[解説ニュース]

居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否適用を受けることの可否

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■店舗兼住宅を譲渡した場合の居住用財産の3,000万円控除と事業用資産の買換え特例の併用

■住宅の譲渡所得の特例では、本当に居住していたか見られています

 

【問】

乙さんは、2019年12月末にそれまで居住していた東京都杉並区内の戸建て住宅とその敷地を譲渡し、同月末に購入した港区内の分譲マンション(購入資金は銀行借入金により調達)に2020年1月に引越し、居住を開始しました。

 

乙さんは、譲渡した戸建て住宅とその敷地について譲渡益が生じ、かつ適用要件を満たしていることから、2019年分の所得税の確定申告書を提出し、租税特別措置法(措法)35条1項の居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除(「3,000万円控除」)の適用を受けました(確定申告書は適法に提出され、そこに記載された税額に不足はありません)。ところが、乙さんが確定申告書の提出後に検討したところ、2019年の戸建て住宅の譲渡につき3,000万円控除の適用を受けず、2020年以後の各年分について港区のマンションに係る住宅ローン特別控除(措法41条)の適用を受けた方が、所得税の総額の負担が少なくなることが分かりました。

 

乙さんは、2019年分の所得税について3,000万円控除の適用を受けたため、2020年分の所得税においては住宅ローン控除の適用が受けられないと知り、2019年分の所得税の修正申告をすることで3,000万円控除の適用を撤回し、2020年以後の年分について港区のマンションに係る住宅ローン特別控除の適用を受けたいと考えていますが、可能でしょうか。

 

 

 

【回答】

1.結論


乙さんは2019年分の所得税につき適法に3,000万円控除の適用を受け、確定申告書に記載の税額に不足がないことから、修正申告書の提出ができず、その適用を撤回することができません。よって乙さんは、2020年以後の年分につき住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。

 

2.解説


(1)3,000万円控除の概要

個人が自己の自宅とその敷地(居住用財産)を譲渡した場合には、一定の要件を満たすことにより譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円を控除することができます。(措法35条1項、2項)。

 

(2)住宅ローン特別控除の概要

①概要

個人が2021年12月31日までに国内で住宅の用に供する家屋で床面積が50㎡以上等の要件を満たすものの新築等をし、その家屋をその個人の居住の用に供した場合において、その個人がその家屋の新築等に係る借入金(住宅借入金)の額を有するときは、一定の要件を満たすことにより、その居住の用に供した日の属する年以後10年間(原則)の各年分のその個人の所得税額から、住宅借入金の年末残高に基づく一定額が控除されます(措法41条)。

 

②居住用財産譲渡に係る特例の適用を受けた場合の住宅ローン特別控除の不適用

個人が、新築等をした家屋を居住の用に供した日の属する年の前年又は前々年分の所得税につき、3,000万円控除等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けている場合、その個人の①に規定する10年間(原則)の各年分の所得税については、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません(同20項)。

 

(3)修正申告

納税申告書を提出した者は、先の納税申告書の提出により納付すべきものとしてこれに記載した税額に不足額がある場合は、その申告につき更正があるまでは、その申告に係る課税標準等又は税額等を修正する納税申告書を税務署長に提出できます(国税通則法19条1項1号)。

 

(4)本問へのあてはめ

乙さんは2019年分の所得税について3,000万円控除の適用を受けていることから、(2)②より、2020年分以降の所得税につき住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。

 

乙さんが住宅ローン特別控除の適用を受けるため、2019年分の所得税について修正申告書の提出により3,000万円控除の適用を撤回できるかどうかについては、乙さんがいったん3,000万円控除の適用を受けることを選択して2019年分の確定申告書を提出した以上、その適用を撤回することはできません(参考:国税庁HP質疑応答事例「居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例の適用の撤回の可否」)。また撤回できない以上、2019年分の確定申告書に記載された税額に不足がないため、乙さんは上記(3)の事由による修正申告書を提出することもできません。

 

以上により、乙さんは2020年分以後の年分の所得税について、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/07/13)より転載

[解説ニュース]

共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一 )

 

 

[関連解説]

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.はじめに


不動産の共有状態を解消する場合に行われるのが不動産現物の「共有物の分割」です。この場合、持ち分に応じて分割がされる等の所定の要件を満たすと、不動産取得税では形式的な所有権の移転等に当たるとして非課税となります。ただし、当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得は除かれます(地法73条の7①2の3括弧書き、以下、持分超過部分規定という。)。今回は、分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得について整理します。

 

2.平成13年の改正


不動産取得税は、土地や家屋の「取得」に課税される都道府県税です(地法73条の2①)。ただし、形式的に不動産の所有権を移転したものとされる所定の「取得」は非課税とされます(地法73条の7)。共有物である不動産を分割した場合についても、もともと「不動産の取得」として不動産取得税の課税対象に含められるのですが、平成13年の改正前の実務では、共有であった不動産を分割した場合、その分割が持分に応じて単純に分割するケースについては、通達によって非課税として運用されていました。

 

ところが、東京高等裁判所平成10年8月5日判決で、法に基づかない非課税事由を通達で設定することは税法上問題であると判示したことに伴い、通達の非課税措置を地方税法上明らかに規定することが求められた結果、平成13年に上記の持分超過部分規定が新設された経緯があります。

 

 

3.分割前持分の割合を超える部分の取得とは?


そこで、実務上問題となるのは、不動産取得税が課税される「当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得」は、どのように認識されるか、ということです。

 

考え方は、①分割前の土地の評価額の持ち分の金額と②分割後に取得した土地の評価額を前提として、超過部分については、②の分割後の評価額が①の分割前の評価額の持ち分の金額より高い部分とするものです。ポイントは、①と②の金額をどのように算定するかという点です。この場合は通常、土地に固定資産税評価額がある場合にはその価格を、ない場合には改めて固定資産評価基準により評価した価格を用いることになります(地法73条の21①②)。

 

これについて、「地方税の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)第5章・第1・5の2⑴」では、次のように注釈をつけています。

 

「持分の割合とは、原則として、不動産の価格の割合と解すべきものであるが、意図的に租税回避を図ろうとする意思が認められない場合については、不動産の面積の割合によっても差し支えないこと。」

 

 

4.最高裁の判決について


最高裁が原審を破棄して自判した令和2年3月19日判決は、兄弟で各々2分1の持ち分で遺贈を受けた1,200㎡弱の土地の分割が問題となったものでした。

 

具体的には、分割に際し相続税の財産評価基本通達に照らして差額が出ないように配慮し、620㎡弱と570㎡弱に分筆、兄が620㎡の方を取得したところ、分割後の土地の評価額に関し、地積比で約100万円分の持分超過部分があるとして不動産取得税が課税されたため、その取消しを求めて裁判に発展したものです。

 

一審は当初の課税処分を支持しましたが、二審では、分割前の一画地は、所有者が異なる土地をそれぞれ拠出している関係にあるため、分割後のそれぞれの土地の価格の割合で按分するのが公平、分割前の評価額を基に分割後の地積比で按分して兄の評価額を出すのは違法として、課税処分の取消を認容しました。

 

争点の重要なポイントは、分筆した土地が一体利用されていたことから、これを一画地として評価すべきか、それとも分筆後の土地ごとに評価すべきか、という点です。

 

これに対し最高裁は、問題の土地が一体として駐車場として利用されている事実関係があったことを前提に、分割後の土地の評価額は地積ベースですることと結論付けました。その理由の概要は次のとおりです。

 

「固定資産評価基準により、形状や利用状況からみて一体をなしていると認められる「隣接する2筆以上の宅地」は一画地として認定し評価することになるから、その単位面積当たりの評価額は、この土地全体に当てはまる。この場合の分割後の各筆の評価額は、単位面積当たりの評価額に分割後の各筆の地積を乗じることにより算出されるものというべき。」共有物分割のため分筆する際には、注意しておきたい判例でした。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/07/07)より転載

[解説ニュース]

生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(林 陽子/税理士)

 

 

[関連解説]

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

■贈与税の個人版事業承継税制の適用対象となる贈与者の要件

 

 

1. 相続開始前3年以内の贈与


(1)概要

相続又は遺贈により財産を取得した者が、被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、被相続人の相続財産に贈与を受けた財産の額(贈与時の価額)を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

 

但し、次の財産については加算する必要はありません。

 

①贈与税の配偶者控除の特例を受けている又は受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
②直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
③直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
④直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額(相続開始時に残額がある場合は、残額を相続財産に加算)

(国税庁HP・タックスアンサー「贈与財産の加算と税額控除」より抜粋・加筆/相続税法第19条)

 

(2)留意点

この規定は、相続又は遺贈により財産を取得した者が対象です。相続人であるかどうか、遺産を取得したかどうかだけで判断しがちですが、死亡保険金など相続税法において相続財産とみなされる財産を取得した者についても、この規定の対象となります。

 

判断を誤りやすいのは、次のような事例です。

 

(加算もれ)
・相続人でない孫が、遺贈により財産を取得した場合
・相続放棄した相続人が、死亡保険金を受け取った場合

 

(誤って加算)
・相続人であるが、遺産を取得せず、死亡保険金などのみなし相続財産も取得しない場合(生前贈与のみ有)

 

 

2. 相続時精算課税制度を適用した贈与


(1)制度の概要

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。この制度を選択すると、その選択に係る贈与者から贈与を受ける財産については、その選択をした年分以降全てこの制度が適用されます。

 

また、この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時の相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額を加算し、加算された者の相続税の計算上、その加算された贈与財産の価額に対応する贈与税の額を控除します。

(国税庁HP・タックスアンサー「相続時精算課税制度の選択」より抜粋・加筆/相続税法第21条の15)

 

(2)留意点

この制度を選択した年分以降は、その選択に係る贈与者からの贈与については、暦年課税の基礎控除(110万円)は使えません。また、この制度の特別控除額(2500万円)以下の贈与で贈与税を納めていない場合や、申告をし忘れている場合でも、相続財産に加算する必要があります。贈与税の申告をしたかどうか、贈与税が課されたかどうかにかかわらず加算しますので、注意が必要です。

 

 

3. 加算する贈与財産の価額と控除する贈与税額


相続財産に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の財産の状況にかかわらず、贈与時の価額によることとされています。

 

相続開始前3年以内の贈与については、「贈与により取得した財産の価額」と、相続時精算課税制度による贈与については、「適用を受けるものの価額」と規定されています。「申告書に記載した価額」ではありません(相続税法第19条①,第21条の15①)。

 

では、申告をした贈与財産の価額に誤りがあった場合、贈与税や相続税の申告はどうなるのでしょうか?

