小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

[解説ニュース]

小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

■区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用(生計一が問われる場合)

 

1、はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」のうち、特定事業用宅地等でこの特例の適用をする場合には、「事業継続」することが適用要件になっています。これに関し、最近、特定事業用宅地等を継いだ相続人が事業主として事業に関与していないといけないのかどうかが問われた裁決が出てきました(国税不服審判所、令和4年6月8日)。今回は、この事例を紹介します。

 

2、小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価額の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

3、事例の概要


裁決書によると、問題となった事例は、農業を営む亡父から母が相続した自宅を含む「倉庫、納屋、物置などとして使用される建物の敷地800㎡弱」のうち、330㎡については特定居住用宅地等を選択し、倉庫等の敷地130㎡あまりを特定事業用宅地等として選択し相続税の申告期限まで保有、その課税価格を約100万円として申告していたケースです。

 

ただし、サラリーマンでもある長男は亡父から農地の全部を承継し、相続後、農業に係る所得の申告については長男が確定申告をしていました。このため税務署は、母が農業について長男に対しアドバイスするなど関与していても事業主として事業を継続していないとして特定事業用宅地等としての減額を認めず、課税価額約500万円として増額更正したことから、紛争になったものです。

 

 

4、通達の取り扱い


焦点となったのは、措置法通達69の4-20《宅地等を取得した親族が事業主となっていない場合》。これは、措置法第69条の4第3項第1号イに規定する事業(=被相続人の事業)を営んでいるかどうかは、事業主となれないことについてやむを得ない事情がある場合を除き、原則として事業主としてその事業を行っているかどうかにより判定することを趣旨とするものです。

 

しかし審査請求した長男は、(1)措置法第69条の4第3項第1号イの規定には所得税法上の事業主でなければならないという形式的要件は明記されていないこと、(2)同じ租税特別措置法の「農地の納税猶予」(同法70条の4第1項)で規定されている「農業を営む個人」については所得税法上の事業主となっているかどうかは問わないとされていることを挙げて、上記の通達には合理性がないと反発したのです。

 

 

5、審判所の判断


審判所は、小規模宅地等の特例の「事業」の意義について「直接定めた規定は存在しないが、所得税法上の「事業」と別異に解すべき理由はなく、租税法の解釈の統一性(中略)の要請から所得税法上の「事業」と同じ意義に解すべき」としました。
そのうえで上記通達について審判所は、「親族が事業を営んでいるかどうかは、原則として、事業主として当該事業を行っているかどうかにより判定する旨の定めは、本件特例における「事業」の解釈に沿うもの」だとして、2人が共同して事業を行っている場合には「これらの者が自己の計算と危険において主体的にその経済活動を行っていることが必要であって、単に上記活動に何らかの形で関与すれば足りるというものではない」と判断のあり方を示しました。

 

事実関係について審判所は、おおむね①長男が相続後、主体となって農作業を行っていたこと、②出荷は長男名義で行われ、売上の入金や農薬の購入代金も長男の口座が使われていたこと、③母は、農園の作物の栽培に関し長男にアドバイスしたほか、苗を種から育てる際の水やり等の軽作業を行っていたことを確認。
こうしたことから審判所は、事業に対する母の関与は、「付随的かつ従属的なものであって主体的に役割を遂行しているものではなく、母が事業において自己の計算と危険において主体的に経済活動を行っていたとは認められない」と認定し、「母が事業の事業主となれないことについて、(上記)通達に定めるやむを得ない事情があるため請求人が事業の事業主となっていると認めるに足りる証拠もない」として、特例の適用を認めませんでした。また、小規模宅地等の特例の規定と農地の納税猶予の「農業を営む個人」との関係については、全く別個の趣旨及び目的に基づいて規定された要件だとして、同一に解釈しなければならないものとは解されないとしています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2022/11/28)より転載