[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「父から相続した建物を父の事業に従事していた者に低額譲渡した事例に対するみなし贈与課税の適用について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業を譲り受けた場合に営業権の計上について

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

個人で診療所を経営している甲医師(以下「甲」という)は、甲の叔父が所有している土地を賃貸借契約して賃借し、その土地に建物を建て、診療所を経営していました。土地の賃貸料は安く相当の地代に満たないそうです。

 

甲は2月に病気になり入院したため休診にしていましたが、病気が完全に治るという可能性がないこと、また甲の子も医師ですが、甲の診療所を利用して開業する意思がないため、甲は廃業して建物を解体する予定でした。しかし4月に病状が急変し死亡しました。

 

相続人になる甲の子(以下「乙」という)も、建物を解体しようと考えていましたが、甲の診療所に勤務している従業員の子で、他の病院に勤務している勤務医がおり、従業員と勤務医をしている子が乙に診療所を承継したい旨を話すと、乙も快諾しました。乙としても建物を解体しても費用がかかること、また廃業するためにはいろいろな面倒な手続きがあること、また承継を望んでいる従業員の子の開業の助けになればと考えたそうです。

 

診療所の建物は、診療所専用で鉄筋造りの2階建てで、総床面積は600㎡です。入院設備はありません。

 

建物の固定資産償却額は6,000万円ですが、乙は診療所を承継してもらえるならと500万円で譲る考えです。

 

乙に対しては建物の相続税評価額6,000万円に対して、また借地権に対して相続税が課税されますがその課税については了解しています。

 

500万円という値段については、甲が生前に入院中、他人からもし診療所を廃業して建物を売却する考えがあれば500万円で売ってほしいという話がもとになっているようです。

 

この建物を有効に活かせる人から見れば3,000万円あるいは4,000万円の値段がつくかもしれません。

 

乙と従業員は親族関係にはなく他人のため、固定資産税評価額6,000万円の建物と借地権を500万円で売却しても従業員に対してみなし贈与は発生しないと考えますが、いかがでしょうか。

 

また、みなし贈与以外に何か課税上問題が発生するでしょうか。

 

なお、建物の帳簿価額は6,400万円です。

 

[回答]

ご照会の事案は、相続人乙が被相続人甲から相続により取得する建物を低額譲渡した場合において譲受人に対してみなし贈与課税の適用があるかどうかを問題としております。

 

ご照会では、乙と譲受人との間に親族関係はなく他人であるところからみなし贈与課税の適用はないと結論しております。

 

事実関係について建物の価額など詳細に示されていますが、ご照会の事案の検討に当たっては次に挙げる事項について事実関係を明らかにする必要があるのではないかと思われます。

 

① 甲は診療所の建物(以下、「A建物」といいます。)の敷地として甲の叔父の土地(以下、「B土地」といいます。)を賃借しておりましたが、A建物に係るB土地の借地権はどのように取り扱われていたか。

 

② A建物を譲り受けるのは甲の診療事業に従事していた従業員(以下、「丙」といいます。)または丙の子(以下「戊」といいます。)の何れか。

 

ご意見では、A建物の価額について固定資産税評価額、相続税評価額などを取り上げたうえで500万円という価額に至った経緯などを基に、乙と丙との身分関係などに照らしてみなし贈与課税の要件を欠くのではないかと結論しておられます。

 

しかしながら、上記の「①」で取り上げたところにより譲渡資産として取引される資産がA建物に加えてB土地の借地権も含まれるとすると、取引される資産の価額と対価の開差は大きく異なる見解も考えられるのでにわかにご意見に頷けないものがあります。

 

上記の「②」はA建物が診療所専用であるということからすると、医師である戊が譲り受けることには理解できますが、医師の資格を有しない丙が譲り受けることには素直に理解できないものがあります。

 

ご照会のおたずねでは、乙と丙との間に親族関係が存しないことを大きな要素としておりますが、固定資産税評価額との比較において取引価額に大差が存する事実からするとご意見によることは難しいのではないかと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「持続化給付金と家賃支援給付金の未収計上について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】持続化給付金・家賃支援給付金の収益計上時期

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与

 

 

 


[質問]

法人税基本通達2—1—42に基づいて決算までに給付決定がない又は申請手続はしていないが決算前の対象月で後日申請する場合には、いずれの場合も給付金は決算において未収計上すべきですか。

 

通達を読むかぎり、持続化給付金は未収計上不要、家賃支援給付金は未収計上必要と考えますがいかがでしょうか。

 

 

(法令に基づき交付を受ける給付金等の帰属の時期)
2—1—42 法人の支出する休業手当、賃金、職業訓練費等の経費をほてんするために雇用保険法、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律、障害者の雇用の促進等に関する法律等の法令の規定等に基づき交付を受ける給付金等については、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった日の属する事業年度終了の日においてその交付を受けるべき金額が具体的に確定していない場合であっても、その金額を見積り、当該事業年度の益金の額に算入するものとする。

 

[回答]

法令等に基づき交付を受ける給付金等の収益計上時期については、貴見のとおり、法基通2-1-42においてその取り扱いを明らかにしています。

 

この取り扱いにおいては、雇用保険の規定による雇用調整助成金等のように、あらかじめ給付金による補填を前提として所定の手続きを取り、その手続きのもとにこれらの経費の支出がなされるものについては、その給付の原因となった休業、就業、職業訓練等の事実があった時点であらかじめその支給を受けるべき給付金の額を見積計上することにより、収支の対応関係を持たせることとされています。これに対し、雇用保険法の規定高年者雇用継続基本給付金等のように、具体的な経費支出の補填という性格のものでなく、一定基準に基づいて支給される奨励金のようなものについては、あらかじめ収益の計上をする必要はなく、支給決定を受けた時点で収益計上すれば足りることとされています。

 

ところで、ご質問の持続化給付金とは、感染症拡大により、特に大きな影響を受けた事業者に対して事業の継続を下支えし再起の糧とするための給付金であり、また、家賃支援給付金とは、5月の緊急事態宣言の延長等により、売り上げの減少に直面する事業者の事業継続を下支えするため、地代・家賃の負担を軽減する給付金であると説明されています(経済産業省)。

 

また、給付金は、申請者からの申請で成立し、事務局の行う申請内容の適格性等を確認する審査を経て長官が給付額を決定する贈与契約であるとされています(持続化給付金給付規定9、家賃支援給付金給付規定10)。

 

持続化給付金及び家賃支援給付金のいずれも、「事業の継続を下支えする」という目的の給付であり、その給付は中小企業庁長官(国)が給付額を決定する贈与契約であることからすると、これを区分する必然性はないものと考えます。また、家賃支援給付金制度においては、支払い賃料の額を給付金の算定基準としていますが、これはあくまでも給付金の算定基準であって、その給付目的に鑑み、必ずしも具体的な経費支出(家賃等)の補填という性格を有しているものとは言い切れないと考えられます。

 

したがって、持続化給付金及び家賃支援給付金のいずれも、法基通2-1-42(注)の取り扱いを準用して、支給決定を受けた日の属する事業年度で収益計上するのが相当と考えます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年7月21日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「特例経営承継期間中に事業が立ち行かなくなった場合の取扱い」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与

 

 

 


[質問]

