[新事業承継税制を理解する!]

「議決権数の考え方の留意点」~新事業承継税制 ポイント解説③~

 

 

北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、新事業承継税制の実務上の留意点を、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。今回のテーマは「議決権数の考え方と留意点」です。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ)

 

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)には、「同族過半数要件」「同族内筆頭要件」といった「議決権数」に着目している要件があります。これらの考え方の留意点を教えてください。

 

 

A、同族過半数要件、同族内筆頭要件といった要件は、保有している株式数ではなく、行使できる議決権の数を基準に要件を充足しているかどうかを判定しております。下記のようなケースに当てはまる会社は、発行済み株式総数=議決権総数とはならない会社ですので、要件を充足しているかどうかを判断する際に慎重に検討する必要があります。

 

1、自己株式を有している会社

自己株式は、議決権を有しないこととされています(会社法308②)。したがって、発行済み株式総数から自己株式数を除いた数が議決権総数となります。下記のケースにおいては、議決権総数は1,200個(1,600個-400個)であるとして、要件の判定を行います。

 

 

2、株式の持ち合いをしている会社

事業承継税制の適用を受けようとする会社(A社)が他社(B社)の議決権総数の25%以上を有する場合、B社はA社について議決権行使することができません(会社法308①)。この場合、A社の発行済み株式総数からB社が保有する数を除いた数が議決権総数となります。下記のケースにおいては、議決権総数は1,100個(1,300個-200個)であるとして、要件の判定を行います。

 

 

3、単元株制度を導入している会社

定款で定めた一単元ごとに議決権を有することとされていますので、単元未満株式については議決権を有しないものとして取り扱います。下記のケース(10株を一単元としている。)においては、議決権総数は497個であるとして、要件の判定を行います。

 

 

4、種類株式を発行している会社

種類株式のうち、議決権の一部に制限がある株式なのか、議決権の全部に制限のある株式なのかによって、下記の表のとおりに取り扱います。たとえば、一部制限株式を贈与・相続により取得した場合であっても事業承継税制の適用を受けることは出来ませんが、同族過半数要件や同族内筆頭要件の判定にあたっては総議決権数に含めて要件の判定を行うこととなります。なお、いわゆる黄金株は議決権に制限のない株式ですので、完全議決権株式等に含まれることになります。

 

 

[中小企業経営者のためのワンポイント解説]

「タイプ別による事業承継対策」~コンサルティングという観点からの『事業承継』とは?①~

 

企業経営者にとって、事業承継の問題はいつの時代も悩みの種となっているようです。「次の世代へスムーズに経営権を移譲したい。」経営者であれば誰もが思われることでしょう。

 

ただし、会社の状況によっては「うちは、事業承継を考えるほど儲かってもいないし、後継者もいないから関係ない」とお考えになられてはいないでしょうか。

 

一口に『事業承継』といっても様々なタイプの事業承継が存在し、実はどのようなタイプの会社であっても事業承継の問題には直面する可能性があります。

 

今後、複数回にわたって”コンサルティングという観点からみたタイプ別の事業承継”について、税理士法人髙野総合会計事務所の専門家の皆様にご解説いただきます。

 

 

〈解説〉

税理士法人髙野総合会計事務所 鈴木哲史/公認会計士・税理士

 

 


【中小企業の事業承継は喫緊の課題!】

今後10年の間に70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定といわれています。

 

事業承継の問題は、会社の健全性が高く、後継者もいる会社(下表のタイプA)以外にも、健全性は高いものの後継者がいない会社(タイプB)や、後継者はいるものの健全性が低い会社(タイプC)、健全性も低く後継者もいない会社(タイプD)のそれぞれにおいて、顛末・方向性は異なるものの直面する問題といえます。

 

そして、事業承継対策は単に相続税を抑えるための対策に留まらず、健全性の低い会社をご子息に引き継がせることのないように健全性を高める、健全性の高い会社をM&A等の手法を用いて外部に高く売却するといったコンサルティング業務も事業承継対策の一環と言えるのです。

 

 

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税理士法人髙野総合会計事務所 「TSKニュース&トピックス」(2018年10月22日)より再編集のうえ掲載

 

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

無議決権株式と属人株式の活用(その1) ~事業承継に活用したい手法~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、中小企業の事業承継に活用したい手法について、お伝えしていただきます。今回は、「無議決権株式」「属人株」です。ぜひご参考にしてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 

 

 


まず、「無議決権株式」ですが、議決権を与えたくないとか、議決権には興味がないといった場合に使われます。よく見かけるのは従業員持株会など社員へのインセンティブに使うパターンですね!
「会社に逆らうことはできないし、配当貰えればいいしといった感じで使われます。」
会社も「インセンティブを上げたいけど、これ以上株主増やしたくないし・・・」
といった形で 言わば相思相愛の形で使われます。
議決権がない代わりに配当は優先的に出るなどという取り決めをする場合も多いですね!

 

もう一つは「種類株式」に似たもので「属人株」というものがあります。会社法に規定されているもので

 

会社法第109条
1.株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2.前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第105条第1項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。

 

となっています。

 

なんと、株主ごとに異なる取り決めを定款変更でできちゃうんですね!
さらに登記事項にもなっていないため登記も必要ありません!!

 

では、どんなことが規定できるかというと

 

株主の権利のうち“剰余金配当請求権” “残余財産請求権” “議決権”が会社法105条に規定されています。

 

つまり配当とか議決権とかが決められるんですね!

当社でも属人株を使った事業承継や株主対策を行っています!

 

次回は実際の活用事例をお伝えしましょう!!
「属人株はわかると大変活用できる優れものです!!」

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2018/02/20号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(山崎信義/税理士)

1.相続時精算課税の贈与者が死亡した場合の相続税

相続時精算課税は、その年の1月1日時点で20歳以上である個人が、その年の1月1日時点で60歳以上である父母又は祖父母から財産の贈与を受けた場合、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」その他一定の書類を贈与税の申告書に添付して納税地の所轄税務署長に提出したときに選択できる税制です(相続税法21条の9等)。

 

相続時精算課税の適用を受ける贈与をした者(以下「特定贈与者」)が死亡した場合、相続時精算課税の適用を受けた受贈者(以下「相続時精算課税適用者」)の相続税額は、その死亡の時までに特定贈与者から贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の贈与時の価額と、特定贈与者から相続又は遺贈(以下「相続等」)により取得した財産の評価額と合算して相続税額を計算し、既に課された相続時精算課税に係る贈与税を控除して算出します(同21条の14、21条の15)。この場合において、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを、特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(同21条の16第1項)。

2.個人が非上場株式を発行会社に譲渡した場合の税務

(1)みなし配当課税となる部分

個人が所有する非上場株式をその発行会社に譲渡する場合には、その会社はその時の株式の価額を対価として株主に支払います。この場合に、個人株主が発行会社への株式の譲渡対価として取得した金銭等の額のうち、[その譲渡株式に対応する発行会社の資本金等の額]を超える額は”発行会社からの配当”とみなされ(みなし配当)、配当所得の金額の収入金額とされます(所得税法25条1項5号)。この配当所得の金額は総合課税の対象となり、他の所得と合算されて最高 55.945%の税率(所得税+復興特別所得税+住民税)で課税されます(所得税法89条等)。

 

(2)株式譲渡所得となる部分

個人株主が非上場株式を譲渡した場合、通常その譲渡対価が譲渡所得の金額の総収入金額となりますが、発行会社による自己株式の取得の場合、(1)の通り譲渡対価の形で受領した金銭の一部は配当とみなされ、その配当とみなされる部分を譲渡対価から控除した残額が譲渡所得の金額の総収入金額となります。その総収入金額から取得費と譲渡費用を差引いて、譲渡所得の金額が計算されます。この譲渡所得は他の所得と分離され、20.315%の税率で課税されます(租税特別措置法(措法)37条の10第1項等)。

 

(3)相続等により取得した非上場株式を発行会社へ譲渡した場合のみなし配当課税の特例

相続等により非上場株式を取得(相続税法および租税特別措置法の規定により、相続等による財産の取得とみなされるものを含む)した個人のうち、その相続等につき納付すべき相続税額のあるものが、その相続の開始があった日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に、その相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された非上場株式をその発行会社に譲渡した場合には、一定の手続の下で、その譲渡対価の全額が株式に係る譲渡所得として課税されます(措法9条の7第1項、第2項)。

3.相続時精算課税の適用を受ける贈与により非上場株式を取得した者の、みなし配当課税の特例の適用

個人が相続時精算課税の適用を受けて生前贈与により非上場株式を取得したものの、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合には、その者が他の要件を全て満たすときであっても、上記2(3)の「みなし配当課税の特例」の適用が受けられないのではないかという疑問が生じます。

 

この点については、2(3)の太字の通り、相続等による財産の取得には相続税法の規定により相続等による財産の取得とみなされるものを含むとされます。また、特定贈与者から相続等により財産を取得しなかった相続時精算課税適用者は、相続税法21条の16第1項により、特定贈与者の相続の時に全く相続財産を取得していない場合でも、その特定贈与者からの贈与により取得した財産で相続時精算課税の適用を受けるものを特定贈与者から相続等により取得したものとみなされます(1の下線部参照)。ゆえに表題の場合においても、一定の手続の下、2(3)の特例の適用を受けることができます。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/04/08)より転載

[事業承継・M&A専門家によるコラム]

事業承継の失敗事例 ~その解決策は?~

 

畑中孝介先生(ビジネス・ブレイン税理士事務所/税理士)に、事業承継の失敗事例とその解決策の糸口をご提示していただきます。ぜひご参考にしてください。

 

〈解説〉

ビジネス・ブレイン税理士事務所(畑中孝介/税理士)

 

 


(事例1)平等に相続させたため、後継者の経営権の確保ができず何も決められなくなった!

(事例2)納税資金の確保ができず、自社株の買い取り請求=会社の財務基盤が大幅に毀損!

(事例3)会長派と社長派に分裂、後継者が追い出されてしまう!

(事例4)社長派と専務派に分裂、専務派の追い出しに多額の資金が!

(事例5)後継者への株式の移転が早すぎて先代社長が追い出される事態に!

(事例6)金融機関に持株会社設立を提案され、多額の借入を起こして後継者に会社を設立させる!

 

 

(事例1)平等に相続させたため、後継者の経営権の確保ができず何も決められなくなった!

〔ケース〕

・相続対策のため、子供にはある程度、平等に相続させた。
・会社に関係のない相続人(主に配偶者)から相続した株式の買い取り請求がきた。
議決権が33%しかないため常にほかの株主の賛成がないと運営できず、後継者の運営に支障が出た。

→何も決められず、M&Aも役員選任も主体的に決められないまま運営に支障が・・・

 

【解決策】

事前に株式の集約や、属人株式や種類株式などで議決権の集約をしておくべき

(事例2)納税資金の確保ができず、自社株の買い取り請求=会社の財務基盤が大幅に毀損!

〔ケース〕

・企業オーナーが、遺言を作成せずに急逝。(妻、長男、長女)
・事前対策が不十分のため、相続財産の大半を自社株と事業資産が占めることに。
・長女が法定相続分での遺産分割を主張
・長男は、無議決権株式の発行を提案するが、長女は現金を要求。
・長男は、代償分配金・納税資金支払いのため自社株の買取を会社請求せざるを
得なくなり、結果として財務内容が急速に悪化することになった。

 

【解決策】

事前に遺言を作成するとともに、相続対策の中での納税資金を生命保険等で確保しておくべきでは?

(事例3)会長派と社長派に分裂、後継者が追い出されてしまう!

〔ケース〕

・社長が急死、後継者の息子が株式の35%しか相続できなかった。
・そもそも社長自身が、会社の株式の40%しか保有していなかった。
・残りの株式は、会長である社長の兄の相続人及び専務である社長の弟と役員及び取引先が保有していた。
・死後専務が会長の遺族・取引先等を取り込み社長に就任。
・最終的に、専務が経営するものの、派閥争いの結果従業員の離反を招くこととなった。

 

【解決策】

兄弟の間で事業承継の道筋をつけ、決めておかないと、叔父甥の関係になった段階では急にもめることも・・・。議決権は少なくとも生前に確保しておくべき

(事例4)社長派と専務派に分裂、専務派の追い出しに多額の資金が!

〔ケース〕

・社長と専務(弟)で、会社の株式をそれぞれ60%と40%の比率で保有
・その後、それぞれの息子が会社に入社。
・社長より専務の方が会社の成長に貢献している状況。
・社長が強硬に自らの息子を社長にしたため、専務は反発しは退任するとともに退職金と株式の買取りを要求した。
・結局純資産価額に近い金額で買い取りをせざるを得なくなり、数億円ものお金が会社から流出し財務内容が大幅に悪化

 

【解決策】

兄弟の間で事業承継の道筋をつけ、決めておかないと、叔父甥の関係になった段階では急にもめることも・・・このケースでは事前に会社分割でそもそも会社を分けることも検討しておくべきでは

(事例5)後継者への株式の移転が早すぎて先代社長が追い出される事態に!

〔ケース〕

・社長が、息子に事業承継しようと社長に据えて経営を任せ、株式の40%を徐々に贈与していった。
・ところが、経営方針をめぐる対立が激しくなり、会長は息子を解任し社長に復帰。
・解任された息子は、社長への復権を要求。
・そのうちM&A案件による事業買収のため第3者割当増資を計画
息子が40%の株式を保有していたため、否決される。
事業拡大のチャンスと対外的な信用を失う

 

【解決策】

財産としての株式は相続対策で事前に渡しても、議決権株式や種類株式で決定権は完全に委譲するまでは確保しておくべき 金の切れ目が…にならないように

(事例6)金融機関に持株会社設立を提案され、多額の借入を起こして後継者に会社を設立させる

〔ケース〕

・業績好調のA社は相続対策を金融機関から薦められ、資産管理会社を設立した。
・資産管理会社は息子名義で、現社長は資産管理会社に時価10億円で株式を売却した。
・売却に際し、持株会社組成費用2000万円、株式の譲渡に対する譲渡所得税2億円を払う。

 

【解決策】

資産管理会社の設立は相続対策として有効ではあるが、譲渡や贈与をするのは株価が下がったタイミングで行うなどタイミングを見計らうことが重要。資産をわざわざ高値でつかませ、必要以上に後継者に借入・返済負担・金利負担を負わせる必要はないと思われます。

 

 

 

全てのパターンに言えますが、今回のコラムのテーマでもあります株式「財産としての株式」「支配権としての株式」という考え方で分けてとらえ「支配権」の確保をどのように実現するかということです。株式自体を動かすことにこだわらず、議決権の確保をし運営権を確保したうえで、株式の移転はその次に考える。もちろん両方を確保できればそれが一番いいのですが・・・。
また、現在の社長が元気のうちには、親族みんな文句を言わないのですが、死後突然不満が爆発ということもありますので、やはり事前の対策が重要ですね。

 

 

 

 

「ビジネスブレイン月間メルマガ(2017/06/15号)」より一部修正のうえ掲載

[解説ニュース]

小規模宅地等の特例における特定事業用宅地等の規制強化

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

 

 

[関連解説]

■介護施設で亡くなった場合の相続税の小規模宅地等の特例

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

 

1.はじめに


相続税の合法的な節税につながる制度として、一般に知られている「小規模宅地等の特例」について、またしても行き過ぎた節税に規制が入ります。平成31年度税制改正大綱により、明かになりました。この小規模宅地等の特例に規制が入るのは、昨年度に続くものです。

2.小規模宅地等の特例とは?


