[解説ニュース]

みなし贈与の株価上昇分は相続時精算課税で相続財産に加算されるか

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続時精算課税制度の適用で、父から子がもらっていた同族会社株式が、相続開始直前に被相続人(父)が同族会社への債権を放棄したことで値上がりしたため、税務上のトラブルにつながった事例が明らかになりました(国税不服審判所令和4年3月16日)。

 

相続時精算課税制度の適用を受けていた非上場株式は、贈与者が亡くなった場合、その相続税の計算上、贈与時の価額で加算される仕組みです。その後の株式の価格変動は、贈与者の相続開始に伴う相続税の計算では、加算されないというのが制度の一般的な理解です。

 

ところが、税金トラブルとなったこの事案では、被相続人が相続開始前に株式の発行会社に対して債権を放棄したことから、みなし贈与により、発行会社の株式の価値が増加しました。

 

このため相続税の計算上、債権放棄によって増加した株式の価値まで加算されるのかが争点となったものです(本件は、他の争点もありますが、ここではみなし贈与により発生した「株価上昇分」に関する争点に絞ります)。

 

2、事案の概要


裁決書によると、事案の経過は次の通りです。

 

①平成21年10月に、請求人(相続人)は、亡くなる前の父親(被相続人)から、請求人自身が代表を務める同族会社A社の株式10,100株などの贈与を受け、翌年にその申告の際、所轄税務署に相続時精算課税制度の選択届出書を提出した。

 

②平成23年6月に、被相続人はA社に対し、A社への貸付金債権合計約5,500万円を放棄する旨の意思表示をした。この際には、相続人はA社株12,600株を保有していた。これは本件会社の発行済株式総数23,000株の50%を超えていた。

 

③請求人は、平成28年11月、相続税の申告書を税務署に提出。

 

④税務署は、令和2年12月、請求人に対し、みなし贈与により発生した株価の価値増加分を相続財産に加算するよう相続税の更正処分等をした。

 

3、 みなし贈与とは


この事案のポイントは、相続開始直前に、被相続人が同族会社に対する債権を放棄したため、放棄による経済的利益が会社の株価を引き上げ、株主に贈与があったと税務署にみなされた点です。

 

これは「みなし贈与」と呼ばれる規定の一つ、相続税法第9条に基づくものです。しかもこの規定の適用を受けた相続税法基本通達9-2(3)では、同族会社の株式の価額が、対価を受けないで会社の債務の免除があったことにより増加したときにおいては、その株主が当該株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を、当該債務を免除した者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとし、この場合における贈与による財産の取得の時期は、債務の免除があった時によるものとするとされています。

 

税務署はこの取り扱いにより、債権放棄によって株価が増加した金額について相続時精算課税制度に基づき、相続財産に加算すべきものとしたわけです。

 

しかし請求人は、①株式の評価額の増加に相続税法第9条の規定を適用することは認められない②贈与後の株価の価値上昇分に相続税法9条を適用して贈与とみなして、相続時精算課税制度の対象として相続財産に加算するのはおかしい、として国税不服審判所(以下、審判所という)にその是非の判断を仰ぎました。

 

4、 審判所の判断


審判所は、上記通達について「株主等が同族会社に対する債務免除等によって株式等の価額の増加という経済的利益を取得しているにもかかわらず、株主等に対する債務免除等ではないとの理由で、当該株主等が取得した経済的利益に課税できないとすれば、課税の公平を失するというべき」と整理し、相続税基本通達9-2(3)について「そのような不合理を補う趣旨に基づくものと解され、相続税法第9条の規定の趣旨に沿う」と考え方を示しました。

 

事案に即した検討で審判所は、顧問税理士の提出した評価明細書から「請求人は、対価を支払わないで、債権放棄の時において、被相続人から債権放棄による株式の評価差額23,814,000円を経済的利益として取得したものとみなされる」と認定。

 

請求人が問題としている点について審判所は要旨「株の贈与と本件債権放棄は別個の行為であって、株式贈与に対する課税と債権放棄に対する課税は異なる課税原因に基づくもの(中略)債権放棄による株式の評価額の増加は相続税法第9条の規定の適用がある財産の増加というべきであって、更正処分は、株式の単なる評価額の増加を対象としたものではない」と述べ、「債権放棄に伴う株式の評価額の増加に相続時精算課税制度を適用して課税することは相当である」と判断、請求人の言い分を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/1/11)より転載

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第1回:会計事務所の事業承継について

~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

1.会計事務所の実態


税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。

 

後継者がいないために、事業承継で悩む中小企業が増えておりますが、会計事務所でも同じことが起きています。税理士1人の会計事務所で、税理士が仕事を辞めたいと思っても職員をクビにしたくないし、かといって事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、、、と悩んでいる税理士は多いのではないでしょうか。

 

 

 

2.事業承継型M&Aと成長戦略型M&A


後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段として、M&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。

 

一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので、今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。

 

 

 

3.会計事務所のM&A(譲渡)


中小企業でM&Aが増えているのと同様に会計事務所のM&Aも増えています。M&Aを選択する理由も様々です。

 

①引退したいが後継者がいない

●子供がいない

●子供はいるが試験に合格できない

●子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない

●後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない

●事務所にいる税理士は経営者としては頼りない

 

これは、先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも、会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が中小企業以上に狭いため、より後継者問題で悩む人が多いです。

 

②先行き不安

●毎年顧問報酬の値下げを要求される

●顧問先が年々減少する

●職員を新規採用できない

●複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない

●事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない

●税理士業界全体の将来が心配

 

会計事務所の代表である税理士は、事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。

 

③他業種への転換

会計事務所の他に、コンサル会社などの別会社を運営している方は多いです。他にも、不動産仲介の会社や保険代理店、中にはファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。

 

②と③は先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。

 

中小企業のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えています。

 

 

 

 

4.会計事務所のM&A(買収)


会計事務所を譲渡したいニーズと同様、会計事務所を買収したいニーズも増えています。会計事務所が他の会計事務所を買収する目的について、いくつか説明いたします。

 

①売上の増加

顧問先を引き受けることで、単純に売上の増加につながります。しかし、買収する会計事務所にはそれ以上のメリットが生まれる可能性があります。買収側の会計事務所が税務以外にも様々なサービス(経営コンサル、資金調達、給与計算、保険販売、IPO等々)を提供できる一方で、譲渡側の会計事務所は顧問先に対して記帳代行や決算業務等のサービスしか提供していなかった場合を考えてみますと、既存の顧問先に対して新たなサービスを提供することが可能になり、顧問報酬のアップ(=売上増加)につながることになります。

 

事業会社のM&Aでも同じようなケースがあります。運送業を例に挙げると、小規模であるがゆえに荷主に価格交渉ができず利益率が低いために赤字が継続している運送会社があるとします。その運送会社が、大手の運送会社の傘下に入ることで荷主と強気の価格交渉を行ったり、違う荷物を運ぶことが可能になったりして、一気に黒字に転換することはよくあります。

 

②人の確保

事業規模の拡大のため従業員採用の募集をかけてもなかなか集まらないので、まとまった数の従業員を確保するために他の会計事務所を買収したいというニーズです。今後、会計事務所のDX化が進んでいくでしょうが、まだまだ人の確保は必要です。

 

③新たなエリアへの進出

既存のエリアでの成長が難しくなってきたので、他のエリアに進出したいけど、一から拠点を築くのは大変なので、進出したいエリアにある会計事務所を買収したいというニーズです。地方から東京や大阪、名古屋といった大都市に進出したいと考える方が多いです。また、従業員が何人も税理士試験に合格し、1つの事務所内で資格者の割合が高くなった会計事務所が資格者を活用するため、他のエリアに進出したいと考える方もいらっしゃいます。

 

このように、会計事務所がM&Aを活用することで急成長することが可能になります。

 

 

 

 

 

【業界別M&A動向】

食品製造業のM&A動向~食品製造業の現状と課題、食品製造業のM&A事例~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 食品製造業の現状と課題

課題①:人口の減少

課題②:製造コストの高騰

2. 食品製造業の展望

3. 食品製造業のM&A事例

4. 最後に

 

 

 

 

1. 食品製造業の現状と課題


食品製造業界の2019年度における市場規模は、前年度比+0.25%の約29兆8,571億円とされています(※1)

 

 

 

課題①:人口の減少

 

日本の人口は減少傾向にあり、将来的な食料支出総額は減少することが想定されます(図A※2、図B※3)

そのため、食品製造業においては海外に販路を拡大する動きも見受けられます。しかしながら、海外現地の法律や商習慣情報の不足、海外展開を任せられる人材の確保が困難であることを課題に感じている企業も多いのが現状です。

 

 

 

 

 

課題②:製造コストの高騰

 

食品業界は仕入価格の変動、人件費・物流費の高騰などに起因する製造コスト上昇により利益を圧迫されるリスクがあります。また、競合他社との価格競争により、製造コストの上昇を販売価格に転嫁し難いという現状もございます。

そのため、仕入から販売に至るまでの適切な業務管理や、機械導入などの省人化による生産性の向上が必要となりますが、それらに必要なリソースを鑑みると、改善への着手が困難な中小企業も一定数存在します。

現状は、他の製造業種と比較しても、食品製造業は労働生産性が低い状況にあります。(図C/※4)

 

 

(※1)経済産業省「産業別統計表」より当社作成
(※2)総務省統計局「人口の推移と将来人口」より当社作成
(※3)農林水産政策研究所「人口減少局面における食料推移の将来推計」より当社作成
(※4)経済産業省「産業別統計表」より当社作成

 

 

2. 食品製造業の展望


前述の課題でも言及しておりますが、販路拡大の方策は、今後縮小が予測される国内市場で競合他社とパイを奪い合うか、海外事業を拡大するかに大別されます。

一方で、生産力向上によるコストの削減も並行して求められますが、多くの中小企業においては人材や資金のリソースが不足しており、自社単体での成長戦略に限界を感じている企業も少なくありません。

また、大企業においてもより顧客のニーズを満たすための商品開発や自社商品の更なるブランド力向上を企図しており、選択と集中のためにノンコア事業のカーブアウトを検討するケースもあります。

