[解説ニュース]

不動産所得の計算で争いになった最近の事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.国外不動産の減価償却費


不動産は土地建物まとめていくらという形で契約して売買することがあります。この場合、土地・建物の価額を合理的に按分してそれぞれの取得価額を求めることになります。たとえば、消費税から建物の価額を逆算する方法、土地と建物の固定資産税評価額の価額比で按分する方法が代表的です。

 

もっとも建物の取得価額が多くなるように操作することで、買主側では減価償却費を多く計上することを考える人もいます。この問題は納税者と国税当局の間でしばしば、争いの種になってきたところです。

 

国内の納税者が、アメリカの賃貸用コンドミニアムを土地建物を一括で買って、建物の取得費を購入にかかった金額の80%として減価償却をしたところ、税務当局から否認された事例があります(国税不服審判所、令和2年6月4日裁決)。

 

この納税者は、投資するにあたり、斡旋業者が紹介したパンフレットなどに米州の相場では土地は金額の20%程度、建物は80%程度となるのが一般的と記載されていたことから、これを基に減価償却費の計算の基になる建物の金額を按分したのです。

 

しかし、国税当局はアメリカでの不動産税(固定資産税)の査定価額を基に按分するのが合理的として、納税者の建物価額が高すぎる結果、減価償却費も過大だとして否認しました。国税不服審判所はこの処分を支持しています。

 

 

2.固定資産税の還付金


固定資産税・都市計画税(以下、固定資産税等という)の土地等の評価額に誤りが見つかると、還付金をもらうことがあります。この場合、還付金をどのように扱うか問題になります(国税不服審判所、平成30年2月13日)。

 

土地の貸付けで不動産所得を得ていたAさんは、平成8年度から平成27年度分までの固定資産税等について、同年9月、評価誤りを見付け地方税務当局に評価誤りを訂正迫り、過誤納金還付を請求しました。

 

地方税務当局は、評価誤りを訂正し、平成23年度から26年度分の納め過ぎとなっていた固定資産税等と還付加算金併せて約90万円を還付する通知をするとともに、平成8年度から平成22年度の納め過ぎの固定資産税等については、地方税法上還付不能となった場合に対応する「要綱」等に基づき、約420万円を補填金として支払う通知をしました。

 

これを受けてAさんは、平成27年分の所得税の当初申告では還付金・補填金を不動産所得の総収入金額に算入していましたが、平成8年度から平成22年度の補填金は非課税、平成23年度分以後の還付金は平成23年から平成26年のそれぞれの年分の不動産所得の金額の計算上必要経費の金額を減算すべきとして更正の請求をしました。しかし、国税当局はこれを認めなかったことから争いになったものです。

 

Aさんは補填金について「損害賠償金に類するもので、必要経費を補填するための金額ではない」、「平成23年度から平成26年度分の固定資産税等は還付通知を受けたことにより遡って過誤納となった。還付金は本来必要経費に算入できない金額であるのに算入していたから各年分の必要経費を減算すべき」と主張しました。

 

国税不服審判所は、補填金について所得税法9条の非課税規定を受けた所得税法施行令30条に規定する「不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払いを受ける損害賠償金」に類するものに該当すると認定。また、国税不服審判所は施行令30条の括弧書き「これらのものの額のうちに損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補填するための金額が含まれている場合には、当該金額を控除した金額に相当する部分」の趣旨について、損害賠償金等の額のうち「必要経費に算入される金額を補填するための金額」を控除するのは非課税所得と必要経費の控除という二重の控除を防ぐためと指摘。

 

そのうえで「平成8年分ないし平成22年分の不動産所得の計算上必要経費に算入した固定資産税等は、必要経費として別建てで計算されており、補填金はそのうち還付不能となった固定資産税等の相当額を補填するものだから非課税から除外される「必要経費に算入される金額を補填するための金額」に該当すると判断しました。

 

平成23年分以後の還付金については、国税不服審判所は「還付金の支払請求権は平成27年の過誤納金還付・充当通知書により確定したものとみるのが相当」として、この金額は平成27年分の不動産所得の総収入金額に算入すべきもの」と判断しています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/06/01)より転載

[解説ニュース]

貸家建築のため既存建物を取壊した場合の取壊し損失等に係る所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

 

 

 

個人が貸家の新築のため、既存の建物を取壊す場合があります。この場合、建物の取壊しにより生じた損失等に係る所得税の取扱いは、その建物が貸家かその個人の自宅であるかにより、以下のようになります。

 

1.貸家を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


(1)貸家について生じた損失の必要経費算入

貸家の取壊しや除却等により生じた損失(以下「資産損失」といいます。)の金額については、その損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入されます。この場合において、貸家の取壊し時における不動産の貸付けが事業的規模であるのか、事業と称するに至らない規模(以下「業務的規模」といいます。)であるかどうかにより、必要経費に算入できる金額が次の通り異なります。

 

①その貸付けが事業的規模の場合
その資産損失及び取壊しに要した費用の全額が必要経費に算入されます(所得税法(所法)51条1項)。不動産所得の金額の計算上、控除しきれなかった損失の額は、給与所得など他の所得の金額との損益通算ができ、青色申告の場合には純損失の繰越控除の適用を受けることができます(同69条、70条)。

 

②その貸付けが業務的規模の場合
その資産損失の額のうち、その取壊し年分の不動産所得の金額(その資産損失を控除する前の金額)を限度として、必要経費に算入されます(所法51条4項)。ただし取壊しに要した費用は資産損失ではないので、その貸付けの規模にかかわらず、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用として全額が必要経費に算入できます(同37条)。

 

(2)損失の金額の計算の基礎とされる資産の価額

不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入される貸家の資産損失の額は、その貸家の未償却残高を基に計算されます。この場合の未償却残高とは、貸家の取壊し等の日にその貸家の譲渡があったものとみなした場合における、貸家の取得費とされる金額とされます(所法38条1項、2項1号、所法施行令(所令)142条1号)。

 

また、貸家など減価償却資産を年の中途で譲渡した場合、その年分の償却費の取扱いは納税者が譲渡所得の金額の計算上取得費に含めるか、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入するかのいずれかを選択できます(所得税基本通達(所基通)49−54)。この取扱いは、資産損失の金額の計算においても同様に適用されます。

 

したがって、不動産所得の金額の計算上、貸家に係る資産損失の計算の基礎とされる未償却残高は、納税者の選択により、次の①又は②の取扱いとなります。

 

①その貸家に係る償却費を不動産所得の必要経費に算入した場合は、その貸家の取壊し日時点における未償却残高となります。
②①以外の場合は、その貸家の取壊し年の前年12月31日時点における未償却残高となります。

 

(3)「事業的規模」に該当するかどうかの判定基準

前述(2)において、不動産の貸付けが事業的規模かどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で行われているかどうかにより、実質的に判断されます。

 

ただし建物の貸付けについて、次のいずれかの基準に当てはまる場合は、原則、事業として行われているものとして取扱われます(所基通26−9)。

 

①貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。
②独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

 

 

2.自宅を取壊した場合の取壊し損失等の取扱い


自宅として使用していた建物の取壊しは、家事上の資産を任意に処分したものと考えられます。このため、その取壊しが貸家に係る事業又は業務を開始するためであっても、その取壊しによる損失の額及び取壊しに要した費用の額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入できません。

 

また、自宅の取壊しによる損失及び取壊しに要した費用の額は、貸家の建設等のために要した原材料費、労務費及び経費の額や、貸家を業務の用に供するために直接要した費用の額に該当しないため、貸家の減価償却計算の基礎とされる取得価額に算入することはできません(所令126条1項2号)。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/05/17)より転載

[解説ニュース]

M&Aの株の売却価額と評価額とのかい離で財産評価基本通達6項が適用された事例

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

 

1.財産評価基本通達6項の適用事案


中小企業のM&Aの目前に中小企業オーナーが亡くなり、相続人が相続直後に亡きオーナーが取りまとめていたM&Aを実行に移し同社株式を売却した事案で、相続人が相続税申告で財産評価基本通達(以下、財基通という。)通りに中小企業の株式を評価した評価額と、M&Aで合意された売却金額との間に「著しいかい離」があるとして税務当局から更正された事案に注目が集まっています。この事案は相続人が審査請求し国税不服審判所で争われました(令和2年7月8日)。今回はこの事案について見ていきます。

2.財産評価基本通達6項とは


相続税の財産評価とは、財産の経済的価値を見積もることです。原則は、相続により取得した財産の時価です。実務では、特に税法で評価の定めがあるもの以外は、国税庁の定めた財基通に基づいて経済的価値を見積もることになっています。これは納税者の申告の際の負担を少なくするため、公平性を担保するためといわれています。たとえば、市街地の宅地の相続税評価の物差しとなる「路線価」も財基達に定められた評価に直結する指標となっていることで、よく知られています。

 

ところが、この財基通6項には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との規定があります。この規定の適用については、平成28事務年度の東京国税局の研修資料で次のような着眼点が示されています。

 

①財基通に定められた評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如していること
②財基通に定められた評価方法のほかに、他の合理的な評価方法が存在すること
③財基通に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による評価額との間に著しい乘雜が存在すること
④上記③の著しいかい離が生じたことにつき納税者側の行為が介在していること

3.事案の概要


事案の経過は次のとおりです。

 

ア、中小企業オーナーであった被相続人は、平成26年5月に、経営する会社の株式の譲渡に向けて買収会社と協議、基本合意書を締結しました。会社の株式は1株約10万円で譲渡することに合意していました。

 

イ、同年中に被相続人が死亡しました。相続人3人のうち一人が売却する株式の発行会社の代表取締役になる一方、買収交渉を継続し、同年7月に「相続人の一人に全ての株式を集めたうえでその相続人は、全ての株式を買収会社に基本合意書の価格(約10万円)で譲渡しました。相続人らは相続税の申告では財基通に基づき「取引相場のない株式で大会社のもの」として評価し1株約8千円として申告していました。

 

ウ、所轄税務署は、平成30年8月に国税庁長官の指示に基づき評価を行う専門家によるDCF法の評価(約8万円)で更正処分等をしました。この評価の際、買収価格も参考にしたとしています。

4.国税不服審判所の審理


相続人側は、処分を不服として再調査請求を経て国税不服審判所(以下、審判所という)に平成31年1月に審査請求をしました。

 

