業を通して情報技術を活用した業務自動化を実現し、顧客のビジネスをサポートしています。PKSHA Technologyはユーザー基盤を持ったプロダクトを保有するアシリレラをグループに入れて自社が持つアルゴリズム・ソフトウェアと強いシナジーを見込めると判断しM&Aを実行しました。

 

④ハードウェア業界のM&A動向と事例

 

ハードウェア業界ではソフトウェアの会社が経営基盤の構築を目的としてハードウェアの会社を買収する事例が多々見受けられます。
また、大手企業を中心とした買収が進んでいます。

 

IT技術やIotの技術が発展するに伴い、今後新たな需要が生まれることが期待されており、それに伴いM&Aも行われることが予測されます。

 

■直近事例2022年
譲り受け企業:SONY
譲渡企業:バンジー<買収目的>
バンジーは世界有数の独立系ゲーム会社でSONYとは長年取引のあるパートナーでした。この買収を通してSONYはバンジーが保有するライブゲームサービスへのアプローチと技術専門性へのアクセスが可能になり、SONYが抱える数十億人のプレイヤーに繋がるというビジョンへ近づき、SONYのエンタメ事業と技術を掛け合わせ事業の拡大を図ります。

 

 

⑤情報処理サービス(SI)業界のM&A動向と事例

 

SI業界でM&Aが行われる原因は大きく分けて2点あります。

 

1点目は技術者の不足です。
IT業界では人材不足が課題としてあり、SI業界でも技術者の不足が露呈しています。

 

2点目は業界構造にあります。

SI業界は多重下請け構造になっており、中小企業が多いことが特徴にあります。
最下層にいる企業は交渉力が弱く、自力での成長が厳しい企業がM&Aを検討しています。

 

IT業界の課題についてはコラム「IT業界の現状と課題について」をご覧ください。

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:サンロフト
譲渡企業:S’PLANT<買収目的>
サンロフトは水産関連会社の販売・仕入・在庫管理を中心としたシステム開発業務を展開しています。S’PLANTは水産業・製造業向けに販売、生産管理システムの受託開発を展開しています。両社は経営統合を通してシステム開発事業の専門性と品質向上を図り、地方中小企業のサポートと事業の拡大を図ります。

 

 

4. 最後に


IT企業のM&Aは活況を呈しています。
需要が拡大するIT業界はこれからもM&Aが更に活発化することが予測されます。
IT企業のM&Aには専門知識が必要となる為、専門業者に相談することをおすすめします。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

法人が土地と建物を一括取得した場合の法人税・消費税における適正な取得価額の区分

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

■【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

 

 

 


1.法人税の取扱い


(1)基本的な考え方

法人税法では、購入した減価償却資産の取得価額は、「購入の代価」に、引取運賃や手数料等の購入のために要した費用及び事業の用に供するために直接要した費用を加えて計算します(法人税法施行令54条1項1号。非減価償却資産の土地についても会計基準や法人税法の通達に従い同様に計算します)。

 

この場合の「購入の代価」とは、原則として実際の取引で合意・成立した価額であり、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(これを「客観的交換価値」といい、土地の公示価格が代表例です。)を反映した水準であるはずです。ただ、実際には売り急ぎ等の個別事情や当事者の主観的評価により価格が決められるので、必ずしも客観的交換価値と一致しません。

 

その場合でも通常取引の結果である限りは、客観的交換価値を求めてそれに引き直し、その差額は寄附金に当たるという認定は行われません(ただし、どうみても不当に高額な部分がある場合には、法人税法22条2項、3項、高額取得の場合は法人税基本通達7-3-1により、その部分につき寄附金とされます)。

 

上記の考え方より、契約書で土地及び建物の譲渡譲渡対価が区分(契約書の「内、消費税額○○円」等の記載から建物の取得価額が逆算できる場合も含みます。)されていない場合や、区分されていても合理的ではない揚合には、税務上の問題が生じます。

 

例えば、土地について路線価を基礎に公示価格に引き直したものを算定し、全体の譲渡価額からその算定額を控除した残額を建物の取得価額とする方法は、一見良いように思えますが、全体の価額が客観的交換価値とはいえない中で、土地の価額だけを客観的交換価値とすると、建物の価額に主観的な要素の影響が全て寄せ集められる結果となり、区分の方法としては無条件によいとはいえません。

 

(2)法人税法上、妥当とされる区分方法

①固定資産税評価額の割合による区分

 

法人税の課税の現揚や裁判例などで比較的多く採用されている区分は、一定の方法により算出した土地と建物の価額の割合によって、売買価額の総額を土地と建物に按分する方法です。その割合の基になる価額として固定資産税評価額は、同一の公的機関が同一時期に時価を反映した合理的かつ統一的な評価基準で評価した価額であり、その入手の容易性等から一定の優位性が認められます。

 

②鑑定価額の割合による区分

 

①の固定資産税評価額は見直しが3年ごとであるため、取引時点とのズレが気になるケースもあり得ます。そのような場合、費用はかかりますが、土地と建物につき不動産鑑定士による鑑定を行い、その鑑定価額(これも「客観的交換価値」です。)の割合で按分することが、基準の同一性・時価の反映等の点で問題が生じない区分方法といえます。

 

 

2.消費税の取扱い


建物の譲渡は課税資産の譲渡等に当たり消費税の課税対象取引ですが、土地の譲渡は課税資産の譲渡等に当たらず消費税は非課税です(消費税法6条)。事業者が建物(課税資産)と土地(非課税資産)とを同一の者に対し一括売却した場合、これらの資産の譲渡の対価の額(消費税及び地方消費税を含まない額)が、課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額に合理的に区分されていないときは、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は次の算式で計算されます(消費税法施行令45条3項)。

 

(算式)課税資産及び非課税資産の譲渡の対価の額×[資産の譲渡の時における課税資産の価額÷資産の譲渡の時における課税資産の価額と非課税資産の価額との合計額]

 

消費税法施行令45条3項は、課税資産の対価の額が過少である場合又は過大である場合のいずれにも適用される強行規定であり、同項により区分され直したときは、売主の消費税・地方消費税額も変わります。この場合、買主においてもそれに合わせて仕入税額控除(消費税法30条)の再計算が必要になると思われます。

 

これについて法令に直接的な規定はありませんが、消費税法が前段階での税額の控除をする仕組みとなっており、仕入税額控除の控除税額の基礎となる、78/110を掛ける「課税仕入れに係る支払対価の額」の意義について、消費税法30条6項のかっこ書が「課されるべき消費税額等を含む」と規定されていることから、そのような処理が予定されているものと解されます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/4/24)より転載

[解説ニュース]

建物敷地以外の駐車場が貸家建付地として認められる場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

 

 


1.はじめに


貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地のことです。その相続税評価は、この土地の自用地としての価額に借地権割合と借家権割合と賃貸割合を乗じて求めた価額を、この土地の自用地としての価額から控除した価額です。

ところで貸家の敷地以外の駐車場スペースが貸家建付地になるかどうかは、相続税に影響が出ます。1筆の土地に建つ賃貸住宅と貸家の居住者専用の駐車スペースなら、その土地全体で貸家建付地と認められますが、駐車スペースが第三者に貸し付けられていると、話が変わってきます。

 

また、同じ事業者に事業用建物の敷地と駐車スペースとして貸し付けた一団の土地でも、契約の仕方によっては、部分的にしか貸家建付地と認められないこともあります。裁決事例からポイントを考えてみます。

 

 

2.認められた事例


最初に認められた事案です。この事案の契約は被相続人が借地人との間で昭和59年2月に、倉庫を建てる目的で約100坪の土地を貸し付ける土地賃貸借契約でした。賃貸借されたのは次のような土地です。

 

 

9111.png

 

 

相続開始時点の現況は、⑴上記土地の東側部分には、倉庫建物(昭61年新築。床面積69.42㎡)が建っており、借地人は、倉庫を漬物の原料及び製造機械の保管に使用。⑵土地の西側部分及び隣地は、その地面に、ロープによって車両18台分の駐車位置が示されるとともに、コンクリート製ブロックの輪止めが設置されており、借地人が一体として月ぎめ駐車場として利用。上記土地には、倉庫の敷地部分と駐車場として利用されている部分の境界を示すものはありませんでした。もっとも倉庫近くの土地は、倉庫建物へ積荷を搬入する車両の駐車場所や転回場所等としても利用していたということです。

 

ただし、土地賃貸借契約は相続開始時点で法定更新されましたが、借地人による一部借地の月ぎめ駐車場への利用変更に関しては契約の変更等は行われていませんでした。相続人は、貸家建付地として評価し相続税申告をしていました。
税務署は、倉庫敷地以外の駐車場部分(214.30㎡)は自用地として評価減なしで評価すべきだとして相続税の更正処分等をしました。賃貸借契約があったとしても「土地に建物の所有という目的が及ぶ範囲とは、おのずと限度があるものであって、建物の所有に通常必要な範囲でなければならない」と考えたためでした。