 

評価額が過大だった場合、贈与税の更正の請求ができる期限内であれば、更正の請求により贈与税を減額することができます(国税通則法第23条)。

 

評価額が過少だった場合、贈与税の更正(税務署が税額等を更正する手続き)の期限内であれば、速やかに修正申告することが必要です。修正申告書の提出が無い場合は、更正処分を受ける(税務署が税額等を職権で更正する)ことになります(国税通則法第19条,第24条)。

 

 

このように期限内に誤りに気付いた場合は、贈与税について正しい評価額を申告等したうえで、相続税の申告を行います。

 

なお、期限後に誤りに気付いた場合は、実際の申告がどうであれ、贈与財産の正しい評価額を相続財産に加算しますが、相続税額から控除する贈与税額は、「課せられた贈与税」とされているため、誤った評価額に基づく贈与税額(実際の申告額)を相続税額から控除することになります(相続税法第19条①, 第21条の15③)。

 

最近、相続時精算課税制度と事業承継税制を併用して、生前に非上場株式を贈与する事例が増えてきました。

 

生前に贈与した財産を相続財産に加算して相続税の申告をする際は、加算する贈与財産の価額が正しい価額であるかの確認が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/22)より転載

[解説ニュース]

地積規模の大きな宅地の適用要件の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小関 祐子/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

 

1. 地積規模の大きな宅地の評価方法


平成29年9月の財産評価基本通達(以下「評価通達」という)の一部改正により平成30年1月1日以後の土地の評価において、評価通達24-4「広大地の評価」が廃止され、評価通達20-2として「地積規模の大きな宅地の評価」が創設されました。

 

下記2の適用要件に当てはまる評価対象地を下記の算式に基づいて評価することにより、廃止された広大地の評価方法と比較して評価が簡便的になり、かつ、適用地の判断が評価者ごとに異なってしまうケースを減らすことが可能となったのではないかと思われます。

 

 

<評価算式>

評価額=路線価×奥行価格補正率×不整形地補正率などの各種画地補正率×規模格差補正率×地積(㎡)

 

2. 地積規模の大きな宅地の適用要件


(1)三大都市圏においては500㎡以上、三大都市圏以外の地域においては1000㎡以上の地積の宅地であること

 

三大都市圏とは、次の地域をいいます。
①首都圏整備法第2条第3項に規定する既成市街地又は同条第4項に規定する近郊整備地帯
②近畿圏整備法第2条第3項に規定する既成都市区域又は同条第4項に規定する近郊整備区域
③中部圏開発整備法第2条第3項に規定する都市整備区域

 

 

(2)下記のいずれかに該当する宅地は、地積規模の大きな宅地から除かれます。

 

①市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条第12項に規定する開発行為を行うことができる区域を除く)に所在する宅地
②都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
③指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地
④評価通達22-2に定める大規模工業用地

 

 

(3)路線価地域に所在するものについては、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に所在するものであること、倍率地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地に該当する宅地であれば対象となります。

 

※規模画地補正率の算出方法や倍率地域に所在する宅地の評価算式等については国税庁HPタックスアンサー№4609をご参照ください。

 

 

3. 地積規模の大きな宅地の適用要件の留意点


(1)非線引き区域の適用の有無

市街化区域でも市街化調整区域でもない場所に所在する宅地で地積や容積率等、地積規模の大きな宅地としての要件をすべて満たしている宅地は地積規模の大きな宅地の評価対象となります。都市計画区域に所在しないから適用なしと判断するのではなく、市街化調整区域ではないから適用ありの可能性について検討が必要です。

 

(2)三大都市圏に該当するか否かの判定

三大都市圏の範囲については2(1)の通り、首都圏整備法・近畿圏整備法・中部圏開発整備法の規定を用いています。また「地積規模の大きな宅地の評価」の適用チェックシートの(2面)に該当する市町村名が列挙されていますので照らし合わせれば容易に判定ができそうに思えます。しかし、首都圏で10市、近畿圏で58市町村、中部圏で3市について三大都市圏の該当範囲が「全域」ではなく「一部」となっており、欄外注釈には「評価対象となる宅地等が指定された区域に所在するか否かは、当該宅地等の所在する市町村又は府県にご確認ください」と記載されています。

 

例えば、神奈川県相模原市は政令指定都市でありながら「一部」に区分されています。理由は首都圏整備法に規定される既成市街地及び近郊整備地帯は昭和47年9月1日における行政区画その他の区域に基づいて作られており、平成18年から19年にかけて既成市街地又は近郊整備地帯として指定済の市町村と指定外の市町村が合併し新相模原市が誕生した結果、一部のみが三大都市圏の対象となる市に区分されることとなりました。このように一部となっている市町村については合併の有無などを確認することにより判定の手掛かりを得ることができるようです。

 

(3)その他

京都市が提供している都市計画情報では既成都市区域から外れているが、近畿圏整備法では既成都市区域に指定されている区域があります。この区域にある宅地は整備法において規制都市区域に規定されているわけですから、500㎡以上で地積規模が大きな宅地の評価対象地となります。京都市の都市計画情報のみを確認して1000㎡に満たないからと地積規模の大きな宅地の対象から除外したりしないように十分な調査が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/15)より転載

[解説ニュース]

土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の相続税評価額

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(芦沢 亮介/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

■底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

 

1.土地区画整理事業とは


土地区画整理事業とは、都市計画区域内の土地について、公共施設(道路、公園等)を整備改善し、土地の区画を整え宅地の利用の増進を図るため、都道府県・市町村・土地区画整理組合などが、土地区画整理法に従って施行する事業をいいます。その事業では地権者からその権利に応じて少しずつ土地を提供してもらい、この土地を道路等の公共用地に充てる他、その一部を売却して事業資金の一部に充てることになります。地権者においては、その事業後の宅地地積は従前に比べて小さくなりますが、道路や公園等の公共施設が整備され、土地の区画が整うことにより、利用価値の高い宅地を得ることができます。そして、事業の施工期間は10数年~と長期間に渡ることが多く、進捗状況に応じて宅地の評価方法が異なります。

 

2.土地区画整理事業の大まかな流れ


 

3.土地区画整理事業の施行区域内にある宅地の評価


【2.①の段階の相続税評価の方法】

土地区画整理事業の計画を策定し、換地設計(当事業前の土地(従前の宅地)に対して、どのような換地を定めたらよいかの計算をして図面に割込み、換地の案(換地図)を作成すること)が行われる段階では、宅地は「従前の宅地」の価額により評価します。

 

【2.②の段階の相続税評価の方法】

施行区域内の地権者が新しく割り当てられる土地を「換地」と言います。工事完了後に地区内のすべての換地を、その位置形状に基づいて登記する行政処分を「換地処分」といいます(2.③④の段階)。しかし、施行区域の土地は広いため場所によって工事の完了時期は大きく異なります。よって、先に工事が終わった土地の使用を目的として、換地処分を行う前に「仮に」換地を指定することを「仮換地の指定」と言います。仮換地の指定により、換地設計に基づいて新しく使える仮換地の位置・形状・地積が指定されます。

 

仮換地の指定が行われた宅地は、状況によって相続税評価の方法が異なります。❶仮換地の使用収益が開始されている場合は、「仮換地」の価額で評価します。❷仮換地の造成工事が施行中であり使用収益が開始されていない場合は、課税時期から工事が完了するまでの期間が1年以内であれば上記の「仮換地」の価額で評価しますが、その期間が1年を超えると見込まれる場合には、仮換地の評価額の100分の95相当額により評価します。❸造成工事が未着手であり、かつ、土地区画整理法第99条第2項の規定により仮換地について使用又は収益を開始する日を別に定めるとされているため、その仮換地について使用又は収益を開始することができない場合には、「従前の宅地」の価額で評価することになります(財基通24-2)。

 

