[氏家洋輔先生が解説する!M&Aの基本ポイント]

第1回:「M&Aの概要」「M&Aの流れと専門家の役割」を理解する

~M&Aとは?M&Aの流れと専門家の役割とは?~

 

〈目次〉

1、M&Aとは?

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?

① 売手企業と買手企業のマッチング

② IM(Information Memorandum)の作成

③ 売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーショ

④ 株式譲渡契約の締結

3、まとめ

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士 氏家洋輔

 

 

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1、M&Aとは?


M&A(Mergers and Acquisitions)にはいくつかの種類がありますが、大きくは「会社の全部を譲渡する方法」と「会社の一部だけを譲渡する方法」の2つの方法に分けることができます。

 

前者の会社の全部を譲渡するスキームには「株式譲渡」「株式交換・株式移転」「合併」があり、後者の会社の一部を譲渡するスキームには「会社分割」「事業譲渡」があります。

 

それぞれのスキームには特徴があり、M&Aの目的や事業遂行上の問題、それぞれの企業の置かれている状況等により最適なスキームは異なってくるため、スキームの検討は専門家を交えて慎重に行う必要があります。

 

最も一般的なスキームである株式譲渡のイメージを下記に示します。

 

 

 

 

 

株式譲渡の場合、一般的には買手企業の方が規模が大きいことが多いため、上図では売手企業よりも買手企業を大きく描いています。

 

買手企業が売手企業の株主へ現金等を支払い、売手企業の株主から売手企業の株式全てを取得します。その結果、売手企業は買手企業の100%子会社となり、売手企業の株主は現金等の対価を手にすることになります。

 

2、M&Aの流れと専門家の役割とは?


①売手企業と買手企業のマッチング

一般的にM&AはFA(フィナンシャルアドバイザー)と呼ばれる専門家が関与します。

 

FAは、M&Aのマッチングからクロージングまで、売手企業又は買手企業(場合によっては双方)に対して、進め方のサポートや価格や条件面での交渉のアドバイス等を行う役割を担います。FAは様々な企業が行っており、M&Aの仲介会社はもとより、証券会社、投資銀行、銀行、コンサルティング会社、弁護士、公認会計士等が行います。

 

 

 

 

上図は、売手企業と買手企業の双方にFAがついている場合のイメージ図です。昨今では、投資先を探している企業が多く、売手企業に比べ買手企業が多いため、上図でも買手企業を3社としています。

 

FA(買手側)は買手企業A、買手企業B、買手企業Cとそれぞれアドバイザリー契約を結んでいて(結んでいない場合もあります)、FA(売手側)は売手企業の株主とアドバイザリー契約を結んでいることが一般的です。価格等を含む様々な条件により、買手企業と売手企業がマッチングしたら、基本合意契約を結びます。

 

 

②IM(Information Memorandum)の作成

売手企業と買手企業をマッチングさせ、プロセスをスムーズに進めるためにはIM(Information Memorandum)が必要になります。

 

売手企業がIMを作成することで、IMがない場合と比べて、買手企業は売手企業のことを短期間で深く理解することが可能となります。このIMの作成をサポートするのが、FAまたは財務等の専門家です。

 

財務等の専門家は、売手企業とアドバイザリー契約を結び、IMの作成支援を行います。財務等の専門家はIMの作成のみにとどまらず、売手企業の事業計画の策定支援や、株価上昇等のアドバイスを実施することもあります。

 

 

 

 

 

③売手企業に対するデューデリジェンス、バリュエーション

基本合意書を結んだ後、買手企業は売手企業を ①買うか買わないか、②買う場合、いくらで買うのか、③金額以外の条件はどうするか、④買収後の統合に向けた情報の整理等を検討します。

 

これらの検討は専門スキルが必要となるため、公認会計士、税理士および弁護士等が外部アドバイザーとして調査することが一般的です。

 

 

 

 

 

 

買手企業の財務等の専門家は買手企業と財務等アドバイザリー契約を結び、売手企業のデューデリジェンス、バリュエーション等を実施します。

 

買手企業の場合、M&Aが初めての会社もあれば毎月のようにM&Aを実施する会社もありますが、売手企業にとっては、財務デューデリジェンスの対象会社となることは、初めてのケースが多いです。

 

財務デューデリジェンスは専門的な調査を短期間で行うことが多く、売手企業にとっては大きな負担となります。そこで、売手企業の財務等の専門家がデューデリジェンスのサポートを行うことで、売手企業の負担を軽減することが可能となります。

 

さらに、M&Aの専門家である財務等の専門家がサポートを行うことで、買手企業の財務等の専門家とのコミュニケーションが円滑化され、買手売手双方にとってストレスを軽減し、スムーズにデューデリジェンスを完了することが可能となります。

 

 

④株式譲渡契約の締結

デューデリジェンスとバリュエーションの結果を受けて、買手企業と売手企業は最終の条件交渉を行い、双方合意すれば株式譲渡契約を締結します。

 

法務の専門家は契約書の作成や法律面でのアドバイスを、財務の専門家は金額等の財務面にかかる契約条件等のアドバイスを行います。

 

 

3、まとめ


以上のように、M&AではFAや財務の専門家、法律の専門家等様々な専門家が関与して多面的なサポートを行います。

 

特に中小零細企業では、M&A自体初めてのことも多く、たとえ案件規模がそれほど大きくなかった場合であっても、専門家の幅広いサポートが必要となることが多いです。また一定規模以上の会社では、専門家が社内にいる場合もありますが、M&Aをより成功に導くために、多くの社外専門家と上手く連携しM&Aをすすめてくことが重要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務]

第1回:実行段階におけるM&A 支援業務の相互関連性

~デューデリジェンス・スキーム策定・バリュエーションの関連性~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 宮口徹

 


Q、税理士が行うM&A 支援業務の相互の関連性を教えてください。

 

A、DD により検出されたリスク要因をスキームの工夫によって遮断・軽減できる場合があります。また、リスク要因はバリュエーションにマイナスの影響を及ぼしますが、これもスキームの工夫で軽減させることが可能な場合があるなど各業務は密接に関連しています

 

 

 

 

 

図表はM&A の実行段階における支援業務の全体像と関連性を示したものです。DD、バリュエーション及びスキーム策定は独立したものではなく相互に関連していることを理解することが重要です。

 

 

まず、DD ですが、図に列挙したとおり、各種観点から対象会社をM&A で取得する際のリスク要因を洗い出す手続きとなります。税理士や会計士が行う財務・税務DD は必須の手続きと言えます。

 

 

弁護士が行う法務DD も大多数の案件で行われますが、図表 のDD の欄内の④以降のDD については必要に応じて行われます。めっき工場の売買で土地の環境汚染が心配であれば専門家に依頼し環境DD を行いますし、多様な形態で人員を雇用し、未払残業代や名ばかり管理職など労働法規上の問題が懸念されるのであれば社会保険労務士に依頼して人事面の調査を行うといった感じです。こうしたDD を行う場合、案件全体をコントロールする税理士としては常にリスクを定量化する思考を持つことが大切です。金額に換算できるリスクであれば売買金額の調整などでクリアできるためです。

 

 

次にスキーム策定ですが、DD において検出されたリスクについてスキームを工夫することで遮断したり軽減したりできることがあります。株式取得では対象会社の潜在リスクが全て引き継がれますが、スキームを事業譲渡に切り替えることによりリスクを遮断するといった対応が可能です。また、スキームを工夫することで税金コストの削減が可能になるのであれば、利益やキャッシュフローが増加しますので株価評価にもプラスの影響が生じます。

 

 

最後にバリュエーション(価値算定)ですが、DD においてリスクが検出された場合、当然に評価額に対してマイナスの影響を与えます。中小企業のM&A では仲介会社方式と呼ばれる方法が一般的です。

 

 

以上、M&A の実行段階における支援業務の相互関連について説明しました。

 

 

 

(「税理士のための中小企業M&Aコンサルティング実務」より)

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第2回:売却したいけれどどうしたらいい?  -会社を売却すると決めたら-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第1回:何のためのM&A? ーM&Aの目的を考えるー

▷第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

 


それでは、会社を売却したいと思った場合は、どうすればいいでしょうか?

 

売却したいというからには、この場合は売り手の立場でのお話となります。

 

会社を売却したいと考える場合は、前章でも述べた通り、会社を将来に向けて継続させることを前提に、株式を売却して経営を他の人に任せる、ということを目指します。その場合、まずは株式を買ってくれて、会社を自身に変わって経営してくれる人を探すことになります。

 

 

では、そのような人をどうやって探せばよいのでしょうか?

 

よくあるケースとしては、懇意にしている取引先に相談して、その取引先に資金力や経営能力等があれば、その取引先に買ってもらう、ということが考えられます。また、日頃から経営相談をしている税理士の先生や取引銀行に相談して、買い手候補を探してもらう、ということもよくあるケースです。

 

最近では、M&A専門の仲介会社がたくさん出てきていますので、インターネットなどでそういった仲介会社を探して、そこに相談して買い手候補を探してもらう、ということも多くなっています。

 

 

このように、買い手候補を探す場合は、自身で探すには限界があることから、誰かしらに相談して買い手候補を探していく、ということが現実的な方法になっています。

 

 

その場合に、留意すべき点は、会社を売却したいと思って買い手候補先を探しているということを、可能な限り秘密にして動くということです。

 

会社を売却しようとしていることが、例えば従業員や取引先の耳に入ってしまうと、従業員が不安になって会社を辞めたり、また、取引先がいらぬ勘繰りをして取引を絞り込んだりする可能性がないとは言えません。そういう事態を招かないためにも、買い手候補を探す段階においては、社内の信頼できるごく一部の人間にだけ相談して秘密裏に進める慎重さが必要となります。

 

会社を売却すると決めたら、まずは信頼できる人に相談して、買い手候補を探しましょう。そのためにも、普段からM&Aに関する情報収集や、信頼できる・相談できる相手を作っておく、という準備は行っておくべきだと思います。

 

 

 

 

 

 

また、会社の経営管理体制をしっかりと整備しておくことも、会社を売却する際の買い手からの評価にはプラスとなり、より売り易くなることから、日頃から意識しておくべきと考えます。

 

特に、会計処理の適正化や、契約書等の法的書類の整備、労務管理のあたりは、いざM&Aを実行する際にここができていないと、後々追加的な負担が生じるため買い手からの評価を下げることになり、M&Aを進める上で大きなボトルネックとなったりしますので、日頃から意識して整備しておくことをお薦めします。

 

 

次章では、買い手探しの際のポイントについて解説したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[伊藤俊一先生が伝授する!税理士のための中小企業M&Aの実践スキームのポイント]