小規模宅地等の特例とは、被相続人等の商売の敷地(特定事業用宅地等)や自宅の敷地(特定居住用宅地等)、貸家の敷地(貸付事業用宅地等)を親族が相続した場合に、一定要件のもと、その土地の課税価格の一定割合が減額される税制上の特典です。主な宅地の種類と上限面積、減額割合は次の表とおりです。

 

この特例が設けられた趣旨は、居住や事業を継続する相続人の生活基盤となっている財産については納税のため売却せずに済むように守るためといわれています。

 

最近のデータによると、相続税増税が実施された平成27年以降、年間3,000件程度の適用件数となり、直近の平成28年は特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用件数は、3,895件、適用した相続人は4,772人でした。

 

特定事業用宅地等による小規模宅地等の特例の適用ケースのうち、相続税を支払ったケースは3,074件、その相続人は3,786人、減額される金額は約292億円でした。反対に小規模宅地等の特例の適用等により、相続税の支払いがなかったケースは821件、その相続人は986人、減額される金額は約78億円でした。

3.規制の内容


平成31年度の税制改正では、特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等を除外することとされました。

 

ただし、その宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、その宅地等の相続時の価額の15%以上である場合は、特定事業用宅地等の範囲に入ることとされます。要するに、相続直前に事業を開始した形にして節税するのを規制するということです。

 

この改正は、平成31 年4月1日以後に相続等により取得する財産に係る相続税について適用され、同日前から事業の用に供されている宅地等については、適用しないこととされています。

昨年度の税制改正では「貸付事業用宅地等」の改正が行われ、相続開始前3年以内に貸付事業を開始した宅地は貸付事業用から除外する改正が行われましたが、今回の改正もほぼ同様です。

4.今後のこと


ただ、平成31年度与党税制改正大綱では、制度の趣旨から逸脱した節税に対し今後さらなる規制強化を検討することも次の通り書き込まれています。

 

「現行の小規模宅地特例について、貸付事業用の小規模宅地特例の例にならい、節税を目的とした駆け込み的な適用など、本来の趣旨を逸脱した適用を防止するための最小限の措置を講ずる。その上で本特例については、相続後短期間での資産売却が可能であること、債務控除の併用等により節税の余地があること、事業を承継する者以外の相続人の税額に効果が及ぶことなどの課題があることを踏まえ、事業承継の支援という制度趣旨を徹底し、制度の濫用を防止する観点から同様の課題を有する貸付事業用の小規模宅地特例と合わせて、引き続き検討を行っていく」(第一 平成31年度税制改正の基本的考え方、②デフレ脱却・経済再生、地方創生の推進⑵中堅・中小・小規模事業者の支援)。

 

現在、多額の借入れにより賃貸マンションを購入し相続を迎え相続税申告したケースで、賃貸マンションの土地等について、国税庁の財産評価基本通達に従い、貸家建付地等であることに伴う評価減の適用をめぐり、行き過ぎた節税だとして評価減が否認された事例が裁判になっています。このケースでは、否認後の賃貸マンションの敷地の評価額は時価とされましたが、小規模宅地特例の適用は認められており、争点とはなっていません。しかし、このような事例が行き過ぎた節税との見方が政府内で固まれば、早晩更なる規制をかけることを大綱がほのめかしたものとみることができます。今後の改正動向に注意が必要になっています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/04/01)より転載

[解説ニュース]

非上場株式の贈与税の納税猶予(特例措置)の当初5年間の納付期限の確定事由

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(亀山 孝之/税理士)

 

1.はじめに

表題の納税猶予を選択するかどうかの判断においては、その適用後に猶予されている税額の納付期限が確定=猶予金額を一定の利子税(今年の率は年0.7%)とともに納付しなければならなくなる一定の’事由’が法定されていること(措法70の7の5③⑥⑧、同70の7③④⑪)を知っておくことも重要です。

 

今回は、表題の特例措置の適用により納税が猶予されている税額について、その贈与税の申告書の提出後の特例贈与経営承継期間(例外的なケースを除き、その申告期限の翌日から5年間。下記「2」ではその5年間を前提に記述します。)中に納付期限の確定を招くことになる事由を整理します。「2」で挙げる事由は、相続税の納税猶予の特例措置でも、また、贈与税・相続税の納税猶予の一般措置でもほぼ同様ですが、一般措置の場合は、贈与時の雇用の8割以上をその5年間の平均で維持できなかった場合(*)が加わります。

 

なお、以下「受贈者」とは、表題の特例を適用した受贈者を意味し、「対象会社」とは同特例の対象になっている株式の発行会社を意味します。

2.5年間の納付期限の確定事由

(紙幅の関係上、各事由の例外的取り扱いは一部を除き割愛しています。)


次の各事由(場合)に該当すると、該当することになった日から2カ月後が猶予されている税額(全額)を納付しなければならない日となります。

 

(1)その受贈者が対象会社の代表権を有しないこととなった場合(身体障害者手帳の交付を受けた場合などやむを得ない理由があるときを除く。)
(2)その受贈者及びその受贈者と政令で定める特別の関係がある者(親族がほとんどですから、以下「親族等」といいます。)の有する対象会社の株式の議決権の数の合計が議決権総数の50%以下となった場合
(3)受贈者の親族等のうちいずれかの者が、その受贈者が有する対象会社の議決権の数を超えるその議決権を有することとなった場合
(4)その受贈者が対象会社の株式の一部又は全部の譲渡又は贈与をした場合
(5)対象会社が会社分割をした場合で、その会社分割に際して吸収分割承継会社の株式を配当財産とする剰余金の配当があつた場合
(6)対象会社が解散(合併を除く。)をした場合
(7)対象会社が資産保有型会社又は資産運用型会社のうち一定のものに該当することとなった場合
(8)対象会社の事業年度における総収入金額(主たる事業活動から生ずる収入の額)が零となった場合
(9)対象会社が会社法の規定により資本金の額の減少をした場合又は準備金の額の減少をした場合(資本金と準備金の間で振替によるものや欠損金の額までの準備金の額の減少を除く。)
(10)その受贈者が納税猶予の適用を受けることをやめる旨の届出書を所轄税務署長に提出した場合
(11)対象会社が合併(措法70の7③13の「適格合併」は除く。)により消滅した場合
(12)対象会社が株式交換等(同項14の「適格交換等」を除く。)により他の会社の株式交換完全子会社等となった場合
(13)対象会社の株式が上場株式となった場合
(14)対象会社又は議決権総数の50%超が同会社に保有されているその子会社などが風俗営業会社に該当することとなった場合
(15)対象会社が発行する拒否権付き株式(黄金株)をその受贈者以外の者が有することとなったとき
(16)株式会社である対象会社がその株式の全部又は一部の種類を株主総会において議決権を行使することができる事項に制限のある株式に変更した場合
(17)持分会社である対象会社が定款の変更により受贈者が有する議決権の制限をした場合
(18)贈与者が対象会社の代表権を有することとなった場合
(19)贈与税の申告書の提出期限の翌日から一年経過する毎に、その5カ月後の日までに、引き続いて納税猶予の適用を受けたい旨及び対象会社の経営に関する所定の事項と書類を記載・添付した届出書を所轄税務署長に提出しなかった場合

 

前記1の*の場合、特例措置では、それ自体は納付期限の確定事由となりませんが、都道府県知事へその理由等の報告を行い、その「確認」を受けることとなっています(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則20①外)。もし、その理由等によりその「確認」が得られず、知事から「確認書」が交付されないと、それは上記届出書の要添付書類の一つである(措令40の8の5⑳外)ため、適法な届出書の提出ができないことになります。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング「TACTニュース」(2019/03/18)より転載

[初級者のための入門解説]

いくらで売却できる?-譲渡金額の算出方法-  ~ゼロから学ぶ「M&A超入門」①~

 

M&A実務の基本ポイントを、実務経験豊富な植木康彦先生(Ginza会計事務所/公認会計士・税理士)にわかりやすく解説していただきます。

今回は、M&Aに携わる皆さまにとって、最も関心のあると思わる「譲渡金額の算出方法」を取り上げます。「中小企業で活用される評価法とは?」「価格交渉はできるの?」など、皆さまの疑問にお答えます。

 

〈解説〉

公認会計士・税理士 植木康彦(Ginza会計事務所)

 

 

事業価値評価の考え方は??

M&Aで売買するのは事業そのものですが、多くのケースではその企業が発行する株式を売買の対象とします。すなわち、株式の価値が売買価額の基礎となりますが、企業の株式価値事業価値とでは違いがあるので、まずはその違いを整理しましょう(複雑と感じる方は、違うという認識だけで大丈夫です)。

 

下図のように、企業価値は事業価値(事業資産-事業負債)と非事業資産(図左側)によって構成されます。非事業資産とは遊休資産のように事業価値を生まない資産が持つ価値のことをいい、事業価値は事業自体の持つ価値のことをいいます。

 

M&Aの多くのケースで売買の対象となる株式価値(図右下側の黄色部分)は、事業価値に非事業資産を加え、そこから債権者に帰属する有利子負債(債権者価値)を控除したものをいいます。なお、事業価値を売買対象とするケースもあります。

 

 

 

 

一般的には、まず事業価値を評価します。事業価値の算定方法には、将来のキャッシュフローからアプローチするインカムアプローチ(DCF法など)、貸借対照表の純資産からアプローチするコストアプローチ(純資産価額法など)、類似上場会社の指標からアプローチするマーケットアプローチ(マルチプル法など)があります。

 

 

 

 

なお、税法にも株式評価のルールがあって、非上場株式の評価の方法は国税庁の財産評価通達に示されております。

 

端的に言うと、少数株主の場合は配当還元法(およそ額面価額)支配株主の場合は会社の規模によって純資産価額法と類似業種比準法によって評価します。

 

少数株主か支配株主かの分岐点は、親族グループで議決権割合30%より上か下かで判定します。

 

 

 

中小企業のM&Aで活用される評価基準は??

上場会社やクロスボーダーのM&Aでは、先に説明した将来キャッシュフローから算定するDCF法や類似上場会社の指標に倍率を乗じて算定するマルチプル法がとられます。

 

一方で、中小企業のM&Aは少し違い、時価純資産価額に数年分(3~5年程度)の営業利益を加算した“年倍法”といわれる評価法がとられます。

 

 

 

 

時価純資産価額は、株主から出資を受けた資本(資本金+資本剰余金)に、今まで稼いだ利益の累計額(利益剰余金)、更に資産の含み損益を加減算して求めます。ちなみに資産の含み損益を加減しない方法を簿価純資産価額と言います。年倍法は、直前期の貸借対照表と損益計算書があれば凡その評価額が測定できる簡便な方法です。

 

なお、時価純資産価額によるとその時点の株式価値が算出されますが、企業が将来獲得できる利益は考慮されておりません。そこで、評価に際して将来利益分として営業利益の数年分を加算するわけです。

 


 

 

 

業種特有の評価基準は??

中小企業M&Aで用いられる“年倍法”は極めてシンプルな計算法で、売買価額の基礎とすることが多いのですが、そうはいっても業種によっては他の方法によった方が適切なケースがあります。

 

例えば、不動産賃貸業の場合は、所有している不動産の価値が重視されますし、調剤薬局の場合は、処方箋の枚数や近隣競合店の有無等が重視されます、そのほか、最近の人手不足を反映し、新たに人材をリクルートする場合に年俸の30%~40%かかることから、専門家の人数等から売買価額がアプローチされるケースもあります。

 

 

 

価格交渉はできるの??

売買価額はM&Aにおける最大の交渉条件といえます。M&Aに限った話ではありませんが、売り手は高く売りたい、買い手は安く買いたいと思うのは自然なことです。

 

売り手側の高く売りたい想いを価格に反映するためには、事業の希少価値面のアピールや買い手のM&Aによるシナジー効果を考慮させる方法があります。一般的に希少な事業新規参入が容易でない事業などは価値が高いですし、同業の買い手の場合にはM&Aによる事業拡大によりマーケットシェアが拡大し、コストのコントロールが可能(重複固定費のカット等により)な場合があるためです。

 

反対に買い手が行うデューデリジェンスによってマイナス材料が抽出された場合には、価格が引き下げられる方向に働くことになります。

 

 

 

 

 

[解説ニュース]

配偶者居住権等の評価

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■配偶者居住権等と相続税の小規模宅地等の特例・物納の取扱い

■配偶者居住権が消滅した場合の相続税・贈与税の取扱い

 

 

1.はじめに


民法改正により、2020年4月1日以後の相続から、被相続人の死亡時にその被相続人の財産であった建物に居住していた配偶者は、遺産分割又は遺言によって、「配偶者居住権」を取得することができるようになります(新民法1028①)。

本号では、配偶者居住権等の評価につき、改正法案をもとに、具体的な事例にて解説します(以下、わかりやすさを優先し、算式等を簡略に記載しています)。

2.事例の前提


◇夫は、自宅の建物につき、遺言により、妻に配偶者居住権を、長男にその建物の所有権を取得させた。
◇存続期間は妻の終身であり、夫死亡時、妻は80歳。
◇建物は、軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3.5㎜)であり、耐用年数の1.5倍は60年(図表1参照)、築後経過年数は15年、残存耐用年数は45年
妻の平均余命は11年、これに応じる法施行日現在の法定利率による複利現価率は0.722(図表2参照)。
◇建物(自用)の評価額は10,000千円、土地(自用)の評価額は30,000千円。

3.建物の評価の考え方(新相法23の2①②)


(1) 長男が取得した配偶者居住権付建物の所有権

①考え方
配偶者居住権の存続年数経過時における建物の評価額※の現在価値をその評価額とする。
(= 建物(自用)の評価額÷残存耐用年数(図表1c×存続年数経過後の残存耐用年数(図表1e)×複利現価率
※建物は残存耐用年数にわたり減価する前提で計算。

②評価額
10,000÷45年×34年×0.722=5,455千円

 

(2) 妻が取得した配偶者居住権

①考え方
建物(自用)の評価額から、長男が取得した上記(1)②の評価額を控除した残額。

②評価額
10,000-上記(1)②=4,545千円

4.土地の評価の考え方(新相法23の2③④)


(1) 長男が取得した配偶者居住権付建物の敷地の所有権

①考え方
配偶者居住権の存続年数経過時における土地の評価額※の現在価値をその評価額とする。
(= 土地(自用)の評価額×複利現価率
※土地は残存耐用年数において減価しない前提で計算。

②評価額
30,000×0.722=21,660千円

 

(2) 妻が取得した配偶者居住権に基づく敷地の利用権

①考え方
土地(自用)の評価額から、長男が取得した上記(1)②の評価額を控除した残額。

②評価額
30,000-上記(1)②=8,340千円

5.最後に


本事例の場合、長男は合計27,115千円(上記3(1)②+上記4(1)②)、妻は合計12,885千円(上記3(2)②+上記4(2)②)、2人合計で40,000千円の評価額の財産を取得することになります。

 

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税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2019/03/25)より転載

 

[新事業承継税制を理解する!]

