[解説ニュース]

介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(小泉紀子/税理士)

 

 

[関連解説]

■介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

 

1.はじめに


最近相続税申告で、介護施設で亡くなられた場合の小規模宅地等の特例を適用するケースが増えてきているように思われます。今回は、その適用にあたって留意する点をお伝えします。

 

2.概要


介護施設で亡くなった場合でも、被相続人が入所前に居住していた家屋の敷地の用に供されていた宅地等は、次の要件を満たすと、小規模宅地等の特例における「被相続人の居住の用」に供していたものとされます(措令第40の2②、③)。

 

①相続開始の直前に、被相続人が「要介護認定」又は「要支援認定」を受けていること
②老人福祉法等に規定する介護施設等に入所していたこと
③被相続人が居住していた家屋は、入所後に事業の用又は新たに被相続人以外の居住の用に供されていないこと

 

3.要介護認定の申請中に死亡した場合


要介護認定又は要支援認定を受けていたか否かの判定時期は、「相続開始の直前」とされています。

では、介護施設に入所していた被相続人が、要介護認定の申請中に亡くなった場合はどうなるのでしょう。

このような場合に、相続開始後に要介護認定があったときには、要介護認定はその申請のあった日にさかのぼってその効力が生ずることとなり、相続開始の直前において要介護認定を受けていた者に該当するものとして取り扱うことが認められています。

 

4.添付書類


被相続人が介護施設に入所していた場合の小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に次の書類を添付する必要があります。

 

①被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
②介護保険の被保険者証の写しなど、被相続人が要介護認定又は要支援認定を受けていたことを明らかにする書類
③施設への入所時における契約書の写しなど、その介護施設の名称及び所在地並びにその施設が老人福祉法等に規定する介護施設であることを明らかにする書類

 

①~③の書類のうち、実務上入手に困るのが②の書類です。介護保険の被保険者証は、亡くなると市区町村役場へ返却することになっているため、相続税申告にあたりご用意頂く書類を相続人の方へ伝える頃には、市区町村役場へ返却してしまっていることが多いです。市区町村役場に申請して別途要介護又は要支援の状態であったことを証明する書面を出してもらうことも可能ですが、手間がかかりますので、もしお伝えできるタイミングがありましたら、写しをとっておいてもらうことをお勧めします。

 

5.介護施設に入所中に自宅を相続した場合


以下の事例において、被相続人甲の自宅の建物を「本件家屋」、その敷地の用に供されている宅地等を「本件宅地等」とします。

 

被相続人甲はA有料老人ホームの入所前に、本件宅地等を居住の用に供していましたが、A有料老人ホームの入居中に本件家屋及び本件宅地等を配偶者乙から相続し、その後本件家屋に戻ることなく死亡しました。

 

この場合、被相続人甲は、A老人ホーム入居の直前においては本件宅地等を居住の用に供していたものの本件宅地等の所有者ではなく、本件宅地等を取得した後はこれを居住の用に供していないのですが、本件宅地等は、小規模宅地等の特例対象となるのでしょうか。

 

これについては、国税庁の平成30年12月7日付の文書回答事例で次のような見解が認められています。

 

すなわち、「相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地等が、小規模宅地等の特例対象となる居住用宅地等に該当するか否かは、被相続人が有料老人ホーム等に入所して居住の用に供されなくなった直前の利用状況で判定することとされていますが、その時において被相続人が宅地等を所有していたか否かは、法令上特段の規定は設けられていないことから、小規模宅地等の特例の対象となる宅地等に該当すると解され、特例の適用を受けることができると考えられます。」

 

なお、小規模宅地等の特例の適用判定は難しいため、適用にあたっては十分に要件を確認することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/15)より転載

[解説ニュース]

贈与税の個人版事業承継税制の適用対象となる贈与者の要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

1.贈与税の個人版事業承継税制の概要


特定事業用資産(本連載2019年7月8号参照)を所有し、事業 不動産貸付業等を除く。を行っていた先代事業者として一定の者等(以下「贈与者」)から、後継者として一定の要件を満たす個人(本連載「特例事業受贈者」2019年9月6日号参照)が、令和10年12月31日までの贈与により、その事業に係る特定事業用資産の全部を取得した場合には、その特定事業用資産に係る贈与税について、担保提供その他一定の要件を満たすことによりその納税が猶予され、贈与者の死亡等により猶予されている贈与税の納付が免除されます(租税特別措置法(措法)70条の6の8第1項)。これが「贈与税の個人版事業承継税制」(以下「本特例」)です。

 

2.贈与者の主な要件


本特例の適用対象となる贈与者とは、次の(1)又は(2)のいずれに該当するかに応じ、それぞれに定める要件を満たす個人をいいます。

 

(1)贈与者が先代事業者の場合

次の①及び②の要件の全てを満たすことは必要です(措法施行令(措令)40条の7の8第1項1号)。

 

①その贈与の時において、所得税の税務署長にその事業を廃止した旨の届出書を提出していること、又は本特例に係る贈与税の申告書の提出期限までに、その事業を廃止した旨の届出書を提出する見込みであること。

 

②その事業について、その贈与の日を含む年、その前年及びその前々年の所得税の確定申告書を、青色申告書(措法25条の2第3項に規定する65万円の青色申告特別控除に係るものに限る。)により税務署長に提出していること。

 

(2)贈与者が先代事業者以外の場合

本特例の適用対象となる贈与者には、先代事業者と生計を一にする配偶者その他の親族等のうち一定の者が含まれます(措法70条の6の8第2項1号かっこ書)。

 

先代事業者の親族が本特例の適用対象となる贈与者に該当するためには、次の①及び②の要件の全てを満たすことが必要です(措令40条の7の8第1項2号)。

 

①(1)の贈与の直前において、(1)の先代事業者と生計を一にする親族であること(注1)。

②(1)の先代事業者の本特例の適用に係る贈与の時後に、その特定事業用資産(注2)の贈与をしていること。

③本特例の適用を受けようとする者が、その贈与の時前に相続又は遺贈により取得した、本特例の適用を受けようとする特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制(措法70条の6の10)の適用を受けようとする場合、又は受けている場合は、その先代事業者である被相続人の相続の開始の時後に、その特定事業用資産の贈与(注3)をしていること。

 

 

(注1)本特例の適用を受けようとする者(受贈者)が、その贈与の時前に相続又は遺贈により取得した、その特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制の適用を受けようとする場合、又は受けている場合には、「その先代事業者である被相続人の相続開始の直前において、その被相続人と生計を一にしていた親族であること。」が要件とされます。

 

(注2)先代事業者と生計をーにする親族が有する資産が特定事業用資産に該当するためには、その資産が先代経営者の一定の青色申告書に係る貸借対照表に計上されている必要があります(措法70条の6の8第2項1号かっこ書)。

 

(注3)③の贈与は、平成31(2019)年1月1日から令和10(2028)年12月31日までの間の贈与で、次の[1]又は[2]に掲げる日から1年を経過する日までの贈与に限ります(措法70条の6の8第1項かっこ書、措令40条の7の8第2項)。

 

[1]本特例の適用に係る贈与の日
[2]本特例の適用を受けようとする者が、本特例に係る贈与の時前に、相続等により取得した特定事業用資産に係る事業と同一の事業に係る他の資産について、相続税の個人版事業承継税制の適用を受けようとする場合、又は受けている場合には、最初の相続税の個人版事業承継税制の適用に係る相続開始の日

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/10/07)より転載

[解説ニュース]

連帯納付義務履行後の還付 ~納付書の記載に注意!~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

1.はじめに


同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者は、その相続又は遺贈により取得した財産の価額を限度として、他の相続人又は受遺者が納付すべき相続税額について連帯納付義務があります(相法34①)。

 

したがって、例えば、相続人のうちの1人が相続税を滞納した場合には、他の相続人や受遺者にその納付を求められる場合があり、その際は、税務署から連帯納付義務者へ納付通知書が送付されます(相法34⑥)。

 

なお、実務上は、税務署から納付通知書の送付がある前であっても、連帯納付義務者が延滞税を心配して、連帯納付義務を果たすために、自主的に他の者の相続税を納付することがありますが、その際の納付書の記載方法によっては、その後に生じた過誤納金の還付を受ける者が異なるため注意が必要です。