主な争点は評通6項の適用は違法か否かです(争点はもう一つありますが割愛します)。

審判所は相続税法22条を受けて財基通で評価することに一般的な合理性を認めるとともに「著しく公平を欠くような特別な事情があるときは、個々の財産の態様に応じた適正な「時価」の評価方法によるべきであり、評価通達6はこのような趣旨に基づくもの」としました。これを受けた具体的な検討では次のような指摘をしています。

 

①1株当たりの価額で比較すると、申告時の評価額は専門家のDCF法の評価の約10%にとどまり、譲渡価格等の約8%にとどまること。
②譲渡契約等について、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価額で合意が行われた旨をうかがわせる事情等は見当たらない。
③譲渡される会社は、清算を予定しておらず、株主価値の算定方法としてDC F法を採用したことは相当。

 

審判所は、こうしたことから財基通に基づく評価額はDCF法による評価額や株式譲渡価格等と著しくかい離しており、「租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、財基通の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情がある」と結論づけています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/04/26)より転載

[解説ニュース]

同族株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■非上場株式を後継者等(非居住者)に贈与した場合の留意点

■相続税法64条1項の同族会社等の行為又は計算の否認規定の適用要件

 

 

1.はじめに


相続又は遺贈(「相続等」)により非上場株式を取得した個人がその株式を発行した会社(評価会社)の同族株主に該当する場合、その株式の相続税評価額は常に原則的評価方式により評価すると考えがちです。

しかし、同族株主である個人が有する議決権割合によっては、その相続等により取得した株式を特例的評価方式により評価する場合もありえます。

 

2.同族株主のいる非上場会社で、同族株主グループに属する個人が相続等により取得したその会社の株式の相続税評価


「同族株主」とは、原則、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその親族等の「同族関係者」の所有議決権の合計数が、その会社の議決権総数の30%以上である場合における、その株主及びその同族関係者(以下、両者をあわせて「同族株主グループ」という。)をいいます(財産評価基本通達188(1))。

同族株主グループに属する個人株主が相続等により取得した非上場株式の相続税評価方式は、その取得後の議決権割合(その株主の有する議決権数÷評価会社の議決権総数)に応じ、次のとおりとなります(財産評価基本通達178・188)。

 

(1)その議決権割合が5%以上の同族株主の株式原則的評価方式により評価します。

 

(2)その議決権割合が5%未満の同族株主の株式

 

①評価会社に中心的な同族株主がいない場合は、原則的評価方式により評価します。

 

②評価会社に中心的な同族株主がいる場合は、その同族株主が次のいずれに当たるかに応じ、それぞれに掲げる方式で評価します。
イ.中心的な同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ロ.課税時期において評価会社の役員である同族株主または課税時期の翌日から法定申告期限までの間に評価会社の役員となる同族株主は、原則的評価方式により評価します。
ハ.イ及びロ以外の同族株主が取得した株式は、特例的評価方式により評価します。

 

③「中心的な同族株主」とは、同族株主のいる会社の株主で、課税時期において次のイ〜ハの株主グループの有する議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の25%以上である場合における、その株主をいいます(財産評価基本通達188(2))。
イ.同族株主の1人
ロ.イの株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族
ハ.イ及びロの者の同族関係者である会社のうち、イ及びロの者が有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の25%以上である会社

 

3.事例による非上場株式の相続税評価方式の判定


非上場会社の㈱Y(議決権総数10,000個)の代表取締役の甲が死亡し、その遺言により甲所有の㈱Yの株式を、甲の長男Aと孫C(次男Bの子)が取得しました。これにより長男Aの有する㈱Yの議決権数は9,600個、孫Cの有する議決権数は400個となりました(甲に係る相続税の申告期限において、Aは㈱Yの役員ですが、Cは役員ではありません)。この場合、AとCが取得した㈱Y株式の相続税評価は、次のとおりとなります。

 

(1)長男Aの取得した株式の評価方式

Aは㈱Yの議決権総数の96%を有する同族株主です。したがって、Aが取得した㈱Yの株式の評価方式は前述2(1)より、原則的評価方式となります。

 

(2)孫Cの取得した株式の評価方式

Aは中心的な同族株主となり、㈱Yは中心的な同族株主のいる会社となります。これに対し、Cは同族関係者(叔父)であるAとあわせて㈱Yの議決権をすべて有するので、同族株主に該当します。Cについて中心的な同族株主の判定を行うと、Cが有する㈱Yの議決権数は議決権総数の4%(25%未満)、C以外の㈱Yの株主は叔父のAのみであり、株主のなかにCの配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び1親等の姻族はいません。よってCは中心的な同族株主には該当しません。また、Cの有する㈱Yの議決権数は議決権総数の5%未満であり、かつCは甲に係る相続税の申告期限までに㈱Yの役員となるわけでもありません。したがって、Cが取得した㈱Yの株式の評価方式は、前述2(2)②ハより、特例的評価方式となります。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/4/12)より転載

[解説ニュース]

地価動向の曲がり角:住宅譲渡損をカバーする特例について再確認

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

■住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

 

1.はじめに


不動産価格が下落局面になると、活用が期待される住宅税制があります。
その税制とは、「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法41の5)(以下、この特例という。)」です。

 

この特例は、バブル崩壊以降、不動産の値下がりによって含み損を抱えたマイホーム所有者の「損切り」を推し進めることで、住宅買い換えの後押しを狙いとして登場しました。

 

制度の仕組みは、マイホームを売却して出た損失額がある場合、給与所得などと損益通算でき、損失額が給与所得などを上回り、その年の所得が赤字になった場合、赤字を翌年以降3年間繰り越すというものです。

 

主な適用の要件は、次の通りです。

1.売却する年の1月1日時点で住宅の保有期間が5年超

2.売却する年の前年1月から売却した年の翌年末までに新たな住宅に買い換えて居住すること

3.買換え先の住宅の床面積は50㎡以上

4.買い換えにあたっても償還期間10年以上ローンがあり、特例を適用する年の末日に残高があること

 

2.最新の基準地価動向は下落に転じる


昨年公表された7月1日時点の都道府県地価調査によると、三大都市圏では住宅地は平成25年以来7年ぶりに下落に転じたほか、地方圏では住宅地の平均変動率は▲0.9%と下落を継続し、下落幅が拡大(ただし地方圏のうち、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の平均変動率は3.6%と8年連続の上昇)とシテイます。地価Lookレポートなどによると、最近の地価動向でも新型コロナウイルス感染症の影響もあってか、年率20%以上の下げを記録しており大阪市中央区道頓堀など路線価の減額補正を必要とする地域も出てきています。このため住宅価格そのものの動向への悪影響も少なからずあるのではないかと懸念が出てきました。3月24日には今年1月1日時点の公示地価が公表され、地価下落傾向が強まりを見せています。

 

3.最近の特例の適用動向


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例の適用動向は、地価動向や住宅の価格動向の影響を比較的よく反映します。平成18事務年度までは年間2万件もの件数がありましたが、その後、減少を続け、平成22事務年度には1万件の大台を割り込んでいます。直近の動向は以下のとおりです(事務年度とは7月1日〜翌年6月30日までの1年間のことです)。

 

平成26事務年度     9,467件
平成27事務年度     8,701件
平成28事務年度     7,401件
平成29事務年度     6,367件
平成30事務年度     5,522件

 

住宅の損切りを必要とするケースが増える事態となれば、今後、同特例の適用件数は増加することが予想されます。

 

4.繰越控除の適用上の注意点等


住宅買い換えの場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除の特例が適用できない場合は、特例の性格上、「損益通算・繰越控除ができない場合」と「繰越控除ができない場合」との2段構えになっています。
特に注意したいのは繰越控除が適用できない場合です。

 

ア.売却した住宅の敷地の面積が500㎡を超える場合、500㎡を超える部分に対応する譲渡損失の繰越控除はできません(措法41の5⑦三)。ただし譲渡した年は、500㎡を超える部分に係る譲渡損失の金額についても損益通算と対象とすることができます。

 

イ.繰越控除を適用する年の12月31日で買換え先の住宅に償還期間10年以上の住宅ローンがない場合も、損失の繰越控除はできません。なお、資金は「住宅の用に供する家屋の新築若しくは取得又は当該家屋の敷地の用に供される土地若しくは当該土地の上に存する権利の取得に要するもの」とされているため(措法41の5⑦四)、家屋か敷地どちらか一方が10年以上の償還期間を持つなら適用があるとされます。
ウ.合計所得金額が3,000万円を超える年分は、その年分で損失の繰越控除はできません(措法41の5④)。

 

 

このほか、注意すべき場合として、買換え先の住宅にいったん居住後、転勤等により翌年居住しなくなった場合がありますが、この場合は、住まなくなっても繰越控除はできることとされています。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/03/29)より転載

[解説ニュース]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い②

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

1.自宅の敷地のみを譲渡した場合に3,000万円控除の適用が受けられる場合


前回の解説では、個人が自宅の敷地のみを譲渡した場合であっても、譲渡所得の3,000万円控除の適用が認められる場合について解説をしました。

 

前回の解説内容は、以下のとおりです。

 

自宅敷地に対する3,000万円控除の適用は、災害により自宅家屋が滅失した場合を除き、原則として、自宅家屋とその敷地を一体で譲渡する場合に認められます。ただし、租税特別措置法通達(措通)35-2では、所有者が居住の用に供している家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合において、その土地等の譲渡が以下に掲げる要件のすべてを満たしているときは、居住用財産の譲渡に該当するものとして3,000万円控除の適用を認めています。

 

(1)その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。
(2)その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他に使用していない土地等の譲渡であること。

 

2.敷地の譲渡契約を締結後に家屋を取壊した場合の3,000万円控除の適用(私見)


措通35-2の(1)の要件は、土地上の家屋を取壊し、その後に土地の譲渡契約を締結する前提で定められています。では、先に家屋の取壊しての引渡しを定める土地の譲渡契約を締結し、その後、その土地上の家屋を取壊して土地の譲渡をした場合、その土地の譲渡が居住用財産の譲渡に該当するものとして、3,000万円控除の適用が認められるのでしょうか。この疑問について、筆者の私見を以下のとおり述べます。

 