 

しかし国税不服審判所は、次のことを指摘して、土地全体を貸宅地として借地権価額を控除する評価にすべきと認めました(平成26年7月8日裁決)。ポイントとなった理由は、土地の西側部分は倉庫への積荷の搬入等に通常必要な土地であると認められ、そうすると、倉庫を所有するためには、土地全体が通常必要な範囲であるということでした。

 

 

3.認められなかった事例


次の事例は、被相続人が三角形に近い形の約1500㎡の一団の角地をレンタカー事業者に貸し付けていた事例です。賃貸借契約の内訳は、「現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用すること」を条件とする約1300㎡の駐車場として一時使用する賃貸借契約と、残りの土地約200㎡を店舗用に係る一時使用の賃貸借契約でした。相続人は土地全体を一体として貸家建付地として評価し相続税申告をしていました。

 

ところが税務署は建物の敷地部分以外の部分は賃借権の目的となっている雑種地として評価すべきとして更正処分等を行ったことから、争いとなったものです(平成24年10月10日裁決)。

 

国税不服審判所は、「駐車場としての現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用することのために被相続人が本件法人に貸し付けたものであるところ、賃借権の登記がされた事実はなく、また、賃借権の設定の対価としての権利金その他の一時金の授受もなく、堅固な構築物の所有を目的とするものでもないことから、評価基本通達86《貸し付けられている雑種地の評価》(1)ロに定める貸し付けられている雑種地として評価するのが相当」と判断、その部分には「貸家の敷地の用に供されている宅地」部分がないとして貸家建付地評価を認めませんでした。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/4/10)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】被相続人が法人への土地の賃貸借に際し無償返還の届出書を提出していた場合の相続税評価

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


【問】

(株)Aの代表取締役の甲が令和5年1月に死亡しました。甲の相続財産中に、その発行済株式の全部を所有していた(株)Aの株式と、生前に甲と(株)Aとの間で締結した土地の賃貸借契約により、(株)Aに借地権が設定された土地Bがあります。甲は、賃貸借契約により(株)Aから毎年土地Bの固定資産税・都市計画税の年額の3倍相当の地代を受けていました。

 

また賃貸借契約に際して、借地人である(株)Aが将来土地Bを無償で地主の甲に返還する旨を記載した「無償返還の届出書」を、(株)Aと甲の連名で甲の所轄税務署長に提出しています。土地Bと(株)Aの株式の全部については、甲の長男で(株)A次期社長の乙が相続の予定です。

 

上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、土地Bと(株)Aの株式の評価はどのようになりますか。

【回答】

1.結論


土地Bは自用地評価額から借地権の価額として自用地評価額の20%相当額を控除した残額(=自用地評価額×80%)相当額で評価されます。

(株)Aの株式の評価額の計算上、(株)Aの株式の純資産価額に土地Bの自用地評価額の20%相当額が借地権の価額として算入されます。

2.解説


(1)土地の賃貸借に際し権利金を支払わずに無償返還の届出書を提出した場合の、その土地の相続税評価

 

土地の貸借において、貸主である地主が受取る地代の水準が、その土地の公租公課(主に固定資産税等)相当額を超える場合には賃貸借契約とされ、借地借家法上、借地人に借地権が生じます。

 

土地の貸借に際し権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、借地人である法人と地主との間で権利金の収受が行われず、法人税法施行令137条の「相当の地代」(注)も収受しない場合には、法人税法上、原則として地主から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人において贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法22条2項)。

 

(注)「相当の地代」とは、権利金の額の収受がない場合に、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格又は相続税評価額も選択できます。)に年6%の地代水準を乗じた額をいいます(法人税基本通達(法基通)13-1-2)。

 

本問の場合、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準であり、これは通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。ただし、法人が土地の賃貸借契約により土地を借受ける場合で、権利金を支払わず、かつ支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、賃貸借契約書において法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ地主と法人の連名で無償返還の届出書を地主の所轄税務署長に提出したときには、法人税上はその借地権の経済的価値がないものとして取扱われます(法基通13-1-14(1))。

 

無償返還の届出書が提出されている場合、相続税評価上も借地権の価額は0とされます(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い(昭60課資2-58、直評9)」5)。しかし、本問のような同族関係者間の取引であっても賃貸借契約が締結され実際に使用されているときは、土地について借地借家法による借地人に対する強い保護と賃貸借契約に基づく利用の制約があります。このため賃貸借契約により借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その土地の相続税評価額は自用地評価額の80%相当額で評価されます。(同8)。

(2)(株)Aの株式の相続税評価における、土地Bに設定された借地権の相続税評価

 

賃貸借契約に基づき借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その借地権の価額は上記通達5項により0とされます。 ただし、本問のように被相続人(甲)が同族関係者である同族会社((株)A)に対し土地を貸付けている場合には、土地の評価額が地主個人と借地人の同族会社を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることから、同族会社の株式の評価上、その

 

土地の自用地評価額の20%相当額が純資産価額に借地権の価額として算入されます(前掲通達8後段、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30)」)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/3/28)より転載

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第2回:会計事務所M&Aの税務

~事業譲渡に関する税務処理、会計事務所M&Aに関する税務処理~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

 

 

会計事務所M&Aは「事業譲渡」で行われます。

税理士法人の持分を譲渡するということも考えられますが、税理士法人の持分は税理士個人が取得するしかない(税理士法人が他の税理士法人の持分を取得することはできない)のと、税理士は2つ以上の税理士法人の社員になることはできないという制限があるため、税理士法人の持分の売買はハードルが高いです。

 

 

1.事業譲渡に関する税務処理


ではまず事業譲渡に関する税務処理について触れたいと思います。

 

(1)個人事業主が事業譲渡する場合

譲渡する資産の種類によって所得の区分が異なります。

 

①土地建物を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(分離課税)となります。

なお、土地や建物を譲渡したときの譲渡所得は、次のとおり所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。

 

 

 

(参考)分離課税の譲渡所得の計算方法

 

 

②事業所得者が商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの棚卸資産を譲渡した場合の所得は、事業所得となります。

 

 

③使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額が10万円未満である減価償却資産(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)、取得価額が20万円未満である減価償却資産で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたもの(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)を譲渡した場合の所得は、事業所得又は雑所得となります。

 

 

④その他の資産を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

⑤営業権を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。事業譲渡の対価が資産総額(負債も承継する場合は資産総額と負債総額の差額)を超えた金額は営業権となりますが、この営業権の譲渡は譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

 

(参考)総合課税の譲渡所得の計算方法

総合課税の譲渡所得の金額は次のように計算します。短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象になりますが、長期譲渡所得の金額はその1/2が総合課税の対象になります。

 

 

 

※譲渡所得の特別控除の額はその年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。

 

 

(2)法人が事業譲渡する場合

事業譲渡ですので法人が所有する資産が譲渡され、事業譲渡対価がその資産総額を上回った場合は譲渡益として計上され、法人税等の課税の対象となります。

 

 

 

2.会計事務所M&Aに関する税務処理


(1)会計事務所(個人)の場合

事務所の建物は賃借、机やパソコンは一括資産や少額資産、高額なコピー機はリースという事務所が多いです。会計事務所の資産は事業会社に比べると少ないのであまり論点にはなりません。

会計事務所運営に必要なものは顧問先と従業員です。では会計事務所の顧問先や従業員を引き継ぐ対価は営業権の譲渡、つまり譲渡所得(総合課税)となるでしょうか。

 

 

昭和42年に国税庁が通知した見解では、税理士事務所の顧客を他の税理士等に引き継いだ際の対価は、得意先のあっせんの対価ということで「雑所得」であるとしています。

 

(国税庁サイト)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/670727/01.htm

 

 

また、平成22年には上記の国税庁の見解と同じく税理士事務所を他の税理士に承継した際の対価は雑所得であるという裁決が出ています。

 

 

(国税不服審判所サイト)

https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0206140000.html

 

 

この裁決は、請求人が以下のように主張したことに対するものです。

 

この裁決では税理士事務所の顧客は「一身専属性の高いもの」とされていて、営業権の存在を否定しています。

つまり、会計事務所を譲渡した際の対価は「雑所得」として処理することになります。

 

(2)会計事務所(法人)の場合

1(2)で説明した通り、事業譲渡の対価は譲渡益として計上され、法人税等の対象になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【業界別M&A動向】

IT業界の現状と課題について

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(佐々木 翼)

 

 

〈目次〉

1.IT業界の現状について

2.IT業界の課題

①IT人材の不足

②エンジニアの長時間労働

3.最後に

 

 

 

 

1.IT業界の現状について


IT業界は私たちの生活と密接に関わる業界です。

近年、日本ではデジタル化が進み、IT業界の市場規模は拡大し続けています。
最近よく耳にする話として、インターネットで情報を管理するサービスや、機械学習を通して情報を蓄積させるAI、5Gといった技術が開発されています。
こうした先端技術を駆使したサービスの実用化も増えており、IT業界はますます市場を拡大していくと予測されています。

