[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

【問】

私(妻)はこの度、夫と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に夫名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を夫から財産分与により取得する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(夫における税務上の留意点等については、前回の解説を参照してください。)

 

【回答】

1.贈与税


(1) 離婚後に財産分与する場合

①原則
離婚に伴う財産分与によって取得した財産については、贈与により取得した財産とはならず、元妻に贈与税は課税されません(相基通9-8)。
②例外
次の場合におけるそれぞれに掲げる財産額は、贈与によって取得した財産となり、元妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。
(a)分与財産額が婚姻中の夫婦の協力で得た財産額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合・・・その過当である部分の財産額
(b)離婚を手段として贈与税のほ脱を図ると認められる場合・・・離婚により取得した財産額

(2) 離婚前に財産移転する場合

基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。なお、財産移転時における婚姻期間が20年以上であり、妻が自宅に住み続けるときは、妻において贈与税の配偶者控除(上記基礎控除のほか2,000万円まで非課税)の適用を受けられます(相法21の6)。

 

2.所得税


(1)自宅の取得時期及び取得費

①離婚後の財産分与によって取得した場合

財産分与により取得した自宅については、元妻がその財産分与を受けた時に、その時の価額により取得したこととなり、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所基通38-6)。

②贈与によって取得した場合

贈与により取得した自宅については、贈与者(元夫)の取得時期及び取得費がそのまま受贈者(元妻)に引き継がれ、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所法60①)。

(2)住宅ローン控除

自宅について金融機関からの借入残高があり、その借入を元妻が負担承継する場合には、元妻が住宅ローン控除の適用要件を満たしていれば、元妻は住宅ローン控除の適用を受けることができます(措法41)。

 

3.不動産取得税


不動産取得税は、財産分与の性質により、その取扱いが異なります。婚姻中の財産関係の清算の場合(実質的共有財産を対象とした清算的財産分与の場合)は基本的に課税されませんが、離婚の原因が元夫にあり元妻への慰謝料として行われる場合(慰謝料的財産分与)や、離婚後の元妻への扶養のために行われる場合(扶養的財産分与)等は課税されます。詳細は、タクトニュース782号を参照してください。

 

4.登録免許税(登法9、別表第1)


財産分与により取得した自宅の登記に際しては、「固定資産税評価額×2 %」の登録免許税が課税されます。

 

5.印紙税


前回の解説の2.参照。

 

6.固定資産税(地法343、350、359)


財産分与の翌年以降、元妻は「固定資産税評価額×1.4%」の固定資産税を負担する必要があります。

 

7.最後に


離婚に伴う財産分与により自宅を取得する場合、基本的に元妻に贈与税は課税されませんが、その後その自宅を譲渡する際には、その自宅の取得時期及び取得費は、元夫のものを引き継がず、財産分与時のものとなります。例えば、財産分与により取得した自宅を5年以内に譲渡する場合には、譲渡所得税等の適用税率は39.63%(所得税、復興特別所得税及び住民税の合計)と高率で課税されます(自宅を譲渡する場合の適用税率はタクトニュース№790の1. (1)①(b)参照)。
また、不動産取得税や登録免許税等の課税もあるため、もし元妻が自宅に居住し続ける予定がないのであれば、将来の税負担も考慮して、どのタイミングでどのような財産で分与を受けるか等、事前に検討し交渉する必要があると思われます。税負担の詳細については、税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/07/22)より転載

[初級者のための入門解説]

M&Aで売却しやすい会社とは? ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」④~

 

M&A実務の基礎ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ

今回は、売却しやすい会社の特徴を「業界・ビジネスモデル」「財務面」「組織面」から解説します。皆さまの「売却しやすい会社にするためは?」という疑問にお答えします。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士・本山純(Ginza会計事務所)

 

~売却しやすい会社の特徴は?~


売り手の条件と買い手のニーズが合致したとき、M&Aによる会社の売買が成立します。

そのため、買い手のニーズに合致しやすい会社が売却しやすい会社と言えますが、買い手は具体的にどのようなニーズを持っているのでしょうか。

 

ここでは、一般的に買い手のニーズが高いといわれる事項を「業界・ビジネスモデル」「財務面」「組織面」に分けて見ていきましょう 。

 

 

【業界・ビジネスモデル】

買い手がM&Aで会社を取得する目的は様々ですが、一般的には、新規事業への参入・事業拡大が挙げられます。

 

これらの目的を達成するためには、1から会社を立ち上げる方法もあるでしょう。

しかし、コストや時間が多大にかかってしまうケース、業界の規制や契約等により新規参入のハードルが高いケースには、M&Aによりその業界の既存会社を購入するという選択が有効となってきます。いわゆる参入障壁が高い業界は1からの会社立ち上げが困難なことから、一般的に買い手のニーズが高くなります。

 

また、ビジネスモデルの面では、会員からの毎月の利用料収入がある等、ストック型のビジネスモデルは、売上や利益が激減するリスクが少なく、会員を保有している事自体に価値があることから一般的に買い手のニーズは高くなります。

 

【財務面】

売上・利益が大きい会社が魅力的であることは言うまでもありませんが、何よりも重要なことは、財務状況が健全であることです。

 

利益があっても、多額の借入金、簿外債務や連帯保証等によりリスクが高いと判断されれば、魅力的な会社であっても買い手に敬遠されることとなってしまいます。

 

また、粉飾や不正経理がなく、会社の財務が適切に反映された会計処理がなされていることも重要です。

そのうえで、一般的に買い手が重視するポイントとして以下の事項が挙げられます。

 

・適正な営業利益と営業キャッシュフローが確保できている。

・業績が右肩上がりである。

・内部留保があり、財務面が安定している。

 

これらの条件を満たしていれば魅力的な会社でしょう。

 

しかし、満たしていないからと言って会社の売却が出来ないということではありません。

買い手のニーズと合致すれば、どのような会社でも売却のチャンスはあります。

 

例えば、組織再編により事業を整理し、一部の事業のみを切り出す方法(会社分割)より買い手のニーズにマッチさせるという選択肢もあります。

 

詳しくは次の項目(売却しやすい会社へするには)で。

 

【組織面】

中小企業では、オーナー社長等特定個人の属人的なノウハウや人脈により事業が成り立ち、組織的な事業運営が行われていないケースも多々あります。

 

買い手は商品やサービスを購入するのではなく、会社(事業)を購入するわけですから、魅力的な会社であっても、オーナー社長がいなくなることにより会社の価値が大きく下がるような場合には、事業取得の目的を果たすことが出来なくなってしまいます。

 

これはM&Aに限った話ではありませんが、権限が適切に委譲され組織的な事業運営が行われていることが会社(事業)の継続にとって重要であり、買い手のニーズも高まるといえるでしょう。

 

 

~売却しやすい会社へするには?~ 


M&Aの買い手は、目的をもって会社(事業)を購入します。そのため、前の項目で記載したような買い手のニーズに合致する事業が売りやすい会社といえますが、会社は複数の事業を行っていたり、中には業績が良くない、あるいは将来性のない事業を抱えているケースもあります。

 

このような場合、会社をそのまま売却するのではなく、会社を分割することで売却がスムーズに進む可能性があります。

 

例えば、りんごとみかんのセット200円と、みかん単品120円で売っている場合、割安な200円のセットを望む買い手もいれば、セットよりも多少割高であったとしても120円のみかんを望む買い手もいるので、後者のみかんを望む買い手向けには、りんごとみかんを分ける必要があります。

 

 

 

 

会社はこのように単純に分割できるものではありませんが、例えばそれぞれの事業価値の源泉ごとに会社を分割し売却単位をスリム化することで、買い手のニーズにマッチできることがあります。

 

~中小企業では個人依存経営から組織的経営への変革がポイント~

これまでは、M&Aというと大企業や相当規模の事業が対象となるというイメージをもたれる方が多かったかもしれません。

 

しかし、近年では、中小企業経営者の高齢化による事業承継問題等の解決策としても、中小企業でのM&Aに注目が集まっています。

そこで、ここでは中小企業のM&Aで特に解決しておくべき課題を取り上げたいと思います。

 