措通35-2の(1)は「その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され」と規定されているので、家屋の取壊し日よりも前に土地の譲渡契約を締結した場合、形式的には要件を満たさないことになります。ただし、租税特別措置法通達逐条解説(譲渡所得関係)によれば、措通35-2が発遣された趣旨は、「買主から家屋を除去したうえで土地のみ売ってほしいという条件が付いたため、家屋を取壊して土地だけを譲渡した場合に、3000万円控除が受けられないことになると、不動産取引の実態にそわない結果となる」を認め、そのようなケースに適用を認めないことが法令の趣旨から外れた結果となると考え、そのような事態を回避することにあります。この趣旨からすれば、「不動産取引の実態」においてありうる土地の譲渡で、措通35-2(1)と(2)の要件と同レベルの内容を有するものについても、3,000万円控除の適用対象となる居住用財産の譲渡に該当すると思われます。

 

措通35-2の要件のうち(1)は、家屋の取壊しが先行し、その後に土地の譲渡契約が行われるという前提に基づいていますが、買主と売主の力関係等の個別事情により、先に土地の譲渡契約を締結し、その後に土地上の家屋を取壊すことも不動産取引ではありうることです。家屋の取壊しと譲渡契約の順序が通達の前提とは逆になった場合でも、それが「不動産取引の実態」の一つであり、譲渡時に居住用財産(であった)という属性が保たれていれば、措通35-2と同様の取扱いが認められるべきです。

 

したがって、先に土地の譲渡契約を締結し、その後、その土地上の家屋を取壊した場合でも、その取引が措通35-2(1)と(2)の要件と遜色ない内容となっているときは、その通達の要件を満たす土地の譲渡と同様に、3,000万円控除の適用が認められると考えます。

 

たとえば、土地の譲渡契約後にその譲渡契約の条件としてうたわれているべき合理的な期間内(措通35-2(1)とのバランスから最長1年が妥当でしょう。)に家屋が取壊され、かつ、措通35-2(1)の後半で規定する「その家屋をその居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の 12月31日までに」土地の譲渡(引渡し)が行われた場合で、その譲渡した土地が譲渡契約の締結後、家屋の取壊しを経て引渡しまでの間に、貸付けその他の用に供していないものであるときは、その土地の譲渡について3,000万円控除の適用が認められるものと考えます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/3/8)より転載

[解説ニュース]

外国人が母国から送金を受けた場合の贈与税課税

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(中山 史子/税理士)

[関連解説]

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

■相続人が米国の連邦所得税上の居住者である場合の手続、報告義務等

 

【質問】

技能実習生として日本に居住する外国人が、母国に住む親から贈与により、親の外国の預金口座から、自分の日本の預金口座へ1,000万円の送金を受けました。贈与者(親)と受贈者(技能実習生である子)は、ともに日本国籍を有さず、日本での居住期間は、受贈者は10年以内、贈与者はゼロ(居住歴なし)です。従って、この送金を受けた金銭が国内財産に該当しなければ、日本の贈与税は課税されないことになります。この場合、この送金を受けた金銭は国内財産と国外財産のどちらに該当するのでしょうか?

 

 

【回答】

この送金を受けた金銭は国外財産に当たり、日本の贈与税は課税されないと考えられます。

 

課税財産の範囲


贈与税の課税財産の範囲は、贈与者と受贈者を、日本国内における住所(=生活の本拠地)の有無や国籍により区分し、その区分の組み合わせにより受贈者ごとに決定されます(下表)(相続税法1条の4、2条の2)。「一時居住者」とは、贈与の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の在留資格)を有する人で、その贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。

 

質問の場合は、受贈者は別表第1「技能実習」の資格を有し、日本での居住期間は10年以内ですので「一時居住者」に該当します。一方、贈与者は日本の居住期間はゼロですから「10年以内に国内に住所なし」に該当し、受贈者の課税財産の範囲は国内財産に限定されます(下表)。よって、この送金が国外財産に該当する場合には、日本の贈与税は課税されません。

 

贈与財産は何か?財産の所在は?


質問のケースは、まず金銭(現金)の贈与契約があり、その後に送金手続きが取られたと考えることが自然です。

 

よって、贈与財産である金銭の所在が国内なのか国外なのかにより贈与税の課税の有無が決定されます。相続税法10条は、財産の所在する場所について規定しており、動産(金銭)については”その動産の所在する場所”とし、その判定は”財産を贈与により取得した時の現況”によるとしています。

 

財産を贈与により取得した時はいつか?

 

民法第549条では「贈与は当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。」とし、第550条では、「書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。」としています。これら民法を受けて、相続税基本通達1の3・1の4共-8では、贈与による財産の取得の時期について「書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時」としています。

 

履行の時とは


「履行の時」とは、「贈与者の送金の手続き完了時(=外国)」なのか、「受贈者の預金口座への入金された時(=日本)」なのかという疑問が生じます。本質問と逆のケースですが、高裁の事案(平成14年9月18日判決)では、日本に居住する親が日本の預金口座から、国外に居住する子の外国の預金口座への送金について、贈与財産が国内財産か国外財産なのかについて争われましたが、裁判所はその判断の中で、”履行の時とは贈与者が送金の手続きを完了した時”という見解を示しました。

 

質問への当てはめ


質問の場合では、書面による契約があれば贈与契約時(=送金の前)、書面がないときは履行時(=親の送金手続き完了時)となり、いずれの時も金銭の所在は国外となり、日本の贈与税は課税対象外となります。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/22)より転載

[解説ニュース]

住宅取得等資金の贈与の非課税制度 コロナ禍の影響で入居等が遅れた場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■生前贈与がある場合の相続税申告の留意点

■令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

1、はじめに


緊急事態宣言に基づく外出の自粛要請など新型コロナウイルス感染防止策の影響により、住宅の新築竣工時期等の遅れが生じ、住宅税制の入居に関する適用要件を充たせなくなることが懸念されています。

 

このため政府は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)について昨年4月、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための国税関係法律の臨時特例に関する法律」を施行し、入居期限までに入居できないケースへの対応を行ったところです。

 

ここでは、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例(措法70の2)」では、どのように対応されているのかについて確認します。

 

2、住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例


住宅取得等資金に関する贈与税の非課税制度とは、父母・祖父母など直系尊属から満20歳以上で贈与の年の合計所得金額が2,000万円以下の子や孫が住宅取得等資金をもらう場合に、申告を条件に一定の限度額までは非課税となる制度です。

 

住宅用家屋の新築・取得・増改築(以下、取得等という)に係る契約の締結日が平成31年4月1日から令和2年3月31日の場合、非課税枠は以下の表のとおりです。

 

 

 

ただし贈与の翌年の3月15日までに住宅を取得等し、その年末までに居住すること等の要件があります。ここで着目すべきは、その贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅の取得等をしなければならない点です。従来から、両制度とも住宅の取得等の期限については、厳格に贈与を受けた年の翌年3月15日とされてきており、これを徒過すると、同制度の適用は認められませんでした。

 

ただし、同制度には納税者自身の責めに帰さない「災害に基因するやむを得ない事情」で住宅の引渡しや新築の時期・入居の時期が適用要件の期日に遅れた場合には、1年延長が認められる法律上の定め(宥恕規定)があります(措法70の2⑩⑪)。

 

それによると、災害に基因するやむを得ない事情により贈与により金銭の取得をした日の属する年の翌年3月15日までに取得等ができなかったとき又は取得等の年の12月31日までに入居できなかった場合であっても、特例の規定の適用を受けることができるとされており、たとえば住宅の取得等の期限が「翌々年3月15日」とされる仕組みです。

 

3、最新の国税庁のFAQ


国税に関し新型コロナウイルス感染症への対応を明らかにした「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」に、令和3年2月2日付で、「住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例における取得期限等の延長について」が追加されました。

 

それによると、国税庁は「今般の新型コロナウイルス感染症に関しては、例えば、緊急事態宣言などによる感染拡大防止の取組に伴う工期の見直し、資機材等の調達が困難なことや感染者の発生などにより工事が施行できず工期が延長される場合など、新型コロナウイルス感染症の影響により生じた自己の責めに帰さない事由については、「災害に基因するやむを得ない事情」に該当するものと認められます」として上記宥恕規定の適用があることを明らかにしました。

 

同FAQでは、次のような事例を示しています。

 

①令和元年に贈与を受け、令和2年中に住宅の取得等をして年末までに住む予定だったケースで、コロナ禍で工期が遅れ年末までに住めなかった場合
→令和3年の年末までに居住すればOK
②令和2年に贈与を受け令和3年3月15日までに住宅の取得等をする予定がコロナ禍で遅れた場合
→令和4年3月15日までに取得し、その年末までに居住すればOK

 

 

なお、工務店等に住宅の新築工事をお依頼している場合には、資金の贈与の翌年3月15日までに棟上げしていれば、特例の適用のある住宅の取得等に含まれます(措法規23条の5の2①)。この点、新築マンションや建売住宅のケースでは、あくまで引渡し時点がポイントですので、注意が必要です。
申告にあたってはコロナ禍により取得時期や居住時期が遅れたことに関し工期が延期されたなど「やむを得ない事情」を証明する書面を用意する必要があります。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/02/16)より転載

[解説ニュース]

譲渡所得の計算上、概算取得費を適用すべき場合、取得費を推定できる場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

■【Q&A】等価交換事業が行われた場合に適用を受けることが出来る譲渡所得の特例

 

1.土地等の概算取得費の特例の概要


土地等の分離課税の長期譲渡所得課税の対象となる資産を売却した時の譲渡所得の計算は、譲渡収入金額から取得費と譲渡費用を控除することで行います。しかし、取得当時の契約書などがなく、実際にいくらで取得したかわからない土地等を譲渡する場合もあります。この場合は、譲渡所得の計算上、売買時の収入金額の5%を取得費とすることが認められています。これを長期譲渡所得の概算取得費控除と言います(措法31の4)。

 

これは、原則として、昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地等や建物等について適用されるものですが、昭和28年1月1日以降に取得した土地や建物等の取得費の計算でも収入金額の5%で概算しても差支えないとされています(措法通31の4 −1)。また、取扱いで短期譲渡所得の計算でも5%の概算取得費の控除が認められています。

 

ただ取得費が収入金額の5%では譲渡所得の金額が大きくなる傾向にあるため、納税者としては少しでも節税したい思いはあるでしょう。

 

