[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、知人の税理士に顧問先を譲るのと M&Aで他事務所に譲渡(売却)するのとは何が違いますか?

 

 

主に下記の 2つ の違いがあります。

 

1つ目は、「 相手先をよく知っている安心感 」です。

 

知人の税理士への譲渡では、すでにどのような先生で、どのような事務所であるか、ということを知っているという安心感があります。

 

一方、M&Aで譲渡する場合は、面識のない事務所への譲渡になりますので、どのような先生で、どのような事務所なのかというのはわかりません。

そのため、所長同士の「トップ面談」や、「事務所見学」をしっかりと行う必要があります。

 

 

2つ目は、「 交渉のしやすさ 」です。

 

知人の税理士への譲渡では、付き合いがあるだけに、意外と「 強い交渉がしづらい 」ということがよくあります。とくに、「 譲渡対価 」は、「 適正価格よりも低い金額や、無償に近い金額 」で譲るケースも多いです。

 

一方、M&Aで譲渡する場合は、アドバイザーが算定した「 適正価格(一般で取引される価格)」をベースに交渉がはじまるため、適正価格よりも極端に低い金額で譲るケースはほとんどありません。

 

また、多くの買手候補が集まることもあり、「資金力のある事務所」が買手となる可能性もあります。

 

 

このようにM&Aでは、複数の買手候補から選択できるので、「 譲渡対価 」以外にも、「 事務所の環境 」「 職員への待遇 」などを比較検討しながら、買手を探すことができるというメリットがあります。

 

 

 

 

[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、どのような理由で、会計事務所・税理士事務所の譲渡(売却)を考える方が多いのですか?

 

1つ目は、「 後継者不在 」です。

息子や娘が税理士資格をもっていない、

税理士資格をもっている職員に承継を打診したが断られた、というケースです。

 

新規に人材を採用して、後継者を育成していたが、

「期待していた税理士が辞めてしまった」ということもよくあります。

 

 

2つ目は、ご自身の「 年齢 」「 体力や健康面の不安 」です。

55歳、60歳、65歳と節目の年齢に差し掛かる際に、

ご自身の体調面を踏まえて、今後の仕事や生活について考える、というケースです。

 

3つ目は、「 事業意欲の減退 」です。

税の専門家として、「勉強をするのがつらくなってきた」「ITについていけない」など、高齢になるにつれて、税理士業務を続けることに限界を感じる方もよくおられます。

 

その他にも、「 代表の責任から解放されたい 」「 大手の傘下でサービスを充実したい 」という理由を挙げる方もいます。

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第14回:売却後の会社との関係

承継後も元社長が会社に残って働くことは可能?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 

質問(Q)


第三者承継により会社を譲る予定です。まだまだ元気なので、動けるうちは承継後も会社に残って働きたいのですが、可能でしょうか。例えば、週3日程度でもいいのですが…。

 

回答(A)


後継者次第ですが、可能です。昨今の人手不足のため、後継者からの希望で、承継後も1年以上仕事を継続しているケースもあります。

また、オーナー経営者にとって「社長」という肩書きが急になくなり環境が変化することは、身体的・精神的に影響が大きいので、承継後の生活をイメージしておくことも大切です。

 

 

 

 

小さな会社の引継ぎ業務のよくあるケース


小さな会社がマッチングサイトを使って後継者を見つけ、承継が成立した後の「引継ぎ業務」のよくあるケースを紹介する。毎日出社してしっかりとした引継ぎを行う期間は、1ヶ月程度であることが多い(技術の承継が必要な場合や全くの異業種からの承継の場合は1ヶ月以上となる)。

 

実際の引継ぎ業務としては、主要な仕事の引継ぎ以外にも「得意先や仕入先などへの挨拶回り」「個々の従業員との面談や過去の経緯の共有」「社内資料の引継ぎ(パソコン内に保存しているデータを含む)」など多岐に渡る。長年経営してきた会社を第三者へ引き継ぐのであるから、様々な項目の引継ぎ業務が発生するのは当然である。

 

また、このような短い期間の必要最小限度の引継ぎでは、オーナー経営者側は無報酬であることが多い。

 

 

 

元社長が会社に残ることを後継者が望むことも…


日本は現在人手不足の状況が続いている。そのため、後継者側からの要望で承継後も元社長が会社に残って働くというケースもよくある。承継後も元社長に仕事を継続してもらうことで、後継者としては、内製化などのシナジーに着手したり、新規営業やホームページの整備などを手掛けたりすることがある。

 

もちろんこのようなケースでは、承継前に報酬を含めた条件について元社長と後継者の相互の同意をとっておくことになる。また、引継ぎ期間の報酬をいくらにするかは税理士などの専門家に相談したうえで慎重に決めることが重要である。

 

 

 

承継後の生活をイメージしよう


ここからは少し余談となるが、オーナー経営者の皆さんは、承継前に是非承継後の生活をイメージしておいてほしい。

 

できれば、「承継後に実現したいこと」などを、家族と相談しておこう。第三者承継をした後というのは、はっきり言って大きく生活が変わる。事例のように承継後も会社に残るという選択をした場合は別であるが、そうでない場合は、朝出社、夕方帰宅という日課がなくなるのである。

 

何も予定がなく、お酒やテレビ三昧となれば、肉体的・精神的に大きな影響がある。また、環境の変化により配偶者と不仲となり、熟年離婚ともなれば、いくら承継がうまくいきお金を手に入れたとしても、財産分与となり、幸せなこととはいえない。他にも、社長という「肩書き」がなくなることも、事前にきちんと理解しておいてほしい。

 

何かを申請などする際に、ふと肩書きがないことに気づき、戸惑ったという話を聞いたことがある。事前に覚悟しておけば、そんなときにも柔軟に対応できるというものだ。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第13回:売れる会社の特徴

売れる会社と売れない会社、その分岐点とは?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 

 

 

質問(A)


第三者承継できる会社とできない会社があるようですが、どういったところがポイントなのでしょうか。

 

回答(Q)


後継者候補が現れて上手に第三者承継ができている会社の特徴は、「5つの整理ができている」「再現性がある」「条件が高すぎない」の3つです。

 

 

 

後継者候補が集まりやすい会社の特徴


特別な商品やサービスを扱っていたり、特許を持っていたりなど特徴的な会社は、後継者が見つかりやすいのは確かである。しかし、マッチングサイトを使って後継者候補を探す場合は、あまり特徴がない普通の小さな会社でも、後継者候補が見つかる可能性がある。

 

また、ここまで見てきたように、売上規模が小さくても、赤字や借金があってもマッチングサイトを使った第三者承継では、後継者候補が見つかる可能性は十分にある。その背景には、後継者候補の「数」が増加していることと、後継者候補の「多様化」がある。

 

このようにマッチングサイトにより後継者が見つかりやすくなった状況の中でも、特に後継者候補が集まりやすい会社がある。

 

そのような会社の特徴は次のとおりである。

 

 

● 「5つの整理(株主・書類・資産や負債・私的財産や私的経費・関係会社の整理)」が事前にできている会社

● 社長がいなくてもある程度回っている会社又は再現性がある会社

● 条件が高すぎない会社

 

 

 

再現性のある会社


1つ目にあげた「5つの整理」は、これまでの解説をもう一度確認してほしい。ここでは、2つ目にあげた「社長がいなくてもある程度回っている会社又は再現性がある会社」を確認する。後継者候補の視点は常に、「承継後」にある。承継自体は後継者候補にとっては、スタート地点に過ぎない。承継後にこの会社をどうやって経営していくのか、ノウハウや取引先をどうやって引き継ぐのかなどが重要なのである。

 

承継が済めば、基本的に元社長はその会社からいなくなるが、その時に問題なく会社運営ができるのかが後継者候補の最大の関心事といっていい。承継対象会社が、既に社長抜きでほぼ運営できている場合は、後継者候補にとっては安心だ。この場合は第三者承継とはいえ、トップが代わるだけで、実務はそのまま問題なく継続できるだろう。

 

しかし、小さな会社ではそういった会社はとても少ないのが現実だ。では、一般的な小さな会社が後継者候補に興味をもってもらうためにはどうしたらいいのだろうか。それは、再現性のある会社にすることである。「再現性がある」とは、他の人でも同様の作業ができて、結果が出るような仕組みのことである。具体的には第6回の解説で説明したように、社長が独自にしている業務を、紙に落とし込んでマニュアル化していくのである。

 

 

 

条件が高すぎない会社


特別な商品があり、再現性もある会社なのに、なかなか第三者承継ができない会社がある。なぜであろうか。その理由はズバリ、「条件が高すぎる」のである。これは、小さな会社でも時々ある。たとえ小さくとも特別な商品やサービスがあり、更に再現性のあるような会社では、オーナー経営者自身にとっては自慢の会社である。そうすると、時に、相場とかけ離れた条件を提示してしまい、結果的に後継者候補が現れなくなってしまうのである。こういった時は是非、マッチングサイトに精通したアドバイザーなどの専門家に相談をして、相場観を確認してほしい。そうしないと、取引先も従業員も、オーナー経営者自身も望まない結果となってしまうのだから……。

 

最後は信頼できるかどうか


最後に、「5つの整理」や「再現性」があり、条件も「高すぎない」にもかかわらず、第三者承継ができない会社も実は稀にあるのだが、どんなケースだろうか。 意外と思われるかもしれないが、第三者承継の過程で信頼を醸成できなかったケースである。最終的にお金を支払って全責任を背負うのは、後継者候補である。

 

