[マッチングサイトを活用したスモールM&A]

~年商1,000万円から2億円までのM&Aの現場から~

第1回:「マッチングサイトを使ったスモールM&A」が活況なワケ~コロナも追い風~

 

〈解説〉

税理士 今村仁

 

(1)4つの数字「381」「127」「650」「22」からみる中小M&Aの今

日本の高齢化率は世界一ですが、同様に中小企業経営者も高齢化しています。具体的な数字を挙げると、全国における事業者数は、会社も個人事業主も含めて約「381」万者。そのうち、経営者の年齢が70歳以上の数は245万者で、そのうち後継者未定の数は「127」万者となっています(2025年予測値)。

 

つまり、日本にある製造業や建設業、飲食店や町のお豆腐屋さんなどすべての事業主のうち、3分の1は、「経営者年齢70歳以上かつ後継者未定」なのです。

 

 

ではこの127万者は、将来どうなるのでしょうか?

 

 

実は、最終的な選択肢は2つしかありません。1つは、「M&Aで第三者承継先に譲渡する」、もう1つは、残念なことではありますが、「廃業」です(親族外の従業員や役員に承継するというのも稀にありますが、単に代表者が変わるだけが大半で、きちんと株主が変わり銀行保証も精算されるケースは極めて少ないです)。

 

さらには、127万者のうち8割である約100万者は、いわゆる中小企業ではなく小規模企業です。小規模企業の場合、M&Aで第三者承継先を探そうとしても、売買対価が低額で十分な手数料が支払えないことから、M&A仲介業者や銀行等に依頼する案件としては相応しくありません。つまり、これまでは、小規模企業の場合は第三者承継先を探そうにも相談者がおらず、結果的に「廃業」しか選択肢がなかったといえます。

 

 

 

この廃業しか選択肢がなかった小規模企業に、「第三者承継」という選択肢を与えてくれるのが、このシリーズの主題である「マッチングサイトを使ったスモールM&A」なのです。

 

 

(2)第三者承継支援総合パッケージで「M&Aマッチングサイト」に言及

このまま放置しておくと日本経済に与えるマイナス要素が大き過ぎるため、中小企業庁は、2019年12月20日に、中小企業支援策として、「第三者承継支援総合パッケージ」を発表しました。「第三者承継=M&A」ですから、この資料には親から子へといった従来政府が推し進めてきた「親族内承継」の言葉はありません。親族内承継だけでは、日本経済は救えないと国がはっきりと方針を打ち出したようにも思います。

 

 

では国は、経済的に日本が沈没してしまうのを回避するために、先ほど見た127万者すべてに支援の手を差し伸べてくれるのでしょうか?

 

 

答えは、「ノー」です。昨今政治も新政権に変わり、「自助・公助・共助」を掲げられ、また、政権ブレーンであるイギリス出身日本在住の経営者デービッド・アトキンソン氏の影響も大きく、「廃業止む無し、生産性向上のためM&Aを推進」の方向性のようです。

 

第三者承継支援総合パッケージによると、2025年までに、70歳以上となる後継者未定の中小企業約127万者のうち、黒字廃業の可能性のある約60万者の第三者承継を促すことを目標としています。60万者のM&Aを10年間かけて実現するということですから、1年間で6万者のM&Aを実現させるということです。

 

 

ではこの国の目標に対して、現在、どれくらいのM&Aが行われているのでしょうか?

 

 

実は、公表ベースですが、年間たったの「4,000件」です。毎年増加しているとはいえ、この数字です。年間6万件と比較すると、15倍の開きがあります。これは対面(リアル)で人がいくら頑張っても実現できる数字ではありません。特に、お相手を探してくるというとても時間と費用の掛かる作業を対面(リアル)で行うことを想定すると、どのようなやり方をしようが実現は不可能でしょう。そこで国は、民間プラットフォーマーとの連携など、ネットを使ったM&Aに大きくシフトしていこうとしているのです。

 

国は年間6万件のM&A実現へ向けて、2015年に作成された「事業引継ぎガイドライン」を、マッチングサイトを使ったM&Aや専門家向けへの記述を加え全面改訂し、コロナ禍の最中である2020年3月31日に「中小M&Aガイドライン」を作成公表しました。

 

また、2020年7月には、マッチングサイトを使ったスモールM&A向けといっても過言ではない、「経営資源引継ぎ補助金」が創設され、M&Aにおける着手金や成功報酬に対して最大200万円が支給されることになりました。ちなみにこの補助金は、売り手も買い手も中小企業であれば対象となっています。

 

 

このように、マッチングサイトを使ったスモールM&Aを、あの手この手で国が支援してくれているのが現状なのです。

 

 

(3)意識の変化や金融緩和で案件増加!(コロナも追い風)

スモールM&Aが活況な理由は、他にもあります。現場に出ていて最近特に顕著に感じるのは、売り手や買い手における「意識の変化」です。

 