①最終契約書(表明保証条項等)に係る租税法上のアドバイス

 

〈解説〉

税理士  伊藤俊一

 


[関連解説]

■M&A関連費用の取扱い

■一部株式譲渡スキームの危険性とその対応策

 

 

 

最終契約書における表明保証条項のドラフティングは通常、弁護士が行います。しかし、全ての弁護士が租税法を詳細まで理解しているとは考えにくいため、以下の事項につき税理士の視点から租税法上のアドバイスをする必要性が生じます。

 

ただし、現在、中小零細企業のM&Aは売手市場であり、下記のような買主が有利な契約は現実的に合意に至りにくいこと、通常は売主側(の代理人弁護士、FA等)が先に最終契約書のドラフティングを行うこと、また、株式譲渡契約等における租税補償条項を設けることは我が国では未だ一般的ではないこと[注1]等諸事情から、下記ではあくまでも買主における最終契約書の理想像を述べています[注2]。

 

なお、本稿の対象読者層を想定して、理論的見解や参照裁判例等は極力注釈に記載し、本文中は、筆者の実務家としての現場での所感を示していることをご理解ください。

 

①補償金の税務上の取扱い

クロージング後、売主に表明保証違反があった場合、買主は損失につき補償条項に係る損害賠償請求をします[注3]。売主は損害賠償請求に係る金額を支払い、買主は当該補償金を受け取ります。売主の支払額は法人税基本通達2-2-16により支払事業年度の損金の額に算入されます[注4]。一方で、補償金を受け取った買主の受取額には、以下の2つの考え方があると言われています[注5]。

 

 

(イ)買主が損害賠償金を受け取ったとする考え方

・・・この考え方に立つと、法人税法第22条第2項、法人税基本通達2-1-43により、当該支払いを受けるべきことが確定した日(又は実際に支払いを受けた日)の属する事業年度において益金に算入されることとなります[注6]。

 

(ロ)買主に当初譲渡代金が(一部)返還されたとする考え方

・・・当初譲渡代金が返還されただけなので課税関係は生じないこととなります。

 

 

この点、平成18年9月8日裁決[注7]において、株式譲渡契約書に補償金の支払は譲渡代金の減額である旨を明記していた結果、益金に算入されないと判断された事例があります。この裁決以降、実務では表明保証条項に補償金の支払は減額である旨を明記する事例が増加しています(ただし、これはあくまで裁決であり判例ではないため、当該裁決をもって補償金の返還が譲渡代金の減額と判断する拠り所とはなり得ません[注8])。

 

買主における予防策として考えられることは、最終契約書(表明保証条項等)に「補償金は譲渡代金の減額」である旨を明記しておくこと、また、上記(イ)の考え方により、仮に当該補償金に益金課税された場合においては、「当該課税相当額も買主における損失」と考え、最終契約書(表明保証条項等)にその旨を明記しておくことです。

 

なお、売主においては、補償金が損金算入された結果、課税所得が圧縮され法人税額等が減少することになりますが、「当該法人税額等減少額を損失から控除する」と最終契約書(表明保証条項等)に明記した方がよいでしょう。

 

 

①~④において共通ですが、表明保証には「存続」という概念があり[注9]、実務では当該条項も当然付しますので、存続が終われば補償請求等の対象にはなり得ませんので留意してください。

 

 

②繰越欠損金の減少は買主の損失に該当するか

対象会社においてクロージング日時点、繰越欠損金を有していたとします。クロージング日後、対象会社に税務調査が入り、結果、修正申告対象になったとします。その場合、対象会社の繰越欠損金は修正申告における課税所得増加相当額だけ減少します。

 

 

この場合、

 

(イ)繰越欠損金>課税所得増加相当額

・・・会社からのキャッシュアウトは生じない。

 

(ロ)繰越欠損金<課税所得増加相当額

・・・会社からのキャッシュアウトが生じる。

 

となります。

 

 

最終契約書(表明保証条項等)において、買主における損失の定義が曖昧のままでは、上記(ロ)のように買主において、「キャッシュアウトが生じて初めて損失」とも捉えることも可能となります。損失の定義が売主と買主間で齟齬が生じる(典型的な)場面となりますから、最終契約書(表明保証条項等)で上記(イ)、(ロ)のどちらを指しているか予め明示しておく必要があります。買主では、上記(イ)が有利となります。

 

なお、税務調査は定期的にありうるものから、調査状況によっては、将来的には上記(ロ)になり得ますが、上述の通り、存続が終われば補償請求等の対象にはなり得ません。

 

 

③源泉徴収不納付又は過少納付は買主の損失に該当するか

対象会社においてクロージング日以降、源泉徴収不納付又は過少納付が発覚したとします。この場合、源泉徴収不納付額又は過少納付額は徴収者(クロージング日後は買主)が受給者(対象会社において源泉徴収不納付額又は過少納付額が生じていた者)に対し求償できる(所法222)ため、買主の損失にあたらないと考えます。ただし、不納付加算税及び延滞税(国通法67、60①五)などの附帯税は求償権の範囲にあたらないため[注10]、買主の損失にあたると考えます。

 

附帯税はもちろん、実務上極めて稀なケースと想定されますが、受給者の資力喪失等により、求償権が行使できない可能性もあるため、源泉徴収不納付額又は過少納付額についても、最終契約書(表明保証条項等)に損失であることを明記しておくべきです。

 

①~③に共通して、売主が連結納税制度(本稿脱稿時点、令和2年度税制改正によりグループ通算制度に改正予定)を採用している場合、別の手当が必要となりますが、中小零細企業においては非常に稀なケースと想定されますので、本稿での解説は割愛します。

 

 

④第2次納税義務は表明保証条項で担保されない

 


中小零細企業M&Aにおいては、いわゆる不動産M&Aに限定されると考えられますが、会社分割後に株式譲渡を実行する場合もあります[注11]。当該株式譲渡におけるクロージング日時点においては分割承継会社に第2次納税義務は生じません。第2次納税義務は国税徴収法基本通達32条関係1等による各種要件を満たした後に初めて生じるものであり、クロージング日「時点」の潜在債務が存在しないという表明保証条項では担保できません[注12]。表明保証条項は予測に関して一切担保できないものとされます。

 

 

 

 

以上、主に買主視点にたった表明保証条項の租税法に係る留意点を列挙しました。しかし、現実的には、中小零細企業において表明保証条項(及び補償条項)は極めて実効力に乏しいため、各種デュー・デリジェンスで発覚する懸念事項のインパクトが大きいと想定される場合は、譲渡代金減額、分割払い(アーンアウトまたはクローバックという意味ではなく、文字通りの意味において、ただし税務上の取扱いに留意が必要です)、エスクロー(信託課税の問題があるため留意が必要です。中小零細企業M&Aにおける利用は皆無と想定されます)で対応するべきです。また、筆者は契約中止(破談)がベストと考えます。

 

 

 

 

 


【注釈】

[注1] 一般的でない、という見解は、藤原総一郎=大久保涼=宿利有紀子=笠原康弘=大久保圭「M&Aの契約実務」P201(中央経済社 第2版 2018)を参照しています。この点、森・濱田松本法律事務所=MHM税理士事務所 (編)「設例で学ぶオーナー系企業の事業承継・M&Aにおける法務と税務」(商事法務2018)P448~449において、「表明保証違反に基づく補償履行請求権が私法上どのような性質を有すると考えるべきであるかについて、統一的な見解は現時点では存在しない」とあり、租税補償の取扱いについて法曹でも見解が分かれていることが、未だ一般的でない原因と考えます。

[注2] 上掲注1「設例で学ぶオーナー系企業の事業承継・M&Aにおける法務と税務」P445~P450、森・濱田松本法律事務所(編)「税務・法務を統合したM&A戦略」P22~P28、P95~P97(中央経済社 第2版 2015)を参照しています。

[注3] 補償については上限額を設定するのが通常です。

[注4] この点につき、佐藤友一郎 (編)「法人税基本通達逐条解説」P292 (税務研究会出版局 九訂版 2019)において「法人税の所得計算における損益の認識は、ひとり民事上の契約関係その他の法的基準のみに依拠するものではなく、むしろ経済的観測に重点を置いて当期で発生した損益の測定を行うことになるのである。このような考え方からすれば、契約解除等に伴う損失を当期の損失として処理することはむしろ当然」とあります。

[注5] 上掲注2「税務・法務を統合したM&A戦略」P25を参照しています。

[注6] 最判昭和43年10月17日判決(集民第92号607頁)、東高平成21年2月18日判決参照のこと。

[注7] 裁決事例集72号325頁(国税不服審判所ホームページ  http://www.kfs.go.jp/service/JP/72/19/index.html)参照のこと。

[注8] この点、上掲注1「設例で学ぶオーナー系企業の事業承継・M&Aにおける法務と税務」P449において「法基通7-3-17の2が固定資産について同様の処理を是認していることが参考になる」との見解もあります。

[注9] この点、上掲注1「M&Aの契約実務」P170~P171において存続について「「本契約に基づく表明及び保証は、クロージング日以降3年の間に限って存続する」という規定は「クロージング以降3年間に限り表明保証違反に基づく補償請求等が可能であることを意味している」とあります。

[注10] 最判昭和45年12月24日判決(民集第24巻13号2243頁)参照のこと。

[注11] 平成20年10月1日裁決(裁決事例集76号573頁 国税不服審判所ホームページ http://www.kfs.go.jp/service/JP/76/33/index.html)参照のこと。

[注12] この点につき、第2次納税義務については、別途、特別な条項が必要なことについて、小山浩「企業実務上留意すべき重要租税判決の解説」P318以下(租税研究764号(2013))を参照のこと。また、特別補償を設けることも実務では考えられますが、上掲注1「M&Aの契約実務」P279~P280において「税務の取扱い(・・・筆者中略・・・)などの法令の解釈や事実認定が分かれ得るような論点については、特別補償の規定を定めること自体が対象会社による違法行為を認めるような外見になりかねない」との見解もあり、現実的に設定は困難と考えられます。

 

 

 

 

 

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第1回:何のためのM&A? ーM&Aの目的を考えるー

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第2回:売却したいけれどどうしたらいい?  -会社を売却すると決めたら-

▷第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

 


近年、主に国内のオーナー会社の後継者不足の問題が論じられており、様々な対策や議論がなされていることはご周知のとおりです。その有力な解決策の一つとして、M&Aを活用することが実務の現場では大変多くなっています。

 

それでは、M&Aとは何をすることでしょうか?

 

M&Aとは、端的に言うと、企業を売ったり買ったり、統合したりすることです。

 

 

では、M&Aは何のためにされるのでしょうか?

