[解説ニュース]

区分所有建物の敷地への小規模宅地特例の適用巡り争いになった裁決事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

1、はじめに


父親が建てた1棟の区分所有建物で、1階に子供夫婦が住み、2階にその親夫婦が住んでいたケースにおいて、父親が亡くなって開始した相続で、子が相続した建物1階部分の敷地権につき、「小規模宅地等の特例」の適用をめぐり争われた裁決事例が出てきました(国税不服審判所、令和3年6月21日、請求棄却)。

 

平成25年度税制改正で、1棟の建物なら、小規模宅地等の特例の適用対象となる被相続人の居住していた宅地には被相続人の親族の居住している宅地も含めるとされましたが、1棟の建物が区分所有建物である敷地については、被相続人の居住している宅地のみに限る、つまり被相続人の居住していた宅地以外の宅地は小規模宅地等の特例の適用対象にならないとする改正が行われています。その改正後、改めて区分所有建物の敷地について小規模宅地等の特例適用の是非が問われた事例といえます。

 

 

2、小規模宅地等の特例


この特例は、被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にする親族)が「事業の用」または「居住の用」に供していた宅地等のうち所定の要件を満たした宅地等について、相続税の課税対象額を最大80%減額する特例です。被相続人等の居住用宅地の場合は現行制度上、その面積の330㎡までに対し80%減額できます(措法69の4)。

 

 

3、事案の概要


裁決書によると、被相続人は、平成13年1月、2階建ての一棟の建物を新築し、区分所有建物である旨の登記をしました。建物はそれぞれ玄関、リビング、寝室、台所、洗面所、風呂場、トイレがあり、建物の内部では1階と2階で行き来することができず、外階段によって行き来する構造でした。相続開始後、母親と子は、それぞれ居住する敷地権について小規模宅地等の特例を適用して申告したところ、税務署から子の相続した敷地権部分について特例適用を否認し、子供ら相続人が最終的に国税不服審判所(以下、審判所という)に審査請求して争いとなったものです。

 

 

4、争点


争点は、①子の住む建物の敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するか。②子は、被相続人と生計を一にしていた親族に該当するか否か。
ここでは争点①について見ていくことにします。

 

 

5、審判所の認定・判断


審判所は①の判断に当たり、特例の適用対象となる「被相続人又は当該被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等」について、相続開始直前において、それらの者が現に居住の用に供していた宅地等に限られるものと解されると考え方を示し、その宅地に当たるかどうかの判断基準は、「基本的には、それらの者が、建物に生活の拠点を置いていたかどうかにより判断すべきものと考えられ、(中略)①それらの者の日常生活の状況、②その建物への入居目的、③その建物の構造及び設備の状況、④生活の拠点となるべき他の建物の有無その他の事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すべき」としました。また区分所有建物について、取扱い(措置法通達69の4-7の3)で区分所有建物である旨の登記がされている建物をいう旨定められていることは、合理的としています。

 

あてはめでは、被相続人が子の住む1階部分にも生活の拠点を置いていたか否かの問題と整理したうえで、次のように認定しています。

 

①日常生活の状況については、各々が現に独立した日常生活を送っていたと認められ、被相続人夫婦が、1階部分において、請求人らと共に生活していた等の事実は認められない。

②被相続人夫婦が2階部分に入居するに当たり、孫の足音を気にすることない生活が出来るなどの事情が認められ、子供らと生活を共にすることも目的としていなかったことがうかがえる。

③設備及び構造の状況については、それぞれの区分ごとに独立して日常生活を送ることのできる構造であったと認められる。

④被相続人の生活の拠点となる建物については、問題の建物以外にはなかった。

 

 

 

審判所は「これらの事実を総合勘案して、社会通念に照らして客観的に判断すると、被相続人夫婦は、1階部分に生活の拠点を置いていたと認めることはできず、敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に該当するとは認められない」と判断しています。

 

また問題の建物は「一棟の建物と認められるものの、「区分所有建物」に該当することから、問題の敷地権は、被相続人の居住の用に供されていた部分に含めることはできないと判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/11/22)より転載

[解説ニュース]

相続税の債務控除の対象とされる債務の範囲

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.控除対象とされる「確実と認められる債務」とは


(1)相続税の債務控除

相続税は相続財産の課税価格を基に計算されますが、この課税価格の計算上、「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの」等が控除されます(相続税法13条第1項1号外)。この場合、相続税の課税価格の計算上控除されるべき債務は、「確実と認められるものに限る。」(同法14条1項)とされています。

 

(2)法令通達上の「確実と認められる債務」の基準

相続税法14条の「確実と認められる債務」については、法令通達上、その「確実」性をどのようにして判断するかの基準が明確ではありません。相続税法基本通達14−1は、「債務が確実であるかどうかについては、必ずしも書面の証拠があることを必要としないものとする。なお、債務の金額が確定していなくても当該債務の存在が確実と認められるものについては、相続開始当時の現況によって確実と認められる範囲の金額だけを控除するものとする。」としていますが、具体的な判断基準が示されているわけではありません。そこで次の2と3では、過去の裁判例等から債務の確実性についての具体的な判断基準のありかたについて考えてみます。

 

 

2.債務の確実性についての具体的な判断基準


(1)基本的な考え方

債務控除の対象とされる債務であるためには、まず相続開始時点で、被相続人にその【債務が存在していること】が必要です。債務が存在しているとは、支払い等の財産的な給付をする法的な義務(債務)を生じる契約等が成立・発生している、ということです。次に、債務が【存在】するとしても、次は、【それが「確実」なもの】といえなくてはなりません。その「確実」性の判断の時点は、相続財産の評価が財産の取得の時=相続の時点(の現況)で行われること(相続税法22条)から、同様に相続開始の時の状況で判断されるべきと考えられます。そして、「確実」性の判断に当たっては、債務控除制度の趣旨を確認しておくことが必要です。なぜなら、その趣旨に照らし、「確実」というために求められる確かさのレベルが導き出されると考えられるからです。

 

(2)平成4年2月6日の東京高裁判決における債務控除制度の趣旨

表題の判決では、「確実」性を求める相続税法14条第1項の趣旨を、「相続人ないし相続財産の負担となる債務(消極財産)は、積極財産の価額から控除して正味(純)財産により相続税の課税価格を計算しようとするものだからである。したがって、その存在が確実であっても、保証債務のように、債務の性質上、相続人が履行するとは限らず、必ずしも相続人ないし相続財産の負担とならないものは、原則として、それから除かれるものと解さなければならない。…その債務の存在すること及びその債務の履行されることが証拠上確実と認められるならば、これを『確実と認められるもの』ではないとはいえない…」(二重否定に注意)としています。
上記の判決では、被相続人の正味(純)財産を相続税の課税対象として捉え、それを求めるための控除が債務控除制度(の趣旨)であり、債務が存在していることに加え、その履行が証拠上確実か、により判断されるべきとしていることがわかります。

 

また上記判決では、「相続開始後の状況、特に相続人によって現実に当該債務の履行がされたか否かの点は、相続開始時点において債務の履行が確実と認められるか否かの認定においても斟酌されて然るべき」(太字下線部は筆者)としており、この点についても留意すべきと思います。

 

 

3.事例による債務の確実性についての考え方


例えば、被相続人が生前に自宅の改修工事をリフォーム業者に発注し、契約上、工事完了後に代金を一括して支払う取決めをしたとします。実務上、相続税法14条1項の「確実」は、文字の表す通り、”確定”まで至っていなくてもよいと解されています。したがって、工事完了前に被相続人の相続が開始したときであっても、工事の大半が終了していて契約の取消されることが通常見込まれず、工事完了後に相続人による代金の支払い(債務の履行)が見込まれるのであれば、相続開始時点で被相続人の債務(工事代金の支払債務)は、”確定”には至っていないものの、「確実」であるとは言えると思われます。

 

さらに上記2の下線部の内容を踏まえると、工事代金の支払債務につき、相続税の申告期限までに相続人により債務が引き継がれ、その履行(工事代金の支払い)がされた事実があれば、それはその債務が相続の開始時点において「確実」なものであったことの強い証拠となると思われます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/11/09)より転載

[解説ニュース]

【事例】中小企業オーナーの遺産分割対策としての会社分割の活用法

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■株式交付制度の概要と活用時の留意点

■遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

 

【問】

A氏はB株式会社(B社)の代表取締役として、発行済株式を全部保有しています。B社は甲事業と乙事業を営んでおり、A氏の長男と次男がそれぞれ甲事業、乙事業の責任者として経営に参加しています。A氏の死亡後、長男と次男が揉めないように、B社をどのように承継させたらよいでしょうか。

 

 

【回答】

1.会社分割を活用した対策の概要


現状のまま遺言もなくA氏の相続が開始した場合、B社株式を兄弟でどう分けるかでトラブルになるおそれがあります。また遺産分割協議により、兄弟がそれぞれB社の株式を半分ずつ相続したような場合には、会社の意思決定に支障が出る問題があります。

 

上記の問題点を踏まえれば、A氏が生前にB社を甲事業、乙事業と事業別に二つに分割しておくことが有効な対策となります。具体的には、B社は甲事業を営む会社として存続させる一方で、乙事業を営む会社としてC社を下記2の会社分割により設立(会社法762条以下。以下「新設分割」。)します。生前にそのような対策を実行することにより、A氏の相続開始時には相続財産がB社株式と新設のC社の株式になります。