 

特に、新型コロナウイルス感染拡大は、IT業界にも大きな影響を及ぼしました。
日本のみならず、世界中で人と人の接触が制限され、”おうち時間”という言葉が流行し、外出自粛を余儀なくされる中で、テレワークやオンライン通話アプリの普及が進み、これまで以上にオンラインでのやり取りをする機会が増えていきました。

 

その結果、企業と個人が活用するサービスも徐々にIT化が進んでいきました。

企業は積極的なクラウドを活用し、各業界ではDX化の流れが一気に加速しました。
個人においても、家で簡単に商品を購入できるeコマースを活用する機会が増え、長く続くコロナ禍は、ビジネス社会だけでなく、個人の消費行動までオンライン化している現状にあります。

日々加速するデジタル化の中で、IT業界は技術の進化が求められています。環境の変化が激しく、その中で生き残っていくためには社会のニーズや世界のトレンドを的確にとらえ、柔軟に対応していく能力が必要な業界と言えます。

 

 

2.IT業界の課題


昨今、各業界がIT化を進め、IT業界の将来性は明るいという意見が多く見受けられます。

そんなIT業界の課題はどのようなことが挙げられるのでしょうか。

 

①IT人材の不足

1点目の課題はIT人材の不足です。

 

IT業界は近年需要が急拡大しており、IT人材が不足しています。
前述の通り、IT市場の急成長により、多くの企業はクラウド等の新サービスを導入するようになりました。

 

その一方、日本企業は既存のシステムから脱却ができず、既存システムの保守・運用に貴重なIT人材が利用されている現状があります。
その結果、日本では、IT人材の不足という課題が顕著に表れています。

さらに、少子高齢化による労働人口の減少も重なり、深刻な人材不足に陥っています。
少子高齢化による人口減少とIT業界の拡大に伴う人材の不足が同時に起きる中、IT業界の人材不足は益々問題になると予測されます。

 

以下はIT人材の需給に関する推計結果の表になります。

 

 

 

(出典)経済産業省「IT分野について」:IT人材の需給に関する推計結果

 

 

人材不足はIT企業だけではなく、情報システム部門に配属する人材も不足していき、今後IT人材の不足は益々加速していくと経済産業省も予測しています。

最近ではプログラミングスクールを実施する企業やプログラミングに義務教育の開始等、IT人材を増やす流れは出来ていますが、効果が出ているとは言い切れない現状があります。

 

②エンジニアの長時間労働

2点目の課題はエンジニアの長時間労働です。

 

IT業界の需要が拡大する一方で人材不足が引き金となりエンジニアの長時間労働が業界として起きています。
また、人材不足の他にIT業界の構造がエンジニアの長時間労働を起こしている要因の一つにもなっています。

それはIT業界の多重下請け構造です。
大手から案件が下りてきて、その案件を受けた中堅企業が更に中小企業に振り分けるという構造です。

 

 

(出典):ITメディア

 

 

この多重下請け構造は自社では抱えきれない業務量を別の企業に振り、案件を受けた企業も大きい案件に携わることができるメリットがある一方で、デメリットも存在します。

下請け企業が大手から無茶な納期を強いられ、エンジニアが長時間労働を強いられるという点です。これがエンジニアの長時間労働が起きる要因の一つです。

また、ソフトウェア開発では、複数のエンジニアがチームで仕事を遂行する為、業務の進捗管理や製品の品質管理を把握することが難しく、個人の経験とノウハウにどうしても依存してしまいます。また、企画の構成が不十分な場合、その後の作業に影響が出て、時間外労働などが増えて長時間労働へと繋がります。

慢性的な長時間労働を解決する為に、働き方改革を推進することは一つの解決策となります。例として、在宅勤務を推奨することで、通勤時間を削減し、家族やプライベートな時間を確保しやすくすることが挙げられます。

 

 

3.最後に


今回はIT業界の課題について記事をまとめさせていただきました。
IT業界が抱える課題である、人材不足と長時間労働は深刻な問題であることがご理解いただけたかと思います。

IT業界は上記課題を解決する為にM&Aが活発です。

薄利な多重下請け構造からの脱却をしたい。大手傘下に入り経営の安定と人材不足、技術不足を解消したい。新しい技術を取り入れたいという理由が主な理由です。

IT企業のM&Aには専門知識が必要となる為、専門業者に相談することをおすすめします。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

 


1、はじめに


財産を次世代に生前贈与する場合には、現金よりも不動産などの現物資産の方が有利といわれています。というのも、課税される対象金額は、現金の場合、その金額100%で評価されるのに、土地なら公示地価レベルの80%で抑制的に評価されるだけでなく、家屋はさらに控え目な固定資産税評価額で評価されるからです。そこで、親が生前に不動産を購入して子どもに贈与することが、節税策として検討されてきました。今回、取り上げるのは、こうした事情を背景に最近、税金トラブルとして浮上した事案です(国税不服審判所裁決令和4年11月4日)

 

2、事案の概要


裁決書によると、事案の概要は次のとおりです。

(1)平成29年11月、父親が不動産を8億7千万円で購入5か月後、子であるAに同不動産を贈与した。

 

(2)Aは、購入価額の2分の1に満たないと見られる「財産評価基本通達(以下、通達という。)に従った評価」で贈与税申告をした。

 

(3)その4年後の令和3年になって、税務当局から実地調査の通知があり、通達6の適用の可否判断する旨の説明があった。

 

(4)Aは、急遽、通達以外の方法で求めた不動産の価額、購入価額の2分の1以上とみられる金額で修正申告した。

 

(5)ところが税務当局は修正申告をもとに、令和4年になって過少申告加算税を賦課決定した。

 

(6)Aは、この間の事情について「調査通知の際、調査担当職員から調査の目的が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定める通達6 《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用の可否判断にある旨の説明を受けたことから、土地建物の評価額が売買価格の2分の1を超えていれば通達6の適用はないと考え、修正申告書を提出したにすぎない」と主張し、Aは皆が平等に利用する通達で評価して当初申告したのに、過少申告加算税をかけるのは酷だとして、国税不服審判所の判断を仰ぐことにした。

 

3、問題の所在


贈与税は、もらった財産の価額に対して課税する税金です。従って、もらった財産が不動産などである場合には、その金銭的価値を見積もる必要があります。

 

そこで登場するのが国税庁の「通達」です。実務上、財産評価のモノサシとなっているからです。しかし、この通達に基づいた財産評価では著しく不適当とされる場合も、出てこないわけではありません。そこで、こうした場合に備えて通達の中に、例外的に、国税庁長官の指示を受けてこの通達の評価方法と異なる評価方法で財産を評価する仕組みを置いています。これが「通達6」です。

 

そうすると上記事例では、納税者であるAが通達に従い不動産を評価して申告したけれども、税務当局は、その評価では著しく不適当となると考えたと推定されます。最高裁は昨年4月、賃貸不動産を多額の借入で購入し相続税を0にする節税策を講じた事案で、通達評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、通達の評価方法以外の評価方法、例えば鑑定評価による評価額を採用してもよいとの考えを明らかにしているからです。

 

実務上の問題点として、相続・贈与時の評価時点と財産の購入・売却時点が近いと取引価額が時価相当と認定されるかどうかという点、その上で通達評価との乖離が著しく、実質的な租税公平に反すると認められる場合には通達6が適用されるかどうかという点が特に気になるところです。しかしこの事案ではその点は問われず、過少申告加算税をかけるのは酷かどうかが争点でした。無論これも深刻な問題をはらみます。

4、 国税不服審判所の判断


国税不服審判所は「評価通達の定める評価方法によって評価し、申告したとしても、通達6の定めにより課税庁から是正を求められることがあるように、評価通達自体が、評価通達の定める評価方法が財産の適正な評価額を求める唯一の方法であることをうたっているものではない(中略)。どのような評価方法を用いるかは納税者の判断と責任に委ねられている」とした上で、当初申告に通達評価を利用せざるをえなかった納税者側でどうにもこうにもしようがない客観的事情はないから、当局が過少申告加算税をかけるのは酷ではないと判断しました。

 

このことを突き詰めれば、納税者は通達評価で是正を求められることが予測できるなら、通達以外の評価方法を選択できるはずで、通達評価を利用したのは納税者自身の主観的事情だと聞こえます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/3/13)より転載

【業界別M&A動向】

技術者派遣業界の概況と、M&Aにおけるチェックポイント

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(堺 康行 )

 

 

〈目次〉

1.技術者派遣業界の概況

2.技術者派遣業界のM&A動向と事例考察

①株式会社Success Holdersによる株式会社P&Pの買収(2021年4月)

②三陽工業株式会社による株式会社極東ブレインの買収(2021年12月)