中小企業では、限られた人材の中で事業を運営している場合も多く、経営者の経営力や特定個人の営業力、属人的なノウハウ等、事業価値の源泉が、個人的な能力に依存している場合が多々あります。

しかし、事業価値の源泉が個人の能力に依存している場合、その個人がいなくなってしまっては事業価値が大幅に下落してしまう可能性が高いといえます。

 

そこで、事業価値を会社組織で維持できる仕組みづくりを行うことが重要となります。

 

具体的には、個人の能力に依存していた事業価値の源泉となる知識やノウハウを会社全体(複数人)で共有できる仕組みを作るとともに、意思決定を個人ではなく組織で行える組織形態を作り、適切な権限委譲を行うことで、特定個人への依存度を低くする必要があります。

また、組織的経営のための形づくりだけではなく、その価値源泉を維持するための根幹となる経営理念を明確にし、浸透させることが重要となります。

 

これは、M&Aに限らず、親族承継・従業員承継の場面でも検討する必要がある事項ですので、自社の個人依存度がどの程度か、経営者や特定個人が事業に関与しない場合の姿を想像することで、個人依存度を判定してみてはいかがでしょうか。

 

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「子が事業を引き継いだ場合の引き継いだ資産に係る減価償却」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

個人事業主の父が廃業して息子が事業を引き継ぎました。父が事業で使用していた機械装置をそのまま息子が使用しているのですが、この場合、使用貸借の扱いで、息子がその機械を減価償却して経費にすることは可能でしょうか。
※息子の機械引継ぎの仕訳 機械装置(帳簿価額)/事業主借(帳簿価格)

 

[回答]

所得税法第56条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が、居住者の営む・・・・・・事業から対価の支払を受ける場合には、・・・・・・その親族の対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る・・・・・・所得の金額の計算上、必要経費に算入する。」と規定していることから、その親族が対価の支払を受けていない場合には、形式的には、配偶者その他の親族の有する資産に係る必要経費に算入されるべき金額は、事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費にされないことになります。

 

しかしながら、所得税法第56条の規定が事業に係る所得における世帯単位課税を考慮した規定であることに着目し、事業主と生計を一にする配偶者その他の親族の有する資産を事業主が無償で使用している場合であっても、その対価の授受があったものとしたならば所得税法第56条の規定により事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入される金額(その親族の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額)を事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができることとされています(所基通56-1)。

 

したがいまして、事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が所有する資産を事業主が無償で事業の用に供している場合であっても、その資産に係る固定資産税、修繕費、減価償却費等については、事業主の事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができることになります。

 

ご照会の事例につきましては、父親と息子が生計を一にするか否かが明らかではありませんが、父親と息子が生計を一にしているのであれば、父親の所有する機械装置を息子が使用貸借(無償)で事業の用に供している場合には、その機械装置に係る減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができると考えられます。

 

一方、父親と息子が生計を一にしていないのであれば、所得税法第56条及び所得税基本通達56-1の適用がありませんので、その機械装置に係る減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと考えられます。

なお、上記の検討は、息子が父親の事業を引き継いだが、父親の所有していた機械装置は息子に引き継がれず、息子は父親から使用貸借で事業の用に供している場合を想定しています。ご照会には、「息子の機械引継ぎの仕訳 機械装置/事業主借」と記載されていますので、事業の引継ぎに際して機械装置も引き継がれている(息子が購入している)のであれば、息子の所有する機械装置を息子が事業の用に供していることになりますので、その機械装置の減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができると考えられます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月9日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

相続税の個人版事業承継税制の対象資産(「特定事業用資産」)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 1.相続税の個人版事業承継税制の概要


相続税の個人版事業承継税制とは、下記2の特定事業用資産を所有し、事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)を行っていた先代事業者として一定の者(被相続人)から、後継者として一定の者(特例事業相続人等)が、2019年1月1日から2018年12月31日までの相続又は遺贈(相続等)により、その事業にかかる特定事業用資産の全部を取得した場合に、その特定事業用資産にかかる相続税について、担保の提供その他一定の要件を満たすことにより納税が猶予され、後継者の死亡等により猶予されている相続税の納付が免除される税制をいいます(租税特別措置法(措法)70条の6の10第1項)。

 

2.特定事業用資産の意義


(1)特定事業用資産の範囲

「特定事業用資産」とは、先代事業者の事業の用に供されていた次の資産です。ただし、その贈与または相続等の日を含む年の前年分の事業所得にかかる青色申告書(措法25条の2第3項に規定する65万円の青色申告特別控除にかかるものに限る。)の貸借対照表に計上されていたもの限ります(措法70条の6の10第2項1号、同施行規則23条の8の8第2項等)。

 

①宅地等
事業の用に供されていた土地または土地の上に存する権利で、建物または構築物の敷地の用に供されているもののうち、棚卸資産に該当しないもので、面積が400㎡以下の部分。

 

②建物
事業の用に供されていた建物で、棚卸資産に該当しないもののうち床面積の合計が800㎡以下の部分。

 

③減価償却資産
②以外の減価償却資産のうち、構築物、機械装置、器具備品、船舶等、一定の自動車等、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形減価償却資産。

 

(2)先代事業者の生計一親族の所有する資産

上記(1)の「先代事業者」には、先代事業者と生計をーにする配偶者その他の親族が含まれます(措法70条の6の10第2項1号かっこ書)。したがって、先代事業者が配偶者の所有する土地の上に建物を建て、事業を行っていた場合におけるその土地など、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産のうち上記(1)①~③のいずれかに該当するものについても、特定事業用資産に該当します。

 

ただし、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産が特定事業用資産に該当するためには、(1)の下線部の通り、その資産が先代経営者の一定の青色申告書にかかる貸借対照表に計上されている必要があります(措法70条の6の10第2項1号)。所得税の青色申告にかかる貸借対照表に、同一生計親族名義の資産を計上する処理を通常は行わないので、今後の取扱いについては国税庁通達等を確認する必要があります。

 

3.小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合


2(1)①の宅地等につき、先代事業者および先代事業者と生計を一にする親族(以下「先代事業者等」)から相続等により取得した宅地等について、措法69条の4の小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合には、その適用を受ける小規模宅地等の区分に応じ相続税の個人版事業承継税制の適用が次のとおり制限されます(措法70条の6の10第2項1号イ、2号へ、同施行令40条の7の10第7項)。

 

 

上図①のとおり、特定事業用宅地等にかかる小規模宅地等の特例と相続税の個人版事業承継税制については併用できず、どちらかを選択することになります。

 

相続税の個人版事業承継税制は100%納税猶予・免除が可能ですが、後継者が納税猶予を継続し、免除に至るまでには、原則として終身の事業継続や資産保有が求められます(措法70条の6の10第3項、第15項等)。小規模宅地等の特例に比べて要件が厳しいため、後継者が相続等による取得する特定事業用資産の価額のうち宅地等がその大半を占める場合には、通常は小規模宅地等の特例を選択するケースが多いと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/07/08)より転載

[解説ニュース]

最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

 1.はじめに


個人でアパート経営をしている場合、不動産所得の計算上、必要経費になる支出の範囲で、税務調査で否認されるかどうか不安になるケースがあります。むろん、必要経費になることがはっきりしているものは、きちんと必要経費に算入して適切な課税所得の計算につなげたいものです。

 

不動産所得は、所得税の計算上、アパートの家賃や地代などの収入から必要経費を差し引いて計算します。不動産所得の必要経費となるもので、よく知られているものといえば、アパートなどの資産についての固定資産税・都市計画税、火災保険などの保険料、減価償却費や修繕費などです。これらについては、大きな争いの種になることはありません。

 

必要経費とは原則、「売上原価その他当該総収入金額を得るために直接した費用及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所法37)です。このうち、家事上の経費と明確に区分でき「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」については、税務署と見解を異にするケースが少なくないところです。

2.最近の裁決から


最近の裁決で「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」で、税務署が否認した支出のうち、国税不服審判所が一部を必要経費と認めた事例が出ています(国税不服審判所平成30年9月12日)。

 

裁決書によると、勤め先を退職する前から不動産賃貸業を始めていたAさんは、退職時期をまたいで不動産賃貸業の業務に励んでいたといいます。

 

