[解説ニュース]

入居者募集広告を出していても空室とされ小規模宅地等特例が否認された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■土地の地目等は、相続時の利用状況をもとに判断すべきとした裁決

 

 

 


1.はじめに


相続税の「小規模宅地等の特例」は、合法的な節税ができる制度として、よく知られた相続税の特例です。賃貸不動産等で節税する場合には、被相続人等の貸付事業用宅地等を相続して事業を継ぐなど所定の要件を満たした場合、それらの宅地のうち最大200㎡までについて50%の評価減ができます。

 

この特例に関し、最近、インターネット上に複数の入居者募集広告があったにもかかわらず、税務署から賃貸共同住宅の空室部分に見合う宅地について、上記特例の適用が除外され更正処分を受けた事例が出てきました。(国税不服審判所、令和 5年4月12日)。今回は、この事例を紹介します。

 

 

2.事案の概要及び相続人の主張


裁決書によると、Aさんは、被相続人から延床面積180㎡ほどの8室2階建ての賃貸共同住宅を敷地とともに相続しました。相続開始時点で入居者がいたのは3室で、残り5室(3室の空室期間は4年6か月以上、残り2室の空室期間は2か月から5か月)には入居者がいませんでした。Aさんは、被相続人からこの貸付事業を引き継ぎました。相続税の申告では、賃貸共同住宅の敷地全体を小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」に該当するとして申告した模様です。

 

これに対し、管轄税務署が上記特例適用を否認したことから、Aさんは国税不服審判所(以下、審判所という。)の判断を仰ぐことにしたものです。
Aさんは、おおよそ次のように考えました。
「相続の開始の時以降、請求人(Aさん)は各空室部分については、新たな入居者の募集を行っていないが、複数のインターネットサイトでは相続の開始の時以降も募集広告が出ているので、請求人が被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き当該貸付事業の用に供していた」

 

 

3.審判所の考え方


審判所は、この特例の取扱いである措置法通達69の4-24の2では、貸付事業の用に供されていた宅地等には、貸付事業に係る建物のうちに相続開始の時において一時的に賃貸されていなかったと認められる部分がある場合における当該部分に係る宅地等の部分が含まれるとされていることを指摘。

 

この「一時的に賃貸されていなかったと認められる場合」について審判所は「賃貸借契約が相続開始の時
に終了していたものの引き続き賃貸される具体的な見込みが客観的に存在し、現に賃貸借契約終了から近接した時期に新たな賃貸借契約が締結されたなど、相続開始の時の前後の賃貸状況等に照らし、実質的にみて相統開始の時に賃貸されていたのと同視し得るものでなければならない」として、問題の空室の敷地部分が一時的に賃貸されていなかったと認められるかどうか、次の事実関係等をもとに、以下の4のように検討しました。

 

①被相続人と不動産業者との契約=平成20年5月21日、共同住宅に関して一般媒介契約を締結した。
なお、共同住宅に関して、(中略)不動産業者は本件共同住宅に係る集金業務及び管理業務を行っていない。

 

②平成20年5月頃から申告書の提出期限に至るまで、複数の不動産業情報サイトに、問合せ先を同不動産業者として入居者の募集をする旨の広告が掲載されていた。なお、同不動産業者では、オーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続しており、また、広告の掲載のみでは手数料を取らず、新たに入居者があるときに仲介手数料を取っている。

 

③一般媒介契約を締結してから、申告期限に至るまでの間、同不動産業者は共同住宅に関して入居者を仲介した実績はなく、平成27年以降の共同住宅の空室の状況を把握していない。

 

 

4.一時的に賃貸されていなかったかどうか


審判所は、空室のうち3室は「相続の開始の時において少なくとも4年6か月以上の長期にわたって空室の状態が続いていた」こと。もう2室についても「空室であった期間は長期にわたるものではない」が「一時的に賃貸されていなかったものとは認められない」と認定しました。
その理由は次のとおりです。

 

●不動産業者の仲介実績・空室把握は②③のとおり。

 

●不動産業者ではオーナーから広告の掲載を取りやめたい旨の申出がない限りその掲載を継続する扱いだったため、平成27年以降においては、被相続人が一般媒介契約及び広告を放置していたにすぎず、積極的に共同住宅の新たな入居者を募集していたとはいえない。

 

●空室期間が短い2室についても賃貸される具体的な見込みがあったとはいえず、空室のままの状態にされていたというほかない。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/10/16)より転載

[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、どのような会計事務所が買手となるのでしょうか?

 

 

これまでもいくつか事務所を買収した経験のある「 大規模事務所や中規模事務所 」、これから、事務所を拡大したいと考えている「 小規模事務所 」など、買手事務所の規模は様々です。また、首都圏から地方都市まで、全国各地の会計事務所が買手として希望しています。

 

買手の目的は、事務所の基盤強化のために、買手事務所近くの事務所を希望する場合もありますし、エリア拡大のため、他の地域の事務所を希望することもあります。

 

 ケース① 東北の事務所が、東京都内の事務所の譲受を希望 [首都圏へのエリア拡大(進出)のため]

 ケース② 名古屋の事務所が、愛知県内の事務所の譲受を希望 [同一エリアでの基盤強化のため]

 

 

売手の要望も様々です。多くは、「 従業員の雇用 」「 適正な譲渡対価 」を、譲渡条件に挙げるケースが多いように思えます。また、従業員や関与先のために、「 引継ぎ先の所長の人柄 」を挙げる方もいます。

 

 

直接、買手に要望を伝えるのは難しいものです。また、ミスマッチを防ぐためにも、買手を選定する前に、売手の考えや要望をしっかりとアドバイザーに伝えておくことが大切です。

 

 

 

 

 

[スモールM&A案件情報(譲渡案件)](2023年10月4日)

-以下のM&A案件(1件)を掲載しております-

 

 

 

●筑豊北端で開業予定の柔道整復師の方必見!即開業・利益1,800万・広告費ほぼ0

[業種:整骨院/所在地:九州地方]

 

 

 

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(お問い合せ・ご相談は「無料会員登録」が必要です)


案件No.zs23100401

筑豊北端で開業予定の柔道整復師の方必見!即開業・利益1,800万・広告費ほぼ0

 

(案件紹介)

◇福岡県筑豊地方の北端部にて整骨院を経営しています。

◇店舗を交通量の多い路面に構えアクセス性の良さと広々とした駐車場にも定評があります。

◇創業10年目ですが、地方都市においては先駆者として交通事故の施術という分野で特に売上をアップさせてきました。

◇自費のメニューを構築すれば更なる売り上げのポテンシャルは十分にあります。

◇集客は広告費はほぼ0円で、googleマップの構築やホームページ、ポータプルサイト、紹介等で行っています。

 

(譲渡希望額)1,100万円

(事業形態)個人事業

(所在地)福岡県

(設立年)10年未満

(従業員数)1人〜4人

 

 

(その他補足)

◇設備(マッサージ機2台、干渉波1台、ベット3台),在庫,ノウハウ,ウェブサイト・アプリ,SNS/ECアカウント(譲渡可能な旨を運営会社に確認済み)

◇会社(株式譲渡、事業譲渡でも可能)と個人事業(事業譲渡)を一体でお譲りします。

◇買収後利益を約1,800万円想定していますが、新しく承継される先生の年間報酬というイメージです。

 


【財務概要】

(事業の売上高)1,000万円〜3,000万円

(事業の利益)1,000万円〜2,000万円

(譲渡対象資産の概算金額)0円〜100万円

 

【商品・サービスの特徴】

交通事故の自賠責保険、健康保険での施術、自費の施術、生活保護(会社にて健康保険請求及び自費の売上を計上していますが、一体でお譲りします。)

 

【顧客・取引先の特徴】

主に30代~60代の男女と幅広い年齢層にご来院いただいています。

 

【従業員・組織の特徴】

30代から40代の女性アルバイトスタッフが3名在籍していて、内2名は3年以上勤務となっています。仕事内容は、院長のサポートや受付接客などとなっています。

 

【強み・アピールポイント】

広告費ほぼ0円での安定した集客、交通事故専門(約7割の売上)、マッサージ機や干渉波など必要資産一式が揃っていること、創業約10年の実績です。

 

 

 

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情報提供元:ZEIKEN LINKS(スモールM&Aお任せサービス)/ビジネスサクセション株式会社

 

 

 

 

 

【免責事項】

・掲載情報は、内容及び正確さに細心の注意をはらい、万全を期しておりますが、人為的なミスや機械的なミス、調査過程におけるミスなどで誤りがある可能性があります。税務研究会及び情報提供会社は、当該情報に基づいて被ったいかなる損害についても一切の責任を負うものではありません。

・掲載情報は公開日時点の情報になります。既に案件が特定の対象会社と交渉に入っている場合や成約している場合もございます。

 

 

 

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[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、会計事務所を譲渡した後に、 税理士として働き続けることはできますか?

