相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

[解説ニュース]

相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

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【問】

個人甲は、平成21年に母Yから賃貸不動産(贈与時の相続税評価額1億円)の贈与を受け、相続時精算課税を選択して贈与税1,500万円を納付しました。甲は令和2年に債務返済のため賃貸不動産を売却後、令和3年に死亡しました。甲の相続人は子のAとBのみで、相続財産はAとBが相続しました(相続税額なし)。令和5年2月にYが死亡し、相続財産1億500万円は代襲相続人(孫)のAが6,300万円、Bは4,200万円を相続しました(AとB以外にYの相続人はなし)。またYに係る債務及び葬式費用500万円はAが300万円、Bが200万円を負担しました。上記の場合において、Yに係る相続税の計算上、AとBの納付すべき相続税額はいくらになりますか。

【回答】

1.結論


Aの相続税額は1087万円、Bの相続税が753万円となります。

 

 

2.解説


(1)特定贈与者に係る相続税の計算

 

相続時精算課税の適用を受けた受贈者(相続時精算課税適用者)に係る相続税額は、その贈与をした者(特定贈与者)が死亡した時に、それまでに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続又は遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。(相続税法21条の15、21条の16)。この場合に相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の相続税評価額となります(同法21条の15第1項、21条の16第3項)。

 

 

(2)特定贈与者の死亡前に相続時精算課税適用者が死亡した場合の特定贈与者に係る相続税計算

 

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る受贈者(相続時精算課税適用者)が死亡した場合は、その相続時精算課税適用者(以下「死亡相続時精算課税適用者」)の相続人(以下「承継相続人等」)は、死亡相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務を承継します(相続税法21条の17第1項)。

 

 

(3)承継相続人等の相続税額の計算

 

(2)において、承継相続人等(A・B)が特定贈与者(Y)から相続等により財産を取得している場合、承継相続人等は[1]特定贈与者から相続・遺贈により取得した財産に係る相続税額と、[2]相続時精算課税の贈与財産の価額を基に計算した死亡相続時精算課税適用者(甲)に係る相続税額の合計額を納付します。

 

 

(4)AとBの相続税額の計算

 

(2)と(3)の取扱いを踏まえて、AとBの納付すべき相続税額は次の通りに計算します。

 

①課税価格の計算

 

イ.Aの課税価格の計算 6,300万円(相続により取得した財産の価額)-300万円(債務・葬式費用の額)=6,000万円

 

ロ.Bの課税価格の計算 4,200万円(相続より取得した財産の価額)-200万円(債務・葬式費用の額)=4,000万円

 

ハ.相続時精算課税適用者甲の課税価格の計算 1億円(相続時精算課税に係る贈与財産の価額)

 

ニ.課税価格の合計額=イ+ロ+ハ=2億円

 

②基礎控除(相続人2人)4,200万円

 

③相続税の総額  (2億円-4,200万円)×1/2×30%-700万円=1,670万円。1,670万円×2=3,340万円

 

④按分割合

 

イ.A:6,000万円/2億円=0.3

 

ロ.B:4,000万円/2億円=0.2

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲:1億円/2億円=0.5

 

⑤算出相続税額

 

イ.Aの税額:3,340万円×0.3=1,002万円

 

ロ.Bの税額:3,340万円×0.2= 668万円

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲の税額:3,340万円×0.5=1,670万円

 

 

⑥死亡相続時精算課税適用者甲からAとBが承継する納付すべき相続税額 1,670万円-1,500万円(相続時精算課税分の贈与税額控除額)=170万円
Aが承継する相続税額:170万円×1/2(法定相続分)=85万円(Bも同じ)

 

⑦納付すべき相続税額

 

A:⑤イ+⑥=1,087万円

 

B:⑤ロ+⑥= 753万円

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/30)より転載