【2.③の段階の相続税評価の方法】

全体の工事が終わったら確定測量を行い、換地計画(事業の施行者が換地処分を行う場合に、従前の宅地が整理後どのような換地になるのかを定める計画をいう。)を定めて換地の権利関係を確定し、従前の宅地と換地の価格差を調整するための清算金の額を定めます。換地処分により徴収又は交付されることとなる清算金のうち、課税時期において確実と見込まれるものがあるときには、その金額を評価上考慮して、徴収されるものは「仮換地の価額」から減算し、交付されるものは加算して評価します(国税庁質疑応答事例「土地区画整理事業施行中の宅地の評価」)。

 

【2.④の段階の相続税評価の方法】

知事が換地処分の公告を行うことで土地区画整理事業に係る債権債務関係が確定し、仮換地に対する権利関係は換地へ移ります。この段階では宅地は「換地」の価額で評価することになります。

 

【その他の評価方法】

上記の評価方法を一律に適用することが適当ではない状況がある場合には、税務署に対して個別評価申請を行って評価するものとされており、評価対象地の財産評価基準書(路線価図等)に、個別評価である旨が記載されています。但し、個別評価の申請先は個別評価を行う評定担当税務署であり、納税地を所轄する税務署ではない場合もあります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/11)より転載

[解説ニュース]

住宅ローン特別控除適用者が居住用財産を譲渡し3,000万円控除の適用を受ける場合の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■店舗兼住宅を譲渡した場合の居住用財産の3,000万円控除と事業用資産の買換え特例の併用

■居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否適用を受けることの可否

 

 

 

 

【問】

甲さんは、2017年12月にそれまで居住していた東京都港区内の分譲マンションから杉並区内に新築した戸建て住宅に引越し、居住を開始しました。甲さんは自宅の建築資金を銀行ローンにより調達したため、2017年分の所得税の計算上、租税特別措置法(措法)41条の住宅ローン特別控除の適用を受け、以後2019年分の所得税まで連続して同控除の適用を受けています。港区のマンションは、引越し後は賃貸していましたが、借家人が2019年12月に退去し空室となったため、2020年5月に譲渡しています。

 

甲さんは、譲渡したマンションにつき多額の譲渡益が生じ、かつ適用要件を満たしていることから、2020年分の所得税の計算上、居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除(措法35条第1項。以下「3,000万円控除」)の適用を受けるつもりです。甲さんが3,000万円控除の適用を受けた場合、既に適用を受けている住宅ローン特別控除の取扱いはどのようになりますか。なお、甲さんは2017年から連続して確定申告書を提出しています。

 

【回答】

1.結論


甲さんが2020年分の所得税につき3,000万円控除の適用を受けた場合には、2017年以後の各年分の所得税につき住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。この場合には2017年から2019年までの各年分の所得税の修正申告書を提出し、特別控除額に相当する税額を納付する必要があります。

 

2.解説


(1)3,000万円控除の概要

個人が自己の居住用財産を譲渡した場合には、一定の要件を満たすことにより譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円を控除できる特例が設けられています。これが「3,000万円控除」です。

 

3,000万円控除の対象となる居住用財産には、①居住の用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋と、②①の家屋とともに譲渡したその敷地の用に供されている土地等が含まれています(措法35条第2項2号)。

 

(2)住宅ローン特別控除の概要

①概要

個人が2021年12月31日までに、国内で住宅の用に供する家屋で床面積が50㎡以上などの要件を満たすものの新築等をし、その家屋をその個人の居住の用に供した場合において、その個人がその家屋の新築等に係る借入金(住宅借入金)の額を有するときは、一定の要件を満たすことにより、その居住の用に供した日の属する年以後10年間(原則)の各年のその個人の所得税の額から、住宅借入金の年末残高に基づく一定の金額が控除されます(措法41条)。

 

②居住用財産譲渡に係る特例の適用を受けた場合の住宅ローン特別控除の不適用

個人が新築等をした家屋(以下「新規住宅」)を居住の用に供した場合において、その居住の用に供した日の属する年(居住年)の翌年以後3年以内の各年中(注)に、新規住宅以外の資産を譲渡(以下「従前住宅の譲渡」)し、その従前住宅の譲渡につき3,000万円控除等の居住用財産の譲渡に係る特例の適用を受けるときは、その居住年以後の各年分につき、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません(措法41条第21項)。

 

(注)2020年度税制改正により、2020年4月1日以後の従前住宅の譲渡につき、その譲渡の時期が下線部の通りに改められました。

 

③3,000万円控除の適用を受ける場合の修正申告

②の場合に、既に居住年以後の各年分について住宅ローン特別控除の適用を受けたときは、従前住宅の譲渡をした日の属する年分の確定申告期限までに、各年分の所得税の修正申告書又は期限後申告書を提出し、特別控除額に相当する税額を納付する必要があります(措法41条の3第1項)。

 

(3)本問へのあてはめ

甲さんによる港区のマンションの譲渡は、2(1)の居住用財産の譲渡に該当し、他の要件を満たすときには3,000万円控除の適用を受けることができます。ただし、新規住宅(杉並の自宅)への居住年(2017年)の翌年以後3年以内の年(2020年)に従前住宅(港区のマンション)の譲渡をしたことになるので、2020年分の所得税につき3,000万円控除の適用を受けた場合は、(2)②より、2017年以後の各年分の所得税につき、住宅ローン特別控除の適用を受けることができません。

 

この場合には、(2)③より、2020年分の確定申告期限までに2017年から2019年までの各年分の所得税の修正申告書を提出し、特別控除額に相当する税額を納付する必要があります。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/06/01)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】株式移転により個人株主が保有株式を新設法人に譲渡した場合の譲渡所得の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中坂 克司/税理士)

 

【問】

当社グループは、個人株主Xが各社の株式を100%保有する同族会社グループです。主要事業を営むA社、B社とも業績は順調で今後も拡大が見込まれ、新興事業として研究開発を続けてきたC社についても、ようやく大量生産・市場投下できる見込みが立ちました。

 

そこで当社としては、効率的なグループ経営及び更なるグループ事業の拡大を目指し、下記の事項を検討しています。株主Xの課税関係はどのようになるでしょうか。

 

①株式移転の方法により持株会社P社を組成し、現在各社で行っている総務・経理機能を持株会社P社に集約(株式移転に際してXはP社株式のみの交付を受ける)
②①の後、スピーディーなシェア確保が求められるC社については、ファンドから出資を受け入れることにより生産規模を大幅に拡大

 

【回答】

1.結論


株主Xについて、P社に対するA社、B社、C社(以下「子法人」)株式の譲渡がなかったものとみなされ、譲渡所得に係る所得税は課税されません(所法57の4②)。

 

2.解説


(1)株式移転

株式移転とは、1社又は複数の会社が発行済株式の全部を新たに設立する株式会社(「株式移転完全親法人」)に取得させる会社法の手法をいいます(会社2三十二)。通常、既存会社の株主は取得させた既存会社の株式の代わりに、新設会社の株式の交付を受けるため、資金負担を掛けずに持株会社体制に移行する方法として利用されています。

 

(2)株式移転により個人株主が保有株式を株式移転完全親法人に譲渡した場合の譲渡所得の特例

 

①原則
個人株主が保有株式を株式移転完全親法人に譲渡した場合は、その譲渡益は譲渡所得等とされ、個人株主に所得税が課税されます(所法33①)。

 

②特例
個人株主が、保有する株式の発行法人の行う株式移転により株式移転完全親法人(株式移転により他の法人の発行済株式の全部を取得し設立された法人。 法法2十二の六の六)に株式を譲渡した場合で、株式移転完全親法人の株式以外の資産が交付されない株式移転であるときは、その株式の譲渡はなかったものとみなされます(所法57の4②)。この場合において、個人株主が新たに取得した株式移転完全親法人の株式の取得価額は、旧株の取得価額とされます(所令167の7)。

 

(3)本件への当てはめ

質問の場合には、株主Xは子法人の行った株式移転により子法人株式を譲渡していますが、P社(株式移転完全親法人)株式のみの交付がされる株式移転のため、それぞれの子法人株式の譲渡はなかったものとみなされ、譲渡所得に係る所得税は課税されません。なお、株主Xが新たに取得したP社株式の取得価額は子法人株式の取得価額の合計となります。

 

3.法人税法上の適格株式移転との関係


(1)適格株式移転

法人税法上、一定の要件を満たす株式移転は「適格株式移転」として、基本的に課税関係を発生させない取り扱いになっています。本件の場合、子法人間には、株主Xによる完全支配関係(100%保有)があるため、以下の要件を満たせば、適格株式移転に該当します(法法2十二の十八、法令4の3)。

 

①株主Xに親会社となるP社株式以外の資産が交付されないこと
②株式移転後に株主XとP社の間で完全支配関係が継続することが見込まれること
③株式移転後に株主Xと子法人の間で完全支配関係が継続することが見込まれること

 

(2)本件の判断と株主Xの課税関係

本件については、株式移転後にファンドからの出資を受け入れた場合、上記(1)③株主XとC社間の完全支配関係が継続しないこととなります。従って、株式移転時に完全支配関係が継続することが見込まれるかどうかにより、「適格株式移転」に該当するか判断が異なります。ただし、株主Xの課税関係については、2.(2)②の通り、適格かどうかにより課税関係が異なるところではありません。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/05/22)より転載

[解説ニュース]

店舗兼住宅を譲渡した場合の居住用財産の3,000万円控除と事業用資産の買換え特例の併用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