 

B社株式とC社株式を長男と次男兄弟がそれぞれ相続することで、遺産分割とその後の会社経営にかかるトラブルを未然に防ぐことができます。税務上は、A氏が生前に上記の会社分割を行い、①分割後のB社株式とC社株式を相続開始時まですべて保有する予定で、②他にB社からは何も給付を受けなければ、その他の要件を満たすことにより適格分割となり、課税の問題も生じません(下記2参照)。A氏の相続開始後に、B社を甲事業、乙事業と事業別に分割することは可能ですが、すでに兄弟間でトラブルが顕在化している場合には、会社分割を行うことが手続面も含めて煩雑になります。会社分割による遺産分割対策は、A氏がB社のオーナー経営者であるうちに実行すべきでしょう。

 

2.会社分割を実行した場合の税務上の取扱い


会社分割とは、株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により他の会社に承継させることをいいます(会社法2条29号、30号)。この場合の「他の会社」には、既存の会社のときと新設会社のときとがありますが、本稿では新たに会社を設立する「新設分割」を想定します。新設分割にかかる税務上の取扱いをまとめると、次のとおりになります。

(1)分割した場合の株主A氏の課税(所得税)

分割により新設されるC社が、A氏に対してC社株式以外の資産を交付しなければ、法人税法上の「適格分割型分割」に該当します。適格分割型分割に該当する場合のA氏の課税関係は次の通りです。

 

①C社株式に関してみなし配当は生じません(所得税法25条第1項2号)。
②A氏の側から見ると、実態として会社分割の前後でB社株式の価値の一部がC社株式に変わった(移転した)だけであると考えられます。したがって、この分割によりB社株式からC社株式へ移転した株式の価値については、B社株式の取得価額の一部をC社株式の取得価額に付替える計算のみを行い、譲渡所得課税は行いません(所得税法施行令113条・租税特別措置法37条の10第3項2号かっこ書)。

(2)B社とC社の課税(法人税)

適格分割型分割を行った場合には、B社の乙事業に係る資産および負債を適格分割直前の簿価でC社に引き継ぎます(法人税法62条の2)。よって、B社において乙事業の分割に伴う資産負債の譲渡損益は認識せず、B社とC社に課税関係は生じません。

 

3.会社分割の実行による相続税への影響


会社分割を行うことにより、A氏に係る相続税の計算上、会社分割前のB社株式の相続税評価額に比べ、分割後のB社株式とC社株式の相続税評価額の合計額が大きくなる場合があるので注意が必要です。

 

例えば、会社分割後3年以内にオーナー経営者に相続が発生した場合、C社株式の純資産価額の計算上、C社がその土地や家屋の取得(=会社分割)後3年以内にA氏の相続が発生したことになるので、その土地や家屋は相続税評価額ではなく通常の取引価額で評価されることになります(財産評価基本通達185)。路線価や固定資産税評価額に基づく相続税評価に比べて、通常の取引価額に基づく評価の方が、相続税評価額は通常高くなります。また、この場合のC社株式は、開業後3年未満の会社の株式となるので、純資産価額方式のみによる評価となり、一般的に相続税評価額の低くなる類似業種比準価額による評価はできません(同189-4)。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/10/25)より転載

[解説ニュース]

株式交付制度の概要と活用時の留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(吉濱 康倫/税理士)

 

 

[関連解説]

■円滑な事業承継のための種類株式の活用

■法人税法132条の2・・・組織再編成に係る行為・計算の一般的否認規定・・・の及ぶ範囲

 

 

 

1.はじめに


令和3年3月1日から改正会社法が施行され、株式交付制度が創設されました。この制度によって自社株式を対価とするM&Aへの活用が期待されています。中小企業における組織再編においても適用の可能性が考えられることから、今回その概要と活用にあたっての留意点等をご説明いたします。

 

2.概要


株式交付制度は、「株式会社(以下、A社)が他の株式会社(以下、B社)をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第七百七十四条の三第二項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう(会法2三十二の二)。」と定義されています。

 

子会社化する制度で類似するものとして株式交換(会法2三十一)や、現物出資(会法207)があります。しかし、株式交換は完全子会社化する制度であり、株主の意向(B社株主の中にA社株主になってほしくない者がいる、A社株式ではなくB社株式を持ち続けたい等)により完全子会社化を望まない場合には適用ができません。また、現物出資は現物出資規制(検査役の調査が原則必要)(会法207➀)や有利発行規制(有利発行の場合に株主総会特別決議が必要)(会法199②、309②五)など手続きが煩雑であるというデメリットがあります。

 

3.税務上の取扱い


①株主における譲渡損益の繰延

B社の株主が、株式交付によりB社株式をA社に譲渡し、A社株式の交付を受けた場合(A社株式の価額が交付を受けた金銭及び金銭以外の資産の価額の合計額のうちに占める割合が80%以上の場合に限ります)、その譲渡したB社株式の譲渡損益は繰り延べられます(措法37の13の3①,66の2の2①)。

 

この場合において、A社株式以外の資産の交付を受けたときは、A社株式に対応する部分のみ譲渡損益が繰り延べられます(措法37の13の3①,66の2の2①)。

 

B社株主が対価として取得したA社株式の取得価額は原則として、譲渡したB社株式の取得価額を引き継ぎます(措令25の12の3④、39の10の3③一)。

 

 

②A社におけるB社株式の取得価額

A社におけるB社株式の取得価額は、B社株式を取得する株主数に応じて以下の通りです(措令39の10の3④一)。

 

一、50人未満の株主から取得した場合:
当該株主が有していた当該株式の当該取得の直前における帳簿価額に相当する金額

 

二、50人以上の株主から取得した場合:
当該株式交付子会社の前期期末時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額に相当する金額に当該株式交付子会社の当該取得の日における発行済株式の総数のうちに当該取得をした当該株式交付子会社の株式の数の占める割合を乗ずる方法その他財務省令で定める方法により計算した金額

 

4.留意点


株式交付は、株式会社が他の「株式会社」を子会社にする制度であることから、持分会社や外国会社は対象になりません(会法774の3①一)。

 

また、子会社でない株式会社を「子会社にする」制度のため、既に子会社である会社の株式を追加取得する場合や取得後に子会社にならない場合には適用できません。加えてこの場合の子会社は議決権割合50%超の子会社に限定(実質支配力基準による子会社化は対象外)されているため注意が必要です(会規3③一、4の2)。

 

5.必要な手続き


株式交付制度を利用する場合、A社において以下の手続きを取る必要があります。詳細は紙面の都合により割愛致します。

 

①株式交付計画の作成(会法774の2)
②事前開示手続(会法816の2)
③株式譲渡の申込み及び割当て(会法774の4、5)
④株主総会決議による承認(会法816の3)
⑤反対株主の株式買取請求(会法816の6)。
⑥債権者異議手続(会法816の8、会規213の7)。
⑦事後開示手続(会法816の10)。

 

6.まとめ


株式交付は自社株対価M&Aだけでなく、B社に同族株主以外の第三者(集約困難な他の親族や事業上の取引先など)がいた場合に比較的簡単な手続きにより同族株主のみを株主とする資産管理会社A社(株主に第三者が入らず、第三者はB社株式を保有し続けられる)を構築するなども可能と考えられます。株式交付は新しい制度であり実務事例が少ないことから、活用を検討される際は弊社担当税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/10/12)より転載

[解説ニュース]

持分の定めのない法人への預金移転で贈与税が問題になった事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

■公益社団法人等へ財産を贈与した場合の譲渡所得の非課税の特例・・・株式を贈与する場合

 

1.持ち分の定めのない法人への贈与と課税問題


持ち分の定めのない法人へ財産を贈与又は遺贈をして、その贈与等をした人の親族等の贈与税又は相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められる場合、その法人を個人と見なして、贈与税又は相続税を課税する規定があります(相法66④)。これは平成20年度税制改正で、一般社団法人等を用いた租税回避に対する防止策として改めて整備されたものです。

 

ポイントは、一定の基準を全て満たし、その贈与等をした人の親族等の贈与税又は相続税の負担を不当に減少させる結果になると認められないとされるかどうかです(相令33③)。

 

今回は、この規定の適用を巡って争われた、つい最近の裁決事例を紹介します。

 

2.令和3年5月20日裁決


事案は、ある宗教法人を舞台としたものです。問題になった行為は、前住職(故人)が生前、平成27年に宗教法人の口座に3千万円を超える預金を移動させたこと。相続人に対する相続開始前3年内の贈与財産なら相続税の計算上加算されますが、国税当局は、上記行為につき住職の親族の相続税の負担を不当に減少させる結果になるとして、宗教法人を個人と見なして贈与税を課税しました。宗教法人はこれについて、「贈与」ではないとして審査請求に至り、最終的には国税不服審判所(以下、審判所という。)が贈与税の課税を全部取消したという事案です。争点は次の通りです。

 

⑴問題の資金移動は、前住職(故人)から請求人(宗教法人)への財産の贈与に該当するか否か(相法66④に規定する財産の贈与の有無(争点1))。
⑵問題の資金移動により相法66④に規定する相続税の負担が不当に減少する結果となると認められるか否か(争点2)。

 