① 特例経営承継期間中に会社が破産した場合、納税が猶予されている相続税と利子税を併せて納付する必要がありますが、会社破産と共に、納税者個人も破産した場合、納税が難しいと思われますが、納税はどうなるのでしょうか。また、相続税の連帯納付義務は適用されるのでしょうか。

 

② 特例経営承継期間の経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じた場合において、会社について解散した場合、解散時の非上場株式等の相続税評価額が0円であった場合は、納税が猶予されている相続税と利子税は全額免除されると考えて宜しいのでしょうか。

 

また、解散時の非上場株式等の相続税評価額が500万円であった場合で、他の財産がないと仮定した場合、相続税本税と利子税の納付はどうなりますか。

 

 

[回答]

1.質問①について
特例経営承継期間中に会社の破産手続きの開始決定があった場合には、猶予期限の確定事由である解散があった場合に当たります(措置法通達70の7—19)ので、猶予税額の猶予期限が確定します。この場合、納税猶予の適用を受けていた個人が納税できないような状態の場合には、滞納処分に移行することになりますので、その中で検討されると思います。これは、例えば、相続税の延納を受けていた者が、納税できないような場合も同様です。

 

なお、納税義務者が納税猶予制度の適用を受けた場合には、その税額について連帯納付義務は適用されません(相基通34-4)。

 

 

2.質問②について
特例経営承継期間経過後に、事業の継続が困難な一定の事由が生じ解散した場合には、解散時における非上場株式の相続税評価額に基づき再計算した税額と従前の猶予税額との差額が免除されるところ、その相続税評価額が「0」の場合には、猶予税額が発生しませんので、全額が免除となります。また、猶予期限の確定する税額がありませんので、利子税も発生しません。

 

なお、解散時の非上場株式の相続税評価額が500万円であった場合で、他の財産がないと仮定した場合の相続税と利子税の納付はどうなるか、の部分については、当初の非上場株式の相続税評価額、それに基づく納税猶予税額が分かりませんので、回答はご容赦ください。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年7月8日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「事業を譲り受けた場合に営業権の計上について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

■【Q&A】のれんの税務上の取扱い

 

 

 


[質問]

下記の場合の営業権の考え方についてご教示ください。

 

1. 前提
A社:株主Bが100%保有
C社:株主Bが100%保有

他にも株主Bが保有する会社が数社あります。
業種は小売業で多数店舗展開しています。
C社は毎期500万円前後の経常利益を計上しています。

 

2. 店舗の譲渡を検討
今回、C社の保有している店舗をすべて(2店舗)A社に譲渡することにしました。これはA社とC社は営業地域(関西)が同じ場所にあるからであり、譲渡後C社は清算する予定です。

 

3. 営業権の計上の可否
A社・C社は株主が同一のため計上は必要ないと考えています。

 

 

[回答]

【結論】
黒字の店舗の事業譲渡を受ける場合において、それが適格組織再編によるものでないときは、原則として営業権(創設営業権を含む)の計上が必要であると考えられます。

 

なお、その黒字店舗の譲受後の事業に係る見込み利益について黒字が見込めない等その営業権に価値がないとすることに合理的な理由がある場合には、その限りではありません。

 

仮に、有償性のある営業権を無償で譲り受けた場合には、C社において受贈益を計上する必要があることを申し添えます。

 

※ グループ税制の受贈益の益金不算入規定は、本件のような個人Bによる完全支配関係のような法人による完全支配関係に該当しない関係の場合には、適用されません(法人税法25条の2第1項)。

 

 

【理由】
事業を譲り受けた場合に関して、法人税法62条の8第1項において、事業譲受けに係る対価が、その譲り受けた事業に係る時価純資産(資産(営業権にあっては、一定のものに限る。)時価から負債の時価を控除した金額)の価額を超える場合には、その超える部分の金額は、原則として資産調整勘定の金額とする旨の規定が置かれています。

 

なお、ここでいう営業権は、他人間で取引する場合に有償で取引されるようなものをいう旨が法人税法施行令第123条の10第3項に規定されています。つまり、有償性のある営業権は、時価純資産に含まれること、換言すれば、資産として認識することが予定されていると解されます。

 

この規定は、取引当事者の株主が同一である(完全支配関係がある)場合にも適用されます。

 

さらに、取引当事者であるA社とC社との間には、株主Bを同一者とする完全支配関係があるとのことですので、参考に次の点も確認することとします。

 

 

1 グループ税制(法人税法第61条の13、法人税法施行令第122条の14第1項)
完全支配関係のある法人間で譲渡損益調整資産を譲渡した場合には、その譲渡による譲渡損益は繰延されることとされています。

 

ご照会の営業権は創設営業であると思料されるため、帳簿価額が0であると想定され、帳簿価額が1,000万円に満たないため、譲渡損益調整資産に該当しないこととなりますので、譲渡損益の計上が必要となります。

 

 

2 組織再編税制(適格合併)(法人税法第62条の2)
完全支配関係のある法人間で適格合併が行われた場合には、その合併により移転した資産及び負債は合併直前の被合併法人の帳簿価額で引継ぎをしたものとする旨が規定されています。

 

したがって、本件の事業譲渡が適格合併により行われたものとした場合には、被合併法人において営業権の帳簿価額が0であれば、引継ぎを受けた法人において営業権を計上する必要がないこととなります。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月19日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「従業員である相続人に退職金を支払った場合の債務控除の可否」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

 

 

 


[質問]

被相続人甲は、2020年2月に死亡しました。

 

相続人は甲の事業を承継しないこととし、甲が雇用していた全ての従業員を解雇し、退職金を支払います。甲が雇用していた従業員の中には、甲の相続人である乙も含まれています。

 

被相続人の死亡によって事業を廃止し、従業員を解雇していることから、乙以外の従業員に対して支払う退職金については、甲の相続税申告に当たって債務控除の対象になると考えます。

 

しかし、乙に対して支払う退職金については、相続税法第13条の規定により債務控除の対象とならないとの認識でよいでしょうか。

 

 

[回答]

個人事業者が死亡し、その事業を相続人が承継せず廃業したときに、当該個人事業者が雇用していた従業員に対して退職金を支払った場合、その退職金は相続税の債務控除の対象になる旨の質疑応答事例が国税庁ホームページに掲載されていますが、これはご承知のことかと思います。

 

この質疑応答事例によると、「その支給された退職金は、被相続人の生前事業を営む期間中の労務の対価であり、被相続人の債務として確実なものであると認められる」との考え方の下、債務控除することが可能との取扱いを明らかにしています。

 

ところで、ご質問の事例の乙への退職金については、乙が被相続人甲の相続人であることから、相続税法第13条の規定により債務控除の対象とならない、とのご見解のようですが、債務控除の対象になるとする考え方は、上記のとおり、被相続人が事業を営んでいる間の労務の対価であるかどうかがポイントですから、乙が実際に従業員として勤務した事実があれば、相続人(家族従業員)であるか否かは関係しませんし、相続税法第13条の規定をみても、相続人に対する債務を債務控除の対象から除外する規定もありません。

 

確かに、家族・相続人に対する支払いや債務ということだと、例えば、所得税法第56条のように、生計を一にする親族に労務の対価等を支払った場合は必要経費に算入しないという規定がありますし、民法上、相続人が積極財産と債務を承継した場合、混同により債務が消滅するということもありますので、第三者の場合とは異なるところがあるのではないかという疑問も生じるかも知れませんが、こと相続税の債務控除については、相続人乙に勤務実績があって、他の従業員と同様の基準等により退職金が支払われる限り、債務控除の対象にして差し支えないものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月3日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「海外子会社同士の合併を巡る課税関係」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】無対価合併における適格要件について