 

M&Aの目的を考えるとき、企業を売る側の立場(売り手)に立って考えるのか、買う側の立場(買い手)になって考えるのか、によって考え方や見え方が大きく異なります。M&Aについて議論や検討をする場合は、売り手なのか買い手なのかについて、常に意識しておく必要があります。読者の皆さんには、是非覚えておいて頂ければと思います。

 

 

M&Aを行う目的について、売り手の立場と買い手の立場に分けて考えてみたいと思います。

 

会社を売る立場の人はどういった人たちでしょうか?

 

売り手は会社の株主(オーナー)であり、会社のオーナー兼経営者や、会社の経営には関与していないが株式を持っている人が主な売り手になります。その人たちが会社を売る場合の目的は、前述したように株式や経営を引き継いでくれる後継者が見つからず仕方なく、といったケースも多いですが、株式を売却してまとまった資金を得て(これをExitといったりします)新しい事業を立ち上げたり、他にやりたいことをやるためにM&Aをするというようなケースもあります。

 

どちらにしても、対象となる会社自体は閉鎖や清算をせずに事業を継続していくことが前提となります。売る側の立場からM&Aを選択する場合は、究極的には会社や事業を将来に向けて継続させたままで、オーナーや経営者が交代するということが目的となります。

 

一方で、買う側の立場ではM&Aの目的はどういったものがあるでしょうか?

 

買った会社を自分で経営して利益を上げたい、あるいは自社の事業と協業させてより大きく成長させたい、というところが主な目的になると思います。その場合も、会社を引き継ぎ、事業を継続させていくことが前提となります。

 

 

このように、M&Aの売り手と買い手に共通する究極の目的は、会社を閉鎖や清算したり、倒産させたりせずに、従業員や取引先などの利害関係者が存在する状態を維持したまま会社を継続させることなのです。そのために、色々な選択肢がある中で、売り手はM&Aを選択し、買い手は会社を引き継ぎ、事業を継続していくのです。

 

前述した後継者不足の問題は、裏を返すと、会社を引き継ぐ人が誰もいない場合は、会社を清算して事業を止める、ということになります。その場合、従業員や取引先はもちろん、今まで事業を運営してきた中で培われた技術であったりノウハウであったり色々な価値のあるものが承継されずに消滅してしまうことになります。

 

そういった会社に存在する様々な目に見えない資産や従業員や取引先を将来にわたって活用していくために、経営を承継して事業を運営できる方に会社を引き継ぐ、ということがM&Aの目的となります。

 

売り手は、会社を譲り渡す相手先として買い手が適切かどうか見定めつつ、より多くの売却代金を受け取りたいと考えます。一方、買い手は譲り受ける会社の実態をきちんと把握して、自らが期待するM&Aの目的を達成できるか見極めたい、そしてできれば買収対価は安く抑えたい、と考えます。

 

M&Aは、会社を存続させたまま引き継ぐという目的のために、このような売り手と買い手の利害の調整を図り、相互の合意を模索しながら進められていきます。

 

 

 

 

 

次章以降では、M&Aを実際に検討していく場合の考え方について解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

M&Aの相談先 ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑧~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。今回は、「M&Aの相談先」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士・本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにより会社や事業の売却を行う場合の、課題や検討すべき事項は多岐にわたり、また専門的な知識が必要となる局面が多数あります。そのため、迅速にM&Aを進めるためには、状況に応じて適切な相談先を選定することが重要となります。

 

ここでは、M&Aの主要な相談先である会計事務所とM&A仲介会社について、具体的なケースで一般的にどちらが適していると考えられるか、それぞれの特徴と主な依頼可能業務をご紹介いたします。

 

 

会計事務所に相談するケース

会計事務所は、顧問契約等により既に関係があるケースが多いことから、経営者にとって気軽に相談できる相手先と言えるでしょう。

 

M&Aにおける会計事務所の特徴は、会計や税務の専門知識を有していることから、財務・税務デューデリジェンスやタックスプランニングを得意とする場合が多いと言えます。他方、M&A仲介会社と比較するとM&Aマーケットでのネットワークはさほど持っていないことが一般的です。

 

そのため、比較的規模が小さい案件(事業価値1億円未満)や、すでに買い手候補がある場合、また、税理士経由でのみ利用可能な日本税理士協会連合会の運営するマッチングサイト「担い手探しナビ」を利用したい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

会計事務所に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニング等が挙げられます。

 

 

M&A仲介会社に相談するケース

M&Aに際しては、M&A仲介会社を利用するのは一般的な方法です。

 

M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短時間のうちに相手先を探してもらうことができ、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション、売買契約までフルパッケージでしっかりと支援してもらえる場合が多いと言えます。他方で、専門家をフルに活用するのでそれなりの費用がかかることが一般的です。

 

そのため、比較的規模が大きい案件(事業価値1億円以上)や広く買い手を探す場合、仲介や価格交渉等の専門業務を任せたい場合の相談先として適切と言えるでしょう。

 

M&A仲介会社に依頼可能な主な業務は、初期相談、バリエーション、仲介、交渉、契約等、M&Aに係る全般的な事項を依頼することが可能です。

 

 

 

会計事務所に相談した方が良いケース

上記表の通り、M&A仲介会社へ相談すればM&Aに係る業務をフルパッケージでサポートしてもらうことが可能なため、大規模な案件ではM&A仲介会社が介入することが一般的です。これに対し、会計事務所では、M&Aに係る業務の中で、バリエーション、デューデリジェンス、スキーム構築、タックスプランニングを得意としており、M&A仲介会社で行われるこれらの業務も会計士や税理士等の専門家が行っているケースが大半です。

 

そのため、これらの業務をメインに依頼したい場合には、会計事務所へ相談した方がコストを抑えることが可能なケースもあります。

 

特に、スキームやタックスプランニング次第で、M&Aに係る税務コストが大きく変動するため、小規模なM&A案件であってもこれらの検討は行うべきと言えるでしょう。

 

例えば、退職金支給スキームでは、譲渡代金の一部を税率の低い退職金として受け取ることで、総額の手取り額を増加させることができる可能性があります。また、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件の「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったことから、譲渡事業の含み益課税を受けずにM&Aを実施するスキームを構築することも可能となりました。(詳細は「M&Aにおけるタックスプランニング ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~」をご参照ください。)

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

M&Aにおけるタックスプランニング  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑦~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「M&Aにおけるタックスプランニング」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aにおいてタックスプランニングは重要です。というのも、キャッシュアウトに占める税金の負担が大きいためです。今回は、売り手と買い手、それぞれの事例を見ていきたいと思います。

 

売り手側


売り手側で残したい事業や資産がある場合、あるいは、会社全体では黒字事業と赤字事業があって、赤字事業は買いたくないという買い手側の希望がある場合など、実務ではいろんなケースがあります。

 

以上のようなケース、すなわち会社丸ごとでないM&Aの手続選択肢としては「対象事業そのものを譲渡する方法」「会社分割して分割した会社の株式を譲渡する方法」があります。買い手の希望があるので、売り手側の意向だけで決められるものではありませんが、節税の意識を持って対応することも重要です。

 

 

(1)事業譲渡で含み益事業を譲渡するケース

会社で営んでいる含み益事業をM&Aで譲渡する場合、含み益が実現した事業譲渡益に対して法人税が課税されます。もちろん、法人税の計算上は他の営業損益があれば合算されますし、青色欠損金があれば控除できます。

 

 

 

この場合のタックスプランニングとしては、経営陣(オーナー)や従業員の今までの功労に報いるために、事業譲渡益を財源として「退職金を支給する方法」が考えられます。

 

従業員は譲渡先との間で再雇用される機会があったとしても、経営陣は事業譲渡によって退職し将来の生活の糧を失うことが多いため、特に経営陣に対して退職金を支給し譲渡益課税される所得を圧縮した方がメリットになります。

 

また、もう一つのメリットとして、事業譲渡代金は会社に帰属するため譲渡代金を株主個人に帰属させるには法人税課税後に、配当所得課税され、都合2回の課税(法人と個人)によって個人株主が受取る対価が大きく目減りするのに対し、退職金の場合は退職所得として優遇税制が利用できるので、個人が受け取る対価は増加します。

 

 

 

(2)事業を分割し、分割会社の株式を譲渡するケース

一部の事業を譲渡し、一部の事業(資産)を残したい場合、譲渡対象外の事業を会社分割により簿価で切り出してから譲渡する方法が、平成29年度税制改正で可能となりました。

 

すなわち、平成29年度税制改正により、会社分割を行った場合の支配関係継続要件が、改正前の「支配株主と分割法人及び分割承継法人との間の関係継続」から「支配株主と分割承継法人との関係継続」のみに改正され「支配株主と分割法人との関係継続」が不要となったものです。

 

その結果、以下の例のように、含み益を有するB事業(残したい事業)を会社分割によってB社(分割承継会社)として切り離し、M&A対象のA事業を持つA社(分割会社)株式を譲渡するスキームが可能となりました。

 

改正前はB社分割時に税制非適格となりB社事業の時価譲渡となったものが、改正後は税制適格となり簿価譲渡(含み益は未実現のまま)が認められることになったものです。

 

譲渡しない事業や譲渡対象外の資産に含み益がある場合には、簿価のままの分割が可能になったので、例えば、不動産賃貸業は残したい(不動産に含み益有り)という希望がある場合には、検討すべきスキームです。

 

 

 

買い手側


事業の買い方としては、株式売買または事業譲渡の方法がありますが、それぞれの会計処理は相違します。

 

株式売買の場合は、投資有価証券となり、投資有価証券の取得価額は、購入対価に加えて購入手数料や購入に要した費用を加算した額とされているので、少額費用を除き取得価額になります。

 

他方の事業譲渡の場合は、取得した事業を土地、建物、たな卸資産など資産の区分ごとに細分化した上で簿価でなく時価額をもって受入の会計処理を行い、時価純資産額を超える購入価額の部分(下記図の15)は資産調整勘定(のれん)とし、5年間で損金に算入します。

 

 

株式売買の場合には、支出した対価が取得時に損金になることはありませんが、事業譲渡の場合は時価純資産額を超える部分は資産調整勘定(のれん)として5年間の損金になるので、損金の額を得たい場合には事業譲渡の方にメリットがあります。

 

 

 

 

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

税制改正と補助金の動向(M&A・事業承継の加速)~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


ここ数年M&Aが一気に進み、当事務所のお客さんや知り合いなど事業承継とM&Aがかなり進んできました。

 

当事務所でも昨年、事業承継のプランニングを5社、M&Aのデューデリジェンスを5社(うち4社買収)、従業員へのM&Aを1社 今年に入っても事業承継プランの作成や、M&Aのスポットのアドバイザー業務を2件、デューデリも打診がかなり来ています。

 

 

今年の税制改正では、さらに第3者承継のM&Aに関する税制措置が置かれます。

 

・後継者難での廃業・解散が増加傾向
・そのうちの半数が黒字
・このままでは日本の産業基盤の衰退になる

 

ということで第3者承継M&Aへの減税措置が検討されています。

 

また、試験研究費減税でのオープンイノベーション型の拡充やエンジェル税制の拡充など
ベンチャーや新規事業開発への大幅な減税措置が検討されています。

 

 

それ以外には連結納税制度の簡素化が議論されていますが、こちらはまだ紆余曲折がありそうで令和2年に間に合うかどうかでしょうか?