 

2.前提となる事例


本稿では、次の事例を前提として解説します。

 

(1)被相続人甲の相続人は、配偶者乙と長男丙の2名。
(2)丙が相続税を納める様子がないことから、乙は自身の連帯納付義務と延滞税を懸念し、丙に係る相続税を納付した。
(3)その後、丙に係る相続税について過誤納金があることが判明し、その一部が還付されることになった。

 

3.過誤納金があった場合の還付先


(1)丙名義で納付した場合

上記2(2)で、乙が丙に係る相続税を納付する際、丙名義の納付書にて納付した場合には、基本的に※1、税務署においては実質的な出捐者が誰であるかということや、その納付手続を行ったのが誰であるかということに関わらず、丙が納付したものとして処理されます。

 

そして、その後、過誤納金が判明した場合の還付請求権は納税名義人である丙が有し、還付先は丙となります(ただし、乙・丙間では、債権債務が発生します。東京地裁平成25年11月26日判決)。

 

※1 納付時に乙が税務署へその旨の連絡をしていた場合等には、異なる取扱いがされることも考えられます。

 

(2)納付書に連帯納付義務に係る納付である旨を記載し、連帯納付義務者として納付した場合

上記2(2)で、乙が丙に係る相続税を納付する際、乙が下記のような納付書※2により納付していた場合には、税務署においては乙が納付したものとして処理されます。そして、その後、過誤納金が判明した場合の還付請求権は納税名義人である乙が有し、還付先は乙となります。

 

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※2 実際に東京国税局及び芝税務署の指導に基づき作成・納付した納付書をもとに記載しています。

 

4.最後に


上記3(1)のように、乙が丙名義の納付書で納付をしてしまうと、過誤納金の還付先は丙となります。

 

連帯納付義務を果たすため、他の相続人や受遺者の相続税を納付する場合には、後に税金が還付される場合に備えて、納付書の記載に留意するとともに、納付時には、その旨を税務署へ連絡しておくことが望ましいと考えます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/24)より転載

[解説ニュース]

贈与税の個人版事業承継税制の対象となる後継者(特例事業受贈者)の要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

1.贈与税の個人版事業承継税制の概要


特定事業用資産(本連載2019年7月8日号参照)を所有し、事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)を行っていた先代事業者として一定の者 (贈与者)から、後継者として一定の個人(特例事業受贈者)が、令和10年12月31日までの贈与により、その事業に係る特定事業用資産の全部を取得した場合、特定事業用資産のうちこの税制の適用を受けるものに係る贈与税について、担保提供その他一定の要件を満たすことにより納税が猶予され、贈与者の死亡等により猶予されている贈与税の納付が免除されます(租税特別措置法(措法)70条の6の8第1項)。これが、贈与税の個人版事業承継税制(以下「本特例」)です。

 

2.後継者(特例事業受贈者)の要件


本特例の適用を受けるためには、上記1のとおり後継者が「特例事業受贈者」であることが必要です。特例事業受贈者とは、贈与者から贈与により特定事業用資産の取得をした個人で、 次に掲げる要件の全てを満たす者をいいます(措法70条の6の8第2項2号)。

 

 

(1)その贈与の日において20歳以上(令和4年4月1日以後の贈与については、「18歳以上」)であること。

 

 

(2)その個人が、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)2条に規定する中小企業者に該当し、本特例の適用要件を満たすことにつき同法12条第1項の都道府県知事の認定(注1)を受けていること。

 

(注1)都道府県知事の認定の申請は、原則として、その特定事業用資産の贈与のあった年の翌年1月15日までに、後継者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事に対して行います(円滑化法施行規則7条第10項、第12項)。

 

 

(3)その贈与の日まで引き続き3年以上にわたり特定事業用資産に係る事業又はこれと同種もしくは類似の事業に係る業務(一定の就学を含む)に従事していたこと。

 

 

(4)その贈与の時からその贈与の日を含む年分の贈与税の申告期限まで引き続きその特定事業用資産の全てを有し、かつ、自己の事業の用に供していること。

 

 

(5)その贈与の日を含む年分の贈与税の申告期限において、所得税法の規定によりその特定事業用資産に係る事業について開業届出書を提出し、かつ所得税の青色申告の承認(所得税法143条、147条)を受けていること。

 

 

(6)その特定事業用資産に係る事業が、その贈与の時において、資産保有型事業及び資産運用型事業(注2)ならびにいわゆる風営法が規定する性風俗関連特殊営業のいずれにも該当しないこと。

 

(注2)「資産保有型事業」とは、原則として、贈与の日を含む年の前年1月1日から、その特例事業受贈者の贈与税の納税猶予税額の全額の猶予の期限が確定(猶予の終了)する日までの期間のいずれかの日において、その日におけるその事業に係る貸借対照表上の総資産の帳簿価額のうち、現預金、有価証券、自ら使用していない不動産その他の資産(特定資産)の占める割合が70%以上となる事業をいいます(措法70条の6の8第2項4号、同施行令40条の7の8第14項)。

 

「資産運用型事業」とは、原則として、特例受贈事業用資産の贈与の日を含む年の前年1月1日から、その特例事業受贈者の贈与税の納税猶予税額の全額の猶予の期限が確定(猶予の終了)する日までの期間のいずれかの年において、事業所得に係る総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の占める割合が75%以上となる事業をいいます(措法70条の6の8第2項5号、同施行令40条の7の8第17項)。

 

 

(7)都道府県知事による個人事業承継計画の確認(円滑化法施行規則17条第1項3号)を受けていること(措法施行規則23条の8の8第6項)。

 

 

なお、後継者が上記の確認を受けるためには、所定の申請書に後継者候補の氏名、事業承継の予定時期、承継時までの経営見通しや承継後の事業計画等を記載し、さらに認定経営革新等支援機関による指導及び助言を受けた旨を記載のうえ、令和6年3月31日までに、これを先代事業者の主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事あてに提出する必要があります(円滑化法施行規則17条4項、中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる経営承継円滑化法の認定申請マニュアル」)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/06)より転載

[解説ニュース]

相続税の家屋評価をめぐる最近の裁判例から

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■不動産の売買契約中に買主に相続があった場合の評価

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

 

1.はじめに


今回は最近の相続税の財産評価をめぐり、家屋の評価で特別の事情が認められるかどうかが問われた裁判例を取り上げます。

 

2.相続税の家屋評価


相続税の計算をする場合には、不動産や株式などの現物の相続財産については、金銭的価値を見積もり評価する必要があります。この際に指針となるのが、国税庁の財産評価基本通達(以下、財基通という)です。

 

財基通の評価の原則1⑵では「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(中略)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」とされています。評価の際には「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」(財基通1⑶)ことになっています。

 

さて、家屋の評価は「その家屋の固定資産税評価額(地方税法第381条(固定資産課税台帳の登録事項)の規定により家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録された基準年度の価格又は比準価格をいう。以下この章において同じ。)に別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価」します(財基通89からの引用)。

 

固定資産評価基準(以下、評価基準という)における家屋の評価方法は、建物の構造や設備などの所定の部分について評点数をつけ積算し、建築後の年数に応じた経年減点補正率と評価の年の評点1点当たりの金額を乗じて評価額を求めます。また必要に応じて損耗減点補正、需給事情による減点補正が出来ます(評価基準第2章)。

 

そして、①評価基準及び財基通が、評価方法として合理的であること、②評価基準・財基通の通りに家屋が評価されていること、③明らかに「時価」を超えていないこと、④評価基準・財基通により評価することが適切ではない特別の事情がないこと、この4つを満たす限り、評価基準及び財基通による評価が適正な評価額と推認されるという考え方になっています。

 

3.家屋評価で争いになった裁判例


ここで取り上げる家屋の評価の裁判例は、古い家屋のうち1戸の評価について、「特別の事情」があるため不動産鑑定評価額約300万円で相続税の当初申告、不動産鑑定評価額約400万円で修正申告等をしていた納税者が、税務署から財基通に基づく評価約1,800万円で更正され、争いになった事例です(札幌地裁平成31年3月8日判決、他の争点もありますがここでは割愛します)。

 