しかし、平成25年分から平成27年分の所得税の確定申告では、必要経費をめぐって税務署と争いになり、最終的に国税不服審判所に判断してもらうことになりました。

 

具体的に問題になった支出は①業務の参考図書等の費用「図書研修費」約34万円、②業務を円滑にする「接待交際費」約46万円、③福利厚生費などです。

3.考え方の基本


国税不服審判所は、まず「所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じた費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連があるというだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である」と述べ、考え方のポイントを示しました。一方、家事関連費については、「「必要経費」と「家事費」の両要素が混在しているため、原則として必要経費に算入できないが、所得税法第45条第1項第1号及びこれを受けた所得税法施行令第96条第 1号の規定により、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する経費に限り必要経費に算入され、また、同条第 2 号の規定により、青色申告者については、家事関連費のうち業務の遂行上必要である部分が主たる部分でなくても、取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分がある場合には、その部分に相当する経費は必要経費に算入される」と整理しました。

4.必要経費と認められたもの


そのうえで国税不服審判所は、具体的に次のような支出については、必要経費になると判断しています。

 

ア、不動産賃貸経営及び住まいのリフォーム並びに会社経営及び住宅建築上のノウハウなどの建築工事に関して書かれた書籍を購入するための支出のうち、コンクリートのひび割れ補修等に活用された書籍等の購入費用。

 

Aさん自身においても、賃貸物件の維持管理に際し、コンクリートひび割れ用塗布剤等を購入し、賃貸物件の各室の機器や備品の交換、補修、修理等、各種の作業を行っていることが認められたからです。

 

イ、 事業に係る不動産の管理会社である管理会社Zを訪問した際の手土産代及び管理会社のスタッフに対する謝礼のためのギフト券の購入費。

 

Aさんは、不動産管理会社に対してお菓子を贈答している事実が複数回認められ、そして、平成26年において管理会社Z等が管理する物件に係る収入が前年に比して増加している事実が認められる。この支出は、不動産管理会社との円滑な取引関係を維持するために支出されたものと認めることができるから、当該支出は客観的にみて業務に直接関係し、かつ、業務の遂行上必要な費用であると認められたからです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/07/01)より転載

[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

 

【問】

私(夫)はこの度、妻と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に私名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を妻へ財産分与(*)する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(*) 相手方の請求に基づき、離婚した者の一方から相手方に財産を渡すことを財産分与といいます(民法768)。

(妻における税務上の留意点等については、次回以降に解説予定です。)

 

【回答】

1.所得税


(1) 譲渡所得課税
① 離婚後に財産分与する場合

 

(a)譲渡所得
所得税法上、譲渡所得の基因となる財産(本問の場合は自宅)の財産分与があった場合には、財産分与時に、元夫は、その自宅を財産分与時の価額により元妻へ譲渡したものとして取り扱われます(所基通33-1の4)。
自宅を財産分与した場合の譲渡所得金額は、次の算式により計算します(所法33、措法35①②⑪)

 

〔算式〕
財産分与時の自宅の時価 -(取得費+譲渡費用)- 居住用財産の譲渡所得の特別控除3,000万円※

 

※「居住用財産の譲渡所得の特別控除」の適用については、自宅の所有期間や居住期間についての制限はありません。したがって、この特別控除を適用することにより、元夫の譲渡所得金額がゼロになることもあります。ただし、この特別控除の適用を受けるためには、元夫の財産分与年分の確定申告書にこの規定の適用を受ける旨等の記載をし、この財産分与に係る譲渡所得の明細書等の添付をする必要があるため、確定申告をし忘れないよう留意が必要です。なお、この3,000万円の特別控除の規定は、配偶者のような特別関係者等への譲渡においては適用できないため、この規定の適用を受けたい場合には、離婚後に財産分与する必要があります。

 

(b)税率
上記(a)の算式により計算した譲渡所得金額がある場合(上記(a)の算式により計算した結果がプラスとなる場合)には、その財産分与のあった年の1月1日現在における自宅の所有期間や譲渡所得金額に応じて、次の税率による所得税等が課されます(措法31、31の3、32①、地法附34、34の3、35、復興財源確保法9、13)。

 

② 離婚前に財産移転する場合

財産移転が離婚前に行われる場合には、基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、夫において譲渡所得課税はありません。

(2) 離婚後の新たな住宅ローン控除の適用

離婚に伴う自宅の財産分与に際し、元夫が、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除(上記1.(1)①(a)※印参照)又は所有期間10年超の場合の譲渡所得の軽減税率(上記1.(1)①(b)の14.21%)等の適用を受けた場合には、その後3年以内に元夫が新たに借入をして自宅を取得等したとしても、元夫は住宅ローン控除の適用を受けることができません(措法41⑮)。

2.印紙税(措法91②)


財産分与契約における自宅の価額に応じて、次の印紙税が課税されます。

3.固定資産税(地法343、350、359)


固定資産税は、1月1日現在の自宅の所有者に対して課税されます(固定資産税評価額×1.4%)。したがって、年の途中で財産分与をして所有者が元妻に変わったとしても、その年分については元夫が納税義務者となります(別途、元夫婦間の合意で固定資産税の精算を行うことはできます)。

4.最後に


離婚に伴って自宅の財産分与をする場合、実行のタイミング等により、課税関係が異なります。詳細は税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/06/24)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。今回は、事業承継税制(特例措置)の適用要件の一つである「先代経営者等である贈与者」の要件についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】相続税・贈与税の事業承継税制について~資産保有型会社の判定で採用する基準~

 

 

 


[質問]

事業承継税制におけるこのたびの特例措置を適用したく、作業を進めています。その適用要件のなかで、「先代経営者等である贈与者」の要件について以下の3つを定めています。

 

(1) 会社の代表権を有していたこと
(2) 贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係が有る者で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと。
(3) 贈与時において、会社の代表権を有していないこと。

 

当社は、「先代経営者等である贈与者」にあたる者が、取締役に就任しているものの、代表取締役に過去に一度も就任しておりません。
そのため、これから代表取締役になるべく定款変更(共同代表取締役)し、就任しようと思っています。このスキームで(1)の要件を満たすでしょうか。

 

[回答]

1 租税特別措置法第70条の7の5(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例)に規定する「特定贈与者」について、同法施行令第40条の8の5第1項第1号は「・・・特例認定贈与承継会社(略)の代表権(制限が加えられた代表権を除く。イ及びロにおいて同じ。)を有していた個人で、・・・」と規定しています。

 

2 したがって、贈与の前に会社の定款を変更して贈与予定者を共同代表取締役に就任させ、その旨を登記した後に、特例承継計画を都道府県に提出して経営承継円滑化法の確認を受け、その後、株式等の贈与前に共同代表を辞任すれば適用要件の「会社の代表権を有していたこと」に該当します。この場合、定款等において贈与予定者の代表権に制限を加えないことが必要です。

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年6月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

【問】

Aさんと妻のBさんは、自宅を新築することにしました。自宅の建築に先立ち、Aさん夫婦は資金を出し合い、2019年5月に土地を対価3,000万円で取得(AさんとBさんが1,500万円ずつを負担し、持分1/2の共有)しました。Bさんはこの土地の取得に際し、実父から2019年1月に現金700万円の贈与を受けています。Aさんは2019年中にその土地の上に自宅を対価2,000万円で建築(建築費用は全額Aさんが負担し、Aさんの単独所有)、引渡しを受けて同年中に居住する予定です。

 

上記の計画通りに2019年中に自宅の建築が完了し、Aさんが同年中に引渡しを受けて夫婦で居住した場合、Bさんが実父から贈与を受けた現金700万円は、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税」(租税特別措置法(措法)70条の2。以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

 

 

【回答】

1.結論


上記の場合、贈与を受けたBさんは、実父から贈与を受けた金銭の全額を充てて自宅の敷地を取得するものの、その自宅の新築をしない(贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までにその土地上に自宅を新築するのはAさん)ことから、後述2(2)②の要件を満たすことができないので、本特例の適用を受けることができません。

 

