[解説ニュース]

【Q&A】複数の土地を交換した場合の固定資産の交換に係る所得税の特例の適用

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

 

 

 


【問】

AさんとBさんの兄弟は、土地1~土地7の7か所の土地(以下「本件各土地」)を共有していました。このたび、兄弟それぞれが本件各土地を単独所有とするために、次の内容を盛り込んだ一の交換契約により、本件各土地の共有持分の一部を交換しました。

 

・Aは、Bに対し本件各土地のうち土地1~4の4か所の土地(以下「本件各譲渡土地」)に係る共有持分を、交換の譲渡資産として譲渡する。

 

・Aは、Bから本件各土地のうち本件各譲渡土地を除く土地5~7の3か所の土地(以下「本件各取得土地」)に係る共有持分を、交換の取得資産として取得する。

 

・本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額(時価)の合計額は等価であり、交換による差額は生じない。

 

 

この交換の場合、本件各譲渡土地及び取得土地の価額(時価)について個々の資産ごとに判定すると、組み合わせによっては交換による差額が20%を超える場合があります。このような場合でも、本件各譲渡土地の価額の合計額と本件各取得土地の価額の合計額が等価で、交換による差額が生じないときは、Aさんは固定資産の交換に係る所得税の特例(以下「交換特例」)の適用を受けることができるのでしょうか。

【回答】

1.結論


交換特例の適用を受けることができると考えます。

 

 

2.解説


(1)特例の概要

個人が固定資産の交換をした場合、交換も譲渡の一種であり、交換により譲渡する資産の含み益には原則、譲渡所得の金額として所得税が課税されます。

 

ただし、従前から所有している不動産等の固定資産を同種の固定資産と交換し、交換取得資産を交換譲渡資産と同様の用途に供しているような場合には、実質的には同一の資産を継続して保有し、譲渡がなかったものとみなして、譲渡益に対する課税を繰り延べ、その時点では課税を行わないこととしています。

 

具体的には、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法58条1項)。

 

(2)交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件

交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④の他、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうちいずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(所得税法58条2項。以下この要件を「交換差額要件」という)。

 

 

(3)複数の土地を交換する場合の交換差額要件の判定

譲渡所得の金額は、その年中の譲渡所得に係る総収入金額から譲渡資産の取得費と譲渡費用等を控除して計算します(所得税法33条3項)。その譲渡所得の総収入金額について、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入される場合は、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額とされます(同36条1項)。

 

土地の交換による収入金額は、交換により取得した土地の価額となり、一の交換契約により取得した土地が複数である場合には、それらの土地の価額の合計額となります。複数の土地を一の交換契約で交換した場合、交換特例を適用しなければ交換取得資産の価額の合計額を収入金額として譲渡所得の課税関係が生じますが、交換特例は交換差額が一定の範囲内の場合に譲渡所得課税の繰延べを行うものですから、交換差額要件の判定は、一の交換契約により譲渡所得の課税関係が生じるとした場合の収入金額により判定すべきと考えられます。

 

 

ご質問の交換については、本件各土地の共有状態を解消し、本件各土地をそれぞれが単独所有とするために、一の交換契約により本件各譲渡土地と本件各取得土地とを交換するものであることから、その交換に係る交換差額要件の判定は、本件各取得土地の価額の合計額と本件各譲渡土地の価額の合計額との差額に基づき判定すべきと考えられます。以上により、Aさんは交換特例の適用を受けることができると考えます。(参考:東京国税局文書回答事例「複数の固定資産を交換した場合の所得税法第58条に規定する交換の特例の適用について」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/11/27)より転載

[解説ニュース]

令和6年1月から適用要件が緩和される空き家特例3,000万円控除の特約とは?

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■勝手に(?)出された相続時精算課税の申告書が無効かどうかでトラブル

■マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

 

 

 


1.はじめに


「空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例」(以下、「空き家特例」といいます。)は、親が住んでいて、相続で空き家になった住宅を相続人が売却した場合、一定要件を満たしたときに譲渡所得から最大3,000万円(令和6年1月1日以後、相続人が3人以上の場合には、2,000万円)の控除が認められる譲渡所得課税の特例です。主な要件は次の表のとおりです。

 

 

 

 

これまで適用されてきた譲渡のパターンは次のとおりです。

 

1号譲渡=家屋を取得し新耐震基準に適合させ敷地とともに譲渡する場合
2号譲渡=家屋を除却し、敷地のみを譲渡する場合

 

これに令和6年1月1日からは空き家を現状有姿で譲渡した後、翌年2月15日までの間に次に掲げるパターン(3号譲渡)に該当したときにも適用が可能になります。

 

・譲渡後、買主側で行った家屋が改修等により耐震基準に適合することとなった場合

 

・譲渡後、買主側で家屋全部の取壊し・除却、滅失をした場合

 

これは相続人としては、売れるかどうかわからないのに空き家の取り壊し等をすると、場合によっては固定資産税等が高くなってしまうなど、リスクを感じる人が多いことから3号譲渡の導入が決まったものです。

 

ただし譲渡後、買主の方で取り壊し等をしてもらうことが要件となるので、契約では、耐震改修または取り壊し等を買主が行うことの特約を盛り込む必要があることや、特約が守られなかった場合の取り決め等をする必要があると、国土交通省は財務省主税局との間で議論していました。そして先ごろ、国土交通省は、3号譲渡のための売買契約の特約条項の例を公表したのです。

 

 

2.特約条項とは


売買契約上の特約は、買主側で①家屋を改修して耐震基準に適合させる場合、②家屋自体を取り壊す場合の2タイプです。同省では契約の当事者間で合意した内容に応じ、文例を適宜修正のうえ利用することを推奨しています。ここでは取壊しのタイプを示します。

 

1.売主及び買主は、売主が本契約について租税特別措置法(昭和 32 年法律第 26 号)第 35 条第3項に定める空き家の譲渡所得の特別控除(以下「特別控除」という。)の適用を受けることを前提として、本契約の売買価格等諸条件を決定したことを互いに確認します。

 

2.売主及び買主は、本件土地及び建物の所有権移転後に買主が本件建物の全部の取壊し又は除却工事(以下「本工事」という。)を行うことに合意し、本工事については買主の責任と負担において、令和〇年〇月〇日までに完了させることとします。

 

なお、買主は、売主が本契約について特別控除の適用を受けるために必要となる書類(以下「必要書類」という。)を取得のうえ、令和〇年〇月〇日までに売主へ交付するものとします。

 

3.前項のとおり買主が本工事を完了できない又は売主へ必要書類の交付をしないことにより、売主が特別控除を受けることができなかった場合売主は買主に対し、特別控除を受けることによって本来得られた税控除額相当額の損害賠償を買主に請求することができることとします。
ただし、買主の責めに帰することができない事由により買主が義務を履行できなかった場合は、買主は責任を負わないものとします。

 

 

3.確認書の手続き


空き家特例の適用に当たっては、市区町村長が、国土交通省の「通知」(国住政第101号、国住備第506号)に従い、要件具備の確認を行い、確認書を納税者等に交付することになっています。納税者はこの確認書を確定申告書に添付する仕組みです。令和6年1月1日からの空き家特例の3号譲渡の施行に伴い、国土交通省は上記通知に3号譲渡に関する事項を追加・公表しました。それによると、市区町村長から3号譲渡の確認書の交付を受ける場合には基本的に、上記の特約付き売買契約書の写しも提出することになりました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/11/13)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税に係る相続税の納付義務の承継があった場合の相続税額の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

 

 

 


【問】

個人甲は、平成21年に母Yから賃貸不動産(贈与時の相続税評価額1億円)の贈与を受け、相続時精算課税を選択して贈与税1,500万円を納付しました。甲は令和2年に債務返済のため賃貸不動産を売却後、令和3年に死亡しました。甲の相続人は子のAとBのみで、相続財産はAとBが相続しました(相続税額なし)。令和5年2月にYが死亡し、相続財産1億500万円は代襲相続人(孫)のAが6,300万円、Bは4,200万円を相続しました(AとB以外にYの相続人はなし)。またYに係る債務及び葬式費用500万円はAが300万円、Bが200万円を負担しました。上記の場合において、Yに係る相続税の計算上、AとBの納付すべき相続税額はいくらになりますか。

【回答】

1.結論


Aの相続税額は1087万円、Bの相続税が753万円となります。

 

 

2.解説


(1)特定贈与者に係る相続税の計算

 

相続時精算課税の適用を受けた受贈者(相続時精算課税適用者)に係る相続税額は、その贈与をした者(特定贈与者)が死亡した時に、それまでに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額と相続又は遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。(相続税法21条の15、21条の16)。この場合に相続財産と合算する贈与財産の価額は、贈与時の相続税評価額となります(同法21条の15第1項、21条の16第3項)。

 

 

(2)特定贈与者の死亡前に相続時精算課税適用者が死亡した場合の特定贈与者に係る相続税計算

 

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る受贈者(相続時精算課税適用者)が死亡した場合は、その相続時精算課税適用者(以下「死亡相続時精算課税適用者」)の相続人(以下「承継相続人等」)は、死亡相続時精算課税適用者が有していた相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務を承継します(相続税法21条の17第1項)。

 

 

(3)承継相続人等の相続税額の計算

 

(2)において、承継相続人等(A・B)が特定贈与者(Y)から相続等により財産を取得している場合、承継相続人等は[1]特定贈与者から相続・遺贈により取得した財産に係る相続税額と、[2]相続時精算課税の贈与財産の価額を基に計算した死亡相続時精算課税適用者(甲)に係る相続税額の合計額を納付します。

 

 