3.技術者派遣業のM&Aにおける売却側のチェックポイント

①採用コストの増加に伴う適切な売価転嫁の進捗

②派遣業務上の適法性

③完成責任を負う請負業務の適切な管理体制構築

④営業、現場対応等業務の権限委譲を進める

4.技術者派遣業のM&Aにおける買収側のチェックポイント

①所属技術者の契約単価、稼働率、技術分野(専門性、転用性)

②売上高・人件費マージンに関する調査

③既存取引先とのリレーション・キーマンの存在有無

5.最後に

 

 

 

 

1.技術者派遣業界の概況


技術者派遣業界は、少子高齢化による人手不足に加え、IT・建設業を中心とした需要高止まりを受け、業界主要企業を中心に業績拡大が続いています。

 

 

データ引用:各社IR資料より

 

 

他方、仕入側となる人材採用においては、厳しい状況が続いています。
コロナ禍により一時的に求人倍率は低下したものの、足下では以前の水準に戻りつつあります。
IT系(約10倍)、建築土木系(約5倍)を始め高い水準で推移しています。

 

また、昨今ではリファラル採用の浸透やフリーランス志向の高まりから、転職市場で経験者を獲得することは一段と難しくなり、採用コスト増(求人・待遇面)による採算性低下は業界内共通の課題となりつつあります。

 

こういった背景から、M&Aは人員確保の有力な手段として活用されており、企業規模を問わず事業承継や買収が活発に行われています。

 

 

データ引用:doda(デューダ)転職求人倍率レポートより

 

 

データ引用:Lancers フリーランス実態調査 2021より

 

 

 

2.技術者派遣業界のM&A動向と事例考察


コロナ禍の中でも、技術者派遣業界ではM&Aのニュースが報告され続けています。

 

業界全体のM&A動向としては、最大手級が海外人材派遣業の買収に取り組む一方、準大手・中堅クラス企業も多く国内M&Aの買い手となっていることが特徴として挙げられます。

 

 

最大手企業による近年の海外M&A事例

 

 

ここでは、最大手以外の企業による2件の国内M&A事例を取り上げ、動向を読み解きます。

 

 

①株式会社Success Holdersによる株式会社P&Pの買収(2021年4月)

 

株式会社Success Holders(JASDAQ上場、エンジニア派遣、メディア事業等)による株式会社P&P(システム開発・派遣等)の買収が2021年4月27日に発表されました。株式会社P&Pは直近期の売上高3.5億円であり、同社ホームページによると従業員数は22人規模とのことです。

 

Success Holderによるプレスリリースによると、「ポストコロナにおいて発展性のある事業・業種」と位置づけ今般のM&Aを決定しており、今後もIT技術者派遣事業の発展性を見込んでいることが推察されます。

 

 

②三陽工業株式会社による株式会社極東ブレインの買収(2021年12月)

 

三陽工業株式会社(非上場、製造業・製造派遣)による株式会社極東ブレイン(機械設計・電気設計の技術派遣等)の買収が2021年12月9日に発表されました。株式会社極東ブレインは1982年設立、従業員数は46人(2021年2月現在)とのことです。

 

三陽工業のプレスリリースによると、CADと設計に関する強みを持つ極東ブレインとの事業上の親和性を見込んでいると読み取れます。

 

この事例のように、設立後30~40年が経過し経営者の代替わりが進む中で、大手資本に参加しその後の発展を図るケースが多いのも、技術者派遣業界のM&Aで昨今増加している様態と言えます。

 

 

3.技術者派遣業のM&Aにおける売却側のチェックポイント


技術者派遣業の経営者様が株式売却を検討する場合のポイントを解説します。
ここで挙げる点で何らか不安点がある場合、事前に解消ができるかを検討することをお勧めします。

 

①採用コストの増加に伴う適切な売価転嫁の進捗

 

前述の通り、業界全体として人材確保難・待遇改善によるコスト増の動向が業界全般に見受けられます。

人材不足は当業界のみならず日本全体の課題と言えます。
顧客との価格交渉によりコスト増加を適切に転嫁し、持続可能な経営状態を保つ努力を行うことが、M&Aや事業承継を円滑に進めるポイントとなります。

 

②派遣業務上の適法性

 

人材派遣業は、2018年に許可制に完全統合されたことなど、法制面やコンプライアンス面の対応が進みつつあります。

その背景には、かつては多重派遣や偽装請負など、法令上問題がある慣習が業界内に横行した反省があり、現在は上場企業を中心に適法性は重視される状況にあります。

第三者監査を受けない中小企業においては図らずも旧来の問題がある体制が残存している場合があります。
M&Aの場になり法務面の不安がネックとならない様、業務フローや契約書などを現行制度に照らして事前整備する必要があります。

特に出向や準委任契約の運用は論点が生じやすいポイントです。あらかじめ労務・法務専門家の意見を受けながら早期に適法性を確認・是正していくことをお勧めします。

 

③完成責任を負う請負業務の適切な管理体制構築

 

技術者派遣業会社では、派遣契約を基本としつつも、一部業務を請負形態で契約している会社は少なくありません。

 

時間単価で稼働分の報酬を得る形態とは違い赤字化リスクを負う形態ですが、プロジェクトマネジメントを含め、適切に管理できる体制・人員が整っていれば、買い手にとっては魅力的なポイントにもなり得ます。

 

請負業務を行っている場合で、直近で見積工数オーバー等による損失が発生している場合、時間単価契約への移行や見積もり精緻化等、何らかの対策をしておいた方が好ましいと言えます。逆にそのような事象がなく少なくとも数年間に亘り安定的な案件運用ができていれば、アピールできるポイントと考えられます。

 

④営業、現場対応等業務の権限委譲を進める

 

売却後に引退を検討される場合は、ご自身がいなくても現在の取引が継続できるよう権限移譲を進める必要があります。

 

 

4.技術者派遣業のM&Aにおける買収側のチェックポイント


逆に技術者派遣業の会社を買収する会社様が検討するべき、業界特有のポイントを解説します。

 

①所属技術者の契約単価、稼働率、技術分野(専門性、転用性)

 

技術者派遣業はその事業の特性上、人員の特性が事業性の大半を占めています。
そのため、技術者ごとの採算性や技術分野、年齢などは細かく検査する必要があります。

 

専門性の高低は基本的には契約単価や稼働率に表れます。但し、特定取引先への依存度が高い場合や交渉を積極的に行っていない場合などでは、適正金額よりも低く評価されている場合があります。買収調査においては、技術者のスキルシートを入手して個別に調査(ヒューマン・デュー・ディリジェンス)を実施し、併せて商流に関する調査を行うのが好ましいと言えます。

 

②売上高・人件費マージンに関する調査

 

前述のように、技術者の採用コストは上昇しつつあります。マージン率が低下しつつある会社については、交渉状況など商流の確認を行う必要があります。

また、所属技術者の転用性が低い(いわゆる潰しが効かない)場合、仮に既存取引先が失注するとマージン率が急落する可能性がありますので、注意が必要です。

 

③既存取引先とのリレーション・キーマンの存在有無

 

技術者派遣業の多くの会社は、従業員の大部分が技術者で占められる組織であり、営業体制は最小限となっていることが少なくありません。
そのような中で既存取引先とのリレーション上、失ってはならないキーマンとなっている営業員や役員が存在する可能性があります。
事前に案件獲得フローなどを確認し、必要に応じてキーマン条項をSPA(株式譲渡契約)に盛り込むなど検討する必要があります。

 

 

 

5.最後に


技術者派遣業界はM&Aが活発な業界の一つです。
現経営者様としては多数の可能性を検討する余地があり、逆に買収を検討される企業様には競争が増す状況でもあります。

当社は技術者派遣業のM&Aについて多数の知見を有しており、業界特有の論点についてもサポートが可能です。
M&Aも一つの選択肢とされる場合、業界動向も含めてご案内させていただきますので、これを機にご検討されてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

[解説ニュース]

建物取壊費用を譲渡費用にする場合のポイントは?

