[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第7回:「産業廃棄物処理業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~収集運搬業者か処分業者か?許認可、設備、人材は?社内管理体制は?法改正は?

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、産業廃棄物処理業のM&Aを検討していますが、産業廃棄物処理業M&Aの特徴や留意点はありますか?


廃棄物は、産業廃棄物と一般廃棄物に分けられ、産業廃棄物は特別管理産業廃棄物等、一般廃棄物は事業系一般廃棄物、家庭廃棄物等それぞれ細分化されます。

 

 

 

 

 

 

産業廃棄物処理業は、大きく「収集運搬業」「中間処理業」「最終処分業」に分けられ、各業態でも例えば収集運搬業は、運搬する廃棄物の種類によって細かく細分化されます。一般家庭ゴミの収集運搬にしても、生ゴミ(可燃ゴミ)・プラスチック包装容器・缶瓶ペットボトル・紙・布・粗大ゴミと収集運搬業者はそれぞれ違います。

 

 

 

 

収集運搬業は排出元と処分場の両方の区域の許可を取得する必要があります。積替保管とは、排出元と処分場の間に廃棄物を一時的に保管する施設を設置し、そこを経由して処分場へ運ぶことを言います。積替保管なしの場合、排出元から処分場に直行する必要がありますが、積替保管ありの場合は一定量蓄積してから運搬するなど輸送効率の向上が可能となります。対象となる廃棄物の保管基準を満たす必要があり、許可取得難易度は積替保管なしと比較し高くなります。

 

中間処理では、埋立処分等の最終処分前に、生活環境保全上支障を生じないように、破砕、焼却、脱水、中和による減量・減容化、安定化、無害化を行います。

 

最終処分では、原則最終処分場への埋立処分により行われます。最終処分場は対象となる産業廃棄物により3タイプに分かれます。

 

●安定型最終処分場……処分対象:安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴムくず、がれき類、金属くず、ガラス・陶磁器くず、環境大臣が指定する産業廃棄物)

●遮断型最終処分場……処分対象:有害物質を含む特別管理廃棄物

●管理型最終処分場……処分対象:①、②以外の産業廃棄物

 

 

M&Aを検討している場合に、対象企業の産業廃棄物処理業が「収集運搬業」なのか、「中間処理業」なのか、「最終処分業」なのかを把握しましょう。一般的に「収集運搬業」よりも「中間処理」や「最終処分」業者の方が設備や埋め立てのための土地等を保有することから規模が大きく、参入障壁が高いことから利益率は高くなる傾向にあります。

 

また、産業廃棄物処理業特有の論点として、不法投棄の問題があります。不法投棄防止のために産業廃棄物管理表(マニフェスト制度)が導入されており、マニフェスト制度に沿った対応が必要となります。

 

 

産業廃棄物処理業のM&Aを検討する場合、収集運搬業者か処分業者か、また所有する許認可、設備、人材等について確認をする必要があります。どの業界向けの産業廃棄物を処理できるのか等の能力を確認しましょう。

 

また、社内管理体制の整備、マニフェスト(産業廃棄物管理表)の適切な処理ができているか、不法投棄を行ったり、近隣住民とトラブルを起こしたりしていないかを把握する必要があります。また、法改正の影響を受けやすい業界であるため、法改正の動向も確認しておく必要があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第6回:「会計事務所・税理士事務所のM&Aの特徴や留意点」とは?

~代表先生の影響度は?従業員(キーマン)の退職の可能性は?M&Aスキームは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、会計事務所・税理士事務所のM&Aを検討していますが、会計事務所・税理士事務所M&Aの特徴や留意点はありますか?


会計事務所は他業界と比較して、個人の公認会計士・税理士の影響力が大きい業界であるという特徴があります。大手や中堅の会計事務所であれば、ある程度事務所の名前で仕事の依頼が入ることもありますが、それでも〇〇先生にお願いしたいというような依頼も少なくありません。個人の会計事務所であれば、なおさら代表の先生の影響度は大きいです。そのため、会計事務所のM&Aを検討する場合、代表の先生の影響度について把握する必要があります。

 

 

M&Aの成立後、代表の先生による業務の継続の有無は、今後の業績に重要な影響を与えることが多いです。そのため、代表の先生の業務の継続の意思を確認し、継続しない場合は引継ぎを十分にしてもらう等の対策が必要となります。

 

代表の先生の影響度を把握するには、対顧客の観点と対業務の観点で検討しましょう。

 