「中小企業の範囲等」~新事業承継税制 ポイント解説②~

 

新事業承継税制の実務上の留意点を、制度創設に関わった中小企業庁元担当官の北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができるのは中小企業の株式等ですが、そもそもの「中小企業」の範囲について教えてください。士業法人や医療法人はどのような取り扱いになるのでしょうか。

 

 

A. 事業承継税税制(特例措置)の対象となる「中小企業」は、経営承継円滑化法において規定されています。

 

 

1. 原則

中小企業者の判定は、その会社の資本金又は従業員の数が、業種ごとに定められた資本金の額又は従業員の数以下であるかどうかにより行います。なお、資本金又は従業員数のいずれかの基準を満たしていれば中小企業者と判定します。

 

2. 有限会社の取り扱い

会社法施行前に設立された有限会社については、会社法上の会社とみなすこととされています(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2①)。したがって、有限会社であっても、その他の要件を充足していれば事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができます。

 

3. 士業法人の取り扱い

税理士法人や弁護士法人といった士業法人は会社法の合名会社の規定を準用しているものの、会社法に定める「会社」(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)ではないため、事業承継税制(特例措置)の適用を受けることができません(租税特別措置法第70条の7①二)。

 

(参考)租税特別措置法第70条の7①二
二 非上場株式等 次に掲げる株式等をいう。
イ 当該株式に係る会社の株式の全てが金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されていないことその他財務省令で定める要件を満たす株
ロ 合名会社、合資会社又は合同会社の出資のうち財務省令で定める要件を満たすもの

 

4. 医療法人の取り扱い

医療法人は、会社法に定める「会社」(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社)ではありませんので、適用を受けることは出来ません。

 

[M&A事業承継の専門家によるコラム]

第2回:後継者の資質とは?~中小零細企業のM&A事業承継②~

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業の企業再生支援・事業承継支援・M&A支援を専門で行っているCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合の安藤ゆかり氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合

安藤ゆかり

 

 

 

「建設業を営む関与先企業の社長より、長男を後継者として継がせるべきかどうか相談を受けています。会社の業績は安定しているのですが、業界の将来性が不安視されることや、長男が経営者としての「資質」があるかどうかの判断がつかないため、第三者としての意見を聞きたいと言われました。後継者を見極める際のポイントはありますでしょうか?」

 

 

安藤:弊組合(CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合)にも、後継者に必要な「資質」に関する質問が非常に多く寄せられております。中小企業のオーナー経営者の方は、「自分の息子は後継者として適任なのか?」「本当に息子に任せて大丈夫なのか?」といった悩みを常に抱えているものです。また、会社を安定的に継続していくためには、この悩みはとても重要だと思います。そこで、弊組合のこれまでの経験により、特に大切と思われる「後継者の資質」を3つに絞って、お伝えいたします。ぜひ、ご参考にしてみてください。

 

 

 

~「縁」を大切にできるか?~

「取引先」「関係者」「従業員」など会社を支える関係者との関わり(「縁」)を大切にできるかどうかが非常に大切です。経営者が後継者に引き継がれた途端に、関係者が離れていってしまうという最悪のケースは避けなくてはなりません。創業者が苦労して築き上げた大切な仕事上の関係者との関わりが膨らむか萎むかは、後継者の手腕に掛かっているといって過言ではありません。相手が自社のどういうところに魅力を感じて自分たちと関わってきてくれたのか、また先代は何を大切に相手との関係を築いて来たのか、どういう想いで従業員一人ひとりを見てきたのか、接してきたのかをきちんと把握し、その関係性を大切に保つことができるかが重要になります。そのためにも、経営者は後継者候補に対して、自らが行ってきたこれまでの体験や考えをしっかりと伝えておくことが必要になります。

 

 

 

~「リスクマネジメント」ができるか?~

次に大事なのは、リスクマネジメント能力です。会社にとってマイナスな要素を察知する能力と、資金繰りに関するリスク管理が必要になります。

 

世代交代した際に、これまで先代に我慢してきたことや、苦労しないで社長になったというやっかみなども含めて、後継者に不満を持つ社員も少なくありません。そのような社員が抱えている不安要素を察知し、できるだけ早めに適切な対応をとるべきです。特に最近は「労働基準」「セクハラ」など、社員に関する問題が会社に深刻なダメージを与えることもありますので、これまで以上に、社員とのコミュニケーションを取っていく必要があります。

 

また、支払い期限を守らないクライアントもいます。それを当てにした資金繰りをしていると、入金や支払いのずれが生じた際に資金繰りが悪化することもあります。弊組合に相談に来る再生企業は、資金繰り管理が出来ていない社長が多いと感じております。相手が必ず約束を守ってくれるとは限らないことを念頭に置いて、支払いが遅れた場合に早めに催促するなどの迅速な対応が必要となります。中小企業にとって「資金繰り」は死活問題ですので、そのようなリスクのあるクライアントに対して、取引の見合わせを含めてしっかりとした対応が取れるかということも重要になります。

 

 

 

~「会社に対する強い想い」があるか?~

最後に、一番大切な要素となりますが、「会社に対する熱い想いがあるか?」ということです。先行き不透明なこの時代、今の状態のまま会社を続けたとしたら、売上は横ばいか下がっていくと思った方がよいでしょう。新規顧客(市場)を開拓することや、新たな事業を始めることも事業戦略として必要になってくると思われます。しかし、これまでと異なることをする場合は、社員からは強烈な不満やバッシングを受けるケースが多いです。その際に、後継者ご自身の「会社に対する強い想い」があるのかどうかが、とでも重要になります。「何のために会社を継いだのか?」「この会社をこうしていきたい」ということを明確にし、社員から何を言われようがブレない「強い想い」を持ち続けるべきです。

 

また、一方で、会社を引き継いだ社長にも覚悟が必要です。後継者の熱き想いに対して共感できないこともあるでしょう。しかし、一旦、後継者として決めて引き継いだのであれば、後継者の想いを受け止め、たとえ失敗する可能性を秘めていたとしても、最大限にバックアップするべきです。仮に、先代社長の言うことばかりを聞くような後継者だとしたら、今までの事業を守ることだけに精一杯となり、新しい時代にあった舵を切ることができません。変えてはいけないもの(縁を大切にするなど)さえ変えなければ、先代社長として、後継者の想いを最大限に尊重するべきでしょう。

[M&A・事業承継の専門家によるコラム]

第1回:赤字企業でも買い手は見つかる? ~中小零細企業のM&A事業承継①~

 

中小零細企業経営者や経営者をサポートする専門家の方が抱えるM&Aや事業承継に関するお悩みを、中小零細企業の企業再生支援・事業承継支援・M&A支援を専門で行っているCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合の安藤ゆかり氏にアドバイスいただきます。

 

〈解説〉

CRC企業再建・承継コンサルタント協同組合

安藤ゆかり

 

 

 

「業歴は30年を超えております。社長の私は68歳で、子供は3名おりますが、専業主婦と学校の先生で後継者がおりません。業種は印刷業で4期連続赤字です。弊社でも売却可能でしょうか?」

 

 

-連続赤字は買いたたかれる、売却可能な状態までの体質改善が急務-

安藤:メディアではM&Aの記事が出ない日はないと言っても過言ではありませんが、大半は大企業の大掛かりなM&Aが多く、中小零細企業に限っていうと、残念ながらそう簡単に譲渡先(スポンサー候補)は見つからないのが実情です。赤字企業でも購入希望者が見つかることもありますが、2期以上の連続赤字となると買いたたかれることが多いです。通常は、1年くらいかけて利益体質の改善(磨き上げ)を行ってから売却することをお勧めしております。ご理解しやすいように、弊組合が関わった4期連続赤字企業の売却事例をご紹介いたします。

 

 

 

【会社概要】
会 社 名:株式会社H
業  種:印刷製本・POP
年  商:約10億
従業員数:50名
借 入 金:2億5000万円
不動産資産:4億

 

 

 

【相談時のH社の状況】

~4期連続の赤字も経営基盤の強さでカバーできていた?~


株式会社H社は、創業時は製版業として事業を開始し、その後、印刷業にも業容を拡大しました。製版業では新しい技術・機械を導入することによって、生産性の向上、高い精度の作業を実現しました。特に業界に先駆けて導入したモノクロスキャナーは通常の数倍の価格でしたが、品質の良さからとても高い評価を得ておりました。
しかし紙及びインクの値段の上昇・震災の影響によるイベントや出版物の中止などで、売上の激減が著しく、5,000万円近くの赤字が4期続いておりました。事業基盤そのものは、これまでに蓄積してきた経営資源の強さ・豊富さもあって、それほど大きな毀損は生じておりませんでしたが、事業構造全般について、今後急速に事業基盤の浸食が進む可能性がありました。

 

 

【経営の問題】

~人員整理が進まず、社内後継者候補にも問題が~


売上げが激減しているにも関わらず、人員整理を全く行っておりませんでした。また、社員が赤字体質に慣れていたため、売上目標の半分にも満たなくても営業責任者は平気な状態で、赤字が増える一方でした。
H社長のお子様は3人いましたが、長男は高校の先生、娘二人は専業主婦で親族内の後継者が不在、後継者候補で考えていた常務を社長にしようと思っていたのですが、社長交代の挨拶に伺った瞬間に既存のクライアントから取引の見直しをすると言われたり、常務がクライアントを怒らせたりなどで大口顧客が大幅に減少。やむなく常務の社長への移行は無しになりました。更に、H社長は電子ブックなどの新しい流れに全くついていけないと思っており、社長としての限界を感じていらっしゃいました。

 

 

【問題に対する解決策】

~事業価値向上へ向けての取り組みを開始~


後継者がいないため、会社を売却する方法をとることにしましたが、4期連続5,000万円を超える赤字のため、このままの状態で購入する企業は皆無ということで、TAM(ターンアラウンドマネージャー・再生請負人)を入れて、売却しやすい会社にするため事業価値の向上を図りました。人員削減と共に、組織再編計画と事業戦略を行いました。人員削減については、3ヶ月以内に人員50名を40名にする削減目標を設定し、それに伴い早期退職希望者を募り人員を削減しました(辞めて欲しくない方には事前に根回ししました)。
製版業とPOP(紙を媒介としてキャッチコピーや説明文、イラストなどが書かれている販促ツール)の両方が購入可能な企業は見つけにくいので、当初から計画していた会社分割を決行し、本来の印刷・製版業の新A社と、POPを中心とする販促支援のB社、現本社ビルの土地建物管理事業を行うH社に分けました。(以下の図参照)
事業戦略については、新A社は既存印刷事業を展開し、コスト集中戦略としてのローコストオペレーションの実現を目指して製造工程の見直しと外注管理の改善を通じた製造原価低減策を策定しました。B社は外部人材を活用した差別化製品の開発と営業革新の取り組みを行いました。両社とも各事業に対応した適切な人事考課制度及び給与制度の確立を図りました。また、H社は上記二つの会社からの家賃収入、管理事業の請負により得られる収益を基礎に金融債務の金利及び元本返済を行いました。

 

[会社分割の図]

 

 

【その他の取組】

~人員削減とTAMの活用~


人員削減計画を開始しました。早期退職者を募り、12名が応じてくれました。「営業開発部」を8名で編成し、わずか3ヶ月で売上目標を達成させるため、また、営業教育に定評のあるTAMを受け入れ、新規開拓営業に力を入れました。その結果1名が大型受注にこぎつけ売上に大きく貢献することができました。また、業歴が長い関係で所有不動産の簿価が非常に低く、不動産の売却後の税金を考え、不動産M&Aでの売却を見越して、ホールディングスを設立しました。

 

 

【最終的な出口戦略】

~売却先の探索と条件交渉~


企業の体質改善が進んだ後に、購入先探索を開始しました。元々、新規事業で成果を上げているB社に対しては早々に「B社のみ購入したい」という企業のオファーが早々にありました。A社としては新A・B社共に購入してくれることと、従業員最低3年間の雇用保証を最優先の課題としました。
その結果、3社のオファーを頂き最終的に2社を競わせました。1社は地方都市で堅実に印刷業を営んでいる創業オーナーC。二代目に社長業を譲り、第二の人生として首都圏の印刷業を購入し育て上げることを考えているようでした。もう1社は首都圏で会社を引き継いだ2代目D。全面的な「相乗効果」を期待し、熱きアプローチを続けたDを最終的に相手先として選択しました。スポンサー探索をスタートした半年後に、Dによる運営を開始しました。従業員全員を集め、朝礼にて株主並びに代表者の変更について発表を行いました。Dからは、社員および家族が幸せになれることを目標に、ともに進んで行きたいとの表明を聞き、集まった従業員も期待をもって、発表を受け止めた様子で、H社長は肩の荷が下りたと一安心されたそうです。

 

 

 

[赤字企業M&Aのポイント]

・連続赤字企業は、買手が見つかりづらい、見つかっても買いたたかれる

・連続赤字企業は、事業価値向上に向けて、数年かけて企業の体質改善が必須

・体質改善には、人員整理とともに、組織再編計画と事業戦略を立て直すことが必須

・体質改善後には、売却先の探索と交渉がより有利になる可能性も

 

[新事業承継税制を理解する!]