4.納税者の主張


納税者は概略「築後約20年から40年が経過したものであり、老朽化が見受けられるものであるから、その評価に際しては、必要な経年減価が行われるべきである。しかし、評価基準及び財基通においては、最低20%という高い補正率(経年減点補正率)が採用されており、減価が不十分なものとなっている」と指摘し、特別の事情があるとしました。

 

そのうえで納税者は「「時価」(中略)の算定方法は評価通達の定める評価方式に限られるものではなく、不動産鑑定評価によってその算出を行うことも可能」との考えで不動産鑑評価額が「客観的な交換価値を反映した評価である」と主張しました。

 

5.裁判所の判断


裁判所は「評価基準により算出された価額を基にして家屋の評価を行う評価通達の定めも、家屋の客観的な交換価値を算出する方法として一般的な合理性を有するもの」と認めました。

 

そのうえで、納税者が「経年減点補正率の下限が20 %と極めて高く、家屋の実際の取引価格との帯離が著しく大きい」ことから評価方法として、一般的な合理性がないと指摘した点について、裁判所は経年減点補正率だけでは適当と認められない場合に個別事情を踏まえた減点補正ができることから「評価基準の一般的な合理性を否定する事情にはならない」としました。

 

また鑑定評価額と財基通に基づく評価額に乖離があることについて裁判所は、「時価を評価する方法として客観的で、一義的なものがあるわけではなく、その評価額にも自ずと一定の幅が生じることは避けられない。(中略)相続財産について評価通達の定める評価方法によって算出した額が不動産鑑定評価基準に則って鑑定した額を上回る場合であっても、それはいずれも合理性を有する異なる評価(の)基準を用いて算出した結果が異なるものであることを意味しているにすぎず、評価通達の定める評価方式によって時価を適切に算定することができない特別の事情があることを推認させるものではない」として納税者の主張を退けています(判決文書からの引用、()括弧内・赤字は筆者加筆)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/09/02)より転載

[解説ニュース]

民法改正 ~特別の寄与~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

1. はじめに


民法改正により創設された「特別の寄与」について解説します(2019年7月1日以後の相続から適用)。

 

2. 特別の寄与に関する民法規定(民法1050①②⑤)


特別寄与者(下記3.参照)は、相続開始後、相続人に対し、その寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。また、その支払いについて当事者間に協議が調わない場合等には、一定期間内に、家庭裁判所にそれに代わる処分を請求することができます。

 

相続人が複数いる場合には、各相続人は法定相続分又は指定相続分に応じて特別寄与料を負担します。

 

3. 特別寄与者の要件(民法1050①)


(1)被相続人の親族(相続人、相続放棄をした者、及び相続権を失った者を除く)であること
(2)被相続人に対して無償で療養看護その他の労務提供をしたこと
(3)上記(2)により、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしたこと

 

4. 相続税法における取扱い


(1)特別寄与料の支払確定前

特別寄与料は、当事者間で協議が調うまで、又は家庭裁判所の審判があるまでは、その支払いが確定しません。したがって、その支払確定前は、請求中であったとしても特別寄与料の支払いがないものとして相続税を計算します。

 

(2)特別寄与料の支払確定後 ※1
①特別寄与者

(a) 相続税の計算(相法4②)
特別寄与料の額が確定した場合には、特別寄与料相当額を被相続人から遺贈により取得したものとみなして、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法29①、33)
上記(a)による計算の結果、納付すべき相続税額がある場合には、特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の期限内申告書を提出し、相続税を納付しなければなりません。

 

②相続人

(a) 相続税の計算(相法13④)
特別寄与料の額が確定した場合には、「各相続人が相続又は遺贈により取得した財産の価額から特別寄与料の額のうちその相続人の負担に属する部分の金額を控除して、相続税を計算します。

 

(b) 相続税の申告期限等(相法27①、32①、33)

5.税務上の留意点等


(1)相続税額の2割加算(相法18)

特別寄与者となり得る者の多くは、相続税額の2割加算の適用対象者でもあるため、特別寄与料の支払いがあった場合には、基本的に、同一の被相続人に係る相続税の納税総額は増加する点に留意が必要です。

 

(2)特別寄与者が相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産がある場合(相法19)

特別寄与者が被相続人から相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときは、相続税の計算上、贈与財産の加算と贈与税額控除の適用があります。特別寄与料の額のみを申告すればよいわけではない点に留意が必要です。

 

(3)特別寄与料を金銭ではなく不動産や有価証券等の現物で支払った場合

特別寄与者が有する特別寄与料の支払請求権は、民法上、金銭債権とされています。したがって、相続人がその金銭債権に係る債務を履行するために、特別寄与者に対して不動産や有価証券等の現物を移転した場合には、その相続人が代物弁済をしたものとして取り扱われます(民法482)。

 

税務上、代物弁済があった場合には、その代物弁済により移転する資産の譲渡があったものとして取り扱われます。すなわち、代物弁済により譲渡所得の基因となる資産を移転する場合には、原則として代物弁済により消滅する債務の額(特別寄与料の額)を譲渡所得の総収入金額として譲渡所得を計算することになります。

 

(4)特別寄与料に相当する金額の贈与をする場合

上記(1)に記載のとおり、特別寄与料を加味して相続税申告をする場合には、基本的に納税総額は増加します。

 

また、期限内申告書の提出後に特別寄与料の額が確定したような場合には、あらためて相続税の申告書等を作成しなければならないという実務上の煩雑さもあります。

 

特別寄与料の額、追加で納付することとなる税額、専門家報酬の額等によっては、実務上は、民法の「特別の寄与」の制度によることなく(相続人から特別寄与者への特別寄与料の支払いではなく)、相続人と特別寄与者との合意により、「相続人から特別寄与者への特別寄与料相当額の金銭の贈与」をし、贈与税の申告・納付で解決することもあると考えます。

 

 

※1 特別寄与者は、特別寄与料以外の財産を被相続人からの遺贈により取得していないものとします。
※2 相続人は、相続税の期限内申告・納付をしている場合を前提とします。

 

 

 

 

 

 

 

法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/26)より転載

[解説ニュース]

会社の特別清算に伴う法人の金銭債権の貸倒処理(参考:東京地裁平29年1月19日判決)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1. はじめに


特別清算とは、会社法上の制度で、解散後・清算中の株式会社について債務超過の疑いがある場合等に裁判所の命令により開始され、その監督のもとで行われる(特別の)清算手続であり(会社法510条~574条外)、協定型と個別和解型があります。

 

2. 特別清算の2類型と特別清算に伴う貸倒処理に係る法人税基本通達9-6-1(2)とその他の通達


表題の通達9-6-1 (2)は、法人の有する清算会社に対する金銭債権の額のうち、「特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額」は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する」旨を定めています。

 

ここでいう「協定」とは、会社法563条以下の定めに従って行われる手続きで、清算会社と協定債権者(一般債権者のこと)との間で、清算会社が協定債権者に弁済をすること及び協定債権者は弁済を受けられなかった部分を免除することを取り決めることで、清算会社が債権者集会に対して協定の申し出をして、債権者集会において法定の要件を満たす同意を得て可決し、さらに、裁判所の認可の決定を得て成立し効力を生じます。協定が成立するとそれに同意しなかった債権者も拘束されます。

 

これに対し、債権者が少数の場合(特に、清算会社の親会社などその関係者のみが債権者である場合)、協定に代え、協定よりコストや迅速性で勝る「個別和解」により清算が行われる場合があります。個別和解は、一部弁済と引き換えに残債免除とする場合が一般的で、裁判所の許可により効力が生じます(同法535条①4)。

 

ここで留意すべきは、特別清算により切り捨てられた金銭債権につき、9-6-1がその(2)該当の貸倒損失として損金の額に算入することを認めるのは、あくまで協定により免除される(切り捨てられる)場合のその免除額に限っており、個別和解による免除(切り捨て)額はこの(2)に当たらないということです。それは、まず、同通達(2)の文言上、そこに個別和解も含むことは読みとれないことから明らかであるといえますが、それを措いても、個別和解は、協定の裁判所による認可とは別個の手続で、当事者間の公平を担保する、又は通常の合理性のない馴れ合い的な和解を修正するための規定もないため、たとえば、親会社と子会社のみが当事者の場合、いかようにも和解(債務免除)の合意ができます。よって、個別和解による債務免除を協定によるそれと同等に扱うことは不合理です。