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産所得の計算で争いになった最近の事例

■親の駐車場を使用貸借で子が借りた場合の駐車場収入の帰属

 

 


1、はじめに


古い建物のある土地を高く売るなら、建物を取壊して更地にしたほうが良い、という考えから、一計を案じる資産家も少なくないでしょう。実際、土地を売るために、その上に建っている建物を取壊した場合には、土地を売った場合にかかる税金の計算上も、この取壊費用は費用として利益から控除することができます。
土地等の資産の譲渡に要した費用(譲渡費用)については、所得税基本通達33ー7《譲渡費用の範囲》で次のように例示されています。

 

(イ)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用

 

(ロ)上記(イ)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用

 

ご覧のように建物等の取壊し費用が含まれています。しかし、取壊費用だからといって、どんな場合でも税金の計算上費用として認められるかというと、そう簡単ではないようです。ただ、「土地等を売るために」建物を取り壊したという関係がはっきりしていないと、税金の計算上、不利になることもあるようです。

 

2、具体事例から


建物の取壊し費用が譲渡費用として認められなかった事例があります(国税不服審判所令和3年2月25日裁決)。事実関係の概要は次の通りです。

 

・親からX土地とそこに建つ老朽化したY建物、Z建物を相続したA氏は、Z建物に車が突っ込んだ事故があり、賃借人が退去したのを奇貨として平成25年3月に、約330万円を負担してY建物、Z建物を取壊した。

 

・A氏は平成26年11月に不動産仲介会社とX土地の売買に関する媒介契約を締結し、平成30年8月にX土地の売買契約をBさんと締結し、同月中に引き渡した。

 

・A氏は建物取壊費用をX土地の譲渡所得の計算上、譲渡費用として控除したが、令和2年4月に、所轄税務署がその取壊費用の控除は譲渡費用として認められないとして追徴した。

 

・A氏は、取壊費用はX土地を高く売るために必要だったとして国税不服審判所に審査請求した。

 

・A氏は、「更地にすれば媒介業者に頼らずとも買い手がすぐ見つかると思って、取壊しを行い、当初から解体業者等に本件土地の譲渡の意思表示をしていたものの、媒介契約の締結が遅れてしまっただけ(中略)、取壊しは、譲渡の実現のための時の流れの中で本件譲渡のために行われたもの」と主張した。

 

3、 国税不服審判所の判断


国税不服審判所(以下、審判所という)は、審理に当たり、譲渡所得に対する課税について「原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象」だから「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、(中略)現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきもの」と考え方を示しました。

 

ついで、審判所は倒壊の恐れのあったY建物や、長年1階部分以外には入居者がなかったZ建物が、賃借人の「退去から間もない平成25年3月31日に取壊しが完了した」ことを指摘、「取壊しは老朽化や車の衝突事故による損傷等に起因して行われたものとするのが合理的」と認定しました。

 

さらに審判所は、「その後に締結された媒介契約及び売買契約の目的物は、土地のみとされていたのであり、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、取壊しは媒介契約や売買契約の前提又は内容になっていなかった」とも指摘し、「現実に行われた本件売買契約による本件譲渡を前提とすると、客観的に見て譲渡を実現するために費用が必要であったとは認められない」として問題の取壊し費用は譲渡費用には該当しないと判断しています。

 

4、 まとめ


土地等の譲渡所得を適正に計算・申告しようとする場合には、売買の実態に即して、出したお金が譲渡費用に含まれるかどうかが判定されるため、資産をどのような形で売却するかを、決めておくことがポイントといえそうです。そのため売却してから譲渡所得の申告を考えるのではなく、専門家を交えて最初から考えておくことが必要ではないでしょうか。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/2/27)より転載

【業界別M&A動向】

食品製造業のM&A動向(第2回) ~直近の業界内のM&A動向について~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(金川 明央)

 

 

〈目次〉

1.直近の業界内のM&A動向について

2.検討のポイント

➀異業種を買手とした事例

②ファンドを買手とした事例

③周辺領域を買手とした事例

3.最後に

 

 

 

 

1.直近の業界内のM&A動向について


2021年6月1日から2022年5月末までの1年間で、売手を食品関連企業とするM&Aは公表ベースで47件となっています。
このうち同業種を買手とする割合は51%、異業種/周辺業種を買手とする割合は49%となりました(図A/※1)

 

 

 

 

 

また、上記円グラフに記載の異業種/周辺業種を買手とする23件の事例の内、買手業種別に見てみると、化学・医薬品、商社、外食をはじめとして幅広な業種により構成されています。(図B/※2)

 

 

 

 

これは買手が「川下から川上まで事業領域を拡大する」「新事業領域に進出する」といった目的を基にM&Aを実施していることが起因しています。
また、「事業承継」や「成長支援」をテーマに企業投資を行うファンドによる買収事例も一定数存在します。

前回のコラムでも記載しましたが、同業界は「販路の拡大」や「製造コストの削減による生産効率の改善」を含む様々な課題を抱えており、同業種だけでなく異業種や周辺領域の企業とタッグを組むことにより課題解決につながるケースもあります。

 

また、ビジネス面以外にも「後継者不在」「人材の採用」「人材の育成」など内部的な課題を持つ企業も存在しており、内部体制の強化を期待してファンドに投資を受ける事例もあります。
通常、M&Aの検討から成約まで、またM&A実行後のシナジー構築まで一定の時間を要するケースが大半であるため、課題解決のための一つの方法としてM&Aを検討される場合は想定しているよりも早いタイミングから着手されることを推奨します。
(※1)(※2)レコフデータより弊社作成

 

 

2.検討のポイント


実際に直近1年以内に実施された同業界内のM&Aの事例を基に、本項では同業界のM&Aのポイントについて触れていきたいと思います。

 

➀異業種を買手とした事例

 

 

 

ノフレ食品は、北海道を拠点にした食品の企画販売会社で、レトルト・缶詰・瓶詰を中心とする同社の商品は、様々な賞を受賞するなど商品の企画開発力・ブランド力が高く評価されており、ノフレコミュニケーションズは、ノフレ食品で培った商品企画力やECを中心としたコンサルティングノウハウを活用したサービスを展開しているとのことです。

ノフレ食品は、クロス・マーケティング・グループ社の食品EC部門におけるノウハウを活かしたサービス連携や顧客開拓による更なる会社の売上の拡大を企図していると考えられます。

 

本事例のポイントとしては、売手企業の「企画開発力」「ブランド力」が優れたものであったという点であると考えられます。

事業の根幹である商品力が確立されていることにより、買手企業とのシナジーの構想が描きやすくなります。

 

 

②ファンドを買手とした事例

 

 

 

 

ホソヤコーポレーションは、中華系チルド食品を製造する食品メーカーであり、同社の主力商品である贅沢シリーズ(焼売・餃子・春巻)は、関東圏の食品スーパーマーケットにおいて各カテゴリーのトップシェア商品となっているとのことです。

J-GIAは日本たばこ産業株式会社・株式会社博報堂をアライアンス・パートナーとしており、ファンドによる経営管理機能の強化に加え、2社による生産・品質管理の事業支援やマーケティング支援による更なる企業価値向上を企図しているものと考えられます。

 

本事例においても、売手であるホソヤコーポレーションが既に強固な商品力を有していた点がポイントであると考えられます。

 

 

③周辺領域を買手とした事例

 

 

 

道東ライスは1973年に設立し、道東地区で食品製造業に従事しています。福原は道東ライスの米穀の炊飯加工業、惣菜類の製造ノウハウを活かし、アークスグループの惣菜事業と連携させることにより、惣菜事業の拡大を企図していると考えられます。

 

本案件においては、「製造ノウハウ」「生産拠点」の獲得がポイントとして挙げられます。

食品製造業界においては、生産拠点の獲得を目的としたM&A事例も多く見受けられます。

 

 

3.最後に


食品製造業界のM&Aは、買手の経営戦略の多角化、また売手の抱える課題に応じて、同業種だけでなく、異業種/周辺業種を買手とした事例も増えてきています。

特に売手側がM&Aを検討する動機も「後継者不足」のような内部事情に起因したものだけでなく、「自社の更なる成長」を主眼に置いたケースも増えてきたように見受けられます。

自社の課題解決の一つの選択肢として、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

 

[ゼロからわかる事業再生]

第7回:法的整理か私的整理かの選択

~法的整理とは、私的整理とは、私的整理と法的整理の選択基準~

 

[解説]

髙井章光(弁護士)

 

 

[質問(Q)]

事業再生を実施したいと思いますが、法的整理と私的整理のどちらの手続を取るのがよいのでしょうか。違いを教えてください。

 

 

[回答(A)]

事業再生の手続においては、法的整理(法的再生手続)と私的整理(私的再生手続)があります。法的整理においては、すべての債権者を対象として支払猶予(支払停止)をしてもらい、債権カットを要請することになりますので、買掛先などの取引先に対しても大きな影響が生じます。したがって、取引先に影響を与えないようにするためには、金融機関のみを対象とする私的整理をまず最初に検討することになります。

 

ただし、私的整理は全対象債権者(金融機関)から最終的に同意を得ないと成立しないため、全対象債権者から同意を得ることが難しい場合には、すべての債権者を対象とするものの、多数決によって成立する法的整理を実施することになります。

 

 

 

1.法的整理とは


法的整理(法的再生手続)とは、裁判所の監督下において、法律の規定に基づき手続が決められており、基本的に全債権者を対象として、債権者を平等に取り扱いながら、債権者の多数決によって再建策の成否が決まることになります。主に中小企業を対象とする民事再生手続や、比較的大規模な企業を対象とする会社更生手続があります。

 

メリットとしては、裁判所が監督しながら、法律によってしっかりとした手続の内容が決められているため、比較的手続自体は安定していると評価できることが挙げられます。手続が開始した時点におけるすべての債権者に対して支払が禁じられ、平等に取り扱わねばならないとされます。それらの債権者への弁済条件を内容とする再生計画案が裁判所に認可されるためには、債権者集会にて、対象債権者の多数決の投票による再生計画案への同意(賛成)で決まることになります。民事再生手続であれば、投票を行った債権者の過半数の賛成があり、かつ、その賛成者の債権額が総債権額の2 分の1 以上であることが可決要件とされています(民再法172 の3)。したがって、全対象債権者の同意が必要とされる私的整理よりは再建計画の認可要件は緩やかといえます。