「特例承継計画の実務上の留意点等」~新事業承継税制 ポイント解説①~

 

新事業承継税制の実務上の留意点を、制度創設に関わった中小企業庁元担当官の北澤淳先生(税理士法人山田&パートナーズ/税理士)に、Q&A形式にてわかりやすく解説していただきます。

 

〈解説〉

税理士 北澤淳(税理士法人山田&パートナーズ

 

 

 

Q.事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、特例承継計画の提出が必要と聞きました。特例承継計画について、提出できる会社や実務上の留意点を教えてください。

 

 

 

A. 事業承継税制(特例措置)の適用を受けるためには、「その会社」が特例承継計画を都道府県庁に提出し、都道府県知事の確認を受ける必要があります。この特例承継計画を提出できる会社(又は提出できない会社)や、提出時期などの実務上の留意点は以下のとおりとなります。

 

 

1. 提出することができる会社

特例承継計画を提出することができる会社は、以下の3点を満たしている会社です。
(1) 中小企業者であること
(2) 先代経営者が代表権を有していること、又は代表権を有していたこと
(3) 事業承継前後の具体的な事業計画を有していること

 

なお、計画作成の数年後に株式の承継を行うことを予定しているなど、特例承継計画の作成段階では承継後の具体的な経営計画を記載することが困難である場合には、大まかな記載にとどめ、実際に株式を承継しようとする前に具体的な計画を定めることも可能です。(その場合には、特例承継計画の変更手続を行うことが求められます。)

 

事業承継税制(特例措置)には先代経営者の要件、後継者の要件、会社の要件が設けられており、これらの全てを充足している必要があります。しかし、これらの要件は贈与の日や相続の開始の日等において充足していれば良く、特例承継計画提出時点において要件を満たしていなくても、特例承継計画を提出することができます。

 

 

【事業承継税制の適用要件を満たしていなくても提出することができる会社の例】

・先代経営者が代表権を有している会社

・後継者がまだ代表権を有していない会社
・同族で過半数の株式等を保有していない会社
・常時使用する従業員数がゼロ人の会社
・資産保有型会社、資産運用型会社、風俗営業会社

 

【特例承継計画を提出することができない会社の例】

・中小企業ではない会社(大会社)
・医療法人
・2027年12月31日までの間に2回、事業承継税制(特例措置)の適用を受ける予定の会社で、2代目となる後継者がまだ代表権を有していない会社

 

 

2. 実務上の留意点

(1) 提出時期
特例承継計画を提出することができる時期は、2018年(平成30年)4月1日から2023年(平成35年)3月31日までです。

 

(2) 贈与後又は相続後の計画作成・提出
先代経営者から後継者への株式等の贈与後又は相続後に特例承継計画を作成し、提出することも可能です。ただし、当該贈与又は相続に係る認定申請期限までには作成・提出する必要があります。

 

(3) 特例承継計画の作成日と株式等の贈与日
特例承継計画には、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた日における従業員数証明書を添付する必要があります。また、株式等の贈与後に提出する認定申請書にも、贈与の日における従業員数証明書を添付する必要があります。したがって、特例承継計画の作成と株式等の贈与を同じ年に行う場合には「指導及び助言の日」に株式等の贈与を行うことで、同一の従業員数証明書を用いることができ、事務負担の軽減が図ることができます。

 

(4) 認定申請書との同時提出
特例承継計画と、株式等の贈与後に提出する認定申請書は同時提出でも良いこととされております。特例承継計画の作成と株式等の贈与を同じ年に行う場合には、「特例承継計画」と「認定申請書」を同時に提出することで都道府県庁への提出が1回で済み、事務負担の軽減を図ることができます。特例承継計画の作成と株式等の贈与が別の年になるのであれば、それぞれ都道府県庁へ提出する必要があるので、2回提出する必要があります。

 

(5) 提出後の組織再編
特例承継計画の提出後に提出会社が合併により消滅した場合などには、特例承継計画の効果が失われ事業承継税制(特例措置)の適用を受けることが出来ない可能性があります。そのため、特例承継計画提出後に組織再編を予定している場合には、あらかじめ存続会社で提出する方が無難であると考えます。

 

[解説ニュース]

遺産分割に伴う相続税更正請求時の自社株評価で税金裁判

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(遠藤 純一)

1.はじめに

相続税の更正の請求の特則を巡る税金裁判で、東京地裁は異例の判決を下しました(平成30年1月24日)。争点となったのは、主に相続財産である製造業グループの不動産管理会社(中会社)の非上場株式の評価が、遺産の未分割状態での当初申告と異なる評価額により行うことが認められるかどうかでした。ただ問題となった製造業グループ中心の大会社の非上場株式の評価について、以前に税務訴訟が提起され、納税者側が勝訴していたことが事態を複雑にしたようです。

 

その裁判では、主たる争点の1つにおいてグループ中心の大会社の保有資産の金額に占める株式の金額の割合が25%以上だからといって同社を株式保有特定会社と認定するのは時代にあわないとして、更正処分で採用された純資産価額を反映させた評価額ではなく、類似業種比準方式による評価額が認められています。これにより、同じく相続財産であった同社の子会社である不動産管理会社(中会社)の株式については、親会社の株式を70%以上保有して「株式保有特定会社」であったため、純資産価額方式で評価され、正しく計算し直した評価額が認定されていました(東京高裁平成25年2月28日・確定)。

 

これにより、国税庁は後に、株式保有特定会社と認定する株式の保有割合を25%以上から50%以上に変更する財産評価基本通達の改正を行ったことはよく知られています(「財産評価基本通達における大会社の株式保有割合による株式保有特定会社の判定基準の改正について」国税庁平成25年5月)。

 

 

2.相続税の更正の請求の特則とは

相続税では、未分割の財産の相続税の計算については、とりあえず各相続人が法定相続分で相続したものとして課税価格や税額を計算することになっています(相続税法55条)。その後分割されていなかった財産の分割協議が成立し、実際に相続する割合が変わって当初申告時の課税価格と異なる場合がでてきます。こうして課税価額が減額した場合には、このことを知った日の翌日から4か月以内に限り、その分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、その相続人は更正の請求(特則)をすることができるとされています(相続税法32条)。

 

 

3.争いの内容

上記の東京地裁異例判決の事案では、納税者が法定相続分で当初申告していた相続税につき、その際の税務訴訟でグループ中心の大会社の評価で類似業種比準方式が認められたことから、この評価を前提に正しく計算し直して認定した不動産管理会社(中会社)の株式の評価額を利用して遺産分割協議が調ったことに伴う更正の請求をしていました。というのも、上記の財産評価基本通達の変更という後発的な事由により更正の請求をするにしても、法定申告期限等から5年を経過している場合には法令上、減額できなかったからです。しかし当局が当初申告の株評価で請求すべきだとして更正処分をしたため争いになったわけです。

 

 

4.裁判所の判断

東京地裁は判決で、更正の請求の特則について「原則として、遺産分割によって財産の取得状況が変化したこと以外の事由、すなわち申告または従前の更正処分における個々の財産の価額の評価に誤りがあったこと等を主張することはできない」と解されると説示しました。

 

ただし、東京地裁はこの事案における相続税の更正の請求の特則の適用に当たり次のような問題点を指摘しました。①以前の裁判の判決が「課税価格および納付すべき税額につきその更正処分における金額と異なる金額を認定し、更正処分の一部を取り消すこととなった場合には、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)の際の計算において、従前の更正処分における個々の財産の価額のうち判決によって変更を受けたものをそのまま計算の基礎にすべきではない」。②しかし「その価額を申告における価額と置き換えることもその価額が従前の更正処分によって変更を受けている以上、判決がその変更前の価額を相当とする旨を判示しているのでない限り、相当ではない」。このため東京地裁は、「争点となった個々の財産の評価方法や価額に係る認定・判断ならびにこれらを基礎として算定される課税価格および相続税額に係る認定・判断に、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定および法律判断として行政事件訴訟法33条1項所定の拘束力が生じている(中略)、後の相続税法32条1号に基づく更正の請求(中略)に係る事件についても同一の被相続人から相続により取得した財産に係る相続税の課税価格および相続税額に関する事件であることに変わりがない以上、行政事件訴訟法33条1項にいう「その事件」として、上記の拘束力が及ぶものと解するのが相当」と判断、過去の税務訴訟で認定された株式の評価額も税務当局を拘束するとしています。

 

 

 

 

 

 

 

税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/03)より転載

[解説レポート]

従業員承継 ~株式買取資金不足時の問題点~

 

[解説]

税理士法人山田&パートナズ 税のシンクタンク事業部 天木雪絵

 

[内容]
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.従業員承継における株式買取資金~統計からみる自社株評価額~
Ⅲ.後継者の資金力不足への対応策
Ⅳ.経営権の移譲のみが行われる場合の問題点
Ⅴ.対策
Ⅵ.結び

Ⅰ.はじめに 

『今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万(日本企業全体の約3割)が後継者未定。』

『現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性。』(出典:経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」平成29年10月)との試算が経済産業省から発表された。

こうした後継者不足の背景には、従来、経営者の子を中心とした親族へ事業を承継する「親族内承継」が圧倒的多数を占めていたものの、近年では経営者が世襲制に拘らず、子どもの職業に対する自由選択を尊重するようになったこと、また、経営環境が激しく変化する中で自社事業の将来性に対する不安から、親族内で後継者のなり手が減少していることが大きく影響していると考えられる。このままでは後継者がみつからずに廃業の危機を迎える企業が多数生じてしまうことになる。

しかし、後継者不足が叫ばれる一方、ここ最近における特徴的な動きとして「親族外」の承継が増えている。従来多数を占めていた親族内承継は約7割から約4割まで減少し、代わりに「親族外」の承継が約6割を占めるようになった(図表1)。

「親族外」への事業承継と一口にいっても、社内昇格として親族外の従業員に事業を承継(従業員承継)する場合もあれば、取引先などの外部から招聘して事業を承継する場合、さらには全くの第三者に対しM&Aにより事業承継を行う場合もある。

 

 

 

“親族内に後継者がいない”場合、親族外の中でも真っ先に後継者候補にあがるのは、やはり社内の役員・従業員であろう。中小企業の事業承継においては、それまで企業内で培ってきたノウハウや風土を十分に理解し、引き継いでいくことが非常に重要であると考えられることから、その企業の中で育った従業員が承継する場合には、企業のDNAをしっかり引き継げる可能性が高くなる点で、優れている方法といえる。また、親族に限らず広い範囲で優れた人材を選ぶことができるという点で親族内承継よりも優れている。先代経営者にとっても、よく見知った人材に引き継ぎを行うことの安心感などもあるだろう。

しかし、従業員承継については、それまではサラリーマンに過ぎない従業員が後継者となるため、現経営者からオーナー権を引き継ぐための株式購入資金を準備したり、購入資金を借り入れた場合の返済金の工面について問題となるケースが多いとの調査結果がでている(図表2赤枠)。

そこで、2017年発表の法人企業統計にもとづき、従業員承継における株式購入のための資金がどれ位必要とされるかを試算の上、その資金が不足する場合におきやすい「経営権(代表権)のみの移譲が行われる場合」の問題点と対策について検討する。

 

 

 

Ⅱ.従業員承継における株式買取資金 ~統計からみる自社株評価額~

(1)従業員後継者が100%の株式を買い取ると仮定した場合の必要資金を試算

事業承継では、2つの地位の移行の検討が必要となる。先代経営者から後継者への①経営権(代表取締役としての地位)の移行と、②オーナー権(株主としての地位)の移行である。①の経営権の移行は、株主総会や取締役会での「選任決議」と「登記」という代表取締役の変更手続きにより実現する。しかし、②のオーナー権の移行は、一般に先代経営者から後継者への株式の移転として行われるため、贈与等による場合を除き、後継者が株式買取資金を用立てし、先代経営者から買い取ることが必要となる。

 

では、後継者がオーナー権として株式を買い取るといった場合、購入資金としていくら用意したらよいか。

 

①株価算定法

第三者との間で行われるM&Aでは、株価算定法としてよく利用されるものとしてDCF法や時価純資産法(*1)などが広く紹介されている。M&Aでは通常、独立した第三者間で成立した「売買価格」によって取引がおこなわれる。そしてこれは市場原理が働いた交渉の末の客観的な売買価格である。そして、税務上もこれを以て適正な時価と考えることが多い。

しかし従業員承継では、先代経営者と後継者の間に特別な関係が生じやすいため、税務上は両者間で決めた「売買価格」には、恣意性が介入しているとされる可能性があることから、税務上で定められている計算方法により算出された時価をベースに価格を算定することが多い。そこで、ここでは、個人間の株式譲渡を相続税法上の時価をベースに行うものと仮定した場合に必要となる株式買取額を、財務省の法人企業統計調査の財務数値を用いて試算する。(前提:会社所有資産に含み損益はないものとする。)

 

(*1)中小企業庁のマニュアルにおいては、企業価値算定方法の例として「時価純資産+のれん代(経常利益2年分)」と紹介されている。

 

②役員退職金支給の加味について

多くの会社では社長や会長が役員を退任するという場合には、役員就任期間中の功績に報いる形で役員退職金(役員慰労金)が支給されることが多い。役員退職金は高額に及ぶことが多く、その支給により株価に引き下げ効果をもたらすことが多いため、本レポートで自社株評価を行うに当たっては、役員退職金支給を加味した上で試算を行うものとする。

なお、試算で採用する役員退職金の額は、税務研究会による「役員給与・役員退職給与の実支給額調査(2014年実施・2017年実施)」のアンケート結果に基づいて算定した、下記資本金規模別の支給実績の平均値を採用している。

 

 

 

③主な業種別の自社株評価の試算結果(1社当たり)

下記図表4は、上記①及び②の前提を踏まえ、いくつかの主要な業種について、資本金階級別に法人企業統計調査の財務数値に基づいて、役員退職金支給後の1社あたりの自社株評価額の算出を試みたものである。

自社株評価については、個別の会社ごとの事情により全く違う結果をもたらすが、おおよその傾向を掴むことはできるのではないだろうか。

 

 

多くの業種において、資本金1000万円未満の母集団については、役員退職金を支払えば、株価を限りなくゼロに近づけることが可能との結果となった。この場合には後継者の買取資金について大きな課題となる場面は少ないと考えられる。

しかし、資本金が1000万円を超えて5000万円未満の母集団では、その1社あたり平均評価額は2000万円~1億円程度となっており、更に資本金が5000万円超~1億円未満の母集団では、その1社あたり平均評価額は約2億~6億円に達している。あくまでも平均値であることを考えれば、実際の評価がもっと高くなる企業もあろう。ここまで株価が高くなると、後継者の自己資金だけですべての株式を購入することはかなりの困難を伴うと考えられる。

 

Ⅲ.後継者の資金力不足への対応策

(1)株式取得資金不足時の具体的対応策

上記Ⅱで確認したように、中小企業といえど大きく成長した企業については、後継者が自己資金のみで先代経営者から株式の買い取りを行うことは難しいと思われる。

これを解決するための株式取得の手法として下記のような対応策が検討されることが多い。

 

① 金融機関を活用したMBO

金融機関を活用したMBOは、①後継者が自己資金を元手に法人を新たに設立し、②その法人が金融機関から借り入れを行い、③その借入れた資金をもって法人が先代経営者から株式を購入する方法である。

法人が事業収入で得るキャッシュフローを返済原資として返済を行っていくこととなる。事業規模が大きくなるにつれ、弊社が関与した直近の事例をみてもこの金融機関を活用したMBOの利用率は高い傾向があるが、それでも資金が足りないときは、投資ファンドなどからの出資を検討することになる。

 

② 日本政策金融公庫による融資
個人は通常公庫の融資対象とはならないが、経営承継円滑化法(*2)における都道府県知事の認定を前提に、後継者個人が株式取得資金の融資を受けることができる制度が設けられている。あくまでも個人での借入であることから役員報酬や配当金収入の手取り等から返済することとなる。

 

(*2)経営承継円滑化法・・・ 「中小企業における経営の承継円滑化関す法律」 の略

 

③ 事業承継税制を活用した贈与
贈与税にかかる非上場株式の納税猶予制度といい、一定の要件を満たすことで、後継者は先代経営者から贈与税の負担なく贈与により株式を取得できる制度である。平成27年1月1日以降の贈与から適用対象者が拡大し、親族外承継による株式の贈与についてもこの納税猶予制度の適用を受けることができるようになった。