対顧客では、代表の先生がどの程度の頻度で顧客を訪問していたか、どのような顧客満足につながる業務を提供していたかを確認しましょう。訪問頻度が高ければ、代表の先生の影響度は大きい可能性が高く、また税務申告等の定型業務のみならず、コンサルティング業務を行っている場合にも、影響度が高いと言えるでしょう。

 

対業務では、代表の先生でしか行うことのできない業務の有無を確認する必要があります。通常は上述したようなコンサルティング業務がそれにあたると思います。

 

 

また、従業員の習熟度についても確認しましょう。人手不足の会計業界ですので、人手不足解消のため従業員が多い事務所を前提にM&Aを検討することがあると思いますが、従業員が多くても習熟度が低ければ、M&A実施後に教育や指導に時間がとられて本来想定していた売上・利益を確保することが難しくなります。そのため、習熟度は事前に確認しておきましょう。

 

さらに、従業員の作成した申告書等をチェック・指導ができる人物や1人で業務をこなせる人物(キーマン)を把握しましょう。キーマンがM&Aにより退職する可能性を確認し、退職しないように検討することが必要となります。

 

 

会計事務所の特徴として、他の業界と比較した場合に粉飾等の会計操作が少ないことが挙げられます。公認会計士や税理士は会計の専門家として高い倫理観をもって業務を行っているため、事務所の決算についても会計操作をすることは少ないでしょう。

 

 

組織の特徴として会計事務所や税理士法人は株式会社ではないため、M&Aのスキームが株式会社とは異なります。

 

会計事務所の場合、株式会社のように株の譲渡ではなく、個人事業主からの経営権の取得となります。スキームは事業譲渡によって行われます。売手側の会計事務所では所長は譲渡所得となります。

 

税理士法人の場合は、持分譲渡、合併、事業譲渡のスキームによりM&Aを行います。

 

持分譲渡の場合は、個人同士の譲渡となり、かつ税理士同士でしか譲渡を行うことができません。そのため、買手側の税理士に持分を譲り受けるための十分な資力が必要となります。

 

合併の場合は、売手側の税理士法人を吸収合併し、その対価として現金を支払います。税理士法人によるM&Aでは最も一般的な手法と言えます。

 

事業譲渡は、必要な事業(税理士法人のM&Aの場合は通常は全ての事業)のみを切り出して譲渡する方法です。税理士法人になると、契約関係も多くなり事業譲渡は手続きが煩雑になることが多いこともあり、合併を選択する事が一般的となっています。

 

 

会計事務所のM&Aを検討する場合は、売手側事務所の代表の先生による業務の継続の有無、影響度を把握しましょう。また、株式会社ではないことから一般的に行われる株式譲渡以外でのスキームとなります。公認会計士や税理士の先生とは言え、M&Aには不慣れな場合もありますので、M&Aを検討する場合は、M&Aの経験豊富な専門家に相談することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第5回:「医療業界のM&Aの特徴や留意点」とは?

~特有の規制は?設備投資は?スキームは?バリュエーションは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、医療業界のM&Aを検討していますが、医療業界M&Aの特徴や留意点はありますか?


他業界と比較した医療業界の特徴は公益性が非常に高く、そのため規制が多いことです。

 

規制産業であることで、医業収益を制約する項目が存在します。例えば、病院の開設・増床をするためには、その開設地域における都道府県知事等の許可が必要となります。開設・増床しようとする地域の既存病床数が、医療計画が定める基準病床数を上回っている場合、都道府県知事等は新たな病院開設・増床を認めないことが可能です。つまり、病院側が増床を行いたくても、認められない可能性があります。

 

製造業であれば、会社の規模の拡大には工場の設備投資を行うことが一般的ですが、病院の場合、上述のように病床を増やすことは地域によっては難しい場合があります。そのため、病院の規模拡大を行う場合は、M&Aを活用して他の病院を買収し病床を増やすことが必要となる点が医業業界のM&Aの特徴となります。

 

 

また、保険診療に係る各診療行為には、その報酬金額算定のための点数(1点10円換算)が定められています。これによって、同じ条件で保険診療を行う限りは、どの医師が診療を行ったとしても、その医業収益は同じ金額となります。つまり、保険診療を行う限りは、医師1人当たりの医業収益の上限がある程度決まります。

 