■【Q&A】合併における税制適格要件について

 

 

 


[質問]

このたび、内国法人(A社)が、発行済株式の約5%を保有する中国現地法人(S社)を100%子会社化することとなりました。

 

A社はS社以外にも中国の現地法人N社株式を従前より100%保有しております。S社の100%子会社化直後に、同じ中国現地法人N社とS社とを合併させる予定です(結果としてA社は合併後の現地法人を100%所有し、その後の売却予定等はありません)

 

【質問①】
当該合併に係る税務上の課税関係については中国現地の税法の範疇ですが、内国法人A社がS社買収直後に既存の100%在外子会社N社と合併させた場合、A社において何等かの課税関係は発生しますか。

 

【質問②】
また直接的な課税関係は発生しなくとも、A社が税務上留意すべき点はありますか。

 

 

 

[回答]

1 我が国における組織再編(適格合併)の課税関係

(1) 適格合併について
合併前に被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係があり、かつ、合併後に同一の者と合併法人との間に同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている場合の合併で、被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないものは適格合併に該当することとされています(法人税法2十二の八イ、法人税法施行令4の3②二)。

 

(2) 合併が行われた場合のみなし配当の金額について
法人の株主等である内国法人が合併により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本金等の額のうちその交付の基因となった当該法人の株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額はみなし配当の金額とされます。ただし、適格合併の場合にはみなし配当の金額は生じないこととされています(法人税法24①一)。

 

(3) 被合併法人の株主等における被合併法人株式の譲渡損益について
被合併法人の株主等は、原則として、被合併法人株式について譲渡損益を認識しますが(法人税法61の2①)、被合併法人の株主等に合併法人の株式等以外の資産が交付されなかった合併(金銭等不交付合併)の場合には、被合併法人の株主等は、被合併法人株式の譲渡損益の認識を繰り延べることとされています(法人税法61の2②)。

 

 

 

2 法人税法における「合併」の意義
法人税法は合併の定義規定を設けていないため、外国法令を準拠法として行われる合併が、法人税法上の合併に該当するのか疑問が生じます。

この点、法人税法上の合併は、我が国の会社法を準拠法として行われる合併に限るとはされていませんので、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、我が国の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の合併に該当すると考えられます。

我が国の会社法は合併そのものについての定義規定を設けていませんが、一般的に、その本質として、①消滅会社の権利義務の全部が存続会社に包括承継されること及び②消滅会社は清算手続を経ることなく自動的に解散して消滅することという要素を具備していることが挙げられます。

したがって、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、これらの要素を具備し、我が国の会社法上の合併に相当するものと認められる場合には、法人税法上の合併に該当するものとして取り扱うのが相当であると考えられます。

すなわち、外国法令を準拠法として行われる法律行為が法人税法上の合併に該当するか否かは、その法律行為が我が国の会社法上の合併に相当するものと認められるか否かにより判断することになると考えられます。

 

 

 

3 お尋ねについて
お尋ねによれば、「内国法人Aは、中国法人S社を完全子会社化する予定」とのことで、「S社の完全子会社化直後に、既に完全子会社である中国法人N社とS社とを合併させる予定」とのことです。以下、一般論として検討します。

 

(1) 質問①について
お尋ねの合併は、中国に所在する法人間で行われるため、日本の法人税法上の合併に該当するのか疑問が生じますが、法人税法上の合併は日本の会社法を準拠法として行われる合併に限定されていないため、外国法令を準拠法として行われる法律行為であっても、日本の会社法上の合併に相当する法的効果を具備するものであれば、法人税法上の合併に該当すると思われます。

 

(2) 質問②について
上述(1)のように内国法人A社では、この合併が「適格合併」と「非適格合併」の何れかに該当するかを判断して行かなくてはなりません。
この検討の結果として仮に「適格合併」であるとすれば内国法人A社に課税関係は生じず、逆に「非適格」であるとするならば、内国法人A社に課税が発生する可能性があることになるのですが、ここで重要になる論点は、この検討が、あくまで日本国内の税法に基づいて行われるという点にあります。

 

 

 

 

《参 考》
◎ 中国における組織再編
海外で組織再編を行った場合の現地での課税関係はと言うと、国によって様々ではありますが、①組織再編取引は原則的に現地で課税されるものの、②一定の要件を満たした場合には非課税或いは課税の繰り延べとなるような取り扱いが多いのではないかと思われます。

 

例えば、中国における企業再編税制というのは、①の原則的な取り扱いとしての「一般税務処理」と、②の要件にある日本の適格組織再編に該当する「特殊税務処理」に分かれることになります。

 

① 一般税務処理となる場合には、被合併企業は資産・負債を時価譲渡し、その結果生じた所得に対して課税され、被合併企業の株主(日本親会社)に対しても株主課税が行われます。
② 「特殊税務処理」の要件を満たす場合には、基本的には課税の繰り延べが可能となります。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年6月1日回答)

 

 

 

 

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「経営状況が悪化した場合の定期同額給与」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散をした場合の役員退職金の支給について

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

 

 

 


[質問]

「役員報酬の臨時改定事由」に該当するか否かご教示ください。

 

 <概要>
・5月決算の法人です。(飲食店を営んでいます)
・従業員は代表取締役である社長ほか多数です。
・銀行等第三者からの借入はありません。
・株主は社長のみです。

 

 <質問>
昨今のコロナウイルスの影響で、大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化しています。そのため役員報酬の大幅な減額を検討しています。その場合は法人税基本通達9-2-13《経営の状況の著しい悪化に類する理由》に該当しますか。

 

また業績が回復した後に通常改定以外で役員報酬を増額した場合は、増額分が損金不算入でよろしいでしょうか。

 

 

[回答]

1 法人税法上、役員給与のうち損金算入ができるものとして挙げられている定期同額給与は、次に掲げるものとされています(法34①一、令69①一)

 

(1) その支給時期が1月以下の一定の期間ごとである給与(定期給与)で、当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの

 

(2) 定期給与で次の改定がされた場合における当該事業年度開始の日又は給与改定前の最後の支給時期の翌日から給与改定後の最初の支給時期の前日又は当該事業年度終了の日までの支給額が同額であるもの

 

① その事業年度開始の日から3月を経過する日までにされた定期給与の額の改定(通常改定)
② 臨時改定事由によりされた定期給与の額の改定
③ 業績悪化改定事由によりされた定期給与の額の改定

 

 

2 上記の業績悪化改定事由とは、経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいい、一時的な資金繰りの都合や業績目標に達しなかったことなどは含まれないとされています(基通9-2-13)。

 

 

3 そこで、お尋ねの場合は、「昨今のコロナウイルスの影響で、大幅に売上高が落ち急激に業績が悪化」したということですが、単に業績目標が達成しなかったというわけではなさそうですし、その業績悪化の原因はコロナウイルスの影響であることが明らかなようですので、上記の業績悪化改定事由に該当するものと認められます。

 

 

