[解説ニュース]

【Q&A】被相続人が法人への土地の賃貸借に際し無償返還の届出書を提出していた場合の相続税評価

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】相続開始直前に被相続人が老人ホームに入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


【問】

(株)Aの代表取締役の甲が令和5年1月に死亡しました。甲の相続財産中に、その発行済株式の全部を所有していた(株)Aの株式と、生前に甲と(株)Aとの間で締結した土地の賃貸借契約により、(株)Aに借地権が設定された土地Bがあります。甲は、賃貸借契約により(株)Aから毎年土地Bの固定資産税・都市計画税の年額の3倍相当の地代を受けていました。

 

また賃貸借契約に際して、借地人である(株)Aが将来土地Bを無償で地主の甲に返還する旨を記載した「無償返還の届出書」を、(株)Aと甲の連名で甲の所轄税務署長に提出しています。土地Bと(株)Aの株式の全部については、甲の長男で(株)A次期社長の乙が相続の予定です。

 

上記の場合において、甲に係る相続税の計算上、土地Bと(株)Aの株式の評価はどのようになりますか。

【回答】

1.結論


土地Bは自用地評価額から借地権の価額として自用地評価額の20%相当額を控除した残額(=自用地評価額×80%)相当額で評価されます。

(株)Aの株式の評価額の計算上、(株)Aの株式の純資産価額に土地Bの自用地評価額の20%相当額が借地権の価額として算入されます。

2.解説


(1)土地の賃貸借に際し権利金を支払わずに無償返還の届出書を提出した場合の、その土地の相続税評価

 

土地の貸借において、貸主である地主が受取る地代の水準が、その土地の公租公課(主に固定資産税等)相当額を超える場合には賃貸借契約とされ、借地借家法上、借地人に借地権が生じます。

 

土地の貸借に際し権利金を収受する取引上の慣行があるにもかかわらず、借地人である法人と地主との間で権利金の収受が行われず、法人税法施行令137条の「相当の地代」(注)も収受しない場合には、法人税法上、原則として地主から借地人である法人に借地権が贈与されたものと認定され、法人において贈与された借地権の経済的価値の受贈益が益金の額に算入されます(法人税法22条2項)。

 

(注)「相当の地代」とは、権利金の額の収受がない場合に、更地価額(原則として通常の取引価額ですが、公示価格又は相続税評価額も選択できます。)に年6%の地代水準を乗じた額をいいます(法人税基本通達(法基通)13-1-2)。

 

本問の場合、固定資産税及び都市計画税の年額の3倍に相当する地代水準であり、これは通常の場合「相当の地代」に達していないと考えられます。ただし、法人が土地の賃貸借契約により土地を借受ける場合で、権利金を支払わず、かつ支払う地代が相当の地代に満たないときであっても、賃貸借契約書において法人が将来地主に土地を無償で返還する旨を明記し、かつ地主と法人の連名で無償返還の届出書を地主の所轄税務署長に提出したときには、法人税上はその借地権の経済的価値がないものとして取扱われます(法基通13-1-14(1))。

 

無償返還の届出書が提出されている場合、相続税評価上も借地権の価額は0とされます(「相当地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱い(昭60課資2-58、直評9)」5)。しかし、本問のような同族関係者間の取引であっても賃貸借契約が締結され実際に使用されているときは、土地について借地借家法による借地人に対する強い保護と賃貸借契約に基づく利用の制約があります。このため賃貸借契約により借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その土地の相続税評価額は自用地評価額の80%相当額で評価されます。(同8)。

(2)(株)Aの株式の相続税評価における、土地Bに設定された借地権の相続税評価

 

賃貸借契約に基づき借地権が設定されている土地に無償返還の届出書が提出されている場合、その借地権の価額は上記通達5項により0とされます。 ただし、本問のように被相続人(甲)が同族関係者である同族会社((株)A)に対し土地を貸付けている場合には、土地の評価額が地主個人と借地人の同族会社を通じて100%顕現することが課税の公平上適当と考えられることから、同族会社の株式の評価上、その

 

土地の自用地評価額の20%相当額が純資産価額に借地権の価額として算入されます(前掲通達8後段、「相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭43年直資3-22、直審(資)8、官審(資)30)」)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/3/28)より転載

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第2回:会計事務所M&Aの税務

~事業譲渡に関する税務処理、会計事務所M&Aに関する税務処理~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

 

 

会計事務所M&Aは「事業譲渡」で行われます。

税理士法人の持分を譲渡するということも考えられますが、税理士法人の持分は税理士個人が取得するしかない(税理士法人が他の税理士法人の持分を取得することはできない)のと、税理士は2つ以上の税理士法人の社員になることはできないという制限があるため、税理士法人の持分の売買はハードルが高いです。

 

 

1.事業譲渡に関する税務処理


ではまず事業譲渡に関する税務処理について触れたいと思います。

 

(1)個人事業主が事業譲渡する場合

譲渡する資産の種類によって所得の区分が異なります。

 

①土地建物を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(分離課税)となります。

なお、土地や建物を譲渡したときの譲渡所得は、次のとおり所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得の二つに区分し、税金の計算も別々に行います。

 

 

 

(参考)分離課税の譲渡所得の計算方法

 

 

②事業所得者が商品、製品、半製品、仕掛品、原材料などの棚卸資産を譲渡した場合の所得は、事業所得となります。

 

 

③使用可能期間が1年未満の減価償却資産、取得価額が10万円未満である減価償却資産(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)、取得価額が20万円未満である減価償却資産で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたもの(業務の性質上基本的に重要なものを除きます)を譲渡した場合の所得は、事業所得又は雑所得となります。

 

 

④その他の資産を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

⑤営業権を譲渡した場合の所得は、譲渡所得(総合課税)となります。事業譲渡の対価が資産総額(負債も承継する場合は資産総額と負債総額の差額)を超えた金額は営業権となりますが、この営業権の譲渡は譲渡所得(総合課税)となります。

 

 

 

(参考)総合課税の譲渡所得の計算方法

総合課税の譲渡所得の金額は次のように計算します。短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象になりますが、長期譲渡所得の金額はその1/2が総合課税の対象になります。

 

 

 

※譲渡所得の特別控除の額はその年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。

 

 

(2)法人が事業譲渡する場合

事業譲渡ですので法人が所有する資産が譲渡され、事業譲渡対価がその資産総額を上回った場合は譲渡益として計上され、法人税等の課税の対象となります。

 

 

 

2.会計事務所M&Aに関する税務処理


(1)会計事務所(個人)の場合

事務所の建物は賃借、机やパソコンは一括資産や少額資産、高額なコピー機はリースという事務所が多いです。会計事務所の資産は事業会社に比べると少ないのであまり論点にはなりません。

会計事務所運営に必要なものは顧問先と従業員です。では会計事務所の顧問先や従業員を引き継ぐ対価は営業権の譲渡、つまり譲渡所得(総合課税)となるでしょうか。

 

 

昭和42年に国税庁が通知した見解では、税理士事務所の顧客を他の税理士等に引き継いだ際の対価は、得意先のあっせんの対価ということで「雑所得」であるとしています。

 

(国税庁サイト)

https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/670727/01.htm

 

 

また、平成22年には上記の国税庁の見解と同じく税理士事務所を他の税理士に承継した際の対価は雑所得であるという裁決が出ています。

 

 

(国税不服審判所サイト)

https://www.kfs.go.jp/service/MP/02/0206140000.html

 

 

この裁決は、請求人が以下のように主張したことに対するものです。

 

この裁決では税理士事務所の顧客は「一身専属性の高いもの」とされていて、営業権の存在を否定しています。

つまり、会計事務所を譲渡した際の対価は「雑所得」として処理することになります。

 

(2)会計事務所(法人)の場合

1(2)で説明した通り、事業譲渡の対価は譲渡益として計上され、法人税等の対象になります。

 

 

 

 

 

 

【業界別M&A動向】

IT業界の現状と課題について

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(佐々木 翼)

 

 

〈目次〉

1.IT業界の現状について

2.IT業界の課題

①IT人材の不足

②エンジニアの長時間労働

3.最後に

 

 

 

 

1.IT業界の現状について


IT業界は私たちの生活と密接に関わる業界です。

近年、日本ではデジタル化が進み、IT業界の市場規模は拡大し続けています。
最近よく耳にする話として、インターネットで情報を管理するサービスや、機械学習を通して情報を蓄積させるAI、5Gといった技術が開発されています。
こうした先端技術を駆使したサービスの実用化も増えており、IT業界はますます市場を拡大していくと予測されています。

 

特に、新型コロナウイルス感染拡大は、IT業界にも大きな影響を及ぼしました。
日本のみならず、世界中で人と人の接触が制限され、”おうち時間”という言葉が流行し、外出自粛を余儀なくされる中で、テレワークやオンライン通話アプリの普及が進み、これまで以上にオンラインでのやり取りをする機会が増えていきました。

 

その結果、企業と個人が活用するサービスも徐々にIT化が進んでいきました。

企業は積極的なクラウドを活用し、各業界ではDX化の流れが一気に加速しました。
個人においても、家で簡単に商品を購入できるeコマースを活用する機会が増え、長く続くコロナ禍は、ビジネス社会だけでなく、個人の消費行動までオンライン化している現状にあります。

日々加速するデジタル化の中で、IT業界は技術の進化が求められています。環境の変化が激しく、その中で生き残っていくためには社会のニーズや世界のトレンドを的確にとらえ、柔軟に対応していく能力が必要な業界と言えます。

 

 

2.IT業界の課題


昨今、各業界がIT化を進め、IT業界の将来性は明るいという意見が多く見受けられます。

そんなIT業界の課題はどのようなことが挙げられるのでしょうか。

 

①IT人材の不足

1点目の課題はIT人材の不足です。

 

IT業界は近年需要が急拡大しており、IT人材が不足しています。
前述の通り、IT市場の急成長により、多くの企業はクラウド等の新サービスを導入するようになりました。

 

その一方、日本企業は既存のシステムから脱却ができず、既存システムの保守・運用に貴重なIT人材が利用されている現状があります。
その結果、日本では、IT人材の不足という課題が顕著に表れています。

さらに、少子高齢化による労働人口の減少も重なり、深刻な人材不足に陥っています。
少子高齢化による人口減少とIT業界の拡大に伴う人材の不足が同時に起きる中、IT業界の人材不足は益々問題になると予測されます。

 

以下はIT人材の需給に関する推計結果の表になります。

 

 

 

(出典)経済産業省「IT分野について」:IT人材の需給に関する推計結果

 

 

人材不足はIT企業だけではなく、情報システム部門に配属する人材も不足していき、今後IT人材の不足は益々加速していくと経済産業省も予測しています。

最近ではプログラミングスクールを実施する企業やプログラミングに義務教育の開始等、IT人材を増やす流れは出来ていますが、効果が出ているとは言い切れない現状があります。

 

②エンジニアの長時間労働

2点目の課題はエンジニアの長時間労働です。

 

IT業界の需要が拡大する一方で人材不足が引き金となりエンジニアの長時間労働が業界として起きています。
また、人材不足の他にIT業界の構造がエンジニアの長時間労働を起こしている要因の一つにもなっています。

それはIT業界の多重下請け構造です。
大手から案件が下りてきて、その案件を受けた中堅企業が更に中小企業に振り分けるという構造です。

 

 

(出典):ITメディア

 

 

