[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「分割協議により遺言と異なる者が財産を取得した場合の贈与課税の有無」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】遺言書に沿った遺産の分割が合意に至っていない場合の相続税の申告について

■【Q&A】個人事業者が事業を廃止した場合の事業用資産に係る課税関係

 

 

 


[質問]

次の事実が認められる場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるでしょうか。

 

①被相続人甲は平成30年1月に死亡し、公正証書遺言を残していました。

 

②遺言に従い、平成30年4月頃から各種財産の処分や登記、名義変更が開始されました。

 

③平成30年7月頃、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚しました。

 

④遺言書に記載のない財産について、遺言書には下記の通り記載されていました。

『遺言者は上記以外の一切の財産を、相続人乙に相続させる』

 

⑤しかし、相続人間の話し合いにより、財産Aは相続人丙が取得する旨の分割協議書を締結し、丙が取得しました。

 

結果、遺言に従うと乙が取得すべきである財産を、分割協議書の締結により丙が取得することになりましたが、この場合、相続人乙から相続人丙へ贈与があったものと考えられるのでしょうか。

 

 

[回答]

1 最高裁平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)は、「「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、遺産の分割の方法を定めた遺言であり、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである」と判示しています。

 

そこで、ご質問の場合も、その「相続させる」趣旨の遺言に従って、遺言書に記載の各種財産を各相続人が承継(取得)していたところ、遺言書に記載のない財産Aの存在が発覚したことから、遺言書に『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』と記載されてはいるものの、相続人間で遺産分割協議をして、この財産Aを相続人丙が取得することにしたというものです。

 

 

2 ご質問は、上記の場合、乙から丙に財産Aの贈与があったものと考えられるかどうかと問われるものですが、① 「相続させる」趣旨の遺言の内容と異なる遺産分割(の効力)が認められていること、② そもそもご質問の遺言書には財産Aについての帰属が定められていないと解する余地があることから、相続人全員の合意による遺産分割により、財産Aについては丙が相続により取得したものであるとして相続税の申告をする場合には、乙から丙に対し贈与があったものとして贈与税が課税されることはないものと考えます。

 

すなわち、上記判例によれば、特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言は、特段の事情がない限り、被相続人の死亡時に当該遺産が当該相続人に直ちに相続されるので、遺産分割の協議や審判が介在する余地はないことになりますが、さいたま地裁平成14年2月7日判決(下級裁判所裁判例速報)は、「判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである」として、遺言の内容と異なる遺産分割の効力を認めています。なお、同判決に「このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能である」との判示があることから、贈与税の課税関係が生じるという考え方もありますが、(ご質問の場合は別として)課税庁が贈与部分や交換部分を特定することは極めて困難であると思われますし、遺産分割の効力が認められる以上、相続税の課税関係で足りるものと考えます。

 

また、平成27年10月2日裁決は、相続税調査により新たに発見された財産が、当初の遺産分割協議書に妻が取得する財産として「現金、家庭用財産など上記相続人が取得する以外の全財産」と記載されている条項に含まれるか否かについて、「一般に、個別的財産の遺産分割を定める条項により各人が取得する財産以外の財産を一部の者に取得させる旨の本件条項のようなものは、個別的財産の遺産分割による取得を定めた条項を設けた上での補充的なものであって、失念していた財産や家財道具を被相続人と同居していた家族等の適当な者に取得させるために用いられるものと考えられ、個別的な記載のない相当高額な財産については、当該補充的条項にその高額な財産をも含める旨合意されているなどの特別の事情がない限り、含まれないと解するのが自然である」と判断しています。ご質問の場合、(財産Aの内容は明らかではありませんが)遺言書の『遺言者は上記以外の一切の財産を相続人乙に相続させる』との記載についても、裁決にいう「補充的条項」と解し、『上記以外の一切の財産』に財産Aは含まれないと解したことから、相続人全員で財産Aを丙に取得させる遺産分割を行ったという説明ができるのではないでしょうか。

 

 

○ さいたま地裁平成14年2月7日判決
(1) 特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該不動産は当該相続人に相続により承継される。そのような遺言がなされた場合の遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、上記の協議又は審判を経る余地はない。以上が判例の趣旨である(最判平成3年4月19日第2小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。

 

しかしながら、このような遺言をする被相続人(遺言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。

 

被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別、そうでなければ、被相続人による拘束を全相続人にまで及ぼす必要はなく、むしろ全相続人の意思が一致するなら、遺産を承継する当事者たる相続人間の意思を尊重することが妥当である。

 

法的には、一旦は遺言内容に沿った遺産の帰属が決まるものではあるが、このような遺産分割は、相続人間における当該遺産の贈与や交換を含む混合契約と解することが可能であるし、その効果についても通常の遺産分割と同様の取り扱いを認めることが実態に即して簡明である。また従前から遺言があっても、全相続人によってこれと異なる遺産分割協議は実際に多く行われていたのであり、ただ事案によって遺産分割協議が難航している実状もあることから、前記判例は、その迅速で妥当な紛争解決を図るという趣旨から、これを不要としたのであって、相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできないというべきである。

 

 

(2) 本件においては、本件土地を含むDの遺産につき、原告ら全ての相続人間において、本件遺言と異なる分割協議がなされたものであるところ、Dが遺言に反する遺産分割を禁じている等の特段の事情を認めうる証拠はなく、原告らの中に本件遺産分割に異議を述べる者はいない上、被告は本件遺産分割については、第3者の地位にあり、その効力が直ちに被告の法的地位を決定するものでもないことを考慮すると、本件遺産分割の効力を否定することはできず、本件土地は原告らの共有に属すると認められる。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年6月14日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「相続税・贈与税の事業承継税制について~資産保有型会社の判定で採用する基準~」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】事業承継税制の要件における会社の代表権を有していたことの意義