4 また、上記の業績悪化事由による改定により減額した後に、業績が回復したからといって通常改定以外で増額改定した場合には、臨時改定事由にも該当しませんので、その増額改定分(回復部分)は定期同額給与として取り扱われない、すなわち損金不算入になると考えます。したがって、損金不算入を避けるのであれば、通常の給与改定時期で増額改定(回復)するのが望ましいと考えます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年3月6日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「解散に際して支払われる役員退職金の課税関係」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散をした場合の役員退職金の支給について

■【Q&A】清算結了した法人の帳簿保存義務について

 

 

 


[質問]

長年ご夫婦で工事業を営まれ、高齢となり後継者もいないことから、法人を解散することとなりました。この法人の利益剰余金が3,000万円程ありますので、役員である夫婦2人にそれぞれ退職金を支給し、清算分配におけるみなし配当課税を生じさせない予定です。

 

その時の退職金支給額についてですが、代表取締役である夫に対し1,000万円、取締役の妻に2,000万円とした場合、法人税の過大退職金以外の税務上の問題(所得税、贈与税)は考えられますか。

 

 

【概要】
・個人事業から法人成りし設立後30年、夫婦2名とも当初より在任
・出資割合は夫2/3、妻1/3
・直近の役員報酬月額は夫20万円、妻10万円
・従業員もおらず取引縮小傾向にあり、加齢による体力面から解散を決意
・夫は35年前に加入した小規模企業共済より共済金(退職所得)として2,000万円を受給。妻は未加入。

 

【退職金配分の目的】
・小規模企業共済からの給付があるため、妻が多く受給した方が税負担が減少する。
・ご夫婦としては、小規模企業共済も会社の貯蓄も夫婦で築いた共有財産であり、夫に預金が集中するのは不本意との考えがある。
・法人税申告において、妻への過大退職金として損金不算入としても法人税の税負担は発生せず問題ない。

 

[回答]

1 法人(公益法人等及び人格のない社団等を除く)の株主等が、次に掲げる事由により金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額とその他の資産の価額の合計額が、その法人の資本金等の額又は連結個別資本金等の額のうちその交付の基因となった株式又は出資に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額に係る金銭その他の資産は、剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配とみなされて課税の対象とされます(所得税法25①、所得税法施行令61①)。

 

① その法人の合併(法人課税信託に係る信託の併合を含み、適格合併を除く)
② その法人の分割型分割(適格分割型分割を除く)
③ その法人の資本の払戻し又はその法人の解散による残余財産の分配
④ その法人の自己の株式又は出資の取得で一定のもの
⑤ その法人の出資の消却、出資の払戻し、その法人からの社員その他の出資者の退社若しくは脱退による持分の払戻し又はその法人の株式若しくは出資をその法人が取得することなく消滅させること
⑥ その法人の組織変更(その組織変更に際してその組織変更をした法人の株式又は出資以外の資産を交付したものに限る)

 

したがって、会社の清算に伴い、株主に残余財産を分配すると、残余財産分配額が、資本金等の額を超える場合、株主の所得税等の計算上、みなし配当が生じることになります。

 

みなし配当は、配当所得として給与所得や不動産所得など他の所得と合算して計算する総合課税の対象となり、超過累進税率(最高55%)が適用されます。

 

 

 

2 通常の法人税は、各事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額が課税標準となり、各事業年度の所得に対する法人税が課されます。

 

かつては、解散後は、法人の清算による残余財産の価額から解散時の資本金等の額と利益積立金額等との合計額を控除した金額が課税標準となり、清算所得に対する法人税が課されていましたが、平成22年の税制改正により、解散前後で課税方式が異ならないよう清算所得課税が廃止され、会社が解散した後においても、通常の所得に対して課税が行われることになりました。

 

「清算所得課税」方式の場合、内部留保を退職金として支給することで節税でき、退職金をいくら多くしても、「過大退職金」の問題も発生しませんでしたが、現行の法人税法では、所得金額の計算等は、通常の各事業年度の所得金額の計算等と基本的には変わるところはありませんので、過大退職金は損金の額に算入されないことになります。

 

 

(1) 法人税では、役員退職金として税務上不相当に高額でない金額は、損金として取り扱うことができますので、法人税の負担が少なくなります。

 

この役員退職金としての適正金額は、その役員がその会社に従事した期間や会社に対する貢献度などを総合的に勘案して決定されますが、実務上は次の算式により計算することが多くみられます。

 

適正な役員退職金の額 =(適正な)最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率

 

 

(2) 役員が受け取る退職金に対する所得税等の課税は、他の所得より優遇されています。退職金に係る所得は退職所得とされ、退職金の額から、勤続年数に応じた退職所得控除額を控除した残額の2分の1が退職所得の金額となります。

 

また、退職所得は、配当所得のように他の所得と合算して超過累進税率が適用されるのではなく、他の所得とは分離して所得税等が計算されます。

 

つまり会社の清算に伴い、会社から残余財産の分配前に退職金を受け取ることにより、残余財産の分配のみを受け取る場合に比べて法人税と所得税の負担が減り、各人が手にする金額は増えることになります。

 

 

 

3 お尋ねには、明示されていませんが、お尋ねの役員退職金の計上時期は、一般的には「清算最終事業年度」ということになると思われます。

 

前述のとおり、解散した法人について、その残余財産が確定した場合には、その清算中の事業年度開始の日からその確定の日までの期間が一つの事業年度となりますので、その確定をした日を含む事業年度終了の日の翌日から原則として1月以内に、確定した決算に基づき、所要の申告調整を行った上、清算最終事業年度の確定申告書を提出することになります。

 

この場合、所得金額の計算に当たっては、通常の各事業年度の所得金額の計算と基本的にはことなるところはありません。

 

したがって、法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは、損金の額に算入されます(法人税法34、法人税法施行令70)。退職金の損金算入時期は、原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度とされています(法人税基本通達9-2-28)。

 

 

 

4 お尋ねは「法人税の過大退職金以外の税務上の問題(所得税、贈与税)は考えられるか」とのことですが、危惧されている意図が読み取れませんので、以下、会社の清算にあたっての一般的な留意事項をお示しします。

 

 (1) 解散時と清算時の法人税及び地方税
解散事業年度も残余財産確定事業年度も、普通に法人税計算をします。利益がでれば、法人税がかかりますし、赤字であれば均等割のみ納付というような形になります。ただ、清算事業年度には、財産を換金して、それでも元代表者から借入金が残っているようなケースがあります。このような場合には、元代表者から、債務免除益を計上するケースがあるので損益計算書上黒字となる場合があります。多くの場合は繰越欠損金を利用して、納税が生じないですし、繰越欠損金が存在しない場合でも期限切れの欠損金の利用で課税とならないケースが多くあります。ただし、清算事業年度に不動産の処分などで、本当の意味で黒字となる場合もあり、そのような場合は普通に法人税がかかってしまいます。

 

 (2) 清算して余ったお金
借金のない会社を解散、清算した場合に、最終的にお金が残る場合もあります。その場合には、残余財産を株主に分配することになります。元々の資本金部分は株主が出資した金額なので、その金額までは株主に払い戻しても税金はかかりません。元々の、資本金を超える部分については、みなし配当として源泉徴収が必要になるので注意が必要です。

 

 (3) 消費税の問題
解散事業年度も清算事業年度も、課税事業者に該当すれば消費税が課税されます。最後に会社で利用していた不動産の売却が伴うような場合には、思いがけない消費税の納付が必要になるケースもあります。廃業のように自分でタイミングを選べるのなら、免税事業者になってから解散という形にするのも一つの方法です。法人税と異なり、損をする資産の処分でも消費税が課税される点については注意が必要です。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年7月11日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「取得した株式の取得価額と時価純資産価額に乖離がある場合」についてです。