 

以上の通り、協定型ではなく個別和解型の特別清算手続が多く利用されているとしても、特別清算手続でありさえすれば、子会社の整理に関する親会社の負担(債務免除)額を無条件に損金の額に算入できるわけではありません。基本通達が、特別清算による債権の切り捨てについて協定によるものであることを要件に貸倒損失として損金算入を認めようとしていることには合理性があり、それを満たすことが必要です。

 

以上の通り、個別和解による免除額は上記通達の(2)に当たりませんが、個別和解による債務免除は、同通達が貸倒損失として損金算入を認める4つ目の類型として挙げる「(4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額」に当たる余地は残ります。この(4)の「場合」に該当するかどうかの判断は、金銭債権の弁済の可能性の判断につき「債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情だけでなく、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれき等による経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、 社会通念に従って総合的に判断されるべき」と判示した平成16年12月24日の最高裁判決に沿って行うべきと考えられます。

 

この(4)にも当たらない場合は、別の法人税基本通達9-4-1により、法人税法37条の寄附金に該当するか否かの判断をすることになります。つまり、同通達が寄附金に当たらない要件として示す「その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められる」か否かを検討することになりますが、この(4)に当たらない場合は、9-4-1が示す要件も満たさないことが多い、すなわち寄附金となる場合が多いと考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/19)より転載

[解説ニュース]

配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

■配偶者居住権等の評価

 

 

1.配偶者居住権の意義


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割または遺言により、その居住していた建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住したり賃貸したりする権利(=「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

2.配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例


(1)小規模宅地等の特例の概要

小規模宅地等の特例とは、個人が相続等により取得した宅地(土地又は土地の上に存する権利をいう。以下「宅地等」。)のうち被相続人又は被相続人と生計をーにしていた被相続人の親族(被相続人等)の事業の用又は居住の用に供されていた一定の宅地等(下図の4区分)について、相続税の申告期限までその宅地等を保有し、事業や居住の用に供するなど一定の要件を満たす場合は、被相続人等に係る相続税の計算上、一定の面積(限度面積)までの部分について、その相続税の課税価格を次のとおり減額する特例をいいます(租税特別措置法69条の4)。

 

 

(2)配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用

配偶者居住権自体は、建物に関する権利であることから、宅地等に係る特例である、小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権は、前述(1)の「土地の上に存する権利」に該当することから、上図④の特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
居住建物の敷地の所有権についても、その取得者が居住建物に被相続人と同居していた等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用を受けることができます(租税特別措置法69条の4第1項、第3項2号・財務省「平成31(令和元)年度税制改正の解説」539頁)。

 

3.配偶者居住権等と相続税の物納


(1)相続税の物納の概要

相続税法は、納税義務者が延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、税務署長の許可を受けることにより、その納付を困難とする金額を限度として金銭以外の一定の財産による納税(物納)が認められています(同41条第1項)。
相続税の物納に充てることができる財産(物納財産)とは、原則、納税義務者の相続税の課税価格計算の基礎となった相続財産(相続時精算課税の適用を受ける財産を除く。)で、日本国内に所在するもののうち一定のものをいい、譲渡制限が付されている株式など一定の財産は、管理処分に不適格な財産(「管理処分不適格財産」)として物納財産から除外されています(相続税法41条第2項、同施行令18条)。また物納財産が複数ある場合には、相続税法上、物納に充てることができる財産の順位が定められています(相続税法41条第2項、第5項)。

(2)配偶者居住権等と物納の適用

配偶者居住権自体は譲渡が禁止(民法1032条第2項)されていることから、上記3(1)の「管理処分不適格財産」に該当し、物納に充てることができません(相続税法41条第2項)。
配偶者居住権が設定された建物およびその敷地の所有権は、他の財産に比べて物納の順位が後れる「物納劣後財産」とされ、他に物納に充てるべき適当な財産がない場合に限り、物納に充てることができます(同法第4項)。

 

4.適用時期


上記2(2)と3(2)の取扱いは、配偶者居住権に関する民法の施行日である、令和2年4月1日以後に開始する相続により取得する財産に係る相続税について適用されます(改正法附則1条7号ロ)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/13)より転載

[解説ニュース]

令和元年分の路線価公表・地価上昇による相続税への影響

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(厚地満里 /税理士)

 

1.路線価4年連続上昇


国税庁は7月1日、令和元年分の路線価を記載した路線価図を同庁のホームページで公表しました。

http://www.rosenka.nta.go.jp/

 

全国の平均路線価は4年連続で上昇傾向にあり、その上昇率は前年対比で平成30年分の「+0.7%」を上回る「+1.3%」となりました。現在国税庁のホームぺージでは、平成25年分以降の路線価を確認することができます。

 

都道府県別の路線価では、19都道府県で前年より上昇しました。上昇率の上位を見ると、観光客数が増えている沖縄が8.3%と2年連続で全国トップ、2位は東京が4.9%、都市部の再開発が進む宮城が4.4%で3位と続いています。一方、路線価が前年より下落したのは27県で、内22県は下落幅が縮小しているものの、大都市圏や集客力のある観光地と、それ以外の地域との二極化の傾向が続いています。

 

2020年にオリンピック・パラリンピックの開催を控えた東京は、平均路線価が6年連続の上昇中で、訪日外国人の増加に加えて、再開発やホテルの建設が着々と進み、都心部で地価のバブル傾向が続いています。路線価の変動率を見ると、外国人観光客で賑わう浅草・雷門通りの上昇は前年対比で35%上昇と都内最高でした。大学キャンパスの進出が相次ぐ北千住駅前も大きく上昇、複数の路線が乗り入れる利便性の高さから、マンションの建設も続いています。

 

2. 土地の相続税評価額への影響


相続税・贈与税の宅地の評価額は、固定資産税評価額に評価倍率を乗じて算出する地域を除き、基本的には一平方メートル当たりの土地の評価額である路線価に地積を乗じて算出します。つまり路線価の上昇がそのまま相続財産の総額、そして相続税の納税に影響してきます。

 

ここ数年は商業地だけでなく、立地の良い住宅地でも毎年数万円単位で路線価が上昇してきました。現状の路線価ベースで相続税額を試算してみると、何年か前に試算した時より納税額が驚くほど増えていたというケースをよく見かけます。これまで手持ちの金融資産で何とか納税ができそうと考えていた方は、今改めて現状把握をしていただきたいと思います。

 

3.地価の上昇と小規模宅地の評価減の関係


小規模宅地の評価減の特例とは、相続人がその生活を維持するために欠くことのできない被相続人の自宅や事業用の土地を相続した場合に、土地の価額を一定の面積まで50%もしくは80%減額して評価することができる制度です。

 

例えば自宅の宅地の価額が1億円ですと、この制度の適用により価額の80%が減額されますので、相続税の課税対象となる宅地の評価額は2千万円になります。その効果は絶大である上に、現在のように路線価が高い時程、大きな効果を表します。小規模宅地の評価減の適用要件は事前に確認しておきたいところです。

 

4.最後に


空家や空地、その他子供や孫が今後引き継いでいくことが難しい物件があり、いずれは売却をと考えているようでしたら、地価が高騰して市場が動いている時は売却の好機です。相続税の納期限は相続開始から10か月しかありません。相続発生後に、納税のために物件を売却しようとしても、相続人間で話を取りまとめて換金に至るには余りに時間が短く、何よりその時市場が動いていなければ売却の目途が立ちません。問題を先送りしてタイミングを逸してしまわないように、家族でよく話し合い準備しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/08/05)より転載

[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

【問】

私(妻)はこの度、夫と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に夫名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を夫から財産分与により取得する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(夫における税務上の留意点等については、前回の解説を参照してください。)

 

【回答】

1.贈与税


(1) 離婚後に財産分与する場合

①原則
離婚に伴う財産分与によって取得した財産については、贈与により取得した財産とはならず、元妻に贈与税は課税されません(相基通9-8)。
②例外
次の場合におけるそれぞれに掲げる財産額は、贈与によって取得した財産となり、元妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。
(a)分与財産額が婚姻中の夫婦の協力で得た財産額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合・・・その過当である部分の財産額
(b)離婚を手段として贈与税のほ脱を図ると認められる場合・・・離婚により取得した財産額