この多重下請け構造は自社では抱えきれない業務量を別の企業に振り、案件を受けた企業も大きい案件に携わることができるメリットがある一方で、デメリットも存在します。

下請け企業が大手から無茶な納期を強いられ、エンジニアが長時間労働を強いられるという点です。これがエンジニアの長時間労働が起きる要因の一つです。

また、ソフトウェア開発では、複数のエンジニアがチームで仕事を遂行する為、業務の進捗管理や製品の品質管理を把握することが難しく、個人の経験とノウハウにどうしても依存してしまいます。また、企画の構成が不十分な場合、その後の作業に影響が出て、時間外労働などが増えて長時間労働へと繋がります。

慢性的な長時間労働を解決する為に、働き方改革を推進することは一つの解決策となります。例として、在宅勤務を推奨することで、通勤時間を削減し、家族やプライベートな時間を確保しやすくすることが挙げられます。

 

 

3.最後に


今回はIT業界の課題について記事をまとめさせていただきました。
IT業界が抱える課題である、人材不足と長時間労働は深刻な問題であることがご理解いただけたかと思います。

IT業界は上記課題を解決する為にM&Aが活発です。

薄利な多重下請け構造からの脱却をしたい。大手傘下に入り経営の安定と人材不足、技術不足を解消したい。新しい技術を取り入れたいという理由が主な理由です。

IT企業のM&Aには専門知識が必要となる為、専門業者に相談することをおすすめします。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

 


1、はじめに


財産を次世代に生前贈与する場合には、現金よりも不動産などの現物資産の方が有利といわれています。というのも、課税される対象金額は、現金の場合、その金額100%で評価されるのに、土地なら公示地価レベルの80%で抑制的に評価されるだけでなく、家屋はさらに控え目な固定資産税評価額で評価されるからです。そこで、親が生前に不動産を購入して子どもに贈与することが、節税策として検討されてきました。今回、取り上げるのは、こうした事情を背景に最近、税金トラブルとして浮上した事案です(国税不服審判所裁決令和4年11月4日)

 

2、事案の概要


裁決書によると、事案の概要は次のとおりです。

(1)平成29年11月、父親が不動産を8億7千万円で購入5か月後、子であるAに同不動産を贈与した。

 

(2)Aは、購入価額の2分の1に満たないと見られる「財産評価基本通達(以下、通達という。)に従った評価」で贈与税申告をした。

 

(3)その4年後の令和3年になって、税務当局から実地調査の通知があり、通達6の適用の可否判断する旨の説明があった。

 

(4)Aは、急遽、通達以外の方法で求めた不動産の価額、購入価額の2分の1以上とみられる金額で修正申告した。

 

(5)ところが税務当局は修正申告をもとに、令和4年になって過少申告加算税を賦課決定した。

 

(6)Aは、この間の事情について「調査通知の際、調査担当職員から調査の目的が「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定める通達6 《この通達の定めにより難い場合の評価》の適用の可否判断にある旨の説明を受けたことから、土地建物の評価額が売買価格の2分の1を超えていれば通達6の適用はないと考え、修正申告書を提出したにすぎない」と主張し、Aは皆が平等に利用する通達で評価して当初申告したのに、過少申告加算税をかけるのは酷だとして、国税不服審判所の判断を仰ぐことにした。

 

3、問題の所在


贈与税は、もらった財産の価額に対して課税する税金です。従って、もらった財産が不動産などである場合には、その金銭的価値を見積もる必要があります。

 

そこで登場するのが国税庁の「通達」です。実務上、財産評価のモノサシとなっているからです。しかし、この通達に基づいた財産評価では著しく不適当とされる場合も、出てこないわけではありません。そこで、こうした場合に備えて通達の中に、例外的に、国税庁長官の指示を受けてこの通達の評価方法と異なる評価方法で財産を評価する仕組みを置いています。これが「通達6」です。

 

そうすると上記事例では、納税者であるAが通達に従い不動産を評価して申告したけれども、税務当局は、その評価では著しく不適当となると考えたと推定されます。最高裁は昨年4月、賃貸不動産を多額の借入で購入し相続税を0にする節税策を講じた事案で、通達評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、通達の評価方法以外の評価方法、例えば鑑定評価による評価額を採用してもよいとの考えを明らかにしているからです。

 

実務上の問題点として、相続・贈与時の評価時点と財産の購入・売却時点が近いと取引価額が時価相当と認定されるかどうかという点、その上で通達評価との乖離が著しく、実質的な租税公平に反すると認められる場合には通達6が適用されるかどうかという点が特に気になるところです。しかしこの事案ではその点は問われず、過少申告加算税をかけるのは酷かどうかが争点でした。無論これも深刻な問題をはらみます。

4、 国税不服審判所の判断


国税不服審判所は「評価通達の定める評価方法によって評価し、申告したとしても、通達6の定めにより課税庁から是正を求められることがあるように、評価通達自体が、評価通達の定める評価方法が財産の適正な評価額を求める唯一の方法であることをうたっているものではない(中略)。どのような評価方法を用いるかは納税者の判断と責任に委ねられている」とした上で、当初申告に通達評価を利用せざるをえなかった納税者側でどうにもこうにもしようがない客観的事情はないから、当局が過少申告加算税をかけるのは酷ではないと判断しました。

 

このことを突き詰めれば、納税者は通達評価で是正を求められることが予測できるなら、通達以外の評価方法を選択できるはずで、通達評価を利用したのは納税者自身の主観的事情だと聞こえます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/3/13)より転載

【業界別M&A動向】

技術者派遣業界の概況と、M&Aにおけるチェックポイント

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(堺 康行 )

 

 

〈目次〉

1.技術者派遣業界の概況

2.技術者派遣業界のM&A動向と事例考察

①株式会社Success Holdersによる株式会社P&Pの買収(2021年4月)

②三陽工業株式会社による株式会社極東ブレインの買収(2021年12月)

3.技術者派遣業のM&Aにおける売却側のチェックポイント

①採用コストの増加に伴う適切な売価転嫁の進捗

②派遣業務上の適法性

③完成責任を負う請負業務の適切な管理体制構築

④営業、現場対応等業務の権限委譲を進める

4.技術者派遣業のM&Aにおける買収側のチェックポイント

①所属技術者の契約単価、稼働率、技術分野(専門性、転用性)

②売上高・人件費マージンに関する調査

③既存取引先とのリレーション・キーマンの存在有無

5.最後に

 

 

 

 

1.技術者派遣業界の概況


技術者派遣業界は、少子高齢化による人手不足に加え、IT・建設業を中心とした需要高止まりを受け、業界主要企業を中心に業績拡大が続いています。

 

 

データ引用:各社IR資料より

 

 

他方、仕入側となる人材採用においては、厳しい状況が続いています。
コロナ禍により一時的に求人倍率は低下したものの、足下では以前の水準に戻りつつあります。
IT系(約10倍)、建築土木系(約5倍)を始め高い水準で推移しています。

 

また、昨今ではリファラル採用の浸透やフリーランス志向の高まりから、転職市場で経験者を獲得することは一段と難しくなり、採用コスト増(求人・待遇面)による採算性低下は業界内共通の課題となりつつあります。

 

こういった背景から、M&Aは人員確保の有力な手段として活用されており、企業規模を問わず事業承継や買収が活発に行われています。

 

 

データ引用:doda(デューダ)転職求人倍率レポートより

 

 

データ引用:Lancers フリーランス実態調査 2021より

 

 

 

2.技術者派遣業界のM&A動向と事例考察


コロナ禍の中でも、技術者派遣業界ではM&Aのニュースが報告され続けています。

 

業界全体のM&A動向としては、最大手級が海外人材派遣業の買収に取り組む一方、準大手・中堅クラス企業も多く国内M&Aの買い手となっていることが特徴として挙げられます。

 

 

最大手企業による近年の海外M&A事例

 

 

ここでは、最大手以外の企業による2件の国内M&A事例を取り上げ、動向を読み解きます。

 

 

①株式会社Success Holdersによる株式会社P&Pの買収(2021年4月)

 

株式会社Success Holders(JASDAQ上場、エンジニア派遣、メディア事業等)による株式会社P&P(システム開発・派遣等)の買収が2021年4月27日に発表されました。株式会社P&Pは直近期の売上高3.5億円であり、同社ホームページによると従業員数は22人規模とのことです。

 

Success Holderによるプレスリリースによると、「ポストコロナにおいて発展性のある事業・業種」と位置づけ今般のM&Aを決定しており、今後もIT技術者派遣事業の発展性を見込んでいることが推察されます。

 

 

②三陽工業株式会社による株式会社極東ブレインの買収(2021年12月)

 

三陽工業株式会社(非上場、製造業・製造派遣)による株式会社極東ブレイン(機械設計・電気設計の技術派遣等)の買収が2021年12月9日に発表されました。株式会社極東ブレインは1982年設立、従業員数は46人(2021年2月現在)とのことです。

 

三陽工業のプレスリリースによると、CADと設計に関する強みを持つ極東ブレインとの事業上の親和性を見込んでいると読み取れます。

 

この事例のように、設立後30~40年が経過し経営者の代替わりが進む中で、大手資本に参加しその後の発展を図るケースが多いのも、技術者派遣業界のM&Aで昨今増加している様態と言えます。

 

 

3.技術者派遣業のM&Aにおける売却側のチェックポイント


技術者派遣業の経営者様が株式売却を検討する場合のポイントを解説します。
ここで挙げる点で何らか不安点がある場合、事前に解消ができるかを検討することをお勧めします。

 

①採用コストの増加に伴う適切な売価転嫁の進捗

 

前述の通り、業界全体として人材確保難・待遇改善によるコスト増の動向が業界全般に見受けられます。

人材不足は当業界のみならず日本全体の課題と言えます。
顧客との価格交渉によりコスト増加を適切に転嫁し、持続可能な経営状態を保つ努力を行うことが、M&Aや事業承継を円滑に進めるポイントとなります。

 

②派遣業務上の適法性

 

人材派遣業は、2018年に許可制に完全統合されたことなど、法制面やコンプライアンス面の対応が進みつつあります。

その背景には、かつては多重派遣や偽装請負など、法令上問題がある慣習が業界内に横行した反省があり、現在は上場企業を中心に適法性は重視される状況にあります。

第三者監査を受けない中小企業においては図らずも旧来の問題がある体制が残存している場合があります。
M&Aの場になり法務面の不安がネックとならない様、業務フローや契約書などを現行制度に照らして事前整備する必要があります。

特に出向や準委任契約の運用は論点が生じやすいポイントです。あらかじめ労務・法務専門家の意見を受けながら早期に適法性を確認・是正していくことをお勧めします。

 

③完成責任を負う請負業務の適切な管理体制構築

 

技術者派遣業会社では、派遣契約を基本としつつも、一部業務を請負形態で契約している会社は少なくありません。

 

時間単価で稼働分の報酬を得る形態とは違い赤字化リスクを負う形態ですが、プロジェクトマネジメントを含め、適切に管理できる体制・人員が整っていれば、買い手にとっては魅力的なポイントにもなり得ます。

 

請負業務を行っている場合で、直近で見積工数オーバー等による損失が発生している場合、時間単価契約への移行や見積もり精緻化等、何らかの対策をしておいた方が好ましいと言えます。逆にそのような事象がなく少なくとも数年間に亘り安定的な案件運用ができていれば、アピールできるポイントと考えられます。

 

④営業、現場対応等業務の権限委譲を進める

 