 

 

 


[質問]

資産保有型会社の判定において、貸借対照表に計上されている帳簿価額で判定することとされています。

中小企業においては、株式交換等の組織再編を行った場合などには税務基準で会計処理を行うことが一般的だと思われます。しかし、結合会計等の会計基準との金額のかい離が大きいため、どの基準によるかにより結果が大きく異なります。組織再編以外にも中小企業においては税効果会計、減損会計等の会計処理は、通常行われていないように思います。

 

意図的に税務基準、会計基準を使い分けし、要件をクリアにすることも可能な素地があるかと思いますが、あくまでも法人が採用している会計基準で判定するとの理解で良いですか。

 

 

[回答]

1 非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除(の特例)の適用を受けることができない「資産保有型会社」を次のように定義しています(措法70の7②八、70の7の5②三)。

 

資産保有型会社とは、贈与の日又は相続開始の日の属する事業年度の直前の事業年度開始の日から贈与税額又は相続税額の全部につき納税猶予に係る期限が確定する日までの期間(措令40の8⑲)において、次の算式による割合が100分の70以上となる会社をいう、とされています。

 

 

1927597.jpg

 

 

Aは、その日におけるその会社の総資産の貸借対照表に計上されている帳簿価額の総額

 

Bは、その日におけるその会社の特定資産(現金、預貯金、有価証券、書画骨董、その会社が自ら使用していない不動産、ゴルフ会員権、親族等に対する貸付金等をいいます。)の貸借対照表に計上されている帳簿価額の合計額

 

Cは、その日以前5年以内において、後継者及びその後継者と特別の関係がある者がその会社から受けた剰余金の配当等の額及び損金不算入となる役員給与の額の合計額

 

 

 

2 法令により資産保有型会社の定義を上記のとおりその法人が採用している経理方法による貸借対照表上の計上金額により判定することとされていますので、仮装経理など実体のない計上金額でない限りお尋ねの理解でよいと考えます。

 

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月25日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[事業承継・M&A専門家によるコラム]

事業承継事例 「子供に株式、甥には議決権」~事業承継に活用したい手法~

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


今回は 当社がスキーム作りを手掛けた事業承継事例をお送りします。

 

直系親族以外への承継・甥への承継事例です。

 

 

A社の創業者は80歳になり、子供さんたちも40歳を超えていますが、
みなさん会社以外に勤務されそれぞれの道を歩んでおられます。

 

会社も継ぐつもりはないと・・・ 唯一親族で甥っ子さんが子会社の社長として
頑張られ徐々に業績も伸長し経営手腕を発揮されつつあります。

 

その状態で当社に保険会社の方を通じて相談に来られました。

 

 

社長は、「子供たちはもう立派に生活しているのだから株はいらないだろう、
会社を継ぐはずの甥っ子に相続してもらいたい」とおっしゃっていました。

 

 

しかし、なんとなく寂しさや決断しきれない様子でした。

 

・親族に継がないのであれば事業承継税制は使えない。
・単に娘に株式を上げてしまうと議決権が確保できず甥っ子さんは経営しにくいだろう
・甥っ子さんも若く数億円での買取も難しそうだ・・・

 

 

そこで社長に、「財産としての株式をお嬢さんに残し、議決権だけを甥っ子さんに

与えることができたらどうします??」と聞いてみました。

 

社長は「そんなことができるなら是非やりたい!」ということでした。
当社が司法書士先生と一緒に組み立てたスキームは下記のとおりです。

 

 

「株主間契約で議決権を甥っ子さんに預ける」

 

 

しかしお子さんたちは、契約なんて破棄できてしまうので、OO君(甥っ子)が
困るよね?きちんとした形で公正証書でやりたいとうことでした。

 

最終的には社長・お子様たち・甥っ子さんと一緒に会議を数度重ね

 

 

(1)配当と譲渡した場合の財産価値としての株式はお子さんたちに順次贈与

 

(2)議決権は民事信託によりまずは社長に信託、社長に万が一のことが
ある場合には甥っ子さんがそれを引継行使する

 

(3)社長の思いや守ってもらいたい約束事は、社長・お子様たち・
甥っ子さんの株主間契約を締結し守ってもらう。

 

 

これにより、後継者へは議決権が渡り、お子さんたちには財産権としての
株式が渡り思いに沿った事業承継ができました。また信託することにより、
受託者・委託者・受益者の全員の合意がない限り信託契約は変更できないため、
かなり強固な権利関係の固定化ができたと思います。
(誰か1名の暴走では契約変更・撤回できない)

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2019/02/10号)」より一部修正のうえ掲載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「子会社等を整理する場合の損失負担等」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】子会社株式の譲渡に係る収益計上時期

■【Q&A】子が事業を引き継いだ場合の引き継いだ資産に係る減価償却

 

 

 


[質問]

業績不振の子会社の株式譲渡を考えており、その譲渡前に債権放棄の実行も計画しています。
その債権放棄が寄附金と認定された場合、グループ法人税制を踏まえた申告書の表し方にわからない点があります。

 

1. 持株関係

1826030①.jpg

 

 

2. 動き
①B社は、子会社であるC社が業績不良であるため、全くのグループ外部であるD社に株式譲渡を考えている。

②B社はC社に対し、多額の貸付金を有し、C社は債務超過であるため、譲渡前に債権放棄を計画している。

 

3. 質問
B社の債権放棄が寄附金となった場合

 

グループ法人税制により、B社は寄附金の損金不算入、別表五で子会社の簿価修正③増となり、C社は受贈益の益金不算入、B社は寄附金修正認容を立て、別表五減で子会社簿価修正を消し、改めて寄附金限度額計算を行うのか。

 