 

2.私的整理とは


私的整理(私的再生手続)とは、裁判所による監督によって再建するのではなく、金融機関などの大口債権者(通常は、金融機関のみ)にて、協議によって債務者の再建を進める手続です。よって、メインバンクによる支援があると進めやすい手続といえます。

 

金融機関を対象とする私的整理においては、一定の手続ルールを決めて行う準則型私的整理を利用することが多く、大規模な企業においては事業再生ADR が利用され、中小企業においては中小企業再生支援協議会が利用されています。裁判所の調停手続を利用して債権者と債務者が協議によって再生を図る手続として、特定調停手続があり、こちらは協議を行う場所は裁判所となりますが、法的整理のようにすべての債権者を対象として、多数決にて再生計画を認可するのでなく、他の私的整理と同様に債権者全員の同意をもって再生計画を成立させるため、私的整理に分類されています。

 

3.私的整理と法的整理の選択基準


私的整理と法的整理の特徴をまとめると以下のようになります。

 

 

 

取引先に迷惑をかけることや取引に対する影響を考えると、私的整理をまず選択することになります。その上で、私的整理を進めることが困難であったり、法的整理の方が望ましい事情がある場合に法的整理を選択することになります。

 

私的整理は金融債権者を対象としてその全員から同意を得る必要があるため、これまでの経緯から感情的になっていたり、経営陣に不正があるなどにより、債務者の再生には同意できないことが明らかな場合には、私的整理を進めてもまとまらないことが明らかですので、法的整理を選択することになります。

さらに資金繰りが厳しく、金融機関への支払のみを止めても資金ショートが生じる危険がある場合には、すべての支払を止める必要がありますので、すべての債権者を対象とする法的手続を取ることになります。取引先等の債権が過大となってしまっていて、再生計画を作成するにおいて、金融機関の債権のみをカットするだけでは資金が足りず、取引先等の過大な債権もカット対象とする必要がある場合にも、法的手続を選択してすべての債権者を対象とすることになります。

 

逆に、法的整理となったことを理由として、取引が破綻したり、契約解除となる危険が高い場合(例えば、ブランドからライセンスを受けて取引を行っている場合には、往々にして、法的整理を行っている先にはライセンスを与えないという対応がなされることがあります)には、なんとしてでも私的整理ができないかという姿勢で検討することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「会社買収により退職した役員が親会社の役員となった場合の退職金」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した法人の役員退職金

■【Q&A】会社解散後清算人に就任した代表取締役に対する退職給与

 

 


[質問]

甲株式会社は、乙株式会社のすべての株式を買い取り、子会社にすることを検討しています。甲社と乙社の間には何ら親族関係などはありません。

 

乙社の社長丙は、買収(決済)日に乙社を退職し、その翌日に甲社の役員または使用人として勤務する予定です。乙社は丙に対して退職する当日(決済日)に役員退職金を支給予定です。

 

この退職金は、税務上何か支障がありますか。

 

※法人税基本通達9-2-33、9-2-34には合併法人または被合併法人での退職給与の取扱いがありますが、買収により子会社にする場合の取扱いがありません。

 

丙が乙社を退職することにより受給する退職金なので、翌日甲社に入社しても支障がないと考えますが、いかがでしょうか。

 

 

[回答]

1 役員退職給与

 

(1) 役員退職給与

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます。

 

退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等により確定した日の属する事業年度とされていますが、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において損金経理をした場合には、これを認めることとされています(法人税法34、法人税法施行令70、法人税基本通達9-2-28)。

 

役員退職金は、本来、退職時の定時株主総会等で決議しておくべき性格のものでしょうし、退職後最初に開催される株主総会等で退職給与の支給決議が行われるのが一般的であるようです。

 

(2) 役員に対する退職給与の損金算入の時期

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます(法人税法34)。その退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります(法人税基本通達9-2-28)。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます(同通達但し書き)。

 

 

2 退職所得

 

(1) 退職所得

退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社又は信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます(所得税法30、31)。

 

(2) 退職手当等の範囲

退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって、退職に際し又は退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しないことに留意する(所得税基本通達30-1)。

 

また、労働基準法第20条の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します(所得税基本通達30-5)。

 

 

3 お尋ねについて

 

お尋ねによれば、「甲社は乙社を買収することとなり、乙社の社長丙は、買収により乙社を退職し、甲社の役員(又は使用人)に就任する予定」とのことで、「乙社は社長丙に対して役員退職金を支給する予定」とのことです。

 

(1) 法人が役員に支給する「退職金」で適正な額のものは、損金の額に算入されます(法人税法34②)。

 

その退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等により確定した日の属する事業年度とされていますが、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において損金経理をした場合には、これを認めることとされています(法人税基本通達9-2-28)。

 

したがって、役員に支給する「退職金」は、①退職給与の額が不相当に高額の場合や②退職の事実がない場合を除き、原則として損金に算入されることになります。

 

 

(2) ところで、お尋ねの場合、甲社の乙社の買収に際して、乙社の社長丙が退任し、甲社の役員に就任するとのことですので、法律上、乙社との委任関係が終了し、新たに甲社との委任関係にいたったということとなります。

 

したがって、事実として社長丙が乙社を退任したのであれば、乙社と甲社は別人格である以上、その退職給与の額が不相当に高額でない限り、損金の額に算入できるものと思われます。

 

なお、法人税基本通達9-2-33《被合併法人の役員に対する退職給与の損金算入》及び法人税基本通達9-2-34《合併法人の役員となった被合併法人の役員等に対する退職給与》の取扱いは、打切り支給の取扱いであり、お尋ねの場合とは直接の関係はありません。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年7月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

■【事例】中小企業オーナーの遺産分割対策としての会社分割の活用法

 

 

 


1.所得税の固定資産の交換の特例の概要


(1)特例の概要

個人が資産の交換を行った場合、交換も譲渡の一種であるため、交換により譲渡する資産の含み益について譲渡所得の金額として所得税が課税されます。
ただし、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④この特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法58条)。

 

(2)交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件

交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④のほか、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうち、いずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(同2項)。差額が20%超となる交換の場合、この特例の適用はなく通常の譲渡として課税されます。その差額の調整のため交換差金等の授受が行われた場合において、交換譲渡資産を譲渡する個人が、交換取得資産とともに時価の20%以内の交換差金等を取得したときは、その者の所得税の計算上、交換譲渡資産のうち、その20%以内の交換差金等に相当する部分について、譲渡があったものとされます(同1項かっこ書)。

 

 

2.1(2)の要件⑤の判定における留意点


(1)土地・建物と土地・建物とを交換した場合、同種の固定資産の交換が要件であることから、土地は土地と、建物は建物とそれぞれ交換したものとします。「交換譲渡資産」と「交換取得資産」が全体としては等価だが、土地と土地、建物と建物との価額がそれぞれ異なるときは、それぞれの価額の差額が上記1(2)の差額に該当します(所得税基本通達(所基通)58-4)。

 

例えば、交換譲渡資産が土地1,000万円、建物500万円であり、交換取得資産が土地500万円、建物1,000万円である場合、土地は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を取得し、建物は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を支払ったものとして、1(2)の要件を満たすかどうかを判定します。

 

 

(2)交換により同じ種類の2以上の資産を取得した場合に、その取得した資産のうちに譲渡直前の用途と同一の用途に供さなかったものがあるときは、その用途に供さなかった資産は交換取得資産には該当せず、その資産は交換差金等になります(所基通58-5)。

 

例えば、事務所として使用していた時価1,000万円の建物を交換譲渡し、時価600万円の建物と時価400万円の建物とを交換取得した場合に、時価600万円の建物は事務所の用に供し、時価400万円の建物は居住の用に供したときは、その400万円の居住の用に供した建物部分は、交換譲渡資産と同一の用途に供していないため、交換差金等になります。

 

 

(3)一の資産につき、その一部分については交換とし、他の部分については売買としているときは、当該他の部分を含めて交換があったものとし、売買代金は交換差金等に該当するものとして(所基通58-9)、前述1(2)の要件を満たすかどうかの判定をします。

 

例えば、個人Aが所有する建物X及びその敷地200㎡と、個人Bが所有する建物Y及びその敷地180㎡を交換する場合、建物Xと建物Yは等価であるものの、建物Xの敷地は4,000万円、建物Yの敷地は2,000万円であることから、個人Aは建物Xの敷地を100㎡ずつ分筆し、1筆については個人Bの土地と交換し、他の1筆については売買代金を2,000万円として売買契約を締結したとします。この場合、AとBとの間における土地の交換と売買は一つの行為と考え、売買とした部分は交換差金等に相当すると認められます。よって交換とした部分の土地は1(2)の要件を満たさない(4,000万円-2,000万円=2,000万円>4,000万円×20%)ため、交換特例の適用を受けることができません。

