[解説ニュース]

贈与を受けた金銭を全て敷地の対価に充てた場合の住宅取得等資金に係る贈与税の非課税の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

【問】

Aさんと妻のBさんは、自宅を新築することにしました。自宅の建築に先立ち、Aさん夫婦は資金を出し合い、2019年5月に土地を対価3,000万円で取得(AさんとBさんが1,500万円ずつを負担し、持分1/2の共有)しました。Bさんはこの土地の取得に際し、実父から2019年1月に現金700万円の贈与を受けています。Aさんは2019年中にその土地の上に自宅を対価2,000万円で建築(建築費用は全額Aさんが負担し、Aさんの単独所有)、引渡しを受けて同年中に居住する予定です。

 

上記の計画通りに2019年中に自宅の建築が完了し、Aさんが同年中に引渡しを受けて夫婦で居住した場合、Bさんが実父から贈与を受けた現金700万円は、「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税」(租税特別措置法(措法)70条の2。以下「本特例」)の適用を受けることができますか。

 

 

【回答】

1.結論


上記の場合、贈与を受けたBさんは、実父から贈与を受けた金銭の全額を充てて自宅の敷地を取得するものの、その自宅の新築をしない(贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までにその土地上に自宅を新築するのはAさん)ことから、後述2(2)②の要件を満たすことができないので、本特例の適用を受けることができません。

 

2.解説


(1)本特例の概要と基本的な要件

その年の1月1日において20歳以上である等の一定の要件を満たす個人(「特定受贈者」)が、父母等の直系尊属から贈与により取得した①自己の居住用の家屋(以下「自宅」)の新築もしくは取得(以下「新築等」)、②これらの自宅の新築等とともにする、その敷地として使用される土地等*の取得(その自宅を新築する場合に、それに先行してする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得を含む)又は③一定の増改築等の対価に充てるための金銭(以下「住宅取得等資金」)の全額を、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、①、②又は③の対価に充て、同日までに自己の居住用に供した等の場合には、贈与税の申告を要件に、住宅取得等資金のうち一定の限度額(自宅の取得に係る契約の締結期間や、その自宅の性能、自宅の新築等の代金等に含まれる消費税の税率に応じて300万円~3,000万円)までは贈与税が非課税とされます(措法70条の2第1項等)。
*土地及び土地の上に存する権利をいいます。

(2)自宅を新築する前にその敷地となる土地を先行して取得した場合の留意すべき要件

表題の要件としては、次の①及び②があります。

 

①一定の土地等の取得であること
(1)の下線部の通り、本特例の適用対象となる自宅の新築もしくは取得には、自宅の新築もしくは取得とともにする、その敷地として使用されることとなる土地等の取得が含まれます(措法70条の2第1項1号)。そして「土地等の取得」には、自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等の取得が含まれます(同かっこ書)。

 

この「自宅の新築に先行してする、その敷地として使用されることになる土地等」の具体例は、次の通りです(措法通達(措通)70の2-3、70の3-2)。

イ.自宅の新築請負契約の締結を条件とする売買契約によって取得した土地等
ロ.自宅を新築する前に取得した、その自宅の敷地として使用されることになる土地等

 

②金銭の贈与を受けた人により、自宅の新築が行われること。
個人が贈与を受けた金銭の全額が①ロの土地等の取得に充てられ、自宅の新築の対価に充てられなかった場合でも、その贈与を受けた金銭は本特例の適用対象となる「住宅取得等資金」には該当します(措通70の3-2(注)1)。

 

ただし、贈与があった日を含む年の翌年の3月15日までに、その贈与を受けた人が自宅の新築をしていない場合には、その贈与を受けた金銭は本特例の適用を受けることができません(同ただし書)。

(3)本問へのあてはめ

ご質問の場合、Bさんは実父から贈与を受けた金銭を全て自宅の敷地の購入代金に充てる一方、自宅の建築代金を全く負担しておらず、Bさんは自宅を新築していません(新築したのはAさんです)。よってBさんは上記(2)②のただし書により、本特例の適用を受けることができません。

 

Bさんが本特例の適用を受けるためには、実父より贈与を受けた金銭の一部又は自己資金により自宅の建築代金を負担し、自宅にも相応の持分を有することが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/06/17)より転載

 [解説ニュース]

 介護施設等に入所後、相続が発生した場合の居住用財産の譲渡所得と相続税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(関口正二/税理士)

 

1.概要


新しい元号となり「人生100年時代」を見据えた生き方に対する対応が必要となっています。
配偶者の死別等により単身の高齢者が増加しています。一人暮らしを続けてきたものの、体調面から介護が必要となり、家族に迷惑をかけたくはない等との理由から自宅から介護施設等に入所するケースが今後も増加していくことが予想されます。
今回は、自宅から介護施設等の入所後に相続が発生した事例での税務上の取扱いを解説します。

 