 

 

[関連解説]

■【Q&A】のれんの税務上の取扱い

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

日本法人がM&Aで外国法人の株式を取得した場合における日本法人株式の財産評価基本通達に基づく純資産価額方式による評価上、当該外国法人の買収価額と時価純資産価額に乖離がある場合の差額(のれん)の相続税法上の評価について、どのように取り扱うべきでしょうか。

 

財産評価基本通達185のかっこ書きの評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という。)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という。)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとし、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとされることを準用し、買収後3年間は買収価額(=帳簿価額)による評価を実施し、3年経過後は当該外国法人の純資産価額方式による評価としても差し支えないでしょうか。

 

[回答]

ご照会の趣旨は、評価会社の株式の価額を評価する際、評価会社がM&Aにより取得した本件外国法人の株式の取得価額と同法人の株式の時価純資産価額に乖離があることから、その乖離している差額部分(のれん)をどのように取り扱えばよいのか、を問うものです。

 

以下の1又は2のいずれにより取扱っても差し支えないと考えます。

 

 

1 取得した株式の価額のままで取扱う場合
本件事例の評価会社がM&Aにより取得した本件外国法人の株式の取得価額と同法人の株式の時価純資産価額に乖離がある場合で、その時価純資産価額が取得価額を下回っている場合には、評価会社の株式を評価する純資産価額(相続税評価)が過大に評価されることがないと考えますので、その乖離している部分の金額(以下「本件乖離差額の金額」といいます。)を特に考慮しないでも差し支えないと考えます。

 

評価会社の株式の価額を1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)を評価する際、その評価会社の保有資産に本件外国法人の株式が含まれていますので、本件外国法人の株式の価額は、財産評価基本通達(以下「評基通」といいます。)186-3《評価会社が有する株式等の純資産価額の計算》の定めにしたがって計算します。

 

その計算により算出された本件外国法人の株式の価額は、評価会社の株式を評価する際の「取引相場のない株式の評価明細書」の第5表の資産の部の有価証券(外国法人に係る株式)の科目の相続税評価額欄に記載され、その有価証券の帳簿価額欄の金額は本件外国法人に係る株式の帳簿価額(取得価額)を記載します。

結果的に、評価会社が有する有価証券(本件外国法人に係る株式)を含む各資産の価額の合計額が相続税評価額及び帳簿価額のそれぞれの純資産価額(第5表の⑤及び⑥)の計算の基に含まれているので、同表の⑤-⑥による⑦欄に評価差額に相当する金額(マイナスの場合は0)では本件乖離差額の金額が整理、吸収された後の金額が算出されます。

 

そうすると、評価会社が取得した本件外国法人の株式の取得価額と同株式の相続税評価額に乖離があったとしても、本件乖離差額の金額は評価会社の株式評価における純資産の評価差額の計算において整理、吸収されてしまうことになります。
評価差額に相当する金額は、株式の課税時期における純資産価額(相続税評価額)を計算する際に控除する法人税額等相当額(同表の⑨)の計算の基になる価額です。

 

したがって、本件乖離差額の金額は、評価会社の株式の純資産価額(相続税評価額)を算出する際の控除項目の中で整理、吸収されてしまいますので、評価会社の株価が過大に評価されることがないと考えます。

 

 

2 営業権として取扱う場合
評価会社の決算において、M&Aにより本件外国法人を買収した際の営業権を新たに貸借対照表に資産として計上がある場合には、評価会社の株式の評価における純資産価額(相続税評価額)の計算において営業権の科目を計上して評価することになります。

 

そのM&Aにより本件外国法人を買収した際、評価会社が本件外国法人の有する営業権(のれん)の価値を認め、その価値を評価してM&Aの買収価額を決定している場合は、その認定した営業権の価値に相当する金額を営業権の取得価額として取扱い、評価会社の資産に本件外国法人に係る営業権の価額を計上すべきと考えます。

 

なお、M&Aの契約書に本件外国法人に係る営業権が取引対象として掲記されていない場合には、簿外の営業権を含めて本件のM&Aが行われたと考えられます。

 

ところで、営業権とは、「企業が有する好評、愛顧、信認、顧客関係その他の諸要件によって期待される将来の超過収益力を資本化した価値」であると説明されています。

 

財産評価においては、営業権は、他からの有償取得のものであるか、自家創設のものであるかを問いませんが、本件においては他から取得した営業権になります。
相続税財産の評価上、営業権の価額は、企業の超過収益力を基に計算することで取扱われています(評基通165、166)。本件外国法人に係る営業権の価額は、評基通165、166の定めにより評価するのが相当です。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年10月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定」についてです。

 

 

[関連解説]

■【Q&A】取得した株式の取得価額と時価純資産価額に乖離がある場合

■【Q&A】のれんの税務上の取扱い

 

 

 


[質問]

法人が他の法人から、太陽光発電設備、当該設備設置土地の前払賃料、電力会社に対するFIT(固定価格買取制度)の権利を含め、『太陽光発電事業の事業譲渡』として譲り受けることになりました。

 

他の法人側からは機器設置代金や前払賃料が示されていますが事業譲渡総額とはかなりの差異が生じており、当該差額は固定買取単価の高いFITの権利が譲渡に含まれているためと理解しています。

 

当該権利については営業権として5年償却とすべきか、繰延資産としてFITでの固定買取期間(20年)にわたって償却を行うべきか判断に迷っております。

 

 

[回答]

法人が非適格合併等(非適格合併又は非適格分割、非適格現物出資、事業の譲受け(その事業に係る主要な資産又は負債のおおむね全部が移転するもの)をいいます)により、その非適格合併等に係る被合併法人等からその資産又は負債の移転を受けた場合において、その法人が非適格合併等により交付した非適格合併等対価額がその移転を受けた資産及び負債の時価純資産価額を超えるときは、その超える部分の金額は資産調整勘定とされ、その資産調整勘定の金額は60か月で取り崩しをし、損金の額に算入することとされています(法62の8①④⑤)。なお、この資産調整勘定の金額は税制上の取扱いであることから損金経理要件が課されるものではありません。

 

ご照会事例における事業譲渡が、譲渡法人の事業譲渡直前において行う事業の譲渡であり、その事業譲渡により主要な資産・負債を一体として移転を受けた場合で、その事業譲渡対価額が経済的合理性のある価額である限りは、法人が交付した事業譲渡対価額が移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える部分の金額は、資産調整勘定の金額(会計上の「のれん」)として税務処理をすることになります。

 

ところで、営業権とは、一般に超過収益力(その企業が同種他企業の平均収益力を超える場合のその超える収益力)を有する無形の財産価値といわれています。

 

本件の場合に、法人が承継した事業について超過収益力があり、かつ、営業権の対価としての計算に合理性があるときは、個別の無形固定資産(営業権)として計上することができますが、ご照会文面から推察する限りにおいては、営業権としての個別の資産の移転があったとは言い難いと考えられます。

 

したがって、本件については、事業譲渡対価額が移転を受けた資産・負債の時価純資産価額を超える部分の金額を資産調整勘定の金額として税務処理するのが相当と考えます。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年2月18日回答)

 

 

 

 