(4)AとBの相続税額の計算

 

(2)と(3)の取扱いを踏まえて、AとBの納付すべき相続税額は次の通りに計算します。

 

①課税価格の計算

 

イ.Aの課税価格の計算 6,300万円(相続により取得した財産の価額)-300万円(債務・葬式費用の額)=6,000万円

 

ロ.Bの課税価格の計算 4,200万円(相続より取得した財産の価額)-200万円(債務・葬式費用の額)=4,000万円

 

ハ.相続時精算課税適用者甲の課税価格の計算 1億円(相続時精算課税に係る贈与財産の価額)

 

ニ.課税価格の合計額=イ+ロ+ハ=2億円

 

②基礎控除(相続人2人)4,200万円

 

③相続税の総額  (2億円-4,200万円)×1/2×30%-700万円=1,670万円。1,670万円×2=3,340万円

 

④按分割合

 

イ.A:6,000万円/2億円=0.3

 

ロ.B:4,000万円/2億円=0.2

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲:1億円/2億円=0.5

 

⑤算出相続税額

 

イ.Aの税額:3,340万円×0.3=1,002万円

 

ロ.Bの税額:3,340万円×0.2= 668万円

 

ハ.死亡相続時精算課税適用者甲の税額:3,340万円×0.5=1,670万円

 

 

⑥死亡相続時精算課税適用者甲からAとBが承継する納付すべき相続税額 1,670万円-1,500万円(相続時精算課税分の贈与税額控除額)=170万円
Aが承継する相続税額:170万円×1/2(法定相続分)=85万円(Bも同じ)

 

⑦納付すべき相続税額

 

A:⑤イ+⑥=1,087万円

 

B:⑤ロ+⑥= 753万円

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/30)より転載

[解説ニュース]

入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

 

 


1.はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」は、合法的な節税ができる制度として、よく知られた相続税の特例です。賃貸不動産等で節税する場合には、被相続人等の貸付事業用宅地等を相続して事業を継ぐなど所定の要件を満たした場合、それらの宅地のうち最大200㎡までについて50%の評価減ができます。

 

この特例に関し、最近、インターネット上に複数の入居者募集広告があったにもかかわらず、税務署から賃貸共同住宅の空室部分に見合う宅地について、上記特例の適用が除外され更正処分を受けた事例が出てきました。(国税不服審判所、令和 5年4月12日)。今回は、この事例を紹介します。

 

 

2.事案の概要及び相続人の主張


裁決書によると、Aさんは、被相続人から延床面積180㎡ほどの8室2階建ての賃貸共同住宅を敷地とともに相続しました。相続開始時点で入居者がいたのは3室で、残り5室(3室の空室期間は4年6か月以上、残り2室の空室期間は2か月から5か月)には入居者がいませんでした。Aさんは、被相続人からこの貸付事業を引き継ぎました。相続税の申告では、賃貸共同住宅の敷地全体を小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」に該当するとして申告した模様です。

 

これに対し、管轄税務署が上記特例適用を否認したことから、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)の判断を仰ぐことにしたものです。
Aさんは、おおよそ次のように考えました。
「相続の開始の時以降、請求人(Aさん)は各空室部分については、新たな入居者の募集を行っていないが、複数のインターネットサイトでは相続の開始の時以降も募集広告が出ているので、請求人が被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していた」

 

 

3.審判所の考え方


審判所は、この特例の取扱いである措置法通達69の4-24の2では、貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれるとされていることを指摘。

 

この「一時的に賃貸されていなかったと認められる場合」について審判所は「賃貸借契約が相続開始の時
に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相統開始の時に賃貸されていたのと同視し得るものでなければならない」として、問題の空室の敷地部分が一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうか、次の事実関係等をもとに、以下の4のように検討しました。

 

①被相続人と不動産業者との契約=平成20年5月21日、共同住宅に関して一般媒介契約を締結した。
なお、共同住宅に関して、(中略)不動産業者は本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。

 

②平成20年5月頃から申告書の提出期限に至るまで、複数の不動産業情報サイトに、問合せ先を同不動産業者として入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。なお、同不動産業者では、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。

 

③一般媒介契約を締結してから、申告期限に至るまでの間、同不動産業者は共同住宅に関して入居者を仲介した実績はなく、平成27年以降の共同住宅の空室の状況を把握していない。

 

 

4.一時的に賃貸されていなかったかどうか


審判所は、空室のうち3室は「相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていた」こと。もう2室についても「空室であった期間は長期にわたるものではない」が「一時的に賃貸されていなかったものとは認められない」と認定しました。
その理由は次のとおりです。

 

●不動産業者の仲介実績・空室把握は②③のとおり。

 

●不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いだったため、平成27年以降においては、被相続人が一般媒介契約及び広告を放置していたにすぎず、積極的に共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。

 

●空室期間が短い2室についても賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかない。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/16)より転載

[解説ニュース]

住宅取得等資金贈与に係る贈与税の非課税制度における取得要件と居住要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


1.住宅取得等資金の非課税制度の概要


その年の1月1日において一定の要件を満たす個人が、令和5年12月31日までの間に父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、受贈者ごとに、非課税限度額(新築等をした住宅用家屋が省エネ等住宅(注)の場合は 1,000万円、それ以外の住宅の場合は 500万円)までの金額について、贈与税が非課税となります(租税特別措置法(措法)70条の2第1項。以下、本税制を「非課税制度」という)。
(注)省エネ等住宅とは、省エネ等基準に適合する住宅用家屋であることにつき、一定の書類により証明されたものをいいます(措法70条の2第2項6号イ、措法施行令40条の4の2第8項)。

 

 

2.非課税制度における居住要件


非課税制度の適用を受けるためには、原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することが要件とされます。贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しない場合であっても、取得した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用ができます(措法70条の2第1項)。ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日(以下「居住期限」)までに受贈者の居住の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となります(同法第4項)。

 

 

3.非課税制度における取得要件


(1)概要

非課税制度の適用を受けるためには、贈与を受けた日の属する年の翌年3月15日(以下「取得期限」)までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築(新築に準ずる状態として一定のものを含む)もしくは取得をすることが要件とされます。

 

(2)請負契約により住宅用家屋を新築する場合

(1)の場合において、請負契約により住宅用家屋を新築するときは、取得期限において屋根を有し、土地に定着した建造物と認められる時以降の状態であれば、上記(1)の「新築に準ずる状態」とされ、完成した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれるときには、一定の書類の添付により非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第1項1号、措法施行規則23条の5の2第1項)。

 

(3)住宅用家屋を取得するときの取得要件

前記(1)の住宅用家屋の取得とは、売主から住宅用家屋の引渡しを受けたことをいいます。したがって、建売住宅や分譲マンションについては、売買契約が締結されている場合や、これらの建物が前記(2)に規定する新築に準ずる状態にある場合であっても、その引渡しを受けていない限り、住宅用家屋の取得には該当せず、非課税制度の適用を受けることができません(措法通達70の 2−8、70の3−8)。

 

4.災害等を受けた場合の居住・取得期限の延長等


(1)居住期限の1年延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、その贈与を受けた年の翌年3月15日後遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けたものの、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住することができなかったときには、居住期限が1年延長【贈与を受けた年の翌々年12月31日】されます(措法70条の2第10項)。

 

(2) 取得期限の延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅用家屋の新築等ができなかったときには、取得期限と居住期限が1年延長されます(措法70条の2第11項)。

 

(3)居住要件の免除

住宅取得等資金の贈与を受けて住宅用家屋の新築等をした人が、その贈与を受けた年の翌年3月15日後、遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けた場合において、その住宅用家屋が災害により滅失(通常の修繕では原状回復が困難な損壊を含む。)をしたため、居住することができなくなったときには、居住要件が免除され、非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第9項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/25)より転載

[解説ニュース]

勝手に(?)出された相続時精算課税の申告書が無効かどうかでトラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 

 


1.はじめに


相続時精算課税制度は、令和6年1月1日以後の贈与から110万円の基礎控除が使えるようになることから、現在注目されている制度です。今回はこの制度を利用した親子間での財産贈与で、起こりがちな事例を取り上げます。

2.相続時精算課税制度とは


相続時精算課税制度とは現行制度上、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、18歳以上の推定相続人である子や孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度です。税負担は贈与額2,500万円までは特別控除により事実上贈与税が課税されず、それを超える金額の贈与には20%の税率で課税されます。

 

その見返りとして、この組み合わせで直系尊属である父母等の相続が開始した場合には、相続税の計算上相続時精算課税制度でもらっていた財産を相続財産に加算し、相続税が算出される場合にはこの相続税から支払い済みの贈与税を引いて精算する仕組みです。この選択は、いったん行われると後で解消することができないのが特徴です。

 

ただ、この制度をめぐっては、税務上のトラブルが散見されるようです。裁決事例になっている事案でも、たとえば、財産をあげた被相続人が財産を受け取った子供らのために被相続人自ら勝手に(?)相続時精算課税制度の届出・申告をして、あとで相続人が相続税申告する際、相続財産に加算する贈与財産の計算で誤りが税務署から指摘されたケースがみられます(審判所、令和元年6月17日裁決、令和5年2月3日裁決)。ここでは、令和元年6月17日裁決を見てみることにします。

 

 

3.事案の概要


裁決書によると、この事案は平成27年に開始した相続の相続税申告に際し、相続人が平成18年から21年にかけて被相続人からもらっていた財産について、相続財産に加算すべきかどうかが問題になった事案です。税務署は、平成18年から21年にかけて被相続人から贈与された財産(現金・建物)につき、被相続人自身の手で相続時精算課税制度により申告していたため、相続時精算課税制度の適用で相続財産に加算すべきものとして更正しています。しかし、相続人は相続時精算制度の申告書は、被相続人が勝手に作成し税務署に提出したので、無効だと反発したものです。