3.審判所における贈与の認定・判断


争点1について、不服を申立てた宗教法人側では、前住職名義の口座にあったお金は、宗教法人の余剰金などを原資とするものが大半で、もともと宗教法人のものなどと主張していました。しかし審判所は、前住職の口座にあった金融資産の原資が宗教法人の収入であることをうかがわせる事情は見当たらないなどとして、その帰属は前住職にあるとしました。これを受けて、お金の宗教法人の口座への移動により、宗教法人に経済的利益が生じているから、移動したお金は「贈与により取得したものとみなされる」と判断しました。

 

4.審判所における不当減少の認定・判断


次に争点2についてです。審判所は、「贈与者の親族等の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるかどうかは、(中略)その時点において、その法人の社会的地位、寄附行為、定款等の定め、役員の構成、収入支出の経理及び財産管理の状況等からみて、財産の提供者等ないしはその特別関係者が、当該法人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実があるかによって判断すべき」と判断基準を示しました。

 

そして審判所は、具体的には相令33③を基に、①法人運営が適正であるかどうか(定款等に法人の役員等に占める親族関係者等の割合が3分の1以下にする旨の定めがあるかどうか)、②法人に贈与した者や役員等又はその親族などに特別の利益を与えないかどうか、③定款等に残余財産の帰属先について国等とする旨の定めがあるかどうか、④法令順守しているかどうか…をチェックしました。

 

まず①については、この宗教法人の寺院規則に役員等に占める親族関係者等の割合が3分の1以下にする旨の定めはないとしつつも、②については、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたり、私的に財産を費消・使用したと認められないこと、③残余財産について、国等その他の公益を目的とする事業を行う法人に帰属する旨の定めはないが、この宗教法人の寺院規則では「法人の解散には、責任役員の定数の全員及び総代並びに門徒の3分の2以上の同意を得た上、管長の承認及び県知事の認証を受付けなければならない旨定めており、前住職らの意思のみで恣意的に解散等を行うことは事実上、困難と認められる」ことを指摘しました。結論として審判所は「前住職らが、請求人の業務、財産の運用及び解散した場合の財産の帰属等を実質上私的に支配している事実は認められない。したがって、本件各資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職(故人)の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない」として贈与税の課税を取り消しています。弾力的な制度運用もありうるといっていいのでしょうか。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/09/24)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】合同会社の社員が死亡した場合の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■法人が匿名組合契約により営業者に金銭出資している場合の出資金の相続税評価

■持分の定めのある社団医療法人の解散と課税関係

 

【Q】

合同会社の社員であった父が死亡しました。父に遺言はありません。相続人は、母と私の2人であり、母に相続放棄をする予定はありません。

 

〔問1〕父の社員としての地位を私だけが承継するには、母と私で遺産分割協議をすればよいですか?
〔問2〕相続税の計算上、合同会社の出資はどのように評価しますか?

 

 

【A】

〔問1〕について


まずは、定款に、社員が死亡した場合の持分の承継に関する定めがないかどうか確認してください。

 

① 定款に定めがない場合
合同会社の社員は死亡によって退社し、その地位は、原則として、相続人へ承継されないため、遺産分割協議の対象とはなりません(会社法607①三)。あなたが社員になりたいのであれば、今回の相続とは関係なく、定款の定めに従って入社の手続をする必要があります。

 

② 定款に定めがある場合
定款に「死亡した社員の相続人がその社員の持分を承継する」旨の定め(以下「別段の定め」)がある場合には、相続人にその地位が承継されます(会社法608①)。しかし、この場合も遺言がないということですので、仮に定款に別段の定めがあったとしても、共同相続人であるお母様とあなたとが相続分に応じてその地位を承継することとなり、遺産分割協議によって、あなたのみを社員にするということはできないと考えられます(青山修『持分会社の登記実務〔補訂版〕』(民事法研究会)121・122頁)。いったんお母様も社員となった上で、お母様は任意退社又は持分譲渡をする必要があると考えられます。

 

 

 

〔問2〕について


社員が死亡した場合の地位の承継に関して定款に別段の定めがない場合には、その社員の出資持分は「払戻請求権」として評価します(会社法611①)。

 

また、定款に別段の定めがあり、相続人が持分を承継する場合には、「出資」として、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価します(財基通178~193、194)。

 

 

【解説】

(1) 合同会社の社員とは

合同会社は、1又は2以上の個人又は法人の出資により設立されます(会社法578)。この出資者のことを「社員」と呼びます(ここでいう「社員」は、従業員という意味合いではありません)。そして、出資者である社員は、原則として、経営者でもあるというのが合同会社の特徴です(会社法590)。

 

(2) 死亡した社員の出資持分の取扱い

① 原則
社員が死亡した場合に、もしその相続人その他の一般承継人(以下「相続人等」)が当然にその死亡した社員の地位を承継できるとなると、他の社員にとって望まない者が新たに社員として加わる可能性がでてきます。そこで、会社法上、社員の死亡は法定退社事由とされており、その地位は、原則として相続人等に承継されることはありません。この場合、その相続人等は、出資持分の払戻しを受けることになります(会社法611①)。

 

この払戻請求権は、いったん被相続人に帰属した後に、相続財産として相続人に承継されると解釈されています(神戸地判平成4年12月25日税務訴訟資料193号1189頁)。すなわち、その払戻金額がその法人の資本金等の額のうちその死亡した社員の出資持分に対応する部分の金額を超えるときは、その超える部分の金額は被相続人に対する配当とみなされ、所得税が源泉徴収されて、被相続人の所得税の課税対象となった上で、払戻請求権は相続税の課税対象になると考えられます(所法25①四)。

 

このように出資持分の払戻しを受ける場合の払戻請求権の相続税評価額は、「退社した社員と持分会社との間の計算は、退社の時における持分会社の財産の状況に従ってしなければならない。」(会社法611②)とされていることから、評価すべき持分会社の課税時期における各資産を財産評価基本通達の定めにより評価した価額の合計額から課税時期における各負債の合計額を控除した金額に、持分を乗じて計算した金額となります(国税庁質疑応答事例)。

 

 

② 例外
一方、死亡した社員の地位を相続人等へ承継させたいという場合もあります。そのような場合には、定款に別段の定めをしておくことで、社員が死亡して退社したとしても、その地位を相続人等へ承継させることができます。この場合、その相続人等は、出資の払戻しは受けず、被相続人の出資持分を承継します(会社法611①)。
なお、相続人の中でも特定の相続人に社員の地位を承継させたい場合には、定款において別段の定めをするとともに、社員が遺言で特定の相続人に自己の持分の全部又は一部を承継する旨を定めておく必要があると考えられます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/09/13)より転載

[解説ニュース]

貸家と敷地を所有する親が子に貸家を贈与し、敷地を使用貸借で貸付け後に死亡した場合の敷地の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

 

1.貸家建付地の相続税法上の評価


土地付き建物の所有者が建物を他に貸付けている場合、その建物の敷地を「貸家建付地」といいます。貸家の借家人には建物敷地の利用権があり、所有者もその敷地の処分や利用が制限されます。よって貸家建付地を相続により取得した場合は、相続税計算上、土地所有者の自己使用地(自用地)としての評価額から借家人の有する敷地利用権相当額(=自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)を控除して評価をします(財産評価基本通達通26)。

 

 

2.使用貸借により土地を貸していた個人に相続が発生した場合の、その土地の相続税法上の評価の原則


使用貸借に係る土地を相続により取得した場合、その土地に係る相続税法上の評価額は、自用地としての価額となります(使用貸借通達3)。

 

建物の所有を目的として使用貸借により土地を借受けた場合の借主の使用権は、借地借家法が適用されず、借主には賃貸借による賃借権などの借地権とは違い、強い法的保護がなく、貸主は、その求めにより、いつでも無償で土地の返還を受けられます。よって、使用貸借に係る土地の使用権の経済的価値は極めて低いと考えられ、その相続税評価額はゼロとされます。つまり、使用貸借に係る土地の貸主側のその土地の相続税法上の評価は、【自用地の価額-使用貸借の使用権の価額(=0)】により、自用地としての評価となります。

 

 

3.貸家とその敷地を所有する親が、子に貸家を贈与し、その敷地を使用貸借により貸し付け後に親が死亡した場合の敷地の相続税評価


(1)原則的な考え方

貸家とその貸家の敷地を所有する親が、貸家のみを子に贈与し、その敷地を子に使用貸借により貸付けている場合、貸家贈与後のその貸家敷地の相続税法上の評価の原則的な考え方は、前述2と同様に、自用地評価となります。自用地として評価する理由につき、使用貸借通達3の取扱いを解説した「令和2年11月改訂版相続税法基本通達逐条解説」(以下「逐条解説」)867頁は次のように述べています。「…すなわち、一般に、使用貸借により借り受けた土地の上に建物が建築され、その建物が賃貸借により貸し付けられている場合における、その建物賃借人の敷地利用権は、建物所有者(土地使用借権者)の敷地利用権から独立したものではなく、建物所有者の敷地利用権に従属し、その範囲内において行使されるにすぎないものと解されている。したがって、土地の使用借権者である建物の所有者敷地利用権の価額をゼロとして取り扱うこととした以上、その建物賃借人の有する敷地利用権についてもゼロとして取り扱うことは当然であり、また、その土地自体の価額も自用であるとした場合の価額によるべきと考えられるからである。」

 