2.解説


(1)本特例の概要と基本的な要件

その年の1月1日において20歳以上である等の一定の要件を満たす個人(「特定受贈者」)が、父母等の直系尊属から贈与により取得した①自己の居住用の家屋(以下「自宅」)の新築もしくは取得(以下「新築等」)、②これらの自宅の新築等とともにする、その敷地として使用される土地等*の取得(その自宅を新築する場合に、それに先行してする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得を含む)又は③一定の増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)の全額を、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、①、②又は③の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合には、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の限度額(自宅の取得に係る契約の締結期間や、その自宅の性能、自宅の新築等の代金等に含まれる消費税の税率に応じて300万円~3,000万円)までは贈与税が非課税とされます(措法70条の2第1項等)。
*土地及び土地の上に存する権利をいいます。

(2)自宅を新築する前にその敷地となる土地を先行して取得した場合の留意すべき要件

表題の要件としては、次の①及び②があります。

 

①一定の土地等の取得であること
(1)の下線部の通り、本特例の適用対象となる自宅の新築もしくは取得には、自宅の新築もしくは取得とともにする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得が含まれます(措法70条の2第1項1号)。そして「土地等の取得」には、自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等の取得が含まれます(同かっこ書)。

 

この「自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等」の具体例は、次の通りです(措法通達(措通)70の2-3、70の3-2)。

イ.自宅の新築請負契約の締結を条件とする売買契約によって取得した土地等
ロ.自宅を新築する前に取得した、その自宅の敷地として使用されることになる土地等

 

②金銭の贈与を受けた人により、自宅の新築が行われること。
個人が贈与を受けた金銭の全額が①ロの土地等の取得に充てられ、自宅の新築の対価に充てられなかった場合でも、その贈与を受けた金銭は本特例の適用対象となる「住宅取得等資金」には該当します(措通70の3-2(注)1)。

 

ただし、贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までに、その贈与を受けた人が自宅の新築をしていない場合には、その贈与を受けた金銭は本特例の適用を受けることができません(同ただし書)。

(3)本問へのあてはめ

ご質問の場合、Bさんは実父から贈与を受けた金銭を全て自宅の敷地の購入代金に充てる一方、自宅の建築代金を全く負担しておらず、Bさんは自宅を新築していません(新築したのはAさんです)。よってBさんは上記(2)②のただし書により、本特例の適用を受けることができません。

 

Bさんが本特例の適用を受けるためには、実父より贈与を受けた金銭の一部又は自己資金により自宅の建築代金を負担し、自宅にも相応の持分を有することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/06/17)より転載

[初級者のための入門解説]

会社を半年で売却できる?-M&Aのスケジュール- ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」③~

 

M&A実務の基本ポイントを、わかりやすく解説する「ゼロから学ぶ『M&A超入門』」シリーズ。

今回は、「全体スケジュール」「従業員や関係者への伝え方」について考えてみたいと思います。「M&Aで相談先は?」「M&Aではどれくらいの期間で売却できる?」「従業員にはいつ伝える?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aをすると決めたら


①M&Aの動機

M&Aによる事業売却の動機としては、従前は選択と集中によるノンコア事業の売却、事業再編、資金調達、リタイヤによる事業の売却ケースなどがありましたが、最近は事業承継がらみのケースが多いように感じます。事業承継でM&Aを選択するのは後継者がいないケースが多数です。つまり、親族や役員・従業員の中に後継者がいない場合、事業自体をM&Aで売却する方法が選択されております。

 

 

②M&Aの相談先

M&Aをしようとする場合、先ずはどこに相談したらよいか悩むところです。M&Aの相談先としてまず思い浮かぶのは、顧問の「公認会計士や税理士」です。日本税理士会連合会は、「担い手探しナビ」を運営していて、税理士経由で「担い手探しナビ」に登録することで、売り手であれば買い手を、買い手であれば売り手を探すことができます。しかし、一般的な会計事務所はM&Aの知見が乏しい場合が多いので、この「ZEIKEN LINKS(ゼイケンリンクス)」を使ってM&Aに詳しい会計事務所を探すのも一法です。

 

③M&A仲介会社の利用

また、「M&A仲介会社」を利用するのは一般的な方法です。M&A仲介会社は、M&Aマーケットに広いネットワークを有しているので、売り手、買い手共に短期間のうちに「相手先を探し」てもらうことができ、「売買交渉」「デューデリジェンス」「バリエーション(価値評価)」「売買契約書の作成」までフルパッケージでしっかりと支援してもらえます。他方で、専門家をフルに活用するので最低でも数百万円の費用がかかります。

 

④M&Aマッチングサイトの利用

「マッチングサイト」を使って、基本的なことは自分で対応する方法も、最近は流行っております。マッチングサイトとは、主にインターネット上で、売り手と買い手がそれぞれ「M&A情報」を掲載し、手軽に、かつ安価なコストで、自分自身で「相手先を探せる場所(サイト)」です。

 

端的に言うと、売り手は、まず「ノンネーム」といわれる情報(対象会社が特定できないように、業種、地域、おおよその年商のみ)を掲載して買い手からの応募を待ち、買い手は、業種や地域を絞った上で希望する「M&A候補を探す」ことができます。売り手と買い手がうまく出会えた場合は、次のステップとして、さらに「詳細な情報を交換」して、お互いの希望がマッチすれば「売買条件」を詰め、最終的に「売買契約(M&A)」に至ります。

 

専門家の関与が少なければ少ないほどコストは安価ですむので、中小企業のM&Aに適していると言えます。そうはいっても、多くの中小企業者はM&Aの経験と知見が不足している場合が多いので、マッチングサイトを提供する会社や組織は、公認会計士・税理士やM&Aアドバイザリー等、各種専門家と提携していて、マッチングの場の提供だけでなく、売買交渉やデューデリジェンス、バリエーション業務を支援するケースもあります。

 

⑤M&Aアドバイザリーの特徴と費用感

「M&Aアドバイザリー(仲介会社やマッチングサイト)」のそれぞれの特徴と費用のイメージは以下のとおりです。

 

 

M&Aの全体スケジュール


M&Aの一般的な流れは、以下のとおりです。まずは「相手先探し」から始まり、相手先の候補が見つかると「秘密保持契約」を交わして相手先を調査します。興味があって双方が先に進みたいと思う場合は「トップ面談」し条件面を調整し「基本合意書」を締結します。その後、「買手によるデュ―デリジェンス」と交渉を経て最終的に合意した場合、「売買契約書」を締結します。

 

M&Aに要する時間は、売却理由や売却条件等にも左右されますが、順調に進むケースでは「2、3ケ月」で完結することもありますが、長いケースだと「年単位」でかかることもあります。

 

 

従業員や関係者への伝え方


①従業員への説明のタイミング

M&Aは極めてセンシティブな事柄ですから、M&Aに関与する者は経営者・経営企画担当等に限定し、秘密裏に進めるのが基本です。なぜなら売り情報が漏れた場合の信用不安の拡大、うまくいかなかった時のダメージが大きいためです。そこで、幹部従業員への説明は、「基本合意書の締結」のタイミングが、一般の従業員への説明は売買契約を締結する直前あるいは契約締結日」に説明するのが一般的です。

 

②従業員説明の方法

説明の仕方としては、幹部従業員はキーマンとなる人が多いので経営者が個別に面談し退職されないように留意します。その他の従業員一同を集めた説明会を開催する方法が一般的かと思います。

従業員はM&Aによって、引き続き働けるのか給与条件等の待遇はどうなるのかなど不安を持つのが普通なので、買手側と十分に協議した上で、従業員への説明を行うべきです。

 

③関係者への説明

金融機関や主要な取引先には、経営者が直接訪問して説明した方がよいですし、特に重要な取引先には売買契約締結前に説明をしておいた方がよいと思います。それ以外の取引先や関係者にはクロージング後に送付する挨拶書面で連絡するのが一般的です。

 

 

 

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「親族内承継の物的対策・人的対策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?④~

 

コンサルティングという観点からみた「事業承継」と題した4回目として、田中信宏先生(公認会計士/税理士法人髙野総合会計事務所)に、事業承継対策における具体的な検討事項について、親族内承継を前提に、お金の対策及び人の対策に分けて解説していただきます。なお、次回は親族外承継のケースをご紹介いたします。