【問】

甲さんは、令和2年1月に東京都大田区内に所有する店舗兼自宅の建物とその敷地(それぞれの所有期間は10年超)を、一括して上場会社の㈱乙に譲渡しました。甲さんは譲渡の直前までその建物と敷地を店舗及び自宅として使用していました。甲さんは、その譲渡代金により令和2年中に品川区に所有する土地上の上に貸家と自宅を建築する予定です。

 

甲さんは、譲渡した資産についてそれぞれの特例の適用要件を満たしていることから、自宅とその敷地部分の譲渡については居住用財産を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の特例(租税特別措置法(措法)35条。以下「3,000万円控除」)の適用を受け,店舗とその敷地部分の譲渡については,事業用資産の買換え特例(措法37条)の適用を受けようと考えています。甲さんのように、一つの不動産の譲渡について事業用資産の買換え特例の適用を受ける場合に、3,000万円控除の適用を受けることが認められるのでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


一つの資産の譲渡について3,000万円控除と他の特例との重複適用はできませんが、甲さんの場合は店舗兼自宅と敷地の譲渡であり、店舗(事業用)部分の譲渡についてのみ事業用資産の買換え特例の適用を受けることから、買換え特例の適用を受ける場合であっても、自宅(居住用)部分の譲渡については、その適用要件を満たす限り、3,000万円控除の適用が認められます(措法通達35-1)。

 

2.解説


(1)3,000万円控除と他の特例との適用関係

個人が3,000万円控除の適用対象となる資産を譲渡した場合において、その譲渡が固定資産の交換の特例(所得税法58条)や事業用資産の買換え特例など特例(以下「他の特例」という。)の適用対象となり得るときがあります。その場合の特例の適用について、措法通達35-1の解説では次の通りの考え方が示されています。

 

①3,000万円控除の適用要件を満たしている資産の譲渡については、3,000万円控除と他の特例とを重複して適用することはできない。

 

②店舗兼自宅のように、3,000万円控除の適用対象となる部分(居住用部分)と適用対象とならない部分(非居住用部分)がある資産を譲渡する場合には、その資産を居住用部分と非居住用部分に区分し、非居住用部分の譲渡についてのみ「他の特例」の適用を受け、居住用部分の譲渡については3,000万円控除の適用を受けることができる。

 

③②の場合において、譲渡者が現に(つまり譲渡の直前まで)居住の用に供している資産を譲渡するときは、その譲渡時の現況により3,000万円控除の適用対象となる居住用部分と適用対象とならない非居住用部分とに区分する。

 

(2)3,000万円控除と事業用資産の買換え特例の適用

事業用資産の買換え特例は事業の用に供される資産の譲渡についてのみ適用され、3,000万円控除は、譲渡者が居住の用に供される資産についてのみ適用されることから、事業の用に供されている資産の譲渡について3,000万円控除は適用されません。このため、事業用資産の買換え特例と3,000万円控除とは競合せず、(1)①のような特例の重複適用が問題となることはありません。

 

また、店舗兼自宅である家屋とその敷地の譲渡において、事業用部分の譲渡につき事業用資産の買換え特例の適用を受け、居住用部分の譲渡につき3,000万円控除の適用を受ける場合は、(1)②の通り適用対象部分が異なる2つの資産([店舗とその敷地]と[自宅とその敷地])を、(1)③の通りに譲渡時の現況で事業用と居住用に区分の上、それぞれ譲渡して特例の適用を受けたとみることから、特例の重複適用には該当しません。

 

(3)本件へのあてはめ

ご質問の場合、譲渡者の甲さんは、店舗兼自宅として譲渡の直前まで事業の用及び居住の用に供されていた建物とその敷地を譲渡しています。この場合、①事業用資産の買換え特例は、店舗兼自宅のうち事業の用に供されていた部分とその敷地の譲渡についてのみ適用される一方、②3,000万円控除は、店舗兼自宅のうち譲渡者の甲さんが居住の用に供していた部分とその敷地の譲渡についてのみ適用されます(上記(2)参照)。よって3,000万円控除と事業用資産の買換え特例との間で競合関係が生じることがないので、甲さんが店舗併用住宅のうち事業用の部分について事業用資産の買換え特例の適用を受ける場合であっても、その居住用の部分については3,000万円控除の適用が認められます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/05/08)より転載

[解説ニュース]

相続税法における養子の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■民法における養子の取扱い

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

 

1. はじめに


3月23日の記事では、「民法における養子の取扱い」をご紹介しました。民法上、養親が死亡した場合には、その養子縁組が普通養子縁組であったとしても特別養子縁組であったとしても、養子はその養親の相続人(子)として取り扱われ、その相続分は実子と変わりません。

 

一方、税務上は、むやみに養子の数を増やすことで公平性が損なわれること等があるため、普通養子縁組の場合には一定の制限規定が設けられています(下記2.参照)。また、被相続人の直系卑属(孫やひ孫)が養子である場合には、その者の相続税額については、原則として、相続税額が2割加算されます(下記3.参照)。本稿では、これらの取扱いをご紹介します。

 

 

2. 法定相続人の数


(1) 法定相続人の数が影響する計算項目

相続税の計算上、次の項目については、法定相続人の数を基に行います。

 

(2) 普通養子縁組による養子がいる場合の数の制限

 

上記(1)の法定相続人の数を民法どおりにカウントすると、むやみに養子の数を増やすことで、相続税回避が可能となってしまいます。
そこで、普通養子縁組の場合には、上記(1)の計算をするときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、次のとおり、一定数に制限されています。

 

・ 実子あり→1人まで
・ 実子なし→2人まで 
ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記の養子の数に含めることはできません。

(3) 実子として扱われる者

次のいずれかの者は、実子として取り扱われます(すなわち、上記(2)の数の制限は受けず、すべて法定相続人の数に含まれます)。

 

①特別養子縁組により被相続人の養子となった者
②被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者
③被相続人と配偶者との婚姻前に特別養子縁組によりその配偶者の養子となった者で、その婚姻後にその被相続人の養子となったもの
④被相続人の実子、養子又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため相続人となったその者の直系卑属

 

3. 相続税額の2割加算


(1) 相続税額の2割加算とは

相続、遺贈又は相続時精算課税贈与により財産を取得した者がその被相続人の一親等の血族(代襲相続人となったその被相続人の直系卑属を含む)及び配偶者以外の者である場合には、その者の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます(これを相続税額の2割加算といいます)。

(2) 養子の取扱い

被相続人の養子は、一親等の法定血族であることから、相続税額の2割加算の対象とはなりません。ただし、被相続人の養子となっている被相続人の直系卑属(孫やひ孫)は、その者が代襲相続人となっている場合を除き、相続税額の2割加算の対象になります。

(3) まとめ

相続税額の2割加算の適用対象者をまとめると、次表のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/27)より転載

[解説ニュース]

不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(髙木 駿/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

1.相続税計算における評価上の問題点


土地や建物の売買契約締結後、その契約に係る引渡しが未了の状態で買主に相続が開始した場合、相続税の計算上、相続人が取得することとなる相続財産の種類が何であるのか(不動産か債権(不動産の引渡請求権)か)、さらにはその評価額はどのように算定するのかが問題になります。

 

相続税法あるいは財産評価基本通達では、土地や建物の売買契約締結後引渡前に買主に相続が発生した場合の取扱いについて特段の明文規定等はありません。

 

 

2.現行の実務の取扱い


現行の実務は、平成3年1月11日付国税庁資産税課情報第1号(以下「情報」という。)の取扱いに基づき、被相続人である買主に係る相続税の計算上、被相続人から取得した財産及び承継した債務の種類の判定、そしてその財産及び債務の評価を行っています。今回は「情報」の取扱いについて、設例を用いて解説します。

 

(1)原則的な取扱い

買主に相続が開始した場合に相続人が取得した財産は、売買契約に係る土地や建物の引渡請求権とし、その評価額は売買契約に基づく土地や建物の取得価額(売買代金)の金額となります。また、その一方で相続人が承継した債務は、相続開始時における残代金支払債務とし、その額は売買契約に基づき、被相続人たる買主が負担することとなっている売買代金や仲介手数料その他経費で、相続開始の時における未払相当額となります。

 

設例の場合のように、買主である被相続人が6,000万円で土地を購入する売買契約を締結し、手付金600万円を支払った後、引渡前に相続が発生した場合は、6,000万円の土地の引渡請求権を課税財産として計上する一方で、未払となっている残代金5,400万円を債務控除の対象とします。

 

(2)特例的な取扱い-その1

売買契約日から相続開始日までの期間が通常の売買の例に比較して長期間であるなど、上記(1)の取得価額の金額が相続開始日における土地や建物の引渡請求権の価額として適当でない場合には、別途個別に評価した価額によります。

 

(3)特例的な取扱い-その2

買主に相続が開始した場合において、上記(1)にかかわらず、売買契約により取得する土地や建物を相続財産とする申告をすることも認められます。なお、この場合における土地や建物の価額は、財産評価基本通達により評価した金額となります。

 

この特例的な取扱いにより、設例の場合には、取得する財産を「土地」として、その評価額を4,000万円として申告することも認められます。一般的には、土地については売買代金よりも路線価等で評価した相続税評価額の方が低くなるケースの方が多いため、特例的な取扱いの場合の方が相続税上は有利になることが多いと思われます。

 