上記に挙げた、業界内の大企業・中小企業の課題解決策の一つとしてM&Aという選択肢があり、同業種・異業種同士を問わず、今後も食品製造業界のM&Aは活発化していく可能性が高いと考えられます。

 

3. 食品製造業のM&A事例


1件目は同事業を展開している企業によるM&Aの事例です。

東海漬物は浅漬分野の更なる拡大を企図しており、販路や製造ノウハウの共有によるシナジーが見込まれます。食品業界においては、本件のようなエリアの異なる企業同士のM&Aも珍しくありません。

 

 

 

 

2件目は商品力の強化を目的としたM&Aの事例です。

丸大食品は双方の商品力や研究開発力を融合することで、顧客のニーズをより満たせるような商品展開を企図しています。

 

 

 

 

3件目は異業種同士の企業によるM&Aの事例です。

オーイズミは成長戦略の一環で食品事業の強化を企図しており、商品力のみならず、下仁田物産の取得している食品安全システム認証の国際規格にも関心を示しました。

また、食品業界のM&Aにおいては、M&A実行後も自社のカラーを色濃く存続したいとの理由から異業種の買手を希望される経営者様も多くいらっしゃいます。

 

 

 

 

 

4. 最後に


食品製造業界は現状様々な課題に直面しており、各社課題解決に向けた取り組みが求められています。また昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要と考えられています。

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

[解説ニュース]

速報!令和5年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■速報!令和3年度税制改正案

■速報!令和4年度税制改正案

 

 

~与党税制改正大綱に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

 

■【相続税・贈与税】《「令和5年度税制改正大綱」P41~42、42~43、43、21》

1.相続時精算課税制度の見直し

 

(1)相続時精算課税適用者(受贈者)が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税につき、現行の基礎控除とは別に、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとされる。特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除後の残額とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用される。

 

(2)相続時精算課税適用者(受贈者)が特定贈与者から贈与により取得した一定の土地又は建物が、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって一定の被害を受けた場合は、相続税の課税価格への加算等の基礎となるその土地又は建物の価額は、その贈与の時における価額からその価額のうちその災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用される。

 

2.相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等の見直し

相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前7年以内(現行3年以内)にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額(その財産のうち、その相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)が相続税の課税価格に加算される。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用される。

 

3.教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

(1)直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、次の措置を講じた上、その適用期限が令和8年3月31日まで3年延長される。
①信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合において、その贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、その死亡の日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、その受贈者がその贈与者から相続等により取得したものとみなされる。
②受贈者が30歳に達した場合等において、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率が適用される。

 

(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税又は贈与税について適用される。

 

(2)直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、受贈者が50歳に達した場合等において、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとした上、その適用期限が令和7年3月31日まで2年延長される。

 

(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用される。

 

4.マンションの相続税評価の適正化の検討

マンションの評価方法について、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ適正化が検討される。

 

 

■【個人所得課税(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化税制の創設)】令和5年度税制改正大綱」P32》

特令和7年分以後の所得税について、[その年分の基準所得金額-3億3,000万円]に22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税が課される。

 

(注)「基準所得金額」は、その年分の所得税につき申告不要制度を適用しないで計算した合計所得金額(特別控除額控除後の額をいい、源泉分離課税の対象所得金額を含まない。)をいい、「申告不要制度」は、確定申告を要しない配当所得等の特例及び確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得の特例をいう。「基準所得税額」は、その年分の基準所得金額に係る所得税額(外国税額控除等を適用しない場合の税額をいい、附帯税を除く。)をいう。

 

■【住宅・土地税制(所得税・法人税)】《「令和5年度税制改正大綱」P33、71~72》

1.空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の拡充等

次の措置を講じた上、その適用期限が令和9年12月31日まで4年延長される。

 

(1)本特例の適用対象となる相続人が相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないものに限る。)の一定の譲渡、又はその被相続人居住用家屋とともにするその相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等で、その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないものにつき、一定の譲渡をした場合において、その被相続人居住用家屋がその譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、次に掲げる場合に該当することとなったときは、本特例を適用することができることとされる。
①耐震基準に適合することとなった場合
②その全部の取壊し若しくは除却がされ、又はその全部が滅失をした場合

 

(2)相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等(以下「被相続人居住用家屋等」)の取得をした相続人の数が3人以上である場合には、特別控除額が2,000万円とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に行う被相続人居住用家屋等の譲渡について適用される。

 

2.特定の資産の買換えの場合等の課税の特例の見直し(法人税)

次の見直しを行った上、その適用期限が3年延長される(所得税についても同様)。

 

(1)既成市街地等の内から外への買換えが、適用対象から除外される。

 

(2)長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えについて、東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が90%(現行80%)に引き上げられる。また、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が、60%(現行70%)に引き下げられる。

 

(3)先行取得の場合については、特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例及び特定の資産を交換  した場合の課税の特例を除き、譲渡資産を譲渡した日又は買換資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間(その事業年度を開始の日以後3月ごとに区分した各期間をいう。)の末日の翌日以後2ヶ月以内に、本特例の適用を受ける旨等の一定の事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に届出ることが適用要件に加えられる。

 

(注)上記(3)の改正は、令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をして、同日以後に買換資産の取得をする場合の届出について適用される。

 

■【消費税】《「令和5年度税制改正大綱」P77~78》

1.適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置の創設

(1)適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が①適格請求書発行事業者となったこと、又は②課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられない場合には、確定申告書にその適用を受ける旨の付記をすることにより、その課税期間の消費税の納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割とすることができる。

 

(注)上記の措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間及び令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用を受けられない同日の属する課税期間は、適用されない。
(2)(1)の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を所轄税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用が認められる。

 

2.少額の課税仕入れに係る仕入税額控除の特例

基準期間の課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、その課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除が認められる。

 

3.適格返還請求書の交付義務免除の特例の創設

令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について、その対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合は、その適格返還請求書の交付義務が免除される。

 

■【中小企業税制等(法人税・所得税等)】《「令和5年度税制改正大綱」P63、72~73》

1.中小企業者等の法人税の軽減税率の特例(税率を 15%とする特例)の延長

適用期限が2年延長され、令和7年3月31日までに開始する事業年度につき適用される。

 

2.株式等を対価とする株式の譲渡(株式交付)に係る所得の計算の特例の見直し

令和5年10月1日以後に行われる株式交付について、特例の対象から株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く。)に該当する場合が除外される(所得税についても同様)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/12/21)より転載

[解説ニュース]

合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

■M&Aの株の売却価額と評価額とのかい離で財産評価基本通達6項が適用された事例

 

1、はじめに


無限責任社員と有限責任社員からなる合資会社の社員に相続が開始した場合、なかなか大変です。というのも、合資会社の社員は死亡により原則として退社することになるからです。しかし、定款の定めでその社員の相続人が亡くなった社員の持分を承継することを決めている場合には、相続人が出資の持分を承継することになるとされます。

 

2、国税庁質疑応答事例の取扱い


そこで合資会社の出資等の相続税評価は、次の二つになるとされています(国税庁・質疑応答事例・持分会社の退社時の出資の評価)。それは①出資持分の払戻請求権を相続する場合と、②相続人が出資持分を承継する場合です。

 

国税庁HPによると、①出資持分の払戻請求権を相続する場合は、「評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達(以下、評価通達という。)の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額」により算定することとされます。会社法第611条第2項で「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」とされているからです。

 

一方、②出資持分を相続人が承継する場合は取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価することとされます。
最近、出資持分の払戻請求権の相続をめぐる税金紛争で、上記の取扱いを追認する裁決事例が出てきました(国税不服審判所令和4年6月2日)。

 

3、事例の概要


裁決書によると、亡くなったのは、合資会社の無限責任社員で、相続人はこの社員の配偶者と子ら4人。しかも合資会社の社員でした。相続税の申告では、持分払戻請求権5分の1ずつ相続することとし、持分払戻請求権の評価を約1億円としていました。

 

ただ、相続人は相続開始の直後、合資会社の社員として、死亡により退社した被相続人の合資会社に対する持分払戻請求権の払戻金額を0円とすることに同意する「同意書」(平成29年1月28日付)を作成していました。それをもって相続人は当初申告後、持分払戻請求権を0円とする更正の請求をしましたが、税務署に持分払戻請求権を0円にすること認めてもらえませんでした。相続人はさらに再調査請求で食い下がったところ、持分払戻請求権の評価が約8,000万円になったものの、0円にならなかったため、国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことになったものです。

 

相続人は、出資持分の払戻請求権の評価について「評価通達にある出資(の評価)に準ずる評価は不当。持分(払戻請求権)についての評価通達はないのであるから、確定した払戻金額で課税されるべき。本件は0円であり課税されるべきものはない。」と主張しました。

 

4、 審判所の判断


審判所は、「相続開始日より後に合資会社の社員が、払戻請求権の払戻金額を0円にする旨(中略)の同意をし、実際に払戻しが行われていないとしても、被相続人が相続開始日に払戻請求権を取得したとの事実の存在に変わりはないから、その事後的に同意された金額をもって、払戻請求権の相続税法第22条にいう相続開始時における客観的な交換価値としての時価と認めることはできず、相続税の課税価格に計上すべき払戻請求権の価額を0円とすることはできない」としました。

 

また、審判所は評価通達に持分払戻請求権の評価の定めがないことに関し、要旨「払戻請求権の相続開始時における客観的な交換価値としての時価については、持分払戻請求権が、社員の退社により出資の持分が転換したものであって、実質は出資の持分の経済的側面そのものであると認められることからすると、持分会社の出資の評価について定める評価通達194に準じて評価することが相当である。

 