それとも期末申告時にはグループ法人ではないので、ごく普通の外部への寄附としてB社C社ともに申告書を作成すればよいのか。

 

 

1826030②.jpg

 

 

[回答]

 

1、 営業不振の子会社を解散させずに他の企業に経営権を譲渡する場合があります。例えば、経営不振で再建に自信のない子会社の経営権を他の企業に移譲するため株式を譲渡した場合でも、譲り受ける側の企業としては、その譲受け後における子会社経営上の責任を考えて、赤字をできるだけ圧縮した上でなければ株式の譲受けには応じられないとの要求が十分に考えられます。このため、やむを得ず子会社に対する貸付金等の一部(又は全部)を切捨てをしてある程度子会社の財政面を改善した上で株式の譲渡をするという事例があります。

 

このような債権の切捨てについても、親会社として今後発生するであろうより大きな損失を回避するためにやむを得ず行う損失の負担であると認められる場合が少なくないとの考え方から、法人がその子会社の解散、経営権の譲渡等に伴い、債務の引受、債権の放棄その他の損失の負担をした場合であっても、それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情があるときは、税務上もこれを寄附金として取り扱わないこととされています(法基通9-4-2)。

 

ご照会事例については、C社の債務超過の状態、債権放棄の規模等が明らかでありませんので確答はできかねますが、一般論としては、法基通9-4-1の取扱いの適用の可能性は高いものと考えます。

 

(参考)

損失負担等をする相当な判断基準については、国税庁タックスアンサーホームページ「子会社等を整理・再建する場合の損失負担等に係る質疑応答事例(コード№5280)」を参考にしてください。

 

 

2、 法人税法37条2項において「内国法人が各事業年度において当該法人との間に完全支配関係がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額は~」と規定していることから、寄附金を支出した時点で完全支配関係があるかどうかを判断することになると思われます。したがって、ご照会事例については、債権放棄した時点ではB社とC社との間に完全支配関係がありますのでグループ法人税制の適用があると考えます。

 

したがって、本件については、寄附金修正事由が生じているため、A社及びB社についてそれぞれ次のような処理を行うことになると思われます。

 

まず、A社はB社株式について寄附金の額に持分割合100%を乗じた金額を利益積立金から減算するとともに、同額を寄附金修正事由が生じた時の直前のB社株式から減算し、減算後の帳簿価額を株式の数で除した金額を1株当たりの帳簿価額とします(例9①七、令119の3⑥)。

 

また、B社は寄附金の額に持分割合100%を乗じた金額を利益積立金額に加算するとともに、同額を寄附金修正事由が生じた時の直前の帳簿価額に加算し、加算後の帳簿価額を株式の数で除した金額を1株当たり帳簿価額とします。

 

したがって、B社がC社株式を譲渡した場合の譲渡原価の額は、修正後の金額になると考えます。

 

なお、C社においては、完全支配関係の判定時点は、受贈時点と考えられますので、B社がC社株式を譲渡した場合であっても受贈益の修正処理(益金算入)はないものと考えます。

 

(参考)

寄附金修正事由が生じた場合の株主の処理については、平成22年8月10日付「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)(情報)」の問7を参考としてください。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年11月28日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[事業承継・M&A専門家によるコラム]

ICTを活用しM&A後の経理体制を合理的に作る【体験記】 ~事業承継に活用したい手法~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、「M&A後の経理体制」についてご解説いただきます。ぜひご参考にしてみてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 


シリーズ事業承継の活用手法として、中小企業の事業承継や財産の分散防止に効果的な信託などを解説していますが、今回は「M&A後の経理体制を作る」【体験記】をお送りします。

 

 

今年3月にお客様の依頼で、M&Aのデューデリジェンスを行い5月に買収実施しました。

売上10億円の製造業の会社です。

 

その会社は社長と経理の奥様が一緒にご引退されることになりましたので、経理の後釜を探す予定でした。

 

当社に相談が来たのですが

 

(1)経理人材はなかなか募集しても来ない
(2)会社の営業事務や総務がしっかりされているので、基本的な資料はそろっている。

 

上記の2点から当社で経理事務を一括で請け負うことにしました。

結果下記の体制ができました。

 

 

(1)売上・原価は販売管理システムから仕訳を読み込み

(2)預金はFintech機能で自動計上

(3)現金は現金出納帳のエクセルから読み込み

(4)給与は勤怠データと修正事項だけお伝えいただき当社で計算し、振込データ作成→社長に確認承認いただく 会計データは給与計算システムから自動連動

(5)様々な証憑請求書はチャットワークに会社の人に貼っていただき当社で確認読込

(6)2クリックで会計データからデータを切り出し、会社のお好みの形式の経営管理データを一瞬にして作ることができる。

 

結果一部の仕訳以外99%が仕訳読込で 手入力はほぼなくなりました。

会計データも翌月8日程度には完成しています。

 

会社様も経理人材を雇用することなく
大幅なコストカット&属人的な業務に陥っていた体制が改善され
試算表も早く出ることになりました。

 

また、同時に売上データからセグメントデータも読み込んでいるため
セグメント管理も実現することができました。

 

その結果、社長、常務と業績等について話を聞く時間を十分に確保することができ、意思決定も早くなり、

 

会社の社長常務のお好みのセグメントデータも2クリックでリアルタイムに見ることができ経営陣のコミュニケーションも活発化し、大変喜ばれています。

 

ICTの活用で経理は1社一人もいらない時代になったんですね!