 

 

税理士として働き続けることは 可能 です。

 

一般的には、事務所の譲渡後、少なくとも「 数か月~1年程度 」は、買手事務所にて、業務や顧問先の「 引継ぎ業務 」をすることになります。 また、希望であれば、引継ぎが完了した後も、買手事務所にて、税理士業務を続けることもできます。

 

譲渡後の買手事務所での働き方は、先生の要望をもとに買手事務所と交渉のうえ、決定します。多くの場合、少なくとも「 一定期間は税理士として働くこと 」を求められます。

 

これは、先生が継続的に顔を出した方が、顧問先にも職員にも安心感を与え、顧問先の継続や、従業員の離脱防止につながると考えるからです。

 

勤務はするが、業務量や勤務日数を減らして、「 ゆとりのある勤務 」で継続する場合もあります。なかには、引継ぎが完了したら、買手事務所と距離を置きたいと考える税理士もいます。その場合は、開業登録をすることになりますが、譲渡契約の競合避止義務により、譲渡した顧客に対して営業するなど、買手事務所とバッティングするような行為は禁止されますので、注意が必要です。

 

 

 

 

 

[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、事務所の売却後、職員は継続雇用されるのでしょうか? 職員の待遇が悪くなることはありますか?

 

 

ほとんどのケースで、職員は 継続雇用 されます。

 

買手事務所も採用に苦労しているため、「 職員には継続して勤務してもらいたい 」と、多くの買手が考えています。

 

買手より、職員の継続勤務が、条件に挙げられることもよくあります。これは、職員が退職してしまうと、業務が回らないだけではなく、職員が退職すると、その職員が担当していた顧問先も離れてしまう可能性があるからです。

 

また、「 職員の待遇が悪くなるのでは? 」と懸念される先生もいますが、職員の待遇を悪くすると、退職してしまう可能性が高まるため、会計事務所M&Aでは、職員の待遇が悪くなる、ということはほとんどありません。

 

もちろん、明らかに給与額が高い職員(例えば代表の親族)については、ある程度、適正な金額に調整される可能性があります。また、「職員は継続雇用されます」と書きましたが、未来永劫雇用が保障されるわけではありませんので、その点はご留意ください。

 

 

 

[解説ニュース]

住宅取得等資金贈与に係る贈与税の非課税制度における取得要件と居住要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】相続時精算課税の住宅取得等資金贈与の特例に係る贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

 

 


1.住宅取得等資金の非課税制度の概要


その年の1月1日において一定の要件を満たす個人が、令和5年12月31日までの間に父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、受贈者ごとに、非課税限度額(新築等をした住宅用家屋が省エネ等住宅(注)の場合は 1,000万円、それ以外の住宅の場合は 500万円)までの金額について、贈与税が非課税となります(租税特別措置法(措法)70条の2第1項。以下、本税制を「非課税制度」という)。
(注)省エネ等住宅とは、省エネ等基準に適合する住宅用家屋であることにつき、一定の書類により証明されたものをいいます(措法70条の2第2項6号イ、措法施行令40条の4の2第8項)。

 

 

2.非課税制度における居住要件


非課税制度の適用を受けるためには、原則として贈与を受けた年の翌年3月15日までにその家屋に居住することが要件とされます。贈与を受けた年の翌年の3月15日までに居住しない場合であっても、取得した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれる場合には、一定の書類の添付により特例の適用ができます(措法70条の2第1項)。ただし、贈与を受けた年の翌年の12月31日(以下「居住期限」)までに受贈者の居住の用に供されていない場合は、特例の適用ができないため、修正申告書の提出が必要となります(同法第4項)。

 

 

3.非課税制度における取得要件


(1)概要

非課税制度の適用を受けるためには、贈与を受けた日の属する年の翌年3月15日(以下「取得期限」)までに住宅取得等資金の全額を充てて住宅用家屋の新築(新築に準ずる状態として一定のものを含む)もしくは取得をすることが要件とされます。

 

(2)請負契約により住宅用家屋を新築する場合

(1)の場合において、請負契約により住宅用家屋を新築するときは、取得期限において屋根を有し、土地に定着した建造物と認められる時以降の状態であれば、上記(1)の「新築に準ずる状態」とされ、完成した住宅用家屋を同日後遅滞なく受贈者の居住の用に供することが確実であると見込まれるときには、一定の書類の添付により非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第1項1号、措法施行規則23条の5の2第1項)。

 

(3)住宅用家屋を取得するときの取得要件

前記(1)の住宅用家屋の取得とは、売主から住宅用家屋の引渡しを受けたことをいいます。したがって、建売住宅や分譲マンションについては、売買契約が締結されている場合や、これらの建物が前記(2)に規定する新築に準ずる状態にある場合であっても、その引渡しを受けていない限り、住宅用家屋の取得には該当せず、非課税制度の適用を受けることができません(措法通達70の 2−8、70の3−8)。

 

4.災害等を受けた場合の居住・取得期限の延長等


(1)居住期限の1年延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、その贈与を受けた年の翌年3月15日後遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けたものの、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年12月31日までに居住することができなかったときには、居住期限が1年延長【贈与を受けた年の翌々年12月31日】されます(措法70条の2第10項)。

 

(2) 取得期限の延長

贈与により金銭の取得をした人が、その金銭を住宅用家屋の新築等の対価に充てて新築等をする場合に、災害に基因するやむを得ない事情により贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅用家屋の新築等ができなかったときには、取得期限と居住期限が1年延長されます(措法70条の2第11項)。

 

(3)居住要件の免除

住宅取得等資金の贈与を受けて住宅用家屋の新築等をした人が、その贈与を受けた年の翌年3月15日後、遅滞なくその住宅用家屋を居住の用に供することが確実であると見込まれることにより、非課税制度の適用を受けた場合において、その住宅用家屋が災害により滅失(通常の修繕では原状回復が困難な損壊を含む。)をしたため、居住することができなくなったときには、居住要件が免除され、非課税制度の適用を受けることができます(措法70条の2第9項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/25)より転載

[解説ニュース]

勝手に(?)出された相続時精算課税の申告書が無効かどうかでトラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等特例:相続人の継続事業への関与度合いが問われた事例

■貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

 

 


1.はじめに


相続時精算課税制度は、令和6年1月1日以後の贈与から110万円の基礎控除が使えるようになることから、現在注目されている制度です。今回はこの制度を利用した親子間での財産贈与で、起こりがちな事例を取り上げます。