(2)貸家に係る賃貸借契約が贈与前に既に締結されており、贈与後から敷地の相続による取得の時までその契約が継続している場合の貸家の敷地の評価

表題の場合、その貸家の敷地の相続税法上の評価は、次の理由により貸家建付地としての評価とされます(参考:「逐条解説」867頁~868頁)。

 

貸家の贈与前は、貸家の所有者である親がその敷地の所有者でもあり、貸家の所有者である親と貸家の借家人との間で締結された賃貸借契約に基づき、貸家の借家人は貸家を通じてその敷地利用権を有しています。その敷地利用権は敷地の所有権に対するものであり、判例(最判昭和38年2月21日民集17巻1号219頁、最判昭和41年5月19日民集20巻・989頁参照)において、貸家借家人の有する敷地利用権は、貸家が第三者に譲渡された場合でも侵害されないとしています。つまり、借家人の権利の保護の観点から、その貸家の譲渡(贈与や相続による所有権の移転も含むと解されます)により、貸家自体の土地に対する利用権が使用貸借となっても、借家人の従前の敷地の所有権に対する敷地利用権が、敷地の使用貸借による利用権(ゼロ評価)に対する敷地利用権に変わることはないということです。

 

表題の場合の貸家の借家人は、相続で新たにその貸家の敷地の所有者が変わっても、それより前の贈与の前に取得している貸家の敷地に対する利用権は侵害されることなく有しているため、その敷地は、相続で誰に取得されても、引き続きその処分や利用が、その利用権により直接制限されるため、表題の場合の貸家敷地の評価額は、自用地としての評価額から貸家建付地と同等の減額を行うのが当然といえます。以上により、表題の場合の貸家の敷地の相続税法上の評価は、前述 (1)にかかわらず、貸家建付地としての評価とされます。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/07/26)より転載

[解説ニュース]

【Q&A】2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の取得費の計算

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

 

 

【問】

Aさんは、令和3年6月に保有するB社株式(上場株式)4,000株のうち1,000株を、証券市場において1株1,000円で譲渡しました。

 

Aさんは、平成25年に1株600円で1,000株(600,000円)のB社株式を証券市場で購入後、平成30年に亡父より同じB社株式3,000株を相続しています。なおAさんの父は、平成26年にそのB社株式を1株500円(1,500,000円)で、証券市場より購入しています。

 

AさんのB社株式に係る譲渡所得金額の計算上、控除する取得費の額は、平成25年に購入時の対価600,000円でよいのでしょうか。

 

 

【回答】

1.結論


ご質問のB社株式の取得費の額は、下記2(3)の通り、Aさんが亡父から相続により取得した3,000株につき亡父の取得価額を引き継いだうえで、「総平均法に準ずる方法」により計算され、525,000円(1株525円)となります。

 

2.解説


(1)相続により取得した株式の取得価額

個人が相続又は遺贈により取得した譲渡所得の基因となる資産(例えば株式)は、原則、被相続人がその財産を取得した時から引き続きその個人が所有していたものとみなされます(所得税法60条1項1号)。したがって、Aさんが平成30年に相続により取得したB社株式の取得価額は、亡父の取得時期(平成26年)と取得価額(500円×3,000株=1,500,000円)を引き継ぐことになります。

 

(2)2回以上にわたって取得した同一銘柄の株式の取得費の計算

(1)よりAさんは、B社株式を平成25年に1株600円で1,000株、平成26年に1株500円で3,000株取得し、これらの株式のうち1,000株を令和3年に譲渡したことになります。このようにAさんは、父から相続により取得したB社株式と自ら購入したB社株式が混ざってしまい、どちらの株式を譲渡したのかはっきりしないことから、その株式に係る譲渡所得の取得費(=B社株式の取得価額)の計算方法が問題となります。

 

Aさんのように2回以上にわたって株式を取得した後、その一部を譲渡した場合、その株式に係る譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額は、所得税法施行令118条1項に規定する「総平均法に準ずる方法」により計算します(所得税基本通達33-6の4(注)2)。

 

この場合の「総平均法に準ずる方法」とは、譲渡の都度、直前の譲渡の時からその譲渡の時までの期間を基礎として下記の算式により計算を行う方法をいいます。

 

(算式)

(①譲渡の年1月1日に所有していたその株式の取得価額+②譲渡の年の譲渡日までに取得したその株式の取得価額)÷(①の株式数+②の株式数)=その譲渡株式の譲渡時の1株当たりの取得価額

(3)Aさんに係るB社株式の取得費の額の計算

(600円×1,000株+500円×3,000株)÷4,000株=525円  525円×1,000株=525,000円

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/28)より転載

[解説ニュース]

iDeCo(個人型確定拠出年金) ~節税効果を解説~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田 房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

■令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

1. はじめに


iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、個人で任意に加入できる私的年金制度です。コロナ禍でも堅調にその加入者数を増やしており、加入者数は過去5年間で約7.5倍に増加しています。老後生活資金の不安を懸念する声が聞かれる昨今ですが、iDeCoをうまく活用すれば、税制優遇措置の恩恵を受けつつ老後の生活資金を効率よく蓄えられる可能性があります。

 

本稿では、iDeCo最大のメリットとも言われる税制優遇措置を中心に、具体例を用いて解説します。

 

 

 

2.制度概要


(1)掛金の拠出・商品の運用

加入者※1が、運営管理機関※2や運用商品※3を選び、掛金※4を拠出します。運用益(利息や分配金等)は再投資に充てられ、資産は原則として60歳になるまで引き出すことができません。

 

※1 企業型確定拠出年金の加入者等は加入できない場合がある。ただし、2022年10月からはほぼ誰でも利用できるように制度改正が予定されている。
※2 iDeCoを取り扱う証券会社や銀行等の金融機関のこと。本稿執筆日現在、約160社あり、その中から1社だけ選ぶ。運営管理機関によってサービスや手数料が異なる。
※3 各社、3~35銘柄程度の厳選された商品(「元本確保型」の商品(定期預金・保険)と「元本変動型」の商品(投資信託))がある。運用商品によって信託報酬が異なる。
※4 拠出額には上限がある。例えば、自営業者は月額6.8万円、企業年金のない会社に勤務する会社員や専業主婦(夫)は月額2.3万円、公務員は月額1.2万円が上限。

 

(2)老齢給付金の受給

原則として60歳以降に、その運用結果に基づいた老齢給付金を一時金又は年金(分割)で受け取ります。

 

 

 

3.個人の税務上の取扱い(所得税・住民税)


(1)掛金の拠出時

加入者が拠出する掛金は、所得税・住民税の計算上、全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。すなわち、拠出期間にわたり、毎年「その年の拠出額×税率※」相当額の節税効果があります。

 

※所得税は課税所得金額に応じて5~45%、住民税は10%。

 

(2)商品の運用時

金融商品の運用益は、通常は所得税及び住民税の課税対象(多くは源泉分離課税20%※)ですが、iDeCoの運用商品から生じた運用益は、非課税となります。すなわち、運用期間にわたり、毎年「その年の運用益×20%」相当額の節税効果があります。

 

※ 2037年までは復興特別所得税も課税されるため20.315%。

 

(3)老齢給付金の受給時

①一時金で受給する場合
次の算式により計算した金額が、退職所得として、他の所得とは分離して課税されます。

 

退職所得の金額 =(勤務先からの退職一時金等の額 + iDeCoの一時金の額- 退職所得控除額)× 1/2

 

②年金で受給する場合
次の算式により計算した金額が、雑所得として、課税されます。 

雑所得の金額 = 公的年金等の年金額 + iDeCoの年金額 - 公的年金等控除額

 

 

 

4. 具体例


(1)前提

30歳の会社員が30年間、毎月2万円の掛金をiDeCoに拠出し、年利3%で運用できたとします。

 

(2)運用結果・節税効果(1万円未満切捨てにて表示)

上記(1)の前提に基づく、60歳の時点での運用資産総額は約1,168万円(元本約720万円+運用益約448万円)、節税効果は次のとおりです。

 

※課税所得金額に応じた所得税の適用税率は20%とし、復興特別所得税及び老齢給付金の受給時は考慮外とします。

 

(3) iDeCoの活用有無による財産額の差

毎月2万円を30年間運用する場合、iDeCoの活用の有無により、財産額に次のような差が生じます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/14)より転載

[解説ニュース]

不動産所得の計算で争いになった最近の事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.国外不動産の減価償却費


不動産は土地建物まとめていくらという形で契約して売買することがあります。この場合、土地・建物の価額を合理的に按分してそれぞれの取得価額を求めることになります。たとえば、消費税から建物の価額を逆算する方法、土地と建物の固定資産税評価額の価額比で按分する方法が代表的です。

 

もっとも建物の取得価額が多くなるように操作することで、買主側では減価償却費を多く計上することを考える人もいます。この問題は納税者と国税当局の間でしばしば、争いの種になってきたところです。

 

国内の納税者が、アメリカの賃貸用コンドミニアムを土地建物を一括で買って、建物の取得費を購入にかかった金額の80%として減価償却をしたところ、税務当局から否認された事例があります(国税不服審判所、令和2年6月4日裁決)。

 

この納税者は、投資するにあたり、斡旋業者が紹介したパンフレットなどに米州の相場では土地は金額の20%程度、建物は80%程度となるのが一般的と記載されていたことから、これを基に減価償却費の計算の基になる建物の金額を按分したのです。