 

 

補助金等の動向については ベンチャー・事業承継・IT導入補助金・AI/IT支援などが置かれています。

 

 

・新たな価値を生むプレーヤー・市場の創出【120億(75億)】
J-Startup企業を中心としたスタートアップへの支援、リスクマネー供給や後進の育成

 

・第四次産業革命を進める人材育成【48億(11億)】
STEAM学習コンテンツの開発やEdTech推進を通じ、新しい学びの環境づくりを推進。
企業へのAI/IT導入を進められる人材を育成。

 

・個社の成長の徹底支援【531億(325億)+JETRO交付金271億(250億)の内数】
第三者承継、第二創業・ベンチャー型事業承継、経営資源引継ぎ型の創業への支援重点化 、事業承継時の経営者保証解除に向けた支援を強化。

 

・ 「もの補助」「自治体型持続化補助金」「IT導入補助金」による中小企業の生産性向上。

 

・クラウドファンディングなどの民間の新たな販路の活用も推進。
よろず支援拠点や商工会等による経営相談の実施や、専門家派遣知財戦略構築を支援。

 

・地域の稼ぐ力強化【235億(192億)】
地域中核企業と地域未来牽引企業等への研究開発や販路開拓の支援を充実。

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2019/10/15号)」より一部修正のうえ掲載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

株式譲渡と営業譲渡 ~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


ここ数年M&Aが一気に進み、当社のお客さんや知り合いなど
事業承継とM&Aがかなり進んできました。

 

当社でも昨年、事業承継のプランニングを5社、M&Aのデューデリジェンスを
5社(うち4社買収)、従業員へのM&Aを1社 今年に入っても
事業承継プランの作成や、M&Aのスポットのアドバイザー業務を2件、
デューデリも以前打診がかなり来ています。

 

その中で小規模案件も増加しつつあり、株式譲渡が必ずしも
しっくりこない案件も見受けられるようになっています。

 

そこで、今回は、事業譲渡手法のメリットとデメリット」
お伝えしようと思います。

 

 

[メリット]
・一部の事業や資産のみを切り出しやすい。
・株式譲渡と異なり包括的な権利義務の移転ではないので簿外債務・訴訟リスクなどを引き継ぐリスクが低い。
・資産負債の差額はのれんとして5年償却可能。

 

[デメリット]
・個別に資産負債を移動するため、許認可などは取り直しになるケースが多い。
・資産の移転(売却)を伴うため不動産取得税・登録免許税・消費税など移転コストが高い。
・譲渡益は法人税・所得税の課税となり 株式譲渡より高くなる。

 

 

特に中小企業の場合には、「簿外債務」訴訟リスク」など見えない債務を
引き継がなくていい点が大きな魅力です。

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2019/08/14号)」より一部修正のうえ掲載

[初級者のための入門解説]

デューデリジェンス(DD)とは?  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑥~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、「デューデリジェンス(DD)」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aの場面でよく耳にする「デューデリジェンス(DD)」とは、簡単に言ってしまえば対象会社を調査することです。では、なぜM&Aの際にデューデリジェンス(DD)が必要とされるのでしょうか。

 

デューデリジェンス(DD)はなぜ必要?

M&Aの目的は様々ですが、対象会社をM&A候補とすることには理由(魅力)があることが一般的です。例えば、自社事業とのシナジー効果が期待できること、エンジニア等の優秀な人材が確保されていること、業界規制や新規契約が困難な重要な契約や権利を保有していることなどが挙げられるでしょう。

 

しかし、いざ会社を取得してみたら「想定と違った」「契約内容に欠陥があった」ということでは、会社を取得した目的が果たせなくなる可能性が生じます。

 

また、会社自体を取得する株式譲渡によるM&Aでは、対象会社の負う責任(義務)も合わせて取得することとなります、「会社の財務諸表が適切に作成されておらず、想定していない多額の簿外債務や債務保証が存在した」「重要な税務リスクや訴訟リスクを抱えていた」ということでは投資する意味は乏しく、またいくら魅力的に見える会社であっても事業として立ちいかなくなる可能性も存在します。

 

デューデリジェンス(DD)は、このような事態が発生しないよう、対象会社の実態を調査し、リスクや課題の洗い出しを行うために実施されます。

 

また、調査結果を踏まえて、「契約内容の見直しは必要か」「投資の方法(株式譲渡又は事業譲渡)への影響は」「取引価額(企業価値)は妥当か」などが検討されるのが一般的です。

 

M&Aの目的が様々なように、会社が持つリスクも様々です。そのため、対象会社のリスクや課題を洗い出すためには様々な視点から目的に応じて調査を実施する必要があり、デューデリジェンス(DD)もこの視点に応じて様々な種類があります。

 

 

 

 

 

拾い出す課題やリスクは?

デューデリジェンス(DD)は、その調査の視点から様々な種類がありますが、ここでは一般的なものとして、「財務デューデリジェンス(財務DD)」「税務デューデリジェンス(税務DD)」「法務デューデリジェンス(法務DD)」について、具体的な調査方法やこの調査によって拾い出す課題やリスクを見ていきましょう。

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)の流れ、実施後の対処は?

これまででご紹介したデューデリジェンス(DD)はほんの一部であり、このほかにも様々な種類のデューデリジェンス(DD)があります。

 

課題やリスクの洗い出しの観点からは、様々なデューデリジェンス(DD)を実施することが望ましいですが、これにはコストも時間や労力も必要となります。そのため、一般的には対象企業の特徴やM&Aの目的から必要なデューデリジェンス(DD)やその深度を決定していくこととなります。

 

また、M&Aは多くの利害関係者(取引先や従業員等)に影響を及ぼすものであるため、余計な動揺を生じさせないためにも、その前段で行われるデューデリジェンス(DD)実行の情報が外部に漏れないようにすることも重要です。

 

 

 

 

 

 

デューデリジェンス(DD)による調査結果(報告)を参考に、「投資の最終意思決定」を行うこととなります。

 

具体的には、「買収リスクを抑制するための契約内容への反映」「M&Aの方法(株式譲渡か事業譲渡か)」「取引価額への反映」「買収後の事業運営方針」などを検討していくこととなります。

 

 

 

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「M&Aによる第三者への売却」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?⑥~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した6回目の今回は、前回に引き続き、第1回でご紹介したタイプB(健全性は高いものの親族内後継者がいない会社)に着目します。 タイプBは、親族外の役員・従業員へ承継するケースと、第三者へ売却するケースに分けられますが、今回は、第三者へ売却(=M&A)するケースをご紹介します。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 藤田祐紀/公認会計士

 


【M&Aによる会社株式の第三者への売却】

M&Aによって会社株式を第三者へ売却するケースは、「会社を売る」ことであるため、心理的な抵抗感がある、株式売却後のキャッシュフローが得られなくなる、買手が付かなければ成立しない、などの特徴がある一方、一般的に親族内承継と比べて下記のようなメリットがあると言われています。

 

【親族内承継と比べたM&Aのメリット】

①現経営者は株式の売却資金を得ることができる

事業承継の場合、後継者は「会社」は引き継ぐ(=以降のキャッシュフローを得られる)ものの、承継時点では得られる資金はありません。それどころか、承継にあたって時価相当額に対する贈与税(現経営者が急逝の場合は相続税のことも)を支払う必要があり、納税資金の確保が必要となります。

 

その一方M&Aであれば、株式の売却代金から税金(売却益に係る所得税)を差し引いた分を現経営者が得ることとなりますので、承継(売却)時点での納税資金の確保は不要となります。

 

さらに、株式売却後、相続発生までに節税対策(生前贈与や不動産の購入による相続財産の引き下げ、非課税財産の購入など)を実施することで、相続税を抑えられる可能性も考えられます。

 

 

②個人保証を外す(承継しない)ことができる

通常、中小企業のオーナー社長は、会社の借入に対して個人保証を行っているケースが多いと思います。

 

金融機関のプロパー融資はもちろん、信用保証協会等が介在する公的な融資に対しても同様に個人保証を行うケースが大半だと思います。

 

事業承継の場合は後継者がこれら個人保証を引き継ぐことが一般的ですが、M&Aによって株式が譲渡された場合、買手は会社の全財産を引き継ぐこととなるため、個人保証は外れることとなります(自宅や個人所有財産を担保に差し入れていた場合はこれらの抵当権も外れることとなります)。

 

前回、述べた通り、個人保証を引き継ぐことは、後継者の事業承継意欲を阻害する一因と言われており、M&Aではこの個人保証の問題をクリアすることができると考えられます。

 

M&Aのメリットについて上記の様に述べて参りましたが、事業承継のうちどの方法が最適かは、現経営者の会社売却後のライフプラン、後継者の有無、買手企業の有無等によって変わってきますので、公認会計士・税理士の方にご相談することをおすすめします。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年3月20日)より再編集のうえ掲載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

ICTを活用しM&A後の経理体制を合理的に作る【体験記】 ~事業承継に活用したい手法~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、「M&A後の経理体制」についてご解説いただきます。ぜひご参考にしてみてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


シリーズ事業承継の活用手法として、中小企業の事業承継や財産の分散防止に効果的な信託などを解説していますが、今回は「M&A後の経理体制を作る」【体験記】をお送りします。

 

 

今年3月にお客様の依頼で、M&Aのデューデリジェンスを行い5月に買収実施しました。

売上10億円の製造業の会社です。

 

その会社は社長と経理の奥様が一緒にご引退されることになりましたので、経理の後釜を探す予定でした。

 

当社に相談が来たのですが

 

(1)経理人材はなかなか募集しても来ない
(2)会社の営業事務や総務がしっかりされているので、基本的な資料はそろっている。

 

上記の2点から当社で経理事務を一括で請け負うことにしました。

結果下記の体制ができました。

 

 

(1)売上・原価は販売管理システムから仕訳を読み込み

(2)預金はFintech機能で自動計上

(3)現金は現金出納帳のエクセルから読み込み

(4)給与は勤怠データと修正事項だけお伝えいただき当社で計算し、振込データ作成→社長に確認承認いただく 会計データは給与計算システムから自動連動

(5)様々な証憑請求書はチャットワークに会社の人に貼っていただき当社で確認読込

(6)2クリックで会計データからデータを切り出し、会社のお好みの形式の経営管理データを一瞬にして作ることができる。

 

結果一部の仕訳以外99%が仕訳読込で 手入力はほぼなくなりました。

会計データも翌月8日程度には完成しています。

 

会社様も経理人材を雇用することなく
大幅なコストカット&属人的な業務に陥っていた体制が改善され
試算表も早く出ることになりました。

 

また、同時に売上データからセグメントデータも読み込んでいるため
セグメント管理も実現することができました。

 

その結果、社長、常務と業績等について話を聞く時間を十分に確保することができ、意思決定も早くなり、

 

会社の社長常務のお好みのセグメントデータも2クリックでリアルタイムに見ることができ経営陣のコミュニケーションも活発化し、大変喜ばれています。

 

ICTの活用で経理は1社一人もいらない時代になったんですね!