また、会社法第611条第2項が、持分払戻請求権の払戻しに係る計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨規定していること、評価通達194が準ずることとしている評価通達178から評価通達193−3までにおいて、会社の純資産価額による評価の方法が定められていることからすれば、持分会社の純資産に着目して当該評価方法により持分払戻請求権の時価を評価することは、会社法第611条第2項に沿うものと認められ、相当と解される」と払戻請求権評価の考え方として、会社法の計算に評価通達の会社の純資産に着目した評価方法が対応していると整理しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/12/12)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」のうち、特定事業用宅地等でこの特例の適用をする場合には、「事業継続」することが適用要件になっています。これに関し、最近、特定事業用宅地等を継いだ相続人が事業主として事業に関与していないといけないのかどうかが問われた裁決が出てきました(国税不服審判所、令和4年6月8日)。今回は、この事例を紹介します。

 

2、小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

3、事例の概要


裁決書によると、問題となった事例は、農業を営む亡父から母が相続した自宅を含む「倉庫、納屋、物置などとして使用される建物の敷地800㎡弱」のうち、330㎡については特定居住用宅地等を選択し、倉庫等の敷地130㎡あまりを特定事業用宅地等として選択し相続税の申告期限まで保有、その課税価格を約100万円として申告していたケースです。

 

ただし、サラリーマンでもある長男は亡父から農地の全部を承継し、相続後、農業に係る所得の申告については長男が確定申告をしていました。このため税務署は、母が農業について長男に対しアドバイスするなど関与していても事業主として事業を継続していないとして特定事業用宅地等としての減額を認めず、課税価額約500万円として増額更正したことから、紛争になったものです。

 

 

4、通達の取り扱い


焦点となったのは、措置法通達69の4-20《宅地等を取得した親族が事業主となっていない場合》。これは、措置法第69条の4第3項第1号イに規定する事業(=被相続人の事業)を営んでいるかどうかは、事業主となれないことについてやむを得ない事情がある場合を除き、原則として事業主としてその事業を行っているかどうかにより判定することを趣旨とするものです。

 

しかし審査請求した長男は、(1)措置法第69条の4第3項第1号イの規定には所得税法上の事業主でなければならないという形式的要件は明記されていないこと、(2)同じ租税特別措置法の「農地の納税猶予」(同法70条の4第1項)で規定されている「農業を営む個人」については所得税法上の事業主となっているかどうかは問わないとされていることを挙げて、上記の通達には合理性がないと反発したのです。

 

 

5、審判所の判断


審判所は、小規模宅地等の特例の「事業」の意義について「直接定めた規定は存在しないが、所得税法上の「事業」と別異に解すべき理由はなく、租税法の解釈の統一性(中略)の要請から所得税法上の「事業」と同じ意義に解すべき」としました。
そのうえで上記通達について審判所は、「親族が事業を営んでいるかどうかは、原則として、事業主として当該事業を行っているかどうかにより判定する旨の定めは、本件特例における「事業」の解釈に沿うもの」だとして、2人が共同して事業を行っている場合には「これらの者が自己の計算と危険において主体的にその経済活動を行っていることが必要であって、単に上記活動に何らかの形で関与すれば足りるというものではない」と判断のあり方を示しました。

 

事実関係について審判所は、おおむね①長男が相続後、主体となって農作業を行っていたこと、②出荷は長男名義で行われ、売上の入金や農薬の購入代金も長男の口座が使われていたこと、③母は、農園の作物の栽培に関し長男にアドバイスしたほか、苗を種から育てる際の水やり等の軽作業を行っていたことを確認。
こうしたことから審判所は、事業に対する母の関与は、「付随的かつ従属的なものであって主体的に役割を遂行しているものではなく、母が事業において自己の計算と危険において主体的に経済活動を行っていたとは認められない」と認定し、「母が事業の事業主となれないことについて、(上記)通達に定めるやむを得ない事情があるため請求人が事業の事業主となっていると認めるに足りる証拠もない」として、特例の適用を認めませんでした。また、小規模宅地等の特例の規定と農地の納税猶予の「農業を営む個人」との関係については、全く別個の趣旨及び目的に基づいて規定された要件だとして、同一に解釈しなければならないものとは解されないとしています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/28)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

■贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

 

【問】

X株式会社(X社)は、発行済株式(すべて議決権あり)の80%を代表取締役の甲さん、20%を妻の乙さんが保有していました。乙さんはX社の株主でしたが、同社の取締役を務めたことはありません。

 

令和4年8月に乙さんが亡くなり、相続人の甲さんと子のAさんが協議した結果、乙さん保有のX社株式はAさんがすべて相続しました。また甲さんは、令和4年10月に代表取締役を辞任後、後継者であるAさんに保有するX社株式を全て贈与し、Aさんは甲さんから贈与を受けた株式につき、非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けるつもりです。

 

上記の場合において、乙さんからAさんが相続したX社株式について、非上場株式に係る相続税の納税猶予の特例(措法70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


乙さんは「特例被相続人」に該当しないので、Aさんが乙さんから取得したX社株式は、相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説


(1)特例被相続人の意義

乙さんからX社株式を相続したAさんが、相続税の特例措置の適用を受けるためには、乙さんが「特例被相続人」に該当する必要があります。特例被相続人は、措法施行令40条の8の6第1項(以下「相続税政令」)1号又は2号の場合の区分に応じ、それぞれに定める者となります。

 

この政令において1号は「2号に掲げる場合以外の場合」と定められているので、まず乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が、「2号に掲げる場合」に該当するかどうかを検討します。

 

乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が「相続税政令2号に掲げる場合」に該当するのは、その相続開始の直前において次の①~③のいずれかの者がいる場合です。

 

①X社の株式につき、既に贈与税の特例措置、相続税の特例措置又はみなし相続の特例措置(措法70条の7の8)の適用を受けている者

 

②贈与税の特例措置に係る「特例贈与者」のうち、措法施行令40条の8の5第1項(以下「贈与税政令」)1号に定める者(注)から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりX社株式を取得している者(①に掲げる者を除く。)

(注)「贈与税政令1号に定める者」とは、次のイ~ニの要件をすべて満たす者をいいます。

 

イ.贈与税の特例措置の適用に係る贈与の時前において、その者がX社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。以下同じ。)を有していたこと。

 

ロ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時および相続開始の直前において、その者および[その者と一定の特別の関係のある個人(親族等)や、その者と一定の特別の関係のある法人(その者がその総議決権の数の50%超を有する会社等。以下あわせて「特別関係者」) ]の全体の有するX社株式の議決権の数の合計が、その総議決権の数の50%超であること。

 

ハ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時、及びその贈与の直前において、その者が有するX社株式に係る議決権の数が、その者の特別関係者のいずれの者の有する議決権の数をも下回らないこと。

 

ニ.その者が、その贈与の時においてX社の代表権を有していないこと。

 

③相続税政令1号に定める者(X社の代表権を有していた個人で、同号の定める一定の要件を満たすものをいう。)から、相続税の特例措置に係る相続または遺贈によりX社の会社の株式を取得している者(①に掲げる者を除く)。

(2)本問へのあてはめ

乙さんが特例被相続人に該当するかどうかの判定上、Aさんが乙さんからX社株式を相続する直前に(1)①~③の要件を満たす者がおらず、乙さんは「相続税政令2号に掲げる場合」に該当しません。次に乙さんが「相続税政令1号に掲げる場合」に該当するかどうかを判定すると、乙さんはX社の代表権を有したことがないので、1号の要件の「相続の開始前にX社の代表権を有していた個人」には当てはまらず、特例被相続人に該当しません。以上により、Aさんは相続税の特例措置の適用を受けることができません。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/15)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地や家屋を有する場合の純資産価額方式の計算

■【Q&A】相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

 

 

【問】

被相続人甲さんは令和2年8月に死亡しました。相続人は長男のAさんと次男のBさんの2人です。
甲さんは、生前Aさんに全財産を相続させる旨の公正証書遺言を作成していました。Aさんは、甲さんの遺言に基づき、相続財産の全てを取得しましたが、これに対しBさんは、令和3年1月、Aさんに対して民法1046条第1項の規定による遺留分侵害額1億円に相当する金銭の支払請求をしました。
AさんとBさんは協議の末、令和4年10月に、AさんがBさんに対し、[1]遺留分侵害額に相当する金銭1億円の支払いに代えて、Aさんが所有するX土地(時価8,000万円)の所有権をBさんに移転し、[2]遺留分侵害額1億円とX土地の時価8,000万円との差額2,000万円については、Aさんが現金でBさんに支払をすることで合意しました。
上記の場合における、X土地の所有権の移転に係るAさんとBさんの所得税の課税関係について、次の通り質問します。
①BさんへのX土地の所有権移転について、Aさんに所得税の譲渡所得が課税されますか
②BさんはX土地を取得後に売却する予定です。その場合、Bさんの譲渡所得の金額の計算上、控除される取得費の額はいくらになりますか。

【回答】

1.結論


①Aさんに譲渡所得が課税され、その総収入金額は、X土地の所有権の移転により消滅した債務の額8,000万円となります。
②X土地の取得費(取得価額)は、X土地の所有権移転により消滅した遺留分侵害額の請求権の額8,000万円となります。

2.解説


(1)遺留分制度に関する民法の改正

平成30年7月の民法(相続法)の改正により、「遺留分の減殺請求」が「遺留分侵害額の請求」に改められ、令和元年7月1日以後に開始した相続より適用されています。改正後の「遺留分侵害額の請求」では、遣留分の減殺請求権から生じる権利を金銭債権とし、遺留分権利者(本問ではBさん)は、受遺者又は受贈者(以下「受遺者等」という。本問ではAさん)に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることになり、受遺者等は遺留分権利者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払をすればよいこととされています。

(2)遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転の課税関係

民法(相続法)の改正により、遺留分権利者は遺 留分侵害額に相当する金銭の支払請求のみを行うことができることになりました。ただ、受遺者等が金銭で支払うことが困難な場合等において、当事者間の合意により金銭の支払に代えて他の財産を給付することも考えられます。そのような方法により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求に対して債務の全部又は一部の弁済をすることは、金銭に代えて他の財産の給付をすることで既存の債務を消滅させる、「代物弁済」に該当するものといえます。
そこで所得税基本通達33−1の6は、民法の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合に、金銭の支払に代え、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の起因となった遺贈等により取得したものを含む。)の移転があったときは、原則として、その履行があった時において、その履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる旨を定めています。