ただし、「情報」の(注)4では、「当該特例的な取扱いによる課税処分が訴訟事件となり、その審理の段階で引渡し前の相続財産が「土地等」であるとして争われる場合には、相続財産が「土地等」であるとしてもその価額が当該売買価額で評価すべきである旨を主張する事例もあることに留意する。」との記載がありますので注意が必要です。

 

 

3.小規模宅地等の特例の適用の可否


「情報」においては、上記2.(3)のとおり、土地の売買契約締結中に買主の相続が発生した場合における買主の相続財産を「土地」として申告することも認められています。この場合にその土地につき、小規模宅地等の特例の適用が受けられるかどうかについて「情報」では特に言及していません。私見では、被相続人である買主は相続開始直前において土地を所有しているものとして取り扱われることになるため、その土地が小規模宅地等の特例の適用要件を充足した場合は特例を適用することが可能であると考えますが、相続開始直前における被相続人等の居住の用及び事業の用に供していたのかという判定等には慎重な判断が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/20)より転載

[解説ニュース]

所得税の不動産所得に損失が生じた場合の損益通算の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.不動産所得に係る損益通算の特例の概要


(1)損益通算とは

所得税の計算上、不動産所得、事業所得、譲渡所得又は山林所得の金額の計算上生じた損失の額のうち一定のものについて、一定の順序により総所得金額、退職所得金額または山林所得金額等を計算する際に給与所得など他の各種所得の金額から控除されます (所得税法69条)。

 

(2)不動産所得に係る損益通算の特例

不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合に、その不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した金額のうちに不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地又は土地の上に存する権利(以下「土地等」)を取得するために要した負債の利子の額があるときは、(1)にかかわらず、その負債の利子に相当する部分の金額が生じなかったものとみなされ、他の各種所得の金額と損益通算できません(租税特別措置法(措法)41条の4)。

 

 

2.土地等を取得するために要した負債の利子の計算


(1)計算のあらまし

1(2)の対象となる「土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額」は、次に掲げる区分に応じ、それぞれに掲げる金額とされます(措法施行令(措令)26条の6第1項)。

 

①その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した、土地等を取得するために要した負債の利子の額が、その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額を超える場合
⇒その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額の全額

 

②その年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した、土地等を取得するために要した負債の利子の額が、その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額以下である場合
⇒その不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額のうち、その不動産所得の金額の計算上必要経費に算入した、土地等を取得するために要した負債の利子の額に相当する部分の金額

 

(2)土地と建物を一括して借入金で取得した場合の借入金の利子の額の区分計算

一の契約により同一の者から土地等と建物を一括して借入金で取得した場合において、その借入金の額がこれらの資産ごとに区分されていないこと等により、土地等と建物の借入金の額を区分することが困難であるときは、これらの資産を取得するために要した借入金の額が、まず建物の取得の対価の額に充てられ、次に土地等の取得の対価の額に充てられたものとして、前述(1)の計算をすることができます(措令26条の6第2項)。

 

この場合における「土地等を取得するために要した借入金の利子の額に相当する部分の金額」は、次の算式により計算されます(措法通達41の4-3)。

 

(算式)
その年分の土地等を取得するために要した借入金の利子の額=その年分の建物と土地等を取得するために要した借入金の利子の額×土地等を取得するために要した借入金の額÷建物と土地等を取得するために要した借入金の額

 

 

3.土地等を取得するために要した負債利子の計算例


土地と建物の別に借入金の額を区分することが困難な場合における、土地等を取得するために要した負債利子の額の計算例を示すと、次の通りとなります。

 

(設例)
・土地の取得価額 :4,000万円(a)
・建物の取得価額 :2,000万円(b)
・借入金の額   :4,800万円(c)
・借入金の利子の額: 192万円(d)

 

①土地の取得に要した借入金の額 4,800万円c-2,000万円b=2,800万円e
②土地の取得に要した借入金の利子の額 192万円d×2,800万円e÷4,800万円c=112万円
③損益通算の対象とならない借入金の利子の額
イ.不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額が70万円の場合 ⇒70万円<112万円  ∴70万円
ロ.不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額が200万円の場合 ⇒200万円>112万円 ∴112万円

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/13)より転載

[解説ニュース]

不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

1. はじめに


不動産取得税は、土地や家屋の「取得」に課税される都道府県税です(地法73の2①)。ただし、形式的に不動産の所有権を移転したものとされる所定の「取得」は非課税とされます(地法73の7)。このうち、相続(包括遺贈及び被相続人から相続人に対してなされた遺贈を含む。)により不動産を取得した場合も、形式的な所有権の移転等として非課税とされます(同法1号)。この相続により不動産を取得したとされる場合については、実務上、含みがあるようで、時々トラブルになることがあります。

 

今回は、遺言により複数の相続人のうちの一人が不動産を全部取得したことに対し、別の相続人が民法改正前の遺留分減殺請求をして不動産の持ち分を取得後、共有物の分割で相続財産である不動産を取得したことが、「相続による取得」に該当するかどうかが争点となった裁判例(東京地裁令和2年1月23日)を見ていくことにします。なお、同裁判のもう1つの争点である非課税となる「共有物の分割」に該当するかどうかについては紙面の都合上、割愛します。

 

2. 事案の概要


被相続人Aさんは長女に不動産を相続させる旨の自筆証書遺言を残して平成18年に死去しました。このため残る相続人Bさんら4人は、長女に対する遺留分減殺請求をしました。その結果、Bさんら4人は不動産につき10分の1ずつ取得することを得ました。その後平成27年になって、長女は、共有物となった不動産につき、共有物分割を求める裁判を起こしました。裁判所は、相続人Bさんが遺留分減殺請求で得た不動産(10分の1)について残りの持ち分である不動産持分10分の9を取得して単独所有とする代わりに、代償金を支払うとする内容の共有物分割の判決を下し、同年9月に確定しました。

 

これを受け、課税庁である東京都は平成30年に、相続人Bさんが不動産の持分10分の9を取得したものとして、200万円弱の不動産取得税を賦課したところ、Bさんが「この不動産の持ち分の取得は相続によるもので、共有物分割による取得は再度の遺産分割と考えるのが自然」と主張し、課税の取消しを求めて争いとなったものです。

 

3. 背景にある取扱い


民法改正前の遺留分減殺請求に基づき不動産を取得した場合の不動産取得税の取扱いは、東京都の場合、「遺留分権利者が一部の相続人に限定されていること及び遺産分割のやり直しによる取得を非課税と認めていること等の事情から、実質的には相続を原因とした取得と同様であるものと解し、非課税と認定して差し支えない」としています(「不動産取得税質疑応答集」の改正について(通知)平成28年4月1日)。

 

ここでいう遺産分割のやり直しによる取得については、相続人全員で遺産分割協議を合意解除し「改めて遺産分割協議を行った場合についても「相続による不動産の取得」に該当するものであり(最高裁昭和62年1月22日判決)、再度非課税の取扱いをして差し支えない」(同上)としています。この場合の登記は大方、錯誤により登記を抹消し、新たな相続登記が行われる形式になるとされます。Bさんの主張は、こうした取扱いを背景にしたものといえそうです。

 

4.裁判所の判断


裁判所は、特定の相続人に遺産全部を相続させる旨の遺言に基づく財産の相続について、単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきで、「遺留分減殺請求権の行使により、承継の効力は遺留分を侵害する限度で失効し、相続人に承継された権利は遺留分を侵害する限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するが、遺産全部を特定の相続人に相続させる旨の遺言があった場合には、遺産は遺産分割の対象となることはない」と説示し、この場合に「遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる遺産としての性質を有しないものと解すべき」としました。

 

あてはめでは、上記の事実関係に基づきBさんらの「遺留分減殺請求後の不動産は、いずれも遺産としての性質を有するものではなく、遺産分割の対象となるものではないから」、相続による取得には該当するということはできないと判断しています。

 

5.補足


なお、遺言に基づき不動産の登記が適法に行われた場合、あとで錯誤により抹消することはできないようです。となると、遺言により登記された場合には、遺産分割をやり直しするといった形式を整えることはできません。このケースで、民法改正後の遺留分侵害額請求により、相続不動産の一部を代物弁済という形で不動産を請求した相続人に渡すと、遺産分割のやり直しといった形はとれず、登記原因は代物弁済となって、不動産取得税の課税が及ぶということになりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/04/06)より転載

[解説ニュース]

非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(川嶋 克彦/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

■相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

 

1. 事業承継における国外転出(贈与)時課税


2015年7月より創設された「国外転出時課税」(所法60の2、60の3)ですが、事業承継の際に非上場株式を後継者等(非居住者)へ贈与した場合にも適用されます。事例を踏まえて、国外転出(贈与)時課税の概要と留意点を確認したいと思います。

 

 

2. 国外転出(贈与)時課税の基本的な考え方


以下の事例の通り、居住者(贈与者)が贈与時に所得税を課せられることに注意が必要です。居住者(贈与者)は贈与により譲渡対価を収受していないにも関わらず所得税(譲渡税)を課せられるため、納税原資に苦慮するケースが散見されます。

 

(事例)居住者Aが後継者(非居住者)Bに時価100、取得費10、含み益90の株式を贈与した場合。

 

<居住者A(贈与者)> 従来、含み益90に対して、所得税等の課税なし。

 

<後継者(非居住者)B(受贈者)> 従来、時価100に対して贈与税課税で課税終了でしたが、別途含み益90について、日本で課税されない「課税逃れ防止」の為、国外転出(贈与)時課税により、居住者A(贈与者)が贈与時に時価で譲渡したものとみなして所得税(譲渡税)が課税されます。