(2) 離婚前に財産移転する場合

基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、妻に贈与税が課税されます(贈与税の基礎控除は、年110万円)。なお、財産移転時における婚姻期間が20年以上であり、妻が自宅に住み続けるときは、妻において贈与税の配偶者控除(上記基礎控除のほか2,000万円まで非課税)の適用を受けられます(相法21の6)。

 

2.所得税


(1)自宅の取得時期及び取得費

①離婚後の財産分与によって取得した場合

財産分与により取得した自宅については、元妻がその財産分与を受けた時に、その時の価額により取得したこととなり、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所基通38-6)。

②贈与によって取得した場合

贈与により取得した自宅については、贈与者(元夫)の取得時期及び取得費がそのまま受贈者(元妻)に引き継がれ、後に元妻がその自宅を譲渡した場合の譲渡所得は、これらをもとに計算します(所法60①)。

(2)住宅ローン控除

自宅について金融機関からの借入残高があり、その借入を元妻が負担承継する場合には、元妻が住宅ローン控除の適用要件を満たしていれば、元妻は住宅ローン控除の適用を受けることができます(措法41)。

 

3.不動産取得税


不動産取得税は、財産分与の性質により、その取扱いが異なります。婚姻中の財産関係の清算の場合(実質的共有財産を対象とした清算的財産分与の場合)は基本的に課税されませんが、離婚の原因が元夫にあり元妻への慰謝料として行われる場合(慰謝料的財産分与)や、離婚後の元妻への扶養のために行われる場合(扶養的財産分与)等は課税されます。詳細は、タクトニュース782号を参照してください。

 

4.登録免許税(登法9、別表第1)


財産分与により取得した自宅の登記に際しては、「固定資産税評価額×2 %」の登録免許税が課税されます。

 

5.印紙税


前回の解説の2.参照。

 

6.固定資産税(地法343、350、359)


財産分与の翌年以降、元妻は「固定資産税評価額×1.4%」の固定資産税を負担する必要があります。

 

7.最後に


離婚に伴う財産分与により自宅を取得する場合、基本的に元妻に贈与税は課税されませんが、その後その自宅を譲渡する際には、その自宅の取得時期及び取得費は、元夫のものを引き継がず、財産分与時のものとなります。例えば、財産分与により取得した自宅を5年以内に譲渡する場合には、譲渡所得税等の適用税率は39.63%(所得税、復興特別所得税及び住民税の合計)と高率で課税されます(自宅を譲渡する場合の適用税率はタクトニュース№790の1. (1)①(b)参照)。
また、不動産取得税や登録免許税等の課税もあるため、もし元妻が自宅に居住し続ける予定がないのであれば、将来の税負担も考慮して、どのタイミングでどのような財産で分与を受けるか等、事前に検討し交渉する必要があると思われます。税負担の詳細については、税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/07/22)より転載

[解説ニュース]

相続税の個人版事業承継税制の対象資産(「特定事業用資産」)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 1.相続税の個人版事業承継税制の概要


相続税の個人版事業承継税制とは、下記2の特定事業用資産を所有し、事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)を行っていた先代事業者として一定の者(被相続人)から、後継者として一定の者(特例事業相続人等)が、2019年1月1日から2018年12月31日までの相続又は遺贈(相続等)により、その事業にかかる特定事業用資産の全部を取得した場合に、その特定事業用資産にかかる相続税について、担保の提供その他一定の要件を満たすことにより納税が猶予され、後継者の死亡等により猶予されている相続税の納付が免除される税制をいいます(租税特別措置法(措法)70条の6の10第1項)。

 

2.特定事業用資産の意義


(1)特定事業用資産の範囲

「特定事業用資産」とは、先代事業者の事業の用に供されていた次の資産です。ただし、その贈与または相続等の日を含む年の前年分の事業所得にかかる青色申告書(措法25条の2第3項に規定する65万円の青色申告特別控除にかかるものに限る。)の貸借対照表に計上されていたもの限ります(措法70条の6の10第2項1号、同施行規則23条の8の8第2項等)。

 

①宅地等
事業の用に供されていた土地または土地の上に存する権利で、建物または構築物の敷地の用に供されているもののうち、棚卸資産に該当しないもので、面積が400㎡以下の部分。

 

②建物
事業の用に供されていた建物で、棚卸資産に該当しないもののうち床面積の合計が800㎡以下の部分。

 

③減価償却資産
②以外の減価償却資産のうち、構築物、機械装置、器具備品、船舶等、一定の自動車等、乳牛・果樹等の生物、特許権等の無形減価償却資産。

 

(2)先代事業者の生計一親族の所有する資産

上記(1)の「先代事業者」には、先代事業者と生計をーにする配偶者その他の親族が含まれます(措法70条の6の10第2項1号かっこ書)。したがって、先代事業者が配偶者の所有する土地の上に建物を建て、事業を行っていた場合におけるその土地など、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産のうち上記(1)①~③のいずれかに該当するものについても、特定事業用資産に該当します。

 

ただし、先代事業者と生計をーにする親族が所有する資産が特定事業用資産に該当するためには、(1)の下線部の通り、その資産が先代経営者の一定の青色申告書にかかる貸借対照表に計上されている必要があります(措法70条の6の10第2項1号)。所得税の青色申告にかかる貸借対照表に、同一生計親族名義の資産を計上する処理を通常は行わないので、今後の取扱いについては国税庁通達等を確認する必要があります。

 

3.小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合


2(1)①の宅地等につき、先代事業者および先代事業者と生計を一にする親族(以下「先代事業者等」)から相続等により取得した宅地等について、措法69条の4の小規模宅地等の特例の適用を受ける者がいる場合には、その適用を受ける小規模宅地等の区分に応じ相続税の個人版事業承継税制の適用が次のとおり制限されます(措法70条の6の10第2項1号イ、2号へ、同施行令40条の7の10第7項)。

 

 

上図①のとおり、特定事業用宅地等にかかる小規模宅地等の特例と相続税の個人版事業承継税制については併用できず、どちらかを選択することになります。

 

相続税の個人版事業承継税制は100%納税猶予・免除が可能ですが、後継者が納税猶予を継続し、免除に至るまでには、原則として終身の事業継続や資産保有が求められます(措法70条の6の10第3項、第15項等)。小規模宅地等の特例に比べて要件が厳しいため、後継者が相続等による取得する特定事業用資産の価額のうち宅地等がその大半を占める場合には、通常は小規模宅地等の特例を選択するケースが多いと思われます。

 

 

 

 

 

 

 

士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/07/08)より転載

[解説ニュース]

最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

 1.はじめに


個人でアパート経営をしている場合、不動産所得の計算上、必要経費になる支出の範囲で、税務調査で否認されるかどうか不安になるケースがあります。むろん、必要経費になることがはっきりしているものは、きちんと必要経費に算入して適切な課税所得の計算につなげたいものです。

 

不動産所得は、所得税の計算上、アパートの家賃や地代などの収入から必要経費を差し引いて計算します。不動産所得の必要経費となるもので、よく知られているものといえば、アパートなどの資産についての固定資産税・都市計画税、火災保険などの保険料、減価償却費や修繕費などです。これらについては、大きな争いの種になることはありません。

 

必要経費とは原則、「売上原価その他当該総収入金額を得るために直接した費用及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」(所法37)です。このうち、家事上の経費と明確に区分でき「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」については、税務署と見解を異にするケースが少なくないところです。

2.最近の裁決から


最近の裁決で「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」で、税務署が否認した支出のうち、国税不服審判所が一部を必要経費と認めた事例が出ています(国税不服審判所平成30年9月12日)。

 

裁決書によると、勤め先を退職する前から不動産賃貸業を始めていたAさんは、退職時期をまたいで不動産賃貸業の業務に励んでいたといいます。

 

しかし、平成25年分から平成27年分の所得税の確定申告では、必要経費をめぐって税務署と争いになり、最終的に国税不服審判所に判断してもらうことになりました。

 