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2018/11/20号)」より一部修正のうえ掲載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「適格合併における従業員引継要件」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】適格合併の適否及び被合併法人の未処理欠損金の引継ぎ制限

■【Q&A】合併における税制適格要件について

 

 

 


[質問]

「A社」は「B社」を吸収合併する予定です。株式保有は50%超(100%ではない)で、適格要因として「金銭不交付要件」「支配関係継続要件」「事業継続要件」は満たしています。しかし、「従業者引継要件」を満たすかどうかの判断で悩んでいます。「A社」と「B社」の雇用形態が異なるので「B社」の従業者は合併までに一度退職金を支払って退職してもらい「A社」で再雇用をしたいと思います。何か良い方法(適格要件を満たす)はあるのでしょうか。

 

[回答]
1 適格合併

(1) 適格合併の要件

法人税法上、次のいずれかに該当する合併で被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないものは適格合併に該当します(法人税法2十二の八)。

 

イ その合併に係る被合併法人と合併法人との間に完全支配関係がある場合の当該合併(法人税法2十二の八イ、法人税法施行令4の3②)。

ロ その合併に係る被合併法人と合併法人との間に支配関係がある場合の当該合併のうち、「所定の要件」を満たすもの(法人税法2十二の八ロ、法人税法施行令4の3③)。

ハ その合併に係る被合併法人と合併法人とが共同で事業を行うための合併として法人税法施行令第4条の3第4項に掲げる要件(共同事業要件)の全てに該当するもの(法人税法2十二の八ハ、法人税法施行令4の3④)。

 

(2) 従業者引継要件

上記(1)ロの「所定の要件」及びハの共同事業要件の一つに、いわゆる「従業者引継要件」があります。

 

具体的には、合併に係る被合併法人の当該合併の直前の「従業者」のうち、その総数の概ね80%以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていることを、その要件としています(法人税法2十二の八ロ(1)、法人税法施行令4の3④三)。

 

ここで、「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、合併の直前において被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者をいうものとされています(法人税基本通達1-4-4)。

 

2 合併契約

会社は、他の会社と合併をすることができる。この場合においては、合併をする会社は、合併契約を締結しなければならない(会社法748①)。

吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権利義務を承継するものとされています(会社法750)。

 

3 お尋ねについて

お尋ねによれば「被合併法人であるB社と合併法人であるA社との間には支配関係があり」、「金銭不交付要件、支配関係継続要件及び事業継続要件を満たしている」とのことですので、お尋ねの合併が適格合併に該当するためには、従業者引継要件を満たす必要があります。以下、適格合併における「従業者引継要件」の考え方をお示しします。

 

(1) 会社法においては、吸収合併が行われた場合、その合併により消滅する法人(被合併法人)の権利義務の全部は、合併の効力発生日において、合併後存続する法人(合併法人)に承継されますので(会社法750)、当該合併に際し特段の合意がない限り、被合併法人の従業者の地位も合併法人に承継されることになります。

 

お尋ねの合併においては、合併の日の前日に被合併法人B社の全従業者は、B社を退職して雇用契約を終了し、雇用契約は合併法人A社に承継されないことから、形式的にはA社はB社の従業者を引き継いでいないことになります。

 

 

(2) 法人税法における従業者引継要件においては、「合併に係る被合併法人の当該合併の直前の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が当該合併後に当該合併に係る合併法人の業務に従事することが見込まれていること」と規定している(法人税法施行令4の3④三)ことから、文理上、当該被合併法人の従業者の地位、具体的には被合併法人の従業者の権利義務や当該被合併法人の従業者と被合併法人との間の雇用契約等が必ずしも合併法人に承継されることまでをその要件とはしていないものと考えられます。

 

また、従業者引継要件における「従業者」とは、「役員、使用人その他の者で、合併の直前において被合併法人の合併前に行う事業に現に従事する者」とされている(法人税基本通達1-4-4)ことから、その従業者がその合併の直前の従業者に該当するか否かを判断するに当たって、雇用契約の有無といった契約形態は直接には関係がないものと考えられます。

 

 

(3) (1)及び(2)のことから、被合併法人の従業者の雇用契約等が合併法人に承継されるか否かということとは関係なく、被合併法人の合併の直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が合併後に合併法人の業務に従事することが見込まれているのであれば、従業者引継要件を満たすと考えられます。

 

したがって、お尋ねの場合、「B社の従業者は合併までに一度退職金を支払って退職してもらい、A社で再雇用する予定」とのことですので、合併の前日までに被合併法人であるB社とその従業者との間の雇用契約等は終了(退職)するものの、合併後において、被合併法人の合併の直前の従業者が引き続き合併法人であるA社の業務に従事することが見込まれていますので、従業者引継要件を満たすものと考えて差し支えないものと思われます。

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年6月12日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「M&Aに伴う手数料の処理」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】非上場株式の譲渡に当たり交渉支援、契約内容の検討等を依頼した弁護士費用等について

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

 

 

 


[質問]

甲社は、コンサルタント会社A社から話を持ちかけられ、B社の株式取得を検討することとなりました。甲社は、A社と情報収集・仲介・株式取得に向けた諸手続・B社従業員等へのフォロー・新たな体制づくりのフォローを含め、総合的なコンサルタント契約を結びました。株式取得が行われなかった場合は、その時点で契約終了となり、A社へ手数料を支払い、費用処理を行いますが、株式取得を行う場合、前述の各種業務を引続きお願いすることとなり、契約で定めた期間満了時に手数料を支払う予定です。

 

この場合の手数料の処理は、期間満了時に属する事業年度の損金として差し支えないでしょうか。或いは、株式の取得価額に含めるべきものとして資産計上すべきでしょうか。

 

[回答]

ご高尚のことかとは存じますが、企業が、いわゆるM&A取引を行った場合、その仲介者等に支払う手数料等の、いわゆる助言費用等に関し、その取扱いに関しては、企業会計上は、従来の暖簾勘定等への計上処理から、IFRS基準による一時損金の費用化が図られつつあるものと承知いたしております。

 