 

しかし、国税当局はアメリカでの不動産税(固定資産税)の査定価額を基に按分するのが合理的として、納税者の建物価額が高すぎる結果、減価償却費も過大だとして否認しました。国税不服審判所はこの処分を支持しています。

 

 

2.固定資産税の還付金


固定資産税・都市計画税(以下、固定資産税等という)の土地等の評価額に誤りが見つかると、還付金をもらうことがあります。この場合、還付金をどのように扱うか問題になります(国税不服審判所、平成30年2月13日)。

 

土地の貸付けで不動産所得を得ていたAさんは、平成8年度から平成27年度分までの固定資産税等について、同年9月、評価誤りを見付け地方税務当局に評価誤りを訂正迫り、過誤納金還付を請求しました。

 

地方税務当局は、評価誤りを訂正し、平成23年度から26年度分の納め過ぎとなっていた固定資産税等と還付加算金併せて約90万円を還付する通知をするとともに、平成8年度から平成22年度の納め過ぎの固定資産税等については、地方税法上還付不能となった場合に対応する「要綱」等に基づき、約420万円を補填金として支払う通知をしました。

 

これを受けてAさんは、平成27年分の所得税の当初申告では還付金・補填金を不動産所得の総収入金額に算入していましたが、平成8年度から平成22年度の補填金は非課税、平成23年度分以後の還付金は平成23年から平成26年のそれぞれの年分の不動産所得の金額の計算上必要経費の金額を減算すべきとして更正の請求をしました。しかし、国税当局はこれを認めなかったことから争いになったものです。

 

Aさんは補填金について「損害賠償金に類するもので、必要経費を補填するための金額ではない」、「平成23年度から平成26年度分の固定資産税等は還付通知を受けたことにより遡って過誤納となった。還付金は本来必要経費に算入できない金額であるのに算入していたから各年分の必要経費を減算すべき」と主張しました。

 

国税不服審判所は、補填金について所得税法9条の非課税規定を受けた所得税法施行令30条に規定する「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金」に類するものに該当すると認定。また、国税不服審判所は施行令30条の括弧書き「これらのものの額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分」の趣旨について、損害賠償金等の額のうち「必要経費に算入される金額を補填するための金額」を控除するのは非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を防ぐためと指摘。

 

そのうえで「平成8年分ないし平成22年分の不動産所得の計算上必要経費に算入した固定資産税等は、必要経費として別建てで計算されており、補填金はそのうち還付不能となった固定資産税等の相当額を補填するものだから非課税から除外される「必要経費に算入される金額を補填するための金額」に該当すると判断しました。

 

平成23年分以後の還付金については、国税不服審判所は「還付金の支払請求権は平成27年の過誤納金還付・充当通知書により確定したものとみるのが相当」として、この金額は平成27年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきもの」と判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/01)より転載

[解説ニュース]

貸家建築のため既存建物を取壊した場合の取壊し損失等に係る所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

 

 

個人が貸家の新築のため、既存の建物を取壊す場合があります。この場合、建物の取壊しにより生じた損失等に係る所得税の取扱いは、その建物が貸家かその個人の自宅であるかにより、以下のようになります。

 

1.貸家を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


(1)貸家について生じた損失の必要経費算入

貸家の取壊しや除却等により生じた損失(以下「資産損失」といいます。)の金額については、その損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。この場合において、貸家の取壊し時における不動産の貸付けが事業的規模であるのか、事業と称するに至らない規模(以下「業務的規模」といいます。)であるかどうかにより、必要経費に算入できる金額が次の通り異なります。

 

①その貸付けが事業的規模の場合
その資産損失及び取壊しに要した費用の全額が必要経費に算入されます(所得税法(所法)51条1項)。不動産所得の金額の計算上、控除しきれなかった損失の額は、給与所得など他の所得の金額との損益通算ができ、青色申告の場合には純損失の繰越控除の適用を受けることができます(同69条、70条)。

 

②その貸付けが業務的規模の場合
その資産損失の額のうち、その取壊し年分の不動産所得の金額(その資産損失を控除する前の金額)を限度として、必要経費に算入されます(所法51条4項)。ただし取壊しに要した費用は資産損失ではないので、その貸付けの規模にかかわらず、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として全額が必要経費に算入できます(同37条)。

 

(2)損失の金額の計算の基礎とされる資産の価額

不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される貸家の資産損失の額は、その貸家の未償却残高を基に計算されます。この場合の未償却残高とは、貸家の取壊し等の日にその貸家の譲渡があったものとみなした場合における、貸家の取得費とされる金額とされます(所法38条1項、2項1号、所法施行令(所令)142条1号)。

 

また、貸家など減価償却資産を年の中途で譲渡した場合、その年分の償却費の取扱いは納税者が譲渡所得の金額の計算上取得費に含めるか、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入するかのいずれかを選択できます(所得税基本通達(所基通)49−54)。この取扱いは、資産損失の金額の計算においても同様に適用されます。

 

したがって、不動産所得の金額の計算上、貸家に係る資産損失の計算の基礎とされる未償却残高は、納税者の選択により、次の①又は②の取扱いとなります。

 

①その貸家に係る償却費を不動産所得の必要経費に算入した場合は、その貸家の取壊し日時点における未償却残高となります。
②①以外の場合は、その貸家の取壊し年の前年12月31日時点における未償却残高となります。

 

(3)「事業的規模」に該当するかどうかの判定基準

前述(2)において、不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断されます。

 

ただし建物の貸付けについて、次のいずれかの基準に当てはまる場合は、原則、事業として行われているものとして取扱われます(所基通26−9)。

 

①貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

 

 

2.自宅を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


自宅として使用していた建物の取壊しは、家事上の資産を任意に処分したものと考えられます。このため、その取壊しが貸家に係る事業又は業務を開始するためであっても、その取壊しによる損失の額及び取壊しに要した費用の額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入できません。

 

また、自宅の取壊しによる損失及び取壊しに要した費用の額は、貸家の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額や、貸家を業務の用に供するために直接要した費用の額に該当しないため、貸家の減価償却計算の基礎とされる取得価額に算入することはできません(所令126条1項2号)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/05/17)より転載

[解説ニュース]

M&Aの株の売却価額と評価額とのかい離で財産評価基本通達6項が適用された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

1.財産評価基本通達6項の適用事案


中小企業のM&Aの目前に中小企業オーナーが亡くなり、相続人が相続直後に亡きオーナーが取りまとめていたM&Aを実行に移し同社株式を売却した事案で、相続人が相続税申告で財産評価基本通達(以下、財基通という。)通りに中小企業の株式を評価した評価額と、M&Aで合意された売却金額との間に「著しいかい離」があるとして税務当局から更正された事案に注目が集まっています。この事案は相続人が審査請求し国税不服審判所で争われました(令和2年7月8日)。今回はこの事案について見ていきます。

2.財産評価基本通達6項とは


相続税の財産評価とは、財産の経済的価値を見積もることです。原則は、相続により取得した財産の時価です。実務では、特に税法で評価の定めがあるもの以外は、国税庁の定めた財基通に基づいて経済的価値を見積もることになっています。これは納税者の申告の際の負担を少なくするため、公平性を担保するためといわれています。たとえば、市街地の宅地の相続税評価の物差しとなる「路線価」も財基達に定められた評価に直結する指標となっていることで、よく知られています。

 

ところが、この財基通6項には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との規定があります。この規定の適用については、平成28事務年度の東京国税局の研修資料で次のような着眼点が示されています。

 

①財基通に定められた評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如していること
②財基通に定められた評価方法のほかに、他の合理的な評価方法が存在すること
③財基通に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しい乘雜が存在すること
④上記③の著しいかい離が生じたことにつき納税者側の行為が介在していること

3.事案の概要


事案の経過は次のとおりです。

 

ア、中小企業オーナーであった被相続人は、平成26年5月に、経営する会社の株式の譲渡に向けて買収会社と協議、基本合意書を締結しました。会社の株式は1株約10万円で譲渡することに合意していました。

 

イ、同年中に被相続人が死亡しました。相続人3人のうち一人が売却する株式の発行会社の代表取締役になる一方、買収交渉を継続し、同年7月に「相続人の一人に全ての株式を集めたうえでその相続人は、全ての株式を買収会社に基本合意書の価格(約10万円)で譲渡しました。相続人らは相続税の申告では財基通に基づき「取引相場のない株式で大会社のもの」として評価し1株約8千円として申告していました。

 

ウ、所轄税務署は、平成30年8月に国税庁長官の指示に基づき評価を行う専門家によるDCF法の評価(約8万円)で更正処分等をしました。この評価の際、買収価格も参考にしたとしています。

4.国税不服審判所の審理


相続人側は、処分を不服として再調査請求を経て国税不服審判所(以下、審判所という)に平成31年1月に審査請求をしました。

 

主な争点は評通6項の適用は違法か否かです(争点はもう一つありますが割愛します)。

審判所は相続税法22条を受けて財基通で評価することに一般的な合理性を認めるとともに「著しく公平を欠くような特別な事情があるときは、個々の財産の態様に応じた適正な「時価」の評価方法によるべきであり、評価通達6はこのような趣旨に基づくもの」としました。これを受けた具体的な検討では次のような指摘をしています。

 

