被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価
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[解説ニュース]
被相続人が相続開始12年前に取得した不動産を相続人が相続税の申告期限前に譲渡した場合の相続税評価
〈解説〉
税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)
[関連解説]
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【問】
Aさんは、昨年亡父から賃貸不動産を相続し、その相続税の支払いのため相続税の申告期限前にその賃貸不動産を譲渡しました。亡父はその賃貸不動産を亡くなる12年前に銀行借入金により取得し、亡くなる直前まで賃貸をしており、生前に譲渡するつもりはありませんでした。また、取得の際の借入金は相続開始時点では完済しています。その賃貸不動産は都心の好立地にあることから、譲渡価額は財産評価基本通達(以下「評価通達」)による評価額(通達評価額)の約2倍の金額となりました。
令和4年4月19日最高裁判決(以下「最高裁判決」)で、賃貸不動産の相続税計算上の評価につき、税務署による通達評価額以外の評価額(鑑定評価額)の採用が認められたと聞きました。その最高裁判決の影響により、Aさんの亡父に係る相続税の計算においても、賃貸不動産を通達評価額ではなく、譲渡価額により評価すべきでしょうか。 |
【回答】
1.結論
最高裁判決の内容を踏まえると、下記の理由により通達評価額で評価して問題ないと考えます。
2.理由
最高裁判決では、「…租税法上の一般原則としての平等原則は、課税庁(税務署)における租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するもの」としており、「合理的な理由」がない限り、平等原則に反しないようにしなければ違法な執行になるという考え方を示しています。
この平等原則を相続税法の財産評価に当てはめると、同じ財産を取得した者は等しく同様の評価法、すなわち評価通達による評価を適用することになります。また、「合理的な理由」の例として、最高裁判決では「評価通達の定める方法により画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合」が挙げられています。
さらに最高裁判決では、「…本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい(乖)離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」と判示しています。この場合の上記事情とは、前述の「合理的な理由がある」ことを指しているものと思われます。
最高裁判決の内容をAさんの事例に当てはめると、Aさんは相続開始の12年前に亡父が取得した賃貸不動産を、相続開始後に相続税の納税資金捻出のために通達評価額の約2倍の価額で譲渡しています。通達評価額と譲渡価額との間には乖離がありますが、乖離があるだけでは「上記事情(合理的な理由)があるということはできない」ということになります。
賃貸不動産であることと、通達評価額と時価(Aさんの場合は、それと推察される近接時期の譲渡価額)との間に大きな差があるのは、最高裁判決の事件と同じです。ただAさんの場合は、前述の下線部のような「合理的な理由」に該当する事情、例えば、①相続時に賃貸不動産に係る借入金の残額があり、②賃貸不動産の評価額よりも借入金の残額が大きいため相続税の計算上マイナスが生じ、③②のマイナスにより、その他の相続財産の価額の合計額を大きく減じている等の事情はありません。
また、Aさんは亡父の相続直後といってもいい時期に不動産を譲渡していますが、相続時のその相続財産は純粋に不動産です。Aさんには「私法(民法)上は契約が成立していないまま相続が発生したが、実は亡父が相続前に譲渡交渉を具体的に進めていて、事実上買手とほぼ合意に達していた。」等の、合意していた譲渡価額を基に評価されうるような事情もありません。
したがって、Aさんが亡父から相続後に譲渡した財産は、あくまで相続の時点では不動産というほかなく、その譲渡は相続後のAさんの行為に過ぎません。亡父に係る相続税の計算上は、平等原則の下で相続財産の評価をするのだから、不動産として通達評価をすべきということになるはずです。そうしないと相続税の納付のため、相続後に相続人の判断・必要性に基づき、相続した不動産を譲渡した場合(納付のために申告・納付期限までに譲渡が行われるはず)は、全て譲渡価額で評価し直すということになってしまいます。そうすると納税のために相続財産を譲渡せざるを得ない人を不当に不利に取扱うことになり、「平等原則」に反することとなります。
以上により、Aさんは亡父に係る相続税の計算上、賃貸不動産を通達評価額により評価して問題ないと考えます。
税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/10/21)より転載