(3)当てはめ

①Aさんは、遺留分侵害額に相当する金額1億円の支払請求に対し、金銭の支払に代えて所有している時価8,000万円のX土地を、債務の履行として令和4年10月にBさんに移転し、差額に相当する残りの債務2,000万円については現金で支払っています。AさんのBさんに対するX土地の所有権の移転は、上記(2)の代物弁済に該当することから、Aさんは令和4年10月にBさんに対しX土地を譲渡したことになり、これについて譲渡所得が課税されます。この場合、X土地の所有権の移転により消滅した債務の額8,000万円が総収入金額となります。
② Bさんは令和4年10月に、X土地をその所有権の移転により消滅した遺留分侵害額の請求権の額8,000万円で取得したことになります。よって、Bさんの譲渡所得の金額の計算上控除される取得費の額は、8,000万円となります。

(参考:「令和3年8月東京国税局資産税審理研修資料」193~197頁)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/10/24)より転載

【業界別M&A動向】

電気工事業のM&A動向(第2回)

~2021年度の電気工事業のM&A動向の振り返り、M&A(会社 売却)検討時のポイント~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

目次

1. 2021年度の電気工事業のM&A動向の振り返り

2.M&A(会社 売却)検討時のポイント

①従業員の年齢構成/資格保有者数/勤続年数

②労働基準法の遵守状況

③取引先との関係性

3. 最後に

 

 

 

 

 

1. 2021年度の電気工事業のM&A動向の振り返り


2021年の1年間で、売手を建設関連企業(注1)とするM&Aは公表ベースで78件となっています。

このうち同業種を買手とする割合は49%、異業種/周辺業種合を買手とする割合は51%となりました(図A/※1)。

 

 

 

 

また、異業種/周辺業種を買手とするM&Aのうち、買手業種別に見てみると、サービス業(14%)/その他金融・ファンド(10%)/不動産・ホテル(8%)となっています。

 

これは、買手が「既存事業とのシナジーを極大化する」もしくは「新事業領域に進出する」といった目的で買収を行うケースが増えていることに加え、「事業承継」や「更なる成長」を実現するための引き受け手として投資ファンドも活用されているためと想定されます。

 

前回のコラムでも採り上げたように、同業界は「景気変動の影響が大きい」ことに加え、「人材不足」や「技術の継承」、「後継者不足」など、構造的に多くの問題を抱えています。

新型コロナウイルスの収束が見通せない状況下において、これらの問題の先送りは更なる悪循環(あきらめ型休廃業や解散)を生む可能性もあり、早急な対応が急務だとされています。

 

(注1)同業界は「建設業>設備工事業>電気工事業」と区分されるものの、各工程を併営する企業が多いことから建設関連企業のM&A動向としている
(※1)レコフデータより弊社作成

 

 

2.M&A(会社 売却)検討時のポイント


本項では、会社売却を検討する場合に検討、整理しておくべき点について、買手候補からどのような観点で会社を見られるのかという点から考えていきたいと思います。

 

 

①従業員の年齢構成/資格保有者数/勤続年数

 

電気工事業の大きな課題のひとつとして、「従業員」に関する問題が挙げられることは既述の通りです。当然にして有資格者しか携わることができない業務もあり、「教育や資格取得に時間を要する」ことに加え、「技術承継をするにしても、既存社員の高齢化や若手社員の採用難・定着率難」といった問題を中小企業の多くは抱えています。

 

この問題を買手目線で見た場合、「近い将来、人材不足(退職)や技術不足(ノウハウが引き継がれない)が発生する可能性が高いか否か」を確認する必要が出てきます。つまり、買収後、追加的にどの程度金銭的・時間的なコスト(採用強化や技術者教育等)が発生するかについての検証が必須となります。

 

②労働基準法の遵守状況

 

電気工事業において一般的に問題となり得る事項は、「残業代・給与の未払い」や「労働時間」に関する違反とされています。

中小企業の多くは勤怠管理など未だアナログな管理をしているケースもあれば、突発的な工事対応等が起こり得る業界です。「法律が実態を反映していない」という経営者の声も良く聞かれる項目ではありますが、買手目線に立ってみた場合、仮に違反があったとされた場合にそのリスクを負うことは避けたいと考えることが通常です。

M&Aの実務として、例えば「未払残業代」が発生する可能性が高いと買手が判断した場合、株式譲渡契約の「表明保証」という条項において、売手にも一定の負担が発生するという項目が付されることが一般的です。

つまり、「会社を売却したから問題ない」というわけではなく、「リスクを負う可能性」を予め排除しておく必要があるということです。

 

③取引先との関係性

 

買手側からすると、売手の収益の源泉となっている取引先との関係性は非常に重要な事項となります。

特に、「直請/下請の比率」はどうなのか、「安定取引のある得意先はあるのか」といった点が挙げられます。もちろん買手のM&A戦略にもよりますが、基本的には買収後も「既存取引先から安定した売上・利益が確保できる」ことを前提として株価を算定するからです。

一方、「安定した取引先」が「複数社に分散しているか、一社偏重か」という点は買手の判断次第となる点も否めません。「卵は一つのカゴに盛るな」と同じ考え方ではありますが、一般的に、事業継続性を担保するには複数社への分散がより良いとされており、特定企業への依存度について、将来的な取引剥落についてのリスク評価も買手の重要な判断軸となります。

 

 

3. 最後に


電気工事業界のM&Aは、買手の経営戦略の多様化を背景に、同業種だけでなく異業種/周辺業種も主要プレイヤーとして活発に行われています。

また、様々な課題を抱える同業界においては、自社単独で解決できる課題ばかりではないと考えられています。

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

親の駐車場を使用貸借で子が借りた場合の駐車場収入の帰属

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■建物の取壊費用等が土地の取得費になるかどうかで争った事例

■不動産所得の計算で争いになった最近の事例

 

1、はじめに


亡き親が生前に行っていた貸駐車場の土地を子に使用貸借した場合の駐車場収入は、土地の所有権者の親ではなく、子にあるとした大阪地裁判決(令和3年4月22日)は、これまでの実務を覆すような結果だったことから、話題を呼びました。ここでは地裁判決と納税者敗訴の控訴審判決のエッセンスを紹介します。

 

2、事案の概要


この裁判で争いとなった事案の概要は、①約3千㎡もの土地を持つ親から子2人が平成26年2月、使用貸借契約を締結、不動産管理会社を通じ駐車場として賃貸したこと、②親は、平成26年2月以降の収益について確定申告書に計上せず提出したこと―が発端です。

所轄税務署は平成29年3月に、およそ次のような理由を挙げて、駐車場の収益の帰属を親とする更正処分等を行いました。

 

ア、使用貸借契約自体、真正に成立した契約ではないこと
イ、節税のため親の所有権を残したまま使用収益権を移すという形式が採用されており「特段の事情」があり、当事者の選択した法形式に拘束されず、契約書記載のとおりに有効に成立していると認められないこと
ウ、資産から生じる収益は資産の真実の権利者に帰属すること

 

これに対し、親が駐車場収入の帰属をめぐって出訴していたものです。主たる争点は、駐車場収入は親に帰属するかどうか。その前提として、上記ア・イのとおり、使用貸借契約が真正に成立しているかどうか、特段の事情があって契約書通りに有効に成立していると認められるかどうかも問われるなどしていました。

 

 

3、地裁判決


大阪地裁は、使用貸借契約は真正に成立しているとした上で、「特段の事情」についてこの取引が社会通念に照らして異常なものであるということはできないこと、この取引を行う目的として原告及び子らが支払う租税の合計額を軽減させることにあったことは認められるものの、このような目的があったことと、本件各使用貸借契約の内容どおりの行為がされたこととは両立し得るというべきと整理。

 

結局、地裁は、所得税法12条実質所得者課税の原則との関係につき、概略「資産の真実の権利者が誰であるかが明らかでない場合には、その資産の名義者が真実の権利者であるものと推定する」との所得税基本通達12-1に沿えば、本件は「明らかでない場合に当たらない」と判断、駐車場収入が親にあるということができないとしていました。

4、控訴審は逆転判決


しかし、控訴審の大阪高裁は一審判決を覆して納税者敗訴の判決を下しました(令和4年7月20日判決)。
大阪高裁判決では、最終的に駐車場として貸し付けられていた土地の親子間の土地使用貸借契約の成立を認め、2人の子が本件駐車場から「生ずる収益の法律上帰属するとみられる者」に当たると認定しました。

その上で、大阪高裁は「2人の子が単なる名義人であってその収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合」に該当するかをおおむね次のように検討し、駐車場収益の帰属は親にあると判断しました。

 

(1)駐車場収入は土地の使用の対価として受けるべき法定果実であり、所有権者が果実収取権を第三者に付与しない限り、元来所有権者に帰属する。

 

(2)既に所有権に基づき駐車場賃貸事業を営んで賃料収入を取得していた親が子に本件各土地を使用貸借し、法定果実の収取を承諾してその事業を子らに承継させ、本件各取引は本件各土地の所有権の帰属を変えないまま何等の対価も得ることなく、法定果実の帰属を子に移転させたものと評価できる。

 

(3)本件各取引は、親の相続にかかる相続税対策を主たる目的として親の存命中は本件各土地の所有権はあくまでも親が保有することを前提に、本件各土地による親の所得を子である被控訴人らに形式上分散する目的で同人らに対して本件各使用貸借契約に基づく法定果実収取権を付与したものに過ぎないものと認められる。

 

(4)親が所有権者として享受すべき収益を子に自ら無償で処分している結果であると評価できるのであって、その収益を支配していたのは親であるというべき。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/10/11)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の債務控除の対象とされる債務の範囲

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

 

 

【問】

甲さんは令和4年3月に亡くなり、長男のAさんは遺産分割協議により甲さんの相続財産を取得しました。Aさんは、平成21年5月に甲さんから現金4,000万円の贈与を受け、同年12月にその全額を充てて分譲マンションを取得し、居住を開始しています。Aさんは、平成21年分の贈与税について、次の通り適法に*1~*3の特例の適用を受け、課税価格と納税税額をゼロとする申告書を提出しています。