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】合併における税制適格要件について

■【Q&A】無対価合併における適格要件について

 

 

 


[質問]

A社(平成28年設立)
主たる事業:有価証券の売買・保有及び運用
株主:甲100% 平成29年に保有株式を売却して休眠中

 

B社(平成31年設立)
主たる事業:有価証券の売買・保有及び運用の他コンサルティング
株主:甲50%、甲の長男乙:25%、甲の長女丙:25%
なお、議決権はすべて甲が保有している。

 

A社の株式のうち25%ずつを甲から乙と丙に譲渡し、A社の株主構成をB社と同じにしたうえで、B社がA社を吸収合併します。

 

この場合、適格合併に該当し被合併法人A社のもつ繰越欠損金は合併法人B社に引き継ぐことができるものと考えていますがよいでしょうか。この場合、A社が休眠中であることは適格合併の判定に影響を与えますか。

 

[回答]

1. 被合併法人と合併法人との間に同一の者(個人株主である場合には、親族を含むによる完全支配関係があり、かつ、合併後もその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている場合の合併は、適格合併に該当することとされています(法2十二の八イ、令4の3②)。

 

ご照会事例については、親族間の株式の移動があったとしても、同一の者における完全支配関係に影響を及ぼすものではありません。したがって、A社及びB社のいずれも同一の者(甲一族)による完全支配関係がありますので、適格合併に該当することになります。

 

なお、被合併法人(A社)が休眠中であることのみをもって適格合併を否定するものではないと考えますが、その合併に経済的合理性がみいだせず、かつ、何らかの租税回避のみを目的としたものであるとの事実認定がなされた場合には、組織再編成に係る行為計算否認規定(法132の2)の適用を受ける可能性は否定できないと思われます。

 

 

2. 適格合併が行われた場合において、被合併法人に未処理欠損金があるときは、その未処理欠損金は、合併法人の合併事業年度前の各事業年度に生じた欠損金額とみなして合併事業年度以後の各事業年度において繰越控除することができることとされています(法57①②)。

 

ただし、被合併法人の未処理欠損金額には、被合併法人と合併法人との間に、その合併法人の適格合併の日属する事業年度開始の日の5年前又は被合併法人の設立の日若しくは合併法人の設立の日のうち最も遅い日から継続して支配関係がある場合のいずれにも該当しない場合には、引継ぎについての制限がなされています(法57③)。

 

ご照会事例については、合併法人(B社)の設立の日(H31)から継続して同一の者による完全支配関係がありますので、未処分欠損金の引継ぎ制限規定に該当しないことになりますので、本件合併が適格合併に該当する限りにおいて、貴見のとおり、A社の繰越欠損金の額の引継ぎは認められることになります。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年2月12日回答)

 

 

 

 

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「清算結了した法人の帳簿保存義務について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散をした場合の役員退職金の支給について

■【Q&A】子会社等を整理する場合の損失負担等について

 

 

 


[質問]

当社は設立以来35年にわたり業務を続けてまいりましたが、代表者に健康問題が生じ事業継続に不安があることから今期を最後の事業年度として解散することになりました。

 

今期中に従業員や代表者の退職手続きや資産の処分などを行って解散登記し、その後3~4月以内に清算結了が可能と踏んでいます。

 

青色申告法人の帳簿書類の整理保存については法人税法施行規則第59条に規定があり当社はこれを順守してきましたが、解散し清算結了した法人に対して当該規定はどの様な効果を持つのでしょうか。

 

清算結了により法人格は消滅しその時点で帳簿書類の整理保存義務も消滅する事になりますか。あるいは解散法人の元株主若しくは元取締役が二次的に帳簿書類の整理保存義務を負う事となりますか。

 

[回答]

ご照会の件について、法人税法施行規則59条は青色申告法人の帳簿書類の保存義務を課しており、具体的には、起算日から7年間(又は同規則26の3により10年間)、保存しなければならないこととされています。この場合の「起算日」については、同規則59条2項において、清算中の法人の残余財産が確定した場合も規定されております。

 

法人税法施行規則59条1項は、「青色申告法人は、・・・」と規定されておりますので、解釈上、疑義がないわけではありませんが、上記のとおり、同条の規定は清算結了後も及ぶことが前提とされています。この点については、会社法508条において、清算人に対して清算結了の登記の日から10年間、清算株式会社の帳簿及び事業・清算に関する重要な資料〔帳簿資料〕の保存義務を課しており、法人税法においては、こうした会社法上の規定を前提として、法人税法上、特に、保存すべき具体的な帳簿書類の範囲を示して保存義務を課すと整理しているものと解されます。

 

 

〇法人税法施行規則(抄)
(帳簿書類の整理保存)
第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類
三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し
2 前項に規定する起算日とは、帳簿についてはその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月(法第七十五条の二(確定申告書の提出期限の延長の特例)の規定の適用を受けている場合には二月にその延長に係る月数を加えた月数とし、清算中の内国法人について残余財産が確定した場合には一月とする。以下この項において同じ。)を経過した日をいい、書類についてはその作成又は受領の日の属する事業年度終了の日の翌日から二月を経過した日をいう。
3~6 省略

 

〇会社法(抄)
第五百八条 清算人(清算人会設置会社にあっては、第四百八十九条第七項各号に掲げる清算人)は、清算株式会社の本店の所在地における清算結了の登記の時から十年間、清算株式会社の帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料(以下この条において「帳簿資料」という。)を保存しなければならない。
2 裁判所は、利害関係人の申立てにより、前項の清算人に代わって帳簿資料を保存する者を選任することができる。この場合においては、同項の規定は、適用しない。
3 前項の規定により選任された者は、清算株式会社の本店の所在地における清算結了の登記の時から十年間、帳簿資料を保存しなければならない。
4 第二項の規定による選任の手続に関する費用は、清算株式会社の負担とする。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年3月9日回答)

 

 

 

 

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「解散をした場合の役員退職金の支給について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】解散に際して支払われる役員退職金の課税関係

■【Q&A】経営状況が悪化した場合の定期同額給与

 

 

 


[質問]

12月決算法人で、今年の4月末を目途に法人を清算・解散することを予定しています。社長の退職金を時期について教えてください。4月末を解散事業年度とする場合、その後の清算決了期間がありますが、社長を清算人とした場合、4月末までの解散事業年度で退職金を支払うことは問題があるのでしょうか。
清算決了期間まで待って退職金を支払わないといけないのでしょうか。

 

[回答]

法人が解散した場合において清算事務に従事する清算人も法人税法上は役員でありますので、法人税法上の役員の地位は継続しているとみることもできましょうが、清算人は、現務の結了、債権の取立て等の清算業務の執行を行うものであり、取締役の職務執行とは異なります。

ご照会の件につきましては、国税庁HPに、以下の質疑応答事例が収録されています。

 

 

〇解散後引き続き役員として清算事務に従事する者に支給する退職給与

【照会要旨】
法人が解散した場合において、引き続き清算人として清算事務に従事する旧役員に対しその解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与(下線は筆者)については、法人税法上退職給与として取り扱われますか。

【回答要旨】
退職給与として取り扱われます。

(理由)
法人が解散した場合において、引き続き役員又は使用人として清算事務に従事する者に対し、その解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与は、所得税法上退職手当等として取り扱われています(所得税基本通達30-2(6))ので、法人税法上も退職給与として取り扱うことが相当と考えられます。