 

(2)対応策の限界と経営権の移譲

上記(1)に掲げた対応策は、いずれも外部金融機関や先代経営者の協力をもって成立する。すなわち、上記①及び②はいずれも金融機関の審査を通過できて初めて利用が可能となる点で、ハードルがある。また、③の納税猶予制度も、無償での株式移転を前提とすることから、先代経営者が創業者利益等を受け取りたいという希望を有している場合には実現が難しい。こうした状況では、上記のいずれの対応策も利用ができず、株式の移転がほとんど出来ないケースが発生しうる。

それではせっかく社内に事業を引き継ぎたいと思う後継者がいるにもかかわらず、後継者に株式を買い取る資金力がないため、従業員承継をあきらめるしかないのか、というとそういうわけでもない。この場合、経営権の移譲が先行して行われることがある。つまり社長の交代だけが行われ、後継者が「雇われ社長」の状態となる。

 

※東京商工会議所が経営者に対して行ったアンケートでは、「Q.(後継者を従業員、社外から登用とする場合において)株式の承継をどうする予定ですか。」との問いに、約30%の経営者が「経営者一族が引き続き保有」する予定と回答し、先代経営者一族が保有を続ける可能性を示唆している。(図表5)

“資金調達ができるまで”なのか、”恒久的に”なのかは不明であるが、経営権のみの移譲が行われる可能性がある。

 

 

Ⅳ.経営権の移譲のみが行われる場合の問題点

経営権の移譲のみが行われた場合、株主≠社長となり、いわゆる所有と経営が分離した状態となる。この状態においては、どのような問題が生じうるであろうか。下記に問題点を挙げる。

 

① 雇われ社長は長期的視点に立った株式価値増大のための経営を行うことが難しい

雇われ社長は、株主総会において議決権を持たず、役員の選任権・解任権を持たないことから、常にオーナーの意向を気にかけなければならない。そのため、目の前の利益を優先する短期的視点にたった経営を強いられたり、自己の経営方針に沿った“自由な経営”や“機動的な意思決定”を行うことが難しい立場に置かれる可能性がある。また、株式が自己の財産ではないことから、リスクを負った上での組織変革や事業再編等への敷居が高く、革新的な取り組みが難しい場面も考えられる。こうした要素が現実化した場合には、長期的には先代経営者が高めた株式の価値を喪失してしまうリスクがある。

 

② 雇われ社長の利益と、オーナーの利益が一致していないことによる経営基盤の弱体化の可能性

後継者とオーナー間の関係が、これまでの雇用的関係から委任関係に移行するにあたり、コミュニケーションが不足すると報酬や待遇に関して両者の間で認識のズレが発生しやすく、両者の信頼関係が崩れた場合には、経営基盤の弱体化につながる可能性がある。

 

③ 相続税の納税資金確保の問題

経営権のみの移譲をすることで、先代経営者の手元には、売却して換金することが難しい財産が残ってしまう。高額財産を保有し続けることになり、多額の相続税の納税資金の確保の問題が残る。また経営者と株式の所有者が異なる為、事業承継税制も使えない。

 

④ 株式分散のリスクが高い

社長以外の者が株式を所有することで、株式集約の管理が難しくなり、特に先代経営者の相続を迎えるタイミングで、株式が分散するリスクが高まる。また、株主の交代が起きた場合において、新しい株主から急な経営方針の変更を迫られ、経営に混乱をきたす危険性もある。

 

Ⅴ.対策 

これらの問題を解決するためには、オーナー(先代経営者)が、自身の相続税の納税資金の確保を行うとともに、企業の継続的な成長に向け、経営権交代後にあっても後継者に所有権を円滑に集中させるための協力を惜しまないことが必要となる。所有と経営の一致を実現にむけて、具体的には下記のような対策が考えられる。

 

①後継者の議決権確保への協力

段階的な株式移転、株式買取資金の調達に向けた役員報酬の増額、無議決権株式等の種類株式への変更承認、議決権確保に向けた計画の作成協力等、後継者と共に議決権確保への道筋を計画し、共有する。

 

②後継者と先代経営者による話し合い

社長交代後の報酬や待遇、個人保証の引継ぎ等についての各種条件の取決めや、経営方針についての確認等を社長交代までに話し合い、明確にしておくことで、後継者と先代経営者の良好な関係を維持する。

 

③株式分散のリスクの回避への対策

安定株主の確保のための従業員持株会の導入や金庫株への協力、相続人等に対する売渡請求を導入するための定款変更への承認等が考えられる。

 

Ⅵ.結び

中小企業において、円滑な経営を行う為には所有と経営は切っても切り離せない関係にあり、経営権だけを移転すればよいと割り切れるものではない。しかし実際には経営権の移譲が先行し、株式移転できないままのケースが多く発生すると思われる。所有と経営が不一致である状態により問題が生じやすい点について、社長の交代により初めて向き合うことも多いだろう。

こうした問題について周知があまりされていないように思う。経営の安定化に向けて、役員の選・解任権が与えられる議決権割合50%超の保有となる株式移転をめざし、もしくは、それよりも少ない株式保有であっても効果的な議決権を確保できる体制をめざして、計画的に、そして確実に実現していけるよう、先代経営者も後継者も前向きに取り組んでいくべきと考える。

 

【参考文献】

・「経営者のための事業承継マニュアル」中小企業庁 2017年3月

・報告書「事業承継の実態に関するアンケート調査」東京商工会議所 平成30年1月

・レポート「親族外承継に取り組む中小企業の現状と課題」日本政策金融公庫総合研究所 2018年6月

・記事「最強オーナー社長の知恵」週刊ダイヤモンド 2018年4月14日号

・「事業承継に活かす従業員持株会の法務・税務(第3版)」中央経済社 牧口晴一・齋藤孝一著 2015年12月

・「非公開株式譲渡の法務・税務(第5版)」中央経済社 牧口晴一・齋藤孝一著 2017年6月

・「資産・事業承継対策の現状と課題」大蔵財務協会 品川芳宣著 2016年12月

・「事業承継・相続対策の法律と税務(五訂版)」税務研究会出版局 PwC税理士法人編 2018年8月

・論文「中小企業における所有と支配の分離」-経営者保証による最終決定権の確立- 嘉悦大学大学院 津島晃一著 2016年

 

 

 

 

 

税理士法人山田&パートナーズ

レポート『従業員承継 ~株式買取資金不足時の問題点~』(平成30年9月25日付)より転載

[解説レポート]

組織再編税制における適格要件の緩和

 

〈解説〉

税理士法人山田&パートナーズ(南里 征興)

 

 

~~スピンオフ税制の概要と税制改正の影響~~

免許や許認可等が必要な事業についても
円滑なスピンオフの実施が可能になりました。

 

税制改正の趣旨

平成29年度税制改正により創設された「スピンオフ税制」により、株主への配当や法人の譲渡損益について課税が繰り延べられることになりました。また、スピンオフによる効果として、以下のような経営の独立、資本の独立、上場の独立の効果による企業価値の向上が期待されていました。

 

[経営の独立]
元の会社の経営者が中核事業に専念することが可能になる。
スピンオフされた会社が迅速、柔軟な意思決定が可能になる。
[資本の独立]
スピンオフされた会社の独自の資金調達により、従来は埋没していた部分への投資が可能になる。
[上場の独立]
それぞれの事業のみに関心のある投資家を引き付けることが可能になる。

 

ただし、スピンオフの準備のための組織再編において適格再編に該当するのは、単独新設分社型分割と単独新設現物出資に限定されていたため、実務として分離が困難な事業もありました。平成30年度税制改正によりこの部分が改善されたことにより、企業が事業環境の変化に合わせ、限られた経営資源を適切に配分し、より効率的な事業形態を選択できるような環境が整っています。

 

制度の概要

スピンオフとは株主に対し子会社の株式を交付(適格株式分配)することにより、「特定事業」又は「子会社」を切り離し独立させる組織再編です。完全支配関係がある法人間で組織再編(会社分割・現物出資・株式交換・株式移転)を行った後に、適格株式分配を行うことが見込まれている場合には、組織再編の適格要件(完全支配関係の継続要件)が緩和され、適格株式分配の直前までの関係により判定することになりました。これによって、免許や許認可等が必要になる事業であっても、100%子会社を設立し、そちらで事業に必要な免許等を準備し、吸収分割を行った上で適格株式分配を行うという手順を踏むことで円滑なスピンオフの実施が可能になりました。

 

 

 

 

税理士法人山田&パートナーズ 情報誌「Message 2018年秋号」より転載

[解説ニュース]

遺留分制度を潜脱する意図で利用された信託(東京地裁H30.9.12)

 

〈解説〉

税理士法人タクトコンサルティング(宮田房枝/税理士)

 

 

[関連解説]

■遺留分侵害額の請求があった場合の税務上の取扱い

■2次相続の申告後に、1次相続に係る遺留分侵害額請求に基づく支払額が確定した場合

 

 

1.はじめに

父(H27.2.18死亡)がその死亡の13日前に締結した信託契約で、父死亡後の受益者である長男に遺留分相当の受益権を付与したものについて、信託財産の内容等から、信託の一部を無効とし、また有効な部分に対する遺留分減殺請求の対象は信託財産ではなく受益権であるとする東京地裁判決がありました。

 

2.家族構成・事件当事者・長男の遺留分

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3.主な時系列・事実関係

4.長男の請求

(1)主位的請求
H27.2.5に信託された不動産の所有権移転・信託登記の抹消、遺留分減殺請求に伴う所有権一部移転登記、共有持分権の確認他。

(2)予備的請求
H27.2.1の死因贈与契約に係る遺留分減殺請求他。

 

5.被相続人の主な財産・裁判所の判断

裁判所は、下記③の不動産について、これらから得られる経済的利益を分配することは信託当時より想定していなかったと認めるのが相当であるとし、また、これらを信託の目的財産に含めたのは、外形上、長男に対して遺留分割合に相当する割合の受益権を与えることにより、これらの不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であったと解さざるを得ない等とし、次の判断をしました。

 

 

また、裁判所は、信託契約による信託財産の移転は、信託目的達成のための形式的な所有権移転にすぎないため、実質的に権利として移転される受益権を遺留分減殺の対象とすべきと判断しました。

 

6.終わりに

遺留分制度を潜脱する(遺留分制度による規制を免れる)意図のある信託については、このように後になって信託の有効性が争われるリスクがあります。そして、遺留分減殺がされた場合には、その後の信託の運営がうまくいかなくなる可能性もあります。遺留分権利者が受ける経済的利益にも配慮して信託設計をしたり遺言書を作成したりする必要があると考えます。

 

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税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2018/12/25)より転載

 

[解説レポート]

事業承継税制 ~「個人資産の株式化」とその規制~

 

[解説]

税理士法人山田&パートナーズ 税のシンクタンク事業部 天木雪絵

 

[目次]

1.はじめに
2.非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の概要
3.個人資産の会社への移転(個人資産の株式化)
4.納税猶予の趣旨と、個人資産の株式化に対する規制
5.規制の具体的内容
(1) 現物出資等に関する規制
(2) 資産管理型会社に関する規制
(3) 外国会社株式等を猶予税額計算の対象から除く規制(納税猶予額算定段階での規制)
6.個人資産の株式化の例
7.同族会社等の行為計算否認規定、組織再編成に係る行為計算否認規定の適用の可能性
8.結び

 

〔凡例〕
円規  中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則
措法  租税特別措置法
措令  租税特別措置法施行令
措規  租税特別措置法施行規則
措通  租税特別措置法関係通達

 

1.はじめに

平成30 年度税制改正では、新事業承継税制として非上場株式についての相続税・贈与税の納税猶予制度の対象が拡充され、適用要件(猶予継続要件)が大幅に緩和された。これまでの事業承継税制としての措置に加え、10 年間の特例措置として、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総議決権数の3 分の2 まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80%から100%)、雇用継続要件である5年平均80%維持の実質的な撤廃等が盛り込まれた。
これを契機に事業承継の検討に本腰を入れる経営者が増えることも予想される。そしてその検討にあたっては、後継者の経営基盤を盤石のものとするため、事業用財産を承継会社に集約し、その上で納税猶予を活用する事案も増加することが考えられる。例えば個人所有の事業関連会社が多数存在してしまっているケース、個人所有のままである事業用資産についてそのままでは遺留分対策などで後継者の支配権が及ばなくなる危険性が高いケースなどである。

しかし、納税猶予制度については今回の税制改正で主要な要件の緩和が図られているとはいえ、依然として数多くの要件が設けられている。特に、先代経営者の個人所有財産を承継会社に移転し、代わりに承継会社発行の株式として所有すること(個人資産の株式化)で事業用財産の集約を図る場合には、猶予対象財産を肥大化させ相続税の負担を回避しうることから、行き過ぎた節税が行われないよういくつかの規制が置かれている。
事業承継を進めるにあたり、承継会社への事業用財産の集約を検討する場合には、事業遂行上必要であるにもかかわらずこうした規制に掛かってしまい、納税猶予が受けられなくなる、ということがないよう十分留意して進めなければならない。本稿では、この個人資産の株式化に関する規制について、整理・検討する。

 

 

2.非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度の概要

非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予制度とは、「後継者が、贈与又は相続等により、都道府県知事の円滑化法(*1)の認定を受ける非上場会社の株式等を先代経営者から取得し、その会社の事業を承継して経営していく場合には、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもとその納税を猶予し、後継者の死亡等により猶予額が免除される制度」をいう。

 

ある経営者がオーナーとして自社株式をそのまま有していると、その経営者の相続発生時には有価証券として相続税が課税されるが、その自社株式を後継者へ事業の承継とともに贈与又は相続により引き継いだ場合には、その承継した自社株式に係る贈与税又は相続税は、後継者がその株式を所有して事業を継続している限りその納税を猶予される。さらに後継者がその死亡の時まで株式を所有して事業を継続した場合(もしくは次の世代に贈与税の納税猶予制度を適用して株式を贈与した場合)には、猶予されていた税額の全額の免除を受けることができる。免除されるまでに特例の適用を受けた自社株式を譲渡をしたり、事業が継続されなかった場合には猶予税額の全部又は一部を利子税と併せて納付する必要がある点はリスクとなるが、事業の承継が成功した場合には、後継者が先代経営者からの世代交代時に支払うはずであった自社株式にかかる相続税を支払わずにすむ、という画期的な仕組みとなっている。

 

なお、この制度は、下記4 つの制度で構成される
① 相続時に自社株を承継する場合に適用を受ける「非上場株式等についての相続税の納税猶予制度(措法70 条の7 の2、措法70 の7 の6、参考条文14、18)」
② 贈与時に自社株を承継する場合に適用を受ける「非上場株式等についての贈与税の納税猶予制度(措法70 の7、措法70 の7 の5、参考条文7、17)」

③ 上記②の贈与者が死亡した場合にみなし相続につながる「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例(措法70 の7 の3、措法70 の7 の7、参考条文15、19)」
④ 上記③のみなし相続時に継続して納税猶予制度を選択できるよう設けられた「非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予制度(措法70 条の7 の4、措法70 条の7 の8、参考条文16、20)」