さらに、病床数により、医師やコ・メディカル(看護師や薬剤師等)の必要な配置基準が定められています。例えば、一般病床であれば病床数に対して、医師は16:1、看護師は3:1等の基準です。一般企業では人員を削減して効率的な経営を行ったとしても特に問題とはなりませんが、医療業界では人員数を削減して配置基準を下回った場合には、医療法に反することとなり、診療点数が減算されるため医業収益が減少することとなります。そのため、有資格者の一定数の確保が必要となり、労働集約型である医療法人にとって人件費は最も大きい費用ですが、思うように下げられないという特徴があります。一方で、従前より看護師等の不足が医療業界の問題となっていますが、看護師を確保できない事により、配置基準を達成できないという問題を抱える医療法人も少なくありません。

 

 

他にも、医療業界の特徴として、診察室、手術室、処置室、病室、その他医療提供に必要となる各種設備・施設を設ける必要があります。これらの設備については、安全上、衛生上、防火上、療養環境上など様々な視点で規定が定められており、設備基準を満たすために設備投資の金額も多額になることが一般的です。

 

 

ところが、資金繰り等の理由で設備投資を後ろ倒しにしていることがあります。このような場合は、M&A実施後多額の設備投資が必要になる可能性があるため、M&Aを検討する場合には、設備投資を実施しておらず設備が老朽化していないかについて確認する必要があります。M&A実施後に設備投資が必要な場合は、設備投資に必要な金額を譲渡価格から減額する等の交渉をすることを検討しましょう。

 

 

医療法人は株式会社とは異なり、その多くは持ち分の定めのある社団法人であり、機関設計が異なります。株式会社では株主総会が最高意思決定機関となりますが、医療法人では社員総会、取締役会にあたる期間が理事会となります。また、医療法人の理事長は医師である必要があります(一部例外あり)。

 

M&Aの局面においても、医療法人は株式会社とは異なります。まず、スキームは事業譲渡、合併、出資持分の譲渡および理事長等の交代のどれかを選択することとなります。

 

第一に、事業譲渡は病院の新規開設と廃止手続きを同時に行う等、行政の許可が求められるため、手続期間は比較的長くなります。さらに、病床の引継ぎができないこともあり、実務上ではほとんど採用されていません。

 

第二に、合併は事業譲渡とは手続きは異なりますが、行政の許可が求められることは同様であるため、手続期間は比較的長くなります。事業譲渡と異なる部分として、病床を引き継ぐことが可能であるため、大手の医療法人等は合併を利用してM&Aを行うことがあります。

 

第三に、出資持分の譲渡及び理事長等の交代では、社員総会で議決権を有する社員の交代をし、さらに理事会のメンバー(理事長等)を交代することで経営権を取得します。この方法は、行政手続上の許可は不要で、届出で足りることから手続期間は比較的短くなります。M&A後も、売手側の医療法人格は存続し、病床の引継ぎも可能であることから実務上広く利用される方法です。

 

 

上述のように、医療法人は株式会社とは異なり様々な制約があるため、株式会社を設立して経営を柔軟に行う場合があります。その方法として、医療法人の関連事業をMS(メディカル・サービス)法人として株式会社を設立し、経営している場合があります。MS法人は医療法人と一体として経営されているため、売手側の医療法人がMS法人も経営している場合には、基本的にはMS法人も含めてM&Aを検討することとなります。

 

 

診療報酬は、健康保険が7割(後期高齢者の場合は9割)を負担するため、医療法人のメインの医療収益の回収先は当該7割の支払業務を行う審査支払機関となります。審査支払機関は国によって設立が定められた機関であり、一般企業と比較して貸倒れのリスクが低いため、ファクタリングを行うことが容易となります。ファクタリングとは、審査支払機関に対する債権を売却し早期に資金を回収することです。資金繰りの苦しい医療法人はファクタリングを行っていることが多く、M&Aを検討する場合に、対象の医療法人のファクタリングの利用の有無、利用している場合にどのような会計処理を行っているかを確認しましょう。

 

 

他産業と比べて規制が多い特性から、バリュエーション手法も一般的なDCF法や時価純資産法、年買法等だけでなく、病床数を基準とする方法等も取られることがあります。売手側の場合は買手側のバリュエーション手法を理解することで交渉がスムーズに進むことも多いため、把握できる場合は把握しましょう。

 

 

さらに、医療業界は規制産業であるため、異業種からの参入は難しく閉鎖的な産業となっています。また、医療法人は近年赤字の法人が多くなっていることもあり、財務内容を正確に把握する必要があります。規制産業であることから他業種と比較して事業や財務の内容や把握すべきポイントが異なることも多いため、医療法人のM&Aを検討する場合は、医療法人の事業をよく理解しているアドバイザーや、財務の専門家を利用することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第4回:「情報通信(IT)業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~ビジネスモデルは?研究開発費は?会計処理は?株主は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、情報通信(IT)業のM&Aを検討していますが、情報通信(IT)業M&Aの特徴や留意点はありますか?