 

 

4.審判所の判断


審判所は、まず、申告手続きについて「納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条《期限内申告》等)、納税義務者以外の者が、本人の承諾なく勝手に納税義務者の申告書を作成し提出した場合には、その納税申告は無効であると解される」と考え方の原則を提示。次に、審判所は納税義務者以外の者が申告書を作成し提出した場合であっても、有効になる場合として、「その者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合」と指摘しました。

 

事案のケースでは、被相続人が申告手続きしたことが明らかであることから、相続人が、被相続人に対し、「明示又は黙示に本件精算課税申告書による申告行為をする権限を与えていたといえるか否かについて」検討、次のような事実関係を指摘しています。

 

①相続人は、建物贈与に係る登記手続を被相続人に一任していたこと

 

②あとで被相続人が相続時精算課税申告を出し直すことになる暦年課税申告書を作成する際、農協などでの相談において、必要な書類の提示などの対応は被相続人が行っていたこと

 

③その暦年課税申告に係る納税資金は被相続人が負担していたこと

 

④相続人の印鑑は被相続人も使用することが可能な状況であったこと

 

⑤相続人が主体的に自己に係る申告手続等の必要な手続を行っていたということはうかがわれないこと

 

⑥後の相続時精算課税制度申告で相続人は贈与税に係る還付金等の振込を認識できたといえること

 

⑦被相続人が相続人口座から還付金等を出金したことにつき異議を述べたといった事実は認められないこと

こうしたことから審判所は一連の手続きに関し、相続人が「被相続人に対して包括的に委任していたとみるのが相当であるから、精算課税申告についても、明示又は黙示に当該申告行為をする権限を被相続人に与えていたといえる」と判断しています。

 

 

5.まとめ


上記のようなトラブルの原因は、被相続人と相続人の間での行き違いなのか、それとも別の理由があるのかは、本当のところはわかりません。

 

生前贈与による財産の承継は安全が第一だとすれば、将来発生する相続税でも不利にならないよう、被相続人と相続人が納得の上、税理士ら専門家を交えて手続きを行うことがトラブルを未然に防ぐことにもつながるのではないでしょうか?

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/11)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「事業承継税制の適用要件について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】特例経営承継期間中に事業が立ち行かなくなった場合の取扱い

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

 

 

 

 

 


[質問]

A社は甲が代表取締役を務めていましたが、後継者として予定している乙を共同代表取締役に就任させるつもりです。その後、特例承認計画を県に提出し経営承継円滑化法の確認を受け、期間を経て甲は代表取締役を辞任し、いわゆる平取締役となり、その後乙に株式を贈与する計画です。

 

このような経緯を経る予定なのですが、その他の要件を満たしていた場合、上記贈与について事業承継税制の適用は可能でしょうか。

 

 

 

[回答]

1 事業承継税制の贈与者の要件

事業承継税制(贈与税)の適用対象となる贈与者とは、以下のいずれにも該当する者をいいます(租税特別措置法施行令第40条の8第1項第一号、同施行令第40条の8の5第1項第一号)。

 

(1) 贈与の前に会社の代表権を有していたこと

(2) 贈与の直前において、贈与者及び贈与者の同族関係者等で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、受贈者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

(3) 贈与の時において、会社の代表権を有していないこと

 

 

2 事業承継税制の受贈者の要件

事業承継税制(贈与税)の適用対象となる受贈者とは、以下のいずれにも該当する者をいいます(租税特別措置法第70条の7第2項三号、同法第70条の7の5第2項六号)。

 

(1) 贈与の日において、18歳以上であること

(2) 贈与の時において、会社の代表権を有していること

(3) 贈与の時において、受贈者及び受贈者の同族関係者等で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、受贈者の同族関係者等の中で最も多くの議決権を保有することになること(受贈者が1人の場合)

(4) 贈与の日まで引き続き3年以上にわたり会社の役員の地位を有していること

 

 

3 照会事例について

ご照会の事例における代表権に関しては、贈与者(現経営者)甲は株式を贈与する前に代表権を有しており、株式の贈与時には代表権を有していませんので、贈与者の要件を満たすことになります。また、受贈者(後継者)乙は株式の贈与時には代表権を有していますので、受贈者の要件を満たすことになります。

 

また、役員の就任期間等に関しては、受贈者の要件の役員から代表取締役は除かれていませんので、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり代表取締役も含めて役員の地位を有していれば、受贈者の要件を満たすことになります。

 

したがって、ご照会の事例のような経緯を経るとする場合で、その他の事業承継税制の要件を満たしているときには、事業承継税制の適用は可能と考えられます。

 

なお、事業承継税制の代表権の判定は、法律上の名前で行うことから、代表権が移動した場合には、法務局の商業登記を変更する必要があります。また、共同代表に就任させる場合には、定款等において後継者の代表権に制限を加えないことに留意してください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2023年1月30日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川瀬 朋基/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

■貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

 

 


1.前払地代方式による一般定期借地権が設定された場合の借地権者・地主に係る所得税・法人税の取扱い


(1)定期借地権の設定時に受ける一時金の種類

一般定期借地権は借地借家法第22条で定められ、存続期間を50年以上とした借地権であれば、更新がないなどの一定の特約を付けることができ、その特約付の借地権を定期借地権として認めるとしています。定期借地権の設定時には、借地権者が個人地主に対し一時金として、借地期間終了後に地主に返還義務がある「保証金」や、返還義務のない「権利金」、「前払地代」のいずれかを支払う場合が多いようです。このうち前払地代の方式による場合は、定期借地権の設定時に、借地権者が地主に対して、借地に係る契約期間の地代の一部又は全部を一括して支払います。

 

(2)前払地代方式に係る税務上の取扱い

借地権者と個人地主が一定の定期借地権設定契約を締結した場合における所得税や法人税については、国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」で次の通りとされています。

 

①借地権者 前払地代を「前払費用」として資産に計上し、当該事業年度又は当該年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。

 

➁個人地主 前払地代を「前受収益」として負債に計上し、当該年分の賃料に相当する金額を収入金額に算入します。

 

(3)前払地代方式の適用を受けるための要件

前払地代方式を適用するには、借地権者と地主が次の内容を明示した定期借地権設定契約書により契約し、これを契約期間にわたって保管したうえで、取引の実態がその契約に沿うものである必要があります。

 

①授受する一時金が前払賃料であること

 

➁①の一時金が契約期間にわたって、又は契約期間のうち最初の一定の期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていること

 

③中途解約時に未経過分の前払賃料を借地権者に返還しなければならないこと

 

なお、中途解約時の違約金等の設定をする場合は、③の内容を逸脱することがないようする必要があります(国税庁文書回答事例「前払賃料について定めた定期借地権設定契約書の書式例」)。

 

2.前払地代方式により一般定期借地権が設定された場合の地主に係る相続税の取扱い


(1)一般定期借地権の目的となっている宅地の評価

一般定期借地権の目的となっている宅地(底地)の相続税評価額は、その宅地の自用地評価額から一般定期借地権の評価額を控除して計算します。この場合、借地権者と地主が親族関係であったり、会社とその同族株主の関係等であるときは、課税上弊害があるとされ、原則として一般定期借地権の評価額は次に算式により計算します(財産評価基本通達27-2ただし書、平10課評2-8、国税庁「タックスアンサー」No4612)。

 

<算式>一般定期借地権の目的となっている宅地の自用地評価額×(① ÷ ➁)×(③ ÷ ④)

 

①定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額

 

➁定期借地権等の設定時の宅地の通常の取引価額

 

③課税時期における定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

④定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

上記の計算において、前払地代の額は借地契約終了時にその未経過分が返還不要であることから、①の経済的利益の総額に含めます(国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて1(1)」。

 

(2)前払地代の未経過分相当額の取扱い

地主が前払地代を受領後に死亡した場合、その死亡時に前受収益として計上している地代の未経過相当額については、上記2(1)の通り前払地代の額が定期借地権の評価額に反映されることによって、定期借地権の目的となっている宅地の評価額が減額されることから、相続税の計算上、別の債務として控除することはできません(同文書回答事例1(2))。

 

3.個人地主における前払地代方式の留意点


個人地主が前払地代方式による一般定期借地権を設定した場合、所得税の計算上、1(3)の要件を満たす限り、受領した前払地代は期間(各年)に応じた収益計上ができますが、各年の地代の額が高額となるときは最高55%の税率により所得税や住民税等が課税されます。また、地主の死亡時における前払地代の未経過分相当額は、2(2)の通り相続税の債務控除の対象にならない点に注意が必要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/28)より転載

[解説ニュース]

道路と高低差のある雑種地の評価で土止め費用の控除が認められた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

 


1.はじめに


相続税評価をする土地がたとえば駐車場やテニスコート等、はたまた荒れ地であることがあります。この場合、相続税の評価の区分が雑種地と判定されるかどうかがポイントの1つになります。法令上では、雑種地とは、不動産登記事務取扱手続準則で定められた23の地目のうち、田、畑、宅地…公衆用道路、公園等22ある地目に該当しない23番目の区分の土地とされており、相続税の財産評価でも、不動産登記事務取扱手続準則に準じて雑種地かどうかを判定します。

 

雑種地の相続税評価は「原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する」(財産評価通達82)。どのようなロケーションにあるかが雑種地の相続税評価に影響し、場合によっては宅地並みに評価される場合があります。

 