2.相続時精算課税制度とは


相続時精算課税制度とは現行制度上、その年の1月1日現在で60歳以上の父母・祖父母である直系尊属から、18歳以上の推定相続人である子や孫へ贈与がある場合に、贈与した人と財産をもらった人の組み合わせごとに選択できる制度です。税負担は贈与額2,500万円までは特別控除により事実上贈与税が課税されず、それを超える金額の贈与には20%の税率で課税されます。

 

その見返りとして、この組み合わせで直系尊属である父母等の相続が開始した場合には、相続税の計算上相続時精算課税制度でもらっていた財産を相続財産に加算し、相続税が算出される場合にはこの相続税から支払い済みの贈与税を引いて精算する仕組みです。この選択は、いったん行われると後で解消することができないのが特徴です。

 

ただ、この制度をめぐっては、税務上のトラブルが散見されるようです。裁決事例になっている事案でも、たとえば、財産をあげた被相続人が財産を受け取った子供らのために被相続人自ら勝手に(?)相続時精算課税制度の届出・申告をして、あとで相続人が相続税申告する際、相続財産に加算する贈与財産の計算で誤りが税務署から指摘されたケースがみられます(審判所、令和元年6月17日裁決、令和5年2月3日裁決)。ここでは、令和元年6月17日裁決を見てみることにします。

 

 

3.事案の概要


裁決書によると、この事案は平成27年に開始した相続の相続税申告に際し、相続人が平成18年から21年にかけて被相続人からもらっていた財産について、相続財産に加算すべきかどうかが問題になった事案です。税務署は、平成18年から21年にかけて被相続人から贈与された財産(現金・建物)につき、被相続人自身の手で相続時精算課税制度により申告していたため、相続時精算課税制度の適用で相続財産に加算すべきものとして更正しています。しかし、相続人は相続時精算制度の申告書は、被相続人が勝手に作成し税務署に提出したので、無効だと反発したものです。

 

 

4.審判所の判断


審判所は、まず、申告手続きについて「納税義務者本人が申告書を提出して行うこととされているから(国税通則法第17条《期限内申告》等)、納税義務者以外の者が、本人の承諾なく勝手に納税義務者の申告書を作成し提出した場合には、その納税申告は無効であると解される」と考え方の原則を提示。次に、審判所は納税義務者以外の者が申告書を作成し提出した場合であっても、有効になる場合として、「その者が、納税義務者から明示又は黙示に当該申告行為をする権限を与えられている場合」と指摘しました。

 

事案のケースでは、被相続人が申告手続きしたことが明らかであることから、相続人が、被相続人に対し、「明示又は黙示に本件精算課税申告書による申告行為をする権限を与えていたといえるか否かについて」検討、次のような事実関係を指摘しています。

 

①相続人は、建物贈与に係る登記手続を被相続人に一任していたこと

 

②あとで被相続人が相続時精算課税申告を出し直すことになる暦年課税申告書を作成する際、農協などでの相談において、必要な書類の提示などの対応は被相続人が行っていたこと

 

③その暦年課税申告に係る納税資金は被相続人が負担していたこと

 

④相続人の印鑑は被相続人も使用することが可能な状況であったこと

 

⑤相続人が主体的に自己に係る申告手続等の必要な手続を行っていたということはうかがわれないこと

 

⑥後の相続時精算課税制度申告で相続人は贈与税に係る還付金等の振込を認識できたといえること

 

⑦被相続人が相続人口座から還付金等を出金したことにつき異議を述べたといった事実は認められないこと

こうしたことから審判所は一連の手続きに関し、相続人が「被相続人に対して包括的に委任していたとみるのが相当であるから、精算課税申告についても、明示又は黙示に当該申告行為をする権限を被相続人に与えていたといえる」と判断しています。

 

 

5.まとめ


上記のようなトラブルの原因は、被相続人と相続人の間での行き違いなのか、それとも別の理由があるのかは、本当のところはわかりません。

 

生前贈与による財産の承継は安全が第一だとすれば、将来発生する相続税でも不利にならないよう、被相続人と相続人が納得の上、税理士ら専門家を交えて手続きを行うことがトラブルを未然に防ぐことにもつながるのではないでしょうか?

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/9/11)より転載

[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、職員数名の小規模の会計事務所ですが、買手の会計事務所は見つかりますか?

 

 

小規模の事務所であっても、譲渡できる可能性はあります。

 

 

「 5名以下の小規模事務所 」を希望する買手事務所からの問い合わせは多いです。これから事業を拡大したいと考えている税理士事務所からのニーズがあります。もちろん、「 10名~20名規模の中規模事務所 」の譲受を希望している事務所も多いです。

 

 

「必ず買手が見つかります」とは断言はできませんが、「小規模の事務所だから買手は見つからない」と決め切らずに、譲渡先を探してみてはいかがでしょうか。

 

 

税務研究会では、全国の会計事務所より、譲渡を希望する税理士事務所を譲り受けたいという希望の連絡を多数受け付けています。譲渡をご検討の場合は、お気軽にご相談ください。

 

 

 

 

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「事業承継税制の適用要件について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】特例経営承継期間中に事業が立ち行かなくなった場合の取扱い

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

 

 

 

 

 


[質問]

A社は甲が代表取締役を務めていましたが、後継者として予定している乙を共同代表取締役に就任させるつもりです。その後、特例承認計画を県に提出し経営承継円滑化法の確認を受け、期間を経て甲は代表取締役を辞任し、いわゆる平取締役となり、その後乙に株式を贈与する計画です。

 

このような経緯を経る予定なのですが、その他の要件を満たしていた場合、上記贈与について事業承継税制の適用は可能でしょうか。

 

 

 

[回答]

1 事業承継税制の贈与者の要件

事業承継税制(贈与税)の適用対象となる贈与者とは、以下のいずれにも該当する者をいいます(租税特別措置法施行令第40条の8第1項第一号、同施行令第40条の8の5第1項第一号)。

 

(1) 贈与の前に会社の代表権を有していたこと

(2) 贈与の直前において、贈与者及び贈与者の同族関係者等で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、受贈者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

(3) 贈与の時において、会社の代表権を有していないこと

 

 

2 事業承継税制の受贈者の要件

事業承継税制(贈与税)の適用対象となる受贈者とは、以下のいずれにも該当する者をいいます(租税特別措置法第70条の7第2項三号、同法第70条の7の5第2項六号)。

 

(1) 贈与の日において、18歳以上であること

(2) 贈与の時において、会社の代表権を有していること

(3) 贈与の時において、受贈者及び受贈者の同族関係者等で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、受贈者の同族関係者等の中で最も多くの議決権を保有することになること(受贈者が1人の場合)

(4) 贈与の日まで引き続き3年以上にわたり会社の役員の地位を有していること

 

 

3 照会事例について

ご照会の事例における代表権に関しては、贈与者(現経営者)甲は株式を贈与する前に代表権を有しており、株式の贈与時には代表権を有していませんので、贈与者の要件を満たすことになります。また、受贈者(後継者)乙は株式の贈与時には代表権を有していますので、受贈者の要件を満たすことになります。

 

また、役員の就任期間等に関しては、受贈者の要件の役員から代表取締役は除かれていませんので、贈与の日まで引き続き3年以上にわたり代表取締役も含めて役員の地位を有していれば、受贈者の要件を満たすことになります。

 

したがって、ご照会の事例のような経緯を経るとする場合で、その他の事業承継税制の要件を満たしているときには、事業承継税制の適用は可能と考えられます。

 

なお、事業承継税制の代表権の判定は、法律上の名前で行うことから、代表権が移動した場合には、法務局の商業登記を変更する必要があります。また、共同代表に就任させる場合には、定款等において後継者の代表権に制限を加えないことに留意してください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2023年1月30日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、知人の税理士に顧問先を譲るのと M&Aで他事務所に譲渡(売却)するのとは何が違いますか?