【関係法令通達】
法人税法第34条
所得税基本通達30-2(6)

 

 

したがいまして、解散の決議・清算人の選任を行う臨時株主総会において、併せて役員退職金の支給決議を行い、直ちに支給する場合には、不相当に高額な場合を除き、解散事業年度の損金の額に算入することになると考えます。

なお、所得税基本通達30-2(6)は、次のとおり規定されておりますので、ご確認いただけますでしょうか。

 

 

(引き続き勤務する者に支払われる給与で退職手当等とするもの)
30-2 引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、次に掲げるものでその給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われるものは、30-1にかかわらず、退職手当等とする。
(1)~(5) 省略
(6)  法人が解散した場合において引き続き役員又は使用人として清算事務に従事する者に対し、その解散前の勤続期間に係る退職手当等として支払われる給与

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年01月27日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「税理士事務所の事業承継と一時払金の処理」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

 

 

 

 

 


[質問]

この度、先代の税理士より事務所の承継を行いましたが、顧問先をそのまま譲るための費用として、一定の金額を支払いました。

 

この費用は、いわゆる暖簾(営業権)となるのでしょうか。

また、暖簾となる場合は、下記の処理で宜しいのでしょうか。

 

① 無形固定資産  定額法  残存価額 ゼロ
② 償却年数5年 (税制改正により月割り計算を行うこととされた。)

 

 

[回答]

現行所得税法の判断を行う各審級(地裁・高裁・最高裁)における裁判例では、税理士事務所の事業主変更に伴い授受される金員の所得区分については雑所得に該当するとしています。

 

 

これらの裁判所の判断は、課税庁側の主張を全面的に採用したものとなっているわけですが、課税庁側の主張の源流は、昭和42年7月27日付直審(所)47「税務及び経理に関する業務の譲渡に伴う所得の種類の判定について(個別通達)」にあります。

 

 

すなわち、当該通達において、上申局である広島国税局長に対し、国税庁長官から「税理士が、その業務を他の税理士等に引き継いだ対価として受ける金銭等は(企業権とか営業権の譲渡とは考えられず)、あっせんの対価と認められる」ので、雑所得として取り扱うよう指示したところに拠っているものと認められます。

 

 

それでは、対価を支出した「他の税理士側の会計処理」はどうかというと、現時点まで具体的な取扱い例を示しているものはないものと考えていますが、東京高裁(平成25年10月10日判決)平成25年(行コ)第236号所得税更正処分等取消請求控訴事件の 判決の傍論部分で「承継法人(回答者(注)本件の税務・会計業務を引き継いだ者は、税理士法人です。)は、業務譲渡の対価を顧問先紹介に係る『市場開発費』として経理処理している」と判示している箇所があります。当該判決はその経理処理の是非を直接判断しているわけではありませんが、判決文の趨勢からすると、この会計処理を容認しているかのように窺知し得るものと考えられます。

 

 

だとすると、税務上は、当該金銭の支出は、営業権の譲受けによるその取得対価に該当するものとは解さず、顧問先の紹介という開発費(市場の開拓のために特別に支出する費用)に該当するものとして処理することが相当ではないかと考えられます(所得税法施行令第7条第1項第2号参照)。

 

 

従って、当該繰延資産の償却は、同令第137条第1項第1号に規定するところに従い計算した金額(=支出額÷60×各年の月数)を各年分(5年~6年間)の必要経費に算入することが相当であろうと考えられ、結果的にはご照会の算定額と同様の額になるものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2020年02月04日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無

 

 

 


[質問]

被相続人の自筆証書遺言があります。裁判所の検認も受けており、遺言書としての法的効力も認められております。

 

法定相続人に相続させる旨、及び、法定相続人以外(甥、姪など)に遺贈する旨が書かれておりますが、相続人間で遺産分割に関して揉めており、遺言書通りに執行できず遺産分割ができない状況です。

 

この場合、相続税の申告は、申告期限までに、遺言書に基づいて申告を行うのか、もしくは未分割財産として申告を行うのか、どちらが正しいのでしょうか。

 

 

[回答]

ご照会の事例は、遺産の分割が行われておりませんので相続税法55条の定めるところにより未分割遺産に対する課税の手続きによることになります。

 

被相続人の遺産は不動産、動産、無形資産など多様な構成となっており、その個々の遺産を承継する地位を有する相続人等がどのように取得するかを定めるのが遺産分割です。例えば、被相続人甲の遺産にA町に所在する地積100㎡、価額500万円のa土地とB町に所在する地積100㎡、価額500万円のb土地があるという場合において、それぞれ法定相続分2分の1を有する相続人乙および丙がいずれもa土地の取得を望んだとする法定相続分が等しくa土地とb土地の地積および価額も等しいところから、その所在地の別を如何にするかだけが問題として残されます。この点について協議してそれぞれの相続する土地を決めるのが遺産分割協議であり、個々の遺産について個別にその取得者を定めるために遺産分割の協議は行われます。

 

ご照会の事例では、この遺産分割の協議が行われない状態にあり、相続税の申告は上記のとおり相続税法55条の定めに従い申告手続きを進めることになります。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年12月09日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「合併における税制適格要件について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】適格合併における従業員引継要件

■【Q&A】適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限

 

 

 


[質問]

【事実関係】
1. A法人は個人aを筆頭株主とし、その他の株主も個人aの親族であるaグループが株式を全部保有する同族会社に該当。

 

2. B法人(昭和59年設立)は設立以来、個人bが株式を全部保有する同族会社に該当。また個人bは個人aの父親である。

 

3. A法人は黒字会社であり、主たる事業は卸売業を継続して営み、従たる事業として不動産賃貸業を昭和59年から継続して営んでいる。

 

4. B法人は欠損会社であり、主たる事業として不動産賃貸業を設立時から営んでいる。

 

5. A法人は直前5年間でaグループ間での株主構成の異動はあるが、aグループが継続して株式を全部保有。

 

 

【質問】
B法人は欠損会社であり合併比率の算出が不可能ですが、B法人の発行済株式180株式に対し、A法人の株式1株を合併対価として個人bに交付する予定です。

 

上記のような状況でA法人を合併法人、B法人を被合併法人とする吸収合併を行う場合、本件合併は適格合併に該当するのでしょうか。

 

 

[回答]

合併により被合併法人の株式は消滅し、被合併法人の株主はこれに代わるものとして、通常の場合は、合併契約に定める合併比率等に基づいて、合併法人の合併により発行する合併法人株式の交付を受けることになります。

 

 

ところで、合併が税制上の適格合併に該当するかどうかの判定要件として、次に掲げるものがあります。

 

① 被合併法人の株主に合併法人の株式以外の資産が交付されないものであること。
② 被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係があり、かつ、合併後もその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていること。

 

 

このように、完全支配関係がある法人間の合併については、完全支配関係が継続するかどうかの観点によるものと考えられます。したがって、上記①及び②の要件を満たしている限りは、例え合併比率が適正でない場合であっても、適格合併を否定するものではないと考えます。

 

 

ご照会事例については、被合併法人Bと合併法人Aとの間に同一の者(個人a一族)による完全支配関係がありますので、その合併は適格合併に該当するものと考えます。

 

 

 