今回は、市街化区域・市街化調整区域を定めていない都市計画区域で、用途地域が商業地域とされた外見上、雑草の生えた雑種地の相続税評価をめぐって争われた国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の裁決事例で、土止め費用の控除が認められた事例(令和4年9月5日)を見てみましょう。

 

 

2.事案の概要


問題になった土地の状況等は、次のとおりです。

 

 

相続人は、当初申告でその土地を約2,337万円と評価していました。しかし、令和2年にこの土地を不動産鑑定を行い、1,500万円となるとして「更正の請求」を行いましたが、税務当局に認められず、審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


審判所は、財産評価は特別の事情がない限り、財産評価基本通達の定める評価方法によって評価するのが相当としたうえで、都市計画の用途地域の指定がある地域にある雑種地の価額については、「その価額の形成要因が、当該雑種地を宅地として利用することを前提としたものであるから、その要因は近隣の宅地と変わりがなく、また、当該雑種地と宅地との比較においては、宅地造成費相当額だけの格差があるものと認められる」と評価の考え方を示しました。

 

具体的には「その雑種地が宅地であるとした場合の価額から、その雑種地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する金額として、整地等に要する費用の額がおおむね同一と認められる地城ごとに国税局長が定めた金額を控除する方式により評価することが相当(中略)宅地造成費とは、宅地との比較において格差があると認められる宅地造成費相当額、すなわち、その雑種地を宅地として利用可能な状態にするために必要とされる整地、土盛り、土止めに要する金額を指すものと解するのが相当である」としました。

 

 

あてはめでは、審判所は、北西側道路から平均で1.073m、南西側道路から平均で0.645m、隅切りから平均で1.065m高い位置にあることを認定し、「道路面よりも高い位置にある土地から各道路及び隅切りに向けて、土地上の土砂が流出していると認められる。これらのことからすれば、土地を宅地に転用する場合には、土砂の流出や崩壊を防止するため、本件土地と本件各道路及び本件隅切りとの境界に擁壁の構築が通常必要であると認められる」として、土止め費用の控除を認め、評価額を約1,823万円としました。

 

 

4.相続人の思惑


相続人は、問題の土地の基準容積率が360%で、地積が十分に大きいことから「地積規模の大きな宅地」並みの扱いとして、評価を下げたかったようです。400%の「指定容積率」という形式的要件で不適合となることは不合理と主張しましたが、認められませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/14)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:所得税の特定の事業用資産の買換え特例(3号)の見直し

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

 

 

 


1.特定の事業用資産の買換え特例(3号)の概要


所得税の特定の事業用資産の買換え特例は、個人が特定の地域内にある事業用資産を譲渡して、一定期間内に特定の資産を取得し、かつ1年以内に事業の用に供する等の所定の要件を満たした場合、譲渡益の一定割合(課税繰延割合)に相当する金額の課税が繰延べられるという税制です(租税特別措置法(措法)37条。法人税でも措法65条の7で同様の税制が設けられています)。この特例のうち利用されることが多いのが、措法37条1項3号の買換え(以下「3号買換え」)です。

 

この3号買換えでは、国内にある土地等、建物又は構築物で譲渡日を含む年の1月1日において所有期間が10年を超えるもの(譲渡資産)を譲渡し、国内のある一定の土地等、建物等又は構築物(買換資産)を取得した場合に、適用を受けることができます。

 

 

2.改正のポイント


令和5年度税制改正により、3号買換えにつき次の見直しが行われた上、適用期限が令和8年3月31日まで3年延長されました(改正法附則32条6項、7項)。

 

(1)課税繰延割合の変更

①概要

令和5年4月1日以後の譲渡より、東京都の特別区の区域から地域再生法の「集中地域」*以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が90%(改正前80%)に引き上げられ、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が60%(改正前70%)に引き下げられました(措法37条10項)。

 

*「集中地域」とは、東京都の特別区、武蔵野市、三鷹市、横浜市、川崎市、大阪市等の、法令が定める一定の地域をいいます(地域再生法 5条4項5号イ、同政令5条)。

 

②課税繰延割合の変更の趣旨

集中地域の外から内への買換えは、地域再生法における企業の地方拠点強化の促進と両立しないため、改正前から圧縮割合が原則の80%から70%に引き下げられていました。今回の改正では、集中地域の外から東京都の特別区への本店の移転を伴う買換えについて、さらに圧縮割合が60%に引き下げられました。一方、企業の地方拠点強化につながると考えられる東京都の特別区から集中地域の外への本店の移転を伴う買換えについては、圧縮割合が90%に引き上げられました(参考:財務省「令和5年度税制改正の解説」(以下「解説」)398頁)。

 

 

(2)届出要件の追加

①概要

令和6年4月1日以後、同一年に譲渡資産の譲渡と買換資産の取得をした場合には、譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日を含む「3月期間」の末日の翌日以後2ヶ月以内に、この特例の適用を受ける旨、及び取得見込資産又は譲渡見込資産の種類等を記載した届出書を税務署長に提出することが必要になります(措法37条1項)。

 

なお、この要件は、同一年内に譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得をした場合の特例の適用要件であるため、譲渡資産の譲渡の前年中に買換資産を先行取得する場合(措置法37条3項)や、譲渡資産の譲渡の翌年以降に買換資産を取得する見込みの場合(同条4項)等には、この届出は不要とされます。

 

②「3月期間」の意義

「3月期間」とは、1月1日~3月31日、4月1日~6月30日、7月1日~9月30日、10月1日~12月31日の各期間をいいます(措法施行令25条3項)。

 

③届出要件の追加の趣旨

3号買換えは、土地政策又は国土政策の観点から、特定地域からの追い出し促進や土地の有効利用促進等を目的に設けられた特例です。しかし、複数の土地等の売買取引を行う際に、申告時にその売買取引を並べた上で特例の要件に合致する譲渡資産と買換資産の組み合わせを事後的に作成し、適用を受ける事例が見受けられ、問題視されていました。今回3号買換えの適用期限を延長するに当たり、このような問題点を是正し、税制として適切に機能させるため、譲渡(又は取得)後一定期間内に本制度の適用及び適用を受ける買換え(譲渡資産と買換資産の組み合わせ)に関する事項の届出が、要件として追加されることになりました(参考:「解説」402頁)。

 

(注)法人税の3号買換えについても、上記2とほぼ同様の改正が行われます。ただし法人税の3号買換えの改正では、2(2)①の「同一年」が「同一事業年度」、②の「3月期間」の意義が「事業年度をその開始の日以後3ヶ月ごとに区分した各期間」となります(措法65条の7第1項)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/24)より転載

[解説ニュース]

マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■建物取壊費用を譲渡費用にする場合のポイントは?

■建物の取壊費用等が土地の取得費になるかどうかで争った事例

 

 


1.はじめに


住宅の住み替えを支援する税制である「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法36条の2、以下「マイホーム買換特例」という。)は、適用期限が令和5年12月31日までとされています(令和4年度税制改正)。同改正では、買換資産が、次のどちらかである場合、一定の省エネ基準(断熱等性能等級4以上および一次エネルギー消費量等級4以上)を満たす要件が追加されています。

 

ア.令和6年1月1日以後に建築確認を受ける住宅(登記簿上の建築日付が同年6月30日以前のものを除く。)

 

イ.建築確認を受けない住宅で登記簿上の建築日付が令和6年7月1日以降のもの

 

 

2.居住期間10年以上の要件等


このマイホーム買換特例は、保有期間が10年を超え、居住期間が10年以上の一定の要件を満たす居住用財産(マイホーム)を譲渡して、たとえば元のマイホームよりも高い金額の新たな住宅に買い換え、その他所定の要件を満たす場合、マイホームの譲渡益にかかる譲渡所得課税を先送りする特例です。

 

また、適用要件の1つである「居住期間10年以上」については、しばしば税務当局内でも注意喚起が行われているようです(東京国税局「資産税審理研修資料」令和3年8月)。たとえば、後で取得して自分の家になる借家に住んでいた期間も「居住期間10年以上」の判定の期間に入るのかどうかという点についてです。
この「居住期間10年以上」の判定の仕方については、措置法通達36の2-2で次のように整理されています。

 

措置法第36条の2第1項第1号に規定する「当該個人がその居住の用に供している家屋」の居住期間(当該個人がその居住の用に供している期間として措置法令第24条の2第6項に規定する期間をいう。以下36の2-22までにおいて同じ。)が10年以上であるものかどうかは、次により判定する。(平19課資3-5、課個2-15、課審6-9改正)

 

(1)当該個人が、譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間がある場合には、居住していなかった期間を除きその前後の居住していた期間を合計する。

 

(2)居住期間に該当するかどうかの判定については、31の3-2及び31の3-6に準じて取り扱う。

 

上記の取扱いでは、「譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間」と整理されていることから、その家が借家かどうかを問わないものとされています。借家の譲渡を受けた親から相続で取得した元借家の家を相続人が譲渡する場合、取得価額の引継ぎにより譲渡益は大きくなりがちだと思われます。
このような場合には、マイホーム買換特例の適用ができるなら、買換えに際しての税負担は少なくできることでしょう。

 

 

3.適用状況などについて


マイホーム買換特例について、譲渡益から3,000万円まで控除する「居住用財産の譲渡所得の特別控除(租税特別措置法35条)」との比較では、譲渡益の金額が3000万円よりも大きい場合にこの特例を利用すれば、目先の譲渡所得課税による税負担を効果的に先送りできるのがポイントです。

 

ただ、住宅譲渡対価の上限が1億円とされた平成26年以降は、適用件数も年間400件を超えることはなくなっています。ここ19年間のマイホーム買換特例の適用状況は次の通り(国税庁「資産税事務処理状況表」)。