①1株当たりの価額で比較すると、申告時の評価額は専門家のDCF法の評価の約10%にとどまり、譲渡価格等の約8%にとどまること。
②譲渡契約等について、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価額で合意が行われた旨をうかがわせる事情等は見当たらない。
③譲渡される会社は、清算を予定しておらず、株主価値の算定方法としてDC F法を採用したことは相当。

 

審判所は、こうしたことから財基通に基づく評価額はDCF法による評価額や株式譲渡価格等と著しくかい離しており、「租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、財基通の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情がある」と結論づけています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/04/26)より転載

[解説ニュース]

同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

■相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

 

1.はじめに


相続又は遺贈(「相続等」)により非上場株式を取得した個人がその株式を発行した会社(評価会社)の同族株主に該当する場合、その株式の相続税評価額は常に原則的評価方式により評価すると考えがちです。

しかし、同族株主である個人が有する議決権割合によっては、その相続等により取得した株式を特例的評価方式により評価する場合もありえます。

 

2.同族株主のいる非上場会社で、同族株主グループに属する個人が相続等により取得したその会社の株式の相続税評価


「同族株主」とは、原則、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその親族等の「同族関係者」の所有議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主及びその同族関係者(以下、両者をあわせて「同族株主グループ」という。)をいいます(財産評価基本通達188(1))。

同族株主グループに属する個人株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価方式は、その取得後の議決権割合(その株主の有する議決権数÷評価会社の議決権総数)に応じ、次のとおりとなります(財産評価基本通達178・188)。

 

(1)その議決権割合が5%以上の同族株主の株式原則的評価方式により評価します。

 

(2)その議決権割合が5%未満の同族株主の株式

 

①評価会社に中心的な同族株主がいない場合は、原則的評価方式により評価します。

 

②評価会社に中心的な同族株主がいる場合は、その同族株主が次のいずれに当たるかに応じ、それぞれに掲げる方式で評価します。
イ.中心的な同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ロ.課税時期において評価会社の役員である同族株主または課税時期の翌日から法定申告期限までの間に評価会社の役員となる同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ハ.イ及びロ以外の同族株主が取得した株式は、特例的評価方式により評価します。

 

③「中心的な同族株主」とは、同族株主のいる会社の株主で、課税時期において次のイ〜ハの株主グループの有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の25%以上である場合における、その株主をいいます(財産評価基本通達188(2))。
イ.同族株主の1人
ロ.イの株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族
ハ.イ及びロの者の同族関係者である会社のうち、イ及びロの者が有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である会社

 

3.事例による非上場株式の相続税評価方式の判定


非上場会社の㈱Y(議決権総数10,000個)の代表取締役の甲が死亡し、その遺言により甲所有の㈱Yの株式を、甲の長男Aと孫C(次男Bの子)が取得しました。これにより長男Aの有する㈱Yの議決権数は9,600個、孫Cの有する議決権数は400個となりました(甲に係る相続税の申告期限において、Aは㈱Yの役員ですが、Cは役員ではありません)。この場合、AとCが取得した㈱Y株式の相続税評価は、次のとおりとなります。

 

(1)長男Aの取得した株式の評価方式

Aは㈱Yの議決権総数の96%を有する同族株主です。したがって、Aが取得した㈱Yの株式の評価方式は前述2(1)より、原則的評価方式となります。

 

(2)孫Cの取得した株式の評価方式

Aは中心的な同族株主となり、㈱Yは中心的な同族株主のいる会社となります。これに対し、Cは同族関係者(叔父)であるAとあわせて㈱Yの議決権をすべて有するので、同族株主に該当します。Cについて中心的な同族株主の判定を行うと、Cが有する㈱Yの議決権数は議決権総数の4%(25%未満)、C以外の㈱Yの株主は叔父のAのみであり、株主のなかにCの配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族はいません。よってCは中心的な同族株主には該当しません。また、Cの有する㈱Yの議決権数は議決権総数の5%未満であり、かつCは甲に係る相続税の申告期限までに㈱Yの役員となるわけでもありません。したがって、Cが取得した㈱Yの株式の評価方式は、前述2(2)②ハより、特例的評価方式となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/4/12)より転載

[解説ニュース]

地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

■住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

 

1.はじめに


不動産価格が下落局面になると、活用が期待される住宅税制があります。
その税制とは、「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5)(以下、この特例という。)」です。

 

この特例は、バブル崩壊以降、不動産の値下がりによって含み損を抱えたマイホーム所有者の「損切り」を推し進めることで、住宅買い換えの後押しを狙いとして登場しました。

 

制度の仕組みは、マイホームを売却して出た損失額がある場合、給与所得などと損益通算でき、損失額が給与所得などを上回り、その年の所得が赤字になった場合、赤字を翌年以降3年間繰り越すというものです。

 

主な適用の要件は、次の通りです。

1.売却する年の1月1日時点で住宅の保有期間が5年超

2.売却する年の前年1月から売却した年の翌年末までに新たな住宅に買い換えて居住すること

3.買換え先の住宅の床面積は50㎡以上

4.買い換えにあたっても償還期間10年以上ローンがあり、特例を適用する年の末日に残高があること

 

2.最新の基準地価動向は下落に転じる


昨年公表された7月1日時点の都道府県地価調査によると、三大都市圏では住宅地は平成25年以来7年ぶりに下落に転じたほか、地方圏では住宅地の平均変動率は▲0.9%と下落を継続し、下落幅が拡大(ただし地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の平均変動率は3.6%と8年連続の上昇)とシテイます。地価Lookレポートなどによると、最近の地価動向でも新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、年率20%以上の下げを記録しており大阪市中央区道頓堀など路線価の減額補正を必要とする地域も出てきています。このため住宅価格そのものの動向への悪影響も少なからずあるのではないかと懸念が出てきました。3月24日には今年1月1日時点の公示地価が公表され、地価下落傾向が強まりを見せています。

 

3.最近の特例の適用動向


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の適用動向は、地価動向や住宅の価格動向の影響を比較的よく反映します。平成18事務年度までは年間2万件もの件数がありましたが、その後、減少を続け、平成22事務年度には1万件の大台を割り込んでいます。直近の動向は以下のとおりです(事務年度とは7月1日〜翌年6月30日までの1年間のことです)。

 

平成26事務年度     9,467件
平成27事務年度     8,701件
平成28事務年度     7,401件
平成29事務年度     6,367件
平成30事務年度     5,522件

 

住宅の損切りを必要とするケースが増える事態となれば、今後、同特例の適用件数は増加することが予想されます。

 

4.繰越控除の適用上の注意点等


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例が適用できない場合は、特例の性格上、「損益通算・繰越控除ができない場合」と「繰越控除ができない場合」との2段構えになっています。
特に注意したいのは繰越控除が適用できない場合です。

 

ア.売却した住宅の敷地の面積が500㎡を超える場合、500㎡を超える部分に対応する譲渡損失の繰越控除はできません(措法41の5⑦三)。ただし譲渡した年は、500㎡を超える部分に係る譲渡損失の金額についても損益通算と対象とすることができます。

 

イ.繰越控除を適用する年の12月31日で買換え先の住宅に償還期間10年以上の住宅ローンがない場合も、損失の繰越控除はできません。なお、資金は「住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又は当該家屋の敷地の用に供される土地若しくは当該土地の上に存する権利の取得に要するもの」とされているため(措法41の5⑦四)、家屋か敷地どちらか一方が10年以上の償還期間を持つなら適用があるとされます。
ウ.合計所得金額が3,000万円を超える年分は、その年分で損失の繰越控除はできません(措法41の5④)。

 

 

このほか、注意すべき場合として、買換え先の住宅にいったん居住後、転勤等により翌年居住しなくなった場合がありますが、この場合は、住まなくなっても繰越控除はできることとされています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/03/29)より転載

[解説ニュース]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

1.自宅の敷地のみを譲渡した場合に3,000万円控除の適用が受けられる場合


前回の解説では、個人が自宅の敷地のみを譲渡した場合であっても、譲渡所得の3,000万円控除の適用が認められる場合について解説をしました。

 

前回の解説内容は、以下のとおりです。

 

自宅敷地に対する3,000万円控除の適用は、災害により自宅家屋が滅失した場合を除き、原則として、自宅家屋とその敷地を一体で譲渡する場合に認められます。ただし、租税特別措置法通達(措通)35-2では、所有者が居住の用に供している家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合において、その土地等の譲渡が以下に掲げる要件のすべてを満たしているときは、居住用財産の譲渡に該当するものとして3,000万円控除の適用を認めています。

 

(1)その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。
(2)その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他に使用していない土地等の譲渡であること。

 

2.敷地の譲渡契約を締結後に家屋を取壊した場合の3,000万円控除の適用(私見)


措通35-2の(1)の要件は、土地上の家屋を取壊し、その後に土地の譲渡契約を締結する前提で定められています。では、先に家屋の取壊しての引渡しを定める土地の譲渡契約を締結し、その後、その土地上の家屋を取壊して土地の譲渡をした場合、その土地の譲渡が居住用財産の譲渡に該当するものとして、3,000万円控除の適用が認められるのでしょうか。この疑問について、筆者の私見を以下のとおり述べます。

 