具体的に問題になった支出は①業務の参考図書等の費用「図書研修費」約34万円、②業務を円滑にする「接待交際費」約46万円、③福利厚生費などです。

3.考え方の基本


国税不服審判所は、まず「所得税法第37条第1項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、当該業務の遂行上生じた費用、すなわち業務と関連のある費用をいうが、単に業務と関連があるというだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要なものに限られると解するのが相当である」と述べ、考え方のポイントを示しました。一方、家事関連費については、「「必要経費」と「家事費」の両要素が混在しているため、原則として必要経費に算入できないが、所得税法第45条第1項第1号及びこれを受けた所得税法施行令第96条第 1号の規定により、その主たる部分が業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、その部分に相当する経費に限り必要経費に算入され、また、同条第 2 号の規定により、青色申告者については、家事関連費のうち業務の遂行上必要である部分が主たる部分でなくても、取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分がある場合には、その部分に相当する経費は必要経費に算入される」と整理しました。

4.必要経費と認められたもの


そのうえで国税不服審判所は、具体的に次のような支出については、必要経費になると判断しています。

 

ア、不動産賃貸経営及び住まいのリフォーム並びに会社経営及び住宅建築上のノウハウなどの建築工事に関して書かれた書籍を購入するための支出のうち、コンクリートのひび割れ補修等に活用された書籍等の購入費用。

 

Aさん自身においても、賃貸物件の維持管理に際し、コンクリートひび割れ用塗布剤等を購入し、賃貸物件の各室の機器や備品の交換、補修、修理等、各種の作業を行っていることが認められたからです。

 

イ、 事業に係る不動産の管理会社である管理会社Zを訪問した際の手土産代及び管理会社のスタッフに対する謝礼のためのギフト券の購入費。

 

Aさんは、不動産管理会社に対してお菓子を贈答している事実が複数回認められ、そして、平成26年において管理会社Z等が管理する物件に係る収入が前年に比して増加している事実が認められる。この支出は、不動産管理会社との円滑な取引関係を維持するために支出されたものと認めることができるから、当該支出は客観的にみて業務に直接関係し、かつ、業務の遂行上必要な費用であると認められたからです。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/07/01)より転載

[解説ニュース]

離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-2/2 ~財産分与を受ける側~

■不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

 

【問】

私(夫)はこの度、妻と協議離婚をすることとなりました。離婚に伴い、婚姻期間中の財産の清算として、婚姻期間中に私名義で取得した自宅の土地及び建物(以下「自宅」)を妻へ財産分与(*)する予定です。離婚に伴う税務上の留意点等を教えてください。
(*) 相手方の請求に基づき、離婚した者の一方から相手方に財産を渡すことを財産分与といいます(民法768)。

(妻における税務上の留意点等については、次回以降に解説予定です。)

 

【回答】

1.所得税


(1) 譲渡所得課税
① 離婚後に財産分与する場合

 

(a)譲渡所得
所得税法上、譲渡所得の基因となる財産(本問の場合は自宅)の財産分与があった場合には、財産分与時に、元夫は、その自宅を財産分与時の価額により元妻へ譲渡したものとして取り扱われます(所基通33-1の4)。
自宅を財産分与した場合の譲渡所得金額は、次の算式により計算します(所法33、措法35①②⑪)

 

〔算式〕
財産分与時の自宅の時価 -(取得費+譲渡費用)- 居住用財産の譲渡所得の特別控除3,000万円※

 

※「居住用財産の譲渡所得の特別控除」の適用については、自宅の所有期間や居住期間についての制限はありません。したがって、この特別控除を適用することにより、元夫の譲渡所得金額がゼロになることもあります。ただし、この特別控除の適用を受けるためには、元夫の財産分与年分の確定申告書にこの規定の適用を受ける旨等の記載をし、この財産分与に係る譲渡所得の明細書等の添付をする必要があるため、確定申告をし忘れないよう留意が必要です。なお、この3,000万円の特別控除の規定は、配偶者のような特別関係者等への譲渡においては適用できないため、この規定の適用を受けたい場合には、離婚後に財産分与する必要があります。

 

(b)税率
上記(a)の算式により計算した譲渡所得金額がある場合(上記(a)の算式により計算した結果がプラスとなる場合)には、その財産分与のあった年の1月1日現在における自宅の所有期間や譲渡所得金額に応じて、次の税率による所得税等が課されます(措法31、31の3、32①、地法附34、34の3、35、復興財源確保法9、13)。

 

② 離婚前に財産移転する場合

財産移転が離婚前に行われる場合には、基本的に、夫から妻への贈与として取り扱われ、夫において譲渡所得課税はありません。

(2) 離婚後の新たな住宅ローン控除の適用

離婚に伴う自宅の財産分与に際し、元夫が、居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除(上記1.(1)①(a)※印参照)又は所有期間10年超の場合の譲渡所得の軽減税率(上記1.(1)①(b)の14.21%)等の適用を受けた場合には、その後3年以内に元夫が新たに借入をして自宅を取得等したとしても、元夫は住宅ローン控除の適用を受けることができません(措法41⑮)。

2.印紙税(措法91②)


財産分与契約における自宅の価額に応じて、次の印紙税が課税されます。

3.固定資産税(地法343、350、359)


固定資産税は、1月1日現在の自宅の所有者に対して課税されます(固定資産税評価額×1.4%)。したがって、年の途中で財産分与をして所有者が元妻に変わったとしても、その年分については元夫が納税義務者となります(別途、元夫婦間の合意で固定資産税の精算を行うことはできます)。

4.最後に


離婚に伴って自宅の財産分与をする場合、実行のタイミング等により、課税関係が異なります。詳細は税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/06/24)より転載

[解説ニュース]

贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

【問】

Aさんと妻のBさんは、自宅を新築することにしました。自宅の建築に先立ち、Aさん夫婦は資金を出し合い、2019年5月に土地を対価3,000万円で取得(AさんとBさんが1,500万円ずつを負担し、持分1/2の共有)しました。Bさんはこの土地の取得に際し、実父から2019年1月に現金700万円の贈与を受けています。Aさんは2019年中にその土地の上に自宅を対価2,000万円で建築(建築費用は全額Aさんが負担し、Aさんの単独所有)、引渡しを受けて同年中に居住する予定です。

 

上記の計画通りに2019年中に自宅の建築が完了し、Aさんが同年中に引渡しを受けて夫婦で居住した場合、Bさんが実父から贈与を受けた現金700万円は、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税」(租税特別措置法(措法)70条の2。以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

 

 

【回答】

1.結論


上記の場合、贈与を受けたBさんは、実父から贈与を受けた金銭の全額を充てて自宅の敷地を取得するものの、その自宅の新築をしない(贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までにその土地上に自宅を新築するのはAさん)ことから、後述2(2)②の要件を満たすことができないので、本特例の適用を受けることができません。

 

2.解説


(1)本特例の概要と基本的な要件

その年の1月1日において20歳以上である等の一定の要件を満たす個人(「特定受贈者」)が、父母等の直系尊属から贈与により取得した①自己の居住用の家屋(以下「自宅」)の新築もしくは取得(以下「新築等」)、②これらの自宅の新築等とともにする、その敷地として使用される土地等*の取得(その自宅を新築する場合に、それに先行してする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得を含む)又は③一定の増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)の全額を、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、①、②又は③の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合には、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の限度額(自宅の取得に係る契約の締結期間や、その自宅の性能、自宅の新築等の代金等に含まれる消費税の税率に応じて300万円~3,000万円)までは贈与税が非課税とされます(措法70条の2第1項等)。
*土地及び土地の上に存する権利をいいます。

(2)自宅を新築する前にその敷地となる土地を先行して取得した場合の留意すべき要件

表題の要件としては、次の①及び②があります。

 

①一定の土地等の取得であること
(1)の下線部の通り、本特例の適用対象となる自宅の新築もしくは取得には、自宅の新築もしくは取得とともにする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得が含まれます(措法70条の2第1項1号)。そして「土地等の取得」には、自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等の取得が含まれます(同かっこ書)。

 

この「自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等」の具体例は、次の通りです(措法通達(措通)70の2-3、70の3-2)。

イ.自宅の新築請負契約の締結を条件とする売買契約によって取得した土地等
ロ.自宅を新築する前に取得した、その自宅の敷地として使用されることになる土地等

 