 

 

 

 

令和4年度税制改正に向けた国土交通省の税制改正要望では「特に従前住宅の所有期間の長い高齢者層に譲渡益及びその課税負担が発生することが多い一方、これらの層は新しいローンを組みにくい。従前住宅の売却金等により新たな住宅を購入せざるを得ないこれらの層にとっては、売却時の課税負担が買換えの障害となるため、こうした障害を減少させることにより、ライフステージの変化に応じた円滑な住替えを支援することが必要である。」として、適用期限の延長を要望していました。

 

 

令和4年度税制改正ではそれが認められたわけですが、今年の年末で期限を迎えるマイホーム買換特例について、令和6年度税制改正では、どのようになるか注目されます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/10)より転載

[解説ニュース]

貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■持分の定めのない法人への預金移転で贈与税が問題になった事例

 

 


1.はじめに


賃貸共同住宅は相続税の財産評価では有利だという話はよく聞くところです。実際、賃貸共同住宅の敷地と建物の相続税評価は、国税庁の財産評価基本通達によると、次のような計算式で求めることとされています。

 

●貸家の敷地の相続税評価額=自用地の評価額-自用地の評価額×その地域の借地権割合×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達26)。

 

●貸家の評価額=その貸家の固定資産税評価額-同家屋の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達93)。

 

ただし、賃貸共同住宅の敷地・建物を複数の相続人で相続した後、その相続人に相続が開始した場合には、以前の相続の仕方や相続人が相続した後の借家人の入れ替わりなどの状況変化によっては、同じ賃貸共同住宅の敷地・家屋であっても、相続税評価の上で不利になる場合があります。敷地の相続税評価において、賃貸集合住宅の敷地となっているのに、貸家建付地としての減額が認められないケースもあるからです。

 

 

2.事例の概要


貸家建付地としての減額が認められなかった最近の事例(国税不服審判所裁決、令和4年9月20日)を紹介します。この事例は他にも争点がありますが、ここではおよそ260㎡の土地に建つ、戸数6戸の賃貸共同住宅の敷地の評価について争われたところをクローズアップします。

 

裁決書によると、相続税評価が問題となった土地は、被相続人(以下「亡母」という)の配偶者である父が昭和59年2月5日に建築した共同住宅の敷地として利用されていたものです。亡母の死亡に係る相続の前に発生した父の死亡による相続で、亡母はこの土地の100分の25の持分を取得し、長女がこの土地の100分の75の持分と共同住宅の所有権を取得していました。推測ですが、父からの相続では、賃貸共同住宅が満室だったら、亡母と長女が取得した敷地はその全体が貸家建付地と評価されていたのではないでしょうか?

 

今回の亡母の相続開始時点では、総戸数6戸のうち3戸が実際に貸し付けられていました。また、借家人と契約していたのは長女となっていました。なお、亡母は長女との間で母の土地の持ち分の賃貸借契約を締結しないまま、相続を迎えたということです。

 

亡母の長女を含む相続人らは、問題の敷地の相続税評価に関し、貸家建付地として評価し申告していましたが、税務署は、亡母と長女の間に地代の授受が認められないから、土地の利用は使用貸借であるとして減価せずに更正処分等をしました。こうして審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


国税不服審判所(以下「審判所」という)は、上記の財産評価基本通達の貸家建付地等の評価方法について「適正な時価を算定する方法として合理的なもの」と認めました。そのうえで、審判所は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の所有者は長女であり、(父からの相続後)共同住宅の賃貸人も長女であったことから、亡母は、共同住宅の借家人に対してその賃貸人としての義務を負う立場にはなく、

 

この土地が共同住宅の數地として利用されていることの結果としく受ける亡母の利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることからくるもの(中略)したがって、亡母と長女との間にこの土地に係る使用貸借の合意があったか否かにかかわらず、この土地の亡母の共有持分を評価するに当たり、この土地を貸家建付地として評価することはできない。」と判断しました。そして審判所は「亡母のこの土地の共有持分について、長女との間において賃貸借契約があったと認められないからこの土地は自用地として評価することとなる」としています。

 

なお、相続人は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の一部が賃貸に供され、その借家人が共同住宅を通じて、その敷地利用権を有しているところ、貸家の所有者が相続により変更になっても借家人の借家権及びその敷地利用権は侵害されないから、(中略)この土地は、貸家建付地として評価すべき」と主張していました。

 

これに対し審判所は「借家人は長女との間で賃貸借契約を締結しているのであるから、借家人が有するこの土地の利用権は、(中略)長女がこの土地に対して有する権限を前提にしたものにすぎない。そして、(中略)亡母が受ける利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることによるものといえるから、請求人らが主張する事情をもって、この土地を貸家建付地として評価すべきとはいえない」と相続人の主張を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/26)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:相続開始前に被相続人から暦年課税に係る贈与があった場合の相続税

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

■【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

 


1.暦年課税のあらまし


(1)贈与税の計算方法

 

暦年課税の贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与により取得した財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を控除します。その控除後の金額に超過累進税率をかけて税額を計算します(相続税法(相法)21条、21条の2、21条の7、租税特別措置法70条の2の4等)。

 

 

(2)相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産の相続税計算への加算

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人(被相続人の死亡による死亡保険金の取得等、相続又は遺贈により財産を取得したものとみなされる人も含む。)が、その被相続人から相続開始前 3 年以内に贈与を受けた財産がある場合は、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上、その贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)が加算され、加算された人の相続税の計算上、その贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除します(相法19条1項、3条1項等)。

 

 

2.相続開始前に贈与があった場合の相続税計算への加算期間等の見直し


(1)改正の趣旨

 

贈与税の暦年課税は、生前贈与による相続税の回避を防止する観点から、相続税に比べて取得した財産に対して適用する税率が高くなる構造となっています。例えば、相続する財産が4,000万円の場合、相続税の税率は20%ですが、その財産を1,000万円に4分割して子に贈与しても贈与税の税率は30%となり、相続税よりも高い税率が適用されます。

 

その一方で、相続財産が多いため多額の相続税がかかることが見込まれる人にとっては、相続税の税率よりも贈与税の税率の方が低いことから、財産を分割して贈与を繰り返す方法を採ることで、贈与税の計算上は、相続税よりも低い税率を適用することが可能です。例えば、相続する財産が6億円超の場合、相続税の税率は55%ですが、その財産を4,500万円以下に分割して贈与すると、贈与税の税率は相続税よりも低い税率(55%以下)が適用されます。

 

以上のような問題点を改善し、若年世代への財産の移転に関して生前贈与でも相続でも最終的な税負担を一定にする、「資産移転の時期の選択により中立的な税制」を構築することを目的として、次の(2)~(5)の改正が行われました。

 

 

(2)加算期間の延長

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合には、原則、その贈与により取得した財産(加算対象贈与財産)の価額(贈与時の価額)が、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上加算され、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除されます(改正後の相法19条1項)。

 

なお被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった人が被相続人から贈与を受けた財産の価額は、被相続人に係る相続税の課税価格には加算されないので、加算期間の延長の対象にはなりません。

 

 

(3)加算対象贈与財産の100万円控除

 

過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、加算対象贈与財産のうちその相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の合計額から100万円が控除されます(改正後の相法19条1項かっこ書)。例えば令和13年1月1日に相続が開始した場合、令和6年1月1日から9年12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額から100万円が控除されます。

 

 

(4)適用時期

 

(2)と(3)の改正は、原則、令和6年1月以後に受けた贈与より適用されます(令和5年改正法附則(以下「附則」)19条1項)。

 

 

(5)加算期間の延長の経過措置

 

(2)の延長には経過措置があり、令和9年1月以後に開始した相続より、改正前の3年から順次延長されます。令和9年1月1日から12年12月31日までに開始した相続については、令和6年1月から相続開始日までに受けた贈与財産の額が加算対象とされ、令和13年1月1日後に開始した相続から加算期間が7年となります(附則19条2項、3項)。

 

例えば令和8年7月1日に相続が開始した場合、令和5年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和10年1月1日に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和13年7月1日に相続が開始した場合には、令和6年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/12)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:贈与税の相続時精算課税の見直し

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

 


1.改正前の相続時精算課税のあらまし


相続時精算課税は、原則、60歳以上の父母又は祖父母(以下「特定贈与者」)から18歳以上の子又は孫(以下「相続時精算課税適用者」)が、財産の贈与を受けた場合に、一定の届出により適用を受けることができます。具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(最大2,500万円)を控除し、その残額に一律20%の税率をかけて贈与税を計算します(相続税法(相法)21条の9、12、13)。

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に相続時精算課税を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算し、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します(相法21条の14~16)。

 

 

2.令和5年度税制改正のあらまし


相続時精算課税の使い勝手を向上させ、生前にまとまった財産を次世代に移転しやすくする税制を構築することを目的に、次の改正が行われました。

 

(1)基礎控除制度の導入

 

相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により財産を取得した場合、その財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に課税価格から最大110万円の基礎控除が控除されます(相法21条の11の2第1項、租税特別措置法(措法)70の3の2第1項)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Aが特定贈与者の父から現金200万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、200万円-110万円(基礎控除)-90万円(特別控除)=0円となります。その後、令和7年にその父からAが現金2,600万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、{2,600万円-110万円(基礎控除)-(2,500万円-90万円)(特別控除)}×20%=16万円となります。

 

