【Q&A】法人が100%子会社に土地を譲渡した場合の土地譲渡益に係る法人税の取扱い

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【Q&A】法人が100%子会社に土地を譲渡した場合の土地譲渡益に係る法人税の取扱い
〈解説〉
税理士法人タクトコンサルティング(山崎 信義/税理士)
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【問】
(株)X(3月決算・以下「X社」)は、令和7年8月1日にその発行済株式の全部を保有する(株)Y(9月決算・以下「Y社」)に、駐車場としてY社に賃貸していた土地Z(帳簿価額5,000万円)を時価相当額の1億円で譲渡しました。 |
【回答】
1.結論
X社の譲渡した事業年度の法人税の計算上、土地Zの譲渡益は繰延べとなり、課税対象から外されます。土地Zを取得したY社が、土地Zを譲渡(転売)した場合は、その譲渡日の属するY社の事業年度終了の日の属するX社の事業年度の法人税の計算上、繰延べられていた土地Zの譲渡益が戻入れ(益金算入)となります。
2.解説
(1)法人が完全支配関係のある法人に一定の資産を譲渡した場合の特例
本問のX社とY社の関係のように、ある株主が法人の発行済株式等の全部を直接または間接に保有する関係を「完全支配関係」といいます(法人税法2条12の7の6号、同施行令4条の2第2項)。
法人が下記(2)の「譲渡損益調整資産」を、その完全支配関係のある法人に譲渡した場合は、資産を譲渡した法人(譲渡法人)に係る法人税の計算上、その譲渡益と同額の損金が、あるいは譲渡損と同額の益金が、譲渡した日を含む事業年度の所得計算に算入されます(法人税法61条の11第1項)。これにより譲渡損益調整資産を譲渡した事業年度においては、その譲渡損益はゼロとなり、法人税の課税対象から外れることになります。本問の場合、下記(2)より土地Zが譲渡損益調整資産に該当することから、X社のY社に対する土地Zの譲渡は、この特例の適用対象となります。
(2)譲渡損益調整資産の範囲
譲渡損益調整資産とは、土地、建物等の固定資産、有価証券、金銭債権及び繰延資産で、譲
渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のものをいいます。本問の場合、土地Zは譲渡直前の簿価が1,000万円以上のため、譲渡損益調整資産に該当します(法人税法61条の11第1項、同施行令122条の12第1項)。
(3)特例の対象となる譲渡損益
(1)の特例の対象となる譲渡損益のことを、譲渡利益額または譲渡損失額といいます。譲渡利益額とは、譲渡対価の額が譲渡原価の額よりも大きい場合の差益をいい、譲渡損失額とは、譲渡原価の額が譲渡対価の額よりも大きい場合の差損をいいます。この場合の原価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡直前の帳簿価額のことをいい、対価の額とは、譲渡損益調整資産の譲渡の時の価額、すなわち時価をいいます(法人税法61条の11第1項)。
(4)譲受(買手)法人が譲渡損益調整資産を譲渡等した場合
(1)の特例は、その譲渡損益を永久に課税対象外とするものではなく、課税の繰延べを行うものです。したがって、一定の事由が生じた場合には繰延べられた損益が戻入れ(利益・損失として計上)となり、法人税の課税対象とされます(法人税法61条の11第2項)。
譲渡法人から譲渡損益調整資産を取得した法人(譲受法人)において、その資産を譲渡その他一定の事由が生じた場合には、譲渡損益調整資産の譲渡法人は、その事由が生じた日の属する譲受法人の事業年度終了の日の属する譲渡法人の事業年度に、繰延べられた譲渡損益が戻入れ(益金又は損金算入)となります(法人税法施行令122条の12第4項)。
仮に令和7年8月1日にX社から土地Zを取得したY社が、令和9年3月1日にその土地を譲渡した場合、繰延べられたX社の土地譲渡益が戻入れとなります。この場合の譲渡先は資本関係による制限がなく、Y社の100%グループ内法人(例えばX社)への譲渡であっても譲渡益は戻入れとなります。またX社(1年決算)における土地譲渡益の戻入れの時期は、Y社の譲渡日の属する事業年度終了の日(令和9年9月30日)の属する事業年度(令和9年4月1日~10年3月31日)となります。
税理士法人タクトコンサルティング 「TACTニュース」(2025/9/29)より転載