2.介護施設等入所後、自宅の売買契約中に相続が発生した場合の譲渡所得と相続税の取扱い


【事例】

母は、亡父から相続した自宅の土地建物で一人暮らしをしてきましたが、介護施設の入所(入所時に入所一時金及び敷金支払済)を機に空き家となった自宅土地建物を譲渡するため不動産売買契約を締結しました。

 

不動産売買代金       総額  9千万円
売買契約日(2019年1月) 手付金   2千万円
残金決済日(2019年4月末) 残金  7千万円

 

しかし、残金決済日直前の2019年4月中旬に母に相続が発生しました。居住用財産の譲渡特例及び相続税の取扱いはどうなりますか。

 

【回答】
(1)譲渡所得の取扱い

 

土地建物の譲渡所得の金額の計算上「総収入金額に計上すべき時期」は、納税者の選択により「資産の引き渡しがあった日」または「譲渡契約の効力発生の日」のいずれかとすることができます。

 

「譲渡契約の効力発生の日」を選択して亡母の準確定申告で譲渡所得の申告をした場合には、亡母の居住用財産(住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡)として居住用財産の譲渡特例(措法35)の適用が可能となり税務上有利となります。また、譲渡所得に係る個人住民税の納税義務者は譲渡した翌年の1月1日時点で住所地がある方となります。よって、亡母の譲渡所得の住民税は発生しないことになります。

 

また、「資産の引き渡しがあった日(残金決済日)」を選択し相続人の確定申告で所得税に係る譲渡所得の申告をすることも可能です。この場合には、相続人は居住していなかったため居住用財産の譲渡特例(措法35)は適用不可です。しかし、相続財産の譲渡として相続税の取得費加算特例(措法39)の適用は可能です。

 

 

(2)相続財産、相続債務の取扱い

 

売買契約中の土地等及び建物について、売主に相続が開始した場合には、相続等により取得した財産は、当該売買契約に基づく相続開始時における残代金請求権となります。本事例では残金の7千万円が未収入金として相続財産となります。

 

相続財産が土地等ではないため小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例(措法69の4)の適用の検討は不要です。

 

相続発生により介護施設は退去と同様となり、入所時に支払った入所一時金(前払金)の一部及び敷金が相続人に返還されることとなります。この返還された金額は、亡母の金銭債権として相続財産に該当しますのでご注意ください。

 

また、上記(1)において「譲渡契約の効力発生の日」を選択することで亡母の準確定申告において発生した所得税等は、亡母の債務として相続税の債務控除の対象となります。

 

3.老人ホーム入所後の自宅敷地の小規模宅地等の特例


【事例】

母は、7年前に一人暮らしの自宅から介護付の老人ホームに入所しましたが2019年2月に相続が発生しました。自宅は、3年前からマイホームを持っていなかった次男家族が居住しています。
この自宅敷地について特定居住用の小規模宅地等の特例(措法69の4)の適用は可能でしょうか。

 

【回答】

老人ホームに入所したとしても、下記の要件を満たすことにより、従前の自宅敷地は特定居住用の小規模宅地等の特例が適用できます。

 

(1)被相続人が介護保険法等の要介護認定、要支援認定を受けていたこと(措令40の2②一)。
(2)入所施設が老人福祉法、介護保険法等に規定する一定の施設であること(措令40の2②一)。
(3)介護施設等入所後に、従前居住していた家屋を事業の用又は被相続人等以外の居住の用に供していた事実がないこと(措令40の2③)。

 

本事例では、母の施設入所後に自宅が新たに他の者(次男家族)の居住の用に供されているため、上記(3)の適用要件を満たしておらず、小規模宅地等の特例の適用はできません。介護施設等入所後の自宅の用途は、相続税申告において注意を要します。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/27)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税を選択した非上場株式に係る贈与税の納税猶予:贈与者よりも先に受贈者が死亡した場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

 

 

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税


(1)概要

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、同日時点で60歳以上である父母 又は祖父母(原則)から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与の贈与者(「特定贈与者」)が死亡した場合、その適用を受けた受贈者(「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(「相続等」)により取得した財産の評価額と合わせて相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税による贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。

(2)相続時精算課税適用者の有していた相続税の納税に係る権利義務の承継

特定贈与者の死亡以前に、その特定贈与者に係る相続 時精算課税適用者が死亡した場合、同適用者の相続人は、同適用者が有していた[相続時精算課税の適用を受けたことによる納税に係る権利又は義務]を承継します(同21条の17第1項)。

 

例えば、特定贈与者のAの死亡前に相続時精算課税適用者の長男Bが死亡した場合、Bの相続人は、Aが死亡した時に長男の代襲相続人としてAから相続で取得した財産の価額に、Bが相続時精算課税の適用を受けたAからの贈与財産の価額(Bが贈与を受けた時の価額)を加えて、Aに係る相続税額を計算します。

 

2.非上場株式等に係る贈与税の納税猶予(一般措置)