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2018/11/20号)」より一部修正のうえ掲載

[初級者のための入門解説]

中小企業におけるM&Aの利用方法は?  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」⑤~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。

今回は、「中小企業におけるM&Aの利用方法は?」について解説いたします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

売り手サイド

M&Aによる売り手の目的としては、選択と集中によるノンコア事業の売却、事業再編、事業売却による資金調達、事業の売却によるリタイヤなどがありますが、最近は事業承継がらみのケースが多く発生しております。

 

事業承継でM&Aを選択するのは、親族や役員・従業員の中に後継者がいない場合に、事業自体をM&Aで売却するときに利用されます。

 

我が国経営者の平均引退年齢は70歳超と言われていますが、その中小企業経営者は245万人(全中小企業者の60%)で、その半数の127万人が廃業を予定していると言われています。廃業予定の理由としては、そもそも後継者がいない、あるいは後継者がいても継いでくれない、が多数を占め、更に残念なことは廃業予定者のうち30%程度は健全な会社が存在することです。

 

いわずもがな我が国経済は中小零細企業によって支えられていると言っても過言でなく、中小零細企業の減少はやがて日本株式会社の終焉を意味する大問題です。

 

他方、いつの時代にもやる気のある起業家や元気な企業が存在することも事実であり、かれらとうまくマッチングできれば廃業を免れることも可能となるのです。

 

 

 

買い手サイド

M&Aの買い手は、一昔前はファンドが多かったようですが、今日では事業会社や個人起業家など、プレーヤーが多様化しています。それでは買い手の目的は、何でしょうか。一般的には以下のように言われております。

 

 

①新規の事業目的

既存の企業が事業を多角化しようとする場合、あるいは、事業ポートフォリオの組み換えをする場合、ゼロから事業を始めるよりも既に得意先やスタッフを抱えた事業を取得する方が容易です。特に、参入障壁が高い事業領域ではM&Aでないと参入できないケースがあります。

 

例)ソフトバンクによるボーダフォンジャパン買収による携帯電話事業への参入

 

 

②関連事業の拡大目的

川上又は川下への参入(アパレルによる小売事業への参入)、商品やサービスの拡充を目的としたM&Aがあります。

 

例)家電量販店ビックカメラによるコジマの買収による広い地域での店舗展開

 

 

③ブランド、許認可目的

ブランドや許認可の取得は容易ではないので、保有する企業自体を取得するM&Aがあります。

 

例)コンビニエンスストアのローソンによる成城石井の買収により、成城石井ブランドにより富裕層地域への出店

 

 

④人員目的

ますます雇用の確保が難しくなってきており、優秀な人員の確保を目的としてM&Aをする例が多くなっています。

 

例)IT技術者の雇用確保を目的としたM&A

 

 

M&A仲介会社とマッチングサイトの使い分け

M&Aをする場合、検討すべき項目として費用と手間があります。

 

M&A仲介会社に依頼すると500万円~2000万円以上の費用がかかるので、費用の捻出が難しい場合や売り手企業の事業規模が小さい場合には、日本税理士会連合会の運営する「担い手探しナビ」、国が営む「事業引継ぎ支援センター」、トランビ等の民間のマッチングサイトの利用が検討されます。

 

しかしながら、M&Aに際して、M&A仲介会社を利用するのは一般的な方法です。M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短時間のうちに相手先を探してもらうことができ、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション、売買契約までフルパッケージでしっかりと支援してもらえる場合が多いと言えます。他方で、専門家をフルに活用するのでそれなりの費用がかかり、今日まで中小企業のM&Aが活性化してこなかった理由が費用面にあると言っても過言ではありません。

 

マッチングサイトとは、主にインターネット上で、売り手と買い手がそれぞれM&A情報を掲載し、手軽に、かつ安価なコストで、自分自身で相手先を探せる場所(サイト)です。端的に言うと、売り手は、まずノンネームといわれる情報(対象会社が特定できないように、業種、地域、おおよその年商のみ)を掲載して買い手からの応募を待ち、買い手は、業種や地域を絞った上で希望するM&A候補を探すことができます。売り手と買い手がうまく出会えた場合は、次のステップとして更に詳細な情報を交換して、お互いの希望がマッチすれば売買条件を詰め、最終的に売買契約(M&A)に至りますが、専門家の関与が少なければ少ないほどコストは安価ですむので、中小企業のM&Aに適していると言えます。そうはいっても、多くの中小企業者はM&Aの経験が無く知見が足りない場合が多いので、マッチングサイトを提供する会社や組織は、公認会計士・税理士やM&Aアドバイザリー等、各種専門家と提携していて、マッチングの場の提供だけでなく、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション業務を支援するケースもあります。

 

日本税理士会連合会の運営する「担い手探しナビ」は、マッチングサイトの一種ですが、誰でも参加できるわけでなく、税理士を通して行う点に特徴があります。もともとは北陸税理士会が行っていたサービスを好評につき全国版に拡大し2018年10月から運用を開始したもので、システム利用料も無料のため、利用の拡大が期待されています。「担い手探しナビ」は、クライアントを良く知る税理士が関与することで安心感が得られ社会的にも大きな意義があります。また、日本M&AセンターはM&A仲介会社として知名度の高い会社ですが、中小企業向けのマッチングサービスとして「Batonz」を始めており、注目を集めています。

 

M&Aアドバイザリー(仲介会社やマッチングサイト)のそれぞれの特徴と費用のイメージは以下のとおりです。

 

 

 

M&Aはだらだら時間をかけてするものではありません。

期限を設けて迅速に行う必要があるので、上記の複数の方法によってM&Aを行う場合もあります。

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「M&Aに伴う手数料の処理」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 


[質問]

甲社は、コンサルタント会社A社から話を持ちかけられ、B社の株式取得を検討することとなりました。甲社は、A社と情報収集・仲介・株式取得に向けた諸手続・B社従業員等へのフォロー・新たな体制づくりのフォローを含め、総合的なコンサルタント契約を結びました。株式取得が行われなかった場合は、その時点で契約終了となり、A社へ手数料を支払い、費用処理を行いますが、株式取得を行う場合、前述の各種業務を引続きお願いすることとなり、契約で定めた期間満了時に手数料を支払う予定です。

 

この場合の手数料の処理は、期間満了時に属する事業年度の損金として差し支えないでしょうか。或いは、株式の取得価額に含めるべきものとして資産計上すべきでしょうか。

 

[回答]

ご高尚のことかとは存じますが、企業が、いわゆるM&A取引を行った場合、その仲介者等に支払う手数料等の、いわゆる助言費用等に関し、その取扱いに関しては、企業会計上は、従来の暖簾勘定等への計上処理から、IFRS基準による一時損金の費用化が図られつつあるものと承知いたしております。

 

具体的には、平成25年9月13日公表の「企業結合に関する会計基準」等の改正(原則:平成27年4月1日以後開始事業年度から適用)により、企業買収の際に外部のアドバイザー等に支払う取得関連費用の会計処理が変更され、投資銀行、証券会社等のファイナンシャルアドバイザー(FA)に関する報酬、ビジネス、会計・税務、法務等のデューデリジェンス(DD)費用といったアドバイザリーフィーは、連結財務諸表上では、原則として発生した事業年度の費用となり、買収対象会社の株式の取得費用として取得原価に含めることができなくなりました。

 

一方、税務上の取扱いは、これら会計上の処理に即応する形での改正は行われていないものと存じます。
原則的には、取得する株式等に関する法令の規定は法人税法施行令第119条第1項各号に定める取得態様に応じた取得価額の算定が予定され、これらによって課税関係が律せられるものと考えていますが、そこでは、例えば、購入した有価証券等の額は、その購入代価に購入手数料その他購入のために要した費用の額を加えた額であるとされているため、原則的には『購入のために要した費用は全て取得価額を構成する』という理解があり、単に通信費や名義書換料等についてはその金額が少額であるところから、これを取得価額に算入しないことができる旨を定めているに過ぎないとされています(㈱税務研究会版「法人税基本通達解説」法人税基本通達2-3-5の項の記載事項参照) 。

 

他方、法人税法第62条の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)の規定がこのような非適格事業譲受けの形態に対応する規定として存在することも理解しておく必要があるように思います。

 

すなわち、同条の規定では、引継受入資産と引継受入負債との差額が生ずる場合には、当該差額を超える金額が支出されるときには当該超過額は資産調整勘定の額として、不足額が生ずるときには当該不足額は負債調整勘定の額として(一時に課税関係を律するのではなく)、将来にわたって損益調整を行うこととされているところから、いわゆる正の暖簾と負の暖簾によって課税の平準化が図られているといえるものと考えています。

 

会計の場合のように、直截に助言費用の資産計上を否定するという方法を採り上げるのではなく、総額的に時間(5年間)をかけて時価との調整を図ることが税制の考え方であるともいえると考えられます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月9日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[初級者のための入門解説]

M&Aで売却しやすい会社とは? ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」④~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、売却しやすい会社の特徴を「業界・ビジネスモデル」「財務面」「組織面」から解説します。皆さまの「売却しやすい会社にするためは?」という疑問にお答えします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士・本山純(Ginza会計事務所)

 

~売却しやすい会社の特徴は?~


売り手の条件と買い手のニーズが合致したとき、M&Aによる会社の売買が成立します。

そのため、買い手のニーズに合致しやすい会社が売却しやすい会社と言えますが、買い手は具体的にどのようなニーズを持っているのでしょうか。

 

ここでは、一般的に買い手のニーズが高いといわれる事項を「業界・ビジネスモデル」「財務面」「組織面」に分けて見ていきましょう 。

 

 

【業界・ビジネスモデル】

買い手がM&Aで会社を取得する目的は様々ですが、一般的には、新規事業への参入・事業拡大が挙げられます。

 