その後継者候補からみて、オーナー経営者などに対して、「何か隠しているのではないか」という疑念が最後まで払拭できなければ、後継者候補は最終的にお金を支払うことはしないだろう。たとえ資金力や経験豊富な有名企

業が後継者候補として現れても、信頼を相手に抱くことができなければ、雇用の継続や取引先の継続を強く望むオーナー経営者の場合、最終的に会社を引き渡すことはしないだろう。

 

小さな会社の第三者承継では、こういった部分は大変重要であることを覚えておいてほしい。第三者承継を特殊なことと思わず、通常の仕事と同じように考え判断することができれば、納得のできる形で会社を引き継ぐことも可能であるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第12回:個人事業の事業引継ぎ

個人事業でも第三者承継の対象になりますか?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 

質問(Q)


私は個人事業で豆腐屋を30年間続けてきました。息子が豆腐屋を継がないことになったので、廃業することも覚悟していますが、個人事業で第三者承継はできませんよね。

 

回答(A)


いいえ。個人事業でも第三者承継は可能です。しかし、承継までに時間があるなら法人成りすることをお勧めします。

 

 

個人事業と会社の違い


個人事業と会社の違いについて、売上高や従業員数、あるいは知名度などをイメージする人もいるかもしれない。しかし、これは間違いである。個人事業であっても売上高や知名度の高い会社は多数存在する。個人事業とは、税務署への開業届の提出など簡単な手続きで、名前や屋号などを使って商売を始めることである。

 

一方、会社は事前に1ヶ月ほどかけて法務局で設立手続きを行い、設立費用がかかる。また、その会社の資金拠出者=会社の所有者として株主が必要になる。もちろん、株主は社長が兼ねることも可能だ。

 

 

 

個人事業は「事業譲渡」しか選択できない


会社組織であると、株主を通じて会社を丸ごと売却する「株式譲渡」が選択できる。この場合、取引先との各種契約、従業員との雇用契約、事務所の賃貸借契約まで、原則的にはすべて譲り受け手に渡すことができるので、手続きは楽だ。特に事業を行うにあたって必要な許認可がある場合などは、そのまま承継ができると、譲り受け手にとって大きなメリットと感じることも多い。

 

一方、個人事業の場合は、会社組織ではないため、資産を1つずつ売却する「事業譲渡」しか選択できない。事業譲渡とは、契約によって個別の資産・負債・権利関係等を移転させる手続きで、営んでいるすべての事業を譲渡することも一部の事業のみを譲渡することも可能となっている。

 

しかし、譲り受け手にとっては、事業譲渡の場合、すべての契約がまき直しとなるため、引き継いだ後に、取引先との契約が結べないリスク、従業員の退職リスク、賃貸借契約が結べないリスクが発生する。更には、許認可等は、原則、再度取得し直す必要がある。引き継いでも数ヶ月間事業が行えないということも、小さな会社の第三者承継では時々発生している。

 

 

 

法人成りも一考


個人事業でも第三者承継は可能であるし、多数行われている。ただし、先述のリスクを考慮すると、承継までに時間があるなら法人成りすることをお勧めする。法人成りとは、個人事業を法人である会社に移行することであるが、実務的には個人事業で所有されている資産等を、図にあるような「売買契約」「賃貸」「現物出資」のいずれかの方法で移行することになる。個人事業から会社に移行していれば、会社を丸ごと売却する「株式譲渡」を選択することができるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第11回:売却の条件

正社員0人・年商1,500万円、こんな会社でも第三者承継できるのですか?

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

質問(Q)


40年ほど前に始めたパン屋ですが、景気の良い時代は学校やホテル等への卸売も好調で、年間5,000万円の売上げがあり、正社員も2名いました。しかし現在では、年間売上げ1,500万円、正社員は0人で、数名のパートの方がいる状況です。 このような会社でも、第三者への承継(売却)ができるのでしょうか。

 

回答(A)


はい。マッチングサイトを使って探せば、可能性は十分あります。

 

 

 

 

マッチングサイトは後継ぎ探しの新しい手段


第三者への承継で一番大事なのは、「後継ぎ探し」である。つまり、それはその会社の価値を認めてくれる後継者候補を見つける作業であるといえる。第三者に承継する場合、以前は友人や知人、従業員など周囲の人から探し出すしか手段がなかった。そして、その場合でも秘密保持の観点から、誰それ構わずに話をする訳にはいかなかった。「例えばの話であるが……」と仮定の話をしたり、それとなく様子を探るなどしかできなかったのではないだろうか。以前は小さな会社の社長が親族以外の後継者候補を探すのは非常に難しかったといえるだろう。しかし、そういった小さな会社に明るい未来を提示してくれたのが、「マッチングサイト」の出現である。マッチングサイトに登録すれば、ケースによっては後継者候補が平均して10社以上現れることもあるのだ。

 

 

 

20件弱の後継者候補が現れた実例


実例を紹介する。対象会社は創業40年以上の関東近郊の金属メーカーで、年商700万円、正社員0人であった。メーカーといっても工場や機械は保有せず、過去の製作実績や図面が多数あった。

 

マッチングサイトに登録してわずか1ヶ月ほどで、20件弱の後継者候補が現れた。その中で、お互いに実名を開示して本格交渉となったのは6件、リアルに面談したのは2件、そして40代の会社員が後継者に決まり最終契約、引渡しとなった。

 

ネットのマッチングサイトユーザーの9割は、実は譲り受け手である。また、その半分が個人というデータもある。個人といってもケスはいろいろあるのであるが、この例のように会社員が起業の一手段として会社を譲り受けるケースも最近では増えている。譲り受け手が多様化している事例でもある。

 

 

 

価値は見る人によって大いに異なる


オーナー経営者からすると、こんな小さな会社に対価を支払ってまで承継させてほしいという会社や個人がいることが信じられないかもしれない。しかし、20件弱の後継者候補が現れる上記のような実例があるのである。もちろん、どんな会社でも後継者候補が現れるわけではないし、1年以上後継者候補が現れない会社も複数ある。一般的に、後継者候補が現れるかどうか、つまり後継者候補が対価を支払う価値があると考えるかどうかのポイントは、次の2点ではないかと思う。

 

 

【後継者候補が現れるかどうかの2つのポイント】
1. 価値がある

2. 価値があっても、条件が高すぎない

 

 

 

マッチングサイトに譲り渡し案件を登録すると、意外な会社が後継者候補として名乗りを挙げることがある。北陸の会社が関西の会社を、飲食業が製造業を、中堅企業が小さな会社を、などである。会社員なども後継者候補として参戦してきている。

 

例えば、異業種の会社が新規事業立上げを考えている場合に、一から始めるよりは、第三者承継の方が「時間短縮」や「費用対効果が高い」と考えるのであろう。たとえ規模が小さく売上げが減少傾向の譲り渡し案件であってもである。つまり、オーナー経営者自身が考える小さな会社の価値は、エリアや業種、属性などが異なる立場から見た時は、良い意味で大きく乖離していることがある。

 

また、このように後継者候補に価値を認めてもらっても、条件が高すぎると、なかなか承継は成功しないということも知っておいてほしい。条件とは主に承継対価となるが、それ以外にも社名の変更をかたくなに禁じる、取引先との契約や従業員の就業条件について過剰な要求をするといったことは控えたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第7回:売却に向く会社と向かない会社

~仕組みで儲ける会社と属人的な技術やノウハウで儲ける会社~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、デザイン会社を営む顧問先の社長からM&Aによる会社売却を検討していると相談されましたが、留意点を教えてください。

 

A、社長の能力に依存している会社は第三者に売りにくい側面があります。また、デザイン会社の場合、デザイナーの離反などにも留意が必要です。一般論としては、仕組みで儲ける会社は売りやすく、属人的な技術やノウハウで儲ける会社は売りにくいです。

 

M&Aによる外部売却は、向いている業種と向いていない業種があるため、留意が必要です。特定の個人の能力に依存している会社は売りにくく、スタッフ個々人の能力というよりはビジネスモデルが確立されている会社は売りやすいです。この点、会計事務所の売却をイメージ頂くとわかりやすいと思いますが、所長の専門的能力や人脈に依存する事務所は、売却により所長が引退すると顧客も離れてしまうと考えるのが自然です。また、エース格の税理士が業務の大半をコントロールしているような事務所もM&Aを機に独立されてしまう可能性があり、買手にとってはリスクがあります。

 

一方で、記帳代行など業務アウトソースをメインとする会計事務所はスタッフ個人の能力というよりも仕組みで儲けるモデルであり、顧客離反のリスクが低いためM&Aに適していると考えられます。

 

このような観点で考えると我々税理士のような士業、エンジニアを多く抱えるIT企業、デザイン等アート系の会社など専門職が活躍する事業は人材流出リスクを考慮の上、手続きを進める必要があります。

 

筆者の経験でもオーナー同士の合意で事業を買収したものの、実権を握っているナンバー2が離反してM&A後に役職員の大量退職が生じてしまった事案がありました。会社の売買は株主との合意のみで行えますが、M&A を成功させるにはなかで働く役職員のモチベーションをいかに保つことができ、また高めることができるかが重要になります。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第6回:税理士が関与できるM&A 業務

~M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が関与できるM&A 業務を当事者別に教えてください。

 

A、売手、買手、対象会社に対して幅広い業務提供の機会があります。M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代であると言っても過言ではありません。

 

 

 

 

 

 

