【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い
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[解説ニュース]
【Q&A】個人が賃貸しているマンションの管理組合に支払う修繕積立金と所得税の取扱い
〈解説〉
税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)
[関連解説]
■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲
【問】甲さんは、区分所有マンションを3戸所有し、賃貸の用に供しています。甲さんの所得税に係る不動産所得の金額の計算上、マンションの管理組合に支払う修繕積立金は必要経費に算入できますか。 |
【回答】
1.結論
甲さんが下記2(2)②で述べる事実関係の下で修繕積立金の支払いをしている場合は、その支払期日の属する年分の必要経費に算入することができます。
2.解説
(1)不動産所得の計算上控除する必要経費
①必要経費の範囲
所得税の不動産所得の金額の計算上、不動産賃貸の用に供している不動産について生じた費用の額は、必要経費に算入されます。ただし、減価償却費を除き、その年12 月31 日現在で債務の確定しているものに限られます(所得税法37条1項)。
②債務の確定要件
上記①の「債務が確定しているもの」は、原則、次のイ~ハの全ての要件を満たしているかどうかに基づいて判定されます(所得税法基本通達37-2)。
イ.その年12月31日までに、費用に係る債務が成立していること。
ロ.その年12月31日までに、その債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
なお、「具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」とは、役務提供や給付などの原因が現に生じていることをいいます。例えば、個人が支払った修繕積立金であれば、マンション管理規約上において、大規模修繕に充てるため毎月支払うべきものとされていますが、支払いの段階では現実にその修繕が行われていない以上、この要件は満たさないので、必要経費に算入できないことになります。
ハ.その年12月31日までに、その金額を合理的に算出することができるものであること。
(2)マンション管理組合に支払い修繕積立金の取扱い
①原則的な取扱い
マンションの修繕積立金とは、その共用部分につき、将来行うことが見込まれる大規模修繕等の費用の額に充てるため、その区分所有者から月々の管理費と併せて支払われ、管理組合において長期間にわたり計画的に積み立てられているものです。
マンションの区分所有者が修繕積立金として管理組合に支払った金額は、実際に修繕等が行われていない限り、前述(1)②ロの具体的な給付をすべき原因となる事実(現実に修繕等が行われていること)が発生していないことから、管理組合への支払期日の属する年分の必要経費には算入することができないことになります。管理組合への支払後、実際に修繕等が行われたときに、その費用の額に充てられた部分(規約に別段の定めがない場合、その共有部分に応じて算出)の金額について、その修繕等が完了した日の属する年分の必要経費に算入されます。
②支払年分の必要経費に算入できる場合
しかし、修繕積立金はマンションの区分所有者となった時点で管理組合へ義務的に納付しなければならないものであり、管理規約において納入した修繕積立金は、管理組合が解散しない限り、区分所有者へ返還しないこととしているのが一般的です(マンション標準管理規約(単棟型)(国土交通省)60条6項)。このため、通常は返還されない修繕積立金を支払ったにもかかわらず支払った年分の必要経費に算入できず、実際に修繕を行った年分まで必要経費への算入を待たないといけないというのは、実情に合わないともいえます。
そこで国税庁では、「質疑応答事例」において特例的な取扱いを示し、修繕積立金の支払がマンション標準管理規約に沿った適正な管理規約に従い、次の事実関係の下で行われている場合には、上記(2)①にかかわらず、その修繕積立金について、その支払期日の属する年分の必要経費に算入しても差し支えない、としています。
イ.区分所有者となった者は、管理組合に対して修繕積立金の支払義務を負うことになること。
ロ.管理組合は、支払を受けた修繕積立金について、区分所有者への返還義務を有しないこと。
ハ.修繕積立金は、将来の修繕等のためにのみ使用され、他へ流用されるものでないこと。
ニ.修繕積立金の額は、長期修繕計画に基づき各区分所有者の共有持分に応じて、合理的な方法により算出されていること。
税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2024/2/13)より転載