 

 

主に下記の 2つ の違いがあります。

 

1つ目は、「 相手先をよく知っている安心感 」です。

 

知人の税理士への譲渡では、すでにどのような先生で、どのような事務所であるか、ということを知っているという安心感があります。

 

一方、M&Aで譲渡する場合は、面識のない事務所への譲渡になりますので、どのような先生で、どのような事務所なのかというのはわかりません。

そのため、所長同士の「トップ面談」や、「事務所見学」をしっかりと行う必要があります。

 

 

2つ目は、「 交渉のしやすさ 」です。

 

知人の税理士への譲渡では、付き合いがあるだけに、意外と「 強い交渉がしづらい 」ということがよくあります。とくに、「 譲渡対価 」は、「 適正価格よりも低い金額や、無償に近い金額 」で譲るケースも多いです。

 

一方、M&Aで譲渡する場合は、アドバイザーが算定した「 適正価格(一般で取引される価格)」をベースに交渉がはじまるため、適正価格よりも極端に低い金額で譲るケースはほとんどありません。

 

また、多くの買手候補が集まることもあり、「資金力のある事務所」が買手となる可能性もあります。

 

 

このようにM&Aでは、複数の買手候補から選択できるので、「 譲渡対価 」以外にも、「 事務所の環境 」「 職員への待遇 」などを比較検討しながら、買手を探すことができるというメリットがあります。

 

 

 

 

[税理士事務所の事業引継ぎ(M&A)や後継者不足に悩んだら]

 

会計事務所の事業引継ぎの一つの手段として、M&Aをご検討される税理士が増えてきました。税理士の皆さまより寄せられたよくある質問を、Q&A形式にてわかりやすく解説しました。

 


Q、どのような理由で、会計事務所・税理士事務所の譲渡(売却)を考える方が多いのですか?

 

1つ目は、「 後継者不在 」です。

息子や娘が税理士資格をもっていない、

税理士資格をもっている職員に承継を打診したが断られた、というケースです。

 

新規に人材を採用して、後継者を育成していたが、

「期待していた税理士が辞めてしまった」ということもよくあります。

 

 

2つ目は、ご自身の「 年齢 」「 体力や健康面の不安 」です。

55歳、60歳、65歳と節目の年齢に差し掛かる際に、

ご自身の体調面を踏まえて、今後の仕事や生活について考える、というケースです。

 

3つ目は、「 事業意欲の減退 」です。

税の専門家として、「勉強をするのがつらくなってきた」「ITについていけない」など、高齢になるにつれて、税理士業務を続けることに限界を感じる方もよくおられます。

 

その他にも、「 代表の責任から解放されたい 」「 大手の傘下でサービスを充実したい 」という理由を挙げる方もいます。

 

 

 

 

[解説ニュース]

個人が所有する宅地に前払地代方式により一般定期借地権を設定した場合の税務

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川瀬 朋基/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】譲渡所得の計算上、概算取得費で申告後に実際の取得費が判明した場合の更正の請求

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1.前払地代方式による一般定期借地権が設定された場合の借地権者・地主に係る所得税・法人税の取扱い


(1)定期借地権の設定時に受ける一時金の種類

一般定期借地権は借地借家法第22条で定められ、存続期間を50年以上とした借地権であれば、更新がないなどの一定の特約を付けることができ、その特約付の借地権を定期借地権として認めるとしています。定期借地権の設定時には、借地権者が個人地主に対し一時金として、借地期間終了後に地主に返還義務がある「保証金」や、返還義務のない「権利金」、「前払地代」のいずれかを支払う場合が多いようです。このうち前払地代の方式による場合は、定期借地権の設定時に、借地権者が地主に対して、借地に係る契約期間の地代の一部又は全部を一括して支払います。

 

(2)前払地代方式に係る税務上の取扱い

借地権者と個人地主が一定の定期借地権設定契約を締結した場合における所得税や法人税については、国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における税務上の取扱いについて」で次の通りとされています。

 

①借地権者 前払地代を「前払費用」として資産に計上し、当該事業年度又は当該年分の賃料に相当する金額を損金の額又は必要経費の額に算入します。

 

➁個人地主 前払地代を「前受収益」として負債に計上し、当該年分の賃料に相当する金額を収入金額に算入します。

 

(3)前払地代方式の適用を受けるための要件

前払地代方式を適用するには、借地権者と地主が次の内容を明示した定期借地権設定契約書により契約し、これを契約期間にわたって保管したうえで、取引の実態がその契約に沿うものである必要があります。

 

①授受する一時金が前払賃料であること

 

➁①の一時金が契約期間にわたって、又は契約期間のうち最初の一定の期間について、賃料の一部又は全部に均等に充当されていること

 

③中途解約時に未経過分の前払賃料を借地権者に返還しなければならないこと

 

なお、中途解約時の違約金等の設定をする場合は、③の内容を逸脱することがないようする必要があります(国税庁文書回答事例「前払賃料について定めた定期借地権設定契約書の書式例」)。

 

2.前払地代方式により一般定期借地権が設定された場合の地主に係る相続税の取扱い


(1)一般定期借地権の目的となっている宅地の評価

一般定期借地権の目的となっている宅地(底地)の相続税評価額は、その宅地の自用地評価額から一般定期借地権の評価額を控除して計算します。この場合、借地権者と地主が親族関係であったり、会社とその同族株主の関係等であるときは、課税上弊害があるとされ、原則として一般定期借地権の評価額は次に算式により計算します(財産評価基本通達27-2ただし書、平10課評2-8、国税庁「タックスアンサー」No4612)。

 

<算式>一般定期借地権の目的となっている宅地の自用地評価額×(① ÷ ➁)×(③ ÷ ④)

 

①定期借地権等の設定時に受ける経済的利益の総額

 

➁定期借地権等の設定時の宅地の通常の取引価額

 

③課税時期における定期借地権等の残存期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

④定期借地権等の設定期間年数に応ずる基準年利率による複利年金現価率

 

上記の計算において、前払地代の額は借地契約終了時にその未経過分が返還不要であることから、①の経済的利益の総額に含めます(国税庁文書回答事例「定期借地権の賃料の一部又は全部を前払いとして一括して授受した場合における相続税の財産評価及び所得税の経済的利益に係る課税等の取扱いについて1(1)」。

 

(2)前払地代の未経過分相当額の取扱い

地主が前払地代を受領後に死亡した場合、その死亡時に前受収益として計上している地代の未経過相当額については、上記2(1)の通り前払地代の額が定期借地権の評価額に反映されることによって、定期借地権の目的となっている宅地の評価額が減額されることから、相続税の計算上、別の債務として控除することはできません(同文書回答事例1(2))。

 

3.個人地主における前払地代方式の留意点


個人地主が前払地代方式による一般定期借地権を設定した場合、所得税の計算上、1(3)の要件を満たす限り、受領した前払地代は期間(各年)に応じた収益計上ができますが、各年の地代の額が高額となるときは最高55%の税率により所得税や住民税等が課税されます。また、地主の死亡時における前払地代の未経過分相当額は、2(2)の通り相続税の債務控除の対象にならない点に注意が必要です。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/28)より転載

[解説ニュース]

道路と高低差のある雑種地の評価で土止め費用の控除が認められた事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

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1.はじめに


相続税評価をする土地がたとえば駐車場やテニスコート等、はたまた荒れ地であることがあります。この場合、相続税の評価の区分が雑種地と判定されるかどうかがポイントの1つになります。法令上では、雑種地とは、不動産登記事務取扱手続準則で定められた23の地目のうち、田、畑、宅地…公衆用道路、公園等22ある地目に該当しない23番目の区分の土地とされており、相続税の財産評価でも、不動産登記事務取扱手続準則に準じて雑種地かどうかを判定します。

 

雑種地の相続税評価は「原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1㎡当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する」(財産評価通達82)。どのようなロケーションにあるかが雑種地の相続税評価に影響し、場合によっては宅地並みに評価される場合があります。