図表は当事者別にM&A支援業務をまとめたものです。売手向けと買手向けの業務について売買の仲介、スキーム策定、DD及び株価算定は支援する相手が違うだけでほぼ同一です。通常、DDとは買手サイドが行う買収監査を指しますが、売手が自社を調査するセルサイドDDも行われることがあります。買手のDDにより問題点を指摘されてから対処するよりも、事前に自社を調査して議論になりそうな点について事前準備をするために行います。特に複数の候補先に入札させるような案件では前さばきとしてセルサイドDDを行うケースが多いです。売手に対しては売却時の確定申告や売却後の資産管理業務も行えますし、買手に対しては購入時の税務申告の支援も行えます。とりわけ事業譲渡の案件では、譲渡対価の各資産への振り分け、減価償却資産の耐用年数の決定、営業権の処理など会計・税務で多数の論点が生じます。

 

また、対象会社に対してもPMI(Post Merger Integration) と言われるM&A 後の統合コンサルティング(事務処理体制の確立や買手との会計処理の統一、原価計算制度の構築など)や顧問税理士や監査役に就任しての関与などの業務提供が可能です。

 

以上、M&Aは税理士にとって非常に多くの業務機会がある一方、M&Aによる優良顧客喪失の可能性もあり、M&Aに対する対応力が会計事務所の成長力を左右すると言っても過言ではありません。

 

また、1 年の間でM&Aがよく行われる時期は7月以降で、4、5月は相対的に減少しますが何故だかわかりますか?日本の会社は3月決算が多いため、買手も売手も春先は自社の決算で忙しくM&Aなどやっている暇がないためです。自社の直近確定決算に基づき、いくらで売れそうか検討してから案件がスタートするため夏から秋がM&Aの繁忙期になるということです。

 

これは我々税理士の繁忙期(年末~5月)とかぶらないという点が重要なポイントです。事務所所長としては事務所スタッフの有効活用につながりますし、スタッフの方にとってもスキルの向上に役立ちますので、会計事務所がM&Aに取り組むことは収益源の多様化も含めて一石三鳥の効果があると言えます。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第10回:企業価値UPの秘策

高い価格で小さな会社を引き継いでもらうポイント

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

小さな会社の第三者承継において、できるだけ高い価格で会社を引き継いでもらうためのポイントは、以下の3つである。

 

【できるだけ高い価格で会社を引き継いでもらうためのポイント】
1. 複数の優秀な後継ぎ候補を集めるために、自社の情報を正確にマッチングサイトに登録すること

2. 承継を決めたら、承継直前期の売上げや利益を上げる努力をすること

3. 社長業の終活をすること

 

 

 

引き合い件数が多いのは、デューデリジェンスを実施した会社


できるだけ高い価格で引き継いでもらうポイントの1つ目は、複数の優秀な後継ぎ候補を集めるために、正確な情報をマッチングサイトに登録することである。これまで手掛けてきた承継事例でも、きちんと自社のデューデリジェンスを実施し、それに基づいた情報をマッチングサイトに登録している会社は最初の引き合い件数が多かった。そして、価格や雇用継続などの条件でオーナー経営者の希望にそった形で交渉を進めることができているのである。

 

 

 

承継直前期の売上げや利益を上げる努力をする


ポイントの2つ目は、承継を決めたら、承継直前期の売上げや利益を上げる努力をすることである。小さな会社の価格算定に、土地のような路線価や固定資産税評価額などの目安となる公的指標はない。また、会社が小さければ小さいほど、取引事例のデータストックもない。ではどのように価格が決められているのかというと、特に小さな会社の第三者承継でよく用いられるのが、下記の簡便的価格算定方法である。

 

 

【小さな会社の第三者承継でよく用いられる簡便的価格算定方法】

承継直前の利益金額 × 〇年分 + 時価純資産価額

 

 

上記の計算式のとおり、なるべく高い価格で会社を第三者承継しようと考えると、承継直前期の売上げや利益を上げることが大切である。つまり承継前に売上げや利益を上げるべく努力すると、それがそのまま会社の価格に反映されることが多いと知っておいてほしい。もしそれほど売上げや利益を上げられなくとも、「売上げや利益が上がる傾向にあるのか」「下がる傾向にあるのか」というトレンドも価格算定や他の条件に大きく影響するので、たとえわずかでも上昇局面を作っておくということは、オーナー経営者側にとってとても大切なことになる。

 

 

 

社長業の終活をすること


ポイントの3つ目は、「社長業の終活をすること」である。小さな会社では、特に仕事における社長への依存度が高い。また、会社が組織化されていないため、書類の整理や情報の共有などで一般的な中小企業に大きく遅れていることが多い。書類がきちんと整理されていて、重要な取引先や仕入れ先などが一覧できる状態になっていると、それだけで後継者候補へのアピールとなるのだ。マッチングサイトに登録しても後継者候補がそれほど現れなかった場合や、努力しても承継直前期の売上げや利益を上げられなかった場合でも、このような終活を実行すれば、高い価格で会社を譲ることができる可能性がある。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第9回:関係会社の整理

~資産の会社間移動や現物支給の役員退職金を活用~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

関係会社があると第三者承継が難しくなる傾向


小さな会社で複数社の経営をしているようなケースは、少ないであろう。

しかし次のようなケースはないであろうか。

 

 

● 事務所や工場、倉庫の名義は社長個人の不動産所有会社である。

● 資産管理会社を持っている。

● 以前商いが多かった時に作った中間会社がある。

 

 

このように小さな会社でも、社長の個人会社に「工場家賃を支払っている」等のケースはある。社長が現役で仕事をしている間であればもちろん問題はないが、第三者への承継となると、「その家賃金額は適正なのか」「保証金や権利金はどうなっているのか」「そもそも正式な賃貸借契約書は存在するのか」などの懸念が出てくる。

 

 

 

関係会社の整理がスムーズな承継につながる


そこで、承継を決断した社長がやるべき5つ目の項目は、「関係会社の整理」となる。

 

小さな会社の第三者承継はまだまだ認知度が低いこともあって、後継者候補側は疑心暗鬼になっていることが多い。そんな中、関係会社がいくつかあって、関係会社との契約書類の不備や契約金額に曖昧なところがあるとなると、スムーズな承継といきにくいのはご理解できるであろう。今まで多数の小さな会社の事業承継のお手伝いをしてきて、はっきりいえるのは、「シンプルな会社には、多数の優良な引受け手が現れる」ということだ。承継前に、関係会社を整理しておき余計な説明が不要の状態にしておくことは、小さな会社の承継ではとても大切な事項といえるだろう。

 

 

 

関係会社の整理の仕方


では具体的にどうやって、関係会社の整理を行えばいいのか。例えば、過去には意味があったが今では2つに分けている必要がない2社があり、共に承継対象なのであれば、「会社合併」という法的手続きがある。

 

また逆に、承継対象の会社に、承継後もプライベートで使いたい社用車や承継対象外の不動産が計上されているようなケースでは、承継対象外の個人会社に一部を引き継がせる「会社分割」という法的手続きがある。

 

しかし、会社合併や会社分割という法的手続きには、専門家を交えた手間のかかる作業や費用が必要なため、小さな会社の承継では基本的にはお勧めしない。

 

ではどうするのか。単純に「会社間の資産売却」や「役員退職金制度を使って社長個人に移す」という形をとるのがベターであることが大半だ。具体的には、承継予定会社に事業用資産を集約し、承継対象外の会社に承継対象外資産や個人資産を集約するのである。または、第三者承継時に、社用車などを現物支給という形で社長個人に役員退職金として支給するのである。

 

 

 

 

 

 

[用語解説]

■資産管理会社
法律で定義があるわけではなく一般的な俗称で、「株式や不動産、太陽光発電設備などの資産を持っている方が、その資産を管理するために設立する会社」のことをいう。

 

■中間会社
法律で定義があるわけではなく一般的な俗称で、「例えば、自社で製造したものを直接ユーザーに販売するのではなく、いったん中間会社に販売し、その会社を経由してユーザーに販売するための会社」のことをいう。

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第13回:DCF法のポイント、将来キャッシュフローを求めよう、現在価値に割り引こう、DCF法の計算をしてみよう

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法のポイント

2.将来キャッシュフローを求めよう

①将来CF(キャッシュフロー)の予測

②フリーキャッシュフロー(FCF)

3.現在価値に割り引こう

①残存価値(Terminal Value)

②計算事例

4.DCF法の計算をしてみよう

5.非事業用資産(遊休資産)の加算

 

 

M&Aの場面だけではなく、事業上の判断や減損判定等多くの場面においてDCF法は使用されています。本稿では第12回に引き続き、DCF法の計算の流れについて見ていきましょう。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1. DCF法のポイント


DCF法はざっくりお伝えすると企業・事業の「将来キャッシュフロー」を「現在価値に割り引いて」企業価値を算出する方法です。

 

そのため重要なポイントは以下の2点です。

 

 

 

企業・事業の将来キャッシュフローを算出するためには「将来のCFを予測する」ことと「FCF(フリーキャッシュフロー)を計算する」ことが必要になります。こうして求めたFCFを前回ご説明した「現在価値に割り引く」ことで、現時点での企業価値を算出することができます。

 

2. 将来キャッシュフローを求めよう


①将来CF(キャッシュフロー)の予測

企業の将来CF予測に際して、まずは予想貸借対照表・予想損益計算書を作ります。その際、企業の事業計画を反映させるとともに、当該計画の妥当性を検証(デューデリジェンス)します。第9回でご説明した事業計画分析ですね。

 