売却後に引退を検討される場合は、ご自身がいなくても現在の取引が継続できるよう権限移譲を進める必要があります。

 

 

4.技術者派遣業のM&Aにおける買収側のチェックポイント


逆に技術者派遣業の会社を買収する会社様が検討するべき、業界特有のポイントを解説します。

 

①所属技術者の契約単価、稼働率、技術分野(専門性、転用性)

 

技術者派遣業はその事業の特性上、人員の特性が事業性の大半を占めています。
そのため、技術者ごとの採算性や技術分野、年齢などは細かく検査する必要があります。

 

専門性の高低は基本的には契約単価や稼働率に表れます。但し、特定取引先への依存度が高い場合や交渉を積極的に行っていない場合などでは、適正金額よりも低く評価されている場合があります。買収調査においては、技術者のスキルシートを入手して個別に調査(ヒューマン・デュー・ディリジェンス)を実施し、併せて商流に関する調査を行うのが好ましいと言えます。

 

②売上高・人件費マージンに関する調査

 

前述のように、技術者の採用コストは上昇しつつあります。マージン率が低下しつつある会社については、交渉状況など商流の確認を行う必要があります。

また、所属技術者の転用性が低い(いわゆる潰しが効かない)場合、仮に既存取引先が失注するとマージン率が急落する可能性がありますので、注意が必要です。

 

③既存取引先とのリレーション・キーマンの存在有無

 

技術者派遣業の多くの会社は、従業員の大部分が技術者で占められる組織であり、営業体制は最小限となっていることが少なくありません。
そのような中で既存取引先とのリレーション上、失ってはならないキーマンとなっている営業員や役員が存在する可能性があります。
事前に案件獲得フローなどを確認し、必要に応じてキーマン条項をSPA(株式譲渡契約)に盛り込むなど検討する必要があります。

 

 

 

5.最後に


技術者派遣業界はM&Aが活発な業界の一つです。
現経営者様としては多数の可能性を検討する余地があり、逆に買収を検討される企業様には競争が増す状況でもあります。

当社は技術者派遣業のM&Aについて多数の知見を有しており、業界特有の論点についてもサポートが可能です。
M&Aも一つの選択肢とされる場合、業界動向も含めてご案内させていただきますので、これを機にご検討されてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

[解説ニュース]

建物取壊費用を譲渡費用にする場合のポイントは?

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産所得の計算で争いになった最近の事例

■親の駐車場を使用貸借で子が借りた場合の駐車場収入の帰属

 

 


1、はじめに


古い建物のある土地を高く売るなら、建物を取壊して更地にしたほうが良い、という考えから、一計を案じる資産家も少なくないでしょう。実際、土地を売るために、その上に建っている建物を取壊した場合には、土地を売った場合にかかる税金の計算上も、この取壊費用は費用として利益から控除することができます。
土地等の資産の譲渡に要した費用(譲渡費用)については、所得税基本通達33ー7《譲渡費用の範囲》で次のように例示されています。

 

(イ)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用

 

(ロ)上記(イ)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用

 

ご覧のように建物等の取壊し費用が含まれています。しかし、取壊費用だからといって、どんな場合でも税金の計算上費用として認められるかというと、そう簡単ではないようです。ただ、「土地等を売るために」建物を取り壊したという関係がはっきりしていないと、税金の計算上、不利になることもあるようです。

 

2、具体事例から


建物の取壊し費用が譲渡費用として認められなかった事例があります(国税不服審判所令和3年2月25日裁決)。事実関係の概要は次の通りです。

 

・親からX土地とそこに建つ老朽化したY建物、Z建物を相続したA氏は、Z建物に車が突っ込んだ事故があり、賃借人が退去したのを奇貨として平成25年3月に、約330万円を負担してY建物、Z建物を取壊した。

 

・A氏は平成26年11月に不動産仲介会社とX土地の売買に関する媒介契約を締結し、平成30年8月にX土地の売買契約をBさんと締結し、同月中に引き渡した。

 

・A氏は建物取壊費用をX土地の譲渡所得の計算上、譲渡費用として控除したが、令和2年4月に、所轄税務署がその取壊費用の控除は譲渡費用として認められないとして追徴した。

 

・A氏は、取壊費用はX土地を高く売るために必要だったとして国税不服審判所に審査請求した。

 

・A氏は、「更地にすれば媒介業者に頼らずとも買い手がすぐ見つかると思って、取壊しを行い、当初から解体業者等に本件土地の譲渡の意思表示をしていたものの、媒介契約の締結が遅れてしまっただけ(中略)、取壊しは、譲渡の実現のための時の流れの中で本件譲渡のために行われたもの」と主張した。

 

3、 国税不服審判所の判断


国税不服審判所(以下、審判所という)は、審理に当たり、譲渡所得に対する課税について「原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象」だから「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、(中略)現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきもの」と考え方を示しました。

 

ついで、審判所は倒壊の恐れのあったY建物や、長年1階部分以外には入居者がなかったZ建物が、賃借人の「退去から間もない平成25年3月31日に取壊しが完了した」ことを指摘、「取壊しは老朽化や車の衝突事故による損傷等に起因して行われたものとするのが合理的」と認定しました。

 

さらに審判所は、「その後に締結された媒介契約及び売買契約の目的物は、土地のみとされていたのであり、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、取壊しは媒介契約や売買契約の前提又は内容になっていなかった」とも指摘し、「現実に行われた本件売買契約による本件譲渡を前提とすると、客観的に見て譲渡を実現するために費用が必要であったとは認められない」として問題の取壊し費用は譲渡費用には該当しないと判断しています。

 

4、 まとめ


土地等の譲渡所得を適正に計算・申告しようとする場合には、売買の実態に即して、出したお金が譲渡費用に含まれるかどうかが判定されるため、資産をどのような形で売却するかを、決めておくことがポイントといえそうです。そのため売却してから譲渡所得の申告を考えるのではなく、専門家を交えて最初から考えておくことが必要ではないでしょうか。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/2/27)より転載

【業界別M&A動向】

食品製造業のM&A動向(第2回) ~直近の業界内のM&A動向について~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(金川 明央)

 

 

〈目次〉

1.直近の業界内のM&A動向について

2.検討のポイント

➀異業種を買手とした事例

②ファンドを買手とした事例

③周辺領域を買手とした事例

3.最後に

 

 

 

 

1.直近の業界内のM&A動向について


2021年6月1日から2022年5月末までの1年間で、売手を食品関連企業とするM&Aは公表ベースで47件となっています。
このうち同業種を買手とする割合は51%、異業種/周辺業種を買手とする割合は49%となりました(図A/※1)

 

 

 

 

 

また、上記円グラフに記載の異業種/周辺業種を買手とする23件の事例の内、買手業種別に見てみると、化学・医薬品、商社、外食をはじめとして幅広な業種により構成されています。(図B/※2)

 

 

 

 

これは買手が「川下から川上まで事業領域を拡大する」「新事業領域に進出する」といった目的を基にM&Aを実施していることが起因しています。
また、「事業承継」や「成長支援」をテーマに企業投資を行うファンドによる買収事例も一定数存在します。

前回のコラムでも記載しましたが、同業界は「販路の拡大」や「製造コストの削減による生産効率の改善」を含む様々な課題を抱えており、同業種だけでなく異業種や周辺領域の企業とタッグを組むことにより課題解決につながるケースもあります。

 

また、ビジネス面以外にも「後継者不在」「人材の採用」「人材の育成」など内部的な課題を持つ企業も存在しており、内部体制の強化を期待してファンドに投資を受ける事例もあります。
通常、M&Aの検討から成約まで、またM&A実行後のシナジー構築まで一定の時間を要するケースが大半であるため、課題解決のための一つの方法としてM&Aを検討される場合は想定しているよりも早いタイミングから着手されることを推奨します。
(※1)(※2)レコフデータより弊社作成

 

 

2.検討のポイント


実際に直近1年以内に実施された同業界内のM&Aの事例を基に、本項では同業界のM&Aのポイントについて触れていきたいと思います。

 

➀異業種を買手とした事例

 

 

 

ノフレ食品は、北海道を拠点にした食品の企画販売会社で、レトルト・缶詰・瓶詰を中心とする同社の商品は、様々な賞を受賞するなど商品の企画開発力・ブランド力が高く評価されており、ノフレコミュニケーションズは、ノフレ食品で培った商品企画力やECを中心としたコンサルティングノウハウを活用したサービスを展開しているとのことです。

ノフレ食品は、クロス・マーケティング・グループ社の食品EC部門におけるノウハウを活かしたサービス連携や顧客開拓による更なる会社の売上の拡大を企図していると考えられます。

 

本事例のポイントとしては、売手企業の「企画開発力」「ブランド力」が優れたものであったという点であると考えられます。

事業の根幹である商品力が確立されていることにより、買手企業とのシナジーの構想が描きやすくなります。

 

 

②ファンドを買手とした事例

 

 

 

 

ホソヤコーポレーションは、中華系チルド食品を製造する食品メーカーであり、同社の主力商品である贅沢シリーズ(焼売・餃子・春巻)は、関東圏の食品スーパーマーケットにおいて各カテゴリーのトップシェア商品となっているとのことです。

J-GIAは日本たばこ産業株式会社・株式会社博報堂をアライアンス・パートナーとしており、ファンドによる経営管理機能の強化に加え、2社による生産・品質管理の事業支援やマーケティング支援による更なる企業価値向上を企図しているものと考えられます。

 

本事例においても、売手であるホソヤコーポレーションが既に強固な商品力を有していた点がポイントであると考えられます。

 

 

③周辺領域を買手とした事例

 

 

 

道東ライスは1973年に設立し、道東地区で食品製造業に従事しています。福原は道東ライスの米穀の炊飯加工業、惣菜類の製造ノウハウを活かし、アークスグループの惣菜事業と連携させることにより、惣菜事業の拡大を企図していると考えられます。

 

本案件においては、「製造ノウハウ」「生産拠点」の獲得がポイントとして挙げられます。

食品製造業界においては、生産拠点の獲得を目的としたM&A事例も多く見受けられます。

 

 

3.最後に


食品製造業界のM&Aは、買手の経営戦略の多角化、また売手の抱える課題に応じて、同業種だけでなく、異業種/周辺業種を買手とした事例も増えてきています。

特に売手側がM&Aを検討する動機も「後継者不足」のような内部事情に起因したものだけでなく、「自社の更なる成長」を主眼に置いたケースも増えてきたように見受けられます。

自社の課題解決の一つの選択肢として、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

 

[ゼロからわかる事業再生]

第7回:法的整理か私的整理かの選択

~法的整理とは、私的整理とは、私的整理と法的整理の選択基準~

 

[解説]

髙井章光(弁護士)

 

 

[質問(Q)]

事業再生を実施したいと思いますが、法的整理と私的整理のどちらの手続を取るのがよいのでしょうか。違いを教えてください。

 

 

[回答(A)]

事業再生の手続においては、法的整理(法的再生手続)と私的整理(私的再生手続)があります。法的整理においては、すべての債権者を対象として支払猶予(支払停止)をしてもらい、債権カットを要請することになりますので、買掛先などの取引先に対しても大きな影響が生じます。したがって、取引先に影響を与えないようにするためには、金融機関のみを対象とする私的整理をまず最初に検討することになります。

 

ただし、私的整理は全対象債権者(金融機関)から最終的に同意を得ないと成立しないため、全対象債権者から同意を得ることが難しい場合には、すべての債権者を対象とするものの、多数決によって成立する法的整理を実施することになります。

