賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

[解説ニュース]

賃貸マンションが空いたので自宅転用し売却したら税金トラブルになった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

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■地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

 


1.はじめに


ここ数年、マンションの売買価格が上昇しているとの報道をよく目にします。
実際、若干の凸凹はあるにしろ、平成17年から令和4年までの首都圏のマンションの価格指数は息の長い右肩上がりとなっています((一財)日本不動産研究所「不動研住宅価格指数」)。

 

そこで、マンション投資で利殖を考える向きもあるでしょう。マンション投資といえば、サイドワークでマンションを賃貸して、不動産所得を得る、あるいは節税を図るのを狙いとするものがよく知られた方法です。

 

そこに価格上昇トレンドが加わると、投資の出口において積みあがった含み益をどのように手中におさめるか、なるべく税負担の少ない方法はないか、検討する向きも少なくないでしょう。

 

たとえば、賃貸マンションを自宅に転用して売却することで、自宅の売却なら「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例(いわゆる3,000万円控除)」が利用できるのではないかといった具合です。お気持ちはよくわかります。

 

ただ、この方法は勇み足になりがちです。今回は、賃貸マンションを自宅転用したつもりで売却して税金トラブルになった国税不服審判所(以下、審判所という。)の裁決事例(令和3年4月2日)を紹介します。

 

 

2.事案の概要


この事案の事実関係の概要は次のとおりです。

 

①Aさん(審査請求人)は、平成21年にマンションを買い、翌22年に引渡しを受けた。

 

②Aさんは別途、このマンションとは別の場所に住宅を買っていた。

 

③Aさんは同マンションを平成23年から平成27年1月まで賃貸していた。

 

④空家になったマンションをAさんは業者に依頼してハウスクリーニングした。

 

⑤Aさんは、不動産業者に同マンションの売却につき相談する一方で、住民票を同マンションに移した。

 

⑥Aさんは平成27年5月に同マンションを売る契約をし、同年6月に引き渡した。

 

⑦同マンションは引渡し日基準で取得の日を選択していたので、売却益は短期譲渡所得となるため3,000万円控除を適用して確定申告した。

 

⑧税務調査を受け、調査官から3,000万円控除の適用はできないと指摘を受けた。その後、3,000万円控除を受けるために住民登録を移したことが「仮装」に当たるとして重加算税が課税された。

 

⑨Aさんは審判所に審査請求した。

 

 

3.審判所の判断


争点は、重加算税が課税される「仮装」があったかどうか(譲渡所得の長期・短期を判定する材料となる「取得の日」の選択に関する争点もありますが、割愛します)。

 

審判所は3,000万円控除の適用対象について法律上「短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいう」と解釈し、この判断方法は、「譲渡者及び家族の日常生活の状況やその家屋の利用実態(中略)の諸事情を総合的に考慮し社会通念に従って判断するのが相当」と説明しました。

 

また、「仮装」については、「…取引上の名義等あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実を歪曲すること」としました。

 

これに基づいて審判所は次の事実を指摘しています。

 

ア. 平成27年1月の賃貸終了後から同年6月までの間電気・ガスの供給契約を締結していない。

 

イ. 水道使用量などは建物一括契約であったが、通常9,000円前後かかるところ、平成27年3月から6月までの費用は188円であった。

 

こうしたことから審判所は、「Aさん主張の居住の事実を「客観的に裏付ける証拠は見当たらない」とした上、Aさんが一時的に出入りし使用していたとしても、「客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点として使用していたとは認め難い(中略)居住実態はなかった」と認定しました。

 

さらにAさんが「自宅を売却した場合、住民票を提出すれば控除を受けられることを昔から知っていた」と答術していることから、このマンションに住民登録を移した目的は、このマンションに居住しておらず、その意思もないのに3,000万円「控除を適用するため異動した」と認定し、仮装があったと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/6/27)より転載