具体的には、平成25年9月13日公表の「企業結合に関する会計基準」等の改正(原則:平成27年4月1日以後開始事業年度から適用)により、企業買収の際に外部のアドバイザー等に支払う取得関連費用の会計処理が変更され、投資銀行、証券会社等のファイナンシャルアドバイザー(FA)に関する報酬、ビジネス、会計・税務、法務等のデューデリジェンス(DD)費用といったアドバイザリーフィーは、連結財務諸表上では、原則として発生した事業年度の費用となり、買収対象会社の株式の取得費用として取得原価に含めることができなくなりました。

 

一方、税務上の取扱いは、これら会計上の処理に即応する形での改正は行われていないものと存じます。
原則的には、取得する株式等に関する法令の規定は法人税法施行令第119条第1項各号に定める取得態様に応じた取得価額の算定が予定され、これらによって課税関係が律せられるものと考えていますが、そこでは、例えば、購入した有価証券等の額は、その購入代価に購入手数料その他購入のために要した費用の額を加えた額であるとされているため、原則的には『購入のために要した費用は全て取得価額を構成する』という理解があり、単に通信費や名義書換料等についてはその金額が少額であるところから、これを取得価額に算入しないことができる旨を定めているに過ぎないとされています(㈱税務研究会版「法人税基本通達解説」法人税基本通達2-3-5の項の記載事項参照) 。

 

他方、法人税法第62条の8(非適格合併等により移転を受ける資産等に係る調整勘定の損金算入等)の規定がこのような非適格事業譲受けの形態に対応する規定として存在することも理解しておく必要があるように思います。

 

すなわち、同条の規定では、引継受入資産と引継受入負債との差額が生ずる場合には、当該差額を超える金額が支出されるときには当該超過額は資産調整勘定の額として、不足額が生ずるときには当該不足額は負債調整勘定の額として(一時に課税関係を律するのではなく)、将来にわたって損益調整を行うこととされているところから、いわゆる正の暖簾と負の暖簾によって課税の平準化が図られているといえるものと考えています。

 

会計の場合のように、直截に助言費用の資産計上を否定するという方法を採り上げるのではなく、総額的に時間(5年間)をかけて時価との調整を図ることが税制の考え方であるともいえると考えられます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月9日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

【問】

私(妻)はこの度、夫と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に夫名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を夫から財産分与により取得する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(夫における税務上の留意点等については、前回の解説を参照してください。)

 

【回答】

1.贈与税


(1) 離婚後に財産分与する場合

①原則
離婚に伴う財産分与によって取得した財産については、贈与により取得した財産とはならず、元妻に贈与税は課税されません(相基通9-8)。
②例外
次の場合におけるそれぞれに掲げる財産額は、贈与によって取得した財産となり、元妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。
(a)分与財産額が婚姻中の夫婦の協力で得た財産額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合・・・その過当である部分の財産額
(b)離婚を手段として贈与税のほ脱を図ると認められる場合・・・離婚により取得した財産額

(2) 離婚前に財産移転する場合

基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。なお、財産移転時における婚姻期間が20年以上であり、妻が自宅に住み続けるときは、妻において贈与税の配偶者控除(上記基礎控除のほか2,000万円まで非課税)の適用を受けられます(相法21の6)。

 

2.所得税


(1)自宅の取得時期及び取得費

①離婚後の財産分与によって取得した場合

財産分与により取得した自宅については、元妻がその財産分与を受けた時に、その時の価額により取得したこととなり、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所基通38-6)。

②贈与によって取得した場合

贈与により取得した自宅については、贈与者(元夫)の取得時期及び取得費がそのまま受贈者(元妻)に引き継がれ、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所法60①)。

(2)住宅ローン控除

自宅について金融機関からの借入残高があり、その借入を元妻が負担承継する場合には、元妻が住宅ローン控除の適用要件を満たしていれば、元妻は住宅ローン控除の適用を受けることができます(措法41)。

 

3.不動産取得税


不動産取得税は、財産分与の性質により、その取扱いが異なります。婚姻中の財産関係の清算の場合(実質的共有財産を対象とした清算的財産分与の場合)は基本的に課税されませんが、離婚の原因が元夫にあり元妻への慰謝料として行われる場合(慰謝料的財産分与)や、離婚後の元妻への扶養のために行われる場合(扶養的財産分与)等は課税されます。詳細は、タクトニュース782号を参照してください。

 

4.登録免許税(登法9、別表第1)


財産分与により取得した自宅の登記に際しては、「固定資産税評価額×2 %」の登録免許税が課税されます。

 

5.印紙税


前回の解説の2.参照。

 

6.固定資産税(地法343、350、359)


財産分与の翌年以降、元妻は「固定資産税評価額×1.4%」の固定資産税を負担する必要があります。

 

7.最後に


離婚に伴う財産分与により自宅を取得する場合、基本的に元妻に贈与税は課税されませんが、その後その自宅を譲渡する際には、その自宅の取得時期及び取得費は、元夫のものを引き継がず、財産分与時のものとなります。例えば、財産分与により取得した自宅を5年以内に譲渡する場合には、譲渡所得税等の適用税率は39.63%(所得税、復興特別所得税及び住民税の合計)と高率で課税されます(自宅を譲渡する場合の適用税率はタクトニュース№790の1. (1)①(b)参照)。
また、不動産取得税や登録免許税等の課税もあるため、もし元妻が自宅に居住し続ける予定がないのであれば、将来の税負担も考慮して、どのタイミングでどのような財産で分与を受けるか等、事前に検討し交渉する必要があると思われます。税負担の詳細については、税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/07/22)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。

今回は、「子が事業を引き継いだ場合の引き継いだ資産に係る減価償却」についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】税理士事務所の事業承継と一時払金の処理

■【Q&A】事業譲渡により移転を受けた資産等に係る調整勘定

 