(1)概要

中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当する会社で、同法による都道府県知事の認定を受けたものの株式について、その会社の代表権を有していた先代経営者(「贈与者」)から贈与を受けた受贈者が、一定の要件を満たすその会社の後継者(「経営承継受贈者」)である場合は、経営承継受贈者が納付すべき贈与税のうち、その非上場株式 (一定の部分に限る。以下「特例受贈非上場株式」)に対応する額の納税が、その贈与者の死亡の日まで猶予されます(租税特別措置法(措法)70条の7第1項)。

(2)特例受贈非上場株式に係る猶予税額の免除

(1)の猶予税額は、①その贈与者の死亡より先に経営承継受贈者が死亡した場合、②経営承継受贈者より先にその贈与者が死亡した場合のいずれのときにも、その全部又は一部が免除されます(同第15項1号、2号)。

(3)(2)②の場合の特例

(2)②の納税猶予の適用を受けていた場合において、経営承継受贈者より先に贈与者が死亡するなど一定の要件を満たすときは、経営承継受贈者は、(2)②のとおり猶予税額が免除されるものの、贈与税の納税猶予の適用を受けた非上場株式を贈与者から相続等により取得したものとみなされ(措法70条の7の3第1項前段)、相続税の課税対象とされます。
なお、この規定は、(2)①の場合には適用はありません(同かっこ書)。

 

3.贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合(=2(2)①)の相続時精算課税に係る相続税額の計算


相続時精算課税を選択して贈与税の納税猶予の適用を受けた受贈者が贈与者よりも先に死亡した場合には、同適用者(=経営承継受贈者)の相続人は1(2)の適用を受け、贈与者が死亡したときに、同適用者が負う相続時精算課税の義務(特に1(2)の下線部の計算)を負うのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、平成31年度税制改正により贈与者よりも先に経営承継受贈者が死亡した場合、2(2)より免除を受けた猶予税額に対応する特例受贈非上場株式については、1(1)の計算規定が適用されず、贈与者に係る相続税額の計算には含まれないこととされました(措法70の7第13項9号)。ただし相続時精算課税の適用を受けた同株式以外の財産には、原則通り1(1)の規定が適用されます。

 

なお「非上場株式等に係る贈与税の納税猶予の特例措置」(措法70の7の5)においても、上記と同様の取扱いがなされます(同第10項)。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/20)より転載

[解説ニュース]

底地の相続税法上の評価 VS 不動産鑑定士による評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

 

1 はじめに


相続財産の中に土地(宅地)があり、それが貸地、すなわち、借地権(普通借地権とします。)がある土地である場合、その土地のいわゆる底地としての相続税法上の評価額は、「通常の自用地(=借地権がない土地)としての価額からその借地権の価額を控除した金額」(借地権価額控除方式)であると規定されています(財産評価基本通達25(1))。上記「借地権の価額」については同27が「借地権の価額は、自用地としての価額に、借地権の売買実例価額、精通者意見価格などをもとに地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価する」と定めていて、地価の高い地域ほどその割合も高くなり、東京の中心的商業地では80%~90%(よって底地は20%~10%)、住宅地では60%~70%(同40%~30%)の割合の場合が多いようです。なお、借地権の割合は10%刻みで30%~90%(国税庁のホームページで公表)です。

 

2 底地の相続税法上の評価(借地権価額控除方式)VS不動産鑑定士による評価


借地権価額控除方式により算定される相続税法上の底地の評価額に対し、納税者が主張する不動産鑑定士による底地の評価額はケースバイケースですが、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に従いながらも、低廉な地代を基準とした収益還元価格を軸に主張されることが多く、借地権価額控除方式による評価額のせいぜい半分程度になる場合が少なくないようです。後者の評価額の方が低いので、それを相続税の評価額として採用すれば、相続税額は当然低くなります。

 

しかし、一般的に、後者の評価額による相続税の計算はほぼ認められません。評価通達に従う税務署が認めないのはもちろん、たとえ裁判で争っても、特別な事情がない限り認められない場合がほとんどです。

 

3 底地の相続税法上の評価で不動産鑑定士による評価が認められない理由


まず、納税者側の不動産鑑定士による底地の評価が、その顧客である納税者の希望に沿って評価の引き下げを追求するあまり(?)、その底地に係る鑑定評価上の要素につき、不合理なことを無理に採用して、そこを課税当局から突かれ、主張する鑑定価額の合理性に疑問を生じさせてしまう傾向があります。そのような恣意的な評価をしていないとしても、根本的には次の理由(不動産鑑定士による評価の当否が争われた平成29年3月3日東京地裁判決などの判示を整理したもの) から、収益還元法を軸とする底地の評価自体が相続税法の評価では認められ難い状況にあります。

 

すなわち、底地の市場性は、借地権のそれとは全く異なる状況にあり、底地のみが売買されることがあるとしても、それは、借地契約の当事者間=借地人と地主間での売買が通常です。第三者への底地のみの売買については市場が相当限定され、その土地の近隣において純粋な第三者による取引事例は把握できないことが通常です。そして、以上の状況から、底地については、第三者と売買を行うような一般的な市場、そこにおける相場を想定することは困難であり、売買があるとすれば将来的に借地契約の当事者間において行われることが通常であるという特性を持つ財産である、という基本的な認識が覆し難いものとしてあります。