 

(贈与税の課税価格の計算)
4,000万円-2,500万円*1-500万円*2-1,000万円*3=0

 

*1相続時精算課税の選択による特別控除額(相続税法(相法)21条の9、21条の12)
*2住宅取得等資金の贈与に係る贈与税の非課税(租税特別措置法(措法)70条の2・以下「非課税特例」という。)の非課税額
*3住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例(旧措法70条の3の2・以下「旧精算課税特例」という。)の特別控除額
上記の場合において、Aさんが甲さんから贈与を受けた現金4,000万円のうち、甲さんに係る相続税の計算上、課税価格に加算すべき金額はいくらになりますか。なお、上記の現金4,000万円以外に、Aさんが甲さんから贈与を受けた財産はありません。

【回答】

1.結論


Aさんが贈与を受けた4,000万円のうち、*2の非課税額500万円を除いた3,500万円となります。

 

 

2.解説


(1)旧精算課税特例の概要

旧精算課税特例は、平成15年1月1日から平成21年12月31日までの間に贈与により住宅取得等資金の贈与を受けた一定の受贈者(特定受贈者)が、①その贈与をした者からの贈与について既に相続時精算課税を適用している者又は、②取得した住宅取得等資金について新たに相続時精算課税の適用を受ける者のいずれかに該当する等の一定の場合に、その贈与者から贈与により取得をした住宅取得等資金に係る贈与税につき、住宅資金特別控除額(最大1,000万円)を課税価格から控除するという規定でした。この特例は、平成21年12月31日の適用期限の到来により廃止されています。

 

 

(2)相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で18歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合に、贈与税の申告期限までに「相続時精算課+税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相法21条の9等)。

 

相続時精算課税の贈与者(「特定贈与者」・本問では甲さん)が死亡した場合、相続時精算課税適用を受けた受贈者(本問ではAさん)の相続税は、①特定贈与者から相続又は遺贈により取得した財産の評価額に、②その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の評価額(贈与時の価額)を加算した金額を課税価格として税額を計算します(相法21条の15)。この場合、②の対象となる贈与財産は、その贈与による取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるものに限られます。このため、上記*2の非課税特例のように一定の金額を贈与税の課税価格に算入しない規定の適用があった場合、その適用があった金額、すなわち非課税額は贈与税の課税価格計算の基礎に算入されないので、②の対象とはならず、特定贈与者に係る相続税の課税価格に加算されません(相法基本通達21の15−1)。

 

一方、上記*3の旧精算課税特例は、一定の金額を特定受贈者の贈与税の課税価格に算入しないとする規定ではなく、贈与税の課税価格から住宅資金特別控除額を控除する旨の規定です。このため、旧精算課税特例により控除された住宅資金特別控除額は、上記②に含まれることになり、特定贈与者に係る相続税の課税価格に加算されます(同通達(注))。

 

 

(3)本問へのあてはめ

上記(2)より、Aさんが平成21年に甲さんから贈与を受けた現金4,000万円のうち、甲さんに係る相続税の課税価格に加算すべき価額は、*2の非課税特例により贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されなかった非課税額500万円を除いた3,500万円となります。*3の旧精算課税特例の特別控除額1,000万円は、相続税の課税価格に加算する必要があるので注意が必要です。(参考:「令和3年8月東京国税局資産税審理研修資料」191頁)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/09/30)より転載

【業界別M&A動向】

電気工事業のM&A動向(第1回)~電気工事業の現状と課題~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 電気工事業界の現状と課題

課題①:景気変動の影響が大きい

課題②:人材不足と高齢化

2. 電気工事業界の展望

3. 電気工事業のM&A動向

4. 最後に

 

 

 

 

 

 

1. 電気工事業界の現状と課題


電気工事業界の2019年度における市場規模は、前年度比+0.9%の約8兆9029億円とされています(※1)。

 

課題①:景気変動の影響が大きい

 

同業界は「建設業>設備工事業>電気工事業」と区分されることから、基本的に工事案件(受注状況)は建設需要に連動しています(景気変動→案件予算→受発注予算)。特に、公共工事分野においては各々の地域における景況感が与える影響は少なくありません。

 

加えて、2019年度の電気工事業の完成工事高のうち、約48%程度はゼネコン等の下請けとして工事を受注(図A/※1)しており、建設業界特有のピラミッド型構造であることを考えると、景気後退局面等において価格交渉力が低下するなどの弊害が生じる可能性が高いとされています。

 

 

 

 

また、電気工事業界の景況感を測る一つの指標に建設投資額があります。

 

近年では東京五輪効果を背景に堅調な推移となっており(2020年度:約63兆1600億円の予想)、今後も大規模インフラ(橋やトンネル等)の改修に加え、民間の大型開発プロジェクト等も見通されていることから、同業界における需要自体は底堅く推移することが想定されています(2025年度:約63兆円の予想)(図B/※2,3)。

 

しかし一方、民間工事案件においては、新型コロナウイルスによる顧客企業の設備投資抑制の可能性や、計画の延期/見直しについては不透明感が残ることから、必ずしも業界全体としての見通しが明るいとは言い切れない状況と言えます。

 

 

 

 

課題②:人材不足と高齢化

 

電気工事業界におけるもう一つの大きな課題は、従事者数の減少と高齢化が挙げられます。前述の通り同業界が属する建設業界では、約378万人(2021年7月時点)が従事していますが、10年前と比較すると約34万人も減少しており(※4)、2011年以降(東日本大震災の復興需要や東京五輪特需等)、人材の不足感が高まっていることが見受けられます(図C/※5)。

 

 

 

 

加えて、従事者の年齢別割合を見てみると、55歳以上が約34%(全産業比+5%)、29歳以下が約11%(全産業比▲5%)となっており、次世代への技術承継も大きな課題となっています(※6)。

 

また、国土交通省の調査によると、電気工事業界における「ヒト」に関する課題認識は非常に高く、上述の「①人材不足」に留まらず、「⑤後継者問題(=事業承継)」についても大きな関心事となっていることが分かります。
後継者問題については小~中規模事業者のうち3割超が課題を抱えているという結果も出ています(図D、E/※7/注1)。

 

この2つの「ヒト」に関する課題は、事業の成長性や継続性という観点から早急に手を打つ必要性が高いと考えられます。

 

 

 

(※1)国土交通省「建設工事施工統計調査」より
(※2)国土交通省「建設投資見通し」より
(※3)みずほ銀行「日本産業の中期見通し」(建設)」より
(※4)総務省「労働力調査」より
(※5)国土交通省「建設労働需給調査」より
(※6)国土交通省「建設業及び建設工事従事者の現状」より
(※7)国土交通省「建設業構造実態調査」より

 

 

2. 電気工事業界の展望


近年、大手電気設備工事各社はメガソーラーなどの新(再生)エネルギー発電事業の分野に力を入れてきました。しかしながら、2020年6月に改正再エネ特措法が成立したことを受け、今後、同事業の競争が激化するなどの懸念から伸び率は急落するなど、以前のような勢いは無くなってきています(図F/※8)。

 

 

(※8)日本電設工業協会「電気工事業の受注調査」より

 

 

また、同業大手各社は「事業エリアの拡大」に積極的に取り組む一方、異業種/周辺業種の大手各社は「事業領域の拡大(=総合設備工事業)」や「既存事業領域とのシナジー(内製化含む)」という目的で電気工事業界への進出を進めており、今後より一層業界再編(=企業買収・統合)の波が押し寄せる可能性が高くなっています。

 

 

3. 電気工事業のM&A動向


2015年初以降、売手を建設関連企業とするM&Aは公表ベースで327件(注2)となっており、うち約6割が異業種(商社/ビルメンテナンス事業者等)や周辺業種(電気通信工事業者/管工事業者等)を買手とする事例となっています(図G/※9)。

 

 

(注2)国内企業同士の買収事例のみ。事業譲渡や資本参加事例は除く。
(※9)レコフデータより弊社作成

 

同業種同士のM&Aについては比較的イメージがしやすいと考えられることから、下記では異業種/周辺業種を買手とした事例についてご紹介をします。

 

 

 

 

 

このように、異業種/周辺業種との間においても様々な観点でのM&Aが行われるケースが一定数存在しています。

 

 

4. 最後に


電気工事業界は従来から様々な課題に直面しており、事業構造上の問題点も少なくありません。また昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要です。

 

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

[解説ニュース]

土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■不動産所得の計算で争いになった最近の事例

 

1、相続税の土地評価の単位とは?


