【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

[解説ニュース]

【Q&A】先代経営者からの贈与による取得前に相続により取得した株式に係る事業承継税制の適用

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

■贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

 

【問】

X株式会社(X社)は、発行済株式(すべて議決権あり)の80%を代表取締役の甲さん、20%を妻の乙さんが保有していました。乙さんはX社の株主でしたが、同社の取締役を務めたことはありません。

 

令和4年8月に乙さんが亡くなり、相続人の甲さんと子のAさんが協議した結果、乙さん保有のX社株式はAさんがすべて相続しました。また甲さんは、令和4年10月に代表取締役を辞任後、後継者であるAさんに保有するX社株式を全て贈与し、Aさんは甲さんから贈与を受けた株式につき、非上場株式に係る贈与税の納税猶予の特例(租税特別措置法(措法)70条の7の5・以下「贈与税の特例措置」)の適用を受けるつもりです。

 

上記の場合において、乙さんからAさんが相続したX社株式について、非上場株式に係る相続税の納税猶予の特例(措法70条の7の6・以下「相続税の特例措置」)の適用を受けることができますか。

【回答】

1.結論


乙さんは「特例被相続人」に該当しないので、Aさんが乙さんから取得したX社株式は、相続税の特例措置の適用を受けることができません。

2.解説


(1)特例被相続人の意義

乙さんからX社株式を相続したAさんが、相続税の特例措置の適用を受けるためには、乙さんが「特例被相続人」に該当する必要があります。特例被相続人は、措法施行令40条の8の6第1項(以下「相続税政令」)1号又は2号の場合の区分に応じ、それぞれに定める者となります。

 

この政令において1号は「2号に掲げる場合以外の場合」と定められているので、まず乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が、「2号に掲げる場合」に該当するかどうかを検討します。

 

乙さんからAさんへのX社株式の相続による取得が「相続税政令2号に掲げる場合」に該当するのは、その相続開始の直前において次の①~③のいずれかの者がいる場合です。

 

①X社の株式につき、既に贈与税の特例措置、相続税の特例措置又はみなし相続の特例措置(措法70条の7の8)の適用を受けている者

 

②贈与税の特例措置に係る「特例贈与者」のうち、措法施行令40条の8の5第1項(以下「贈与税政令」)1号に定める者(注)から、贈与税の特例措置の適用に係る贈与によりX社株式を取得している者(①に掲げる者を除く。)

(注)「贈与税政令1号に定める者」とは、次のイ~ニの要件をすべて満たす者をいいます。

 

イ.贈与税の特例措置の適用に係る贈与の時前において、その者がX社の代表権(制限が加えられた代表権を除く。以下同じ。)を有していたこと。

 

ロ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時および相続開始の直前において、その者および[その者と一定の特別の関係のある個人(親族等)や、その者と一定の特別の関係のある法人(その者がその総議決権の数の50%超を有する会社等。以下あわせて「特別関係者」) ]の全体の有するX社株式の議決権の数の合計が、その総議決権の数の50%超であること。

 

ハ.その者がX社の代表権を有していた期間内のいずれかの時、及びその贈与の直前において、その者が有するX社株式に係る議決権の数が、その者の特別関係者のいずれの者の有する議決権の数をも下回らないこと。

 

ニ.その者が、その贈与の時においてX社の代表権を有していないこと。

 

③相続税政令1号に定める者(X社の代表権を有していた個人で、同号の定める一定の要件を満たすものをいう。)から、相続税の特例措置に係る相続または遺贈によりX社の会社の株式を取得している者(①に掲げる者を除く)。

(2)本問へのあてはめ

乙さんが特例被相続人に該当するかどうかの判定上、Aさんが乙さんからX社株式を相続する直前に(1)①~③の要件を満たす者がおらず、乙さんは「相続税政令2号に掲げる場合」に該当しません。次に乙さんが「相続税政令1号に掲げる場合」に該当するかどうかを判定すると、乙さんはX社の代表権を有したことがないので、1号の要件の「相続の開始前にX社の代表権を有していた個人」には当てはまらず、特例被相続人に該当しません。以上により、Aさんは相続税の特例措置の適用を受けることができません。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/15)より転載