情報通信業は、インターネット、パソコン・ハードウェア、ソフトウェア、プロバイダ、通信回線等様々な業界・産業が集積しています。製造業であれば製品を製造している、小売業であれば消費者に商品を販売しているという想像がつきますが、情報通信業とだけ情報が存在しても、どのようなビジネスを営んでいるのかすぐに想像ができないところが情報通信業の特徴と言えるでしょう。また、フリマアプリで上場した会社や、アパレルECサイトで上場した会社があるように、一つのコンテンツがヒットすれば、爆発的な収益をもたらし得る業界であり、そこが魅力の1つと言えるでしょう。

 

M&Aを検討する場合には、ビジネスモデル、すなわちどのようなビジネスを営んでいてどのようなマネタイズ(収益化)方法をとっているのか、を正確に理解する必要があります。

 

 

情報通信業で開発を行っている企業は、開発が成功し、収益化できるようになって初めて売上高が計上されます。つまり、開発段階では売上高は計上されないため、下図のように資金は流出する一方となります。

 

 

 

 

そのため、資金を外部から調達する必要がありますが、情報通信業は一般的に銀行等からの借入ではなく、資本の出資という形でベンチャーキャピタル(VC)、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、投資に積極的な事業会社、エンジェル投資家等から資金を調達することが一般的です。これは、銀行等は現在の預金や不動産等の担保力を重視する事に対して、VC等は将来のリターンを重視するためです。情報通信業は銀行等に担保として提供できる資産を保有していないことがほとんどです。一方で、研究開発が成功しソフトウェアが多額の収益を生むこと可能性を秘めています。この可能性を投資家に説明し納得が得られると、担保等がなくても多額の資金を調達することが可能となります。そのため、情報通信業では借入ではなく資本での資金調達を行うことが多くなっています。

 

資本が多いということは、親族以外の株主がいることとなります。そのため、一般的な中小企業では親族のみの意思決定で株の売買が可能であったところ、既に株主となっているVC等の投資家の意見も検討した上でM&Aに臨むこととなります。投資家は投資のプロであるため、投資家が株主として存在する場合には自社内だけで検討せずにM&Aの専門家を交えて検討することをお勧めいたします。

 

 

 

また、情報通信業は、一般的に研究開発費が多額に必要となることも特徴の1つです。情報通信業の研究開発はビジネスの肝となることが多いため、外注ではなく社内にて研究開発を行うことが多く、研究開発にかかる人件費が多額となります。その人件費が研究開発費として計上されているのか、給料手当等人件費の勘定科目で計上されているのかについて正確に把握し、対象会社が研究開発にどれほどの人件費を割いているのかを確認しましょう。

 

また、会計上の話となりますが、研究開発がある程度進むと研究に要した支出をソフトウェア勘定(資産)とするか、研究開発費(費用)するかの論点が発生します。詳細な解説は割愛しますが、収益化の可能性が高くなったり、費用の削減の可能性が高くなった時点で、研究開発にかかった支出を費用ではなく資産(ソフトウェア勘定)として計上し、減価償却を行うこととなります。ソフトウェア勘定に振り替わると、費用が減少し、その分損益が改善します。つまり、ソフトウェア勘定に資産計上されているか、研究開発費等で費用計上されているかで、PL(損益計算書)の営業利益の見え方が大きく異なることになるため、ソフトウェア勘定が計上されている場合には、その内容を正確に把握する必要があります。特に、資産性が低いものの、PLの営業利益を良く見せるためにソフトウェア勘定として資産計上していないかに注意して検討しましょう。

 

 

情報通信(IT)業のM&Aを検討する場合は、ビジネスモデルを正確に理解した上で、ソフトウェア勘定の有無を確認し、開発費用の計上科目を確認しましょう。また、株主に投資家が存在する場合には、株主の意向はM&Aを検討する上で重要ですので、専門家を交えた上で適切に検討するのが望ましいでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第3回:「建設業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~工事管理は?経営審査事項とは?会計処理は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、建設業のM&Aを検討していますが、建設業M&Aの特徴や留意点はありますか?