相続財産である土地を金銭価値で見積もる評価をする場合には、土地は、(1)宅地、(2)田、(3)畑、(4)山林、(5)原野、(6)牧場、(7)池沼、(9)鉱泉地及び(10)雑種地の地目の別に評価することとされています。なお、一体として利用されている一団の土地が2以上の地目からなる場合には、その一団の土地は、そのうちの主たる地目からなるものとされます。

 

このうち宅地については、利用の単位となっている1画地の宅地ごとに評価することになっています。必ずしも1筆ごとではないところがポイントです。
もっとも贈与、遺産分割等による宅地の分割が親族間等で行われた場合、分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど、その分割が著しく不合理であると認められるときは、その分割前の画地を「1画地の宅地」とするルールがあります。

 

さて、建物の建築確認を受ける際に、その敷地とされていた土地の利用状況が、建物の敷地以外の用途にも利用されることがあります。その場合、土地の評価単位の判定はどのようになるのでしょうか?今回は、そんな問題を孕んだ最近の裁決事例を紹介します。

 

 

2、事例の概要


問題となった相続財産の土地は、次のような土地でした(国税不服審判所 令和4年3月9日裁決)。

 


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被相続人は平成15年に共同住宅の新築に際し概ね本件1土地を敷地として建築確認申請を行いました。その後相続が開始し、相続人Aが本件1土地及び共同住宅を、相続人Bが本件2土地を遺産分割により相続しました。相続開始時点の土地の利用状況は、本件1土地の点線部分の南側を含む本件2土地が月極駐車場となっていましたが、共同住宅入居者専用ではありませんでした。本件1土地の南側道路に接する部分にはフェンスが設置され、当該通路部分を通って南側道路に出ることはできない状況でした。

 

相続人らは本件1土地については、共同住宅の敷地である宅地で不整形地として当初申告しました。

ところが税務署は、本件1土地の北側共同住宅の敷地部分(宅地)と駐車場となっている南側部分(雑種地)は一体性がないとして、評価単位を分けて更正処分をしたことから、国税不服審判所(以下、審判所という)の判断を求めることになったものです。

 

争点は、本件1土地北側部分と、本件1土地南側部分に分けて評価すべきか。具体的には、本件1土地の地目につき、本件1土地北側部分は宅地、本件1土地南側部分は雑種地として、それぞれの評価単位ごとに土地の価額を評価すべきか否か。

 

 

3、審判所の判断


審判所は、本件1土地の点線部分に柵が設置されていたことや、植栽などがあって事実上、共同住宅の敷地から駐車場側へ通りぬけられなかったこと等を確認し、本件1土地の南側部分は、共同住宅の敷地の効用を果たすための必要な土地とは認められないと判断しました。そのうえで審判所は、最終的に「本件1土地北側部分の地目は宅地、本件1土地南側部分の地目は雑種地と判定すべき」としました。

 

この点、相続人が次のように主張していました。「本件1土地南側部分は、①避難通路として本件共同住宅の敷地の効用を果たすために必要な土地であること、②建築確認申請における建蔽率及び容積率の計算上、本件共同住宅の敷地に含まれていることから、本件共同住宅の敷地として本件1土地北側部分と一の評価単位とすべき」。

 

これに対し審判所は「土地の地目の判定においては、土地の現況及び利用目的に重点を置くこととされるものであり、その利用目的については、課税時期における利用状況を基に判断すべき」と述べ、「建築確認における申請内容いかんは、上記の結論を左右するものではない」として、相続人の言い分を退けています。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/09/20)より転載

【業界別M&A動向】

物流業のM&A動向(第1回)~物流業の現状と課題~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 物流業界の現状と課題課題

課題①:労働環境

課題②:配送の小口化、輸送効率の悪化

2. 物流業界の展望

3. 物流業のM&A

4. 最後に

 

 

 

 

1. 物流業界の現状と課題


物流業界の市場規模は約24兆円、就業者数は約258万人とされています。その内、トラック運送業が占める割合が最も多く、市場規模は約16兆円(全体の約70%)、就業者数は約193万人(同75%)となっており、その内中小企業の占める割合は99.9%とされています(※1)。

 

 

課題①:労働環境

 

トラック運送業において顕在化している大きな課題のひとつとして、ドライバー職における「低所得+長時間労働」が挙げられます(図A/図B)(※2)。

 

こうした労働環境から、「労働力不足+高齢化」といった問題が過去より取り沙汰されてきた一方、大きな改善が見られていないのが現状です(図C/図D)(※3 , 1)。

 

 

 

 

 

 

課題②:配送の小口化、輸送効率の悪化

 

近年、EC市場(とりわけB to C領域)の拡大により、従前の物流の根幹であった「定時性・定期性・大量配送」に加え、「適時性(即時性)・適切性・小口配送」といった役割が付加されてきました(図E)(※4)。

 

また、営業用トラックの積載率も近年約40%以下で推移しており、消費者(サービス購入者)のニーズの高まりと併せ、輸送効率の悪さが業界全体としての生産性の低下を招いていると推測されます(図F)(※5)。

 

 

 

(※1)国土交通省「物流を取り巻く動向について(令和2年7月)」より
(※2)厚生労働省「賃金構造基本統計調査」より
(※3)全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」より
(※4)経済産業省「電子商取引に関する市場調査」より
(※5)国土交通省「自動車輸送統計年報」より

 

 

2. 物流業界の展望


これらの課題解決策として、自社における働き方改革だけでは不十分と考えられており、特に業界慣習(長い荷待ち時間や手荷役などの常態化)の見直しや物流効率化に向け、業界の垣根を超えた様々なステークホルダーとの密接な連携により解決策を講じる必要性が高まってきています。

 

また物流業界はデータの利活用による変革が最も期待される産業のひとつとされており、最先端技術の導入(例:AI・IoT、自動運転、RFID、AGV等)や、他社/異業種連携によるアライアンス(例:シェアリング、共同物流、ラストワンマイル等)による物流ネットワークの再構築が求められています(図G)(※6)。

 

 

(※6)日本経済団体連合会「Society5.0時代の物流(2018年10月)」より

 

 

このような動きは現状大手企業同士の連携として多くみられる一方、中小企業においてもその影響は少なくありません。

 

事業/資本規模の小さい中小企業においては、先に触れた課題が比較的経営環境の悪化に直結しやすいことに加え、効率的な物流ネットワークの構築/整備が進むほどに、自社単独での課題解決の難易度が上がっていく可能性も想定されます。

 

こうした状況を踏まえ、中小企業の「更なる成長+生き残り戦略」のひとつとして、M&Aによる企業の売却(=大手グループの傘下となること)が有効な手段とされています。

 

 

3. 物流業のM&A


2015年初以降、売手を物流関連企業とするM&Aは公表ベースで126件(注1)となっており、うち約8割は同業者を買手とする事例となっています(図H)(※7)。

 

 

(注1)国内企業同士の買収事例のみ。事業譲渡や資本参加事例は除く。
(※7)レコフデータより弊社作成

 

 

同業種同士のM&Aについては比較的イメージがしやすいと考えられることから、下記では、残り2割の異業種/周辺業種を買手とした事例についてご紹介をします。

 

 

 

 

 

 

このように、異業種/周辺業種との間においても、「エリア・既存事業の強化」や「効率化・相互補完」、「新事業の創出」といった観点でのM&Aが行われるケースが一定数存在しています。

 

 

4. 最後に


当業界は従来から様々な課題に直面しており、現在においても大きな変革が求められています。また昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要です。

 

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第7回:売却に向く会社と向かない会社

~仕組みで儲ける会社と属人的な技術やノウハウで儲ける会社~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、デザイン会社を営む顧問先の社長からM&Aによる会社売却を検討していると相談されましたが、留意点を教えてください。

 

A、社長の能力に依存している会社は第三者に売りにくい側面があります。また、デザイン会社の場合、デザイナーの離反などにも留意が必要です。一般論としては、仕組みで儲ける会社は売りやすく、属人的な技術やノウハウで儲ける会社は売りにくいです。

 

M&Aによる外部売却は、向いている業種と向いていない業種があるため、留意が必要です。特定の個人の能力に依存している会社は売りにくく、スタッフ個々人の能力というよりはビジネスモデルが確立されている会社は売りやすいです。この点、会計事務所の売却をイメージ頂くとわかりやすいと思いますが、所長の専門的能力や人脈に依存する事務所は、売却により所長が引退すると顧客も離れてしまうと考えるのが自然です。また、エース格の税理士が業務の大半をコントロールしているような事務所もM&Aを機に独立されてしまう可能性があり、買手にとってはリスクがあります。

 

一方で、記帳代行など業務アウトソースをメインとする会計事務所はスタッフ個人の能力というよりも仕組みで儲けるモデルであり、顧客離反のリスクが低いためM&Aに適していると考えられます。

 

このような観点で考えると我々税理士のような士業、エンジニアを多く抱えるIT企業、デザイン等アート系の会社など専門職が活躍する事業は人材流出リスクを考慮の上、手続きを進める必要があります。

 

筆者の経験でもオーナー同士の合意で事業を買収したものの、実権を握っているナンバー2が離反してM&A後に役職員の大量退職が生じてしまった事案がありました。会社の売買は株主との合意のみで行えますが、M&A を成功させるにはなかで働く役職員のモチベーションをいかに保つことができ、また高めることができるかが重要になります。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第6回:税理士が関与できるM&A 業務

~M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が関与できるM&A 業務を当事者別に教えてください。

 

A、売手、買手、対象会社に対して幅広い業務提供の機会があります。M&A業務に対する対応力が事務所の成長力を左右する時代であると言っても過言ではありません。

 

 

 

 

 

 

図表は当事者別にM&A支援業務をまとめたものです。売手向けと買手向けの業務について売買の仲介、スキーム策定、DD及び株価算定は支援する相手が違うだけでほぼ同一です。通常、DDとは買手サイドが行う買収監査を指しますが、売手が自社を調査するセルサイドDDも行われることがあります。買手のDDにより問題点を指摘されてから対処するよりも、事前に自社を調査して議論になりそうな点について事前準備をするために行います。特に複数の候補先に入札させるような案件では前さばきとしてセルサイドDDを行うケースが多いです。売手に対しては売却時の確定申告や売却後の資産管理業務も行えますし、買手に対しては購入時の税務申告の支援も行えます。とりわけ事業譲渡の案件では、譲渡対価の各資産への振り分け、減価償却資産の耐用年数の決定、営業権の処理など会計・税務で多数の論点が生じます。

 

また、対象会社に対してもPMI(Post Merger Integration) と言われるM&A 後の統合コンサルティング(事務処理体制の確立や買手との会計処理の統一、原価計算制度の構築など)や顧問税理士や監査役に就任しての関与などの業務提供が可能です。

 

以上、M&Aは税理士にとって非常に多くの業務機会がある一方、M&Aによる優良顧客喪失の可能性もあり、M&Aに対する対応力が会計事務所の成長力を左右すると言っても過言ではありません。

 

また、1 年の間でM&Aがよく行われる時期は7月以降で、4、5月は相対的に減少しますが何故だかわかりますか?日本の会社は3月決算が多いため、買手も売手も春先は自社の決算で忙しくM&Aなどやっている暇がないためです。自社の直近確定決算に基づき、いくらで売れそうか検討してから案件がスタートするため夏から秋がM&Aの繁忙期になるということです。

 