 

 


[質問]

個人事業主の父が廃業して息子が事業を引き継ぎました。父が事業で使用していた機械装置をそのまま息子が使用しているのですが、この場合、使用貸借の扱いで、息子がその機械を減価償却して経費にすることは可能でしょうか。
※息子の機械引継ぎの仕訳 機械装置(帳簿価額)/事業主借(帳簿価格)

 

[回答]

所得税法第56条は、「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が、居住者の営む・・・・・・事業から対価の支払を受ける場合には、・・・・・・その親族の対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る・・・・・・所得の金額の計算上、必要経費に算入する。」と規定していることから、その親族が対価の支払を受けていない場合には、形式的には、配偶者その他の親族の有する資産に係る必要経費に算入されるべき金額は、事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費にされないことになります。

 

しかしながら、所得税法第56条の規定が事業に係る所得における世帯単位課税を考慮した規定であることに着目し、事業主と生計を一にする配偶者その他の親族の有する資産を事業主が無償で使用している場合であっても、その対価の授受があったものとしたならば所得税法第56条の規定により事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入される金額(その親族の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額)を事業主の営む事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができることとされています(所基通56-1)。

 

したがいまして、事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が所有する資産を事業主が無償で事業の用に供している場合であっても、その資産に係る固定資産税、修繕費、減価償却費等については、事業主の事業に係る所得の金額の計算上必要経費に算入することができることになります。

 

ご照会の事例につきましては、父親と息子が生計を一にするか否かが明らかではありませんが、父親と息子が生計を一にしているのであれば、父親の所有する機械装置を息子が使用貸借(無償)で事業の用に供している場合には、その機械装置に係る減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができると考えられます。

 

一方、父親と息子が生計を一にしていないのであれば、所得税法第56条及び所得税基本通達56-1の適用がありませんので、その機械装置に係る減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することはできないと考えられます。

なお、上記の検討は、息子が父親の事業を引き継いだが、父親の所有していた機械装置は息子に引き継がれず、息子は父親から使用貸借で事業の用に供している場合を想定しています。ご照会には、「息子の機械引継ぎの仕訳 機械装置/事業主借」と記載されていますので、事業の引継ぎに際して機械装置も引き継がれている(息子が購入している)のであれば、息子の所有する機械装置を息子が事業の用に供していることになりますので、その機械装置の減価償却費は息子の事業所得の金額の計算上必要経費に算入することができると考えられます。

 

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2019年4月9日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

 

【問】

私(夫)はこの度、妻と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に私名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を妻へ財産分与(*)する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(*) 相手方の請求に基づき、離婚した者の一方から相手方に財産を渡すことを財産分与といいます(民法768)。

(妻における税務上の留意点等については、次回以降に解説予定です。)

 

【回答】

1.所得税


(1) 譲渡所得課税
① 離婚後に財産分与する場合

 

(a)譲渡所得
所得税法上、譲渡所得の基因となる財産(本問の場合は自宅)の財産分与があった場合には、財産分与時に、元夫は、その自宅を財産分与時の価額により元妻へ譲渡したものとして取り扱われます(所基通33-1の4)。
自宅を財産分与した場合の譲渡所得金額は、次の算式により計算します(所法33、措法35①②⑪)

 

〔算式〕
財産分与時の自宅の時価 -(取得費+譲渡費用)- 居住用財産の譲渡所得の特別控除3,000万円※

 

※「居住用財産の譲渡所得の特別控除」の適用については、自宅の所有期間や居住期間についての制限はありません。したがって、この特別控除を適用することにより、元夫の譲渡所得金額がゼロになることもあります。ただし、この特別控除の適用を受けるためには、元夫の財産分与年分の確定申告書にこの規定の適用を受ける旨等の記載をし、この財産分与に係る譲渡所得の明細書等の添付をする必要があるため、確定申告をし忘れないよう留意が必要です。なお、この3,000万円の特別控除の規定は、配偶者のような特別関係者等への譲渡においては適用できないため、この規定の適用を受けたい場合には、離婚後に財産分与する必要があります。

 

(b)税率
上記(a)の算式により計算した譲渡所得金額がある場合(上記(a)の算式により計算した結果がプラスとなる場合)には、その財産分与のあった年の1月1日現在における自宅の所有期間や譲渡所得金額に応じて、次の税率による所得税等が課されます(措法31、31の3、32①、地法附34、34の3、35、復興財源確保法9、13)。

 

② 離婚前に財産移転する場合

財産移転が離婚前に行われる場合には、基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、夫において譲渡所得課税はありません。

(2) 離婚後の新たな住宅ローン控除の適用

離婚に伴う自宅の財産分与に際し、元夫が、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除(上記1.(1)①(a)※印参照)又は所有期間10年超の場合の譲渡所得の軽減税率(上記1.(1)①(b)の14.21%)等の適用を受けた場合には、その後3年以内に元夫が新たに借入をして自宅を取得等したとしても、元夫は住宅ローン控除の適用を受けることができません(措法41⑮)。

2.印紙税(措法91②)


財産分与契約における自宅の価額に応じて、次の印紙税が課税されます。

3.固定資産税(地法343、350、359)


固定資産税は、1月1日現在の自宅の所有者に対して課税されます(固定資産税評価額×1.4%)。したがって、年の途中で財産分与をして所有者が元妻に変わったとしても、その年分については元夫が納税義務者となります(別途、元夫婦間の合意で固定資産税の精算を行うことはできます)。

4.最後に


離婚に伴って自宅の財産分与をする場合、実行のタイミング等により、課税関係が異なります。詳細は税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/06/24)より転載

[税理士のための税務事例解説]

事業承継やM&Aに関する税務事例について、国税OB税理士が解説する事例研究シリーズです。今回は、事業承継税制(特例措置)の適用要件の一つである「先代経営者等である贈与者」の要件についてです。