建設業は、元請となる大手の建設企業から、下請となる中小零細の工事企業まで様々な企業が含まれます。一つの工事に多数の企業が関与することは建設業の特徴の一つとなります。そして、多数の企業が関与するため、スケジュールの管理や予算の管理が難しいと言えます。

 

また、工事が長期にわたることも特徴の一つです。数か月で終了する工事もありますが、数年かかる工事もあります。一般的な商品・製品であれば、商品・製品の引渡しと対価であるお金(又は売上債権)の受取は同時に行われます。一方で、建設業の場合は工事が長期間にわたること、受注額が多額である性質から、数回に分けてお金が支払われることが一般的です。支払い金額やタイミングは個別の契約ごとに異なりますが、契約、中間、引渡の3回程度とされることが多いようです。下図のように、3回入金がある場合では、工事関連の運転資金は入金のタイミングが合えばほとんど必要にならず、クライアントからの売上金で工事費用を賄えます。

 

 

 

 

次に、公共工事が多いことも他業種と比べた際の特徴となります。公共工事をメインのビジネスとしている企業であれば、年度末が最も忙しく、売上高も多く計上されることとなります。公共工事を元請企業として受注するためには、経営審査事項(通称経審)と呼ばれるもので一定の点数を獲得する必要があります。経営審査事項の点数は財務諸表の数値等(例えば赤字だと点数が低い)で決定されるため、公共工事を受注するためには、赤字にしたくないというインセンティブが働きます。

 

建設業以外では、決算の数値を操作する目的は銀行から融資を獲得することが多いですが、建設業では、銀行からの融資に加えて、経営審査事項の点数獲得を目的として決算数値を操作することがあります。特に公共工事を元請として行っている企業をM&Aにて買収検討している場合は、決算数値の確からしさをには留意が必要となります。

 

 

さらに、建設業は会計処理が特有であり、建設業会計と呼ばれる会計処理を用いることも特徴の一つです。工事にかかる会計基準は、工事完成基準と工事進行基準があり、どちらかを用います。会計処理の詳細は割愛しますが、それぞれの特徴を簡単に説明します。

 

工事の時系列は下図のように20/3期に工事を開始して、21/3期に完成・引渡が行われる例を想定します。受注額は100,000千円、見積原価は85,000千円とします。

 

 

 

 

工事完成基準は、工事完成・引渡のタイミングで売上高と売上原価(材料費、人件費、外注費等)を計上します。つまり、工事が完成するまで損益としては認識されず、完成・引渡により初めて損益計上されます。例えば20/3期に工事を開始して、20/3期の期末に未完成の場合は、20/3期では売上高や売上原価は計上されません。そして、21/3期に工事が完成した場合は、21/3期に20/3期に稼働した分も含めて損益計上がなされます。

 

 

 

 

 

 

工事進行基準は、材料仕入や人件費、外注費の発生のタイミングで当初の見積原価率を用いて売上高を概算計上します。

 

下図では、19/12月より工事を開始しており、工事の開始月より費用が発生しております。19/12月の費用は10,000千円であり、見積原価率から売上高を計算すると10,000÷0.85=11,765千円が売上高として計上されます。毎月同様に計算され、20/3期で売上高76,471千円、売上原価65,000千円(粗利率15%)が計上されます。同様に、21/3期で売上高23,529千円、売上原価20,000千円(粗利率15%)が計上されます。工事完成基準とは異なり、工事の進行に応じて売上と売上原価が計上されるのが特徴となります。

 

 

 

 

工事完成基準と工事進行時基準の損益計上の概要を説明しましたが(貸借対照表項目については割愛しております。)、工事完成基準は稼働とは関係なく完成・引渡時に損益計上されとてもシンプルです。一方、工事進行基準は稼働と連動して損益が計上されるため適切に会計処理が行われれば実態に合った損益計上がなされます。しかし、工事進行基準は上記で説明したように、「見積」による利益率が会計数値に影響を与えます。この「見積」により、利益の操作が可能となる点は留意が必要です。工事進行基準を採用している場合には、工事完成基準に比べて、会計操作を容易に行える状況にありますので、特に留意が必要です。

 

建設業は工事の管理の難しさ、経営審査事項という決算数値を含めた点数が求められること、会計処理の複雑さ等により、会計操作が行われる可能性が他の業種と比べて高いものと思います。M&Aを検討する場合には、これらの点を留意して、決算数値の確からしさを公認会計士等の専門家を用いて調査することをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第2回:「小売業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~店舗ごとの貢献利益は?運転資金は?在庫リスクは?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、小売業のM&Aを検討していますが、小売業M&Aの特徴や留意点はありますか?