 

(*1)円滑化法・・・中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

 

 

3.個人資産の会社への移転(個人資産の株式化)

事業承継税制は自社株式の後継者への移行を強力に促進するものとして期待される制度ではあるが、この先代経営者の有する自社株式に係る相続税が事業承継により猶予される仕組みを利用し、相続税の負担を軽減しようとの発想もでてこよう。すなわち個人資産を承継会社へ出資し、株式に変えてしまうことで相続税の負担を減らすことが可能となる。極端な話をすれば、先代経営者の個人資産をすべて承継会社に持たせることができれば相続税をすべて猶予の対象とし、ゆくゆくは免除を受けることも可能となるのである。
そのため、相続税では、この制度の趣旨を超えてまで個人資産の株式化が行われることがないよう各種規制を置いている。

 

 

4.納税猶予の趣旨と、個人資産の株式化に対する規制

(1)事業承継税制の趣旨
事業承継税制は、日本経済の重要な部分を占める中小企業の事業承継を円滑に進め、地域経済の活性化と雇用創出を図ることを目的として、下記2つの視点を踏まえて制度設計がされている。
①事業承継に当たり重い負担となっている相続税の負担を軽減し、税金が払えないなどの理由により株式が分散し、経営が不安定になることを回避する。
②計画的に事業承継に取り組むことで、相続紛争をできうる限り回避し、また、単なる財産としての承継ではなく、経営として有機的一体をなす事業としての早期の確実な承継を可能とする。

 

(2)規制の内容
これらの制度趣旨を超えた個人資産の株式化による租税回避が行われないようにするため、下記3つの個別的な規制が設けられている。
①現物出資等に関する規制
②資産管理型会社(資産保有型会社及び資産運用型会社)に関する規制
③外国会社株式等を猶予税額計算の対象から除く規制

 

個人資産を無制限に会社へ移転することを防ぎ不当に相続税を回避することを防ぐ観点から①の現物出資等に関する規制が設けられている。また、納税猶予制度の趣旨になじまない財産が会社に移転されるのを防ぐ観点から②の資産管理型会社の規制及び、③の外国会社株式等を猶予税額計算の対象から除く規制が設けられている。
以下、上記3つの規制について詳しく確認する。

 

 

5.規制の具体的内容

(1) 現物出資等に関する規制
①概要
先代経営者の個人資産を無制限に承継会社の株式に付け替えることを防止する為、贈与前3 年以内、又は相続開始前3 年以内に後継者及び後継者の同族関係者から承継会社に対して行われる現物出資及び贈与(以下「現物出資等」という。)の価額が、贈与時又は相続開始時における承継会社の総資産の時価に対し、70%以上となる場合には、納税猶予を受けることができない。なお、資産管理型会社の規制(後述(2))ではその判定基準に帳簿価額を使用するのに対し、ここでは時価(財産評価基本通達による相続税評価額)が用いられる。(措法70 の7㉙、措通70 の7-50、参考条文13、23)

 

②判定式

 

(2) 資産管理型会社に関する規制
①概要
納税猶予の制度が、地域経済の活性化・雇用創出を目的としていることから、これらの趣旨になじまない賃貸不動産や投資有価証券などが無制限に納税猶予の対象となることを防ぐため、資産管理型会社に該当する場合には、納税猶予の規定は受けられない。資産管理型会社は、さらに資産保有型会社と資産運用型会社に分類され、前者は財産面から、後者は損益面から規制されているが、納税猶予の制度を受けるためには、いずれにも該当しないことが必要となる。

 

②資産保有型会社に該当しないこと
承継会社の総資産の帳簿価額に対し、賃貸不動産や投資有価証券等の「特定資産」の帳簿価額が70%以上となる場合には納税猶予制度は受けられない(円規1⑫、円規6①七ロ、措法70 の7②八、措法70 の7②一ロ、参考条文2、4、10、8)。ただし、一定の事業実態を有する会社(後述④)については資産保有型会社にはあたらないものとみなされる(円規6②、措令40 の8⑥、参考条文5、21)。

 

 

「特定資産」とは、具体的には下記のものが該当する。
(ア) 有価証券(金融商品取引法第二条第一項に規定する有価証券及び同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利)であって、当該会社の特別子会社の株式又は持分以外のもの(注1)
(イ) 当該会社が現に自ら使用していない不動産(不動産の一部分につき現に自ら使用していない場合は、当該一部分に限る。)
不動産とは、土地、借地権、建物、建物と一体不可分の付属設備及び建物と同一視できる構築物が該当する。自ら使用している例としては、本社、支店、工場、従業員宿舎等が挙げられるが、自ら使用していない例としては、販売用土地、賃貸マンション、役員住宅、遊休地等が挙げられる。
同一の土地・建物の中に自社利用している部分とそうでない部分があるときは、床面積割合など合理的な方法により按分することとなる。
(ウ) ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利(当該会社の事業の用に供することを目的として有するものを除く。)
ゴルフクラブ会員権、リゾート利用権などが該当し、ゴルフ会員権販売事業者が保有する在庫などは特定資産からは除かれる。
(エ) 絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産、貴金属及び宝石(当該会社の事業の用に供することを目的として有するものを除く。)
宝石販売事業者が保有する在庫などは特定資産からは除かれる。
(オ) 現金、預貯金その他これらに類する資産(後継者及び後継者と一定の関係のある者に対する貸付金、未収金その他これらに類する資産を含む。)
現金、預貯金のほか、これらと同視しうる積立金なども該当し、当該会社の資産(債権)のうち、後継者及びその同族関係者に対する貸付金、未収金、預け金や差入保証金、立替金なども該当する。

 

(注1)「有価証券であって、当該会社の特別子会社の株式又は持分以外のもの」について
当該承継会社の特別子会社の株式等については、特定資産から除かれる。
ただし、特別子会社の株式等であっても、一定の事業実態(後述④)がなく、資産保有型子会社や資産運用型子会社に該当する場合には特定資産となる(円規6②,参考条文5)。

「特別子会社」とは、会社並びにその代表者及び当該代表者に係る同族関係者が他の会社(外国会社(会社法第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)の総株主等議決権数の100 の50 を超える議決権の数を有する場合における当該他の会社をいう(円規1⑩、参考条文1)。

 

(注2) 特別特定資産とは特別子会社が有する上記(イ)から(オ)までの資産をいい、特別特定資産からは、当該特別子会社の特別子会社の株式等は一律に除かれている。つまり特別子会社の特別子会社(いわゆる孫会社)の株式等は、特別特定資産の範囲から除かれることになる。

 

③資産運用型会社に該当しないこと
納税猶予を受けようとする承継会社のその事業年度の総収入金額に対し、賃貸不動産や投資有価証券等の「特定資産」に係る運用収入の合計額が75%以上となる場合には、納税猶予制度は受けられない(円規1⑬、円規6①七ハ、措法70 の7②九、措法70 の7②一ロ、参考条文3、4、11、8)。ただし、一定の事業実態を有する会社(後述④)については資産運用型会社にはあたらないものとみなされる。

 

 

(注3) 損益計算書の売上高+営業外収益+特別利益の合計額とする。ただし、期中に固定資産や有価証券などの売却がある場合には、損益に関わらず売却対価に直してから金額を加算する。

 

④事業実態がある場合
上記②又は③で資産管理型会社に該当するような場合であっても、下記事業実態を有する場合には、資産管理型会社には該当しないものとみなされる。また、特別子会社についても同様に事業実態がある場合には、資産保有型子会社又は資産運用型子会社に該当しないものとみなされる。(円規6②、措令40 の8⑥、参考条文5、21)

 

【事業実態を有する場合】(下記要件のいずれも満たすとき)
(1) 常時使用する従業員(後継者及びこれらの者と生計を一にする親族を除く。以下「親族外従業員」という。)の数が五人以上であること。
(2) 親族外従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有し、又は賃借していること。
(3) 当該贈与の日又は当該相続の開始の日まで引き続き三年以上にわたり、次に掲げるいずれかの業務をしていること。
イ 商品販売等(後継者やその同族関係者に対する一定のものを除く)
ロ 商品販売等を行うために必要となる資産(上記(2)の事務所、店舗、工場その他これらに類するものを除く。)の所有又は賃借
ハ イ及びロに掲げる業務に類するもの

 

⑤資産管理型会社についての所感
・ 資産運用型会社の判定については、資産を売却した場合には売却対価にて収入金額に計上されるため、特に事業規模が小さい会社では突発的に要件を満たせない可能性もあり、納税猶予制度の検討時には今後の要件維持の可能性について十分留意する必要がある。事業実態要件については従業員数以外には規模は要求されていないため、事業実態要件の充足に係る事業が比較的小さく、特定資産に係る財産・収入規模が大きい場合にも(不動産賃貸業部門が大規模な場合であっても)十分要件を満たす余地がある。

 

・ 特別子会社株式は、その内容によって特定資産となる。一方、孫会社株式は、その内容にかかわらず特別子会社の特別特定資産に含まれないことから、特別子会社による孫会社株式の保有は、資産保有型子会社又は資産運用型子会社の判定上、納税猶予の要件を満たす上で、有利な結果を導きやすい。

 

(3) 外国会社株式等を猶予税額計算の対象から除く規制(納税猶予額算定段階での規制)
承継会社が有する一定の外国会社の株式等、医療法人の出資金、事業実態のある資産管理型会社が有する3%以上保有の上場株式等については、これらを有していないものとして納税猶予額の計算を行う。(措法70 の7②五イ、措令40 の8⑫、参考条文9,22)。

 

 

6.個人資産の株式化の例

承継会社への事業用財産の集約化を行う際に個人資産の株式化が生じる具体的な例としては、次のような行為が考えられる。

 

①金銭出資
先代経営者の個人預金を対象会社へ出資する方法。
先代経営者に余剰資金がある場合に、運転資金や設備購入資金として承継会社に増資を行う場合が考えられる。ただし、増資後に現預金としてそのまま保有し続けた場合には、特定資産に該当することになるので、事業実態要件を満たしていない場合には、注意が必要である。
(預金から承継会社株式への変換)

 

②現物出資
先代経営者所有の動産・不動産などを対象会社へ出資する方法。
特に承継会社で使用している事業用資産としての土地や建物について、そのまま個人名義で所有していると相続により他の相続人等にその所有権が分散していく可能性がある場合に、そのリスクを回避する為、承継会社に土地・建物として出資するケースが考えられる。(動産・不動産等から承継会社株式への変換)
贈与又は相続開始の日前3 年以内に行われた場合には、上記5(1)の現物出資等に関する規制の対象となる。

 

③DES(デットエクイティスワップ)
先代経営者からの役員借入金を資本金に変換する際に株式の発行を受ける方法。先代経営者から見れば貸付金債権による承継会社への現物出資にあたるので、上記②と同様、納税猶予に係る贈与又は相続開始の日前3 年以内に行われた場合には、上記5(1)の現物出資等に関する規制の対象となる。
(承継会社への貸付金から承継会社株式への変換)

 

④株式交換
株式交換とは、会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させる会社法上の組織再編行為で、会社同士が完全な100%親子関係になるための手続きとして利用される。
例えば、先代経営者が承継会社の他に複数の関連会社の株式を有しており、これら関連会社を承継会社の支配下においてから承継を進めたいという場合に、事業関連会社の株式と承継会社の株式を交換して、承継会社を株式交換完全親会社とすることが考えられる。
(他の会社株式から承継会社株式への変換)

 

⑤吸収合併
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併で、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させる会社法上の組織再編行為をいう。
先代経営者が複数の会社の株式を有している場合に、承継会社を存続法人として他の事業関連会社の吸収合併を行い、承継会社に他の会社の事業・財産等を集約することが考えられる。
(他の会社株式から承継会社株式への変換)

 

⑥吸収分割
吸収分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させる会社法上の組織再編行為をいい、会社が事業部門を他社へ移す際に利用される。
たとえば、先代経営者が複数の会社の株式を有している場合に、他の会社の関連事業部門を承継会社の事業部門として移すということが考えられる。
(他の会社株式から承継会社株式への変換)

 

上記はいずれも個人資産が(承継会社の)株式に変換されるケースであるが、このうち、現物出資にあたる上記②及び③を行った結果、現物出資等に関する規制により判定基準の70%以上に該当する場合は、納税猶予を受けられない。
現物出資等に関する規制の対象とはなっていない①④⑤及び⑥であっても、資産管理型会社に該当する場合には、納税猶予は受けられない。また、下記7 にみる行為計算否認規定の適用の可能性を検討する必要がある。

 

 

7.同族会社等の行為計算否認規定、組織再編成に係る行為計算否認規定の適用の可能性

上記でみたように、個人資産の株式化については、現物出資及び贈与については規制が設けられているが、その他の金銭出資や、組織再編については、個別具体的な規定による規制は設けられていない。しかし、これらの行為は、租税特別措置法70 条の7 第14 項等で準用される相続税法第64 条第1 項(同族会社等の行為計算否認規定)や第4 項(組織再編成に係る行為計算否認規定)により、相続税や贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものについては、否認される可能性がある(措法70 の7⑭、相法64 の読替、参考条文12、6)。

 

 

8.結び

このように個人資産の株式化については、いくつかの個別具体的な規定で直接的に規制されたうえで、同族会社等の行為計算否認や組織再編成に係る行為計算否認の規定の準用により広く規制されている。ただし、行為計算否認の規定は「税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」であるとの認定を経てはじめて適用されるという意味ではワンクッションがおかれて規制されている。
過度に厳格な税法の規定が、円滑な事業承継を進める上で必要となる事業再編の足枷にならないように配慮されているものと考えることもできる。平成30 年度税制改正では思い切った事業承継税制の抜本拡充がなされ、大幅な要件緩和がされたが、円滑な事業承継を進め、地域経済の活性化や雇用創出を目指すという制度に込められた想いを踏まえ、事業承継税制を運用していくことが肝要と考える。

 

以上

 

 

 

 


【参考条文】※赤字は筆者が色を加えた。
代表的な法令として非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除に関するものを参考として掲載する。

 

 

参考条文1【特別子会社の定義について】
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第1 条 第10 項
10  この省令において「特別子会社」とは、会社並びにその代表者及び当該代表者に係る同族関係者が他の会社(外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。以下同じ。)を含む。)の総株主等議決権数の百分の五十を超える議決権の数を有する場合における当該他の会社をいう。

 

参考条文2【資産保有型会社の定義・特定資産の定義について】
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第1 条 第12 項
12  この省令において「資産保有型会社」とは、一の日において、第一号及び第三号に掲げる金額の合計額に対する第二号及び第三号に掲げる金額の合計額の割合が百分の七十以上である会社をいう。
一  当該一の日における当該会社の資産の帳簿価額の総額
二  当該一の日における次に掲げる資産(以下「特定資産」という。)の帳簿価額の合計額