なお、相続時精算課税適用者が同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けているときは、特定贈与者ごとに、それぞれ贈与を受けた財産の価額に応じて基礎控除の110万円を按分計算します(相法21条の11の2第2項、相法施行令5条の2、措法70の3の2第2項、措法施行令(措令)40条の5の2)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Bが特定贈与者の父から400万円、特定贈与者の母から100万円の贈与を受けた場合、父から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×400万円÷(400万円+100万円)=88万円、母から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×100万円÷(400万円+100万円)=22万円となります。

 

(2)特定贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に、【相続時精算課税適用者が死亡した特定贈与者から取得した贈与財産の価額-(1)の基礎控除】が加算されます(改正後の相法21条の15第1項)。例えば、相続時精算課税適用者Cが特定贈与者の父から令和6年に現金200万円、令和7年に現金2,600万円の贈与を受けた後、父が令和8年に死亡した場合、(200万円-110万円)+(2,600万円-110万円)=2,580万円が父に係る相続税の計算に加算されます。

 

(3)適用時期

 

(1)と(2)の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます(改正法附則19条第1項)。

 

(4)贈与により取得した土地又は建物が災害により被害を受けた場合の特例

 

上記1の通り、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地や建物が、その取得後に災害により被害を受けたことにより、特定贈与者の死亡時の価額が贈与時点の価額よりも下落した場合であっても、特定贈与者に係る相続税の計算上は贈与時の価額を加算するのが原則です。これが今回の改正により、その贈与により取得した土地や建物につき災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続税の計算上、特例的に加算する贈与財産の価額の減額が認められることになりました。

 

具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により一定の土地又は建物を取得した場合において、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間に、災害によりその土地または建物が一定の被害を受けたときは、その災害が発生した日から3年を経過する日までに、所轄税務署長に一定の申請書を提出して承認を受けることにより、その特定贈与者に係る相続税の計算上、【その土地又は建物の贈与時の価額-その災害により被害を受けた部分に相当する額】を加算することになります(措法70条の3の3第1項、措令40条の5の3第5項)。この改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます(改正法附則51条第5項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/29)より転載

[解説ニュース]

親の土地を無権代理で売買、引渡し前に相続開始で税金紛争

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

 


1.はじめに


疾病により意思の確認が困難な親の持つ土地を、子が無権代理で売買契約した直後、相続が開始したため、税金トラブルになった事例が出てきました(国税不服審判所裁決、令和4年10月4日)。トラブルになったのは、親の土地が買主に引渡前で、いわゆる「売買契約中の相続」だったためです。

 

このケースで、売主側で開始した相続の場合には、相続財産として課税対象になるのは、土地そのものではなく、手付金を除いた残代金請求権という金銭債権になるとされます。残代金請求権となると土地の含み益が実現した形で相続税の課税が及びます。

 

このため相続人である子供は、売買契約を無権代理で行っていたことから、契約は無効だったとして、土地としての相続税評価額で相続税の申告をしましたが、税務署がそれを否認して争いになったものです。

 

2.事例の概要


裁決書によると、事実の経過は次のとおりです。

 

1.平成30年4月13日、相続人のうちの1人Aが、認知機能の低下した被相続人の保有する土地2万㎡弱を買主に売る契約を締結し、契約書の売主欄には被相続人の記名押印があった。

 

2.契約では、同年7月13日までに引き渡すことが約されたほか、手付金の交付が約され、契約日である4月13日に、手付金は被相続人口座に振り込まれた。

 

3.土地の引渡し前に被相続人が死亡し相続が開始。

 

4.同年6月29日、相続人AとBの2名は、買主との間で、土地の引渡し日を同年8月末日に変更する「不動産契約取引期日変更同意書」を取り交わした。相続人A・Bの署名押印がなされた。

 

5.同年6月30日、売買契約目的の土地等について相続人A・Bが取得することを決めた遺産分割協議を成立させた。同年8月15日、相続人A・Bは、売主との間で、売主の地位が被相続人から承継されていることなどについて「覚書」を交わした。同月31日、相続人A・Bは残代金を受領した。

 

この後、相続人らは、売買契約中の土地につき路線価評価で期限内に相続税申告。これに対し税務当局は令和3年9月に売買契約中の財産につき「残代金請求権」と認定し追徴しました。相続人はこれを不服として国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の判断を仰ぐことになったものです。

 

 

3.審判所の判断の概要


争点は「相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等であるか、売買残代金請求権であるか」。

 

民法では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じないとの規定(第113条第 1項)があります。この事案では売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないまま被相続人本人が死亡しています。そこで審判所は、被相続人の共同相続人による売買契約を追認又は拒絶する権利の行使について、次のように検討しました。

 

1.無権代理人が、被相続人本人の持つ無権代理行為を追認又は拒絶する権利について、他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認又は拒絶する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。共同相続人全員が共同して追認又は拒絶する権利を行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない。

 

2.相続人は全員で、売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないままに、遺産分割協議を成立させ、その結果として、無権代理をした相続人等は、土地等の所有権を相続により取得した。

 

3.「無権代理をした相続人ら」は、売買契約を追認又は拒絶する権利も土地等の所有権とともに、相続により取得したものとみるべき。

 

審判所は上記を踏まえ、被相続人の無権代理人として締結した売買契約について、被相続人死亡後、買主との間で交わした「売主の地位を被相続人から承継したとする」覚書で追認したものと認められ、民法第116条に規定するとおり、追認は別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずることとなるから、売買契約は、被相続人が亡くなる前の無権代理で契約のあった日に遡って有効であったと認定しました。

 

結論として審判所は「相続の開始の時において、売買契約の履行が、相当程度確実になっていたものと認められることから、相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等ではなく、売買残代金請求権であると認めるのが相当である」と判断し、税務当局の追徴を支持しました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/15)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「税理士法人の出資持分の評価」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した法人の役員退職金

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 

 

 


[質問]

<前提条件>

①  弊社:税理士法人(決算8月)

② A社員税理士は令和4年8月31日に退職したため、A社員税理士の出資持分の全部をB社員税理士へ贈与した。(贈与日:令和4年9月1日)

③ 定款には「当法人の社員は、その持分の全部又は一部を他人に譲渡するには他の総社員の承諾を得なければならない」旨の規定があるが、承諾済みである。

④ 弊社の会社規模は「小会社」

⑤ 弊社の出資持分の評価については以下のように認識している。

・税理士法人は持分会社であり、その社員税理士は無限責任社員である。

・その無限責任社員の退社時の出資の評価については、持分承継の規定があるかどうかによって変わる。

・持分承継の規定がある場合は「取引相場のない株式」の相続税評価に準じる。

・持分承継の規定がない場合は払戻請求権になるので、純資産価額(法人税等相当額を控除しない)での評価。

 

<質問>

以上のような認識のもと、今回の持分贈与は持分承継の規定があるため、通常の取引相場のない株式評価となり、「小会社」として類似業種比準価額が50%使えると考えてよろしいでしょうか。

 

 

 

 

[回答]

1 税理士法人とは

税理士法人は、社員を税理士に限定した、商法上の合名会社に準ずる特別法人です。合名会社とは、出資者が「出資持分」という形で財産権を保有する持分会社の一種であり、株式会社のように株式を発行することはできません。

 

税理士法人の「出資持分」は、「社員は、他の社員の全員の承諾があれば、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる」などの定めを定款におけば、他者に譲渡することができます(税理士法48条の21第1項、会社法585条)。ただし、税理士法人の社員は税理士でなければならないとされているため(税理士法48条の4第1項)、税理士法人の「出資持分」は個人税理士に対してのみ譲渡することができます。

 

 

2 持分会社の退社時の出資の評価

合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称します。)の社員は、死亡によって退社するとされていることから(会社法第607条第1項)、原則として「出資持分」は、出資として相続人に引き継がれません。

 

したがって、その持分について払戻しを受ける場合には、会社法第611条第2項に「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」と規定されていることから、持分の払戻請求権として評価します。その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額になります。

 

ただし、「出資持分」の相続について定款に別段の定めがあり、その持分を承継する場合には、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(国税庁ホームページ/法令等/質疑応答事例/財産評価「持分会社の退社時の出資の評価」参照)。

 

なお、税理士法人の社員が死亡した場合には、たとえ社員の相続人が税理士であっても、社員の資格を相続することはできず、単に死亡した社員の持分払戻請求権等を相続することになります。これは、持分の相続に関する定款の定めについて規定した会社法608条《相続及び合併の場合の特則》が税理士法では準用されていないため、「出資持分」を相続により承継することができないからです(税理士法48条の21第1項)。

 

 

3 質問事例における出資持分の評価方法

譲渡は他人に財産を「譲る」ことであり、譲渡には無償譲渡と有償譲渡があります。そして、有償譲渡は対価を伴うもので、無償譲渡は対価を伴わないものであり、無償譲渡は贈与と同じ意味になります。

 

したがって、ご質問事例が記載されている前提条件である場合には、贈与により承継された「出資持分」は、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じてその価額を評価します(財産評価基本通達194)。すなわち、評価する税理士法人の会社規模が「小会社」に当たる場合は、類似業種比準価額と純資産価額との併用により評価することができます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年12月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


【業界別M&A動向】

IT業界のM&A動向と事例について

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(佐々木 翼)

 

 

〈目次〉

1.IT業界のM&A動向 ~ IT業界はその他業界と比べて、M&Aが活発に起きている業界 ~

2.IT業界のカテゴリ

3.カテゴリ別のM&A動向と事例

①インターネット・WEB業界のM&A動向と事例

②通信インフラ業界のM&A動向と事例

③ソフトウェア業界のM&A動向と事例

④ハードウェア業界のM&A動向と事例

⑤情報処理サービス(SI)業界のM&A動向と事例

4. 最後に

 