小売業は、最終顧客に商品を販売する業種です。BtoBの業種と比較すると小売業を含むBtoCの業種は、販売先(顧客)の数が非常に多くなります。そのため、顧客ごとの売上高・利益率等を把握して分析することはせず、客数・客単価等をKPI指標として設定し、分析することが小売業の特徴の1つとなります。

 

また、小売業は、販売ルートとしては実店舗での販売と、オンライン・通販等での販売とに分類ができます。近年では、オンライン・通販等を行う小売業者も増加していますが、中小企業では実店舗での販売がメインとなっているとことが多いように思います。

 

店舗が複数ある場合には、各店舗の損益管理が経営上重要となります。店舗別損益は、最低限売上高と売上原価、そして店舗でかかった経費について把握する必要があります。さらに、店舗ごとの貢献利益・営業利益の分析や客数・客単価等のKPIの情報を把握することが望ましいでしょう。貢献利益とは、店舗の売上高から売上に直接紐づく変動費(売上原価や販促費等)および店舗単独で発生する固定費(店舗人件費や店舗家賃等)を差し引いた利益のことです。貢献利益は店舗単独でどれぐらいの利益を獲得したのかを把握し、今後の施策や出退店等を検討する重要な利益指標となります。

 

貢献利益について具体例を用いて説明します。下図は本社と3店舗を有し、売上高3億円、営業利益5百万円の企業です。

 

 

 

 

 

 

 

 

店舗Aおよび店舗Bは貢献利益がプラスであるのに対して、店舗Cは貢献利益がマイナスとなっています。店舗Cを閉店して、売上も費用も全てかからない状態になる場合は、全社損益が5百万円改善することになります。しかし、正社員の雇用を継続する必要がある場合や、地代家賃の契約上途中解約による違約金が発生する場合等個別事情がある場合には、それらの事項も含めた上で検討する必要があります。

 

M&Aを検討している場合、対象会社の損益管理の状況を把握し、損益管理ができていない場合には、デューデリジェンス等にて会計士等の専門家を用いて店舗の損益数値を分析した上で、M&Aの検討をすることをお勧めします。

 

 

 

また、飲食店等も同様ですが、小売業の特徴として、現金売上が多い点が挙げられます。現金売上が多く、商品の仕入時は掛仕入で行っている企業の場合、買掛金の支払いよりも現金売上が先に発生するため、運転資金がほとんど必要ありません。

 

 

 

 

 

 

上図の例では、5月10日に仕入れた商品の支払いが6月末であることに対して、5月20日に現金売上となり、5月20日から6月末までの間現金が多い状況が続きます。そのため、小売業は他業種と比べ資金繰り上有利な業種と言えます。

 

一方で、2019年から実施されているキャッシュレス・消費者還元事業等の影響で、クレジットカードや電子マネー等での支払いが増加しているため、資金繰り上必ずしも有利とは言えない状況になりつつあります。M&Aの対象会社の運転資金の状況を分析し、キャッシュレス化の影響も把握することが望ましいでしょう。

 

 

また、小売業でも特に生鮮食品など、商品の劣化により販売できる期間が短い商品を扱っている場合は、廃棄ロスの管理が重要です。中小企業では廃棄ロスの管理を行っていない企業も少なくありません。例えば、筆者が関与した企業で改めて廃棄ロスを計測したところ、廃棄ロス率が20%であることがわかったケースもあります。仕入れた商品5つのうち1つは廃棄する計算です。廃棄ロスをゼロにするのが良いかどうかは経営判断となりますが、20%はさすがに多いためすぐに削減の施策を実行しました。M&Aの対象会社が廃棄ロスを管理していない場合や、廃棄ロスが多い場合には、貸借対照表に計上されている棚卸資産について全額資産性があるかどうかの検討が必要となります。また、買収後は廃棄ロス率の削減等の改善施策を行う必要があります。

 

 

また、小売業特有の仕入方法として買取仕入、委託仕入、消化仕入の大きく3つの仕入方法があります。

 