これらの目的を達成するためには、1から会社を立ち上げる方法もあるでしょう。

しかし、コストや時間が多大にかかってしまうケース、業界の規制や契約等により新規参入のハードルが高いケースには、M&Aによりその業界の既存会社を購入するという選択が有効となってきます。いわゆる参入障壁が高い業界は1からの会社立ち上げが困難なことから、一般的に買い手のニーズが高くなります。

 

また、ビジネスモデルの面では、会員からの毎月の利用料収入がある等、ストック型のビジネスモデルは、売上や利益が激減するリスクが少なく、会員を保有している事自体に価値があることから一般的に買い手のニーズは高くなります。

 

【財務面】

売上・利益が大きい会社が魅力的であることは言うまでもありませんが、何よりも重要なことは、財務状況が健全であることです。

 

利益があっても、多額の借入金、簿外債務や連帯保証等によりリスクが高いと判断されれば、魅力的な会社であっても買い手に敬遠されることとなってしまいます。

 

また、粉飾や不正経理がなく、会社の財務が適切に反映された会計処理がなされていることも重要です。

そのうえで、一般的に買い手が重視するポイントとして以下の事項が挙げられます。

 

・適正な営業利益と営業キャッシュフローが確保できている。

・業績が右肩上がりである。

・内部留保があり、財務面が安定している。

 

これらの条件を満たしていれば魅力的な会社でしょう。

 

しかし、満たしていないからと言って会社の売却が出来ないということではありません。

買い手のニーズと合致すれば、どのような会社でも売却のチャンスはあります。

 

例えば、組織再編により事業を整理し、一部の事業のみを切り出す方法(会社分割)より買い手のニーズにマッチさせるという選択肢もあります。

 

詳しくは次の項目(売却しやすい会社へするには)で。

 

【組織面】

中小企業では、オーナー社長等特定個人の属人的なノウハウや人脈により事業が成り立ち、組織的な事業運営が行われていないケースも多々あります。

 

買い手は商品やサービスを購入するのではなく、会社(事業)を購入するわけですから、魅力的な会社であっても、オーナー社長がいなくなることにより会社の価値が大きく下がるような場合には、事業取得の目的を果たすことが出来なくなってしまいます。

 

これはM&Aに限った話ではありませんが、権限が適切に委譲され組織的な事業運営が行われていることが会社(事業)の継続にとって重要であり、買い手のニーズも高まるといえるでしょう。

 

 

~売却しやすい会社へするには?~ 


M&Aの買い手は、目的をもって会社(事業)を購入します。そのため、前の項目で記載したような買い手のニーズに合致する事業が売りやすい会社といえますが、会社は複数の事業を行っていたり、中には業績が良くない、あるいは将来性のない事業を抱えているケースもあります。

 

このような場合、会社をそのまま売却するのではなく、会社を分割することで売却がスムーズに進む可能性があります。

 

例えば、りんごとみかんのセット200円と、みかん単品120円で売っている場合、割安な200円のセットを望む買い手もいれば、セットよりも多少割高であったとしても120円のみかんを望む買い手もいるので、後者のみかんを望む買い手向けには、りんごとみかんを分ける必要があります。

 

 

 

 

会社はこのように単純に分割できるものではありませんが、例えばそれぞれの事業価値の源泉ごとに会社を分割し売却単位をスリム化することで、買い手のニーズにマッチできることがあります。

 

~中小企業では個人依存経営から組織的経営への変革がポイント~

これまでは、M&Aというと大企業や相当規模の事業が対象となるというイメージをもたれる方が多かったかもしれません。

 

しかし、近年では、中小企業経営者の高齢化による事業承継問題等の解決策としても、中小企業でのM&Aに注目が集まっています。

そこで、ここでは中小企業のM&Aで特に解決しておくべき課題を取り上げたいと思います。

 

中小企業では、限られた人材の中で事業を運営している場合も多く、経営者の経営力や特定個人の営業力、属人的なノウハウ等、事業価値の源泉が、個人的な能力に依存している場合が多々あります。

しかし、事業価値の源泉が個人の能力に依存している場合、その個人がいなくなってしまっては事業価値が大幅に下落してしまう可能性が高いといえます。

 

そこで、事業価値を会社組織で維持できる仕組みづくりを行うことが重要となります。

 

具体的には、個人の能力に依存していた事業価値の源泉となる知識やノウハウを会社全体(複数人)で共有できる仕組みを作るとともに、意思決定を個人ではなく組織で行える組織形態を作り、適切な権限委譲を行うことで、特定個人への依存度を低くする必要があります。

また、組織的経営のための形づくりだけではなく、その価値源泉を維持するための根幹となる経営理念を明確にし、浸透させることが重要となります。

 

これは、M&Aに限らず、親族承継・従業員承継の場面でも検討する必要がある事項ですので、自社の個人依存度がどの程度か、経営者や特定個人が事業に関与しない場合の姿を想像することで、個人依存度を判定してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

会社を半年で売却できる?-M&Aのスケジュール- ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」③~

 

M&A実務の基本ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。

今回は、「全体スケジュール」「従業員や関係者への伝え方」について考えてみたいと思います。「M&Aで相談先は?」「M&Aではどれくらいの期間で売却できる?」「従業員にはいつ伝える?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aをすると決めたら


①M&Aの動機

M&Aによる事業売却の動機としては、従前は選択と集中によるノンコア事業の売却、事業再編、資金調達、リタイヤによる事業の売却ケースなどがありましたが、最近は事業承継がらみのケースが多いように感じます。事業承継でM&Aを選択するのは後継者がいないケースが多数です。つまり、親族や役員・従業員の中に後継者がいない場合、事業自体をM&Aで売却する方法が選択されております。

 

 

②M&Aの相談先

M&Aをしようとする場合、先ずはどこに相談したらよいか悩むところです。M&Aの相談先としてまず思い浮かぶのは、顧問の「公認会計士や税理士」です。日本税理士会連合会は、「担い手探しナビ」を運営していて、税理士経由で「担い手探しナビ」に登録することで、売り手であれば買い手を、買い手であれば売り手を探すことができます。しかし、一般的な会計事務所はM&Aの知見が乏しい場合が多いので、この「ZEIKEN LINKS(ゼイケンリンクス)」を使ってM&Aに詳しい会計事務所を探すのも一法です。

 

③M&A仲介会社の利用

また、「M&A仲介会社」を利用するのは一般的な方法です。M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短期間のうちに「相手先を探し」てもらうことができ、「売買交渉」「デューデリジェンス」「バリエーション(価値評価)」「売買契約書の作成」までフルパッケージでしっかりと支援してもらえます。他方で、専門家をフルに活用するので最低でも数百万円の費用がかかります。

 

④M&Aマッチングサイトの利用

「マッチングサイト」を使って、基本的なことは自分で対応する方法も、最近は流行っております。マッチングサイトとは、主にインターネット上で、売り手と買い手がそれぞれ「M&A情報」を掲載し、手軽に、かつ安価なコストで、自分自身で「相手先を探せる場所(サイト)」です。

 

端的に言うと、売り手は、まず「ノンネーム」といわれる情報(対象会社が特定できないように、業種、地域、おおよその年商のみ)を掲載して買い手からの応募を待ち、買い手は、業種や地域を絞った上で希望する「M&A候補を探す」ことができます。売り手と買い手がうまく出会えた場合は、次のステップとして、さらに「詳細な情報を交換」して、お互いの希望がマッチすれば「売買条件」を詰め、最終的に「売買契約(M&A)」に至ります。

 

専門家の関与が少なければ少ないほどコストは安価ですむので、中小企業のM&Aに適していると言えます。そうはいっても、多くの中小企業者はM&Aの経験と知見が不足している場合が多いので、マッチングサイトを提供する会社や組織は、公認会計士・税理士やM&Aアドバイザリー等、各種専門家と提携していて、マッチングの場の提供だけでなく、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション業務を支援するケースもあります。

 

⑤M&Aアドバイザリーの特徴と費用感

「M&Aアドバイザリー(仲介会社やマッチングサイト)」のそれぞれの特徴と費用のイメージは以下のとおりです。

 

 

M&Aの全体スケジュール


M&Aの一般的な流れは、以下のとおりです。まずは「相手先探し」から始まり、相手先の候補が見つかると「秘密保持契約」を交わして相手先を調査します。興味があって双方が先に進みたいと思う場合は「トップ面談」し条件面を調整し「基本合意書」を締結します。その後、「買手によるデュ―デリジェンス」と交渉を経て最終的に合意した場合、「売買契約書」を締結します。

 

M&Aに要する時間は、売却理由や売却条件等にも左右されますが、順調に進むケースでは「2、3ケ月」で完結することもありますが、長いケースだと「年単位」でかかることもあります。

 

 

従業員や関係者への伝え方


①従業員への説明のタイミング

M&Aは極めてセンシティブな事柄ですから、M&Aに関与する者は経営者・経営企画担当等に限定し、秘密裏に進めるのが基本です。なぜなら売り情報が漏れた場合の信用不安の拡大、うまくいかなかった時のダメージが大きいためです。そこで、幹部従業員への説明は、「基本合意書の締結」のタイミングが、一般の従業員への説明は売買契約を締結する直前あるいは契約締結日」に説明するのが一般的です。

 

②従業員説明の方法

説明の仕方としては、幹部従業員はキーマンとなる人が多いので経営者が個別に面談し退職されないように留意します。その他の従業員一同を集めた説明会を開催する方法が一般的かと思います。

従業員はM&Aによって、引き続き働けるのか給与条件等の待遇はどうなるのかなど不安を持つのが普通なので、買手側と十分に協議した上で、従業員への説明を行うべきです。

 

③関係者への説明

金融機関や主要な取引先には、経営者が直接訪問して説明した方がよいですし、特に重要な取引先には売買契約締結前に説明をしておいた方がよいと思います。それ以外の取引先や関係者にはクロージング後に送付する挨拶書面で連絡するのが一般的です。

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

社長の手取り額は?-M&Aにかかる費用-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」②~

 

M&A実務の基本ポイントを、植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)、本山純先生(Ginza会計事務所/公認会計士)にわかりやすく解説していただきます。今回は、譲渡企業の経営者にとって最大の関心事の一つである「社長の手取り額」を取り上げます。「M&Aで発生する費用は?」「M&Aの税金負担は?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aで会社を売却した場合、社長(株主)の手元に残るキャッシュは売却代金からM&Aにかかる費用を差し引いた額となります。

 

売り手側で発生する代表的なM&Aにかかる費用は主に以下の2つがあげられます。

 

【代表的なM&A費用】

①専門家(仲介会社)に払う手数料

②税金

 