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 田中信宏/公認会計士

 

 


【親族内承継 物的対策(モノ・カネ)】

親族内承継を考える時に、承継する会社の財務的健全性の高低により、自社株式及び納税資金に関する承継対策に相違が生じてきます。

 

<健全性が高い場合>
親族間取引の場合、通常相続税評価額を基に会社の株価算定が行われます。とりわけ、健全性が高い会社については、承継する会社の株式の相続税評価額が高く、移転に伴う贈与税・相続税負担が高額になることから、当該税負担に関する対策を準備する必要があります。例えば生前贈与、自社株評価単価引き下げ、事業承継税制(納税猶予)の適用等の対策があります。

 

<健全性が低い場合>
健全性が低い場合、例えば、承継会社が債務超過のケースでは、株式の相続税評価額が低額又はゼロとなり、相続税負担が発生しない可能性が高いため、自社株式の移転に伴う納税対策は不要となります。一方で、承継会社の業績及び資金繰りの問題が発生するため、後継者にスムーズに引き継ぐために、現経営者が後継者への完全な移行までに、経営及び財務基盤の改善(いわゆる事業再生)を果たすことが望ましいです。
【親族内承継 人的対策(ヒト)】
親族内承継の場合、後継者を選定し、後継者の人材育成を実施していくことになります。
この点、事業承継は経営の根幹に関わるため、親族内であるからといってすぐに経営権を全権移譲することは不可能であり、ある程度時間をかけて現経営者が後継者に経営理念の伝承、教育指導、権限移譲を実行していくことが必要となります。また、従業員や取引先への後継者の紹介など、人脈の後継者に対する承継も重要な引継事項となります。

 

 

 

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年1月21日)より再編集のうえ掲載

[初級者のための入門解説]

個人版事業承継税制 超入門ガイド(その2)~適用後の手続と注意点~

 

〈解説〉

税理士 村本政彦(税理士事務所クオリス)

 

 

 

前回に引き続き、個人版事業承継税制を、ざっくり、やさしく、わかりやすく解説します。今回のテーマは、「適用後の手続きと留意点」です。「適用後の手続きは?」「取消事由とは?」「どのような方におススメなの?」など、皆さまの素朴な疑問にお答えします。

 

適用後の手続きは?


相続税・贈与税の申告が終わった後は、「3年おき」に、「税務署に届け出」が必要です。

これは取消事由に引っかかっていないかどうかを確認するための届け出です。

 

取消事由??


この制度は、あくまで納税の”猶予”なので、相続や贈与のタイミングで要件を満たしていればよいだけでなく、その後も「要件を満たし続けること」が必要です。

 

次のようなときには、猶予は取消しになります。

・事業をやめたとき

・届け出を忘れたとき

・対象となった事業用資産を売ったり、廃棄したとき(詳しくは後程)

 

取り消しになったらどうなるの?


取り消しになったら、猶予されていた相続税・贈与税を一括で支払わなければなりません。それに加えて、猶予されていた期間の利息も支払う必要がありますが、これも結構な金額となります。

 

えっ!!それは怖いですね。やめたほうがよいのでしょうか?


ケースバイケースですね。

 

猶予税額が少額であれば、他の方法を考えたほうがよいと思います。

 

猶予税額が高額であれば、取消事由に該当するリスクや届け出の事務負担、猶予される税額などを吟味して、熟考です。高額の相続税・贈与税が支払わなくてよくなるのは、大きなメリットだからです。

 

注意点は?


なかなか癖のある制度なので、注意点は結構多いです。

 

~注意点①~

猶予されている間、「担保」が必要です。

 

~注意点➁~

対象の事業資産「買い替える」ときには、あらかじめ手続きが必要です。

 

この制度は、事業を続けていること、対象の資産を使い続けることが猶予を受け続けられる要件ですので、対象資産を売ってしまうと、適用を受けられなくなってしまいます。

なので、買い替えるときは、ちゃんと代わりの資産を買いますよ、という手続きが必要です。

 

また、対象資産が陳腐化して「廃棄」するときにも手続きがあります。

 

~注意点➂~

一番の注意点は、先ほどもありましたが、この制度は、あくまで納税の”猶予”なので、相続や贈与のタイミングで要件を満たしていればよいだけでなく、その後も「要件を満たし続けること」が必要です。

 

細かく言うと、取消要件はとてもたくさんの項目があるのですが、普通の事業者が該当するかもしれない項目はそれほど多くはありません。

 

とはいえ、猶予期間が極めて長期間に及びますし、取消しになってしまうと猶予されている税額の全額を、利息も付けて支払わなければならないことになってしまいますので、適用を受けた後も、この制度に精通した税理士のサポートを継続して受けることは必須です。

 

なんだかいろいろ難しそうですが、この制度は、どんな人におススメ?


まずは、適用マップを見てみましょう。

 

マップを見ると、中小企業の事業承継税制は基本的に会社全体が対象になるのに対して、個人版の事業承継税制は、対象となる「資産が限定」されていることがわかります。そのため、法人成りした上で中小企業の事業承継税制の適用を受けたほうが、一般的には有利です。

 

ただ、中小企業の事業承継税制の適用を受けられない病院・診療所士業の方の利用は考えられます。特に、CTやMRIなどの高額な医療機器がある場合や、比較的新しい建物がありその評価が高い場合などは、有効な場合が多いでしょう。

 

また、何らかの事情で法人成りが難しい場合にも、活用を検討されるとよいと思います。

 

 

 

【個人版事業承継税制 適用マップ】

 

 

 

 

うちは個人病院なんだけど、適用は受けた方がいいの?


これまで見てきた通り、この制度は、手間もかかり、いろいろ注意点も多くある制度です。

それに対し、この制度の唯一のメリットは、相続税・贈与税の納税が猶予されることです。

なので、適用を受けるかどうかを考えるときには、まずは、メリットである猶予税額がいくらなのかを計算することがとても大事です。

その上で、メリットとデメリットを天秤にかけて、慎重に判断していくことになります。

専門家の助言も必ず参考にしましょう。

[初級者のための入門解説]

事業承継の進め方いろいろ ~ゼロから学ぶ「事業承継 超入門」①~

 

事業承継の基本ポイントを、植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)に分かりやすく解説していただきます。第1回目は、事業承継を検討するうえで、最初に考えなければいけない「事業承継の進め方」について承継方法ごとにメリットやデメリットを踏まえて確認していきます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

事業承継の進め方はひとつではない

従前、事業承継というと「親から子」のイメージが強かったと思いますが、最近は「M&Aによって外部者に承継するケース」「役員や従業員に承継するケース」、伝統的な「親族に承継するケース」など、承継の方法が多様化しております。

 

 

以下、ケースごとの特徴やメリット・デメリットについて見ていきたいと思います。

 

①M&Aによって外部者に承継するケース

これまで、M&Aで事業を取得する方は、ファンドや事業会社主役でした。しかし、最近は、起業家M&Aの担い手となるケースが増えております。ゼロから事業を始めるのに比べて、顧客や資産を承継できるため、事業を軌道に乗せやすいこと、マッチングサイトの普及で安価に売り先を探すことが可能になったことなどが背景事情としてあるものと思われます。M&Aマーケットの広がりにより、従来は事業承継をあきらめて廃業していたケースでも、事業意欲旺盛な起業家などに事業を承継することが可能となっており、我が国経済全体への影響から見ても好ましいことです。

 

M&Aによる事業承継のメリットは、従業者の引継ぎができるケースが多いこと、売主は株式(事業)売却の対価が得られることでしょう。反面、売却後に契約内容などを巡って争いが起こることもあるので、売買に際しては多少のコストを負担しても専門家に関与してもらう用心が必要といえます。

 

②役員・従業員承継のケース

役員・従業員承継は、親族承継の次に検討されるのが一般的です。事業内容を知り尽くした役員や従業員は、事業承継の適任者といえます。また、取引先や金融機関の理解が得やすいのもメリットです。

 

しかし、ネックは金融機関の個人保証です。本人にヤル気はあっても、後継予定者家族の反対で後継者になれなかったという話は枚挙にいとまがありません。また、従業員は資金力が乏しいケースがあるので株式(事業)買取り資金で苦労するケースも多いといえます。それから、使用人の立場が体に染み付いていると、使用人としては優秀でも経営者としてはそうでないケースも少なくありません。

 

③親族承継のケース

親族承継は従前から事業承継の王道です。従業員や取引先・金融機関の理解が得やすく先代からの帝王学教育も期待できます。また、基本的に無償での承継となるので、特例事業承継税制を利用すれば、一定の要件を満たす必要がありますが相続税や贈与税無税での承継も可能です。反面、血のつながりを優先した場合、不適格な後継者が誕生する恐れがあります。

 

 

3つの事業承継方法の主なメリット・デメリットを比較すると、以下のとおりです。

 

 

進める際のポイントは?