イ  金融商品取引法第二条第一項に規定する有価証券及び同条第二項の規定により有価証券とみなされる権利(以下「有価証券」という。)であって、当該会社の特別子会社(資産の帳簿価額の総額に対する有価証券(当該特別子会社の特別子会社の株式又は持分を除く。)及びロからホまでに掲げる資産(イにおいて「特別特定資産」という。)の帳簿価額の合計額の割合が百分の七十以上である会社(第六条第二項において「資産保有型子会社」という。)又は当該一の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額に占める特別特定資産の運用収入の合計額の割合が百分の七十五以上である会社(同項において「資産運用型子会社」という。)以外の会社に限る。)の株式又は持分以外のもの
ロ  当該会社が現に自ら使用していない不動産(不動産の一部分につき現に自ら使用していない場合は、当該一部分に限る。)
ハ  ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利(当該会社の事業の用に供することを目的として有するものを除く。)
ニ  絵画、彫刻、工芸品その他の有形の文化的所産である動産、貴金属及び宝石(当該会社の事業の用に供することを目的として有するものを除く。)
ホ  現金、預貯金その他これらに類する資産(次に掲げる者に対する貸付金、未収金その他これらに類する資産を含む。)

(1) 第一種経営承継受贈者(第六条第一項第七号トの第一種経営承継受贈者をいう。次号及び第六条第一項第七号ハ(3)において同じ。)
(2) 第一種経営承継相続人(第六条第一項第八号トの第一種経営承継相続人をいう。次号において同じ。)
(3) 第二種経営承継受贈者(第六条第一項第九号トの第二種経営承継受贈者をいう。次号及び第六条第一項第九号ハ(3)において同じ。)
(4) 第二種経営承継相続人(第六条第一項第十号トの第二種経営承継相続人をいう。次号において同じ。)
(5) 第一種特例経営承継受贈者(第六条第一項第十一号トの第一種特例経営承継受贈者をいう。次号及び第六条第一項第十一号ハ(3)において同じ。)
(6) 第一種特例経営承継相続人(第六条第一項第十二号トの第一種特例経営承継相続人をいう。次号において同じ。)
(7) 第二種特例経営承継受贈者(第六条第一項第十三号トの第二種特例経営承継受贈者をいう。次号及び第六条第一項第十三号ハ(3)において同じ。)
(8) 第二種特例経営承継相続人(第六条第一項第十四号トの第二種特例経営承継相続人をいう。次号において同じ。)
(9) (1)から(8)までに掲げる者の関係者のうち、第九項第六号中「会社」とあるのを「会社(外国会社を含む。)」と読み替えた場合における同項各号に掲げる者

三  次に掲げる期間において、当該会社の第一種経営承継受贈者、第一種経営承継相続人、第二種経営承継受贈者、第二種経営承継相続人、第一種特例経営承継受贈者、第一種特例経営承継相続人、第二種特例経営承継受贈者又は第二種特例経営承継相続人及びこれらの者に係る同族関係者に対して支払われた剰余金の配当等(株式又は持分に係る剰余金の配当又は利益の配当をいう。以下同じ。)及び給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。第九条第二項第二十一号において同じ。)のうち法人税法(昭和四十年法律第三十四号)第三十四条及び第三十六条の規定により当該会社の各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されないこととなるものの金額
イ  当該会社の代表者が第一種経営承継受贈者、第二種経営承継受贈者、第一種特例経営承継受贈者又は第二種特例経営承継受贈者である場合にあっては、当該一の日以前の五年間(第一種経営承継贈与者
(当該第一種経営承継受贈者に係る当該会社の株式等を贈与した者をいう。以下同じ。)又は第一種特例経営承継贈与者(当該第一種特例経営承継受贈者に係る当該会社の株式等を贈与した者をいう。以下同じ。)からの贈与の日前の期間を除く。)
ロ  当該会社の代表者が第一種経営承継相続人、第二種経営承継相続人、第一種特例経営承継相続人又は第二種特例経営承継相続人である場合にあっては、当該一の日以前の五年間(当該第一種経営承継相続人の被相続人又は当該第一種特例経営承継相続人の被相続人の相続の開始の日前の期間を除く。)

 

参考条文3【資産運用型会社の定義について】
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第1 条 第13 項
13  この省令において「資産運用型会社」とは、一の事業年度における総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の割合が百分の七十五以上である会社をいう。

 

参考条文4【資産保有型会社・資産運用型会社の非該当について】
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第6 条 第1 項 第7 号
七  当該中小企業者が次に掲げるいずれにも該当する場合であって、当該中小企業者の代表者(当該代表者に係る贈与者からの贈与の時以後において代表者である者に限る。以下この号において同じ。)が贈与により取得した当該中小企業者の株式等に係る贈与税を納付することが見込まれること。
イ  省略
ロ  当該贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度の開始の日以後において、資産保有型会社に該当しないこと。
ハ  第一種贈与認定申請基準事業年度(当該贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度及び当該贈与の日の属する事業年度から第一種贈与認定申請基準日(次に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ次に定める日をいう。以下同じ。)の翌日の属する事業年度の直前の事業年度までの各事業年度をいう。以下同じ。)においていずれも資産運用型会社に該当しないこと。
(1) 当該贈与の日が一月一日から十月十五日までのいずれかの日である場合((3)に規定する場合を除く。) 当該十月十五日
(2) 当該贈与の日が十月十六日から十二月三十一日までのいずれかの日である場合 当該贈与の日
(3) 当該贈与の日の属する年の五月十五日前に当該中小企業者の第一種経営承継受贈者又は第一種経営承継贈与者の相続が開始した場合 当該相続の開始の日の翌日から五月を経過する日
二~ヌ 省略

 

参考条文5【事業実態要件について】
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則 第6 条 第2 項
2  前項第七号から第十四号の規定の適用については、中小企業者の第一種経営承継贈与者、第二種経営承継贈与者、第一種特例経営承継贈与者若しくは第二種特例経営承継贈与者からの贈与の時又は中小企業者の第一種経営承継相続人、第二種経営承継相続人、第一種特例経営承継相続人若しくは第二種特例経営承継相続人の被相続人の相続の開始の時において、当該中小企業者が次に掲げるいずれにも該当するときは当該中小企業者は資産保有型会社及び資産運用型会社に該当しないものとみなし、当該中小企業者の特別子会社が次に掲げるいずれにも該当するときは当該特別子会社は資産保有型子会社及び資産運用型子会社に該当しないものとみなす。
一  当該中小企業者の常時使用する従業員(第一種経営承継受贈者、第一種経営承継相続人、第二種経営承継受贈者、第二種経営承継相続人、第一種特例経営承継受贈者、第一種特例経営承継相続人、第二種特例経営承継受贈者又は第二種特例経営承継相続人及びこれらの者と生計を一にする親族を除く。以下この項において「親族外従業員」という。)の数が五人以上であること。
二  当該中小企業者が、親族外従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有し、又は賃借していること。

三  当該贈与の日又は当該相続の開始の日まで引き続き三年以上にわたり、次に掲げるいずれかの業務をしていること。
イ  商品販売等(商品の販売、資産の貸付け(第一種経営承継受贈者、第一種経営承継相続人、第二種経営承継受贈者、第二種経営承継相続人、第一種特例経営承継受贈者、第一種特例経営承継相続人、第二種特例経営承継受贈者又は第二種特例経営承継相続人に対するもの及びこれらの者に係る同族関係者に対するものを除く。)又は役務の提供で、継続して対価を得て行われるものをいい、その商品の開発若しくは生産又は役務の開発を含む。以下同じ。)
ロ  商品販売等を行うために必要となる資産(前号の事務所、店舗、工場その他これらに類するものを除く。)の所有又は賃借
ハ  イ及びロに掲げる業務に類するもの

 

参考条文6  相続税法第64 条の準用(措置法第70 条の7第14 項の指示による読み替え後)
読替後の第1 項 (→同族会社等の行為又は計算の否認)
措置法第70 条の7 第2 項第1 号(非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除)に規定する認定贈与承継会社の行為又は計算で、これを容認した場合においては同上第1 項の経営承継受贈者又は同行の贈与者その他これらの者の同族関係者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、非上場株式等に係る贈与税の納税猶予及び免除の規定の適用に関し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、納税の猶予に係る期限を繰り上げ、又は免除する納税の猶予に係る贈与税を定めることができる。
読替後の第2 項 (→他の税法の準用)

前項の規定は、租税特別措置法第七十条の七第二項第一号に規定する認定贈与承継会社の行為又は計算につき、法人税法第132 条第1 項(同族会社等の行為又は計算の否認)若しくは所得税法第157 条第1 項(同族会社等の行為又は計算の否認等)又は地価税法(平成3 年法律第六十九号)第32 条第1 項(同族会社等の行為又は計算の否認等)の規定の適用があつた場合における認定贈与承継会社の租税特別措置法第七十条の七第一項の経営承継受贈者の納税の猶予に係る期限の繰り上げ又は贈与税の免除について準用する。

読替後の第4 項 (→組織再編成に係る行為又は計算の否認)

合併、分割、現物出資若しくは法人税法第2 条第12 号の5 の2 に規定する現物分配又は同条第12号の16 に規定する株式交換等若しくは株式移転(以下この項において「合併等」という。)をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人(当該合併等により交付された株式又は出資を発行した法人を含む。以下この項において同じ。)の行為又は計算で、これを容認した場合においては当該合併等をした法人若しくは当該合併等により資産及び負債の移転を受けた法人の株主若しくは社員又はこれらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、租税特別措置法第70 条の7 の規定の適用に関し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、納税の猶予に係る期限を繰り上げ、又は免除する納税の猶予に係る贈与税を定めることができる。

 

参考条文7【非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除について】
租税特別措置法 第70 条の7 第1 項
第70 条の7 認定贈与承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。以下この項において同じ。)を有していた個人として政令で定める者(当該認定贈与承継会社の非上場株式等について既にこの項の規定の適用に係る贈与をしているものを除く。以下この条、第七十条の七の三及び第七十条の七の四において「贈与者」という。)が経営承継受贈者に当該認定贈与承継会社の非上場株式等の贈与(経営贈与承継期間の末日までに贈与税の申告書(相続税法第二十八条第一項の規定による期限内申告書をいう。以下この条において同じ。)の提出期限が到来する贈与に限る。)をした場合において、当該贈与が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める贈与であるときは、当該経営承継受贈者の当該贈与の日の属する年分の贈与税で贈与税の申告書の提出により納付すべきものの額のうち、当該非上場株式等で当該贈与税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該贈与の時における当該認定贈与承継会社の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)に限る。第一号において同じ。)の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分として政令で定めるものに限る。以下この条、第七十条の七の三及び第七十条の七の四において「対象受贈非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、政令で定めるところにより当該年分の贈与税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、当該贈与者(対象受贈非上場株式等の全部又は一部が当該贈与者の第十五項(第三号に係る部分に限り、第七十条の七の五第十一項において準用する場合を含む。)の規定の適用に係るものである場合における当該対象受贈非上場株式等に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、この項又は第七十条の七の五第一項の規定の適用を受けていた者として政令で定める者に当該対象受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社の非上場株式等贈与をした者。次項第六号、第三項第二号及び第十五項において同じ。)の死亡の日まで、その納税を猶予する。
一  当該贈与の直前において、当該贈与者が有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額が、当該認定贈与承継会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の三分の二から当該経営承継受贈者が有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額を控除した残数又は残額以上の場合 当該控除した残数又は残額以上の数又は金額に相当する非上場株式等の贈与
二  前号に掲げる場合以外の場合 当該贈与者が当該贈与の直前において有していた当該認定贈与承継会社の非上場株式等の全ての贈与

 

参考条文8【資産保有型会社・資産運用型会社の非該当について】
租税特別措置法 第70 条の7 第2 項 第1号ロ
2  この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  認定贈与承継会社 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成二十年法律第三十三号)第二条に規定する中小企業者のうち円滑化法認定を受けた会社(合併により当該会社が消滅した場合その他の財務省令で定める場合には、当該会社に相当するものとして財務省令で定めるもの)で、前項の規定の適用に係る贈与の時において、次に掲げる要件の全てを満たすものをいう。
イ  省略
ロ  当該会社が、資産保有型会社又は資産運用型会社のうち政令で定めるものに該当しないこと。
ハ~へ 省略

 

参考条文9【外国会社の株式等について、納税猶予額の計算の基礎となる価額から除く規定】
租税特別措置法 第70 条の7 第2 項 第5 号イ
五  納税猶予分の贈与税額 次のイ又はロに掲げる場合の区分に応じイ又はロに定める金額をいう。
イ  ロに掲げる場合以外の場合 前項の規定の適用に係る対象受贈非上場株式等の価額(当該対象受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社又は当該認定贈与承継会社の特別関係会社であつて当該認定贈与承継会社との間に支配関係がある法人(イにおいて「認定贈与承継会社等」という。)が会社法第二条第二号に規定する外国会社(当該認定贈与承継会社の特別関係会社に該当するものに限る。)その他政令で定める法人の株式等(投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十四項に規定する投資口を含む。イにおいて同じ。を有する場合には、当該認定贈与承継会社等が当該株式等を有していなかつたものとして計算した価額。ロにおいて同じ。)を前項の経営承継受贈者に係るその年分の贈与税の課税価格とみなして、相続税法第二十一条の五及び第二十一条の七の規定(第七十条の二の四及び第七十条の二の五の規定を含む。)を適用して計算した金額

 

参考条文10【資産保有型会社の定義について】
租税特別措置法 第70 条の7 第2 項 第8 号
八  資産保有型会社 認定贈与承継会社の資産状況を確認する期間として政令で定める期間内のいずれかの日において、次のイ及びハに掲げる金額の合計額に対するロ及びハに掲げる金額の合計額の割合が百分の七十以上となる会社をいう。
イ  その日における当該会社の総資産の貸借対照表に計上されている帳簿価額の総額
ロ  その日における当該会社の特定資産(現金、預貯金その他の資産であつて財務省令で定めるものをいう。次号において同じ。)の貸借対照表に計上されている帳簿価額の合計額
ハ  その日以前五年以内において、経営承継受贈者及び当該経営承継受贈者と政令で定める特別の関係がある者が当該会社から受けた剰余金の配当等(会社の株式等に係る剰余金の配当又は利益の配当をいう。以下この条及び次条において同じ。)の額その他当該会社から受けた金額として政令で定めるものの合計額
※【現金、預貯金その他の資産であって財務省令で定めるものについて】
租税特別措置法施行規則 第23 条の9 第14 項
14  法第七十条の七第二項第八号ロに規定する財務省令で定める資産は、円滑化省令第一条第十二項第二号イからホまでに掲げるものとする。

 

参考条文11【資産運用型会社の定義ついて】
租税特別措置法 第70 条の7 第2 項 第9 号
2  この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~八 省略
九  資産運用型会社 認定贈与承継会社の資産の運用状況を確認する期間として政令で定める期間内のいずれかの事業年度における総収入金額に占める特定資産の運用収入の合計額の割合が百分の七十五以上となる会社をいう。

 