 

このような特性をもつ財産としての底地の客観的交換価値(これが時価の一般的意義で、相続税法上の時価の意味もこれです。)の把握では、①底地の状態が当分継続することを前提に、その状態で地代収入が生じることにより得られる経済的利益と②将来、底地の取引形態として通常である借地契約の当事者間での売買(借地権者による底地の買取等)が行われるであろうことを前提に、その売買により制限のない完全所有権に復帰することになるという経済的利益の二つ(の現在価値)を考慮すべき、ということになります。この考え方は、実は、鑑定評価基準における底地の価格の考え方とも基本的に一致しています。

 

以上により、将来的にも完全所有権への復帰がおよそ考え難いような特別な事情がある場合はともかく、借地契約終了後に完全所有権に復帰することが予定される通常の借地契約に係る底地の時価は、同契約存続中の地代等の純収益に基づく収益還元法による価値のみで捉えるべきではなく、同契約の終了後の借地権の負担のない所有権に対応する価値をも含むものとして捉えるべきということになります。上記の地代等による収益還元法による価値のみでは、底地の客観的交換価値=時価の全てを適切に表すとはいえない一方、その時点の自用地としての価額から借地権の価額を控除した価額とする方法は、その時価に接近する方法として相応の合理性があるといえます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/05/13)より転載

[解説ニュース]

不動産の財産分与があった場合の不動産取得税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■離婚に伴い自宅を財産分与する場合の税務上の取扱い等-1/2 ~財産分与をする側~

■特別縁故者に対する相続財産の分与と相続税

 

1.財産分与とは


財産分与とは、相手方の請求に基づき、離婚した者の一方から相手方に財産を渡すことをいいます(民法768)。

 

2.不動産の財産分与があった場合の不動産取得税


離婚に伴う財産分与が以下の2要件を満たす場合には、「形式的に財産権の移転が行われることはあっても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによって実質的に財産権の移転が生じるものではない」ため不動産取得税は課税されません。

 

しかし、これ以外の財産分与の場合には、「これによって実質的にその不動産所有権の移転が生じる」として不動産取得税が課税されます(東京地裁昭和45年9月22日判決、大阪高裁昭和51年1月27日判決、東京都「不動産取得税課税事務提要(平成30年3月30日改正)」)。

 

◆要件1  その財産分与が、実質的に夫婦の共有財産の分割と認められるものであること(下記3. (3)参照)

◆要件2  その財産分与が、婚姻中の財産関係を清算する趣旨のものであること(下記4. (1)参照)

3.夫婦の財産関係の分類


夫婦の財産関係は、次の3つに分類されます。
このうち、上記2.の要件1を満たすのは 下記(3)の実質的共有財産を財産分与の対象とした場合です。したがって、下記(1)のように夫婦の一方が相続や贈与によって取得した不動産や、婚姻前から所有していた不動産等を財産分与の対象とした場合、又は下記(2)のように夫婦の共有名義で登記されている不動産を財産分与の対象とした場合には、特段の事情がない限り、不動産取得税が課税されます(東京都「不動産取得税課税事務提要(平成30年3月30日改正)」第2章第3節1(3)エ、東京都「不動産取得税質疑応答集(平成28年4月1日改正)」6-⑩)。

 

 

4.財産分与の分類


財産分与は、次の3つに分類されます。
このうち、上記2.の要件2を満たすのは財産分与が下記(1)の清算的財産分与と認められる場合です。したがって、財産分与が慰謝料や離婚後の扶養料に相当する不動産の取得と認められる場合(下記(2)や(3)の場合)は、不動産取得税が課税されます。

 

5.具体例


(1) 婚姻期間中に夫婦で取得した不動産(登記名義:夫100%)を、財産分与により妻が取得した。
→ 上記4.(1)の清算的財産分与に該当すれば、不動産取得税は課税されない。

 

(2) 婚姻期間中に夫婦で取得した不動産(登記名義:夫1/2、妻1/2)の夫の持分1/2を、財産分与により妻が取得した。
→ 夫婦の共有持分割合が登記上明示されており、民法の規定により共有と推定される「夫婦のいずれに属するか明らかでない財産」(上記3.※印参照)ではないため、不動産取得税が課税される(ただし、納税者からの申し立て等により登記上の持分が実態と異なると推定される場合は、別途認定が行われる可能性がある)。

 

(3) 婚姻期間中に夫婦及び妻の父で取得した不動産(登記名義:夫6/10、妻の父4/10)の夫の持分6/10を、財産分与により妻が取得した。
→ 上記4.(1)の清算的財産分与に該当すれば、不動産取得税は課税されない。

6.最後に


財産分与が上記2.に記載する2要件を満たさない場合には、その財産分与により取得した不動産については、原則として、「固定資産税評価額(宅地は、固定資産税評価額×1/2)×3%」の不動産取得税が課税されます(地法73の15、73の21①、地法附11の2①、11の5①)。

 