 

[関連解説]

■【Q&A】個人版事業承継税制について ~先代事業者が医師、後継者が歯科医師の場合~

■【Q&A】相続税・贈与税の事業承継税制について~資産保有型会社の判定で採用する基準~

 

 

 


[質問]

事業承継税制におけるこのたびの特例措置を適用したく、作業を進めています。その適用要件のなかで、「先代経営者等である贈与者」の要件について以下の3つを定めています。

 

(1) 会社の代表権を有していたこと
(2) 贈与の直前において、贈与者及び贈与者と特別の関係が有る者で総議決権数の50%超の議決権を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと。
(3) 贈与時において、会社の代表権を有していないこと。

 

当社は、「先代経営者等である贈与者」にあたる者が、取締役に就任しているものの、代表取締役に過去に一度も就任しておりません。
そのため、これから代表取締役になるべく定款変更(共同代表取締役)し、就任しようと思っています。このスキームで(1)の要件を満たすでしょうか。

 

[回答]

1 租税特別措置法第70条の7の5(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例)に規定する「特定贈与者」について、同法施行令第40条の8の5第1項第1号は「・・・特例認定贈与承継会社(略)の代表権(制限が加えられた代表権を除く。イ及びロにおいて同じ。)を有していた個人で、・・・」と規定しています。

 

2 したがって、贈与の前に会社の定款を変更して贈与予定者を共同代表取締役に就任させ、その旨を登記した後に、特例承継計画を都道府県に提出して経営承継円滑化法の確認を受け、その後、株式等の贈与前に共同代表を辞任すれば適用要件の「会社の代表権を有していたこと」に該当します。この場合、定款等において贈与予定者の代表権に制限を加えないことが必要です。

 

 

税理士懇話会事例データベースより

(2018年6月15日回答)

 

 

 

 

[ご注意]

掲載情報は、解説作成時点の情報です。また、例示された質問のみを前提とした解説となります。類似する全ての事案に当てはまるものではございません。個々の事案につきましては、ご自身の判断と責任のもとで適法性・有用性を考慮してご利用いただくようお願い申し上げます。

 

 

 

 


[解説ニュース]

贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

【問】

Aさんと妻のBさんは、自宅を新築することにしました。自宅の建築に先立ち、Aさん夫婦は資金を出し合い、2019年5月に土地を対価3,000万円で取得(AさんとBさんが1,500万円ずつを負担し、持分1/2の共有)しました。Bさんはこの土地の取得に際し、実父から2019年1月に現金700万円の贈与を受けています。Aさんは2019年中にその土地の上に自宅を対価2,000万円で建築(建築費用は全額Aさんが負担し、Aさんの単独所有)、引渡しを受けて同年中に居住する予定です。

 

上記の計画通りに2019年中に自宅の建築が完了し、Aさんが同年中に引渡しを受けて夫婦で居住した場合、Bさんが実父から贈与を受けた現金700万円は、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税」(租税特別措置法(措法)70条の2。以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

 

 

【回答】

1.結論


上記の場合、贈与を受けたBさんは、実父から贈与を受けた金銭の全額を充てて自宅の敷地を取得するものの、その自宅の新築をしない(贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までにその土地上に自宅を新築するのはAさん)ことから、後述2(2)②の要件を満たすことができないので、本特例の適用を受けることができません。

 

2.解説


(1)本特例の概要と基本的な要件

その年の1月1日において20歳以上である等の一定の要件を満たす個人(「特定受贈者」)が、父母等の直系尊属から贈与により取得した①自己の居住用の家屋(以下「自宅」)の新築もしくは取得(以下「新築等」)、②これらの自宅の新築等とともにする、その敷地として使用される土地等*の取得(その自宅を新築する場合に、それに先行してする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得を含む)又は③一定の増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)の全額を、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、①、②又は③の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合には、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の限度額(自宅の取得に係る契約の締結期間や、その自宅の性能、自宅の新築等の代金等に含まれる消費税の税率に応じて300万円~3,000万円)までは贈与税が非課税とされます(措法70条の2第1項等)。
*土地及び土地の上に存する権利をいいます。

(2)自宅を新築する前にその敷地となる土地を先行して取得した場合の留意すべき要件

表題の要件としては、次の①及び②があります。

 

①一定の土地等の取得であること
(1)の下線部の通り、本特例の適用対象となる自宅の新築もしくは取得には、自宅の新築もしくは取得とともにする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得が含まれます(措法70条の2第1項1号)。そして「土地等の取得」には、自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等の取得が含まれます(同かっこ書)。

 

この「自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等」の具体例は、次の通りです(措法通達(措通)70の2-3、70の3-2)。

イ.自宅の新築請負契約の締結を条件とする売買契約によって取得した土地等
ロ.自宅を新築する前に取得した、その自宅の敷地として使用されることになる土地等

 

②金銭の贈与を受けた人により、自宅の新築が行われること。
個人が贈与を受けた金銭の全額が①ロの土地等の取得に充てられ、自宅の新築の対価に充てられなかった場合でも、その贈与を受けた金銭は本特例の適用対象となる「住宅取得等資金」には該当します(措通70の3-2(注)1)。

 

ただし、贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までに、その贈与を受けた人が自宅の新築をしていない場合には、その贈与を受けた金銭は本特例の適用を受けることができません(同ただし書)。

(3)本問へのあてはめ

ご質問の場合、Bさんは実父から贈与を受けた金銭を全て自宅の敷地の購入代金に充てる一方、自宅の建築代金を全く負担しておらず、Bさんは自宅を新築していません(新築したのはAさんです)。よってBさんは上記(2)②のただし書により、本特例の適用を受けることができません。

 

Bさんが本特例の適用を受けるためには、実父より贈与を受けた金銭の一部又は自己資金により自宅の建築代金を負担し、自宅にも相応の持分を有することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/06/17)より転載

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

事業承継の失敗事例 ~その解決策は?~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、事業承継の失敗事例とその解決策の糸口をご提示していただきます。ぜひご参考にしてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 

 


(事例1)平等に相続させたため、後継者の経営権の確保ができず何も決められなくなった!