 

 

 

1.IT業界のM&A動向 ~ IT業界はその他業界と比べて、M&Aが活発に起きている業界 ~


M&A件数推移

※レコフデータより弊社作成

 

 

2011年~2021年の期間中、国内M&A件数の中でソフトウェア・情報業界のM&Aの件数が最多く、2021年度は全体の約35%を占めています。(図①)

また、IT業界では他の業界と比較し、譲渡時のオーナーの年齢が若いことが特徴として挙げられます。日本M&Aセンターの調査によるとIT企業のオーナーは他の業界のオーナーと比較して譲渡時の年齢が10歳若いというデータがあります。(図②)

 

 

成約時の譲渡オーナーの年齢

(出典)日本M&Aセンター2021年 IT業界のM&A 回顧と展望より弊社作成

 

 

40代以下のオーナーが1/3を占めており、事業承継の為にM&Aを検討するオーナーがいる一方で、
会社を売却しEXITを目指す若い起業家が多い業界でもあると想定されます。

また、同業同士でのM&Aも活発ですが、不動産×ITの様に他業種がIT企業を求めているケースもあります。

 

 

2.IT業界のカテゴリ


IT業界と一括りにしても、IT業界には様々なカテゴリがあります。IT業界を大きく分けると5つのカテゴリに分けることができます。

●インターネット・WEB業界
仕事内容:Webサービスの開発、インターネット広告等
代表企業:Google、Yahoo!、楽天等

 

●通信インフラ業界
仕事内容:ネット環境の整備、保守、運用等
代表企業:NTTドコモ、ソフトバンク、KDDI等

 

●ソフトウェア業界
仕事内容:ソフトウェア開発、プログラミング等
代表企業:Microsoft、サイボウズ、日本オラクル等

 

●ハードウェア業界
仕事内容:セールスマーケティング、商品デザイン等
代表企業:日立、SONY、Panasonic等

 

●情報処理サービス(SI)業界
仕事内容:システム設計、開発、ITコンサル、AIエンジニアリング等
代表企業:日本総研、野村総研、富士通等

 

 

3.カテゴリ別のM&A動向と事例


①インターネット・WEB業界のM&A動向と事例

インターネットWEB業界のM&Aは広告代理店と密接に関わっています。

 

従来の広告代理店はテレビ、ラジオ等のマスメディアを中心に事業を展開していました。

しかしながら、スマートフォンの普及により、インターネットの需要が急速に拡大。それに伴いインターネット広告の需要が増えてきました。(図③)
ITの技術は現在も進んでおり、新たな技術や広告手法を得る為にM&Aが活用されています。

 

 

インターネット広告市場の推移

(出典)矢野経済研究所より弊社作成

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:フィードフォース
譲渡企業:アナグラム<買収目的>
フィードフォースはインターネット広告市場が着実に成長する一方で、通信環境やテクノロジーの発展に伴い広告形式が多様化し、専門的な知見がより一層必要になっていました。そこでアナグラムより経営統合の打診があり、両社が蓄積してきた専門的な知見を活かし、既存サービスだけでなくテクノロジーを活用したサービスラインの拡充を図ることを目的としてM&Aを実行しました。両社はフィードフォースのデータフィード広告とアナグラムのリスティング広告などそれぞれの得意領域でのノウハウを通じてインターネット広告事業の拡大を図ります。

 

 

②通信インフラ業界のM&A動向と事例

 

通信インフラ業界では新規参入を行う為のM&Aや、事業拡大のためのM&Aを目的として行われる傾向があります。
業者数は年々大幅に増加しているのがわかります。(図④)

 

 

図④通信業界の事業社数推移

(出典)情報通信白書より弊社作成

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:ケイ・テクノス
譲渡企業:西日本電話工事<買収目的>
ケイ・テクノスは、通信インフラ事業を事業の核とし、土木・電気、環境施設工事等多数の事業を展開しています。一方で、西日本電話工事は電気通信工事事業において豊富な施工実績があり、施工技術と保守を高い技術力でワンストップのサービス対応をするなど、通信 インフラ構築技術とノウハウを有しています。今回の株式取得を通して、ケイ・テクノスと西日本電話工事の高い施工技術力を掛け合わせて、人材やノウハウの共有とリソースの最適化を図り、両社の事業を拡大することを目的とし、M&Aを実行しました。

 

③ソフトウェア業界のM&A動向と事例

 

ICT、Iot化が加速する中、企業のソフトウェア投資に対する考え方は年々上昇傾向にあります。
それに伴って、ソフトウェア開発業界では、買収、資本提携等により新しい技術や機能を補完し業容を拡大するケースが増えてきています。

 

 

令和2年度 ICTの経済分析に関する調査

(出典)総務省「令和2年度 ICTの経済分析に関する調査」より

 

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:PKSHA Technology
譲渡企業:アシリレラ<買収目的>
PKSHA Technologyは自社で開発した機械学習領域のアルゴリズムを活用したアルゴリズムソリューション事業を展開する企業です。
アシリレラはRPA事業を通して情報技術を活用した業務自動化を実現し、顧客のビジネスをサポートしています。PKSHA Technologyはユーザー基盤を持ったプロダクトを保有するアシリレラをグループに入れて自社が持つアルゴリズム・ソフトウェアと強いシナジーを見込めると判断しM&Aを実行しました。

 

④ハードウェア業界のM&A動向と事例

 

ハードウェア業界ではソフトウェアの会社が経営基盤の構築を目的としてハードウェアの会社を買収する事例が多々見受けられます。
また、大手企業を中心とした買収が進んでいます。

 

IT技術やIotの技術が発展するに伴い、今後新たな需要が生まれることが期待されており、それに伴いM&Aも行われることが予測されます。

 

■直近事例2022年
譲り受け企業:SONY
譲渡企業:バンジー<買収目的>
バンジーは世界有数の独立系ゲーム会社でSONYとは長年取引のあるパートナーでした。この買収を通してSONYはバンジーが保有するライブゲームサービスへのアプローチと技術専門性へのアクセスが可能になり、SONYが抱える数十億人のプレイヤーに繋がるというビジョンへ近づき、SONYのエンタメ事業と技術を掛け合わせ事業の拡大を図ります。

 

 

⑤情報処理サービス(SI)業界のM&A動向と事例

 

SI業界でM&Aが行われる原因は大きく分けて2点あります。

 

1点目は技術者の不足です。
IT業界では人材不足が課題としてあり、SI業界でも技術者の不足が露呈しています。

 

2点目は業界構造にあります。

SI業界は多重下請け構造になっており、中小企業が多いことが特徴にあります。
最下層にいる企業は交渉力が弱く、自力での成長が厳しい企業がM&Aを検討しています。

 

IT業界の課題についてはコラム「IT業界の現状と課題について」をご覧ください。

 

■直近事例2021年
譲り受け企業:サンロフト
譲渡企業:S’PLANT<買収目的>
サンロフトは水産関連会社の販売・仕入・在庫管理を中心としたシステム開発業務を展開しています。S’PLANTは水産業・製造業向けに販売、生産管理システムの受託開発を展開しています。両社は経営統合を通してシステム開発事業の専門性と品質向上を図り、地方中小企業のサポートと事業の拡大を図ります。

 

 

4. 最後に


IT企業のM&Aは活況を呈しています。
需要が拡大するIT業界はこれからもM&Aが更に活発化することが予測されます。
IT企業のM&Aには専門知識が必要となる為、専門業者に相談することをおすすめします。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

法人が土地と建物を一括取得した場合の法人税・消費税における適正な取得価額の区分

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

■【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

 

 

 


1.法人税の取扱い


(1)基本的な考え方

法人税法では、購入した減価償却資産の取得価額は、「購入の代価」に、引取運賃や手数料等の購入のために要した費用及び事業の用に供するために直接要した費用を加えて計算します(法人税法施行令54条1項1号。非減価償却資産の土地についても会計基準や法人税法の通達に従い同様に計算します)。

 

この場合の「購入の代価」とは、原則として実際の取引で合意・成立した価額であり、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額(これを「客観的交換価値」といい、土地の公示価格が代表例です。)を反映した水準であるはずです。ただ、実際には売り急ぎ等の個別事情や当事者の主観的評価により価格が決められるので、必ずしも客観的交換価値と一致しません。

 

その場合でも通常取引の結果である限りは、客観的交換価値を求めてそれに引き直し、その差額は寄附金に当たるという認定は行われません(ただし、どうみても不当に高額な部分がある場合には、法人税法22条2項、3項、高額取得の場合は法人税基本通達7-3-1により、その部分につき寄附金とされます)。

 

上記の考え方より、契約書で土地及び建物の譲渡譲渡対価が区分(契約書の「内、消費税額○○円」等の記載から建物の取得価額が逆算できる場合も含みます。)されていない場合や、区分されていても合理的ではない揚合には、税務上の問題が生じます。

 

例えば、土地について路線価を基礎に公示価格に引き直したものを算定し、全体の譲渡価額からその算定額を控除した残額を建物の取得価額とする方法は、一見良いように思えますが、全体の価額が客観的交換価値とはいえない中で、土地の価額だけを客観的交換価値とすると、建物の価額に主観的な要素の影響が全て寄せ集められる結果となり、区分の方法としては無条件によいとはいえません。

 

(2)法人税法上、妥当とされる区分方法

①固定資産税評価額の割合による区分

 

法人税の課税の現揚や裁判例などで比較的多く採用されている区分は、一定の方法により算出した土地と建物の価額の割合によって、売買価額の総額を土地と建物に按分する方法です。その割合の基になる価額として固定資産税評価額は、同一の公的機関が同一時期に時価を反映した合理的かつ統一的な評価基準で評価した価額であり、その入手の容易性等から一定の優位性が認められます。