事業承継の課題の一丁目一番地は、早く着手することです。

そして2番目は、先代経営者がしっかり責任を持って承継を全うすることです。

 

以下、それぞれについて説明します。

 

①事業承継は早めに

事業承継の手続には、それなりに時間がかかります。

上記の“進め方の選定”に際しても、親族内に後継者がいるかいないか、いたとして適任者かどうか、役員・従業員はどうかなどの見極めには時間を要します。進め方が決まったとしても、次号以下で説明するそれぞれの阻害要因の拾い出しや環境づくりなど、事業のバトンタッチには年単位の時間がかかるのが普通です。

 

先代経営者も加齢によって段々と気力・体力に支障が生ずるでしょうから、年齢で言えば60~65歳になったら着手するのがよいと思います。先代経営者はそこで引退するというよりも、後継者教育や指導・監督にシフトしてゆくのが理想的かと思います。

 

②しっかり責任を持って全うする

面倒なことは先送りにしたいのは理解できます。俺が死んだら後は好きなようにしてくれという人は意外に多くいらっしゃいます。遺言の場合もそうですが、それでは残された方はたまりません。個人財産の相続の場合でも相続人は大変になることが多いのですが、事業承継は企業規模が大きくなればなるほど影響を受ける従業員や取引先も多くなるので、先送りはあまりにも不誠実な対応です。

 

自分が創業した事業、あるいは、承継した事業は、きちんと自分の手で事業承継をやり遂げてこそ、立派な経営者といえるのではないかと思います。

 

事業承継において大切なことは何か?

事業承継において何が一番大切かと聞かれたら、“創業の精神”と“変革を恐れないマインド”を承継することではないか、と私は思います。

 

①創業の精神

創業の精神は、経営理念にほかなりません。

 

朝礼で毎日復唱したり、会議室や目に入る場所に掲示したり、経営理念の浸透には様々な方法があり、歴史ある企業ほど経営理念の浸透にあたっている感があります。

なぜ自社が存在するのか、その答えは創業の精神にあり、社会に必要とされる存在意義があるはずですから、その精神を承継せずに事業承継は成り立たないと思います。

 

②変革を恐れないマインドを承継すること

どんな事業にもライフサイクルがあります。

その期間は30年とか50年とか言われますが、起業時には新しいタイプの事業であっても、そのままではやがて終焉を迎えます。長く続いている企業は、変革し、時代の環境変化にうまく適合している企業です。花札からゲーム会社に変革した任天堂、パソコンから通信事業に変革したアップルなど代表例でしょう。しかし、多くは変革できずに消滅してしまう事業が多いのも事実で、それくらい変革は難しいということなのでしょう。

 

過去の成功体験を棚に上げて、新しい事柄に如何にチャレンジしてゆけるか、創業の精神と共に変革を恐れないマインドを承継することが大切です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[ワンポイント解説]

事業承継税制の特例 ~『後継者要件』について解説~

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 深川雄/税理士

 

 

平成30年度税制改正により「事業承継税制の特例措置」において、後継者の要件が緩和されました。これまでの「一般措置」では、納税猶予の対象となる後継者は1名しか認められておりませんでしたが、「特例措置」では、最大3人の後継者への承継が可能になりました。その結果、会社の実情に合わせた多様な承継方法が選べるようになりました。

 

1.後継者の要件

具体的な後継者の要件は下記になります。

 

2.注意点

贈与より特例措置の適用を受ける場合、贈与の日まで継続して3年以上にわたり役員である必要があるため、計画的に後継者を役員に選任する必要がございます。株式は贈与又相続により取得することが要件となっておりますので、売買による承継は納税猶予の対象とならない点ご注意ください。複数人の後継者を会社の代表者にすることで、後々の運営に問題が生ずることもあります。将来の会社運営について十分な検討を行ったうえで、後継者を選ぶ必要がございます。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2019年1月11日 )より再編集

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

事業承継税制の注意点~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 

 


シリーズ事業承継の活用手法として、中小企業の事業承継や財産の分散防止に効果的な信託などを解説していますが、今回は「事業承継税制の注意点」をお送りします。

 

一般の事業承継税制と特例事業承継税制の違いは以下の通りです。

 

・対象株式:2/3 → 全株
・相続猶予対象:80% → 100%(従来は実質53%→100%へ)
・雇用確保要件:5年平均80%維持 → 実質撤廃
・贈与者:先代経営者のみ → 複数株主(一般も同時に改正)
・受贈者:後継経営者1人 → 後継経営者3名まで(代表権&株10%以上)
・相続時精算課税:推定相続人等 → 推定相続人等以外も適用可
・株価減免要件:民事再生等のみ → 譲渡・合併・解散時を加える

 

など大幅に拡充されています。

 

 

いままでは、50%減免だったものが”100%減免”になり、先代経営者→後継者への1対1にしか使えなかったものが “先代経営者+配偶者+その他”後継者へと贈与者も大幅に拡充されていますのでかなり使い勝手のいい制度となったと言えます。

 

 

 

しかし、いくつかの注意点がありますので下記に記します。

 

 

(1)事業承継税制はあくまでも“納税猶予”です。取消要件に当てはまった場合には課税されます。特に資産保有型会社や資産運用型会社に該当した場合には猶予が取り消され課税されます!

 

(2)その為、いつ猶予が取り消されてもいいように株価対策はしっかりし、株価を引き下げてから実施すべきでしょう!

 

(3)資産保有型会社資産運用型会社にならないためには5名以上の従業員がいるなどいくつかの要がありますので確認しておきましょう

 

(4)後継者が複数も可能ですが、後年で主導権争い起きないようもう一度考えることをお勧めします。

 

(5)推定相続人以外にも事業承継可能ですが、相続人に税負担のしわ寄せが行きますので注意しましょう

 

(6)種類株等を承継後に後継者以外が保有している場合には納税猶予は使えません。

 

(7)後継者にはいい制度ですが、後継者以外にも目を配る必要があります。特に遺留分を侵害していないかなど確認しましょう。

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2018/08/20号)」より一部修正のうえ掲載

 

[解説ニュース]

相続時精算課税を選択した非上場株式に係る贈与税の納税猶予:贈与者よりも先に受贈者が死亡した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税


(1)概要

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、同日時点で60歳以上である父母 又は祖父母(原則)から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与の贈与者(「特定贈与者」)が死亡した場合、その適用を受けた受贈者(「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(「相続等」)により取得した財産の評価額と合わせて相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税による贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。

(2)相続時精算課税適用者の有していた相続税の納税に係る権利義務の承継

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続 時精算課税適用者が死亡した場合、同適用者の相続人は、同適用者が有していた[相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務]を承継します(同21条の17第1項)。

 

例えば、特定贈与者のAの死亡前に相続時精算課税適用者の長男Bが死亡した場合、Bの相続人は、Aが死亡した時に長男の代襲相続人としてAから相続で取得した財産の価額に、Bが相続時精算課税の適用を受けたAからの贈与財産の価額(Bが贈与を受けた時の価額)を加えて、Aに係る相続税額を計算します。

 

2.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた先代経営者(「贈与者」)から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(「経営承継受贈者」)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。以下「特例受贈非上場株式」)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。

(2)特例受贈非上場株式に係る猶予税額の免除

(1)の猶予税額は、①その贈与者の死亡より先に経営承継受贈者が死亡した場合、②経営承継受贈者より先にその贈与者が死亡した場合のいずれのときにも、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