●買取仕入は、一般的な仕入のイメージで、その名の通り、店舗側で商品を買取って販売することです。

 

●委託仕入は、仕入先と販売委託契約を結び、店舗に商品を置きます。商品が売れたら商品代金ではなく「販売手数料」をもらう方式の仕入方法です。

 

●消化仕入れは、商品が店舗に納品されても仕入計上せずに、商品が販売された時点で初めて仕入れが計上される方法となります。売上仕入とも言います。

 

 

買取仕入は、買取っていますので商品が売れ残っても返品はできませんが、消化仕入と委託仕入は商品が売れ残った場合に返品が可能であり在庫リスクがないことが特徴です。M&Aの対象会社の仕入方法を確認し、在庫リスク等を把握した上でM&Aを検討することをお勧めします。

 

 

小売業のM&Aを検討する場合は、店舗損益をどのレベルまで把握できるかを確認しましょう。損益が把握できていない場合には、資料を入手して店舗損益を作成・分析する必要があります。また、KPIの分析状況、運転資金の状況、キャッシュレス化での影響、仕入先との契約関係等を把握した上でM&Aに臨むことをお勧めします。

 

 

 

 

 

 

 

 

[業界別・業種別 M&Aのポイント]

第1回:「製造業のM&Aの特徴や留意点」とは?

~原価計算は?運転資本は?設備投資は?~

 

〈解説〉

公認会計士・中小企業診断士  氏家洋輔

 

 

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Q、製造業のM&Aを検討していますが、製造業M&Aの特徴や留意点はありますか?


製造業の特徴は、当たり前ですが製品を製造しているということです。製品を製造していると製造していないでは、経営管理上大きく異なります。なお、製造業といっても多岐にわたりますが、広く一般的な製造業について記載いたします。

 

製造業のビジネスは、簡潔に記載すると「部品調達→製造→販売」となります。良い製品・商品・サービスを販売することはどの業種でも同様に重要ですが、製造業では製造工程の改善等による自社内の努力による利益改善の余地が大きいことがまず重要な特徴となります。

 

また、自社内で製品の製造を行うため、一般的に製造部品の仕入額、製造人員の人件費、外注費が重要な費用項目となります。会社の費用構造を把握した上で、製品の製造の中でどの部分が会社の強みであり、また改善余地があるのかを把握することが重要となります。

 

例えば小売業であれば、A商品を100円で仕入れて150円で販売すると、A商品の売上総利益は50円となりますが、製造業では商品の製造原価を算出する必要があります。製造原価を算出すること、つまり原価計算ですが、この原価計算を正確に行わないと製品ごとの原価が分からず、150円で販売した場合に利益がいくらになるのかが不透明となってしまいます。

 

 

しかし中小企業の場合、原価計算を行っておらず、製品の原価を把握できないままに製造し販売していることも少なくありません。社長の頭の中には、なんとなくの原価が想定されていますが、専門家により原価計算を行うと、実は赤字販売をしていたというような事もあります。つまり、原価計算を正確に行っていないと、製品ごとの利益の大小がわからず、どの製品を重点的に製造し・販売するのが会社として良いのか等の経営判断を誤る可能性があります。

 

製造業は、「部品調達→製造→販売」となり、一般的に製品のリードタイムが長いため、運転資金が他の業種と比べて多額になる傾向にあります。

 

 

仕入の支払いサイト、製造にかかる期間、売上の回収サイト等を把握することで製品リードタイムが把握でき、必要な運転資本の把握が可能となります。併せて、在庫の棚卸の頻度や滞留状況、廃棄の実施状況等の確認もしましょう。

 

また、M&Aにより、製造する製品の種類や量が変更になる場合、どの工程がボトルネックになるのかを把握することも重要です。ボトルネックを事前に把握しておくことで、製造工程の変更や、投資による解消を早期から検討できるからです。

 

さらに、工場の設備や機械の実質的な耐用年数、現在の消耗度、設備投資の周期や金額等を事前に把握しておくことも重要です。売手企業は、M&A実施前に設備投資は積極的には行わず、むしろ抑えることが多いため、買手企業による買収後、設備投資により多額の出費が必要になる可能性があります。設備投資の予定等も踏まえて買収価格の交渉を行うことが望ましいでしょう。

 

製造業は、他の業種とは異なる様々な特徴や留意点があるため、事前にデューデリジェンス等を通じてこれらを十分に理解した上でM&Aに臨むことが必要です。