 

 

(4)上記(3)の「一の資産」とは、交換特例が土地(所法58条1項1号)、建物(同2号)等の資産の種類の区分ごとに適用されるため、同項各号に掲げる資産の種類の区分の資産をいうものと解されます。

 

例えば、個人C所有の土地Rと個人D所有の土地Sとの交換契約を締結し、土地R上のC所有の建物TについてDに売買する旨の売買契約を締結した場合、建物と土地は別の種類の資産なので、交換特例の適用上、建物Tの売買代金が土地Rと土地Sとの交換に係る交換差金等とされることはありません(平成27年10月15日東京国税局文書回答)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/2/13)より転載

【業界別M&A動向】

物流業のM&A動向(第2回)~物流の2024年問題~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 物流の2024年問題とは

2. 物流の2024年問題が物流業に与える影響

①ドライバー視点

②物流会社視点

③荷主視点

3. 対応策の方向性

4. 最後に

 

 

 

 

1. 物流の2024年問題とは


働き方改革関連法により、2024年4月より「自動車運転の業務」に対し、年間時間外労働上限が「年960時間」に制限されることにより発生する諸問題のこととされています。

2019年4月に施行された同法では、「時間外労働の上限は月45時間、年360時間に制限(原則)」されており、労使間で協定を結んだ場合においても「年720時間に制限(例外)」されますが、物流業界(自動車運転の業務)では実態との乖離が大きいことから、適用迄に「5年間」の猶予期間が設けられたことに加え、労使間で協定を結んだ場合の上限として「年960時間」と定められています。

 

しかし、この「年960時間」といういわゆる特例的な対応についても、同法において「将来的な一般則の適用について引続き検討する旨を附則に規定」とされていることから、今後も同上限時間の維持が担保されるとも限らないのです。

 

 

2. 物流の2024年問題が物流業に与える影響


では、物流の2024年問題がどのような影響を及ぼすのかについて、現時点で懸念されているポイントや可能性についてステークホルダー別の視点で見ていきたいと思います。

 

①ドライバー視点

 

前回(第1回)でも記載したように、一般的にドライバー職では、他の産業と比較して「低所得+長時間労働」であることが顕著です。

これは、言い換えると「労働(=長時間の時間外労働を含む)の対価として受け取る時間あたりの報酬(所得)が、全産業と比して低い」ということに他なりません。

そうした状況下、さらに時間外労働の上限が課されることにより、従来受け取ることができていた諸手当を受け取ることができなくなり、結果として収入が減少するドライバーが出てくる可能性は否定できません。

業界慣習として、長い荷待ち時間や手荷役の常態化が大きな要因とされることも多く、ドライバー個人/物流会社単独ではなかなか解決の糸口を探ることは難しい状況となっています。

 

②物流会社視点

 

物流会社における基本的な構図は、「ヒト(従業員)」が「モノ(荷物等)」を「運送」することにより売上を上げるビジネスモデルです。この運送するという行為において、ヒトの稼働時間に制限が掛けられることにより、業務量が減少した結果、売上が下がる可能性が考えられます。

また、業務量を維持するためにヒトの採用を拡大する場合、固定費の割合が増加(従来の時間外手当<新人員の基本給)となる可能性もあり、利益率が減少する可能性についても考えておく必要があります。加えて、人件費以外の固定費等(営業に必要なコスト:事業所やトラックに係る費用)を削減することは比較的難易度が高いことから、売上だけでなく利益そのものについても注視すべきだと考えられます。

もっとも、利益水準が低下した場合、ドライバーに十分な水準の給与を支払うことが可能であるか否かという問題も顕在化することとなり、物流会社における売上の源泉である「ヒト(従業員)」の確保が難しくなり、負のスパイラルに陥る可能性も懸念されています。

 

③荷主視点

 

上述した物流会社(およびドライバー)視点では、売上や収入面においてマイナスの影響が想定されています。この課題を解決する方策の一つとして物流会社では「荷主からの受注額(=運送単価)の増加でカバーする必要性」が生じます。

しかしながら、2012年以降、既に物流コストは上昇基調を辿っています(図A/※1)。

 

 

 

 

また、国内企業の多くは、物流やロジスティクスについて「コスト削減の対象」としての認識が依然として高い傾向があり、戦略的な取り組みが浸透していないことが挙げられます(図B/※1)。

 

 

 

 

このような状況において、「受注額(=運送単価)の増加」という交渉はやはり難易度が高いと言わざるを得ないと考えます。

(※1)経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット(令和3年10月)」より

 

 

3. 対応策の方向性


ここまで、「物流の2024年問題」が各ステークホルダーに及ぼす影響・可能性について触れてきました。当然ながら、物流会社の規模やドライバーの現在の労働環境、荷主との関係性において、各社が置かれている状況は様々だと考えられます。

 

この問題に対して、「労働環境や処遇の改善によるドライバーの採用強化」や「荷主に対する受注額(=運送単価)の増額交渉」といった対応策も、短期的に効果を得られるかもしれません。しかしながら、物流業界の構造的な問題が依然根深い状態であることを考えると、2024年という短期的な問題と捉えることには無理が生じます。

 

前回(第1回)でも触れたように、物流業界の展望として「データの利活用によるDX/効率化」や「同業種・異業種を含めた連携」が必要となると考えられます。

 

このように未来を見据えた変革/変容と、2024年問題で挙げられるような課題について、M&Aによる会社売却や事業売却(=大手グループの傘下となること)が有効な手段とされています。

 

2021年の1年間において、売手を物流関連企業とするM&Aは公表ベースで51件(注1)となっており、うち約8割は同業者を買手とする買収事例となっています(図C/※2)。

 

「既存領域の強化」に加え、「効率化・相互補完」や「新事業の創出」という観点でのM&Aは今後も増加していくと考えられています。

 

 

(注1)国内企業同士の買収事例のみ。事業譲渡や資本参加事例は除く。
(※2)レコフデータより弊社作成 

4. 最後に


「経済・産業の血液」と評される物流業界は、我が国がさらに発展するための非常に重要なファクターとされています。

 

しかしながら、現状では労働環境や人材不足、後継者問題等の様々な課題に直面しており、2024年問題に代表されるような「直ぐに対応が求められる」課題に加え、「将来を見据えた変革」さえも求められています。

 

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aをご検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

[解説ニュース]

【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

■遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

 

 

 


【問】

株式会社X(本店:東京都新宿区)の前代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有していた甲が、令和4年11月に死亡しました。甲の相続人による遺産分割協議の結果、甲が保有していたX社株式は、令和3年より同社代表取締役を務める乙(甲の長女)が全て相続しました。

 

X社は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)2条の「中小企業者」に該当します。X社株式は相続税評価額が高く、これに係る相続税額の負担が大きいため、X社が円滑化法上の都道府県知事の認定(以下「円滑化法認定」)を受けた上で、乙は相続したX社株式につき、非上場株式等に係る相続税の納税猶予及び免除の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受ける予定です。

 

なお、乙の夫で乙と生計を一にする丙は、㈱Y(本店:横浜市)の代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有しています。Y社は資本金の額や従業員数が多く、円滑化法2条の中小企業者には該当しません。

 

上記の場合において、乙は甲から相続により取得したX社株式に係る相続税につき、「相続税の特例措置」の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


X社の特定特別関係会社であるY社が中小企業者でないことから、X社は「特例認定承継会社」に該当せず、乙が相続により取得したX社株式については相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説


(1)中小企業者要件とは

非上場株式を相続により取得した者が相続税の特例措置の適用を受けるためには、その非上場株式を発行する会社で、円滑化法認定を受けたもの(以下「対象会社」)が「特例認定承継会社」に該当する必要があります(措法70条の7の6第1項)。

 

この特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【(対象)会社の特定特別関係会社が、円滑化法2条の中小企業者に該当すること】があります(措法70条の7の6第2項1号ヘ、措法施行令(措令)40条の8の6第9項、同40条の8の2第10項3号)。

 

これは、中小企業の事業承継支援を目的とする事業承継税制の趣旨を踏まえ、相続税の特例措置の適用対象を円滑化法上の中小企業者、つまり資本金又は従業員数が一定基準以下の会社に限定する要件です。

 

(2)特定特別関係会社の意義

(1)の「特定特別関係会社」とは、①対象会社(X社)、②対象会社の代表権を有する者(乙)及び③②の者と特別の関係がある者が有する議決権の数の合計が、その総株主等議決権数の50%を超える会社をいいます。

 

また③の「②の(代表権を有する)者と特別の関係がある者」の一つに、「その代表権を有する者と生計を一にする親族」があります(措法70条の7の6第2項1号ハ、措令40条の8の6第7項、同40条の8の2第9項、第8項1号)。

 