 

今回は、市街化区域・市街化調整区域を定めていない都市計画区域で、用途地域が商業地域とされた外見上、雑草の生えた雑種地の相続税評価をめぐって争われた国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の裁決事例で、土止め費用の控除が認められた事例(令和4年9月5日)を見てみましょう。

 

 

2.事案の概要


問題になった土地の状況等は、次のとおりです。

 

 

相続人は、当初申告でその土地を約2,337万円と評価していました。しかし、令和2年にこの土地を不動産鑑定を行い、1,500万円となるとして「更正の請求」を行いましたが、税務当局に認められず、審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


審判所は、財産評価は特別の事情がない限り、財産評価基本通達の定める評価方法によって評価するのが相当としたうえで、都市計画の用途地域の指定がある地域にある雑種地の価額については、「その価額の形成要因が、当該雑種地を宅地として利用することを前提としたものであるから、その要因は近隣の宅地と変わりがなく、また、当該雑種地と宅地との比較においては、宅地造成費相当額だけの格差があるものと認められる」と評価の考え方を示しました。

 

具体的には「その雑種地が宅地であるとした場合の価額から、その雑種地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる造成費に相当する金額として、整地等に要する費用の額がおおむね同一と認められる地城ごとに国税局長が定めた金額を控除する方式により評価することが相当(中略)宅地造成費とは、宅地との比較において格差があると認められる宅地造成費相当額、すなわち、その雑種地を宅地として利用可能な状態にするために必要とされる整地、土盛り、土止めに要する金額を指すものと解するのが相当である」としました。

 

 

あてはめでは、審判所は、北西側道路から平均で1.073m、南西側道路から平均で0.645m、隅切りから平均で1.065m高い位置にあることを認定し、「道路面よりも高い位置にある土地から各道路及び隅切りに向けて、土地上の土砂が流出していると認められる。これらのことからすれば、土地を宅地に転用する場合には、土砂の流出や崩壊を防止するため、本件土地と本件各道路及び本件隅切りとの境界に擁壁の構築が通常必要であると認められる」として、土止め費用の控除を認め、評価額を約1,823万円としました。

 

 

4.相続人の思惑


相続人は、問題の土地の基準容積率が360%で、地積が十分に大きいことから「地積規模の大きな宅地」並みの扱いとして、評価を下げたかったようです。400%の「指定容積率」という形式的要件で不適合となることは不合理と主張しましたが、認められませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/8/14)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:所得税の特定の事業用資産の買換え特例(3号)の見直し

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

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1.特定の事業用資産の買換え特例(3号)の概要


所得税の特定の事業用資産の買換え特例は、個人が特定の地域内にある事業用資産を譲渡して、一定期間内に特定の資産を取得し、かつ1年以内に事業の用に供する等の所定の要件を満たした場合、譲渡益の一定割合(課税繰延割合)に相当する金額の課税が繰延べられるという税制です(租税特別措置法(措法)37条。法人税でも措法65条の7で同様の税制が設けられています)。この特例のうち利用されることが多いのが、措法37条1項3号の買換え(以下「3号買換え」)です。

 

この3号買換えでは、国内にある土地等、建物又は構築物で譲渡日を含む年の1月1日において所有期間が10年を超えるもの(譲渡資産)を譲渡し、国内のある一定の土地等、建物等又は構築物(買換資産)を取得した場合に、適用を受けることができます。

 

 

2.改正のポイント


令和5年度税制改正により、3号買換えにつき次の見直しが行われた上、適用期限が令和8年3月31日まで3年延長されました(改正法附則32条6項、7項)。

 

(1)課税繰延割合の変更

①概要

令和5年4月1日以後の譲渡より、東京都の特別区の区域から地域再生法の「集中地域」*以外の地域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が90%(改正前80%)に引き上げられ、同法の集中地域以外の地域から東京都の特別区の区域への本店又は主たる事務所の所在地の移転を伴う買換えの課税繰延割合が60%(改正前70%)に引き下げられました(措法37条10項)。

 

*「集中地域」とは、東京都の特別区、武蔵野市、三鷹市、横浜市、川崎市、大阪市等の、法令が定める一定の地域をいいます(地域再生法 5条4項5号イ、同政令5条)。

 

②課税繰延割合の変更の趣旨

集中地域の外から内への買換えは、地域再生法における企業の地方拠点強化の促進と両立しないため、改正前から圧縮割合が原則の80%から70%に引き下げられていました。今回の改正では、集中地域の外から東京都の特別区への本店の移転を伴う買換えについて、さらに圧縮割合が60%に引き下げられました。一方、企業の地方拠点強化につながると考えられる東京都の特別区から集中地域の外への本店の移転を伴う買換えについては、圧縮割合が90%に引き上げられました(参考:財務省「令和5年度税制改正の解説」(以下「解説」)398頁)。

 

 

(2)届出要件の追加

①概要

令和6年4月1日以後、同一年に譲渡資産の譲渡と買換資産の取得をした場合には、譲渡資産の譲渡日又は買換資産の取得日のいずれか早い日を含む「3月期間」の末日の翌日以後2ヶ月以内に、この特例の適用を受ける旨、及び取得見込資産又は譲渡見込資産の種類等を記載した届出書を税務署長に提出することが必要になります(措法37条1項)。

 

なお、この要件は、同一年内に譲渡資産の譲渡及び買換資産の取得をした場合の特例の適用要件であるため、譲渡資産の譲渡の前年中に買換資産を先行取得する場合(措置法37条3項)や、譲渡資産の譲渡の翌年以降に買換資産を取得する見込みの場合(同条4項)等には、この届出は不要とされます。

 

②「3月期間」の意義

「3月期間」とは、1月1日~3月31日、4月1日~6月30日、7月1日~9月30日、10月1日~12月31日の各期間をいいます(措法施行令25条3項)。

 

③届出要件の追加の趣旨

3号買換えは、土地政策又は国土政策の観点から、特定地域からの追い出し促進や土地の有効利用促進等を目的に設けられた特例です。しかし、複数の土地等の売買取引を行う際に、申告時にその売買取引を並べた上で特例の要件に合致する譲渡資産と買換資産の組み合わせを事後的に作成し、適用を受ける事例が見受けられ、問題視されていました。今回3号買換えの適用期限を延長するに当たり、このような問題点を是正し、税制として適切に機能させるため、譲渡(又は取得)後一定期間内に本制度の適用及び適用を受ける買換え(譲渡資産と買換資産の組み合わせ)に関する事項の届出が、要件として追加されることになりました(参考:「解説」402頁)。

 

(注)法人税の3号買換えについても、上記2とほぼ同様の改正が行われます。ただし法人税の3号買換えの改正では、2(2)①の「同一年」が「同一事業年度」、②の「3月期間」の意義が「事業年度をその開始の日以後3ヶ月ごとに区分した各期間」となります(措法65条の7第1項)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/24)より転載

[解説ニュース]

マイホーム買換特例の適用状況などについて

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

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1.はじめに


住宅の住み替えを支援する税制である「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」(租税特別措置法36条の2、以下「マイホーム買換特例」という。)は、適用期限が令和5年12月31日までとされています(令和4年度税制改正)。同改正では、買換資産が、次のどちらかである場合、一定の省エネ基準(断熱等性能等級4以上および一次エネルギー消費量等級4以上)を満たす要件が追加されています。

 

ア.令和6年1月1日以後に建築確認を受ける住宅(登記簿上の建築日付が同年6月30日以前のものを除く。)

 

イ.建築確認を受けない住宅で登記簿上の建築日付が令和6年7月1日以降のもの

 

 