①専門家(仲介会社)に払う手数料
~M&A仲介会社は何をしてくれるの?~

M&Aで発生するコストの代表的なものにM&A仲介会社に支払う手数料があります。

M&A仲介会社は、M&A全体の取りまとめの役割を果たします。

 

具体的には、

・M&A全体のスケジュールと売却方針の検討

・売却先の選定、交渉

・契約のサポート 等々

 

M&Aにあたり何から着手すべきか、どのように進めるべきか、M&Aがスムーズに成立するよう、スタートからクローズまでの各段階でのサポート及びアドバイスを提供してくれます。

 

M&A全体のスケジュールや売却方針があやふやなままでは、いくら魅力的な企業であってもスムーズに商談が進まず、労力ばかりがかかってしまうことも。

 

そんな状況では、本業にも悪影響を及ぼし兼ねず、結果的に事業価値を低下させてしまう恐れもあります。

 

売却先についても、売りたい企業とも買いたい企業ともネットワークを持つ仲介会社を使うことで、自分のネットワークだけでは繋がることのできない相手先への売却アプローチも可能となります。

 

M&Aでは、各段階で留意すべきポイントやタスクが多岐にわたるため、不慣れが原因で生じるトラブルを回避し、スムーズに進めるためにも、経験豊富な仲介会社が全体を取りまとめることがM&Aを成功させるカギとなります。

 

~M&A仲介会社の費用はどれくらい?~

このように、M&Aを成功させるためにM&A仲介会社の存在はとても大きなものとなりますが、その分、手厚いサポートを受ける場合には費用も多額となってしまうことが一般的です。

 

仲介会社の費用相場は、取引金額や提供を受けるサービスの範囲で大きく変動することから、一概にいくらと言えるものではありません。

 

そのため、どのような仲介会社を利用するかを検討する上で、仲介会社の一般的な費目と料金形態を把握しましょう。

着手金と中間金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されない費用となります。

 

 

「着手金+成功報酬」「中間金+成功報酬」「成功報酬のみ」等、仲介会社によって料金形態及び提供サービスの範囲は様々です。

 

手厚いサービスを受ける場合には、仲介会社でも公認会計士等の専門家に対する報酬が発生する為、着手金や中間金が必要となるケースもありますし、これらのサービスをオプションとして追加できる仲介会社もあります。

 

また、どの仲介会社でも生じることが一般的な成功報酬の割合は、売買代金に応じて変動するため一概には言えませんが、多くの仲介会社が採用するレーマン方式では5億円以下の場合、売買金額の5%となります。

 

 

 

仲介会社によって得意とする業種や対応している地域、提供業務のタイプ(仲介型orアドバイザリー型)が異なりますので、受けたいサービスの費用対効果を考慮し、自社に合ったM&A仲介会社を選ぶことが重要です。

 

②税金
~どんな税金がかかる?~

無事M&Aが成立し、売却後に生じる支出が、売却により生じた利益に対して課される税金です。

それでは、M&Aで生じる税金にはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、M&Aでよく使用される株式譲渡について検討していきたいと思います。

 

(注:M&Aのスキームには、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換・合併等があり、採用するスキームによって課される税金が異なります。)

 

株式譲渡により会社を売却した場合には、売却代金から株式の取得費譲渡費用(仲介会社への手数料等)を控除した譲渡益(株式譲渡所得)に対して20%(所得税15%、住民税10%)の税金がかかります。(復興税は省略)

 

これは売却した翌年の確定申告で申告・納付することとなります。

 

 

 

~手取り額を最大限にする方法は?~

上記の通り、株式の譲渡益に対しては20%の税金が発生しますが、退職金を利用することで、税負担を軽減し、手取り額を増やすことができる可能性があります。

 

退職金は、これまでの勤労に対するものであり、退職後の生活を支える資金となるため、退職所得控除や課税対象額が1/2になる等、税務上非常に優遇されています。

 

そのため、譲渡代金の一部を退職金で受け取ることで、税負担の軽減分だけ手取り額を増やせる可能性があるのです。

 

それでは、具体的な設例を使って、確認しましょう。

 

 

 

①全額株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:20百万円)

 

株式(非上場株式)を譲渡した場合、譲渡益部分が課税対象となり、税額は以下の算式で算定されます。なお、本来は譲渡代金から取得費等を控除して譲渡益を算定しますが、計算を簡略化するため得費用等は省略し、譲渡代金=譲渡益(譲渡所得)と仮定しています。

 

 

 

 

②譲渡代金の一部(60百万円)を退職金として受け取り、40百万円を株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:16.45百万円)

 

 

 

 

ⅰ.譲渡所得部分

株式の譲渡益に対する税金は①の算式の譲渡所得が40百万円となり、以下の通り算定されます。

 

 

ⅱ.退職所得部分

退職金は、税務上優遇された取扱いがあり、税額は以下の算式で算定されます。

 

(注①)

退職所得控除は勤続年数に応じて20年以下は年間0.4百万円、20年超部分は年間0.7百万円で算定されます。

(0.4百万円×20年+0.7百万円×(30年-20年))=15百万円

(注②)

退職所得の所得税率は超過累進税率のため、退職所得金額に応じて変動します。本設例では以下の区分の税率が適用されます。なお、設例に記載の税率は下記税率40%に住民税10%を足した50%として算定しています。

 

 

 

上記の設例では、譲渡代金100百万円に対して約3.5百万円の税負担の軽減が図られたこと確認できます。この分、売却による手取り額が増加することになります。

 

また、退職金は会社の費用(損金)にもなることから、法人実行税率を30%と仮定すると、18百万円(60百万円×30%)会社に節税効果が生まれ、譲渡対価の交渉材料の一つにもなります。(「不当に高額な部分の金額」となる退職金は損金とならないため、退職金の金額設定には留意が必要です。)

 

 

 

 

 

[初級者のための入門解説]

いくらで売却できる?-譲渡金額の算出方法-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」①~

 

M&A実務の基本ポイントを、実務経験豊富な植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)にわかりやすく解説していただきます。

今回は、M&Aに携わる皆さまにとって、最も関心のあると思わる「譲渡金額の算出方法」を取り上げます。「中小企業で活用される評価法とは?」「価格交渉はできるの?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

事業価値評価の考え方は??

M&Aで売買するのは事業そのものですが、多くのケースではその企業が発行する株式を売買の対象とします。すなわち、株式の価値が売買価額の基礎となりますが、企業の株式価値事業価値とでは違いがあるので、まずはその違いを整理しましょう(複雑と感じる方は、違うという認識だけで大丈夫です)。

 

下図のように、企業価値は事業価値(事業資産-事業負債)と非事業資産(図左側)によって構成されます。非事業資産とは遊休資産のように事業価値を生まない資産が持つ価値のことをいい、事業価値は事業自体の持つ価値のことをいいます。

 

M&Aの多くのケースで売買の対象となる株式価値(図右下側の黄色部分)は、事業価値に非事業資産を加え、そこから債権者に帰属する有利子負債(債権者価値)を控除したものをいいます。なお、事業価値を売買対象とするケースもあります。

 

 

 

 

一般的には、まず事業価値を評価します。事業価値の算定方法には、将来のキャッシュフローからアプローチするインカムアプローチ(DCF法など)、貸借対照表の純資産からアプローチするコストアプローチ(純資産価額法など)、類似上場会社の指標からアプローチするマーケットアプローチ(マルチプル法など)があります。

 

 

 

 

なお、税法にも株式評価のルールがあって、非上場株式の評価の方法は国税庁の財産評価通達に示されております。

 

端的に言うと、少数株主の場合は配当還元法(およそ額面価額)支配株主の場合は会社の規模によって純資産価額法と類似業種比準法によって評価します。

 

少数株主か支配株主かの分岐点は、親族グループで議決権割合30%より上か下かで判定します。

 

 

 

中小企業のM&Aで活用される評価基準は??

上場会社やクロスボーダーのM&Aでは、先に説明した将来キャッシュフローから算定するDCF法や類似上場会社の指標に倍率を乗じて算定するマルチプル法がとられます。

 

一方で、中小企業のM&Aは少し違い、時価純資産価額に数年分(3~5年程度)の営業利益を加算した“年倍法”といわれる評価法がとられます。

 

 

 

 

時価純資産価額は、株主から出資を受けた資本(資本金+資本剰余金)に、今まで稼いだ利益の累計額(利益剰余金)、更に資産の含み損益を加減算して求めます。ちなみに資産の含み損益を加減しない方法を簿価純資産価額と言います。年倍法は、直前期の貸借対照表と損益計算書があれば凡その評価額が測定できる簡便な方法です。

 

なお、時価純資産価額によるとその時点の株式価値が算出されますが、企業が将来獲得できる利益は考慮されておりません。そこで、評価に際して将来利益分として営業利益の数年分を加算するわけです。

 


 

 

 

業種特有の評価基準は??

中小企業M&Aで用いられる“年倍法”は極めてシンプルな計算法で、売買価額の基礎とすることが多いのですが、そうはいっても業種によっては他の方法によった方が適切なケースがあります。

 

例えば、不動産賃貸業の場合は、所有している不動産の価値が重視されますし、調剤薬局の場合は、処方箋の枚数や近隣競合店の有無等が重視されます、そのほか、最近の人手不足を反映し、新たに人材をリクルートする場合に年俸の30%~40%かかることから、専門家の人数等から売買価額がアプローチされるケースもあります。

 

 

 

価格交渉はできるの??