予想貸借対照表・予想損益計算書の作成は、シナジー効果等、合併に際してプラスの要素やマイナスの要素も組み込んだ計画が望ましいです。過去の財務指標推移を参考にして作成し、投資・人事計画等の事業計画を織り込みます。もちろん夢物語では信頼性に乏しいため、ある程度の説得力のある財務諸表を作る必要があります。

 

 

②フリーキャッシュフロー(FCF)

DCF法で使うのは「フリーキャッシュフロー(FCF)」という概念です。事業が産み出すキャッシュフローのことで、イメージとしては「債権者・株主に分配可能なキャッシュフロー」です。税金を支払い、必要な投資を行った後に債権者・株主に分配可能なキャッシュフローとなります。

 

 

 

 

P/Lの営業利益を出発点として、債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めに行きます。FCFの式は少し難解に見えますが、各項目をもう少し具体的に掘り下げていきましょう。

 

 

+営業利益×(1-税率)

税引後営業利益のことで、本業の成果である営業利益から税金分を差し引いた金額です。税金は国に支払う金額のため、債権者・株主に分配できません。そのため営業利益に帰属する税金部分を除くよう、×(1-税率)として簡便的に税引後営業利益を計算しています。

 

税引後営業利益のことを、専門用語でNOPAT(Net Operating Profit After Taxes)と言ったりします。

 

 

+減価償却費

減価償却費は営業利益の中に含まれていますが、現金支出を伴わない費用のため実際のキャッシュに影響を与えません。減価償却費は固定資産を期間配分計算しているに過ぎないので、特段現金は出ていきませんね。

 

今回必要となるのはキャッシュがいくら入るかの情報のため、営業利益に含まれている減価償却費を足し戻すことで、減価償却費の影響を排除し現金支出項目に絞っています。

 

非現金支出費用である減価償却費の影響を排除する点では、第8回でご説明したEBITDAの計算と同じ発想です。

 

 

▲(+)正味運転資本増加額

営業利益と現金収支のタイミングは通常異なります。売上や売上原価は先行して計上されますが、売掛金や買掛金は回収・支払に時間がかかります。そのため通常営業活動に投下されている資金を計算し、現金が必要になる部分を差し引きます。もちろん現金が余る場合は加算するので「正味」とついています。運転資本は各期において以下の通り求めます。

 

 

 

例えば以下の事例を考えてみましょう。売掛金と買掛金しかない会社で、運転資本が+20動いています。

 

 

 

×2年度において、売上高から手に入る現預金はいくらでしょうか。細かい条件は考えず、売上高は期末に1回のみ上がるとしましょう。

 

×2年に手に入る現預金は、×1年の売掛金精算分の100ですね。×2年の売上高はまだ売掛金なので、現金化されていません。

 

一方、×2年の損益計算書における売上高はいくらでしょうか。これは×2年に計上している売掛金分の130です。

 

 

×2年の営業損益計算においては130の売上を計上している一方、実際に流入しているキャッシュは100しかありません。そのため営業利益と実際に入っている現預金を比較すると、実際に入っている現預金の方が30小さい状況と言えますね。

 

運転資本はPL計上タイミングの方が早く、現預金の回収・支払タイミングの方が遅いために発生する状況です。

 

FCFでは債権者・株主に分配可能なキャッシュフローを求めるため、営業損益をキャッシュフローに変換することが必要となります。今回の売掛金の例で言うと、営業損益から▲30する(30減算する)と、実際に手に入ったキャッシュに変換することができます。

 

これを買掛金でも同様に考えると、この会社の運転資本は全体として+20となっていますので、FCF計算上は正味運転資本増加分である20を減算することとなります。

 

 

 

▲設備投資額

固定資産の更新投資、新規投資等、必要な投資に係る支出を差し引きます。買収後に大規模な設備投資が予定されている場合には、その計画を反映させていくこととなります。

 

以上の計算を通して、各年度においてフリーキャッシュフロー(FCF)を求めます。

 

 

 

 

≪Column:より深くNOPATを知ろう≫


●なぜ「営業利益」を使うの?

企業価値を求める際は、債権者・株主に分配可能な、事業全体のキャッシュフローを計算する必要があります。そのため債権者に分配することとなる支払利息を差し引かないよう、便宜的に営業利益を使います。

なお、営業利益ではなく「営業利益+事業資産を源泉とする営業外損益」で計算されるEBITを使用することも多いですね。

 

●なぜ実際の税額ではなく「税引後営業利益」として計算しているの?

負債を有する場合、支払利息の税金軽減効果があるため実際の税金の方が小さいことが想定されます。しかし、DCF法においてこの税金軽減効果は第12回でご説明しているWACCの割引率に反映されています。

そのため、NOPATの段階では負債の税金軽減効果は考慮せず、株主資本100%とした場合(支払利息等がない場合)のキャッシュフローを用いるべく、営業利益に税率を乗じた値を差し引き、税引後営業利益としています。

 


 

 

3. 現在価値に割り引こう


①残存価値(Terminal Value)

これまで求めた各年度のFCFを、前回第9回でご説明した割引現在価値とすることで、企業価値を求めます。このとき、企業は永続的に続く前提を置くことが多いです。

 

読者の皆様も「30年後に企業が倒産する」といった前提は考えずに、永続的に企業が存続するつもりで日々仕事に取り組んでいるかと思います。この発想は企業価値評価の際も同様で、明確にいつ時点で解散すると決まっていない限り、永続的に存続するものとの仮定を置くことになります。

 

しかし、100年後・200年後までの計画は非現実的です。そこで実務上、5年~10年程度の事業計画を作成したうえで、その最終年度のFCFがずっと続くとして計算することが多いです。なお、30年後に終了することが分かっているような事業の場合は30年間のみしか考えませんし、その時点での解散価値を算出することとなります。

 

 

フリーキャッシュフローが一定 (ゼロ成長)の場合

 

 

フリーキャッシュフローが定率成長の場合

 

※上記の計算式は毎年のFCFに関する割引計算の数式について、年数n→∞としたときに導くことができます。無限等比級数と言われている式です。

 

算出した継続価値を現在価値に割り引いた上で、企業価値に加算します。

 

②計算事例

文章だけだと分かりにくい部分も多いので、簡単な事例を見てみましょう。

 

 

表にしてみると、毎年の流れは以下の通りです。

 

 

まずは残存価値を求めましょう。×6以降はFCF100百万円でゼロ成長(5年目と同様)ですから、継続価値は以下の通り2,000百万円となります。

 

FCF:100÷5%=2,000

 

 

継続価値のポイントは、CF計算開始年の前年の価値として表されることです。今回の例で言えば、6年目以降の継続価値を求めたので、継続価値2,000百万円は5年目における価値となります。

 

 

4. DCF法の計算をしてみよう


ここまでで各年度のFCFと、継続価値を求めてきました。DCF法に必要となる各年度のキャッシュフローの流れは全て算出したことになります。そこで、各年度のFCFを割引現在価値とすることで、事業の価値が算出されます。

 

年度毎のFCFに割引計算を行い、全ての価値を「現在」に合わせます。6年目以降の継続価値は5年目に反映されているため、計算自体は5年分で大丈夫です。1~5年目までのFCFを、各々割引計算しましょう。

 

 

上記式の通り、事業価値は1,946百万円となります。このようにして、事業の価値は算出されます。

 

 

5. 非事業用資産(遊休資産)の加算


最後に補足論点です。DCF法で算出した価値は「事業価値」となります。FCFは買収対象となる企業の事業から生じる価値ですね。特に使っていない非事業資産がない場合、この事業価値が「企業価値」となります。

 

一方、事業に用いていない非事業資産(遊休資産)があった場合、その売却によって手に入るキャッシュもまた企業の価値を構成します。そのため最後に遊休資産を加算することで「企業価値」となります。

 

 

 

 

なお、企業価値から有利子負債や非支配株主持分等を減額することで、株主にとっての価値である「株主資本価値」となります。

 

 

 

DCF法は一見すると複雑に感じますが、実は「FCFを求めて」「WACCで割り引く」だけの単純な構造です。実務上DCF法で重要なことは「どのように仮定を置くか」です。将来FCF・資本コスト・成長率等、多くの見積り要素があるため、1つ1つが信頼のおける見積りかどうかが、DCF法全体の計算結果に影響してくることとなります。

 

 

この連載も本稿で終了となります。M&Aは一見すると専門的であり、取っつきにくいと感じている方も多いかと思います。たしかに細かい論理は多々あり、実務を行う上では多くのことを確認していく必要があります。しかし、概要だけざっくりと確認するのであれば、そこまで難しい分野ではありません。全10回を通して、漠然としていたM&Aについて、ある程度でも具体的になっていただけたのであれば、大変嬉しい限りです。

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第8回:会社と経営者のお金の問題対策

私的経費の整理 -承継後削減可能な私的経費の把握は社長にとっても得する話-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

後継者候補側が知りたいのは承継後利益


最も後継者候補側の関心が高いのが、「承継後の損益計算書がどうなるのか」である。つまり、「承継後に承継前の売上高がある程度見込めるのか」「承継後の利益はどうなるのか」ということである。特に小さな会社での承継後利益算定における「経費」については、「加減算が必要」となることが多いので留意が必要である。

 

例えば、承継後に営業力強化で増員を考えているのであれば、承継後利益算定においてはマイナス要素となる。一方、社長経費的なもので承継後に削減が見込めるのであれば、承継後利益算定においてはプラス要素となる。

 

社長経費的なものの把握は、実はオーナー経営者側としては後継者候補側へのアピールへとつながるので重要である。廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき4つ目の項目は、この「私的経費の整理」である。