②金銭の贈与を受けた人により、自宅の新築が行われること。
個人が贈与を受けた金銭の全額が①ロの土地等の取得に充てられ、自宅の新築の対価に充てられなかった場合でも、その贈与を受けた金銭は本特例の適用対象となる「住宅取得等資金」には該当します(措通70の3-2(注)1)。

 

ただし、贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までに、その贈与を受けた人が自宅の新築をしていない場合には、その贈与を受けた金銭は本特例の適用を受けることができません(同ただし書)。

(3)本問へのあてはめ

ご質問の場合、Bさんは実父から贈与を受けた金銭を全て自宅の敷地の購入代金に充てる一方、自宅の建築代金を全く負担しておらず、Bさんは自宅を新築していません(新築したのはAさんです)。よってBさんは上記(2)②のただし書により、本特例の適用を受けることができません。

 

Bさんが本特例の適用を受けるためには、実父より贈与を受けた金銭の一部又は自己資金により自宅の建築代金を負担し、自宅にも相応の持分を有することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/06/17)より転載

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税を選択した非上場株式に係る贈与税の納税猶予:贈与者よりも先に受贈者が死亡した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税


(1)概要

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、同日時点で60歳以上である父母 又は祖父母(原則)から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与の贈与者(「特定贈与者」)が死亡した場合、その適用を受けた受贈者(「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(「相続等」)により取得した財産の評価額と合わせて相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税による贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。

(2)相続時精算課税適用者の有していた相続税の納税に係る権利義務の承継

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続 時精算課税適用者が死亡した場合、同適用者の相続人は、同適用者が有していた[相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務]を承継します(同21条の17第1項)。

 

例えば、特定贈与者のAの死亡前に相続時精算課税適用者の長男Bが死亡した場合、Bの相続人は、Aが死亡した時に長男の代襲相続人としてAから相続で取得した財産の価額に、Bが相続時精算課税の適用を受けたAからの贈与財産の価額(Bが贈与を受けた時の価額)を加えて、Aに係る相続税額を計算します。

 

2.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた先代経営者(「贈与者」)から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(「経営承継受贈者」)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。以下「特例受贈非上場株式」)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。

(2)特例受贈非上場株式に係る猶予税額の免除

(1)の猶予税額は、①その贈与者の死亡より先に経営承継受贈者が死亡した場合、②経営承継受贈者より先にその贈与者が死亡した場合のいずれのときにも、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

(3)(2)②の場合の特例

(2)②の納税猶予の適用を受けていた場合において、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡するなど一定の要件を満たすときは、経営承継受贈者は、(2)②のとおり猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、相続税の課税対象とされます。
なお、この規定は、(2)①の場合には適用はありません(同かっこ書)。

 

3.贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合(=2(2)①)の相続時精算課税に係る相続税額の計算


相続時精算課税を選択して贈与税の納税猶予の適用を受けた受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合には、同適用者(=経営承継受贈者)の相続人は1(2)の適用を受け、贈与者が死亡したときに、同適用者が負う相続時精算課税の義務(特に1(2)の下線部の計算)を負うのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、平成31年度税制改正により贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合、2(2)より免除を受けた猶予税額に対応する特例受贈非上場株式については、1(1)の計算規定が適用されず、贈与者に係る相続税額の計算には含まれないこととされました(措法70の7第13項9号)。ただし相続時精算課税の適用を受けた同株式以外の財産には、原則通り1(1)の規定が適用されます。

 

なお「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70の7の5)においても、上記と同様の取扱いがなされます(同第10項)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/20)より転載

[解説ニュース]

底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1 はじめに


相続財産の中に土地(宅地)があり、それが貸地、すなわち、借地権(普通借地権とします。)がある土地である場合、その土地のいわゆる底地としての相続税法上の評価額は、「通常の自用地(=借地権がない土地)としての価額からその借地権の価額を控除した金額」(借地権価額控除方式)であると規定されています(財産評価基本通達25(1))。上記「借地権の価額」については同27が「借地権の価額は、自用地としての価額に、借地権の売買実例価額、精通者意見価格などをもとに地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する」と定めていて、地価の高い地域ほどその割合も高くなり、東京の中心的商業地では80%~90%(よって底地は20%~10%)、住宅地では60%~70%(同40%~30%)の割合の場合が多いようです。なお、借地権の割合は10%刻みで30%~90%(国税庁のホームページで公表)です。

 

2 底地の相続税法上の評価(借地権価額控除方式)VS不動産鑑定士による評価


借地権価額控除方式により算定される相続税法上の底地の評価額に対し、納税者が主張する不動産鑑定士による底地の評価額はケースバイケースですが、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に従いながらも、低廉な地代を基準とした収益還元価格を軸に主張されることが多く、借地権価額控除方式による評価額のせいぜい半分程度になる場合が少なくないようです。後者の評価額の方が低いので、それを相続税の評価額として採用すれば、相続税額は当然低くなります。

 

しかし、一般的に、後者の評価額による相続税の計算はほぼ認められません。評価通達に従う税務署が認めないのはもちろん、たとえ裁判で争っても、特別な事情がない限り認められない場合がほとんどです。

 

3 底地の相続税法上の評価で不動産鑑定士による評価が認められない理由


まず、納税者側の不動産鑑定士による底地の評価が、その顧客である納税者の希望に沿って評価の引き下げを追求するあまり(?)、その底地に係る鑑定評価上の要素につき、不合理なことを無理に採用して、そこを課税当局から突かれ、主張する鑑定価額の合理性に疑問を生じさせてしまう傾向があります。そのような恣意的な評価をしていないとしても、根本的には次の理由(不動産鑑定士による評価の当否が争われた平成29年3月3日東京地裁判決などの判示を整理したもの) から、収益還元法を軸とする底地の評価自体が相続税法の評価では認められ難い状況にあります。

 

すなわち、底地の市場性は、借地権のそれとは全く異なる状況にあり、底地のみが売買されることがあるとしても、それは、借地契約の当事者間=借地人と地主間での売買が通常です。第三者への底地のみの売買については市場が相当限定され、その土地の近隣において純粋な第三者による取引事例は把握できないことが通常です。そして、以上の状況から、底地については、第三者と売買を行うような一般的な市場、そこにおける相場を想定することは困難であり、売買があるとすれば将来的に借地契約の当事者間において行われることが通常であるという特性を持つ財産である、という基本的な認識が覆し難いものとしてあります。

 

このような特性をもつ財産としての底地の客観的交換価値(これが時価の一般的意義で、相続税法上の時価の意味もこれです。)の把握では、①底地の状態が当分継続することを前提に、その状態で地代収入が生じることにより得られる経済的利益と②将来、底地の取引形態として通常である借地契約の当事者間での売買(借地権者による底地の買取等)が行われるであろうことを前提に、その売買により制限のない完全所有権に復帰することになるという経済的利益の二つ(の現在価値)を考慮すべき、ということになります。この考え方は、実は、鑑定評価基準における底地の価格の考え方とも基本的に一致しています。

 

以上により、将来的にも完全所有権への復帰がおよそ考え難いような特別な事情がある場合はともかく、借地契約終了後に完全所有権に復帰することが予定される通常の借地契約に係る底地の時価は、同契約存続中の地代等の純収益に基づく収益還元法による価値のみで捉えるべきではなく、同契約の終了後の借地権の負担のない所有権に対応する価値をも含むものとして捉えるべきということになります。上記の地代等による収益還元法による価値のみでは、底地の客観的交換価値=時価の全てを適切に表すとはいえない一方、その時点の自用地としての価額から借地権の価額を控除した価額とする方法は、その時価に接近する方法として相応の合理性があるといえます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/13)より転載

[解説ニュース]

不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

 

1.財産分与とは


財産分与とは、相手方の請求に基づき、離婚した者の一方から相手方に財産を渡すことをいいます(民法768)。

 

2.不動産の財産分与があった場合の不動産取得税


離婚に伴う財産分与が以下の2要件を満たす場合には、「形式的に財産権の移転が行われることはあっても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによって実質的に財産権の移転が生じるものではない」ため不動産取得税は課税されません。

 