 

 

 

1.法的整理とは


法的整理(法的再生手続)とは、裁判所の監督下において、法律の規定に基づき手続が決められており、基本的に全債権者を対象として、債権者を平等に取り扱いながら、債権者の多数決によって再建策の成否が決まることになります。主に中小企業を対象とする民事再生手続や、比較的大規模な企業を対象とする会社更生手続があります。

 

メリットとしては、裁判所が監督しながら、法律によってしっかりとした手続の内容が決められているため、比較的手続自体は安定していると評価できることが挙げられます。手続が開始した時点におけるすべての債権者に対して支払が禁じられ、平等に取り扱わねばならないとされます。それらの債権者への弁済条件を内容とする再生計画案が裁判所に認可されるためには、債権者集会にて、対象債権者の多数決の投票による再生計画案への同意(賛成)で決まることになります。民事再生手続であれば、投票を行った債権者の過半数の賛成があり、かつ、その賛成者の債権額が総債権額の2 分の1 以上であることが可決要件とされています(民再法172 の3)。したがって、全対象債権者の同意が必要とされる私的整理よりは再建計画の認可要件は緩やかといえます。

 

2.私的整理とは


私的整理(私的再生手続)とは、裁判所による監督によって再建するのではなく、金融機関などの大口債権者(通常は、金融機関のみ)にて、協議によって債務者の再建を進める手続です。よって、メインバンクによる支援があると進めやすい手続といえます。

 

金融機関を対象とする私的整理においては、一定の手続ルールを決めて行う準則型私的整理を利用することが多く、大規模な企業においては事業再生ADR が利用され、中小企業においては中小企業再生支援協議会が利用されています。裁判所の調停手続を利用して債権者と債務者が協議によって再生を図る手続として、特定調停手続があり、こちらは協議を行う場所は裁判所となりますが、法的整理のようにすべての債権者を対象として、多数決にて再生計画を認可するのでなく、他の私的整理と同様に債権者全員の同意をもって再生計画を成立させるため、私的整理に分類されています。

 

3.私的整理と法的整理の選択基準


私的整理と法的整理の特徴をまとめると以下のようになります。

 

 

 

取引先に迷惑をかけることや取引に対する影響を考えると、私的整理をまず選択することになります。その上で、私的整理を進めることが困難であったり、法的整理の方が望ましい事情がある場合に法的整理を選択することになります。

 

私的整理は金融債権者を対象としてその全員から同意を得る必要があるため、これまでの経緯から感情的になっていたり、経営陣に不正があるなどにより、債務者の再生には同意できないことが明らかな場合には、私的整理を進めてもまとまらないことが明らかですので、法的整理を選択することになります。

さらに資金繰りが厳しく、金融機関への支払のみを止めても資金ショートが生じる危険がある場合には、すべての支払を止める必要がありますので、すべての債権者を対象とする法的手続を取ることになります。取引先等の債権が過大となってしまっていて、再生計画を作成するにおいて、金融機関の債権のみをカットするだけでは資金が足りず、取引先等の過大な債権もカット対象とする必要がある場合にも、法的手続を選択してすべての債権者を対象とすることになります。

 

逆に、法的整理となったことを理由として、取引が破綻したり、契約解除となる危険が高い場合(例えば、ブランドからライセンスを受けて取引を行っている場合には、往々にして、法的整理を行っている先にはライセンスを与えないという対応がなされることがあります)には、なんとしてでも私的整理ができないかという姿勢で検討することになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「会社買収により退職した役員が親会社の役員となった場合の退職金」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した法人の役員退職金

■【Q&A】会社解散後清算人に就任した代表取締役に対する退職給与

 

 


[質問]

甲株式会社は、乙株式会社のすべての株式を買い取り、子会社にすることを検討しています。甲社と乙社の間には何ら親族関係などはありません。

 

乙社の社長丙は、買収(決済)日に乙社を退職し、その翌日に甲社の役員または使用人として勤務する予定です。乙社は丙に対して退職する当日(決済日)に役員退職金を支給予定です。

 

この退職金は、税務上何か支障がありますか。

 

※法人税基本通達9-2-33、9-2-34には合併法人または被合併法人での退職給与の取扱いがありますが、買収により子会社にする場合の取扱いがありません。

 

丙が乙社を退職することにより受給する退職金なので、翌日甲社に入社しても支障がないと考えますが、いかがでしょうか。

 

 

[回答]

1 役員退職給与

 

(1) 役員退職給与

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます。

 

退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等により確定した日の属する事業年度とされていますが、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において損金経理をした場合には、これを認めることとされています(法人税法34、法人税法施行令70、法人税基本通達9-2-28)。

 

役員退職金は、本来、退職時の定時株主総会等で決議しておくべき性格のものでしょうし、退職後最初に開催される株主総会等で退職給与の支給決議が行われるのが一般的であるようです。

 

(2) 役員に対する退職給与の損金算入の時期

法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます(法人税法34)。その退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります(法人税基本通達9-2-28)。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます(同通達但し書き)。

 

 

2 退職所得

 

(1) 退職所得

退職所得とは、退職により勤務先から受ける退職手当などの所得をいい、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、適格退職年金契約に基づいて生命保険会社又は信託会社から受ける退職一時金なども退職所得とみなされます(所得税法30、31)。

 

(2) 退職手当等の範囲

退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって、退職に際し又は退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しないことに留意する(所得税基本通達30-1)。

 

また、労働基準法第20条の規定により支払われる解雇予告手当や賃金の支払の確保等に関する法律第7条の規定により退職した労働者が弁済を受ける未払賃金も退職所得に該当します(所得税基本通達30-5)。

 

 

3 お尋ねについて

 

お尋ねによれば、「甲社は乙社を買収することとなり、乙社の社長丙は、買収により乙社を退職し、甲社の役員(又は使用人)に就任する予定」とのことで、「乙社は社長丙に対して役員退職金を支給する予定」とのことです。

 

(1) 法人が役員に支給する「退職金」で適正な額のものは、損金の額に算入されます(法人税法34②)。

 

その退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、原則として株主総会の決議等により確定した日の属する事業年度とされていますが、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度において損金経理をした場合には、これを認めることとされています(法人税基本通達9-2-28)。

 

したがって、役員に支給する「退職金」は、①退職給与の額が不相当に高額の場合や②退職の事実がない場合を除き、原則として損金に算入されることになります。

 

 

(2) ところで、お尋ねの場合、甲社の乙社の買収に際して、乙社の社長丙が退任し、甲社の役員に就任するとのことですので、法律上、乙社との委任関係が終了し、新たに甲社との委任関係にいたったということとなります。

 

したがって、事実として社長丙が乙社を退任したのであれば、乙社と甲社は別人格である以上、その退職給与の額が不相当に高額でない限り、損金の額に算入できるものと思われます。

 

なお、法人税基本通達9-2-33《被合併法人の役員に対する退職給与の損金算入》及び法人税基本通達9-2-34《合併法人の役員となった被合併法人の役員等に対する退職給与》の取扱いは、打切り支給の取扱いであり、お尋ねの場合とは直接の関係はありません。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年7月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■譲渡所得の金額の計算上、総収入金額を契約効力発生日基準により確定させる場合の留意点

■【事例】中小企業オーナーの遺産分割対策としての会社分割の活用法

 

 

 


1.所得税の固定資産の交換の特例の概要


(1)特例の概要

個人が資産の交換を行った場合、交換も譲渡の一種であるため、交換により譲渡する資産の含み益について譲渡所得の金額として所得税が課税されます。
ただし、個人が①1年以上有していた固定資産を、②他の者が1年以上有していた同種の固定資産と交換し、③その交換により取得した固定資産(「交換取得資産」)をその交換により譲渡した固定資産(「交換譲渡資産」)の譲渡の直前の用途と同一の用途に供する場合において、④この特例の適用を受ける旨等の一定事項を記載した確定申告書を提出したときは、交換譲渡資産の譲渡がなかったものとされます。これが「交換特例」です(所得税法58条)。

 

(2)交換取得資産と交換譲渡資産の時価の差額の要件

交換特例の適用を受けるためには、上記(1)①~④のほか、⑤交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価の差額が、これらの時価のうち、いずれか高い方の価額の20%以内であることが必要です(同2項)。差額が20%超となる交換の場合、この特例の適用はなく通常の譲渡として課税されます。その差額の調整のため交換差金等の授受が行われた場合において、交換譲渡資産を譲渡する個人が、交換取得資産とともに時価の20%以内の交換差金等を取得したときは、その者の所得税の計算上、交換譲渡資産のうち、その20%以内の交換差金等に相当する部分について、譲渡があったものとされます(同1項かっこ書)。

 

 

2.1(2)の要件⑤の判定における留意点


(1)土地・建物と土地・建物とを交換した場合、同種の固定資産の交換が要件であることから、土地は土地と、建物は建物とそれぞれ交換したものとします。「交換譲渡資産」と「交換取得資産」が全体としては等価だが、土地と土地、建物と建物との価額がそれぞれ異なるときは、それぞれの価額の差額が上記1(2)の差額に該当します(所得税基本通達(所基通)58-4)。

 

例えば、交換譲渡資産が土地1,000万円、建物500万円であり、交換取得資産が土地500万円、建物1,000万円である場合、土地は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を取得し、建物は500万円(1,000万円-500万円)の交換差額を支払ったものとして、1(2)の要件を満たすかどうかを判定します。

 

 

(2)交換により同じ種類の2以上の資産を取得した場合に、その取得した資産のうちに譲渡直前の用途と同一の用途に供さなかったものがあるときは、その用途に供さなかった資産は交換取得資産には該当せず、その資産は交換差金等になります(所基通58-5)。

 

例えば、事務所として使用していた時価1,000万円の建物を交換譲渡し、時価600万円の建物と時価400万円の建物とを交換取得した場合に、時価600万円の建物は事務所の用に供し、時価400万円の建物は居住の用に供したときは、その400万円の居住の用に供した建物部分は、交換譲渡資産と同一の用途に供していないため、交換差金等になります。

 

 

(3)一の資産につき、その一部分については交換とし、他の部分については売買としているときは、当該他の部分を含めて交換があったものとし、売買代金は交換差金等に該当するものとして(所基通58-9)、前述1(2)の要件を満たすかどうかの判定をします。

 

例えば、個人Aが所有する建物X及びその敷地200㎡と、個人Bが所有する建物Y及びその敷地180㎡を交換する場合、建物Xと建物Yは等価であるものの、建物Xの敷地は4,000万円、建物Yの敷地は2,000万円であることから、個人Aは建物Xの敷地を100㎡ずつ分筆し、1筆については個人Bの土地と交換し、他の1筆については売買代金を2,000万円として売買契約を締結したとします。この場合、AとBとの間における土地の交換と売買は一つの行為と考え、売買とした部分は交換差金等に相当すると認められます。よって交換とした部分の土地は1(2)の要件を満たさない(4,000万円-2,000万円=2,000万円>4,000万円×20%)ため、交換特例の適用を受けることができません。

 

 

(4)上記(3)の「一の資産」とは、交換特例が土地(所法58条1項1号)、建物(同2号)等の資産の種類の区分ごとに適用されるため、同項各号に掲げる資産の種類の区分の資産をいうものと解されます。

 