 

 

社長の私的経費は承継後削減でき、後継者候補にはプラス要素


社長の携帯代や家族給与等( ≒私的経費)で、後継者候補側が承継後に削減可能と考えるものは、「承継後利益にプラス要素」となる。つまり、社長やその家族の私的経費の把握をすることは、後継者候補にプラスのアピールができるという意味で、実は社長が得する話なのである。

 

更にいえば、小さな会社での承継対価の実際の決め方の大半は、左記の算定方法となっており、利益が上がると承継対価の目安も上昇傾向となるのである。

 

 

【小さな会社における承継対価の一般的な算定方法】

承継対価 = 利益×1~3年分 + 時価純資産価額

 

 

利益というのは、営業利益や経常利益、税引後利益などケースによって様々であるが、よく承継に使われるのは「承継後の減価償却費計上前営業利益」である。減価償却費は、過去に社長が設備投資したものに対する「キャッシュアウトしない経費」であるので、後継者候補側においては、それをなかったものとして調整を加えることになる。

 

社長である皆さんが、自社の損益計算書において計上している私的経費があれば、承継前に一覧にするなどして、金額も含めて把握しておくことをお勧めする。

 

 

 

 

 

私的経費に該当するもの


では一般的にどんなものが私的経費に該当するのであろうか。まずどんな小さな会社でもよくあるのが、承継後不要となる社長やその家族の「通信費」「接待交際費」「(家族)役員給与」「旅費交通費」「車両費」である。これらの経費があれば、後継者候補側へのアピール材料となる。他にも、ケースによって発生する私的経費として、節税目的や資産運用目的である「保険料」や、承継後不要となる「新聞図書費」及び「寄附金」、後継者側で合理化を図れる倉庫や事務所家賃などの「地代家賃」などがある。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第11回:M&Aの後も売手企業の社長やキーマンから十分な引継ぎ、或いはこれまで同じように働いてもらうにはどうしたらよいでしょうか。

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

▷関連記事:会社の譲渡後も、社長は会社に残れますか?

▷関連記事:会社の譲渡を検討していますが、譲渡してしまったら、共に働いてきた役員や従業員達から見放されたと思われないか不安です。

▷関連記事:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

 

 

 

売手企業の社長やキーマンは、特に営業系や技術系である場合に、売手企業の業績を支えるのになくてはならない存在であることが多いです。ある程度規模の大きい会社で、組織が整えられて、権限移譲が進んでいる会社は中小企業ではあまり多くなく、やはり社長などがトップセールスであったり、新製品の開発などをしていることが多々あります。このような場合は、売手企業の社長が抜けてしまうと業績が低下する可能性が高くなります

そうならないように、売手企業の社長から十分な引継ぎをしてもらうか、そのまま社長として働いてもらうことを検討しなくてはなりません。ただし、当然ですが、売手企業の社長はM&Aが終わると、株式を持っていない状態になるので、売手企業に対する関心は以前より低下することになります。

 

売手企業の社長に引継ぎを依頼する場合には、一定程度の報酬を支払う事が一つの選択肢となります。無償で引継ぎをしてくれるケースもありますが、無償の場合は引継ぎ期間や引継ぎ内容などどうしても売手企業の社長の都合などに左右されてしまいますし、多くの時間を必要とする場合は無償なのにこんなに時間を取らせて申し訳ないという気持ちになり、100%の引継ぎをすることが難しかったりするケースもあります。報酬を払うことで、売手企業の社長にも仕事としてコミットしてもらい、買手側もなんでも聞きやすい状況になるため、結局は有償の方が双方満足されるケースが多いです。

 

また、売手企業の社長がM&A成立後も引き続き社長として働くケースを考えます。この場合は、役員報酬という形で報酬を支給することになりますが、これまで株式を保有しながら経営してきた社長が、株式を持たずに役員報酬だけというのはどうしてもモチベーションが上がらないことが多いです。かといって多額の役員報酬を渡すのも難しい場合にはアーンアウト条項を使うのが一つの手段となります。

 

アーンアウト条項とは、M&A成立後特定の目標を達成した場合、買手企業が売手企業に対して予め合意した算定方法に基づいて買収対価の一部を支払うことです。

 

具体的な条項としては、5年後までに営業利益1億円達成したら、追加で売手企業の社長に株式の売却対価として5千万円支払うなどの条項を付すことで、売手企業の社長としては、業績を達成するモチベーションが上がり、買手企業としても業績が上がることで支払いも行いやすくなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第7回:決算書に係る問題の対策

資産や負債の整理  -資産の実在性や時価評価、簿外負債の事前開示が重要-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

「貸借対照表」や「減価償却台帳」の確認


第三者への承継を決断したら、必ず自社の「貸借対照表」の内容を確認してほしい。身内ではない第三者は、会社の状況が決算書に掲載されている通りだと信じて皆さんの会社を承継しようと準備している。しかし、会社の実態は決算書と異なる部分が多々あるものだ。そのため、図に掲げたように「資産の整理」及び「負債の整理」が必要となってくる。また、資産の中でも機械装置や車両などの減価償却資産については、別途「減価償却台帳」が存在しているはずなので、こちらの内容も確認してほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

資産の「実在性」「時価評価」をチェック


これら貸借対照表や減価償却台帳で確認してほしいのが、資産の「実在性」や「時価評価」である。びっくりされるかもしれないが、存在していない資産が貸借対照表に計上されたままとなっている小さな会社は思いのほか多い。例えば、「過去に粉飾決算をしてありもしない売掛金や在庫が計上されたままになっている」「新しい機械を買った時に古い機械を下取りに出したが、会計事務所に伝わっておらず古い機械が計上されたままになっている」「過去に貸倒れとなった売掛金が計上されたままになっている」などである。

 

後継者候補側は最初に決算書をみて承継予定の会社をイメージする。機械装置と計上されていれば、機械装置が実際にあるのだと理解する。もし事業承継の交渉終盤でその資産が存在しないと発覚すれば、せっかくのご縁がご破算になる可能性があるので注意が必要だ。幽霊資産がみつかったら、他にもそのような資産があるのではないかと疑うのが通常であろう。

 

この場合、できれば承継前の決算で、資産が存在しないものは消去仕訳を計上しておくべきだ。会計事務所に仕訳を依頼している場合は、会計事務所に消去仕訳をするようにきちんと伝えておこう。

 

また、貸借対照表に計上されている資産の帳簿価額が、実際の時価と大きく乖離している場合も、承継前に社長が把握しておき、後継者候補側に事前に伝えておくべきだ。例えば、「過去に適正に減価償却していない機械や車両等の資産」「購入した時と現在の時価が大幅に乖離する土地や有価証券」「売れ残り在庫」などである。貸借対照表に機械装置100万円と計上されていれば、後継者候補側は、約100万円の価値のある機械装置があるのだと理解するのが当然だ。この場合も可能なら、承継前の決算で時価評価しておくのも一つの方法である。

 

 

 

 

 

「簿外資産」や「売却対象外資産」のチェック


逆に、実際は存在しているのに貸借対照表に計上されていない簿外資産が発生しているケースも時々ある。これは後継者候補側にとってはプラス要素となるが、社長にとっては事業を安く譲り渡してしまうことにもなりかねないので、事前にきちんと把握しておくべきだ。例えば、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営している経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)に加入している場合、その掛け金は、多くの会計処理上全額費用扱いである。

 

しかし、この経営セーフティ共済は40ヶ月以上払い込んだ後解約した場合に今まで払い込んだ掛け金全額が戻ってくる。つまり、この経営セーフティ共済は簿外資産となっていることが多いのである。他にも、経営者保険と呼ばれる解約を前提としたものも似たような仕組みとなっており、簿外資産となっていることが多い。

 

一方、第三者承継後も個人的に乗りたい「社長用の車」等があれば、「売却対象外資産」として、事前に後継者候補側に伝えておく必要がある。こちらも、最初から伝えておくと問題とならないことが多いが、交渉の終盤で後継者候補側に伝えることになると、交渉条件が悪くなる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

簿外負債は事前開示が重要


ここからは、貸借対照表の「負債」について説明する。この負債は、後継者候補側が一番気にする項目といっていいだろう。何を気にするのかというと、貸借対照表に計上されている買掛金や借金ではなく、計上されていない「簿外負債」があるのかどうかという点である。小さな会社でよくある簿外負債は、「退職金負債」と「社会保険未加入負債」である。退職金規程がある場合は、その計算式に則り現時点で既に発生している退職金額を概算把握しておき、後継者候補に事前に伝えておくべきである。

 

また、会社であれば社会保険への加入は必須であるが、残念ながら未加入の会社も現実的には存在している。このケースに該当する場合、そのことを後継者候補側に事前に伝えておくべきであろう。承継後に、後継者が国から追加徴収される可能性があるからだ。もし交渉途中で後継者候補側の指摘によって社会保険の未加入負債が発覚したような場合は、破談となることが多い。後継者候補側としては、「他にも簿外負債があるのではないか」と疑心暗鬼になるからである。

 

株式譲渡で会社を承継した場合、承継後は簿外負債だけではなく、会社への訴訟案件やそれにまつわる損害賠償請求など、基本的にはすべて後継者側が責任を負うことになる。そのため、第三者承継における簿外負債の事前開示は重要といえるのである。

 

 

 

 

 