しかし、これ以外の財産分与の場合には、「これによって実質的にその不動産所有権の移転が生じる」として不動産取得税が課税されます(東京地裁昭和45年9月22日判決、大阪高裁昭和51年1月27日判決、東京都「不動産取得税課税事務提要(平成30年3月30日改正)」)。

 

◆要件1  その財産分与が、実質的に夫婦の共有財産の分割と認められるものであること(下記3. (3)参照)

◆要件2  その財産分与が、婚姻中の財産関係を清算する趣旨のものであること(下記4. (1)参照)

3.夫婦の財産関係の分類


夫婦の財産関係は、次の3つに分類されます。
このうち、上記2.の要件1を満たすのは 下記(3)の実質的共有財産を財産分与の対象とした場合です。したがって、下記(1)のように夫婦の一方が相続や贈与によって取得した不動産や、婚姻前から所有していた不動産等を財産分与の対象とした場合、又は下記(2)のように夫婦の共有名義で登記されている不動産を財産分与の対象とした場合には、特段の事情がない限り、不動産取得税が課税されます(東京都「不動産取得税課税事務提要(平成30年3月30日改正)」第2章第3節1(3)エ、東京都「不動産取得税質疑応答集(平成28年4月1日改正)」6-⑩)。

 

 

4.財産分与の分類


財産分与は、次の3つに分類されます。
このうち、上記2.の要件2を満たすのは財産分与が下記(1)の清算的財産分与と認められる場合です。したがって、財産分与が慰謝料や離婚後の扶養料に相当する不動産の取得と認められる場合(下記(2)や(3)の場合)は、不動産取得税が課税されます。

 

5.具体例


(1) 婚姻期間中に夫婦で取得した不動産(登記名義:夫100%)を、財産分与により妻が取得した。
→ 上記4.(1)の清算的財産分与に該当すれば、不動産取得税は課税されない。

 

(2) 婚姻期間中に夫婦で取得した不動産(登記名義:夫1/2、妻1/2)の夫の持分1/2を、財産分与により妻が取得した。
→ 夫婦の共有持分割合が登記上明示されており、民法の規定により共有と推定される「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産」(上記3.※印参照)ではないため、不動産取得税が課税される(ただし、納税者からの申し立て等により登記上の持分が実態と異なると推定される場合は、別途認定が行われる可能性がある)。

 

(3) 婚姻期間中に夫婦及び妻の父で取得した不動産(登記名義:夫6/10、妻の父4/10)の夫の持分6/10を、財産分与により妻が取得した。
→ 上記4.(1)の清算的財産分与に該当すれば、不動産取得税は課税されない。

6.最後に


財産分与が上記2.に記載する2要件を満たさない場合には、その財産分与により取得した不動産については、原則として、「固定資産税評価額(宅地は、固定資産税評価額×1/2)×3%」の不動産取得税が課税されます(地法73の15、73の21①、地法附11の2①、11の5①)。

 

ただし、財産分与の対象となった不動産に、その不動産を取得した者が居住する場合には、一定要件を満たせば、中古住宅を取得した場合の不動産取得税の軽減措置の適用を受けることができます。

 

離婚に伴い財産分与を受ける場合には、将来の税負担も考慮してどのような財産で分与を受けるか等、事前に検討し交渉する必要があると思われます。税負担の詳細については、税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/04/22)より転載

[解説ニュース]

相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

1. はじめに


相続税法64条1項は、「同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。」と規定しています(赤字は筆者)。

 

この規定が適用されると、私法上は有効に行われた同族会社の行為等を税務上は否認した状態(なかったものとしたり、別の行為等に置き換えたりすること)に基づき評価通達によって相続財産の相続時の時価=課税価格を(申告より高く)評価することになります。

2. 上記1の否認規定の適用要件


表題の適用要件は次の通りです。

 

①対象となる法人は同族会社等(法人税法上の同族会社の外、特殊な要件を満たす法人も含みますが、後者の法人は稀です。)であること

②対象となる行為・計算は、同族会社等の行為・計算であること

③容認した場合(←そのまま否認しない場合、ということです。)、同族会社等の株主等の相続税等の負担を減少させる結果となること

④その税負担の減少が不当と認められること

 

このうち、①から③の判定は難しくありませんが、④の「税負担の減少が不当」か否かの判断は何をもって「不当」とするのか明確ではありません。

3. 裁判例が示す「不当」性の判断基準


以下では、相続税法64条1項の適用による否認の当否が争われた事件(同族会社のオーナー経営者(被相続人)が、癌によって死去する一月前に、時価をはるかに上回る価額でその同族会社の所有する土地・建物を買い取った行為が同項により否認、つまり、税務上なかったことにできるかが争われたもの)の裁判の大阪高裁平成19年4月17日判決で示された、同項の「不当」性の判断基準を示します。

 

同判決では、「確かに、…、相続税法 64条1項の同族会社の行為又は計算が相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうかは、経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不自然、不合理なものと認められるか否かを基準として判断すべきもの」であるが、同項が、「同族会社が同族会社の株主等の租税負担回避行為に利用されやすく、これを放置すれば税負担の実質的な公平を図ることができないから、実質的な税負担の公平を図るために設けられた規定であり、この趣旨、目的に照らすと、ここでいう純粋経済人の行為として不自然、不合理なものかどうかは、同族会社の利益を図るという同族会社の株主ないし経営者としての立場に重きを置くのではなく、個人としての合理性を中心に考えるべきものである」と判示しました(赤字は筆者)。

 

そして、本件の時価をはるかに上回る価額で同族会社の所有物件を購入する行為については、「同族会社にとっては利益をもたらすもの(筆者注:株主ないし経営者としての立場に重きを置くと同族会社の利益が図られており、その意味で合理的)であるとしても、個人としては極めて不合理なものといわざるを得ない」と判示しました。つまり、「純粋経済人の行為として不自然、不合理なものと認められるか否か」についての判断は、この否認規定の趣旨に照らし、同族会社と取引行為を行った被相続人が、その同族会社と特殊な・親密な関係のない(と仮定した)一個人とした場合で判断するべきだ、ということです。換言すると、「独立当事者間」であるとした場合に通常行われうる取引といえるか、ということです。この判断基準は、この否認規定の制定趣旨に整合し妥当なものと思われます。

 

「不当」性につきこのように判断するということは、上記の経済的合理性を見る対象を、株主やその親族等を相手に上記のような取引を行った同族会社に限定しないということです。つまり、同族会社には経済的利益をもたらすものであっても、それだけではこの規定の適用を免れる理由にはならず、その取引自体の経済合理性、その相手にとっても不自然・不合理ではないかという点もチェックする、ということです。

4. 終わりに


この否認規定の適用の当否に係る裁判例はあまり多くないようですが、裁判例の数は否認例の数とイコールではありませんから、否認されない節税を考える際は、上記の不当性の判断基準に注意を払うことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/04/15)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与をした者(以下「特定贈与者」)が死亡した場合、相続時精算課税の適用を受けた受贈者(以下「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(以下「相続等」)により取得した財産の評価額と合算して相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税に係る贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。この場合において、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを、特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(同21条の16第1項)。

2.個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合の税務

(1)みなし配当課税となる部分

個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡する場合には、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は”発行会社からの配当”とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算されて最高 55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。

 

(2)株式譲渡所得となる部分

個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常その譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)の通り譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされ、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用を差引いて、譲渡所得の金額が計算されます。この譲渡所得は他の所得と分離され、20.315%の税率で課税されます(租税特別措置法(措法)37条の10第1項等)。

 

(3)相続等により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続等により非上場株式を取得(相続税法および租税特別措置法の規定により、相続等による財産の取得とみなされるものを含む)した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。

3.相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

個人が相続時精算課税の適用を受けて生前贈与により非上場株式を取得したものの、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合には、その者が他の要件を全て満たすときであっても、上記2(3)の「みなし配当課税の特例」の適用が受けられないのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、2(3)の太字の通り、相続等による財産の取得には相続税法の規定により相続等による財産の取得とみなされるものを含むとされます。また、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、相続税法21条の16第1項により、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合でも、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(1の下線部参照)。ゆえに表題の場合においても、一定の手続の下、2(3)の特例の適用を受けることができます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/04/08)より転載