そこで、概算取得費よりも高額な「資産取得時の時価」が推定できれば、その推定金額で申告や更正の請求をしたいところです。

 

2.市街地価格指数を基に取得費を推定する方法


平成12年11月16日の国税不服審判所裁決では、土地建物を一括して譲渡したケースで、取得費がわからなかったため、それほど償却の進んでいない築4年の建物について着工建築物構造単価から建物の取得費を割り出し、これを譲渡対価の総額から控除して土地の譲渡価額を求め、取得時の六大都市を除く市街地価格指数(住宅地)の割合を乗じて土地の取得費を算定する方法を合理的としたものでした。

 

市街地価格指数は日本不動産研究所が不動産鑑定士の価格調査によりまとめている資料で、土地の取得価額がわからないときにこれを活用する方法が有望とされています。

 

ただし市街地価格指数(住宅地)等にも限界はあります。平成26年3月4日の国税不服審判所の裁決では、六大都市には含まれていない所在地の土地の取得費について、六大都市市街地価格指数を用いて納税者が畑の取得費を再計算し更正の請求をした事案では、国税審判所は「所在地や地目の異なる六大都市市街地価格指数を用いた割合が、問題の土地の地価の推移を適切に反映した割合であるということはできない」として、納税者の再計算を認めませんでした。市街地価格指数を利用するには、上記のような注意点があります。

 

3.株式の取得費を推定する方法


株式を譲渡した場合にも、取引報告書を保存していないケースなどで、取得価額がわからないことがあります。この場合、譲渡した同一銘柄の株式等について譲渡収入金額の5%を概算取得費とする取扱いが認められています(措法通37の10・37の11共-13)。

 

しかし名義書換日を調べて取得時期とし、その時期の相場(終値)で取得価額を算定することも、合理性を有する取得価額の把握方法として知られています。
最近の国税不服審判所の事例でも、この方法が認められています(令和元年11月28日)。

 

大阪国税局の「誤りやすい事例 株式等譲渡所得関係」では、株式の取得価額がわからない場合の対応について次のように記載しています。

 

1 取引報告書を保存していない場合で、過去10 年間に証券業者で購入したものは、その証券業者で確認の上、取得価額を算定する。
2 取引報告書又は1 の方法により確認できない場合で、日記帳、預金通帳などの本人の手控えにより取得価額が分かればそれによる。
3 2によっても確認できない場合には、その上場株式等の名義書換時期を調べてその時の相場により取得価額を算定する。

 

 

なお、 譲渡価額の5 %の方が有利な場合は、これを取得費として計算して差し支えない。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/01/26)より転載

[解説ニュース]

自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■自宅家屋を取壊して敷地を譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円控除の取扱い①

■譲渡所得税の最近のトラブル事例集

 

1.3,000万円控除の概要


個人が自己の居住用の不動産を譲渡した場合は、譲渡所得の金額の計算上、最高3,000万円が控除できる特例が設けられています。これが「居住用財産の譲渡に係る3,000万円特別控除(以下「3,000万円控除」といいます。)」です。

 

3,000万円控除の対象不動産には、次のようなものがあります(租税特別措置法第35条第2項)。

 

①現に自己が居住している家屋
②居住用に供されなくなった日から同日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した家屋
③①又は②の家屋とともに譲渡したその敷地
④①の家屋が災害により滅失した場合において、その家屋に住まなくなった日から3年目の年の12月31日までの間(原則)に譲渡したその敷地

 

2.自宅家屋を取壊し後に敷地の譲渡契約を締結した場合の3,000万円控除の取扱い


上記1より、3,000万円控除は災害により自宅家屋が滅失した場合を除き、個人が自宅使用の家屋を譲渡することを前提としている特例です。

 

しかし、この前提を厳しく当てはめようとすると、例えば自宅家屋とその敷地を一体で(同時に)譲渡しようとしたが、買主から家屋を除去したうえで土地のみを譲渡してほしいといわれたため、売主がその家屋を取壊して土地だけを譲渡したような場合には、自宅家屋の譲渡を伴わないので、その土地の譲渡については3,000万円控除に係る上記の適用要件を満たさないことになります。不動産取引においては、土地の譲渡を進めるために譲渡前にその土地上の家屋を取壊すことが珍しくなく、家屋の取壊しにより3,000万円控除の適用が受けられないとすると、不動産取引の実態に税制がマッチしていないことになります。

 

このため国税庁では、租税特別措置法通達35-2 により、所有者が居住の用に供している家屋(または居住の用に供されなくなった家屋)を取壊し、その敷地の用に供されていた土地等を譲渡した場合であっても、その譲渡が次の要件をすべて満たしているときは、3,000万円控除の適用を認めています。

 

 

①その土地等の譲渡契約が、その家屋を取壊した日から1年以内に締結され、かつ、その家屋を居住用に使用しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡したものであること。
②その家屋の取壊し後、譲渡契約の締結日まで貸付けその他の用に使用していない土地等の譲渡であること。

 

 

上記①については、土地等の譲渡の期限について、譲渡契約を締結する日が「その家屋を取壊した日から1年以内」という要件を定めています。この要件を設けた理由について、「令和2年1月改訂版 租税特別措置法通達逐条解説(譲渡所得関係)」(大蔵財務協会)では、土地等を譲渡するためにその土地等上の家屋を取壊すという関係からして、このような期限を定めることは合理的であり、かつ、土地等を譲渡するために家屋を取壊す場合、その取壊し後1年間という猶予期間があれば、その間に土地等の譲渡契約をすることが十分可能である旨を説明しています(同逐条解説470頁)。

 

また②については、家屋の取壊し後、土地等の譲渡契約の締結日までの期間は跡地の利用を制限していますが、土地等の譲渡契約の締結後、土地等の所有権移転(引渡し)までの期間については、跡地の利用につき特に制限を設けていません。

 

例えば”等価交換方式”によるマンション建設のため、譲渡契約締結後に土地の譲受者がその土地上に建物を建設し、建物完成時にその建物と土地とを交換する場合には、他の要件を満たしているのであれば、3,000万円控除の適用が認められます。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2021/1/13)より転載

[解説ニュース]

令和3年度税制改正:住宅ローン控除の拡充

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■ 速報!令和3年度税制改正案

■【Q&A】居住用財産の譲渡に係る3,000万円控除から住宅ローン特別控除への特例選択の変更の可否適用を受けることの可否

 

1.はじめに


令和3年度税制改正大綱では、住宅借入金等特別控除(以下、住宅ローン控除という)の拡充(2022年12月末までの入居分)が盛り込まれました。これはコロナ禍の影響による先行き不透明さなどを背景に内需の柱となる住宅投資を刺激するためです。改正の主な項目は、①13年控除の適用期限の延長、②床面積要件の40㎡への緩和です。以下、これらについて解説します。

 

2.13年控除の概要


ノーマルな住宅ローン控除は年末の住宅ローン残高の1%相当額を限度として、居住した年から10年にわたって所得税と住民税から税額控除する制度です(租法41①)。

 

拡充された住宅ローン控除(租法41⑬以下、13年控除という)は平成31年度税制改正で創設された制度で、家屋に係る消費税等の税率が10%であることを前提にノーマルな制度とは次の点で異なりました。

 

表1

 

 

なお、認定長期優良住宅・認定低炭素住宅の場合には控除限度額の計算上住宅ローン年末残高の上限は5,000万円となるほか、建物価額の上限も5,000万円となります。

3.コロナ対策による入居期限等の延長


令和2年4月30日に施行された 「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」の税制上の措置では、入居期限である令和2年12月31日までに入居できなかった場合でも、取得・新築または増改築の日から6か月以内に居住する等、所定の要件を充たしている場合、入居期限が1年延長されることとされました。所定の要件とは次の通りです。

 

⑴一定の期日までに契約が行われていること。
イ-1注文住宅を新築する場合=令和2年9月末
ロ-1分譲住宅・既存住宅を取得する場合、増改築等をする場合=令和2年11 月末

 

⑵新型コロナウイルス感染症の影響によって、注文住宅、分譲住宅、既存住宅又は増改築等を行った住宅への入居が遅れたこと。
確定申告では、契約日がわかる契約書等のほか、コロナ禍の影響により引き渡しが遅れたこと等を証する書類を用意する必要がありました。

 

4.①13年控除の適用期限の延長


大綱によれば、上記⑴の契約期間が延長され、次の期間中に契約した場合には、さらに入居期限が1年延長され令和4年12月31日とされる見通しです。

 

イ-2居住用家屋の新築 令和2年10月1日から令和3年9月30日までの期間
ロ-2居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等 令和2年 12 月1日から令和3年 11 月30日までの期間

 

これに伴い、国土交通省によると、この期間の契約で延長される改正後の13年控除では、確定申告でコロナ禍の影響を証する書類等の添付が不必要になります。
なお、延長前の契約期間に住宅購入契約等をして従前の期限までに入居する場合には、コロナ禍の影響により引渡し等が遅れたことを証する書面の添付が必要なことに変わりがありません。

 

5.②床面積要件の緩和


上記の①の13年控除の適用を前提に、取得する家屋の床面積については、50㎡以上から40㎡以上へと引下げられます。ただし、住宅ロ―ン控除を適用する個人のその年分の所得税に係る合計所得金額が 1,000 万円を超える年については、住宅ローン控除が適用されません。

 

床面積要件の緩和は、住宅取得等資金の贈与税の非課税特例(租法70条の2)、同相続時精算課税制度の特例(租法70条の3)でも行われる予定です(令和3年度税制改正大綱)。

 

なお、住宅税制のうち登録免許税の軽減税率(租法72条の2~75)、不動産取得税1200万円控除ほか(地法73条の14ほか)固定資産税の税額軽減(地法附則15条の6ほか)にも、50㎡を下限とする床面積要件がありますが、これらは、令和3年度税制改正大綱で改正項目に挙がっていませんので、適用にはご注意ください。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/12/23)より転載

[解説ニュース]

速報!令和3年度税制改正案

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

 

 

~与党税制改正大綱に盛り込まれた資産課税を中心とする改正案の主な内容は以下のとおり~

 

 

■【相続税・贈与税】《「令和3年度税制改正大綱」P45、41~42、42~43、43~44》

1.事業承継税制(非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例措置)【拡充】

非上場株式等に係る相続税の納税猶予の特例措置につき、次に掲げる場合には、後継者が被相続人の相続開始の直前において特例認定承継会社の役員でないときであっても、本特例措置の適用を受けることができる(①は、一般制措置についても同様とされる)。