人的保証や物的保証


他に負債で事前に確認しておくべきなのは、社長個人が借入金やリースで個人保証しているかどうかや、自宅などの物的保証をしているかどうかである。可能であれば、第三者承継手続きに入る前に、これらの保証を外しておくのがベターではあるが、そうもいかないことが多いだろう。

 

この場合、これら人的保証や物的保証を一覧にしておき、「人的保証及び物的保証を外すことが承継の条件である」と、事前に後継者候補側に開示しておく必要がある。

 

 

 

 

 

[用語解説]

■経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)

取引先が倒産などした場合に掛け金総額の10倍までの金額(8,000万円以内)の融資が、無担保・無保証・無利子で受けられるというもの。毎月支払う掛け金が全額費用となり、掛け金を40ヶ月以上支払うと解約手当金が100%戻ってくるため、節税対策として利用しているケースが多い。

 

■未払残業代

従業員に請求権があるものの未だ支払われていない残業代のこと。従業員からの請求によって発覚するケースがあるなど把握が難しく、譲り渡し手にとっては売却価額にも影響がある。また、簿外債務を引き受ける譲り受け手にとっては大きなリスクのひとつである。

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第6回:必要書類の整理(スモールM&Aのための必要書類)

ー後継者の立場に立って書類を整理し、知識をマニュアル化ー

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

後継者の立場に立って書類を整理


廃業ではなく承継を決断した社長がやるべき2つ目は、会社にある「書類の整理」である。第三者への承継を決断したら、常に後継者側の立場に立って日々の仕事や経営をしていくことが大切である。「自分が後継者側であれば、こんなグチャグチャな帳簿を渡されたら怒るだろうな」と思うのであれば、第三者がみてもわかるように事前に整理をしておくべきであろう。更に後継者側の視点に立って、「こういう資料を事前に準備しておいてもらうと助かるな」と思えるようなものがあれば、やはり対応することが賢明である。事前準備資料の中でも、下記の5つは最低限必要な資料となる。

 

 

● 会社登記簿謄本
● 決算書及び税務申告書一式3期分
● 直近の試算表
● 主要人員の経歴書
● 社内規定(就業規則、給与賞与規程、退職金規程)

 

 

 

これまでなかった書類を作成する必要は?


「会社登記簿謄本」や「決算書及び税務申告書」が存在しない会社はあり得ないが、社内規定である「就業規則」や「退職金規程」が存在しない会社はある。ではこの場合、小さな会社の第三者承継において、新たに就業規則や退職金規程を作成する必要があるのだろうか。

 

答えは、ノーである。これまでなかった書類をわざわざ作成する必要はない。しかし、その社内規定及び書類がないことはきちんと後継者側に伝えておかなければならない(法律上必要なものが整備されていないケースは問題ではあるが、この論点はここでは割愛する)。後継者側の立場に立てば、事業を引き継いだ後、従業員などの退職金をいつまでにどれくらい準備しなければならないのかなどを把握するために、これらの資料を要求するのである。

 

事前準備する書類は最初は一覧に掲げたもののうち赤字のものだけでいいが、承継が決まったら最終的には一覧に掲げた書類すべてが必要となるので、参考にしてもらいたい。多くの書類を準備するのは大変と思われるかもしれないが、やはりここは後継者側の立場に立って、作業を進めてほしい。

 

 

 

 

 

 

社長が会社経営で培った知識をマニュアル化


小さな会社の場合、営業も、入金や請求書発行など経理も、更には商品開発までも社長一人で行っているケースはよくある。

 

しかし承継後はそのまま継続雇用となることが多い従業員とは異なり、社長のほとんどは1ヶ月から1年以内には実質的に退職となる。つまり、社長は、承継後は最終的には会社からいなくなるのである。

 

後継者候補側の方からよく「その会社は社長がいなくても経営がスムーズに回りますか」と聞かれることがある。要は、後継者側は社長がもっている「暗黙知」をきちんと譲り受け後に承継できるのかということが心配なのである。

 

であれば、社長の「暗黙知」を「形式知」に置き換える作業として、「メモ書き(マニュアル)」を作成することをお勧めする。

 

現在小さな会社でここまでできている会社は非常に少ないので、社長が会社経営で培ってきた知識がマニュアル化されていたら後継者候補側に好印象となり、結果的に良い条件で引き継いでもらえる可能性が高まるだろう。

 

 

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第5回:株式対策を理解する

「廃業ではなく承継」を決断した社長が最初にやるべきこと -株主の整理-

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

「5つの整理」は早めに着手!


失敗しない第三者への事業引継ぎのための事前準備として、重要なのが「5つの整理」である。

 

【5 つの整理】

1.株主の整理
2.書類の整理
3.資産・負債の整理
4.私的経費の整理
5.関係会社の整理

 

どれも早めの着手が成功のカギになるので、覚えておいてほしい。

 

 

 

の整「別第二


そもそも会社は誰のものかご存じだろうか。

 

社長(=役員と仮定)のものと思われるかもしれないが、厳密には違う。会社は「株主のもの」である。多くの小さな会社では、社長=株主であるので、その場合は社長のものということになるが、会社の最高意思決定機関は株主総会であることを覚えておいてほしい。

 

では、誰が株主で、株主それぞれの所有割合はどうなっているのかは、小さな会社の場合、どうすればわかるのだろうか。小さな会社で「株主名簿」や「株券」を作成しているケースは少ないだろうから、この場合、会社の法人税申告書の「別表第二」というものをチェックすることになる。これにより、株主名簿や株券に代わる株主の明細として、「氏名」「住所」「所有株式数」等が確認できる。

 

会社は株主のものであるのだから、会社を第三者承継で譲り渡そうと考える場合は、まず自社の株主が社長以外に誰で、その了解がきちんと得られるのかを確認する必要がある。

 

 

 

「名義株」や「不明株」の整理


平成2年の商法改正前においては、株式会社を設立するためには最低7人の発起人が必要であり、各発起人は1株以上の株式を引き受けねばならなかった。そのため、平成2年改正前の株式会社にあっては、株主が7人以上となるように、親戚や従業員等の名前だけ借りて体裁を整える、いわゆる「名義株」があるケースがある。

 

他にも、歴史の長い会社や、株主に相続が発生している会社などでは、一体誰が株主なのかが正確にはよくわからないというケースもあるだろう。

 

これら「名義株」や「不明株」がある場合は、まずは、誰が株主なのか現況を把握する必要があるが、そのために収集しておくべき資料を下記に挙げておく。

 

 

 

 

上記の資料に照らし合わせ、実質株主と名義上の株主が異なる場合には名義株主と交渉する必要がある。名義株の場合は、本人の了承を得て名義を実質株主に変更することになる。少数株主などについては、税務上の価格などをベースに買取価格を算出し、個別に交渉することになるが、第三者承継が近いとその承継対価を元に買い取らなければならなくなる可能性が高くなり、割高となるかもしれない。早めの株主整理をお勧めする理由でもある。

 

 

 

株券不発行会社に変更


平成18年に会社法が施行され、原則株券不発行会社になったが、それ以前は株券発行会社が原則であった。その影響もあってか、実際は株券を発行していないのに、株券発行会社となっている会社もある。

 

自社がどちらなのかは登記簿謄本を見ればわかる。

 

株券を実際は発行しておらず、株券不発行会社で問題がないようなら、第三者承継の手続きを始める前に、定款及び謄本上株券不発行会社に変更されることをお勧めする。買い手にあらぬ疑念を抱かせないためである。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

 

[わかりやすい!! はじめて学ぶM&A  誌上セミナー] 

第12回:DCF法とは? 割引現在価値とは? WACCとは?

 

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 清水寛司

 

〈目次〉

1.DCF法って何?

2.割引現在価値とは

①「今」と「1年後」の100万円

②現在価値の計算式

③事例で考える現在価値

3.WACCとは

①WACCの基本

②負債コスト

③株主資本コスト

④事例で考えるWACC

 

 

 

企業価値評価の様々な手法の中の1つがDCF法ですが、DCF法は有用性が高いため非常に多くの場面で使用される手法です。

 

本稿ではDCF法の考え方の基本となる「割引現在価値」「WACC」について見ていきます。割引現在価値やWACCの考え方は企業価値評価におけるDCF法はもちろん、収支タイミングを考慮する必要がある評価技法や、経済学・ファイナンスの分野など様々な場所で出てくる考え方ですね。

 

 

▷関連記事:類似会社比較法(マルチプル法)とは

▷関連記事:企業価値評価(Valuation)の全体像

▷関連記事:企業価値、事業価値および株式価値について

 

 

1.DCF法って何?