今どきの売り手では、例えば父親経営者は、たとえ承継候補となる息子や娘がいても、自ら継がそうとしないケースが増えてきました。それこそ一昔前の特に地方では、父親の会社を承継するというのはある種、運命みたいな部分があったかもしれませんが、それを父親自身がストップをかけるのです。

 

しかし自分事としてこの父親経営者のことを想像してみると、納得がいきます。今までそれこそ四六時中仕事のことを考え、時に従業員との確執なども乗り越えてきて、この先この会社を息子に承継させるとなれば、それこそ死ぬまで会社の心配や不安をぬぐうことはできないでしょう。もしこれを第三者に売却(M&A)できれば、老後はゆっくりと趣味や奥様との時間に何の心配もなく過ごすことができます。老後を不安なく自由に暮らしたいと考える父親経営者は、思いのほか増えています。さらにこのコロナで、立ち止まり考える時間も増えたため、コロナがトリガーとなり、M&Aを決心する経営者が増加しているように思われます。

 

 

息子のほうも、田舎にある父親の会社を引き継げといわれても、都会暮らしを手放したくない、妻の反対や子供の学区のこともある、などでM&Aを父親に自ら提案することも多いようです。

 

 

また、買い手においては、特にこのコロナ禍で、従来のような同業種や類似業種へのM&Aだけではなく、全く異なる分野へのM&Aを検討されるケースが増えています。背景にあるのは、事業におけるリスク分散だと考えられます。リスク分散としてのM&Aを考えるとき、いきなり大きな買い物はしにくいですから、「スモールM&A」が向いているのです。他にも、金融緩和で資金が余っていることもM&Aの追い風となっています。

 

 

このような理由により、現在、スモールM&A、特に手軽に始められる「マッチングサイトを使ったスモールM&A」がかつてない活況を見せているのです。

 

 

 

 

 

[参考資料]

第三者承継支援総合パッケージ(中小企業庁、2020年12月20日)

https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191220012/20191220012-1.pdf

[M&A担当者がまず押さえておきたい10のポイント]

第3回:売却するならどこがいい? -同業他社?大企業?ファンド?-

 

[解説]

松本久幸 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

大和田寛行 公認会計士・税理士(株式会社Stand by C)

 

 

▷第2回:売却したいけれどどうしたらいい?  -会社を売却すると決めたら-

▷第4回:「事業譲渡と株式譲渡」どっちがいいの?-M&Aのスキーム-

▷第5回:実際に売却するときの留意点は?-DDの受入れや価格交渉-

 


会社を売却することを決めて、買い手候補先を探す場合に、どういった先がよいでしょうか?

 

前章にあったように、懇意にしている取引先がいて、そこが買い手候補先となってくれるというようなケースは、事業の内容もよくわかっているでしょうし、従業員もあの取引先であればと安心するでしょう。

 

しかし、そのような身近なところに買い手候補先があるケースは稀です。そうなると、顧問税理士や取引銀行、またはM&A仲介会社等にある程度幅広く買い手候補を探してもらうことになります。その場合にまず聞かれるのが、どういった先に売却することが、会社として、または、会社オーナーとして望ましいと考えるか、ということです。

 

 

会社の事業を継続して従業員や取引先も今まで通りの関係を継続して、ということになると、同業者や近い事業をしている事業会社が望ましい、ということになります。その場合に、買い手候補先の規模が小さ過ぎたり、資金力がなかったり等、何らかの不安があるような会社であれば買い手候補先としては不十分となってしまうでしょう。

 

最近の傾向としては、資金力もあって事業運営もしっかりしていて、人材も経営資源も豊富な上場会社が、自社の事業と近い事業を営む会社を買収するということが多くなっています。ですので、まずは自社と近い事業を営んでいる上場会社(またはそれに準ずる企業)から探してみる、ということが最初に考えられるステップです。

 

 

また、事業会社ではないものの、近年は様々な企業を買収して、種々の施策を打ってより良い会社にしていくことを目的とするファンドに売却するケースも増えています。事業会社では事業面や資金面での様々な制約があって売買条件が納得いくものとはならないようなケースであっても、ファンドであればそのような制約を乗り越えて納得のいく条件を提示してくれる、というケースもあります。

 

また、一昔前までは、ファンドという響きに対してネガティブなイメージもありましたが、最近はファンドもM&Aの有力な受け皿であるということが一般的に認知されてきておりますし、ファンド自体もそういったイメージを払拭しようとしていますので、以前ほどファンドに売却することを躊躇うケースは減っているのではないかと思われます。

 

そのため、まずは同業や近い業種の比較的規模の大きな事業会社を買い手候補先として探しながら、条件次第ではファンドにも接触する、というようなケースが多く見受けられるようになってきています。

 

 

 

 

どちらに売却するにしても、売却する側としては、会社が将来に向かって発展していくことを望むでしょうから、買い手候補先の将来のビジョンや当該M&Aの目的について、きちんと説明を受けた上で、売却する相手先を決めることが必要となります。