[解説ニュース]
建物取壊費用を譲渡費用にする場合のポイントは?
〈解説〉
税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)
[関連解説]
1、はじめに
古い建物のある土地を高く売るなら、建物を取壊して更地にしたほうが良い、という考えから、一計を案じる資産家も少なくないでしょう。実際、土地を売るために、その上に建っている建物を取壊した場合には、土地を売った場合にかかる税金の計算上も、この取壊費用は費用として利益から控除することができます。
土地等の資産の譲渡に要した費用(譲渡費用)については、所得税基本通達33ー7《譲渡費用の範囲》で次のように例示されています。
(イ)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用
(ロ)上記(イ)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用
ご覧のように建物等の取壊し費用が含まれています。しかし、取壊費用だからといって、どんな場合でも税金の計算上費用として認められるかというと、そう簡単ではないようです。ただ、「土地等を売るために」建物を取り壊したという関係がはっきりしていないと、税金の計算上、不利になることもあるようです。
2、具体事例から
建物の取壊し費用が譲渡費用として認められなかった事例があります(国税不服審判所令和3年2月25日裁決)。事実関係の概要は次の通りです。
・親からX土地とそこに建つ老朽化したY建物、Z建物を相続したA氏は、Z建物に車が突っ込んだ事故があり、賃借人が退去したのを奇貨として平成25年3月に、約330万円を負担してY建物、Z建物を取壊した。
・A氏は平成26年11月に不動産仲介会社とX土地の売買に関する媒介契約を締結し、平成30年8月にX土地の売買契約をBさんと締結し、同月中に引き渡した。
・A氏は建物取壊費用をX土地の譲渡所得の計算上、譲渡費用として控除したが、令和2年4月に、所轄税務署がその取壊費用の控除は譲渡費用として認められないとして追徴した。
・A氏は、取壊費用はX土地を高く売るために必要だったとして国税不服審判所に審査請求した。
・A氏は、「更地にすれば媒介業者に頼らずとも買い手がすぐ見つかると思って、取壊しを行い、当初から解体業者等に本件土地の譲渡の意思表示をしていたものの、媒介契約の締結が遅れてしまっただけ(中略)、取壊しは、譲渡の実現のための時の流れの中で本件譲渡のために行われたもの」と主張した。
3、 国税不服審判所の判断
国税不服審判所(以下、審判所という)は、審理に当たり、譲渡所得に対する課税について「原則として、資産の譲渡により実現した所得が課税の対象」だから「資産の譲渡に当たって支出された費用が譲渡費用に当たるかどうかは、(中略)現実に行われた資産の譲渡を前提として、客観的に見てその譲渡を実現するために当該費用が必要であったかどうかによって判断すべきもの」と考え方を示しました。
ついで、審判所は倒壊の恐れのあったY建物や、長年1階部分以外には入居者がなかったZ建物が、賃借人の「退去から間もない平成25年3月31日に取壊しが完了した」ことを指摘、「取壊しは老朽化や車の衝突事故による損傷等に起因して行われたものとするのが合理的」と認定しました。
さらに審判所は、「その後に締結された媒介契約及び売買契約の目的物は、土地のみとされていたのであり、当審判所に提出された証拠資料等を精査しても、取壊しは媒介契約や売買契約の前提又は内容になっていなかった」とも指摘し、「現実に行われた本件売買契約による本件譲渡を前提とすると、客観的に見て譲渡を実現するために費用が必要であったとは認められない」として問題の取壊し費用は譲渡費用には該当しないと判断しています。
4、 まとめ
土地等の譲渡所得を適正に計算・申告しようとする場合には、売買の実態に即して、出したお金が譲渡費用に含まれるかどうかが判定されるため、資産をどのような形で売却するかを、決めておくことがポイントといえそうです。そのため売却してから譲渡所得の申告を考えるのではなく、専門家を交えて最初から考えておくことが必要ではないでしょうか。
税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/2/27)より転載