2.居住期間10年以上の要件等


このマイホーム買換特例は、保有期間が10年を超え、居住期間が10年以上の一定の要件を満たす居住用財産(マイホーム)を譲渡して、たとえば元のマイホームよりも高い金額の新たな住宅に買い換え、その他所定の要件を満たす場合、マイホームの譲渡益にかかる譲渡所得課税を先送りする特例です。

 

また、適用要件の1つである「居住期間10年以上」については、しばしば税務当局内でも注意喚起が行われているようです(東京国税局「資産税審理研修資料」令和3年8月)。たとえば、後で取得して自分の家になる借家に住んでいた期間も「居住期間10年以上」の判定の期間に入るのかどうかという点についてです。
この「居住期間10年以上」の判定の仕方については、措置法通達36の2-2で次のように整理されています。

 

措置法第36条の2第1項第1号に規定する「当該個人がその居住の用に供している家屋」の居住期間(当該個人がその居住の用に供している期間として措置法令第24条の2第6項に規定する期間をいう。以下36の2-22までにおいて同じ。)が10年以上であるものかどうかは、次により判定する。(平19課資3-5、課個2-15、課審6-9改正)

 

(1)当該個人が、譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間がある場合には、居住していなかった期間を除きその前後の居住していた期間を合計する。

 

(2)居住期間に該当するかどうかの判定については、31の3-2及び31の3-6に準じて取り扱う。

 

上記の取扱いでは、「譲渡した家屋の存する場所に居住していなかった期間」と整理されていることから、その家が借家かどうかを問わないものとされています。借家の譲渡を受けた親から相続で取得した元借家の家を相続人が譲渡する場合、取得価額の引継ぎにより譲渡益は大きくなりがちだと思われます。
このような場合には、マイホーム買換特例の適用ができるなら、買換えに際しての税負担は少なくできることでしょう。

 

 

3.適用状況などについて


マイホーム買換特例について、譲渡益から3,000万円まで控除する「居住用財産の譲渡所得の特別控除(租税特別措置法35条)」との比較では、譲渡益の金額が3000万円よりも大きい場合にこの特例を利用すれば、目先の譲渡所得課税による税負担を効果的に先送りできるのがポイントです。

 

ただ、住宅譲渡対価の上限が1億円とされた平成26年以降は、適用件数も年間400件を超えることはなくなっています。ここ19年間のマイホーム買換特例の適用状況は次の通り(国税庁「資産税事務処理状況表」)。

 

 

 

 

令和4年度税制改正に向けた国土交通省の税制改正要望では「特に従前住宅の所有期間の長い高齢者層に譲渡益及びその課税負担が発生することが多い一方、これらの層は新しいローンを組みにくい。従前住宅の売却金等により新たな住宅を購入せざるを得ないこれらの層にとっては、売却時の課税負担が買換えの障害となるため、こうした障害を減少させることにより、ライフステージの変化に応じた円滑な住替えを支援することが必要である。」として、適用期限の延長を要望していました。

 

 

令和4年度税制改正ではそれが認められたわけですが、今年の年末で期限を迎えるマイホーム買換特例について、令和6年度税制改正では、どのようになるか注目されます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/7/10)より転載

[解説ニュース]

貸家建付地の相続税評価では、次の相続までの状況変化に注意

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■低未利用地等を譲渡した場合の100万円特別控除の適用状況

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1.はじめに


賃貸共同住宅は相続税の財産評価では有利だという話はよく聞くところです。実際、賃貸共同住宅の敷地と建物の相続税評価は、国税庁の財産評価基本通達によると、次のような計算式で求めることとされています。

 

●貸家の敷地の相続税評価額=自用地の評価額-自用地の評価額×その地域の借地権割合×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達26)。

 

●貸家の評価額=その貸家の固定資産税評価額-同家屋の固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合(財産評価基本通達93)。

 

ただし、賃貸共同住宅の敷地・建物を複数の相続人で相続した後、その相続人に相続が開始した場合には、以前の相続の仕方や相続人が相続した後の借家人の入れ替わりなどの状況変化によっては、同じ賃貸共同住宅の敷地・家屋であっても、相続税評価の上で不利になる場合があります。敷地の相続税評価において、賃貸集合住宅の敷地となっているのに、貸家建付地としての減額が認められないケースもあるからです。

 

 

2.事例の概要


貸家建付地としての減額が認められなかった最近の事例(国税不服審判所裁決、令和4年9月20日)を紹介します。この事例は他にも争点がありますが、ここではおよそ260㎡の土地に建つ、戸数6戸の賃貸共同住宅の敷地の評価について争われたところをクローズアップします。

 

裁決書によると、相続税評価が問題となった土地は、被相続人(以下「亡母」という)の配偶者である父が昭和59年2月5日に建築した共同住宅の敷地として利用されていたものです。亡母の死亡に係る相続の前に発生した父の死亡による相続で、亡母はこの土地の100分の25の持分を取得し、長女がこの土地の100分の75の持分と共同住宅の所有権を取得していました。推測ですが、父からの相続では、賃貸共同住宅が満室だったら、亡母と長女が取得した敷地はその全体が貸家建付地と評価されていたのではないでしょうか?

 

今回の亡母の相続開始時点では、総戸数6戸のうち3戸が実際に貸し付けられていました。また、借家人と契約していたのは長女となっていました。なお、亡母は長女との間で母の土地の持ち分の賃貸借契約を締結しないまま、相続を迎えたということです。

 

亡母の長女を含む相続人らは、問題の敷地の相続税評価に関し、貸家建付地として評価し申告していましたが、税務署は、亡母と長女の間に地代の授受が認められないから、土地の利用は使用貸借であるとして減価せずに更正処分等をしました。こうして審査請求に及んだものです。

 

 

3.審判所の判断


国税不服審判所(以下「審判所」という)は、上記の財産評価基本通達の貸家建付地等の評価方法について「適正な時価を算定する方法として合理的なもの」と認めました。そのうえで、審判所は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の所有者は長女であり、(父からの相続後)共同住宅の賃貸人も長女であったことから、亡母は、共同住宅の借家人に対してその賃貸人としての義務を負う立場にはなく、

 

この土地が共同住宅の數地として利用されていることの結果としく受ける亡母の利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることからくるもの(中略)したがって、亡母と長女との間にこの土地に係る使用貸借の合意があったか否かにかかわらず、この土地の亡母の共有持分を評価するに当たり、この土地を貸家建付地として評価することはできない。」と判断しました。そして審判所は「亡母のこの土地の共有持分について、長女との間において賃貸借契約があったと認められないからこの土地は自用地として評価することとなる」としています。

 

なお、相続人は「(亡母の)相続開始日において、共同住宅の一部が賃貸に供され、その借家人が共同住宅を通じて、その敷地利用権を有しているところ、貸家の所有者が相続により変更になっても借家人の借家権及びその敷地利用権は侵害されないから、(中略)この土地は、貸家建付地として評価すべき」と主張していました。

 

これに対し審判所は「借家人は長女との間で賃貸借契約を締結しているのであるから、借家人が有するこの土地の利用権は、(中略)長女がこの土地に対して有する権限を前提にしたものにすぎない。そして、(中略)亡母が受ける利用上の制約は、この土地が亡母と長女の共有であることによるものといえるから、請求人らが主張する事情をもって、この土地を貸家建付地として評価すべきとはいえない」と相続人の主張を退けています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/26)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:相続開始前に被相続人から暦年課税に係る贈与があった場合の相続税

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■交換差金等の支払いを受けた場合の所得税の固定資産の交換特例の取扱い

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1.暦年課税のあらまし


(1)贈与税の計算方法

 

暦年課税の贈与税の計算は、その年の1月1日から12月31日までの間に贈与により取得した財産の価額を合計し、その合計額から基礎控除額110万円を控除します。その控除後の金額に超過累進税率をかけて税額を計算します(相続税法(相法)21条、21条の2、21条の7、租税特別措置法70条の2の4等)。