 

②鑑定価額の割合による区分

 

①の固定資産税評価額は見直しが3年ごとであるため、取引時点とのズレが気になるケースもあり得ます。そのような場合、費用はかかりますが、土地と建物につき不動産鑑定士による鑑定を行い、その鑑定価額(これも「客観的交換価値」です。)の割合で按分することが、基準の同一性・時価の反映等の点で問題が生じない区分方法といえます。

 

 

2.消費税の取扱い


建物の譲渡は課税資産の譲渡等に当たり消費税の課税対象取引ですが、土地の譲渡は課税資産の譲渡等に当たらず消費税は非課税です(消費税法6条)。事業者が建物(課税資産)と土地(非課税資産)とを同一の者に対し一括売却した場合、これらの資産の譲渡の対価の額(消費税及び地方消費税を含まない額)が、課税資産の譲渡の対価の額と非課税資産の譲渡の対価の額に合理的に区分されていないときは、課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は次の算式で計算されます(消費税法施行令45条3項)。

 

(算式)課税資産及び非課税資産の譲渡の対価の額×[資産の譲渡の時における課税資産の価額÷資産の譲渡の時における課税資産の価額と非課税資産の価額との合計額]

 

消費税法施行令45条3項は、課税資産の対価の額が過少である場合又は過大である場合のいずれにも適用される強行規定であり、同項により区分され直したときは、売主の消費税・地方消費税額も変わります。この場合、買主においてもそれに合わせて仕入税額控除(消費税法30条)の再計算が必要になると思われます。

 

これについて法令に直接的な規定はありませんが、消費税法が前段階での税額の控除をする仕組みとなっており、仕入税額控除の控除税額の基礎となる、78/110を掛ける「課税仕入れに係る支払対価の額」の意義について、消費税法30条6項のかっこ書が「課されるべき消費税額等を含む」と規定されていることから、そのような処理が予定されているものと解されます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/4/24)より転載

[解説ニュース]

建物敷地以外の駐車場が貸家建付地として認められる場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

■リストラで借換えた賃貸不動産の借入金の利子が必要経費になる範囲

 

 


1.はじめに


貸家建付地とは、貸家の敷地の用に供されている宅地のことです。その相続税評価は、この土地の自用地としての価額に借地権割合と借家権割合と賃貸割合を乗じて求めた価額を、この土地の自用地としての価額から控除した価額です。

ところで貸家の敷地以外の駐車場スペースが貸家建付地になるかどうかは、相続税に影響が出ます。1筆の土地に建つ賃貸住宅と貸家の居住者専用の駐車スペースなら、その土地全体で貸家建付地と認められますが、駐車スペースが第三者に貸し付けられていると、話が変わってきます。

 

また、同じ事業者に事業用建物の敷地と駐車スペースとして貸し付けた一団の土地でも、契約の仕方によっては、部分的にしか貸家建付地と認められないこともあります。裁決事例からポイントを考えてみます。

 

 

2.認められた事例


最初に認められた事案です。この事案の契約は被相続人が借地人との間で昭和59年2月に、倉庫を建てる目的で約100坪の土地を貸し付ける土地賃貸借契約でした。賃貸借されたのは次のような土地です。

 

 

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相続開始時点の現況は、⑴上記土地の東側部分には、倉庫建物(昭61年新築。床面積69.42㎡)が建っており、借地人は、倉庫を漬物の原料及び製造機械の保管に使用。⑵土地の西側部分及び隣地は、その地面に、ロープによって車両18台分の駐車位置が示されるとともに、コンクリート製ブロックの輪止めが設置されており、借地人が一体として月ぎめ駐車場として利用。上記土地には、倉庫の敷地部分と駐車場として利用されている部分の境界を示すものはありませんでした。もっとも倉庫近くの土地は、倉庫建物へ積荷を搬入する車両の駐車場所や転回場所等としても利用していたということです。

 

ただし、土地賃貸借契約は相続開始時点で法定更新されましたが、借地人による一部借地の月ぎめ駐車場への利用変更に関しては契約の変更等は行われていませんでした。相続人は、貸家建付地として評価し相続税申告をしていました。
税務署は、倉庫敷地以外の駐車場部分(214.30㎡)は自用地として評価減なしで評価すべきだとして相続税の更正処分等をしました。賃貸借契約があったとしても「土地に建物の所有という目的が及ぶ範囲とは、おのずと限度があるものであって、建物の所有に通常必要な範囲でなければならない」と考えたためでした。

 

しかし国税不服審判所は、次のことを指摘して、土地全体を貸宅地として借地権価額を控除する評価にすべきと認めました(平成26年7月8日裁決)。ポイントとなった理由は、土地の西側部分は倉庫への積荷の搬入等に通常必要な土地であると認められ、そうすると、倉庫を所有するためには、土地全体が通常必要な範囲であるということでした。

 

 

3.認められなかった事例


次の事例は、被相続人が三角形に近い形の約1500㎡の一団の角地をレンタカー事業者に貸し付けていた事例です。賃貸借契約の内訳は、「現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用すること」を条件とする約1300㎡の駐車場として一時使用する賃貸借契約と、残りの土地約200㎡を店舗用に係る一時使用の賃貸借契約でした。相続人は土地全体を一体として貸家建付地として評価し相続税申告をしていました。

 

ところが税務署は建物の敷地部分以外の部分は賃借権の目的となっている雑種地として評価すべきとして更正処分等を行ったことから、争いとなったものです(平成24年10月10日裁決)。

 

国税不服審判所は、「駐車場としての現況有姿のまま、貸自動車業務のみの目的として使用することのために被相続人が本件法人に貸し付けたものであるところ、賃借権の登記がされた事実はなく、また、賃借権の設定の対価としての権利金その他の一時金の授受もなく、堅固な構築物の所有を目的とするものでもないことから、評価基本通達86《貸し付けられている雑種地の評価》(1)ロに定める貸し付けられている雑種地として評価するのが相当」と判断、その部分には「貸家の敷地の用に供されている宅地」部分がないとして貸家建付地評価を認めませんでした。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/4/10)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】被相続人が法人への土地の賃貸借に際し無償返還の届出書を提出していた場合の相続税評価

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


【問】

(株)Aの代表取締役の甲が令和5年1月に死亡しました。甲の相続財産中に、その発行済株式の全部を所有していた(株)Aの株式と、生前に甲と(株)Aとの間で締結した土地の賃貸借契約により、(株)Aに借地権が設定された土地Bがあります。甲は、賃貸借契約により(株)Aから毎年土地Bの固定資産税・都市計画税の年額の3倍相当の地代を受けていました。

 

また賃貸借契約に際して、借地人である(株)Aが将来土地Bを無償で地主の甲に返還する旨を記載した「無償返還の届出書」を、(株)Aと甲の連名で甲の所轄税務署長に提出しています。土地Bと(株)Aの株式の全部については、甲の長男で(株)A次期社長の乙が相続の予定です。

 

上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、土地Bと(株)Aの株式の評価はどのようになりますか。

【回答】

1.結論


土地Bは自用地評価額から借地権の価額として自用地評価額の20%相当額を控除した残額(=自用地評価額×80%)相当額で評価されます。

(株)Aの株式の評価額の計算上、(株)Aの株式の純資産価額に土地Bの自用地評価額の20%相当額が借地権の価額として算入されます。

2.解説


(1)土地の賃貸借に際し権利金を支払わずに無償返還の届出書を提出した場合の、その土地の相続税評価

 

土地の貸借において、貸主である地主が受取る地代の水準が、その土地の公租公課(主に固定資産税等)相当額を超える場合には賃貸借契約とされ、借地借家法上、借地人に借地権が生じます。

 

土地の貸借に際し権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、借地人である法人と地主との間で権利金の収受が行われず、法人税法施行令137条の「相当の地代」(注)も収受しない場合には、法人税法上、原則として地主から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人において贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法22条2項)。

 

(注)「相当の地代」とは、権利金の額の収受がない場合に、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格又は相続税評価額も選択できます。)に年6%の地代水準を乗じた額をいいます(法人税基本通達(法基通)13-1-2)。

 

本問の場合、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準であり、これは通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。ただし、法人が土地の賃貸借契約により土地を借受ける場合で、権利金を支払わず、かつ支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、賃貸借契約書において法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ地主と法人の連名で無償返還の届出書を地主の所轄税務署長に提出したときには、法人税上はその借地権の経済的価値がないものとして取扱われます(法基通13-1-14(1))。

 

無償返還の届出書が提出されている場合、相続税評価上も借地権の価額は0とされます(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い(昭60課資2-58、直評9)」5)。しかし、本問のような同族関係者間の取引であっても賃貸借契約が締結され実際に使用されているときは、土地について借地借家法による借地人に対する強い保護と賃貸借契約に基づく利用の制約があります。このため賃貸借契約により借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その土地の相続税評価額は自用地評価額の80%相当額で評価されます。(同8)。

(2)(株)Aの株式の相続税評価における、土地Bに設定された借地権の相続税評価

 

賃貸借契約に基づき借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その借地権の価額は上記通達5項により0とされます。 ただし、本問のように被相続人(甲)が同族関係者である同族会社((株)A)に対し土地を貸付けている場合には、土地の評価額が地主個人と借地人の同族会社を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることから、同族会社の株式の評価上、その

 

土地の自用地評価額の20%相当額が純資産価額に借地権の価額として算入されます(前掲通達8後段、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30)」)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/3/28)より転載