売買価額はM&Aにおける最大の交渉条件といえます。M&Aに限った話ではありませんが、売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいと思うのは自然なことです。

 

売り手側の高く売りたい想いを価格に反映するためには、事業の希少価値面のアピールや買い手のM&Aによるシナジー効果を考慮させる方法があります。一般的に希少な事業新規参入が容易でない事業などは価値が高いですし、同業の買い手の場合にはM&Aによる事業拡大によりマーケットシェアが拡大し、コストのコントロールが可能(重複固定費のカット等により)な場合があるためです。

 

反対に買い手が行うデューデリジェンスによってマイナス材料が抽出された場合には、価格が引き下げられる方向に働くことになります。

 

 

 

 

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第2回:後継者の資質とは?~中小零細企業のM&A事業承継②~

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業の企業再生支援・事業承継支援・M&A支援を専門で行っているCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合の安藤ゆかり氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合

安藤ゆかり

 

 

 

「建設業を営む関与先企業の社長より、長男を後継者として継がせるべきかどうか相談を受けています。会社の業績は安定しているのですが、業界の将来性が不安視されることや、長男が経営者としての「資質」があるかどうかの判断がつかないため、第三者としての意見を聞きたいと言われました。後継者を見極める際のポイントはありますでしょうか?」

 

 

安藤:弊組合(CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合)にも、後継者に必要な「資質」に関する質問が非常に多く寄せられております。中小企業のオーナー経営者の方は、「自分の息子は後継者として適任なのか?」「本当に息子に任せて大丈夫なのか?」といった悩みを常に抱えているものです。また、会社を安定的に継続していくためには、この悩みはとても重要だと思います。そこで、弊組合のこれまでの経験により、特に大切と思われる「後継者の資質」を3つに絞って、お伝えいたします。ぜひ、ご参考にしてみてください。

 

 

 

~「縁」を大切にできるか?~

「取引先」「関係者」「従業員」など会社を支える関係者との関わり(「縁」)を大切にできるかどうかが非常に大切です。経営者が後継者に引き継がれた途端に、関係者が離れていってしまうという最悪のケースは避けなくてはなりません。創業者が苦労して築き上げた大切な仕事上の関係者との関わりが膨らむか萎むかは、後継者の手腕に掛かっているといって過言ではありません。相手が自社のどういうところに魅力を感じて自分たちと関わってきてくれたのか、また先代は何を大切に相手との関係を築いて来たのか、どういう想いで従業員一人ひとりを見てきたのか、接してきたのかをきちんと把握し、その関係性を大切に保つことができるかが重要になります。そのためにも、経営者は後継者候補に対して、自らが行ってきたこれまでの体験や考えをしっかりと伝えておくことが必要になります。

 

 

 

~「リスクマネジメント」ができるか?~

次に大事なのは、リスクマネジメント能力です。会社にとってマイナスな要素を察知する能力と、資金繰りに関するリスク管理が必要になります。

 

世代交代した際に、これまで先代に我慢してきたことや、苦労しないで社長になったというやっかみなども含めて、後継者に不満を持つ社員も少なくありません。そのような社員が抱えている不安要素を察知し、できるだけ早めに適切な対応をとるべきです。特に最近は「労働基準」「セクハラ」など、社員に関する問題が会社に深刻なダメージを与えることもありますので、これまで以上に、社員とのコミュニケーションを取っていく必要があります。

 

また、支払い期限を守らないクライアントもいます。それを当てにした資金繰りをしていると、入金や支払いのずれが生じた際に資金繰りが悪化することもあります。弊組合に相談に来る再生企業は、資金繰り管理が出来ていない社長が多いと感じております。相手が必ず約束を守ってくれるとは限らないことを念頭に置いて、支払いが遅れた場合に早めに催促するなどの迅速な対応が必要となります。中小企業にとって「資金繰り」は死活問題ですので、そのようなリスクのあるクライアントに対して、取引の見合わせを含めてしっかりとした対応が取れるかということも重要になります。

 

 

 

~「会社に対する強い想い」があるか?~

最後に、一番大切な要素となりますが、「会社に対する熱い想いがあるか?」ということです。先行き不透明なこの時代、今の状態のまま会社を続けたとしたら、売上は横ばいか下がっていくと思った方がよいでしょう。新規顧客(市場)を開拓することや、新たな事業を始めることも事業戦略として必要になってくると思われます。しかし、これまでと異なることをする場合は、社員からは強烈な不満やバッシングを受けるケースが多いです。その際に、後継者ご自身の「会社に対する強い想い」があるのかどうかが、とでも重要になります。「何のために会社を継いだのか?」「この会社をこうしていきたい」ということを明確にし、社員から何を言われようがブレない「強い想い」を持ち続けるべきです。

 

また、一方で、会社を引き継いだ社長にも覚悟が必要です。後継者の熱き想いに対して共感できないこともあるでしょう。しかし、一旦、後継者として決めて引き継いだのであれば、後継者の想いを受け止め、たとえ失敗する可能性を秘めていたとしても、最大限にバックアップするべきです。仮に、先代社長の言うことばかりを聞くような後継者だとしたら、今までの事業を守ることだけに精一杯となり、新しい時代にあった舵を切ることができません。変えてはいけないもの(縁を大切にするなど)さえ変えなければ、先代社長として、後継者の想いを最大限に尊重するべきでしょう。

[M&A・事業承継の専門家によるコラム]

第1回:赤字企業でも買い手は見つかる? ~中小零細企業のM&A事業承継①~

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業の企業再生支援・事業承継支援・M&A支援を専門で行っているCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合の安藤ゆかり氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合

安藤ゆかり

 

 

 

「業歴は30年を超えております。社長の私は68歳で、子供は3名おりますが、専業主婦と学校の先生で後継者がおりません。業種は印刷業で4期連続赤字です。弊社でも売却可能でしょうか?」

 

 

-連続赤字は買いたたかれる、売却可能な状態までの体質改善が急務-

安藤:メディアではM&Aの記事が出ない日はないと言っても過言ではありませんが、大半は大企業の大掛かりなM&Aが多く、中小零細企業に限っていうと、残念ながらそう簡単に譲渡先(スポンサー候補)は見つからないのが実情です。赤字企業でも購入希望者が見つかることもありますが、2期以上の連続赤字となると買いたたかれることが多いです。通常は、1年くらいかけて利益体質の改善(磨き上げ)を行ってから売却することをお勧めしております。ご理解しやすいように、弊組合が関わった4期連続赤字企業の売却事例をご紹介いたします。

 

 

 

【会社概要】
会 社 名:株式会社H
業  種:印刷製本・POP
年  商:約10億
従業員数:50名
借 入 金:2億5000万円
不動産資産:4億

 

 

 

【相談時のH社の状況】

~4期連続の赤字も経営基盤の強さでカバーできていた?~


株式会社H社は、創業時は製版業として事業を開始し、その後、印刷業にも業容を拡大しました。製版業では新しい技術・機械を導入することによって、生産性の向上、高い精度の作業を実現しました。特に業界に先駆けて導入したモノクロスキャナーは通常の数倍の価格でしたが、品質の良さからとても高い評価を得ておりました。
しかし紙及びインクの値段の上昇・震災の影響によるイベントや出版物の中止などで、売上の激減が著しく、5,000万円近くの赤字が4期続いておりました。事業基盤そのものは、これまでに蓄積してきた経営資源の強さ・豊富さもあって、それほど大きな毀損は生じておりませんでしたが、事業構造全般について、今後急速に事業基盤の浸食が進む可能性がありました。

 

 

【経営の問題】

~人員整理が進まず、社内後継者候補にも問題が~


売上げが激減しているにも関わらず、人員整理を全く行っておりませんでした。また、社員が赤字体質に慣れていたため、売上目標の半分にも満たなくても営業責任者は平気な状態で、赤字が増える一方でした。
H社長のお子様は3人いましたが、長男は高校の先生、娘二人は専業主婦で親族内の後継者が不在、後継者候補で考えていた常務を社長にしようと思っていたのですが、社長交代の挨拶に伺った瞬間に既存のクライアントから取引の見直しをすると言われたり、常務がクライアントを怒らせたりなどで大口顧客が大幅に減少。やむなく常務の社長への移行は無しになりました。更に、H社長は電子ブックなどの新しい流れに全くついていけないと思っており、社長としての限界を感じていらっしゃいました。

 

 

【問題に対する解決策】

~事業価値向上へ向けての取り組みを開始~


後継者がいないため、会社を売却する方法をとることにしましたが、4期連続5,000万円を超える赤字のため、このままの状態で購入する企業は皆無ということで、TAM(ターンアラウンドマネージャー・再生請負人)を入れて、売却しやすい会社にするため事業価値の向上を図りました。人員削減と共に、組織再編計画と事業戦略を行いました。人員削減については、3ヶ月以内に人員50名を40名にする削減目標を設定し、それに伴い早期退職希望者を募り人員を削減しました(辞めて欲しくない方には事前に根回ししました)。
製版業とPOP(紙を媒介としてキャッチコピーや説明文、イラストなどが書かれている販促ツール)の両方が購入可能な企業は見つけにくいので、当初から計画していた会社分割を決行し、本来の印刷・製版業の新A社と、POPを中心とする販促支援のB社、現本社ビルの土地建物管理事業を行うH社に分けました。(以下の図参照)
事業戦略については、新A社は既存印刷事業を展開し、コスト集中戦略としてのローコストオペレーションの実現を目指して製造工程の見直しと外注管理の改善を通じた製造原価低減策を策定しました。B社は外部人材を活用した差別化製品の開発と営業革新の取り組みを行いました。両社とも各事業に対応した適切な人事考課制度及び給与制度の確立を図りました。また、H社は上記二つの会社からの家賃収入、管理事業の請負により得られる収益を基礎に金融債務の金利及び元本返済を行いました。

 

[会社分割の図]

 

 

【その他の取組】

~人員削減とTAMの活用~


人員削減計画を開始しました。早期退職者を募り、12名が応じてくれました。「営業開発部」を8名で編成し、わずか3ヶ月で売上目標を達成させるため、また、営業教育に定評のあるTAMを受け入れ、新規開拓営業に力を入れました。その結果1名が大型受注にこぎつけ売上に大きく貢献することができました。また、業歴が長い関係で所有不動産の簿価が非常に低く、不動産の売却後の税金を考え、不動産M&Aでの売却を見越して、ホールディングスを設立しました。

 

 

【最終的な出口戦略】

~売却先の探索と条件交渉~


企業の体質改善が進んだ後に、購入先探索を開始しました。元々、新規事業で成果を上げているB社に対しては早々に「B社のみ購入したい」という企業のオファーが早々にありました。A社としては新A・B社共に購入してくれることと、従業員最低3年間の雇用保証を最優先の課題としました。
その結果、3社のオファーを頂き最終的に2社を競わせました。1社は地方都市で堅実に印刷業を営んでいる創業オーナーC。二代目に社長業を譲り、第二の人生として首都圏の印刷業を購入し育て上げることを考えているようでした。もう1社は首都圏で会社を引き継いだ2代目D。全面的な「相乗効果」を期待し、熱きアプローチを続けたDを最終的に相手先として選択しました。スポンサー探索をスタートした半年後に、Dによる運営を開始しました。従業員全員を集め、朝礼にて株主並びに代表者の変更について発表を行いました。Dからは、社員および家族が幸せになれることを目標に、ともに進んで行きたいとの表明を聞き、集まった従業員も期待をもって、発表を受け止めた様子で、H社長は肩の荷が下りたと一安心されたそうです。

 

 

 

[赤字企業M&Aのポイント]

・連続赤字企業は、買手が見つかりづらい、見つかっても買いたたかれる

・連続赤字企業は、事業価値向上に向けて、数年かけて企業の体質改善が必須

・体質改善には、人員整理とともに、組織再編計画と事業戦略を立て直すことが必須

・体質改善後には、売却先の探索と交渉がより有利になる可能性も