 

①被相続人が、70歳未満(現行:60歳未満)で死亡した場合
②後継者が、経営承継円滑化法施行規則の規定により都道府県知事の確認を受けた特例承継計画において、特例後継者として記載されている者である場合

 

 

2.直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置等【拡充】

(1)令和3年4月1日から同年12月31日までの間に、耐震、省エネ又はバリアフリーの住宅用家屋の新築等に係る契約を締結した場合における非課税限度額が、次のとおり、令和2年4月1日から令和3年3月31日までの間の非課税限度額と同額まで引き上げられる。

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(注)一般の住宅用家屋に係る非課税限度額は、上記の非課税限度額からそれぞれ500万円を減じた額とされる。

 

(2)受贈者が贈与を受けた年分の所得税に係る合計所得金額が 1,000万円以下である場合に限り、床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50 ㎡以上)に引き下げられる。
(注)上記の改正は、令和3年1月1日以後に贈与により取得する住宅取得等資金に係る贈与税について適用される。

 

(3)特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税制度の特例につき、床面積要件の下限が40㎡以上(現行:50㎡以上)に引き下げられる。
(注)上記の改正は、令和3年1月1日以後に贈与により取得される住宅取得等資金に係る贈与税につき適用される。

 

(4)税務署長が、納税者から提供された既存住宅用家屋等に係る不動産識別事項等を使用して入手等をした当該既存住宅用家屋等の登記事項により床面積要件等を満たすことの確認ができた住宅が、本措置の対象となる既存住宅用家屋等に含めることとされる。
(注)上記の改正は、令和4年1月1日以後に贈与税の申告書を提出する場合について適用される。

 

3.直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置【適用期限の延長・見直し】

次の措置を講じた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(1)信託等があった日から教育資金管理契約の終了の日までの間に贈与者が死亡した場合(その死亡の日において受贈者が①23歳未満である場合、②学校等に在学している場合、③教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受講している場合の、いずれかに該当する場合を除く。)には、その死亡の日までの年数にかかわらず、同日における管理残額(=非課税拠出額-教育資金支出額)を、受贈者が当該贈与者から相続等により取得したものとみなされる。

 

(2)上記(1)により相続等により取得したものとみなされる管理残額につき、贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額が、相続税額の2割加算の対象とされる。
(注)上記(1)と(2)の改正は、令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

4.直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置【適用期限の延長・見直し】

次の措置を講じた上、その適用期限が令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(1)贈与者から相続等により取得したものとみなされる管理残額(=非課税拠出額-結婚・子育て資金支出額)につき、当該贈与者の子以外の直系卑属に相続税が課される場合には、当該管理残額に対応する相続税額が、相続税額の2割加算の対象とされる。
(注)上記の改正は、令和3年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

(2)民法の成年年齢の引き下げに伴い、受贈者の年齢要件の下限を18歳以上(現行:20 歳以上)に引き下げる。
(注)上記の改正は、令和4年4月1日以後の信託等により取得する信託受益権等について適用される。

 

 

 

 

■【住宅・土地税制】《令和3年度税制改正大綱」P23~24、44、45、52》

1.住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除【拡充】

(1)住宅の取得等で特別特例取得に該当するものをした個人が、その特別特例取得をした家屋を令和3年1月1日から令和4年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合には、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除及び当該控除の控除期間の3年間延長の特例を適用することができる。
(注)上記の「特別特例取得」とは、その対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等で、次に掲げる区分に応じ、それぞれ次に定める期間内にその契約が締結されているものをいう。
①居住用家屋の新築 …令和2年10月1日から令和3年9月30日までの期間
②居住用家屋で建築後使用されたことのないもの若しくは既存住宅の取得又はその者の居住の用に供する家屋の増改築等…令和2年12月1日から令和3年11月30日までの期間

 

(2) 上記(1)の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、個人が取得等をした床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋についても適用される。ただし、床面積が40㎡以上50㎡未満である住宅の用に供する家屋に係る上記(1)の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の特例は、その者の13年間の控除期間のうち、その年分の所得税に係る合計所得金額が1,000万円を超える年については適用されない。
(注)上記(1)と(2)について、その他の要件等は、現行の住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除と同様とされる。

 

(3)税務署長が納税者から提供された既存住宅等に係る不動産識別事項等を使用して、入手等をした当該既存住宅等の登記事項により床面積要件等を満たすことの確認ができた住宅を、住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除の対象となる既存住宅等に含めることとされる。
(注)上記の改正は、令和4年1月1日以後に確定申告書を提出する場合について適用される。

 

2.宅地等に係る固定資産税等の負担調整措置【拡充】

(1)宅地等に係る固定資産税の負担調整措置は、令和3年度から令和5年度までの間、据置年度に価格の下落修正を行う措置並びに商業地等に係る条例減額制度及び税負担急増土地に係る条例減額制度を含め、現行の仕組みが継続される。

 

(2)(1)に加えて、令和3年度限りの措置として、次の措置が講じられる。
①宅地等(商業地等は負担水準が 60%未満の土地に限り、商業地等以外の宅地等は負担水準が100%未満の土地に限る。)について、令和3年度の課税標準額は令和2年度の課税標準額と同額とされる。
②令和2年度において条例減額制度の適用を受けた土地については、所要の措置が講じられる。

 

(3)宅地等に係る都市計画税の負担調整措置についても、 (1)と(2)の固定資産税の改正に伴う所要の改正が行われる。

 

3.その他【適用期限の延長】

(1)土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限が、令和5年3月31日まで2年延長される。

 

(2)①宅地評価土地の取得に係る不動産取得税の課税標準を価格の2分の1とする特例措置並びに、②住宅及び土地の取得に係る不動産取得税の標準税率(本則4%)を3%とする特例措置の適用期限が、令和6年3月31日まで3年延長される。

 

 

 

 

■【中小企業税制(法人税)】《「令和3年度税制改正大綱」P68、72~73》

1.中小企業者等の法人税の軽減税率の特例(税率を15%とする特例)【適用期限の延長】

適用期限が2年延長され、令和5年3月31日までに開始する事業年度について適用される。

 

2.中小企業(法人)の経営資源の集約化に資する税制【創設】

(1)青色申告書を提出する中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く。)のうち、令和6年3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の経営力向上計画(経営資源集約化措置(仮称)が記載されたものに限る。)の認定を受けたものが、その認定に係る経営力向上計画に従って他の法人の株式等の取得(購入による取得に限る。)をし、かつ、これをその取得の日を含む事業年度終了の日まで引き続き有している場合(その株式等の取得価額が10億円を超える場合を除く。)において、その株式等の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度の法人税の計算上、損金に算入することができる。

 

(2)(1)の準備金は、[1]①その株式等の全部又は一部を有しなくなった場合、②その株式等の帳簿価額を減額した場合等においては取り崩して、その事業年度の法人税の計算上、益金に算入する。さらに、[2]その積み立てた事業年度終了の日の翌日から5年を経過した日を含む事業年度から5年間で、その経過した準備金残高の均等額を取り崩し、各事業年度の法人税の計算上、益金に算入する。
(注)上記の「中小企業者」とは、中小企業等経営強化法の中小企業者等であって、租税特別措置法の中小企業者に該当するものをいう。

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/12/14)より転載

[解説ニュース]

事業承継税制:三代にわたって贈与税の特例措置の適用を受けた場合

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制:「みなし相続の特例措置」の概要と留意点

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

 

 

1.贈与税の特例措置の概要


中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当し、かつ、都道府県知事の認定を受けた会社の株式を、令和9年12月31日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者として一定の要件を満たす者(以下「特例経営承継受贈者」)である場合、その者が納付すべき当該株式(一定の部分に限る。以下「特例対象受贈非上場株式等」)に対応する贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の7の5第1項)。これを「贈与税の特例措置」といいます。
贈与税の特例措置の適用を受けることにより納税が猶予された贈与税額は、贈与者の死亡や、特例経営承継受贈者による下記2の「免除対象贈与」等の事由が生じた場合、特例経営承継受贈者が一定の手続をすることにより、その全部又は一部が免除されます(措法70条の7の5同第11項、70条の7第15項)。

 

 

2.特例経営承継受贈者(2代目経営者)が免除対象贈与をした場合の、納税猶予分の贈与税額の免除


上記1の特例経営承継受贈者が、特例経営贈与承継期間*の末日の翌日(原則)以後に、その特例受贈非上場株式等の全部又は一部をその後継者に贈与し、その後継者が贈与を受けたその特例受贈非上場株式等について、贈与税の特例措置の適用を受ける場合は、その特例経営承継受贈者が一定の届出をすることにより、特例経営承継受贈者の納税猶予分の贈与税額(納税猶予期限が一部確定した税額を除く。)のうち、後継者に係る贈与税の納税猶予の適用に係るものに対応する部分の金額に相当する額が免除されます(措法70条の7の5第11項、70条の7第15項3号)。この場合の特例経営承継受贈者による特例対象受贈非上場株式等の贈与を、「免除対象贈与」といいます。

 

*原則、非上場株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます(措法70条の7の5第2項7号)。

 

 

例えば、1代目経営者から株式を贈与により取得して贈与税の特例措置の適用を受けた2代目経営者(=特例経営承継受贈者)が、特例経営贈与承継期間経過後に、その株式の全部を3代目経営者に贈与し、3代目経営者がその贈与により取得した株式に係る贈与税について贈与税の特例措置の適用を受ける場合、2代目経営者から3代目経営者への株式の贈与は「免除対象贈与」に該当し、2代目経営者が一定の届出をすることにより、納税猶予分の贈与税額が免除されます。

 

 

3.免除対象贈与の後、その贈与者に係る”前の贈与者”が死亡した場合


贈与税の特例措置の適用を受ける特例経営承継受贈者に係る贈与者の贈与が、「免除対象贈与」である場合に、特例経営承継受贈者の死亡の日以前にその贈与者の”前の贈与者”が死亡したときは、特例経営承継受贈者は前の贈与者から特例対象受贈非上場株式等を相続又は遺贈により取得したものとみなされ、贈与者が前の贈与者から贈与を受けた時の価額を基に、相続税が課税されます(措法70条の7の7第2項)。