(3)(2)②の場合の特例

(2)②の納税猶予の適用を受けていた場合において、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡するなど一定の要件を満たすときは、経営承継受贈者は、(2)②のとおり猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、相続税の課税対象とされます。
なお、この規定は、(2)①の場合には適用はありません(同かっこ書)。

 

3.贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合(=2(2)①)の相続時精算課税に係る相続税額の計算


相続時精算課税を選択して贈与税の納税猶予の適用を受けた受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合には、同適用者(=経営承継受贈者)の相続人は1(2)の適用を受け、贈与者が死亡したときに、同適用者が負う相続時精算課税の義務(特に1(2)の下線部の計算)を負うのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、平成31年度税制改正により贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合、2(2)より免除を受けた猶予税額に対応する特例受贈非上場株式については、1(1)の計算規定が適用されず、贈与者に係る相続税額の計算には含まれないこととされました(措法70の7第13項9号)。ただし相続時精算課税の適用を受けた同株式以外の財産には、原則通り1(1)の規定が適用されます。

 

なお「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70の7の5)においても、上記と同様の取扱いがなされます(同第10項)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/20)より転載

[ワンポイント解説]

事業承継税制の特例 ~『特例承継計画』について解説~

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 高中恵美/税理士

 

 

平成30年度税制改正により「事業承継税制の特例措置」が創設されました。「特例措置」はこれまでの事業承継税制を抜本的に見直した10年間限定の時限立法で、株式の贈与や相続に係る税負担が100%猶予されます。特例措置の適用を受けるためには、「特例承継計画」を都道府県庁に提出し、確認を受ける必要があります。特例承継計画を提出することができる期間は平成30年4月1日~令和5年3月31日までの5年間に限られますので注意が必要です。

1.特例承継計画の作成

特例承継計画には、次の事項を記載します。記載内容について認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受ける必要があります。

 

1220.bmp

2.実務上のポイント
特例承継計画を提出しても、その後、必ずしも事業承継税制の適用を受けなければならない訳ではありません。適用の可能性がある場合には、令和5年までに特例承継計画を提出することをお勧めします。特例後継者が事業承継税制の適用を受けた後は、その後継者を変更することはできませんが、特例後継者を二人又は三人記載した場合で、まだ株の贈与・相続を受けていない後継者については変更をすることができます。

 

 

税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2018年12月11日)より再編集のうえ掲載

[解説ニュース]

底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1 はじめに


相続財産の中に土地(宅地)があり、それが貸地、すなわち、借地権(普通借地権とします。)がある土地である場合、その土地のいわゆる底地としての相続税法上の評価額は、「通常の自用地(=借地権がない土地)としての価額からその借地権の価額を控除した金額」(借地権価額控除方式)であると規定されています(財産評価基本通達25(1))。上記「借地権の価額」については同27が「借地権の価額は、自用地としての価額に、借地権の売買実例価額、精通者意見価格などをもとに地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する」と定めていて、地価の高い地域ほどその割合も高くなり、東京の中心的商業地では80%~90%(よって底地は20%~10%)、住宅地では60%~70%(同40%~30%)の割合の場合が多いようです。なお、借地権の割合は10%刻みで30%~90%(国税庁のホームページで公表)です。

 

2 底地の相続税法上の評価(借地権価額控除方式)VS不動産鑑定士による評価


借地権価額控除方式により算定される相続税法上の底地の評価額に対し、納税者が主張する不動産鑑定士による底地の評価額はケースバイケースですが、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に従いながらも、低廉な地代を基準とした収益還元価格を軸に主張されることが多く、借地権価額控除方式による評価額のせいぜい半分程度になる場合が少なくないようです。後者の評価額の方が低いので、それを相続税の評価額として採用すれば、相続税額は当然低くなります。

 

しかし、一般的に、後者の評価額による相続税の計算はほぼ認められません。評価通達に従う税務署が認めないのはもちろん、たとえ裁判で争っても、特別な事情がない限り認められない場合がほとんどです。

 

3 底地の相続税法上の評価で不動産鑑定士による評価が認められない理由


まず、納税者側の不動産鑑定士による底地の評価が、その顧客である納税者の希望に沿って評価の引き下げを追求するあまり(?)、その底地に係る鑑定評価上の要素につき、不合理なことを無理に採用して、そこを課税当局から突かれ、主張する鑑定価額の合理性に疑問を生じさせてしまう傾向があります。そのような恣意的な評価をしていないとしても、根本的には次の理由(不動産鑑定士による評価の当否が争われた平成29年3月3日東京地裁判決などの判示を整理したもの) から、収益還元法を軸とする底地の評価自体が相続税法の評価では認められ難い状況にあります。

 

すなわち、底地の市場性は、借地権のそれとは全く異なる状況にあり、底地のみが売買されることがあるとしても、それは、借地契約の当事者間=借地人と地主間での売買が通常です。第三者への底地のみの売買については市場が相当限定され、その土地の近隣において純粋な第三者による取引事例は把握できないことが通常です。そして、以上の状況から、底地については、第三者と売買を行うような一般的な市場、そこにおける相場を想定することは困難であり、売買があるとすれば将来的に借地契約の当事者間において行われることが通常であるという特性を持つ財産である、という基本的な認識が覆し難いものとしてあります。

 

このような特性をもつ財産としての底地の客観的交換価値(これが時価の一般的意義で、相続税法上の時価の意味もこれです。)の把握では、①底地の状態が当分継続することを前提に、その状態で地代収入が生じることにより得られる経済的利益と②将来、底地の取引形態として通常である借地契約の当事者間での売買(借地権者による底地の買取等)が行われるであろうことを前提に、その売買により制限のない完全所有権に復帰することになるという経済的利益の二つ(の現在価値)を考慮すべき、ということになります。この考え方は、実は、鑑定評価基準における底地の価格の考え方とも基本的に一致しています。

 

以上により、将来的にも完全所有権への復帰がおよそ考え難いような特別な事情がある場合はともかく、借地契約終了後に完全所有権に復帰することが予定される通常の借地契約に係る底地の時価は、同契約存続中の地代等の純収益に基づく収益還元法による価値のみで捉えるべきではなく、同契約の終了後の借地権の負担のない所有権に対応する価値をも含むものとして捉えるべきということになります。上記の地代等による収益還元法による価値のみでは、底地の客観的交換価値=時価の全てを適切に表すとはいえない一方、その時点の自用地としての価額から借地権の価額を控除した価額とする方法は、その時価に接近する方法として相応の合理性があるといえます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/13)より転載

[初級者のための入門講座]

個人版事業承継税制 超入門ガイド(その1)~簡単な仕組みと適用を受けるまで~

 

〈解説〉

税理士  村本政彦(税理士事務所クオリス)

 

 

 

「個人版事業承継税制」という制度ができました。

平成31年度税制改正の目玉の一つです。

個人事業主の方の中には、事業承継を考えられていて、どんな制度なのか?使った方がいいのか?興味関心がある方がいるのではないでしょうか。

そんな方のために、この制度をざっくり、やさしく、わかりやすく解説します。

どんな制度なんですか?

個人事業主が事業承継、例えば、息子さんや娘さんに継がせたいとき、事業で使っている土地や建物、機械などを、どこかの時点で渡さないといけません。

 

普通は、継がせるときにあげるか、自分が死んだときに相続させるか、ですよね。そのときに問題になるのが、贈与税や相続税です。

 

事業で使っている土地や建物や機械などが高額だと、多額の税金がかかってくることがあります。その負担が重いと事業に支障が出てくることもあるかもしれません。

 

この制度を使うと、後継者が事業を続けている限り、必要な手続きをしている限り、その納税が猶予されます。

最終的に、後継者が亡くなったときや、この制度を使って次の後継者に継がせたときに、免除になります。

 

 

 

 

相続税がかからないってこと?

まずは納税が猶予されます。事業をちゃんと続けられたら、最終的に後継者が亡くなったときや、この制度を使って次の後継者に継がせたときに、免除になります。

 

誰でも受けられるの?