例えば、個人C所有の土地Rと個人D所有の土地Sとの交換契約を締結し、土地R上のC所有の建物TについてDに売買する旨の売買契約を締結した場合、建物と土地は別の種類の資産なので、交換特例の適用上、建物Tの売買代金が土地Rと土地Sとの交換に係る交換差金等とされることはありません(平成27年10月15日東京国税局文書回答)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/2/13)より転載

【業界別M&A動向】

物流業のM&A動向(第2回)~物流の2024年問題~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 物流の2024年問題とは

2. 物流の2024年問題が物流業に与える影響

①ドライバー視点

②物流会社視点

③荷主視点

3. 対応策の方向性

4. 最後に

 

 

 

 

1. 物流の2024年問題とは


働き方改革関連法により、2024年4月より「自動車運転の業務」に対し、年間時間外労働上限が「年960時間」に制限されることにより発生する諸問題のこととされています。

2019年4月に施行された同法では、「時間外労働の上限は月45時間、年360時間に制限(原則)」されており、労使間で協定を結んだ場合においても「年720時間に制限(例外)」されますが、物流業界(自動車運転の業務)では実態との乖離が大きいことから、適用迄に「5年間」の猶予期間が設けられたことに加え、労使間で協定を結んだ場合の上限として「年960時間」と定められています。

 

しかし、この「年960時間」といういわゆる特例的な対応についても、同法において「将来的な一般則の適用について引続き検討する旨を附則に規定」とされていることから、今後も同上限時間の維持が担保されるとも限らないのです。

 

 

2. 物流の2024年問題が物流業に与える影響


では、物流の2024年問題がどのような影響を及ぼすのかについて、現時点で懸念されているポイントや可能性についてステークホルダー別の視点で見ていきたいと思います。

 

①ドライバー視点

 

前回(第1回)でも記載したように、一般的にドライバー職では、他の産業と比較して「低所得+長時間労働」であることが顕著です。

これは、言い換えると「労働(=長時間の時間外労働を含む)の対価として受け取る時間あたりの報酬(所得)が、全産業と比して低い」ということに他なりません。

そうした状況下、さらに時間外労働の上限が課されることにより、従来受け取ることができていた諸手当を受け取ることができなくなり、結果として収入が減少するドライバーが出てくる可能性は否定できません。

業界慣習として、長い荷待ち時間や手荷役の常態化が大きな要因とされることも多く、ドライバー個人/物流会社単独ではなかなか解決の糸口を探ることは難しい状況となっています。

 

②物流会社視点

 

物流会社における基本的な構図は、「ヒト(従業員)」が「モノ(荷物等)」を「運送」することにより売上を上げるビジネスモデルです。この運送するという行為において、ヒトの稼働時間に制限が掛けられることにより、業務量が減少した結果、売上が下がる可能性が考えられます。

また、業務量を維持するためにヒトの採用を拡大する場合、固定費の割合が増加(従来の時間外手当<新人員の基本給)となる可能性もあり、利益率が減少する可能性についても考えておく必要があります。加えて、人件費以外の固定費等(営業に必要なコスト:事業所やトラックに係る費用)を削減することは比較的難易度が高いことから、売上だけでなく利益そのものについても注視すべきだと考えられます。

もっとも、利益水準が低下した場合、ドライバーに十分な水準の給与を支払うことが可能であるか否かという問題も顕在化することとなり、物流会社における売上の源泉である「ヒト(従業員)」の確保が難しくなり、負のスパイラルに陥る可能性も懸念されています。

 

③荷主視点

 

上述した物流会社(およびドライバー)視点では、売上や収入面においてマイナスの影響が想定されています。この課題を解決する方策の一つとして物流会社では「荷主からの受注額(=運送単価)の増加でカバーする必要性」が生じます。

しかしながら、2012年以降、既に物流コストは上昇基調を辿っています(図A/※1)。

 

 

 

 

また、国内企業の多くは、物流やロジスティクスについて「コスト削減の対象」としての認識が依然として高い傾向があり、戦略的な取り組みが浸透していないことが挙げられます(図B/※1)。

 

 

 

 

このような状況において、「受注額(=運送単価)の増加」という交渉はやはり難易度が高いと言わざるを得ないと考えます。

(※1)経済産業省「物流危機とフィジカルインターネット(令和3年10月)」より

 

 

3. 対応策の方向性


ここまで、「物流の2024年問題」が各ステークホルダーに及ぼす影響・可能性について触れてきました。当然ながら、物流会社の規模やドライバーの現在の労働環境、荷主との関係性において、各社が置かれている状況は様々だと考えられます。

 

この問題に対して、「労働環境や処遇の改善によるドライバーの採用強化」や「荷主に対する受注額(=運送単価)の増額交渉」といった対応策も、短期的に効果を得られるかもしれません。しかしながら、物流業界の構造的な問題が依然根深い状態であることを考えると、2024年という短期的な問題と捉えることには無理が生じます。

 

前回(第1回)でも触れたように、物流業界の展望として「データの利活用によるDX/効率化」や「同業種・異業種を含めた連携」が必要となると考えられます。

 

このように未来を見据えた変革/変容と、2024年問題で挙げられるような課題について、M&Aによる会社売却や事業売却(=大手グループの傘下となること)が有効な手段とされています。

 

2021年の1年間において、売手を物流関連企業とするM&Aは公表ベースで51件(注1)となっており、うち約8割は同業者を買手とする買収事例となっています(図C/※2)。

 

「既存領域の強化」に加え、「効率化・相互補完」や「新事業の創出」という観点でのM&Aは今後も増加していくと考えられています。

 

 

(注1)国内企業同士の買収事例のみ。事業譲渡や資本参加事例は除く。
(※2)レコフデータより弊社作成 

4. 最後に


「経済・産業の血液」と評される物流業界は、我が国がさらに発展するための非常に重要なファクターとされています。

 

しかしながら、現状では労働環境や人材不足、後継者問題等の様々な課題に直面しており、2024年問題に代表されるような「直ぐに対応が求められる」課題に加え、「将来を見据えた変革」さえも求められています。

 

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aをご検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

[解説ニュース]

【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

■遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

 

 

 


【問】

株式会社X(本店:東京都新宿区)の前代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有していた甲が、令和4年11月に死亡しました。甲の相続人による遺産分割協議の結果、甲が保有していたX社株式は、令和3年より同社代表取締役を務める乙(甲の長女)が全て相続しました。

 

X社は中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)2条の「中小企業者」に該当します。X社株式は相続税評価額が高く、これに係る相続税額の負担が大きいため、X社が円滑化法上の都道府県知事の認定(以下「円滑化法認定」)を受けた上で、乙は相続したX社株式につき、非上場株式等に係る相続税の納税猶予及び免除の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受ける予定です。

 

なお、乙の夫で乙と生計を一にする丙は、㈱Y(本店:横浜市)の代表取締役で、同社の発行済株式(すべて議決権あり)の全部を保有しています。Y社は資本金の額や従業員数が多く、円滑化法2条の中小企業者には該当しません。

 

上記の場合において、乙は甲から相続により取得したX社株式に係る相続税につき、「相続税の特例措置」の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


X社の特定特別関係会社であるY社が中小企業者でないことから、X社は「特例認定承継会社」に該当せず、乙が相続により取得したX社株式については相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説


(1)中小企業者要件とは

非上場株式を相続により取得した者が相続税の特例措置の適用を受けるためには、その非上場株式を発行する会社で、円滑化法認定を受けたもの(以下「対象会社」)が「特例認定承継会社」に該当する必要があります(措法70条の7の6第1項)。

 

この特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【(対象)会社の特定特別関係会社が、円滑化法2条の中小企業者に該当すること】があります(措法70条の7の6第2項1号ヘ、措法施行令(措令)40条の8の6第9項、同40条の8の2第10項3号)。

 

これは、中小企業の事業承継支援を目的とする事業承継税制の趣旨を踏まえ、相続税の特例措置の適用対象を円滑化法上の中小企業者、つまり資本金又は従業員数が一定基準以下の会社に限定する要件です。

 

(2)特定特別関係会社の意義

(1)の「特定特別関係会社」とは、①対象会社(X社)、②対象会社の代表権を有する者(乙)及び③②の者と特別の関係がある者が有する議決権の数の合計が、その総株主等議決権数の50%を超える会社をいいます。

 

また③の「②の(代表権を有する)者と特別の関係がある者」の一つに、「その代表権を有する者と生計を一にする親族」があります(措法70条の7の6第2項1号ハ、措令40条の8の6第7項、同40条の8の2第9項、第8項1号)。

 

よって本問のY社のように、対象会社(X社)や対象会社の代表者(乙)がその会社の議決権を全く保有しない場合でも、対象会社の代表者と生計を一にする親族(丙)が自社の総株主等議決権数の50%超を保有している会社は、対象会社の特定特別関係会社に該当します。

 

(3)本問へのあてはめ

Y社はX社の代表者である乙と生計を一にする丙が総株主等議決権数の全てを有しており、X社の特定特別関係会社に該当します。Y社は中小企業者に該当しないため、(1)の要件を満たすことができません。

 

X社が特例認定承継会社に該当しないことから、乙が甲から相続により取得したX社株式は、「相続税の特例措置」の適用を受けることができません。

 

(4)留意点

相続税の特例措置の適用にあたって、対象会社が特例認定承継会社に該当するか否かの判定上、対象会社の関連会社で中小企業者でないものが特定特別関係会社に含まれないかどうかの確認が必要です。

 

なお、対象会社が特例認定承継会社に該当するための要件の一つに、【特定特別関係会社が上場会社及び風俗営業会社に該当しないこと】があります (措法70条の7の6第2項1号ハ、ニ)。相続税の特例措置の適用にあたっては、この要件を満たすかどうかの確認も必要になります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/1/23)より転載

[解説ニュース]

みなし贈与の株価上昇分は相続時精算課税で相続財産に加算されるか

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続時精算課税制度の適用で、父から子がもらっていた同族会社株式が、相続開始直前に被相続人(父)が同族会社への債権を放棄したことで値上がりしたため、税務上のトラブルにつながった事例が明らかになりました(国税不服審判所令和4年3月16日)。

 

相続時精算課税制度の適用を受けていた非上場株式は、贈与者が亡くなった場合、その相続税の計算上、贈与時の価額で加算される仕組みです。その後の株式の価格変動は、贈与者の相続開始に伴う相続税の計算では、加算されないというのが制度の一般的な理解です。

 

ところが、税金トラブルとなったこの事案では、被相続人が相続開始前に株式の発行会社に対して債権を放棄したことから、みなし贈与により、発行会社の株式の価値が増加しました。

 

このため相続税の計算上、債権放棄によって増加した株式の価値まで加算されるのかが争点となったものです(本件は、他の争点もありますが、ここではみなし贈与により発生した「株価上昇分」に関する争点に絞ります)。

 

2、事案の概要


裁決書によると、事案の経過は次の通りです。

 

①平成21年10月に、請求人(相続人)は、亡くなる前の父親(被相続人)から、請求人自身が代表を務める同族会社A社の株式10,100株などの贈与を受け、翌年にその申告の際、所轄税務署に相続時精算課税制度の選択届出書を提出した。

 

②平成23年6月に、被相続人はA社に対し、A社への貸付金債権合計約5,500万円を放棄する旨の意思表示をした。この際には、相続人はA社株12,600株を保有していた。これは本件会社の発行済株式総数23,000株の50%を超えていた。

 

③請求人は、平成28年11月、相続税の申告書を税務署に提出。

 