 

この場合において、贈与税の特例措置の適用を受けた特例対象受贈非上場株式等を、相続又は遺贈により取得をしたものとみなされた特例経営承継受贈者は、一定の要件を満たすことにより、その贈与者の死亡に係る相続税額のうち、その株式等に係る納税猶予分の相続税額について、その特例経営承継受贈者の死亡の日まで納税が猶予されます(措法70条の7の8第1項)。これを「みなし相続の特例措置」といいます。

 

例えば、1代目経営者から贈与により株式を取得して贈与税の特例措置の適用を受けた2代目経営者が、特例経営贈与承継期間経過後に、その株式の全部を後継者である3代目経営者に贈与し、3代目経営者が特例経営承継受贈者としてその贈与により取得した株式に係る贈与税につき贈与税の特例措置の適用を受けた場合、2代目経営者から3代目経営者への株式の贈与は「免除対象贈与」に該当します。この場合の「前の贈与者」とは、特例対象受贈非上場株式等の免除対象贈与をした者(2代目経営者)に対し、その贈与の前にその株式の贈与をした者、すなわち1代目経営者が該当します(措法70条の7の7第2項、第1項、同政令40条の8の5第4項、40条の8第5項2号)。

 

したがって、1代目経営者(=前の贈与者)の死亡により、3代目経営者(=特例経営承継受贈者)は、特例対象受贈非上場株式等を、1代目経営者から相続又は遺贈により取得したものとみなされ(措法70条の7の7第2項)、3代目経営者に対し1代目経営者に係る相続税が課税されます。この場合、1代目経営者から3代目経営者が取得したものとみなされた特例対象受贈非上場株式等に係る相続税の額について、一定の要件を満たすことにより、「みなし相続の特例措置」の適用を受けることができます。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/11/25)より転載

[解説ニュース]

事業承継税制:「みなし相続の特例措置」の概要と留意点

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■事業承継税制を複数の後継者に適用する場合の留意点

■贈与税の納税猶予の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者のみなし配当課税の特例

 

 

1.贈与税の特例措置の概要


中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律に規定する「中小企業者」に該当し、かつ、都道府県知事の認定を受けた会社の株式を、令和9年12月31日までに、その会社の代表権を有していた贈与者(先代経営者)から贈与により取得した個人が、その先代経営者の後継者(特例経営承継受贈者)として一定の要件を満たす者(以下「後継者」)に当たる場合、その者が納付すべき贈与税額の納税が、贈与者の死亡の日まで猶予されます(措法70条の7の5第1項)。これを「贈与税の特例措置」といいます。

 

納税猶予税額は、その贈与者の死亡等の事由が生じた場合には、後継者が一定の手続をすることによりその全部又は一部が免除されます(同第11項、措法70条の7第15項)。

 

贈与税の納税猶予税額が免除される時までに一定の事由が生じた場合は、原則、納税猶予が打切りとなり、後継者はその事由に応じた各期限までに、納税猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要があります(措法70条の7の5第3項等)。

 

 

2.贈与税の特例措置の贈与者が死亡した場合


後継者が上記の贈与税の特例措置の適用を受けていた場合に、その納税猶予の打切りの日またはその後継者の死亡の日以前にその贈与者が死亡したときは、上記1のとおり納税猶予とされていた贈与税が免除となります。その一方で、贈与税の特例措置の適用を受けたその株式は、後継者が贈与者から相続または遺贈により取得したものとみなされ(措法70条の7の7第1項)、相続税が課税されます。

 

ただし、この取扱いにより贈与税の特例措置の適用を受けた非上場株式につき、相続または遺贈により取得をしたものとみなされた後継者は、一定の要件を満たす場合、その贈与者の死亡に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、その非上場株式に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、その後継者の死亡の日まで納税が猶予されます(措法70条の7の8第1項)。これを「みなし相続の特例措置」といいます。

 

みなし相続の特例措置の適用について定める法令等において、贈与税の特例措置に係る贈与者の死亡時期の制限規定はありません。したがって、後継者が贈与税の特例措置の適用を受けている場合、特例措置の贈与者の相続開始が(相続税の特例措置の期限切れの)令和10年1月1日以降であっても、みなし相続の特例措置の適用を受けることができます。

 

 

3.みなし相続の特例措置の適用時の留意点


みなし相続の特例措置の適用にあたっては、後継者に関する要件について注意する必要があります。

 

例えば、先代経営者から後継者(1人)が贈与により株式を取得する場合、その後継者がみなし相続の特例措置の適用の前提となる贈与税の特例措置の適用を受けるためには、贈与時に次の三要件を満たす必要があります(措法70条の7の5第2項6号)。

 

①個人が、その贈与の時において対象となる会社の代表者であること。
②その贈与の時において、その個人およびその者と一定の特別の関係のある個人や法人(以下「特別関係者」)の有する、その会社の株式の議決権の数の合計が、その会社の総議決権の数の50%超であること。
③その贈与が行われた時において、その個人が有する会社の株式に係る議決権の数が、その個人の特別関係者のいずれの者(その時点で、贈与税又は相続税の特例措置の適用を受ける個人がいる場合はその人を除く。) の有する議決権の数以上であること。

 

 

後継者は、特例経営贈与承継期間*中に、納税猶予 が打切りとならず継続されるためには、上記①~③の要件を満たす必要があります(措法70条の7の5第3項、70条の7第3項)。

 

*原則、その非上場株式の贈与に係る贈与税の申告書の提出期限の翌日から同日以後5年を経過する日までの期間をいいます(措法70条の7の5第2項7号)。

 

 

特例経営贈与承継期間の経過後は、上記①~③の要件は撤廃され、後継者がこの三要件を満たさない場合であっても、贈与税の納税猶予は継続します(措法70条の7の5第3項、70条の7第5項)。

 

ただし贈与税の特例措置に係る贈与者が死亡し、その贈与者に係る相続税について、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始時点において、後継者は前述①~③の要件をすべて満たす必要があります(措法70条の7の8第2項1号)。つまり贈与税の特例措置の適用を受けるための後継者の要件は、特例経営贈与承継期間を経過後に緩和され、①~③の要件がなくなりますが、みなし相続の特例措置の適用を受けるためには、贈与者の相続開始の時(瞬間)において、この三要件を満たす必要があるので注意が必要です。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/11/09)より転載

[解説ニュース]

遺産分割による配偶者居住権の設定と相続税の小規模宅地等の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

■配偶者居住権等の評価

 

 

1.配偶者居住権の設定と相続税


被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割又は遺言により、その建物(以下「居住建物」)の全部につき無償で居住・賃貸できる権利(「配偶者居住権」)を取得することができます(民法1028条第1項)。

 

配偶者居住権は遺産分割等により設定され、配偶者の具体的相続分を構成することから、相続財産として相続税の課税対象になります。

 

 

2.配偶者居住権等と小規模宅地等の特例の適用


配偶者居住権自体は建物に関する権利であるため、相続税の小規模宅地等の特例(租税特別措置法(措法)69条の4)の適用対象にはなりません。

 

配偶者が配偶者居住権を取得した場合における、居住建物の敷地の利用権(以下「敷地利用権」)は、土地の上に存する権利に該当するので、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象となります。また、居住建物の敷地の所有権(以下「敷地所有権」)も、その取得者が居住建物に被相続人と同居等の要件を満たすことにより、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用対象となりますます(措法69条の4第1項、第3項2号)。

 

小規模宅地等の特例の適用を受けることができる宅地等は、被相続人等の事業の用または居住の用に供されていた宅地等のうち一定の面積(限度面積)までの部分とされており、特定居住用宅地等に係る限度面積は330㎡とされています。特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を選択しようとする宅地等が、配偶者居住権の目的となっている居住建物の敷地の用に供される宅地等または敷地利用権である場合には、その面積に、それぞれその敷地の用に供される宅地等の価額またはその権利の価額が、これらの価額の合計額のうちに占める割合を乗じて得た面積であるものとみなして、限度面積の要件を判定します(措法施行令40条の2第6項)。

 

3.事例に基づく、遺産分割により配偶者居住権が設定された場合の小規模宅地等の特例の適用の検討

【問】

被相続人甲(令和2年5月死亡)は、生前、所有する土地X(面積240㎡)上に建物Yを建築し、自宅として妻乙と長男Aの3人で同居していました。甲の相続人の乙、A及び次男B(甲の相続開始直前において、甲と別生計かつ自己所有の建物に居住)による遺産分割協議の結果、乙は配偶者居住権とその敷地利用権を、Aは建物Y及び土地Xの所有権の共有持分2分の1を、Bは土地Xの所有権の共有持分2分の1を取得しました。この場合に甲に係る相続税の計算上、小規模宅地等の特例の適用対象となるのはどの部分ですか。なお、甲の相続財産中に土地X以外に宅地等はなく、配偶者居住権が設定されてない場合の土地Xの自用地としての相続税評価額は7,200万円であり、敷地利用権の相続税評価額は2,400万円、敷地所有権の相続税評価額は4,800万円です。

 

【回答】

2の下線部の取扱いを踏まえ、さらに国税庁が令和2年7月に公表した「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(民法(相続法)改正関係)について(情報)」の(事例1-1)で示した取扱いに基づき、甲に係る相続税の小規模宅地等の特例の適用について検討すると、次の通りになります。

 

(1)相続人が取得した宅地等の面積

①乙が取得した敷地利用権の面積:240㎡(土地Xの面積)×2,400万円(敷地利用権の相続税評価額)÷7,200万円(土地Xの自用地としての相続税評価額)=80㎡

 

②AとBが取得した敷地所有権の面積:240㎡×4,800万円(敷地所有権の相続税評価額)÷7,200万円(土地Xの相続税評価額)=160㎡

 

(2)相続人ごとの特例対象宅地等の区分

①乙が取得した敷地利用権(特定居住用宅地等)相続税評価額:2,400万円、面積:80㎡((1)①)

 

②Aが取得した敷地所有権(特定居住用宅地等)相続税評価額:4,800万円(敷地所有権全体の評価額)×1/2(Aの持分)=2,400万円、
面積:160㎡((1)②の面積)×1/2(Aの持分)=80㎡

 

③Bが取得した敷地所有権(注)の相続税評価額:4,800万円×1/2(Bの持分)=2,400万円

 