措通35-2の(1)は「その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され」と規定されているので、家屋の取壊し日よりも前に土地の譲渡契約を締結した場合、形式的には要件を満たさないことになります。ただし、租税特別措置法通達逐条解説(譲渡所得関係)によれば、措通35-2が発遣された趣旨は、「買主から家屋を除去したうえで土地のみ売ってほしいという条件が付いたため、家屋を取壊して土地だけを譲渡した場合に、3000万円控除が受けられないことになると、不動産取引の実態にそわない結果となる」を認め、そのようなケースに適用を認めないことが法令の趣旨から外れた結果となると考え、そのような事態を回避することにあります。この趣旨からすれば、「不動産取引の実態」においてありうる土地の譲渡で、措通35-2(1)と(2)の要件と同レベルの内容を有するものについても、3,000万円控除の適用対象となる居住用財産の譲渡に該当すると思われます。

 

措通35-2の要件のうち(1)は、家屋の取壊しが先行し、その後に土地の譲渡契約が行われるという前提に基づいていますが、買主と売主の力関係等の個別事情により、先に土地の譲渡契約を締結し、その後に土地上の家屋を取壊すことも不動産取引ではありうることです。家屋の取壊しと譲渡契約の順序が通達の前提とは逆になった場合でも、それが「不動産取引の実態」の一つであり、譲渡時に居住用財産(であった)という属性が保たれていれば、措通35-2と同様の取扱いが認められるべきです。

 

したがって、先に土地の譲渡契約を締結し、その後、その土地上の家屋を取壊した場合でも、その取引が措通35-2(1)と(2)の要件と遜色ない内容となっているときは、その通達の要件を満たす土地の譲渡と同様に、3,000万円控除の適用が認められると考えます。

 

たとえば、土地の譲渡契約後にその譲渡契約の条件としてうたわれているべき合理的な期間内(措通35-2(1)とのバランスから最長1年が妥当でしょう。)に家屋が取壊され、かつ、措通35-2(1)の後半で規定する「その家屋をその居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の 12月31日までに」土地の譲渡(引渡し)が行われた場合で、その譲渡した土地が譲渡契約の締結後、家屋の取壊しを経て引渡しまでの間に、貸付けその他の用に供していないものであるときは、その土地の譲渡について3,000万円控除の適用が認められるものと考えます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/3/8)より転載

[解説ニュース]

外国人が母国から送金を受けた場合の贈与税課税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中山 史子/税理士)

[関連解説]

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

■相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

 

【質問】

技能実習生として日本に居住する外国人が、母国に住む親から贈与により、親の外国の預金口座から、自分の日本の預金口座へ1,000万円の送金を受けました。贈与者(親)と受贈者(技能実習生である子)は、ともに日本国籍を有さず、日本での居住期間は、受贈者は10年以内、贈与者はゼロ(居住歴なし)です。従って、この送金を受けた金銭が国内財産に該当しなければ、日本の贈与税は課税されないことになります。この場合、この送金を受けた金銭は国内財産と国外財産のどちらに該当するのでしょうか?

 

 

【回答】

この送金を受けた金銭は国外財産に当たり、日本の贈与税は課税されないと考えられます。

 

課税財産の範囲


贈与税の課税財産の範囲は、贈与者と受贈者を、日本国内における住所(=生活の本拠地)の有無や国籍により区分し、その区分の組み合わせにより受贈者ごとに決定されます(下表)(相続税法1条の4、2条の2)。「一時居住者」とは、贈与の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格)を有する人で、その贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。

 

質問の場合は、受贈者は別表第1「技能実習」の資格を有し、日本での居住期間は10年以内ですので「一時居住者」に該当します。一方、贈与者は日本の居住期間はゼロですから「10年以内に国内に住所なし」に該当し、受贈者の課税財産の範囲は国内財産に限定されます(下表)。よって、この送金が国外財産に該当する場合には、日本の贈与税は課税されません。

 

贈与財産は何か?財産の所在は?


質問のケースは、まず金銭(現金)の贈与契約があり、その後に送金手続きが取られたと考えることが自然です。

 

よって、贈与財産である金銭の所在が国内なのか国外なのかにより贈与税の課税の有無が決定されます。相続税法10条は、財産の所在する場所について規定しており、動産(金銭)については”その動産の所在する場所”とし、その判定は”財産を贈与により取得した時の現況”によるとしています。

 

財産を贈与により取得した時はいつか?

 

民法第549条では「贈与は当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」とし、第550条では、「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」としています。これら民法を受けて、相続税基本通達1の3・1の4共-8では、贈与による財産の取得の時期について「書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」としています。

 

履行の時とは


「履行の時」とは、「贈与者の送金の手続き完了時(=外国)」なのか、「受贈者の預金口座への入金された時(=日本)」なのかという疑問が生じます。本質問と逆のケースですが、高裁の事案(平成14年9月18日判決)では、日本に居住する親が日本の預金口座から、国外に居住する子の外国の預金口座への送金について、贈与財産が国内財産か国外財産なのかについて争われましたが、裁判所はその判断の中で、”履行の時とは贈与者が送金の手続きを完了した時”という見解を示しました。

 

質問への当てはめ


質問の場合では、書面による契約があれば贈与契約時(=送金の前)、書面がないときは履行時(=親の送金手続き完了時)となり、いずれの時も金銭の所在は国外となり、日本の贈与税は課税対象外となります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/22)より転載

[解説ニュース]

住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

■令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

1、はじめに


緊急事態宣言に基づく外出の自粛要請など新型コロナウイルス感染防止策の影響により、住宅の新築竣工時期等の遅れが生じ、住宅税制の入居に関する適用要件を充たせなくなることが懸念されています。

 

このため政府は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)について昨年4月、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」を施行し、入居期限までに入居できないケースへの対応を行ったところです。

 

ここでは、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例(措法70の2)」では、どのように対応されているのかについて確認します。

 

2、住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例


住宅取得等資金に関する贈与税の非課税制度とは、父母・祖父母など直系尊属から満20歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の子や孫が住宅取得等資金をもらう場合に、申告を条件に一定の限度額までは非課税となる制度です。

 

住宅用家屋の新築・取得・増改築(以下、取得等という)に係る契約の締結日が平成31年4月1日から令和2年3月31日の場合、非課税枠は以下の表のとおりです。

 

 

 

ただし贈与の翌年の3月15日までに住宅を取得等し、その年末までに居住すること等の要件があります。ここで着目すべきは、その贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の取得等をしなければならない点です。従来から、両制度とも住宅の取得等の期限については、厳格に贈与を受けた年の翌年3月15日とされてきており、これを徒過すると、同制度の適用は認められませんでした。

 

ただし、同制度には納税者自身の責めに帰さない「災害に基因するやむを得ない事情」で住宅の引渡しや新築の時期・入居の時期が適用要件の期日に遅れた場合には、1年延長が認められる法律上の定め(宥恕規定)があります(措法70の2⑩⑪)。

 

それによると、災害に基因するやむを得ない事情により贈与により金銭の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに取得等ができなかったとき又は取得等の年の12月31日までに入居できなかった場合であっても、特例の規定の適用を受けることができるとされており、たとえば住宅の取得等の期限が「翌々年3月15日」とされる仕組みです。

 

3、最新の国税庁のFAQ


国税に関し新型コロナウイルス感染症への対応を明らかにした「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」に、令和3年2月2日付で、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例における取得期限等の延長について」が追加されました。

 

それによると、国税庁は「今般の新型コロナウイルス感染症に関しては、例えば、緊急事態宣言などによる感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し、資機材等の調達が困難なことや感染者の発生などにより工事が施行できず工期が延長される場合など、新型コロナウイルス感染症の影響により生じた自己の責めに帰さない事由については、「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものと認められます」として上記宥恕規定の適用があることを明らかにしました。

 

同FAQでは、次のような事例を示しています。

 

①令和元年に贈与を受け、令和2年中に住宅の取得等をして年末までに住む予定だったケースで、コロナ禍で工期が遅れ年末までに住めなかった場合
→令和3年の年末までに居住すればOK
②令和2年に贈与を受け令和3年3月15日までに住宅の取得等をする予定がコロナ禍で遅れた場合
→令和4年3月15日までに取得し、その年末までに居住すればOK

 

 

なお、工務店等に住宅の新築工事をお依頼している場合には、資金の贈与の翌年3月15日までに棟上げしていれば、特例の適用のある住宅の取得等に含まれます(措法規23条の5の2①)。この点、新築マンションや建売住宅のケースでは、あくまで引渡し時点がポイントですので、注意が必要です。
申告にあたってはコロナ禍により取得時期や居住時期が遅れたことに関し工期が延期されたなど「やむを得ない事情」を証明する書面を用意する必要があります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/16)より転載

[解説ニュース]

譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

■【Q&A】等価交換事業が行われた場合に適用を受けることが出来る譲渡所得の特例

 

1.土地等の概算取得費の特例の概要


土地等の分離課税の長期譲渡所得課税の対象となる資産を売却した時の譲渡所得の計算は、譲渡収入金額から取得費と譲渡費用を控除することで行います。しかし、取得当時の契約書などがなく、実際にいくらで取得したかわからない土地等を譲渡する場合もあります。この場合は、譲渡所得の計算上、売買時の収入金額の5%を取得費とすることが認められています。これを長期譲渡所得の概算取得費控除と言います(措法31の4)。

 