④税務署は、令和2年12月、請求人に対し、みなし贈与により発生した株価の価値増加分を相続財産に加算するよう相続税の更正処分等をした。

 

3、 みなし贈与とは


この事案のポイントは、相続開始直前に、被相続人が同族会社に対する債権を放棄したため、放棄による経済的利益が会社の株価を引き上げ、株主に贈与があったと税務署にみなされた点です。

 

これは「みなし贈与」と呼ばれる規定の一つ、相続税法第9条に基づくものです。しかもこの規定の適用を受けた相続税法基本通達9-2(3)では、同族会社の株式の価額が、対価を受けないで会社の債務の免除があったことにより増加したときにおいては、その株主が当該株式の価額のうち増加した部分に相当する金額を、当該債務を免除した者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとし、この場合における贈与による財産の取得の時期は、債務の免除があった時によるものとするとされています。

 

税務署はこの取り扱いにより、債権放棄によって株価が増加した金額について相続時精算課税制度に基づき、相続財産に加算すべきものとしたわけです。

 

しかし請求人は、①株式の評価額の増加に相続税法第9条の規定を適用することは認められない②贈与後の株価の価値上昇分に相続税法9条を適用して贈与とみなして、相続時精算課税制度の対象として相続財産に加算するのはおかしい、として国税不服審判所(以下、審判所という)にその是非の判断を仰ぎました。

 

4、 審判所の判断


審判所は、上記通達について「株主等が同族会社に対する債務免除等によって株式等の価額の増加という経済的利益を取得しているにもかかわらず、株主等に対する債務免除等ではないとの理由で、当該株主等が取得した経済的利益に課税できないとすれば、課税の公平を失するというべき」と整理し、相続税基本通達9-2(3)について「そのような不合理を補う趣旨に基づくものと解され、相続税法第9条の規定の趣旨に沿う」と考え方を示しました。

 

事案に即した検討で審判所は、顧問税理士の提出した評価明細書から「請求人は、対価を支払わないで、債権放棄の時において、被相続人から債権放棄による株式の評価差額23,814,000円を経済的利益として取得したものとみなされる」と認定。

 

請求人が問題としている点について審判所は要旨「株の贈与と本件債権放棄は別個の行為であって、株式贈与に対する課税と債権放棄に対する課税は異なる課税原因に基づくもの(中略)債権放棄による株式の評価額の増加は相続税法第9条の規定の適用がある財産の増加というべきであって、更正処分は、株式の単なる評価額の増加を対象としたものではない」と述べ、「債権放棄に伴う株式の評価額の増加に相続時精算課税制度を適用して課税することは相当である」と判断、請求人の言い分を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/1/11)より転載

[会計事務所の第三者承継(M&A)]

第1回:会計事務所の事業承継について

~税理士事務所の第三者承継(M&A)の実態、M&Aで事務所を売却する理由とは?~

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 中村大相

 

 

 

 

 

1.会計事務所の実態


税理士登録している人数は8万人ほどで、会計事務所数(税理士法人含む)は2.6万ほどです。単純に計算すると1事務所に税理士は3人ほどとなりますが、いわゆるBIG4や大手の税理士法人に多くの税理士が所属しているので、多くの会計事務所は1事務所につき税理士1~2人で運営されています。

 

後継者がいないために、事業承継で悩む中小企業が増えておりますが、会計事務所でも同じことが起きています。税理士1人の会計事務所で、税理士が仕事を辞めたいと思っても職員をクビにしたくないし、かといって事務所内に税理士がいないので引き継げる人もいないし、、、と悩んでいる税理士は多いのではないでしょうか。

 

 

 

2.事業承継型M&Aと成長戦略型M&A


後継者不在の中小企業の事業承継問題を解決する手段として、M&Aを選択する経営者が増えています。後継者がいないので第三者に会社を譲渡するケースです。このようなM&Aは「事業承継型M&A」と呼ばれており、中小企業のM&Aの半分以上が事業承継型M&Aです。

 

一方、後継者の有無は関係なくM&Aを選択する中小企業も増えています。別の事業に進出したいので、今の会社を譲渡しその資金を別事業に投資するというケースや、自力での成長ではなく大手の傘下に自ら入り大手の支援を受けて自らの会社を成長させるというケースがあります。このようなM&Aは「成長戦略型M&A」と呼ばれていて、比較的若い経営者が選択することが多いです。

 

 

 

3.会計事務所のM&A(譲渡)


中小企業でM&Aが増えているのと同様に会計事務所のM&Aも増えています。M&Aを選択する理由も様々です。

 

①引退したいが後継者がいない

●子供がいない

●子供はいるが試験に合格できない

●子供はいるが他の業界で働いていて継ぐ気がない

●後継者と考えていた職員がいつまで経っても試験に合格しない

●事務所にいる税理士は経営者としては頼りない

 

これは、先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「事業承継型M&A」に該当します。中小企業も会計事務所も同じような理由で後継者問題を抱えています。しかも、会計事務所特有の問題として「税理士や公認会計士の資格が必要」ということが挙げられます。どんなに優秀な人であっても、資格を持っていないと承継できないということです。これは医療法人にも当てはまりますが、後継者の幅が中小企業以上に狭いため、より後継者問題で悩む人が多いです。

 

②先行き不安

●毎年顧問報酬の値下げを要求される

●顧問先が年々減少する

●職員を新規採用できない

●複雑化する会計税務(連結、国際税務などなど)に対応できない

●事務所のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応する知識経験、資金もない

●税理士業界全体の将来が心配

 

会計事務所の代表である税理士は、事務所の規模の大小は違えど立派な経営者なので、中小企業の経営者同様に経営に関する様々な悩みを抱えています。事務所運営に不安を抱えている方もいらっしゃるでしょうし、業界全体の先行きに不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。先行き不安であるため、あえて大手の傘下に入りたいと考える方もいらっしゃいます。

 

③他業種への転換

会計事務所の他に、コンサル会社などの別会社を運営している方は多いです。他にも、不動産仲介の会社や保険代理店、中にはファンドを運営している方もいらっしゃいます。会計事務所以外の事業が順調でそちらに専念したいために会計事務所を手放したいと考える方がいらっしゃいます。

 

②と③は先ほど説明した中小企業のM&Aのうち「成長戦略型M&A」に該当します。

 

中小企業のM&Aが増えているのと同様に、様々な理由から会計事務所のM&Aも増えています。

 

 

 

 

4.会計事務所のM&A(買収)


会計事務所を譲渡したいニーズと同様、会計事務所を買収したいニーズも増えています。会計事務所が他の会計事務所を買収する目的について、いくつか説明いたします。

 

①売上の増加

顧問先を引き受けることで、単純に売上の増加につながります。しかし、買収する会計事務所にはそれ以上のメリットが生まれる可能性があります。買収側の会計事務所が税務以外にも様々なサービス(経営コンサル、資金調達、給与計算、保険販売、IPO等々)を提供できる一方で、譲渡側の会計事務所は顧問先に対して記帳代行や決算業務等のサービスしか提供していなかった場合を考えてみますと、既存の顧問先に対して新たなサービスを提供することが可能になり、顧問報酬のアップ(=売上増加)につながることになります。

 

事業会社のM&Aでも同じようなケースがあります。運送業を例に挙げると、小規模であるがゆえに荷主に価格交渉ができず利益率が低いために赤字が継続している運送会社があるとします。その運送会社が、大手の運送会社の傘下に入ることで荷主と強気の価格交渉を行ったり、違う荷物を運ぶことが可能になったりして、一気に黒字に転換することはよくあります。

 

②人の確保

事業規模の拡大のため従業員採用の募集をかけてもなかなか集まらないので、まとまった数の従業員を確保するために他の会計事務所を買収したいというニーズです。今後、会計事務所のDX化が進んでいくでしょうが、まだまだ人の確保は必要です。

 

③新たなエリアへの進出

既存のエリアでの成長が難しくなってきたので、他のエリアに進出したいけど、一から拠点を築くのは大変なので、進出したいエリアにある会計事務所を買収したいというニーズです。地方から東京や大阪、名古屋といった大都市に進出したいと考える方が多いです。また、従業員が何人も税理士試験に合格し、1つの事務所内で資格者の割合が高くなった会計事務所が資格者を活用するため、他のエリアに進出したいと考える方もいらっしゃいます。

 

このように、会計事務所がM&Aを活用することで急成長することが可能になります。

 

 

 

【業界別M&A動向】

食品製造業のM&A動向~食品製造業の現状と課題、食品製造業のM&A事例~

 

 

〈解説〉

ロングブラックパートナーズ株式会社(玉積 範将)

 

 

〈目次〉

1. 食品製造業の現状と課題

課題①:人口の減少

課題②:製造コストの高騰

2. 食品製造業の展望

3. 食品製造業のM&A事例

4. 最後に

 

 

 

 

1. 食品製造業の現状と課題


食品製造業界の2019年度における市場規模は、前年度比+0.25%の約29兆8,571億円とされています(※1)

 

 

 

課題①:人口の減少

 

日本の人口は減少傾向にあり、将来的な食料支出総額は減少することが想定されます(図A※2、図B※3)

そのため、食品製造業においては海外に販路を拡大する動きも見受けられます。しかしながら、海外現地の法律や商習慣情報の不足、海外展開を任せられる人材の確保が困難であることを課題に感じている企業も多いのが現状です。

 

 

 

 

 

課題②:製造コストの高騰

 

食品業界は仕入価格の変動、人件費・物流費の高騰などに起因する製造コスト上昇により利益を圧迫されるリスクがあります。また、競合他社との価格競争により、製造コストの上昇を販売価格に転嫁し難いという現状もございます。

そのため、仕入から販売に至るまでの適切な業務管理や、機械導入などの省人化による生産性の向上が必要となりますが、それらに必要なリソースを鑑みると、改善への着手が困難な中小企業も一定数存在します。

現状は、他の製造業種と比較しても、食品製造業は労働生産性が低い状況にあります。(図C/※4)

 

 

(※1)経済産業省「産業別統計表」より当社作成
(※2)総務省統計局「人口の推移と将来人口」より当社作成
(※3)農林水産政策研究所「人口減少局面における食料推移の将来推計」より当社作成
(※4)経済産業省「産業別統計表」より当社作成

 

 

2. 食品製造業の展望


前述の課題でも言及しておりますが、販路拡大の方策は、今後縮小が予測される国内市場で競合他社とパイを奪い合うか、海外事業を拡大するかに大別されます。

一方で、生産力向上によるコストの削減も並行して求められますが、多くの中小企業においては人材や資金のリソースが不足しており、自社単体での成長戦略に限界を感じている企業も少なくありません。

また、大企業においてもより顧客のニーズを満たすための商品開発や自社商品の更なるブランド力向上を企図しており、選択と集中のためにノンコア事業のカーブアウトを検討するケースもあります。

上記に挙げた、業界内の大企業・中小企業の課題解決策の一つとしてM&Aという選択肢があり、同業種・異業種同士を問わず、今後も食品製造業界のM&Aは活発化していく可能性が高いと考えられます。

 

3. 食品製造業のM&A事例


1件目は同事業を展開している企業によるM&Aの事例です。

東海漬物は浅漬分野の更なる拡大を企図しており、販路や製造ノウハウの共有によるシナジーが見込まれます。食品業界においては、本件のようなエリアの異なる企業同士のM&Aも珍しくありません。

 

 

 

 

2件目は商品力の強化を目的としたM&Aの事例です。

丸大食品は双方の商品力や研究開発力を融合することで、顧客のニーズをより満たせるような商品展開を企図しています。

 