これは我々税理士の繁忙期(年末~5月)とかぶらないという点が重要なポイントです。事務所所長としては事務所スタッフの有効活用につながりますし、スタッフの方にとってもスキルの向上に役立ちますので、会計事務所がM&Aに取り組むことは収益源の多様化も含めて一石三鳥の効果があると言えます。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

【業界別M&A動向】

第1回:電子部品業のM&A動向~電子部品業の現状と課題~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(大川 恭史/アドバイザー)

 

 

〈目次〉

1.電子部品業界の現状

2.電子部品業界の課題

. 課題① サプライチェーン

. 課題② DXの推進

3.電子部品業界の展望

4.電子部品業のM&A動向

5.最後に

 

 

 

 

 

 

1.電子部品業界の現状


日本の電子部品産業は、IT・エレクトロニクス産業や自動車産業、各種インフラ産業などの発展を支える基盤産業として、国内外で高く評価されております。

 

また、電子部品業界は、技術革新が早く、製品のライフサイクルは非常に短い上、部品産業であるため、製品機器市場の影響を受けやすいのが特徴となります。
サイクルの上昇期と下降期があるため、半導体の生産に大きな変動をもたらし、約4年周期のシリコンサイクルという循環があると言われております。

 

近年では、CASEをキーワードとする自動車の進化や5G通信の本格化等による市場の革新は、電子部品技術の高度化を促進させ、電子部品需要を大きく成長させていると言われております。中でも昨今のEVシフト加速の動きは、車載用電子部品ビジネスの好機とされております。

 

そのような中で、2021年度における電子部品の出荷額は、約4.3兆円、対前年比で約116%の伸長となっており、過去7年で最高額となっております。

 

2022年は新型コロナの感染再拡大の懸念から不透明感は残りますが、カーボンニュートラルの観点からITリモートや5Gなどデジタルインフラ整備への投資が進み、ソリューションサービスや通信機器の需要拡大と伸長が期待できることから、今後も堅調な市場拡大が期待されております。

 

 

 

(出所)JEITA グローバル出荷統計より

 

 

 

また、技術革新のスピードが速い電子部品業界では、研究開発及び設備に対する投資が積極的に行われております。

 

製造業における電子部品関連(電子部品・電気機械・情報通信機械)の研究開発費ウェイト(2020年)は39%で、製造業全体でトップとなっており、設備投資額ウェイト(2020年)においても22%で、輸送機械を次ぐ割合を占めております。

 

 

 

(出所)総務省 科学技術研究調査

 

 

(出所)財務省 法人企業統計調査

 

 

 

2.電子部品業界の課題


[課題①] サプライチェーン

電子部品は汎用部品もありますが、スペックの違いや顧客のニーズに合わせて製造するものが多く、種類も多岐に渡ります。そのため素材調達から製造、供給までのサプライチェーンは国内外に渡り、複雑化しております。

 

新型コロナ禍において、グローバルに構築されたサプライチェーンが脆弱であることが明らかとなりました。
特に日本においては、中国の占める割合が非常に高いものとなっており、新型コロナによる工場閉鎖等によりサプライチェーンが寸断される結果となりました。

 

現在においてもリモートワークによるデータセンターを強化する動き等様々なニーズが高まり、各領域で半導体不足に繋がっております。
その影響により、納期遅れが常態化している状況になっており、大手、中小企業含めて対応に追われております。

 

2022年第二四半期以降は半導体の供給は回復してくるとの見込みですが、米中貿易摩擦やウクライナ侵攻による希ガスの高騰などカントリーリスクの影響も大きい業界となりますので、今後の事態に備えて、サプライチェーンの更なる強化は必要だと考えます。

 

サプライチェーンの強化に関しては、PwCが2013年8月に公表した「サプライチェーンとリスクマネジメント」というレポートが参考になります。

こちらにはサプライチェーンの脆弱性を克服するための7つの要素がまとめられておりますが、”効率性”を重視していたサプライチェーンから柔軟性(生産拠点、調達先)も考慮に入れたサプライチェーンの再構築が必要ではないでしょうか。

 

 

[課題② ]DXの推進

ドイツの “インダストリー 4.0”、中国の “中国製造 2025” など、世界の主要各国が、第四次産業革命への対応を進めている中、日本もまた、目指すべき社会の姿として “Society 5.0” を掲げております。

 

DX化することにより製造現場のデータを収集し”見える化”をすることによってもたらされる効果は非常に多く、親和性が非常に高い業態であると言えます。

 

そもそも製造工程には、大まかに言って、研究開発-製品設計-工程設計―生産などの連鎖である「エンジニアリングチェーン」と、受発注-生産管理-生産-流通・販売-アフターサービスなどの連鎖である「サプライチェーン」があり、IoT を始めとする最新のデジタル技術は、双方のチェーンの各所において、データの利活用を進める優れたソリューションを提供し、製造業に画期的な革新をもたらすと言われております。

 

製造業におけるDXの取り組み状況については、「全体」でも半数以上がDX取り組んでいないと回答しております。特に300名以下の規模の企業では、70%以上がDXの導入が出来ていないのが現状となります。

 

 

 

(出所)IT人材白書2020

 

 

 

DXの導入が出来ていない背景として、既存のシステムの改修に莫大なコストが掛かることもあるかと思いますが、大きな要因として、適正な”人材”を獲得することが難しいことが上げられると思います。

 

日銀短観における製造業の従業員不足感は、2014 年以降「過剰」と答える割合を「不足」と答える割合が上回り、マイナスが続いておりました。

 

2020年6月以降新型コロナ等の影響により大企業、中小企業共に人材が過剰と判断したため上昇しておりますが、少しずつマイナス傾向になっております。

 

 

 

(出所)日本銀行短観

 

 

 

その中でもDXを推進するためのデジタル人材の供給は十分に進んでいないと言われております。

 

「IT 人材白書 2020」の中で IT 企業やユーザー企業に対して行われたアンケートによれば、特にIT人材の「量」・「質」不足感が強まっている状況が確認出来ます。 IT企業においてもデジタル人材が不足している中で、製造業としてそれらの人材を採用するためには、相応のハードルがあるかと思います。

 

デジタル技術を理解しているIT人材の「量」・「質」両面での供給不足は、DX化推進に向けた課題の一つと考えます。

 

 

 

(出所)IT人材白書2020

 

 

(出所)IT人材白書2020

 

 

 

3.電子部品業界の展望


既に上述しているように電子部品業界は、技術革新が早く、今後はCASEをキーワードとする自動車の進化や5G通信拡大等による拡大が期待出来ます。

 

一方で、技術革新に対応するために研究開発や設備投資を継続的に行っていく必要があり、多くの中小企業においては人材や資金のリソースが不足しており、自社単体での成長戦略に限界を感じている企業もございます。

 

また、大手企業については、業界の動向に合わせて、買収や選択と集中のためにノンコア事業のカーブアウト(売却)を検討するケースもあります。

 

上記に挙げた、業界内の大企業・中小企業の課題解決策の一つとしてM&Aという選択肢があり、同業種・異業種同士を問わず、今後も電子部品業界のM&Aは活発化していく可能性が高いと考えられます。

 

 

4.電子部品業のM&A動向


2015年1月以降、半導体・電子部品業界でのM&Aは公表ベースで50件(注)となっております。

 

 

 

(注)国内における買収事例のみ。事業譲渡、資本参加等は除く。
(出所)日経バリューサーチ

 

 

 

【事例①】

【事例②】

 

 

 

このように、異業種/周辺業種との間においても、「既存事業の強化」、「効率化・相互補完」といった観点でのM&Aが行われるケースがございます。

 

 

 

 

5.最後に


昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要と考えられています。

 

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■建物の取壊費用等が土地の取得費になるかどうかで争った事例

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用巡り争いになった裁決事例

 

 

1.譲渡所得の金額の申告時期の原則


(1)譲渡所得の計算

個人が宅地を譲渡した場合、所得税の譲渡所得の金額は、その年中の譲渡に係る総収入金額(譲渡代金)から譲渡した宅地の取得費や譲渡費用を控除して計算します(所得税法33条1項、3項、租税特別措置法31条、32条)。

(2)収入すべき時期の判定における引渡日基準と契約効力発生日基準

各年の譲渡所得の金額の計算においては、「その年中の譲渡に係る総収入金額」を確定させる必要があり、これは所得税法36条により、「その年において収入すべき金額」とされています。つまり、譲渡の対価である総収入金額が、「その年において収入すべき金額」に当たるかどうかの判断が必要であり、その判断のための基準を示しているのが、所得税基本通達36-12です。この通達では、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日(「引渡日基準」)を原則としていますが、納税者の選択により、当該資産の譲渡に関する契約の効力発生の日(「契約効力発生日基準」)によることも認めています。

 

 

2.契約効力発生日基準を選択する場合の注意点


(1)不動産の売買契約が成立しているかどうか

1(2)の「契約効力発生日基準」は、一般に「契約日基準」と呼ばれますが、「契約の効力発生の日」を総収入金額(譲渡代金)の収入すべき時期とするものであり、「契約日」又は「契約書作成日」が無条件に「契約の効力発生の日」となる訳ではありません。宅地等の不動産の譲渡について「契約の効力発生」に至っているというためには、不動産の売買契約が私法(民法)上成立している必要があります。

 

一般に、売買契約は両当事者の合意によって成立する(民法555条)とされています。しかし、不動産の売買については、昭和50年6月30日東京高裁判決では、「売買契約書を作成し、手付金若しくは内金を授受するのは相当定着した慣行であることは顕著な事実である。契約当事者が慣行に従うものと認められるかぎり、(略)売買契約書を作成し、内金を授受することは、売買契約の成立要件をなすと考えるのが相当である。」とされています。つまり、判例では不動産の譲渡について、売買契約書が作成されたものの、売買契約書で定められた手付金(内金)の授受がされていない場合には、売買契約の成立要件が満たされておらず、契約が私法上成立していない、という考え方が示されています。

 