 

 

3. 国外転出(贈与)時課税の概要


(1)対象者

以下のいずれにも該当する居住者(贈与者)。

①贈与時点に保有する対象資産の合計額(時価)が1億円以上であること。
②贈与の日前10年以内において国内に5年を超えて住所又は居所を有していること。

 

(2)対象資産

①有価証券等(株式(非上場含む)公社債、投資信託、匿名組合契約の出資の持分等)。
②未決済信用取引、未決済デリバティブ取引等。

 

(3)申告・納付

①贈与時の時価で対象資産の譲渡があったものとみなして対象資産の含み益に所得税が課税されます。
②申告・納付期限は贈与した年分の確定申告期限(贈与した年の翌年3月15日)となります。
③納税猶予制度があります(後述4参照)。

 

(4)課税取消事由

贈与の日から5年(納税猶予の適用を受け、猶予期限を10年に延長している場合には10年)以内に、(a)(贈与により対象資産を取得した)非居住者が帰国した場合、(b)非居住者が対象資産を居住者に贈与した場合、(c)非居住者の相続により、対象資産を取得した相続人全員が居住者となった場合。

 

 

4. 納税猶予の特例


(1)概要

①原則として、その所得税の額について納税が、贈与の日から5年間猶予されます。
②納税猶予期間の延長の届出をすることで、更に5年間納税猶予期間を延長することが可能です。

 

(2)納税猶予の適用を受けるための要件

①贈与税の確定申告期限までに、(a)確定申告書の提出(納税猶予を受ける旨の記載)、(b)納税猶予分の所得税及び利子税の額に相当する担保を提供する。
②贈与者は、納税猶予期間中において、各年3月15日までに継続届出書の提出が必要です。
③譲渡した場合等

 

納税猶予期間中に対象資産を譲渡する等一定の事由が生じた場合は、その事由が生じた対象資産に係る納税猶予額(利子税を含む)をその事由が生じた日から4カ月以内に納付しなければなりません。

 

 

5. 納税猶予における担保


非上場株式を後継者(非居住者)に贈与した場合、いわゆる「事業承継税制における贈与税の納税猶予制度」と違い、その非上場株式を担保提供するための要件が以下の通り厳格です。その為実務上贈与者が保有する上場株式等を担保提供するのが一般的です。その非上場株式の発行会社や保証人が保証する事も可能ですが各々要件が定められているため注意が必要です。

 

<非上場株式の担保提供が認められる場合>
国外転出(贈与)時課税に係る納税猶予の特例を受けるため、その課税を受けた非上場株式を担保提供する場合、次のいずれかに該当する必要があります。

 

①財産のほとんどが当該非上場株式であり、その非上場株式以外に納税猶予の担保として提供すべき適当な財産がないと認められること。
②その非上場株式以外にも財産があるが、その財産が他の債務の担保となっており、納税猶予の担保として提供することが適当でないと認められること。

 

また、その非上場株式を担保提供する際に、その非上場株式の発行会社が株券不発行会社である場合には、株券発行が必要などの細かい要件に注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/30)より転載

[解説ニュース]

民法における養子の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■相続税法における養子の取扱い

■民法改正 ~特別の寄与~

 

 

1. 「普通養子縁組」と「特別養子縁組」


民法上、養子縁組には、実の血族との親族関係が終了しないいわゆる「普通養子縁組」と、実の血族との親族関係が終了する「特別養子縁組」とがあります。それぞれの主な違いをまとめると次表のとおりです。

 

 

※1 ただし、配偶者のある者が未成年者(2022年4月1日以降は18歳未満の者)を養子とするには、配偶者とともにしなければならない(配偶者の嫡出子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合を除く)。また、配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意が必要(配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合を除く)。
※2 未成年者(2022年4月1日以降は18歳未満の者)を養子とするには、家庭裁判所の許可が必要(自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合を除く)。
※3 2022年4月1日以降も同じ。「18歳以上」とはならない。

 

 

2. 普通養子縁組における、養子の子(F)と、養子の親(A・B・C・D)との関係


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3. 節税目的でされた養子縁組の効力


節税目的でされた養子縁組の効力に関し、最高裁の平成29年1月31日判決においては、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るとされ、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について無効とはならないとされました。

 

 

4. 最後に


本稿では、民法における養子の主な取扱いをご紹介しました。上記1の表「親の死亡時(相続)」に記載のとおり、養親が死亡した場合には、その養子縁組が普通養子縁組であったとしても特別養子縁組であったとしても、民法上は、養子はその養親の相続人(子)として取り扱われ、その相続分は実子と変わりません。
一方、税務上は、養子の数を増やすことで公平性が損なわれること等があるため、普通養子縁組やいわゆる孫養子の場合には一定の規定が設けられています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/23)より転載

[解説ニュース]

被相続人が相続開始直前に老人ホームに入居していた場合の「相続した空き家の敷地に係る譲渡所得の特別控除」

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1. 特例の概要


相続の開始の直前において、被相続人のみが主として居住の用に供していた家屋で、昭和56年5月31日以前に建築されたも(区分所有建築物を除く。以下「被相続人居住用家屋」)及びその敷地の両方を相続又は遺贈により取得した個人が、被相続人居住用家屋を取壊した後にその敷地を譲渡した場合は、一定の要件を満たすことにより、所得税の計算上、譲渡所得の金額から最大3,000万円を控除できる特例が設けられています(租税特別措置法(措法)35条第3項2号、4項、措法施行令23条6項。以下この特例を「本特例」といいます)。

 

 

 

2. 被相続人居住用家屋の意義


この特例の対象となる「被相続人居住用家屋」とは、次の①~③のすべての要件を満たす家屋をいいます(措法35条4項)。

 

①相続開始の直前において、被相続人の居住の用に供されていた家屋であること。
②昭和56年5月31日以前に建築された家屋(区分所有建築物を除きます。)であること。
③相続の開始の直前において、被相続人以外に居住をしていた者がいなかったものであること。

 

 

 

3. 被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居していた場合の本特例の適用


(1) 被相続人居住用家屋とその敷地の対象の拡大

上記2①より、「被相続人居住用家屋」は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていた家屋であることが要件とされ、老人ホームに入居中に 相続が開始した場合は、被相続人が入居前に住んでいた自宅は相続開始の直前に被相続人の居住の用に供されていないことから、被相続人居住用家屋に該当しません。しかし高齢者が自宅を離れ老人ホームに入居後に元の自宅に戻る場合や、元の自宅を家財置き場等として使用する場合があり、生活の本拠が完全に老人ホームに移ったとは言えないケースもあります。そこで被相続人が相続開始の直前に老人ホームに入居したときでも、一定の要件を満たす場合には元の自宅が「被相続人居住用家屋」に該当するものとして、本特例の適用が認められています。

 

具体的には、本特例の適用対象となる被相続人居住用家屋およびその敷地として、「”『対象従前居住の用』に供されていた”被相続人居住用家屋およびその敷地」が含まれることとされています。 (措法35条4項、措法施行令23条7項、6項)

 

(2)「対象従前居住の用」の意義

「対象従前居住の用」とは、 [1]次の①~③の要件を満たし、かつ[2]下記(3)の特定事由により相続の開始直前において家屋が被相続人の居住の用に供されていなかった場合における、その特定事由により居住の用に供されなくなる直前のその被相続人の居住の用をいいます。

 

①特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、引き続き被相続人居住用家屋がその被相続人の物品の保管その他の用に供されていたこと
②特定事由により、被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなった時から相続の開始の直前まで、その被相続人居住用家屋が事業の用、貸付けの用又は被相続人以外の者の居住の用に供されていたことがないこと。
③被相続人が、(3)①の有料老人ホーム等に入居等をした時から、相続開始の直前までの間において、被相続人の居住の用に供する家屋が2以上ある場合には、これらの家屋のうち、その施設等が、被相続人が主としてその居住の用に供していた一の家屋に該当するものであること。

 

(3) 特定事由の意義

特定事由は、次の①又は②の事由をいいます。

 

①介護保険法の要介護認定又は要支援認定を受けていた被相続人が、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅等に入居等をしていたこと。
②一定の障害者区分の認定を受けた被相続人が、障害者支援施設等に入居等をしていたこと。

 

(注)上記の要介護認定等を受けていたかどうかは、特定事由により被相続人居住用家屋が被相続人の居住の用に供されなくなる直前において判定します。

 

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/16)より転載

[解説ニュース]

譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■借地人の建物を地主が取壊した際の費用をめぐる税金トラブル

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.はじめに


所得税の確定申告時期で申告手続きの最盛期を迎えています。そこで、譲渡所得税に関係する最近の裁決事例から、少し変わったトラブル事例を集めてみました。

 

2.スーパーカーの売却益は譲渡所得?