(参考)合併比率は、本来的には経済合理性の前提とされています。つまり被合併法人の株主は被合併法人の株式を譲渡し、その対価として合併法人から株式を取得することになりますので、妥当な対価とすることが必要となります。そのためには合併比率が適正でなければならないと考えます。しかしながら、合併法人と被合併法人の株主が同一である場合又は株式の出資割合が同一である場合には、株主の利害関係に変動が生じませんので合併比率が税務上問題になることはないと考えますが、それ以外の場合には、事実認定によってはみなし贈与(相法9、相基通9-2)の問題が生ずることがありますのでご留意ください。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年11月26日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人事業者の事業承継 ~消費税の仕入税額控除の適用について~

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

鮮魚店を営む個人事業者が本年11月末日に廃業します。この個人事業者は簡易課税制度を適用しています。

 

廃業後は、事業に供していた店舗建物は、個人において車庫として使用する予定です。

 

この場合、その店舗建物を家事のために消費し、又は使用した時とは、廃業する本年11月末日をいうのでしょうか。また、その譲渡価額は簿価をいうものと考えてよいでしょうか。

 

 

[回答]

事例の場合、個人事業者が事業を廃止して棚卸資産以外の資産で事業の用に供していたもの(事業用資産)を家事のために消費し、又は使用した場合には、その消費又は使用は、事業として対価を得て行われた資産の譲渡とみなされ(消法4⑤一)、その消費又は使用の時におけるその消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額をその対価の額とみなして課税の対象とすることとされています(消法28③一)。

 

そして、事例の場合、個人事業者が事業を廃止したときにおけるその事業用資産の消費又は使用の時とは、その事業の廃止に伴い事業用資産に該当しなくなった時点をいうものと考えます。

 

次に、事例の場合、その消費し、又は使用した事業用資産の価額に相当する金額とは、その事業用資産の簿価等には関係なく、合理的な方法により算出したその事業用資産に係る時価をいうものと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年11月6日回答)

 

 

 

 

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[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「個人事業者の事業承継  ~消費税の仕入税額控除の適用について~」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

 

 

 


[質問]

個人事業者である肥育牛農家Aは、高齢のため2019年11月30日にその事業を廃止し、同日に生計を一にする子Bに譲ることを考えています。

 

現在、〇〇万円程度の棚卸資産に該当する肥育牛があり、これは同日にAからBに売却し、事業用の固定資産はAからBに無償で貸与する考えです。

 

Aの事業の廃業の日は2019年11月30日となり、この日にその肥育牛の棚卸資産を譲渡することとしています。

 

この場合、Bの開業の日をAの廃業の日の2019年11月30日として、Bは「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより、その肥育牛である棚卸資産に係る消費税について仕入税額控除をすることができるという認識で間違いはないでしょうか。

 

 

 

[回答]

消費税において、免税事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署長に提出した場合には、その提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(その提出をした日の属する課税期間が事業を開始した課税期間である場合等には、その課税期間)から課税事業者になるとされています(消法9④、消令20)。

 

事例の場合、Bにとって2019年が事業を開始した課税期間であることを前提とすれば、Aの廃業日、Bの開業日及び棚卸資産の譲渡日を2019年11月30日とし、2019年中にBが「消費税課税事業者選択届出書」を提出することにより、Bは2019年1月1日から課税事業者となるので、棚卸資産の譲受けに係る課税仕入れについては仕入税額控除の適用を受けることができると考えます。

 

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年9月3日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】M&Aに伴う手数料の処理

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 


[質問]

非上場会社M社のオーナー社長A(持株比率100%)は、この度上場企業P社より、M社株式の全株購入(買収)を持ち掛けられ、提案を前向きに検討し、弁護士B及び公認会計士Cにその交渉支援、契約内容の法的チェック等を依頼することになりました。この場合の弁護士費用等は、株式譲渡に係る譲渡費用と解して問題ないでしょうか。

 

 

 

[回答]

所得税基本通達33-7は、譲渡費用の範囲について仲介手数料、運搬費等を例示したうえで「・・・当該譲渡のために直接要した費用」とする旨明らかにしております。

 

おたずねの弁護士費用等をA氏のM株式の譲渡に係る譲渡費用とすることができるかどうかもこの取扱いに照らし、M株式譲渡のために直接要した費用であるかどうかを検討しその可否を判断することになります。したがって、A氏がM株式の譲渡に当たりB弁護士およびC公認会計士に対して支払った費用をM株式の譲渡に係る譲渡費用に算入できるかどうかは、支払った費用別にそれぞれその支払いがM株式を譲渡するために直接要するものであったかどうかを検討してその可否を判断する必要があります。

 

国税庁のホームページの質疑応答事例によると、譲渡代金の取立てに要した弁護士費用や譲渡資産に係る訴訟に際し支払った弁護士費用については、いずれも譲渡に直接要した費用であるとは認められないので譲渡費用に該当しないと回答しております。

 

ご照会の事例の支払費用についても交渉支援、法的チェック等の詳細について検討したうえで、それらがM株式を譲渡するために欠かせないものであったかどうかにより譲渡費用に該当するかどうか判断すべきものと考えます。

 

株式の譲渡に備えて一般的な事項について関与を求めてその報酬として支払ったものであるとすると、それをM株式の譲渡費用に該当するとの結論には賛否両論があるのではないかと思われ、賛否のいずれによるかは当事者A氏の考えによることになるのではないかと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年10月7日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「無対価合併における適格要件について」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限

■【Q&A】合併における税制適格要件について

 

 

 


[質問]

A社はB社の株式を取得後、A社の100%子会社であるC社を存続会社とした合併を予定しています。

 

100%子会社同士の合併であり、無対価合併とするつもりです。

 

ここで、B社は自己株式を所有しており、合併と同時に自己株式は消却されることとなると思いますが、このような場合であっても100%子会社同士の無対価合併として適格合併となるでしょうか。

 

A社・B社・C社ともに8月決算

 

8月  B社が自己株式取得
9月  A社がB社株式取得
10月   B社とC社が合併

 

 

[回答]

被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係があり、合併後もその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている場合の合併は適格合併に該当します。

 

ただし、当該合併が無対価合併である場合には、次に掲げる関係がある場合に限られています(令4の3②)。

 

① 合併法人が被合併法人の発行株式の全部を保有する関係
② 被合併法人及び合併法人の株主のすべてについてその者が保有する被合併法人株式の数の被合併法人の発行済株式の総数のうちに占める割合とその者が保有する合併法人の株式の数の合併法人の発行済総のうちに占める割合とが等しい場合における被合併法人と合併法人との関係

 

なお、この場合の発行済株式には自己株式を除くとされています(法2十二の七の五)。

 

ご照会事例については、被合併法人C社と合併法人B社との間にA社による完全支配関係にあることから、上記②の要件を満たすことになりますので、適格無対価合併に該当することになります。

 

ただし、株式の移動から無対価合併までの一連の取引に経済的合理性がなく、何らかの租税回避行為のみを目的としたものであるとの事実認定によっては、同族会社の行為計算否認規定(法132)及び組織再編成に係る行為計算否認規定(法132の2)に抵触する恐れがありますのでご留意ください。

 

 

(参考)

株式会社は、取締役会又は取締役の決議に基づき取得した自己株式を消却することができるとされています(会社法178)。そして、自己株式を消却した場合には、その消却する自己株式の帳簿価額を原則としてその他資本剰余金の額から減額することとされています(会社計算規則24)。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年9月24日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。