契約が私法上成立していない状態であれば、「契約の効力発生」に至っていることにはなりません。独立当事者間における不動産の売買等の慣行に従い、その契約の締結(契約書の作成・調印)と同時の買主による手付金の支払義務の履行が契約書に定められている場合は、手付金の支払が履行されていることを前提として、その契約書の調印日が契約の効力発生の日ということになります。契約の効力発生の日の判定に当たっては、契約書の存在とその契約日とされている日だけを確かめるのではなく、手付金の支払条項の有無、その支払条項が有る場合はその履行の有無を確認することも必要です。

(2)手付金の支払条項がない売買契約書の性質

手付金の支払条項がない売買契約書が作成されるケースは、一般に売主・買主間に親族関係等の密接・特殊な関係がある場合の譲渡が想定されます。このような場合、第三者間の譲渡に比べるとそのような条件自体が異例であることから、売買につき真に合意があるのかどうか疑いを生むおそれがあります。

 

しかし、契約書に手付金の支払条項がなく、その授受がない場合であっても、契約書作成後すみやかに代金を全額支払い、登記関係書類等の交付等を経て引渡しが完了しているときは、売買につき真に合意があると考えるべきでしょう。また、手付金の支払条項がない契約書に、契約の効力発生の日を契約書の調印日とする旨の取り決めがあるような場合は、手付金の授受と無関係に効力の発生を合意している以上、その授受がないことが契約の成立に影響しないことになるので、契約書に定められた契約の効力発生の日を否定することはできないと思われます。

(3)契約効力発生日基準選択時の注意点

譲渡所得の金額の計算上、契約効力発生日基準を選択する場合には、極力2 (1)で示した独立当事者間における不動産売買等の慣行に従い、契約締結と同時の手付金の支払義務を定めた契約書を作成のうえ、その授受を完了させ契約の成立について疑いがないようにしておくべきです。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/08/22)より転載

[解説ニュース]

特定事業用資産の買換特例を巡る最近の税金トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

 

1、買換特例の要件を満たしてない・・・


所得税の特定事業用資産の買換特例(以下、買換特例という。)は、個人が特定の事業用資産を譲渡して、特定の資産(買換資産)を取得し1年以内に事業の用に供した場合に、譲渡益に対する課税を繰り延べる税制上の特例です。含み益の大きい事業用不動産を買い換える場合、この特例の活用はおすすめです。もっとも売却資産と買換資産には所定の組合せがあり、これに従うのが特例適用の前提です。

 

今回は、亡き父親により取得された買換資産が、買換特例の適用要件を満たしていないことが判明したケースで、相続人が税務署と争った事例(東京高裁令和3年9月19日判決、請求棄却)を基に、そのエッセンスを紹介します。

 

具体的には相続人は、買換資産である賃貸住宅等の取得価額について買換特例画適用されない場合は買入代金ベースになるため、その後の不動産所得の減価償却や譲渡所得課税で控除される取得費でも高くなりもっと節税になるはずだと考えたのです。そして相続人が税務署に被相続人の所得税の修正申告をしたのですが、税務署は、買換資産の取得価額につき引継価額で計算すべきとして争いになったものです。

 

 

 2、買換え資産の取得価額


買換特例は、課税の繰り延べが特徴です。たとえば、譲渡資産を売った金額より買換資産の買い換えにかかった金額が高いケースでは、現行制度上、課税割合が20%の場合、譲渡資産の譲渡益の80%に相当する金額について譲渡所得課税が先送りされる仕組みです。

 

その代わり買換資産の取得価額は、①売却資産の(取得費と譲渡経費)の80%分と、②売った金額の20%分、③買い換えた資産の購入金額と売却資産の売った金額の差額を合計した金額です。いわゆる取得価額の引継ぎが行われています。
仮に売却資産の取得費が2,000万円、譲渡費用が200万円、売却代金が1億円の場合で、買換え資産の取得価額が1億2,000万円だったら、①(2,000万円+200万円)×80%=1,760万円、②1億円×20%=2,000万円、③1億2,000万円-1億円=2,000万円となり、「買換え資産の取得価額(引継価額)」は①+②+③で、5,760万円となります。

 

もし買換特例の適用がなかったら、買換資産の取得価額は、当然、買った金額とその他取得に要した費用の合計額(1億2,000万円)となります。
買換特例の適用がある場合と、そうでない場合の買換資産の取得価額には、大きな違いがあります。結果、買換資産の減価償却費の計算や、売った場合の譲渡所得課税の計算もその違いが反映されることになるのです。

 

 

  3、裁判所の判断等


この裁判で、中心的な争点となったのは、買換えに係る特定の事業用資産の譲渡の場合の取得価額の計算等について定めた措置法37条の3第1項の「第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)」の内容です。

 

裁判所は「一般に、「適用」との文言は、法令の規定を対象となる者、事項、事件等に対してあてはめ、これを働かせることを意味するものである。そして同法37条の3第1項柱書きは、当該文言に続けて、それ「を受けた者」と定めており、それ「を受けることができる者で、その適用を受けたもの」などとは定めていない。このような文理等に照らすと、自ら同法37条1項の規定を当てはめて同項に規定する要件を満たすとする確定申告書を提出し、これを働かせて同項の規定の適用による課税の繰延べという効果を享受した者は、これに係る修正申告書の提出又は更正処分がされない限り、客観的にみて当該要件を満たしていたか否かにかかわらず、「第37条第1項(括弧内略)の規定の適用を受けた者(括弧内略)に該当することになると解される」と判示しました。

 

また「課税の繰延べという効果を享受した者は、これに係る修正申告書の提出又は更正処分がされない限り、当該確定申告書の提出時から客観的にみて当該要件を満たしていなかったとしても、その効果を享受していることになるところ、それにもかかわらず、以上で述べた解釈とは異なり、(中略)同法37条の3第1項の規定が適用されないことになると解すると、(中略)すなわち繰り延べられたキャピタル・ゲインに対する課税を実現しようとする趣旨に反する結果となるから、この点でも、以上で述べた解釈が採用されるべきもの」と説示しています。

この判断は、東京高裁令和4年5月18日判決でも維持されている状況です。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/08/08)より転載

[解説ニュース]

評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地や家屋を有する場合の純資産価額方式の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

 

1.純資産価額方式による株式評価計算の原則


純資産価額方式は、非上場会社が課税時期(個人が相続、遺贈又は贈与により財産を取得した日をいう。)に清算した場合に株主に分配される正味財産の価値(純資産価額)を、その会社の発行株式の相続税法上の評価額とする評価方法です。具体的には、非上場会社(以下「評価会社」)が所有する資産を財産評価基本通達(以下「財基通」)に基づき評価し、その評価額の合計額から、負債金額の合計額及び資産の含み益に対する法人税額等相当額を差し引くことにより純資産価額を計算します(財基通185)。

 

2.課税時期前3年以内に取得した土地や家屋の評価


(1)通常の取引価額による評価

 

純資産価額の計算上、資産は財基通に基づいて計算することから、会社が所有する土地は路線価、建物は固定資産税評価額を基に評価するのが原則です。ただし、課税時期前3年以内に取得又は新築した土地や家屋の価額は、課税時期における通常の取引価額相当額(注)で評価します(財基通185かっこ書)。(注)その土地等や家屋等の帳簿価額が課税時期における「通常の取引価額」に相当すると認められるときには、帳簿価額(取得価額)に相当する金額によって評価できます(同)。

 

このような取扱いをする理由は、①純資産価額の計算において、評価会社が所有する土地の時価を算定する場合に、個人が所有する土地の評価を行うことを念頭においた路線価等によって評価替えすることが唯一の方法ではなく、適正な株式評価の見地からは、通常の取引価額によって評価すべきとも考えられること、②課税時期の直前に取得や新築をし、時価が明らかにわかっている土地や家屋についても、わざわざ路線価等によって評価替えを行うことは、時価の算定上、適切でないと考えられることによるものです(令和2年版財基通逐条解説682~683頁)。

 

 

 

(2)「取得」の意義

 

上記(1)における「取得」には、評価会社が土地や家屋を交換、買換え、現物出資、合併等により取得する場合が含まれます(令和2年版財基通逐条解説683頁)。合併や会社分割等の組織再編行為により評価会社が土地や家屋を取得した場合についても、(1)の「取得」に含まれるので注意が必要です。

 

 

 

(3)土地や家屋を課税時期前3年以内に取得したかどうかの判定時期

 

純資産価額の評価は、課税時期現在における評価会社の資産及び負債に基づき計算することが原則ですが、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債の金額について著しく増減がないと認められる場合には、直前期末の資産及び負債を基として評価することが認められています(「取引相場のない株式(出資)の評価明細書の記載方法等」12頁)。

 

この取扱いは、課税時期における仮決算を組むのが煩雑であるため、課税上弊害がない範囲で、直前期末の資産等を課税時期現在の資産等に置き換えることを認めたものであり、直前期末を課税時期とみなすものではありません。

 

したがって、評価会社の所有する土地及び家屋が3年以内に取得したものかどうかは、直前期末の資産等を基に評価する場合であっても、課税時期から遡って判定します(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」224~225頁)。

 

 

 

(4)家屋とその敷地を取得後に家屋を賃貸した場合

 

評価会社が課税時期前3年以内に取得した家屋と敷地を所有している場合において、その家屋を取得後に自用から賃貸に利用区分を変更しているときは、その家屋と敷地の評価をどのように行うかが問題となります。上記の場合には、課税時期において家屋を賃貸していることから、家屋とその敷地を貸家及び貸家建付地としての通常の取引価額に相当する金額により評価することになります。

 

この場合、取得時の利用区分(自用家屋、自用地)と課税時期の利用区分(貸家、貸家建付地)が異なることから、前述(1)(注)のように取得価額そのものを評価額とすることはできません。そこで実務上、取得時の利用区分と課税時期の利用区分が異なり、その取得価額等から課税時期における通常の取引価額を算定することが困難である貸家及び貸家建付地の評価は、まず(1)によりその貸家と敷地が自用家屋と自用地であるとした場合の通常の取引価額を求め、次にその価額を財基通93の貸家の評価の定めと26の貸家建付地の評価の定めを適用して減額して計算することが認められています(参考:東京国税局「令和3年8月資産税審理研修資料」226頁)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/07/25)より転載