 

 

(2)相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産の相続税計算への加算

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人(被相続人の死亡による死亡保険金の取得等、相続又は遺贈により財産を取得したものとみなされる人も含む。)が、その被相続人から相続開始前 3 年以内に贈与を受けた財産がある場合は、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上、その贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)が加算され、加算された人の相続税の計算上、その贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除します(相法19条1項、3条1項等)。

 

 

2.相続開始前に贈与があった場合の相続税計算への加算期間等の見直し


(1)改正の趣旨

 

贈与税の暦年課税は、生前贈与による相続税の回避を防止する観点から、相続税に比べて取得した財産に対して適用する税率が高くなる構造となっています。例えば、相続する財産が4,000万円の場合、相続税の税率は20%ですが、その財産を1,000万円に4分割して子に贈与しても贈与税の税率は30%となり、相続税よりも高い税率が適用されます。

 

その一方で、相続財産が多いため多額の相続税がかかることが見込まれる人にとっては、相続税の税率よりも贈与税の税率の方が低いことから、財産を分割して贈与を繰り返す方法を採ることで、贈与税の計算上は、相続税よりも低い税率を適用することが可能です。例えば、相続する財産が6億円超の場合、相続税の税率は55%ですが、その財産を4,500万円以下に分割して贈与すると、贈与税の税率は相続税よりも低い税率(55%以下)が適用されます。

 

以上のような問題点を改善し、若年世代への財産の移転に関して生前贈与でも相続でも最終的な税負担を一定にする、「資産移転の時期の選択により中立的な税制」を構築することを目的として、次の(2)~(5)の改正が行われました。

 

 

(2)加算期間の延長

 

被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した人が、その被相続人から相続開始前7年以内に贈与を受けた財産がある場合には、原則、その贈与により取得した財産(加算対象贈与財産)の価額(贈与時の価額)が、被相続人に係る相続税の課税価格の計算上加算され、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税額を控除されます(改正後の相法19条1項)。

 

なお被相続人から相続又は遺贈により財産を取得しなかった人が被相続人から贈与を受けた財産の価額は、被相続人に係る相続税の課税価格には加算されないので、加算期間の延長の対象にはなりません。

 

 

(3)加算対象贈与財産の100万円控除

 

過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、加算対象贈与財産のうちその相続開始前3年以内に贈与により取得した財産以外の財産については、その財産の合計額から100万円が控除されます(改正後の相法19条1項かっこ書)。例えば令和13年1月1日に相続が開始した場合、令和6年1月1日から9年12月31日までの間に贈与を受けた財産の合計額から100万円が控除されます。

 

 

(4)適用時期

 

(2)と(3)の改正は、原則、令和6年1月以後に受けた贈与より適用されます(令和5年改正法附則(以下「附則」)19条1項)。

 

 

(5)加算期間の延長の経過措置

 

(2)の延長には経過措置があり、令和9年1月以後に開始した相続より、改正前の3年から順次延長されます。令和9年1月1日から12年12月31日までに開始した相続については、令和6年1月から相続開始日までに受けた贈与財産の額が加算対象とされ、令和13年1月1日後に開始した相続から加算期間が7年となります(附則19条2項、3項)。

 

例えば令和8年7月1日に相続が開始した場合、令和5年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和10年1月1日に相続が開始した場合には、令和6年1月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。令和13年7月1日に相続が開始した場合には、令和6年7月1日以降に受けた贈与が加算対象となります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/6/12)より転載

[解説ニュース]

令和5年度税制改正:贈与税の相続時精算課税の見直し

 

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■【Q&A】事業承継税制:相続税の特例措置における「中小企業者要件」の判定

■【Q&A】被相続人から相続開始の年に贈与を受けた相続人の課税関係

 

 

 


1.改正前の相続時精算課税のあらまし


相続時精算課税は、原則、60歳以上の父母又は祖父母(以下「特定贈与者」)から18歳以上の子又は孫(以下「相続時精算課税適用者」)が、財産の贈与を受けた場合に、一定の届出により適用を受けることができます。具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与を受けた財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(最大2,500万円)を控除し、その残額に一律20%の税率をかけて贈与税を計算します(相続税法(相法)21条の9、12、13)。

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に相続時精算課税を適用した贈与財産の価額(贈与時の価額)を加算し、加算された人の相続税の計算上、加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します(相法21条の14~16)。

 

 

2.令和5年度税制改正のあらまし


相続時精算課税の使い勝手を向上させ、生前にまとまった財産を次世代に移転しやすくする税制を構築することを目的に、次の改正が行われました。

 

(1)基礎控除制度の導入

 

相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により財産を取得した場合、その財産に係るその年分の贈与税については、暦年課税の基礎控除とは別に課税価格から最大110万円の基礎控除が控除されます(相法21条の11の2第1項、租税特別措置法(措法)70の3の2第1項)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Aが特定贈与者の父から現金200万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、200万円-110万円(基礎控除)-90万円(特別控除)=0円となります。その後、令和7年にその父からAが現金2,600万円の贈与を受けた場合、その年分の贈与税の計算は、{2,600万円-110万円(基礎控除)-(2,500万円-90万円)(特別控除)}×20%=16万円となります。

 

なお、相続時精算課税適用者が同一年中に2人以上の特定贈与者から贈与を受けているときは、特定贈与者ごとに、それぞれ贈与を受けた財産の価額に応じて基礎控除の110万円を按分計算します(相法21条の11の2第2項、相法施行令5条の2、措法70の3の2第2項、措法施行令(措令)40条の5の2)。例えば、令和6年に相続時精算課税適用者Bが特定贈与者の父から400万円、特定贈与者の母から100万円の贈与を受けた場合、父から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×400万円÷(400万円+100万円)=88万円、母から受けた贈与に係る基礎控除は110万円×100万円÷(400万円+100万円)=22万円となります。

 

(2)特定贈与者が死亡した場合の相続税の取扱い

 

特定贈与者が死亡した場合は、その相続税の計算上、相続財産の価額に、【相続時精算課税適用者が死亡した特定贈与者から取得した贈与財産の価額-(1)の基礎控除】が加算されます(改正後の相法21条の15第1項)。例えば、相続時精算課税適用者Cが特定贈与者の父から令和6年に現金200万円、令和7年に現金2,600万円の贈与を受けた後、父が令和8年に死亡した場合、(200万円-110万円)+(2,600万円-110万円)=2,580万円が父に係る相続税の計算に加算されます。

 

(3)適用時期

 

(1)と(2)の改正は、令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る相続税又は贈与税について適用されます(改正法附則19条第1項)。

 

(4)贈与により取得した土地又は建物が災害により被害を受けた場合の特例

 

上記1の通り、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した土地や建物が、その取得後に災害により被害を受けたことにより、特定贈与者の死亡時の価額が贈与時点の価額よりも下落した場合であっても、特定贈与者に係る相続税の計算上は贈与時の価額を加算するのが原則です。これが今回の改正により、その贈与により取得した土地や建物につき災害により一定以上の被害を受けた場合は、相続税の計算上、特例的に加算する贈与財産の価額の減額が認められることになりました。

 

具体的には、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により一定の土地又は建物を取得した場合において、その贈与の日から特定贈与者の死亡に係る相続税申告書の提出期限までの間に、災害によりその土地または建物が一定の被害を受けたときは、その災害が発生した日から3年を経過する日までに、所轄税務署長に一定の申請書を提出して承認を受けることにより、その特定贈与者に係る相続税の計算上、【その土地又は建物の贈与時の価額-その災害により被害を受けた部分に相当する額】を加算することになります(措法70条の3の3第1項、措令40条の5の3第5項)。この改正は、令和6年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合について適用されます(改正法附則51条第5項)。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/29)より転載