企業価値評価の中でも最も使用される手法が、DCF(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー)法です。会社が将来生み出すフリーキャッシュフローを現在価値に換算する方法です。DCF法が好まれるのは「将来の期待を反映できる」点と、「ファイナンスのプロでなくとも理解可能である」点にあります。

 

会社が会社を買うとき、既存事業を拡大しよう、新規事業に投資しよう、海外に参入しようというように、そこには多くの期待が含まれます。この期待は全て「将来」に向かった期待です。今はぱっとしない事業でも、将来は花開くことを期待しているから、会社の購入を決定します。事務効率化や規模の効率性を考えた結果会社の将来のためになるから、会社を購入するのです。そのため会社を購入する側は、その会社が「将来」どれだけ貢献することができるのかを一番に気にします。

 

コストアプローチである時価純資産法や、マーケットアプローチである市場株価法・類似会社比較法(マルチプル法)等は、あくまで「現時点」の価値を表しているにすぎません。もちろん株価はある程度投資家からの将来の期待も含まれた上で値付けがされていますから将来価値とも言えますし、また現時点の価値も重要な情報ではあります。しかし、買収効果を全て反映させて将来の期待を価値として評価するDCF法は、理論上は買収する側が最も必要とする情報になります。

 

一見すると難しそうに見えるDCF法ですが、1つずつ見ていくとそこまで難しい手法ではありません。第12回・13回の2回に分けて、DCF法の全体感についてざっくりとしたイメージをお伝えさせていただきます。

 

 

 

 

≪Column:DCF法って本当に有用なの?≫


理論上は上記のように価値ある金額の算定が可能なDCF法ですが、将来という不確定で恣意的な要素が非常に多く入るため、あまり客観的な数値とは言えません。

そのため実務上は「DCF法とマルチプル法」といったように、DCF法とその他の方法を組み合わせて総合的に判断することが多いです。企業価値は大体いくらからいくらと言ったように幅を持った金額で表現されることがほとんどですが、これも将来という読みにくいものを基礎として評価することが一因です。

 


 

 

2.割引現在価値とは


まずはDCF法の大前提として、割引現在価値をご説明します。DCFのDは割引を意味するディスカウントのDで、割引現在価値という考え方が用いられています。DCF法は将来に渡る複数年の時間軸を考えますが、最終的には「今の価値はいくら?」となりますよね。そのため割引現在価値という考え方を用いることで、「今の価値」に全て統一することとなります。

 

①「今」と「1年後」の100万円

突然ですが、「今」100万円手に入れるのと、「1年後」に100万円手に入れるのと、どちらが良いでしょうか。

 

多くの方が「今」手に入れる方が嬉しいと感じるはずです。嬉しい理由は様々だと思いますが、「今」手に入れた現金の方が「1年後」に手に入れる同額の現金よりも価値が高いということを無意識に感じている結果ではないかと思います。これを投資の観点から見てみましょう。

 

「今」100万円手に入れて、銀行預金に預けました。預金利息が3%だとすると、1年間に3万円の利息が手に入ります。「今」の100万円は、「1年後」には103万円になります。100×(1+0.03)=103ですね。(預金利息にしてはかなり高いですが、3%あたりが分かりやすいので説明上は3%としています。)

 

 

 

 

 

逆に考えると、1年後に手に入れる100万円は、今の価値にするといくらでしょうか。

 

1年後にするためには「×(1+0.03)」をしていましたので、1年前に戻すには割り算「÷(1+0.03)」をすれば良いです。100万円÷(1+0.03)=約97.09万円となります。

 

 

 

 

 

この割り算という考え方が大事ですので、検算をしてみましょう。

 

(検算)97.09万円×(1+0.03)=100万円

 

 

無事1年後に100万円になりましたね。「今」97.09万円を手に入れて銀行預金に預けると、1年後には100万円になります。1年後の利息を含めた金額を算定するには掛け算をしますので、逆に1年前の金額を算定するには割り算をすることになります。

 

このように、貨幣には「時間価値」の概念があります。先に現金を手に入れた方が、運用によって増やすことができる分価値が高いという概念です。何年にもわたって現金を産み出す会社の1時点の価値を考える際は、時間価値を考慮することよくあります。

 

 

さて、時間価値で重要な点は、「今の価値で比較が出来る」ことです。

 

今100万円もらうことと、1年後に100万円もらうことの価値を比較してみましょう。

 

 

1年後の100万円は今の価値で97.09万円になってしまうので、1年後に100万円もらうより今100万円もらった方が良い、ということが言えますね。

 

②現在価値の計算式

現在価値の計算式は以下のようにあらわすことができます。

 

 

 

 

先程の例を使って、かみ砕いて見ていきましょう。今の100万円は、1年後の103万円と同じ価値になっていました。1年後の金額は単純に×(1+利率)でしたね。1年前に戻す場合は、÷(1+利率)とすれば良いはずです。

 

 

では、2年後、3年後になったらどうでしょうか。1年後の103万円に更に×(1+利率)をしていきます。そのため2年後であれば現在の100万円に、(1+利率)を2回乗じる形になります。逆に、2年後から現在を考えるときは、同じく2回割り算をしていきます。

 

 

この2年後を「n年後」として割り算の形にすると、現在価値の数式となりますね。

 

③事例で考える現在価値

簡単な事例として、以下のような案件の現在価値を考えてみましょう。

 

年度毎の現在価値は次の通りです。

1年後:100万円÷1.03=97.0874…

2年後:100万円÷(1.03)^2=94.2596…

3年後:100万円÷(1.03)^3=91.5142…

 

 

これらを合計すると、282.8611…となるので、四捨五入すると283万円が今の価値(割引現在価値)となります。

 

 

 

 

≪Column:現在価値を求める際の割引率≫


現在価値を求める際に重要となるのは割引率です。何で割り引くかによって現在価値が全く異なる結果となるためです。

 

例えば銀行に預けて将来100万円を引き出すとしたら、銀行の預金利率を使います。同様に社債に投資して将来100万円返ってくる場合は、社債の利息を使うことになります。

 

このように、投資に対して求めることになる期待運用収益率で割り引くことが一般的です。リスクの低い投資(銀行預金等)であれば、期待運用収益率が低いため、割引率も低くなります。一方、リスクの高い投資(株式等)であれば、期待運用収益率が高く、割引率も高いものとなります。DCF法では、後述するWACCという割引率を使用することとなります。

 


 

 

3.WACCとは


①WACCの基本

これまでは「割引現在価値」の考え方について見てきました。将来キャッシュフローを運用利率で割り引くのが、割引現在価値です。

 

では、企業価値算出に際して使用する利率(割引率)は、どのようなものを使えば良いのでしょうか。

 

企業価値算出の際には、「WACC」という割引率を使用します。WACCはWeighted Average Cost of Capital:加重平均資本コストの略で、債権者(負債側)と株主(資本側)が対象企業に求める期待投資利回りの加重平均を示します。

 

 

 

企業が資金を調達する手段は大きく2つあります。返済義務のある負債で調達するか、返済義務がない資本(株式)で調達するかです。

 

両者は返済義務が異なるので、投資リスクが当然異なります。リスクが高い投資をする人はリターンも相応に求めることになるので、リスクが異なれば要求利回りも異なることとなります。債権者と株主、リスクの異なる投資をする両者の要求利回りを加味しつつ、調達金額比で加重平均を取るのがWACCです。

 

BSの右側(負債・資本)の調達にともなう利回りの平均を取るイメージですね。

 

企業が資金を1円調達するのに、平均していくらのコストがかかっているかを示す指標となります。

 

 

②負債コスト

負債コストは、評価対象企業の格付や実際の借入利率等を用いて算定します。多くの場合では現行の借入コスト(借入利率等)を使用し、事業計画期間における想定値がある場合はそれを加味しつつ、検証として評価対象会社と同水準の格付を持つ企業の社債利回りを参考にします。

 

ここで、負債の利息は税務上損金となります。利息100円、法人税率30%としたときに、利息100円を支払うとその分利益(課税所得)が減りますね。負債の利息を支払わない時と比べて、100×30%=30円だけ税金が小さくなります。

 

そのため負債利息は100ですが、実質的には100-30=70が負債に係るコストであると考えられます。この税金軽減効果を数式上示しているのが、(1-T)の部分です。

 

実質的に負担するコストは、(1-税率30%)である70%部分のみということですね。

 

③株主資本コスト

株主資本コストは、評価対象会社の株式へ投資する際の期待収益率です。負債コストは現行の借入利率があるので比較的算定に困りませんが、株主に対しては利率等の明確な概念がないため、株主の要求利回りをもとめることは一筋縄ではいきません。

 

そこでよく使用されるのが、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)という手法です。投資家の期待利回りを、リスクなく獲得できる利回り部分と、リスクを負うにあたり追加で求める利回り部分に分解して算定する手法です。このように一定の手法を用いて、株主資本コストを算定することとなります。

 

 

 

≪Column:CAPMについて≫


少し発展的な内容となりますが、CAPMの内容を少しご説明します。株主の要求利回りを大きく以下のように表すのがCAPMです。

株主資本コスト=リスクフリーレート+ベータ値×リスクプレミアム

 

リスクフリーレートはその名の通り無リスクの利回りで、長期国債利回りを使用することが多いです。リスクプレミアムは上記リスクフリーレートを超えて株式市場に求められる超過利回りです。これにベータ値という値を乗じて、評価対象企業固有のリスクを示す形となります。

ベータ値は評価対象企業のリスクと市場全体のリスクとの相関を示す係数というイメージです。市場全体の超過利回りを、評価対象企業固有のリスクに変換するための係数ですね。このような計算を経て、株主資本コストを算定していくこととなります。

 


 

 

④事例で考えるWACC

 

まず、株主資本比率E/(D+E)・負債比率D/(D+E)は以下の通りですね。ポイントは両者とも時価で考える点です。特に株式は時価と帳簿価格に乖離が生じることがほとんどですので、その時点の価値である時価とします。

 

株主資本比率E/(D+E)=20,000÷(20,000+30,000)=0.4

負債比率D/(D+E)=30,000÷(20,000+30,000)=0.6

 

株主資本が40%、負債が60%となりますので、この割合で加重平均を取ると、WACCは以下の通りとなります。

 

 

株主資本コスト10%、負債コスト3%の会社でしたが、加重平均を取ると5.26%となりました。そのためこの会社全体の資金調達コストは5.26%と言えます。

一般的に株主の方が債権者よりリスクを取っている分要求利回りも大きいため、株主資本比率が高い会社はWACCも高く、逆に負債比率が高い会社はWACCも小さくなることが多いです。