1台8,000万円もする限定生産のフェラーリなどのスーパーカーの売却益を巡って納税者と税務署の間で争いになった事例がありました(国税不服審判所令和元年6月18日裁決)。

 

裁決書によると、この争いは、納税者が「自己保有していたスーパーカーは生活の用に供する動産であるから、その売却益は非課税になる」との考えから、税務署が行った譲渡所得として課税の取消し等を求めたものです。

 

自家用車の売却益については、その自家用車が例えば通勤用なら、非課税とされます。生活に要する資産と認められるからです(所法9①九、所令25)。逆に売却損が出たとしても、損失はなかったものとされます。これに対し、自家用車が個人のレジャー用などの場合は、その利益は譲渡所得に区分され、課税対象となります。

 

さて、国税不服審判所は、この納税者が「平成22年6月から平成29年5月までの間に、少なくとも15台の車両を購入しており、特に、平成25年及び平成26年には、それぞれ1年聞に3台の車両を購入するなど、同時に複数台の車両を保有している」等の事実関係を認定。こうしたことを受けて、国税不服審判所は、売却された限定生産のスーパーカー3台は、500台以下の生産数しかなく、「購入者が限られる上、(中略)購入時の車両 本体価格がいずれも8,000万円を超える高級車であること等を考慮すると、各限定車が通常の社会生活を営むのに必要とされる動産であるとは認められない。(中略)各限定車は、「生活に通常必要な動産」に該当しない」と判断、納税者の言い分を退けています。

 

3.予め特例を変更できるようにしていたつもり?


譲渡所得の申告で、優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例(措法31の2、以下、優良住宅地特例という。)と特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税 の特例(措法37、以下、買換え特例という。)の適用を受けるべく申告書に書き、一方の特例が受けられなかったことから、修正申告で変更しようとしたところ、税務署が認めなかったため争いとなった事例があります(国税不服審判所裁決平成30年1月25日)。

 

裁決書によると、納税者は、夫から相続し、花の栽培など事業の用に供していた市街化区域内の土地を2億円余りで売りました。

 

譲渡所得税の申告の際には、上記の両特例の適用を受ける旨の申告書に書いたうえ、マンションに買い換えることを予定し、税額は買換え特例の定めに則って計算して申告していました。

 

ところが、買い換えが出来なかったため、改めて優良住宅地特例で税額を計算し直して修正申告をしたところ、税務署から更正処分されたため、争いとなったものです。

 

納税者は「当初の申告で買換特例の適用を受けたとしても、その後の修正申告で買換特例の適用を受けないなら、買換特例と優良住宅地特例の重複適用を認めない法の趣旨(両特例の重複適用が屋上屋を重ねることとなり適当ではないというもの)に反しないから、修正申告で優良住宅地特例の適用を認めるべき」と主張しました。

 

 

国税不服審判所は、「措法第31の2④」について次のように解釈。

 

いわく同項は「買換特例の適用を受けるときは、その土地の譲渡は、優良住宅地等のための譲渡に該当しないものとみなす旨規定し、優良住宅地特例の適用を排除している。この「規定の適用を受けるとき」とは、当初の申告において、その有する土地につき、将来買換資産を取得する見込みであるとして買換特例の適用を受けた(同法37④)が、その後、買換資産を所定の期間内に取得しなかったため、義務的修正申告書を提出した場合を含むもの」。

 

このため「納税者が、当初の申告において、(中略)買換特例の適用を選択した場合には、その譲渡は、その後、買換資産を所定の期間内に取得せず、義務的修正申告書を提出したとしても、同法第31の2④により、優良住宅地等のための譲渡に該当しないとみなされて、その納税者は、義務的修正申告書において、買換特例に代えて本件特例の適用を受けることができないものと解される」と判断、義務的修正申告書において買換特例に代えて優良住宅地特例の適用を受けようとすることは、当初の確定申告における買換特例の適用を撤回することになるが、瑕疵なく確定申告した以上、これを自由に撤回することができないとして、納税者の主張を認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/03/09)より転載

[解説ニュース]

2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

 

 

【問】

私(C)の祖父(A)は、X1年1月に死亡しました(以下「1次相続」)。祖父はすべての財産1,000を私の父(B)に相続させるという遺言を残しており、これに対して叔母(Z)が遺留分侵害額請求をしてきました。

 

また、X1年2月、父(B)が死亡しました(以下「2次相続」)。父はすべての財産を私(C)に相続させるという遺言を残していました。

 

祖父(A)の相続税の申告期限までに叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、1次相続に係る父(B)の相続税申告は、祖父(A)の遺言通り、父(B)が1,000すべてを相続したものとして、X1年11月に行いました。

 

また、父(B)の相続税の申告期限までにも叔母(Z)への支払額が確定しなかったため、2次相続に係る私(C)の相続税申告は、父(B)に祖父(A)から相続した1,000の財産があるものとして、X1年12月に行いました。

 

その後、X2年2月に、遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定し、叔母へは200を支払うこととなり、その結果、父(B)が相続した財産は800となりました。

 

この場合、1次相続に係る父(B)の相続税申告、及び2次相続に係る私(C)の相続税申告において、更正の請求をすることはできますか?

 

 

 

〔親族関係図〕
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〔1次相続に係る課税価格〕

 

〔2次相続に係る課税価格(1次相続の影響のみ記載)〕

 

 

【解説】

1. 相続税法における更正の請求


相続税の申告書を提出した者は、遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、その確定したことを知った日の翌日から4か月以内に、更正の請求をすることができます。

 

2. 本問への当てはめ


(1)1次相続に係るBの相続税申告

上記1の規定のとおり、B(実際に手続をするのはその相続人)は、更正の請求をすることができます。
なお、1次相続に係る相続税申告についてBが更正の請求をする場合、Zが期限後申告をしなければ、Zは決定処分を受けることになります。ただし、更正の請求及び期限後申告をしたとしても、しなかった場合と比べて相続税の総額は変わらないため、実務的にはこれらの申告等を行なわず、当事者のB・Z間で修正税額の精算のみを行うこともあります。

(2)2次相続に係るCの相続税申告

上記1の赤字の箇所は、次の波線のような言葉を補って解釈するものと考えます。

その者(遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告書を提出した者)が 遺留分侵害額請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したことにより、その 遺留分侵害額請求をされた相続の 申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときは、」

すなわち、上記1の規定は、遺留分侵害額請求をされた相続に係る申告(本問の場合、1次相続に係る申告)に関しての更正の請求について定められたものであり、遺留分侵害額請求とは直接関係のない申告(本問の場合、2次相続に係る申告)についても更正の請求を認めるという規定ではないと解されます。また、本問の場合、国税通則法の更正の請求事由にも該当しません。したがって、Cは、2次相続に係る相続税について更正の請求をすることはできないと考えます。

 

3. 最後に


上述のとおり、相続税法における更正の請求の規定は本問の場合の2次相続については適用されず、その結果、Cは1次相続においてBが相続しないこととなった財産200についても2次相続で相続税を負担しなければならないことになると考えます。

(参考:大阪国税局WAN質疑応答事例検索システム相続税関係2929)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/25)より転載

[解説ニュース]

事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小野寺 太一/公認会計士・税理士)

 

 

[関連解説]

■贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

 

 

1.後継者が複数の場合の事業承継税制の取り扱い


2027年12月末までの贈与又は相続等に適用することができる非上場株式等に係る新事業承継税制(以下、「特例措置」という。)では、対象会社の代表権を有し、同族関係者のうち最も多くの議決権を有する者を含め上位3名までの者で、議決権数の10%以上を有する者であるという要件を満たすことを前提に、後継者3人までの適用が可能となりました。

 

従来の制度(以下、「一般措置」という。)では非上場株式等を受け取る後継者は1人に限定されていますが、特例措置では、例えば兄弟で会社経営を引き継ぐ場合において、必ずしも株式の承継者を1人に限定せず、2人又は3人で株式を受け取る場合でも適用が可能となっています。

 

 

2.後継者が複数の場合の留意点


一般に非上場株式等が複数の株主に分散すると、後継者の経営権の安定性に問題が生じたり、その後の相続等により更なる株式の分散を招くことから、非上場株式等については後継者1人に集中する方が望ましいと言われることが多く、複数の後継者に株式を承継するかについては、承継時に十分な検討が必要です。さらに上記の一般的な注意点の他に、事業承継税制の適用に際して、複数後継者の場合に注意を要する事項があります。

 

例として、A社のオーナー社長甲がA社の発行済株式総数100株の全てを保有している状態で相続が発生し、特例措置の適用により、長男乙が60株、次男丙が40株を相続したとします。乙と丙への相続自体は1に記載の要件、その他の要件を満たす前提であれば特例措置の適用に問題は生じないと考えられます。

 

 

問題が生じる可能性があるのは、乙と丙からその次の後継者への承継のタイミングです。乙、丙がそれぞれ贈与により次の後継者へ株式の移転を考える場合、乙と丙は贈与者としての要件を満たしている必要があります。

 

 

贈与者の要件(既に贈与税の特例措置の適用を受けている者等がいない場合)は概略以下の通りです。

 

①贈与の前に、その会社の代表権を有していたこと
②贈与の直前において、その個人と同族関係者の有するその会社の株式に係る議決権の数の合計が議決権総数の50%超であること
③贈与の直前において、その個人が有するその会社の株式に係る議決権の数が、同族関係者のいずれかの者が有する議決権の数を下回らないこと
④贈与の時において、その個人がその会社の代表権を有していないこと

 

 

ここで、乙、丙から次の後継者への贈与の際に問題となるのは、③の要件です。
乙と丙が株式を相続により取得して以降、まず先に乙が贈与により、次の後継者に特例措置により株式を承継する場合には、乙は丙よりも多くの議決権を有していることから、③の要件を満たし、乙からの承継に問題はないと考えられます。また、その後、丙が贈与により株式を承継させる場合(既に贈与税の特例措置の適用を受けている者がいる場合)には、丙は①~③の要件を満たす必要がないことから、こちらも特例措置の適用に問題はないと考えられます。