ただし、財産分与の対象となった不動産に、その不動産を取得した者が居住する場合には、一定要件を満たせば、中古住宅を取得した場合の不動産取得税の軽減措置の適用を受けることができます。

 

離婚に伴い財産分与を受ける場合には、将来の税負担も考慮してどのような財産で分与を受けるか等、事前に検討し交渉する必要があると思われます。税負担の詳細については、税理士にご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/04/22)より転載

[解説ニュース]

相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

1. はじめに


相続税法64条1項は、「同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税についての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を計算することができる。」と規定しています(赤字は筆者)。

 

この規定が適用されると、私法上は有効に行われた同族会社の行為等を税務上は否認した状態(なかったものとしたり、別の行為等に置き換えたりすること)に基づき評価通達によって相続財産の相続時の時価=課税価格を(申告より高く)評価することになります。

2. 上記1の否認規定の適用要件


表題の適用要件は次の通りです。

 

①対象となる法人は同族会社等(法人税法上の同族会社の外、特殊な要件を満たす法人も含みますが、後者の法人は稀です。)であること

②対象となる行為・計算は、同族会社等の行為・計算であること

③容認した場合(←そのまま否認しない場合、ということです。)、同族会社等の株主等の相続税等の負担を減少させる結果となること

④その税負担の減少が不当と認められること

 

このうち、①から③の判定は難しくありませんが、④の「税負担の減少が不当」か否かの判断は何をもって「不当」とするのか明確ではありません。

3. 裁判例が示す「不当」性の判断基準


以下では、相続税法64条1項の適用による否認の当否が争われた事件(同族会社のオーナー経営者(被相続人)が、癌によって死去する一月前に、時価をはるかに上回る価額でその同族会社の所有する土地・建物を買い取った行為が同項により否認、つまり、税務上なかったことにできるかが争われたもの)の裁判の大阪高裁平成19年4月17日判決で示された、同項の「不当」性の判断基準を示します。

 

同判決では、「確かに、…、相続税法 64条1項の同族会社の行為又は計算が相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるかどうかは、経済的、実質的見地において、当該行為又は計算が純粋経済人の行為として不自然、不合理なものと認められるか否かを基準として判断すべきもの」であるが、同項が、「同族会社が同族会社の株主等の租税負担回避行為に利用されやすく、これを放置すれば税負担の実質的な公平を図ることができないから、実質的な税負担の公平を図るために設けられた規定であり、この趣旨、目的に照らすと、ここでいう純粋経済人の行為として不自然、不合理なものかどうかは、同族会社の利益を図るという同族会社の株主ないし経営者としての立場に重きを置くのではなく、個人としての合理性を中心に考えるべきものである」と判示しました(赤字は筆者)。

 

そして、本件の時価をはるかに上回る価額で同族会社の所有物件を購入する行為については、「同族会社にとっては利益をもたらすもの(筆者注:株主ないし経営者としての立場に重きを置くと同族会社の利益が図られており、その意味で合理的)であるとしても、個人としては極めて不合理なものといわざるを得ない」と判示しました。つまり、「純粋経済人の行為として不自然、不合理なものと認められるか否か」についての判断は、この否認規定の趣旨に照らし、同族会社と取引行為を行った被相続人が、その同族会社と特殊な・親密な関係のない(と仮定した)一個人とした場合で判断するべきだ、ということです。換言すると、「独立当事者間」であるとした場合に通常行われうる取引といえるか、ということです。この判断基準は、この否認規定の制定趣旨に整合し妥当なものと思われます。

 

「不当」性につきこのように判断するということは、上記の経済的合理性を見る対象を、株主やその親族等を相手に上記のような取引を行った同族会社に限定しないということです。つまり、同族会社には経済的利益をもたらすものであっても、それだけではこの規定の適用を免れる理由にはならず、その取引自体の経済合理性、その相手にとっても不自然・不合理ではないかという点もチェックする、ということです。

4. 終わりに


この否認規定の適用の当否に係る裁判例はあまり多くないようですが、裁判例の数は否認例の数とイコールではありませんから、否認されない節税を考える際は、上記の不当性の判断基準に注意を払うことが必要です。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/04/15)より転載

[解説ニュース]

相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与をした者(以下「特定贈与者」)が死亡した場合、相続時精算課税の適用を受けた受贈者(以下「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(以下「相続等」)により取得した財産の評価額と合算して相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税に係る贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。この場合において、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを、特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(同21条の16第1項)。

2.個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合の税務

(1)みなし配当課税となる部分

個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡する場合には、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は”発行会社からの配当”とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算されて最高 55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。

 

(2)株式譲渡所得となる部分

個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常その譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)の通り譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされ、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用を差引いて、譲渡所得の金額が計算されます。この譲渡所得は他の所得と分離され、20.315%の税率で課税されます(租税特別措置法(措法)37条の10第1項等)。

 

(3)相続等により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続等により非上場株式を取得(相続税法および租税特別措置法の規定により、相続等による財産の取得とみなされるものを含む)した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。