 

今回はDCF法の基礎となる割引現在価値と、割り引く利率であるWACCの考え方について見てきました。次回最終第10回は、これらの考え方を用いた上でのDCF法をご説明していきます。

 

 

 

 

 

 

[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第10回:事業価値を高めるために実施した施策の失敗例

~M&Aの売り手側の「事業の磨き上げ」という考え方(運送会社の事例)~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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M&Aの売り手側の事業の磨き上げという考え方について、コンサルタントが言っているのをよく見かけるようになりました。コンサルタントの勧めによる磨き上げを行った結果、資金繰りが苦しくなり、M&Aによる会社売却どころではなくなった事例を紹介します。

 

紹介する会社は運送会社で、経営状況はそれほど芳しくはありません。そのため、将来的にM&Aで会社を売却するために、コンサルタントは利益をねん出したいと考えました。利益をねん出するためには、受注を増やしたり、運送単価を上げることで売上を増加させるか、燃料費などの変動費や人件費などの固定費の削減を実施することで利益をねん出することが一般的です。

 

ここで、当運送会社の費用構造を見てみると、最も多いのはドライバーの人件費、次いで燃料費、旅費交通費、修繕費、リース料となります。

 

コンサルタントは、リース料に目を付け、車両をリースではなく現金で購入することで、リース料を削減して利益をねん出する方法を勧めたのです。

 

 

しかし、この方法は2つの重要な問題があります。

 

1つ目は、当会社は経営状況が芳しくないため、車両を購入するために借入を行うことができません。借入ができないため、通常はリースを組んで車両を調達するのですが、そのリースを組まずに、手元現金で調達するということをしました。運送業の車両は数千万円ほどの金額となるため、数台購入すると億単位の手元の現預金が減少します。経営状況が芳しくない状況で、現預金を減らすべきではありません。

 

2つ目は、M&Aの買手企業の株価算定方法によっては、車両をリースではなく現預金で購入するという施策は、実はあまり意味をなさないということです。株価算定の方法が償却前営業利益の数倍のような方法であれば、リースよりも現預金で購入した方が利益がよくなるため、株価が高くなる可能性があります。一方で、DCF法のように、株価算定の計算の中に車両の購入についても考慮に入れる株価算定手法の場合であれば、リースであれ現預金で購入した場合であれ株価は大きく変わらないのです。

 

コンサルタントの勧めにより、M&Aで会社を売却するどころか、資金繰りが苦しくなり経営が立ち行かなくなってしまうという可能性があります。コンサルタントの勧めを鵜吞みにせずに、おかしいと思った場合には、信頼のおける人や、専門家のセカンドオピニオンなどを求めることも必要になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第4回:マッチングサイトの種類

ネット音痴でも大丈夫!こんなに進化したマッチングサイトの実情とは

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

様々なマッチングサイト


マッチングサイトは、わずか数年で一気に増えた。増えるだけではなく、毎月のようにどこかのマッチングサイトがリニューアルを繰り返している状況だ。マッチングサイトは現在、多種多様なものが存在していて、利用しにくいものや、マッチング数が少ないもの等も含めて玉石混交といっていいだろう。

 

マッチングサイトを敢えて色分けすると、「本格系」「IT企業系」「業種特化系」「M&A専門会社系」となる。本格系とは、サイトの使いやすさやリニューアル頻度、サポート体制、譲り渡し手・譲り受け手・専門家の数などが充実しているサイトのことである。IT企業系とは、まさにIT企業が始めたマッチングサイトで、M&A業界にはなかった発想でサイトが構築されており、アルゴリズムや情報開示の方法などにも特徴がある。業種特化系とは、飲食業や不動産業など、ある特定の業種の譲り渡し案件を中心に扱っているサイトのことである。M&A専門会社系とは、第三者承継の仲介会社やFA会社が運営しているサイトのことである。その他、税理士会が行っているサイトなどがある。

 

また、マッチングサイトの登録数が少なくて現在は活況なようにはみえなくても、今後の市場環境やサイト機能などの条件によって、もしかしたら登録数が増加するかもしれないと思えるほど、マッチングサイト業界は日進月歩であることも付け加えておく。

 

 

 

 

登録サポートや逆オファー機能があるサイトも


マッチングサイトのサービスや機能の部分についても様々なものがある。例えば、皆さんのような後継ぎを探している会社がサイト運営会社に電話をすると、マッチングサイトへの登録のサポートを丁寧にしてくれるところもある。もちろん、無料である。この場合、一般的にはサイト運営会社は後継者候補から手数料を徴収しているのである。

 

オーナー経営者がサイトに登録して、じっと後継者候補が現れるのを待つ以外にも、逆オファーのような形で、オーナー経営者から後継者候補へアプローチできる機能が付いているサイトもある。

 

更には、多数の専門家を抱えていて、適宜必要に応じて専門家をオーナー経営者や後継者候補に紹介できることをメリットとしてうたっているサイトもある。

 

 

登録者の9割は後継者候補


ここで小さな会社の社長である皆さんにとって、重要な情報がある。それは、これらマッチングサイトに登録している人たちのことである。実はそのほとんどが後継者候補であるということだ。とあるサイトでは、登録者の9割が後継者候補であると公表している。ということは、後継ぎ不在の社長の皆さんにとっては、チャンスが広がっているということだ。廃業を選択する前に、マッチングサイトの登録に是非チェレンジしてみよう。

 

ご自身で登録が難しい場合は、会計事務所に相談することをお勧めする。特に「第三者承継支援」を行っている会計事務所や、マッチングサイトを活用した実績があればなお安心だ。

 

 

 

[用語解説]

■仲介会社
同一のアドバイザーが譲り渡し手と譲り受け手の双方の間に立ち、交渉の仲介を行う。マッチングに強みがある。

■FA会社
ファイナンシャル・アドバイザー会社の略で、譲り渡し手と譲り受け手どちらかと個別に契約を結び、一方のみの第三者承継業務をサポートする。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より

 

 

 

[スモールM&A マッチングサイト活用が成功のカギ]

第3回:「補助金」や「税金」で、国も小さな会社の事業承継を積極支援!

~スモールM&Aで活用できる国の支援策とは?~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

 

 

 

 

 拡充される国の事業承継支援策


「マッチングサイトを活用した小さな会社の事業承継」が活況になりつつある大きな理由の1つとして「国の支援策の拡充」が挙げられる。ここでは特に「補助金」と「税金」を取り上げる。

 

 

「事業承継・引継ぎ補助金」とは


「事業承継・引継ぎ補助金」は、2020年のコロナ禍のさなかに創設された「経営資源引継ぎ補助金」と、以前からある「事業承継補助金」を統合し、補助額も増額して2021年に再スタートしたものである。

 

 

図1を見てほしい。改正前の「経営資源引継ぎ補助金」が図1の②事業引継ぎ時の士業専門家の活用費用の補助に当たる。この②の補助の対象者は、小さな会社を含む中小企業者等を前提として「第三者承継=M&Aを行う譲渡側及び譲受側」となっていて、補助対象経費は、「成功報酬、財務調査費用、着手金、マッチングサイトの利用料等」と幅広く、補助率「1/2」、補助上限額は「250万円」である。

 

また、オーナー経営者側では、一部事業譲渡や一部廃業ということも想定されており、その時の廃業費用に対する補助金200万円も別途手当されている。

 

 

改正前の「事業承継補助金」は図1の①事業承継・引継ぎを契機とする新たな取組や廃業に係る費用の補助に当たる。例えば、第三者承継を実施後、後継者が経営統合を兼ねて大型の機械装置を購入する場合に、その機械装置購入費用について、補助率「1/2」で補助上限額「250万円又は500万円(廃業部分がある場合は別途上乗せ措置あり)」となる。この補助金は、「第三者承継時の専門家報酬」ではなく、「第三者承継後の新たな取組への後継者向け支援」といったイメージであるが、後継者が得をするということは、その分承継対価の条件が良くなるため、オーナー経営者である皆さんにも良い影響があるということだ。

 

 

 

「経営資源集約化税制」とは


2021年度税制改正において、第三者承継で会社を株式譲渡で承継した場合に、その承継対価の7割を費用計上できるという「経営資源集約化税制」が創設された。この税制も後継者向けの支援策となる。

 

 

 

 

例えば、1,000万円で会社を承継した場合、通常はその1,000万円は後継者側の貸借対照表の「資産」に計上される。「費用」にはならない。

 

しかし、後継者には、承継後に思わぬ出費が発生するというリスクもある。例えば、きちんとした専門家を付けずに第三者承継を実行した場合、隠れ負債や未払残業代等の事後発覚もありうるのだ。こういった承継後リスクを税金面から軽減するため、承継対価700万円(1,000万円×70%)の一括費用計上を認めてくれるのが、この経営資源集約化税制である。

 

ただし、この税制では5年経過後から5年間で積立金額の均等取崩し(収益計上)が行われるので、この点にも注意が必要である。

 

 

 

国による第三者承継支援策の今後


最後にお伝えしたいのは、これら国の支援策が、これで終わり又は今がピークというものではなく、この先更に拡大していくであろうということである。小さな会社の後継者不足問題は待ったなしである。少なくともこの先10年は、国の生産性向上や創業促進施策と相まって、小さな会社の第三者承継支援策は続々と出てくるものと思われる。

 

 

 

 

書籍「小さな会社の事業承継・引継ぎ徹底ガイド ~マッチングサイト活用が成功のカギ」より