青色申告をしている個人事業主(事業所得者)であれば、対象になります。

後継者の方は、すでにその事業に従事している必要があります(例外あり)。

それに加えて、贈与の場合には、3年以上従事していて、20歳以上であることも必要です。

 

どんな業種でもOK?

不動産賃貸業など一部の業種は受けられません。

 

 

事業に使っている資産なら、なんでもOK?

なんでもではないです。受けられる資産は決められています。

 

・土地(400㎡まで)

・建物(800㎡まで)

・構築物、機械装置、工具、器具備品、船舶など

・営業車(青ナンバーや黒ナンバー)、貨物運送用の一定の自動車

・乳牛、果樹、特許権など

 

適用までの手続きは?

まずは「個人事業承継計画」という計画書を作って、都道府県に提出します。

(令和6年3月31日まで)

 

実際に、贈与を受けたり、相続で受けたりしたときに、申告期限までの間に、都道府県にこの制度の適用を受けたい旨の認定申請書を提出します。

 

別途、税務署に、開業届や青色申告の承認申請も、それぞれの期限までにしておく必要があります。

 

都道府県から認定を受けたら、申告期限までに、その認定書などを申告書と一緒に税務署に提出します。別途、税務署へ担保の提供も必要です。

 

 

 

 

この制度は注意点が多い制度なので、必ず専門家の指導やサポートを受けてください。

[初級者のための入門解説]

社長の手取り額は?-M&Aにかかる費用-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」②~

 

M&A実務の基本ポイントを、植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)、本山純先生(Ginza会計事務所/公認会計士)にわかりやすく解説していただきます。今回は、譲渡企業の経営者にとって最大の関心事の一つである「社長の手取り額」を取り上げます。「M&Aで発生する費用は?」「M&Aの税金負担は?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士  植木康彦(Ginza会計事務所)

公認会計士  本山純(Ginza会計事務所)

 

 

 

M&Aで会社を売却した場合、社長(株主)の手元に残るキャッシュは売却代金からM&Aにかかる費用を差し引いた額となります。

 

売り手側で発生する代表的なM&Aにかかる費用は主に以下の2つがあげられます。

 

【代表的なM&A費用】

①専門家(仲介会社)に払う手数料

②税金

 

①専門家(仲介会社)に払う手数料
~M&A仲介会社は何をしてくれるの?~

M&Aで発生するコストの代表的なものにM&A仲介会社に支払う手数料があります。

M&A仲介会社は、M&A全体の取りまとめの役割を果たします。

 

具体的には、

・M&A全体のスケジュールと売却方針の検討

・売却先の選定、交渉

・契約のサポート 等々

 

M&Aにあたり何から着手すべきか、どのように進めるべきか、M&Aがスムーズに成立するよう、スタートからクローズまでの各段階でのサポート及びアドバイスを提供してくれます。

 

M&A全体のスケジュールや売却方針があやふやなままでは、いくら魅力的な企業であってもスムーズに商談が進まず、労力ばかりがかかってしまうことも。

 

そんな状況では、本業にも悪影響を及ぼし兼ねず、結果的に事業価値を低下させてしまう恐れもあります。

 

売却先についても、売りたい企業とも買いたい企業ともネットワークを持つ仲介会社を使うことで、自分のネットワークだけでは繋がることのできない相手先への売却アプローチも可能となります。

 

M&Aでは、各段階で留意すべきポイントやタスクが多岐にわたるため、不慣れが原因で生じるトラブルを回避し、スムーズに進めるためにも、経験豊富な仲介会社が全体を取りまとめることがM&Aを成功させるカギとなります。

 

~M&A仲介会社の費用はどれくらい?~

このように、M&Aを成功させるためにM&A仲介会社の存在はとても大きなものとなりますが、その分、手厚いサポートを受ける場合には費用も多額となってしまうことが一般的です。

 

仲介会社の費用相場は、取引金額や提供を受けるサービスの範囲で大きく変動することから、一概にいくらと言えるものではありません。

 

そのため、どのような仲介会社を利用するかを検討する上で、仲介会社の一般的な費目と料金形態を把握しましょう。

着手金と中間金は、M&Aが成立しなかった場合でも返金されない費用となります。

 

 

「着手金+成功報酬」「中間金+成功報酬」「成功報酬のみ」等、仲介会社によって料金形態及び提供サービスの範囲は様々です。

 

手厚いサービスを受ける場合には、仲介会社でも公認会計士等の専門家に対する報酬が発生する為、着手金や中間金が必要となるケースもありますし、これらのサービスをオプションとして追加できる仲介会社もあります。

 

また、どの仲介会社でも生じることが一般的な成功報酬の割合は、売買代金に応じて変動するため一概には言えませんが、多くの仲介会社が採用するレーマン方式では5億円以下の場合、売買金額の5%となります。

 

 

 

仲介会社によって得意とする業種や対応している地域、提供業務のタイプ(仲介型orアドバイザリー型)が異なりますので、受けたいサービスの費用対効果を考慮し、自社に合ったM&A仲介会社を選ぶことが重要です。

 

②税金
~どんな税金がかかる?~

無事M&Aが成立し、売却後に生じる支出が、売却により生じた利益に対して課される税金です。

それでは、M&Aで生じる税金にはどのようなものがあるのでしょうか。

ここでは、M&Aでよく使用される株式譲渡について検討していきたいと思います。

 

(注:M&Aのスキームには、株式譲渡・事業譲渡・会社分割・株式交換・合併等があり、採用するスキームによって課される税金が異なります。)

 

株式譲渡により会社を売却した場合には、売却代金から株式の取得費譲渡費用(仲介会社への手数料等)を控除した譲渡益(株式譲渡所得)に対して20%(所得税15%、住民税10%)の税金がかかります。(復興税は省略)

 

これは売却した翌年の確定申告で申告・納付することとなります。

 

 

 

~手取り額を最大限にする方法は?~

上記の通り、株式の譲渡益に対しては20%の税金が発生しますが、退職金を利用することで、税負担を軽減し、手取り額を増やすことができる可能性があります。

 

退職金は、これまでの勤労に対するものであり、退職後の生活を支える資金となるため、退職所得控除や課税対象額が1/2になる等、税務上非常に優遇されています。

 

そのため、譲渡代金の一部を退職金で受け取ることで、税負担の軽減分だけ手取り額を増やせる可能性があるのです。

 

それでは、具体的な設例を使って、確認しましょう。

 

 

 

①全額株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:20百万円)

 

株式(非上場株式)を譲渡した場合、譲渡益部分が課税対象となり、税額は以下の算式で算定されます。なお、本来は譲渡代金から取得費等を控除して譲渡益を算定しますが、計算を簡略化するため得費用等は省略し、譲渡代金=譲渡益(譲渡所得)と仮定しています。

 

 

 

 

②譲渡代金の一部(60百万円)を退職金として受け取り、40百万円を株式の譲渡代金として受け取った場合(税負担額:16.45百万円)

 

 

 

 

ⅰ.譲渡所得部分

株式の譲渡益に対する税金は①の算式の譲渡所得が40百万円となり、以下の通り算定されます。

 

 

ⅱ.退職所得部分

退職金は、税務上優遇された取扱いがあり、税額は以下の算式で算定されます。

 

(注①)

退職所得控除は勤続年数に応じて20年以下は年間0.4百万円、20年超部分は年間0.7百万円で算定されます。

(0.4百万円×20年+0.7百万円×(30年-20年))=15百万円

(注②)

退職所得の所得税率は超過累進税率のため、退職所得金額に応じて変動します。本設例では以下の区分の税率が適用されます。なお、設例に記載の税率は下記税率40%に住民税10%を足した50%として算定しています。

 

 

 

上記の設例では、譲渡代金100百万円に対して約3.5百万円の税負担の軽減が図られたこと確認できます。この分、売却による手取り額が増加することになります。

 

また、退職金は会社の費用(損金)にもなることから、法人実行税率を30%と仮定すると、18百万円(60百万円×30%)会社に節税効果が生まれ、譲渡対価の交渉材料の一つにもなります。(「不当に高額な部分の金額」となる退職金は損金とならないため、退職金の金額設定には留意が必要です。)