食品製造業のM&A動向(第2回) ~直近の業界内のM&A動向について~
- 解説コラム
- 連載
【業界別M&A動向】
食品製造業のM&A動向(第2回) ~直近の業界内のM&A動向について~
〈解説〉
ロングブラックパートナーズ株式会社(金川 明央)
〈目次〉
1.直近の業界内のM&A動向について
2.検討のポイント
➀異業種を買手とした事例
②ファンドを買手とした事例
③周辺領域を買手とした事例
3.最後に
1.直近の業界内のM&A動向について
2021年6月1日から2022年5月末までの1年間で、売手を食品関連企業とするM&Aは公表ベースで47件となっています。
このうち同業種を買手とする割合は51%、異業種/周辺業種を買手とする割合は49%となりました(図A/※1)
また、上記円グラフに記載の異業種/周辺業種を買手とする23件の事例の内、買手業種別に見てみると、化学・医薬品、商社、外食をはじめとして幅広な業種により構成されています。(図B/※2)
これは買手が「川下から川上まで事業領域を拡大する」「新事業領域に進出する」といった目的を基にM&Aを実施していることが起因しています。
また、「事業承継」や「成長支援」をテーマに企業投資を行うファンドによる買収事例も一定数存在します。
前回のコラムでも記載しましたが、同業界は「販路の拡大」や「製造コストの削減による生産効率の改善」を含む様々な課題を抱えており、同業種だけでなく異業種や周辺領域の企業とタッグを組むことにより課題解決につながるケースもあります。
また、ビジネス面以外にも「後継者不在」「人材の採用」「人材の育成」など内部的な課題を持つ企業も存在しており、内部体制の強化を期待してファンドに投資を受ける事例もあります。
通常、M&Aの検討から成約まで、またM&A実行後のシナジー構築まで一定の時間を要するケースが大半であるため、課題解決のための一つの方法としてM&Aを検討される場合は想定しているよりも早いタイミングから着手されることを推奨します。
(※1)(※2)レコフデータより弊社作成
2.検討のポイント
実際に直近1年以内に実施された同業界内のM&Aの事例を基に、本項では同業界のM&Aのポイントについて触れていきたいと思います。
➀異業種を買手とした事例
ノフレ食品は、北海道を拠点にした食品の企画販売会社で、レトルト・缶詰・瓶詰を中心とする同社の商品は、様々な賞を受賞するなど商品の企画開発力・ブランド力が高く評価されており、ノフレコミュニケーションズは、ノフレ食品で培った商品企画力やECを中心としたコンサルティングノウハウを活用したサービスを展開しているとのことです。
ノフレ食品は、クロス・マーケティング・グループ社の食品EC部門におけるノウハウを活かしたサービス連携や顧客開拓による更なる会社の売上の拡大を企図していると考えられます。
本事例のポイントとしては、売手企業の「企画開発力」「ブランド力」が優れたものであったという点であると考えられます。
事業の根幹である商品力が確立されていることにより、買手企業とのシナジーの構想が描きやすくなります。
②ファンドを買手とした事例
ホソヤコーポレーションは、中華系チルド食品を製造する食品メーカーであり、同社の主力商品である贅沢シリーズ(焼売・餃子・春巻)は、関東圏の食品スーパーマーケットにおいて各カテゴリーのトップシェア商品となっているとのことです。
J-GIAは日本たばこ産業株式会社・株式会社博報堂をアライアンス・パートナーとしており、ファンドによる経営管理機能の強化に加え、2社による生産・品質管理の事業支援やマーケティング支援による更なる企業価値向上を企図しているものと考えられます。
本事例においても、売手であるホソヤコーポレーションが既に強固な商品力を有していた点がポイントであると考えられます。
③周辺領域を買手とした事例
道東ライスは1973年に設立し、道東地区で食品製造業に従事しています。福原は道東ライスの米穀の炊飯加工業、惣菜類の製造ノウハウを活かし、アークスグループの惣菜事業と連携させることにより、惣菜事業の拡大を企図していると考えられます。
本案件においては、「製造ノウハウ」「生産拠点」の獲得がポイントとして挙げられます。
食品製造業界においては、生産拠点の獲得を目的としたM&A事例も多く見受けられます。
3.最後に
食品製造業界のM&Aは、買手の経営戦略の多角化、また売手の抱える課題に応じて、同業種だけでなく、異業種/周辺業種を買手とした事例も増えてきています。
特に売手側がM&Aを検討する動機も「後継者不足」のような内部事情に起因したものだけでなく、「自社の更なる成長」を主眼に置いたケースも増えてきたように見受けられます。
自社の課題解決の一つの選択肢として、M&Aを検討されてみてはいかがでしょうか?