3.相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

個人が相続時精算課税の適用を受けて生前贈与により非上場株式を取得したものの、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合には、その者が他の要件を全て満たすときであっても、上記2(3)の「みなし配当課税の特例」の適用が受けられないのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、2(3)の太字の通り、相続等による財産の取得には相続税法の規定により相続等による財産の取得とみなされるものを含むとされます。また、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、相続税法21条の16第1項により、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合でも、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(1の下線部参照)。ゆえに表題の場合においても、一定の手続の下、2(3)の特例の適用を受けることができます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/04/08)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

1.はじめに


相続税の合法的な節税につながる制度として、一般に知られている「小規模宅地等の特例」について、またしても行き過ぎた節税に規制が入ります。平成31年度税制改正大綱により、明かになりました。この小規模宅地等の特例に規制が入るのは、昨年度に続くものです。

2.小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価格の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次の表とおりです。

 

この特例が設けられた趣旨は、居住や事業を継続する相続人の生活基盤となっている財産については納税のため売却せずに済むように守るためといわれています。

 

最近のデータによると、相続税増税が実施された平成27年以降、年間3,000件程度の適用件数となり、直近の平成28年は特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用件数は、3,895件、適用した相続人は4,772人でした。

 

特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用ケースのうち、相続税を支払ったケースは3,074件、その相続人は3,786人、減額される金額は約292億円でした。反対に小規模宅地等の特例の適用等により、相続税の支払いがなかったケースは821件、その相続人は986人、減額される金額は約78億円でした。

3.規制の内容


平成31年度の税制改正では、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等を除外することとされました。

 

ただし、その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合は、特定事業用宅地等の範囲に入ることとされます。要するに、相続直前に事業を開始した形にして節税するのを規制するということです。

 

この改正は、平成31 年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用しないこととされています。

昨年度の税制改正では「貸付事業用宅地等」の改正が行われ、相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地は貸付事業用から除外する改正が行われましたが、今回の改正もほぼ同様です。

4.今後のこと


ただ、平成31年度与党税制改正大綱では、制度の趣旨から逸脱した節税に対し今後さらなる規制強化を検討することも次の通り書き込まれています。

 

「現行の小規模宅地特例について、貸付事業用の小規模宅地特例の例にならい、節税を目的とした駆け込み的な適用など、本来の趣旨を逸脱した適用を防止するための最小限の措置を講ずる。その上で本特例については、相続後短期間での資産売却が可能であること、債務控除の併用等により節税の余地があること、事業を承継する者以外の相続人の税額に効果が及ぶことなどの課題があることを踏まえ、事業承継の支援という制度趣旨を徹底し、制度の濫用を防止する観点から同様の課題を有する貸付事業用の小規模宅地特例と合わせて、引き続き検討を行っていく」(第一 平成31年度税制改正の基本的考え方、②デフレ脱却・経済再生、地方創生の推進⑵中堅・中小・小規模事業者の支援)。

 

現在、多額の借入れにより賃貸マンションを購入し相続を迎え相続税申告したケースで、賃貸マンションの土地等について、国税庁の財産評価基本通達に従い、貸家建付地等であることに伴う評価減の適用をめぐり、行き過ぎた節税だとして評価減が否認された事例が裁判になっています。このケースでは、否認後の賃貸マンションの敷地の評価額は時価とされましたが、小規模宅地特例の適用は認められており、争点とはなっていません。しかし、このような事例が行き過ぎた節税との見方が政府内で固まれば、早晩更なる規制をかけることを大綱がほのめかしたものとみることができます。今後の改正動向に注意が必要になっています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/04/01)より転載

[解説ニュース]

非上場株式の贈与税の納税猶予(特例措置)の当初5年間の納付期限の確定事由

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

1.はじめに

表題の納税猶予を選択するかどうかの判断においては、その適用後に猶予されている税額の納付期限が確定=猶予金額を一定の利子税(今年の率は年0.7%)とともに納付しなければならなくなる一定の’事由’が法定されていること(措法70の7の5③⑥⑧、同70の7③④⑪)を知っておくことも重要です。

 

今回は、表題の特例措置の適用により納税が猶予されている税額について、その贈与税の申告書の提出後の特例贈与経営承継期間(例外的なケースを除き、その申告期限の翌日から5年間。下記「2」ではその5年間を前提に記述します。)中に納付期限の確定を招くことになる事由を整理します。「2」で挙げる事由は、相続税の納税猶予の特例措置でも、また、贈与税・相続税の納税猶予の一般措置でもほぼ同様ですが、一般措置の場合は、贈与時の雇用の8割以上をその5年間の平均で維持できなかった場合(*)が加わります。

 

なお、以下「受贈者」とは、表題の特例を適用した受贈者を意味し、「対象会社」とは同特例の対象になっている株式の発行会社を意味します。

2.5年間の納付期限の確定事由

(紙幅の関係上、各事由の例外的取り扱いは一部を除き割愛しています。)


次の各事由(場合)に該当すると、該当することになった日から2カ月後が猶予されている税額(全額)を納付しなければならない日となります。

 