(事例2)納税資金の確保ができず、自社株の買い取り請求=会社の財務基盤が大幅に毀損!

(事例3)会長派と社長派に分裂、後継者が追い出されてしまう!

(事例4)社長派と専務派に分裂、専務派の追い出しに多額の資金が!

(事例5)後継者への株式の移転が早すぎて先代社長が追い出される事態に!

(事例6)金融機関に持株会社設立を提案され、多額の借入を起こして後継者に会社を設立させる!

 

 

(事例1)平等に相続させたため、後継者の経営権の確保ができず何も決められなくなった!

〔ケース〕

・相続対策のため、子供にはある程度、平等に相続させた。
・会社に関係のない相続人(主に配偶者)から相続した株式の買い取り請求がきた。
議決権が33%しかないため常にほかの株主の賛成がないと運営できず、後継者の運営に支障が出た。

→何も決められず、M&Aも役員選任も主体的に決められないまま運営に支障が・・・

 

【解決策】

事前に株式の集約や、属人株式や種類株式などで議決権の集約をしておくべき

(事例2)納税資金の確保ができず、自社株の買い取り請求=会社の財務基盤が大幅に毀損!

〔ケース〕

・企業オーナーが、遺言を作成せずに急逝。(妻、長男、長女)
・事前対策が不十分のため、相続財産の大半を自社株と事業資産が占めることに。
・長女が法定相続分での遺産分割を主張
・長男は、無議決権株式の発行を提案するが、長女は現金を要求。
・長男は、代償分配金・納税資金支払いのため自社株の買取を会社請求せざるを
得なくなり、結果として財務内容が急速に悪化することになった。

 

【解決策】

事前に遺言を作成するとともに、相続対策の中での納税資金を生命保険等で確保しておくべきでは?

(事例3)会長派と社長派に分裂、後継者が追い出されてしまう!

〔ケース〕

・社長が急死、後継者の息子が株式の35%しか相続できなかった。
・そもそも社長自身が、会社の株式の40%しか保有していなかった。
・残りの株式は、会長である社長の兄の相続人及び専務である社長の弟と役員及び取引先が保有していた。
・死後専務が会長の遺族・取引先等を取り込み社長に就任。
・最終的に、専務が経営するものの、派閥争いの結果従業員の離反を招くこととなった。

 

【解決策】

兄弟の間で事業承継の道筋をつけ、決めておかないと、叔父甥の関係になった段階では急にもめることも・・・。議決権は少なくとも生前に確保しておくべき

(事例4)社長派と専務派に分裂、専務派の追い出しに多額の資金が!

〔ケース〕

・社長と専務(弟)で、会社の株式をそれぞれ60%と40%の比率で保有
・その後、それぞれの息子が会社に入社。
・社長より専務の方が会社の成長に貢献している状況。
・社長が強硬に自らの息子を社長にしたため、専務は反発しは退任するとともに退職金と株式の買取りを要求した。
・結局純資産価額に近い金額で買い取りをせざるを得なくなり、数億円ものお金が会社から流出し財務内容が大幅に悪化

 

【解決策】

兄弟の間で事業承継の道筋をつけ、決めておかないと、叔父甥の関係になった段階では急にもめることも・・・このケースでは事前に会社分割でそもそも会社を分けることも検討しておくべきでは

(事例5)後継者への株式の移転が早すぎて先代社長が追い出される事態に!

〔ケース〕

・社長が、息子に事業承継しようと社長に据えて経営を任せ、株式の40%を徐々に贈与していった。
・ところが、経営方針をめぐる対立が激しくなり、会長は息子を解任し社長に復帰。
・解任された息子は、社長への復権を要求。
・そのうちM&A案件による事業買収のため第3者割当増資を計画
息子が40%の株式を保有していたため、否決される。
事業拡大のチャンスと対外的な信用を失う

 

【解決策】

財産としての株式は相続対策で事前に渡しても、議決権株式や種類株式で決定権は完全に委譲するまでは確保しておくべき 金の切れ目が…にならないように

(事例6)金融機関に持株会社設立を提案され、多額の借入を起こして後継者に会社を設立させる

〔ケース〕

・業績好調のA社は相続対策を金融機関から薦められ、資産管理会社を設立した。
・資産管理会社は息子名義で、現社長は資産管理会社に時価10億円で株式を売却した。
・売却に際し、持株会社組成費用2000万円、株式の譲渡に対する譲渡所得税2億円を払う。

 

【解決策】

資産管理会社の設立は相続対策として有効ではあるが、譲渡や贈与をするのは株価が下がったタイミングで行うなどタイミングを見計らうことが重要。資産をわざわざ高値でつかませ、必要以上に後継者に借入・返済負担・金利負担を負わせる必要はないと思われます。

 

 

 

全てのパターンに言えますが、今回のコラムのテーマでもあります株式「財産としての株式」「支配権としての株式」という考え方で分けてとらえ「支配権」の確保をどのように実現するかということです。株式自体を動かすことにこだわらず、議決権の確保をし運営権を確保したうえで、株式の移転はその次に考える。もちろん両方を確保できればそれが一番いいのですが・・・。
また、現在の社長が元気のうちには、親族みんな文句を言わないのですが、死後突然不満が爆発ということもありますので、やはり事前の対策が重要ですね。

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2017/06/15号)」より一部修正のうえ掲載