よって本問のY社のように、対象会社(X社)や対象会社の代表者(乙)がその会社の議決権を全く保有しない場合でも、対象会社の代表者と生計を一にする親族(丙)が自社の総株主等議決権数の50%超を保有している会社は、対象会社の特定特別関係会社に該当します。

 

(3)本問へのあてはめ

Y社はX社の代表者である乙と生計を一にする丙が総株主等議決権数の全てを有しており、X社の特定特別関係会社に該当します。Y社は中小企業者に該当しないため、(1)の要件を満たすことができません。

 

X社が特例認定承継会社に該当しないことから、乙が甲から相続により取得したX社株式は、「相続税の特例措置」の適用を受けることができません。

 

(4)留意点

相続税の特例措置の適用にあたって、対象会社が特例認定承継会社に該当するか否かの判定上、対象会社の関連会社で中小企業者でないものが特定特別関係会社に含まれないかどうかの確認が必要です。

 

なお、対象会社が特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【特定特別関係会社が上場会社及び風俗営業会社に該当しないこと】があります (措法70条の7の6第2項1号ハ、ニ)。相続税の特例措置の適用にあたっては、この要件を満たすかどうかの確認も必要になります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/1/23)より転載

[解説ニュース]

みなし贈与の株価上昇分は相続時精算課税で相続財産に加算されるか

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続時精算課税制度の適用で、父から子がもらっていた同族会社株式が、相続開始直前に被相続人(父)が同族会社への債権を放棄したことで値上がりしたため、税務上のトラブルにつながった事例が明らかになりました(国税不服審判所令和4年3月16日)。

 

相続時精算課税制度の適用を受けていた非上場株式は、贈与者が亡くなった場合、その相続税の計算上、贈与時の価額で加算される仕組みです。その後の株式の価格変動は、贈与者の相続開始に伴う相続税の計算では、加算されないというのが制度の一般的な理解です。

 

ところが、税金トラブルとなったこの事案では、被相続人が相続開始前に株式の発行会社に対して債権を放棄したことから、みなし贈与により、発行会社の株式の価値が増加しました。

 

このため相続税の計算上、債権放棄によって増加した株式の価値まで加算されるのかが争点となったものです(本件は、他の争点もありますが、ここではみなし贈与により発生した「株価上昇分」に関する争点に絞ります)。

 

2、事案の概要


裁決書によると、事案の経過は次の通りです。

 

①平成21年10月に、請求人(相続人)は、亡くなる前の父親(被相続人)から、請求人自身が代表を務める同族会社A社の株式10,100株などの贈与を受け、翌年にその申告の際、所轄税務署に相続時精算課税制度の選択届出書を提出した。

 

②平成23年6月に、被相続人はA社に対し、A社への貸付金債権合計約5,500万円を放棄する旨の意思表示をした。この際には、相続人はA社株12,600株を保有していた。これは本件会社の発行済株式総数23,000株の50%を超えていた。

 

③請求人は、平成28年11月、相続税の申告書を税務署に提出。

 

④税務署は、令和2年12月、請求人に対し、みなし贈与により発生した株価の価値増加分を相続財産に加算するよう相続税の更正処分等をした。

 

3、 みなし贈与とは


この事案のポイントは、相続開始直前に、被相続人が同族会社に対する債権を放棄したため、放棄による経済的利益が会社の株価を引き上げ、株主に贈与があったと税務署にみなされた点です。

 

これは「みなし贈与」と呼ばれる規定の一つ、相続税法第9条に基づくものです。しかもこの規定の適用を受けた相続税法基本通達9-2(3)では、同族会社の株式の価額が、対価を受けないで会社の債務の免除があったことにより増加したときにおいては、その株主が当該株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を、当該債務を免除した者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとし、この場合における贈与による財産の取得の時期は、債務の免除があった時によるものとするとされています。

 

税務署はこの取り扱いにより、債権放棄によって株価が増加した金額について相続時精算課税制度に基づき、相続財産に加算すべきものとしたわけです。

 

しかし請求人は、①株式の評価額の増加に相続税法第9条の規定を適用することは認められない②贈与後の株価の価値上昇分に相続税法9条を適用して贈与とみなして、相続時精算課税制度の対象として相続財産に加算するのはおかしい、として国税不服審判所(以下、審判所という)にその是非の判断を仰ぎました。

 

4、 審判所の判断


審判所は、上記通達について「株主等が同族会社に対する債務免除等によって株式等の価額の増加という経済的利益を取得しているにもかかわらず、株主等に対する債務免除等ではないとの理由で、当該株主等が取得した経済的利益に課税できないとすれば、課税の公平を失するというべき」と整理し、相続税基本通達9-2(3)について「そのような不合理を補う趣旨に基づくものと解され、相続税法第9条の規定の趣旨に沿う」と考え方を示しました。

 

事案に即した検討で審判所は、顧問税理士の提出した評価明細書から「請求人は、対価を支払わないで、債権放棄の時において、被相続人から債権放棄による株式の評価差額23,814,000円を経済的利益として取得したものとみなされる」と認定。

 

請求人が問題としている点について審判所は要旨「株の贈与と本件債権放棄は別個の行為であって、株式贈与に対する課税と債権放棄に対する課税は異なる課税原因に基づくもの(中略)債権放棄による株式の評価額の増加は相続税法第9条の規定の適用がある財産の増加というべきであって、更正処分は、株式の単なる評価額の増加を対象としたものではない」と述べ、「債権放棄に伴う株式の評価額の増加に相続時精算課税制度を適用して課税することは相当である」と判断、請求人の言い分を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/1/11)より転載

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第1回:会計事務所の事業承継について

~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

1.会計事務所の実態


税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。

 

後継者がいないために、事業承継で悩む中小企業が増えておりますが、会計事務所でも同じことが起きています。税理士1人の会計事務所で、税理士が仕事を辞めたいと思っても職員をクビにしたくないし、かといって事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、、、と悩んでいる税理士は多いのではないでしょうか。

 

 

 

2.事業承継型M&Aと成長戦略型M&A


後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段として、M&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。

 

一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので、今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。

 

 

 

3.会計事務所のM&A(譲渡)


中小企業でM&Aが増えているのと同様に会計事務所のM&Aも増えています。M&Aを選択する理由も様々です。

 

①引退したいが後継者がいない

●子供がいない

●子供はいるが試験に合格できない

●子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない

●後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない

●事務所にいる税理士は経営者としては頼りない

 

これは、先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも、会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が中小企業以上に狭いため、より後継者問題で悩む人が多いです。

 

②先行き不安

●毎年顧問報酬の値下げを要求される

●顧問先が年々減少する

●職員を新規採用できない

●複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない

●事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない

●税理士業界全体の将来が心配

 

会計事務所の代表である税理士は、事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。

 

③他業種への転換

会計事務所の他に、コンサル会社などの別会社を運営している方は多いです。他にも、不動産仲介の会社や保険代理店、中にはファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。

 

②と③は先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。

 

中小企業のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えています。

 

 

 

 

4.会計事務所のM&A(買収)


会計事務所を譲渡したいニーズと同様、会計事務所を買収したいニーズも増えています。会計事務所が他の会計事務所を買収する目的について、いくつか説明いたします。

 

①売上の増加

顧問先を引き受けることで、単純に売上の増加につながります。しかし、買収する会計事務所にはそれ以上のメリットが生まれる可能性があります。買収側の会計事務所が税務以外にも様々なサービス(経営コンサル、資金調達、給与計算、保険販売、IPO等々)を提供できる一方で、譲渡側の会計事務所は顧問先に対して記帳代行や決算業務等のサービスしか提供していなかった場合を考えてみますと、既存の顧問先に対して新たなサービスを提供することが可能になり、顧問報酬のアップ(=売上増加)につながることになります。

 

事業会社のM&Aでも同じようなケースがあります。運送業を例に挙げると、小規模であるがゆえに荷主に価格交渉ができず利益率が低いために赤字が継続している運送会社があるとします。その運送会社が、大手の運送会社の傘下に入ることで荷主と強気の価格交渉を行ったり、違う荷物を運ぶことが可能になったりして、一気に黒字に転換することはよくあります。

 

②人の確保

事業規模の拡大のため従業員採用の募集をかけてもなかなか集まらないので、まとまった数の従業員を確保するために他の会計事務所を買収したいというニーズです。今後、会計事務所のDX化が進んでいくでしょうが、まだまだ人の確保は必要です。

 

③新たなエリアへの進出

既存のエリアでの成長が難しくなってきたので、他のエリアに進出したいけど、一から拠点を築くのは大変なので、進出したいエリアにある会計事務所を買収したいというニーズです。地方から東京や大阪、名古屋といった大都市に進出したいと考える方が多いです。また、従業員が何人も税理士試験に合格し、1つの事務所内で資格者の割合が高くなった会計事務所が資格者を活用するため、他のエリアに進出したいと考える方もいらっしゃいます。

 

このように、会計事務所がM&Aを活用することで急成長することが可能になります。