(1)その受贈者が対象会社の代表権を有しないこととなった場合(身体障害者手帳の交付を受けた場合などやむを得ない理由があるときを除く。)
(2)その受贈者及びその受贈者と政令で定める特別の関係がある者(親族がほとんどですから、以下「親族等」といいます。)の有する対象会社の株式の議決権の数の合計が議決権総数の50%以下となった場合
(3)受贈者の親族等のうちいずれかの者が、その受贈者が有する対象会社の議決権の数を超えるその議決権を有することとなった場合
(4)その受贈者が対象会社の株式の一部又は全部の譲渡又は贈与をした場合
(5)対象会社が会社分割をした場合で、その会社分割に際して吸収分割承継会社の株式を配当財産とする剰余金の配当があつた場合
(6)対象会社が解散(合併を除く。)をした場合
(7)対象会社が資産保有型会社又は資産運用型会社のうち一定のものに該当することとなった場合
(8)対象会社の事業年度における総収入金額(主たる事業活動から生ずる収入の額)が零となった場合
(9)対象会社が会社法の規定により資本金の額の減少をした場合又は準備金の額の減少をした場合(資本金と準備金の間で振替によるものや欠損金の額までの準備金の額の減少を除く。)
(10)その受贈者が納税猶予の適用を受けることをやめる旨の届出書を所轄税務署長に提出した場合
(11)対象会社が合併(措法70の7③13の「適格合併」は除く。)により消滅した場合
(12)対象会社が株式交換等(同項14の「適格交換等」を除く。)により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合
(13)対象会社の株式が上場株式となった場合
(14)対象会社又は議決権総数の50%超が同会社に保有されているその子会社などが風俗営業会社に該当することとなった場合
(15)対象会社が発行する拒否権付き株式(黄金株)をその受贈者以外の者が有することとなったとき
(16)株式会社である対象会社がその株式の全部又は一部の種類を株主総会において議決権を行使することができる事項に制限のある株式に変更した場合
(17)持分会社である対象会社が定款の変更により受贈者が有する議決権の制限をした場合
(18)贈与者が対象会社の代表権を有することとなった場合
(19)贈与税の申告書の提出期限の翌日から一年経過する毎に、その5カ月後の日までに、引き続いて納税猶予の適用を受けたい旨及び対象会社の経営に関する所定の事項と書類を記載・添付した届出書を所轄税務署長に提出しなかった場合

 

前記1の*の場合、特例措置では、それ自体は納付期限の確定事由となりませんが、都道府県知事へその理由等の報告を行い、その「確認」を受けることとなっています(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則20①外)。もし、その理由等によりその「確認」が得られず、知事から「確認書」が交付されないと、それは上記届出書の要添付書類の一つである(措令40の8の5⑳外)ため、適法な届出書の提出ができないことになります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/03/18)より転載

[解説ニュース]

配偶者居住権等の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

 

 

1.はじめに


民法改正により、2020年4月1日以後の相続から、被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割又は遺言によって、「配偶者居住権」を取得することができるようになります(新民法1028①)。

本号では、配偶者居住権等の評価につき、改正法案をもとに、具体的な事例にて解説します(以下、わかりやすさを優先し、算式等を簡略に記載しています)。

2.事例の前提


◇夫は、自宅の建物につき、遺言により、妻に配偶者居住権を、長男にその建物の所有権を取得させた。
◇存続期間は妻の終身であり、夫死亡時、妻は80歳。
◇建物は、軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3.5㎜)であり、耐用年数の1.5倍は60年(図表1参照)、築後経過年数は15年、残存耐用年数は45年
妻の平均余命は11年、これに応じる法施行日現在の法定利率による複利現価率は0.722(図表2参照)。
◇建物(自用)の評価額は10,000千円、土地(自用)の評価額は30,000千円。

3.建物の評価の考え方(新相法23の2①②)


(1) 長男が取得した配偶者居住権付建物の所有権

①考え方
配偶者居住権の存続年数経過時における建物の評価額※の現在価値をその評価額とする。
(= 建物(自用)の評価額÷残存耐用年数(図表1c×存続年数経過後の残存耐用年数(図表1e)×複利現価率
※建物は残存耐用年数にわたり減価する前提で計算。

②評価額
10,000÷45年×34年×0.722=5,455千円

 

(2) 妻が取得した配偶者居住権

①考え方
建物(自用)の評価額から、長男が取得した上記(1)②の評価額を控除した残額。

②評価額
10,000-上記(1)②=4,545千円

4.土地の評価の考え方(新相法23の2③④)


(1) 長男が取得した配偶者居住権付建物の敷地の所有権

①考え方
配偶者居住権の存続年数経過時における土地の評価額※の現在価値をその評価額とする。
(= 土地(自用)の評価額×複利現価率
※土地は残存耐用年数において減価しない前提で計算。

②評価額
30,000×0.722=21,660千円

 