これは、原則として、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等や建物等について適用されるものですが、昭和28年1月1日以降に取得した土地や建物等の取得費の計算でも収入金額の5%で概算しても差支えないとされています(措法通31の4 −1)。また、取扱いで短期譲渡所得の計算でも5%の概算取得費の控除が認められています。

 

ただ取得費が収入金額の5%では譲渡所得の金額が大きくなる傾向にあるため、納税者としては少しでも節税したい思いはあるでしょう。

 

そこで、概算取得費よりも高額な「資産取得時の時価」が推定できれば、その推定金額で申告や更正の請求をしたいところです。

 

2.市街地価格指数を基に取得費を推定する方法


平成12年11月16日の国税不服審判所裁決では、土地建物を一括して譲渡したケースで、取得費がわからなかったため、それほど償却の進んでいない築4年の建物について着工建築物構造単価から建物の取得費を割り出し、これを譲渡対価の総額から控除して土地の譲渡価額を求め、取得時の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて土地の取得費を算定する方法を合理的としたものでした。

 

市街地価格指数は日本不動産研究所が不動産鑑定士の価格調査によりまとめている資料で、土地の取得価額がわからないときにこれを活用する方法が有望とされています。

 

ただし市街地価格指数(住宅地)等にも限界はあります。平成26年3月4日の国税不服審判所の裁決では、六大都市には含まれていない所在地の土地の取得費について、六大都市市街地価格指数を用いて納税者が畑の取得費を再計算し更正の請求をした事案では、国税審判所は「所在地や地目の異なる六大都市市街地価格指数を用いた割合が、問題の土地の地価の推移を適切に反映した割合であるということはできない」として、納税者の再計算を認めませんでした。市街地価格指数を利用するには、上記のような注意点があります。

 

3.株式の取得費を推定する方法


株式を譲渡した場合にも、取引報告書を保存していないケースなどで、取得価額がわからないことがあります。この場合、譲渡した同一銘柄の株式等について譲渡収入金額の5%を概算取得費とする取扱いが認められています(措法通37の10・37の11共-13)。

 

しかし名義書換日を調べて取得時期とし、その時期の相場(終値)で取得価額を算定することも、合理性を有する取得価額の把握方法として知られています。
最近の国税不服審判所の事例でも、この方法が認められています(令和元年11月28日)。

 

大阪国税局の「誤りやすい事例 株式等譲渡所得関係」では、株式の取得価額がわからない場合の対応について次のように記載しています。

 

1 取引報告書を保存していない場合で、過去10 年間に証券業者で購入したものは、その証券業者で確認の上、取得価額を算定する。
2 取引報告書又は1 の方法により確認できない場合で、日記帳、預金通帳などの本人の手控えにより取得価額が分かればそれによる。
3 2によっても確認できない場合には、その上場株式等の名義書換時期を調べてその時の相場により取得価額を算定する。

 

 

なお、 譲渡価額の5 %の方が有利な場合は、これを取得費として計算して差し支えない。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/01/26)より転載

[解説ニュース]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

1.3,000万円控除の概要


個人が自己の居住用の不動産を譲渡した場合は、譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円が控除できる特例が設けられています。これが「居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除(以下「3,000万円控除」といいます。)」です。

 

3,000万円控除の対象不動産には、次のようなものがあります(租税特別措置法第35条第2項)。

 

①現に自己が居住している家屋
②居住用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋
③①又は②の家屋とともに譲渡したその敷地
④①の家屋が災害により滅失した場合において、その家屋に住まなくなった日から3年目の年の12月31日までの間(原則)に譲渡したその敷地

 

2.自宅家屋を取壊し後に敷地の譲渡契約を締結した場合の3,000万円控除の取扱い


上記1より、3,000万円控除は災害により自宅家屋が滅失した場合を除き、個人が自宅使用の家屋を譲渡することを前提としている特例です。

 

しかし、この前提を厳しく当てはめようとすると、例えば自宅家屋とその敷地を一体で(同時に)譲渡しようとしたが、買主から家屋を除去したうえで土地のみを譲渡してほしいといわれたため、売主がその家屋を取壊して土地だけを譲渡したような場合には、自宅家屋の譲渡を伴わないので、その土地の譲渡については3,000万円控除に係る上記の適用要件を満たさないことになります。不動産取引においては、土地の譲渡を進めるために譲渡前にその土地上の家屋を取壊すことが珍しくなく、家屋の取壊しにより3,000万円控除の適用が受けられないとすると、不動産取引の実態に税制がマッチしていないことになります。

 

このため国税庁では、租税特別措置法通達35-2 により、所有者が居住の用に供している家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合であっても、その譲渡が次の要件をすべて満たしているときは、3,000万円控除の適用を認めています。

 

 

①その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。
②その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他の用に使用していない土地等の譲渡であること。

 

 

上記①については、土地等の譲渡の期限について、譲渡契約を締結する日が「その家屋を取壊した日から1年以内」という要件を定めています。この要件を設けた理由について、「令和2年1月改訂版 租税特別措置法通達逐条解説(譲渡所得関係)」(大蔵財務協会)では、土地等を譲渡するためにその土地等上の家屋を取壊すという関係からして、このような期限を定めることは合理的であり、かつ、土地等を譲渡するために家屋を取壊す場合、その取壊し後1年間という猶予期間があれば、その間に土地等の譲渡契約をすることが十分可能である旨を説明しています(同逐条解説470頁)。

 

また②については、家屋の取壊し後、土地等の譲渡契約の締結日までの期間は跡地の利用を制限していますが、土地等の譲渡契約の締結後、土地等の所有権移転(引渡し)までの期間については、跡地の利用につき特に制限を設けていません。

 

例えば”等価交換方式”によるマンション建設のため、譲渡契約締結後に土地の譲受者がその土地上に建物を建設し、建物完成時にその建物と土地とを交換する場合には、他の要件を満たしているのであれば、3,000万円控除の適用が認められます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/1/13)より転載

[解説ニュース]

令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

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1.はじめに


令和3年度税制改正大綱では、住宅借入金等特別控除(以下、住宅ローン控除という)の拡充(2022年12月末までの入居分)が盛り込まれました。これはコロナ禍の影響による先行き不透明さなどを背景に内需の柱となる住宅投資を刺激するためです。改正の主な項目は、①13年控除の適用期限の延長、②床面積要件の40㎡への緩和です。以下、これらについて解説します。

 

2.13年控除の概要


ノーマルな住宅ローン控除は年末の住宅ローン残高の1%相当額を限度として、居住した年から10年にわたって所得税と住民税から税額控除する制度です(租法41①)。

 

拡充された住宅ローン控除(租法41⑬以下、13年控除という)は平成31年度税制改正で創設された制度で、家屋に係る消費税等の税率が10%であることを前提にノーマルな制度とは次の点で異なりました。

 

表1

 

 

なお、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合には控除限度額の計算上住宅ローン年末残高の上限は5,000万円となるほか、建物価額の上限も5,000万円となります。

3.コロナ対策による入居期限等の延長


令和2年4月30日に施行された 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の税制上の措置では、入居期限である令和2年12月31日までに入居できなかった場合でも、取得・新築または増改築の日から6か月以内に居住する等、所定の要件を充たしている場合、入居期限が1年延長されることとされました。所定の要件とは次の通りです。

 

⑴一定の期日までに契約が行われていること。
イ-1注文住宅を新築する場合=令和2年9月末
ロ-1分譲住宅・既存住宅を取得する場合、増改築等をする場合=令和2年11 月末

 

⑵新型コロナウイルス感染症の影響によって、注文住宅、分譲住宅、既存住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと。
確定申告では、契約日がわかる契約書等のほか、コロナ禍の影響により引き渡しが遅れたこと等を証する書類を用意する必要がありました。

 

4.①13年控除の適用期限の延長


大綱によれば、上記⑴の契約期間が延長され、次の期間中に契約した場合には、さらに入居期限が1年延長され令和4年12月31日とされる見通しです。

 

イ-2居住用家屋の新築 令和2年10月1日から令和3年9月30日までの期間
ロ-2居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等 令和2年 12 月1日から令和3年 11 月30日までの期間

 

これに伴い、国土交通省によると、この期間の契約で延長される改正後の13年控除では、確定申告でコロナ禍の影響を証する書類等の添付が不必要になります。
なお、延長前の契約期間に住宅購入契約等をして従前の期限までに入居する場合には、コロナ禍の影響により引渡し等が遅れたことを証する書面の添付が必要なことに変わりがありません。

 

5.②床面積要件の緩和


上記の①の13年控除の適用を前提に、取得する家屋の床面積については、50㎡以上から40㎡以上へと引下げられます。ただし、住宅ロ―ン控除を適用する個人のその年分の所得税に係る合計所得金額が 1,000 万円を超える年については、住宅ローン控除が適用されません。

 

床面積要件の緩和は、住宅取得等資金の贈与税の非課税特例(租法70条の2)、同相続時精算課税制度の特例(租法70条の3)でも行われる予定です(令和3年度税制改正大綱)。

 

なお、住宅税制のうち登録免許税の軽減税率(租法72条の2~75)、不動産取得税1200万円控除ほか(地法73条の14ほか)固定資産税の税額軽減(地法附則15条の6ほか)にも、50㎡を下限とする床面積要件がありますが、これらは、令和3年度税制改正大綱で改正項目に挙がっていませんので、適用にはご注意ください。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/12/23)より転載