 

 

一方で、丙が乙よりも先に次の後継者に特例措置により贈与する場合は問題が生じます。丙の有する議決権の数は、乙の有する議決権の数よりも少ないため、③の要件を満たすことができず、結果として、丙から次の後継者への承継の際に、特例措置を適用することはできないと考えられるためです。以上から、丙が生前に贈与により次の後継者に株式を承継させる場合には、乙から次の後継者への承継を待ってから行うか、事業承継税制を適用せずに贈与することとなると考えられます(後者の場合には、丙が猶予されている甲に係る相続税額は打ち切りとなり納税が必要となります)。

 

贈与であれば、タイミングを調整し、乙からの贈与を先に行う等の調整ができるかもしれませんが、乙からの贈与よりも前に、丙の相続が発生してしまった場合には、特例措置の適用を受けられないこととなります。

 

 

甲の相続の際に、乙と丙が同数の議決権を有するように非上場株式等を相続すれば、乙と丙どちらから次の承継を行う場合でも、③の要件を満たすことは可能ですが、乙と丙が全くの同数を有すること自体が会社経営上、問題ないのかの検討は必要と思われます。

 

なお、乙、丙からの承継が2028年以降となり、一般措置の適用となる場合にも問題が生じます。現在の一般措置では、複数の後継者への承継は認められていないため、先に乙から一般措置により承継された後継者1名に対してのみ、丙から承継することが可能であり、他の後継者に対して丙から株式を承継する場合には、一般措置の適用を受けることができません。

 

 

特例措置では、複数の後継者への承継が行えるようになったことから、これまでよりも柔軟な承継が行えるようになったことは事実ですが、上記のような問題が考えられることから、その次の承継まで見据えて決定する必要があります。また、これらの取り扱いについては今後改正される可能性もあるため、実行の際には確認が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/17)より転載

[解説ニュース]

更正の請求による相続税の還付

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

1.国税通則法上の相続税の更正の請求


相続税の申告書を提出した人が、その申告書に記載した課税価格や税額等の計算について相続税法等の規定に従っていなかったこと、または計算に誤りがあったことにより相続税を納めすぎたときは、法定申告期限から5年以内に限り税務署長に対し、その申告に係る課税価格または相続税額等につき、減額更正の請求をすることができます(国税通則法23条第1項)。例えば、土地の評価を誤って過大に計算し、納税者が相続税を納めすぎた場合には、更正の請求をすることにより納めすぎた税金の還付を受けることになります。

 

更正の請求をする場合は、その請求に係る更正前の課税価格または税額等、更正後の課税価格または税額等、その更正の請求をする理由、その請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書に、更正の請求の理由の基礎となる「事実を証明する書類」を添付の上、税務署長に提出しなければなりません(同条第3項、同法施行令6条第2項後段)。

 

 

2.更正の請求の特例


法定申告期限から5年を経過した後であっても、次のような特段の事情が生じた場合には、更正の請求により相続税の還付を受けることができます。

 

(1)国税通則法上の特例

法定申告期限から5年経過後であっても、例えば次の事由に該当する場合、その事由が生じた日の翌日から起算して2ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正をすべき旨の請求ができます(国税通則法23条2項、同法施行令6条第1項)。

 

 

①課税価格または税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解等を含む)により、その事実が計算の基礎としたところと異なることが確定したとき。

 

②申告等をした者に帰属するものとされていた相続財産等が、他の者に帰属するものとする当該他の者に係る国税の更正または決定があったとき。

 

③その申告、更正または決定に係る課税価格または税額等の計算の基礎となった事実にかかる国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正または決定にかかる審査請求もしくは訴えについての裁決もしくは判決に伴って変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、その課税価格または税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなることを知ったこと。

 

 

(2)相続税法上の特例

相続の特殊性から上記1の他、相続税の申告書を提出した者または決定を受けた者が、例えば次のいずれかに該当する事由により、その課税価格や相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、税務署長に対し更正の請求ができます(相続税法32条、同法施行令8条第2項)。

 

 

①未分割財産につき民法に規定する相続分または包括遺贈の割合に従って課税価格が計算されていた場合に、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人または包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、その相続分または包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったこと。

 

②民法に規定する認知、相続人の廃除またはその取消しに関する裁判の確定、相続の回復、相続の放棄の取消しその他の事由により相続人に異動を生じたこと。

 

③遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと。

 

④遺贈に係る遺言書が発見され、または遺贈の放棄があったこと。

 

⑤相続もしくは遺贈または贈与により、取得した財産についての権利の帰属に関する訴えについての判決があったこと、その他一定の事由が生じたこと。

 

⑥相続税の期限内申告書の提出期限において未分割であった財産が分割されたことにより、その分割に基づき配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額が、その時前において配偶者の税額軽減の規定を適用して計算した相続税額と異なることとなったこと(①に該当する場合を除く)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/10)より転載

[解説ニュース]

住宅の譲渡所得の特例では、本当に居住していたか見られています

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

1.はじめに


マイホームを売った場合には、新たな住宅を取得するのが通常であるなど、一般の資産の譲渡に比べて特殊な事情があり、その担税力が弱いという理由から、税制上、特例が設けられています。その最もポピュラーな特例が居住用財産の譲渡所得の特別控除、いわゆる3,000万円特別控除です(措法35①)。

 

こうした居住用財産に係る譲渡所得の特例では、譲渡の対象財産が「その居住の用に供している家屋の譲渡若しくはその家屋とともにするその敷地の用に供されている土地等」を譲渡した場合であること、又は住まなくなってから3年を経過する日の属する年の年末までに譲渡した場合であることが、大きなポイントになっています。

 

居住の用に供しているということについては、「生活の拠点として利用している家屋をいい、これに該当するかどうかは、その者の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定するのが相当であり、また、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産に短期間臨時にあるいは仮住まいとして起居していたというのみでは足りず、真に居住の意思を持って客観的にもある程度の期間継続して譲渡資産を生活の拠点としていたことを要するもの」と考えられています(国税不服審判所平成31年2月6日)。

 

しかし、しばしば対象財産が「居住用」であるかどうかを巡って、納税者と税務署との間で争いが起こります。今回は、最近の裁決事例から、居住の用に供している実態がどのように確認されているかをチェックします。

 

 

2.電気・水道等の利用、源泉徴収票の住所…


先の国税不服審判所平成31年2月6日の裁決事例は、納税者Aさん(請求人)が父親から相続した住宅に相続後に住民票を移してから、その住宅を売却し3,000万円特別控除を適用して申告したところ、税務署からその住宅に本当に住んでいたとは認められないとして否認、争いとなったものです。

 

ここで、Aさんがその住宅に住んでいた証拠としてチェックを受けたのは次の事項です。

 

①住民票、運転免許証、源泉徴収票の住所
②職場に届出る住所地やその変更手続き
③郵便局への転居届
④電気、ガス、水道の使用量
⑤近隣住民の証言

 

これらがチェックされるのは、「請求人が本件家屋を生活の拠点として利用していたのであれば、その事実を示す何らかの形跡(例えば、引っ越し、通勤、郵便物、近隣商店の使用に係る領収証、町内会費の支払など)が残るのが通常である」(同裁決)という考えからです。

 

また、この事案では、売却に際して不動産仲介会社に依頼をしており、譲渡対象の住宅のカギを引き渡していた点や、不動産の広告に現況についての記載が「空き家」だった点がチェックされていました。

 

同裁決では、①住民票、運転免許証は対象の住宅の住所地だったが、源泉徴収票の住所は転居前のまま、②職場へ住所変更の手続きの書面を出したが、引っ越し完了連絡がなかったためいったん預かりとなっていたこと、③郵便局への転居届はなく、④電気水道ガスの使用料はほぼなかったこと、⑤近隣住民からは「請求人が本件家屋で生活していたのを見かけたことはない」旨申述があったことから、「生活の拠点として利用していたとは認められない」として3,000万円特別控除の適用を否認した税務署の処分を支持しています。

 

 

3.介護施設への入所と居住地


ケガなどにより介護を必要とする生活となったため、自宅にいられなくなった人が、相続開始直前、その住宅を売却したケースで、3,000万円特別控除の適否が争われた事例があります(国税不服審判所平成31年1月18日)。

 

「居住用家屋」の範囲については、転勤、転地療養等の事情のため、配偶者等と離れ単身で他に起居している場合であっても、その事情が解消したときはその配偶者等と起居を共にすることとなると認められるときは、その配偶者等が居住の用に供している家屋(措法通31の3-2⑴)も含まれるとされています。

 

これを下敷きにしたと見られる相続人(請求人)が住宅を売却した平成26年の前、平成17年から被相続人が施設へ入居していたが、その住宅に戻る意思があったから「居住用」と主張しました。しかし国税不服審判所はこの事例でも電気、ガス、水道の使用量、自治会費の支払い等もチェックし、生活の実態が認められないことから「居住用家屋とは、真に居住の意思をもって客観的にもある程度の期間継続して生活の拠点としていた家屋をいうのであり、治療終了後に家屋に戻る意思の有無のみによって判断されるものではない」とし請求を棄却しています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/02/03)より転載