(2) 妻が取得した配偶者居住権に基づく敷地の利用権

①考え方
土地(自用)の評価額から、長男が取得した上記(1)②の評価額を控除した残額。

②評価額
30,000-上記(1)②=8,340千円

5.最後に


本事例の場合、長男は合計27,115千円(上記3(1)②+上記4(1)②)、妻は合計12,885千円(上記3(2)②+上記4(2)②)、2人合計で40,000千円の評価額の財産を取得することになります。

 

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税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/03/25)より転載

 

[解説ニュース]

遺産分割に伴う相続税更正請求時の自社株評価で税金裁判

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

1.はじめに

相続税の更正の請求の特則を巡る税金裁判で、東京地裁は異例の判決を下しました(平成30年1月24日)。争点となったのは、主に相続財産である製造業グループの不動産管理会社(中会社)の非上場株式の評価が、遺産の未分割状態での当初申告と異なる評価額により行うことが認められるかどうかでした。ただ問題となった製造業グループ中心の大会社の非上場株式の評価について、以前に税務訴訟が提起され、納税者側が勝訴していたことが事態を複雑にしたようです。

 

その裁判では、主たる争点の1つにおいてグループ中心の大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にあわないとして、更正処分で採用された純資産価額を反映させた評価額ではなく、類似業種比準方式による評価額が認められています。これにより、同じく相続財産であった同社の子会社である不動産管理会社(中会社)の株式については、親会社の株式を70%以上保有して「株式保有特定会社」であったため、純資産価額方式で評価され、正しく計算し直した評価額が認定されていました(東京高裁平成25年2月28日・確定)。

 

これにより、国税庁は後に、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行ったことはよく知られています(「財産評価基本通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準の改正について」国税庁平成25年5月)。

 

 

2.相続税の更正の請求の特則とは

相続税では、未分割の財産の相続税の計算については、とりあえず各相続人が法定相続分で相続したものとして課税価格や税額を計算することになっています(相続税法55条)。その後分割されていなかった財産の分割協議が成立し、実際に相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なる場合がでてきます。こうして課税価額が減額した場合には、このことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は更正の請求(特則)をすることができるとされています(相続税法32条)。

 

 

3.争いの内容

上記の東京地裁異例判決の事案では、納税者が法定相続分で当初申告していた相続税につき、その際の税務訴訟でグループ中心の大会社の評価で類似業種比準方式が認められたことから、この評価を前提に正しく計算し直して認定した不動産管理会社(中会社)の株式の評価額を利用して遺産分割協議が調ったことに伴う更正の請求をしていました。というのも、上記の財産評価基本通達の変更という後発的な事由により更正の請求をするにしても、法定申告期限等から5年を経過している場合には法令上、減額できなかったからです。しかし当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして更正処分をしたため争いになったわけです。

 

 

4.裁判所の判断

東京地裁は判決で、更正の請求の特則について「原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち申告または従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできない」と解されると説示しました。

 

ただし、東京地裁はこの事案における相続税の更正の請求の特則の適用に当たり次のような問題点を指摘しました。①以前の裁判の判決が「課税価格および納付すべき税額につきその更正処分における金額と異なる金額を認定し、更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではない」。②しかし「その価額を申告における価額と置き換えることもその価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではない」。このため東京地裁は、「争点となった個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断ならびにこれらを基礎として算定される課税価格および相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定および法律判断として行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じている(中略)、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)に係る事件についても同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格および相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当」と判断、過去の税務訴訟で認定された株式の評価額も税務当局を拘束するとしています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/03)より転載

[解説ニュース]

遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

 

1.はじめに

父(H27.2.18死亡)がその死亡の13日前に締結した信託契約で、父死亡後の受益者である長男に遺留分相当の受益権を付与したものについて、信託財産の内容等から、信託の一部を無効とし、また有効な部分に対する遺留分減殺請求の対象は信託財産ではなく受益権であるとする東京地裁判決がありました。

 

2.家族構成・事件当事者・長男の遺留分

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3.主な時系列・事実関係

4.長男の請求

(1)主位的請求
H27.2.5に信託された不動産の所有権移転・信託登記の抹消、遺留分減殺請求に伴う所有権一部移転登記、共有持分権の確認他。

(2)予備的請求
H27.2.1の死因贈与契約に係る遺留分減殺請求他。

 

5.被相続人の主な財産・裁判所の判断

裁判所は、下記③の不動産について、これらから得られる経済的利益を分配することは信託当時より想定していなかったと認めるのが相当であるとし、また、これらを信託の目的財産に含めたのは、外形上、長男に対して遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない等とし、次の判断をしました。

 

 

また、裁判所は、信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺の対象とすべきと判断しました。

 

6.終わりに

遺留分制度を潜脱する(遺留分制度による規制を免れる)意図のある信託については、このように後になって信託の有効性が争われるリスクがあります。そして、遺留分減殺がされた場合には、その後の信託の運営がうまくいかなくなる可能性もあります。遺留分権利者が受ける経済的利益にも配慮して信託設計をしたり遺言書を作成したりする必要があると考えます。

 

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税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/25)より転載