(注)Bは甲の相続開始直前に甲と別生計かつ自己所有の建物に居住しており、Bが取得した敷地所有権は特定居住用宅地等の要件を満たさないことから、特例の適用を受けることができません。

 

(3)限度面積要件の判定等

80㎡((2)①)+80㎡((2)②)=160㎡≦330㎡

 

よって乙は敷地利用権80㎡、Aは敷地所有権80㎡につき、他の要件を満たす限り小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/10/26)より転載

[解説ニュース]

小規模宅地等の評価減『特定事業用宅地等』

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(廣瀬 理佐/税理士)

 

 

[関連解説]

■小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

 

 

1.特定事業用宅地等


小規模宅地等の評価減の特例の対象となる宅地等のうち「特定事業用宅地等」とは、被相続人等の事業(不動産貸付業等を除く。以下同じ。)の用に供されていた宅地等で、相続又は遺贈によりその宅地等を取得した親族がその事業を引き継ぎ、申告期限まで引き続き保有し、事業を継続していた場合が該当します。
では、相続税の申告期限までの間に転業した場合はどうなるでしょうか。

 

2.被相続人の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース1>

被相続人甲が相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいた宅地を相続人Aが相続し事業を引き継ぎましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得した親族が、①相続開始時から相続税の申告期限までの間にその宅地等の上で営まれていた「被相続人の事業」を引き継ぎ、かつ、相続税の申告期限まで引き続き「その事業」を営んでいること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース1>では甲の営んでいた事業(飲食業)は継続されておらず①の要件を満たさないので、特定事業用宅地等には該当しません。

 

 

3.生計一親族の事業の用に供されていた宅地の場合


<ケース2>

被相続人甲の所有する宅地で、甲と生計を一にする相続人Bが相続開始前の15年間にわたって飲食業を営んでいました。この宅地をBが相続しましたが、相続税の申告期限前に飲食業を全部廃業して小売業に転業しました。

 

被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用に供されていた宅地等である場合の特定事業用宅地等の要件は、宅地等を相続又は遺贈で取得したその親族が、①相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を「自己の事業」の用に供していること、②相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること、です。

 

<ケース2>では生計一親族であるBは、甲の生前中から営んでいた事業(飲食業)は廃業しましたが、その後自己の新たな事業として小売業を営んでいます。「自己の事業」の用に供している、という上記①の要件(及び②の要件)は転業後も満たしているので特定事業用宅地等に該当します。

 

4.「事業継続要件」


<ケース1>のように被相続人が事業を営んでいた宅地等の場合は、被相続人の事業を全部廃業又は全部転業してしまうと「被相続人の事業」を引き続き営んでいないことから特定事業用宅地等に該当しないことになります。なお、被相続人が営んでいた複数の事業のうちの一部の事業を廃業した場合であれば、廃業しなかった事業に係る敷地部分については特定事業用宅地等に該当します。また、転業が事業の一部であり、被相続人の事業と転業後の事業の双方を相続税の申告期限まで営んでいる場合には転業部分に係る敷地を含めて全体を特定事業用宅地等と扱います。

 

一方、<ケース2>のように被相続人と生計を一にする親族が事業を営んでいた宅地等の場合は、申告期限まで引き続きその親族の「自己の事業」の用に供していればよく、相続開始前に行なっていた事業と同一の事業であることは要件とされていません。

 

5.不動産貸付業に転業した場合


ただし、転業後の「事業」に不動産貸付業等は含まれません。飲食業を営んでいた生計一親族が相続税の申告期限までの間に店をやめ、そこを貸店舗としてテナントに賃貸した場合は、その不動産貸付業に該当する部分については事業継続要件を満たさなくなり、特定事業用宅地等に該当しないことになります。

 

〇飲食業➡小売業 事業継続要件を満たす
×飲食業➡不動産貸付業 事業継続要件を満たさない

 

同様に、被相続人の事業の用に供されていた宅地等の場合における事業の一部転業が不動産貸付業への転業であった場合にはその部分については特定事業用宅地等に該当しません。

 

この不動産貸付業に係る部分については、被相続人が相続開始前に営んでいた不動産貸付業をその親族が引き継いだものではないので、貸付事業用宅地等として小規模宅地等の評価減の適用が受けられることになるわけでもありません。(租税特別措置法69条の4第3項1号、4号、租税特別措置法通達69の4-16)

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/10/12)より転載

[解説ニュース]

個人が共有持分を分割した場合の所得税の取扱い

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

[関連解説]

■共有物の分割で不動産取得税がかかるとき

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

 

 

 

【問】

甲と弟の乙は、昨年に父から相続した東京都内の土地(X土地)を持分2分の1で共有しています。甲と乙は、X土地を分割して共有を解消したいと考えていますが、この場合の税務上の取扱いについて次の通り質問します。

 

【問1】X土地を甲と乙が単独で所有する2筆の土地に分割した場合、甲が乙に、乙が甲に、それぞれのX土地の持分の譲渡があったものして、甲と乙に所得税が課税されるのでしょうか。なおX土地は遊休地であり、何ら使用されていません。

 

【問2】甲と乙は、X土地以外に、15年前に父から相続した神奈川県内の土地(Y土地)を持分2分の1で共有しています。X土地の価額とY土地の価額がほぼ同額であることから、甲のY土地の持分と乙のX土地の持分を交換し、X土地を甲の単独所有、Y土地を乙の単独所有にすることも検討していますが、この場合にはX土地の持分とY土地の持分の譲渡があったものとして、甲と乙に所得税が課税されるのでしょうか。

 

【回答】

1.【問1】について


(1)共有物の分割に係る所得税の譲渡所得の課税

二以上の者が一の土地を共有している場合において、その土地をそれぞれの共有持分にて現物分割し、それぞれ単独所有の土地としたときは、判例上、共有者相互問において、共有各部分につき、その有する持分の交換又は売買が行われることであって、各共有者が取得部分について単独所有権を原始的に取得するものではないといわれています(最判、昭42.8.25民集21巻 7号1729頁、平成29年版所得税基本通達逐条解説194頁)。

 

したがって、共有の土地を、それぞれの持分に従って現物分割した場合、①その法律的性格に着目すれば、その共有持分の交換(交換も「譲渡」の一種です。)があったことになるので、その譲渡による利益について所得税が課税されるのではないかという疑問が生じます。

 

しかし、共有関係にある一の資産を現物で分割するということは、②その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていないということもできます。

 

そこで、国税庁は所得税基本通達(所基通)33-1の7により、個人が他の者と共有している土地について、その持分に応ずる現物分割があったときには、税務上は①の考え方によらず、②の考え方に基づき、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとして、所得税の譲渡所得の課税関係を生じさせないこととして取扱うこととしています。

 

なお、現物分割された土地の面積の比と共有持分との比が異なる場合がありえますが、そのような場合であっても、その分割後のそれぞれの土地の価額の比が共有持分の割合におおむね等しいときは、その分割はその共有持分に応ずる現物分割に該当することとされます(所基通33-1の7(注)2)

 

(2)結論

甲と乙が共有しているX土地を、それぞれの持分に従って現物分割した場合、前述(1)より、その分割による土地の共有持分の譲渡はなかったものとされ、所得税の課税関係は生じません。

 

 

 

2.【問2】について


ご質問のように、東京都所在のX土地の乙の持分と、神奈川県所在のY土地の甲の持分を交換し、X土地を甲の単独所有、Y土地を乙の単独所有とした場合には、交換する持分が別の土地の持分であるため、前述1(1)②で述べたような「その資産の全体に及んでいた共有持分権が、その資産の一部(現物分割で取得した部分)に集約されただけにすぎず、資産の譲渡による収益の実現があったといえるだけの経済的実態は備わっていない」とはいえません。したがって私法上の関係通り、甲と乙において、それぞれX土地の持分とY土地の持分の交換(譲渡)があったものと認められることから、甲と乙にそれぞれ所得税が課税されます。

 

ただし、X土地とY土地の持分の交換において、一定の要件を満たす場合には、固定資産の交換に係る所得税の特例(所得税法58条)の適用により”譲渡がなかったもの”とみなすことができます。

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/28)より転載

[解説ニュース]

特定生産緑地制度の税務上の留意点について

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(猪狩 祐介/税理士)

 

 

 

【問】

私は東京都A市に農地を所有し、農業を営んでいます。私の父は所有していた農地の全部について、A市より平成4年(1992年)11月に生産緑地の指定を受けており、私は父から平成10年にその生産緑地の全部を相続し、農業相続人として農地等に係る相続税の納税猶予(措法70の6)の適用を受けています。

 

生産緑地の指定を継続する場合には、その指定の告示から30年経過する前に、A市による「特定生産緑地(生緑法10の2)の指定(10年継続)」を受ける必要があると聞きました。生産緑地の指定から30年を経過する2022年において、特定生産緑地の指定を受ける場合と受けない場合とで、私の相続税の納税猶予や固定資産税の課税にどのような影響がありますか。

 

【回答】

1.特定生産緑地制度の概要


①特定生産緑地制度とは

特定生産緑地制度とは、市町村が、生産緑地指定から30年を経過する日(申出基準日)が近く到来することとなる生産緑地のうち、その周辺の地域における公園、緑地整備の状況など勘案して、申出基準日以後もその保全を確実に行うことが良好な都市環境の形成を図る上で特に有効であると認められるものを、特定生産緑地として指定することをいいます(生緑法10の2)。いわば再指定され た生産緑地を特定生産緑地といいます。

 

②特定生産緑地の指定を受ける場合

特定生産緑地の指定を受けると、10年間の営農義務が課されますが、固定資産税は、従来通り農地課税(低い金額)になります。相続税の納税猶予も営農している限り継続されることになります(措法70の6)。また、特定生産緑地の指定を受けた後でも、生産緑地の所有者である主たる従事者が死亡した等の場合は、相続人が相続税の納税猶予の適用を受けることや、買取りの申出をして生産緑地の指定の解除をすることができます(生緑法10)。

 

③特定生産緑地の指定を受けない場合

特定生産緑地の指定を受けない場合、農地に対する固定資産税は5年をかけて段階的に宅地並み課税になります。現在受けている相続税の納税猶予については、当代に限り継続されますが、次の世代では、生産緑地の指定を受けていないことから、新たに相続税の納税猶予を受けることができません。