 

 

 

3件目は異業種同士の企業によるM&Aの事例です。

オーイズミは成長戦略の一環で食品事業の強化を企図しており、商品力のみならず、下仁田物産の取得している食品安全システム認証の国際規格にも関心を示しました。

また、食品業界のM&Aにおいては、M&A実行後も自社のカラーを色濃く存続したいとの理由から異業種の買手を希望される経営者様も多くいらっしゃいます。

 

 

 

 

 

4. 最後に


食品製造業界は現状様々な課題に直面しており、各社課題解決に向けた取り組みが求められています。また昨今の新型コロナウイルスの流行を受け、将来の見通しに不確定要素が加わったことから、スピード感を持った経営の舵取りや事業の見直しが必要と考えられています。

こうした状況に対応する前向きな解決策のひとつとして、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 

 

 

[解説ニュース]

速報!令和5年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■速報!令和3年度税制改正案

■速報!令和4年度税制改正案

 

 

~与党税制改正大綱に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

 

■【相続税・贈与税】《「令和5年度税制改正大綱」P41~42、42~43、43、21》

1.相続時精算課税制度の見直し

 

(1)相続時精算課税適用者(受贈者)が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税につき、現行の基礎控除とは別に、課税価格から基礎控除110万円を控除できることとされる。特定贈与者の死亡に係る相続税の課税価格に加算等をされる特定贈与者から贈与により取得した財産の価額は、上記の控除後の残額とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用される。

 

(2)相続時精算課税適用者(受贈者)が特定贈与者から贈与により取得した一定の土地又は建物が、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出期限までの間に災害によって一定の被害を受けた場合は、相続税の課税価格への加算等の基礎となるその土地又は建物の価額は、その贈与の時における価額からその価額のうちその災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除した残額とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用される。

 

2.相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算期間等の見直し

相続又は遺贈により財産を取得した者が、その相続の開始前7年以内(現行3年以内)にその相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合には、その贈与により取得した財産の価額(その財産のうち、その相続の開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計額から100万円を控除した残額)が相続税の課税価格に加算される。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税について適用される。

 

3.教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

(1)直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、次の措置を講じた上、その適用期限が令和8年3月31日まで3年延長される。
①信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合において、その贈与者の死亡に係る相続税の課税価格の合計額が5億円を超えるときは、受贈者が23歳未満である場合等であっても、その死亡の日における非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額を、その受贈者がその贈与者から相続等により取得したものとみなされる。
②受贈者が30歳に達した場合等において、非課税拠出額から教育資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率が適用される。

 

(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る相続税又は贈与税について適用される。

 

(2)直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置について、受贈者が50歳に達した場合等において、非課税拠出額から結婚・子育て資金支出額を控除した残額に贈与税が課されるときは、一般税率を適用することとした上、その適用期限が令和7年3月31日まで2年延長される。

 

(注)上記の改正は、令和5年4月1日以後に取得する信託受益権等に係る贈与税について適用される。

 

4.マンションの相続税評価の適正化の検討

マンションの評価方法について、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ適正化が検討される。

 

 

■【個人所得課税(極めて高い水準の所得に対する負担の適正化税制の創設)】令和5年度税制改正大綱」P32》

特令和7年分以後の所得税について、[その年分の基準所得金額-3億3,000万円]に22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に相当する所得税が課される。

 

(注)「基準所得金額」は、その年分の所得税につき申告不要制度を適用しないで計算した合計所得金額(特別控除額控除後の額をいい、源泉分離課税の対象所得金額を含まない。)をいい、「申告不要制度」は、確定申告を要しない配当所得等の特例及び確定申告を要しない上場株式等の譲渡による所得の特例をいう。「基準所得税額」は、その年分の基準所得金額に係る所得税額(外国税額控除等を適用しない場合の税額をいい、附帯税を除く。)をいう。

 

■【住宅・土地税制(所得税・法人税)】《「令和5年度税制改正大綱」P33、71~72》

1.空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の拡充等

次の措置を講じた上、その適用期限が令和9年12月31日まで4年延長される。

 

(1)本特例の適用対象となる相続人が相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋(その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないものに限る。)の一定の譲渡、又はその被相続人居住用家屋とともにするその相続若しくは遺贈により取得をした被相続人居住用家屋の敷地等で、その相続の時からその譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないものにつき、一定の譲渡をした場合において、その被相続人居住用家屋がその譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、次に掲げる場合に該当することとなったときは、本特例を適用することができることとされる。
①耐震基準に適合することとなった場合
②その全部の取壊し若しくは除却がされ、又はその全部が滅失をした場合

 

(2)相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等(以下「被相続人居住用家屋等」)の取得をした相続人の数が3人以上である場合には、特別控除額が2,000万円とされる。

 

(注)上記の改正は、令和6年1月1日以後に行う被相続人居住用家屋等の譲渡について適用される。

 

2.特定の資産の買換えの場合等の課税の特例の見直し(法人税)

次の見直しを行った上、その適用期限が3年延長される(所得税についても同様)。

 

(1)既成市街地等の内から外への買換えが、適用対象から除外される。

 

(2)長期所有の土地、建物等から国内にある土地、建物等への買換えについて、東京都の特別区の区域から地域再生法の集中地域以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が90%(現行80%)に引き上げられる。また、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税の繰延べ割合が、60%(現行70%)に引き下げられる。

 

(3)先行取得の場合については、特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例及び特定の資産を交換  した場合の課税の特例を除き、譲渡資産を譲渡した日又は買換資産を取得した日のいずれか早い日の属する3月期間(その事業年度を開始の日以後3月ごとに区分した各期間をいう。)の末日の翌日以後2ヶ月以内に、本特例の適用を受ける旨等の一定の事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に届出ることが適用要件に加えられる。

 

(注)上記(3)の改正は、令和6年4月1日以後に譲渡資産の譲渡をして、同日以後に買換資産の取得をする場合の届出について適用される。

 

■【消費税】《「令和5年度税制改正大綱」P77~78》

1.適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置の創設

(1)適格請求書発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、免税事業者が①適格請求書発行事業者となったこと、又は②課税事業者選択届出書を提出したことにより事業者免税点制度の適用を受けられない場合には、確定申告書にその適用を受ける旨の付記をすることにより、その課税期間の消費税の納付税額を課税標準額に対する消費税額の2割とすることができる。

 

(注)上記の措置は、課税期間の特例の適用を受ける課税期間及び令和5年10月1日前から課税事業者選択届出書の提出により引き続き事業者免税点制度の適用を受けられない同日の属する課税期間は、適用されない。
(2)(1)の適用を受けた適格請求書発行事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間中に、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を所轄税務署長に提出したときは、その提出した日の属する課税期間から簡易課税制度の適用が認められる。

 

2.少額の課税仕入れに係る仕入税額控除の特例

基準期間の課税売上高が1億円以下又は特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者が、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に国内において行う課税仕入れについて、その課税仕入れに係る支払対価の額が1万円未満である場合には、一定の事項が記載された帳簿のみの保存による仕入税額控除が認められる。

 

3.適格返還請求書の交付義務免除の特例の創設

令和5年10月1日以後の課税資産の譲渡等につき行う売上げに係る対価の返還等について、その対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合は、その適格返還請求書の交付義務が免除される。

 

■【中小企業税制等(法人税・所得税等)】《「令和5年度税制改正大綱」P63、72~73》

1.中小企業者等の法人税の軽減税率の特例(税率を 15%とする特例)の延長

適用期限が2年延長され、令和7年3月31日までに開始する事業年度につき適用される。

 

2.株式等を対価とする株式の譲渡(株式交付)に係る所得の計算の特例の見直し

令和5年10月1日以後に行われる株式交付について、特例の対象から株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除く。)に該当する場合が除外される(所得税についても同様)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/12/21)より転載

[解説ニュース]

合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

■M&Aの株の売却価額と評価額とのかい離で財産評価基本通達6項が適用された事例

 

1、はじめに


無限責任社員と有限責任社員からなる合資会社の社員に相続が開始した場合、なかなか大変です。というのも、合資会社の社員は死亡により原則として退社することになるからです。しかし、定款の定めでその社員の相続人が亡くなった社員の持分を承継することを決めている場合には、相続人が出資の持分を承継することになるとされます。

 

2、国税庁質疑応答事例の取扱い


そこで合資会社の出資等の相続税評価は、次の二つになるとされています(国税庁・質疑応答事例・持分会社の退社時の出資の評価)。それは①出資持分の払戻請求権を相続する場合と、②相続人が出資持分を承継する場合です。

 

国税庁HPによると、①出資持分の払戻請求権を相続する場合は、「評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達(以下、評価通達という。)の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額」により算定することとされます。会社法第611条第2項で「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」とされているからです。

 

一方、②出資持分を相続人が承継する場合は取引相場のない株式の評価方法に準じて出資の価額を評価することとされます。
最近、出資持分の払戻請求権の相続をめぐる税金紛争で、上記の取扱いを追認する裁決事例が出てきました(国税不服審判所令和4年6月2日)。

 

3、事例の概要


裁決書によると、亡くなったのは、合資会社の無限責任社員で、相続人はこの社員の配偶者と子ら4人。しかも合資会社の社員でした。相続税の申告では、持分払戻請求権5分の1ずつ相続することとし、持分払戻請求権の評価を約1億円としていました。

 

ただ、相続人は相続開始の直後、合資会社の社員として、死亡により退社した被相続人の合資会社に対する持分払戻請求権の払戻金額を0円とすることに同意する「同意書」(平成29年1月28日付)を作成していました。それをもって相続人は当初申告後、持分払戻請求権を0円とする更正の請求をしましたが、税務署に持分払戻請求権を0円にすること認めてもらえませんでした。相続人はさらに再調査請求で食い下がったところ、持分払戻請求権の評価が約8,000万円になったものの、0円にならなかったため、国税不服審判所(以下、審判所という。)に判断を仰ぐことになったものです。

 

相続人は、出資持分の払戻請求権の評価について「評価通達にある出資(の評価)に準ずる評価は不当。持分(払戻請求権)についての評価通達はないのであるから、確定した払戻金額で課税されるべき。本件は0円であり課税されるべきものはない。」と主張しました。

 

4、 審判所の判断


審判所は、「相続開始日より後に合資会社の社員が、払戻請求権の払戻金額を0円にする旨(中略)の同意をし、実際に払戻しが行われていないとしても、被相続人が相続開始日に払戻請求権を取得したとの事実の存在に変わりはないから、その事後的に同意された金額をもって、払戻請求権の相続税法第22条にいう相続開始時における客観的な交換価値としての時価と認めることはできず、相続税の課税価格に計上すべき払戻請求権の価額を0円とすることはできない」としました。

 

また、審判所は評価通達に持分払戻請求権の評価の定めがないことに関し、要旨「払戻請求権の相続開始時における客観的な交換価値としての時価については、持分払戻請求権が、社員の退社により出資の持分が転換したものであって、実質は出資の持分の経済的側面そのものであると認められることからすると、持分会社の出資の評価について定める評価通達194に準じて評価することが相当である。

 