[解説ニュース]

親の土地を無権代理で売買、引渡し前に相続開始で税金紛争

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産購入5か月後、子どもへの贈与で税金トラブル

■合資会社の持分払戻請求権の評価に関する最近の裁決事例

 

 


1.はじめに


疾病により意思の確認が困難な親の持つ土地を、子が無権代理で売買契約した直後、相続が開始したため、税金トラブルになった事例が出てきました(国税不服審判所裁決、令和4年10月4日)。トラブルになったのは、親の土地が買主に引渡前で、いわゆる「売買契約中の相続」だったためです。

 

このケースで、売主側で開始した相続の場合には、相続財産として課税対象になるのは、土地そのものではなく、手付金を除いた残代金請求権という金銭債権になるとされます。残代金請求権となると土地の含み益が実現した形で相続税の課税が及びます。

 

このため相続人である子供は、売買契約を無権代理で行っていたことから、契約は無効だったとして、土地としての相続税評価額で相続税の申告をしましたが、税務署がそれを否認して争いになったものです。

 

2.事例の概要


裁決書によると、事実の経過は次のとおりです。

 

1.平成30年4月13日、相続人のうちの1人Aが、認知機能の低下した被相続人の保有する土地2万㎡弱を買主に売る契約を締結し、契約書の売主欄には被相続人の記名押印があった。

 

2.契約では、同年7月13日までに引き渡すことが約されたほか、手付金の交付が約され、契約日である4月13日に、手付金は被相続人口座に振り込まれた。

 

3.土地の引渡し前に被相続人が死亡し相続が開始。

 

4.同年6月29日、相続人AとBの2名は、買主との間で、土地の引渡し日を同年8月末日に変更する「不動産契約取引期日変更同意書」を取り交わした。相続人A・Bの署名押印がなされた。

 

5.同年6月30日、売買契約目的の土地等について相続人A・Bが取得することを決めた遺産分割協議を成立させた。同年8月15日、相続人A・Bは、売主との間で、売主の地位が被相続人から承継されていることなどについて「覚書」を交わした。同月31日、相続人A・Bは残代金を受領した。

 

この後、相続人らは、売買契約中の土地につき路線価評価で期限内に相続税申告。これに対し税務当局は令和3年9月に売買契約中の財産につき「残代金請求権」と認定し追徴しました。相続人はこれを不服として国税不服審判所(以下、「審判所」という。)の判断を仰ぐことになったものです。

 

 

3.審判所の判断の概要


争点は「相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等であるか、売買残代金請求権であるか」。

 

民法では、代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じないとの規定(第113条第 1項)があります。この事案では売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないまま被相続人本人が死亡しています。そこで審判所は、被相続人の共同相続人による売買契約を追認又は拒絶する権利の行使について、次のように検討しました。

 

1.無権代理人が、被相続人本人の持つ無権代理行為を追認又は拒絶する権利について、他の相続人と共に共同相続した場合において、無権代理行為を追認又は拒絶する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する。共同相続人全員が共同して追認又は拒絶する権利を行使しない限り、無権代理行為が有効となるものではない。

 

2.相続人は全員で、売買契約を追認又は拒絶する権利を行使することのないままに、遺産分割協議を成立させ、その結果として、無権代理をした相続人等は、土地等の所有権を相続により取得した。

 

3.「無権代理をした相続人ら」は、売買契約を追認又は拒絶する権利も土地等の所有権とともに、相続により取得したものとみるべき。

 

審判所は上記を踏まえ、被相続人の無権代理人として締結した売買契約について、被相続人死亡後、買主との間で交わした「売主の地位を被相続人から承継したとする」覚書で追認したものと認められ、民法第116条に規定するとおり、追認は別段の意思表示がないときは、契約の時に遡ってその効力を生ずることとなるから、売買契約は、被相続人が亡くなる前の無権代理で契約のあった日に遡って有効であったと認定しました。

 

結論として審判所は「相続の開始の時において、売買契約の履行が、相当程度確実になっていたものと認められることから、相続税の課税価格に算入すべき財産は、土地等ではなく、売買残代金請求権であると認めるのが相当である」と判断し、税務当局の追徴を支持しました。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2023/5/15)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「税理士法人の出資持分の評価」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】経営状況が悪化した法人の役員退職金

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 

 

 


[質問]

<前提条件>

①  弊社:税理士法人(決算8月)

② A社員税理士は令和4年8月31日に退職したため、A社員税理士の出資持分の全部をB社員税理士へ贈与した。(贈与日:令和4年9月1日)

③ 定款には「当法人の社員は、その持分の全部又は一部を他人に譲渡するには他の総社員の承諾を得なければならない」旨の規定があるが、承諾済みである。

④ 弊社の会社規模は「小会社」

⑤ 弊社の出資持分の評価については以下のように認識している。

・税理士法人は持分会社であり、その社員税理士は無限責任社員である。

・その無限責任社員の退社時の出資の評価については、持分承継の規定があるかどうかによって変わる。

・持分承継の規定がある場合は「取引相場のない株式」の相続税評価に準じる。

・持分承継の規定がない場合は払戻請求権になるので、純資産価額(法人税等相当額を控除しない)での評価。

 

<質問>

以上のような認識のもと、今回の持分贈与は持分承継の規定があるため、通常の取引相場のない株式評価となり、「小会社」として類似業種比準価額が50%使えると考えてよろしいでしょうか。

 

 

 

 

[回答]

1 税理士法人とは

税理士法人は、社員を税理士に限定した、商法上の合名会社に準ずる特別法人です。合名会社とは、出資者が「出資持分」という形で財産権を保有する持分会社の一種であり、株式会社のように株式を発行することはできません。

 

税理士法人の「出資持分」は、「社員は、他の社員の全員の承諾があれば、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができる」などの定めを定款におけば、他者に譲渡することができます(税理士法48条の21第1項、会社法585条)。ただし、税理士法人の社員は税理士でなければならないとされているため(税理士法48条の4第1項)、税理士法人の「出資持分」は個人税理士に対してのみ譲渡することができます。

 

 

2 持分会社の退社時の出資の評価

合名会社、合資会社又は合同会社(以下「持分会社」と総称します。)の社員は、死亡によって退社するとされていることから(会社法第607条第1項)、原則として「出資持分」は、出資として相続人に引き継がれません。

 

したがって、その持分について払戻しを受ける場合には、会社法第611条第2項に「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない」と規定されていることから、持分の払戻請求権として評価します。その価額は、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額になります。

 

ただし、「出資持分」の相続について定款に別段の定めがあり、その持分を承継する場合には、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(国税庁ホームページ/法令等/質疑応答事例/財産評価「持分会社の退社時の出資の評価」参照)。

 

なお、税理士法人の社員が死亡した場合には、たとえ社員の相続人が税理士であっても、社員の資格を相続することはできず、単に死亡した社員の持分払戻請求権等を相続することになります。これは、持分の相続に関する定款の定めについて規定した会社法608条《相続及び合併の場合の特則》が税理士法では準用されていないため、「出資持分」を相続により承継することができないからです(税理士法48条の21第1項)。

 

 

3 質問事例における出資持分の評価方法

譲渡は他人に財産を「譲る」ことであり、譲渡には無償譲渡と有償譲渡があります。そして、有償譲渡は対価を伴うもので、無償譲渡は対価を伴わないものであり、無償譲渡は贈与と同じ意味になります。

 

したがって、ご質問事例が記載されている前提条件である場合には、贈与により承継された「出資持分」は、出資として、取引相場のない株式の評価方法に準じてその価額を評価します(財産評価基本通達194)。すなわち、評価する税理士法人の会社規模が「小会社」に当たる場合は、類似業種比準価額と純資産価額との併用により評価することができます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2022年12月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。