 

 

 

 

2.農業相続人の有無別の特定生産緑地の指定と税務上の留意点


特定生産緑地の指定をめぐる税務上の取扱いは、あなたの相続時に相続人となる人のなかに、農業の後継者(農業相続人)がいるかどうかにより、次の通りに区分されます。

 

①農業相続人がいる場合
相続税の納税猶予の適用を受けている場合には、猶予を継続するため、終身営農が必要となります。特定生産緑地の指定を受けなかった場合でも、営農している限り、あなたの納税猶予は打ち切りになりませんが、あなたの親族に農業の後継者がいる場合であっても、あなたの相続において相続税の納税猶予の適用を受けることができず、固定資産税も宅地並み課税となるため、特定生産緑地の指定を受けておくことが望ましいと考えられます。

 

②農業相続人がいない場合
次の世代に農業相続人となる人がいない場合

 

(イ)特定生産緑地の指定を受け10年間営農を継続する(10年毎に継続の可否を判断)
(ロ)30年経過前に買取りの申出を行い、生産緑地の指定を解除し、土地の有効活用を行う。
(ハ)特定生産緑地の指定を受けず、買取りの申出も行わず、いつでも買取りの申出ができる状態で営農を継続する。

 

の3つから選択することになります。

 

引き続き税制上のメリット(固定資産税の農地課税、相続税の納税猶予)を受けるためには、上記(イ)を選択することとなります。対して、宅地に転用して活用するのであれば(ロ)(ハ)を選択することになります。ただし、買取りの申出を行うと、納税猶予が打ち切りとなり、あなたは相続税額と利子税を一括で納付することになります。

 

 

将来農地をどのように維持するかは、税制面からも重要な問題です。特定生産緑地の指定を受けるかどうかについては、農地税制に詳しい税理士に相談しながら検討してください。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/23)より転載

[解説ニュース]

法人が匿名組合契約により営業者に金銭出資している場合の出資金の相続税評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)

 

 

 

1.匿名組合契約の概要


(1)匿名組合契約とは

匿名組合契約とは、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業に対して出資し、営業者はその営業から生ずる利益を匿名組合員に分配することを約する契約をいいます(商法535条)。

 

 

(2)匿名組合員の出資した財産の帰属

匿名組合員の出資は営業者の財産に属し(商法536条1項)、匿名組合員は営業者の行為につき第三者に対して権利義務を有しません(同4項)。
匿名組合員の出資した財産はすべて営業者に帰属し、匿名組合員は営業者が匿名組合員の出資により取得した財産に対して、何らの持分も有しません。

 

(3)契約期間中の利益と損失の分担

営業者はその各営業年度末において、匿名組合員に対し、匿名組合の営業により生じた利益を分配すべき義務を負い、匿名組合員は営業者に対し、匿名組合の営業から生ずる利益の分配を受ける権利を持ちます。匿名組合員による損失の分担は匿名組合契約に必要な要素ではありませんが、匿名組合契約に係る事業は匿名組合員と営業者による事実上の共同事業であることから、その契約に損失を分担しない旨の定めがない限り、匿名組合員は損失の分担をするものと解されています。

 

(4)匿名組合契約終了時の出資の返還

匿名組合契約が終了した場合には、営業者は匿名組合員にその出資の価額を返還しなければなりません。ただし、出資額が損失の分担により減少している場合には、その残額を返還すればよいとされています(同542条)。

 

 

 

2.【Q&A】法人が保有する匿名組合契約に係る出資の相続税法上の評価の解説


【問】

非上場会社の㈱Aは、B㈱との間で、自社を匿名組合員、B社を営業者とする匿名組合契約を締結し、B社の行う航空機リース事業に対して金銭出資をしています。A社の株主甲の死亡に伴い、甲に係る相続税の計算上、A社株式の1株当たりの純資産価額を評価する場合、A社の有する匿名組合契約に係る出資の評価はどのように行うべきでしょうか。なお匿名組合契約上、A社はその匿名組合の事業により生じた損失を分担しない旨の定めはありません。

 

【回答】

(1)匿名組合出資の評価の考え方

匿名組合契約に係る組合員の権利(以下「匿名組合出資」)の相続税法上の評価方法について、法令及び通達による特段の定めがありません。実務上は、平成20年7月25日東京国税不服審判所の裁決例等により、次のように取扱われています。

 

まず匿名組合出資の内容は、1(3)と(4)より、【営業者に対する利益配当請求権+匿名組合契約終了時における出資金返還請求権】と認められます。

 

匿名組合契約が終了した場合、上記1(4)より営業者は匿名組合員に匿名組合出資の価額を返還する必要があり、営業者はその財産状態を計算して、匿名組合員に対しその出資の価額を返還することになります。その出資の価額の返還における計算は、営業者と匿名組合員の間で実質上共同により事業を行っているといえるため、民法上の組合の規定(民法681条)を類推適用することが妥当であり、民法681条では組合員が脱退した場合の持分の払戻しにつき、脱退時における組合財産の状況に従って行うべきと定められているところです。

 

以上により匿名組合出資の価額は、出資金を含めた匿名組合契約に基づく営業者の全ての財産及び債務を対象とし、課税時期(本問では相続により財産を取得した日)において、その匿名組合契約が終了したものとした場合に、匿名組合員が分配を受けることができる清算金の額に相当する金額とするべきと解されます。また清算金の額は、財産評価基本通達(財基通)185(純資産価額)を準用し、課税時期における営業者のその匿名組合事業に係る全ての財産の相続税法上の評価額から、同事業に係る全ての負債の金額を差引いて計算すべきといえます。この場合、匿名組合自体には法人税が課税されないので、法人税等相当額の控除(37%控除)は行いません。

 

(2)匿名組合の事業に属する航空機の評価方法

(1)の匿名組合出資の相続税法上の評価においては、匿名組合の事業に属する航空機を評価する必要がありますが、財基通にその定めがありません。実務上は、財基通5より、航空機と同様に中古市場がある船舶の評価方法を定めた同136を準用し、原則、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価するものと考えられます。

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/14)より転載

[解説ニュース]

借地人の建物を地主が取壊した際の費用をめぐる税金トラブル

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■最近の事例にみる「不動産所得で経費になるもの」

■不動産取得税の「相続による取得」を巡る最近のトラブル

 

1.はじめに


最近、借地人側で相続が開始し、借地契約の解約、借地人の建物収去の問題が発生、それが地主の税金トラブルになるケースが散見されます。問題なのは、借地人の相続人に財力が期待できない場合です。というのも、地主側で建物を取壊す場合には、借地人名義の建物の収去費用について税金トラブルになることがあるからです。

 

借地人名義の建物の取壊しは本来、借地人が行うべきものです。建物を収去して更地にして返す契約となっているためです。この建物収去費用が地主の不動産所得の計算上必要経費と認められるかどうかをめぐって、昨年2つの裁決事例が出ています。1つは、必要経費と認められたもの(国税不服審判所、令和元年9月20日)、もう1つは必要経費として認められなかったもの(国税不服審判所、令和元年9月3日)です。その違いはどこにあったのか、見ていくことにします。

 

 

2.必要経費と認められた場合


事案の成り行きは次の通りです。

 

1、未払地代もあった借地人の相続(平成24年10月)に伴い、その相続人全員が相続放棄をした。

 

2、亡くなった借地人の財産は、相続財産法人に移行(民法951条)。

 

3、地主は平成25年8月、管轄の家庭裁判所に借地人の相続財産管理人の選任の申立てを行い(民法952条)、費用約100万円を予納した。同年9月管理人が選任。

 

4、地主は、平成25年10月、未払賃料の1週間以内の支払い催告とともに、支払いなきときは土地の賃貸借契約解除の意思表示の書面を相続財産管理人に送る。同月、土地の賃貸借契約は解除。

 

5、地主は相続財産法人を相手に、管轄の裁判所に対し賃貸住宅である建物の収去、損害金支払い等を求め提訴。

 

6、地主は、平成27年4月、建物の借家人の立退き、建物収去などにつき相続財産法人と和解が成立。

 

7、地主は和解条項通りに建物が収去されなかったので、同年12月までに裁判所の建物収去の代執行、土地明け渡しの強制執行を申立て、翌年3月までに執行を完了。収去費用は約650万円。

 

 

国税不服審判所は、前記事実関係などから「請求人らが本件土地を賃貸業務以外の用途に転用したことをうかがわせる事情も認められないことからすれば、請求人らの土地の貸付けに係る業務、すなわち、不動産所得を生ずべき業務は、土地賃貸借契約の解除後本件各建物の収去に至るまで継続していたものと認められる」と認定。

 

そのうえで「土地から収益を得る業務を遂行するためには、(借地人の)建物を収去する必要があり、その収去に係る費用については、当初から自らが負担することを想定して建物の収去までの手続を遂行し、建物収去費を支出したところ、実際にも、相続財産法人は無資力であり、支出の時点において、請求又は事後的に求償しても、およそ回収が見込めない状況にあったのであり、客観的にみても、建物収去費は、請求人らにおいて、自ら負担するほかなかったものと認められる」として「建物収取壊費用の支出は、客観的にみて、不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、業務の遂行上必要なものであった」としています。

 

 

3.必要経費と認められなかった場合


次の事案も、借地人側で相続が開始し、借地人の相続人が地代滞納したため、平成25年に地主が賃料債務不履行を理由に契約解除の意思表示をし、契約解除、建物収去明け渡しに関し裁判沙汰になったものです。ただ、平成26年に裁判外で「借家人の退去や建物解体手続きに協力すること、それが実現したときはその費用等を免除する」といった和解をしていました。

 

建物の収去は平成26年6月あら8月末までの間に行い、地主は、取壊しに係る費用3,656,880円を支払ったというものです。

 

国税不服審判所は、地主が「借地人が経済的に困窮しているため、建物の収去義務を確実かつ迅速に履行する保証がない旨判断し、和解契約を締結した上で、自己の負担で本件建物を取り壊した」としているが「各借地人の資産状況及び支払資力などを裏付ける客観的な資料をいずれも確認しておらず、また、各借地人のうち少なくとも1名にはその当時一定の所得があったことが認められることからすれば、請求人が取壊費用を負担せざるを得ない事情があったとは認められない」として、収去費用を必要経費と認めませんでした。

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2020/09/07)より転載