また、会社法第611条第2項が、持分払戻請求権の払戻しに係る計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない旨規定していること、評価通達194が準ずることとしている評価通達178から評価通達193−3までにおいて、会社の純資産価額による評価の方法が定められていることからすれば、持分会社の純資産に着目して当該評価方法により持分払戻請求権の時価を評価することは、会社法第611条第2項に沿うものと認められ、相当と解される」と払戻請求権評価の考え方として、会社法の計算に評価通達の会社の純資産に着目した評価方法が対応していると整理しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/12/12)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」のうち、特定事業用宅地等でこの特例の適用をする場合には、「事業継続」することが適用要件になっています。これに関し、最近、特定事業用宅地等を継いだ相続人が事業主として事業に関与していないといけないのかどうかが問われた裁決が出てきました(国税不服審判所、令和4年6月8日)。今回は、この事例を紹介します。

 

2、小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

3、事例の概要


裁決書によると、問題となった事例は、農業を営む亡父から母が相続した自宅を含む「倉庫、納屋、物置などとして使用される建物の敷地800㎡弱」のうち、330㎡については特定居住用宅地等を選択し、倉庫等の敷地130㎡あまりを特定事業用宅地等として選択し相続税の申告期限まで保有、その課税価格を約100万円として申告していたケースです。

 

ただし、サラリーマンでもある長男は亡父から農地の全部を承継し、相続後、農業に係る所得の申告については長男が確定申告をしていました。このため税務署は、母が農業について長男に対しアドバイスするなど関与していても事業主として事業を継続していないとして特定事業用宅地等としての減額を認めず、課税価額約500万円として増額更正したことから、紛争になったものです。

 

 

4、通達の取り扱い


焦点となったのは、措置法通達69の4-20《宅地等を取得した親族が事業主となっていない場合》。これは、措置法第69条の4第3項第1号イに規定する事業(=被相続人の事業)を営んでいるかどうかは、事業主となれないことについてやむを得ない事情がある場合を除き、原則として事業主としてその事業を行っているかどうかにより判定することを趣旨とするものです。

 

しかし審査請求した長男は、(1)措置法第69条の4第3項第1号イの規定には所得税法上の事業主でなければならないという形式的要件は明記されていないこと、(2)同じ租税特別措置法の「農地の納税猶予」(同法70条の4第1項)で規定されている「農業を営む個人」については所得税法上の事業主となっているかどうかは問わないとされていることを挙げて、上記の通達には合理性がないと反発したのです。

 

 

5、審判所の判断


審判所は、小規模宅地等の特例の「事業」の意義について「直接定めた規定は存在しないが、所得税法上の「事業」と別異に解すべき理由はなく、租税法の解釈の統一性(中略)の要請から所得税法上の「事業」と同じ意義に解すべき」としました。
そのうえで上記通達について審判所は、「親族が事業を営んでいるかどうかは、原則として、事業主として当該事業を行っているかどうかにより判定する旨の定めは、本件特例における「事業」の解釈に沿うもの」だとして、2人が共同して事業を行っている場合には「これらの者が自己の計算と危険において主体的にその経済活動を行っていることが必要であって、単に上記活動に何らかの形で関与すれば足りるというものではない」と判断のあり方を示しました。

 

事実関係について審判所は、おおむね①長男が相続後、主体となって農作業を行っていたこと、②出荷は長男名義で行われ、売上の入金や農薬の購入代金も長男の口座が使われていたこと、③母は、農園の作物の栽培に関し長男にアドバイスしたほか、苗を種から育てる際の水やり等の軽作業を行っていたことを確認。
こうしたことから審判所は、事業に対する母の関与は、「付随的かつ従属的なものであって主体的に役割を遂行しているものではなく、母が事業において自己の計算と危険において主体的に経済活動を行っていたとは認められない」と認定し、「母が事業の事業主となれないことについて、(上記)通達に定めるやむを得ない事情があるため請求人が事業の事業主となっていると認めるに足りる証拠もない」として、特例の適用を認めませんでした。また、小規模宅地等の特例の規定と農地の納税猶予の「農業を営む個人」との関係については、全く別個の趣旨及び目的に基づいて規定された要件だとして、同一に解釈しなければならないものとは解されないとしています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/28)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

■贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

 

【問】

X株式会社(X社)は、発行済株式(すべて議決権あり)の80%を代表取締役の甲さん、20%を妻の乙さんが保有していました。乙さんはX社の株主でしたが、同社の取締役を務めたことはありません。

 

令和4年8月に乙さんが亡くなり、相続人の甲さんと子のAさんが協議した結果、乙さん保有のX社株式はAさんがすべて相続しました。また甲さんは、令和4年10月に代表取締役を辞任後、後継者であるAさんに保有するX社株式を全て贈与し、Aさんは甲さんから贈与を受けた株式につき、非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けるつもりです。

 

上記の場合において、乙さんからAさんが相続したX社株式について、非上場株式に係る相続税の納税猶予の特例(措法70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


乙さんは「特例被相続人」に該当しないので、Aさんが乙さんから取得したX社株式は、相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説


(1)特例被相続人の意義

乙さんからX社株式を相続したAさんが、相続税の特例措置の適用を受けるためには、乙さんが「特例被相続人」に該当する必要があります。特例被相続人は、措法施行令40条の8の6第1項(以下「相続税政令」)1号又は2号の場合の区分に応じ、それぞれに定める者となります。

 

この政令において1号は「2号に掲げる場合以外の場合」と定められているので、まず乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が、「2号に掲げる場合」に該当するかどうかを検討します。

 

乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が「相続税政令2号に掲げる場合」に該当するのは、その相続開始の直前において次の①~③のいずれかの者がいる場合です。

 

①X社の株式につき、既に贈与税の特例措置、相続税の特例措置又はみなし相続の特例措置(措法70条の7の8)の適用を受けている者

 

②贈与税の特例措置に係る「特例贈与者」のうち、措法施行令40条の8の5第1項(以下「贈与税政令」)1号に定める者(注)から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりX社株式を取得している者(①に掲げる者を除く。)

(注)「贈与税政令1号に定める者」とは、次のイ~ニの要件をすべて満たす者をいいます。

 

イ.贈与税の特例措置の適用に係る贈与の時前において、その者がX社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。以下同じ。)を有していたこと。

 

ロ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時および相続開始の直前において、その者および[その者と一定の特別の関係のある個人(親族等)や、その者と一定の特別の関係のある法人(その者がその総議決権の数の50%超を有する会社等。以下あわせて「特別関係者」) ]の全体の有するX社株式の議決権の数の合計が、その総議決権の数の50%超であること。

 

ハ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時、及びその贈与の直前において、その者が有するX社株式に係る議決権の数が、その者の特別関係者のいずれの者の有する議決権の数をも下回らないこと。

 

ニ.その者が、その贈与の時においてX社の代表権を有していないこと。

 

③相続税政令1号に定める者(X社の代表権を有していた個人で、同号の定める一定の要件を満たすものをいう。)から、相続税の特例措置に係る相続または遺贈によりX社の会社の株式を取得している者(①に掲げる者を除く)。

(2)本問へのあてはめ

乙さんが特例被相続人に該当するかどうかの判定上、Aさんが乙さんからX社株式を相続する直前に(1)①~③の要件を満たす者がおらず、乙さんは「相続税政令2号に掲げる場合」に該当しません。次に乙さんが「相続税政令1号に掲げる場合」に該当するかどうかを判定すると、乙さんはX社の代表権を有したことがないので、1号の要件の「相続の開始前にX社の代表権を有していた個人」には当てはまらず、特例被相続人に該当しません。以上により、Aさんは相続税の特例措置の適用を受けることができません。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/15)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】遺留分侵害額の請求に基づき、金銭に代えて金銭以外の資産の移転があった場合の課税関係

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地や家屋を有する場合の純資産価額方式の計算

■【Q&A】相続不動産に信託契約を締結し、信託受益権として譲渡した場合の取得費加算の特例

 

 

【問】

被相続人甲さんは令和2年8月に死亡しました。相続人は長男のAさんと次男のBさんの2人です。
甲さんは、生前Aさんに全財産を相続させる旨の公正証書遺言を作成していました。Aさんは、甲さんの遺言に基づき、相続財産の全てを取得しましたが、これに対しBさんは、令和3年1月、Aさんに対して民法1046条第1項の規定による遺留分侵害額1億円に相当する金銭の支払請求をしました。
AさんとBさんは協議の末、令和4年10月に、AさんがBさんに対し、[1]遺留分侵害額に相当する金銭1億円の支払いに代えて、Aさんが所有するX土地(時価8,000万円)の所有権をBさんに移転し、[2]遺留分侵害額1億円とX土地の時価8,000万円との差額2,000万円については、Aさんが現金でBさんに支払をすることで合意しました。
上記の場合における、X土地の所有権の移転に係るAさんとBさんの所得税の課税関係について、次の通り質問します。
①BさんへのX土地の所有権移転について、Aさんに所得税の譲渡所得が課税されますか
②BさんはX土地を取得後に売却する予定です。その場合、Bさんの譲渡所得の金額の計算上、控除される取得費の額はいくらになりますか。

【回答】

1.結論


①Aさんに譲渡所得が課税され、その総収入金額は、X土地の所有権の移転により消滅した債務の額8,000万円となります。
②X土地の取得費(取得価額)は、X土地の所有権移転により消滅した遺留分侵害額の請求権の額8,000万円となります。

2.解説


(1)遺留分制度に関する民法の改正

平成30年7月の民法(相続法)の改正により、「遺留分の減殺請求」が「遺留分侵害額の請求」に改められ、令和元年7月1日以後に開始した相続より適用されています。改正後の「遺留分侵害額の請求」では、遣留分の減殺請求権から生じる権利を金銭債権とし、遺留分権利者(本問ではBさん)は、受遺者又は受贈者(以下「受遺者等」という。本問ではAさん)に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができることになり、受遺者等は遺留分権利者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払をすればよいこととされています。

(2)遺留分侵害額の請求に基づく金銭の支払に代えて行う資産の移転の課税関係

民法(相続法)の改正により、遺留分権利者は遺 留分侵害額に相当する金銭の支払請求のみを行うことができることになりました。ただ、受遺者等が金銭で支払うことが困難な場合等において、当事者間の合意により金銭の支払に代えて他の財産を給付することも考えられます。そのような方法により、遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求に対して債務の全部又は一部の弁済をすることは、金銭に代えて他の財産の給付をすることで既存の債務を消滅させる、「代物弁済」に該当するものといえます。
そこで所得税基本通達33−1の6は、民法の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求があった場合に、金銭の支払に代え、その債務の全部又は一部の履行として資産(当該遺留分侵害額に相当する金銭の支払請求の起因となった遺贈等により取得したものを含む。)の移転があったときは、原則として、その履行があった時において、その履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる旨を定めています。

(3)当てはめ

①Aさんは、遺留分侵害額に相当する金額1億円の支払請求に対し、金銭の支払に代えて所有している時価8,000万円のX土地を、債務の履行として令和4年10月にBさんに移転し、差額に相当する残りの債務2,000万円については現金で支払っています。AさんのBさんに対するX土地の所有権の移転は、上記(2)の代物弁済に該当することから、Aさんは令和4年10月にBさんに対しX土地を譲渡したことになり、これについて譲渡所得が課税されます。この場合、X土地の所有権の移転により消滅した債務の額8,000万円が総収入金額となります。
② Bさんは令和4年10月に、X土地をその所有権の移転により消滅した遺留分侵害額の請求権の額8,000万円で取得したことになります。よって、Bさんの譲渡所得の金額の計算上控除される取得費の額は、8,000万円となります。

(参考:「令和3年8月東京国税局資産税審理研修資料」193~197頁)

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/10/24)より転載