参考条文12【同族会社の行為計算否認の規定等の準用】
租税特別措置法 第70 条の7 第14 項
14  相続税法第六十四条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)及び第四項の規定は、第一項の規定の適用を受ける経営承継受贈者若しくは当該経営承継受贈者に係る贈与者又はこれらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められる場合について準用する。(以下、読み替えの指示については省略)

 

参考条文13【現物出資等に係る規制について】
租税特別措置法 第70 条の7 第29 項
29  第一項の対象受贈非上場株式等に係る認定贈与承継会社が同項の規定の適用を受けようとする経営承継受贈者及び当該経営承継受贈者と政令で定める特別の関係がある者から現物出資又は贈与により取得をした資産(同項の贈与前三年以内に取得をしたものに限る。第二号において「現物出資等資産」という。)がある場合において、同項の贈与があつた時における、第一号に掲げる金額に対する第二号に掲げる金額の割合が百分の七十以上であるときは、当該経営承継受贈者については、同項の規定は、適用しない。
一  当該認定贈与承継会社の資産の価額の合計額
二  現物出資等資産の価額(当該認定贈与承継会社が第一項の贈与があつた時において当該現物出資等資産を有していない場合には、当該贈与があつた時に有しているものとしたときにおける当該現物出資等資産の価額)の合計額

 

参考条文14【非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除】
租税特別措置法 第70 条の7 の2 第1 項
第70 条の7 の2  認定承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。以下この項において同じ。)を有していた個人として政令で定める者(以下この条において「被相続人」という。)から相続又は遺贈により当該認定承継会社の非上場株式等の取得(経営承継期間の末日までに相続税の申告書(相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書をいう。以下この条及び第七十条の七の四において同じ。)の提出期限が到来する相続又は遺贈による取得に限る。)をした経営承継相続人等が、当該相続に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該非上場株式等で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該相続の開始の時における当該認定承継会社の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式又は出資に限る。)の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分として政令で定めるものに限る。以下この条において「対象非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、政令で定めるところにより当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、当該経営承継相続人等の死亡の日まで、その納税を猶予する。

 

参考条文15【非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例について】
租税特別措置法 第70 条の7 の3 第1 項
第70 条の7 の3  第七十条の七第一項の規定の適用を受ける同条第二項第三号に規定する経営承継受贈者に係る贈与者が死亡した場合(その死亡の日前に猶予中贈与税額に相当する贈与税の全部につき同条第三項から第五項まで、第十一項、第十二項又は第十四項の規定による納税の猶予に係る期限が確定した場合及びその死亡の時以前に当該経営承継受贈者が死亡した場合を除く。)には、当該贈与者の死亡による相続又は遺贈に係る相続税については、当該経営承継受贈者が当該贈与者から相続(当該経営承継受贈者が当該贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により同条第一項の規定の適用に係る対象受贈非上場株式等(猶予中贈与税額に対応する部分に限るものとし、合併により当該対象受贈非上場株式等に係る同項の認定贈与承継会社が消滅した場合その他の財務省令で定める場合には、当該対象受贈非上場株式等に相当するものとして財務省令で定めるものとする。次条において同じ。)の取得をしたものとみなす。この場合において、その死亡による相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入すべき当該対象受贈非上場株式等の価額については、当該贈与者から同項の規定の適用に係る贈与により取得をした対象受贈非上場株式等の当該贈与の時における価額(第七十条の七第二項第五号の対象受贈非上場株式等の価額をいう。)を基礎として計算するものとする。

 

参考条文16【非上場株式等の贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除について】
租税特別措置法 第70 条の7 の4 第1 項
第70 条の7 の4  前条第一項の規定により同項の贈与者から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされた対象受贈非上場株式等につきこの項の規定の適用を受けようとする経営相続承継受贈者が、当該相続に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該対象受贈非上場株式等(認定相続承継会社の株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)に限る。)で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(当該相続の開始の時における当該対象受贈非上場株式等に係る認定相続承継会社の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式等に限る。)の総数又は総額の三分の二に達するまでの部分として政令で定めるものに限る。以下この条において「対象相続非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、政令で定めるところにより当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、相続税法第三十三条の規定にかかわらず、当該経営相続承継受贈者の死亡の日まで、その納税を猶予する

 

参考条文17【非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例について】
租税特別措置法 第70 条の7 の5 第1 項
第70 条の7 の5  特例認定贈与承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。以下この項において同じ。)を有していた個人として政令で定める者(当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等について既にこの項の規定の適用に係る贈与をしているものを除く。以下この条、第七十条の七の七及び第七十条の七の八において「特例贈与者」という。)が特例経営承継受贈者に当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の贈与(平成三十年一月一日から平成三十九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る贈与及び当該贈与の日から特例経営贈与承継期間の末日までの間に贈与税の申告書(相続税法第二十八条第一項の規定による期限内申告書をいう。以下この条において同じ。)の提出期限が到来する贈与に限る。)をした場合において、当該贈与が次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める贈与であるときは、当該特例経営承継受贈者の当該贈与の日の属する年分の贈与税で贈与税の申告書の提出により納付すべきものの額のうち、当該非上場株式等で当該贈与税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(以下この条、第七十条の七の七及び第七十条の七の八において「特例対象受贈非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、政令で定めるところにより当該年分の贈与税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の贈与税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、当該特例贈与者(特例対象受贈非上場株式等の全部又は一部が当該特例贈与者の第七十条の七第十五項(第三号に係る部分に限り、第十一項において準用する場合を含む。)の規定の適用に係るものである場合における当該特例対象受贈非上場株式等に係る納税猶予分の贈与税額に相当する贈与税については、この項又は同条第一項の規定の適用を受けていた者として政令で定める者に当該特例対象受贈非上場株式等に係る特例認定贈与承継会社の非上場株式等の贈与をした者。次項第七号及び第十一項において準用する同条第十五項において同じ。)の死亡の日まで、その納税を猶予する。
一  特例経営承継受贈者が一人である場合 次に掲げる贈与の場合の区分に応じそれぞれ次に定める贈与

イ  当該贈与の直前において、当該特例贈与者が有していた当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額が、当該特例認定贈与承継会社の発行済株式又は出資(議決権に制限のない株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)に限る。次号において同じ。)の総数又は総額の三分の二から当該特例経営承継受贈者が有していた当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額を控除した残数又は残額以上の場合 当該控除した残数又は残額以上の数又は金額に相当する非上場株式等の贈与
ロ  イに掲げる場合以外の場合 当該特例贈与者が当該贈与の直前において有していた当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の全ての贈与
二  特例経営承継受贈者が二人又は三人である場合 当該贈与後におけるいずれの特例経営承継受贈者の有する当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額が当該特例認定贈与承継会社の発行済株式又は出資の総数又は総額の十分の一以上となる贈与であって、かつ、いずれの特例経営承継受贈者の有する当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額が当該特例贈与者の有する当該特例認定贈与承継会社の非上場株式等の数又は金額を上回る贈与

 

参考条文18【非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例】
租税特別措置法 第70 条の7 の6 第1 項
第70 条の7 の6  
特例認定承継会社の非上場株式等(議決権に制限のないものに限る。以下この項において同じ。)を有していた個人として政令で定める者(以下この条において「特例被相続人」という。)から相続又は遺贈により当該特例認定承継会社の非上場株式等の取得(平成三十年一月一日から平成三十九年十二月三十一日までの間の最初のこの項の規定の適用に係る相続又は遺贈による取得及び当該取得の日から特例経営承継期間の末日までの間に相続税の申告書(相続税法第二十七条第一項の規定による期限内申告書をいう。以下この条及び第七十条の七の八において同じ。)の提出期限が到来する相続又は遺贈による取得に限る。)をした特例経営承継相続人等が、当該相続に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該非上場株式等で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(以下この条において「特例対象非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、政令で定めるところにより当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、同法第三十三条の規定にかかわらず、当該特例経営承継相続人等の死亡の日まで、その納税を猶予する。

 

参考条文19【非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例】
租税特別措置法 第70 条の7 の7 第1 項
第70 条の7 の7  第七十条の七の五第一項の規定の適用を受ける同条第二項第六号に規定する特例経営承継受贈者に係る特例贈与者が死亡した場合(その死亡の日前に猶予中贈与税額に相当する贈与税の全部につき同条第三項において準用する第七十条の七第三項から第五項まで、第七十条の七の五第八項において準用する第七十条の七第十一項、第七十条七の五第九項において準用する第七十条の七第十二項又は第七十条の七の五第十項において準用する第七十条の七第十四項の規定による納税の猶予に係る期限が確定した場合及びその死亡の時以前に当該特例経営承継受贈者が死亡した場合を除く。)には、当該特例贈与者の死亡による相続又は遺贈に係る相続税については、当該特例経営承継受贈者が当該特例贈与者から相続(当該特例経営承継受贈者が当該特例贈与者の相続人以外の者である場合には、遺贈)により第七十条の七の五第一項の規定の適用に係る特例対象受贈非上場株式等(猶予中贈与税額に対応する部分に限るものとし、合併により当該特例対象受贈非上場株式等に係る同項の特例認定贈与承継会社が消滅した場合その他の財務省令で定める場合には、当該特例対象受贈非上場株式等に相当するものとして財務省令で定めるものとする。次条において同じ。)の取得をしたものとみなす。この場合において、その死亡による相続又は遺贈に係る相続税の課税価格の計算の基礎に算入すべき当該特例対象受贈非上場株式等の価額については、当該特例贈与者から同項の規定の適用に係る贈与により取得をした特例対象受贈非上場株式等の当該贈与の時における価額(第七十条の七の五第二項第八号の特例対象受贈非上場株式等の価額をいう。)を基礎として計算するものとする。

 

参考条文20【非上場株式等の特例贈与者が死亡した場合の相続税の納税猶予及び免除の特例】
租税特別措置法 第70 条の7 の8 第1 項
第70 条の7 の8  前条第一項の規定により同項の特例贈与者から相続又は遺贈により取得をしたものとみなされた特例対象受贈非上場株式等につきこの項の規定の適用を受けようとする特例経営相続承継受贈者が、当該相続に係る相続税の申告書の提出により納付すべき相続税の額のうち、当該特例対象受贈非上場株式等(特例認定相続承継会社の株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)に限る。)で当該相続税の申告書にこの項の規定の適用を受けようとする旨の記載があるもの(以下この条において「特例対象相続非上場株式等」という。)に係る納税猶予分の相続税額に相当する相続税については、政令で定めるところにより当該相続税の申告書の提出期限までに当該納税猶予分の相続税額に相当する担保を提供した場合に限り、相続税法第三十三条の規定にかかわらず、当該特例経営相続承継受贈者の死亡の日まで、その納税を猶予する。

 

参考条文21【事業実態要件について】
租税特別措置法施行令 第40 条の8 第6 項
6 法第七十条の七第二項第一号ロに規定する資産保有型会社又は資産運用型会社のうち政令で定めるものは、同項第八号に規定する資産保有型会社又は同項第九号に規定する資産運用型会社(以下この項、第十二項及び第二十四項において「資産保有型会社等」という。)のうち、同条第一項の規定の適用に係る贈与の時において、次に掲げる要件の全てに該当するものとする。
一  当該資産保有型会社等の法第七十条の七第二項第八号ロに規定する特定資産(第二十四項第一号及び第五十項において「特定資産」という。)から当該資産保有型会社等が有する当該資産保有型会社等の同条第二項第一号ハに規定する特別関係会社(以下この号及び第二十四項第一号において「特別関係会社」という。)で次に掲げる要件の全てを満たすものの株式等を除いた場合であつても、当該資産保有型会社等が同条第二項第八号に規定する資産保有型会社又は同項第九号に規定する資産運用型会社に該当すること。
イ  当該特別関係会社が、法第七十条の七第一項の規定の適用に係る贈与の日まで引き続き三年以上にわたり、商品の販売その他の業務で財務省令で定めるものを行つていること。
ロ  イの贈与の時において、当該特別関係会社の法第七十条の七第二項第一号イに規定する常時使用従業員(経営承継受贈者及び当該経営承継受贈者と生計を一にする親族を除く。以下この項及び第二十四項において「親族外従業員」という。)の数が五人以上であること。
ハ  イの贈与の時において、当該特別関係会社が、ロの親族外従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有し、又は賃借していること。
二  当該資産保有型会社等が、次に掲げる要件の全てを満たす法第七十条の七第二項第八号に規定する資産保有型会社又は同項第九号に規定する資産運用型会社でないこと。
イ  当該資産保有型会社等が、法第七十条の七第一項の規定の適用に係る贈与の日まで引き続き三年以上にわたり、商品の販売その他の業務で財務省令で定めるものを行つていること。
ロ  イの贈与の時において、当該資産保有型会社等の親族外従業員の数が五人以上であること。
ハ  イの贈与の時において、当該資産保有型会社等が、ロの親族外従業員が勤務している事務所、店舗、工場その他これらに類するものを所有し、又は賃借していること。

 

参考条文22【医療法人の出資金、事業実態のある資産管理型会社が有する3%以上保有の上場株式等については、猶予税額を算定する際の価額から除く規定】
租税特別措置法施行令 第40 条の8 第12 項
12  法第七十条の七第二項第五号イに規定する政令で定める法人は、認定贈与承継会社、当該認定贈与承継会社の代表権を有する者及び当該代表権を有する者と第七項各号に掲げる特別の関係がある者が有する次の各号(当該認定贈与承継会社が資産保有型会社等に該当しない場合にあつては、第一号を除く。以下この項において同じ。)に掲げる法人の株式等(投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十四項に規定する投資口を含む。第一号において同じ。)の数又は金額が、当該各号に定める数又は金額である場合における当該法人とする。
一  法人(医療法人を除く。)の株式等(非上場株式等を除く。) 当該法人の発行済株式(投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十二項に規定する投資法人にあつては、発行済みの同条第十四項に規定する投資口)又は出資の総数又は総額の百分の三以上に相当する数又は金額
二  医療法人の出資 当該医療法人の出資の総額の百分の五十を超える金額

 

参考条文23【現物出資等資産の価額】
租税特別措置法関係通達(措置法第70 条の7 第29 項各号の価額の意義)
70 の7-50  措置法第70 条の7 第29 項第1 号の「認定贈与承継会社の資産の価額」及び同項第2 号の「現物出資等資産の価額」は、特例対象贈与があった時における評価基本通達の定めにより算定した価額をいうことに留意する。(平21 課資2-7 追加、平22 課資2-14、平26 課資2-12、課審7-17、徴管6-25、平29 課資2-14 改正)
(注) 特例対象贈与があった時に措置法第70 条の7 第29 項に規定する現物出資等資産(以下70 の7-50において「現物出資等資産」という。)を認定贈与承継会社が有していない場合でも、当該現物出資等資産を有しているものとして上記により措置法第70 条の7 第29 項第2 号の価額を算定することに留意する。

 

※本資料は平成30年4月1日時点の法律に基づき作成しております。

 

 

 

 

税理士法人山田&パートナーズ

レポート『事業承継~「個人資産の株式化」とその規制~』(平成30年6月15日付)より転載